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収用裁決申請マニュアル
収用裁決申請マニュアル (第二版 H28.3.9修正版) 宮城県収用委員会 は じ め に 土地収用制度は,公益のためとはいえ,個人の財産を強制的に起業者に取得させるもの であることから,その手続きは,個人の財産権が十分に保護されるよう,土地収用法等に おいて,申請から裁決までの手続きが慎重に定められておりますが,反面,関係法律等の 規定は複雑になり,容易に理解できない部分も生じており,起業者による裁決申請書等の 作成に支障を生じている事例も見受けられます。 そこで,宮城県収用委員会では,この度,申請から裁決までを中心に「収用裁決申請マ ニュアル」を作成いたしました。本マニュアル作成に際しては,手続内容が具体的かつ分 かりやすいものになるように心掛けましたので,初めて土地収用の裁決申請等を担当する 方でも容易に関係書類が作成していただけるのではないかと自負しております。 本マニュアルは,主に,起業者の方が利用することになると思われますが,公正・公平 を旨に,申請から裁決までを円滑に行えるようにすることにより,手続きにおける不安定 な状態をできるだけ小さくするという観点から,地権者や関係者の方々の保護にも資する ことになるものと考えます。 平成23年3月11日は,多くの方々の心に深く刻まれた日となりました。小雪が舞う 午後2時46分に発生した巨大地震は,千年という悠久の時に蓄積されたエネルギーを一 気に噴き出させ,その揺れは,すべてを破壊し尽くしてしまうような恐怖を感じさせるも のでした。 また,その直後に起きた大津波は,真っ黒な猛々しい姿で,港湾や中心市街地等に襲い かかり,宮城県内の死者・行方不明者は合わせて1万人以上となっております。全校児童 の約7割が津波で死亡した小学校もあり,一瞬のうちに幸せを奪われた御家族の悲しみや 苦しみを考える度に心が痛みます。がれきに覆われた街は,戦後の焼け野原のようであり, 大津波は,現実とは思えない異様な風景だけを残しました。愛する家族を失い,安らぎの 場である家を失い,生活の糧である仕事を失い,温かな故郷を失い,今も深い悲しみの中 に多くの方がいます。 このような中で,宮城県においては,「宮城県震災復興計画」を定め,単なる復旧では なく,新たな発展を目指して,10年で宮城県を復興させる予定と聞いております。 震災からの一日も早い復興が望まれるところであり,各起業者におかれましては,今後, 早期の復旧・復興を目指して,多種多様な公共・公益事業を推進されるものと思われます が,多くの方々が亡くなられたり,行方不明となっておりますことから,用地取得におい ても,任意での取得が困難となり,土地収用制度を活用しなければならないものも多数発 生することが予想されるところです。起業者が収用裁決申請をするに当たって,このマニ ュアルを活用することで,地権者の方々の保護を十分に担保しながら,土地収用手続が公 正・公平に進み,ひいては,宮城県の復旧・復興に資することができれば幸いです。 言うまでもないことですが,収用は,真摯な任意交渉を尽くした先にある制度です。公 益にとって必要な事業のためとはいえ,住み慣れた土地を離れることの辛さを考えますと, 地権者の方々等の事業に対する理解と協力を得ることはとりわけ重要であり,そのために も任意交渉においては細心の注意を払っていただきたいと思います。 なお,本マニュアルにつきましては,今後とも,必要に応じて改訂を行っていきたいと 考えておりますので,お気付きの点がございましたら,忌憚のない御意見をお寄せいただ ければ幸いです。 平成23年12月 宮城県収用委員会 会長 河 上 正 二 第 二 版 に つ い て 多くの災いと深い悲しみに包まれた平成23年3月11日から2年の歳月が経とうと しています。大津波によって,悉く破壊された沿岸各地の中心市街地や漁村の集落には, 今も,広大な土色の土地に,雑草が生い茂る荒涼とした空間が広がっています。 見る者すべてが,言葉を失ってしまう景色です。 破壊された中心市街地は,生活を支える店舗等が戻らず,そのために日常の生活が不便 となって,人がいなくなる,それにより生活を支える店舗等が再開できず,雇用の場等が 失われるという悪循環に陥り,人々がふるさとに戻る機会が失われています。早く,自分 の生まれ育った町に帰りたいとの思いを持っている方は少なくありません。 また,漁村の集落では,大津波により漁港施設が破壊され,また,1m以上の地盤沈下 があり,岸壁が使用できなくなってしまったところも数多くあります。宮城県内の142 港もある漁港の復旧を短期間で進めていくことは,非常に困難です。それが,漁業の再生 や生活の糧の大きな妨げになっています。 安全な高台への集団移転も,各市町は適地確保に難航しており,その進捗状況は,わず か数パーセントで,住民の方々の期待に応えるような状況にはなっていないとの報道もな されています。 このようなことから,沿岸の多くの市町では,人口流失が著しく,町の人口の半分,約 7千人もの人々が町外に移り住んでしまった町もあります。 1日でも早い,早期の復興こそが,住民の方々の思いに応え,その生活を取り戻すため に必要とされています。 震災の復興事業で,裁決の申請等の急増が見込まれ,宮城県収用委員会は,これまでに 経験したことのない数の申請を扱うことになります。 そのため,土地所有者等の権利を十分に保護することに配慮しながら,早期の裁決を行 えるように,「事前争点整理制度」等を新たに導入しました。 第二版では,その内容を追記しております。本マニュアルについては,不十分なところ も数多くあると思いますので,忌憚のない御意見をお寄せいただければ幸いです。 被災された多くの方々に,1日でも早く,穏やかな笑顔や安らかな生活が戻られること を祈念してやみません。 平成25年3月 宮城県収用委員会 会長 河 上 正 二 委員会 佐藤浩也 作成 目 次 第1章 手続編 第1節 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 土地収用制度の意義及び根拠 土地収用に関する現行法制 土地収用手続の概要 収用適格事業 収用と使用 収用又は使用の目的物 収用又は使用の当事者等 事業認定 収用委員会 事前相談及び申請前チェック項目 収用手続フロー 第2節 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 1 1 3 4 4 5 6 8 12 13 18 申請から裁決までの収用手続 補償等について周知させるための措置 土地調書及び物件調書 裁決の申請 明渡裁決の申立て 手数料及び費用の負担 土地所有者及び関係人の権利 裁決申請書及び明渡裁決申立書の受理 土地所有者及び関係人への通知 公告及び縦覧 意見書の提出 裁決手続開始の決定 現地調査 審理 裁決 裁決の申請及び明渡裁決の申立ての取下げ 第3節 1 2 3 土地収用制度の概要 土地調書及び物件調書 裁決申請書 明渡裁決申立書 19 20 21 24 25 28 31 32 32 33 34 36 36 39 44 裁決申請書等の作成 45 63 73 第4節 1 2 3 4 5 6 7 8 収用又は使用の裁決の効果 権利取得裁決に係る補償の払渡し又は供託等 明渡裁決に係る補償の払渡し又は供託等 担保物権による補償金等又は替地に対する物上代位 裁決の失効 権利取得裁決に伴う所有権移転登記 明渡義務 代行及び代執行 第5節 1 2 3 4 あっせん 仲裁 和解 協議の確認 86 87 90 90 非常災害の際の緊急使用等 非常災害の際の土地の緊急使用 緊急に施行する必要がある事業のための土地の使用 第7節 1 2 80 80 81 82 83 84 84 84 あっせん,仲裁,和解及び協議の確認 第6節 1 2 裁決の効果 不服申立て 収用委員会の裁決についての訴訟 93 93 不服申立て及び訴訟 93 93 第2章 様式編 注:使用者ごとに並び替えしているため,掲載順と異なります。 (1)起業者が使用する様式 ①通常の申請で用いる様式 【様式 0-1-1 号】【様式 0-1-2 号】【様式 0-2 号】 土地(物件)調書 【様式 1 号】 裁決申請書及び市町村別に次に掲げる事項を記載した書類 【様式 2 号】 明渡裁決申立書及び市町村別に次に掲げる事項を記載した書類 【様式 25 号】確認書(土地調書及び物件調書に添付) 【様式 29 号】代位登記(前提登記)の完了報告(起業者用) 【様式 40 号】起業者の審理説明資料 【様式 52 号】申請取下書(起業者用) 【様式 54 号】事業計画書(都市計画事業の場合) 【様式 55 号】代理人選任書 【様式 56 号】土地収用法施行規則第 17 条第 2 号イの規定による証明書 【様式 57 号】土地収用法施行規則第 17 条第 3 号の規定による積算の基礎を明らかにする書類 【様式 58 号】損失補償見積額の積算資料(土地評価及び算定額総括表) 【様式 59 号】土地調書等作成後の権利者変動についての説明書(参考資料として添付) 土地調書作成後に権利者が死亡し,申請書と表示が異なることを参考資料で示します。 【様式 60-1,2 号】DV等による申請書等への現住所不記載申出書(起業者宛・委員会宛) 【様式 61 号】第 79 条の規定に基づく物件の収用の請求について 【様式 62 号】起業者代理人の選任について 【様式 63 号】申請一部取下書 多数共有地で裁決開始決定による分筆後に取下げする際に使用 【様式 64 号】起業者からの意見書(軽微な訂正等) 申請後に見積額を訂正するときなどに使用 【様式 65 号】交渉の経過がわかる資料 多数共有地の場合,登記名義人ごとに作成願います。 【様式 66 号】住民票と異なる居所であることを示す説明書(参考資料として添付) 【様式 67 号】補償金比較表(上記様式 61 号の添付資料) ②特例等の場合に用いる様式 【様式 13 号】裁決の申請の特例(省略申請)(起業者用) 【様式 14 号】省略申請の添付書類(起業者用) 【様式 15 号】裁決申請書の添付書類の補充の通知文(起業者用) 【様式 16 号】補充申請添付書類(起業者用) 【様式 43 号】見積補償金支払書(起業者から土地所有者又は関係人宛) 【様式 49 号】和解調書の作成申請(権利取得裁決) 【様式 50 号】和解調書の作成申請(明渡裁決) (2)土地所有者等が使用する様式 【様式 12 号】裁決申請請求書(土地所有者等から起業者宛) 【様式 23 号】土地(建物・物件)所有者の意 見 書 【様式 24 号】関係人の意見書 【様式 38 号】委任状(土地所有者又は関係人用) 【様式 42 号】補償金支払請求書(請求人から起業者宛) (3)収用委員会事務局・市町村が使用する様式(参考掲示) 【様式 3 号】書類の補正 【様式 4 号】裁決の申請の却下 【様式 5 号】裁決の申請等があった旨の通知(土地所有者及び関係人宛) 【様式 6 号】 裁決申請書等の写しの送付(市町村長宛) 【様式 7 号】明渡裁決申立書等の写しの送付(市町村長宛) 【様式 8 号】裁決の申請があった旨の公告(市町村用) 【 様 式 9 号 】 明 渡 裁 決 の 申 立 て が あ っ た 旨 の 公告(市町村用) 【様式 10 号】裁決の申請の公告の報告(市町村用) 【様式 11 号】明渡裁決の申立ての公告の報告(市町村用) 【様式 17 号】裁決の申請の特例(添付書類の一部省略)の通知文(市町村長宛) 【様式 18 号】裁決の申請の特例(添付書類の一部省略)の公告文 (市町村長用) 【様式 19 号】裁決の申請の特例(添付書類の一部省略)の通知文(土地所有者又は関係人宛) 【様式 20 号】裁決の申請等の写しの送付文(市町村長宛) 【様式 21 号】補充申請の公告文(市町村長用) 【様式 22 号】補充申請の通知文(土地所有者又は関係人宛) 【様式 26 号】裁決手続の開始決定の通知(起業者宛) 【様式 27 号】裁決手続開始決定書 【様式 28 号】収用の裁決手続の開始の告示(県告示) 【様式 30 号】登記完了証等の送付(起業者宛) 【様式 31 号】審理の開始の告示(県告示) 【様式 32 号】審理の開催通知(起業者宛) 【様式 33 号】審理の開催通知(土地所有者又は関係人宛) 【様式 34 号】審理開始の通知に係る公示による通知の依頼文(市町村長宛) 【様式 35 号】審理開始に係る公示による通知の掲示文(市町村長用) 【様式 36 号】審理開始の通知に係る公示による通知(県告示) 【様式 37 号】審理開始の通知に係る公示による通知(県行政庁舎前 掲示場) 【様式 39 号】傍聴人名簿 【様式 41 号】現地調査の通知(起業者又は土地所有者,関係人等) 【様式 44 号】裁決書正本の送達(起業者,土地所有者又は関係人宛) 【様式 45 号】裁決書正本の公示送達(県行政庁舎前 掲示場) 【様式 46 号】裁決書正本に係る公示送達(県告示) 【様式 47 号】裁決書正本に係る公示送達の周知措置(市町村長宛) 【様式 48 号】裁決書正本に係る公示送達の掲示文(市町村用) 【様式 51 号】和解調書の作成通知(起業者,土地所有者又は関係人宛) 【様式 53 号】協議の確認申請の写しの通知文(市町村長宛) (参考資料) 土地収用制度のあらまし 裁決までの手続フロー図 裁決申請又は明渡裁決の申立てを行う前に確認すべき項目のチェックリスト 裁決申請書の受理に当たってのチェック項目 明渡裁決申立書の受理に当たってのチェック項目 参考文献 編集の経緯 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 第1章 手 続 編 第1節 土地収用制度の概要 1 土地収用制度の意義及び根拠 (1) 土地収用制度の意義 土地収用制度とは,特定の公共の利益となる事業(収用適格事業)のために必要とされる土 地等を任意で取得できない場合に,土地所有者などの意思に反しても,強制的にこれを取得す ることを可能にする制度である。 (2) 土地収用制度の根拠 憲法第29条第1項は「財産権は,これを侵してはならない。 」として,私有財産制を保障 しており,たとえ公共のためであっても,私有財産である土地を正当な理由なく,所有者の意 思に反して取得することは許されない。 しかし,土地所有者等が特定の公共の利益となる事業(収用適格事業)のために必要とされ る土地等の任意買収に応じないときは,事業自体が実施不能又は遅延することとなり,国民生 活にとって著しい損失となるので,憲法第29条第3項が「私有財産は,正当な補償の下に, これを公共のために用ひることができる。 」として土地収用制度の根拠を規定している。 2 土地収用に関する現行法制 (1) 土地収用法 この法律(以下, 「法」という。 )は,公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって 国土の適正かつ合理的な利用に寄与することを目的とし(法第1条) ,公共の利益となる事業に 必要な土地等の収用又は使用に関し,その要件,手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等 について規定する土地収用制度の基本法である。 (2) 損失補償等に関して,他法により収用委員会に権限が付与されているもの ① 収用委員会に損失補償に関して法第94条2項による裁決申請を行うことができる旨規定し ている法律 1) 道路法第69条第3項(損失の補償) ,第70条第4項(道路の新設又は改築に伴う損失の 補償) ,第72条第2項(監督処分に伴う損失の補償等) ,第75条第6項(法令違反等に関 する指示等) ,第91条第4項(道路予定区域) 2) 河川法第21条第4項(工事の施工に伴う損失の補償) ,第22条第5項(洪水等における 緊急措置) ,第57条第3項(河川予定地における行為の制限) ,第76条第2項(監督処分 に伴う損失の補償等) ,第89条第9項(調査,工事等のための立入等) 3) 都市計画法第28条第3項(土地の立入り等に伴う損失の補償・同法第52条の5第3項〔損 失の補償〕において準用する場合を含む。),第52条の4第2項(土地の買取請求), 第57条の5(土地の先買い等) ,第57条の6第2項(損失の補償) ,第60条の3第2項 (損失の補償) ,第68条第3項(土地の買取請求) -1- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 4) 土地区画整理法第73条第3項(土地の立入等に伴う損失の補償) ,第78条第3項(移転等 に伴う損失補償) ,第101条第4項(仮換地の指定等に伴う補償) ,第114条第4項(権利 の放棄等) ,第116条第5項(移転建築物の賃貸借料の増減の請求等) 5) 都市再開発法第63条第3項(土地の立入り等に伴う損失の補償) ,第85条第3項(価額に ついての裁決申請等) ,第97条第4項(土地の明渡しに伴う損失補償) 6) 生産緑地法第6条第6項(標識の設置等) 7) 下水道法第32条第10項(他人の土地の立入又は一時使用) 8) 宅地造成等規制法第7条第3項(土地の立入り等に伴う損失の補償) 9) 建築基準法第第11条第2項(第3章〔都市計画区域等における建築物の敷地,構造,建築設 備及び用途〕の規定に適合しない建築物に対する措置) 10) 住宅地区改良法第23条第3項(土地の立入り等に伴う損失の補償) 11) 海岸法第12条の2第3項(損失補償) ,第18条第8項(土地等の立入及び一時使用並びに 損失補償) ,第19条第4項(海岸保全施設の新設又は改良に伴う損失補償) ,第21条第4項 (海岸管理者以外の者の管理する海岸保全施設の管理に伴う損失補償) 12) 地すべり等防止法第6条第10項(調査のための立入) ,第16条第2項(土地の立入等) , 第17条第4項 (地すべり防止工事に伴う損失補償) , 第21条第4項 (監督処分及び損失補償) , 第23条第4項(都道府県知事以外の者の管理する地すべり防止施設に関する監督に伴う損失 補償) 13) 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律第5条第10項(調査のための立入り) ,第1 7条第2項(土地の立入り等) ,第18条第4項(急傾斜地崩壊防止工事に伴う損失の補償) 14) 高速自動車国道法第14条第6項(特別沿道区域内の制限) 15) 石油パイプライン事業法第34条第7項(土地の立入り) 16) 測量法第20条第2項(損失補償) 17) 国土調査法第29条第2項(損失補償) 18) 地価公示法第23条第3項(土地の立入りに伴う損失の補償) 19) 土地改良法第121条第2項(検査等の場合の損失の補償に係る協議等) ② 損失補償に関して収用委員会の意見を聞くべきこととしている法律 1) 森林法第53条第2項(裁定) ,同法第55条第4項(収用の請求),第59条第2項(使用の 廃止による損失の補償) 2) 電気通信事業法第132条第4項(対価の額並びにその支払の時期及び方法に係る収用委員 会の意見) 3) 河川法第42条第4項(損失の補償の協議等) ③ 収用委員会が緊急裁決及び補償裁決をすることができるものとされている法律 公共用地の取得に関する特別措置法第20条(緊急裁決) ,第30条(補償裁決) -2- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ④ 収用委員会に土地等の価額の裁決申請をすることができるものとされている法律 1) 都市再開発法第85条第1項(価額についての裁決申請等) 2) 都市計画法第68条第3項(土地の買取請求)において準用する同法第28条第3項(土地の 立入り等に伴う損失の補償) 3) 生産緑地法第12条第4項(生産緑地の買取りの通知等)において準用する同法第6条第6項 (標識の設置等) ⑤ 収用委員会に建築物・土地の買取り等についての裁決申請をすることができるものとされて いる法律 1) 住宅地区改良法第16条第1項(土地収用法の適用) 2) 都市再開発法第118条の26第1項(建築物の収用の請求) 3) 高速自動車国道法第14条第6項(特別沿道区域内の制限) ,第15条第3項(特別沿道区域 内における用益の制限により通常生ずべき損失の補償) (3) 土地収用法の事業認定があったものとみなされる他の法律 ① 公共用地の取得に関する特別措置法7条による特定公共事業の認定(特定公共事業の認定の 要件) ② 都市計画法第59条第1項から第4項(施行の認可)までの規定による都市計画事業の認可 又は承認 ③ 鉱業法第106条第1項の許可(許可及び公告) ④ 採石法第36条第1項の許可(許可及び公告) 3 土地収用手続の概要 憲法第29条第3項を受けて,土地収用法が制定されている。法は土地等を収用するための手 続を規定しており,被収用者を保護する見地から,法の定める手続等は慎重に構成されている。 公共の利益となる事業のために土地等を必要とする場合は,その事業の施行者(起業者)が, その土地所有者等と話し合い,任意契約により土地等を取得するのが通常であるが,話し合いが まとまらない場合,土地所有者が不明及び土地境界が不明等の理由で,土地等の取得ができない 場合は,土地収用制度を活用することになる。 その場合,起業者は法の規定に基づいて,国土交通大臣又は都道県知事の事業認定を受けなけ ればならない。 次に,起業者は収用委員会に裁決の申請及び明渡裁決の申立てを行うことになる。収用委員会 は,審理等の手続を経て,補償金額,権利取得の時期及び明渡しの期限等を裁決する。この裁決 によって決められた補償金の支払い等をして,起業者は,土地等を取得し,明渡しを受けること ができる。なお,補償金等を受けるべき者がその受領を拒んだとき,行方不明の場合や相続等で 争いがあるような場合,支払いに代えて,供託することもできる(法第95条第2項) 。 -3- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 都市計画事業については,法第20条の規定による事業の認定は行わず,都市計画法第59条 の規定による認可又は承認をもって,都市計画法第62条第1項の規定による告示をもって,法 第26条第1項の規定による事業認定の告示とみなされる(都市計画法第70条)ので,起業者 は,収用委員会に対して,裁決の申請及び明渡裁決の申立てをすることができる。 4 収用適格事業 法第3条「土地を収用し,又は使用することができる公共の利益となる事業は,次の各号のい ずれかに該当するものに関する事業でなければならない。 」としており, 「公共の利益」となる事 業であれば,どのような事業であっても土地等を収用し,又は使用することができるというもの ではない。土地収用法上は,法第3条第1号から35号までの各号のいずれかに該当するものに 関する事業でなければ土地等を収用し,又は使用することができないとしている。 法第3条に定められている事業は,一般的に「収用適格事業」といわれている。 5 収用と使用 土地収用法では,土地等の収用だけでなく,収用適格事業の施行上で必要とされる土地を一時 的に利用する場合等の使用もある。 収用とは,土地等を特定の公共の利益となる事業(収用適格事業)に供するため,土地所有者 等の意思に反して,強制的にその土地等の財産権を起業者に取得させ,又はその土地等にある所 有権以外の権利を消滅させることをいう。使用も同様に規定されている。 なお,収用する土地の区域又は使用する土地の区域並びに使用の方法及び期間は,起業者が申 し立てた範囲内で,かつ,事業に必要な限度において裁決される(法第48条第2項)ので,起 業者が任意で買収しようとしていた範囲と必ずしも一致するものではない。 (1) 収用 土地収用法による「収用」には, 「取得収用」と「消滅収用」の2種類がある。 ① 取得収用 土地等の財産権を事業の用に供する必要がある場合に,その土地等の財産権を起業者に取得 させるときの収用をいう。土地の収用(法第2条) ,土地に定着する物件の収用(法第6条) , 土石砂れきの収用(法第7条)がある。 ② 消滅収用 収用の対象となる財産権自体を事業の用に供する必要はなく,その財産権が付着している土 地・物件等を事業の用に供する必要がある場合に,支障となるその財産権を消滅させることを いう。この消滅収用については, 「権利の収用」として構成され(法第5条) ,所要の規定が置 かれている。 -4- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (2) 使用 土地収用法による「使用」には, 「取得使用」と「制限使用」の2種類がある。 ① 取得使用 土地等(土地,土地に定着する物件)を事業(収用適格事業)の用に供する必要がある場合 に,土地等の使用権(工事用道路のための土地利用権,トンネル設置のための地下利用権,送 電線の設置のための空中利用権)を起業者に強制取得させること。 ② 制限使用 権利が付着している土地等(土地,土地に定着する物件,河川の敷地,海底,水)を事業(収 用適格事業)の用に供する必要がある場合に,使用の対象となる所有権以外のその土地に付着 している権利を制限すること。この制限使用については, 「権利の使用」として構成され(法第 5条) ,所要の規定が置かれている。 6 収用又は使用の目的物 (1) 土地(法第2条) 土地を収用(取得収用)し,又は使用(取得使用)して,収用適格事業の用に供する。 民法第86条で, 「土地及びその定着物は,不動産とする。 」とされ,民法上,立木は,原則 として,土地と一体をなすものとされているが,土地収用法上,土地とは違うものとして取り 扱い,原則として,法第77条による移転料の対象としているので,留意が必要である。 (2) 権利(法第5条) 土地等(土地,土地に定着する物件,河川の敷地,海底,水)にある次の権利を収用(消滅 収用)し,又は使用(制限使用)して,消滅させ,又は制限し,その土地等(この土地に定着 する物件にあっては,その物件が定着する土地とともにその権利のある物件)を収用適格事業 の用に供する。 ① 地上権,永小作権,地役権,採石権,質権,抵当権,使用貸借又は賃貸借による権利その他 土地に関する所有権以外の権利(第1項第1号) ② 鉱業権(第1項第2号) ③ 温泉を利用する権利(第1項第3号) ④ 土地の上にある立木,建物その他土地に定着する物件に関する所有権以外の権利(第2項) ⑤ 漁業権,入漁権,その他の水等を利用する権利(土地,河川の敷地,海底又は流水,海水そ の他の水に関係のある漁業権,入漁権,その他河川の敷地,海底又は流水,海水その他の水を 利用する権利) (第3項) (3) 立木,建物その他土地に定着する物件(法第6条) 当該物件を収用(取得収用)し,又は使用(取得使用)して,当該物件が定着する土地とと もに収用適格事業の用に供する。 -5- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (4) 土地に属する土石砂れき(法第7条) 土地に属する土石砂れきを収用(取得収用)して収用適格事業の用に供する。 なお,土地収用法は,土地を収用し,又は使用しようとする場合を基本にしてその手続を規 定しており,権利及び物件を収用し,又は使用しようとし,土石砂れきを収用しようとする場 合には,その手続等が準用されている(法第138条,土地収用法施行令(以下「令」という。 ) 第7条) 。 7 収用又は使用の当事者等 収用又は使用の当事者は,収用者としての起業者,被収用者としての収用又は使用の目的物の 所有者及び関係人である。 また,被収用者ではないが,関係人に準ずる立場にある準関係人が存する場合がある。 (1) 起業者 起業者とは, 「土地,第5条に掲げる権利若しくは第6条に掲げる立木,建物その他土地に定 着する物件を収用し,若しくは使用し,又は前条に規定する土石砂れきを収用することを必要 とする第3条各号の1に規定する事業を行う者をいう。 」 (法第8条第1項)と定義されている。 なお,第6条に掲げる立木,建物その他土地に定着する物件については,物件の存する土地と ともに事業の用に供することを要する。 起業者となりうる者は,事業を施行する法律上の権限を有している必要がある。単なる事業 の受託者,国の事業を誘致するために用地取得を行う地方公共団体,公共用地の先行取得を行 う土地開発公社のような者は,起業者になりえない。 各事業について,起業者適格を有する者は,土地収用法における収用適格事業についての規 定の仕方(法第3条各号)と各事業に関する根拠法の定め方による。例えば,法第3条第1号 に規定されている道路については, 「道路法による道路」とあるのみであり,事業に関する根拠 法である道路法の定め方によって起業者適格を有する者が決まる。国道の指定区間外は国,そ の指定区間は都道府県,都道府県道は都道府県,市町村道は市町村となる(道路法第13条か ら第16条まで) 。 (2) 土地所有者(法第8条第2項) 土地所有者とは, 「収用又は使用に係る土地の所有者をいう。 」と定義されている。土地所有 者は,実体的に権利を有する者のことである。 例えば,登記名義人が死亡している場合は,その相続人が土地所有者となる。また,権利能 力なき社団の所有地と認められた場合は,登記簿上の所有者は,代表者の名義や構成員の共同 名義になっているが,実体的な所有者は,当該社団となる。 -6- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (3) 関係人 関係人とは,土地を収用する場合の裁決申請においては,地上権者,抵当権者,賃借権者等 のその土地に関して所有権以外の権利を有する者のことであり,土地を収用する場合の明渡裁 決の申立てにおいては,その土地にある建物などの物件に関して所有権その他の権利を有する 者のことであり,実体的に権利を有する者である。法の規定する関係人は,次のとおりである。 ただし,権利を有している者がすべて関係人となるのではなく,事業認定の告示があった後 において,新たな権利を取得した者は,既存の権利を承継した者を除き,関係人に含まれない (法第8条第3項ただし書) 。 ① 法第8条第3項の関係人 収用又は使用の対象物 土地(第2条) 権利(第5条) 物件(第6条) 土石砂れき(第7条) 関係人の範囲 当核土地に関する地上権,永小作権,地役権,採石権,質権, 抵当権,使用貸借又は賃貸借による権利,その他所有権以外の 権利を有する者 当該土地にある物件に関する所有権,その他の権利(質権, 抵当権,使用貸借又は賃貸借による権利)を有する者 当該権利に関する質権,抵当権,使用貸借又は賃貸借による 権利,その他の権利を有する者 当該物件に関する所有権以外の権利を有する者 当該土石砂れきの属する土地に関する所有権以外の権利を 有する者及びその土地にある物件に関して所有権その他の権 利を有する者 ② 法第8条第4項の関係人 土地又は物件に関する所有権以外の権利を有する者には, 1) 当該土地若しくは物件 2) 当該土地若しくは物件に関する所有権以外の権利につき, 仮登記上の権利又は既登記の買戻権を有する者,既登記の差押債権者及び既登記の仮差押債 権者が含まれるものとする。 ③ 法第8条第5項の関係人 鉱業権, 漁業権又は入漁権に関する権利を有する者には, 鉱業権, 漁業権又は入漁権につき, 仮登録上の権利又は既登録の買戻権を有する者,既登録の差押債権者及び既登録の仮差押債 権者が含まれる。 -7- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (4) 準関係人 準関係人とは, 「損失の補償の決定によって権利を害されるおそれのある者」 (法第43条第 2項)をいう。 「準関係人は,収用委員会の審理が終わるまでは,自己の権利が影響を受ける限度において, 損失の補償に関して収用委員会に意見書を提出することができる(同条同項) 。 」具体的には, 次の掲げる者が該当する。 ① 土地又は土地に関する権利につき仮処分をした者 ② 土地又は土地に関する権利につき差押えをしたが,その登記なき差押債権者,裁決手続開始 の登記後に土地又は土地に関する権利につき,差押え又は仮差押えの執行をした者 ③ 仮登記なき停止条件付権利者・買戻特約の登記なき買戻権者 ④ 法第8条第4項の仮登記上の権利につき,その権利の移転請求権等の保全の仮登記を有する 者 ⑤ 補償金請求権につき差押え,仮差押えの執行,譲渡又は質権の設定をした場合の当該差押債 権者,仮差押債権者,譲受人又は質権者(法第45条の3第2項に違反する者を除く) ⑥ 詐害行為取消権により法律行為の取消を裁判所に請求した債権者 等 8 事業認定 事業認定は,個々具体的な事業について,起業者の能力,起業地及び事業計画を検討し,当該 事業が高い公益性を有し,土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであることを審査し,当 該事業のために土地等を収用する必要があることを事業認定庁が認定する行為である。 しかし,事業認定を受ければ,直ちに他人の土地等を収用できるわけではなく,現実に収用す るためには,土地調書・物件調書の作成,収用委員会に対する裁決の申請,収用委員会の裁決, 裁決に基づく被収用者への損失の補償という手続を経ることが必要であり,事業認定は,一連の 収用手続の前段の行為といえる。 (1) 事業認定の申請 起業者は,事業認定を受けようとするときは,あらかじめ,説明会の開催その他の措置を講 じて,事業の目的及び内容について,当該事業の認定について利害関係を有する者に説明した うえで(法第15条の14) ,事業認定申請書及び添付書類を国土交通大臣,東北地方整備局長 又は宮城県知事に提出しなければならない(法第18条,土地収用法施行規則(以下「規則」 という。 )第26条) 。 -8- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (2) 事業認定を行う機関(法第17条) 国土交通大臣 東北地方整備局長 ・国等が起業者である事業 ・国等と宮城県の共同事業 ・起業地が複数の地方整備局の管轄区域にわたる事業 ・宮城県(公社等を含む)が起業者である事業 ・地方整備局の管轄区域は超えないが,都道府県域を超える事業 ・宮城県の区域を超えて利害の影響を及ぼす事業 (例) ・重要港湾にかかる港湾施設に関する事業 ・公共の用に供する飛行場に関する事業 宮城県知事 ・上記以外の事業 (例) ・市町村道に関する事業 ・準用河川(一級,二級河川以外の河川で河川法の一部の適 用を受けるもの)及び普通河川に関する事業 (3) 事業認定の要件 事業認定を受けるためには,申請に係わる事業が次の4つの要件をすべて満足させるもので なければならない(法第20条) 。 1号要件 事業が法第3条各号の一に掲げるものに関するものであること。 2号要件 起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること。 3号要件 事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること。 4号要件 土地を収用し,又は使用する公益上の必要があるものであること。 -9- 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (4) 事業認定の告示の効果 事業認定の告示があると,起業者が収用等にむけて円滑に各種の準備ができるように起業地 内の土地利用が制限されたり,他方,被収用者の権利を保護するための効果が生じることとな る。 主に起業者に対して生じる効果 主に土地所有者・関係人に対して生じる効果 ・補償等の周知措置義務の発生 ・関係人の範囲の制限 (法第28条の2) 事業認定の告示後に,新たな権利を所得した者 ・土地物件調査権の発生(法第35条) は,既存の権利を承継した者を除き,関係人とは認 ・土地調書及び物件調書の作成義務の発生 められず, 起業者から補償を受けることができない (法第36条) (法第8条第3項ただし書) 。 ・裁決申請権の発生(法第39条第1項) ・裁決申請請求権の発生(法第39条第2項) ・明渡裁決の申立権の発生 ・補償金の支払請求権の発生 (法第47条の3) (法第46条の2第1項) ・補償金の支払請求があった場合の自己の見 ・明渡裁決の申立権の発生 積りによる補償金の支払義務 (法第47条の3第1項) (法第46条の4) ・土地の保全義務の発生(法第28条の3) ・事業の廃止又は変更の届出・周知義務の発 ・損失の補償の制限(法第89条第1項) 生 (法第30条第1項) ・買受権発生の起算点 ・協議の確認の申請権の発生 収用された土地が事業に不用となったとき等に, (法第116条) 土地所有者に限り認められているのが買受権であ ・取得した土地の管理義務の発生 るが,事業認定の告示がその起算点となる。 (法第 (法第10条の2第1項) 106条第1項) ・土地価格の固定 事業認定の告示の時点で土地等の価格が固定され,それ以降の周辺の土地価格の変動は考慮さ れなくなる(法第71条,法第72条において準用する法第71条)。 ※ 事業認定の派生的効果 ① 租税特別措置法による譲渡所得の 5,000 万円控除 ② 農業振興地域・農用地区域からの除外のために行う農用地区域の軽微な変更手続 等 (5) 事業認定の失効 事業認定は次の場合に失効する。 ① 事業認定の告示の日から1年以内に裁決申請を行わないとき(法第29条第1項) ② 手続を保留した土地について,手続開始の告示の日から1年以内に裁決申請を行わないとき (法第34条の5,第29条第1項) なお,手続保留は,法第32条の規定に基づき,事業認定申請と併せて行う必要がある。 ③ 事業認定の告示の日から4年以内に明渡裁決の申立てを行わない場合(法第29条第2項) ④ 事業の廃止又は変更のため土地を収用又は使用する必要がなくなったことを宮城県知事が告 示したとき(法第30条) ⑤ 手続を保留した土地について,3年以内に手続開始の申立てをしないとき(法第34条の6) - 10 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (6) 都市計画法の事業認可等 都市計画事業については,これを土地収用法第3条各号の一に規定する事業に該当するもの とみなし,同法の規定を適用する(都市計画法第69条) 。都市計画事業については,都市計 画法第59条の規定による認可又は承認をもって,法第20条による事業認定に代え,認可又 は承認の告示をもって,事業認定の告示があったものとみなされ,その手続を経ずに裁決申請 を行うことができる(都市計画法第70条) 。 また,法第3条の収用適格事業では,事業認定の告示の日から1年以内に裁決の申請を行わ なければならないが,都市計画事業では,事業施行期間内にあっては,事業認定の告示があっ たものとみなされる日が,1年ごとに更新される(都市計画法第71条第1項) 。1年の期間 の計算方法は,初年度は,初日(都市計画事業の認可又は承認の告示日)は算入せず,その翌 日から起算し,2年度以降は初日(更新された事業認定の告示があったとみなされる日)から 起算する。そして,1年の期間満了日は,翌年において起算日に応当する日の前日となる。た だし,1年の期間満了日が民法第142条の規定による休日となるときは,その翌日が期日満 了日となる(昭和50年12月19日付け建設省計画局総務課長及び建設省都市局都市計画課 長回答) 。 事業施行期間内であれば裁決の申請を行うことができるが,その場合であっても,事業施行 期間内に明渡裁決の申立てを行わなければ,すでになされた裁決手続開始の決定及び権利取得 裁決は取り消されたものとみなされる(都市計画法第71条第2項) 。 1年 失 申収 請用 効 の使 な用 いの と裁 き決 1年 土地収用 法の場合 事 業 認 定 の 告 示 同 同 み事 な業 さ認 右 右 れ定 るの 告 示 が あ っ た も の と - 11 - 1年 申収 請用 の使 な用 いの と裁 き決 都市計画事 業の場合 (都 事市 業計 認画 定事 の業 告の 示認 と可 み等 なの さ告 れ示 る ) 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 9 収用委員会 事業認定の告示があると,起業者は,収用委員会に対し,裁決の申請及び明渡裁決の申立てを し,収用委員会は,収用又は使用の裁決(権利取得裁決及び明渡裁決)に係る手続を行う。 収用委員会は,公共の利益の増進と私有財産との調整を図るため,法第51条の規定に基づき 都道府県に常置される行政委員会であり,知事の所轄のもとに設置されるが,独立して,その職 権を行使する。収用又は使用の裁決申請があった場合,起業者と土地所有者との間の収用すべき 土地の区域,損失の補償等についての争いを中立,公正に審理し,最終的に裁決により,また, 当事者間で協議が成立したときには,和解調書の作成により解決していく。 収用委員会は,法律,経済又は行政に関して,すぐれた経験と知識を有し,公共の福祉に関し, 公正な判断をすることができる者のうちから,都道府県の議会の同意を得て,知事が任命した7 名の委員で組織することとされている(法第52条) 。 また,収用委員会の事務を整理するために事務局が設置されている(法第58条) 。 (1) 会議及び議決(法第60条) 収用委員会の会議は,会長が招集する(同条第1項) 。収用委員会は,会長及び3人以上の委 員の出席がなければ,会議を開き,又は議決をすることができない(同条第2項) 。収用委員会 の議事は,出席者の過半数をもって決する。可否同数のときは,会長の決するところによる(同 条第2項) 。 (2) 指名委員制度(法第60条の2第2項) 宮城県収用委員会は,東日本大震災の復旧・復興事業による収用裁決申請の増加に対応する ため,指名委員制度を導入することとした(平成23年12月5日開催の収用委員会決定) 。審 理の迅速化を図るため,班に分かれて,同時進行で収用手続を行える体制を整えた。 (3) 審理の公開(法第62条) 収用委員会の審理は,公開しなければならない。但し,収用委員会は,審理の公正が害され る虞があるときその他公益上の必要があると認めるときは,公開しないことができる。 (4) 審理又は調査のための権限等(法第65条) 不動産鑑定士に,土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利の価格を鑑定させ る場合がある。この場合の費用は,起業者が負担することになる(法第126条) 。 (5) 裁決の会議等(法第66条) 収用委員会の裁決の会議は,公開しない(同条第1項) 。裁決は,文書により行う。裁決書に は,その理由及び成立の日を附記し,会長及び会議に加わった委員は,これに署名押印し,原本 は収用委員会で保管する。収用委員会の印章を押した裁決書の正本は,起業者,土地所有者及び 関係人に送達する。 - 12 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 10 事前相談及び申請前チェック項目 (1) 事前相談 起業者は,裁決申請又は明渡裁決の申立てを行うに当たっては,その内容や提出書類につい て,収用委員会事務局へあらかじめ相談すること。事業認定前からの相談も受け付けているの で,積極的に活用すること。 その理由は,裁決申請書類(土地調書等)及び明渡裁決の申立書類(物件調書等)の誤記の 防止,土地及び物件に関する事実及び権利の把握,当事者の各意見の論点の整理を行うことが でき,以後の収用手続を円滑に進めることが当事者相互の利益になるためである。 特に,土地調書及び物件調書は,土地及び物件に関する事実及び権利状態,当事者の争点(起 業者と土地所有者等の意見が相違する場合は,それぞれの意見を記載すること)を記載して, 審理における煩雑な事実の調査及び確認を避けて,あらかじめ整理しておくことを目的として いる。 適法に作成された調書の記載事項は,異議を付記した事項以外について真実であるという推 定力を持つので,土地所有者等の署名・押印が終了した後は,起業者は,調書の加除修正等を 行ってはならない。調書の作成に当たっては,慎重な対応が求められている。 また,調書は,起業者が行うべき調査を尽くしているかを判断するものとなる。調査が足り ない場合は,必要な調査をお願いすることもあるので,申請予定の3ヶ月前までには,署名押 印をしていない土地調書及び物件調書の案を事務局に提出するように努めること。 事前相談は,確認もれ等をなくすため,次頁の「土地収用裁決申請相談に関する準備調書」 に必要な事項を記載して行うこと。 「土地収用裁決申請相談に関する準備調書」は,起業者の審 理の説明資料の基になるので,詳細にまとめるようにすること。事前相談の時期は,土地調書 及び物件調書作成前に行うことが望ましい。 (2) 申請前チェック項目 裁決の申請又は明渡裁決の申立てを行うのに先立って,巻末の「裁決申請又は明渡裁決の申 立てを行う前に確認すべき項目のチェックリスト」 , 「裁決申請書の受理に当たってのチェック 項目」 , 「明渡裁決申立書の受理に当たってのチェック項目」を使用して,最終確認の上,収用 委員会へ申請書類を提出すること。 - 13 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 土地収用裁決申請相談に関する準備調書 ※ 相談時期の状況に応じて,下記項目のうち可能な範囲について記載すること 1 起業者名 2 事業内容 (1) 事業名 ※ 正式名称を記載すること (2) 事業認定(認可・承認)日等 ※ 事業認可(承認)の場合は,事業期間も併せて記載 (3) 事業概要 (記載例) 〔事業の目的〕 〔全体概要〕 ○○市○○丁目地内を起点とし・・・○○市○○地内を終点とする延長約○メートルの区間 について,幅員○メートルの・・・主要幹線道路を建設する。 〔起 業 地〕 ○○市○○丁目地内から○○市○○丁目地内までの延長約○メートルの区間について幅員○ メートルの○車線の道路を建設する。 〔事業期間〕 (全 体) ○年○月○日~○年○月○日 (起業地区間) ○年○月○日~○年○月○日 - 14 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 3 土地の区域等 土地の所在 地 目 地 面 積(㎡) 番 公簿 現況 公 簿 実 測 土地に関する 収 用 土地所有者 関 係 人 (権利の状況) (使 用) 番 ① 登記名義人(存命・死亡 備 考 年 月 日) ② 境界の確定状況 ③ 占有者の有無等 4 裁決申請に係る事項 権利の内容等 氏 〈例〉 名 見積補償金額 〈例〉 土地所有権 抵当権 項目・単価・割合 等 〈例〉 土地損失補償 等 土地損失補償単価 ○ ○ 円 ○ ○ 円/㎡ (鑑定の有無を記載) ※権利の内容を詳 残地補償 細に記載すること ○ ○ 円 残地補償単価 ○ ○ 円/㎡ 5 物件の概要 物件の所在 地 番 種 類 住家 規模・数量等 物件所有者 木造 2 階建て ( 抵当権者○ ○ ㎡) 店舗付 鉄骨 2 階建て 住 家 ( 関係人(権利内容) ㎡) - 15 - 備 考 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 6 明渡申立てに係る事項 権利の内容等 〈例〉 氏 名 見積補償金額 〈例〉 物件所有権 項目・単価・割合 等 〈例〉 ○ ○ 円 抵当権等 物件移転料 ○ ○ 円 7 争点等 (1) 交渉経過の概要 ※1 交渉経過が複雑な場合等はこの欄に要点を記載した上,別途,詳細(日時,交渉相手, 交渉内容等)を記載した書類を添付すること。 ※2 任意交渉が十分に行われていない場合は,その理由等を記載すること。 ※3 起業者が補償金額の提示を行っていない場合は,その理由等を記載すること。 (2) 裁決申請に至った経緯 ※ 任意交渉の状況,事業完了年度等を入れて,経緯をまとめること。 (3) 争点 (記載例) ・補償金額の開きが大きい。 起業者提示額 ○○円,土地所有者要求額 ○○円 ・相続関係で争いがある。 ・土地の範囲が不明(隣地との境界について争いがある。 ) ・土地所有者等が事業に反対しており,一切交渉に応じない。 8 事業認定にともなう補償等に関する周知状況 (記載内容) 事業説明会等の開催状況,周知看板等の掲示状況等 9 土地・物件調書作成の経過・問題点等 (記載内容) 境界争い,署名押印拒否,当事者多数,相続人多数等 10 土地所有者・関係人の確定の経緯・方法及び他に土地所有者・関係人が存在しないことの確認 の経緯・方法 (記載例) ・登記簿による確認 ・課税台帳による確認 - 16 - ・周辺住民からの聞取り 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 11 今後の事業・申請スケジュール (1) 土地・物件調書の作成時期 (2) 裁決申請及び明渡裁決申立の時期等 (3) 事業実施に係る期限 12 その他問題点,質問事項等 (記載内容) 権利関係が複雑な事例,関係人等に該当するか否かが不明な事例等 13 参考資料 この調書のほか,次の参考資料等も用意すること(写し可) 。準備できる範囲で用意すること。 ① 事業パンフレット ② 事業認定等の告示の写し ③ 位置図,周辺図,現場写真等 ④ 対象土地の登記簿謄本,図面等 ⑤ 対象物件の登記簿謄本,図面等 ⑥ 土地所有者,関係人の確認書類(住民票,商業登記簿謄本,契約書等) ⑦ 相続問題等がある場合は戸籍謄本,家系図 ⑧ その他必要と思われる資料 ○ 担当者名 担当部課名 ふりがな 担当者名 連 絡 先 電話 FAX e-mail - 17 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 11 収用手続フロー - 18 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 第2節 申請から裁決までの収用手続 起業者は,裁決の申請及び明渡裁決の申立てを行う前に,事業認定を受け,補償等の周知措置を 行い,また,土地調書及び物件調書の作成を行って,土地等の権利関係を整理する必要がある。そ の上で,収用委員会に対し,裁決の申請及び明渡裁決の申立てを行う。 0 補償等について周知させるための措置(法第28条の2) 第1節8(4)事業認定の告示の効果で述べたように,起業者は事業認定を受けた後は,土地所 有者などが権利を行使する機会を逃したり,思いがけない不利益を受けたりすることのないよう, 法第28条の2の規定により,補償金の額等の知らせるべき事項を記載した小冊子を作成し,起 業者や関係する市町村の担当課などで土地所有者などに配ることができるようにしておかなけ ればならない。 都市計画事業についても本条の適用がある(都計法第70条)ので,都計法第66条の規定に よる周知措置のほか,本条の規定による周知措置もあわせて講じなければならない。 この周知措置を怠ったとしても,裁決申請の却下理由に該当するものでなく,収用委員会はこ の周知措置に関して指導する権限はない。 (起業者に損害賠償責任が生ずると解されている。 ) しかし,特に都市計画事業により裁決申請する場合に,この周知措置の内容についての情報提 供が乏しい現状にかんがみ,以下に関係通達の内容を掲載するので業務の参考にされたい。 ただし,上記のとおり裁決申請に関わりのない事項であるため,事務局は個別の運用について の問合せには応じられないので,各自で判断されたい。 「昭和42年12月19日建設省計総発第313号計画局長通達」 3 補償等についての周知措置について (1)周知措置の方法について イ 起業者は,あらかじめ周知事項を記載した小冊子を用意し,これを受け取りにきた土地所有 者及び関係人に対して配布すること ロ 起業者は,小冊子の内容及びイの配布場所を起業地付近に掲示すること。 ハ 起業者がすでに確知している土地所有者及び関係人には,個別に通知するのが望ましい。 (2)周知措置の内容について イ 周知措置の内容については,いたずらに羅列せず,おおむね下記程度の重要な点のみを要領 よくまとめること。 ① 土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金が,昭和○年○月○日現在で 固定され,その日から権利取得裁決まで(補償金の支払請求を行った者については,支払期 - 19 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 限まで)について物価の変動に応ずる修正が加えられる旨。なお,権利収用等の場合にもこ れに準ずる内容の説明を行うこと。 ② 法第8条第3項ただし書について ③ 法第45条の3第1項のうち売買等による承継について ④ 法第89条(損失補償の制限)について ⑤ 裁決申請の請求の主体,請求の方法(添付書類を含む。 )及びその効果について ⑥ 補償金の支払請求の主体,請求の方法(添付書類を含む。 )及びその効果について ⑦ 明渡裁決の申立ての主体及びその方法について ⑧ その他詳細については,土地収用法を参照すべき旨 ロ できるだけ平明に記載すること ハ 各人別にその具体的な補償額まで説明する必要はなく,また,標準土地価格の提示も必要で はない。 1 土地調書及び物件調書 (1) 土地調書及び物件調書の作成 土地調書は,裁決の申請をするときに(法第40条第1項第3号) ,また,物件調書は,明渡 裁決の申立てをするときに(法第47条の3第1項第2号) ,それぞれ添付しなければならない。 起業者は,事業認定の告示があった後,裁決申請に先立ってあらかじめ収用し,又は使用し ようとする土地等の現況及び当該土地の権利者並びに当該土地に存する物件の状況及び当該土 地に存する物件の権利者等を調査し,土地調書及び物件調書を作成することが義務づけられて いる(法第36条第1項) 。 土地調書及び物件調書の作成に当たっては,土地所有者及び関係人を立ち合わせた上で,起 業者,土地所有者及び関係人が署名押印する必要がある。土地所有者及び関係人は,その記載 事項が真実でない旨の異議があるときには,異議の内容を付記して署名押印することができる (法第36条第3項) 。 申請前に土地調書及び物件調書の作成する理由は,収用委員会における審理を円滑かつ迅速 に進行させるためである。作成された調書の記載事項は,真実であるとする推定力が与えられ ており,調書作成時に異議を付記しなかった事項については,起業者,土地所有者及び関係人 は,それが真実でないことを立証しない限り,審理において異議を述べることができない(法 第38条) 。 起業者は,土地所有者及び関係人が署名押印した土地調書及び物件調書に対して,加除修正 を加えることはできないので,土地所有者及び関係人が署名押印する前(申請の3ヶ月前)に 事務局に記載内容等について,確認をとるように努めること。 - 20 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (2) 確認書の活用 土地調書には,土地に関して所有権以外の権利を有する者を関係人として記載することとし ている。また,物件調書には,法第77条の移転料の補償対象とすべき物件を記載することと されている。移転料の補償の対象となるかについては,収用委員会が判断するので,起業者と しては,安全を期して,できるだけ広めに記載している現状がある。そのため,土地にあるす べての土地の所有権以外の権利又は物件が土地調書又は物件調書に記載されることになり,補 償の必要がない者,補償を望まない者も物件所有者等として,関係人となり,収用手続に参加 しなければならないことになる。 土地調書又は物件調書の作成に当たっては,収用申請地の権利関係を明らかにするため,土 地の所有権以外の権利又は物件等を記載し,関係人として調書には記載するが,同時に, 「 (収 用申請地の所在及び地番)にある○○(土地の所有権以外の権利又は物件)については,補償 を求めないことから,収用手続には参加する必要がありませんので,今後の通知等は不要です。 」 との文言を入れた「確認書」に署名押印をもらい,その原本を土地調書又は物件調書に添付し て,収用委員会へ提出してもらうこととする。これにより,物件所有者及び関係人の負担軽減 を図っていくものとする。 【様式25号】 2 裁決の申請 収用又は使用の裁決が,法第47条の2第2項の規定により,権利取得裁決と明渡裁決に二分 されていることから,裁決の申請と明渡裁決の申立てが必要である。裁決の申請は,権利取得の ためのものであり,明渡裁決の申立ては,明渡しを受けるためのものである。 (1) 裁決の申請 起業者は,事業認定の告示(手続保留されているときは,手続開始の告示)があった日から 1年以内に限り,収用委員会に収用又は使用の裁決を申請することができる(法第39条第1 項,第34条の5本文) 。なお,申請ができるのは起業者のみである。 【様式1号】 (2) 事業認定の失効 事業認定の告示があった日から1年以内に裁決の申請をしないときは,事業認定は効力を失 う(法第29条第1項) 。 また,収用又は使用の手続を保留した土地については,事業の認定の告示があった日から3 年以内に収用又は使用の手続開始の申立てを行わなければならない。手続開始の告示があった 時から1年以内に,裁決の申請を行わないときは,事業認定は効力を失う(法第34条の5) 。 - 21 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (3) 都市計画事業 土地収用法による事業認定は行われず,都市計画事業の認可又は承認の告示が事業認定の告 示とみなされる(都市計画法第70条) 。また,事業認定の失効の規定は適用されず,事業施 行期間内であれば,事業認定が効力を失うべき理由に該当する理由が生じたときに,事業認定 があったものとみなされる(同法第71条第1項) 。このため,裁決申請の期限が1年ごとに 更新される。 ○ 提出書類 第3節 63頁 「裁決申請書」を参照 (4) 起業者の審理の説明資料(事前争点整理制度) 裁決の申請及び明渡裁決の申立ての書類には,起業者の審理における説明資料を添付するこ ととなっている。この説明資料は,審理の際に起業者が読み上げるだけではなく,次のように 活用されることになるので,申請前から収用委員会事務局と調整を図り,必要事項を簡潔にま とめること(10頁程度) 。申請前には,電子データも併せて提出すること。 ① 土地所有者,物件所有者及び関係人に対する説明資料 法第42条第1項の規定に基づく裁決の申請があった旨の通知,又は法第47の4第1項の 規定に基づく明渡裁決の申立てがあった旨の通知を行う際には,この説明資料を土地所有者, 物件所有者及び関係人へ送付し,起業者への説明資料に対する意見書を審理前に提出してもら うこととしている。その意見書については,起業者へ送付する。このようにして,審理前に争 点を整理することに活用している。 ② 裁決書の起業者の申立て内容 起業者説明資料は,裁決書の起業者の申立て内容となる。 ③ 収用委員会における起業者の申請内容の概要把握に活用 収用委員会においては,この資料で申請内容の概要を把握している。 ○ 起業者の審理の説明資料 1 事業計画の概要について 2 裁決の申請及び明渡裁決の申立てに至った経緯について (1) 任意交渉の状況 (2) 土地所有者及び関係人の主張について - 22 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 3 収用又は使用しようとし,明渡しを求める土地の所在,地番,地目及び面積について (1) 収用しようとし,明渡しを求める土地 (2) 使用しようとし,明渡しを求める土地 ① 使用の方法 ② 期間 4 収用又は使用しようとする土地の所有者並びに土地に関して権利を有する関係人の氏名,住 所及びその確認方法について 5 収用又は使用しようとする土地にある物件の種類及び数量並びに当該物件の所有者又は関 係人の住所,氏名及びその確認方法について 6 土地境界確定の経緯 7 土地調書及び物件調書作成手続の経緯 8 損失の補償について本件土地の収用に伴う損失の補償について (1) 土地に対する損失の補償について 事業認定の告示日(※又は,法第34条の5の規定に基づき,手続開始の告示日)を明 記の上,当該時点において算定した見積額を記載し, 「ただし,当該金額に土地収用法71条に規定される修正率を乗じた額」と申立てること。 ① 収用しようとし,明渡しを求める土地に対する損失の補償 ② 使用しようとし,明渡しを求める土地に対する損失の補償 ③ 残地に対する損失の補償 ④ 収用しようとする土地に関する所有権以外の権利に対する損失の補償 ⑤ 損失補償の見積りの根拠 (2) 土地に対する損失の補償以外の損失の補償について 明渡しの申し立て時において算定した見積額を記載し, 「ただし,損失の補償は,明渡裁 決の時の価格によって算定された額」と申し立てること。 ① 物件の補償 ② 移転雑費補償 9 権利取得の時期及び明渡しの期限について (1) 権利取得の時期について (2) 明渡しの期限について - 23 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 3 明渡裁決の申立て 権利取得裁決がなされても,土地の明渡しがなければ,その土地を使うことができない。権利 取得裁決と明渡裁決の両裁決は,一体となってはじめて効力を生ずる(昭和42年12月19日 建設省計総発第313号計画局長通達5(5) ) 。また,収用し,又は使用しようとする土地に移 転しなければならない物件が全くなかったとしても,明渡裁決の申立てが必要である。 (1) 明渡裁決の申立て 起業者,土地所有者又は関係人は,明渡裁決の申立てを裁決の申請と同時か,裁決の申請が あった後に行うことができる(法第47条の2第3項,第4項) 。通常,起業者は,裁決の申 請と併せて,明渡裁決の申立てを行っている。 【様式2号】 明渡裁決の申立ての期限は,事業認定の告示があった日から4年以内であり,申立ての期限 内に明渡裁決の申立てがないときは,事業認定は失効し,既になされた裁決手続開始の決定及 び権利取得裁決は取り消されたものとみなされる(法第29条第2項) 。 なお,明渡裁決の申立ての期限は,収用又は使用の手続の保留の有無にかかわらず,事業認 定の告示があった日から4年以内となる(法第34条の5ただし書) 。 (2) 事業認定の失効 事業認定の告示があった日から4年以内に明渡裁決の申立てをしないときは,事業認定は効 力を失う(法第29条第2項) 。この場合において,既にされた裁決手続開始の決定及び権利 取得裁決は,取り消されたものとみなす。 明渡裁決の申立ては,土地所有者等の不安定な状態を余りに長期化すべきではないとの趣旨 に立って,事業認定の告示の時から適用されるものとされている。裁決の申請と明渡裁決の申 立てはともに,事業の認定の告示があった日から4年を超えると事業認定の効力を失う。 (3) 都市計画事業 事業施行期間を経過するまでに, 明渡裁決の申立てがないときは, その期間を経過した時に, 既になされた裁決手続開始の決定及び権利取得裁決は,取り消されたものとみなされる(都市 計画法第71条第2項) 。 ○ 提出書類 第3節 73頁 「明渡裁決申立書」を参照 - 24 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 4 手数料及び費用の負担 国及び県以外の起業者(国又は県とみなされるものを除く。 )は,裁決申請の際に,県に手数料 を納付しなければならない(法第125条第2項第3号) 。納付は,手数料分の宮城県収入証紙を 申請書に添付して行う。宮城県収入証紙売りさばき所は,以下のとおりである。 ・指定金融機関(七十七銀行) ・指定代理金融機関(仙台銀行) ・地方職員共済組合宮城県支部 等 ※ その他の宮城県収入証紙の売りさばき所については,宮城県出納局会計課 ホームページで確認すること。 また,起業者は収用委員会の行う審理又は調書のための鑑定に要する費用(手当,旅費)及び 参考人呼び出しに要する費用(手当,旅費)を負担する必要がある(法第126条) 。 - 25 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 損失補償の見積額に応じ,以下のとおりとする。 (宮城県手数料条例第2条) 損失補償見積額 (千円超) 手数料 (千円以下) 損失補償見積額 (円) (千円超) 手数料 (千円以下) (円) 100 56,400 2,300 ~ 2,400 251,800 100 ~ 150 56,400 2,400 ~ 2,500 258,900 150 ~ 200 62,100 2,500 ~ 2,600 266,000 200 ~ 250 67,800 2,600 ~ 2,700 273,100 250 ~ 300 73,500 2,700 ~ 2,800 280,200 300 ~ 350 79,200 2,800 ~ 2,900 287,300 350 ~ 400 84,900 2,900 ~ 3,000 294,400 400 ~ 450 90,600 3,000 ~ 3,100 301,500 450 ~ 500 96,300 3,100 ~ 3,200 308,600 500 ~ 550 102,000 3,200 ~ 3,300 315,700 550 ~ 600 107,700 3,300 ~ 3,400 322,800 600 ~ 650 113,400 3,400 ~ 3,500 329,900 650 ~ 700 119,100 3,500 ~ 3,600 337,000 700 ~ 750 124,800 3,600 ~ 3,700 344,100 750 ~ 800 130,500 3,700 ~ 3,800 351,200 800 ~ 850 136,200 3,800 ~ 3,900 358,300 850 ~ 900 141,900 3,900 ~ 4,000 365,400 900 ~ 950 147,600 4,000 ~ 4,100 372,500 950 ~ 1,000 153,300 4,100 ~ 4,200 379,600 1,000 ~ 1,100 159,500 4,200 ~ 4,300 386,700 1,100 ~ 1,200 166,600 4,300 ~ 4,400 393,800 1,200 ~ 1,300 173,700 4,400 ~ 4,500 400,900 1,300 ~ 1,400 180,800 4,500 ~ 4,600 408,000 1,400 ~ 1,500 187,900 4,600 ~ 4,700 415,100 1,500 ~ 1,600 195,000 4,700 ~ 4,800 422,200 1,600 ~ 1,700 202,100 4,800 ~ 4,900 429,300 1,700 ~ 1,800 209,200 4,900 ~ 5,000 436,400 1,800 ~ 1,900 216,300 5,000 ~ 6,000 443,500 1,900 ~ 2,000 223,400 6,000 ~ 7,000 450,600 2,000 ~ 2,100 230,500 7,000 ~ 8,000 457,700 2,100 ~ 2,200 237,600 8,000 ~ 9,000 464,800 2,200 ~ 2,300 244,700 9,000 ~ 10,000 471,900 - 26 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 損失補償見積額 (千円超) (千円以下) 手数料 (円) 10,000 ~ 11,000 479,000 11,000 ~ 12,000 486,100 12,000 ~ 13,000 493,200 13,000 ~ 14,000 500,300 14,000 ~ 15,000 507,400 15,000 ~ 16,000 514,500 16,000 ~ 17,000 521,600 17,000 ~ 18,000 528,700 18,000 ~ 19,000 535,800 19,000 ~ 20,000 542,900 20,000 ~ 24,000 550,000 24,000 ~ 28,000 560,000 28,000 ~ 32,000 570,000 32,000 ~ 36,000 580,000 36,000 ~ 40,000 590,000 40,000 ~ 44,000 600,000 44,000 ~ 48,000 610,000 48,000 ~ 52,000 620,000 52,000 ~ 56,000 630,000 56,000 ~ 60,000 640,000 60,000 ~ 64,000 650,000 64,000 ~ 68,000 660,000 68,000 ~ 72,000 670,000 72,000 ~ 76,000 680,000 76,000 ~ 80,000 690,000 80,000 ~ 84,000 700,000 84,000 ~ 88,000 710,000 88,000 ~ 92,000 720,000 92,000 ~ 96,000 730,000 96,000 ~ 100,000 740,000 100,000 ~ 750,000 - 27 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 5 土地所有者及び関係人の権利 (1) 裁決の申請の請求 ① 土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(先取特権を有する者,質権者,抵当権者, 差押債権者又は仮差押債権者である関係人を除く。 )は,自己の権利に係る土地について,起業 者に対し,裁決の申請をすべきことを請求することができる(法第39条第2項) 。 【様式12 号】 土地調書の作成前に,この請求があったときは,起業者は,添付書類の一部を省略して,裁 決を申請することができる(法第44条第 1 項) 。 【様式13号】 【様式14号】 この場合,土地調書の作成後,速やかに添付書類中,省略された部分を補充しなければならない (法第44条第2項) 。 【様式15号】 【様式16号】 起業者が,裁決申請すべきことを請求され,請求を受けた日から2週間以内に収用又は使用 の裁決申請をしなかった場合,収用委員会は,権利取得裁決において,起業者が,土地所有者 及び土地に関する所有権以外の権利を有する関係人に対し,それらの者が受けるべき補償金の 額につき年18.25%の割合により,裁決申請を怠った期間の日数に応じて算定した過怠金 を支払うべきことの裁決を行う(法第90条の4) 。 なお,起業者に正当な理由があるときは「怠った」ということではできないと解される(昭 和42年12月19日付け建設省計総発第313号計画局長通達) 。 ② 省略できる申請書類(法第44条第1項) 土地調書の作成前に,法第39条第2項の規定による請求があったときは,法第40条第1項 の規定にかかわらず,同項第2号の書類については,同号イ,ハ及びヘに掲げる事項並びに登 記簿に現れた土地所有者及び関係人の住所及び氏名を記載すれば足りるものとし,同項第3号 に掲げる書類は,添付することを要しない。 1) 記載が必要とされる項目 イ 収用し,又は使用しようとする土地の所在,地番及び地目(法第40条第1項第2号イ) ハ 土地を使用しようとする場合においては,その方法及び期間(法第40条第1項第2号ハ) へ 権利を取得し,又は消滅させる時期(法第40条第1項第2号ヘ) 2) 記載が省略できる項目 ロ 収用し,又は使用しようとする土地の面積(土地が分割されることになる場合においては, その全部の面積を含む。 ) (法第40条第1項第2号ロ) ニ 土地所有者及び土地に関して権利を有する関係人の住所及び氏名(法第40条第1項第2号 ニ) ホ 土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失補償の見積及びその内訳(法第40 条第1項第2号ホ) 3) 添付することを要しない書類 土地調書又はその写し(法第40条第1項第3号) - 28 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ③ 省略部分の補充(法第44条第2項) 起業者は,土地調書の作成後,速やかに,省略部分を補充しなければならない(法第44条 第2項) 。補充は,省略部分の添付書類の全部を提出することによって行う(規則第17条の2 第1項) 。 補充が行われた場合には,その補充があったときに,裁決申請書と添付書類を収用委員会が 受理したものとみなされて,裁決申請書と添付書類の縦覧と土地所有者及び関係人への通知の 手続(法第42条)並びに土地所有者及び関係人等に対する意見書提出の機会付与の手続(法 第43条)がとられるべきこととされている(法第44条第2項) 。 【様式17号】 【様式18号】 【様式19号】 【様式20号】 【様式21号】 【様式22号】 ④ 裁決の申請の請求があった場合の参考資料 裁決の申請の参考資料の他に,次の参考資料を提出すること。 イ 土地所有者又は土地に関して,権利を有する関係人から裁決申請の請求があった場合は,裁 決申請請求書の写し ロ 補償金の支払請求があった場合は,補償金の支払請求書の写し並びに起業者の見積りによる 補償金の支払額及びその支払日を証する書面 (2) 補償金の支払請求 ① 土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(先取特権を有する者,質権者,抵当権者, 差押債権者又は仮差押債権者である関係人を除く)は,事業認定の告示があった後は,権利取 得裁決前であっても,起業者に対し,土地又は土地に関する所有権以外の権利に関する補償金 (残地収用の請求に係る土地に関する所有権以外の権利に関する補償金(法第76条第3項参 照)を除く。 )の支払を請求することができる(法第46条の2第1項) 。 【様式42号】 裁決手続開始の登記前から差押え又は仮差押えの執行がされている権利(当該差押え又は仮 差押えの執行に係る滞納処分,強制執行又は競売によって消滅すべき権利を含む。 )については, 補償金の支払の請求をすることができない(法第46条の2第3項前段) 。 ② 補償金の支払請求は,裁決の申請の請求とあわせてしなければならない。ただし,起業者が 収用若しくは使用の裁決の申請をし,又は他の土地所有者若しくは関係人が裁決の申請の請求 をしているときは,この限りではない(法第46条の2第2項) 。 - 29 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ③ 残地収用の請求(法第76条第1項)又は土地の使用に代わる収用の請求(法第81条第1 項)を前提とする補償金の支払請求は,あらかじめ,その収用に必要な意見書の提出(法第8 7条)をした場合に限ってすることができる(法第46条の3) 。 ④ 起業者は,補償金の支払請求を受けたとき,2ヶ月以内に自己の見積りによる補償金を支払 わなければならない。ただし,裁決手続開始の登記がされていないときは,その登記がされた 日から1週間以内に支払えば足りる(法第46条の4第1項) 。 ) この場合,起業者は,先取特権者,質権者,抵当権者に対して,先取特権,質権,抵当権の目 的物に係る補償金の支払い前にあらかじめ,その支払いをすることを通知しなければならない (法第46条の4第3項) 。 【様式43号】 ⑤ 補償金の支払請求があった土地に対する補償金額は,事業認定の告示の時における相当な価 格を物価変動に応ずる修正率によってその請求の支払期限(補償金の支払請求があった日から 2ヶ月目又は裁決手続開始の登記がされた日から1週間目のいずれか遅い日)における価格に 修正した額となる(法第90条の2,法第71条) 。 ⑥ 補償金の支払請求により既に支払った補償金額をその支払時期に応じて物価変動に応ずる修 正率によって支払期限における価格に修正した額(法第90条の3第1項第1号)が,⑤の額 より尐なく,支払いを遅延したことにつき,起業者に正当な理由がない場合,収用委員会は, 起業者が土地所有者及び土地に関する所有権以外の権利を有する関係人に支払うべき加算金を 裁決する(法第90条の3第1項第3号) 。 加算金は,支払いを遅滞した金額について,支払を遅滞した期間(日数)につき,遅滞額に応 じた加算率 (補償金の額の2割以上である期間 年18.25%,補償金の額の2割未満1割 以上である期間 年11%,補償金の額の 1 割未満である期間 年6.25%)をもって算定 される(法第90条の3第2項) 。 ⑦ 補償金の支払期限前に権利取得裁決の裁決書の正本が起業者に送達されたときは,補償金の 支払請求は,その効力を失う(法第46条の4第4項) 。また,差押え又は仮差押えの執行前に 補償金の支払請求がされた権利について,差押え又は仮差押えの執行後に裁決手続開始の登記 がされたときは,補償金の支払請求は効力を失う(法第46条の2第3項後段) 。 - 30 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (3) 明渡裁決の申立て ① 明渡裁決の申立ては,起業者のみならず,土地所有者又は関係人もすることができ,起業 者から裁決申請があり,明渡裁決の申立てがなされていない場合には,土地所有者又は関係人 から明渡裁決の申立てをすることができる(法第47条の2第3項) 。 収用委員会から起業者にそのことを通知し(令第1条の10) ,起業者は,国土交通省令(施 行規則様式第10の3)で定める様式に従い,次の書類を収用委員会に提出しなければならな い(法第47条の3第1項) 。 ② 起業者は,土地所有者又は関係人から明渡裁決の申立てがあったときは,明渡裁決の申立て に必要な書類を収用委員会に提出しなければならない。 なお,明渡裁決の申立ては,物件が存しない場合も必要である。 6 裁決申請書及び明渡裁決申立書の受理 (1) 受理 収用委員会は,起業者から提出された裁決申請書及び明渡裁決申立書並びにその添付書類が 法定要件を具備し,手数料が納付されているときは,これを受理する(法第41条において準 用する法第19条,法第47条の3第5項において準用する法第19条) 。 ① 収用し,又は使用しようとする土地の所在,地番及び地目 裁決申請書の添付書類及び明渡裁決の申立てに伴う書類に収用し,又は使用しようとする 土地の所在,地番及び地目を記載することとされているが (法第40条第 1 項第2号イ,法 第47条の3第1項第1号イ) ,境界争いがあるために,これらを明らかにできない場合(地 番不明の場合を含む。 )には,図面上,収用し,又は使用しようとする土地の区域を確定(現 地で復元できる実測平面図による。 )すれば,裁決の申請及び明渡裁決の申立てをすることが できる。 ② 土地所有者及び土地に関して権利を有する関係人の氏名及び住所 裁決の申請及び明渡裁決の申立ての添付書類には,土地所有者及び土地に関して権利を有 する関係人の住所及び氏名を記載することとされているが(法第40条第1項第2号ニ,法 第47条の3第1項第1号ハ) ,起業者が過失がなくて知ることができないものについては, 記載することを要せず, (法第40条第2項,法第47条の3第2項において準用する法第4 0条第2項) ,過失がないことを証明する書類を添付すれば足りる(規則第17条第2号イ, 規則第17条の6第1号) 。 - 31 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ③ 裁決申請書の却下 起業者が裁決申請及びその添付書類の補正,手数料の納付など,欠陥の補正を命ぜられた にもかかわらず,収用委員会が定めた期間内に欠陥の補正をしないときには,収用委員会は, 裁決申請を却下する(法第41条において準用する法第19条第2項) 。 【様式3号】 【様式4 号】 7 土地所有者及び関係人への通知 収用委員会は,裁決の申請を却下する場合を除き,裁決申請書又は明渡裁決申立書を受理した ときは,裁決の申請又は明渡裁決の申立てがあった旨を土地所有者及び関係人等に通知する(法 第42条第1項,法第47条の4第1項) 。この通知には,土地所有者及び関係人等が,意見書の 提出,審理の流れ等を理解し,意見を陳述できる態勢を整えられるように,収用委員会が作成し た「土地収用制度のあらまし」 , 「裁決までの手続フロー図」 , 「起業者の審理の説明資料」 , 「審理 の開催」及び「現地調査の通知」等を併せて送付している。 【様式5号】 なお,土地所有者及び関係人等が不明の場合,令第6条の2では,法第42条の「裁決の申請 があった旨の通知」は,令第5条に定める公示送達の規定は,準用されていないので,公示送達 は行わない。これは,市町村長が公告を行うので,一定の周知が図られるからである。 通知に必要な土地所有者・関係人等の郵便番号・住所・常居所については,起業者が住民票を 取得する等の調査をした上で,excel データにして,事務局へ提出すること。 8 公告及び縦覧 (1) 公告・縦覧 ① 土地所有者,物件所有者及び関係人に意見書を提出(法第43条第1項及び第2項)する機 会を与え,また,隠れた権利者等を発見するために,裁決申請書等の写しを当該土地の存する 市町村長(仙台市の場合は,区長(法第140条第 1 項) )あてに送付する。 【様式6号】 【様 式7号】 市町村長は,収用委員会から書類の写しを受けたときは,直ちに裁決の申請又は明渡裁決の 申立てがあったこと及び収用し,又は使用しようとする土地の所在,地番及び地目を公告し, 公告の日から2週間(公告の日の翌日から起算して2週間。ただし,終期が休日等の場合は, その翌日が終期となる。 ) ,その書類を公衆の縦覧に供しなければならない(法第42条第2項, 法47条の4第2項において準用する法第42条第2項) 。 【様式8号】 【様式9号】 土地所有者及び関係人等は,縦覧・公告された裁決申請書又は明渡裁決申立書の写しにより, 起業者の申請内容を確認する。 - 32 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ② 市町村長は,公告の日を収用委員会に報告しなければならない(法第42条第3項) 。 【様式10号】 【様式11号】 ③ 市町村長が委員会から送付された書類を受け取った日から2週間を経過しても,公告・縦 覧の手続を行わないときは,知事は,起業者の申請により,当該市町村長に代わって,その 手続を行うことができる(法第42条第4項において準用する法第24条第4項,法第47 条の4第2項において準用する法第42条第4項) 。市町村長 9 意見書の提出 (1) 対象及び提出可能な期間 ① 土地所有者及び関係人は, 裁決申請書及びその添付書類又は明渡裁決申立書及びその添付書 類の写しを2週間の縦覧期間に,縦覧に供されている書類に記載されている事項について,意 見書を収用委員会に提出することができる(法第43条第1項本文,法第47条の4第2項に おいて準用する法第43条第1項本文) 。 【様式23号】 【様式24号】 ② 裁決の申請又は明渡裁決の申立てがあったことの公告があったときは,準関係人は,審理終 結までの間,自己の権利が影響を受ける限度で,損失の補償に関する意見書を収用委員会に提 出することができる(法第43条第2項,法第47条の4第2項において準用する法第43条 第2項) 。 ③ 土地所有者,関係人及び準関係人は,意見書に, 「事業の認定に対する不服」に関する事項 その他の事項であって,収用委員会の審理と関係がないものを記載することができず,たとえ 記載した場合でも,記載がなかったものとみなされる(法第43条第3項及び第4項,法第4 7条の4第2項において準用する法第43条第3項及び第4項,法第63条第3項) 。 (2) 対象の制限 土地所有者及び関係人は,申請書の添付書類又は縦覧期間中に提出した意見書に記載した事 項以外は,損失の補償に関する事項を除き,審理において新たに意見書を提出したり,口頭で 意見を述べたりすることができない(法第63条第1項及び第2項) 。 意見書の様式は,法令上では規定されていないが,本人から提出されたことを確認するため, 作成日付,提出者の住所,氏名及び押印があることが望ましい。また,必要に応じて,収用委 員会から土地所有者等に,アンケート方式や選択方式等で,意見を求めることがある。 縦覧期間内に提出された意見書に関しては,審理前に当事者双方に送付し,また,審理の場 でも取り上げて,意見を聞く(事前争点整理制度) 。 - 33 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 10 裁決手続開始の決定 収用委員会は,縦覧期間を経過した後,遅滞なく裁決手続の開始を決定し,以後,一連の手続 を行う(法第45条の2,昭和43年2月2日付け建設省計総発第18号計画局長通達参照) 。 収用又は使用の裁決手続開始の登記がされると,権利者が固定され,相続等の一般承継を除き, 新たな権利者は起業者に対抗できなくなる(法第45条の3第1項) 。 (1) 公告及び通知 収用委員会は,裁決手続開始を決定し,宮城県公報により公告するとともに(法第45条の 2,規則第17条の3) ,直ちに,起業者に裁決手続開始を決定したことを通知し(令第1条の 9) ,裁決手続開始決定書の正本を交付する。 【様式26号】 【様式27号】 【様式28号】 審理の開催及び現地調査の通知を併せて行っている。 (2) 裁決手続開始決定書 収用委員会は,裁決手続の開始を決定すると,収用委員の署名押印により,裁決手続開始決 定書(原本)を作成する。裁決手続の開始の決定の方法については,法令上は規定されていな いが,裁決手続開始の登記の嘱託に当たり,登記原因証書として,裁決手続開始決定書の正本 (収用委員会が記名押印したもの)が必要となるので,裁決手続の開始の決定は書面で行われ る(昭和43年2月2日付け建設省計総発第18号計画局長通達) 。この裁決手続開始決定書の 正本は,起業者が行う代位登記(前提登記)の代位原因証書となる。 2筆以上の土地について,その土地所有者が同一人であって関係人のない場合,又は土地所 有者が同一人でかつ関係人が同種の権利を有する場合(たとえば,関係人が地上権者であると きは,各種の土地について共通して地上権を有する場合)においては,一括して一個の裁決手 続開始決定をすることができる。裁決手続開始決定書には,起業者の名称,事業の種類,裁決 手続の開始を決定する土地の所在,地番,地目及び地積等(決定する土地の区域が一筆の土地 の一部であるときは,その旨及び当該一部の地積を記載し,図面を添付してその区域を明示す ること。 ) ,土地所有者の氏名及び住所,土地に関して権利を有する関係人の氏名,住所及びそ の権利の種類(既登記の権利については,その登記の申請書の受付年月日及び受付番号を含む。 ) 並びに裁決手続の開始を決定した年月日を記載し,会長及び決定に加わった委員はこれを署名 押印すること(昭和43年2月2日付け建設省計総発第18号計画局長通達) 。 (3) 裁決手続開始決定の登記の嘱託 収用委員会が裁決手続開始決定の登記を嘱託する(法第45条の2)ことになるが,分筆登 記,地積更正登記,相続登記等が必要な場合は,起業者が,裁決手続開始決定書の正本を代位 原因証書として,これらの代位登記(前提登記) (不動産登記法第59条第7号)を行う必要が ある(昭和43年2月2日付け建設省計総発第18号計画局長通達参照) 。 - 34 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 起業者は,代位登記(前提登記)が完了した後,速やかに,その旨の報告を登記完了証及び 全部事項証明書を添付して収用委員会あてに行う。 【様式29号】 収用委員会は,代位登記(前提登記)が完了した後に,裁決手続開始決定の登記を嘱託し, それが完了した時は,起業者へ登記完了証及び全部事項証明書を送付する。 【様式30号】 なお,境界争いや権利の存否について争いがある場合,裁決手続開始決定は行えるが,裁決 手続開始決定の登記ができない場合がある。登記ができないことで,収用手続は瑕疵を帯びる ことはなく,収用手続を進めることができる。 ○ 代位登記(前提登記)が必要な場合 ① 裁決手続開始決定書の土地の表示が一筆の土地の一部であるとき(分筆登記) ② 登記上の地積と実測の地積に差異があるとき(分筆するに当たっての地積更正登記) ( 「地積更正の代位登記について」 〔昭和55年7月15日付け法務省民三第四〇八五号民事局 第三課長の照会回答に基づく昭和56年8月21日付け建設省総発第177号建設省計画局 総務課長通知〕 ) ③ 裁決手続開始決定書の土地所有者若しくは関係人の表示が登記上の表示と符合しないとき, 又は,これらの権利者が登記名義人である権利者から権利を承継したものであるとき(土地 所有者表示更正登記,相続登記等) (昭和43年2月2日付け建設省計総発第18号計画局長 通達参照) ④ その他裁決手続開始決定書に表示された土地所有者又は関係人の住所が登記上の表示と符 合しないとき等(土地所有者表示変更登記) (4) 差押えがある場合の通知 収用又は使用しようとする土地に差押えがある場合,収用委員会は裁決手続開始の登記完了 後,裁判所,税務署等配当機関あて通知する(令第1条の14) 。 (5) 裁決手続開始の登記の抹消 裁決手続開始の登記は,権利取得裁決に基づく収用による所有権移転登記の際に,登記官が 職権で抹消する(不動産登記法第118条第6項) 。 また,次の場合は,収用委員会が裁決手続開始の登記の抹消登記を嘱託する(昭和44年4 月11日付け建設省計総発第284号計画局長通達参照) 。 ① 裁決手続開始の決定が取り消されたものとみなされた場合 (法第29条第2項,第100条) ② 使用の権利取得裁決に基づき起業者が当該権利を取得した場合 ③ 裁決手続開始の決定が失効した場合(例えば,事業の認定の取消し又は裁決の申請若しく - 35 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 は裁決申請書の却下(法第47条,法第41条で準用する法第19条)があったとき) ④ 裁決手続開始の決定の取消しがあった場合 ⑤ 任意売買の成立等により,裁決の申請の取下げがあった場合 ⑥ 嘱託の過誤により裁決手続開始の登記がなされた場合 起業者が民間企業等の場合(登録免許税法4条 1 項に規定される非課税団体でない場合)に は,上記の裁決手続開始決定登記,前提登記,抹消登記の登録免許税の費用負担が生じます。 11 現地調査 収用委員会は,審理前に,収用し又は使用しようとする土地の区域,利用状況及びその土地 の区域にある物件(建物,工作物及び立木等)について調査する(法第65条第1項第3号) 。 土地所有者及び関係人の立会いは不要であるが,必要に応じて,立会いを求めることがある。 また,起業者に対しては,土地境界の復元や現地での説明を求めることがある。 【様式41号】 収用委員会は,この調査について,指名委員に委任することができる(法第60条の2第1項) 。 さらに,指名委員は,必要があるときは,現地について土地又は物件を調査することを収用 委員会の事務を整理する職員に行なわせることができる(法第60条の2第2項) 。 12 審理 収用委員会は,市町村長による2週間の公告・縦覧(法第42条第2項)を経過した後,遅 滞なく,審理を開始しなければならない(法第46条第1項) 。審理は,収用委員会が起業者, 土地所有者及び関係人から裁決事項(収用又は使用しようとする土地の区域,損失の補償,権 利取得の時期及び明渡しの期限等)について,意見を聴くために開くものであって,会長又は 指名委員の指揮のもとに(法第64条第1項) ,原則として公開で行われる(法第62条) 。 (1) 審理開催の通知 収用委員会は,審理を開始する場合においては,起業者,土地所有者,関係人及び法第43 条又は法第87条ただし書きの規定によって意見書を提出した者に,あらかじめ審理の期日及 び場所を通知する(法第46条第2項) 。開催通知は,郵便法第49条で規定されている特別 送達で送付する。 【様式32号】 【様式33号】また,審理開始の告示を行う。 【様式31号】 土地所有者等に対しては,現地調査の通知も併せて行っている。 なお,通知を受けるべき者の住所,常居所その他通知すべき場所を確知することができない 場合又は民事訴訟法の規定(同法第102条(訴訟無能力者等に対する送達) ,第103条(送 達場所) ,第105条(出会送達) ,第106条(補充送達及び差置送達)又は第109条(送 達報告書) )に準じて行った通知が,不奏功であり,同法107条による付郵便ができない場 合は,公示による通知を行う(令第6条の2,令第5条) 。収用委員会が行う公示による通知 - 36 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 の方法及び効力発生並びにその周知の措置は,公示送達の場合に準ずる。県の掲示場に掲示す るとともに,県の公報に掲載することによって行う。県の掲示場に掲示を始めた日の翌日から 起算して20日を経過した時に通知があったものとみなされる(令第6条の2・昭和60年9 月25日建設省建設経済局長通達) 。 【様式34号】 【様式35号】 【様式36号】 【様式37号】 通知に必要な土地所有者・関係人等の郵便番号・住所・常居所については,起業者が住民票 を取得する等の調査をした上で,excel データに整理して,事務局へ提出すること。 (2) 審理 ① 審理の出席者 審理には,起業者,土地所有者及び関係人が出席する。代理人等を立てることもできる。 1) 代理人 土地所有者及び関係人は,審理の出席について,代理人をたてることができる。その場合 には,権限を証明できる書面(収用委員会が定めた委任状【様式38号】 ・弁護士以外の者が 代理人として出席する場合は,委任者の印鑑登録証明書を添付)が必要である(法第136 条第2項) 。 また,起業者は,共有地等で土地所有者が多数の場合,土地所有者に対して,代理人を立 てるように努めるようにする。 2) 代表当事者 共同の利益を有する多数の土地所有者又は関係人は,その中から,全員のために,代表当 事者を3人以内で選定することができる(法第65条の2第1項) 。 また,収用委員会は,共同の利益を有する土地所有者又は関係人が著しく多数である場合 において,審理の円滑な進行のため必要があると認めるときは,当該土地所有者又は関係人 に対し,代表当事者を選定すべきことを勧告することができる (法第65条の2第7項) 。 ② 審理の指揮 収用委員会の審理の手続は,会長又は指名委員が指揮する(法第64条第1項) 。 会長又は指名委員は,起業者,土地所有者及び関係人が述べる意見,申立て,審問その他 の行為が既に述べた意見又は申立てと重複するとき,裁決の申請に係る事件と関係がない事項 にわたるときその他相当でないと認めるときは,これを制限することができる(法第64条第 2項) 。 会長又は指名委員は,収用委員会の公正な審理の進行を妨げる者に対しては,退場を命ず ることができる(法第64条第3項) 。 - 37 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (開催時における注意事項) 1) 起業者,土地所有者及び関係人は,審理中は会長又は指名委員の指示に従う。 2) 起業者,土地所有者及び関係人は,審理開始時刻までに指定された席に着く。 3) 傍聴人は,傍聴人名簿に氏名及び所属又は住所を記載する。なお,審理では意見を述べ ることができない。 【様式39号】 4) 起業者からの説明後,この説明に対する土地所有者及び関係人の意見を求める。さらに, 双方の意見,主張を求める。 5) 所用により途中退席をする場合は,会長又は指名委員に許可を求めること。 6) 会長又は指名委員は,当日の主張等が出尽くしたものと判断すれば,当日の審理を終了 する。 (3) 起業者の審理の説明資料 起業者から概ね次の事項について説明を行うこと。審理において,起業者が説明すべき事項 は,事件及び審理指揮により異なるが,審理に参加する者にとって,分かりやすい説明となる ように工夫することが必要である。 なお,起業者は,説明資料については,裁決の申請等と併せて提出すること。 【様式40号】 その説明資料については,収用委員会事務局から審理前に土地所有者及び関係人へ必要に応じ て送付する。事前に説明内容を知ることで,審理での争点を明らかにする目的がある。 (4) 審理における意見を述べる等の権利 起業者,土地所有者及び関係人は,審理において,下記の①~④については,意見書を提出 し,意見を口頭で述べることができる(法第63条第1項及び第2項,法第65条第1項第1 号)が,事業の認定に対する不服に関する事項その他で,審理と関係がない事項について,意 見書に記載し,又は,口頭で意見を述べることができない(法第63条第3項) 。 審理前に提出された意見書については,事前に相手方当事者へ必要に応じて送付する。 ① 裁決申請書及び明渡裁決申立書並びにそれらの添付書類に記載された事項 (法第63条第1項) ② 裁決申請書等の縦覧期間内に提出された意見書に記載された事項(法第63条第1項) 縦覧期間が経過した後に提出された場合でも,収用委員会は,相当の理由があると認める 場合は,当該意見書を受理することができる(法第43条第1項ただし書) 。 ③ 収用委員会から説明や意見書の提出を命じられた事項(法第63条第1項) ④ 損失の補償に関する事項(法第63条第2項) - 38 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (5) 2回目以降の審理の開催 収用委員会が,審理を開く必要を認めたときは,第2回目以降の審理の期日等を起業者,土 地所有者及び関係人に通知する。 13 裁決 収用委員会は,法第47条の規定によって申請を却下する場合を除くほか,収用又は使用の裁 決をしなければならない(法第47条の2第1項) 。収用委員会は,裁決の会議で裁決し,裁決書 の正本を起業者,土地所有者及び関係人に送達する。 【様式44号】 この会議は,公開しない(法第66条第1項) 。 収用委員会は,次のような場合は裁決により収用又は使用の裁決申請を却下する(法第47条) 。 ① 申請に係る事業が事業の認定を受けた事業(都市計画事業の場合は認可等を受けた事業) と異なるとき(法第47条第1項第1号) 。 ② 申請に係る事業計画が事業認定申請書に添付された事業計画書に記載された計画と著しく 異なるとき(法第47条第1項第2号) 。 ③ 申請が土地収用法の規定に違反するとき(法第47条本文) 。 (1) 収用又は使用の裁決(法第47条の2) 収用(又は使用)の裁決は,権利取得裁決及び明渡裁決とする(法第47条の2第2項) 。両 裁決をあわせて行うときは,一通の裁決書となる。 ① 権利取得裁決 権利取得裁決においては,次の事項について裁決する(法第48条第1項) 。 1) 収用する土地の区域又は使用する土地の区域並びに使用の方法及び期間 起業者が申し立てた範囲内で,かつ,事業に必要な限度で裁決しなければならない。 ただし,残地収用の請求(法第76条第1項)又は使用に代わる収用の請求(法第81条第 1項)があった場合は,その請求の範囲内で裁決することができる(法第48条第2項) 。 2) 土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失の補償 損失の補償に関する当事者主義(法第48条第3項)に基づき,収用委員会は,補償金額 について起業者,土地所有者及び関係人が意見書により申し立てた範囲内で裁決しなければ ならない。また,補償項目のすべてに当事者主義が適用され,補償額が決定される。 3) 権利を取得し,又は消滅させる時期 権利取得の時期は,権利取得裁決に係る損失の補償金の支払等の期限であり,起業者の土 地所有権の原始取得等の権利関係の変動が生じる時期である。 4) その他法に規定する事項 a 残地に関する権利の存続(法第76条第2項) - 39 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 b c d e 使用に代わる収用の場合の権利の存続(法第81条第2項) 担保の提供(法第83条第3項) 差額及び加算金(法第90条の3第1項) 過怠金(法第90条の4) ② 明渡裁決 明渡裁決においては,次の事項について裁決する(法第49条第1項) 。 1) 土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失の補償(権利取得裁決の裁決内容) を除くその他の損失の補償 この補償にあたっても当事者主義が適用される。 2) 土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の期限(明渡しの期限) 明渡しの期限は,起業者が明渡裁決に係る損失の補償金を払い渡す期限であるとともに, 土地所有者等が物件を収去し,土地を明け渡す期限である。 3) a b c その他,法に規定する事項 担保の提供(法第84条第3項において準用する法第83条第3項) 移転困難な場合の物件収用(法第78条) 移転料多額の場合の物件収用(法第79条) (2) 法第79条の規定に基づく物件収用の裁決及び条件付き権利取得の時期及び明渡しの期限 収用手続中の土地に, 立木等がある場合, 伐採補償では, 物件所有者が移転の義務を負うが, 通常,収用手続における土地所有者又は物件所有者は,任意契約に協力してこなかった者であ るので,物件の移転の義務を果たす可能性は低い。最終的には,代執行等となるが,その手続 のために,工事着手が相当に遅れることになる。 土地にある物件については,法第79条の規定に基づく取得補償についても考慮するように, 起業者に対して助言を行うものとする。 また,起業者は,権利取得の時期及び明渡しの期限については,補償金の払渡しに要する期 間が不確定であるため,ある程度の余裕を持って申請を行っている。そのため,補償金の支払 や供託が終了しても,工事に着手できない期間が生じる。 早期の着工を必要とする特別の理由があり,かつ法第79条の規定に基づく取得補償により, 土地所有者及び物件所有者が明渡しの義務を負わない場合(具体的には下記「※適用要件」を 満たす場合)は,条件付き権利取得の時期及び明渡しの期限の活用を図り,1日でも早く,起 業者が工事に着手できるようにしていくものとする。 ※適用要件 下記①~③全てに該当する必要がある。 - 40 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ① 「早期の着工を必要とする特別な理由」が存在すること ・ 復興・復旧事業であれば該当する。 それ以外の理由は個別に委員会で確認する必要がある ② 土地所有者及び物件所有者が事業,補償内容に異議を唱えていないこと ③ 1) 事業用地の現況が山林であり,かつ明渡しの義務を負う者がいない。 又は 2) 事業用地の現況が山林以外であるが,明渡しの義務を負う者がおらず,期限の利 益を考慮すべき特段の事情(農作物の収穫時期の到来等)がないこと なお,配当機関への払渡しの必要がある場合(裁決手続開始の登記前にされた差押えに係る 権利について,権利取得があったときは,起業者は,権利取得の時期までに,当該差押えに係 る権利に対する補償金等を配当手続を実施すべき機関に払い渡さなければならない(法第96 条第1項) 。差押えは,権利取得裁決の効果として権利取得の時期において失効することにな る(法第101条第1項本文) 。 )等,確定日をもって定めなければならない場合があるので, 留意して,運用していくものとする。 (申請書記載例) へ.権利を取得し,又は消滅させる時期 収用委員会の裁決の日の翌日から起算して○日を経過した日とする。 ただし,この日よりも前に全ての被補償者に対する補償金の払渡又は供託が完了した 場合は,権利取得の時期は,その払渡又は供託が完了した日の翌日とする。 (裁決例) 1 権利取得の時期 平成○年○月○日 ただし, 起業者がこの時期より前に全ての補償金の支払又は供託の手続を完了した場合 は,その日をもって,権利取得の時期とみなすものとする。 2 明渡しの期限 権利取得の時期をもって,明渡しの期限とする。 (3) 不明裁決 ① 収用委員会は,原則として,土地所有者又は関係人の氏名及び住所等,その他送達すべき場 所を明らかにして裁決しなければならない(法第48条第4項) 。 - 41 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 しかしながら,法は,土地収用制度の円滑な活用のため,土地所有者又は関係人の氏名及 び住所等,その他送達すべき場所を確知することができないときは,当該事項については, この限りでないとしている(同項但し書) 。この場合,起業者が過失がなくて知ることができ ないものがあるときは,過失がないことを証明する文書(法施行規則第17条第 1 項第2号 イ)を申請の際に提出しなければならない。 「所有者又は関係人の氏名及び住所を確知することができない」場合として,具体的には, 次のような場合がある。 1) 権利者の住所も氏名も不明であるとき 2) 権利者の氏名は確知しているが,住所が不明であるとき 3) 土地又は物件に関する所有権又は所有権以外の権利の帰属をめぐって争いがあるとき (相続争いを含む。) 4) 隣接地の権利者間で土地の境界について争いがあり,収用しようとする土地の地番が不 明(所有者が不明ということになる。 ) なお,裁決申請の際に必要となる土地調書及び物件調書の作成についても,起業者が過失 がなくて知ることができない土地所有者及び関係人については,署名押印は不要としている (法第36条第2項) 。この場合は,起業者は,市町村長の立会い及び署名押印を求めなけれ ばならない(法第36条第4項) 。 (参考判例) 大阪高判(昭和55年1月25日)が, 「土地所有者又は関係人の氏名及び住所等,その他 送達すべき場所を確知することができないとき」の趣旨については, 「収用委員会は,収用の 対象となる土地の所有権につき関係人間で争いがないか,又は一応の審理,調査の上,確実 な資料により明白な心証を得ない限り,その土地につき所有者不明として収用裁決をするの が相当である。 」と判示しており,土地の所有権につき,関係者間で争いがある場合は,不明 裁決ができるとしている。 ② 収用委員会は土地に関する所有権以外の権利に争いがある場合,裁決の時期までにその権利 の存否が確定しないときは,権利が存するとして裁決し,権利が存しないことが確定した場 合の土地所有者の補償金を併せて裁決する(法第48条第5項) 。 ③ 起業者は不明の部分に係る補償金を供託することができる(法第95条第2項第2号) 。 ④ 「不明裁決」を行えば,補償金は法務局に供託される。土地所有者自らが補償金を引き出す ためには,不明でないことを証明する必要があるが,争いのある関係者から証拠書類を収集す - 42 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ることは,非常に困難なこと(土地境界で争っている相手方から土地境界を確定する書類に署 名押印をもらう等)である。結果として,土地所有者へ補償金が渡らないのに,土地だけを取 られる事態が生じることがある。収用委員会として,下記のとおり「不明裁決」を出さないよ うに努めている。 1) 相続のある場合 民法第898条は, 「相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。 」と規定 している。登記名義人が死亡して相続が発生したが,争いがない場合等において,民法第90 0条及び同第901条に基づいて,法定の相続分等で裁決を行うこととする。 相続人の中に,行方不明者等がいる場合は,その者の相続に関わる部分のみを「不明裁決」 とする。 2) 土地境界争いがある場合 土地境界についての争いがある場合は,土地調書の作成前に,起業者に対して,土地所有 者(又は隣接者)のぞれぞれの意見を入れた地積図を作成させることとする。また,主張が重 複している場合は,その部分の地積図を作成させることとする。土地調書には,それぞれが主 張する地積図を添付させ,お互いの主張が分かるようにして,署名押印をもらうものとする。 裁決に当たっては,主張が重複する部分と主張が重複していない部分に分けて,所有者を 判断することになる。収用委員会では,主張が重複する部分については,土地境界を確定する ことは行わないので,その部分のみは「不明裁決」となる。 「不明裁決」が行われた部分の補 償金は,起業者により法務局に供託される。土地境界について,主張が重複していない部分は, 裁決により,それぞれに補償金が支払われることになる。 ⑤ 不明裁決を行ったときの登記手続については,次の場合において,起業者が,不動産登記法 第106条の規定により, 「収用による所有権移転の登記」を申請(嘱託)すれば,登記所に おいて受理される。この場合,申請書(嘱託書)には,裁決書の写し,供託受理証明書及び申 請書(嘱託書)の副本を添付すれば足りる(昭和41年2月19日付け建設省計画局長通知) 。 1) 当事者甲,乙が訴訟中などのため土地所有者が不明の場合において, 「土地所有者不明(甲 又は乙) 」として,収用の裁決をしたとき。ただし,登記簿上の土地所有者は,甲とする。 2) 登記簿上の土地所有者甲が死亡し,相続人の存否又は氏名が不明の場合において, 「土地所 有者不明(甲の相続人) 」として,収用の裁決をしたとき。 (4) 裁決書の送達 ① 収用委員会で裁決がなされた後,裁決書正本を作成し,起業者,土地所有者及び関係人に送 - 43 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 達する(法第66条第3項) 。 【様式44号】 なお,起業者は,裁決の直前に,土地所有者,関係人等の住所等の変更の有無を確認し,変 更があった場合は,収用委員会へ報告することが必要である。 ② 送達の方法は,郵送(郵便法第66条に規定する特別送達)又は交付である(法第135条 第2項,令第4条) 。 ③ 土地所有者又は関係人の住所,居所その他送達すべき場所を確知することができないときな どは公示送達をする(令第5条) 。 【様式45号】 【様式46号】 【様式47号】 【様式48号】 公示送達については, 「土地収用法施行令の一部を改正する政令の施行について」 (昭和60 年9月25日付け建設省建設経済局長通達)を参照すること。公示送達の方法は,都道府県 の掲示場に掲示するとともに,都道府県の公報に掲載することによって行う。公示送達の効 力発生は,都道府県の掲示場に掲示を始めた日の翌日から起算して20日を経過した時に送 達があったものとみなされる。 ④ 裁決の効力は,裁決書正本の送達により発生する(昭和40年9月22日付け建設省計画局 総務課長回答) 。 ⑤ 裁決書正本が土地所有者又は関係人の受領拒否,不在等の理由により返送されてきたときは, 再度,書留郵便による裁決書正本の送達を行う。 (付郵便)この場合,発送した時に裁決書正 本の送達がなされたものとみなされる(法第135条2項,令第4条2項において準用する 民事訴訟法第107条第1項及び第3項) 。 14 裁決の申請及び明渡裁決の申し立ての取り下げ 起業者は,収用委員会に裁決申請をした後も,任意交渉を継続することができる。 起業者,土地所有者及び関係人の間で,権利取得及び明渡しについての合意が調い,売買契 約が締結されて,土地の所有権等が起業者に移転し,又は,当該土地上の物件も移転されて, 収用手続による目的を私法上の契約等で充足した場合等には,起業者は裁決申請の全部又は一 部取下げを行うことができる。 取下げの可能な時期は,裁決申請後から裁決までの間であり,起業者が申請取下書の提出を もって行う。 【様式52号】 (全部取下げ) 【様式69号】 (一部取下げ) 取下げの時期が,法第42条第2項の公告・縦覧期間中や縦覧期間が終了して間もない場合 は,収用手続における混乱を避けるため,収用委員会から,土地所有者等に対して,取下げが あった旨の通知を行い,また,市町村に対して,公告を求めることがある。 - 44 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 起業者が裁決申請を取り下げた場合,起業者の申出により,収用委員会が裁決手続開始後に 登記の抹消の登記を嘱託する場合がある。 。 (10 裁決手続開始の決定 (5)参照) 第3節 裁決申請書等の作成 1 土地調書及び物件調書 事業認定の告示があると,起業地の範囲が確定され,その結果,土地所有者及び関係人は,土 地の保全義務(起業地について,明らかに事業に支障を及ぼすような形質の変更をしてはならな い。 )を負い(法第28条の3) ,損失補償請求(土地の形質を変更し,工作物を新築し,改築し, 増築し,若しくは大修繕,又は物件を附加増置したときは,あらかじめ,これについて,宮城県 知事の承認を得た場合を除き,これに関する損失の補償を請求することができない。 )の制限(法 第89条参照)が,加えられることとなるので,起業者は,裁決の申請等前に収用又は使用しよ うとする土地及びその土地上にある物件の現況,権利関係を確定しておく必要がある。 土地調書及び物件調書の作成は,収用委員会における審理の際に,事実の調査,確認における 煩雑さを避け,その効率化を図るため,土地及び物件に関する事実及び権利状態,当事者の争点 (起業者と土地所有者等の意見が相違する場合は, それぞれの意見を記載すること) を記載して, あらかじめ整理しておくことを目的としている。このため,起業者は,積極的に土地所有者等の 異議を記載してもらえるように努める必要がある。異議は,直接調書に記載するか,又は,申出 書(土地収用法施行規則様式第7の5又は同第7の6)に記載する。 適法に作成された調書の記載事項は,異議を付記した事項以外について真実であるという推定 力を持つので,土地所有者等の署名押印が終了した後は,起業者は,調書の加除修正等を行って はならない。 (1) 作成時期 ① 土地調書(土地収用法施行規則様式第8) 土地調書は,裁決申請書の添付書類となる(法第40条第1項)ので,その作成時期は,事 業認定の告示後(法第31条の規定に基づき,手続保留された場合は,法第34条の3の規定 に基づく手続開始の告示後)から裁決申請までの期間ということになる。ただし,土地所有者 又は関係人の裁決申請の請求に応じて,裁決申請を行う場合には,裁決の申請後に作成するこ とも認められている(法第44条第1項) 。 ② 物件調書(土地収用法施行規則様式第9) 物件調書は,明渡裁決申立書の添付書類となる(法第47条の3第2項)ので,その作成時 期は,事業認定の告示後(法第31条の規定に基づき,手続保留された場合は,法第34条の 3の規定に基づく手続開始の告示後)から起業者が明渡裁決の申立てをするまでの間である。 - 45 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ただし,土地所有者又は関係人が明渡裁決の申立てをした場合には,その申立て後に作成して もよい(法第47条の3第1項) 。 (2) 作成部数 裁決申請書及び明渡裁決申立書には,各調書の正本1通を添付するのが望ましい。ただし, 事情により提出できない場合は,写しを添付する(土地収用法第40条第1項第3号) 。 (3) 作成単位 ① 土地調書 1) 土地調書は,土地所有者ごとに作成する(土地収用法施行規則第14条に規定する別記様 式第8の備考1)。 2) 当該土地が共有に係る場合は,全共有者をまとめて1通の土地調書を作成する(昭和28 年2月19日付け建設省計画局長回答) 。 3) 同一所有者が数筆の土地を所有しているときは,各筆をまとめて1通の土地調書を 作成する(和歌山県知事あて計画局長回答昭和28年2月19日) 。ただし,同一人が所有す る土地であっても,単独所有の土地と共有の土地,共有者の構成が異なる土地,共有者の持 分が異なる土地等は,分かりやすくするため,別々に土地調書を作成する。 4) 外国に居住している者又は外国籍の者については,一つの土地調書を郵送で順番に回して いくと,途中で紛失するおそれや時間的な制約もあるので,人数分の土地調書を作成して, 各人に送付して,署名をもらうこともやむを得ない取扱いとする。 (複数の者から署名したい から送付してほしいとの要望があった場合等の取扱いとし,通常は市町村長等の立会いで対 応可能(下記(7)①参照) 。 ) ② 物件調書 1) 1つの物件が2筆以上の所有者を異にする土地にまたがって存在するときにも,土地所有者 ごとに物件調書を作成する。 2) 1人の土地所有者の所有する土地に複数の物件が存在するときには,これらの物件を1通の 物件調書に記載する。 (4) 作成範囲 原則として,次のとおりとする。 ① 土地調書 - 46 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 同一の土地所有者に属する一団の土地(同一の目的に供されている一体の土地)が,他の筆 にまで及ぶときには,収用し,又は使用しようとする土地の属する筆のみについて作成するの ではなく,その一団の土地全体について作成する。明らかに,残地補償等の観点から,一団の 土地として考慮する必要がない場合は,収用予定地を含む土地のみで土地調書を作成する。 ② 物件調書 1) 作成すべき物件の範囲は,原則として,法第77条の移転料の補償の対象とすべき物件の範 囲となるが,補償の対象とすべき物件については,収用委員会が決定するので,起業者が判断 してはならない。 物件調書の作成に当たっては,収用申請地の権利関係を明らかにするため,すべての物件等 を掲載し,その物件の所有者等を関係人として調書には記載するが,明らかに補償の対象とな らない物件の所有者等からは, 「 (収用申請地の所在及び地番)にある○○(土地の所有権以外 の権利又は物件)については,補償を求めないことから,収用手続には参加する必要がありま せんので,今後の通知等は不要です。 」との文言を入れた確認書に署名押印をもらい,その原 本を物件調書に添付して,収用委員会へ提出すること。 2) 残地に存する物件(残地のみに存する物件を含む。 )については,移転料を要することが明 らかである場合は作成する必要がある。 3) 収用し,又は使用しようとする土地上に,物件が存しないときにも物件調書を作成する(昭 和46年8月13日付け建設省計画局総務課長回答) 。 (5) 起業者による調書作成及び起業者の署名押印 起業者は,事業認定の告示(手続保留された土地については,手続開始の告示)があった後, 土地調書及び物件調書を作成し,これに署名押印しなければならない(法第36条第1項及び 第2項,法第34条の5) 。起業者の署名については,自署である必要はなく,記名でも差し支 えない。 (6) 土地所有者及び関係人の立会い及び署名押印 ① 立会いと署名押印を求めるべき者は,実体的に権利を有する者のことである。例えば,登記 名義人が死亡した場合は,その相続人となる。 ② 土地調書及び物件調書を作成する場合,起業者は,土地所有者及び関係人(起業者が過失な くて知ることができない者を除く。 )を立ち会わせた上,土地調書及び物件調書に署名押印を - 47 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 させなければならない(法第36条第2項) 。 ③ 土地所有者及び関係人の立会いを求めるに当たっては,事前に,調書を作成しようとする土 地の地番や物件の名称,立会いの日時及び場所,立会いを求める趣旨,調書の効力,異議を付 記することができること,代理人によることもできることも通知することが望ましい。 ④ 立会通知の方法は,時間的余裕をもって,文書で行うこと。起業者が一方的に特定の日時を 通知するのではなく,権利者の都合を照会して,できるだけこれに合わせた日時を決めること が妥当である。海外居住者や遠方居住者に対しても,通知する必要がある。これらの者に対し ては,代理人の選任を示唆することが望ましい。 ⑤ 土地所有者及び関係人の立会いは,土地調書及び物件調書の記載が,対象の土地又は物件に 照らして,相違があるか否かを確認するためのものである。 ⑥ 土地調書の作成に当たって,物件(原則として,収用対象区域内にあるものに限る。 )につ いてしか権利を有しない関係人(例えば借家権者,建物の抵当権者)にも立会と署名を求める 必要がある。 ⑦ 異議の付記について,土地所有者及び関係人のうち調書の記載事項が真実でない旨の異議を 有する者は,その内容を調書に付記して署名押印することができる(法第36条3項)。 調書の記載事項のうち,付記された異議の内容と矛盾する部分については,付記した者との 関係において,調書に真実であることの推定力が生じない(法第38条参照) 。 (7) 市町村長等の立会い及び署名押印 ① 市町村長の立会い及び署名押印 土地調書及び物件調書を作成する場合において,土地所有者及び関係人のうちに,法第36 条第2項の規定による署名を求められたにもかかわらず,署名押印を拒んだ者,相当の期間内 にその責めに帰すべき事由により,これをしない者,又は署名押印することができない者があ るときは,起業者は,市町村長(政令指定都市は当該都市の区長〔法第140条〕 )の立会い 及び署名押印を求めなければならない。この場合において,市町村長は,当該市町村の職員を 立ち会わせ,署名押印させることができる(法第36条第4項) 。 そして,別途市町村長から,実際に立会いを行う当該市町村の職員に対する委任状の添付が 必要となる。 なお,市町村長の立会及び署名押印を求めた場合において,市町村長が署名押印を拒んだ ときは,県知事は,起業者の申請により,当該県の吏員のうちから立会人を指名し,署名押印 させなければならない(法第36条第5項) 。この場合も上記同様,委任状が必要となる。 (市町村長等が立会い及び署名押印ができる場合) 1)署名押印を拒んだ者,相当の期間内にその責めに帰すべき事由により,これをしない者 - 48 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 がいるとき 例 土地所有者等が通知された立会予定日に,無連絡で欠席した場合 2)署名押印することができない者があるとき a 意思能力又は行為能力を欠く者で法定代理人がいない場合 b 重症者(行為能力は欠いていないが入院中等)で代理人がいない場合 c 権利者の氏名は確知しているが,住所が不明であり,代理人もいない場合 d 権利の存在が認められるが,権利者の住所も氏名も不明の場合 e 登記名義人が死亡し,法定相続人が不存在等で,相続財産管理人も選任されてない場合 等 ただし,a の場合は,土地調書等は作成できても,申請後の書類を法定代理人が受領で きない状態では収用手続を進められないため,注意が必要です。 ② 立会いの趣旨 ①の立会い及び署名押印は,調書の記載事項が真実であることを証するためのものではなく, 「土地・物件調書が測量,調査その他の資料等に基づき,一応の合理性が認められる方法によ り作成されたものであることを確認すれば署名押印することができ,また,署名押印しなけれ ばならないものと解するのが相当である」 (最大判平成8年8月28日)とされている。 ③ 立会人の適格 立会人は,起業者又は起業者に対し,法第61条第1項第2号(起業者,土地所有者及び関 係人の親族等)又は第3号(起業者,土地所有者及び関係人が株式会社等の法人である場合, 当該株式会社等の取締役等)の規定に該当する関係にある者であってはならない(法第36条 第6項) 。 (8) 立会い及び署名押印を行う場所 立会の場所は現地に限らず,公民館,起業者の事務所などでもよい。 (9) 仮登記上の権利を有する者が出現したときの調書の再作成 仮登記権者,既登記の買戻権者,既登記の差押債権者又は既登記の仮差押債権者については, 法第8条第3項ただし書の適用がなく事業認定の告示後にこれらの者となったものも関係人と - 49 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 なる(法第8条第4項)ので,調書を作成した後,裁決申請又は明渡裁決の申立てをするまでの 間にこれらの者が出現したときは,調書の再作成が必要である。 ただし,これらの権利の基礎となっている権利が,事業認定の告示後に新たに設定された場 合(例えば,事業認定の告示があった後に地上権を設定し,その地上権について,さらに譲渡又 は抵当権設定の仮登記をした場合)及び裁決手続開始の登記がされた権利について,これらの権 利者が出現した場合において,これらの権利者は,関係人とはならない。 (10) 土地調書及び物件調書の作成の特例 起業者が調書作成のために土地又は工作物に立ち入ろうとするときに,被収用者や事業に反 対する者から抵抗を受けることがある。この場合でも,起業者は,強制的に立ち入る権限を有 している(法第35条)が,混乱を引き起こしてまで立ち入りを強行することが妥当でないと 判断されることもある。そこで,こうした場合には,立ち入って測量調査を行うという方法以 外の方法により調書を作成することが認められている(法第37条の2) 。この調書についても, 土地所有者及び関係人の立会い及び署名押印(法第36条第2項)を求めなければならない。 なお,この調書の効力は,一般の調書の効力と同じである(法第38条) 。 ① 立入拒否等の正当理由 1) 起業者が法律の規定に違反して立ち入ろうとするとき 2) 起業者が調書の作成という目的を越えた測量・調査をしようとするとき 3) 土地占有者等において,立入予定日にその家族が死亡するなどの拒否又は妨害する合理的 な事情があるとき 等 ② 著しく困難であるとき 起業者が説得等によりできるだけ努力しても,なお,拒否,妨害があり,これを強行突破し ようとすれば,相当な混乱が予想されるときをいう。 警察力の行使までも必要とされる事態に限らず,それより広い。 ③ 他の方法により知ることができる程度 航空測量,聴取調査,公簿の記載事項の援用,近隣地からの観察等が考えられる。 - 50 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (11) 土地調書の作成 土地調書の様式(法第37条第1項及び第4項,規則第14条及び様式第8) ・・・・・・・・A4判を使用する【様式 0-1-1 号】 ○ 土地調書の記載要領 ① 起業者の氏名及び住所 1) 官報又は県公報で告示された事業認定等に係る起業者の氏名と住所 (上記代表者を併せて記載)を表示する。 2) 起業者が複数の場合は,(1)(2)・・・・・・・等と区分して表示する。 3) 起業者の氏名(名称) a 国が行う事業にあっては, 「国土交通大臣」等と当該事業の施行について権限を有する行 政機関の名称を記載する。 b 起業者が国以外の場合には, 「宮城県」 , 「○○市」 , 「○○機構」 , 「○○株式会社」のよう に記載し,その内部機関をもっては表示しない。 c 起業者の住所(所在地)は,庁舎等の所在地を記載する。 ② 事業の種類(事業の種類及び名称) 1) 都市計画事業の場合は「事業の種類」を「事業の種類及び名称」と表示し,事業の種類及び 名称を記載する。 (記載例)事業の種類及び名称 ○○都市計画道路事業3・4・5号○○○○線 2) 官報又は県公報で告示された事業認定等に係る事業名(都市計画事業等で事業名が変更され ている場合は,裁決申請時点の事業名)を告示のとおり記載する。 3) 起業者が複数の場合には,(1)(起業者名 1)起業に係る事業,(2)(起業者名 2)起業に係 る事業等と区別して表示する。 (記載例) 事業の種類 (1) 国土交通大臣起業に係る事業 一般国道○○号改築工事「△△バイパス」 (△△地内から △△地内まで) (2) 宮城県起業に係る事業 一般県道○○線改築工事並びに市道及び町道付替工事並びにこれらに伴う附帯工事 - 51 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ③ 起業地 1) 官報又は県公報で告示された事業認定等に係る起業地(事業地)をすべて収用及び使用の区 分も含めて,告示のとおり記載する。 2) 起業者が複数の場合は,(1)(起業者名 1)起業に係る起業地,(2) (起業者名 2)起業に係 る起業地等と区分して表示する。 ④ 事業の認定(事業の許可,承認)の告示の年月日 1) 官報又は県公報で告示された事業の認定の告示の年月日(都市計画事業等の場合は当初の 認可等の告示の年月日)を記載する。 2) 都市計画事業の場合も事業の認定の告示と表示する。 ⑤ 収用又は使用の手続を保留した起業地があるときは,手続開始の告示の年月日 1) 官報又は県公報で告示された収用又は使用の手続開始の告示の年月日を記載する。 2) 土地調書の対象土地について手続保留(法第31条から第34条の6まで参照)していな い場合は, 「なし」と記載する。裁決申請対象土地が手続保留した起業地内に存在するとき のみ本項目を記載する。 ⑥ 土地所有者の氏名及び住所 1) 土地の登記簿及び実態等を調査のうえ,土地所有者(実体的に権利を有する者)の住所及 び氏名を記載する。 2) 法人の場合は,その機関,代理人を表示するのではなく,法人登記簿等を調査の上,権利 能力を有する本来の土地所有者を記載する。 3) 住所は,住民基本台帳(外国人登録簿,法人登記簿)等を調査のうえ,現住所(居住地, 所在地)を記載する。 4) 共有名義で登記されているときは,共有持分を記載する。 (記載例) 持分3分の1 青葉 繁 5) 土地所有者の氏名及び現住所が登記簿上の表示と異なるときは,登記簿上の表示をただし 書きする。 (記載例1)氏名及び住所とも異なる場合 青葉 丈 仙台市青葉区落合 番 号 ただし,登記簿上の名義人 青葉 繁 仙台市青葉区愛子 番 号 - 52 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (記載例2)氏名が異なる場合 株式会社青葉銀行 仙台市青葉区本町 ただし,土地登記簿上の名称 株式会社愛子銀行 丁目 番 号 6) 土地所有者が登記簿の土地所有者と一致しないときは,真実の所有者を記載する。 a 登記名義人が死亡し,遺産分割協議は未了であるが,相続人間で法定相続分での分割 の合意があると認められ,起業者が法定相続分で収用手続を進める場合(持分を記載す る。 ) (記載例) 登記名義人(亡)青葉花子法定相続人 持分2分の1 青葉東子 持分2分の1 青葉西子 b 登記名義人が死亡し,遺産分割協議は未了であり,起業者が相続人の相続分について 判断できない場合(法定持分の記載を要しない) 土地所有者不明 ただし,登記名義人(亡)青葉花子法定相続人 (持分不明) 青葉東子 (持分不明) 青葉西子 7) 土地所有者の氏名又は住所を起業者が過失がなくて知ることができないときは,次のと おり記載する。 a 権利の存在は認められるが,権利者の氏名も住所も不明のとき (記載例) 土地所有者不明 b 権利者の氏名は確知しているが,住所・居所が不明のときは,そのことを記載した上で, 住民基本台帳上の住所又は判明した最終の住所をただし書きする。 (記載例) 土地所有者 甲・住所・常居所不明 ただし,住民基本台帳(又は判明した最終)の住所○○ c 権利の帰属をめぐって争いがあるとき(例えば,土地の帰属をめぐって争いがあるとき, - 53 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 土地の境界争いがあるとき) (記載例1) 土地所有者不明 ただし,土地所有者 甲・住所・常居所○○ 又は 土地所有者 乙・住所・常居所○○ (記載例2) 借地権者不明 ただし,借地権者 甲・住所・常居所○○ 又は借地権者 乙・住所・常居所○○ d 権利の存否をめぐって争いがあるとき(例えば,借地権の存否をめぐって争いがあると き) (記載例) 借地権存否不明 ただし,借地権者 乙・住所・常居所○○ 又は借地権者 なし ⑦ 関係人の氏名及び住所 1) 土地に関する関係人(土地賃借人,抵当権者等)を記載する。 2) 物件についてのみ権利を有する関係人は,法上では記載する必要はないが,署名押印を求 める便宜上, (参考)と冠記して記載する。 3) 前記「⑥土地所有者の住所及び氏名」の取扱を参考とする。 ⑧ 土地の所在 1) 登記簿上の表示を記載する。 2) 字名等が,官報又は県公報で告示された事業認定等に係る起業地(事業地)の表示と一致 していることを確認する。 ⑨ 土地調書の表部分 1) 1筆ごとに記載する。 2) 「地番」欄には,登記簿上の地番(不動産登記法第34条,不動産登記規則第98条参照) を記載し,分筆する必要がある場合であっても,土地調書作成時の地番を記載する。 3) 「地目」欄には,登記簿上の地目(不動産登記法第34条,不動産登記規則第99条)を 記載する。 - 54 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 4) 「登記簿上の地積」欄には,登記簿上の地積(不動産登記法第34条,不動産登記規則第 100条)を記載する。 なお,登記簿上の地積については,1㎡ の1/100 未満の端数を切り捨てるが,宅地 及び鉱泉地以外の土地で10㎡を超えるものについては1㎡未満の端数を切り捨てること になっている(不動産登記規則第100条) 。 5) 「実測地積」欄には,実測平面図の地番ごとの収用地,使用地,残地等の実測面積を合計 して記載する。 ただし, 一筆が広大であるために全体の実測が困難な場合は, 「広大地のため実測せず」と 記載することもできる。このような取扱ができるのは,起業地に入る土地の部分が一筆の土 地のわずかな部分であるために残地補償あるいは残地収用の必要がないこと及び他人の所 有地が含まれていないことが明確になっているときに限られる。 地目,地積にかかわりなく1㎡の1/100まで表示する。 なお,土地の部分で現況地目において,利用の状況が異なる場合には,地積の内訳を区 分して記載する。 6) 「収用し,又は使用しようとする土地の面積」欄は, 「収用しようとする土地の面積」 , 「使 用しようとする土地の面積」として別々に設けることとし,該当事項がある欄だけを設け る。これらの欄には,実測平面図に記載された実測面積を記載し,地目,地積にかかわり なく1㎡の1/100まで表示する。 なお,土地の部分で現況地目において,利用の状況が異なるときには,面積の内訳を区分 して記載する。 また,土地の部分で使用の方法及び期間が異なるときには,使用しようとする土地の面積 の内訳を区分して記載し, 「実地の状況」欄に各土地の部分に係る使用の方法及び期間を記 載する。 7) 「所有権以外の権利の種類及び内容」欄には, 「借地権」 , 「抵当権」 , 「○○○持分抵当権」 等を記載して土地についての所有権以外の権利の種類を表示し,権利の種類が不明の場合 は,権利の目的,権利の存続期間,賃料等を具体的に記載し,その内容を明らかにする。 登記されている権利については,登記申請書受付年月日,受付番号及びその他の登記事 項も記載する。 所有権以外の権利がない場合には, 「所有権以外の権利の種類及び内容欄に「なし」と記 載し, 「権利者の氏名」欄に「なし」の表示をする。 - 55 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 8) 「権利者の氏名」欄には, 「所有権以外の種類及び内容」欄に記載した土地についての所有 権以外の権利に対する権利者の氏名を記載し,権利者が法人の場合には,その名称を記載 する。 9) 「実地の状況」欄には,現況地目を記載するとともに,損失の補償に参考となる事項を記載 する。例えば,権利の帰属又は存否をめぐって争いがあるときは,争いの状況を記載し,事 業認定の告示があった後に新たに権利設定を受けた者,不法占拠者,準関係人等がいるとき は,そのことを記載する。 10) 「備考」欄を適宜設け,土地・物件調書等の内容が,土地所有者等にとって,分かりやす いものにするため,必要に応じて,補足説明を記載すること。 11) 注書は「実地の状況」欄, 「備考」欄等に記載すべき事項が該当欄に記載しきれないときに, 該当箇所に符号を付すことにより対応関係を明らかにして,表部分の下に記載する。 ⑩ 土地調書の作成の根拠規定 起業者は,自ら調書に署名押印し,土地所有者及び関係人(起業者が過失がなくて知ること ができない者を除く。 )に署名押印をしてもらった場合は, 「上記により,土地収用法第36条 第1項の規定によって土地調書を作成する。 」と記載する。 また,土地所有者及び関係人に,署名押印を拒んだ者や署名押印をすることができない者が あるときに,市町村長等に立ち会いを求めて,署名押印をしてもらった場合は, 「本調書は,土 地所有者が土地収用法第35条の規定に基づく立入調査(又は署名押印等)を拒んだので,土 地収用法第37条の2の規定に基づき作成した。 」と記載する。法第37条の2に基づいて調書 を作成するときは,その旨と理由をなお書きする。 ⑪ 調書を作成した年月日 全員の署名押印が完了した日とする。 ⑫ 署名押印 1) 起業者,土地所有者及び関係人の全員 について署名押印が必要である(法第36条第2項) 。 法人については,記名押印でもよい。 2) 残地についてのみ権利を有する者にも,関係人に準じて立会及び署名押印を求めるべきであ る。 3) 立会人の身分については,土地所有者,借地権者,土地抵当権者,○○○市職名・氏名など - 56 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 と記載する(規則様式第8備考2) 。 4) 権利の帰属をめぐって争いがあるとき(例えば,土地の帰属,土地の境界争いがあるとき) , 権利の存否をめぐって争いがあるとき(例えば借地権の存否をめぐって争いがあるとき)に も,争いの当事者双方に立会及び署名押印を求め,立会又は署名押印を拒否された場合には, 拒否した者について,市町村長の立会及び署名押印を求める。 5) 起業者が過失がなくて知ることができない者には,立会い及び署名押印を求めなくてもよい (法第36条第2項括弧書)が, 「起業者が過失がなくて知ることができない」とは,起業者 が登記簿の閲覧,登記名義人への照会,戸籍簿・住民基本台帳の調査,周辺住民への照会, 占有関係等の現地調査等により真摯な努力をしたにもかかわらず,知ることができないこと をいう。 権利の存在は認められるが,権利者の氏名も住所も不明のとき,権利者の氏名が不明のと き,権利者の氏名は確知しているが,住所が不明であり,人もいないとき等は, 「起業者が過 失がなくて知ることができない」ときには該当せず,市町村長の立会い及び署名押印(法第 36条第4項)を求めなければならない。 6) 共有地のときは,共有者全員の署名押印が必要である。 7) 代理人によるときは,代理の表示をする。代理権限は書面(委任状等)をもって証明する(法 第136条第2項) 。土地所有者及び関係人の場合は,委任者の印鑑登録証明書を提出するこ と。 (記載例1) 土地所有者 川崎町笹谷 番 号 笹谷 薫 上記代理人 丸森町大張 番 号 丸森 護 (記載例2) 土地所有者 仙台市青葉区青葉 番 号 青葉 光 青葉 光 未成年者につき - 57 - 印 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 仙台市青葉区青葉 番 号 法定代理人(親権者)父 仙台市青葉区青葉 番 青葉 繁 印 青葉 薫 印 号 法定代理人(親権者)母 8) 土地調書の記載事項に異議のある土地所有者又は関係人は,その内容を調書に付記して署名 押印することができる(法第36条第3項,規則別記様式第8備考3) 。 異議の内容を土地調書の署名押印欄又は余白に記載しきれない場合には,異議の内容を記載 した別紙を余白に貼付し,割印をさせる。 なお,土地所有者又は関係人が署名押印を拒否する場合には,異議を記載することができる こと,異議を付記しなかった事項については,起業者,土地所有者及び関係人は,それが真実 でないことを証しない限り,審理において異議を述べることができなくなることを十分明らか にしたうえで,署名押印を拒否するか否かを判断させなければならない(法第38条) 。 (記載例) 借地権者 仙台市青葉区愛子1丁目1番1号 広瀬川 清 印 この調書の記載事項には,次のとおり異議がある。 ①・・・・・・・・ ②・・・・・・・・ 9) 市町村長又は市町村の職員の立会い及び署名押印(法第36条第4項) 現場で立ち会った市町村長又は市町村の職員が理由を記載して自己の職名名義で行う。立会 い及び署名押印の理由は, 「土地所有者の氏名及び住所不明」 , 「土地所有者の住所不明」 , 「意思 能力を欠き,後見人不在」 , 「重症で代理人なし」などと記載する。 なお,この立会人の署名押印は,調書の記載事項が真実であることを証するものではないの で,市町村長又は市町村の職員は署名押印に当たり,調書が測量,調査その他の資料等に基づ いて作成されたものであることを確認すれば足る。 起業者が市町村であり,当該市町村の長に対して立会及び署名押印の要請があったときには, 当該市町村の組織において重要な職務権限を有せず,かつ,当該事業の担当部局に属さない職 員が立会い及び署名押印をする(法第36条第6項) 。 県の職員の立会い及び署名押印(法第36条第5項及び第6項)の場合も同様である。 (記載例) 関係人(土地抵当権者) 株式会社青葉銀行が立ち会わず,署名押印をしなかったので, 土地収用法第36条第4項の規定により,署名押印する。 仙台市青葉区役所 課長 ○○ ○○ - 58 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ⑬ 実測平面図【様式 0-1-2 号】 1) 収用し,又は使用しようとする土地が一団の土地の一部であるときは,その一団の土地全部 についての実測平面図を添付する。 2) 実測平面図は,所轄の法務局における地積測量図の取扱いに準じて作成するものとし,現地 で復元できるものでなければならない。土地等の収用又は使用の手続にともなって,所轄の法 務局へ地積測量図を提出することが必要になる場合には,事前に所轄の法務局と協議し,所轄 の法務局へ提出する予定のものと同一の内容で実測平面図を作成する。裁決手続開始の登記及 びその前提となる分筆等の代位登記を円滑にするためにも,所轄の法務局とよく事前協議をし ておくことが必要である。 なお,法務局へ提出する地積測量図の取扱いは,次のとおりである。 a 土地の形状を図示するほか,地番区域の名称,方位,縮尺,地番及び隣接地の地番,地積 及び求積方法並びに筆界点間の距離を表示する(不動産登記規則第77条第1項第1号から 第6号まで) 。 b 土地の筆界に境界標(筆界点にある永続性のある石杭又は金属標その他これに類する標識)が あるときには境界標,境界標がないときには土地の筆界点と近傍の恒久的な地物との位置関 係を記載する(不動産登記規則第77条第1項第7号,第9号及び同条第2項) 。 3) 添付すべき実測平面図は,縮尺 1/100から1/1000程度までのものとし,収用部分 は赤色で,使用部分は緑色で着色する。 (規則では収用又は使用予定地は薄い赤色で着色す ることと規定している) (土地収用法施行規則第14条様式第8備考) 。 4) 座標求積により作成し,収用又は使用する土地等の境界を画する基準とする点には,記号 を付すこと。 5) 一筆の土地に異なる現況地目があるときは,実測平面図に,収用地,使用地,残地の各部 分ごとに各現況地目の地積を明らかにする 。 6) 一筆の土地の一部に地上権,賃借権,地役権等が設定されているときは,実測平面図に収 用地,使用地,残地等の各部分ごとにその設定面積を明らかにする。 7) 収用地,使用地,残地等ごとに前記 5)及び 6)の各部分について求積表を作成する。 8) 空間使用や地下使用の場合は,実測平面図に併せて参考資料として使用の範囲を明らかに する立体図等を添付するのが望ましい。 - 59 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ⑭ その他 1) 数葉に及ぶ土地調書及び実測平面図の間には,土地調書に署名押印を行う者の全員が割印を する(袋とじをして割印をする箇所を表紙と裏表紙2箇所にすることもできる。 ) 。 2) 署名部分の押印と割印は,同じものでなければならない。 3) 収用対象土地及び土地所有者等に係る記載事項については,登記簿,戸籍,住民基本台帳(外 国人登録簿) ,法人登記簿等と照合して誤りのないようにし ,収用委員会に対して,照合した 土地の登記簿等を参考資料として,裁決申請時に提出する。 4) 土地調書の記載事項は軽々しく訂正してはならない。起業者側に訂正の必要が生じた場合に は,正しい記載をした裁決申請書又は意見書を収用委員会に提出するとともに,訂正した内容 を審理で説明することによって対応し,土地所有者等からの訂正の要求には,土地調書に異議 を付記してもらうことによって対応するのが相当である。 土地調書の記載事項を訂正するのであれば,署名押印を行う者の全員の訂正印が必要である。 5) 土地調書は,その記載事項に真実であることの推定力を生じさせ,収用委員会の審理を円滑 かつ迅速に進行するために作成するものであるので,その作成に当たっては十分調査し,土地 所有者及び関係人に署名押印を求める前にその原案の内容について,収用委員会事務局の職員 の最終確認を受けるなどして,特に,慎重を期する必要がある。 (12) 物件調書の作成 物件調書の様式(法第37条第2項から第4項まで,規則第15条及び様式第9) ・・・・・・・・A4判を使用する 【様式 0-2 号】 ○物件調書の記載要領 ①~⑥ 土地調書と同様の取扱いである。 ⑦ 関係人の氏名及び住所 1) 物件に関する関係人を記載する。 2)土地に関する関係人は法上では記載する必要はないが,署名押印を求める便宜上, (参考) と冠記して記載する。 3) 土地調書の記載要領の「⑥土地所有者の氏名及び住所」の取扱いを参考とする。 ⑧ 物件がある土地の所在 土地調書の記載要領の「⑧土地の所在」と同様の取扱いであり,物件がなくても記載する。 ⑨ 物件調書の表部分 1) 物件調書には,補償に関するすべての物件を記載する。 - 60 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 なお,物件が所有者を異にする2筆以上の土地にまたがって存するときには,物件調書を 土地所有者ごとに,当該物件の全体について 作成しなければならない。 2) 「地番」欄には,物件の所在する物件調書作成時の地番を記載する。 3) 「物件の番号」欄は,物件配置図に付した番号を記載する。 4) 「物件の種類」欄には, 「数量」欄に記載する事項を除き,大きさ等,補償額の積算に必要 となる事項を記載する。 残地上の物件についても記載する。ただし,明らかに移転を要しないと認められるものは, 作成不要である。 物件が建物であるときは,建物の種類,構造,床面積(建築基準法施行令第2条第1項第 3号)等を次のとおり表示する(法第37条第3項) 。 「種類」は,建物の主たる用途により居宅,店舗,寄宿舎,共同住宅,事務所,旅館等の ように記載する。 「構造」については,建物の主たる部分の構成材料,屋根の種類及び階数により,次のよ うに区分して記載する。 a 構成材料による区分 木造,土蔵造,石造,レンガ造,コンクリートブロック造,鉄骨造,鉄筋コンクリート造, 鉄骨鉄筋コンクリート造等 b 屋根の種類による区分 かわらぶき,スレートぶき,亜鉛メッキ鋼板ぶき,草ぶき,陸屋根等 c 階数による区分 平家建,2 階建等 「床面積」については,各階ごとに壁その他の中心線で囲まれた部分の水平投影面積によ り,平方メートルを単位として定め,1 ㎡の1/100未満の端数は切り捨てる。 5) 「数量」欄には,補償額の積算の基礎となる数量を記載し,物件が分割されることになる 場合においては,その全部の数量を記載する。 6) 「物件の所有者の氏名」欄には, 「物件の種類」欄に記載した物件に対応する所有者の氏名 を記載し,所有者が法人の場合には,その名称を記載する。 7) 「所有権以外の権利の種類及び内容」欄には, 「建物賃借権」 , 「抵当権」 , 「○○○持分抵当 権」などと記載して物件についての所有権以外の権利の表示をし,権利の種類が不明の場合 - 61 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 は,権利の目的,権利の存続期間,賃料等を具体的に記載し,その内容を明らかにする。 所有権以外の権利がない場合には, 「所有権以外の権利の種類及び内容」欄に「なし」と 記載し, 「所有権以外の権利者の氏名」欄に「――――」の表示をする。 8) 「所有者以外の権利者の氏名」欄には,「所有権以外の権利の種類及び内容」欄 に記載した物件についての所有権以外の権利に対応する権利者の氏名を記載し,権利者が 法人の場合には,その名称を記載する。 9) 「実地の状況」欄には,物件の利用の現況を記載するとともに,損失補償に当たり,参考 となる事項を記載する。 例えば,権利をめぐる争いの状況,収用し,又は使用される土地 以外の土地にまたがって物件が存在する場合(起業地内に留まるものか否か) ,他の所有者 の土地にまたがって物件が存在する場合にはその旨及びそれらの土地の地番,当該物件の 利用状況を記載する。 10) 物件が存しないときにも表部分を作成する。物件が全く存しないとき及び特定の地番の 土地に物件が存しないときには,該当欄に地番を記載したうえで, 「物件の種類」欄に「な し」と記入し, 「数量」から「所有権以外の権利者の氏名」までの各欄に「―――」表示を し, 「実地の状況」欄には地目を記載する。 ⑩ 物件調書作成の根拠規定 土地調書の記載要領の「⑩ 土地調書作成の根拠規定」と同様の取扱いである。 ⑪ 調書を作成した年月日 土地調書の記載要領の「⑪ 調書を作成した年月日」と同様の取扱いである。 ⑫ 署名押印 1) 物件に関して権利を有する関係人のほか,土地のみに関して権利を有する関係人について も原則として署名押印が必要であり,起業者,土地所有者,関係人の全員について署名押 印が必要である(法第36条第2項) 。法人については,記名押印でもよい。 物件が存しない場合の物件調書に署名押印をするのは,起業者,土地所有者及び土地に関 して権利を有する関係人となる。 2) 残地又は残地に存する物件についてのみ権利を有する者にも,関係人に準じて,立会い及 び署名押印を求めるべきである。 3) 立会人の身分については, 「土地所有者」 , 「物件所有者」 , 「建物賃借権者」 , 「建物抵当権 者」 , 「○○○市職名・氏名」などと記載する。 なお,2つ以上の身分を有する者が署名押印する場合には,全ての身分を明示する。 例えば,土地所有者,借地権者等が,収用し,又は使用しようとする土地上に物件を所有し - 62 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ている場合には, 「土地所有者兼物件所有者」 「借地権者兼物件所有者」などと記載する。 4) 土地調書の記載要領の「⑫署名押印」の 4)から 10)までの取扱いは,物件調書においても 同様である。 ⑬ 物件配置図 1) 物件配置図は,縮尺 1/50から 1/500程度とする。 2) 物件調書の「物件の番号」欄の番号を物件配置図の物件に付する。 3) 収用及び使用の範囲を明示する。 ⑭ 建物実測平面図 1) 物件が建物であるときは,建物実測平面図を添付する(法第37条第3項) 。 2) 建物実測平面図は,1棟ごとに作成する。 3) 建物実測平面図は,縮尺1/50から1/500程度までのものとし,建物の種類,構造, 床面積,耐用年数,利用の現況等を併せて記載する。 ⑮ その他 1) 収用し,又は使用しようとする土地上に物件が存しない場合にも,物件調書を作成する。 2) 土地調書の記載要領の「⑭その他」の取扱いは,物件調書においても同様である。 2 裁決申請書(土地収用法施行規則様式第9の2) 【様式1号】 (1) 裁決申請の単位 ① 同一土地所有者に属する数団の土地を一括して同時申請することも,分割して申請すること も可能である。 ② 複数の土地所有者に属する数筆の土地を一つの申請書により申請することも可能である。 ③ 同一の起業者が行う同一の事業に関して,法第2条又は法第5条から第7条までの規定のう ちのいずれか2以上の規定による収用又は使用のために,収用又は使用の裁決の申請をする場 合は,一つの申請書によってすることができる(規則第25条) 。 (2) 作成書類 裁決申請書に,次に掲げる書類を添付して,収用委員会に提出すること(法第40条第1項) 。 申請予定の1ヶ月以上前には,裁決申請書案,添付書類等及び参考資料(各1部)を事務局 に提出して,書類の不備等がないかを確認してもらうように努めること。 - 63 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ●添付書類等 ① 事業計画書(第1号) 【様式54号】及び起業地及び事業計画を表示する図面(第1号) ② 市町村別に次に掲げる事項を記載した書類(第2号) 【様式1号】 1) 収用し,又は使用しようとする土地の所在,地番及び地目(第2号イ)並びに土地の面積 (第2号ロ) なお,土地を使用しようとする場合においては,その方法及び期間(第2号ハ) 2) 土地所有者及び土地に関して権利を有する関係人の氏名及び住所(第2号ニ) 3) 土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失補償の見積及びその内訳(第2号ホ) 4) 権利を取得し,又は消滅させる時期(第2号ヘ) ③ 法第36条第1項の規定による土地調書又はその写し(第3号) 【様式 0-1-1 号】 【様式 0-1-2 号】 ④ 代理権限を証する書面の写し(法第136条) 【様式55号】 ⑤ 土地収用法施行規則第17条第2号イの規定による証明書【様式56号】 ⑥ 土地収用法施行規則第17条第3号の規定による積算の基礎を明らかにする書類 【様式57号】 上記①~③及び⑥は常に提出が必要であり,④⑤は場合により提出する。 ●裁決申請の際に必要な参考資料 ① 事業認定(認可・承認)の告示の写し(手続保留した場合には,手続開始の告示の写しもあわ せて提出すること)又は都市計画事業の場合は,事業認定があったと見なされる日が確認でき る書類 ② 土地・建物の登記簿謄本(登記事項証明書(全部事項証明書) ) ,公図の写し ③ 土地所有者及び関係人の住民票(外国人登録証明書を含む。 )抄本又は法人登記簿謄本(会社・ 法人の登記事項証明書(全部事項証明書) ) (申請前おおむね6ヶ月以内に取得したもの) ④ 未成年者が存する又は相続が発生している場合は,戸籍謄本(戸籍全部事項証明書) ,相続関 係説明図(各人の法定相続分を記載する) ,遺産分割協議書の写し,特別受益証明書の写し,委 任状(相続人のとりまとめとなる代理人がいる場合)等(申請前おおむね6ヶ月以内に取得し たもの) ⑤ 申請に至った理由・交渉の経過が分かる資料(土地所有者・関係人との交渉の経過及びその主 張を時系列的に整理して作成し,任意交渉が成立しなかった事実を明らかにする。事業認定, 都市計画等先行処分が争点の場合は当該先行処分についての経緯も含む。 ) ⑥ 損失補償見積額の積算資料(補償金算定調書・土地鑑定評価書等) (土地評価及び算定額総括表【様式58号】の様式を参考とした総括表を添付すること) ⑦ 土地境界確定図(全員の署名押印がなくともよい。 ) ⑧ 現地写真 ⑨ 周辺地図 現地調査用の地図を提出すること。 - 64 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ⑩ 審理における起業者説明資料【様式40号】 説明資料については,審理前に土地所有者等に送付する。 ⑪ その他,収用委員会が指示する資料 ※ 土地所有者等から裁決の申請の請求及び補償金の支払の請求がある場合は,それに関する資 料を提出すること (3) 申請の時期 起業者は,事業認定の告示(手続保留されている場合は,手続開始の告示)があった日から 1年以内に限り,収用委員会に収用又は使用の裁決を申請することができる(法第39条第1 項,法第34条の5本文) 。 ただし,都市計画事業にあっては事業施行期間中に申請すればよい(都市計画法第71条第 1項) 。 (4) 提出部数 裁決申請書及び添付書類は,正本1部,副本14部(事前に要相談)に起業地の存する市町 村の数(市町村における縦覧用)を加えた部数を提出すること。別途,申請に係る電子データ についても提出すること。土地収用法上,起業地が「指定都市」の場合は,その区を市町村と して取り扱う(法第140条第1項) 。 参考資料 戸籍謄本 明渡裁決申立書 申 請 書 裁決申請書 住 民 票 等 住民票 住民票,戸籍謄本は原本と副本1部での提出で良い。原本還付も可能ですので事務局に確認願います。 ただし,相続関係図は14部添付が必要。 住民票,戸籍謄本(家系図を上からたどる順(古→新)の順に)は混在せず別々に綴る。 (5) 手数料 国及び県以外の起業者は,裁決申請の際に,県に対して損失補償の見積額(裁決申請に係る 損失の補償の見積額と明渡裁決の申立てに係る損失の補償の見積額を合算する。 )に応じ,手数 料を納める(法第125条第1項及び第2項第3号,令第2条第2項の表4の項,手数料条例 (平成12年宮城県条例第19号) ) 。 手数料は,宮城県証紙により納める。裁決申請と明渡裁決の申立てを同時にしないときは, 権利取得裁決に係る損失の補償額を基準として,手数料を納付することとし,後に移転料等を - 65 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 含めた全体の損失補償額を算定して,手数料に不足があれば,その不足分を追加納付する。 なお, 法第44条第1項の特例により損失の補償額の見積りを省略した裁決申請については, 手数料の額が申請時に確定できないので,申請時には手数料の最低額を納付し,同条第2項に よる添付書類の補充時に残額を納付する。 同一の起業者が行う同一の事業に関して,法第2条又は法第5条から第7条までの規定のう ち,いずれか2以上の規定による収用又は使用のために,収用又は使用の裁決の申請を1つの 申請書によってする場合は,1件の申請とみなされる(令第2条第3項) 。 (6) 裁決申請書の作成要領 ① 申請者 1) 起業者が申請する(法第39条第1項)が,代理人によって申請することもできる(法第 136条第1項) 。 2) 代理人の権限は,書面(委任状又は委任関係を示す法令等の写し)をもって証明しなけれ ばならない(法第136条第2項) 。 3) 起業者又はその代表者が署名押印する。法人については,記名押印でもよい。 (記載例) 起業者 宮城県仙台市青葉区本町3丁目8番 1 号 宮 城 県 代表者 宮城県知事 ○○ ○○ 4) 法人にあっては,法人登記簿謄本を提出して名称,住所及び代表者を明らかにする。 ② 申請の趣旨 1) 都市計画事業の場合でも「事業の認可(承認)の告示」ではなく「事業の認定の告示」と 記載する(都市計画法第70条第1項) 。当初の認可の告示から1年以上経過した後に申請す る場合には,申請前直近に到来したみなし告示日を記載する(都市計画法第71条第1項) 。 (記載例) ○年○月○日事業の認定の告示があった○○都市計画道路事業3・5・5号△△線 について,土地収用法第39条第1項の規定より,裁決を申請します。 2) 土地所有者又は関係人から裁決申請の請求があり,添付書類の一部を省略して申請するとき (法第44条第1項)は,そのことを明らかにする。 (記載例) ○年○月○日事業の認定の告示があった一般県道○○線改築工事について,土地収用法第 39条第2項の規定により裁決申請請求があったので,同条第1項及び第44条第1項の規 - 66 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 定により,添付書類の一部を省略して裁決を申請します。 3) 土地調書の作成前に,土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人(先取特権を有する 者,質権者,抵当権者,差押債権者又は仮差押債権者である関係人を除く。 )は,法第39条 第2項の規定に基づき,自己の権利に係る土地について,起業者に対し,収用又は使用の申請 をすべきことを請求することができる。起業者が,法第39条第2項の規定による請求添付書 類の一部を省略して申請したときは,土地調書作成後,速やかに,補充しなければならない(法 第44条第2項) 。この補充は,省略された添付書類全部を提出することによって行う(規則 第17条の2第1項) 。 4) 一部省略した添付書類を補充しようとするときは,収用委員会に対し,そのことを書面によ り通知しなければならない(規則第17条の2第2項) 。 (7) 裁決申請書の添付書類の作成 ① 事業計画書並びに起業地及び事業計画を表示する図面 (法第40条第1項第1号,規則第17条第1号,規則第3条第1号から第3号まで) これらの書類は,裁決申請時の状況で作成する。事業計画の変更がなければ,事業認定申請 書に添付したものと同じものを提出する。 都市計画事業の場合は,下記 d,e,f についてその認可又は承認の申請書に添付していないた め,新たに作成する必要がある【様式54号】 。 1) 事業計画書 次の事項を記載し,その内容を説明する参考書類があるときは,あわせて添付する。 a 事業計画の概要 b 事業の開始及び完成の時期 c 事業に要する経費及びその財源 d 事業の施行を必要とする公益上の理由 e 収用又は使用の別を明らかにした事業に必要な土地等の面積,数量等の概数並びにこれら を必要とする理由 f 起業地等を当該事業に用いることが相当であり,又は土地等の適正かつ合理的な利用に寄 与することになる理由 2) 起業地を表示する図面 土地収用法施行規則第3条第1項第2号の規定に基づき,添付書類を作成すること。 a 起業地の位置を表示する図面 - 67 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 起業地全体の位置を縮尺1/25000(1/25000がない場合は1/50000)の図面に よって表示する。 b 起業地を表示する図面 起業地の全体を縮尺1/100から1/3000程度までの間で,適宜の縮尺の地形図 によって表示する。 起業地を収用の部分は薄い黄色で,使用の部分は薄い緑色で着色し,起業地内に物件が あるときは,その主要なものを図示する。 収用し,若しくは使用しようとする物件又は収用し,若しくは使用しようとする権利の 目的である物件があるときは,これらの物件が存する土地の部分を薄い赤色で着色する。 収用し,又は使用しようとする土地の残地を含む全筆を太線等で囲み,分かるようにす る。 3) 事業計画を表示する図面 a 事業計画表示図 縮尺1/100から1/3000程度までのもので,施設の位置を明らかに図示するもの とし,施設の内容を明らかにするに足りる平面図を添付する。 b 横断図(縦断図) 事業の種類により,横断図に代えて,縦断図等事業の内容を明らかにするのに適した図面 を添付する。 空中使用や地下使用の場合には立体図等により使用の範囲を明示する。 (土地調書の添付 書類で使用の範囲が明らかである場合は不要である。 ) ② 市町村別に次に掲げる事項を記載した書類(法第40条第1項第2号) 1) 収用し,又は使用しようとする土地の所在,地番・地目(第2号イ)及び面積(第2号ロ) a 土地調書に記載された内容を転記する。 土地調書作成後,市町村の区域内に町又は字の区域若しくは名称の変更(地方自治法第2 60条)や土地の表示の変更登記があった場合には,申請時の状況で記載する。 この場合,土地調書の再作成は要せず,別途その変更の事項を証明すれば足りる(法第3 8条ただし書) 。 事業認定のあった土地の区域と裁決申請書に記載する土地の区域とは,相違点がないかを 確認する。 b 収用だけをしようとするときは, 「収用しようとする土地の所在,地番及び地目」及び「収 用しようとする土地の面積」と表記し,使用だけをしようとするときは, 「使用しようとす る土地の所在,地番及び地目」及び「使用しようとする土地の面積」と表記する。 - 68 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 c 地番は,分筆する必要があるときであっても現地番で申請し,収用委員会が裁決手続開 始の決定をした後に,起業者が分筆の代位登記をする。これに応じて,起業者の審理の説 明資料を修正して,提出すること。 d ②1)及び 2)の事項については「不明」とすることができるが,裁決申請の対象土地の区 域は,現地で復元できる実測平面図で特定する必要があるので,収用し, 又は使用しよう とする土地の面積を確定せずに裁決申請をすることはできない。 ただし,土地調書作成の特例(法第37条の2)に該当し,正確な実測面積を確定できな いときは,そのことを付記する必要がある。 e 土地調書の作成前に,土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人から,裁決申請の 請求があり「収用し,又は使用しようとする土地の面積」の記載を省略する場合(法第4 4条第1項参照)には,裁決申請書も「収用しようとする土地の面積」欄及び「使用しよ うとする土地の面積」欄に「省略」と記載する。 f 使用の方法及び期間(第2号ハ) ア 土地を使用しようとするときは,事業計画から判断して客観的に妥当とみられる「使用 の方法及び期間」を記載する。 イ 収用だけが対象となっているときは,記載することを要しない。 (記載例) 1 使用の方法 (1) 使用の目的 (2) 使用する地下の範囲 ○○○トンネル構築設置 東京湾平均海面の上 39.01mから 東京湾平均海面の上 23.26mまで (3) 荷重制限等 ○ ○ ○ トン ネ ル構築 物 を 保 全 する た め, 使 用す る 土地 に建物その他の工作物を設置する場合の荷重は東京湾平均海面の 上の 39.01mにおいて1㎡当り2t 以下とする。 2 使用期間 ○○○トンネル構築物存続期間中とする。 2) 土地所有者及び土地に関して権利を有する関係人の氏名及び住所(第2号ニ) a 土地調書に記載された事項を裁決申請書の添付書類に転記する。 土地調書作成後,裁決申請までの間に起業者,土地所有者又は関係人の変更があった場合 - 69 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 においては,従前の起業者,土地所有者又は関係人がした手続その他の行為は新たな当事者 に対して効力を有する(法第10条)ので,土地調書の再作成は要しないが,裁決申請書に おいては,新権利者を記載した上で,参考資料として, 「説明書」を添付し,権利承継(当 事者の変更)の事実を立証しなければならない。 (公印不要) b 土地調書の作成前に,土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人から,裁決申請の 請求があり,登記簿に現れた土地所有者及び関係人の氏名及び住所を記載するとき(法第 44条第1項)は,そのことを明らかにしなければならない(規則第17条第 1 項第2号 口) 。裁決申請書の添付書類(法第40条第1項第2号の書類)の同号イ,ロ及びハについ ては, 「土地の登記簿に現れた表示を記載」と付け加えることとする。 c 起業者が過失がなくて知ることができないものについては,記載しなくてよい (法第40条第2項) 。 「過失がなくて知ることができない」とは,登記簿の閲覧,登記名義人への照会,戸籍簿 の調査,住民基本台帳の調査,周辺住民への照会,占有関係等の現地調査により起業者が真 摯な努力をしたにもかかわらず,知ることができないことをいう。 この場合,過失がないことを証明しなければならない(規則第17条第 1 項第2号イ)の で,土地の登記簿,戸籍簿,住民票の写し等関連資料を添付し,特に不明の項目がある場合 は,調査の内容等を整理して記載した「説明書」を併せて裁決申請書に添付する。 d 登記がされている土地に関する権利については,その権利についての登記申請書 受付年月日及び受付番号を裁決申請書の添付書類(法第40条第1項第2号の書類)の 同号イ,ロ及びハについて記載している部分中, 「土地に関する関係人」の「権利の種類」 欄に記載する。 3) 土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失補償の見積及びその内訳 (第2号ホ) a 事業認定の告示の時点(価格固定の時点)における価格であることを明示した記載をす ること。 (土地等に対する損失補償金の見積額) 収用委員会により裁決される補償金の額は,法第71条の規定により「事業認定の告 示の時における相当な価格に,権利取得裁決までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて 得た額」とされている。そのため,裁決申請書の添付書類(法40条 1 項 2 号ホ)にお いては,事業認定の告示日を明記の上,当該時点において算定した見積額を記載する。 「土地単価 円/㎡は,事業認定の告示日( 年 月 日)現在の価格である。 ただし,当該金額に土地収用法第71条に規定される修正率を乗じた額を損失補償金額 として申し立てる。 」と裁決申請書に記載すること。 なお,収用又は使用の手続を保留した土地については,法第34条の5の規定により, 手続開始の告示があった時が,事業の認定の告示があった時とみなされるので,手続開 - 70 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 始の告示日の時点で算定した見積額を記載すること。 b 都市計画事業については,法第20条の規定による事業の認定は行なわず,都市計画法 第59条の規定による認可又は承認をもってこれに代えるものとし,同法第62条第1項 の規定による告示をもって土地収用法による事業の認定の告示とみなされる(都市計画法 第70条第1項) 。 事業認定の告示があったとみなされる日から1年以内に裁決申請がない場合は, 1年の期 間満了日の翌日が事業施行期間内であれば, 事業の認定の告示があったとみなされる日が期 間満了日の翌日に更新される(都市計画法第71条第1項) 。 以後,裁決申請がない場合は,都市計画事業の事業の認定の告示があったとみなされる 日は,1年ずつ更新されていく。 裁決申請がされると,対象土地については更新せず価格固定される。 1年の期間の計算方法は,初年度は初日(都市計画事業の認可又は承認の告示日)は算 入せず,その翌日から起算し,2年度以降は初日(更新された事業認定の告示があったと みなされる日)から起算する。そして1年の期間満了日は,翌年において起算日に応当す る日の前日となる。ただし,1年の期間満了日が民法第142条の規定による休日となる ときは,その翌日が期日満了日となる(昭和50年12月19日付け建設省計画局総務課 長及び建設省都市局都市計画課長回答参照) 。 なお,民法第142条の規定による休日と取り扱われる日は,日曜日,国民の祝日,1 月2日及び3日並び12月29日から31日までである。ただし土曜日については,昭和 64年1月1日からは毎月第二土曜日及び第四土曜日が,平成4年5月1日からはすべて の土曜日が休日とみなされている。 例えば, 平成21年2月10日(火)認可の告示日があった都市計画事業について,平 成28年5月11日(水)に裁決申請をした場合,みなし告示日は平成28年2月16日 (火)となる。考え方のプロセスは以下参照。 H22.2.11(水)~ H23.2.10(日) ,2.11(祝日) ,2.12(月) H23.2.13(火)~ H24.2.12(日) ,H24.2.13(月) H24.2.14(火)~ H25.2.13(水) H26.2.14(金)~ H27.2.13(金) H27.2.14(土)~ H28.2.13(土) ,2.14(日) ,2.15(月) H28.2.16(火)~ ※なお,H28.5.11 の申請により H28.2.16 で更新はストップする。 c 土地調書の作成前に,土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人から,裁決申請の 請求があり, 「土地又は土地に対する所有権以外の権利に対する損失補償の見積り及びその 内訳」の記載を省略する場合(法第44条第1項 )には,添付書類目録に,そのことを明 記するとともに,裁決申請書の添付書類の「(5)土地又は土地に関する所有権以外の権利 に対する損失補償の見積り及びその内訳」の表中,該当部分に「土地収用法第44条第1 項の規定により記載を省略」と記載する。 d 見積りは,各権利者の見積りの総額を記載する。 内訳は各権利者の補償項目(土地に対する補償,借地権に対する補償,残地補償等)ご とに見積りを記載し,積算の基礎を明らかにする。 - 71 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 e 損失の補償は,土地所有者及び関係人各人別にしなければならない。各人別に見積もる ことが困難であるときは,この限りでない(法第69条) 。 各人別に見積もることが困難であるときは,次のような場合が考えられる。 ア 裁決手続の開始の登記の前に, 仮登記又は買戻特約の登記がされた権利に係る補償の場 合(法第95条第4項後段) ただし,次の場合のように,仮登記権者又は買戻権者の損失額が明らかなときは個別に 見積もることができる。 ① 当事者が,仮登記権者又は買戻権者の損失額につき合意している場合 ② 買戻特約の当時に比して地価が下落し買戻権行使による経済的利益がない場合 ③ 担保目的の仮登記について債務が弁済済みである場合 ④ 担保目的の仮登記につき弁済期にある被担保債権の債権額が担保物の価格を明らか に上回っており,かつ,債務者が他に財産を持っていない場合 イ 裁決手続開始の登記前に差押え又は仮差押えの執行がされた権利に係る補償の場合 (法 第96条第4項後段) エ 先取特権,質権又は抵当権の担保物件が設定されている権利に係る補償の場合 (法第104条) 他に一般財産を全く持たないときにおいて,被担保債権が土地価格を超えるときは,担 保物権者に補償金の全額を払い渡しても他の債権者を害することがないと明らかに認め られるならば,個別見積りも可能である。 オ 共有持分について共有者間で争いがある場合 以上のような場合には,個別に見積もり難いので土地所有者等に対する損失補償に含め ることを記載するとともに内訳表の「単価」欄に「見積り困難」 , 「金額」欄に「○○○○ に対する上記補償金に含めた。 」と記載する。各人別に見積もることが困難であるときと は,例えば,共有持分について共有者間で争いがある場合である。補償額を個別に決定す るには,その前提として特定割合の確定を要するが,その確定は,収用委員会の権限では ないからである。 f 補償金の支払請求に関連して残地収用の請求(法第76条第1項)又は使用に代わる収 用の請求(法第81条第1項本文)があった場合で,起業者がこれらの請求を認めるとき は,その補償の積算の基礎も記載する。 裁決申請後に,替地による補償(法第82条) ,耕地の造成(第83条) ,宅地の造成(第 86条)について要求があった場合は,工事の内容,工事完了時期等の外,それらの補償 を金銭に換算した額を併せて添付書類に記載して(規則第17条第3号) ,収用委員会に 提出する。 g 補償金の額に1円未満の端数が生じたときは,四捨五入する(土地収用法第 88 条の2の 細目等を定める政令第26条)。この端数処理は,総合計の四捨五入ではなく,収用地の - 72 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 土地代金,残地補償,移転料等の補償項目ごとについて算定した額それぞれについての四 捨五入である。 4) 権利を取得し,又は消滅させる時期 事業計画,補償金の支払の準備に必要な期間等を考慮して,起業者の希望する時期を記載 する。法第79条の物件収用の請求を求めている場合には,条件付き権利取得の時期を記載 する。 ③ 土地収用法第36条第1項の規定による土地調書又はその写し 1) 土地調書及び添付図面の実測平面図(法第37条第1項)の原本又は写しを添付し,原本 は起業者も保管するのが望ましい。 2) 土地調書の作成前に,土地所有者又は土地に関して権利を有する関係人から,裁決申請の 請求があったときは,土地調書の写しの添付を省略できる(法第44条第1項) 。この場合に は,添付書類目録にそのことを明記する。 3) 必要に応じて,確認書【様式25号】及び相続関係説明図等を添付すること。 ④ 起業者代理人の代理権限を証する書面の写し 1) 代理人により申請する場合は,代理関係を証する書面(委任状,関係規定の写し等)を添 付する(法第136条第2項) 。 2) 起業者の行政機関が申請人となる場合で法令等により申請を行いうる権限が明白な場合は, 委任状を添付しなくても,当該法令等の写しを添付すれば足りる。 ⑤ 手数料 申請手数料の額を記載し,申請の手数料に相当する額の宮城県収入証紙をA4判の台紙に 貼付し,裁決申請書に添付して提出する。用紙に手数料を記載する。 3 明渡裁決申立書【様式2号】 (1) 作成書類 明渡裁決の申立てをしようとする者(起業者,土地所有者又は関係人)は,明渡裁決申立書 を提出しなければならない(法第47条の2第3項) 。 また,起業者は,明渡裁決の申立てをしようとするとき,又は土地所有者若しくは土地に関 して権利を有する関係人から明渡裁決の申立てがあったときは,次に掲げる書類(添付書類等) を収用委員会に提出しなければならない(法第47条の3第1項) 。 なお,明渡裁決の申立ては,物件が存しない場合も必要である。 申立て予定の1ヶ月以上前には,明渡裁決申立書案,添付書類等及び参考資料(各1部)を 事務局に提出して,書類の不備等がないかを確認してもらうように努めること。 - 73 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 ●添付書類等 ① 市町村別に次に掲げる事項を記載した書類【様式2号】 1) 土地の所在,地番及び地目 2) 土地にある物件の種類及び数量(物件が分割されることになる場合においては,その全部 の物件の数量を含む。 ) 3) 土地所有者及び関係人の氏名及び住所 4) 法第40条第1項第2号ホに掲げるものを除くその他の損失補償の見積り及びその内訳 5) 土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の期限 ② 法第36条第1項の規定による物件調書又はその写し【様式 0-2 号】 ③ 代理権限を証する書面の写し(法第136条) 【様式55号】 ④ 土地収用法施行規則第17条第の6第1項の規定による証明書【様式56号と同じ】 ⑤ 土地収用法施行規則第17条の6第2項の規定による積算の基礎を明らかにする書類 【様式57号を参照】 上記①,②は常に提出が必要であり,③~⑤は場合により提出する。 ● 明渡裁決の申立ての際に必要な参考資料 ① 建物の登記簿謄本(登記事項証明書(全部事項証明書) ) ② 物件に関する関係人の住民票(外国人登録簿)抄本又は法人登記簿謄本(会社・法人の登 記事項証明書(全部事項証明書) ) ③ 物件に関する損失補償見積額の積算基準 ④ 裁決申請後において,明渡裁決の申立てを行う場合は,2「●裁決申請の際に必要な参考 資料」のうち,裁決申請後,明渡裁決の申立てまでに内容の変更があったもの ⑤ その他,収用委員会が指示する書類 (2) 申立ての時期 起業者,土地所有者又は関係人は,裁決申請と同時又は裁決申請後(事業認定の告示があっ た日から4年以内)に,収用委員会に明渡裁決の申立てができる(法第29条第2項,法第4 7条の2第3項) 。ただし,都市計画事業にあっては,事業施行期間中に申し立てればよい(都 市計画法第71条第1項) 。また,特定公共事業にあっては,特定公共事業の認定の告示のあっ た日から1年6月以内に明渡裁決の申立てをしなければならない(公共用地の取得に関する特 別措置法第13条) 。 (3) 提出部数 明渡裁決申立書及び添付書類は,正本1部,副本13部(収用委員会用)に起業地の存する - 74 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 市町村の数(市町村における縦覧用)を加えた部数を提出すること。土地収用法上,起業地が 「指定都市」の場合は,その区を市町村として取り扱う(法第140条第1項) 。 なお, 「土地収用法第40条第1項第2号ホに掲げるものを除くその他の損失補償の見積り及 びその内訳」 (法47条の3第1項第1号ニ)については,excel で作成し,電子データも提出 すること。 (4) 手数料 裁決申請と明渡裁決の申立てを同時にしない場合で,裁決申請の際に納付した額に不足があ るときには,その不足分を納付する。 (5) 明渡裁決申立書の作成要領 ① 申立人 1) 起業者のみならず,土地所有者又は関係人も明渡裁決の申立てをすることができる(法第 47条の2第3項,法第47条の3第1項) 。また,申立人の代理人によって申請すること もできる(法第136条第1項) 。 2) 代理人の権限は,書面(委任状又は委任関係を示す法令等の写し)をもって証明しなけれ ばならない(法第136条第2項) 。 3) 申立人又はその代表者が署名押印する。法人については,記名押印でもよい。 4) 起業者以外の者が明渡裁決の申立てをするときは,明渡裁決に係る土地等について,自己 が土地所有者又は関係人であることを証する書面(土地の登記簿謄本(登記事項証明書(全 部事項証明書) ) ,契約書の写し,土地所有者の証明書等)を添付しなければならない(規 則第17条の7第2項) 。 5) 土地所有者又は関係人から明渡裁決の申立てがあったときには,起業者は,収用委員会に 明渡裁決の申立てに伴う書類を提出する(法47条の3第1項) 。 ② 事業の種類(事業の種類及び名称) 土地調書の記載要領と同様の扱いである。 ③ 土地の所在,地番及び地目等 物件がある土地の所在,地番及び地目とともに,地積及び収用し,又は使用しようとする 土地の面積を記載する。 ④ 権利取得裁決の有無及び年月日 1) 「権利取得裁決の有無」と表示する。 - 75 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 2) 権利取得裁決が既にされているときは,その年月日も併せて記載する。 (記載例) 権利取得裁決の有無 有(平成○年○月○日裁決) 3) 権利取得裁決がまだされていないときは,裁決申請書年月日を記載する。 (記載例) 権利取得裁決の有無 無(平成○年○月○日裁決申請) (6) 明渡裁決の申立てに伴う書類の作成要領 ① 市町村別に次に掲げる事項を記載した書類 1) 土地の所在,地番及び地目(法第47条の3第1項第1号イ) a 土地の所在,地番及び地目は,裁決申請書の添付書類(法第40条第1項第2号)と整 合をとって記載する。 b 記載例の「面積」欄には,土地全体の面積及び収用又は使用に係る土地の面積を記載す る。 2) 土地にある物件の種類及び数量(法第47条の3第1項第1号ロ) a 土地にある物件の種類及び数量については,物件調書に記載された事項を転記する。土 地にある物件の主な現況のみを記載すれば足り,物件の附帯施設(電気設備等)及び建物 登記上の表示は記載することを要しない。 b 物件調書作成の特例(法第37条の2)に該当するときは,そのことを付記する(法第 47条の3第3項) 。 c 物件が分割されることになる場合においては,その全部の物件の数量も記載する。 「分割」 には有形的・物理的分割のみならず,用途上・機能上の分割も含まれ,残地にのみ存する 物件であっても,収用地又は使用地にある物件と一体の目的に供されている物件について は記載する必要がある。 3) 土地所有者及び関係人の氏名及び住所(法第47条の3第1項第1号ハ) a 関係人は,法第8条第3項又は第4項の規定により関係人に該当する者を物件調書と整 合を図って記載する。 b 裁決申請後に明渡裁決の申立てを行うときにおいて,裁決手続開始の登記が行われてい る権利については,当該登記時の権利者を記載する(法第45条の3第1項本文) 。 ただし,相続人その他の一般承継人及び当該裁決手続開始の登記前に登記された買戻権 の行使又は当該裁決手続開始の登記前にされた差押え若しくは仮差押えの執行に係る国税 徴収法による滞納処分(国税徴収法の例による滞納処分を含む。 ) ,強制執行若しくは担保 - 76 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 権の実行として競売(国税徴収法の例による競売を含む。 )により権利を取得した者がいる ときは,当該権利者を記載する(法第45条の3第1項ただし書) 。 裁決手続開始の登記が行われていない権利(土地に関する権利で裁決手続開始の登記を することができない権利及び物件に関する権利)については,権利者の固定が行われるこ とはないので,当該書類提出時の権利者を記載する。 c 物件調書作成後,権利の承継(裁決手続開始の登記がされた権利については,法第45条 の3第1項ただし書で認められる相続等の承継)がなければ,物件調書の記載事項を転記 すれば足りるのであるが,物件調書作成後,権利の承継によって物件調書記載の土地所有 者及び関係人の氏名及び住所と明渡裁決申立ての時のそれとが異なるときには新権利者を 記載し,別途,権利承継の事実を立証する。 d 起業者が過失がなくて知ることができないものについては記載しなくてもよい(法第47 条の3第2項において準用する法第40条第2項)が,過失がないことを証明するため, 登記簿,戸籍簿,住民票の写し等,関連資料を添付し,特に不明の項目がある場合には, 調査の内容等を整理して記載した「意見書」を併せて提出する(規則第17条の6第1号 本文,規則第17条第2号イ) 。 e 起業者が過失がなくて知ることができないときの過失がないことの証明並びに氏名及び 住所の記載の取扱いは,第 1 章第6節2(7)②の 「4)土地所有者及び土地に関して権利 を有する関係人の氏名及び住所」のc及びdの取扱いに準じる。 f 関係人の欄には,権利等の種類及びその設定年月日を記載する。 g 裁決申請書の添付書類に記載したものと異なるものがあるときは,明渡裁決の申立てに伴 う添付書類(法第47条の3第1項第1号の表)の同号イ及びハについて記載している部 分に備考欄を設けて,そのことを記載し,その理由を記した書面を添付する(規則第17 条の6第 1 項第1号) 。 4) 法第40条第1項第2号ホに掲げるものを除くその他の損失補償の見積り及びその内訳 (法第47条の3第1項第1号ニ) a 明渡裁決の申立て時の補償金を見積もる(物件等に対する損失補償金の見積額) 。 収用委員会により裁決される補償金の額は,法73条の規定により「明渡裁決の時の価 格」とされている。そのため,明渡裁決が見込まれる時までに,損失補償単価等の更新が 行われることが予想される場合は,明渡裁決申立書の添付書類(法47条の3第1項1号 ニ)においては,明渡裁決申立時点における見積額を記載し,事後的に法63条2項の規 定される意見書で損失補償見積額の変更(時点修正)を申立てる意向がある旨を付記する - 77 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 か,明渡裁決時を予定した見積額を記載すること。 (いずれの場合も価格時点の年月日を 明記。 ) b 補償項目(工事費用の補償,移転料の補償,その他通常生じる損失の補償)は, 「公共用 地の取得に伴う損失補償基準要綱」 (昭和37年6月29日閣議決定)の各条に掲げる区分 で記載する。 c 積算の基礎については,明渡裁決の申立てに伴う添付書類(法第47条の3第1項第1号 の表)の同号ニについて記載している部分において,補償の対象,単価,数量,積算の方 法等を明らかにする(規則第17条の6第2号) 。 d 工事の費用の補償(法第75条)については,適宜,別表を作成して,必要とされる工事 の種類,工事の内容を明らかにした上で,資材の単価等により積算し,金銭に換算した費 用を明らかにする。 e 移転料の補償(法第77条)については,移転工法を明らかにしたうえで,移転の数量, 面積,単価等により積算する。 物件全部の移転料の補償(法第77条後段)については,要件を満たすことが明らかであ るときは,物件所有者の請求を待たずに,当初から物件全部の移転料を見積もってもよい。 f その他通常受ける損失の補償(法第88条)については,営業補償,動産移転料,借家人 補償等の項目別に積算する。 g 明渡裁決の申立後に,工事の代行による補償(法第84条) ,移転の代行よる補償(法第 85条) ,宅地の造成(法第86条)について要求があった場合は,工事の内容,工事の完 了時期等のほか,それらの補償を金銭に換算した額をあわせて添付書類に記載し(規則第 17条の6第2号) ,収用委員会に提出する。 5) 土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の期限 工事工程,補償金の支払準備体制,物件所有者の物件移転に要する期間等を考慮して起業 者の希望する期限を記載する。物件所有者が移転先を選定し,当該物件を移転するに要する 期間を十分に確保する必要がある。 ② 物件調書 1) 物件調書又は写し並びに添付図面の物件配置図及び建物実測平面図(法第37条第3項)を - 78 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 添付し,原本は起業者が保管するのが望ましい。 2) 既に作成した物件調書の内容が現況と著しく異なると認められるときは,新たに物件調書を 作成し,従前の物件調書に添付して提出する(法第47条の3第4項) 。 著しく異なると認められるときとは,建物が朽廃,火災等により消滅した場合や増改築が 行われた場合等が典型例であり,単なる権利者の変更の場合は再作成の必要はない。 3) 必要に応じて,確認書【様式25号】を添付すること。 ③ 起業者の代理人の代理権限を証する書面の写し 裁決申請と明渡裁決の申立てを同時にし,裁決申請書に起業者の代理人の代理権限を証する 書面の写しを添付したときは,添付を要しない。 ④ 手数料 1) 裁決申請と明渡裁決の申立てを同時にするときは,裁決申請書に宮城県証紙を貼付した台 紙を添付すれば足りる。 2) 裁決申請と明渡裁決の申立てを同時にしない場合で,裁決申請の際に納付した額に不足が あるときには,その不足額に相当する額の宮城県証紙をA4判の台紙に貼付し,明渡裁決申 立書に添付して提出する。 - 79 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 第4節 裁 決 の 効 果 1 収用又は使用の裁決の効果 権利取得裁決又は明渡裁決により,収用し,又は使用しようとする土地の範囲,使用の方法・ 期間,損失の補償,権利取得の時期,明渡しの期限等が具体的に特定されることになる。 法は,収用又は使用の裁決の効果として,第一に,起業者に対して補償金の払渡し・供託等補 償の実行に関する義務を課し(法第95条~第99条),第二に,補償の実行と引換えに,起業 者に土地所有権又は土地使用権を取得させるとともに,関係する権利は消滅し,又は制限を受け ること,被収用者に対しては,土地・物件の引渡し・移転義務を課することを定め(法第101 条,102条),第三に,起業者が補償義務を履行しないときには,裁決を失効せしめる(法第 100条,100条の2)こととするとともに,被収用者が引渡し・移転の義務を履行しないと きには,行政強制を行い得ることを定めている(法第102条の2)。 2 権利取得裁決に係る補償の払渡し又は供託等 (1) 権利取得裁決に係る補償の払渡し 起業者は,権利取得裁決において定められた権利取得の時期までに,権利取得裁決に係る補 償金,加算金及び過怠金の払渡,替地の譲渡及び引渡又は法第86条第2項の規定に基づく宅 地の造成をしなければならない(法第95条第1項)。 法第69条(個別払いの原則)では,「損失の補償は,土地所有者及び関係人に,各人別に しなければならない。但し,各人別に見積もることが困難であるときは,この限りでない。」 と規定されており,例えば,「抵当権の設定された土地の一部を収用する場合,補償金は土地 所有者に一括して支払ってよい。」(昭和39年1月19日付け建設省計画局総務課長回答) とされている。補償金の配分は,土地所有者と関係人の内部関係の問題に過ぎない。 なお,裁決手続開始の登記前にされた差押えに係る権利(先取特権,質権,抵当権その他当 該差押えによる換価手続において消滅すべき権利を含む。)について,権利取得裁決又は明渡 裁決があったときは,下記の(4)の取扱いとなり,配当手続実施機関に払い渡さなければな らない(法第96条第1項)。 また,残地に係る補償金については,裁決手続開始の登記がないため,裁決手続開始の登記 前の差押えと同様の取扱いとなり,配当手続実施機関に払い渡さなければならない。裁決手続 開始の登記前の差押えの有無により,補償金の支払方法が異なることから,差押えの事実の有 無の確認を行うことが必要である。 - 80 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (2) 権利取得裁決に係る補償の供託 起業者は,次の場合に権利取得の時期までに補償金等を供託することができる(法第95条 第2項)。この供託をすることにより,支払い義務の履行とみなされる。 ① 補償金等を受けるべき者がその受領を拒んだとき,又は補償金等を受領することができな いとき(第1号)。 ② 起業者が,過失なく補償金等を受けるべき者を確知することができないとき(第2号)。 ③ 起業者が,収用委員会の裁決した補償金等の額に対して不服があるとき(第3号)。 ④ 起業者が,差押又は仮差押により補償金等の払渡を禁じられたとき(第4号)。 法第104条により補償金の支払請求権を差し押さえられたときも,起業者は補償金を 供託する必要がある。 (3) 現物補償の実行 権利取得裁決で裁決される現物補償としては,替地による補償(法第82条),耕地の造成 による補償(法第83条),宅地の造成による補償(法第86条)の3種類がある。 (4) 裁決手続開始の登記前にされた差押え又は仮差押えがある場合の措置 (配当手続実施機関への払渡し) 裁決手続開始の登記前にされた差押えに係る権利(先取特権,質権,抵当権その他当該差押 えによる換価手続において消滅すべき権利を含む。)について,権利取得裁決又は明渡裁決が あったときは,起業者は,権利取得の時期又は明渡しの期限までに,当該差押えに係る権利に 対する補償金等を当該差押えによる配当手続実施機関に払い渡さなければならない(法第96 条第1項)。差押えは,権利取得裁決の効果として,権利取得の時期において失効することに なる(法第101条第1項)ので,この失効に対する補償措置として,補償金等を配当手続実 施機関に払い渡すこととし,差押債権者は,配当手続において満足を受けるべきこととされて いるのである。裁決手続開始の登記前にされた仮差押えの執行に係る権利に対する補償金等の 払渡しについても,以上と同様である(法第96条第5条,法第101条第1項)。 ただし,強制執行若しくは競売による代金の納付又は滞納処分による売却代金の支払いがあ った後においては,この限りでない(法第96条第1項ただし書)。 3 明渡裁決に係る補償の払渡又は供託等 (1) 明渡裁決に係る補償の払渡し 起業者は,明渡しの期限までに,明渡裁決に係る補償金の払渡し,法第85条第2項の規定 に基づく物件の移転の代行又は法第86条第2項の規定に基づく宅地の造成をしなければなら ない(法第97条第1項)。補償金の払渡しの相手方は,原則として,明渡裁決書に記載され た土地所有者又は関係人である。払渡しの仕方は,権利取得裁決に係る補償金等の払渡しと同 様である。 - 81 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (2) 明渡裁決に係る補償の供託 起業者は,前頁の権利取得裁決に係る補償の供託と同様の場合に,明渡しの期限までに補償 金を供託することができる(法第97条第2項で準用する法第95条第2項)。裁決に係る補 償金等の額を供託することにより,支払い義務の履行とみなされる。 (3) 現物補償の実行 明渡裁決で裁決される現物補償としては,工事の代行による補償(法第84条), 物件移転の代行による補償(法第85条),宅地の造成による補償(法第86条)の3 種類がある。 (4) 裁決手続開始の登記前にされた収用物件に差押え又は仮差押えがある場合の措置 (配当手続実施機関への払渡し) 裁決手続開始の登記前にされた差押えに係る権利(先取特権,質権,抵当権その他当該差押 えによる換価手続において消滅すべき権利を含む。)について,移転困難(法第78条)又は 移転料多額(法第79条)を理由とする物件収用の裁決がされる場合に限り,当該物件に関す る権利が,差押え又は仮差押えの執行の対象になっているときは,起業者は,明渡しの期限ま でに,当該権利に係る補償金を配当手続実施機関に払い渡さなければならない。 ただし,強制執行若しくは競売による代金の納付又は滞納処分による売却代金の支払があつ た後においては,この限りでない(法第96条第1項)。 4 担保物権による補償金等又は替地に対する物上代位 収用又は使用の目的物に先取特権,質権又は抵当権が付いている場合には,これらの権利に対 する補償は,原則として,その目的物に対する補償に含めて一括して裁決され(法第69条但し 書),補償金等は,目的物の所有者に払い渡される。この払渡しにより,これらの担保物権は, 消滅し,又は制限を受けることになる(法第101条)。 そこで,これに対する代償措置として,これらの権利は,その目的物の収用又は使用によって, 債務者が受けるべき補償金等又は替地に対しても行うことができることとされている(法第10 4条)。 ただし,この物上代位権は,払渡し又は引渡し前に差押えをすることにより行使しなければな らない(同条但し書)。 - 82 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 5 裁決の失効 (1) 権利取得裁決の失効 起業者は,権利取得の時期までに,裁決で定められた次のことをしなければ,権利取得裁決 は,その効力を失い,裁決手続開始決定は,取り消されたものとみなされる(法第100条第 1項) 。 ① 権利取得裁決に係る補償金等の払渡し若しくは供託 ② 替地の譲渡及び引渡し又は供託 ③ 法第86条第2項の規定に基づく宅地の造成の提供 ④ 法第83条第4項の規定に基づく耕地の造成のための金銭又は有価証券の供託 (2) 明渡裁決の失効 起業者は,明渡しの期限までに,裁決で定められた次のことをしなければ,明渡裁決はその 効力を失う。事業認定告示から4年を経過していないときは,その期間経過前に限り,明渡裁 決の申立てをすることができ,その期間を経過しているときは,裁決手続開始の決定及び権利 取得裁決は取り消されたものとみなされる(法第100条第2項) 。 ① 明渡裁決に係る補償金の払渡し又は供託 ② 法第85条第2項の規定に基づく物件の移転の代行の提供 ③ 法第86条第2項の規定に基づく宅地の造成の提供 ④ 法第84条第3項において準用する法第83条第4項の規定に基づく工事の代行のため の金銭又は有価証券の供託 (3) 補償金等の払渡方法の特例 起業者が,補償金等の全部を現金又は規則第23条の4に規定されている支払い手段により, 次のいずれかに付して,権利取得の時期又は明渡しの期限から政令で定める一定の期間前まで に,補償金等を受けるべき者の住所(国内にあるものに限る。)にあてて発送した場合は,発 送の時点で補償金等が払い渡されたものとみなされるため,裁決は失効しない(法第100条 の2)。法100条の2第1項の政令で定める一定の期間は,13日となっている(令第1条 の21) 。この13日は,権利取得の時期と発送の日の間に,中13日をおくという意味である (平成14年7月10日付け国総収第98号国土交通省総合政策局総務課長通知第2の4「補 償金等の払渡しの合理化について」 ) 。 ① 書留郵便(国土交通大臣が定める方法による。) ② 民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第6項に規定する一般信書便事業者若し くは同条第9項に規定する特定信書便事業者の提供する同条第2項に規定する「信書便の役務 のうち書留郵便に準ずるものとして国土交通大臣が定めるもの」(現在のところない) - 83 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 6 権利取得裁決に伴う所有権移転登記 権利取得裁決に伴う所有権移転の登記は,補償金の払渡完了の証(補償金受領証あるいは供託 書)と裁決書(和解に当たっては和解調書,協議の確認に当たっては確認書)正本をもって嘱託 することとなる。 7 明渡義務 明渡裁決が行われると,起業者が裁決により課された補償義務を実行することと引き換えに, 被収用者等には,土地・物件の引渡し又は物件の移転の義務が課される。当該土地又は当該土地 にある物件を占有している者は,明渡しの期限までに,起業者に土地若しくは物件を引き渡し, 又は物件を移転しなければならない(法第102条)。この義務に違反する者には,罰則が適用 される(法第143条第4号)。 8 代行及び代執行 (1) 代行 市町村長は,起業者の請求により,次のいずれかの要件に該当するときは,土地若しくは物 件を引き渡し,又は物件を移転すべき者に代わって,土地若しくは物件を引き渡し,又は物件 を移転しなければならない(法第102条の2第1項)。市町村長は,代行に要した費用を義 務者から徴収するものとされている(法第128条第1項)。 ① 土地若しくは物件を引き渡し,又は物件を移転すべき者がその責めに帰することができな い理由により,その義務を履行することができないとき。 履行義務者の氏名は判明しているが,義務の不履行につき,その者に帰責事由がない場合 を指す。例えば,所在不明,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者の 成年後見人がいない場合等である。 ② 起業者が過失がなくて,土地若しくは物件を引き渡し,又は物件を移転すべき者を確知す ることができないとき。 起業者として,通常払うべき注意を払っても,義務者を確認し得ない場合を指す。 (2) 代執行 土地若しくは物件を引き渡し,又は物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき,履行 しても充分でないとき,又は履行しても明渡しの期限までに完了する見込みのないときは,都 道府県知事は,起業者の請求により,行政代執行法の定めるところに従い,自ら義務者のなす べき行為をし,又は第三者をして,これをさせることができる(法102条の2第2項)。 都道府県知事は,義務者及び起業者にあらかじめ通知した上で,当該代執行に要した費用に 充てるため,その費用の額の範囲内で,義務者が起業者から受けるべき明渡裁決に係る補償金 - 84 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 を義務者に代わって受けることができる(法第102条の2第3項)。 起業者が,補償金の全部又は一部を都道府県知事に支払った場合においては,起業者が,都 道府県知事に支払った金額の限度において,起業者が土地所有者又は関係人に明渡裁決に係る 補償金を支払ったものとみなす(法第102条の2第4項)。 また,起業者が,明渡裁決に係る補償金を土地所有者又は関係人に払い渡してしまっている 場合には,行政代執行法に定める徴収方法によることになる。都道府県知事は,実際に要した 費用の額及びその納期日を定め,義務者に対し,文書をもって,その納付を命じる(行政代執 行法第5条)。この費用は,国税滞納処分の例により,徴収することができる(同法第6条)。 - 85 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 第5節 あっせん,仲裁,和解及び協議の確認 1 あっせん 土地収用法では,用地取得に関する紛争が生じている場合に,見識のある中立の立場の第三者 がその中に入り,紛争の解決のために必要な活動をすることができる制度を用意している。これ により,紛争の円満な処理を図り,任意取得を促進しようとしている。この制度には,あっせん と仲裁の2種類がある。あっせんの特徴は,当事者双方の互譲と妥協による解決にあるのに対し, 仲裁の特徴は,第三者(仲裁人)の仲裁判断による最終的な解決にある。 あっせんとは,事業認定の告示前までに,収用適格事業(法第3条各号)の用に供する土地等 の取得に関する関係当事者間の合意が成立するに至らなかった場合,当該紛争(紛争は,事業計 画に関するもの,補償に関するもの,土地の境界や帰属に関するものでもよい。 )について,あっ せん委員が入り,当事者間で話し合いを行った上で,その解決を目指すものである。 (1) 申請 申請は,当事者の双方が共同で行ってもよいし,一方のみが行ってもよい。一方のみが行う 場合には,申請することについて,他方の同意は不要である。 次の事項を記載したあっせん申請書(令第1条の2)を都道府県知事に提出することによっ て行う(法第15条の2第1項) 。 なお,申請をするには,その土地等について,事業認定の告示がされていないことが必要で あり,この告示があった後は,もはや申請することができない(法第15条の2第1項ただし 書き) 。事業認定の告示があった以上,収用手続によるのが妥当であるからである。手続保留 地については,手続開始の告示があったときを事業の認定の告示があったときとみなすので, 手続開始の告示があるまでは,申請することが可能である(法第34条の5) 。 ① 申請者の氏名及び住所 ② 相手方の氏名及び住所 ③ 申請の趣旨 ④ 事業の種類 ⑤ 紛争に係る土地等の所在地,種類及び数量の概数 ⑥ 紛争の問題点及び交渉経過の概要 ⑦ その他あっせんを行うに参考となる事項 - 86 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (2) あっせんの申請の要件 都道府県知事は,当該紛争があっせんを行うに適しないと認められるときを除き,あっせん に付する (法第15条の2第2項)としている。行政回答では「あっせんを行うに適しない と認められるとき」を次のように解している。 (昭和42年9月21日付け岩手県知事あて建設省計画局総務課長回答) 両当事者の態度,要求内容,交渉の経過等から見て,あっせんが成立する見込みがないとき がこれに当たると解せられ,例えば,次のような場合が考えられる(ただし,あっせん成立の 機会をみだりに封ずることのないよう,その判断は慎重に行う必要がある。)。 イ 補償額等両当事者の主張に著しい開きがある場合, ロ 被収用者が事業自体に反対している場合, ハ 事業認定がすぐに行われることが明らかな場合 (3) あっせん委員 あっせん委員は,5人である。事件ごとに,収用委員会が,その委員の中から推薦する者1 人及び学識経験者で収用委員会が推薦する者4人について,都道府県知事が任命する(法第 15条の3) 。 (4) あっせんの実施と終了 あっせんの方法については,法令に具体的な定めはない。通常は,当事者双方の意向を聴き, あっせん案が作成される。このあっせん案の作成には,あっせん委員全員の一致が必要である (令第1条の6) 。あっせん案を受け入れるかどうかは,当事者の自由である。受け入れた場合 には,通常,当事者間であっせん案に沿った契約が締結され,紛争は解決する。 2 仲裁 仲裁とは,事業認定の告示前までに,仲裁合意(紛争の解決を仲裁人に委ね,かつ,その判断 に服する旨の合意)に基づき,土地等の取得に際しての対償〔補償金等〕の解決を仲裁人に委ね, 最終的に仲裁判断により解決することをいう。 仲裁判断には,確定判決と同一の効力が付与されている(仲裁法第45条第1項)ので,当事 者は仲裁判断に必ず従わなければならない。その意味から,仲裁は,紛争の最終的な解決方法で あるといえる。仲裁に関する一般法は,仲裁法である。土地収用法は,その特例を定めるととも に,それ以外については,仲裁法の規定を準用することとしている(法第15条の12) 。 - 87 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (1) 申請 関係当事者の双方が,共同して,次の事項を記載した仲裁申請書(令第1条の7の2第1項) を紛争に係る土地等が所在する都道府県の知事に事業認定の告示の前に提出することにより行 う。 ① 申請人の氏名及び住所 ② 申請の趣旨 ③ 事業の種類 ④ 紛争等に係る土地等を特定するに足りる事項 ⑤ ④の土地等の取得に関して関係当事者間において成立した合意(当該土地等の取得に際して の対償(補償金等)に関するものを除く。 )の内容 ⑥ 紛争に係る交渉経緯の概要その他仲裁を行うに参考となる事項 仲裁合意を証する書面があるときは,仲裁申請書に当該書面又はその写しを添付しなければな らない(令第1条の7の2第2項) 。 仲裁の申請が適法であるときは,都道府県知事は,必ず仲裁に付さなければならない。都道府 県知事は,仲裁に付する否かについて,裁量権を有しない(平成14年7月10日付け国総収第 98号国土交通省総合政策局総務課長通知第3(1)) 。この点は,あっせんと異なる。 仲裁の申請がされた後,仲裁判断が行われるまでの間は,収用又は使用の裁決申請も,その 裁決申請の請求も,ともに行うことができないこととし,裁決手続の開始を停止することとして いる(法第15 条の7第3項) 。 (2) 仲裁の申請の要件 仲裁の申請をするには,次のすべての要件を満たす必要がある(法第15条の7第1項) 。 ① 収用適格事業(法第3条各号)の用に供するための土地等の取得に関する関係当事者の合意 が成立するに至らなかったこと。 ② 紛争が土地等の取得に際しての対償(補償金等)のみに関するものであること。 ③ 当事者間で仲裁合意がされていること。 ④ 事業認定の告示がされていないこと。 (3) 仲裁委員 仲裁委員の数は3人であり,事件ごとに,収用委員会がその委員の中から推薦する者につい て,都道府県知事が任命する(法第15条の8) 。都道府県知事は,この任命をしたときは, 遅滞なく,仲裁委員の氏名を当事者に通知しなければならない(令第1条の7の3) 。 - 88 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (4) 仲裁手続 仲裁委員は,仲裁を行う場合において必要があると認めるときは,当事者の申し出により, 相手方の所持する当該紛争に係る資料(不動産鑑定書,営業報告書,税関係資料等,対償(補 償金等)に関係する各種資料)の提出を求めることができる(法第15条の9) 。 また,仲裁委員は,仲裁を行う場合において必要があると認めるときは,当事者の申し出に より,相手方の占有する土地その他紛争に関係のある場所に立ち入り,当該紛争の原因たる事 実関係につき,検査をすることができる(法第15条の10第1項) 。この場合,仲裁委員の 1人をして,当該検査を行わせることができる(同条第2項) 。 なお,仲裁手続は,公開されない(令第1条の7の4) 。 このほか,仲裁については,法に別段の定めがある場合を除いて,仲裁委員を仲裁人とみな して,仲裁法の規定を準用する(法第15条の12) 。例えば,仲裁廷が従うべき仲裁手続の 準則は,当事者が合意により定めるところによる(同法第26条)等が定められている。 (5) 仲裁手続の終了 仲裁手続は,仲裁判断又は仲裁手続の終了決定があったときに終了する(仲裁法第40条第 1項) 。仲裁手続の終了決定は,仲裁申立ての取下げ,当事者双方による終了の合意,和解等 があるときに行われる(同条第2項) 。仲裁判断は,確定判決と同一の効力を有する(同法第 45条第1項) 。 仲裁委員は,仲裁を行ったときには,遅滞なく,その概要を都道府県知事に報告しなけれ ばならない(法第15条の11第1項) 。仲裁委員は,この報告をしたときに,当然に退任す るものとされている(同条第2項) 。 - 89 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 3 和解 収用委員会は,審理の途中において,何時でも,起業者,土地所有者及び関係人に和解を勧め ることができる(法第50条第1項) 。収用し,又は使用しようとする土地の全部又は一部につい て,起業者と土地所有者及び関係人の全員との間に法第48条第 1 項各号又は法第49条第1項 各号に掲げるすべての事項に関して,和解が整った場合において,収用委員会は,起業者,土地 所有者及び関係人の申請により和解調書を作成することができる(法第50条第2項) 。収用委員 会により和解調書が作成されたときには,権利取得裁決又は明渡裁決があったものとみなされる (法第50条第5項) 。この場合において,起業者,土地所有者及び関係人は,和解の成立及び内 容を争うことができない。 【様式49号】 【様式50号】 【様式51号】 4 協議の確認 起業者が公益事業に必要な土地を土地収用法によらず,任意で買収した場合,その買収は,あ くまで私法上の契約として行われるものであるから,私法上の効果が生ずるにとどまる。したが って,この買収には,原始取得としての効果(法第101条第1項)や代行又は代執行をなし得 る効果(法第102条,第102条の2)等,土地収用にともなうような効果は発生しない。こ のため,被買収者から契約の無効,取消し又は解除の主張がされたり,被買収者が契約に基づく 引渡し又は物件移転の義務を履行しないときは,起業者は,円滑に事業を施行することができな くなる。 そこで,土地収用法では,こうした事態に備えるため,事業認定を受けた起業地内の土地の任 意買収について,収用委員会の確認を得ることにより収用と同じ効果を発生させることとし,公 益事業を円滑に施行できるようにしている。これが協議の確認の制度である。 協議の確認には,買受権制度が適用される(法第121条の確認の効果に基づく法第106条) ので,被買収者にもメリットがある。 (1) 協議の確認の申請 起業地の全部又は一部について,起業者と土地所有者及び関係人の全員との間に権利を取得 し,又は消滅させるための協議が成立したときは,起業者は,法第26条第1項の規定による 事業の認定の告示があった日以後,収用又は使用の裁決の申請前に限り,当該土地所有者及び 関係人の同意を得て,当該土地の所在する都道府県の収用委員会に,協議の確認を申請するこ とができる(法第116条第1項・土地収用法施行規則様式第13) 。協議は,起業者と土地所 有者及び関係人の全員との間で成立していなければならない。確認の申請は,起業者が行う。 申請をしようとするときは,土地所有者及び関係人全員の同意を得たことを証する書面を添え て,確認申請書を収用委員会に提出しなければならない(法第116条第2項) 。 【様式53号】 - 90 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 第6節 非常災害の際の土地の緊急使用等 土地収用法では,非常災害に際し,緊急に公益事業を実施する必要がある事態に対応するために, 直ちに,他人の土地を使用することができる特別な手続が定められている。 この特別な手続には,次の2種類がある。 1 非常災害の際の土地の緊急使用 土地の使用に当たって,起業者は,事業の種類,使用しようとする土地の区域並びに使用の方 法及び期間について,市町村長の許可を受けなければならない(法第122条第1項) 。 (1) 要件 次の要件のすべてを満たすときは,起業者は,市町村長の許可を受けて,直ちに他人の土地 を使用することができる(法第122条) 。 ただし,起業者が国であるときは,当該事業の施行について権限を有する行政機関又はその 地方支分部局の長が,起業者が都道府県であるときは,都道府県知事が,これらの事項を市町 村長に通知することをもって足り,許可を受けることを要しない(法第122条第1項ただし 書) 。 この許可又は通知により,使用する土地の区域並びに使用の方法及び期間は,公共の安全を 保持するために必要かつやむを得ないと認められる範囲を超えてはならない(同条第2項) 。ま た,使用の期間は,許可又は通知の日から6ヶ月を超えることができない(同条第4項) 。 (要件) ① 非常災害に際したものであること ② 事業施行の目的が公共の安全の保持にあること ③ 施行を必要とする事業が収用適格事業(法第3条各号)に規定するものであること ④ 事業を特に緊急に施行する必要があること (2) 土地の所有者及び占有者への通知 市町村長は,許可をしたとき,又は通知を受けたときは,直ちに,起業者の名称,事業の種 類,使用しようとする土地の区域並びに使用の方法及び期間を土地の所有者及び占有者に通知 しなければならない(法第122条第3項) 。 この許可又は通知については,不服申立てをすることができない(法第132条第1項第2 号) 。行政訴訟の提起については,特別の制限はない。 - 91 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 (3) 損失の補償 起業者は,土地の使用の許可を受け,又は市町村長へ通知した場合,土地を使用することに よって生ずる損失を補償しなければならない。起業者の補償の算定は,収用又は使用による損 失の補償に関する規定の定めるところによる。この場合において,損失の補償は,使用の時期 の価格(土地又は土地に関する所有権以外の権利に対する損失の補償については,その土地及 び近傍類地の地代及び借賃等を考慮して算定した使用の時期の価格)によって算定しなければ ならない(法第124条第1項) 。使用によって生じる全ての損失を補償すべきであり,土地使 用料のみならず,物件移転料その他通常生ずる損失も含まれる(昭和38年9月23日付け建 設省計画局総務課長通知) 。 損失の補償額の決定は,起業者と損失を受けた者とが協議して定める。協議が成立しないと きは,収用委員会の裁決により決められる(法第124条第2項により準用する法第94条) 。 2 緊急に施行する必要がある事業のための土地の使用 収用委員会は,法第39条の規定による裁決の申請にかかわる事業を緊急に施行する必要があ る場合で,明渡裁決が遅延することによって事業の施行が遅延し,その結果,災害を防止するこ とが困難となり, その他公共の利益に著しく支障を及ぼす虞があるときは, 起業者の申立により, 土地の区域および使用の方法を定め,起業者に担保を提供させた上で,直ちに,当該土地を使用 することを許可することができる(法第123条第1項) 。 使用の期間は,6ヶ月とする。使用の許可の期間の更新は,行うことができない(法第123 条第2項) 。 収用委員会は,法第123条第1項の規定による許可をしたときは,直ちに起業者の名称,事 業の種類,使用しようとする土地の区域並びに使用の方法および期間を土地の所有者及び占有者 に通知しなければならない(法第123条第3項) 。 起業者は,法第123条第1項の場合において,土地所有者及び関係人の請求があるときは, 自己の見積もつた損失補償額を払い渡さなければならない(法第123条第4項) 。 法第123条第1項の規定による使用の許可があった後,明渡裁決があったときは,当該明渡 裁決において定められた明渡しの期限において,法第47条の規定によって却下の裁決があった ときはその裁決の時期において,法第123条第1項の規定による使用の許可は,法第123条 第2項の規定にかかわらず,その効力を失う(法第123条第5項) 。 - 92 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 第7節 丌服申立て及び訴訟 1 丌服申立て (1) 収用委員会の裁決についての審査請求 収用委員会の裁決に不服がある者は,損失の補償についての不服を除き(法第132条第2 項) ,国土交通大臣に対して審査請求をすることができる(法第129条) 。 不服申立ての対象となる収用委員会の裁決としては,権利取得裁決(法第48条第1項) ,明 渡裁決(法第49条第1項)及び却下の裁決(法第47条)等がある。 (参考/小澤道一著「逐条解説土地収用法下巻(第二次改訂版) 」654頁) 収用委員会は,独立して,その職権を行うことが保障されている(法第51条第2項)の で,国土交通大臣は,収用委員会に対して,上級行政庁たる地位に立つわけではない。また, 収用委員会の裁決のうち,都道府県知事認定事業に係るものは,その都道府県の自治事務で ある(法第139条の4) 。それにもかかわらず,特に国土交通大臣に対する審査請求という 不服申立てのルールを定めたのは,収用委員会の裁決事項の中には,収用する土地の区域, 使用する土地の区域,使用の方法・期間等の公益的事項が含まれており,このような公益的 事項に関する判断は,収用委員会の裁決の先行処分たる事業認定処分を具現化するもの又は 事業認定処分の延長線上にあるものであるという性格を有するので,裁決に対する不服申立 ては,事業認定処分に関する行政機関としての最終的な判断権を有する国土交通大臣に対し て,審査請求を行うという方法によることが適当であると考えられたからである。 (2) 不服申立期間 収用委員会の裁決についての審査請求は,裁決書の正本の送達を受けた日の翌日から起算し て30日以内にしなければならない(法第130条第2項) 。 (3) 不服申立ての制限 収用委員会の裁決についての審査請求においては,損失の補償についての不服をその裁決に ついて不服の理由とすることができない(法第132条第2項) 。 2 収用委員会の裁決についての訴訟 (1) 損失の補償に関する訴え 収用委員会の裁決のうち,損失補償に関する訴えは,裁決書正本の送達を受けた日の翌日か ら起算して6ケ月以内に裁判所に提起しなければならない(法第133条第2項) 。 この訴えは,これを提起した者が,起業者であるときは土地所有者又は関係人を,土地所有 者又は関係人であるときは起業者を,それぞれ被告としなければならない(法第 133条第3 - 93 - 収用裁決申請マニュアル(第二版 H28.3.9 修正版)第1章 手続編 項・当事者訴訟) 。 収用委員会の裁決のうちの損失の補償についての不服は,当事者訴訟によってのみ争うこと ができ,取消訴訟によっては争うことができない。 (参考判例:最判昭和58年9月8日) 「土地収用法133条が,収用裁決そのものに対する不服の訴えとは別個に損失補償に関 する訴えを規定したのは,収用に伴う損失補償に関する争いは,収用そのものの適否とは別 に起業者と被収用者との間で解決させることができるし,また,それが適当であるとの見地 から,収用裁決中収用そのものに対する不服と損失補償に関する不服とをそれぞれ別個独立 の手続で争わせることとし,後者の不服の訴えについては,前者の不服の訴えと無関係に独 立の出訴期間を設け,これにより,収用に伴う損失補償に関する紛争については,収用その ものの適否ないし,効力の有無又はこれに関する争訟の帰すうとは切り離して,起業者と被 収用者との間で早期に確定,解決させようとする趣旨に出たものと解される。 」 (2) 取消訴訟 収用委員会の裁決のうち,収用裁決そのものに対する(損失補償に関する事項以外)の訴え は,裁決書正本の送達を受けた日の翌日から起算して3ヶ月以内に宮城県(公共団体に属する 行政庁がした処分についての訴訟の被告は,当該公共団体である〔行政事件訴訟法第11条第 1項〕 。 )を被告として,当該訴えを提起することができる(法第133条第1項) 。 土地収用法には,審査請求に対する裁決を経た後でなければ,裁決の取消しの訴えを提起す ることができない旨の定めがないので,直ちに取消訴訟を提起することができる(行政事件訴 訟法第8条第1項) 。 - 94 -