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第 19 回 JC 総研欧州研修報告2: ベルギーの若手酪農家の挑戦

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第 19 回 JC 総研欧州研修報告2: ベルギーの若手酪農家の挑戦
2012 年 1 月 18 日
研究員レポート:EU の農業・農村・環境シリーズ
(社)JC 総研
第 19 回
第 19 回
基礎研究部
客員研究員
和泉真理
JC 総研欧州研修報告2:
ベルギーの若手酪農家の挑戦
30 歳になったばかりのクリス・ステンヒュィセ氏が営む農場は、ベルギーの
首都ブリュッセルから西へ約 50 キロのベルゼーケ村にある。このあたりはフラ
ンドル地方と呼ばれ、豊かな土壌に恵まれたなだらかな平野が広がり、酪農や
近郊農業など集約的な農業が営まれている。クリス氏は、6年前に父親の酪農
経営を引き継いでから、加工や農場体験、エネルギーの自給などに着手し、乳
価の低迷にあえぐヨーロッパの酪農業の中で生き抜ける経営作りに取り組んで
いる。
クリス氏の農場の体験コースのテーマは、「子牛からアイスクリームまで」。
私達も産まれてすぐの子牛がいる小屋からアイスクリームを売るショップまで
順番に回りながらクリス氏の説明を聞いた。
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クリス氏の経営の概要
クリス氏の農場は酪農が主体だが、この他、ビート、ジャガイモ、小麦を生
産している。農地 60 ヘクタールは全て自作地で、10 ヘクタールでジャガイモ、
10 ヘクタールで小麦、4ヘクタールでビート、20 ヘクタールでトウモロコシを
生産し、その他は草地となっている。ベルギーの農場当たりの農地面積は 50〜
200 ヘクタール層が最も多く、クリス氏の農場は標準的な規模だと言えよう。乳
牛は約 60 頭であり、訪問時には乳牛 67 頭、子牛 143 頭を飼育していた。
作られた生乳は、農場でア
イスクリームやバターなど
に加工する以外は、オランダ
の大手乳業協同組合企業で
あるカンピーノ社に売って
いる。農場のショップには、
屋内に 60 人、テラスに 140
人分の席があり、ここで自家
製のアイスクリームやヨー
グルトなどを販売している。
毎週日曜日は農場の公開日
にしている他、週2組程度の
グループツアーを受け入れ
ており、これも貴重な収入源
となっている。この夏の「子
牛からアイスクリームまで」という学習企画は好評だったそうだ。
この経営を、クリス氏と奥さんとで営んでいる。といっても、クリス氏の奥
さんは別に仕事を持っており、主に週末に店の販売を担当している。隣に住む
クリス氏の両親は年金生活に入っているが、父親はトラクターを運転したりし、
母親は平日の店番を手伝う。夏の間だけショップのための学生アルバイト1名
を雇っているが、基本的にクリス氏が生産や加工・体験の大宗を担う家族経営
である。この尐ない労働力で酪農経営から加工・販売・体験までを行うことを
可能にしているのは、酪農部門が極めて自動化されているからである。
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自動化の進んだ酪農部門
クリス氏は全自動搾乳ロボットを2台使っている。訪れた日は天気が良く牛
達は皆外に出ていたが、1頭だけ畜舎に戻ってきた。牛の足にはセンサーがつ
いており、何時間外にいたか、いつ搾乳するかをコンピュータが判断し、それ
に応じて「搾乳する」「また外に出す」「食べさせる」という異なるゲートを開
けて牛を誘導する。
「搾乳する」というゲートの先の全自動搾乳ロボットに入っ
た牛は、搾乳後にまたゲートの開閉に誘導されて畜舎にもどるが、この間一切
人手はかからない。
ク リ ス 氏が 使 っ てい る 全 自 動搾 乳 ロ ボッ ト は 、 英国 製 の 「 FULLWOOD
MERLIN 225」という機種で、クリス氏に言わせると「搾乳ロボットのメルセデ
ス・ベンツだ」という高性能機種だそうだ。搾乳は1日3回で、1台のロボッ
トで約 60 頭に対応できる。クリス氏は、2008 年にロボットの1台目を購入し、
2台目は1週間前に導入したばかりだ。ロボットの購入価格は、1台目は冷却
タンク、コンピュータがついて約 1,400 万円、2台目は周辺機器は無いので 1,100
万円であった。非常に故障が尐ないそうで、導入以来これまでに機械異常を告
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げるアラームが鳴ったのは3回だけだそうだ。ロボットの維持管理については、
メーカーのメンテナンスが年4回行われる。メンテナンス時にやり方を見、部
品のストックも持っており、クリス氏自身でできるメンテナンスは自らやるよ
うにすることで、メンテナンス費用を節約している。
この搾乳ロボットの導入によって、クリス氏は加工・販売・体験にもっと力
を注げるようになった。以前は、
「搾乳中なのでお店を閉めます」と札を置いて
店を閉めなくてはならなかったという。このような全自動搾乳ロボットは、こ
の近辺の酪農家にもかなり浸透しており、地域で 150 台くらいあるそうだ。搾
乳の自動化に加え、フランダース地方では畜舎のフロアを自動的に掃除する別
のロボットを開発しているところであり、これから普及していく予定だそうだ。
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クリス氏の経営の今後の展開方向
「小さい頃から農業をするつもりだった。農業は他の仕事より得るものが多
いと思う」と語るクリス氏は、2004 年に父親から農場を買い取り、経営を引き
継いだ。同時にアイスクリーム加工を始め、2008 年には新たに牛舎を建てた。
施設や機械に必要な資金は、KBC 銀行の農家向けローンで約 5,300 万円を借り
入れた。利息は年3%で借入期間は 15 年となっている。特に加工部門を持った
ことで、2008 年の EU 域内での乳価の低迷時も切り抜けることができた。
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このような積極的な投資を行う一方、コスト削減のために太陽光発電と蓄電
池を備え、必要とする電力の半分を自給し、雨水は全部集めて浄化して使い、
トラクターの修理などは自分で行っている。飼料は子牛用のペレット餌を購入
する以外は自給しており、エネルギーも含めて自給自足的な経営を目指してい
るという。農地については現在は面積的に余裕があるが、120 頭規模になったら
購入する必要があるとも考えており、この地域の農地価格がヘクタール当たり
250〜500 万円かかることが課題だと言っていた。
クリス氏のショップでは、奥さんの
お母さんが作ったケーキ類やトマトも
売っており、いかにも家族総出のお店
の雰囲気だ。訪れた日はお天気に恵ま
れ、10 種もあるアイスクリームがひと
きわ美味しかった。資材やエネルギー、
労働力の「自給自足」の中で経営の「6
次産業化」を進める意欲的な若手農業
者クリス氏の今後の発展を期待したい。
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