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不確実な経営環境下での研究開発マネージメントの進化に関する研究

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不確実な経営環境下での研究開発マネージメントの進化に関する研究
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
不確実な経営環境下での研究開発マネージメントの進化に関する研
究
Author(s)
西村, 宣彦
Citation
(2007-03-20)
Issue Date
2007-03-20
URL
http://hdl.handle.net/10069/7384
Right
This document is downloaded at: 2017-03-29T21:07:50Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
博 士論文
不確実な経 営環境 下での研究開発マネージメントの
進化 に関する研究
平成 1
9年 1月
長 崎大学 大学 院経済 学研 究科
経営意思決定専攻
西村 宣彦
艮
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昌 、召 ノ
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不確実な経 営環境 下での研究 開発マネージメントの
進化 に関する研究
西村宣 彦
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論文昭雄
目次
第 1章
序論
1.
1
日本企 業の研 究 開発部 門が直面する課題
1.
2
研究開発部 門の組 織能 力に関する研 究 の現 状 と課題
1.
3
研究 開発投 資意 思決 定法 の現 状 と課 題
1.
3.
1
正味現在価 値 法
1.
3.
2
リアルオプション法
1.
3.
3
その他 の手 法
1.
4
本論 文の 目的と構 成
第 2章
研究 開発効 率性 の向上 のための組 織 能 力
2.
1 経 営戦 略 と研究 開発 部 門に必要な能 力の変遷
2.
1.
1 経 営戦 略論 の進展
2.
1.
2
ダイナミック・
ケイパビリティー
2.
1.
3
経 営戦 略 の変遷 に伴 う研 究 開発部 門の役割 の変遷
2.
2
研究 開発部 門に必要な能 力
2.
2.
1 成功 した開発プロジェクトに関する事例 研 究
2.
2.
2
プロジェクトの成功を支 えたダイナミック・
ケイパビリティー .
….
.
.
.
.
.
.
……….
.
.
.
.
….
.
.
.
…25
2.
2.
3
考察
2.
3
28
32
研究 開発 型企 業 に必要な能 力
32
2.
3.
1 事例 研 究 の対象企 業
2.
3.
2
キーエンスにおける研 究 開発活 動
33
2.
3.
3
キーエンスのダイナミック・
ケイパビリティー
35
2.
3.
4
考察
40
2.
4
研究開発 の有効性 の 向上
41
2.
5
まとめ
43
第 3章
研究 開発ポートフtr
Jオ価値 向上へのリアルオプション法 の適 用 =….
.
.
.
.
.
".
……"… 52
3.
1 研究 開発投 資意 思決 定高度化へのリアルオプションの適 用
3.
1.
1 オプション価値 評価 手法
3.
1.
2
研究 開発へのリアルオプション法 の適用
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棉
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畑宮
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人情紙
3.
2
54
ケーススタディー
3.
2.
1
研 究 開 発テーマの価 値 評 価 のためのパラメータの推 定
54
3.
2.
2
リアルオプション価 値 評 価
57
3.
2.
3
評価 結 果
58
3.
2.
4
今 後 の課 題
60
3.
3
第 4章
4.
1
61
まとめ
研 究 開 発 戦 略 高 度 化 へ の リアルオプション法 の適 用
63
ボラティリティーが複 数 ある場 合 のオプション価 値 評 価 法
63
4.
1.
1
それ ぞれ の不 確 実 性 に一 定 の 関 係 が 有 り,統 合 化 できる場 合 ……‥….
….
.
.
….
.
….
63
4.
1.
2
それ ぞれ の不 確 実 性 が ,独 立 で無 関 係 の場 合
4.
2
65
67
研 究 開 発 戦 略 立 案 へ の適 用
4.
2.
1
ケース
67
4.
2.
2
4 項 格 子 モデル によるプロジェクトの評 価
68
4.
2.
3
段 階 的 投 資 の判 断 へ の活 用
69
4.
2.
4
研 究 開発 計 画 の最 適 化 へ の リアルオプション法 の適 用
71
4.
3
考察
4.
4 まとめ
第 5章
研 究 の総 括 と今 後 の展 開
72
73
75
5.
1
研 究 の総 括
75
5.
2
今 後 の課 題
77
5.
2.
1
研 究 開発 組 織 のダイナミック・
ケイパ ビリティー としての 先 行 技 術 へ の 投 資 =….
.
.
…77
5.
2.
2
新 商 品企 画 プロセスにおける組 織 的知 識 創 造 マネージメント….
.
.
川.
.
.
.
.
.
.
……日日….
79
5.
2.
3
研 究 開 発 ポー トフが ノオの高 度 化
5.
2.
4
新 商 品 開発 意 思 決 定 プロセスに関する経 営情 報 システム ……‥.
.
.
.
….
.
.
日.
.
.
日.
.
.
…81
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
第 1章
序論
1.
1
日本企 業の研究 開発部 門が直 面す る課題
近年,日本企 業を取 り巻く環境 は.急速 に変化 している。1990年代 以降のI
T革命 によって,
情報 は極 めて安い流通コストで瞬 時に世界 中を駆 け巡 り,且つその透 明性 が極 めて高くなって
いる.また,旧共産 圏の崩壊 によって経済 のグローバル化が急速 に進 行 し,国際 的な競争が激
T化とグローバル化の進展 によって技 術の進 歩 は著 しく速くなっているとと
化 している.さらに,I
もに,製 品のライフサイクルは短くなり,顧 客 の晴好 は多様 化 している。我 が国では,このような
経済環境の変化 に呼応するように右肩上が りの経済 成長が終 蔦 し,従 来 の低賃金 ,高技量 の
労働 力を武器 にして高 品質で低価 格 の製 品を製造 ,販売する戦 略では,ロシア,中国をはじめ
Cs諸 国.新興の旧共産圏諸 国に対する競争優位が維持できなくなっている。
とするVTI
このような企 業 の経 営環境 の変化 に対応 して,企 業 内の研究 開発部 門の役割 も大きく変化
している。従来 のキャッチアップ型 の事 業環 境 における企 業の研 究 開発部 門の役割 は.「如何
に作るか」への解を与えることであった。すなわち欧米からの技術導入によって得た現製 品の晶
質の向上と低コストの生産プロセスの開発 が主休 の改善型の研究であった。これは,例 えば 自
動車産 業における従 来よりも高効 率 のエンジンの開発 ,軽 量 化 による燃 費改 善 のための強度
の高い材料 ,低コスト化のための高能率 工作法 の開発 等である。これに対 して,今後の研究 開
発部 門には,他社 に無 い新製 品を商 品化する.すなわち「
何を作 るか」についての解 が求 めら
れる。しかし,従 来のように「如何 に作るか」を効率 的に追い求めてきた研 究 開発部 門の体制 や
能力は,競争優位 の根源 となる新製 品を効 率 的に生み 出すのに必要な体制 や能 力とは異なる
可能性がある。また,市場環境 の不透 明さが増すにしたがって.開発 した新 製 品が市場 に受け
入れられる確率も低下している(
小久保 ,1999)。
また,従 来のように市場 と技 術 の動きが緩 やかな経 営環境 のなかでは,他社 よりも早く新製
品を投入 してシェアを拡 大 し,経験 曲線効 果で原 価を低減することによって超過 利潤 が得 られ
ると考えられてきた。しかし,市場 と技術の動きが速くなると.投入 した新製 品が市場を形成 しそ
の規模を拡大できる確率 は低下 し,且つ技 術 の進 歩 によりその新製 品の性 能を凌 駕する新 製
品が短期 間で出現する確率が高まっている。このような中では,長期 間の投 資によって他社 に
先駆 けて新製 品を基礎 要 素技 術から開発 しても,開発 費を回収 するに十分な収 益が得 られる
ほど市場が成長する確率 は低く,且つ市場 が成長 したとしても競合企 業による改 良型製 品から
その市場を奪われる確 率 が高 くなっており,創 業者 利益が得 られ にくくなっている。一方 で,革
新 的創業者が新製 品によって創造 した市 場が本格 的に成長するのを待って,創 業者 の新製 品
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論 文,
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よりも市 場 の需要 に合 致 した製 品を素 早 く商 品化 して,市 場 の成長 とともにシェアを拡 大する
Second Moverの競争優位が説かれている(
Li
eber
man,1998)0
このように,市場と技術が急速に進 化し,将来の動 向が不透 明化するなかで,企 業の研究開
発部 門に要求される役割 は急速 に変化 しており,研 究 開発 の有効性 と効 率性 の向上をいかに
達成するかが研究開発マネージメントにおける主要な研 究課題 になっていると考えられる(
吉 田,
1995)。ここで,有効 性 とは欧米 の研 究成 果 の後 追 い的な体 質から脱 皮 し独創 的で市 場 に認
知される製 品を生む研 究 開発を実施することであり,効 率性 とは低経済 成長下 にあって限 りあ
る経 営資源を有効 に生か して市場 価値 の高 い研 究 成 果をより多く創 出することである。このた
めには,従来の研究開発部 門を進化させて,研究 開発投 資意 思決 定を高度化する必要 がある
ものと考えられる。
1,
2
研究開発部門の組接 能 力に関す る研 究の現 状 と課題
企業における研究 開発部 門は.1980年頃までは図 1.
1に示すようなプロダクトアウト型の直
線 的な研究 開発プロセスの最 初の段 階を担 う組 織 として位置 付 けられてきた。このような位置
付 けの研究開発部 門には新製 品の芽となる新 技術 の創造 が求められ,わが国の大企 業もこぞ
って基礎研究所を設立 し.新技術の発 明に投資した。
しかし,米 国ベル研 究所 におけるトランジスタの発 明や,ゼ ロックスのパ ロアル ト中央研 究所
におけるパソコンの発 明などのように,技術を発 明したこれ らの先進 的企 業 以外 の企 業 (
たとえ
ばトランジスタにおけるソニー,先進 的パソコンにおけるアップル)が商 品化に成功する事例 が 多
く見 出されるようになり,このようなプロダクトアウト型 の開発の効率性が疑 問視されるようになっ
i
ne(
1985)は米 国企 業 において市 場 にインパクトを与 えた多数の新 製 品開発 の成 功事
た 。Kl
例を分析 し,多くの成功事例 は研究の成果からではなく,市 場 の洞察から出発 していることを見
.
2 に示すリンクド・チェーン・
出した。そこで,彼 は研究 開発過程 に対する新 しい見方 として図 1
モデルを提唱した。このモデルによると.研 究 開発 は市 場洞 察 によって導 かれた新 製 品のター
ゲットを達成する手段 として位置付 けられる。このターゲットが.既に社 内に蓄積されている知識
のみを用いて達成できる場合 は,社 内の技 術 的知識 をもとに基 本設 計 .詳細 設計 ,生 産 が行
われるが,社 内にはない技 術 的知識 が必要 な場 合 は研 究 によってそれらが獲 得されて,製 品
開発に用いられる。この獲得された知識 は社 内の知識 データベースに蓄積され .以降の製 品開
発 に活用される。このように,従 来研究 開発部 門はそこで創造される技術を基礎 としたプッシュ
型の新製 品開発プロセスの上 流側組織 として位置 付 けられてきたが.市 場 のニーズが 多様 化
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図1
.
1 プロダクト
アウト型リニアプロセス
研究 (
キーテクノロジーの創出)
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(
ベース
図1
.
2 マーケットイン型リンクドチェーンプロセス
Kl
i
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eは研 究 開発 部 門をマーケテイングによって見 出された市 場 の潜 在 的 ・顕 在 的ニ
する中で,
ーズを充 足する新 製 品 の企 画 か ら流 通 ・
販 売 までの全 プロセスを支 援 する組 織 として位 置 付 け
た。
このように企 業 における研 究 開発 部 門 の位 置 付 けが変 化 して,市 場 の洞 察 によって導 かれる
製 品ターゲットの有効 的 (
Ef
f
ec
t
i
v
e)
且 つ効 率 的 (
Ef
f
i
c
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en
t
)
な商 品 化 が研 究 開発 の 目標 となるに
は,企 業 内 の全 部 門ならびに社 外 との連 携 が 必 要 になり,研 究 開 発 マネージメントの概 念 もこ
れに対応 して変遷 していると考 えられる。ラッセル (1992)は,研 究 開発 マネージメントの変遷 を
表 1,
1 のような3つの世 代 に分 類 した。上 述 したリンクド・
チェーン・
モデル における研 究 開発 の
表 1.1 研 究 開発 マネージメントの変遷
研究開発マネージメント
第 1世代 (
1970年代以前)
直感型
事業戦略との結びつきは希薄
自由放 任 ,管理 不在
第 2世代 (
1970-1980年代)
プロジェクトレベルでの 目的指向型
事業戦略との連携を強化
テーマの経済性評価 に関心
第 3世代 (1990年代以降)
経営レベルでの 目的指 向型
経営戦略と研究開発戦略との統 合
経営 トップ,関連部署との連携強化
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位置付 けに対応 して,現 代の研究 開発 マネージメントには経 営戦 略 との統 合 や関連 部 門との
連携などの能 力が要 求されるようになっており,研究 開発 は,今 日の企 業 の収 益や成長 におい
て最も重要な経 営戦略要素 として位置付 けられている。
リンクド・
チェーン・
モデルでは革新 的な製 品は,技術ではなく市 場 の洞察か ら生まれるとして
いる。同様 の考 察 は米 国を中心 とした先進 国の大企 業の研一
究 開発部 門が会 員となっている産
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e)でも ,1999 年 に ROR(
Resear
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業 研 究 協 会 (r
のテーマとして取 り上
Resear
ch:研究 開発 マネージメントに関する参加 会 員企 業の共 同研 究)
げられた。市場の洞察から生まれる革新 的製 品開発活動 は Va山e l
nnovat
i
on と定義され.企
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nnovat
i
onの能 力を測る尺度として Val
uel
Q が考 案された (
Di
H
onetal
,2005)a
業の Val
nnovat
i
onのプロセスを図 1.
3に示す 。Va山el
nnovat
i
onが生まれる
彼らが提唱する Va山el
「
継続 して発 明を生む組織 文化」の重要性を説 いているが,この組織
企業の条件 として彼 らは ,
Q として以下の 10の要素を挙 げている。
が具備すべき能 力を Va山el
①
開放 的な組織 文化である。
②
価値創造への情熱を持っている。
③
事 業性を常に意識 している。
④
組織 的学習プロセスを持っている。
⑤
ブレークスルーのために多数の可能性 のあるオプションを生み 出す風土がある。
5段階のVal
uel
nnovat
i
onプロセス
(
丑事業の情報収集.
分析
②価値のモデリ
ングと分析
③意思決定と優先順位付け
④コミュニケーションと実行
図1.
3 Va山el
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H上 目州}
丈
日 用
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L
⑥ 常に外部 に焦 点を当てている。
⑦ 企業内の全バリューチェーンの情報にアクセスできる。
⑧ 堅牢な意思決 定システムを有 している。
⑨ 価値創造へのインセンティブがある。
⑩ リスクや不確かなことに直面した場合に明確な対処方法が規 定されている。
しかし彼らの示した Va
山el
Qは,Mat
h
es
onら(1998)による組織 I
Qに比べると直感 的であり,
今後の理論的な研究による裏付 けが待たれている(
Di
H
one
tal
,
2005)
0
この分野の研究 は米 国が先行 しているが,米国と日本 とでは企 業の研究 開発部 門の特徴な
らびに外部環境が大きく異なっている。すなわち,米 国では産 官学 の研 究開発部 門間での研 究
者 の流動性が高 いのに対 して,日本 では終 身雇 用制 がまだ色濃 く残っており研 究者 の組織 へ
の帰属意識 が依 然高 い。したがって,日本 では組織 外 の研 究コミュニティーの発達 は遅れてい
るが,社 内での異動 は容 易であるため,社 内の他部 門との連携 は容 易である可能性がある。さ
らに,米国ではベンチャー企 業が育 成される制度が充実 しており,企 業外部 がイノベーションの
T 分野など一部を除いてイノベーションを生み 出すベンチャーの数
源泉となりうるが,日本では I
が少なく,これを保護 し.育成する制度が米国ほど十分発達 しているとはいえない。
このように,企 業の研 究 開発 部 門が持つ特徴 が異なる日本 と米 国では,有効 且つ効 率 的な
研究開発を行うために研究開発部 門に必要 となる能 力も異なる可能性がある。
1.
3
研究開発投資意思決定法 の現状 と課題
日本企業における従 来の研究 開発投 資は,欧米からの技 術導入 のもとで商 品化 した製 品の
効率,性能 ,信頼性 .原価等を改善することに主に向けられてきたことをすでに述べた。このよう
な状況の中では開発 目標 の設 定 は比較 的容 易であり,研 究開発投 資配 分 の意 思決定 は各事
業部 門の業績と今後の事 業見通 し,競合他社 の動 向などを考慮 してなされてきた。しかし,その
意思決定には必ずしも明確な判 断基準が設 けられていないか,もしくは判 断基準 が形骸 化 して
いる場合が多い(
高橋 ,1998)0
しかし.上述 したように事 業環境 や技 術環境 の不確 実性 が増すなか,革 新 的な製 品を競 合
他社 に先駆 けて創造する組織 の能 力とともに,革新 的な製 品を創 造する研 究 開発 の有効 性を
高めることが必要である。研究 開発の有効性を高めるためには,限 りある経 営資源をどのような
研究開発投資に分配するかの意思決定が極 めて重要 になっていると考えられる。
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1.
3.
1
正味現在価値法
1
980年代になって,米国では台頭 してきた 日本企 業に対抗するために研究 開発投 資の意 思
決定の高度化が望まれるようになり,1970 年代 に設備投資プロジェクトの評価 に多用されるよ
うになった正 味現在 価 値 法 の研 究 開発 投 資の意 思決 定への適 用 が急速 に広 まった。正 味現
在価値法 は,研究 開発テーマが商 品化されたあとのキャッシュフローを予測 してその現在 価値
と投資費用とを比較することによって投資価値を評価 して,投 資の意 思決 定を行うものであるが,
いくつかの問題 点が指摘されている。
まずは,将来のキャッシュフローを現在価値 に割 り戻すために必要な割 引率である。通 常,割
WACC:Wei
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t
alCos
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)
が用いられるが,将
引率には加重平均資本コスト(
来の収 益が不確実な投 資に対 して,収 益性がある程 度確 定 しているような投 資案件 ,たとえば
現製品の生産設備の追加投資等 ,と同様 の WACCを用いることは妥 当では無いと考えられる
(
コープランド,2002)。しか し,不確 実な投 資である研 究 開発 に関 して合理 的な割 引率を設 定
することは容 易ではない。すなわち,研 究 開発 投 資 は将 来の収 益 が不確 実 であり,テーマによ
って市場の不確 実性 ,技 術 的な成功確 率などが異 なることに対応 して収 益 の不確 実性 は異な
っている。したがって,テーマの収 益の期 待値が 同様 で投 資費用も同様 であるが収 益の確実性
が異なる2つの研究開発投資を考えたとき,同じ割 引率を用いるとこれ らの二つのテーマは同じ
正味現在価値 となるが,それぞれの投資 リスクは異なることから投資価値 は異なると考 えられる。
したがって.それぞれの研 究 開発 投 資 の価 値を評価するには,それぞれ の研 究 開発テーマが
持つリスクを調整 した割 引率が必要と考えられる。
また,将 来の収 益 に関する不確 実性 が高 い研 究 開発 投 資 において正 味現在 価値 法を用 い
てその価値を評価するには,投 資によって開発された製 品によるキャッシュフローを確 定 的に仮
定する必要 があるという問題もある。通 常将 来 の不確 実な収 益 は期 待値 を用 いて確 定 的に計
算されることから,成功 の可能性 は低 いが成功すると大きな収 益が望まれるような投 資,たとえ
ば萌芽的な技術 の基礎研究からの投資や既存 のビジネスモデルの延長上 にない破壊 的イノベ
ーションなどの正味現在価値 は期待値 では負となることが多く,これらの投 資の 多くは見送 られ
ることになる。
たとえば 10%の確率で研究開発が成功 し,成功すれば 10億 円の現在価値 となる事 業が構
築できるが ,90% の確 率 で研 究 に失敗 し全くキャッシュフローが得 られないと評価 されるような
1×10億 円 -1億 円となり,開発投資 に 3千 万 円,開発後の商 品化
投資の期待現在価値 は 0.
投資に 3億 円を要するような研究 開発投 資の正味現在価値 は負となる。しか し,通常の研究開
-6-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
発投資の意思決定では研究開発終 了後に商 品化可否が判 断されることから,3千万 円の研究
開発投 資を行ったのちに商 品化についての意 思決 定を行 い,研 究 開発 に失敗 していれ ば商 品
化のための 3億 円は投資されない。したがって,このときの損 失 は 3千万 円のみである。しかし,
開発に成功すれば 10億 円 -3億 円 -7億 円のキャッシュフローが得 られることになり,研究 開
発のみの投資の価値 は高 いと考えられる。このように,不確実性 の高 い研究開発投 資は.不確
実性が高いがゆえに成功する確率 は低 いが成功すれ ば高収 益事 業に発展する可能性もあり,
これによって市場 の地位 の急 変が引き起 こされる場 合がある。このような不確 実ではあるが成
功すると大きなキャッシュフローが得 られる研 究 開発 に関 して.正 味現在価 値法 は研 究 開発 の
価値を過小 評価する可能 性があると考えられる。また,正 味現在 価値 法 に類 似する投 資価値
l
RR)がある。この手法も正 味現在価値 法 と同様 に将 来の収 益
判断手法 として内部収 益率法 (
を確定的な値 として収 益率を求めることから.正 味現在価値 と同様 に投資価値を過小評価する
可能性は同等である。さらに.正味現在価値法 は額 の絶 対値 として投 資価値を表すが,内部収
益率法は収益率として投資価値を判定するために,l
RR が極 めて高くても収 益の絶対値 の小さ
な研究開発の投資と 旧 R は中程度であるが収 益の絶対値 の大きな研究 開発 とでは収 益の絶
対値 の小さな研 究が選 択されることになり,テーマによって収 益 の絶 対値 が大きく異 なるような
研究 開発の投 資意 思決 定に関しては.内部収 益率法よりも正 味現在価 値 法 のほうが優れると
考えられる。
米国には MBA 出身の経 営者が多く,これらの経 営者が正味現在価値 法 による投資意思決
定を選 好した。一方 .日本 の製造 業には技術 系 出身の経 営者 が多かったこと.株 式持合 いなど
から株 主からの短期 的利益追求への要 求が米 国 ほど大きくなかったことなどから,米 国よりも
長期 的で不確実性 の高い研究開発 に積極 的に投資する傾 向があった 。1980年代以降の 自動
車産業や家電産 業などの分野で生 じた米 国企 業 に対する日本 企 業 の競 争優 位 は.長期 的な
技術開発投 資に対する日米の意 思決定の差 によるとの批判が米 国で多くなされるようになった
(
Faul
kner
,1996)
。
1.
3.
2
リアルオ プシ ョン法
これらの批判から,1990年代になると不確実な投 資対象の価値 の評価へのリアルオプション
法の適 用が検 討され はじめたoリアルオプションは ,BI
ack -Schol
es-Mer
t
on(
1973)
によって
広く普及 した金融オプション価値評価理論を実物 資産 に対 して適 用 したものである。すなわち,
リアルオプションでは,研究 開発投 資を研究 開発終 了後に商 品化できるオプション(
権 利)
と考え
-7一
拍 草/
∴・
:
主宰 '
最 古 吉 日プ
ロETi い′論 丈亜某
る。すなわち,先の例 では.研究開発投 資は研究 開発後に行使価格 3億 円のヨーロピアンコー
ルオプションを 3 千 万 円で購 入することと考 える。この投 資の原 資産 は研 究 開発 投 資完 了後
0%の確率で行使価格を上 回る 10億 円の価値がある。このプロジェクト
(
オプション満期後)に 1
のリアルオプション価値が 3 千万 円を上 回れ ばこのプロジェクトには投 資の意 思決 定がなされ
る。
すなわち,研究 開発投 資意 思決 定 時点で商 品化までを意 思決 定するとして確 定 的に取 り扱
う正味現在価値法 に対 して,リアルオプション法 では研 究 開発終 了時に期 待 した成果が得 られ
ないか,または期待 した市場 が確保できない場合 には商 品化する権 利を行使 しない(
-商 品化
投資を行わない)ことによって,その後 の損 失を未 然 に防止 できると考 えて,この意 思決 定の柔
軟性をオプション価値 として金融資産 と同様 の手法 で求める。すなわち,オプション理論によると,
投 資意 思決 定の柔軟 性を考 慮できないという正 味現在 価 値 法 が持 つ欠 点を解 消 できる。リア
ルオプション法 は不確実性が高く,プロジェクトの進行 によって延期 ,拡張 ,縮小 ,中止などの意
思決定の変更が行われる研究 開発投 資の意 思決 定には正 味現在価値法よりも実際 の意 思決
定プロセスに近く,研究開発投資の価値をより正 しく評価 できるものと考 えられる。
ack -Schol
es-Mer
t
onが 1973 年に確率微分
リアルオプション価値評価手法としては.Bl
方程 式の解 としてヨーロピアンコールオプションの価値を求める解析 的手法を示 して以来 ,Co
x,
Ross,Rubi
nst
ei
n が提 唱する確率微分方程 式を離散ジャンププロセスで近似 した二項格子モ
デル.確率微 分方程 式を直接数値 的に解 くダイナミック・
プログラミングなどが示されており,複
雑なエキゾチックオプションの価値も評価できるようになっている。
t
mannら(
2006)による日米欧の製薬企 業 28社 に関する研究開発投資へのリア
しかし,Har
ルオプションの適用 に関する実証研究結 果 に示されているように. 28 社 のなかで研究段 階で
の開発テーマにリアルオプションを利用 している企 業はまだ 1社もない。リアルオプション法を利
用しない理 由は,
①
評価が複雑 ,
②
経 営幹部や顧 客からの理解が得 られない.
③
解析 の透 明性が不明,
④
オプション価格 についての知識が低い,
⑤
現状の方法 (
最も多い手法 は正味現在価値法で 67% )に満足,
の順である。このように,学術 的には研究 開発のような将 来が不確実な投 資の価値 評価 には正
味現在価値法よりもリアルオプション法が適 しているといわれているのに対 して,産業界 ではこの
ー8-
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位論 糾 j
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手法 は研 究 開発 投 資 の意 思 決 定 法 としての地 位 を確 立 していない。上 述 した利 用 しない理 由を
みると,リアルオプション法 に関 しては価 値 評 価 理 論 に関する研 究 が 先 行 しており,複 雑 な確 率
偏 微 分 方 程 式 の解 法 などが 多く研 究 され ているために,企 業 の経 営 者 もしくは研 究 開発 企 画 関
係 者 か らは複 雑 で難 解 な手 法 と考 えられ ていることが大きな普 及 の 阻害 因子 と考 えられ る。した
がって,実 用 的なケーススタディーによって,従 来 法 に対するリアルオプション法 の優 位 性 の実 証
例 を増 やすこと,さらには経 営者 に対 してよりわか りやす い形 でリアルオプション法 を活 用する方
法 について検 討するなど,今 後 実 用 化 を進 ませるためにはより実 用 性 に関 連 した研 究 が不 可 欠
と考 えられる。
1.
3.
3
その他 の 手 法
その他 の研 究 開発 投 資意 思決 定 手 法 としては評 点法 やデイシジョン・
ツリー法 などがあるO評
点法 には企 業独 自の評 価 基 準 (
阿部 ,1
993)
の ほか に.表 1
.
2に示す BMO法 (田代 ,
1
998)
な
どがある。これ らの手 法 は前 項 で述 べ た定 量 的な投 資価 値 評 価 法 をすべ ての研 究 開 発テーマ
に対 して適 用 できない場 合 にスクリーニングする手 法 としては有 効 かもしれないが .評 点へ の主
観 の影 響 の 問題 があると考 えられ るほか .近 年 の不 確 実 な経 営 環 境 では研 究 開 発 投 資 価 値
評価 は短 い時 間 間 隔 で定 期 的 に実 施 する必 要 があると考 えられ ,この手 法 では一 貫 した価 値
評価 基 準 で投 資価 値を定 量 的 に評 価 できないことか ら,継 続 的な価 値 評 価 には不 向きであると
考 えられる。
表 1
.
2 BMO法 による開発テーマ評 価 チャー ト
恵力度
適牡鹿
1 売上 .
利益の可能性
( ) 1 資金 力
( )
2 成長の可能性
( ) 2 マーケテイング力
( )
3 競争状況
( ) 3 製造 .
オペレーション力
( )
4 応用範囲の広さ
( ) 4 技術 .
サービス企画 力
( )
5 業界再構築の可能性
( ) 5 商品 .
情報入手 力
( )
6 特別な社会状況
( ) 6 マネージメント サポート
( )
( )
( )
魅力度合計
適牡鹿合計
事業度 -魅 力度合計+適社度合計
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論
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また.ディシジョン.
ツリー法 は,リアルオプションの価 値評価 手 法 のひとつである二項格 子モ
デルに類似 しているが,ディシジョン・
ツリー法で用 いられる割 引率 は通 常 WACCであることから,
ツリ
正確な価値 評価ではないことが指摘されている(
コープランド,2002)Oしかし,ディシジョン.
ー法法の特徴 は視覚 的であり,意 思決 定者 に対 してわかり易い利点がある。したがって,ディシ
ジョン・
ツリー法 と類似 した取 り扱 いを行う二項格 子 によるリアルオプション法 は,リアルオプショ
ン法の実用化の障害 となっている解析 の複雑 さ,経 営陣への説 明の困難さを除外する方法 とし
て.有望と考えられる。
1.
4
本論文の 目的 と構成
以上述べたように,日本 企 業の研 究 開発 部 門 は現在 大きな岐路 に立っており,経 営戦 略を
実行する部 門として,その有効性 と効率性 の向上が求められている。そこで,本研究 は,これか
らの企業の研究 開発部 門が有効性 と効率性を向上させるために具備すべき能 力を検 討するこ
とを目的とする。
上述 したこれまでの研 究 開発部 門の有効 性 と効 率性の研究 の成果をもとに,本 研究では外
部環境 の変化の 中での経 営戦 略の変遷 に関する研 究を調査 ・
分析 するとともに.経 営戦 略の
観 点から今 日のように経 営環 境が不確 実で且 つ多様 化 した市 場 のなかでの 日本 企 業 の研 究
開発部 門が具備すべき能 力について検 討する。方法 としては,近 年 日本 企 業で開発 に成功 し
た複 数の新 商 品開発事例を調査 して,その開発 の成功要 因のなかか ら変化への対応 能 力を
抽 出.検 討 し,それらのなかで共通する変化へ の対応能 力を明らかにする。また,欧米 型の M
&Aやアライアンスによる変化への対応 と対比 して,日本企 業の研究 開発部 門が育成すべき変
化への対応能 力について検 討する。続 いて,研 究開発型の優 良企 業における組織能 力向上活
動を実証分析 して,研究開発の有効性 と有効性を向上させる組織能 力を検討する。
さらに.研究 開発 の有効 性 に大きく影響する因子である研 究 開発投 資意 思決 定手法 に関 し
て.リアルオプション法を取 り上 げ,実際の研究 開発投資意思決 定への適用のケーススタディー
を行う.ケーススタディーではある企業の SBU(
St
r
a
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egi
cBu
s
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n
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sUni
t
)
内で計画された複 数
の研究開発投 資案件へのリアルオプション法 の適用 による意 思決定 の高度 化 について実証検
討する。さらに,このうちの 1つの研究 開発テーマをとりあげ,投 資価値最大化 のために,2項格
子を拡大 した 4 項格子モデルを構築 し,研究 開発投資計画の価値最大化手法を提 案し.その
有効性を検証する。
最後 に,以上の結 果を総括 し,日本企 業の研 究開発部 門の有効性 と効率性を向上させるた
-10持 晴大字 入学杭轟、
F
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,
'
研究 杵
、
′
‖
揃丈用紙
めの今後の研究課題を抽 出する。
参考 文献
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千 日
号
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沃 侶紙
第 2章
研究開発効率性の向上のための組 棲 能力
第 1章 で述べたように,急激な市場の多様 化と技術の進化 による市場 と技術の将来動
向の不透 明化のなかで,企 業の研究 開発部 門が果たすべき役割もまた急速 に変化 してい
るものと考 えられる。そこで,本章 では,まずこのような激 しい外部環境 の変化 の中で企 業
の経 営戦 略が現 在 どのように変遷 しているかについて調 査 し,経 営戦 略 の観 点から今 後
の企業の研究 開発部 門が具備すべき組織 能 力について検 討する。方法 としては,近 年 日
本企 業で開発 に成功 した複 数 の新 商 品開発事例 を調査 して,その個 々の開発 の成功要
因のなかから開発を成功 に導いた組織 能 力を抽 出,検 討 し,それらのなかで異なる新商 品
開発事例 の中で共通 している組織能 力を明らかにする。さらに,研究 開発 型企 業として高
い収 益率を維 持 し,且 つ成長を続 けている株 式会 社キーエンスにおける研 究 開発 活動を
上述 した個 々の新製 品の開発成功事例 から抽 出された組織能 力と比較分析 して,今後必
要 となる研究開発プロセスの組織能 力について考察する。
以上 の結 果から,不確実な経 営環境 の変化のもとでの研 究開発部 門の能 力について,
欧米型の M&A やアライアンスによる方法 と対比 して,日本企 業の研究 開発部 門が育成す
べき能 力について検 討する。
2.
1
経 営戦 略 と研究 開発部 門に必要 な能 力の変遷
市場 と技術の進 化の速さと不確 実性 の増大 に対応するために.企 業 はその経 営戦 略を
適応させているものと考 えられる。そこで,本節 では.まず ,これまでの主たる経 営戦 略 の
変遷 について調査 ,検 討する。さらに,市 場 と技術 の変化 に対応するためにとられる経 営
戦 略を実践する上 で.経 営戦 略 の実 行組織 である研 究 開発 部 門が具 備すべき能 力につ
いて検討する。
2.
1.
1
(
1)
軽 営戦略論 の進展
企 業の多角化のための軽 営戦略
1969)によって体 系的に展 開された。彼 は戦略 的意
経 営戦略 は,1960年代 にアンゾフ(
思決 定を,管理 的決 定,業務 的決 定 の上位 に位 置する企 業 における最上 位 の意 思決 定
であり,
「
企 業と環境 との関係を確立する決 定」と規 定した。また,戦 略 的意 思決 定の核心
は,どのような事 業あるいは製 品 ・
事 業を選 択 して競争優位を獲得 し維 持するかであるとし
た。戦 略 的意 思決 定は,他 の意 思決 定と比べると,非 反復 的で高度 の不確実性 に喜んで
11
2
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
いる。彼 によると戦 略 の構 成要素 は(
丑製 品 .
市 場 の領域 ,② 成長へ●
クト
ル,③競 争優位性 ,
960 年代の米 国の企業 は多角化を進 めた時代であり,新たに
④シナジーの4つである。1
進 出すべき製 品 ・
市 場 の選択 にあたっての指針 としての戦 略 的意 思決 定が特 に重要な意
味を持っていた。
70年代になると多角化がさらに進み,多角化した中での企 業管理 ,なかでも多角化 した
諸事業間での経 営資源 の配 分 問題が重要 になった。このような状況の 中で.米国 GE 社
が経 営コンサルティング会社 であるボストン・
コンサルティング・
グループとともに開発 したの
PPM)と呼 ばれる手法 である。この手法 では,
がプロダクト ポートフォリオ・
マネージメント(
企 業を複 数の事 業からなるポートフ*リオと考 え.企 業の成長 と存続 を事 業ポートフが)オ
の更新 とその内部 における資源配 分 の問題 として捉 えた。PPM は,多角化 した企 業にお
ける各事 業単位 (
SBU:
St
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e
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cBus
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n
es
sUni
t
)
への投資戦 略をその SBUが行う事 業
の相 対 的マーケットシェアと市 場 の成 長 率か らグループ分 けして,それぞれ のグループに
応 じた投 資配 分を行うことによって,ポートフがノオ全休 の価 値を最 大 化するように資源配
分の意思決定を行う手法である。
さらに,80 年代 になると多角化 した企 業全体 の戦 略である上述 した企 業戦 略とともに,
企業 内の個 々の SBUの戦略 ,すなわち事 業戦略の重要性も認識 されはじめた。事 業戦略
論 には,① 主 に外部環 境 に着 目した競 争戦 略アプローチと,② 企 業 内部 に着 目した資源
ベースアプローチとがある。以下にその各 々について述べる。
(
2)
義争戦略アプローチ
競争戦 略アプローチは,伝統 的にはマーケテイングをルーツとする経 営戦 略である(
ポー
ター ,1982)。このアプローチでは,企 業が参 入 している,もしくは参 入 しようとしている産 業
ならびに市 場セグメントにおける競 争 の状 態 と自社 の地位 についての基 本 的な認識を確
認・
共有 して,それをもとに経 営資源を戦略 的に組み合わせて自社 が優位 に立てる可能性
が高 い産業や市場セグメントに自社 の経 営資源を集 中させて競 争相 手 に対 して差別 的な
競争優位を確立 しようとする。競争優位を獲得するために考慮すべき力として 5つの力.す
なわち
①
参入障壁 ,
②
代替財 の脅威 ,
③
買い手の交渉 力,
-13-
長張fj
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、
言
二
院経 済学 研究 枠 」
∴1
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T
l
工'
1日用 T
y
④
供給者 の交渉 力,
⑤
既存プレーヤ間の競争状態,
を考 え,これを各産業セグメントで分析 して,自社 の競争 力が発揮 できる産 業とそのセグメ
ントを認識 し,そこに集 中することによって競 争優位を獲得する。
なお.Bar
ney(
1991)が指摘するように,競争戦 略アプローチでは.選 択された戦略 的ポ
ジションにおいて競争優 位を獲 得するために必要 となる能 力や資源 は,これを自社 に保有
しない場合は市場から容 易に調 達できると考え、その獲得 は戦略構築の影響 因子とならな
い。また,ある市場セグメントに参 入 している企 業が制御 できる経 営資源 はほぼ同様 である
と仮定している。
(
3)
資源ベースアプローチ
競 争戦 略アプローチに対 して,資源 ベースアプローチでは,経 営資源 のうちヒL.
モノ・
カ
ネなどの物 的資源 は市 場 で調 達 できるが,技 術 ,ノウハウ,信 用 ,業務プロセスなどの情
報 的資源 やこれを運 用する能 力は.その企 業が独 自に発展させ,獲得 してきたものであり.
市場で容易に調 達 できないと考 える。各セグメントに参 入 している企 業それぞれが持 つ情
報 的資源 やこれを活用する能 力は企 業によって不均 質に存在するために,そのセグメント
の選 択そのものよりも,そのセグメントで活 用される経 営資源 の不均 質さが競 争優 位 の源
ney(
1991)
は ,この ような競 争 優 位 を生 む経 営 資 源 の特 徴 を,
泉 になると考 える。Bar
VRI
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uabl
e, 旦ar
e, 旦
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eand世onsubst
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e)であると説く。
各 々の特徴 の概要 は以下のとおりである。
Val
uabl
e:参 入 しているセグメントにおいて.機会 を広 げ.脅威を弱体 化させるような経
Va山abl
e」な資源 と規 定する。この資源 により,戦 略実行 の有効
営資源を「
性と効率性がこれを持たない競 合他社 よりも高くなる。
Rar
e:
競合他社も「
Val
uabl
e」
な経 営資源を保有 していては,競争優 位が達成でき
ない。したがって競争優位を達成するには.その経 営資源 はその企 業だけ,
あるいはその企業を含む特定の企 業群のみが保有 しており,他 の企 業は保
e」なものでなければならない。
有 していない「Rar
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mi
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abf
e: 参 入 す るセグメントにお いて.特 定 の 企 業 の 経 営 資 源 が
「
Val
uabl
e」で「Rar
e」であったとしても,その経 営 資源 が他 社 によって模 倣
されやすけれ ば,獲得された競争優 位を持続 できない。したがって,持続 的
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4付
帝
人
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J(日 日論 文旧紙
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な競争優 位を獲 得するために必要な経 営 資源 は.他社 が完全 には模倣 で
きな い 特 徴 を有 す る必 要 が あ る 。模 倣 しに くい 経 営 資 源 の 特 徴 は
Bamey(
1991)
によると,①その企業の国有の歴史 に起 因した資源 ,②経 営
資源 と競 争優 位 との関係 が明確 に解 明され ていない資源 ,③企 業 の組 織
的な特徴 が複雑 に影響 して形成された資源 ,である。
Non・
subst
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ut
abl
e:「Var
uabl
e」で 「Rar
e」な経 営 資 源 を有 し.そ の 経 営 資 源 が
「l
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l
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mi
t
ab]
e」であったとしても,その経 営資源 と戦 略的に等価な
結 果を生む経 営資源 が他 に存在 し,それを競 合する他社が保有 していれ ば,
競争優 位 は維持 できない。たとえば,ある企 業の経 営資源 として「
優れた意
思決 定を行う経 営者 」がいたとする。もちろんこの経 営者を完全 に模 倣する
ことはできないが,複 数 の経 営メンバーで「
優れた意 思決 定を行う経 営グル
ープ」
を形成できれば,この経 営グループは模倣 しようとしている優れた経 営
者 とは異なるが.優れた経 営者 を持つ企 業とほぼ等価 の意 思決 定を行うこ
とができ,等価な経 営成 果を得ることができる。このように持続 的競 争優 位
を与 える経 営 資源 は,他 の経 営 資源 によって等価 な結 果を得ることができ
にくいものでなければならない。
VRI
Nな経 営資源の例 としては,汀 技 術 (
Mat
a, Fuer
standBar
ney, 1995),戦略 的
事 業 計 画 (Mi
chal
i
si
n,1997),組 織 配 置 (Powe日,1992),信 頼 関 係 (
Bar
ney and
Hansen,1994)
,組織文化 (
Ol
i
ver
,1997)
などが提 案されている.
資源ベースアプローチでは,VRI
N な経 営資源を持続 的競争優位 の根源 と考える。しか
し,経 営資源 の価値 は.その企 業が参 入 している市 場 セグメントに依 存 して異なるはずで
Nな経 営資源を有する企 業が持続 的競争優位
ある。したがって,ある市場セグメントで VRI
N な経 営資源 の価値を長期 間認めてい
を維持できるのは,その市 場セグメントがその VRI
i
em(
2001)らが指摘 しているように,資源 ベースアプロ
ることが前提 である。すなわち,Pr
ーチでは外部環境が長期 にわたって不変であることを暗に仮 定している。
しかし,近年各市場セグメントにおいて競 争優 位を達 成するために必要 となる経 営資源
は変化速度を速めており,外部環境 の不変性を仮 定 している資源ベースアプローチは,外
部環境がダイナミックに変化 している中での経 営資源 のあり方 についての指針を与えるに
は不十分である。一方で,競 争戦 略アプローチでは,競 争 力を有するとして選 択された市
-1
5長 崎
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;::
J
Il
i
:
二
院
結
宮
川!
花畑
弓、
論え用紙
場セグメントの不変性を仮定 している。しかし.外部環境が変化 している中では競争優位が
達成される市場セグメントでの地位 は技術や市 場 の変化によって容 易に崩壊すると考 えら
れる。これ らを実証するように,近年では競 争戦 略アプローチまたは資源ベースアプローチ
によって正 しい経 営戦 略 の意 思決 定を行った優 良企 業が,それ による競 争優 位を達成 し
たがために市場 の変化 に関する対応 力を鈍 らせ ,破 壊 的なイノベーションによる市 場 と技
001)。すなわ
術の急激な変化 に追従 できなくなる例 が 多く発 生 している(
クリステンセン,2
ち,上 記二つの戦 略アプローチはいずれも,産 業 や市 場 のいずれもかもしくはいずれかの
構造 が不変もしくは変化が緩 やかであることを前提 としており,近年 の市場や技術が激 しく
変 化 している環 境 のなかでの企 業 の経 営戦 略 の指 針 を与 えるには不 十分 であると言 え
る。
ダイナ ミック ・ケイパ ビ リテ ィー
ダイナミック・
ケイパビリティーの概 要
市場 と技術の変化が激 しくなる中で生まれた新たな戦 略アプローチが,ダイナミック.
ケイ
パビリティー ・
アプローチである。ダイナミック・
ケイパビリティーとは,ダイナミックに変化する
市場 環境 のなかで時機を得た対応をとることによって,すばやく柔軟 に製 品イノベーション
Ei
s
enhar
dt
,2000)。すなわち,ダ
を起 こして競争優位を獲 得する能 力と定義されている (
イナミック・
ケイパビリティー ・
アプローチでは,急速 に変化する市 場 においては,その企 業
が固有 にもつ種 々の経 営資源 そのものよりも,自社 の経 営 資源 を最 も有効 に活 用できる
市場セグメントを見つけ,そこへの製 品投入 に必要 な形 に要素 的な経 営資源をすばやく他
社よりも早く再構 築 して競争優位を達成する能 力が必要であり,この能 力.すなわちダイナ
T
eec
e,1
997)
0
ミック.
ケイパビリティーが競争優位 の根源であると考える(
このアプローチは.資源ベースアプローチを発展 させたものであり,資源ベースアプロー
チと同様 に企 業内部 の戦略 的因子のなかに競争優位 の根源を求める。異なる点は,資源
ベースアプローチでは競 争優位 の源 泉をその企 業に固有 の価値 のある経 営資源 と考 える
が,ダイナミック.
ケイパビリティー ,
アプローチでは企業の外部環境 に対する企 業 内組織 の
対応 力や適応 力が競争優位の源 泉と説くことである。ダイナミック・
ケイパビリティー ・
アプロ
ーチでは企 業固有の VR州 な経営 資源 そのものではなく,企 業 内部 に不均質に存在する
経 営資源 や外部にある資源を,対象とする外部市場 の要求 にあわせるように再構 築し,異
なる内部 資源を融合させて対応 力を高める能 力に戦 略 的価 値 があると考 える。このような
-1
6出
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汁先 手をJ ,論 文 眉
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揮
能 力は市場では獲得 しにくく,単 に必要 となる経 営 資源を調 達 しただけでは機能 しない。し
たがって,このような能 力が高い企業はその能 力を他社 から模倣 されにくく,持続 的競 争優
位が達成されると考 える。Wi
nt
er
(
2003)によると,ダイナミック・
ケイパビリティーとは,経営
環境 に応 じて経営 資源を変化させる速さ(
経営 資源 の時間による一次微 分 およびさらに高
次の微分)として定義される。
ダイナミック・
ケイパビリティーを理解するには,企 業を次 の 3つの次元から分析する必要
がある(
¶∋
ece,1997)0
1)マネージメントプロセス
企 業において実践されている業務の行われ方 (
ルーチン)で,協働/
統 合のルーチン,
組織 的学 習のルーチン,再配分のルーチンからなる。
2)ポジション
その企 業が現在 保 有 している技 術 .知財 などの経 営 資産 .支 持顧 客層 ,サプライ
ヤーやその他 の外部 団体 との関係 。
3)パス
その企 業がこれまでにたどってきた経歴 と,その結 果としての現 時 点で選 択するこ
とのできる経営戦 略。
このうち,ケイパビリティーとして現れるのはマネージメントプロセスであり,ポジションやパス
がそれを規 定 している。以下にマネージメントプロセスとして表れる3種 類のルーチンについ
て述べる。
(
2)
協働/統 合のルーチン
マネージメントプロセスのなかで,協働/
統 合のルーチンは企 業 内部でのルーチンとともに.
最近では外部 との協働/
統 合 ,すなわち戦 略 的提携 ,バーチャルな組織 ,技 術 的連携など
による外部 との協 働/
統 合 のルーチンの重要 性 が増 している。このルーチンに関 しては.
Cl
ar
k と Fuj
i
mot
o(
1991)が 自動車会社 における新車 開発プロジェクトに関する実証研究
において,自動車 会社 によって企 業 内または系列企 業 間での協働/
統 合 のルーチンの差
son と
異が開発のコスト 期 間,品質に大きく影響することを報告 している。さらに,Hendar
Cl
ar
k(1990)は米 国における写 真乾 板製 造企 業 の研 究を行 い,技 術 的イノベーションが
起 こったときに協働 や統 合 に関する新 しいルーチンを確立する速さとその品質が,イノベー
ションに対する企 業の生存 に大きく影響することを示 している。すなわち,ある定 常 的な状
-17-
長崎 大 T)
、
学 院路
T
J
/J
r
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,
・
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i
f
日 付論 え用紙
態での協働 と統 合 のルーチンを 0 次 の能 力とすると.市 場 の変化が生 じたときに協働 と統
合 のルーチンを変化させる能 力は 1次のダイナミック・
ケイパビリティーといえる。
0次 の能
力が高 い企 業 は,環 境 の変 化 に対 してすでに確 立 した強 固なルーチンが 障 害 となって変
化を妨 げることが 多い。一 方 ,新規 参 入 企 業 にはこの 0次 の能 力が無 いために,変化 に対
応 した新 しい協働 や統 合 のルーチンの獲得 が容 易 になる。これが,破 壊 的イノベーションが
生 じたときに新 規 参 入 企 業が市 場 の地 位 の確 保 に成 功 し,すでに市 場 で確 固たる地位 を
獲得 していた優 良企 業がその地位を失う原 因となっていると考 えられる (
Wi
nt
er
,2003)0
(
3)
学 習能 力と再 配 分能 力
Teece は,協働 と統 合 のルーチンの獲 得 よりもさらに重要 なケイパ ビリティーとして学 習
能 力を挙 げている。組 織 における学 習 は,反復 と実験 によって,ルーチンをより効 果 的に,
より速 く実 行するために必 要 な能 力であるとともに,新 製 品 の投 入機 会を見 出すための能
力でもある。学 習 は組 織 を構 成する個 人 の能 力 とともに組 織 としての能 力も向上 させ る。
基 本 的 に学 習 は社 会 的 .集 団 的なプロセスであることか ら,その効 率 向上 には組 織 内 の
個 人 間のコミュニケーションと協働 して反復 ,実鼓 し,フィードバックする方 法 が必要 であり.
学 習能 力は組 織 内でのコミュニケーション能 力 と強 く関わっている。学 習 によって生まれた
新 たな組 織 の知 識 は,新 しい組織 的活 動 に生 かされ ,さらに学 習することによって組 織 の
新 しい知識 が継 続 的 に獲 得 される。そのスパイラル 的な学 習 活 動 の 中で知 識 が組 織 内に
蓄積されるとともに.学 習 の結 果 として他 社 か ら模 倣 され にくい協 働 と統 合 のルーチンが生
み 出される。また,変化する市 場環 境 の 中での組 織 的学 習 として,コラボ レーションやパー
トナーシップのなかでの学 習 も重要 性 を増 している。これ らの新 しい学 習 によって.その組
織 の 中で機 能 不 全 に陥ったルーチンと戦 略 上 の盲 点が認 識 され ,これ らを改 善 する能 力
が高 められる。
さらに,学 習能 力に関連する能 力として経 営資源 を再 配 分 し変化させる能 力が挙 げられ
る。この能 力は.変化する市 場への対応能 力であり,企 業が保 有 している経 営資源 の構 成
や組 み合わせを再 配 分 する必要 性 を感知 する能 力 とこれ によって必 要 と判 断された内部
的/
外部 的な構造 の変化を達 成する能 力の二つに分 けられる。
これ らの能 力を高 めるためには,ベンチマーキング等 によって市 場 や技 術 を常 にサーベ
イすること,外部 で認識 されたベストプラクティスをいち早 く自らの企 業 に受 け入 れることが
必要 である。経 営 資源 の再配 置 や変 化 には費用 がかかるので,他 社 よりも効 率 的に的確
-1
8-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
な変化を達成するために.環境 を正確 に把握する能 力.市場 と競 合を的確 に評価する能
力,競 合よりもすばやく変化を達成する能 力が必要 であり,このためには権 限委譲 が有効
と考えられている。
2.
1.
3
軽 営戦 略の変遷 に伴 う研究 開発部 門の役割 の変遷
以上述べたように,1980 年代 以降の経 営戦 略論 は外部環境 に着 目した競争戦 略アプ
ローチと企 業 内部 に着 目した資源ベースアプローチに大 別でき,これ らはいずれも緩 やか
な市場環 境 の中での経 営戦 略を示すアプローチであった。近 年 になって市 場 の変化速 度
が著 しく速まった結 果 ,外 部 および内部 の変化 の不 変性を仮 定 したこれ らのアプローチで
は変化への対応が必要な戦略の方 向を示せず,新たな戦略論としてダイナミック・
ケイパビ
リティー ・
アプローチが提 唱されるようになった。ここでは.これらの経 営戦 略の変化に対応
させて,企業の研究開発部 門の役割 の変化 について考察する。
競争戦略アプローチは ,5つの力を分析することによって市場 の中に持続 的競争優位を
達成 できるセグメントを見つけ出し.そのセグメントで競 争優位 を達 成するように経 営資源
を配分することを戦 略の主眼とした。この経 営戦略 の中で.研 究開発部 門はその企 業が保
有する知的資産の束 であり,参入すべき市 場セグメントを選 定するための戦 略 的要 因の一
つと位置付 けられると考えられる。すなわち,企 業が保有する研究開発部 門が持つ技術や
知識 は所与 のものとして戦略構 築に活用されるが.戦略構 築のために研 究開発部 門が積
極 的に果たす役割 は少ないと考 えられる。したがって,その企 業が参 入すべき市 場セグメ
ントにおいて競争優位を達成するために必要な技術資源などを自社 の研 究開発部 門が保
有 していなけれ ば,それを外部 から容 易に調 達できるものと考 える。以上 の考 察か ら競 争
戦略アプローチにおいては,研 究 開発部 門が競争戦 略上で重要な地位 を占めるとは考え
にくい。
一方 ,資源 ベースアプローチでは企 業を経 営資源 の束 として考 えることから,研究 開発
部 門が持つ技術や知識 は,企 業の競 争優 位 の根源 を生む重要な経 営資源 として位 置付
Nな資源であるこ
けられる。資源ベースアプローチで重要な経 営資源 は上述 したように VRI
Va山abt
e)と評価 さ
とから,その企 業が参入 している市場セグメントにおいて,価値 がある(
れる独 自に開発 した(
Rar
e)
技術で,特許 で権 利が保護 された(
l
mper
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ect
l
yl
mi
t
abl
e)
技術
で ,且 つ この 特 許 を 回 避 した 代 替 技 術 で は 同 様 の 性 能 を達 成 で きな い (Nonsubst
i
t
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abl
e)技術を開発できる研究 開発部 門は VRI
N な経 営資源 として持続 的競争優
-1
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F
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目 論 文吊紙
位 の根 源 と位 置 付 けられると考 えられる.したがって,資源 ベースアプローチにおける企 業
の研 究開発部 門の 目的 は ,VRl
N な技術 の開発 であるoこのために,90年 代 になるまで大
企 業 は競 って基礎 的な研 究を行 う中央研 究 所 を設 立 し,規 模 を拡 大 して,莫 大 な技 術 開
発 責を投 入 してきた。市 場 の変化 が緩 やかな状 況 下 では,研 究 開発 投 資 資金 が増加 して
も築き上 げた市 場セグメント内での地位 によって高 い収 益 率 が確 保されてきたことか ら,投
資 回収 が可能 であった。このような状 況では.研 究 開発 プロセスは新 しい物 理現 象 の発 見
などの基礎 研 究成果を商 品化するプッシュ型 の研 究であり,第 1章 の図 1.
1 に示 したよう
な基礎 研 究 ⇒応 用 研 究 ⇒開発 研 究 ⇒設 計 ⇒製 作 ⇒配 送 ⇒販 売 という一方 向のリニアプロセスからなる研究 開発 であった。
しかし,1990年代 に入ると.市 場 や技術 の変動 は激 しくなり,且つ将 来の不確 実性 が増
してきた。図 2.
1(
安部 ,2004)に我 が国の種 々の製造 業 における研 究 開発 費/付加 価値
額 を示すが,医薬 品事 業を除いた各種 の産 業分 野 において 1単 位 の付 加価 値額 を得 るた
めに必要 な投 資額 は年 々増 加する傾 向が見 られ ,研 究 開発 投 資効 率 は継 続 的に低 下 し
ている。したがって,研 究 開発 部 門も従 来 の直線 型プロセスによる研 究 開発 では市 場 の動
きに追従 できず .研 究 開発部 門としてのダイナミック・
ケイパ ビリティーを高 める必 要 がある
ものと考 えられる。
5
3
0
3
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99
2001
(
年)
(
資料)
経済産業省「
工業統計表」
各年版、稔務省r
科学技術研究調査報告」各年版より作成
図 2.
1 1単位の付加価値獲得に必要な研究開発投資額の推移
-20長崎
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済
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.
論文 用 紙
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'
2.
2
研 究 開発 部 門 に必 要 な能 力
本 節 では企 業 の 研 究 開 発 部 門 の組 織 におけるダイナミック・
ケイパ ビリティー につ いて議
論 するoこのため に,国 内 企 業 において開 発 ・
商 品 化 に成 功 した 8つ の事 例 につ いて,それ
ぞれ の 開 発 責 任 者 の 事 例 報 告 を元 に,開 発 ・
商 品 化 の 成 功 を支 えたダイナミック・
ケイパ ビ
リティー を個 別 に抽 出 す る。さらに,それ らの なか か ら各 事 例 に共 通 す るダイナミック・
ケイ
パ ビリティー につ いて検 討 す る。
2.
2.
1
成 功 した 開 発 プ ロ ジ ェ ク トに 関 す る事 例 研 究
検 討 事 例 は ,2004年 12月 か ら2005年 12月 にか けて,テクノロジー マネー ジメント誌
1に示 す 8例 である。これ らには ,我 が 国 において製 品 化 に成 功 した開
に掲 載 され た表 2.
発 責 任 者 の講 演 結 果 が事 例 報 告 として取 りまとめ られ ている。
表 2.
1 本 研 究 で検 討 した製 品 開 発 事 例
企業
(
1)
製品
講演者
富士写真フイルム
デジタルカメラ
・
上田博造 元副社長
(
秩)
東芝
HDD&DVDレコーダ
片岡秀夫 デジタル AV事業部 参事
日産自動車(
秩)
新型フェアレディ-Z
湯川伸次 商品開発本部 主管
シャープ(
樵)
液晶テレビ
船田文明 ディスプレイ技術開発本部 副本部長
三菱電捷(
秩)
世界標準暗号
松井充 情㈱
三共(
樵)
高脂血症治療薬
中村和男 元研究開発部 現シミック(
秩)
社長
ソニー(
樵)
CCD
越智成之 テクニカルアドバイザー
合研究所 技術部次長
富 士 写 真 フイル ム にお けるデ ジタル カメラ開 発
6mmカラーフィル ム が
富 士 写 真 フイルム は ,大 きな収 益 源 であったテレビニュース用 1
1980年 代 に入 ると ENG(
El
ec
t
r
oni
cNewsGat
her
i
n
g)
の 導 入 によって急 に売 れ なくな
った の をきっか けに,デ ジタル カメラの 開 発 に着 手 す る。半 導 体 というこれ までの 富 士 写
真 フイル ム には 一 見 シナジー の 無 いように見 える製 品 分 野 でどの ように開 発 が 行 わ れ た
か が 示 され ている。事 例 報 告 か ら抽 出 され た開 発 を支 えたダ イナミック・
ケイパ ビリティー
1に示 す 。要 約 す ると以 下 の とおりである。
にか かわ る記 述 を付 表 2.
1)協 働 /
統 合 の ルーチン
-21持 帰 工学 大学 ド
,
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・
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千早 甘究廿 、
[
'
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:論 引 用 \
● 研究と開発の溝を埋めるための研究所と工場 間の人事異動
●
商品化のための新会社 の設立
2)組織 的学習のルーチン
●
●
失敗を許容する風 土
収益 力がある大きな事 業があるうちに,5-10%の研究費を優 秀な人材を集め
て明確な目標を与えた探査研究に充 当
3) 経営資源再配分のルーチン
●
●
トップダウンで,生産と開発 の両方 に経鼓がある人材を収 集
開発早期の新会社 の設立と人材 の登用
(
2)
東芝における HDD&DVD レコーダ開発
東芝 はビデオレコーダ開発 においてβ陣営 に属 したため,デファクトスタンダード化 し
た VHS 陣営に属 した競合他社 に対 してシェアを落とした。そこで次世代のレコーダであ
る DVD レコーダについてはハードディスクドライブ (
HDD)を組み合わせた機種を他社 に
先駆 けて市場投入 し,この市場でトップシェアを取っている。事例 報告 から抽 出された開
2に示す。要約すると
発を支えたダイナミック・
ケイパビリティーにかかわる記述を付表 2.
以下のとおりである。
1)協働/
統合のルーチン
●
通 常の管理職 (
部 門長 )と異 なるディレクタおよびプロデューサの育 成 ,配置 に
よる部 門間の組織 文化の壁 の打破 ,プロデューサの段 階 的なキャリアを積 ませ
る人事制度。
●
●
●
共通 した強い信念
2) 組織 的学習のルーチン
社 内の研究開発部 門内の非公式な知識 の場(
メーリングリスト)
の設立
3) 経営資源再配分のルーチン
記述無し
(
3)
日産 自動車 における新型フェアレディーZ開発
ゴーン社長の下で再建を達成 した 日産 自動車 は,新型フェアレディーZ の開発 によっ
てその復活を象徴づけている。その短期 間での開発の事例報告から抽 出されたダイナミ
ー22長崎 大字
)こ学
院締 甘 辛研究 枠 、
召 :,
二論 文j
H紙
ツク・
ケイパビリティーにかかわる記述をとりまとめて,付表 2.
3 に示す。要約すると以下
のとおりである。
1)協働/
統 合のルーチン
●
●
●
●
社 内異動 による村意識 の変革
トップマネージメントが示す闘争心 と挑戦心をあおる明確な目標
2) 組織 的学習のルーチン
記述無 し
3) 経 営資源再配分のルーチン
権 限委譲
(
4)
シャープ(
秩 )における液 晶テレビ AQUOS 開発
実用化を開始 して,69年 にはその表示用機
シャープは 1964年 に電卓の研 究開発 ・
器 として液 晶の開発 に着 手 し,87年にカラー液 晶を事 業化 している。研究 開発から実用
化までを一 貫 してリードしてきた開発責任者 の事例 報告 から抽 出されたダイナミック・
ケ
4に示す。要約すると以下のとおり
イパビリティーにかかわる記述を取 りまとめて,付表 2.
である。
1)協働/
統 合のルーチン
●
●
●
●
●
●
コアコンピタンス戦略
2) 組轍 的学習のルーチン
技術 的機会主義 (
Sr
i
ni
v
as
an,2002)
大学 ・
学会 との人脈
好況期 に次世 代の布石を打つ社風
3)経 営資源再配分のルーチン
権 限委譲
同一人物による研究開発から工場建設 .運 営までの一貫した担 当
(
5)
三菱電機 における世界棲 準暗号 NJ
STY開発
T,l
Cタグなどあらゆる分野 に活用されているO三菱電
暗号技術 は今では携 帯電話 ,l
STY」,携 帯 電話 の国際標 準 暗号 「KASUMりを
機 は 日本 の電子政 府推 奨 暗号 「MI
開発 ・
実用化 している。事例報告から抽 出されたダイナミック・
ケイパビリティーにかかわ
-2
3長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
る記述をとりまとめて,付表 2.
5に示す。要約すると以下のとおりである。
1)協働/
統 合のルーチン
●
現場との密接な関係
2) 組織 的学習のルーチン
●
●
技術インキュベーションを継続 できる仕組み
学会 のコミュニティーとの人脈
3) 経 営資源再配分のルーチン
●
トップマネージメント
●
権 限委譲
(
6)
三共における高脂血症治療薬 開発
高脂血 症治療薬 「メバチロン」は.年間 1500億 円の売上を計 上 し,この分野でのトッ
プシェアを誇る治療薬である。「
メバチロン」の商 品開発プロジェクト・リーダーで,その後
45歳で会社 を退職 し.日本 初 の医薬 品開発 受託 会社 を起 業 した起 業家による事例報
告 か ら抽 出されたダイナミック・
ケイパ ビリティーにかかわる記 述 を取 りまとめて,付 表
2.
6に示す。要約すると以下のとおりである。
1)協働/
統 合のルーチン
●
同期入社 のネットワーク
●
●
価値観 の共有
プロデューサ制度,プロジェクトチーム制
●
分社 化
2) 組織 的学習のルーチン
●
●
●
失敗を許容する風土,制度
多様性を許容 し,奨励する風土
3) 経 営資源再配分のルーチン
権 限委譲
(
7)
CD開発
ソニー (
秩 )における C
トランジスタラジオで成功 したソニーは,ビデオカメラの心臓部 品である C
CD開発に遅
れをとっていた。しかし,長 年アンダーグラウンドで研 究を続 けた開発者 がこの遅れを挽
-24長
崎
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弓
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手
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崩
結 i'
芋冊 ′
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Z
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論
え用紙
回 し.世 界 ではじめて家庭 用 ビデオカメラの商 品化 に成 功 している。その開発 者 の事例
報 告 か ら抽 出されたダイナミック,
ケイパ ビリティー にかかわる記 述 を取 りまとめて.付 表
2.
7に示す。要 約すると以下 のとおりである。
1)協働/
統 合 のルーチン
●
市場ニーズ志 向
●
危機 感 の共有
2)組織 的学 習 のルーチン
●
●
●
失敗 を許 容する制度 ,文化
3) 経 営資源再配 分 のルーチン
クロスファンクショナルチーム
研 究所 の開発 関係者 の事 業部異 動 による製 品化 .商 品化
●
トップマネージメント
(
8)
デンソーにおける二次 元 レーザーレーダー開発
デンソーはトヨタ自動車 の系列企 業で.カーステレオやパ ワー トレインを生 産 している。
開発者 は 自動車 の安 全装 置 として近 年高 級 車を中心 に搭載 が始 まったレーザーレーダ
ー用 の高 出 力 レーザーダイオー ドの開発 商 品化を他 社 に先駆 けて行 っている。開発 者
の事例 報告 か ら抽 出されたダイナミック・
ケイパビリティーにかかわる記述 を取 りまとめて,
8に示す。要 約すると以下 のとおりである。
付表 2.
1)協働/
統 合のルーチン
●
記載なし
2) 組織 的学 習のルーチン
●
常 にユーザーを意 識 した企 業 家精 神 のある基礎 研 究者 による先行 研 究への投
資
3) 経 営資源再配 分 のルーチン
●
研 究所 の開発 関係者 の事 業部異 動 による製 品化 ,商 品化
2.
2.
2
プ ロジ ェク トの成 功 を支 えた ダ イナ ミック ・ケ イパ ビ リテ ィー
ケイパビリティーをまとめて,義
以上 の 8件の製 品開発事例 から抽 出されたダイナミック・
2.
2に示す。表 2.
2では,合計 8件 の製 品開発事例 に各 々のダイナミック・
ケイパビリティー
ー25長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
が述 べ られ ていれ ば 「O 」を,関連 あることが述 べ られ ていれ ば 「△ 」を.触 れ られ ていなけ
- 」を記 入 して.最 後 のカラム に合 計 点 数 (「O 」- 1点 ,「
△ 」-0.5点 .「
- 」=o点 )
れ ば「
を記載 している。
抽 出されたダイナミック・
ケイパ ビリティーのうち,ほとんどすべ ての製 品 開発 事 例 に共 通
していたの は ,研 究 所 ・
工 場 間 ,または工 場 内での部 門 間 の人 事 異 動 である。これ によっ
て社 内 での人脈 とそれ にともなう信 頼 関係 が 形 成 され るとともに,製 品 開 発 プロジェクトを
効 率 的 に実 施するために必 要 なプロデューサ 的人材 の育 成を助 けると考 えられる。
次 に多かったの は,先 行 基 礎 技 術 へ の投 資 とプロジェクト リーダー (
プロデューサ )へ の
権 限委譲 である。このうち.先 行 基 礎 技 術 へ の投 資 は長 期 間 の投 資 であり.ダイナミックに
変化する市 場 においてある特 定 の基礎 技 術 へ の長 期 間 の投 資 は.その技 術 が活 用 される
製 品 が市 場 の需 要 に合 致 しない場 合 の リスクが大 きく,ダイナミック・
ケイパ ビリティー とは
合 致 しないように見 える。しか し,これ らの 開 発 例 では長 期 にわたる先 行 基 礎 技 術 へ の投
表 2.
2 8つの製 品 開発 事 例 か ら抽 出されたダイナミック・
ケイパ ビリティー
ノ
レーテン
ダイナミック.
ケイパビリティー
(
手 ②
協鰍 統合
③
製品開発事例
㊨ ⑤ ⑥ ⑦
分社化
○
研究所.
プロ
デュ工場間等の社内の人事異動
ーサ的人材の育成
○ ○ ○ ○
1.
0
○ ○ 5.
0
先行技術への投資
○
○ ○
失敗を許卑 奨励)
する風土
社内外の公式.
非公式な知識の場
○
○ ○ ○ 4.
0
○ ○ ○
4.
0
○
○
技術的焼会主義
経営資源
再配分
3.
0
○
同期入社のネットワーク
組織的学習
○ ○ 4
7.
○ A
5
○ ○ ○
明確などジョン
計
2.
0
○
△
⑧
権限委譲
トップダウンでの優秀な人材再配分
○
○ ○ ○ ○ ○
○ ○ ○
1.
0
5.
0
4.
0
-26-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
資があったことが,その後 の製 品化の重要な要素であることが述べられている。したがって,
基礎技術への先行投 資 に関しては,限られた研 究開発 予算を効 率 的に投資するために,
研究者 の技術 的探 究心 によって投 資意 思決 定するのではなく,企 業の経 営戦 略 と整 合 し,
且つ市場ニーズにあった投 資戦 略の策 定が重要 である。このためには開発意 思決 定者 が
社 内異動を通 じて培った市場ニーズ感知能 力が必要 となる。米 国ではダイナミック・
ケイパ
ビリティーとして M&A やアライアンスが挙 げられているが.今 回の調査 においてはそのよう
な外部からの技術導入の必要性を説 いているものはないOこの先行技 術への投 資の必要
については次節で改めて考 察する。
また,プロデューサへの権 限委譲 は 5件 の開発プロジェクトが必要なケイパ ビリティーと
考 えているが,これ は市場 のダイナミズムに合わせて意 思決 定を柔軟 に早く行うために有
効な組織能 力と考えられる。
さらにダイナミック・
ケイパビリティーの主要な構 成要素 である組織 的学 習能 力に必要な
能 力として開発 責任者 の 多くが挙 げているものは,失敗を許 容する風土である。市場 のニ
ーズと技術 の不確実性が増すにしたがって,新製 品の開発 の成功確率 は低くならざるを得
ない。このようななかで,失敗を許容 しない組織 では,二つのことが起 こりうると考 えられる。
すなわち,
①
失敗する可 能性 が高 いプロジェクトが提 案されない。これ により,他社 に対する競
争優位を生む新製 品の開発能 力が低下する。
②
失敗を容易に公表 しない。これにより,担 当者 が失敗すると認識 した時点ではその
プロジェクトをすぐに中止 .縮 小または方針 変換することができず,長期 間無駄 な
投資が続 けられてしまう。
この 2点である。また,失敗を許容 し,且つ失敗 から学ぶ風 土を醸成することは,上 述 した
プロデューサ 的人材を育 成する上 でも不可 欠 の組織 能 力と考えられる。すなわち,プロデ
ューサは関与するすべての開発 に成功することは極 めて困難なことから,失敗を経余 しな
がら知識を吸収する。したがって.失敗 が許容されない組織 においてはこれ らの失敗 で成
長 す るプ ロデ ュー サ を育 成 できな い 。また ,技 術 的 な 失 敗 を許 容 す る風 土 は ,
Sr
j
ni
vasan(
2002)
らが指摘 している技術機会 主義 (
Technol
ogy Oppor
t
uni
sm)と類似す
る概 念 と考 えられる。要素 技術 の開発者 はその開発 に注 力すれ ばするほど,その技 術の
開発がその技術を使った製 品の開発よりも優 先される。これによって他 の優れた要素技術
が 自らの製 品においても競 争優位 がある場 合 にこの要素 技 術を選 定できなくなってしまう。
-27-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
これに対 して市 場 のニーズに合致 した新 製 品の開発 が主要な 目的である場 合 は,自らが
開発 した要素技術よりも優れた技 術が生まれると,それ らから学 習 して新たな知識 が得 ら
れる。このような開発 の柔軟性が新製 品の開発 の成功確 率を高めることに貢献するものと
考えられる。
また,組織 的学 習能 力として,野 中等が提 唱している社 内外 での知識創 造 の「場」の重
要性を半数の開発責任者 が指摘 している。これは,社外 のコミュニティー (
場)との交流をも
つことによって急激 に変化する技 術 と市 場 の動きをセンシングために必要である。さらに,
不透 明な市場環境 のなかで将 来の新製 品の方 向性を決 定するためにも有効 と考えられる。
すなわち,不透 明な市場環境では,新製 品に求められる性能を明文化,形式知化しにくく,
社 内外の異なるコミュニティーに参 画 している個 人の暗黙知を形式知化 してさらに集 団とし
ての暗黙知を形成 し,製 品ターゲットとして集 団の形 式知 化する必要 がある。この知識 ス
パイラルを速く回して.仮説 ,検証を繰 り返すことが,不透 明な市 場環境で売れる新 製 品を
開発する鍵 となるダイナミック・
ケイパビリティーであると考えられる。
以上述べたように,8つの製 品開発事例 から抽 出された企 業の研 究 開発部 門に要 求さ
れるダイナミック・
ケイパビリティーのなかでほぼ共通 して必要 とされていた組織能 力は以下
のとおりである。
(
D
プロデューサ的人材を育成するための,研 究 開発 部 門以外 の事 業部 門で経験 を積
ませる人事制度 。
2.
2.
3
②
技術動 向と企業の経 営戦略とにフイットした先行技術への投資。
③
技術 開発から新製 品の商 品化までをプロデュースする責任者への権 限の委譲 。
④
失敗を許容し,失敗から学習する風土と技術 的機会主義。
⑤
社 内外の公式,非公式な知諌創造の場 。
考察
企 業の研究 開発部 門に課せ られた主要な使命 は,新 製 品の開発 と既存 製 品の改 良で
ある。これらの使命を達成するためには,開発または改 良した製 品が他社 の代替製 品より
も市場 の需 要 に合致 していること,需 要 が顕在 化 したときに先 に市 場 投 入できることが要
求される。すなわち.研 究 開発部 門には上述 したダイナミック・
ケイパビリティーのなかの級
織 的学 習 のルーチンに対応 した①市 場 の需要 の変化 と市 場 の需要 に合致する技術 の進
歩を的確 に把握できる能 力 (
感知能 力)と,協働 /統 合 のルーチンと資源再配分のルーチ
-28
1
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
ンに対応 した②市場 の需 要 と技術 とを組 み合わせて速く商 品化する能 力 (
対応能 力)が要
求される。
上述 した8つの製 品開発 事例 の検 討結 果から,ダイナミックに変化する市 場 と技 術に対
応するために企 業の研 究 開発部 門が具 備すべき共通 のダイナミック・
ケイパビリティーとし
て5つが抽 出される.このうち,① ,② ,㊨ ,⑤ の能 力は感知能 力に,(
D,③ の能 力 は対応
能 力に関わると考 えられる。以下ではそのそれぞれの能 力の育 成法 における我 が国の企
業の特徴 と進むべき方 向について考察する。
(
1)
感知能 力
従 来から.企 業の研究 開発部 門には技術動 向の感知能 力が要求されてきた。このため
研究 員は関連する学 協 会 に出席するとともに大 学 との連 携 を進 めて,新 しい技 術 動 向を
把握するとともに.自らの研究室で新 しい技術 的知識の獲得 に努めてきた。しかし,近年の
技術の進歩 と細分化 は著 しい。例 えば.日本金属学会 の 2006年度秋期 大会では 100を
越 えるセッションがあり,技術 の細 分化 と専 門化が急 速に進んでいる。また,製 品も多様化
し.例 えば発 電プラント事 業では火 力,水 力,原子 力発 電が長く主要な発 電設備 であった
が,近年これらに加 えて.太 陽電池 ,燃料 電池 ,風 力発 電 ,バイオ発 電,ガスエンジンなど
多様 な発 電方 式が開発 ,実 用 化されている。さらに,市 場 のニーズは多様 化 しており.早
に製 品のコア技 術 によって決 まる主要 な性能だけでは市 場 に認 められず .メンテナンスを
含めたライフサイクルコストやアフターサービスのサポート体制など多様な顧 客ニーズをもと
に,新 製 品を開発 ・
設計する必要 が生 じている。したがって,企 業 の研 究 開発部 門の限ら
れた人 的資源 で事 業に関連する技 術 分野 .製 品分野すべての技 術 について自社 内で研
究開発を行って育成することは極 めて困難 になっている。
このような状況の中で,新製 品にかかわる技術と市場の変化の感知能 力をどのように育
成 していくかは極 めて重要な問題 である。上述 した検 討の結 果.技術 と市場 の変化への感
知能 力は,製 品開発 のプロデュ-サによってその 多くが担 われていると考 えられる。また,
プロデューサ 的人材 は,社 内での研 究開発部 門と事 業部 門との人事 異 動制度 によって製
品やその企業の強み,弱みを種 々の異なる面から見る眼を養 うとともに自らが基礎要素技
術 に関わる研 究を実施することによって新技 術 の有効 性を見る眼をも同時 に養 うことによ
って,長期 間をかけて育成されている。企 業 内の各部 門を経族することと,要素 技 術研究
を深く実施 して新技 術 の有効 性を見る眼を養 うことを両立することは極 めて困難 ではある
129-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
が,これを両立する人事制度を持つことが不透 明な市場 と技 術の環境 のもとで,成功する
製 品開発を行うためのダイナミック・
ケイパビリティーであると考えられる。
米 国においては,市 場 と技術 の感知 能 力の 多くはベンチャーによって担われていると考
えられる。すなわち,多様 なベンチャーの試 行錯 誤 の製 品開発 によってその一部から萌芽
的市場が形成されると,米国の大企業 はこれを察知 して資金 力などの経 営資源をもとに萌
芽 的市場を開拓 したベンチャーを M&A やアライアンスすることによってその技術 と市場を
吸収 して,大きな市 場へと育成 し競争優 位を獲 得 している。日本 においてもこのような動き
が今後活発化する可能性 はあるが.現 時点ではベンチャーの数が圧倒 的に少ない。さらに,
M&A やアライアンスに関する市場形成も十分ではなく,また,大企 業もこのような契約 に関
する能 力が低 い。したがって,これ らの能 力や仕組 みを国として導入することも重要 ではあ
るが,現状では企 業 内で長期 間を掛 けて人材育 成の一環 としてプロデューサを育成する必
要があり,且つこの手法 が均質な人事 制 度 や協 調 性を持つ我が 国の国民性 が有 利 に作
用する手法であると考 えられる。また,日本企 業における人事制度 と社 内での人 間関係を
重視 したプロデューサの育成 は,終 身雇 用制 という米 国企 業にはない慣行 に依 存 しており.
この制度 と従 業員の企 業に対する強 い帰属意 識を活用 したほうが米 国企 業 に対 して競争
優位を発揮できる可能性 は高いと考えられる。
(
2)
対応能 力
上 述 したように,欧 米 では萌 芽 的な市 場 形 成 を注 視 して,その技 術 をアライアンスや
M&A によって取得することが新 製 品開発 における主要なダイナミック・
ケイパビリティーの
ひとつと考えられている。この手法 によれば,いち早く専 門家を集 めて経 営資源 群 として再
構築することができるが.組織への帰属意 識 が低く,共通 の明確などジョンを持たないため,
メンバー間の信頼 関係 は希薄である可能 性がある。このような組織で短期 間で成果を得る
ためには,製 品開発チームに明確な契約 とインセンティブを与 えるとともに,非 常 に強 いリ
ーダシップが必要 と考えられる。
事例 研 究 によれ ば,我が国で成 功 した製 品開発 は企 業 内の各部 門か ら再配 置 された
人 的資源 からなるグループを前述 したプロデューサが統 括する。従 来 型 の職 能 型組織 は
開発 目標 が明確 で試行錯誤 的な後 戻 りがないルーチンには効率 的であると考 えられるが,
市場 と技術 の環 境が不透 明な状況 では.職 能 型 の組織 による段 階 的な開発 は変化への
対応 力が低 い。したがって,職 能横 断型 のいわゆるクロスファンクショナルチームによって
-30
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
新製 品の開発が行われる方 が効 率 的であるが,チームに配属 される人材 が問題 である。
職 能 型 の組織 とクロスファンクショナルチームのマトリックス型経 営においては,人材を職
能 型組織 からクロスファンクショナルチームに派 遣する必要 があるが,一般 に職 能 型組織
のマネージャは優 秀な人材をその組織 の成果 と直結する本 来 業務である定常 的な業務 に
配置 しようとして,クロスファンクショナルチームへの派遣を蹟措するであろう。このようなな
かで職能型組織 の優 秀な人材をクロスファンクショナルチームに派遣するには.チームリー
ダであるプロデューサがそれまでに培ってきた社 内人脈 とトップマネージメントによるプロデ
ューサへの権 限委譲が重要である。
また,従 来型の企 業においては,マトリックス経 営といっても職 能 型組織 のマネージャが
会社組織 のヒエラルキーを形成 しており,プロデューサはそのヒエラルキーの外 にある傾 向
がある。さらに新製 品の開発が主な使命であるプロデューサは,市場や技術 の不確実性が
増すにしたがって.製 品開発 に失敗する割合も増えてくる。これに対 して職 能組織 のリーダ
は定常 的な業務を実行することから失敗 が少ない。したがって,優 秀な人材 はプロデュー
サよりも職 能組織 のリーダになることを好み,またそのほうが報われることになる。このよう
な状況では優 秀なプロデューサ は育たないことから.失敗を許 容 し奨励する風 土とともに,
プロデューサ型 人材 へのインセンティブ制度 が新 製 品の開発 を目標 とする研 究 開発 部 門
には必要なケイパビリティーであると考えられる。
このように日本企 業は変化への対応能 力を社 内人材 でまかなうのに対 して,米 国企 業
は社外人材を M&A やアライアンスの手法を使って対応能 力を高めている。したがって,日
本企 業にとっては長期 間を要するプロデューサの育成が最も重要であり,米国では契約能
力や業務フローの調整能 力が重要 になるであろう。変化への対応能 力は,優秀なプロデュ
ーサが育成できれば,変化のたびに契約や調 整が必要な米 国企 業よりも日本企業が優位
に立てる可能性がある。しかし,優 秀なプロデューサの育成 には時間がかかる。そこで,日
産 自動車で採用されているような集 団統 治型の開発プロジェクトは興 味深 い取 り組みであ
る。すなわち,1 名のプロデューサに全権を委任するのではなく,明確なコミットメントをメン
バーに与えたあと,数名の各部 門.たとえば研究部 門,設計部 門,マーケテイング部 門,工
作部 門などのリーダが集 団となって開発プロジェクトを推進する方法である。この方法 によ
れ ば.優 秀な 1名のプロデューサの長期 的な育成を待たなくても,ダイナミックな活動が必
要な新製 品開発組織を構成できる可能性がある。
ー31-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
2.
3
研究開発型企 業 に必要 な能 力
以上の研究結 果から,不確実な経 営環境 の中で新製 品の商 品化を成功させるためには.変
化を感知する組織能 力と感知 した変化 にすばやく対応する組織能 力が必要 であり,これ らの能
力を維持 ・
向上させるためには.企 業 内の複 数 の部 門を経鼓 し,社 内外 に幅 広 い人 的ネットワ
ークを持つプロデューサ的人材 による組織横 断型の商 品開発プロジェクトチームが有効 である
ことを明らかにした。しか し,上 記 の研 究 は商 品開発 に成功 した各企 業 における商 品開発プロ
ジェクトについて着 目したために,個 々のプロジェクトの成功 に必要な組織 能 力を明らかにする
ことはできたが,企 業 として商 品開発を継続 して成 功させるための組織 的な能 力を抽 出するに
は不十分である。
そこで,本節では,企 業として継続 して新製 品の商 品化 に成功するために必要な能 力を抽 出
することを目的として,研究開発 型企 業として継続 的に成長を続 けている企 業に着 目し,その売
れる新製 品を継続 して市 場投入する組織 能 力について前節で考 察 したダイナミック・
ケイパビリ
ティーの観 点から分析 し.研 究 開発 に継 続 して成 功するために組 み込 むべき組織 能 力を抽 出
する。
2.
3.
1
事例 研究の対象企 業
研究対象企 業 は,株 式会社 キーエンスである。キーエンスは 1974 年創 業の FA(
Fact
or
y
Aut
omat
i
on)
用センサ,自動制御 機器 .計 測機器 ,情 報機器 ,関連する電子応 用機器 ,オプト
エレクトニクス機器ならびにこれらのシステムの開発 ,製造販 売を行っている資本金 306 億 円
(
2006年 10月現在 )の企 業で,従 業員数 は約 2600名である。
図 2.
2にキーエンスの過去 5年 間の売上高と経 常利益の推移を示す。売上高 .経 常利益と
も年々拡大 しており,1972年に会社 が創 立されて以来 ,常に 50-70% の成長を維持 しつづけ
ている(
武藤 .1991)。また,ここ 5年の売上高経 常利益率 は 45% 以上を常に維持 し,2005年
9% に達 しており.製造 業の中できわめて高い利益率を常に誇っている。社 名のキー
度には 57.
「
キー ・
オブ・
サイエンス」の意 味で,創 業者である滝崎氏 (
2006年 10月時点で会長 )
エンスは,
のもと,発売後 2,3年の新製 品が売上 の 5 割 以上を占める研 究開発型の企業である。この業
界ではオムロンや松下電工など先行するセンサーメーカが煤 烈な競争を行っていた。そのような
経営環境の中で中小企業であったキーエンスが,数%台の利益率であるオムロンに対 して長年
にわたって高収 益を上 げ続 けるとともに成長を続 けている組織能 力杏,本章 ではダイナミック・
ケ
イパビリティーの観 点から検 討する。なお,検 討 は,キーエンスに関する書 籍 ,文献調査 ならび
ー32-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
にキーエンスの営業ならびに技術 関係者 に対 して実施 したインタビューに基づいて行う。また,
キーエンスが出席 した特 許 .科学技 術論文を,競 合であるオムロンと比較 して.キーエンスの研
究開発活動の特徴を抽 出する。
2001
03
nu
1
00
50
■
経 常利益 (
百 万 円) .
「.
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L.」.
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*柾盤 .
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■
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._.
L
日
501
03 Lr
200 1
年度
200
2
年度
2003 年度
2004
年度 2005年 度
図 2.
2 キーエンスの過去 5年間の売上高と経常利益の推移
2.
3.
2
キー エ ンス にお ける研究 開発活動
キーエンスにおける研 究 開発 活動をその特 許活動 と技 術論 文投稿 活 動 から分析 し,その結
果を競 合他 社 であるオム ロンと比較することによって,キーエンスにおける研 究 開発 活動 の特
徴を抽 出する。
-3
3長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
表 2.
3に両社 の売上 高 ,経 常利益 ,研 究 開発 費 ,特 許執 筆 件 数 1
,技 術論 文投稿 数 2を比較
して示す。ここで,売上 高 および経 常利益 は平 成 18 年 3 月決 算 の単独 の値を用 いる。一方 ,
研究 開発費 は有価 証券 報告書 に記載 されている,平成 17 年度 の両社 のそれぞれのグループ
の研究 開発貴を示す。
表 2.
3 キーエンスとオムロンの売上高,経常利益,研究開発責,特許執筆件数,技術論文投稿数
指標
売上高(
百万円)
キーエンス
オムロン
1
36,
292
31
2,
072
経常利益(
百万円)
78,
8
49
31,
830
売上高経常利益率
57.
9%
1
0.
2%
研究開発費(
百万円)
5,
957
50,
501
売上高研究開発費比率
4.
4%
1
6.
2%
1
04件
759件
特許出願数
キーエンスの売上高 はオム ロンの 4割 程度 であるが,経 常 利益 はオム ロンの約 2.
5倍 である。
キーエンスの売上 高経 常利益率 は 57.
9% と製造 業 としては驚異 的な高 い業績 を示 しているの
に対 して,オムロンは 10.
2%であり,この業界 のほぼ平均 的な利 益率 である。一 方 ,キーエンス
の研 究開発 責 はオム ロンの約 1/
9程 度で,売上 高 研 究 開発 費比 率 は,キーエンスが 4.
4%でオ
ムロンが 16.
2% となっている。経 済 産 業省 平成 17年企 業活動基 本 調査 速報 によると,平 成 16
年度 の製 造 業 全体 の売 上 高 研 究 開発 費比 率 は 4.
21% ,電 子 部 品 ・
テ◆
ハ'
ィス製 造 業 のそれ は
4.
26% であることから,キーエンスの売 上 高 に対する研 究 開発 費 はほぼ業界 標 準 である。これ
に対 して,研 究 開発 費 が経 常利 益を上 回るオム ロンは,極 めて多額 の研 究 開発 費を投 入 して
いるといえる。一 方 ,オム ロンの特 許 出席 数 ,学 術 論 文 投 稿 数 はキーエンスのそれ のそれぞれ ,
7.
3倍 および 68倍 であり,特 許 出願 件 数 は研 究 開発 費 の比 率 とほぼ対応 している。また,オム
1
2
特許 は 2
00
4年に公 開された両 社 の特 許 出展 数を,検 索エンジン Pan
ap
at
ol
i
c
sを用 いて調査 した。
さらに,学 術論 文投稿 数 は科学 系学 術論 文検 索エンジン J
Dr
eamnを用 いて,著 者 の少なくとも一 人に両社 の技 術者 が含
まれている学 術論 文 の 2
000年 -2006年 1
0月までの投稿 論 文 数を調 査 した。
-34-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
ロンの学術論文 投稿 数 はキーエンスに比べて圧倒 的に多い。研 究成 果 のひとつの尺度 として
特許 出願を考えると,特 許 出願 数と研究開発 費 はほぼ対応 しているが,学 術論文数で見ると,
キーエンスの学術論 文投稿 数 はオムロンに比べると圧倒 的に少ない。すなわち.オムロンは極
めて多額 の研 究 開発投 資を行っており,学 術論 文などの科学 技 術分 野 には貢献 しているが ,
キーエンスに比べると会社 の収 益への貢献 は少ないと言える。
以上から.キーエンスは,他社 と同等程度 の売上高比率の研 究開発を行 いながら,極 めて高
い利益をあげている企 業であるといえる。すなわち,キーエンスはセンサー事 業という研 究 開発
型の業界 にあって,売上高 の 30%が製 品開発 して 2年 以内の新製 品が 占める(日経 ビジネス,
2003)ことによって継続 的に高い収益率を誇っているが,研 究開発費 は他社 と少なくとも同等程
度であり,この他社 と同等 の研究責を極めて有効 に利用 して新製 品を開発 している。これは「
最
1989)を,
小の資本 と人で最大の経済効 果 (
付加価値 )を上 げる」という同社 の経 営理念 (
滝崎 ,
まさに具現 した形となっている。そこで次節では,キーエンスの新製 品開発 の効率性 の源 泉をダ
イナミック・
ケイパビリティーの観 点から検 討する。
2.
3.
3
キー エ ンスの ダイナ ミック ・ケイパ ビ リテ ィー
2.
2節 において抽 出された研究開発部 門に必要なダイナミック・
ケイパビリティーは次の 5つで
ある。すなわち,
① プロデューサ的人材 を育 成するための.研 究 開発部 門以外 の事 業部 門で経験 を積
ませる人事制度 。
② 技術動 向と企業の経 営戦略とにフイットした先行技術への投資。
③ 技術開発から新製 品の商 品化までをプロデュースする責任者への権 限の委譲 。
④ 失敗を許容 し.失敗から学習する風土と技術 的機会 主義。
⑤ 社 内外の公式,非公式な知識創造の場 。
以下にその各 々について.キーエンスの組織能 力の観 点から検討する。
(
1)
プロデューサ的人材 の育成
図 2.
3にキーエンスにおける新製 品開発 のフローを示す(
ダイヤモンド会社探検 隊 ,
2005)
。営
業部 門から開発 ・
設計部 門までが各事 業部を構 成 している。プロダクション・
マネージメント部 門
は全事 業部 に対 して対応するコーポレート部 門となっており.すべての製 品を外注製作するファ
ブレス方式を採用している。
ー35長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
キーエンスでは営業部 門が"コンサルティングセールス"と称 して,顧 客 のもの作 りや研 究 開
発 の現 場 に入 り込み,顧 客も気付かない潜在 ニーズを掘 り起 こす。このため,商社 や販社を使
わない完全な直販体 制をとっており,またリース会社 を経 由した製 品のリースも行っていない。
顧 客から信頼を得るために営業部 門には高い技術 的な知識が要求 されることから,キーエンス
の営 業職 は全 員が技 術 系 の学校 を卒 業 している(
浪江 ,2005)。多くの大企 業で営 業部 門 は
「売 り子 」と考 えられ ,
「
用途 開発を含 め製 品の機 能 については開発 部 門の仕事 」と考 えられて
いる(日経 ビジネス.1997)のとは営業部 門の考 え方 が異 なっている。したがって,この営 業部
門に潜在顧 客ニーズの掘 り起 こしと製 品の用途 開発 の業務 が与えられているキーエンスの経
営戦略 は,少ない投 資で大きな付加価値を生む新商 品の効 率 的な市 場投入 の源 泉のひとつと
なっていると考 えられる。すなわち,キーエンスでは,これからの研究 開発部 門に必要な市 場 の
変化の感知能 力は,全 国に配 備されている技術 的な素養 のある強 力な営業部 隊によって維持
されている。
顧 客 の工場を熟知 した営 業からの顧 客ニーズは,ニーズカードとして製 品企画部 門に伝 達さ
れる。製 品企画部 門はこのように提案型の営業を行ってきた営業部 門や開発部 F
l
lの経駿者 の
2節で
異彩な人材ミックス(
小 日向 ,1998)からなっている。この異 彩な人材ミックスは,まさに 2.
議論 したプロデューサ 的人材 にあたるものと考 えられる。すなわち,キーエンスでは営 業部 門,
開発 ・
設計部 門を経鼓 した人材を製 品企画部 門に集め.この部 門で営業部 門から上がってきた
顧 客の潜在ニーズと自らの経族 と人 的ネットワーク,さらには顧 客への市場調査などを通 じて新
商 品が企画されている。ここでは,組織 の壁 は取 り払われ,各企画部 良問の 自由なコミュニケー
ションにより個 々の企画部 員の経験 の溝が埋められ,潜在ニーズをもとにした「
顧 客 が喜ぶ」商
品企画が行われているものと考 えられる。企画案が生まれると企画 ・
開発担 当者全 員で着 手 に
プロダクション
営業部門
◇
製 品企画部門
◇
↓
開発 .
設計部 門
マネージメント部 門
↓
図 2.
3 キーエンスにおける新製品開発のフロー
-36-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
値する企画かどうかが検 討される。評価 の最重要ポイントは付加 価値 の最大 化 である(
武藤 ,
1
991)。キーエンスの 中で数 々の新 商 品を生み 出す企 画部 門の担 当者 は「スーパーエンジニ
ア」と呼 ばれる(
浪江 ,
2005)
。このスーパーエンジニアは「
とにかく現場 に出向き,現 状を調査す
る基本動作を繰 り返す ・.・
最低で数十社 ,多いときには 1
00社 の顧 客を訪れて.ラインに入 り込
んで顧 客の隠れた本音を聞いてまわる。」とされ ,このような組織 的学 習を通 じて暗黙知である
顧 客 の潜在ニーズが組織 の形 式知 として商 品企 画されていく。このようにして,顧 客 や開発部
門との交流 の中で,企画担 当者 はプロデューサとしての能 力を磨くものと考えられるo
3に示したキーエンスにおける製 品開発フローは,第 1章 で述べたクラインによる商
また,図 2.
品開発 におけるリンクド・
チェーン・
モデルとも合致 しており,キーエンスの高 い収 益率 と研 究 開
発効率 は,市場洞察 に基づく新商 品開発 のフローにその一 因があるものと考えられる。さらに,
図 2.
3に示 したように,キーエンスの組織 には技 術本部などの事 業部 門から離れた研究 開発部
門がなく,研究開発 と設計 とはひとつの部 門を構成 しており,フラットな組織 となっている。このよ
うに組織 がフラットで,且つ組織 間の壁 がないことから,各職 能 間での情 報 や知識 の流れが阻
止されず.製品開発に種 々の知識が必要なプロデューサを育成 しているものと考えられる.
(
2)
技術動 向と企 業の経 営戦 略とにフイットした先行技術への投資
図 2.
3に示 したようにキーエンスには企業の中央研究所や基礎 研究所 に相 当するようなコー
ポレートの研究開発部 門 は無く,研 究 開発 は製 品企画部 門で新商 品が企 画され,開発 の方 向
性が決 定されたあとで実施される。また,学 術論 文 の報告 数ならびにその 内容を見ても,基礎
的な研 究 に関するものは皆 無である。以上 のことから,キーエンスにおいてはシーズ型 の基礎
研究 は全く行われていないと考 えられる。これ は技術担 当者へのインタビューにおいても確 認さ
れている。
すなわち,すべての研究 開発 は具体 的な開発 目標 が設 定されたあとに着 手 ,実行される。こ
の結果,
企業の経 営戦略 にフイットした開発 は行われるが,そのための先行技術 は 自前ではなく,
2 節 で考 察 した
他機 関で行われている先行研究を詳細 に調査することによって獲得される。2.
0年を超える基礎 研究があってこそ商 品開発 に成功
製品開発に成功したプロジェクトの多くは 1
したことが示され,開発者 の多くは先行技術への投資が必要 であることを説いているが,キーエ
ンスは 自らの基礎研究によって技術 的な感知能 力を高めるのではなく,企画される新商 品の具
体 的な開発 目標 が設定された段 階で外部 の先行研究をサーベイし,その後 に開発研究 に着手
する。これによって.例 えば新たにレーザーマーカーを開発 した担 当者へのインタビューにあるよ
-37-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
うに「
まずは.軍 事技 術 に優れたアメリ九 ドイツの先行技術を徹 底 的に調 査 した.それから,そ
れぞれの国の見本市 に出向き,名刺を配 り人 的ネットワークを作った。その後 は顧 客 の潜在二
-ズに合致 し自らが加 えられる付加価値を検 討 しレーザーの小型化研 究を実施 して 2 年 間で
商 品化 した。長年,固体 レーザー一筋 にやってきたアメリカやドイツの技 術者 にはちょっと出てこ
ない発想」(
ダイヤモンド会社 探検 隊 ,2005)という,開発 目標 のためには要素 技 術 にはこだわ
2 節 における商
らない技術的機会主義が浸透 した効率 的な開発が行われている。すなわち,2.
品開発者が重要 と位置付 けてきた独 自の先行技 術開発 は,自前 主義に陥 り,短期 間で付加価
値 の高 い商 品を顧 客 に届 けて高い利益率を確 保する経 営とは相 容れないとキーエンスでは考
えている。
このように考 えると,キーエンスはたとえば基礎 研究所を持つオム ロンと比べると,学 術論文
に投稿されるような科学技術の深さはないが,新 製 品の開発 目標 が一旦設 定されると,自社 で
はなく広く世界 中のトップレベルの研究 にアクセスして,その 目標 に合 致する最も有望な技術 開
発を短期 間で効率 的に行うことによって,少ない資本で高 い利益率を確保 できる新製 品を開発
できるものと考 えられる.技術 の進 歩 が早 く.開発 の方 向が不透 明で且 つ多様 化する一方で,
技術情報 の調達 が容易 になった今 日の技術環境では,先行要素技 術を自ら開発 しないキーエ
ンスの商 品開発戦 略 は今 後研 究 開発 型企 業が 向かうべきひとつの方 向を示 していると考 えら
れる。
(
3)
技術 開発 から新製 品の商 品化までをプロデュースする責任者 への権 限の委譲
キーエンスでは,創 業者 である滝崎会長 の「商 品開発 には社 内の上 下 関係 は関係 しない」と
いう経 営理念のもと,
「階層意識 の打破」に徹底 的に取 り組んでいる。その一例をあげると,
(
彰 社長 ,会長をはじめ,すべての役職 者 が「さん」付 けで呼 ばれるのみならず,社 内文書 に
「社 員 」という言 い方をしな
も部課 長 といった役職 名を書 くことが禁止 されている。また ,
い。
② 役員食堂や役 員専用のエレベータは全く無く,役 員も社 員食堂では一般社 員と同様 に並
んで食事 をとり,特 別 な座 席 はない。エレベータでも上位 のものを先 におろすことはしな
い。
③ 会議 には定席がなく,会議室 に入った順番 に席 につく。
「
社 員が会社 に忠誠 心を持ちすぎると,かえって活
などである。これ は創 業者である滝崎氏が ,
力がなくなる面もある日 ・
。うちは以前 は中途採 用 の人が 多く,一 匹狼 が集まって仕事をしてい
-38長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
るような,いい意 味での活 力があった=・
。会社への忠誠心が増すにつれてどうも活 力が失われ
ている気がする。むしろそちらのほうが問題 」(
滝崎 ,
1991),
「しっか りかっちりこういう方針 でや
れと上が言うと,下 の人 はそれを聞かなけれ ばならないとなる」(
滝崎,
1997)という考 えをもって
いることに強く影響されていると考えられる。
このような,権 限委譲 が組織 風 土 として確 立されている大きな理 由の一つは,オーナー経 営
者 の考えであることを滝崎氏 自らが指摘 している。すなわち,
「
大企 業では上下 の関係 の中でも
まれた人材が会社 の経 営層につく。したがって階層 の中を下から上 に上がっていくうちに自然に
階層意識が生まれる。しかし,(
キーエンスは)創 業者が経 営者 であり,最 初から社 長であったこ
とから.自らにも階層意識 がない。」という滝 崎氏のインタビュー記事 (
滝 崎 ,1997)である。した
がって.今 後創 業者 が経 営から離れるとき,組 織 風 土 として現在 維 持されている「階層意 識 の
打破 」がどの程度維持できるかが試されるものと考えられる。
いずれにしても現 状のキーエンスでは開発責任者をはじめそれぞれの担 当者へも多くの権 限
が委譲されていると考えられ,組織 的にもその維持 に努めている。
(
4)
失敗を許容 し,失敗 から学習する風 土と技術 的機 会 主義
「
失敗から学習する風
キーエンスに関する文献調査 および関係者へのインタビューにおいて,
「これまでの新 製 品開発 において,ほと
土 」に関する記述 はまったく見 られない。それどころか ,
んど売れずに 1 年間で販売を中止 した製 品は 1つしかない」(武 藤 ,1991)というように,キーエ
ンスの強さの秘訣 として.新 製 品開発 において失敗 しないという点が強調されている。すなわち,
顧 客の潜在ニーズを顧 客の工 場 に入 り込んで感 じ取 り,徹 底 的に検 証 した上で新商 品を企画
して,目標 性能を明確 にした上で開発を行うキーエンスの新商 品開発プロセスの特徴 は,失敗
が少ないということである。一方 ,技術 の不確実性 に起 因した失敗 に関しても.前述 のレーザー
マーカーのように,新商 品の 目標 性能 が明確 に規 定されており,その分 野 の世界 最 先端 の研
究をサーベイしてその中から最 も開発 目標 に近 い技術を探査 したうえで開発 に着手するために,
失敗する確率が低くなる。
このように,キーエンスの研究 開発 のルーチンは失敗 しにくいロバストなルーチンであるが,こ
のルーチンが創 業 当初から確 立されていたとは考 えにくい。創 業者 である滝崎会長 はキーエン
スの前 身であるリード電機設立 以前 に 2回起 業し,廃業 している。このプロセスおよびその後の
キーエンス創 業のプロセス中で失敗 に学ぶ風土 は創 業者 と創 業時からの社 員のなかで培われ ,
現在 のようなルーチンが構築されていったものと考えられる。すなわち.創 業者 の失敗 に学ぶ習
ー39-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
債 によって,現在 のキーエンスのルーチンが構 築されたものと考 えられるOしたがって.創 葉者
が経営者から退いた後 ,どのように失敗 から学ぶ組織 的学習 のルーチンを高度化させていくか
は興味があるところである。
社 内外 の公式 ,非公式な知識創 造 の場
(
5)
キーエンスにおいて最も重要な知識創 造 の場 は,顧 客の工場や研 究 所の現 場である。直販
のコンサルティングセールスフォースが顧 客 との間に太 いコミュニケーション網 を広 く張 り巡 らせ
て,顧 客の潜在ニーズを救 い上 げるとともにアイディアを検 証するインタラクティブな知識創造 の
場を形成していると考 えられる。顧 客との間に信頼 関係を築くために,キーエンスの営業部 門に
は技術的な知識 のほか,コミュニケーションスキルを伸 ばす教育等が準備されており,週 に 1.2
日は全く顧 客 に出向かずに知識を吸収する時 間に割 り当てられている。さらに.他社 では営業
の本 業と考 えられている納 品や見積 もり作 業 は標準 化され ,外 注化されており,営業 は顧 客 と
の間のコミュニケーションに注 力している。営業部 門が築き上 げた多様な顧 客 とのコミュニケー
ションネットワークは,営業部 門を通 じて商 品企画部 門,開発 ・
設計部 門にも受け継 がれ,製 品
開発の種 々のステージでの市場の感知能 力を高めている。
さらに,潜在ニーズから商 品を企画する段 階での社 内的な知識 創造 の場 は,製 品企画部 門
であると考 えられる。ここには営業,開発 ,設計を経鼓 した異 彩が集められており,キーエンス内
でスーパーエンジニアと呼 ばれるプロデューサ 的人材 が企画 の指揮をとっているoさらに,キー
エンスの組織風 土である「階層意 識 の打破 」からこの部 門は極 めてフラットな組織 であると考え
られ,自由な知識創造が行われているものと考 えられる。
2.
3.
4
考察
以上の結 果から.売上高経 常利益率 が 50%を超 えるキーエンス社 の高収 益 は,顧 客 の潜
在ニーズに合った新製 品を他社 に先駆 けて商 品化 し,価格競 争 に陥る前 に次 の製 品を継続 的
に商 品化することによって達 成されていると考 えられる。また,この売れる新 商 品の開発を支え
ているのは,市 場のニーズの感知能 力と感知された市場のニーズから商 品をすばやく開発する
2節で抽 出された研 究開発 における5つのダイ
対応能 力であると考えられる。これらの能 力は 2.
「
先行技術への投 資」
を除くルーチンを組織 文化や組織 のルー
ナミックt
ケイパビリティーのうち.
チンに組み込むことによって維持 向上されている。
この新商 品開発プロセスのなかで最も重要なプロセスは,顧 客の潜在ニーズからいかに高収
-40
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
益の新商 品を企画するかということである。このプロセスについては文献探査 やインタビューで
は触れられていないが,創 業 以来組織 的学 習を続 けてきた経 営者 と現 場 の暗黙知を集積させ
てきたプロデューサである「スーパーエンジニア」の勘 によっている(
ダイヤモンド会 社 探検 隊 ,
2005)ようである。一方で,商 品企画のプロセスでは数十から 1
00社 におよぶ顧客企 業を訪 問し
て,万全な市場調査 が行 われており,開発する商 品の市 場性 ,目標 性能 の妥 当性 が検 証され
ており,商 品化後 の市場 リスクを低減させている。このような顧 客ニーズに焦 点を当てた新商 品
開発 は.経営環境の変化 の速さと不確実性 が増すなか,今後 の企 業が 目指すべき方 向のひと
つであると考えられる。
一方 ,前節 の商 品開発 の成功事例 から抽 出された研 究 開発組織 における5つのダイナミッ
ク・
ケイパビリティーのうち,キーエンスが具備 していないのは「
先行技 術への投 資」である。キー
エンスは「先行技 術への投 資」を実施 していないことが逆 に競 争優 位 の源 泉 となっているように
T技術の進歩等によって,世界 中の最 先端の要素技術へのアクセ
見られる。すなわち,近年の I
スは従 来 に比べて飛荏 的に容 易になっている。一 方で,要 素 技 術 の細 分 化 が進 むなか,各企
業がすでに事業を展 開 している全事 業分野 と今後事 業を展 開しようとしている事 業分野 に関連
する全要素技術を網 羅 的に研 究することは経 営資源 の制約 から極 めて困難 になっている。さら
に,ある分野の要素研究 について選択 的に先行投 資 したとしても,その技術が将 来の新製 品に
適 用できる可能性 は低くなっており,それどころか逆 に自社 で実施 している要 素技 術研 究が足
かせとなって,その他の類似する要素技術 に対する公正な技 術価値評価能 力が鈍ることも考え
られる。キーエンスでは開発 目標 が明確 に定まるまでは要 素技 術 の研 究 は行 わず ,明確な技
術開発 目標が定まった後 に世界 中の関連する最 先端研 究をベンチマークして,そのなかから最
も開発 目標 に合致する要素技術を学習 し,さらにそれに顧 客ニーズを反映 した付加価値をつけ
ることによって開発投 資効 率を高 めている。このような戦 略 は技 術 や市 場 の不確 実性 が増 して
いる今 日の研 究 開発 において極 めて有効な開発 戦 略 であると言 えるが,自ら要素 技 術研究を
行わない中で,開発 目標 に合致する先行要素技 術を探査する技 術価値 評価 能 力をどのように
育成 しているかに関して.ここでは明かすことができなかった組織 能 力を有 しているものと考えら
れ,これらを抽 出することが今後の課題である。
2.
4
研究 開発 の有効性 の 向上
本章では不確実性 と変化の速さが増 している現 代 の経 営環境のなかで.企 業の研 究開発部
門がその有効性 と効率性を増すために必要な組織 能 力について検 討 してきた。経 営環 境が不
ー41-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
透 明化する中で研 究 開発 の有効 性 と効 率性を維 持 向上させるために研 究 開発組織 に必要 な
能 力は,市 場 と技 術 の変化を感知 し変化 に合わせて即座 に対応する組織 能 力,すなわちダイ
ナミック・
ケイパビリティーである。実証 研究の結 果 ,研究 開発組 織 におけるダイナミック・
ケイパ
ビリティーは,
(
彰 プロデューサ的人材の育成 .
②
技術 開発から新製 品の商 品化までをプロデュースする責任者への権 限の委譲 .
③
失敗を許容 し,失敗から学習する風土と技術 的機会主義
④
社 内外の公式,非公式な知識創造 の場 ,
の4つであることを提案 した。これ らの組織能 力を高めることは,不透 明化する市場や技 術で生
じている変化をいち早く察知 し,その変化が 自社 の事 業 に及 ぼす影響 を的確 に評価 し,その変
化 に合わせて自社 の経 営資源を適切 に再 配分させて,その変 化 に対応する財 やサービスをい
ち早く市場 に投入することを可能 にする。このうち,市場 や技 術 の変化 の感知能 力は研 究 開発
の有効性を向上させ,対応能 力は効率性を向上させると考 えられる。
本研 究 によって,研究 開発 の有効 性を高 めるうえで重要 な要 素 は,上 記 の 4つのダイナミッ
ク・
ケイパビリティーのうち主として社 内外 に人的ネットワークを持つプロデューサを育成すること
であることを示 した。すなわち.製 品開発 の成功事 例 ならびに成 功企 業では.社 内での種 々の
分野を経験 して市場と技術に関する感知能 力を高めた新商 品企画 のプロデューサが,それまで
の経鼓 と人 的ネットワークによって蓄積 した暗黙知 と形式知をもとに商 品を企 画することによっ
て製 品の市場での成功率を高めている。しかし,今後 ,ますます市 場の潜在需要が 多様 化する
とともにその移 り変わりが速くなり,市場 の潜在需要を感知 し,市 場 に認知される新製 品を継続
して市 場に提供できること,すなわち研究 開発 の有効性を高 めることはますます困難 になると考
えられる。
経 営環境がますます多様 化 して不透 明化するなかで企 業として継続 的に研究開発 の有効性
を向上させるためには,個 々のプロデューサが有 している形 式知 と暗黙知だけでは限界 があり,
これらの知識を組織 の暗黙知 ・
形 式知 として共 同化 .表 出化 ,連結 化させるプロセス,すなわち
ナレッジマネージメントシステムの構 築が必要 と考えられる。
研究の有効性を高めるプロセスのなかで最も重要なプロセスの一つは,限られた経 営資源を
どのような研 究 開発テーマに投 入するか,すなわち研 究 開発 投 資意 思決 定プロセスである。す
なわち,複 数のプロデューサによって創造された商 品企画 のうちどのテーマにどのように投 資す
べきかを判 断することはきわめて重要 であるとともに,経 営環境 の不透 明さが増す今 後 の研 究
-42-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
開発マネージメントにおいてその投 資意 思決 定プロセスの巧拙 が研究 開発 の有効性を大きく左
右するものと考 えられる。また,経 営環 境 の変化速度 が速 くなるにしたがって,研 究 開発ポート
フォリオを組み替えるための投資意 思決定の頻度 は高くなると考 えられ ,一貫して,且つ形式知
化されたプロセスが重要 になるものと考 えられる。さらに,個 々のプロデューサが有する商 品企
画 の投 資意 思決 定 の暗黙知を形 式知 化するためには投 資価 値評 価を定 式化するプロセスが
必要であると考 えられる。
そこで,次章 では研 究 開発 の有効 性を高 めるために必要な研 究 開発投 資意 思決 定手 法 に
ついて検討する。
2.
5
ま とめ
本章では,市場 や技 術の不透 明さが増 し,且 つ中国やその他 の諸 国からの追い上 げが
厳 しい中,我が国の競 争優位 の源 泉である新 製 品開発を担う企 業 の研 究 開発部 門の役
割 について検 討 した。その結 果 .今後 のダイナミックに変動する市 場 と技術 の 中での企 業
の研究 開発部 門に必要な能 力,すなわちダイナミック・
ケイパビリティーは市場 と技術の動
きを察知する能 力と察知された動きに対応する能 力であると考 えられる。
特に感知能 力に関して,我が国の企 業の研究 開発部 門が採用 してきた手法 は,組織 内
部での息の長い基礎 研究 の実施 とプロデューサ的人材 の育成である。しかし,今後益 々市
場 と技術 の動きが速くなる環境下 においては,この手法 は弱みとなりうる可能性がある。そ
こで,近年飛程 的な成長と収 益を両立させてきた工業用センサーの製造企 業であるキーエ
ンスをこの分野の代表企 業であるオムロンと比較検 討 して,キーエンスは上述 したダイナミ
ック・
ケイパビリティーを組織 文化や制度 に反映させた経 営を行っていることを明らかにした。
さらに,キーエンスは 自社 で息 の長 い基礎 研究を行 うのではなく,市 場 の潜在需要 と市 場
調査 から企 画 した新商 品の性能を満 足する技 術を世界 中から探査 して.事 業化する能 力
を高めることによって投資効率を高めている。
さらに,キーエンスのようなビジネスモデルを確 固たるものにするためには,種 々の顧 客
の潜在ニーズから,限られた経 営資源をどのような新商 品の開発 に配分 し投資するかを意
思決定することが重要である。
-43長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
付表 2.
1 富士写 真フイルムにおけるデジタルカメラ開発を支 えた
ダイナミック・
ケ イパ ビ リテ ィー に関わる要 因
出典 :
テクノロシ●
-マネーソル ト
,
2004/
12
^O
-ゾ
P73
文脈
とい うことが あ ります. これ は欧米 が 不 得意 な分 野 で,例 えば研 究 所 に勤 め る人 と
我 々が行 って きた ことで特徴 的な ことの ひ とつ に 「開発 と生産 のキ
◆ヤ.
J
7°を埋 め る」
工 場 に勤 め る人 との 交 流 が な い こ とも 多 い○ 研 究 は あ る程 度 の 結 果 が 出れ ば終 わ
リ,後 は工場 の仕 事 .. ..o
P74
最初
は工場
の技
術課
に配 属
ま小した○こ
こで工場
の)
中身
につ きいス
いて一応
か った上
で研 究
所 に移
りま
した.
そ され
こで,
さいストル
(の実鼓
か ら大
ケ-〟わ(生産
)へ
の時間的ロスが少 な いよ うに,実験 の装 置 や 中身 を改善 .I .0
P75
設計 の基 本 に な る方 向性 をまず 示 し,それ を進 め るた め に新 しい人 間 を投 入 す るo
それ に よ って,今 までの や り方 に と らわれ ず .....。
P76
P77
P78
P79
すれ ば,入 り込 む余地 は十分 に あ る○
化学 の会社 で半導 休 に進 出 して成功 をつかみ つつ あ る数 少 な い事 例 ○会社 と しての
ニーズ (危機 感 )が あ り,世 の 中の動 きが そ ち らに向 いて お り,しか もシート
◆の なか に
半導
類 あるな
は実 にらば,
多岐 にわ
た るが
,富 士 フ向イル
が 一番 必 要 な イ
メ
-シ●センサーに特 化
近 い休
と の種
ころが
思 い切
ってその方
に動ムくこと○
半導体 の生産 工程 は技 術導 入 し,CCDに特 化o
「富 士フルムマイクロデハ●イス」 とい う会社 を立 ち上 げ る○ 当社 に は新会社 には援 助 しな い
とい う風 土 が あ ります○ これ は甘 え を排 除す るた め で,自力で資 本調 達 しな い とい
けな い○
る人 を引 っ張 りま した○社 外 か らは半導体 メーカか らか な りの 人が 来 て くれ ま した○
常 に 「どん なシース◆で,どの市場ニース●に こた え るか ?」 と考 えて きま した○ 会社 の基
本方針 の l
&l(イメ
シ◆ンク◆&イリ オ1
-シ∃
ン)に関わ る市 場分野 に特 化す る こ と.その市場
人材確
が最な富
大 の士
問題
で したo社
長 に頼
ん
で社って
内かいら生産
と開発
の両方
に経
験の
あ
分
野 に保
,どん
フ イル
ム ら しいシ
ース◆
を持
け ば お客
様が
買 って
くだ
さる
か?
本 当は成 功 よ りも失敗 の ほ うが 多 い人 生 です o 新 会社 を作 ってや め た りと.失敗 を
あ げた ら数 え切 れ ませ ん . 失 敗 の 中 で た ま に い い こ とが あ つた と い うこ となの で
す○
リ,物当時の研究
を作 って い
とい う意
識が
会社 は
その融
と ばか
して
入社
所るの
は 同は現
じ敷場
地だ
内の工場
と疎
遠あ
だった.
ったo工場
には研
究合
所 を必
は庇 要
理屈
いたo そ こで大学 で専 門知識 を学 ん で きた人間 を現 場 に配属 したo
アメリカでは研究 所 と工場 とで給 与体 系が違 う○ 移 動 は難 しい○
ば,その うちの 5- 10 で いいの で,探 索研 究 に 当て る. た だ し.新 しい分 野 に向 いた
「柱 にな る仕事 が柱 で あ る うちに,次 の ことをや って お け」.研 究 開発 費 が 100な ら
一読 の 人間 を集 め てや る。 なん とな くや るの で は な く,基 本 的 な シス テム の差 を明
2 (
秩 )東芝における HDD&DVD レコーダ開発を支えた
付表 2.
ダイナミック・
ケ イパ ビ リテ ィー に関わる要 因
出典 :
テクノロシ'
-マネーシ●
メント
,
2005/
01
^O
-ゾ
P56
P57
文脈
広告部
に配属
り,広告
レヒ
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スホ○.
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い付 けを担
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場 のス
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シ◆わ ンシ●二アに 「ど う思 う ? 」 とさま ざまな話 を聞 き,
現場 の知恵 を学ぶ.
は活動 その もの は物 に な った ものが少 な いの です が .あ とにつ なが る人脈 が増 えま し
次が商
た. 品企 画の仕事 ○ 会社 の さま ざまな人,それ も面 白い人 と会 うことが で きた。実
まだ.イン卜わ ト
が はや らな い時代 に社 内の研 究 所 の 人 た ちが作 るメ-リンク◆リストに参 加 ○普
-44-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
P58
その後 .DVD 事 業部 に移 り,DVD の 立 ち上 げ に加 わ る. DVD作 成 に 関わ るす べ ての 工 程
に関係 す る○ 会 社 に は ほ とん ど行 か ず ,スタシ◆オに直 行 直帰 の毎 日が 2年 間。
P59
エンシ◆二
アとの や り取 りのホ○イントを学 習. 何 事 に も壁 を作 らな い活 動 姿 勢 o
P60
P61
P62
いか 」 と認 め られ て商 品 化 プ ロジ ェク トが 発 足○ い ろい ろなメンfl
●-が 集 ま って ,製 品7
3-4
人の
気0心
知れ
ーマン同士
◆デ ィスクDVDの 企 画 を提 出o「い い じやな
イ
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00
枚の
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場 調が
査集
.ま り^-ト
実 際 にや る と DVDと vHS とは事 業部 が違 う。私 が 間 に立 ち点 と点 との情 報 収 集 を実 施
し,案 を作 る○
とい う経 験 を前 提 に,自分 な りの ア プ ロー チ を工 夫 した○
最 初 の 広 告 部 の仕 事 はインターフ○リタ-の 仕 事 o 同 じ日本 語 を しゃべ って いて も世 界 が 違 え
ぱ (た とえば叩 ト
屋 とf
トト
●屋 ) 上 手 く絡 め な い○ 仙 チャーの違 いが 大 き いた め に,同 じ日
私
は子
の ころ外
で暮
ら
そ こで
双 方違
の意
思 は簡
単 に は伝 わ らな い
本語
を供
しゃべ
って 国
いて
も,
実して
は通いま
じてしたo
いな いo
危 な,
い勘
い をす
る○
DVD 立 ち上 げ時 はフィクサーの 仕 事 . 単 に通 訳 す るだ けで は な く,自分 で流 れ を作 るた め
に.動 いた り仕 掛 け を作 る。
次 に今 はデ ルH -の 仕 事 で.限 られ た 人 ,予算 ,人脈 の 中 で ,現 実 解 を ど う得 るか ? 覗
場 で ど う調 整 し.事 を成 し遂 げて い くかo
次
プ ロデ
そは
して何
よ ューサ
り 「録 の仕
画 文事
化○
の歴 史 を変 えて い きた い」 とい う強 い信 念 が あ り,自分 で変
え られ る よ うに動 いて きま した○ だ か らこそ ,エ紬 キ◆.
J
シユに活 動 で き るの です ○
付 表 2.3
日産 自動 車 (秩 ) に お け る新 型 フ ェア レデ ィt Z開発 を支 えた
ダイナ ミック ・ケ イパ ビ リテ ィー に 関わ る要 因
出典 :
テクノロシ'
-マネーシ●
メント
,
2005/
02
J
C
-.
>
'
文脈
P55
いわ ばケ◆リラ的戦 術 を取 ったわ けです ○「役 員試 乗 会 」に Z を紛 れ 込 ませ た と こ ろ,
社長
か ら高 評 価 を得 ま した。...「社 長 か らもスホ〇一ツカーとい うの は,
これ か ら ビジネ ス と し
て も成 功 す るスホ〇一ツカーでな い とだ め だか ら,
も つ と勉 強 しな さい」 と言 わ れ ま した。
P56
コ`-ンさん が
こ と.
P57
P61
「
Z の提 案 を も って こい」 目標 が わ か りや す く.闘争 心 と挑 戦 心 を あ お る
で は無 く,
経 営 か らは新 型 Zへ の役 割 を与 え られ ます ○ それ は 「世 界 中で 日産 の Blを Zで回復
Zをショ
ールームに置 くことで来 店 数 を増 や し,他 の車 も増 販 で き る よ うに しろ」
しろ」と 「
とい うもの で した○
通 常 ,経 営 か ら与 え られ る役 割 は ,何 台 売 って い く ら儲 け ろ とい うの が 当 た り前 な の
そ して この提 案 が コ●-ンさん に乗 認 され ま した。だ か らとい ってす きにや れ とい うわ け
ですね 0. . .Z で 日産 のフ◆ラント
●を回復 させ ろ.と言 う この メインの 役割 は,我 々う
トムの 想
い とも合 致す る もの で した .
私 は Zのチームに具 休 的 目標 を議 論 しなが ら渡 しま した.とは い え,最 初 は 喧 嘩 も しま し
た○しか し,結 果 と して 目標 が 非 常 にわ か りや す く,高 か つた とい う こ とが 良か つた よ
うです○この 目標 は ,闘争 心 と挑 戦 心 を あ お り.わ か りや す く,リ
f
l
●イハ◆ルフ○ラン- の 参 画意
識 を もたせ た ことで ,
チームのモティ
ヘ◆-シヨ
ンと結 束 力強 化 に役 に立 ちま したo
異 動 が ほ とん どな い会 社 で,シャーシか らエ ン ジ ンに行 くな ど とは考 え られ なか った。 村
商 品開発 の前 にシャーシとエ ンジ ンの 両 方 を経 験 して いた の が よか つた ○日産 はか つ て は
意 識 を変 えな けれ ば な らな い と い うム-デ ル ト
が起 こ り,シャ-シか らエ ンジ ンに行 つた の
です ○
-45長 崎大 学大学 院経済学研 究科 学位 論文用紙
付 表 2.4
シャー プ (秩 ) に お ける液 晶テ レビ AOUOS開発 を支 えた
ダイナ ミック ・ケ イパ ビ リテ ィー に関わ る要 因
出典 :
テクノロシ●
-マネーシ●
メント
,
2005
/
05
^O
-ゾ
P53
P54
P55
P56
文脈
当社 には 「好況期 に次世 代 の布 石 」の社風 が あ り,.. . .
能
を持 つ a-Siの TFT を英 国のタ●ンデ イ大学 の スヘ○7教授 が 81年 に発 表○早速 ,Te-TFTの
1964年か ら液 晶 を開発 01975年 か ら開発 開始 して いた TeTFT よ りも 100倍優 れ た性
設 備 を改 良 して a-SiTFT の試 作 にかか り,1983 年 に社 内初 のカラーa-SiTFT-LCD の試
作 を完 成 させ たの です .
自特 徴 自の戦
商 品 に略よにる新
応○
用
市
場ツ
創
出
した
も の でこれ
,具 はキ
体例
して
はア
液と晶した独
テレヒ
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当社独
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フ○
戦を
略 目指
』が あ
ります○
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イスをコ
(AOUOS) やサ●
ウルス.液 晶ヒ
●ユ
-カ
ム,液 晶 t
:
'シ●ヨン,メヒ
●ウスJ-トPC な ど と して形 を現 して いま
す○
大学教 授 と面識 が持 て ま した.これ が 以後 の 「道 の 液 晶研究 」に大 き く寄 与 した と思
いますo
そ して探 索研究ステーシ◆か ら実 用化 開発ステー
シ●へ と移 行 し.世界 初 の液 晶量 産工場 を作 る
必要性 が 出て きま した○ そ こで液 晶材 料 開発 のみ か ら,工場 設計 や建設 ま で を担 当す
入社
は研 究所
で液 晶材
料 の研究
施間
.の
..
入社後
1年 以
内か ら学会発
表 を行.こ
い,
る ことに
な ったの
です○
ここで を実
は短期
内○
に成
功 と失敗
を集積
しま した○..
の 時の工場 立 ち上 げ経 族 が後 の TFTの工場 設計 .立 ち上 げな どに も大 き く役 立 ちま し
た○新規 事 業創 造への 自信 もつ きま した.
フ○E
]
シ
●
エクト
l
J
-タ`と しての活動 が始 ま る と,開発 と事 業の思想キ◆ヤ.
J
7.に悩 み ま した○ それ
で も,苦 しみ なが ら何 とかや つて これ た の は 「自分 が難 しい もの は人 も難 しい .」 と
付表 2.5 三菱電機 (秩 ) に お ける世 界標 準 暗号 HISTY開発 を支 えた
ダイナ ミック ・ケ イパ ビ リテ ィー に関わ る要 因
出典 :
テクノロシ●
-マネーシ'
メント
,
2005
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06
^O
-ゾ
P47
P52
文脈
在で
した○そんは世
なセク
シ】
ンが存在
し得
たの は,
同
じ課 に誤 り訂 正技 術 の仕事 が あ ったた
め
今
で こそ暗号
間
に浸透
して
います
が,
87 年 当時 は予 算 も人 数 も少 な いマイ
ト な存
に食 べ て い られ た とい う背景 が あ ります○上 司が 暗号 はや って お くべ きだ との考 え方
を持 って いま したo だか ら符合技 術 の裏側 で続 けて いたの です.
の あ る中で暗号 に取 り組 め た ことは運 が よか つた と思 います.
入社 当時の上 司が放任 主義 で あ った こともあげ られ ます.
情 報処理 に弱 い会社 だ つたか ら,良 くも悪 くも困 った ときは研究 所頼 み とい う雰 囲気
`
シ◆ネスチャンスを開拓 す る ことが で きま した○ 符号 理 論 の
が あ り,研究所が 中心 とな って ヒ
研究 で,工場 に も,
顧 客 に も頻 繁 に顔 を出 して いて,現場 感 覚 を身 につ けま した.
製作現場
の声が暗号
来像
を示 おか
して げで暗号
いた ことも大
きか つた
です
ね ONI
ST
Yが採
用さ
誤
り訂 正技術が
利益 の将
を生 ん
で いた
技 術 が存続
し得
たの
です○
会社
に余裕
れ たの は^-ト
◆ウエアで小 さか つたか らです. 暗号 屋 とい う専 門家の ト
レンド (t
J
7ト
ウエ7志 向)
よ りも,現 場 の動 き (依 頼 )が小 型化 したわ けで,結 果 と して将 来の 暗号 が こ うな って
い く方 向性 を示 したの では . ..と今 とな つて は思 います .
人脈 はや は り大事 です○研究 成果 が幸 いに もよ くて コ ミュニ テ ィー に入れ て も らいま
した。その おか げで 「コ ミュニテ ィー の 人 々のコンセン
サスは何 か ?」を知 る ことが で きま
した.それ は必ず しもリ ス◆ナフ◆んとは限 りませ ん。この 人た ちが よ い と思 うこ とは何 か
とい うことを知 って い るの は大 きな7.ラスです○
ー
P53
やィ
は
りい
くら好
ことを
してくい
いてくか否
も上 かから認
め てらず
くれ,上
て 司が
い る とい
う感覚
がして
な いくれ
とモ
テ
ヘ
◆シヨ
ンは
あが きな
りませ
ん○上手
に関わ
自分 を
7ヒ
〇一ル
-46-
長崎大学大学 院経済学研究科学位論文用紙
三共 (秩 )における高脂血症 治療薬 開発 を支 えた
ダイナ ミック ・ケイパ ビ リテ ィー に関わ る要 因
付 表 2.6
出典 :
テクノロシ」マネーシ'
メント
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ゾ
P
6
5
文脈
目はちまちま した もの しかな らな い○
ルール違反 とい うの は,厳 密 にはルール違 反 では あ りませ ん○ プ ロジ ェク トを与 え られ る と
「従 来 は こ うい うや り方 でや って きた」 と方法 を提示 され ますo Lか し 「そのや り
方だ った ら,従来の物 しか で きません○だか ら違 うや り方 を しま しよう」 とい うこと
では何 をや つたか といいます と.まず はルール違 反 です○ル-ル違反 をや らな けれ ばその品
なのです○
幸 いわた しは先輩 .上 司 を始め社 内 に コミュニケ-シ】ン+.
Jト
ワ-クを多 く持 って いま したO また
外部 にも長年にわ た り人脈 を築 いて きた ことが役 に立 ちま したね。
そん な 中 ,感 謝 して い るの は 当時 の 上 司 が 非 常 に度 量 の 大 き い方 だ った こ とで し
た..- 飾 り的な課長 を置 いて私 が実質 を握れ るよ うな配慮 を して くだ さいま した○
ていま したので,その中の有望な人た ち とご飯 を食べ なが ら 「会社 をよ くす るために
は ど うすれ ば よいか ?」 と話 し合 いま した. そ して,社長 の年頭スヒ〇一チに 「会社全体
と して特別チームを作 らない と,会社 の仕組み はかわ らな い」の文言 を入れ よ うと考 え,
実現 させ ま した.
「社長が言 ったのだか らや らなけれ ばな らな い」 と上司 を説得 し,個別の薬の商 品化
の プロジ ェク トチーム を作 っても らいま した○
従来の組織 に持 ち込 まず,特別だ とい うことで一丸 とな ってや って これ たのです.
P
6
6 か
つ て新 人には
時代 に文句
を言 った連
中が社
をは じめ,営た
業いな雰
な ど各部
署 で活躍
し
当時の会社
「変わ った人間
も大事
だか長秘書
ら耗 しておけ」み
囲気が
あ り,出
世 も一番早 く,いいホ○
シ◆シヨ
ンが取れ たが,見 ている側 ,特 に技術系には.異 才 に見 えたo
なにか をや ろ うとす る と,社 内風 土 と ど うす り合わ せ るか で結 構 悩 む ことにな るの
ですo これ は大企業にあ りが ちな課題か も しれ ません.
会社 が大 きいほ ど全体 が変わ る ことはな く,ど こか に古 い ものが残 って いる○...
その よ状 況下 で,プ ロデ ューサ が 本 当に育 つの で しよ うか ?この まま行 けば役 員 に
なれ るか も しれ な い○ しか しな った ときには,自分の 中で発言 して い くことと立場 に
ずれが生 じるか も しれ ない○それ に我慢 で きるのか ?我慢 で きな い.そ こで,飛 び出
そ うと決意 したの です. 4
5歳 にな る直前 で したo
チャーを作 る ことも大切 だ と思 うの です○社 長 とはマネー ジメ ン トのフ○口です.逆 に従
来通 り,社長 が頂 点 とい う仕組 み の組織 で は,それ こそ異 才 は い られ な くな ります○
異 才 は異 才 と して,それ ぞれ の ポ ジ シ ョンの 中に残れ る仕組 み が あ った方 が い い と
P
67 思
多様性
に対 して対応 で きる仕組みが必要 です○「社長 は偉 いわ けではな い」 とい う仙
います○
では.シミック(
秩)の話 に入 らせ て いただ きます○...会社 の運営 ス タイル と しては,忠
い切 って分社化 を して います○分社化 は非効率 ともいえるの ですが,思 い切 ってや ら
せ ないと育 ちませ ん.また,性格が違 う強 さを出そ うとい うね らいもあ ります。.イ や
りた けれ ばや ってみ よ う」が基本。ただ し,だめな ら浸す とい うだ けの話 です○
観の共有 をテー マに 「クE
]
ス.7
7
ンクシ]
ナk.チーム」 を作 り,私 の 中村塾 を開 いて います。 こ
れ は 3 ケ月に 1回E
]
JJ
ンク◆させ て若手 を入れ替 え,2 0名 ざ らいで実施 して います ○2
0
∼3
0代の人々が執 行役 員以上全 員にイ
ン
タヒ
◆ユーを行 いますo 自分がコンサルタントな らば ど う
アドf
l
◆イスす るか ? ....
'レ
セ●ン
を して います○
人事
では,次の 「
よ
うなキ
ーワ-ト
●
で7
P
69 事
業において
人」
は絶対
に欠かす
ことので
きな い存在 です。例 えば 当社 では,価値
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Pr
ofessi
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albU
tchar
mi
n
g
決 して順風満帆ではない.マイナスな時期 もあ つたが,守 るよ りも攻めた.
147
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
P71
自分 に頭 は な くて も い い。 絶 対 に 自分 よ りも優 秀 な 人 を雇 って くる- - と い うの が
鉄 則 です ○ ど うせ 自分 に は欠 点 が あ ります . プ ロデ ュー サ の 役 目は ,自分 の 足 りな い
プ
ロデ
ユに うか
も つだ
とも大
切 な の はコ●- . な に を成 功 させ るの か ? そ の た め に は
とこ
ろを
どサ
う補
と思 います。
企 業 の なか の プ ロデ ュー サ とい う言 葉 を ,20代 か ら意 識 して使 って いま した○とは い
え,プ ロデ ュー サ と いの は教 育 シス テ ム の 中 で 育 ち に くい要 素 が あ る こ とは否 め ま
ん
付 表 2.7 ソニー (秩 ) に お け る CCD開発 を支 えた
ダイナ ミック ・ケ イパ ビ リテ ィー に 関わ る要 因
,
2005/
09
出典 :
テクノロシ●
-マネーシ◆
メント
J
C
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/
P34
P35
P36
P37
P38
文脈
企
業研
究 とい
うもの
は.
シース●かめ
ら入
るづ
とあた
りはず れ が 大 き く,ニー ◆か ら人 らな けれ
ぱな
らい一
一一一一
とい うこ
とに初
て気
きま した○
入社 後 2年 8ケ月の 間 に 7回 も部 署 が 変 わ りま した○
ス
と命 じて 2年 で商 品化 ○その 後 各 企 業 に トラ ン ジス タ を供 給 す る こ とで世 界 の トップ
メーカに な ったの です ○しか し,ト
ツフ○に な る と必 ず 失 敗 す る もの ○ソニ ー は トラ ン ジス タ
で天 下 を取 って いたの で誰 も MOS をや らなか った ん です ね . rNOS な ん か 商 品化 で き
な い」 とい う風 潮 で した . (HOSの )新 しい流れ が起 き,急 に危 機 感 が高 ま って きた と
t
J
=は とい
えばよo
,53年 に ト
ランシ●スタ
ラ
シ●オを開発 しま した.これ は 当 時の 井 深社 長 が 「やれ 」
い
うわ
けです
1920年 代 に発 明 され た NOSは なか なか 実 用 化 で きな い技 術 で ,62年 ご ろや つ と世 界 的
に動 き出 しま した 〇 ccDは NOS の 一種 で あ る こ と を考 えて も,研 究 開発 とは そ もそ も
恐 ろ しい ほ どの 時 間 を必 要 とす る,-筋 縄 で は行 か な い もの な の です 〇ccDは 70年 に
研 究 を開始 し,ビジネ ス に な った の は 85 年 ○ 15 年 間 か か りま した○ この 長 い死 の 令
を ど う耐 え るか が 大 きなホ○イン卜 .○
●
シ●ネスは想像 力」 とい う ことに な ります ○
術 は創 造 力 」 , 「ヒ
まず は 「仕 事 が 面 白 い」○熱 中 で き る個 人 的趣 味 とい うこ とです ね 0 15年 も地 下 生 活
を続 け るに は面 白 くな けれ ば無 理 です ○ い く ら上 司が やれ と命 令 して も,で き る もの
で は あ りませ ん o ま た ,当時 は企 業 に対 す る使 命 感 を本 気 で語 って い ま した○ 何 とか
結
局,
技 術かだる商
けで品は開発
ど うに
もな
ん ○いま
技 術した○
とヒ◆シ◆ネスの 両 立 が 必 要 です ○つ ま り 「技
会社
が儲
を と社
員りませ
が考 えて
カメラシステムと撮 像デ ハ●イスの 同 時 開発 とい う こ とも大 きな秘 訣 です o ccD の 開発 と同 時 に
カメラシステムも同 じク●ルー7.で 開発 して いま した ○ です か らタ- ゲ ッ トと フ ィー ドバ ックが
非 常 に明確 だ った の です ○
で きな い人 が い る と叱 りた くな ります が ,叱 る と次 か らはスケ
シ
◆
ユ
ーんが 延 び て しま い ま
す. 相 手 は怒 られ な い よ うに と慎 重 に な るん です ね ○ これ は逆 効 果 です.
な もの は あ りませ ん ○石 こ ろを ど う磨 けばタ◆イ
ヤモント
●に な るか とい う こと を知 らな いの
よ く.「ど
CCDとい
うタ●
イヤモン
ドを見
けた の
」と聞
,そん
です.仕
事うや
に おって
いて勝
ち方 を知
らな
い人
が 多つい○入
社です
してか
か?
ら定
年 まかれ
で勝ます
ったがこ
とが
な く,ど うや って勝 て ば い いか が わ か らな いの です ○ 勝 て ば どん な感 動 が あ るか ? こ
れ を一度 味わ うと次 か らは 自然 と勝 ち方 が わ か って くるの です ○
て「研
ビジネス
だo
研究
ら事
CCD開発 者 全 員 を異 動 しま した ○
究 所 が持
ちす
ぎ所
るか
と研
究 業部
は腐 へ
る」
研 究 は生 もの と考 え ,1 個 作 る とす ぐに製 造 し
社 長 の岩 間 がせ っか ちだ った○ あの ス ピー ドで や るに は 引継 ぎな どは で きな いか ら,
-48-
長崎大学大学 院経済学研 究科 学位 論文用紙
付 表 2.8 (
秩)
デンソーにおける二次元 レーザーレーダー開発を支えた
ダイナミック・
ケイパビリティーに関わる要因
出典 :
テクノロシ●
-マネーシ●
メント
,
2005/
1
2
^O
-ゾ
文脈
P
85
P86
では事 業部 ,その後 は研究所へ 戻 り,
3 人 に増 えた部 下 と一緒 に開発 に取 り組み ま し
た○ この時や つたのが,信頼性 や寿命保証 ,
検査 ,量産技術 な どです. この あた りの仕
次
は いかに大変
r量産」をター
ゲ ッ トに開発
が進み,私
は l
C事えない
業部 に席
を置 きまいま
した。夜
事が
であるか
を,
普通の研究者
では味わ
ことを味わ
した 5時ま
事 業部 に籍 を置 き,私 の責任 でやれ た ことは結果 と して設計 か ら生産 技術 ,品質保証
の仕事 まで全部 を担 当す る ことにつなが り,
デ ンソーの物 を流 す仕組 み が非常 に よ く勉
強 で きま した○
短 い研 究 が求 め られ て います が ,長 いスパ ンの先行研 究 開発 も必要 で あ る と思 いま
そ して教訓
は
「
テ●
八●イス開発 には時間がかか
る」とい
うこと○現在
は開発志
向で非常
に
す○
また,「
完成
時にはユーザーが喜ん
で くれ
な けれ
ばいけな い」
を基本 に研究
を行
うこと.そ して 「少人数 で も将 来に 目を向 けた技術蓄積 が必要」 とい うことを感 じて
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発 の未 来 」,
日経 BP社 .
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19,pp4871
505.
-50長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
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66,
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2003),"
Vol
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24,pp991995.
-51長 崎大 学 大 学 院経 済 学研 究 科 学位 論 文 用紙
第3
章
研究開発ポートフ*リオ価値向上へのリアルオプション法の適用
これまでの章では,市場 と技 術が 多様 化するとともに.それぞれ の進 展の方 向が不確実 にな
る中で,企 業の研 究 開発 には市 場 と技 術で生 じている変化をいち早く察 知 し,それ に対 して機
敏に対応する能 力が必要 であることを述べてきた。
このためには市場 と技術で生 じている変化をもとに,収 益をあげることができる新 商 品の開発
に効率 的に投資する必要がある。そこで,本章 では,限られた経 営資源 の制約 のなかでの研究
開発投資意 思決 定の高度化を目的として,近年不確 実な投 資意 思決 定手法 として注 目されて
いるリアルオプション法を取 り上 げ,ある SBU内での研究 開発投 資意 思決 定にリアルオプション
法を適用 し,その実用性と利用法 について検 討する。
研究開発 投資意思決定高度化へ の リアルオ プシ ョンの適用
3.
1
3.
1.
1
オ プシ ョン価値評価 手法
オプションは金融派 生商 品のひとつで,基本 的に 2種類の取 引がある。そのうちのひとつはコ
ールオプションであり,これ はある定められた 日(
権 利行 使 日または満期 日)にある定められた
価格 (
権 利行使 価格 )で原 資産を購 入する権 利である。もうひとつのオプションはプットオプショ
005)。先物 は権利
ンで,権 利行使 日に権利行使価格で原資産を売却する権 利である(
ハ ル,2
行使 日には必ず行使 しなけれ ばならないが,オプションは権 利を行使するか否 かを権 利行使 日
になって決 定することができる。すなわち,コールオプションの場 合 ,原 資産 の権 利行使 日の価
格が権 利行使価格を上 回っていれば,権利行使価格で原資産を席 入することによって,原 資産
価格 の差額だけ利益が得 られる。一方 ,権 利行使 日の原 資産 の価 格 が権 利行使価格 を下 回
っていれ ば,権 利を行使 しないことによって,購 入 による損 失を防止 できる。オプションには権 利
行使 日のみ にしか行使できないヨーロピアンオプションと,権 利行使 日までのいつでも行使 でき
るアメリカンオプションの 2種類がある。
ack-Schol
es(1973)が解 析 的価値 評価 モデ
オプション価値を決 定する方法 については ,Bl
Cox,
1979)など数種 類が提 案されている。解析 的手法 は,確 率微
ルを示 した後 ,二項モデル (
分方程式を適切な境界 条件を与えて解くことによってオプション価値を求めるが,非常に単 純な
ヨーロピアンオプションしか厳密解 は求められていない。一方 ,二項モデルは,権 利行使 日まで
を微 小な時間間隔に区切って,各 時間間隔では原 資産 が上 昇 ,下 降の二つのプロセスのいず
れかを取るとして,数値 的に満期までの原資産 の動きをあらわ して数値 的にオプション価値を評
価するものであり,複雑なオプションの価値を評価できるが,一般化 しにくい。
ー5
2長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
研究 開発へ の リアルオ プシ ョン法 の適 用
3.
1.
2
オプションを実物資産 ,すなわち種 々の投資案件 の価値評価 に応用 したのが,リアルオプショ
ンである(
刈屋 ,
2001)。リアルオプションの種 々の応 用のなかで,Myer
s(
1984)がはじめて研究
開発投 資はオプション的な性 質を示 していることを指摘 した。第 1章で述べたように.当時米 国
では正味現在価値法が研 究 開発投資に対 しても適 用され ,その結 果 多くの研 究 開発テーマが
投 資価値なしの判 断を下され,研究開発投 資が低 く抑えられたために,日本 に技術 力で劣るよ
i
nghouse社 の研究所副 所長であった,Mech=∩氏 は当
うになったことが指摘されていた。West
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と称 し,正味現在価値法が研究 開発投資には向かないこ
時 ROJを"Rest
Per
due ら,
1999)。その後 .研 究開発投資価値評価へのリアルオプション法 の適
とを指摘 した (
用 に関 す る研 究 が 進 め られ ている (た とえば ,西 村 1998,Jensen2001,W 6r
ner
2003,
Newt
on2004)。しかし.これらの論文 は研究 開発 にどのようなオプションが内包されるかについ
ての理論 的な取 り扱いがほとんどで,実用 的なケーススタディーがない。第 1章で述べたように,
研究 開発投 資意 思決 定へ リアルオプションが研 究者 らの予想を下 回って実 用されていないの
は.ケーススタディーが少ないことに起 因している.
オプション価値評価 に必要なパラメータは,
①
原資産の価値 ,
②
原資産の価値 のボラティリティー,
③
オプション行使価格 ,
④
オプション行使期 間,
⑤
リスクフリーレート
である。これを.研 究 開発 をオプションとした価 値 評 価 に当てはめると,それぞれ のパラメータ
は,
①
商 品化時点での将来キャッシュフロー,
②
そのキャッシュフローの確からしさ,
③
研究開発終 了後に商品化の決定をした時に必要 となる初期投資費用,
④
研究開発期 間,
にそれぞれ対応する。オプションは研 究 開発 終 了後 に事 業化 できる権 利であることから,研 究
開発終 了時点でその開発製 品が投資に見合う市場価値なしと判 断されれば,その後の商 品化
投 資は行使されず,価値 があると判 断された場 合 のみ行使され ,商 品化 が進 められる。このこ
-53-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
とから,研究 開発投資意 思決 定とともに商 品化の意 思決 定も同時に行われるとして投資価値を
計算する正味現在価値法 に比べて,リアルオプションは研究 開発 によって期 待通 りの成果が得
られなかった場合 に商 品化を行わないという柔軟性を持つ分価値が高く,且つ実際の研究開発
プロセスに近 いと考えられる。
しかし,実際の研究開発投資意 思決 定へのオプション価値評価 の適 用を考えると,種 々の問
題 点がある。第 - はボラティリティーの推 定方 法 である。オプションでは実 際 に市 場で取 引され
る証券価格 の時系列データや類似するオプションの実 勢価格 からの逆 寡 (
インプライド ボラテ
ィリティー)によって原資産 のボラティリティーを比較 的精度よく求 めることができる。リアルオプシ
ョンにおいても,ある特定分野の医薬 品の開発などについてはその分野 の医薬 品を開発するベ
ンチャー企 業 の株 価 の推移などがボラティリティーを推 定する方法 として提 案されているが,本
論文で取 り扱う重工 業のような業界 でのサービス製 品開発 のボラティリティーは,これを専 業で
扱う企業がないことから,株価からの各 々の製 品開発 のボラティリティーの推 定は困難である。
第二 の問題 は.予算配分の問題 である。通 常各事 業部 門には年次 毎 に予算 が配分されるが.
提 案される種 々の研究のポートフォリオ全体 の価値最 大化へのリアルオプション法 の利用につ
いての検 討 は報告されていない。第三 には,各研 究 開発 は年次 毎あるいは研究 開発段 階毎 に
その後投 資の意 思決定が行われるが.このような段 階 的な研 究プロジェクトのリアルオプション
価値 の評価法 は提 案されていないことがあげられる。そこで,以上 の問題を検 討するために,莱
際 に企 業で行われる研究開発 について.その投資意 思決 定へリアルオプション法を適 用 してそ
の有効性と課題を抽 出する。
3.
2
ケー スス タデ ィー
3.
2.
1
研究 開発 テー マの価値評価 のためのパ ラメー タの推定
検 討 対象 は,発 電設備製 品のサービス事 業である。事 業に関わる設計 ,営業 .研究 開発 の
1に示す
各担 当者 から提 案された8件のサービス事 業に関する研究開発テーマについて,図 3.
手順でそれぞれの投資価値評価を行う。
(
1)
ステップ1:
営業担 当者への各研究 開発テーマの市場性 に関するアンケートの実施
国 内発 電プラントのサービス事 業 の営 業担 当者 9名 に各研 究 開発テーマの内容を説 明 した
後,以下についてアンケートを実施 して,全 員から回答を得た。
a)
の最大値
商 品の年間販売数 (
,と最小値
ama
am.
n
-54
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
商 品の予想 売価 (
b)
の最 大値 bma
,と最 小値 bmL
n
商 品の利益率(
C)
の最 大値 cma
,と最 小値 cmm
商 品の販 売寿命 (
d)
の最 大値 dma
,と最 小値 dm,
n
×
予想売価
年間予想販売数
利益率
製品ライフサイクル
「
・
「
モンテカルロシュミレーション
対数正規977イツティング
研究開発テーマの価値の中央値J
L
,ホ●
ラティ
リ
ティ
ーC
T
の算出
図 3.
1 研究開発テーマの価値の確率分布評価方法
(
2)
ステップ2:
回答轄 果 からの上記各 変数 の確 率 分 布 の推 定
(
i
- 1- 9)から得た上記 a∼dの各 変数 の最 大値 と最 小値 か ら,原 田ら(
2004)の
各 回答者 i
b、ら得 た各 変
方 法 によって,それぞれ の変 数 の確 率 分 布 を求 める。まず ,それぞれ の 回答者 i
,Pb
,
,Pc
.
,
Pd
t
にあてはめる。続 いて,各 変数 について.全 回答
数の最 大値 ,最 小値を一様 分 布 paL
kmi
n
,k-a
,b,C,d )と最 大 値 (
kma
,
,k-a,b
,C,d )
の 間 を 21 に区 切 り(m.
n
,
者 の最 小 値 (
k
km,
n+(
kma
rkmm)
/
20,km,
A+2(
kma
,
km.
n
)
/
20,
日・
,km.
n+19(
kmo
x
km.
A
)
/
20,kma
x
)
,値 の低 い側 から(
3.
1)
式に示すように各 回答者 の…からxa
(
=kmm+n
(
km0
,
km,
n
)
/
20
)
までの累積確 率 を足 し合わせ ,その
値 の累積確率
pa(
xa
)
,pb(
xb
),Pc(
xc
)
,Pd(
xd
)
を求 める。
a
x
a
,
請f
:
p
a
t
(
x
,
k
p(
- (
31
.,
得 られた pk
(
xa
)(
k-a
,b,C,d)とxとの関係 から,最 小二乗 法 によってそれぞれの確 率 密度 関
数 の平 均値 と標 準 偏 差 とを求 める。ここで,
上 記 のそれ ぞれの変数 の確 率 分 布 については,
コー
2002)が用 いているように,
値 が負とならない変数 a,
b,
d については対数 正規 分布を
プランドら(
当てはめ,
変数
C
については正規 分布を当てはめて,
それぞれ の 中央値 (
それぞれF
L
a
,
F
L
b
,
F
L
c
,
Pd
)
と
標準偏差(
それぞれ aa,or
b,OT
c,0
:
A
)
を求める.
-55長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
(
3)
ステップ3:
各研究開発テーマの現在価値 pl
/
の推定
(
3.
2)式によって.各研究開発テーマの市場化時点での現在価値 pvを推定する。
g,
pv- ∑
a ・b
・C
・
=(
3.
2)
tl(
1+WACC)
E
ここで,W ACCは対象とした企業の加重平均資本コストである。
(
3.
2)式の各変数 a∼dについてステップ2で求めた確率分布を仮 定 して,モンテカルロ法でP
vの確率分布を求める。以下 にその方法を示す。
変数 a∼dについて.それぞれの確率分布 にしたがって乱数を発生させるo
dは整数値であることから,発生させた乱数を四捨 五入 して整数値 とする。
この a∼dの組み合わせについて(
3.
2)
式からPVを計算 して求める.
上記を1000回繰 り返 し,PVの度数分布を得た3。
得られた 1000個の PV値を.対数正規分布 に当てはめ,中央値ppvと標準偏差 oT
pvを求めるo
pvが対数正規分布 のみの変数の積からなっていれば .pvの分布 は対数正規分布 になるが,
変数 には正規 分布が含まれており.pv の分布 は厳 密 には対 数正規分布 にならない。しかし,
後述する解析法によってコールオプションおよびコンパウンドオプションを求めるためには,PVは
対数正規分布で近似される必要がある。そこで本研究では PVの分布を対数正規分布としたが,
2検定を行ったところ,
いずれの商 品アイディアにおい
得られた PV の分布の適合性 についてx
ても当てはめ性 はきわめて良好 であることがわかった。これ は正規 分布を仮 定 した利益 率 の標
準偏 差が ,対数正規 分布を仮 定 した予想売価 と年 間販 売 数のそれぞれの標 準偏 差 に比べて
小さかったことによっていると考えられる。
また,リアルオプション価値評価 に必要なその他 のパラメータについては,製 品開発終 了後の
事 業化に必要な初期投 資額 は設計担 当者 への,研 究開発期 間と研究開発 に必要な投 資額 は
研究 開発担 当者へのアンケートによってそれぞれを求 める。なお,これらの値 の確 率 分布 は考
慮せず確 定値 とする。
3
なお.計算 は.モンテカルロシミュレーションソフト@ R暮
SKO
を用いた。
156I
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
3.
2.
2
リアルオ プシ ョン価値評価
以上 によって求めた各パラメータを用 いて.それぞれの研 究 開発テーマの正 味現在価値 とリ
アルオプション価値を求める。リアルオプション価値 は取 り扱いの容 易さから解析法を用いて,ヨ
rT)と]一口ビアンコン八〇
ウント
●
ゎ○
ショ
ン価値 G仰D,t
1
,
1
2
)の二種類の
ーロピアンコールオプション価値 cr
価値を計算 して求 める。すなわち,ヨーロピアンコールオプション価 値 はその研究 開発テーマを
実現する研究 開発をヨーロピアンコールオプションとして価値評価するものであり,(
3.
3)
式に示
す Bl
ack-Schol
es式を用 いて求める。また,ヨーロピアンコンパウンドオプション価値 は.研究開
発を2段 階,すなわち研 究またはマーケテイング段 階 と開発段 階の二期 に分 け,研 究またはマ
ーケテイング段 階終 了後 と開発段 階終 了後 に,それぞれその後 の投 資を行うか否かの意 思決
定を行うことができるとするもので,意 思決定の柔軟性がコールオプションよりも高 い。ここでは,
C(
V,
T)
-V・
N(
d.
)
-I・
e
-r
T・
N(
d2
J
、
斤
d2 -d
1- J
J
テ
,
t
2
)
V
Ml
d
G
l
(
A,
t
.
)
,
d
G
(
芸・
1
2
)
,
P
]
G
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V
,
Dt
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宗
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ガ
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(
x
)
d
G (
x,
t
)
c
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JJ
d
G
,
(
x
,
t
)
=d
G
.
(
x,
t
)
-J
J
i
I
.
;
・-
Geske によって (
3.
4)式のように求 められている解析 式を用 いてコンパ ウンドオプション価値を
求める。
ここで.
T
:研究開発期 間
′
: 製 品販売時点で必要な投資額
r
:リ
スクフリーレート
-57-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
N(
d) :累積標準正規確率
l
,t
2 :それぞれ研究期 間,開発期 間で,t
l
+1
2-T
t
:開発段 階で必要な投 資額
か
:Cr
rt
2
1
1
1
)-Iとなる Vの値
V *
M(
x,
y,F
!
) :
二次元 累積標準 正規確率
である。
3.
2.
3
評価結 果
図3
.
2に,8つの研究 開発テーマのうちの 1つについて,ボラティリティーを変えてヨーロピアン
コールオプション価値 およびコンパウンドオプション価値 を求 めた結 果 と正味現在 価値 とを比較
して示す。ここで,それぞれの価値 は商 品化決 定時の初期投 資額 Jを差 し引いた正味価値 とし,
且つ Jで除して相対値 として示 している。ここで,正 味現在価値 は確率分布を考慮 しない従 来法
で計算 し,(
3.
2)式に示すそれぞれの変数 に平均値を代 入 して求 める。したがって正 味現在価
値 はボラティリティーには依 存せず.常 に負 の値を示 している。これ に対 して,コールオプション
価値 はボラティリティーが大きくなるにしたがって大きくなっているが,ボラティリティーが 300%
でも正の値 とならない。すなわち,オプション価値 を考 慮 してもこの研究 開発 に投 資する価値 は
ない。一方 ,コンパウンドオプション価値 はボラティリティーが ほぼ 100% 以上で正 の値をとり,
ボラティリティーが大きいほど価値が高くなっている。すなわち,この研究 開発テーマの場合 はボ
ラティリティーが 100% を超 える場合には,研 究開発を2期 に分 け.まずは小額 の研究またはマ
開発費
商品化投資糞
研究期間
5
0.
開発期間
リ
スク
フリ
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60.33.67. 年 年 0.
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研究費
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草
製 品価値期待値
1
2
3
4
ボ ラテ ィ リテ ィー
図3
.
2 研究開発プロ
シ
`ェクト
の価値評価結果
ー58-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
-ケティングを行 い,これが終 了した時 点で開発投 資を行 うか否 かを再 評 価するような投 資戟
略をとるのが効果的であることを示 している。
以上のことから,研究 開発終 了後 に商 品化投 資の価値 を判 断できるコールオプションの方が
正味現在価値 よりも投資価値を高く評価 し,さらに.研究終 了段 階で開発投資の価値を評価で
きるコンパウンドオプションのほうがコールオプションよりも投資価値を高く評価することがわかる。
コンパウンドオプションで評価される意 思決 定方法 は現 行 の研 究 開発投 資プロセスにおける意
思決定 とほぼ同様 であり.研 究 開発投 資を数段 階 に分 けて各段 階終 了後 に次段 階 の投 資の
意 思決 定を行う柔軟性を評価するコンパ ウンドオプション価 値 評価 法 が研 究 開発 の意 思 決 定
により適 していると考えられる。
図 3.
3に評価 した全研究 開発テーマについて2投 階のコンパウンドオプション価値 (
アイディア
Aの投資額 で規格 化 した金額 )とボラティリティーの関係を示す。投 資価値 とボラティリティーの
平面上 にプロットされたそれぞれの研究 は,これを4つの領域 に分 類するOすなわち,
領域(
争:
ボラティリティーが小さく,投資価値が正 の領域
領域② :
ボラティリティーが大きく,投資価値が正の領域
領域③ :
ボラティリティーが大きく,投資価値が負の領域
領域④ :
ボラティリティーが小さく,投資価値が負の領域
領域①の研究 開発テーマは,収 益 の可能 性が高くリスクも低 いことから.速 やかに開発 投 資
を行うべきである。領域② に属する研究開発テーマは投資価値 は高いがリスクが高 いことから,
まずは研究投 資を行って,その後再 度価値を評価 してその後 の開発 研 究を行うべきかを検 討
i
埋
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1
.
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ホ●
ラティ
リ
ティ
図 3.
3 8つの研究開発プロジェクトのコンパウンドオプション価値とボラティリティー
ー59
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
すべきである。領 域③ の研 究 開発テーマは投 資価値 は低 いがボラティリティーが大きい。本 研
究で採用 したボラティリティーは,営業担 当者 の経族 に基づいており,ボラティリティーが大きい
ということは,その研 究 開発テーマの市 場価値 が不確実 ということである。したがって,アイディ
アを再考 してビジネスモデルを再構築する必要 がある。最 後に領域④ の研究 開発テーマは投資
価値が低く且つボラティリティーも小さいことか ら,棄却すべきテーマであるOこのように.この手
法によると,各 SBU に属する複 数の研 究テーマについて.投資価値ならびに投 資戦 略を統一
的に評価するツールを供給できると考えられる。
3.
2.
4
今後 の課題
以上 の結 果から,複 数の研究 開発テーマから投 資すべきテーマを選 定する意 思決 定 におい
て,個 々の研究 開発テーマのコンパウンドオプション価値 とボラティリティーとの関係を示すダイ
ヤグラム,すなわち研 究 開発 投 資ポートフtl
Jオ,の有効 性 が 明らかになった.しか し,本 手 法
の適用においてはさらに検 討すべき複 数の課題がある。
さらに,各 SBU 内の複 数の研究開発投資ポートフ*リオに関しては,それぞれの研究アイデ
ィアにおいてその投 資計 画を変更 したときの収 益 とボラティリティーの変化を感度 分析すること
によって,ポートフがノオの全体価値を最大化することもできると考えられる。したがって,今後 は
このような感度分析 によるポ-トフ*リオの最適化ツールも必要 になると考 えられる0
本章で用いたコンパウンドオプション価値評価 では,ボラティリティーは研 究 開発終 了後 にゼ
ロになること,また.オプション保持期 間 中は一定であることを前提 としているが,実際の研究開
発 は研究開発終 了後もその商 品価値 のボラティリティーはゼロにはならないことから,オプション
は無 限期 限のアメリカンオプションと考 えられる。さらに,研 究 開発 および実 用 化過 程 で得 られ
た情報 によってボラティリティーは逐次 変化 していく。また,ここでは,研 究 開発テーマのボラティ
リティーは主にそのアイディアの市 場性を中心 に検 討 したが,技 術 的な難 易度もその後の商 品
化の成功 の主要な要 因である。すなわち,研究 開発投 資には市場ボラティリティーと技 術ボラテ
ィリティ-の少なくとも2種類が存在する。今 回採 用 したGeskeのコンパ ウンドオプションモデル
は,上述 したような,アメリカンオプションで,そのボラティリティーが変化 し,且つ複 数のボラティ
リティーが存在する状態を取 り扱うことはできない。したがって,次章 ではより柔軟 な解析ができ
る二項格子モデルモデルを技術と市場 の二つの不確実性がある場合へ拡張 した 4項格子モデ
ルによる個 々の研究開発テーマの投資戦略の高度化について検討する。
-60-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
ま とめ
3.
3
本章では,投資の意 思決 定手法 として近年注 目されているリアルオプション法を取 り上 げて,
これを実際の発 電設備のサービス商 品の研究開発 の投 資意 思決定プロセスに適用するための
手法 について検討するとともに、その効果と課題とを抽 出して今後の方 向性を探っている。
その結 果,研究 開発の投 資意 思決 定が持つ柔軟 性を考慮 できるコンパウンドオプションモデ
ルによる研 究 開発価値 評価 手法 が実 際 の意 思決 定を支援するツールとして有効 であることを
明らかにしているとともに,現場担 当者へのアンケートに基づく研 究開発投 資価値 の期待値 とボ
ラティリティーの推 定方法を提 案 している.さらに,複 数の研究 開発投 資案件からなるポートフォ
リオの価値 の最 大化においてコンパウンドオプション価値 とボラティリティーの二次元表示による
図式 的方法 を提 案 している。これ らの手 法 は表計 算 ソフトを元 にした簡 易 的な計算 によって実
行できることから実用性が高 いと考 えられる。
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-61-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
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3,pp3131
3251
-62長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
第4
章
研究開発戦略高度化へのリアルオプション法の適用
第 3章 で述べたように,コンパウンドオプション価値 評価手法 は,企 業の SBU 内での複 数の
sk
e(
1
979)
のコンパウ
研究開発テーマに対する投資意 思決 定に有効 と考 えられる。しかし.Ge
ンドオプション価値評価モデルで取 り扱える不確実性 は 1つだけであり,第 3章では市場 の不確
3で述べたキーエンスの新商 品開発プ
実性 のみを取 り扱っている。しかし,例 えば第 2章 の図 2.
ロセスでも見たように,商 品企 画 は市 場 の潜在 需 要 にもとづいて行われるが,企画 された新商
品の 目標スペックを研究 開発 によって達成できるかは.目標達成のために開発すべき技 術の完
成度と研究開発 の成否に依存 している。企画 した商 品にいくら大きな潜在需要があっても,それ
を具現化できる技術がなければその商 品は完成することはなく,キャッシュフローを生むことはな
い。
したがって.研 究 開発 投 資価 値 をより詳細 に評 価するには,少なくとも市 場 と技 術 の二つの
不確 実性を取 り扱う必要 がある。そこで,本章 では二つ以上 のボラティリティーを持つオプション
の価値評価法 として提案されている手法 について検 討 し,研究 開発戦 略の最適 化へのその適
用性 について検討する。
4.
1
ボ ラテ ィ リテ ィーが複 数 ある場合のオ プシ ョン価値評価 法
コープランド,
ボラティリティーが複 数ある場合のオプション価値評価法 には次 の 2種 類があり(
2002),以下のその概要を示す。
4.
1.
1
それ ぞれ の不確 実性 に一定の関係 が有 り.統 合化 で きる場合
たとえば高燃費エンジンの開発を例 に取ると,燃 費と販売数量 には相 関があると考 えられる。
すなわち,開発されるエンジンの燃 費が 良けれ ば良いほど,販 売 台数が伸 びることが予想され
ることから,予想販売台数を燃費 の関数 として表すことができると考 えられる。したがって.この
エンジンによる将 来のキャッシュフローとその不確 実性 は,開発 によって達成できる燃 費 とその
不確 実性の関数としてあらわすことができる。すなわち,この場合 は,収益の不確実性を燃費の
不確 実性 の関数 としてあらわ し,燃 費 の確 率 分 布 からモンテカル ロシミュレーション等 によって
収益の不確実性を求めることができる。
たとえば.研究開発 によって達成できる燃貴 向上率を Zとすると,
Z-E(
Z)+odz
(
4.
1)
とあらわすことができる.ここで,
E(Z)は達 成できる燃 費の期待値で.oi
ま達成できる燃費の確か
-63-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
らしさを示す標準 偏 差 ,dzはランダム変数で,たとえば期 待値ゼ ロで標 準偏 差 1の正規分布 に
従うものとするO期待値 E(
Z
)と標準偏差 Oは ,第 4章で述べた営業部 門へのアンケートと同様 に.
この場合 はこの技術 開発 に直接携わらないがこの分野 の技 術 について詳 しい専 門家数名 に対
して「この開発プロジェクトで達成可能な燃 費の最大値 と最小値 は ?」のアンケートを行って,求
めることができる。
一方 ,営業担 当者 数名には開発 によって3レベル程度の燃 費
Z.
(
i
-1
3
)
が達成できたときに,
Z,
)の最大値 と最小値をアンケートするOこれを模 式
これを搭載する自動車 の年間販売台数 N(
1に示す。このデータをもとに.最も単純な場合 は ,(
4.
2)
式のような一次式
的にプロットして図 4.
を仮 定して,予想販 売数 〃を Zの一次 関数としてあらわすことができる。
N(
Z)-a+b
Z+J Nd
n
(
4.
2)
ここで,aとbは最 小二乗法 によって求められる係 数 .oT
Nはある Zの時の N の標準偏 差 .dnは
ランダム変数である。
(
4.
2)式の Z に (
4.
1)式に従う乱数を発生させてモンテカルロシミュレーションを行うと技術 開
発における燃費達 成の不確実性を考慮 した年 間販 売台数 とその標 準 偏 差を求 めることができ
る。このプロジェクトで開発される自動車 の販売 によるキャッシュフローに影響を及 ぼすその他の
因子があれば.同様 の方法で技術 開発 における燃費達成の不確実性を考慮 したそれぞれの因
子のばらつきを求めることができ,これをもとに将来のキャッシュフローならびにこの 自動車 開発
プロジェクトの開発終 了時点での PVとそのボラティリティーを求めることができるo
このようにして,技術の不確実性を市場の不確実性 に統 合 して.プロジェクトの PVとそのボラ
Nr
ろm
ノ
L
Z
X
e
z)
N轟僻些臣廿解 析
ZI
Z2
Z3
予想燃費Z
図4.
1 予想燃費と予想年間販売数との関係
-64-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
ティリティーを求めることができれば第 3章 で述べた Geskeのコンパウンドオプションモデルを用
いてプロジェクトのリアルオプション価値を求めることができる。
4.
1.
2
それ ぞれ の不確実性 が .独立 で無 関係 の場合
たとえば .
4.
1.
1項 の 自動車 の開発 においてガソリン等 の石油燃料を燃焼させる内燃機 関で
はなく,燃料 電池を動 力とする自動車 用エンジンの開発プロジェクトについて考 える。燃料 電池
を用いた自動車 用エンジンの実 用化 には,いくつかの技 術 的課題 の解 決 が必要 であり,これ ら
すべての課題が解 決できなけれ ば開発 は失敗 に終 わ り,将 来のキャッシュフローはなくなる。ま
た.課題をすべて解 決 して開発 できた場合の将 来 のキャッシュフローは技術 的不確実性 とは無
関係である。このような場合 は.将 来のキャッシュフローは技術 と市場 の二つの独立 した変数の
影響を受ける。
Boyl
e ら(
1989)は.不確実な多変数からなる債 券 の価値評価法 として 2 項格子モデルを拡
張したn次 元格子モデルを提案している。以下に.∩次元格 子モデルの中で最も単純な 2 種 類
の不確実性がある原 資産 のコールオプション価値 の計算法 である 4 項格 子モデルについて示
す。
今 ,二つの不確 実性 がある原 資産を考 え,資産価 値 の増減 は幾何 ブラウン運動 に従 うとす
る。まず,ある微 小時 間間隔dJでの不確 実性 1による原 資産価 値 の上昇率 と下落率をそれぞ
-e
JI
J
面)および
れ u)(
dl(-1/uJ
)とし.
不確実性 2による上昇率 と下落率を u2および,d,(-)/u,
)と
とすると,特刻 t
+At後の原資産の価値 は,図 4.
2(a)
する。今,時刻 tでの原資産 の価値を V,
に示すような4つの値をとりうるoそれぞれの矢 印の値をとりうる確 率を上から順 に,
PuIu2
,PuJd2,
pd]u2
,Pdld2とする。このとき.時刻
t
+At
で満期を迎える行使価格 xのコールオプションを考えて,
t
+Atでのペイオフを考えると.それぞれ,図 4.
2(
b)
に示す値 となる。すなわち,i
+At時点での原
V
,i
t
X,
0
1
uJ
u2Vt
Cul
u2-Au Xlul
u2V,
-
uld
2V
,
Cul
d2-M
dIu2Vt
CdJ
u2-M 4Xldl
u2Vf
-
d)d2V,
Cdl
d2-M
i
+AE
+dJ
J
(
a)原資産価値の変化
XO
I
luJ
d2V,
-
XO
j
XO
1
ldld2V,
-
(
b)オプション価値の変化
2 4項格子モデル
図4.
ー65長 崎大学大学 院経済学研 究科学位論文用紙
資産価値 がオプション行使価 格を上 回れ ばこのコールオプションは行使 され ,下 回れ ば行使さ
れずペイオフはゼロとなる。
Cox,
満期 時の各ノードのペイオフ(Cu)u2,Culd2,Cdlu2,Cdld2)が求められると,二項格子モデル (
1979)と同様 にリスク中立確率を用いて 1時間間隔AT前 のオプション価値 cl
が求められ,その
4.
3)式で与えられる。
オプション価値 は (
C
v
u
C2+ P d
Cd2+ PduC
Pul 2
ul
u
ul 2
u.
l 2
d
2
Cd
l2
dl
u2+ Pd
l
d
-
(
4.
3)
1+r
f
ここで,Pulu2,PuJd2,PdJy
2
,Pdl
d2は4項格子モデルでのリスク中立確率で,二つの不確実性 の間
に相関が無い場合 は ,(
4・
4)
式で与えられる。さらに,r
fは期 間A
T間のリスクフリーレートであるo
-P
u
.
Pu2
P
u
l
d
2= u
l
P
Pdl
u2 P
d
l
Pu2
P
d
l
d
2-P
d
l
P
Pul
u2
P
d2
(
4.
4)
d2
ここで,Pul,PdJおよび pu2,Pd2は,それぞれ不確実性 1と不確 実性 2だけがあった場合のリスク
4.
5)
式で与えられる。
中立確率で,(
(
1+r
f)-d.
・
P
d1
-1-Pul
u1- dl
(
4.
5)
(
I
+rf)-d2
・
Pd2-1
-Pu2
u2 - d2
さらに,不確実性 1と不確 実性 2の間に相 関がある場合 についてもリスク中立確 率 が求 めら
れるが,計算 の容 易さからこの場 合 の二項格子 は算 術ブラウン運 動 (
加 法 定理 )に従 うと仮 定
4.
6)
式であらわされる。
する。このときのリスク中立確率 は(
ul
u2+ u2gl+ ul
g2+ P1
2
C
T
l
J2A
t
Pu.u2
Puld2
Pdl
u2
Puld2
4
u.u,
u.
u,
+u
2gl
+dlg2- P.
2
Jl
O.
2
At
4
u.u2
ul
u2+d2gl
+u.g2IP1
2
C
r
l
J2A
t
4ulu2
ul
u2+d,g.
+d,g2+P1
2
ロ・
1
0・
2A
t
4
ulu2
(
4.
6)
ここで.不確実性 1と不確実性 2の増加率 と減少率 ul
,
dl,u
2
,
d2は,増減率が算術ブラウン運動
に従うと仮 定していることから,
-66-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
.
-J .
J右 ニ ーdl,u2 -C'2、
店三 一d,
(
4.
7)
u
さらに,g1
,
g2はそれぞれ の不確実 性 の要素 の期 待増加 率 であり,
.
(
r
f
i
J
.
2 (
r
f
三
g
2
)
g
)At
,g2
(
4.
8)
At
として,与えられる。また,p12は不確実 性 1と不確 実性 2との問の相 関係 数である。
4.
2
研 究 開発戦 略立 案へ の適 用
以上 述 べたように,現 資産 価 値 に複 数 の不確 実 性 がある場 合 のオプション価 値 評 価 には,
複 数 の不確 実性を相 関させて単 一の不確 実性 に統 合 して解析 的手法 によって価 値 を求 める方
法 と,2項格 子を拡 張 した 4項格 子モデルとによって求 める方法 がある。統 合 化する方法 は第 3
章で述べた手 法 と類似 の手法であることから,ここでは,第 3章 で述べた手 法で投 資価 値 有 りと
判 断された個 々の研究 開発テーマに対 して,その開発 戦 略 の最適 化への 4項格 子モデルの活
用法 について検 討する。
4.
2.
1
ケー ス
第 3 章 と同様 に,ここでも発 電プラントのアフターサービス関連 研 究を取 り上 げる。この研 究
1に示す。
開発プロジェクトの概 要を表 4.
表 4.
1 検討したサービス事業の研究開発プロジェクト
期間
1年
1年
研究
開発
1
0百 万 円
売価
1
00個/年
現時点での予想販売数
予想販売数の年間ボラティリティ
1個あたりの変動費
40,
i
7百 万 円
3
00百 万 円
年間の固定費
研究費
40百 万 円
研究の成功確率
5
0%
2
00百 万 円
開発費
75%
開発の成功確率
1
000百 万 円
事業初期投資責
-671
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
リスクフリーレート
3%
プロジェクトの期 間は 2年 間で,1年 目に技術 的な問題 点を開発 し,2年 目に解決された技術
課題をもとに装置化 し,装置化が成功すれば,3台の装置を製作 して,国 内の火力発 電プラント
でその装置を用いてプラントに使用されている機器 の信頼性を維 持 ,向上させるためのメンテナ
ンスサービスを行うという計 画である。技術課題 に成功する確 率 は 50%.製 品開発 に成功する
5%と見積もられている。また.ここでは問題を単 純化するために売価 は 1
0百 万 円で
確率 は 7
固定とし,販 売数量 に不確 実 性を見込 んだ。さらに,開発 成 功 後 のプロジェクトの価値 は初年
度 のキャッシュフローの 5倍 とする。
4.
2.
2
4項格子 モデル に よる プロジ ェク トの評価
3は,上記研究開発プロジェクトを1期 間が 0.
25年の 4項格子モデルで記載 したもので
図 4.
ある。このプロジェクトの不確実性 は上述 したように販 売数量 と技術 的な成功確率である。技術
的な成功確率 は研究段 階と開発段 階のそれぞれ最後のノードで生 じることから,1 年 目の最終
技術 的な成功 ,販売数量増加 ),(
技術 的な成
ノードの前が 4 項に分岐 しており,それぞれが (
功 ,販 売数量減 少),(
技 術 的な失敗 ,販 売数量 増加 ),(
技 術 的な失敗 ,販 売数量減 少)の 4
つに対応 している。研究段 階,開発段 階ともに技術 的に失敗すれ ばその時点で製 品化はできな
研
究
期
間
(
1
年
)
-68
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
くなるために,プロジェクトのキャッシュフローはゼロとなり,その時点で中止される。
それ以外 のノードでは,製 品販 売 予想 数量 が増加するか減 少するかの二項格 子である。販
25 年 の 間 の ボ ラティリティー は
売 数 量 の 年 間 ボ ラティリティー は 40% であるの で ,0.
0.
4・
、
何元
=0.
2となる。したが って,増 加 率 と下 落 率 は それ ぞ れ
u1
-e
O
・
2
-1.
2214, dl
-
1
/
u1
-0.
8187 となる02 年後の各ノードの販売数量を求めて.それぞれのノードでのプロジェクト
の現在価値を求める。このプロジェクトの現在価値が事 業初期 投 資費を上 回れ ば,この投 資は
実行されるが,これを下 回る場合 .ならびに開発 に失敗 した場合は投 資 は実行されないとする。
3 の最終ノードのうち上位 3ノードのパスのみで事 業化の意 思決 定がなされ,
この例では,図 4.
それ以外 では事 業化は行われない。
次に,最終ノードのペイオフからその前の期 のノードのオプション価値を(
4.
3)式を用いて求め
る。ここで,それぞれのリスク中立確率 は (
4.
4)式および (
4.
5)式によるが,研究と開発の成功確
率 はそれぞれ 50%と75% でありこの確率 は市場 とは無関係なので.この確率をそのまま用いる。
8 百 万 円となる。この価値 は研究投 資費用
このようにして最 初 のノードの価値を求めると,43.
40百万円を上 回るので,この研究開発プロジェクトの研究フェーズは実行される価値がある。
この研究開発プロジェクトの価値を NPV 法で求めると.期待販売数 は年間 100個であり,売
価 は 10百万 円 ,1個あたりのコストは 7百 万 円で年 間の固定費 は 3百万 円であることから,販
100×(
107ト300)×5-0百万 円となり,全く収 益を生ま
売時点でのこのプロジェクトの価値 は(
ないプロジェクトとして研 究開発 は実行されない。このように,リアルオプションでその価値を評価
すると.期 待値 より多く売れる可能性 があるために,少なくとも研究プロジェクトには着手する価
値があることになる。
4.
2.
3
段 階的投資の判 断へ の活用
このようにリアルオプション法 においては製 品化までの期 間の市 場 の状 態 の不確 実性から.
NPV 法に比べると不確実な投 資の価値が高くなる。しかし,現実の研究 開発投資においては.
小魚 の開発フェーズに一旦着手すると,その後市 場環境が悪化 したとしても「中止 -失敗 」と考
えられることが 多いために,そのまま次段 階の開発 に進 むことが 多い。しかし,本 研 究で実施 し
た格子モデルによると,現 時点で着手後 の収 益 の予測を可視 化 して事前 に評価 していることか
ら.研究開始後 に商 品のコンセプトがより明確 になった段 階で,収 益 の予想を再 評価 して,その
結 果によってその後 の投 資の意 思決 定を行うことができる。さらに.研 究着 手段 階からその研
究が開発段階に進 める確 率が与えられることから.最初から中止する確 率が市場の状況によっ
-69-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
て生 じうることを関係者 が認知 した上で研究 に着 手することから,市 場が不 利 になったときに中
止することが容易になると考えられる。
表4.
2 研究開発プロジェクトの価値と予想販売数量のイベントツリー
(
1
)プロジェ
クト
のリアル
オプショ
ン価値 の イ
ベント
ツリ
ー
0
.
2
5 0
.
5 0
.
7
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.
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豊 川。。。。
1
7
1
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7
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14 諾
。。。
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T
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7
0
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1
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年
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2
)
予想販売数量のイ
ベント
ツリ
ー
表 4.
2は本研究で実施 した図 4.
3で示 した各ノード(
開発 に失敗 したノードを除く)におけるプ
ロジェクト価値と予想販売数量の計算結 果である。上述 したように 2 年後に販売の意 思決 定が
行われるのは,上位 3ケースに市場および技術の状態がある場 合のみである。これは販 売数量
年以上であり,現在 の期 待予想販売量である 1
00個/
年 以上である 1
49個/
年の予
で 223個/
測販売数量であってもその後の開発投 資 は実行されない。最終 的に実用化 になるパスをとおる
49個/
年 以上販売できると営 業関係者 が予想 しなけれ ばならないこと
には 1年後 に少なくとも 1
になり.開発段階に進めない可能 性が高いことが,すでに研究着手段 階からプロジェクト関係者
2(
1)で投資 中止 となるノードの予想販 売数量を (
2)中に網掛 けで示 したが,
に周知される。表 4.
研究開始後より情報 が確 かになった適 当な段 階で再度 予想販 売量 の調査 を実施 して.その時
点での予想販売量が網掛 けをしている領域 に入っていると,この開発プロジェクトを中止するこ
とを研究開発前 にコミットしておく。これ によって,市 場 の状況 によって予想よりも販 売数量が少
ないと判 断されるような状態 になった場合 に即座 に投 資を中止 できる。これ によって将 来販 売さ
れることのない研究を続 けることによる損失を早期 に食 い止めることができる。
-70
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
4.
2.
4
研究 開発計画の最適 化へ の リアルオ プシ ョン法 の適用
研究 開発 においては,用 いる資源 の種 類 と量 によってその成功確 率を上 げることができる。
たとえば,社 内のみで研究するのではなく,優れた装置を有する外部研究機 関への委託 や研究
員の増加 ,新たな実験 装置 や解析装置 の購 入等 である。すなわち研 究 開発投 資金榎 によって
は研究段 階 ,開発段 階の成功率を高 めることができる可能 性 がある。しか し,これ らの技 術 的
な成功確率を高 めるために多額 の開発 投 資を行っても.市 場 の需要 から得 られるキャッシュフ
ローが少なけれ ば投 資価値 はないことから,市場での成功の大きさに依 存 して.研 究 開発投 資
の最適規模 が存在すると考 えられる。そこで,投 資計 画 の最適 化へのリアルオプション法 の適
用について検 討する。
図 4.
4に開発費 は同- (
200百万 円で成功確率 75%)として.研究費を変化させたときのオ
プション価値 から研 究費をひいた正 味価 値をプロットして示す。ここで,研 究責 と成 功確 率 との
間には線 型 関係 が成 り立 つとした (
すなわち,研 究 費をか けれ ばかけるほど成功確率 は高くな
る)場 合 と,研究 費に関わ らず成功確 率 は一 定とした二つの計 算結 果を併 記 している。園から
明らかなように.研究費と成功確率 との関係 が線 形 の場合 ,研究 費をかけれ ばかけるほどオプ
ション価値 は高くなるがあまり敏感ではなく,10百万 円から 80百 万 円に研究費を増額させても,
正味の効果 は 7百万 円ほどにしか達 しない。一方 .研究費が一定で成功確率を高めることがで
きれば,当然ながら研究費が少なければ少ないほど正味の効 果 は高くなり,その効 果の絶 対値
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研究責 (
百万円)
4 研究費とオプション価値の関係
図4.
-71-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
も大きくなる。したがって初期研究段 階では,研 究の成功率ではなく,研究責対成功率比が最も
高い研究戦略を選ぶべきと言える。
さらに,図 4.
5には研究費 は 40百万 円で研究成功確率 50%としたときの,開発責とオプショ
ンの正 味価値 とを比較 して示す。ここで開発 責 と開発 成功確率 は比例 関係 にあるとし,開発 費
200百万 円のときの成功確率を75%として比例配分する。ここでは,開発 費 180百万 円以下で
は正味価値 は負となり.このプロジェクトには投 資価値 はないことになり,開発段 階まで進 んだ
後 は開発費をかけて成功確率を高くすべきであることがわかる。
以上のように 4項格子モデルを用いると研究 開発投資額 と成功確率 の異なる複 数の研究 開
発戦略の中から,その経済 的価値が最も高くなる研究 開発戦 略を抽 出できると考 えられる。
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開発費 (
百万円)
図4.
5 開発費とオプション価値の関係
4.
3
考察
以上の検討結果から,複 数の不確実性をもつ原 資産 のオプション価値評価 法として提案され
た Boyl
eの ∩次元格子モデルは,技術と市 場の二つの不確実性を有する研 究開発の価値評価
に有効であるといえる。また,この手法 によれ ば多段 階で行われる研究 開発プロジェクトにおい
て,プロジェクト開始前 の時点でプロジェクト進行 中に市場 の不確実性が低 下 していく過程 で投
資価値を逐 次再 評価することができ,特 に投 資 の中止 のクライテリアを事前 に明確 にコミットで
きる。さらに,この手法 によると,研 究 開発プロジェクトにおける多様 な戦 略 の 中から,最 も経 済
17
2
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
的に価値の高い戦略を抽 出することにも役立つ。
リアルオプション価値 ではプロジェクトのボラティリティーが大きけれ ば大きいほどその価値 が
高 くなる。本検 討では,市 場 のボラティリティーを一 定 としたが .最 初 に企 画 した商 品コンセプト
は研究 開発 の段 階で次第 に明確 化 してくることから,市 場 のボラティリティーもプロジェクトの進
行 とともに小さくなってくると考 えられる。したがって,ボラティリティーを期 間 中に一 定とした今 回
の評価法 はプロジェクトの価値 を実 際より過大評価する可能 性があると考 えられる。そこで.今
後 は期 間ごとにプロジェクトのボラティリティーが低 下 した場 合 にどの程度プロジェクトの価値 に
影響を及ぼすかを知っておく必要がある。
さらに,リアルオプションによると,満期までの期 間が長くなるほど投 資価値 が高 くなる。しかし,
現実の研究開発 は競 合他社 との競争のもとで行われ,開発が競合他社 に遅れると市場価値 は
低くなる。したがって,技術 的な失敗 に加 えて,競 合他社 による先行 開発 の脅威も加 味すること
によって,研究 開発期 間についても競 合との競争 状態 に応 じた最適な研 究 開発戦 略の立案が
可能 になると考えられる。
4.
4
ま とめ
本章では,研究 開発 投 資 の意 思決 定 において重要な市 場 と技 術 の二つの不確 実 性を考慮
4 項格子モデルを取 り
して研究 開発プロジェクトのリアルオプション価値を評価する方法 として,
上 げ,研究開発プロジェクトへの適用性 について検討 している。
その結 果,研究段 階と開発段 階 の二つのプロセスのコンパウンドオプションとして,市 場 の不
確 実性 と研究段 階,開発段 階での技 術 的な成功 の不確 実性 を取 り扱 えるモデルを作 成 して,
価値評価を行い,以下を得ている。すなわち,
①
研 究 開発 の意 思決 定において商 品化 の意 思決 定も行うとして評価 される正 味現 在 価値
は負となるようなプロジェクトであっても,コンパウンドオプション価値 はその市 場価 値 のボ
ラティリティーに応 じて研究投資の価値ありとなることがある0
②
4項格子モデルによると研 究 開始後ボラティリティーに変化が生 じた場 合 に投 資継続 を中
断する条件を事前 に明確 にコミットできるために,商 品化の見込みのない研 究 開発を継続
してしまう危 険性が低 下する。
③
研究開発投資額 と投資による成功確率との関係 から,最適 の投資戦略を立案できる。
さらに,上記の結 果から.研究 開発投資戦 略構築へのリアルオプション法 の適用 の今後の課
題を抽 出している。
-73-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
参 考 文献
コープランド,トム,
(
2002), 栃 本 克 之監訳 ,
「
決 定版 リアルオプション」,東洋経済新 報社 ,
Geske,R.
.
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Theval
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i
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7.
1979,pp6381.
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pp.
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cs,Vol
・
7pp2291
2631
-74
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
第5
章
研究の稔括と今後の展開
5.
1
研究の捻括
現在 日本企 業の研究 開発部 門は,大きな岐路 に立っている。グローバル化の中で先進 国企
業としての地位を維持 向上させるために,研 究開発部 門には経 営戦 略を実行する部 門として,
価値創造の有効性と効率性の向上が求められている。そこで.本研究 は,これからの企 業の研
究開発部 門が有効性 と効率性とを向上させるために具備すべき能 力について検 討した。
第 1章では,急速 に進むグローバル化 ,l
T 化 ,vTI
Cs 諸 国の発展など,日本企 業の経 営を
取 り巻く環境 の急激な変化について述べ.これに対応するように経 営戦 略の実行を担う研究開
発部 門が果たすべき役割もこれまでのキャッチアップ型から価値 創造 型へ変革すべきであるこ
とを述べた。価値創 造 型 の研究 開発 部 門への変革 において重要 な外部 環 境 因子 は市 場 と技
術の多様 化と進歩 の方 向の不透 明化であり,これ に対処する組織 能 力を獲 得する必要 がある。
そこで,まず,研 究 開発 部 門の有効 性 と効 率 性 に関する研究で先行する米 国における研 究現
状を調査するとともに,研 究 開発 投 資の意 思決 定手法 の現 状を調 査 ・
検 討 して研 究 の課 題を
抽 出した。
第 2 章では,外部環境 の変化に対応するために企業の経 営戦 略がどのように変化 している
かを検討 した。そのなかで,今 日のように市場 と技 術が不確実な中での企 業の戦 略を示す重要
な概念 としてダイナミック・
ケイパビリティーを取 り上 げた。ダイナミック・
ケイパビリティー ・
アプロ
ーチとは.従 来の競争戦略アプローチと資源ベースアプローチがそれぞれ経 営資源 と外部環境
の普遍性を仮 定 していたのに対 して,そのいずれも流 動 的な今 日の経 営環 境 のなかで企 業に
要求される最 も重要 な能 力は,変化 の感知能 力と変化 に対 して敏 速 に対 応する能 力であると
する経 営戦 略 の考 え方 である。そこで,この考 え方 に沿って,日本 企 業で行 われた8つの製 品
開発を分析 し,製 品開発を成 功させる組織 能 力をダイナミック・
ケイパ ビリティーの観 点から抽
出した。その結果,製 品開発 の成功要 因が,次の5つであることを明らかにした。すなわち,
①
プロデューサ的人材を育成するための,研究 開発部 門以外 の事 業部 門で経族を積ませる
人事制度,
②
技術動 向と企業の経営戦略とにフイットした先行技術への投 資,
③
技術開発から新製 品の商 品化までをプロデュースする責任者への権 限の委譲 。
④
失敗を許容 し,失敗から学習する風土と技術 的機会主義,
⑤
社 内外 の公式,非公式な知識創造 の場 ,
である。
-75
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
さらに,研 究 開発 型企 業として驚異 的な成長 と利 益を生んでいる工 業用 センサーの 中堅企
業である株 式会社キーエンスを対象 として,上記 のように抽 出されたダイナミック・
ケイパビリティ
ーとの関連を検 討 した。その結 果 ,②を除く他 の 4つについてはキーエンスの研 究 開発戦 略 に
按 り込まれていることを明らかにした。すなわち,② について,キーエンスは中央研究所などのよ
うに要素 的な研究を行う組織 を持たず,市場 の潜在需要 から新 商 品を企 画 しその 目標仕様 が
明確 になってから開発に着手する形態をとっていることから,先行技 術への投 資を重視 していな
い。すなわち.② によって自社 に要素技術を育成することは.技 術の細分 化 が進 み先端技 術 に
関する情報 が得 やすくなった現在 の技術環境 の 中では競 争優位 の源 泉 とはならず,逆 に市場
と技 術への対応能 力の阻害要 因になりうると考 えていると推察される。このような考 え方 は,今
後の研究開発部 門の進むべき方 向の一つであると考えられる。
このように今 日の研 究 開発部 門には顧 客ニーズを探 知する能 力と探 知 したニーズから新 商
品を企画する能 力と企画 した商 品をいち早く開発する能 力が必要 である。企 画 した商 品をいち
早く開発する能 力には上述 したダイナミック・
ケイパビリティーが必要であるが,限られた経 営 資
源のもとで.探知 した多様な顧客の潜在ニーズから,どのような商 品に対 して開発投 資を行うか
も大きな課題である。そこで,第 3 章 では,不確実な投 資の価値評価手法 として近年注 目され
ているリアルオプション法 に着 目し,研 究 開発投 資へのリアルオプション法 の適 用性 について,
発電プラントのサービス部 門 内での研究 開発投 資意 思決 定 に対 してこれを適 用することによっ
て検証 した。ここでは,顧 客のニーズから抽 出された8つの研究 開発テ-マについて,営業部 門
によるその商 品性 のアンケートを行 い,それぞれ の研 究 開発テーマが商 品化された後 のキャッ
シュフローを予測することによって,その現在 価値 とボラティリティ-を推 定 し,研 究部 門による
その実現のために必要な研究責と,開発部 門によるその製 品の開発費 と商用化に関するコスト
から,B一
ackShol
esモデルによるヨーロピアンコールオプション価値 とGeskeによるコンパウンド
オプション価値を求 めた。求めた価値を従 来法である正味現在価値法 と比較 して.オプション価
値 法 の優 秀性を検 証するとともに,コンパウンドオプション価 値 とボラティリティーとの関係を示
す研究開発ポートフ*リオを提案 し,投資意 思決 定への有効性を示 した.
ackShol
esモデルによるヨーロピアンコールオプション価値 と Geskeによるコン
上述 した,Bl
パウンドオプション価値 はいずれも解析 的にオプション価値を求 めることが 出来る手法 であるが,
取 り扱える原資産 のボラティリティーは 1つだけである。しかし,研 究 開発 には少なくとも市 場 と
技術の2つのボラティリティーが存在する。そこで第 4章では,複 数のボラティリティーを取 り扱え
るn次元格 子モデルの個 々の研究 開発テーマの開発戦 略最適 化への活用 方法 について検討
-76
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
した。その結果,市場と技術の二つの不確実性を取 り扱える 4 項格子モデルを提案 し,その有
効性を検証 した。
以上のように,今 日の 日本企 業の研究開発部 門には市場 と技術の感知能 力と察知 した変化
への対応能 力が必要 である。対応能 力を高めるためには組織 のダイナミック・
ケイパビリティー
を向上させることが必要であり,感知能 力を高めるためには研究 開発テーマの意 思決 定力の向
上が必要であり,これにはリアルオプション法が有効であることを示した。
5.
2
今後の課蓮
以上 の研 究から,わが国の企 業の研究 開発部 門の有効 性 と効 率 性 の向上 に関する研 究 に
関して残された今後の課題 について検討する。
5.
2.
1
研究 開発組織 の ダイナ ミック ・ケイパ ビリテ ィー と しての先行技術への投資
2節 において,製 品開発に成功 した8つの製 品開発事例 から抽 出された研究開
第 2章の 2.
発組織 のダイナミック・
ケイパビリティーには「技 術 動 向と企 業の経 営戦 略 とにフイットした先行
技術への投 資」が含まれているが,キーエンス社 はこれを重要 な組織能 力と位置 付 けていない。
それどころか.新製 品がその収益をさせえている製 品開発 型企 業でありながら先行技術の開発
「先行技術への投資」を研究開
を目的とした研究所を保有 していない。したがって第 2 章 では,
発組織 に必要なダイナミック・
ケイパビリティーであるかどうかについて結 論を出していない。しか
し,先行技術への投 資には多額 の長期 間の投 資を伴うことから,先行技 術への投 資が今後 の
研究開発組織 の具備すべき組織能 力であるか否かを明らかにすることは極 めて重要である。
先行技術への投 資 は,直接 的な効果 と間接 的な効 果 との 2種 類があると考 えられる。まず,
直接的な効 果とは,先行技術投 資によって獲得 した特許権 によって,競 合する他社 がこの特許
技 術を活用 しなけれ ば同様 の性能を容 易に達 成できない場 合 に得 られる参 入 障壁である。製
薬 業界などでは特許で守 られた新薬が膨大な利益を生んでいるが,例 えば近年 の携 帯型音楽
プレーヤや薄型 TV 等では最初に商 品化 した企業が必ずしも市場で優位な地位を獲得 していな
い例もある。このように,先行 的な技術 開発 によって競 争優 位 が得 られるか否か は,各製 品市
場 の技 術 的な特徴 に依 存 している可能性 がある。すなわち,医薬 品や機 能材 料 のように先行
的な技術 開発 によって獲 得 した技 術 的な発 明が製 品の主要な部 分を占めるような製 品で,且
つ代替技術 の発見が容 易ではない技 術分野 については排他 的な特許が競 争優位 の源 泉 とな
る可能性があるが,種 々の要素 的な部 品を組み合わせて製作される製 品については個 々の要
素部 品についての特許権 は比較 的容 易に代替部 品が開発または調 達できることから,競争優
-7 7
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
位 の源泉 にはならない可能性 がある。すなわち,それぞれの企 業が参 入 している市場 における
技術の特徴 が「先行技術への投 資」を戦 略 的能 力とするか否かを分 けている可能性がある。こ
れらを実証するために.今後 は種 々の製 品分野での最初 にその製 品を開発 した企 業のその後
の相 対 的シェアーの推移を分析することによって,創 業者 利益が得 られやすい,すなわち「先行
技 術への投 資」が有効な製 品分野 とそうではない分野 との間 に技 術 的な特徴 の差異 があるか
を検 討したい。
次 に,先行技 術への投 資 による間接 的な効 果 について検 討する。これ は,先行 的な技 術 に
関する基礎 的な研究を長期 間積み重ねることによって,関連する学会 のコミュニティーに参 画で
きることや関連する技術 に関する豊 富な知識を有することができ.これ らによって社 外で生 じる
潜在 的な要素 技術 の感知能 力が高 まるとともにそれを吸収 して製 品として実用化するスピード
が速くなるというものである。しかし,先行技術への投 資 によって,企 業の研 究者 は製 品開発 と
いう第一の 目的よりも学会活動の中でより重視される現 象解 明を目的とした基礎 研究 に注 力し
がちになる。この結果.学術論文の執筆 件数の方が製品開発よりも重要視され,製 品開発 には
関係 のない学 術 的な興 味を優 先させた現 象解 明研 究が行 われるようになる。また,このような
研究者 は 自らが進 めている技 術 開発へのバイアスがかか り.製 品開発 の観 点から最 も優 れた
要素 技術を公正 に選 択できにくくなる可能 性がある。これを防ぐためには,先行 技術 開発 のみ
を長期 間実施する研 究者 を養 成するのではなく,社 内の他 の部 門との人事異 動を経 験させな
がら先行技術 開発もあわせて実施する事 業感覚を持つ研 究者を養 成する必要があることを事
例研 究 は示 している。しかし,一人の技術者 に事 業面と技術 面 と両面の才能を養 成することは
容 易ではないOさらに,先行技術開発 には具体 的な開発 目標 が設定 しづらい.したがって,その
研究 開発が成功 しているか否かがマネージメントサイドでつかみ にくく,投 資継続 の意 思決 定が
開発担 当者 の判 断にゆだねられる場合が 多い。この場合 ,失敗を許容 しない組織 であれば,そ
の技術が担 当者 は失敗 と思っていても,これを失敗 と公表 して中止することが困難 になり,無駄
な投資を継続することにつながる。
キーエンスでは,具体 的な開発 目標が設 定されるまでは先行技 術 開発を実施 していない。製
品開発の具体 的な技術 目標が明確 になったあとで技 術開発を行うことから,現象究 明が 目的と
はならず ,目標値達成を目的とした効 率 的な研 究 開発を行うことができるoこのとき,先行技 術
開発を行っていないキーエンスの技術者 は学会などとの人脈を有 していないが,見本市 や学会
などに出かけ,またインターネットなどを通 じて,関係する社 外 の研究者 とのネットワークを築 い
T 技術の進歩などによって技術情報へのアクセスは飛躍 的に容 易
ている。このように,近年の I
178
-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
になっており,先行技術 開発 の間接 的な目的である技 術 的な知識 へのアクセスの重要性 は減
退 していると考 えられる。さらに,具 休 的な研 究 開発 目標 が 明確 になった後 の研 究 開発 は,そ
の成否がマネージメント側 でも明確 にでき.実施者もその 目標 に向かって知識を吸収することか
ら,先行技術への投 資よりもより効 率 的に必要な知識を吸収 できると考 えられ,キーエンスの姿
は今後の研究開発型企業のひとつのベスト プラクティスであると考 えられる。
これを実 証するためにも,今後キーエンス以外 の新 製 品開発 型企 業 の研究 開発 活動をさら
に調査 ・
分析 していく必要 がある。また,先行 研 究成果を効 率 的に活用する手段 として産学連
携が叫ばれているが,我が国では米 国ほど実効が上がっていないようである。そこで,米 国にお
ける産学連携の仕組みについて我が国と比較 して研究 してみたい。
5.
2.
2
新商 品企画 プ ロセス にお ける組接 的知識創造 マネー ジメ ン ト
本研 究では,これからの研究開発部 門には市 場 と技術 の変化 の感知能 力と,それに対する
対応 能 力が重要 であることを示 し,この感知能 力と対応 欧能 力の担 い手 は,社 内の各部 門を
経鼓 して社 内外に強 い人 的ネットワ-クを築いたプロデュ-サ的人材 であることを明らかにして
いる。一連 の新 製 品開発 のプロセスの中で下流側 に位置する.明確 になった新 商 品の 目標 ス
ペックから新商 品の市場投入までのプロセスの効率 については.コンカレントエンジニアリングや
クロスファンクショナルチ-ムなどのマネージメント手法の検討がなされているOこれに対して,最
も上流側 に位置する市場 や顧 客 の潜在ニーズを感知 し.新 商 品を企画するまでの活動 につい
ては,本 研究ではプロデューサ的人材 が培ってきた経鼓 や人 的ネットワ-クによる感性 が重要
であることを示 したが,組織 的に新商 品を企画するマネージメント手法 の検討 は不十分である0
たとえば,第 2章 で述べたキーエンスでは創 業 以来連続 して新 商 品開発 に成功 し,これが 同社
の驚異 的に高 い利益率 の源 泉 となっているが,製 品企 画部 門で行われている商 品開発プロセ
スについては十分把握されていない。このプロセスの良否 はその後 の新 商 品の成否 に対 してき
わめて重要であるにもかかわらず,その知識創造プロセスは明確 になっていない。
企業における知識創造プロセスに関しては.野 中 ・
竹内(
1996)による SEClモデルが知 られ
ている。開 発 者 個 人 の 暗 黙 知 がコミュニケーションの場 において集 団 の暗 黙 知 が形 成 され
(Soci
al
i
ze),さらに 対 話 に よって商 品 ア イデ ィア として 集 団 の 形 式 知 が 形 成 され る
(
Ext
emal
i
ze)。この形 式知 として創 出された商 品アイディアはその他 の商 品アイディアの形式
Combi
nat
i
on),商 品コンセプトが形成される。そこで,このコンセプトについて
知 と連結されて (
マーケテイングが実施され,プロトタイプによって顧 客の反応を観 察 し,組織 的な学習によってさ
-79-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
らに個 々の暗黙知 が蓄積される(I
nt
er
nal
i
zat
i
on)。米 国ではゼ ロックス社 のパ ロアル ト中央研
SCO 社などにおいて,新商 品開発 の知 的スパイラルを組織 的に実施する取 り組みが
究所や CI
行われているようであり.今後 はこのような新商 品企画プロセスでのナレッジマネージメントにつ
いても,さらに研究を進 めていくことにしたい。
5.
2.
3
研究開発 ポ- トフォ リオの高度化
本研究では薪商 品企画 における知識創造マネージメントの中で,企 画前段 階の商 品アイディ
アの価値評価ならびに企画後 の新商 品の開発戦 略立 案にリアルオプション価値評価法が有効
であることを示した。
このなかで.リアルオプションを用 いた SBU 内での複 数の研究開発アイディアのポートフォリ
オ分析 においては,関連する営業担 当者 の勘 (
暗黙知)
を用いてそれぞれの新商 品アイディアの
事業価値を推測 している。この過程 によって導かれる価値 のボラティリティーが個 々の新商 品開
発プロジェクトのリアルオプション価値を左右する最も重要なパラメータである。すなわち営業担
当者へのアンケートが価値 評価 においてきわめて重要なプロセスとなっている。しかし,営業担
当者の回答 は状況に応 じて大きく変わることが予想されることから,よりロバストな価値 評価 手
法が求められる。マーケテイングの研 究分野 においてはプライシング理 論として,このような専 門
家の暗黙知を形 式知 に変換する手 法 が研 究されていることから,今後 はこれ らを参 考 に,より
明確 に構造化された新商 品の事 業価値評価手法 について検 討を進 める必要があると考 えられ
る。
また,本研究ではある SBU 内での複 数の新 商 品企画アイディアについて,各アイディアの事
業価値 のボラティリティーとそのリアルオプション価値 から,各アイディアに対する投資戦略を構
築する方法 について検 討し,その後投 資する研究テーマについて最適 の投 資計画を 4 項格子
モデルに基づいて立案する手法を実証 している。しかし,通常各 SBUでは経 営資源 に制約があ
るoしたがって,経 営資源 の制 約 の 中で研 究 開発ポートフtl
Jオ全体 の価値を最 大化するため
に,各商 品企画テーマの 4項格子 によるリアルオプション価値評価を全体 の投資金額の制約の
中で最大化する手法の確立が必要 であろう。
さらに.研究 したリアルオプション法では他社 との競争 について考慮されていない。リアルオプ
ション法では期 間が長 ければ長 いほど,予想される価値 の上 限値 が大きくなることから,期 間を
伸 ばすほどオプション価値 は高くなる傾 向がある。しかし.開発期 間を長くすることは他社 から類
似する新商 品が開発される確 率 が高 まる。また,その他社 による先行 開発 の脅威 はそれぞれ
ー80-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
の研究開発テーマで異 なっていると考えられる。したがって,今後 は.それぞれのテ-マの競争
状態を考慮 して最適な研究開発期 間を求めるような改 良が必要 と考えられる。
5.
2.
4
薪商 品開発意思決 定 プロセスに関す る軽 営情報 システム
経 営環境の不確実性と変化速度が増すと.研究 開発投資ポートフォリオを頻 繁 に見直 し,そ
れぞれのテーマの市 場性 ,他社 に対する技術の優 位性を再評価する必要が生 じるようになる。
また,研究開発投 資のポートフ*リオの見直 しには,研究 開発部 門のみならず社 内の営業部 門
や設計部 門等 の参加 が必要 であり,その他顧 客データも,あるいは顧 客の参加 も必要 となりう
る。これを短時間で行うためには,研 究開発投資意 思決 定を経 営情報 イントラネットシステム化
する必要 があると考えられる。
2.
2 節で述べた組織 的な新商 品企 画プロセスにおいても.イントラネットを中心とし
さらに,5.
T 技術 は大きな可能性を有すると考 えられる。すなわち,社 内ネットワークは社 内の各部 門
た 】
間の知識創造の仮想の場を容 易に供給 できる可能性を持つ他 ,特 定または非特 定の顧客との
間との仮 想 の知識創造の場を供給すると考 えられる。たとえば,ネットワーキング技 術 として近
Soc
i
al
Ne
t
wor
k
i
n
gSer
v
i
c
e)
技術 は,コミュニティー内での形式知の
年に着 目されている SNS(
交換 ,連結 の場であると考えられる。このような 汀 技術が新 商 品企画活動 に与えるインパクトや
今後の方 向性 についても興 味深 い研 究テーマである。また,顧 客を巻 き込んだ製 品企 画活動
から一歩進 んで,先進 的な顧 客に潜在 的なニーズのみではなく,そのソリューションとしてのイノ
ベーションを供給 してもらう,
Cu
s
t
omerl
n
n
o
v
a
t
i
onに関する研究も米 国では始まっており,この
動きについても今後注 目していきたい。KJ法などによる商 品アイディアの企 画,企画 した商 品ア
イディアの事業性アンケート リアルオプション価値評価 ,ポートフォリオ化 ,開発 の進捗 の評価
とレビューなど新商 品開発 に関する一連 の情報が関係者 間で共有されるものである。
.
1に 汀 マネージメ
これらのためには,社 内の 汀 部 門の位置付 けの変化が必要である。図 5
004)
を示す。従 来経 営情 報システム は事 業部 門の下 に
ントの進 化 (日経情報ストラテジー .2
位置付 けられ,事業部 門からの要 求に応 じて.事 業部 門における日常 的なルーチンのシステム
化を実施 してきた(
第一世代)、その後 はより高次 のルーチンへの 汀 の活用による業務革新 、
l
Tは企 業の戦 略 的因子として重要な位置 を占めるようになり,
効率 向上が図られるようになり,
T部 門の濃い交流が必要 になっている。そして,現 代 I
Tマネージメン
このためには事 業部 門と I
トは第 3世代に入っており,ここでは事業部 門とシステム部 門とが洋然となりアウフヘーベンによ
ってより高次 の戦略 に利用されるようになる。ここで議 論 した研 究 開発 マネージメントの経 営情
ー81-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
アウフヘーベン
(
対立した議論を経て進化)
事業部門
組織 面の「
事業とITの融合度」
l
Tは受動的に業務を
システム化するだけ
T組鞍は他人
事業観積とI
Tを駆使した
積極的にI
業務革新を実施し,
効率向上を実現
事業組鞍とシステム組
接は濃い交流を持つ
システム部門
l
Tの新たな応用も含め,戦略
やビジネスモデルの革新を実
施
事業組鞍とシステム組轍は,
一体化と専門分化をバランス
させて協 力
小
大
戦略面の「
事業と汀の融合度 」
図5
.
1 事業とI
Tの融合度 (日経情報ストラテジー ,2004)
報システム化 は.この第 3世 代 の I
Tマネージメントの主要な要素 を占めると考 えられ .この分 野
の研究についても興 味あるところである。
このようなシステムの構 築 は.意 思決 定 の迅 速 化 のみならず ,ピラミッド組 織 の改 変 ,組織 の
動態 化等 ,ダイナミック・
ケイパビリティーの高 い観 梅 へ組織 風 土を変革する働 きも有するものと
考えられる(
杉原 他 ,1997)。I
T 部 門と事 業部 門がその組織 の壁 を乗 り越 えて,研 究 開発 マネ
ージメントに関する経 営情 報システムを構 築できるためにはダイナミック・
ケイパ ビリティーを高め
なけれ ばならず ,経 営情 報 システムをより浸透 させることはダイナミック・
ケイパビリティーを高 揚
することにつながり,このスパイラル 的な進 化が企 業 における研 究 開発 の有 効 性 と効 率 性 を高
める重要な要素であると考 えられ ,今後 の研 究展 開が待たれるところである。
参 考 文献
杉原 敏 夫 菅原 光 政 上 山 俊幸 (1997),
「
経 営情 報 システム」,共立 出版 ,p214222.
日線情報ストラテジー (
2004),2月号 ,P48
野 中 郁次郎,竹 内 弘高 (1996),
「
知識創造企 業」,
東洋経済新 報社 p46
ー82-
長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
謝辞
本 論文 は,長 崎大学 大 学 院経済 学 研 究科 杉 原 敏 夫教 授 の 多大 な御 指 導 と御 鞭蛙 を賜 って
実施 した研究結 果を取 りまとめたものです。ここに謹んで心からの感謝 の意を表 します。
また,本 研 究を行 うにあたり同大学 院経 済 学 研 究 科 田 口信 夫教 授 須 斉 正幸 教 授 には有 益
な御助言 ,御 指導を賜 りました。特 に.須斎 教授 には米 国経 営学会 に同行参 加 いただき,本 研 究
の骨子を構 築する上 で大 変有益な御 助言 をいただきました。ここに記 して深 甚なる謝意を表 します。
あわせて,本研究 のなかでとりあげたリアルオプションについては,同大 学 院経 済 学 研 究科 神 薗
健 次助 教授 に長期 にわたる御 指 導を頂 きました。さらに,同大 学 院 経 済 学 研 究 科 上 野 清 貴 教
授 及び藤野 哲也教授 には本論 文 の審査 において有 益な御 助言 ,御 指 導を賜 りました。ここに厚 く
御礼 申し上 げます。
三菱重工 業株 式会 社 長 崎 研 究 所技 師 長 納 言啓 博 士 には,本 論 文 を取 りまとめるきっか けと
なった長崎大学大学院経済 学研究科への入学を許可頂きました。ここに厚 く御礼 申し上 げます 。
最 後に,本論文をとりまとめる研究 の期 間 中支 えてくれた家族 に感謝 します。
-83長崎大学大学院経済学研究科学位論文用紙
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