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10 国語,算数・数学の学力と児童生徒の意識に関する構造的分析
10 国語,算数・数学の学力と児童生徒の意識に関する構造的分析 ○ 分析の概要 ここでは,学力と児童生徒の意識の関連を構造的に検討するために,国語,算数・数学の学力に 影響している要素として「社会的関心」「家庭学習」「国語に関する積極性」「算数・数学に関する 積極性」を考えた。そして,各要素を測定する小中共通の質問項目を児童生徒質問紙から抽出した。 次いで,小学校第6学年,中学校第3学年のそれぞれにおいて,「社会的関心」「家庭学習」「国 語に関する積極性」 「算数・数学に関する積極性」の四つの要素が「国語の学力」 「算数・数学の学 力」に影響しているというモデルを構成し,分析を行った(分析には,構造方程式モデリングとい う手法を用いた)。 ○ 結果の概要と含意 ・ 小学校第6学年,中学校第3学年ともに,社会的事象への関心が高いほど,国語や算数・数学 に関する積極性が高くなっている(図1の①) 。 ・ 小学校第6学年,中学校第3学年ともに,国語や算数・数学に関する積極性が高いほど,家庭 での学習が増加する(図1の②)とともに学力が高くなっている(図1の③) 。 ・ 教科学習の前段階として,社会的事象への関心を高める必要がある。 ・ 児童生徒が,国語や算数・数学を学ぶことの必要性や楽しさを実感し,学んだことを実生活に おいて積極的に活用しようとする態度を育成する必要がある。 ○ 分析の詳細 1 分析の枠組み 学力と児童生徒の意識の関連を構造的に検討す 社会的関心 るために,国語,算数・数学の学力に影響している ① ① と考えられる要素(構成概念)として「社会的関心」 「家庭学習」 「国語に関する積極性」 「算数・数学に ② 国語積極性 ② 算・数積極性 家庭学習 関する積極性」を設定した。そして,各要素を測定 する小中共通の質問項目を児童生徒質問紙から抽 ③ ③ ③ ③ 出した。なお,分析においては各質問項目の選択肢 (4∼6段階)の番号をそのまま得点化するととも に,肯定的な回答ほど得点が高くなるように値を反 国語学力 図1 算・数学力 分析モデルのイメージ 転させた。 また,教科ごとに A 問題と B 問題を併せて項目反応理論(Item Response Theory: IRT)を用い た分析を行い,本分析に用いる国語,算数・数学の学力を推定した。そして, 「国語の学力」 「算数・ 数学の学力」を「社会的関心」「家庭学習」「国語に関する積極性」「算数・数学に関する積極性」 の四つの要素で説明する因果モデルを構成し,構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling: SEM)による小中の2母集団同時分析を行った。なお,分析対象の児童生徒数は,平成 19 年 4 月 24 日に全ての調査(「国語 A」「国語 B」「算数・数学 A」「算数・数学 B」「質問紙」)を 実施した小学校第6学年 25,418 名,中学校第3学年 22,733 名であった。 表1 要素(構成概念)と質問紙項目の対応 要素 (構成概念) 家庭学習 社会的関心 国語に関す る積極性 質問紙該当項目 No. 小学校 中学校 (1) (21)学校の授業時間以外の,平日の勉強時間 (21)学校の授業時間以外の,平日の勉強時間 (2) (22)休日の勉強時間 (22)休日の勉強時間 (3) (32)学校の宿題をしている (34)学校の宿題をしている (4) (34)学校の授業の復習をしている (36)学校の授業の復習をしている (5) (39)新聞やテレビのニュースなどに関心がある (41)新聞やテレビのニュースなどに関心がある (6) (40)世の中のいろいろな出来事に関心がある (42)世の中のいろいろな出来事に関心がある (7) (68)国語の勉強は好きだ (70)国語の勉強は好きだ (8) (69)国語の勉強は大切だ (71)国語の勉強は大切だ (9) (70)国語の授業の内容はよく分かる (72)国語の授業の内容はよく分かる (10) (71)読書は好きだ (73)読書は好きだ (72)新しく習った漢字を実際の生活で使おうと (74)新しく習った漢字を実際の生活で使おうと (11) (12) (13) 算数・数学 (74)国語の授業で学習したことは,将来,社会 に出たときに役に立つと思う けている (76)国語の授業で学習したことは,将来,社会 に出たときに役に立つと思う (81)数学の勉強は好きだ (15) (80)算数の勉強は大切だ (82)数学の勉強は大切だ (16) (81)算数の授業の内容はよく分かる (83)数学の授業の内容はよく分かる (83)算数の問題の解き方が分からないときは, (85)数学の問題の解き方が分からないときは, あきらめずにいろいろな方法を考える あきらめずにいろいろな方法を考える (17) (85)遊んでいるときや買い物に行ったときなど, (18) (19) 学力 けている (75)相手や場面に応じた言葉づかいに気を付 (79)算数の勉強は好きだ 積極性 算数・数学 (73)相手や場面に応じた言葉づかいに気を付 している (14) に関する 国語学力 している (87)普段の生活の中で計算をする必要がある 普段の生活の中で計算をする必要がある 場合,答えの見当をつけたり,確かめたり 場合,暗算をすることがある するため,暗算をすることがある (86)算数の授業で学習したことは,将来,社会 に出たときに役に立つと思う (88)数学の授業で学習したことは,将来,社会 に出たときに役に立つと思う (20) 国語 A,B 問題の得点より IRT を用いて推定 国語 A,B 問題の得点より IRT を用いて推定 (21) 算数 A,B 問題の得点より IRT を用いて推定 数学 A,B 問題の得点より IRT を用いて推定 2 分析結果 2−1 社会的関心 モデルの適合 各学力に対する「社会的関心」 「家庭学習」 「国 .94/.85 語に関する積極性」 「算数・数学に関する積極性」 小学6年 小学校 第6学年/中/学中学3年 校第3学年 NN == 25,418/ 22,733 25,418 / 22,733 .73/.60 d1 d2 の影響構造を図2に示したように想定し,SEM による小中の2母集団同時分析を行った。その .59/.34 国語積極性 .24/.31 算・数積極性 家庭学習 結果,モデルの適合度指標の値は CFI=0.882, RMSEA=0.049 であり,CFI の値がやや低いも .35/.32 n.s. .18/.13 .33/.35 .22/.16 d3 のの,想定したモデルと調査データは十分適合 しているといえる。 算・数学力 国語学力 2 2−2 2 R =.248/.165 要因構造 R =.248/.208 d4 d5 各要素間の直接的影響の程度は図2中に示し たとおりである注1,2。小学生,中学生ともに社 図2 会的事象への関心が高いほど,国語や算数・数 2母集団同時分析の結果(標準化推定値) 学に関する積極性が高くなっている。さらに,国語や算数・数学に関する積極性が高いほど,家庭 での学習が増加するとともに学力が高くなっていることが読みとれる。なお,小学校第6学年と中 学校第3学年で同じ箇所のパス係数を比較したところ,「国語の学力」に対する「国語に関する積 極性」のパス係数においてのみ両群に有意な差がなかった。 また,国語,算数・数学の学力に対する各要素の影響の大きさを示す指標として,各学力に対す る標準化総合効果(直接効果に間接効果を加えたもの)の値を表2に示す。 表2 学力に対する各要素の標準化総合効果 算数・数学学力 国 語 学 力 小6 中3 小6 中3 社会的関心 算・数積極性 国語積極性 家庭学習 0.399 0.290 0.458 0.339 0.380 0.404 0.044 0.041 0.130 0.055 0.453 0.369 0.220 0.164 0.179 0.132 注1:図2中の矢印に添えられた数字は,構成概念間の直接的影響の大きさを示す指標(パス係数)であり,最大で絶対 値 1.0 になるように標準化されている。 注2:図2中の「R2」は決定係数を意味しており,4つの構成概念(要素)が各学力を説明する割合を示す指標である。 3.分析モデルの詳細 .52 e5 e6 (5) (6) 小学6年 小学校第6学年 N=25,418 N= 25,418 社会的関心 .23 e7 (7) e8 (8) e9 (9) e10 (10) e11 (11) e12 (12) e13 (13) .54 .94 d1 国語積極性 .73 e1 e2 e3 e4 (1) (2) (3) (4) .59 d2 .24 算・数積極性 家庭学習 .35 .18 .33 .22 d3 (14) e14 (15) e15 (16) e16 (17) e17 (18) e18 (19) e19 (14) e14 (15) e15 (16) e16 (17) e17 (18) e18 (19) e19 .40 算・数学力 国語学力 2 2 R =.248 R =.248 (20) d4 d5 (21) e21 e20 .89 .64 e5 e6 (5) (6) 中学校第3学年 中学3年 N=22,733 N= 22,733 社会的関心 e7 .36 e8 (8) e9 (9) e10 (10) e11 (11) e12 (12) e13 (13) .37 .85 (7) d1 国語積極性 .60 e1 e2 e3 e4 (1) (2) (3) (4) .34 d2 .31 算・数積極性 家庭学習 .32 .13 .35 .16 d3 算・数学力 国語学力 2 2 R =.208 R =.165 (20) e20 図3 d4 d5 .84 (21) e21 2母集団同時分析の結果(詳細版,標準化推定値) .35