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小森 光修 NTTドコモ 取締役常務執行役員 研究開発センター所長

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小森 光修 NTTドコモ 取締役常務執行役員 研究開発センター所長
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トップインタビュー
小森 光修 NTTドコモ 取締役常務執行役員 研究開発センター所長
さらなる夢に向かって
イノベーションを
起こし続けよう
2010年12月世界に先駆けてLTEのサー
ビスを開始予定のNTTドコモ.成熟期といわ
れる移動体通信市場には,今何が求められて
いるのか.同社の小森光修取締役常務執行
◆PROFILE:1977年日本電信電話公社入社,NTTネットワー
クシステム開発センター主幹技師,NTTアメリカ副社長,
NTTグループ推進本部担当部長,NTT人事部担当部長,NTT
東日本長野支店長,NTT第五部門担当部長,NTTドコモ執
行役員コアネットワーク部長,NTTドコモ執行役員神奈川
支店長を経て,2008年6月より現職.
役員に,世界を牽引するNTTドコモの社会的
使命,そしてその技術が生み出す未来につい
て伺いました.
じて,移動体通信市場のさらなる成長を促すとともに,
移動体通信市場,さらなる成長の可能性
より豊かな生活の実現と産業の活性化を目指して「ドコ
モ2010年ビジョン」を策定しました.それが,
「M(Mobile
◆携帯電話サービスはこれまでに目覚ましい進化・発展を
遂げてきました.これまでのNTTドコモの歩みと併せ,
(Anytime, Anywhere, Anyone:いつでも,どこでも,誰
現状をどう認識していらっしゃいますか.
とでも)」「G(Global Mobility Support:グローバルにサ
まずは10年前にNTTドコモが予想した2010年の移動体
ポート)」「I(Integrated Wireless Solution:ワイヤレス
通信市場がどんなものだったのか,ここからお話しましょう.
当時NTTドコモは,モバイルマルチメディアの発展を通
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M u l t i m e d i a : モバイルマルチメディアの推 進 )」「 A
NTT技術ジャーナル 2010.8
技術でソリューション)」「C(Customized Personal
Service:個々人の情報生活支援)」の頭文字で構成され
た「MAGIC」です.
MAGICを作成した1999年は携帯電話の急成長時期.
ニーズを先取りしたか
たちで準備を進めてい
「モバイル・フロンティアへの挑戦」を掲げ,世界に先駆
ます.2008年から始
けてiモードのサービスを開始したころです.そして10年後
めた「みんなのドコモ
の今日,当時予想した未来がほとんど実現しているので
研 究 室 」 では, 我 々
す.これは驚くべきことです.このビジョンをつくった
が開発中の新しいサー
NTTドコモの先見性,そして,この10年でそのビジョンを
ビスを一般の皆様に体
実現した技術力,実行力は世界から高い評価を受けてい
感 していただきなが
ます.
ら, 貴 重 なご意 見 を
現在,国内の携帯電話市場は契約数1億台を超えまし
たくさん頂戴していま
た.飽和状態ではないかといわれますが,私はまだまだ成
す.新サービスを開発しながら,お客さまに受け入れられ
長の余地があると考えています.むしろ,これまでとは異
るのかを見極めることができるため,従来より短期間で商
なる新たな成長を遂げる節目に差し掛かっているのでは
用サービスにできます.実は,デジタルフォトフレームは
ないでしょうか.
ここから生まれてきたものなのですよ.2008年5月より
◆それでは今後の成長はどのようなものになるとお考えで
「みんなのドコモ研究室」でプレサービスを始めたのです
すか.
が,当時一番人気があった商品でした.私たちが想定し
最近は携帯電話機以外の物に,ワイヤレス通信機能を有
ていた機能をお客さまに実際にお使いただき「使い勝手」
するモジュールが内蔵されるようになってきました.自動
の良さについての有益なご意見を頂戴しています.それに
販売機やカーナビにも,通信機能がついているというのは
より改良を重ね,2009年7月に「お便りフォトサービス」
ご存じでしょう.昨今では,デジタルフォトフレームに通
として商品化し,さらにバージョンアップして2010年1月
信機能がついて,遠く離れた家族に携帯で撮った写真をす
から全国で一斉に発売しました.現在,大変ご好評をい
ぐに送ることができますし,最近話題になっている電子書
ただいております.
籍リーダにも通信機能がついていて,瞬時にコンテンツを
個々人の価値観はどんどん多様化し,どんなサービス
ダウンロードできますね.今後は通信モジュールの価格低
や商品が実際にお客さまに受け入れられるかを見極めるた
減と相まって,多種多様なデバイスにワイヤレス通信機能
めには,試行錯誤が必要です.お客さまも含め多くの方
がついて,モバイル市場は一気に拡大していくことでしょ
からのご意見を真摯に受け止めることで,ニーズをつかめ
う.家電製品やゲーム機,EV車,さらには血圧計や体重
るのではないでしょうか.
計にも通信機能が搭載され,自動的にデータを送信・蓄積
◆最近はスマートフォンのユーザが増えていますよね.
して健康維持に役立てることができるようになるでしょう.
スマートフォンは,これまで進化を遂げてきた携帯電話
こうした技術の融合により,利用者がモバイル通信を意識
の世界を大きく変えようとしています.タッチパネルに代
せずに,さりげなく生活に役立つサービスを提供すること
表される革新的なヒューマンインタフェースもさることな
への挑戦が始まっているのです.
「暮らしに溶け込むモバイ
がら,世界中の企業や個人がつくった膨大なアプリケー
ル」という表現がぴったりかもしれません.
ションを自由にダウンロードして楽しめるのが大きな魅力
◆こうした商品開発などの先見性はどのように磨かれてい
です.日本の携帯電話は高機能化が進んでいて,これま
るのでしょうか.
でも音楽や動画コンテンツまたはアプリケーションをダウ
開発には時間がかかるので,将来を見据えお客さまの
ンロードして楽しむことができるため,現時点では北米や
NTT技術ジャーナル 2010.8
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欧州に比べてスマートフォンユーザの割合が小さいのは事
役立ちます.どの場所にいつどれだけの人がいるかが把握
実です.しかしながら今後は,個々人の嗜好に合わせて
できるようになると,空車のまま走っているタクシーの稼
自由にカスタマイズできるスマートフォンが大きく飛躍す
動率をもっと高めることができ,環境負荷低減にも貢献
ることになるでしょう.
できるでしょう.現在,構想実現のため,膨大なデータ
を統計処理し可視化する実験に取り組んでいます.
先駆者としての社会的使命
いよいよサービスが開始されるLTEの
◆先駆者NTTドコモの使命とはズバリ何でしょうか.
開発状況
お客さまの目に見えるサービスだけでなく,携帯電話が
備える潜在能力とNTTドコモのR&Dパワーを生かし,少
◆なるほど,NTTドコモの技術はこんなかたちでも生かさ
子高齢化,環境問題,安心・安全等,現代社会が抱える
れるのですね.今までにない活用法には大きな可能性を
さまざまな課題の解決に役立つようなサービスを提供する
感じます. それから, 2010年はLTE( Long Term
ことも使命の1つと考えています.
Evolution)のサービス開始ですね.今はどのような状
一例を挙げますと,「モバイル空間統計」が分かりやす
いでしょう.携帯電話のネットワークは,通信を接続制
LTEは,高速・大容量・低遅延の通信が特徴です.世
御するのに必要となるお客さまの位置情報を持っていま
界の主要なオペレータはLTEの導入を表明しているので,
す.5 600万にのぼるNTTドコモのお客さまの位置情報に
現在の第三世代までは国や地域で通信方式が異なってい
おいて,プライバシに十分配慮することは当然のことです
ましたが,今後はLTEで世界が一本化されるでしょう.
が,それを統計情報にすれば,もっと世の中のために生か
NTTドコモでは本年12月の商用サービス開始に向け,最
せる有益なデータを得られるのではないだろうか,という
後の仕上げの時期に入っています.LTE技術を組み込ん
発想から取り組み始めたものです.
だ無線アクセスネットワーク,コアネットワーク,端末を
◆位置情報の統計的なデータは何に役立つのですか.
接続し,実際のフィールド環境で集中的に試験を行って
例えば,ある時点でどの地域にどれだけの人がいるのか,
います.
性別,年齢別にどのような分布になっているのか,さらに
かつてNTTドコモは技術的に独走し過ぎて,後ろを振
は時間の経過とともにどのように変化するのかというデー
り向いたら誰もついてきていなかったという状況がありま
タはこれまでなかなか把握できませんでしたが,それが実
した.このときの経験から得た教訓は生きています.それ
現するのです.このよ
を踏まえて世界の主要なオペレータ,グローバルなベンダ
うなデータは,公的機
たちの成熟度をみながら協調体制をとっています.また,
関 が都 市 計 画 や交 通
以前にも増して標準化にも力を入れています.
計画を策定するうえで
◆NTT研究所との関係はどうですか.
とても有益です.また,
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況ですか.
NTT技術ジャーナル 2010.8
N T Tの研究所は, 広く情報・通信および関連した基
どこの地域にどれだけ
礎・基盤技術の研究開発が主体ですが,NTTドコモの場
の人がいるというデー
合は,移動通信に特化した研究開発を中心にしているの
タを把握できれば,避
で,基本的に研究開発分野が重複することはありません.
難 場 所 の確 保 など防
また,我々は短期のサービス開発やインフラ装置の実用
災計画をつくるのにも
化開発で手一杯で,中長期を見据えた研究がどうしても
おろそかになってしまいます.基盤となる研究開発の強化
という面で,NTT研究所には大いに期待しています.互
いに情報交換し連携を深めながら,NTTグループのR&D
リソースをフルに活用していきたいと思っています.
◆最後に,研究開発に対する思いをお願いします.
2年前に発表した新ドコモ宣言の中に「イノベーショ
ンを起こし続け,世界から高い評価を得られる企業を目
指します」というフレーズがあります.「世界から高い評
価を…」と言うのは少し大げさでは,と思われるかもしれ
ません.私は2年前に現職に就き,世界のオペレータや
る高い評価なのです.ですから,先人たちの努力やこれま
ベンダの幹部の方々と会って話をする機会が多くなりまし
での実績にあぐらをかくことなく,今後も「さらなる夢に
た.皆さんは一様にNTTドコモのことを良く知っており,
向かってイノベーションを起こし続けていく」という意味
NTTドコモに対する評価が極めて高いことに驚きます.冒
であって,新ドコモ宣言に,我々R&Dに携わる者の決意
頭にて述べたように,NTTドコモがiモード,第三世代方
が凝縮されています.
式(FOMA),おサイフケータイ等を世界で最初に次々と
(インタビュー:外川智恵/撮影:村岡栄治)
導入し,モバイルフロンティアを開拓してきたことに対す
小森常務のON&OFF
飾らない語り口で,本音を引き出す
33年前に電電公社に入社後,転勤で多くの職場を経験され,ご結婚以来15回
の引っ越しを重ねられたとのこと.これまでのご経験の中でもっとも印象に残る
仕事は? とお尋ねしたところ「今がまさしく一番エキサイティング,これほど
変化が激しくて注目を浴び,新しいことにチャレンジできる職場を経験できるこ
とは幸せ.競争は厳しいがやりがいもある」と,穏やかな語り口調で,言葉には
自負と力強さを感じます.
そんな小森常務は「私たちの世代は,若いころは皆仕事人間だった.私も例
外ではなく,家庭内のことはほとんど家内に任せきりでした」と,やや自嘲気味
にお話しくださいました.しかし,お孫さんの誕生をきっかけに,娘さんが出産,
育児で大変な毎日を過ごしているのをまのあたりにして,女性・母親の働く環境の厳しさを痛感したとのこと.小森
常務に,「こうした身近で感じられる社会問題にNTTドコモの技術は生かされるのでしょうか?」と伺ったところ
「もちろん!」と即答され,「通信技術を使って,自宅でも就労が可能な社会はつくれるし,子どもの見守りもさり
げなくできるようになる」と自信たっぷりに語られました.
「自分は見かけによらず結構ざっくばらんな性格」と,本当に親しい友人にでも話されるように,ご自身のプライ
ベートまでフランクに語っていただきました.こうした飾らない語り口が,相手の心を開き,本音を引き出すのかも
しれません.小森常務のさりげないホスピタリティに学ばせていただいたひと時でした.
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