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中高年者の「お墓」観

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中高年者の「お墓」観
中高年者の「お墓」観*
-成人期後期以降のライフ・イベント(9)-
○伊波和恵 1・田畑智章 1・篠崎香織#1・冨岡次郎#1・下垣光 2
(1 東京富士大学・2 日本社会事業大学)
Key words: 中高年者,お墓,ライフ・イベント
目 的
団塊の世代が定年を経て,65 歳,すなわち年金受給年齢(い
わゆる高齢期)にさしかかる時代を迎えようとしている.昨今,
「お墓」をテーマとしたコンテンツがメディアで取りあげられ
る機会も増え,就活をもじった終活という造語も登場するな
ど,葬儀・お墓を含めたエンディングにまつわるトピックス
は世間の注目度の高い話題のひとつとなっている.
自らの墓に対する考え方には死生観が影響しているという
仮説にもとづき,伊波ら(2008;2009)は中高年者を対象に“お
墓”に対するイメージおよび死への考え方を問うアンケート
調査を継続的に実施してきた.その結果,
「お墓」に対する態
度と死生観の強い関連性が明らかにされ,
「お墓」を通じた死
生観の把握の可能性が示唆された.
本報告は,これまで個々にまとめてきた調査結果を総括し,
東京を中心とした首都圏在住中高年者における「お墓」をめ
ぐる態度を概観することを目的とする.
研究方法
対象者ならびに手続きは,先行研究(伊波ら(2008; 2009))と
同様である.2008~2011 年にかけて,東京都内ならびに東京
近郊地域在住の中高年者を対象にアンケート調査を留置式で
行った.調査は,複数箇所で,サークル活動や市民講座,講
演会等の場を利用して 11 回にわたって行われ,
総計 563 名(男
性 190 名,女性 358 名)の有効回答を得た.平均年齢は 53.8
歳(年齢構成のおもな内訳:~40 歳代 19.5%,50 歳代 18.1%,
60 歳代 28.9%,70 歳代 25.4%)であった.調査のアンケート
用紙にはプロフィールのほか,以下の項目が含まれた: ①自
分自身のお墓に対する態度,②お墓の決定状況・イメージ・
決定要因・相談相手など,③QOL(石原ら(1992)による3件
法;下位尺度:現在の満足感・心理的不安定感・生活のハリ),
④死への態度(河合ら(1996)),⑤自由記述欄.なお,回答は匿
名で依頼し,プライバシーの保護と尊重には充分に留意する
旨,回答前に文書や,可能であれば,口頭でも伝えた.
結果ならびに考察
属性 「きょうだいの有無」に関しては,”きょうだいがいる”
中での長男もしくは長女が 297 名,”きょうだいなし”の長
男・長女(いわゆるひとりっこ)が 26 名,長男・長女以外が 214
名であった.
「宗教」については,ほとんどが仏教(259 名)も
しくは無宗教(178 名)という結果になった.
「婚姻の状態」は,既婚 397 名,未婚 76 名,死別 32 名,離別
40 名であり,
「子どもの有無」は,”子どもあり”414 名,”子
ども無し”124 名であった.
お墓への態度 「1年間でお墓参りに行く回数」
については,
平均 2.7 回,最頻値 1 回であり,男女差はみられなかった.
「お墓の必要性」については,“お墓は必要”(78.2%)とする割
合が高かった.男女別では,男(85.0%)>女(74.4%)と,男性に
おいて必要性がより強調されていた(p=0.00).また,「入るお
墓の決定状況」について,”決まっている”とした者は 56.1%
であった.この点において男女差はみられなかったが,年代
による差が認められた(p=0.00).すなわち,高齢になればなる
ほど決定率が高くなった.一方,その「お墓に入る意思が決
まった時期」については,平均 38.8 歳であるが,30 歳代
(29.6%)と 60 歳代(19.4%)の 2 つにピークがみられた.
ただし,
20 歳代未満で決定した者も 14.8%いた.これと「入るお墓を
決めたタイミング」をあわせてみると,”子どもの頃からの認
識”(27%),”(自分または配偶者の)親の死”(26%),”結婚”(18%)
が多数を占めた.このことから,結婚ならびに親の死が,
「お
墓」をめぐる意思決定に重要なライフ・イベントであると考
えられた.同時に,"子どもの頃からの認識”であるという回
答率の高さから,中高年者においては”イエ”制度が家族の文
化として受け継がれ,認識されていることが伺えた.
属性と態度との関連 ”家長”制度との関連をみるため,長男
とそれ以外の属性で比較してみたところ,
「お墓に入ることが
決まったタイミング」が「子どもの頃からの認識」である割
合が,長男においては 63.8%だったのに対し,長男以外は
26.7%であった.また,
「お墓をめぐる意思決定に対する影響
を与えた人物」として,全体的な結果では「自分の親」から
の影響が 25.6%だったにもかかわらず,
長男においては 42.9%
と,差がみられた.つまり,少なくとも長男の半数にはイエ
のお墓に入るという認識が子どもの頃からあり,また,長男
がお墓に入るという意思決定には自分の親からの影響を受け
ていることが示唆された.このようなかたちで,たとえば「長
男=墓守」という図式が,少なくとも中高年者においては保
たれていることが伺える結果となった.さらに,
「入ることが
決まったお墓に対する納得度」からは,90%以上が意思決定
に納得しているのであるが,男女別でみると,女性のほうが
納得していない傾向がある(10.6%,p=0.08)ことも示された.
このように,エンディングに関しては近年,多様化や個別
化の風潮がさかんであることが話題となっている一方で,首
都圏内都市部においても,中高年者においては旧来のお墓観
が概して保たれていること,これらの認識にはきょうだい属
性差や性差がみられることが明らかとなった.
引用文献
伊波和恵,他 (2008). 中高年者の「お墓」観-成人期後期以
降のライフ・イベント(5)-. 日本心理学会第 72 回発表論
文集.
伊波和恵,他 (2009). 中高年者の「お墓」観-成人期後期以
降のライフ・イベント(6)-. 日本心理学会第 73 回発表論
文集.
石原治,他 (1992). 主観的尺度に基づく心理的な側面を中心
とした QOL 評価表作成の試み. 老年社会科学 Vol.14,
43-51.
河合千恵子,他 (1996). 老年期における死に対する態度. 老
年社会科学 Vol.17, 107-116.
伊波和恵,他(2012). 中高年者の「お墓」観-成人期後期以降
のライフ・イベント-報告書(文部科学省科学研究費補助
金助成報告書).
* 本研究は,平成 21~23 年度科学研究費助成を受けて行われた研究
の一部である.
(いなみかずえ・たばたともあき・しのざきかおり・とみおかじろう・
しもがきひかる)
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