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光を操るという挑戦 電子ビーム描画装置が未来を描く

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光を操るという挑戦 電子ビーム描画装置が未来を描く
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Interview
光を操るという挑戦
電子ビーム描画装置が未来を描く
野田 進
京都大学大学院工学研究科教授
Vol.
05
「位置を正確に把握して、
高精度に描画してくれる。
研究が加速できたのも、
装置が高性能化したおかげです。」
野田 進
京都大学大学院工学研究科教授
京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、三菱電機株式会社に入社。88 年、
京都大学工学部助手。92 年、助教授を経て、2000 年より現職。同年、「半導
体フォトニック結晶とその応用に関する研究」で第 14 回日本 IBM 科学賞を受賞。
その後、2009 年、平成 21 年度文部科学大臣表彰科学技術賞、同年、第 6 回
江崎玲於奈賞、2014 年紫綬褒章、2015 年応用物理学会業績賞と受賞多数。
光を操るという挑戦 電子ビーム描画装置が未来を描く
光チップ、半導体レーザの革新、熱幅射制御、高効率太陽電池…。
フォトニック結晶は未来を引き寄せる新材料だ。
研究黎明期から主導した京都大学の野田進教授は、大いなる夢に向けて走り続ける。
夢の材料フォトニック結晶
た部品の間で情報を伝えていた。だが電
ザに後塵を拝し、このパワー軸での発展
子には、伝わる早さに限界があるととも
が 待 ち 望 ま れ て た。 フ ォ ト ニ ッ ク 結 晶
光を分け、曲げ、留め、強める。「フォ
に、 発 熱 の 問 題 が あ り、 そ れ ら が コ ン
レーザにより、大面積コヒーレント動作
トニック結晶」は、光を自在に操る力を
ピューターの処理速度向上を阻む要因の
が 真 に 可 能 と な れ ば、 高 ビ ー ム 品 質 を
秘めた新材料で、電気・電子製品の可能
一 つ と な っ て き た。 そ の 基 板 に フ ォ ト
保ったままで、高出力動作が可能になる
性が一気に広がるかもしれない。光は電
ニック結晶を使うことで、部品間の情報
と期待できるため、半導体レーザ分野に
子に比べ、伝わる速度が何倍も早く、長
を光に載せてやりとりできるようにな
新たな革命をもたらすものと考えられ
距離を伝えてもほとんど弱まることがな
る。また、現在、フォトニック結晶によ
る。その応用範囲は、加工、車応用、セ
いという利点がある。そのため、これま
り、光を一点に強く、長く留めることも
ンシング応用、究極的には、核融合の点
でもエレクトロニクスとの融合が様々に
できるようになっており、これらが、さ
火用レーザなど様々に広がり、その市場
試みられてきた。しかし、電子の流れは
らに発展すれば、現状のパソコンのサイ
規模も極めて大きいと言われている。
半導体で自由に制御できるのに対し、光
ズでスーパーコンピューター並の性能を
さらに、フォトニック結晶は、熱輻射の
にはそれに相当するものが存在しなかっ
実現できるという。
リノベーションを起こすとも期待されて
た。フォトニック結晶は“光の半導体”
また、フォトニック結晶は、半導体レー
いる。熱輻射とは物体を加熱することに
とも言うべきもので、電子と同じように
ザに革命を起こす技術としても期待され
よ り、 光( 電 磁 波 ) を 発 生 す る 現 象 だ。
光を扱えるようにするものだ。
ている。
この現象は、古くから、ランプや分析用
例えば、内部の基板をフォトニック結晶
半導体レーザは、これまで波長軸、時間
光 源 の 根 本 原 理 と し て 活 用 さ れ て き た。
にした光配線型のコンピューター。従来
軸上で著しい発展がなされてきたが、パ
また、太陽も熱輻射体であり、紫外から
の基板では電子が CPU やメモリといっ
ワー軸では、他の固体レーザや気体レー
赤外に渡る極めて広い帯域の光を発する。
一般に、熱輻射は、必要とされる帯域以
外 の 極 め て 広 帯 域 の 光 を 発 す る た め に、
そ の 利 用 効 率 が 極 め て 低 い の が 欠 点 だ。
ここで、もし、物体からの熱輻射を、エ
ネルギーの損失なく、望む波長に、望む
線幅で集約することが出来、さらに、熱
輻射を動的かつ超高速に制御することが
出来れば、各種分析用高効率・高速赤外
3 次元フォトニック結晶の光の通り道の
イメージ図
光源の実現や、太陽光や地熱等を利用し
た熱光発電の高効率化などが期待される。
光を自在に操る構造
そもそも光は波の性質を持っており、波
長の違いは可視光域では色の違いとして
410nm
415nm
415nm
420nm
410nm
ナノ共振器
現れる。普段目にする太陽光や蛍光灯の
光などが白く見えるのは、様々な波長の
光が合成されているためだ。赤いポスト
がそう見えるのは、反射する光が赤で、
それ以外の光は吸収するか、透過してい
導波路
ることによる。この違いは、物体が持つ
分子や表面の構造によって決まってい
る。フォトニック結晶は、この微細な構
造を設計して作りだすことで、光の方向
を変える反射や光を強める共振などを自
由に制御しようというものなのだ。
その作り方は意外にも単純だ。材料とな
るのは半導体と同じく主にシリコンウェ
ハー(あるいは、III-V 族半導体ウェハー
など)で、そこに電子ビームを使って規
則的に穴を開けていく。すると穴に空気
が入り、半導体部分との間に屈折率の差
2 次元的に規則正しく描かれた極小の「穴」パターンと、そこに導入された「人為欠陥」。「ナ
ノ共振器」と書かれた部分(=破線で囲まれた、回りよりも孔間隔が 10nm 広い部分)に光
を長く閉じ込めることが出来るようになっている。導波路と書かれた部分は、(その上下方向
の幅が、ナノ共振器部分の上下方向の幅よりも広く設計されており)、光を外部からナノ共振
器まで導く役目をもっている。なお、穴の直径と間隔をナノメートルサイズで制御するため、
電子ビーム描画装置を用いた精密な描画が必要である。
をもつ繰り返しパターンが無数にでき、
境界で反射が起きるようになる。それぞ
仕方によって自由に伝わり方を決められ
スの大きさよりもさらに小さな精度が求
れの境界で反射された光が強め合うと、
るのだ(上図は、3 次元フォトニック結
められる。必要な機能を持たせるために
光を通さなくなるブラッグ反射という現
晶に形成した 3 次元光回路の例)。また
は、サブナノ単位で穴を開ける場所を制
象が起きるため、光の”絶縁体”が完成
ごく小さな欠陥(欠陥部分の寸法を微小
御しなければならず、製作には精緻な機
するのだ。
変化させることも含めて)を作れば、光
械が必要だ。
さらに重要なのが「人為欠陥」と呼ばれ
はそこに集中し、穴の大きさに応じた波
る構造だ。規則正しく描いた穴のパター
長の光だけが強め合う。これが、光回路
ンの中に所々大きさや形を変えた穴や穴
に お け る 光 を 貯 め る メ モ リ ー や、 極 小
のない箇所を作ると、その部分だけは光
レーザをつくる構造となる(下図は、2
の存在が許されるようになるため、その
次元フォトニック結晶に形成した光導波
そんなフォトニック結晶の開発に黎明
部分を通して光を伝えたり、蓄えたりす
路とナノ共振器の電子顕微鏡写真)。
期 の 80 年 代 か ら 携 わ っ て き た の が、
ることが出来るようになる。この「欠陥」
と は い え、 開 け る 穴 の 大 き さ は 直 径 約
京都大学の野田進教授だ。
が光の通り道となるため、欠陥の配置の
200nm。作製精度~ nm 以下とウィル
大学院修了後、若き日の野田教授は三菱
フォトニック結晶を
実用化させた立役者
電 機 中 央 研 究 所 に 入 所 し、 レ ー ザ の 研
究を続けていた。研究が一段落した頃、
次世代の光学材料の研究を模索し始め、
未来の標準デバイスを
目指して
フォトニック結晶に着目。そんな折、大
10 年以上にわたり、野田教授は地道な
学時代の恩師から声がかかり、基礎研究
基 礎 研 究 に 打 ち 込 ん で き た が、2000
の場を求めて京都大学へ戻った。
年に発表した論文で一躍注目を集める
「当時はバブル景気のまっただ中で、研
よ う に な る。 論 文 は フ ォ ト ニ ッ ク 結 晶
究環境は企業の方がはるかに上。大学は
の 実 現 性 を 示 す も の で、 あ ま た の 研 究
といえば年間数百万円も研究費用がとれ
者をうならせるだけの成果がそこに示
れば御の字で、1 カップサイズの日本酒
さ れ て い た。 現 在、 そ の 応 用 が 世 界 中
の空容器をビーカーがわりに使う研究室
で 研 究 さ れ る よ う に な り、 様 々 な 成 果
もあったほどです」
が現れ始めている。
そんな苦しい状況でも研究を続けたいと
実用化がもっとも期待されているもの
思えるほど、フォトニック結晶には夢が
の一つが、冒頭にも上げた大面積コヒー
あったという。
レント半導体レーザだ。現在、単一チッ
「研究を始めた当初は実現性に疑問を持
プ で、 ワ ッ ト ク ラ ス の 高 ビ ー ム 品 質・
つ声も多く、フォトニック結晶など夢物
高出力動作に成功している。10 Wが実
語だと思われていました。それでも、実
現 す れ ば、 世 界 が 変 わ る と 期 待 さ れ て
現できれば未来のキーデバイスとなるだ
い る。 ま た、 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー と し
ろうという確信がありました」
て話題の太陽電池への応用も極めて興
資金もさることながら、ナノ加工技術自
味 深 い。 現 在 の 太 陽 電 池 は 主 に 可 視 光
体も未成熟。研究は長らく理論の域を出
の 一 部 の み を 吸 収、 電 気 へ と 変 換 し て
ることができなかった。
い る た め、 そ れ 以 外 の 大 半 の 光 を 有 効
フォトニック結晶の研究が一気に進み始
利 用 で き て い な い。 そ の 解 決 の た め に
めたのは、電子ビーム描画装置という装
考 え ら れ て い る の が、 冒 頭 で、 す で に
置の発達によるところも大きい。これは
述 べ た よ う に、 フ ォ ト ニ ッ ク 結 晶 に よ
いわば「ナノプリンター」といったとこ
る 熱 輻 射 制 御 に よ り、 太 陽 電 池 が も っ
ろで、CAD などで起こした設計データ
とも効率よく吸収するバンドの光を放
をナノサイズで材料へ描画する。描画に
射 す る よ う に 設 計 し て、 太 陽 光 に 含 ま
は、電子をビームとして放出する電子銃
れるほとんどの光を太陽電池が吸収で
を使用。電子顕微鏡の電子放出源として
き る よ う に で き る と、 発 電 効 率 を 向 上
以前から使われてきた技術で、電子顕微
させられるのだ。
鏡で長く技術を蓄積してきた日本電子も
こうした新技術への可能性を切り開い
1967 年 か ら 参 入。 研 究 者 ら の 声 も 踏
た と し て、 野 田 教 授 を 次 の ノ ー ベ ル 賞
まえ、一歩一歩性能を高めてきた。
にと推す声も多い。
「日本電子製の描画装置は位置を正確に
「フォトニック結晶の実用化はまだ始
把握して、高精度に描画してくれる。研
ま っ た ば か り で す。 世 に 出 よ う と し て
究が加速化できたのも、装置が高性能化
い る 芽 を し っ か り と 育 て 上 げ る こ と。
したおかげです」
私の使命はそこにあります」
現在、研究室では最新鋭の日本電子製電子
ビーム描 画 装 置が稼 働。 光を自在に操 れる
未来への道程を描き出している。
本社・昭島製作所
〒196-8558 東京都昭島市武蔵野 3-1-2 TEL: (042)542-1111 ( 大代表 ) FAX: (042)546-3353
東京事務所・グローバル営業推進本部
〒100-0004 東京都千代田区大手町 2-1-1 大手町野村ビル 13 階 TEL: (03)6262-3567 FAX: (03)6262-3577
※ 本誌は、弊社ウェブサイトのコンテンツを印刷用に再構成したものです。
掲載の機関名・役職・装置外観などは、ウェブサイト掲載当時のものです。
www.jeol.co.jp/products/interview/
No. Y3021A601C (Pp)
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