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新たな観光資源の創作に向けて~アニメとスポーツを例に
新たな観光資源の創作に向けて ∼アニメとスポーツを例に∼ ㈶静岡総合研究機構 主任研究員 片 岡 達也 要 旨 <旅行の現状> ◆国内宿泊観光旅行への参加率は、1994年度をピークに低下している。年齢別では、高校卒業後から20歳代 までの参加率が低くなっている。一方、同じ期間における日本人の海外旅行者数は高止まりしており、国内 観光の魅力の低下が指摘されている。 ◆静岡県の観光交流客数は、最近20年間では微増となっている。しかし、宿泊者数は40%近く減少しており、 宿泊旅行から日帰り旅行への流れが進行している。地域別の宿泊者数は、富士地域では微増となっているが、 その他の地域はすべて減少している。特に、伊豆地域は半減という状況である。 ◆静岡県への旅行者の特徴は、リピート率が高いが、明確な目的意識を持たず、便利だからやってきたという 物見遊山型の旅行者が多い点である。 ◆都道府県別の日本人宿泊者数と外国人宿泊者数の分布状況を比較すると、静岡県は「日本人外国人優位型」 となっている。 「外国人優位型」には山梨県や九州各県があり、 「日本人優位型」には北関東周辺各県がある。 ◆東アジアの居住者へのアンケート調査によると、訪問希望地がゴールデンルートを外れて地方へ分散してい る。静岡県への訪問希望は、 「富士山」を除くとあまり高くない。また、静岡県の観光資源では、 「温泉」「富 士山」以外に「ジオパーク」 「徳川家康」 「ちびまる子ちゃん」に興味を持っている。 ◆2010年度の観光産業の生産波及効果は6,799億円、GDP比2.3%となっており、低下傾向にある。 <新たな観光資源の創作> ◆アニメツーリズム (アニメ舞台訪問) は、 インターネットの発達とともに現れた新しい観光形態である。「ター ゲットが明確」 「旅行者が情報発信の主役」などの特徴があり、実写のロケ地巡りより、観光向きの面がある。 そこで、商業作品への出資などにより主体的に作品に関わることで、観光資源としての積極的な活用が期待 される。 ◆スポーツツーリズムには、 「参加型」と「観戦型」がある。「参加型」のマラソンや自転車は、大規模な施設 整備が不要なことから、地域が新たに取り組みやすい。入門者からトップ選手までが参加できる大会を開催 することで、新規客の獲得とリピーターを確保するとともに、難易度の高いトップカテゴリーを設けること で、他地域・他大会との差別化・聖地化を図り、大会以外の誘客につなげる必要がある。 ◆地方自治体が文化やスポーツを観光の手段に使うのであれば、行政組織を一体化する必要がある。さらに、 旅行者への窓口の一本化と関係者の連携を下支えするための「スポーツコミッション」「文化コミッション」 機能を整備する必要がある。 SRI 2012.3 No.106 189 静岡県の未来戦略 はじめに 第1章 静岡県の観光の現状 「観光は平和産業」といわれるとおり、 平和な「日 1 旅行者数から見た観光の現状 常生活」を営む中で、 「非日常」を求めることが観 ⑴ 低下する旅行参加率(全国) 光動機の一つである。 本県の観光の現状分析の前に、全国の状況を概括 東日本大震災や福島第一原子力発電所事故によ する。 り、 多くの人が日常生活を営むことが困難になった。 観光旅行は宿泊旅行と日帰り旅行に分かれるが、 また、直接的な被害があまりなかった地域であって 国土交通省観光庁(以下、 「観光庁」という)によ も、非日常を求める余裕がなくなった。そのため、 る統計データの収集は、まだ始まったばかりである。 静岡県内の観光地では、国内国外を問わず、旅行者 宿泊旅行については、2007年1月からすべての都 数が大きく減少した。 道府県を対象とする「宿泊旅行統計調査」が始まっ 日常生活を少しずつ取り戻しつつある現在、全国 たことから、それ以前のデータはない。今回は長期 各地において観光振興への取組が強化されている。 間の推移を見るため、社団法人日本観光協会の実施 それは、交流人口の拡大による経済的な効果だけで する「国民の観光に関する動向調査」のデータを用 はなく、新たな地域の魅力の創造による地域活性化 いた。 への期待であろう。 なお、日帰り旅行者数を含む観光入込客数は、 静岡県(以下、 「本県」という)の観光といえば、 2010年4月に調査がスタートしたものの、参加して 「富士山」 「温泉」という反応が返ってくる。しかし、 いない府県があることから、いまだに全国データを そうした伝統的な観光資源がなくても、観光振興に 得られない状況である。 よって、 「まちづくり」に取り組もうとしている地 国内宿泊観光旅行を行った者の割合(参加率)を 域は多い。 見ると、図1−1のとおり、1994年度の60.2%をピー また、今まで観光資源に恵まれていた(恵まれて クに、2009年度には49.7%になっており、最近20年 いるとされていた)地域でも、いつまでもそれが利 間は低下傾向にある。この間、いわゆる「バブル経 用できるとは限らない。観光資源にも賞味期限はあ 済」が崩壊し、長期の不況期に入ったことから、可 る。社会環境の変化の早い現代では、その期限も早 処分所得が低下して旅行に行く余裕がなくなったこ くなっている。だからこそ、旅行者のニーズに合っ とが原因との指摘がある。 た観光資源を創作していく必要がある。 本稿では、そうした地域による新たな観光資源の 図1−1 国内宿泊観光旅行の参加率の推移 創作方法について、事例調査を中心に、できるだけ 具体的な提案となるように分析を行った。 そのため、 提案内容が必ずしも一般的なものとはなっていない ことをあらかじめ申し添える。 出所:㈳日本観光協会(2010) 『観光の実態と志向』 190 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 図1−2 海外旅行者数の推移 図1−3 国内宿泊観光旅行の参加率(年齢別) (千人) 新型インフル エンザ イラク戦争 新型肺炎 出所:日本政府観光局『日本の国際観光統計』 そこで、同じ期間の日本人の海外旅行者数を見る と、図1−2のとおり、新型肺炎や新型インフルエ 出所:㈳日本観光協会(2010) 『観光の実態と志向』 ンザ、戦争などによる一時的な増減はあるが、高止 まりしている状況である。特に、バブル崩壊後の ⑵ 本県の旅行者数の状況 1990年代には海外旅行者数が急増しており、経済的 ア 宿泊から日帰りへ な要因で国内宿泊観光旅行に行かなくなったとの指 本県の観光の状況について、「平成22年度静岡県 摘と整合していない。 観光交流の動向」 (静岡県)から本県の観光交流客 大澤(2010)は、 「本当の原因は観光客の質が変 数などの過去20年間の推移を見る。 化していることであり、それに国内の観光事業者が 観光交流客数(定義は下記参照)は、図1−4の 十分に対応できていない点」 であると指摘している。 とおり、1991年の1億3116万人から2010年の1億 次に、年齢別の旅行参加率を見ると、図1−3の 3843万人へと微増となっている。その内訳を見ると、 とおり、 男性20歳代の参加率が最も低くなっている。 観光レクリエーション客数は1991年の8,299万人か また、図からは明らかではないが、18歳から19歳の ら2010年の1億2149万人へ1.5倍の増加である。一 参加率も36.0%に過ぎないことから、高校卒業後の 方、宿泊客数は1991年の2,765万人から2010年の1,694 男性若年層の旅行参加率が低いことが分かる。家族 万人へ40%近く減少している。宿泊客数が減少して に連れられて行く受動的な旅行ではなく、自ら企画 いるにもかかわらず、観光レクリエーション客数が する能動的な旅行ができるようになる年齢層があま 増加していることから、宿泊旅行から日帰り旅行へ り旅行をしていないのである。 の流れが進行しているといえる。 なお、次いで旅行参加率が低いのは、男性では50 歳代、女性では40歳代となっており、親の介護の影 観光交流客数 響などが考えられる。 本県の各地域を訪れた人の延べ人数。①宿泊客数、 ②観光レクリエーション客数の合計である。 ①旅館・ホテル・民宿等に宿泊した客数(延べ泊数) ②観光施設やイベントの入場者等を市町村が集計。 調査数 1,343施設(地点・イベント) SRI 2012.3 No.106 191 静岡県の未来戦略 図1−4 観光交流客数などの推移(延べ数) 図1−5 地域別宿泊客数の推移及び寄与率 出所:静岡県「平成22年度静岡県観光交流の動向」 イ 地域差の大きい宿泊客数の減少 宿泊客数の減少は、本県全域で一様に起こってい る訳ではない。 出所:前図と同じ 図1−5のとおり、1991年度から2010年度の間の 宿泊客数を地域別(地域名と構成市町は表1−1参 この結果、県内宿泊者の地域別構成比は、表1− 照)に指数化すると、富士地域だけが1.01で微増と 2のとおり変化している。伊豆地域の構成割合は なっている(御殿場市1.58、富士市1.02)。その他の 11.7%ポイントの減少となり、他地域はすべて増加 地域はすべて減少しているが、中でも、伊豆地域は している。特に富士地域は1.7倍となっている。 0.51と半減している。特に、宿泊客数の多い市町が 大きく減少している(下田市0.45、伊豆市0.36、東 ⑶ 本県の旅行者の流動実態 伊豆町0.41など) 。なお、伊豆地域の中でも、三島 ア 高齢者割合の増加と若年層の旅行離れ 市1.44と清水町4.50は増加している。 「平成21年度静岡県における観光の流動実態と満 また、減少に対する寄与率を見ると、伊豆地域が 足度調査」(静岡県。以下、 「流動実態調査」という) 90.5%となっており、宿泊客数の多い同地域の減少 から、本県旅行者(宿泊+日帰り)の流動実態を見る。 が県全体に大きな影響を与えていることが分かる。 本県への旅行者を年齢別に見ると、60歳以上が 1995年 の12.6 % か ら2009年 の30.5 % へ と 3 倍 増 と 表1−1 地域名と構成市町 表1−2 地域別宿泊者の構成比比較 出所:前図と同じ 192 SRI 2012.3 No.106 出所:前図と同じ 新たな観光資源の創作に向けて 図1−6 旅行者の年齢別構成比の推移 図1−7 旅行者の居住地域の推移 出所:静岡県(2010)「流動実態調査」 注) 「海外」は1995年∼ 2006年の選択肢にはない 出所:静岡県(2010) 「流動実態調査」 表1−3 本県の年齢別人口構成比 によると、本県居住者の89.2%が日帰り旅行である ことから、宿泊を伴う県外居住者の割合が減少し、 日帰りの本県居住者の割合が増加している様子が見 出所:総務省「国勢調査」 えてくる。 なっている。表1−3のとおり、同時期の60歳以上 2 旅行実態から見た現状 の人口構成比は11.1%ポイント増に過ぎないことか ⑴ 団体から個人へ ら、旅行者に占める高齢者の割合が増加している。 前節では、旅行者数の面から現状を見たが、本節 一方、20歳∼ 29歳は、26.5%から11.4%へと半減し では、それ以外の面から観光の現状を概括する。 ており、若年層の旅行離れは、本県でも全国と同じ かつての旅行といえば、バスで景勝地や神社仏閣 状況となっている(人口構成比では3.8%ポイント などの観光地を巡る団体旅行が主流であった。当時 減に過ぎない) 。 は、仕事や都市から解放され、旅行に行くこと自体 が目的であったことから、団体行動の方が効率的で イ 増加する県内客 あった。しかし、図1−8のとおり、現在の旅行形 次に、 本県への旅行者が居住している地域を見る。 態は70%以上が個人旅行となっており、団体旅行は 1995年には、旅行者の半数が関東地方の居住者で 20%程度に過ぎない。特に2007年度以降は、両者の あった。しかし、その構成比は年々低下しており、 差が拡大している。 2009年には35.6%となっている。関東地方からの集 一方、流動実態調査によると、本県への旅行者の 客の多い伊豆地域の宿泊者数が低下していることが 旅行形態は、団体旅行(旅行会社のパック旅行を含 要因と考えられる。なお、 その他の県外の割合では、 む)の12.1%と比べ、個人旅行が87.9%と極めて高 中部地方の構成比がやや低下しているものの、大き くなっており、全国と同様の傾向にあるといえる。 な変化はない。 こうした変化は、団体による旅行が単に人数を減 一方、本県居住者の構成比は、1995年の30.4%か らして、個人化された訳ではない。各人の持ってい ら2009年には41.3%に大きく増加している。同調査 る目的が明確になり、より「個人化」され、それを SRI 2012.3 No.106 193 静岡県の未来戦略 図1−8 宿泊観光旅行の個人・団体の割合 図1−9 リピート率 出所:じゃらんリサーチセンター(2011) 「じゃらん 宿泊旅行調査」 注)団体旅行には職場や地域などの旅行を含む。 不明は除いてある。 図1−10 本県を旅行先として選択した理由 出所:㈳日本観光協会『観光の実態と志向』 満たすための旅行が必要とされために起きたと考え られる。 つまり、団体旅行における「十把一絡げ」から個 人旅行の「十人十色」となり、更に進んで、現在の 旅行は「一人十色」の時代となっているのである。 ⑵ 明確な旅行目的が少ない 出所:前図と同じ 次に、 「じゃらん宿泊旅行調査(2011)」(じゃら んリサーチセンター)から本県の宿泊客の特徴を見 いる。 る。同調査は、インターネット調査で、旅行件数 本県を旅行先として選択した理由を見ると、図1 27,890件(うち本県への旅行1,177件)を対象にして −10のとおり、「魅力的な温泉があったから」「交通 いる。 の便が良かったから」が東海ブロック平均や全国平 図1−9のとおり、当該都道府県を2回以上訪れ 均を上回っており、有力な誘客要因となっている。 たリピート率は、東海ブロック平均71.6%、全国平 一方、「特定の観光地・観光スポットに興味があっ 均73.4%と比べ、本県では77.7%と高くなっている。 たから」は全国平均を10%ポイント以上下回ってい これは、 全国第7位の高さであり、 本県はリピーター る。さらに、 「特定のイベントやアクティビティに の多い県であるといえる。 興味があったから」も東海ブロック平均や全国平均 なお、リピーターの少ない、つまり初回訪問者割 を下回っている。 合の多い都道府県は、 高知県や徳島県、 愛媛県となっ つまり、全国平均と比べて、明確な目的意識を持 ており、大河ドラマ「龍馬伝」やドラマ「坂の上の たず、便利だからやって来たという物見遊山型の旅 雲」などのテレビ番組を視聴した者によるロケ地巡 行者が多いことをうかがわせている。 りの効果が考えられる。じゃらんリサーチセンター (2011)では、初回訪問者を獲得するためには、 「新 たな仕掛け」や「話題づくり」が有効な施策として 194 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 第2章 訪日外国人旅行者の現状と今後の動向 ⑵ 静岡のインバウンドの状況 ア 本県は日本人外国人優位型 1 訪日外国人旅行者の現状 日本人宿泊者数と訪日外国人宿泊者数の分布状況 ⑴ アウトバウンドからインバウンドへ から、本県の状況を見る。図2−3は、横軸に日本人、 戦後から1960年代まで、日本の国際観光は、外貨 縦軸に外国人の宿泊者数を示したものである。なお、 獲得のための訪日外国人旅行(インバウンド)の時 実数では東京都の数字が大きくなりすぎるため、対 代であった。ところが、貿易黒字の解消や諸外国と 数表示となっている。 の交流による相互理解を目的として、国の方針が日 図を4分割した場合、右上は日本人と外国人の両 本人の海外旅行(アウトバウンド)へと転換する。 方の宿泊者数が全国平均より多い「日本人外国人優 国民所得の増大や円高の進行、航空機の発達による 位型」であり、左上は「外国人優位型」、右下は「日 航空運賃の低下などにより、アウトバウンドは順調 本人優位型」となる。 に推移し、2010年には1,664万人となっている。 日本人と外国人を合わせた宿泊者数で全国第5位 一方、インバウンドの伸びは、長期的には増加傾 の本県は、日本人外国人優位型に属している。ただ 向にあるものの、 極めて緩やかであった。そのため、 し、外国人宿泊者数は全国第10位となっており、や アウトバウンドとインバウンドの比率は、1995年に や日本人優位型に近いといえる。 は4.57倍にも達した。しかし、 2003年に始まった「訪 外国人優位型には、中国人旅行者などの誘客に努 日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業) 」により、 めている山梨県や、韓国に近い九州各県(長崎県、 インバウンド客が急増し、2010年は861万人に達し 熊本県、大分県)が属している。一方、日本人優位 たことから、その比率は1.93倍にまで低下している。 型には、北関東周辺各県(福島県、栃木県、群馬県、 インバウンド客の旅行消費額についても、図2− 新潟県)が属している。 2のとおり、2004年以降増加傾向にあり、2007年に なお、日本人宿泊者数と訪日外国人宿泊者数の相 は約1.5兆円に達した。世界的な金融危機が発生し 関係数は比較的高くなっており(r=0.878)、共通の た2009年には約1.2兆円となったが、日本人旅行者 要因により宿泊者数が増減する可能性がある。 を含めた国全体の旅行消費額25.5兆円(2009年)に 占める割合は4.6%とまだ低く、今後の増加が期待 図2−2 インバウンド客の旅行消費額推移 される。 図2−1 訪日外国人数などの推移 出所:法務省「出入国管理統計」及び日本政府観光局『日 本の国際観光統計』 出所:観光庁「旅行・観光産業の経済効果に関する調 査研究」 SRI 2012.3 No.106 195 静岡県の未来戦略 図2−3 日本人宿泊者と外国人宿泊者の分布状況(2010 年 実宿泊者数ベース) 出所:観光庁「宿泊旅行統計」を基に、当財団にて作成 イ 東アジア中心の宿泊者 図2−4 外国人宿泊者の国籍(2010年) 次に、外国人宿泊者の国籍を見ると、図2−4の とおり、本県では中国人の割合が 33.9%と高くなっ ている(全国 17.8%) 。なお、宿泊者に占める中国 人の割合は、全国では山梨県(48.4%)が最も高く、 愛知県(34.3%)が続いている。この3県は、東京 と大阪を結ぶ、いわゆる「ゴールデンルート」上に あることから、中国人旅行者には、同ルートがまだ まだ人気であるといえる。 また本県では、中国、韓国、台湾の宿泊者割合の 注)国籍不詳分は除いている。延べ宿泊者数ベース 合計が 66.0%と全国の 47.5%より高くなっているこ 出所:観光庁「宿泊旅行統計」 とから、この3か国・地域の状況を把握する必要が ある。そこで本調査では、この3か国・地域の居住 者の訪日旅行の実態や今後の動向、意識などを探る ため、インターネットを使ったアンケートを実施し ており、次節でその結果概要を述べる。 196 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて ウ 外国人受入れの宿泊施設は増加 2 訪日外国人旅行者の今後の動向 それでは、外国人旅行者を宿泊させるホテル・旅 ⑴ 調査概要 館などの宿泊施設の受入れ意向はどのようになって 下記地域に居住する者の日本及び静岡に関する意 いるのであろうか。 識を探るため、以下により、アンケート調査を実施 「海外からの観光客受入施設調査報告書」 (静岡県) した。 によると、表2−1のとおり、外国人観光客を「現 調査対象地域・回答者数 在受け入れている」施設は、 2003年度に46.5%であっ ・中国(上海500人、杭州300人) たが、2010年度には57.2%となり、過半数を超えて ・韓国(ソウル500人)、台湾(台北500人) いる。 抽出条件 また、 「今後も受け入れる予定のない」施設は、 ・上海及びソウル、台北は訪日旅行経験を有する者 2003年度の40.5%から2010年度は26.0%に低下して ・杭州は訪日旅行又は海外旅行経験を有する者 おり、インバウンド対応に積極的な宿泊施設が増加 調査方法 インターネット調査 している。 なお地域別では、 「現在受け入れている」施設は、 調査期間 2011年7月29日から8月9日まで 属性別回答者数 伊豆地域では64.8%であるのに対して、西部地域で は44.1%に過ぎない。 逆に、 「今後も受け入れる予定のない」施設は、 西部地域が最も多く、富士地域、中部地域、伊豆地 域の順となっている。本県の宿泊施設では、東部地 域から西部地域に行くに従い、インバウンド対応に 消極的な状況となっている。 ⑵ 外国人旅行者も団体から個人へ 表2―1 宿泊施設の外国人旅行者受入れ意向 訪日旅行の形態について、「前回の旅行」と「次 回の旅行の希望」で比較した(図2−5)。 前回の訪日旅行の実績を見ると、ソウルでは個人 旅行が82.4%、団体旅行が14.2%で、前者が極めて多 くなっている。一方、台北では、団体旅行が66.0% と半数以上で、まだ主流である。また、上海は団体 旅行がやや多いが、個人旅行との差はあまりない。 次に、次回の訪日旅行の希望を見ると、3都市とも 出所:静岡県(2010)「海外からの観光客受入施設調 査(概要版)」 個人旅行の希望が増加している。特に、上海では 17.6%ポイント、台北では25.8%ポイントの上昇と なっている。その結果、両都市とも、個人旅行の希 望が団体旅行を上回っている。なお、台北の20歳代 では個人旅行の希望が79.3%に達しており、今後、 団体旅行から個人旅行への流れが急速に拡大する可 能性がある。 SRI 2012.3 No.106 197 静岡県の未来戦略 図2−5 訪日旅行の形態(単数回答) 出所:㈶静岡総合研究機構(2011) 「東アジア居住者に対する訪日旅行の現状と展望に関する意識調査報告書」 (以下、 本章の図表はすべて同じ) ⑶ ゴールデンルートから地方への分散 このように、今後の訪日旅行では、訪問地がゴー 今までの訪日旅行における訪問地と次回の訪日旅 ルデンルートを外れて、地方へ分散する可能性があ 行で希望する訪問地を比較したものが、表2−2で るといえる。 ある。 今までの訪日旅行での訪問地では、ゴールデン ルート上にある「東京」 「大阪」の都市型観光地や、 「京都」の伝統的観光地、 「TDL/TDS」のテーマパー 「北海道」「秋田」「仙台」「日光」「東京」「東京ディ ズニーランド・ディズニーシー」「横浜」「箱根」「伊 クが上位となっている。 豆(熱海・伊東・下田など)」「富士山」「静岡」「浜 一方、次回の訪日旅行での希望訪問地では、3都 名湖・浜松」「黒部・立山」「岐阜(合掌村など)」「名 市とも「北海道」が第1位となっている。それ以下 古屋」 「京都」 「大阪」 「神戸」 「奈良」 「広島」 「福岡」 を見ると、上海、ソウルでは「沖縄」 、台北では「黒 部/立山」の順位が高くなっている。 表2―2 訪日旅行での訪問地(複数回答) 198 ※本設問の選択肢は次のとおり(25 地域) SRI 2012.3 No.106 「長崎」「大分・別府」「沖縄」「その他」 新たな観光資源の創作に向けて ⑷ ソウルで低い静岡の知名度 図2−6 静岡の認知度(単数回答) 3都市における静岡の認知度は、図2−6のとお りである。台北では「よく知っている」が22.4%で、 上海、ソウルよりも高くなっている。また、 「聞い たことがない」は1.8%に過ぎず、3都市の中では、 静岡の認知度が最も高いといえる。 一方、ソウルでは、「よく知っている」が11.0% で上海とほぼ同じであるが、「聞いたことがない」 が24.2%に達しており、本県の知名度が低いことが 分かる。 ⑸ 静岡への訪問希望は地域差が大きい 図2−7 静岡を訪問したことのある者 ソウルでの静岡の認知度の低さは、本県への訪問 実態にも表れている。今までの訪日旅行において本 県を訪問したことのある者は、図2−7のとおり、 上海では50.2%となっているが、ソウルでは16.0% に過ぎない。 次に、静岡を訪問した者の訪問地の内訳を見る。 表2−3のとおり、上海の「富士山」の訪問者は調 査25地点中3位(45.2%)となっており、ソウルの 13位(12.4%) 、台北の12位(16.6%)と比べて、極 注) 「伊豆」 「富士山」 「静岡」 「浜名湖/浜松」のいずれ か1地域でも訪問した者。そのため、「富士山」の 訪問者には山梨県の訪問者も含まれている。 めて高くなっている。 「浜名湖/浜松」については、3都市からの訪問 表2−3 訪日旅行での訪問地(県内のみ再掲) 者が極めて少ない。特に、ソウル、台北では25位と 最下位となっている。 今後の本県への訪問希望については、表2−4の とおり、3都市とも「富士山」の人気が高くなって いる。特に、上海では30.3%が訪問を希望しており、 2位となっている。また、上海、台北では「伊豆」 の順位も比較的高い。一方、ソウルでは「伊豆」は 24位(1.1%)と極めて低位になっている。 一方、 「浜名湖/浜松」への訪問希望は3都市と も低位となっている。特にソウルと上海では最下位 となっている。つまり、 「浜名湖/浜松」はソウル、 台北において、訪問実績と訪問希望の両方で最下位 となっている。 SRI 2012.3 No.106 199 静岡県の未来戦略 表2−4 本県への訪問希望(複数回答) 図2−8 訪日旅行の回数(単数回答) ⑹ 富士山の人気は安泰か そこで、訪日旅行回数を「1∼2回」「3∼6回」 3都市の訪日回数(単純平均)を見ると、中国で 「6回以上」に分けて分析した。表2−5のとおり、 は観光ビザの解禁が遅かったため、上海は1人当た 訪問回数の増加に伴って選択率が最も減少したのは り1.86回となっている。ソウル、台北はそれぞれ3.46 「富士山」、次いで「名古屋」「大阪」の順となって 回、3.14回で上海を大きく上回っており、図2−8 おり、ゴールデンルート上の都市であった。 のとおり、6回以上の訪日経験を有する「ハードリ 一方、選択率の増加が大きいのは、「沖縄」「黒部 ピーター」も10%以上存在している。今後は、ソウ /立山」「大分/別府」となっており、いずれも地 ル、台北のように、上海でもハードリピーターが増 方都市である。 加すると考えられる。 訪問回数の多い者が物見遊山型の観光地を複数回 では、こうしたハードリピーターにも、 「富士山」 訪れることは少ない。観光資源としての「富士山」 は、有効な観光資源となるのであろうか。 の見せ方を検討するとともに、 「富士山」以外の観 光資源の更なる充実が必要であろう。 表2−5 訪日回数別の訪問希望(複数回答) 200 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 表2−6 「静岡」で興味のある観光資源(複数回答) ⑺ 「富士山」 「温泉」だけではない観光資源 ※本問の選択肢は次のとおり(12項目) 「静岡」で興味のある観光資源については、3都 「富士山」「徳川家康の関連の名所」「日本最大の 市とも「富士山」 「温泉」が1位、 2位となっている。 緑茶の産地」「蒸気機関車(SL)」「ジオパーク」 それ以下の順位について見ると、台北では「徳川家 「温泉を使った健康増進」 「富士スピードウェイ(F 康」が3位で49.0%の人が興味を持っている。年齢 1などのレース場) 」「花のテーマパーク」 「製造 別に見ると、台北の50歳以上では「富士山」 「温泉」 工場の見学(プラモデル、ピアノ、お菓子など)」 「ち を抑えて、1位となっている。上海、ソウルでも7 びまる子ちゃん(アニメ)」「ゴルフ場」「その他」 位、5位に入っており、有望な観光資源といえよう。 ※なお、次の選択肢には注を付している。 また、 「ジオパーク」は上海、台北で4位、ソウ 徳川家康:約400年前の将軍 ルで6位と高い評価になっている。しかし、先行し ジオパーク:地質学的に重要な地形などを保護・ て取り組んでいる地域もあることから、独自性をど 活用する自然公園 のように発揮するかが重要である。 静岡市を舞台にしたアニメ「ちびまる子ちゃん」 は上海で5位、台北で7位となっている。若い年齢 層ではより興味を持たれており、上海の20歳代、台 北の20歳代、30歳代では4位となっている。 「ちび まる子ちゃん」のような映像作品の舞台を観光資源 化することは、他地域では極めて困難であり、差別 化が容易である。 SRI 2012.3 No.106 201 静岡県の未来戦略 第3章 観光産業が本県経済に与える影響 付加価値ベースでは、直接効果12.3兆円、第一次 波及効果8.7兆円、間接第二次効果6.1兆円であり、 1 自動車産業より規模の大きな観光 合計27.1兆円となる。直接効果の付加価値は、国全 本章では、観光を産業として見た場合の経済的な 体の付加価値である国内総生産の2.6%に相当する。 効果について見てみる。 これは、「農林水産業」1.4%や「輸送用機械」2.3% 旅行をする際には、観光施設や宿泊施設、飲食店 を上回り、 「食料品」2.6%、「電気機械」2.7%など を利用することで「対個人サービス」 、鉄道やバス とほぼ同じとなっている(図3−2)。 に乗車することで「運輸」に貢献する。さらに、お 次に、旅行消費25.5兆円が生み出す雇用者数は 土産に地元の産品を購入することにより、 「農林水 462万人と推計され、このうち、直接効果に対応す 産業」 「飲食料品」だけでなく、 「商業」や様々な「製 る雇用者数は251万人である。2009年の国民経済計 造業」など関連する幅広い産業に効果が及ぶ。 算上の就業者に占める割合は4.0%となっており、 こうした、旅行消費がもたらす経済的な効果の測 「農林水産業」5.0%より小さいが、 「食料品」2.4%、 定方法について、国土交通省では2000年度から2002 「電気機械」2.3%、 「輸送用機械」1.9%より大きくなっ 年度まで研究会を立ち上げ、旅行消費額及びその経 ている(図3−3)。 済波及効果などの分析を行った。 2003年度以降は「旅 このように、観光に関する消費額や国民経済計算 行・観光消費動向調査」を実施し、その結果を公表 体系の中で比較可能な付加価値額などの具体的数値 している。ここでは、2011年3月に公表された「旅 による比較を行うことにより、現在の日本経済にお 行・観光産業の経済効果に関する調査研究」を基に、 日本国内の観光産業の経済波及効果を概括する。 図3−2 産業間の付加価値比較(2009年) 図3−1のとおり、日本の旅行消費は25.5兆円 (2009年)であり、2004年以降は減少傾向にある。 直接効果24.4兆円、第一次波及効果17.8兆円、間接 第二次効果(家計迂回効果)10.9兆円を合計した生 産波及効果は、53.1兆円と推計される。 図3−1 旅行消費額の推移 出所:前図と同じ 図3−3 産業間の雇用者数比較(2009年) 出所:観光庁(2011)「旅行・観光産業の経済効果に 関する調査研究」 202 SRI 2012.3 No.106 出所:前図と同じ 新たな観光資源の創作に向けて ける観光産業の位置づけを明確化し、その上で政策 収効果などを推計した。さらに、これらの推計値と 的な議論を展開していく必要がある。 県民総生産や本県の就業者数や税収などとの比較を 通して、静岡県の産業に占める観光産業の位置づけ 2 地域ごとに異なる経済波及効果の測定 を考察する。 地方自治体では様々な方法で観光産業の経済波及 効果分析が行われてきている。しかし、その基礎と ⑵ 旅行消費額の推計 なるデータや経済波及効果の分析方法が全国統一の 旅行消費額は、次の式により求められる。 方法ではなく、未整備の状態であることから、他の 自治体同士での比較が事実上不可能となっている。 旅行消費額=旅行者数(実数)×旅行消費単価 本県では、2004年3月に「静岡県における観光の ただし、宿泊の有無や居住地により旅行消費単価 流動実態と経済波及効果調査」の中で、世界観光機 は異なることから、日帰り客と宿泊客、さらに県内 関が提唱する旅行産業規模の国際比較基準であるT 客と県外客、海外客のそれぞれの旅行消費額を算出 SA(Tourism Sattellite Account)に準じた推計 した上で、合計する必要がある。 を公表している。この推計は、3年ごとに公表して おり、 最近では2010年3月に公表されている。なお、 ア 旅行者数(実数)の推計 この推計は「平成12年静岡県産業連関表」を基にし 旅行者数は「平成22年度静岡県観光交流の動向」 ているが、今回の調査では最新の「平成17年静岡県 から算出するが、同調査の旅行者数は延べ数となっ 産業連関表」を使用して算出した。 ていることから、次の式により実数にする必要があ また、当財団では、都道府県レベルで観光産業の る。 経済波及効果分析が行えるマニュアル作成の提案を なお、平均宿泊日数及び平均立ち寄り施設数は、 目的に、 「地域における国際観光戦略モデルの構築 「静岡県の観光に関するアンケート」のデータを用 に関する研究」を公表している(2005年) 。紙幅の都 いるが、3年に1回の調査であるため、その間の年 合により、本稿では分析方法の概要のみを掲載して は、直線補完推計により値を算出している。 いることから、 詳細は同書を参照していただきたい。 宿泊客数(実数)の算出 3 経済波及効果の分析 ⑴ 調査の流れ 宿泊客数(実数) =宿泊客数(延泊数)÷平均宿泊日数 図3−4の流れに沿って、旅行客の旅行形態や消 日帰り客数(実数)の算出 費内容を把握するために、経済波及効果の分析を A=(B×C)+(D×E) 行った。 改め D=(A−(B×C) )/E まず、県が2003年度、2006年度、2009年度に実施 ただし、A:観光レクリエーション客数(延人数) した「静岡県の観光に関するアンケート」などから、 B:宿泊客数(実数) 日帰り客数(実数)と宿泊客数(実数)を推計し、 本県における旅行消費額を算出した。次に、この旅 行消費額を、 「平成17年静岡県産業連関表」を基に C:宿泊客平均立ち寄り地点数 D:日帰り客数(実数) E:日帰り客平均立ち寄り地点数 作成した分析用産業連関表(44部門)に適用し、旅 行消費額の直接効果、生産波及効果、雇用効果、税 SRI 2012.3 No.106 203 静岡県の未来戦略 図3―4 経済波及効果の調査フロー 一 二 出所:㈶静岡総合研究機構(2005) 「地域における国際観光戦略モデルの構築に関する研究」 を基に、 当財団にて作成 204 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 2000年から2010年の宿泊客数は、延べ人数では イ 旅行消費単価の推計 2,905千人減少しており、割合にすると14.6%である。 1回の旅行における1人当たりの費用である旅行 実数では2,431千人の減少で、割合にすると16.2%と 消費単価は、「平成21年度静岡県の観光に関するア なっており、両者に大きな差はない(図3−5)。 ンケート」のデータを用いる。 一方、同じ期間の日帰り客は、延べ数の伸びが1.9 図3−7のとおり、旅行消費単価は、日帰り客よ 倍であるのに対して、実数では4.0倍と大きくなっ り宿泊客、県内客より県外客が高くなっている。ま ている(図3−6) 。これは、1回の旅行当たりの た、2006年度と比較すると、いずれの層も旅行消費 1人の平均訪問地点数が減少しているためである。 単価が低下している。なお、2009年度から調査を始 このデータに、「静岡県の観光に関するアンケー めた海外客は、県内客の3倍近くの単価となってい ト」で得られた県内、県外、海外の比率(過去の調 る。 査の平均)を乗じて、居住地別の旅行客数を算出し たものが表3−1である。 ウ 旅行消費額の推計 以上の結果から、本県全体の旅行消費額を推計す 図3−5 宿泊客数の推移(延べ数、実数別) ると、5,566億円になる。 費目別内訳では、宿泊費が34.0%で最も多く、次 いで、交通費25.4%、買い物・土産18.1%となって いる(図3−8)。 表3−1 旅行客数の推計結果 出所:各種資料を基に、当財団にて推計 出所:前図と同じ 図3−6 日帰り客数の推移(延べ数、実数別) 図3−7 日帰り・宿泊別、居住地別旅行消費単価 出所:前図と同じ 出所:静岡県「流動実態調査」 SRI 2012.3 No.106 205 静岡県の未来戦略 旅行の道程(旅程)別内訳では、宿泊の県外客が ⑶ 産業部門別消費額の算出 49.4%を占めており、日帰りと合わせた県外客は、 ア 観光産業用の部門表の作成 73.7%と高い割合になる。また、増加が期待される 今回の分析では、2010年3月に公表された最新の 海外客であるが、旅行消費額に占める割合(宿泊+ 「平成17年産業連関表」(静岡県)を使用した。旅行 日帰り)では、今のところ1.7%に過ぎない(図3 産業に関連の深い運輸業とサービス業については統 −9) 。 合中分類(109部門)を用い、その他の部門につい 図3−8 旅行消費額の費目別内訳 ては統合大分類(34部門)を用いている。 (単位:百万円) イ 産業別売上高(購入者価格)の算出 前項で得られた旅行消費額を、分析用産業連関表 44部門表に対応する産業部門に分配する。そのため 「日本標準産業分類」(総務省)を基に、品目ごとの 旅行消費額を産業別に分配し、購入者価格での産業 別売上高を算出した。 表3−2の購入者価格のとおり、 「宿泊業」の構 成比が最も高く、次いで「飲食店」となっている。 また、自動車のガソリンなどに該当する「石油・石 炭製品」が「鉄道輸送」を上回っている。 出所:各種資料を基に、当財団にて推計 ウ 産業別売上高(生産者価格)の算出 旅行者へのアンケート調査で得る旅行消費額は、 図3−9 旅行消費額の旅程別内訳 (単位:百万円) 土産や飲食店などの店頭の価格(購入者価格)であ る。これには、卸小売店の商業マージンや運輸業者 の流通経費が含まれている。 しかし、産業連関表は生産者価格による表示のた め、分析には購入者価格の生産者価格への変換が必 要となる。 本県産業連関表には、商業マージン表、国内貨 物運賃表の付帯表が作成されていない。そのため、 「2005年産業連関表」(総務省)に付帯されている商 業マージン表と国内貨物運賃表から購入者価格に占 める商業マージンと運輸マージンを算出し、それぞ れを商業部門と運輸部門に再分配することで、旅行 出所:前図と同じ 消費額を購入者価格から生産者価格に変換した。 その結果が表3−2の生産者価格である。 206 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 表3−2 産業別売上高 ⑷ 経済波及効果の推計 推計を行った(計算式は表3−3参照)。 ア 直接効果 直接効果とは、旅行関連産業の売上高が他産業へ ウ 間接二次生産波及効果(家計迂回効果) の投入構造を通じて県内産業に波及する前の段階の 旅行消費額による観光関連部門の売上げは、投入 効果を指す。他県・他国から移輸入される分を除い 産出構造を通じて他産業へ波及するだけでなく、当 た純増加額である。 該産業での雇用者の所得となり、その所得の一部が ただし、推計対象は県内旅行であるため、運輸機 消費に回ることになる。 関や娯楽サービス、飲食店、旅館・宿泊業、その他 対個人サービスなどの部門については、県内自給 表3−3 経済波及効果の推計方法 100%としている(計算式は表3−3参照) 。 イ 第一次生産波及効果 (直接効果+間接一次効果) 第一次生産波及効果は、旅行消費が投入産出構造 を通じて他産業において需要を喚起し、その需要が 更に投入産出構造を通じて新たに需要喚起するとい う繰り返しの結果、旅行消費による直接効果が他産 業へ波及した段階の効果を指す。ここでは、一般的 に用いられる競争輸入型の生産波及モデルを用いて SRI 2012.3 No.106 207 静岡県の未来戦略 表3−4 各種効果の推計方法 この消費が、新たな需要として各産業に波及する 設備投資支出の誘発を民間設備投資分として加算し 効果を家計迂回効果という。 た。しかし、県による推計では加算しておらず、今 ここでは、第一次生産波及効果の額に各産業の県 回は県推計との経年比較を行うことから、加算して 内生産額に占める雇用者所得の割合を掛け、それら いない。 を足し合わせることで、観光消費によって創出され た雇用者所得のうち、支出に回る金額を算出した。 エ その他の効果 それを各産業の民間消費支出の割合によって各産業 その他の波及効果として、付加価値効果、雇用効 に分配したものを新たな需要として生産波及効果を 果、税収効果を推計している。なお、推計方法は表 推計した(計算式は表3−3参照) 。 3−4のとおりである。 なお、前研究「地域における国際観光戦略モデル の構築に関する研究」では、営業余剰の増加による 図3−10 2010 年度の静岡県経済への貢献 208 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 4 経済波及効果の推計結果 なっている。 ⑴ 本県経済への影響 次に、直接効果に対応する雇用者数を他産業と比 推計結果は、図3−10のとおりである(産業別の べると、図3−12のとおり、金融・保険業の1.5倍、 推計結果は表3−5を参照) 。 農林水産業の約3分の2となっている。 本県の旅行消費額は5,566億円となる。この額は、 本県の製造品出荷額総額(2010年)15兆6700億円の ⑶ 低下する観光産業の重要性 3.6%、小売業の商品販売額(2007年)4兆782億円 本県の旅行消費額は、2003年度の調査開始以降、 の13.6%、農業産出額(2010年)2,123億円 の2.6倍 減少傾向にある。それに伴い、直接効果や生産波及 に相当している。 効果(一次+二次)も減少している(図3−13)。 本県における旅行消費額から県外漏出分を除いた 県内総生産に占める割合についても、図3−14 直接効果は4,309億円、間接二次効果を含めた総生 のとおり、直接効果の付加価値が2.0%から1.4%に、 産波及効果は6,799億円となった。直接効果に対応 生産波及効果の付加価値が3.3%から2.3%になって する付加価値効果は2,157億円で、これは、2010年 おり、本県の経済における観光産業の重要性が低下 度の本県の県内総生産の1.4%に相当する。 しつつある。 ⑵ 農林水産業より大きい付加価値 直接効果に対応する付加価値効果を他産業と比べ ると、図3−11のとおり、農林水産業よりやや大き 図3−13 本県観光産業の経済的効果の経年比較 く、化学の約2分の1、輸送用機械の約4分の1と 図3−11 本県産業間の付加価値比較 出所:各種資料を基に、当財団にて推計 (図3−14まで同じ) 図3−14 県内総生産に占める観光産業の付加価値 図3−12 本県産業間の雇用者数比較 SRI 2012.3 No.106 209 静岡県の未来戦略 表3−5 産業別各効果の推計 210 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 5 経済波及効果算出の課題 本章の最後に、本県における経済波及効果の算出 に当たっての課題を指摘する。 第4章 新たな観光形態の誕生 1 観光地を取り巻く厳しい状況 第1章で示したとおり、本県の宿泊者数が最も多 ⑴ 日本人海外旅行者の県内旅行消費分の扱い かったのは、いわゆる「バブル景気」の末期である 本県の観光産業における経済波及効果の分析で 1991年(平成3年)である。その直前の1987年には、 は、調査対象が県内旅行消費に限定されている。し 総合保養地域整備法1(通称「リゾート法」)が公布・ かし、富士山静岡空港の開港などにより、静岡県民 施行され、宮崎県のシーガイアに代表されるリゾー の海外旅行が増加すると考えられることから、海外 ト開発事業などの大規模な投資が全国各地で行われ 旅行における県内消費分(空港までの移動費用や事 ていた。 前準備に要する費用など)を県内旅行消費に含める こうした大規模な施設では、食事や温泉、レクリ ことを検討する必要があろう(なお、観光庁の分析 エーション施設などの様々な機能を整備して、宿泊 ではその部分が含まれている) 。 客の囲い込みを進めたことから、必ずしも地域性を 必要としていなかった。食材などの調達に関しても、 ⑵ 海外旅行者の割合は 安定的に大量の仕入れを行うためには、地域の市場 県は、経済波及効果の算出の基礎データとして、 や生産者からではなく、大きな市場からの調達に頼 宿泊者に占める海外旅行者の割合を1.2%と推計し らざるを得ない。こうして、地域とあまり関係のな ている。一方、観光庁による同年(2009年)の宿泊 い観光施設が、全国各地に生まれた。 旅行統計での外国人宿泊者(実宿泊者数)の割合は その後、大都市への人口集中やバブル崩壊による 2.5%となっており、2倍以上の開きがある。海外 不況に対応するため、観光振興を切り札に地域活性 旅行者の旅行消費単価は、国内旅行者と比べて、2 化を図ろうとする市町村が増加した。そのため、 「全 倍から3倍程度高くなっていることから、旅行消費 国総観光地化」現象が起こり、国内観光地間の競争 額が少なめに見込まれていることも考えられる。 が激化していた。 こうした状況では、地域性の少ない観光施設、す なわち全国のどこにでも整備できる施設は、他の施 設との差別化が難しく、厳しい状況に追い込まれや すい。県内でも大規模なホテル・旅館などが廃業に 追い込まれ、施設を売却した例が散見される。 そうした施設を購入した企業は、大規模な設備投 資が不要であることから、宿泊料金を比較的安価に することができる。その結果、その地域では周囲の 宿泊施設が価格競争に巻き込まれることになった。 この状況を打破するためには、地域固有の資源を 活用することで、他地域と差別化を図ることが重要 である。具体的には、その地域のありのままの自然 1 本県関係では 1993 年2月に「にっぽんリゾート・ふじ の国構想」が承認された。 SRI 2012.3 No.106 211 静岡県の未来戦略 表4−1 ニューツーリズムの類型 出所:「類型」「取組の方向性」はアクションプラン、 「内容」は観光庁(2010)などから作成 やまちなみを見て体験する、地域の伝統文化を見て ている。さらに、旅行ニーズが、「個人やグループ 体験するような観光2である。 による多様な価値観に基づいた体験型・目的指向 そうした観光の萌芽は、1970年代の「小京都ブー 型」に変化していることから、アクションプランで ム」や1980年代の「秘湯ブーム」にも見られるが、バ は、「テーマ性を備えた新しいツーリズムを推進す ブル崩壊後の1990年代後半以降に本格化していった。 る」としている。 2 変わる旅行ニーズ 3 ニューツーリズムの定義 一方、観光地を訪問する側である旅行者の状況は 尾家(2010)によると、 「新しいツーリズム」 (ニュー どうであろうか。この点について、静岡県の「ふじ ツーリズム)は、 「2000年代初頭から地域の活性化 のくにアクションプラン」 (以下、 「アクションプラ と観光促進を背景とし、新しい観光形態を指す言葉 ン」という)では、「旅行需要の変化、減少」によ として使われ始めた」という。 る「マスツーリズムからニューツーリズム」への流 ニューツーリズムについての厳密な定義はない れを指摘している。 が、観光庁では、 「従来の物見遊山的な観光旅行に 第1章で示したとおり、高校卒業後の男性若年層 対して、テーマ性が強く、体験型・交流型の要素を の旅行参加率が低くなっており、 「多様な視点をも 取り入れた新しいタイプの旅行」であるとしている。 つ若年層のニーズに応えた取組」の必要性が高まっ 一方、本県では、アクションプランの中で、「健康、 2 歴史、環境、産業など多彩な地域資源の新結合によ 4 4 「観光」は単に見るという印象が強いため、多様な効果 に注目し、 「ツーリズム」という場合も多い。 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 るテーマ性を備えた新しいツーリズム」と定義して 3 企業などの会議(Meeting)、企業の行う報奨・研修旅 行(Incentive Travel)、国際会議(Convention)、イベント、 展示会・見本市(Event/Exhibition)の頭文字。 212 SRI 2012.3 No.106 いる。さらに、その類型及び取組の方向性について、 表4−1のとおり提示しており、特に、「産業観光」 新たな観光資源の創作に向けて 及び「フィルムツーリズム4」を重点施策としてい ⑶ 地域住民の協力が不可欠 る。 「地域性」 「地元交流」 「参加・体験」という特徴は、 地域がもともと持っている魅力を活用することであ 4 ニューツーリズムの特徴 り、旅行者の受入れには、今まで観光とは関係のな ⑴ テーマ性がポイント かった地域住民や事業者の協力が重要となる。 ニューツーリズムの特徴は、表4−2のとおり、 例えば、田植え体験であれば農業者、工場見学で 「テーマ性」 「地域性」 「地元交流」 「参加・体験」の あれば事業主の協力が不可欠である。特に、「参加・ 4つに整理できる。 体験型」の場合には、ガイドやインストラクターな 「テーマ性」は、観光庁と県によるニューツーリ どとして、実際に体験者への指導をするまでの協力 ズムの定義で共通する単語であり、ニューツーリズ が必要となることから、仕組みづくりにはかなりの ムの最大の特徴といえる。旅行者は自分に関心のあ 手間を要することになる。 る「テーマ」にこだわって旅行をするのである。 これは、SIT(Special Interest Tour)と呼ばれ、 表4−2 ニューツーリズムの特徴 経済的に豊かな先進国の旅行者に多く見られる形態 である。欧州などの旅行経験の豊富な旅行者が、観 光目的を自ら設定することで、より主体的に旅行を 楽しむために始まったとされる。 日本においても、旅行に「テーマ志向」を求め る旅行者が65.3%に達しており、 「有名観光地志向」 の33.8%を大きく上回っている(㈶社会経済生産性 本部『レジャー白書2007』) 。 ⑵ 収益を上げにくい構造 出所:各種資料を基に、当財団にて作成 テーマ性が明確であることは、客層が限られてし まうことにつながり、大手の旅行代理店などでの販 売になじみにくい。つまり、収益性を高めるために 必要な大量かつ安定的な集客が構造的に難しいとい える。このため、 「参加・体験」型観光に必要とな るガイドやインストラクターは、収益を得にくく なっており、本業の合間に片手間でやる場合が多く なっているのが実情である。 体験型観光の盛んな伊豆半島西海岸においても、 「1年中、ガイド専業で生活できる者は、数えるほ どしかいない」 (観光関係者)ということである。 4 観光庁では「スクリーンツーリズム」と表記している ことから、本稿でも同様とする。 SRI 2012.3 No.106 213 静岡県の未来戦略 第5章 先行事例から見る「文化+観光」 表5−1 文化観光の種類 本章及び次章では、ニューツーリズムに取り組ん でいる地域の事例を取り上げる。今回の事例調査で は、地域が新たに取り組める観光=地域や旅行者が 新たに資源を創作する観光として、第5章でアニメ ツーリズム(アニメ舞台訪問)、第6章でスポーツ ツーリズムを取り上げた。 アニメツーリズムは近年注目されている観光形態 出所:観光庁(2010)などを基に、当財団にて作成 で、 情報通信技術の発展により広がりを見せている。 スポーツツーリズムは健康志向の高まりとともに、 また、映画やアニメ、ゲーム、食、ファッション 全国各地で取り組み始めている。 などの現代文化(いわゆるポップカルチャー5)に どちらも、温泉や富士山などの古くからの観光資 ついても、「リピーターの獲得や訪日動機を喚起し 源を持たない地域でも取り組むことのできる観光で うるもの」と評価している。 あるといえる。 特に、訪日動機の喚起という点では、現在取組が 進められているクールジャパンとの連携が重要であ 1 文化を観光資源に ると考えられる。 ⑴ 文化観光のあらまし 観光庁(2010)によると、表5−1のとおり、ア ⑵ クールジャパンと観光の連携 ニメを活用した観光は、文化観光の一種に位置づけ 韓国では、韓流といわれる映画・ドラマやK-POP られている。そこで、まず文化観光の動向を確認し (韓国の大衆音楽)などの海外展開について、官民 てみよう。 を挙げて積極的に行い、そのイメージを観光や各種 文化観光は、2005年の「文化観光懇談会」 (国土 製品の輸出に生かしている。 交通省)において、公式に議論が始まった。その後 一方、「クールジャパン(素敵な日本)」と表現さ の観光立国推進基本計画(2007年)では、文化観光 れるように、日本文化に対する憧れや関心が、草の は、 「日本の歴史、伝統といった文化的な要素に対 根から静かな広がりを見せている。 する知的欲求を満たすことを目的とする観光」と定 特に、アニメやマンガ、ゲーム、ファッションな 義されている。 どのポップカルチャーは、中国や韓国、台湾だけで それまで、文化には保護や各種のしきたりなどが なく、タイやシンガポールなどの東南アジア、フラ あることから、観光資源としてあまり認識されてこ ンスなどの欧州でも、若者層の支持を得ている。 なかった。しかし、文化財について、観光庁(2010) しかし、こうした資産を持ちながら、今までは国 では、 「訪日外国人旅行者の多くが訪日目的に挙げ 内志向が強く、海外で魅力を十分に発信できていな る重要な観光資源」であるとしている。さらに、文 かった。 化施設などの文化資源の活性化により、 「 「もう一泊」 5 の滞在に繋げる」ために、観光資源としての文化の 活用を明確にしている。 214 SRI 2012.3 No.106 外務省 (website) では、「一般市民による日常の活動で 成立している文化」「庶民が購い、生活の中で使いながら磨 くことで成立した文化であって、これを通して日本人の感 性や精神性など、等身大の日本を伝えることができる文化」 としている。 新たな観光資源の創作に向けて 2011年5月の「クール・ジャパン官民有識者会議」 ば呼称されている(以下、作者起点のアニメツーリ (経済産業省) では、クールジャパンの取組について、 ズムと区別するため、本稿では「アニメ舞台訪問」 「インバウンド観光の促進と表裏一体であり、観光 という) 。施設整備がほとんど必要ないことから、 分野の目標達成にも貢献できる」とし、積極的な活 費用があまりかからないといえる。 用を提言した。そのための基本戦略として、「アニ アニメ舞台訪問は「1990年代前半に始まった」 (岡 メツーリズム、多彩なライフスタイルなど、クール・ 本 2009)との意見もあるが、本格的になったのは、 ジャパンの要素を活かし、テーマ性のある観光コン ブログなどによりインターネット上での情報発信を テンツの醸成」が必要であるとしている。 行いやすくなった2000年以降である。そのため、先 このように、クールジャパン戦略において、アウ 行研究が少ないことから、本稿では先行事例へのヒ トバウンドではポップカルチャーなどの日本文化の アリングから、その実態を調査した。 輸出、インバウンドではそれを活用した観光誘客が なお、調査に当たっては、アニメの制作側と地域 両輪であるといえる。 側の窓口の両者に対してヒアリングを行っている。 こうした流れの中、日本政府観光局では日本各地 に点在するアニメの舞台やアニメ関連施設などを紹 表5−2 アニメツーリズムの種類 介した「ジャパン・アニメ・マップ」を発行し、訪 日促進を図っている。 ⑶ アニメツーリズムとは アニメツーリズム6について、山村(2011)では、 「アニメやマンガ等が地域にコンテンツを付与し、 こうした作品と地域がコンテンツを共有することに 出所:各種資料を基に、当財団にて作成 よって生み出される観光」 と定義している。つまり、 アニメやマンガの作品世界が地域に与えられて、そ の世界観を共有し活用する観光といえる。 アニメツーリズムは、表5−2のとおり、作者起 点と作品起点に分かれる。前者は従来型の施設を 使った観光に近く、作者の記念館などを整備して、 それを資源とする場合が多い。先行事例としては、 宮城県石巻市の石ノ森萬画館(石ノ森章太郎の出身 地の近隣)や鳥取県境港市(水木しげるの出身地) などがある。 一方、 後者はスクリーンツーリズムの流れに近く、 4 4 4 4 アニメ作品に登場する舞台をそのまま見せるもので ある。いわゆるロケ地巡りであり、新聞や雑誌、イ ンターネット上では、「アニメ聖地巡礼」としばし 6 埼玉県産業労働部観光課では「アニメツーリズム検討 委員会」を設置した例がある。 SRI 2012.3 No.106 215 静岡県の未来戦略 2 アニメ舞台訪問の事例 作品の雰囲気を大切にするために ∼ true tears ∼ 「true tears(トゥルー・ティアーズ) 」は、富山 作品の登場人物を 県南砺市(旧城端町)を主な舞台とし、作品中に城 使った「城端むぎ 端の町並みやお祭りが描かれている。同地区に本社 や祭」のポスター を置く株式会社ピーエーワークスがアニメ制作を担 当している。 <きっかけ> ⓒ2008 true tears 製作委員会 作品の構想段階では、他の都市がモデルの有力候 補であった。しかし、作品の監督が東京から同社を 216 訪問した際に、城端の町並みなどに魅かれ、舞台に <特徴> 決めたという。 城端観光案内所には、ファン向けの記帳ノートが テレビ放送は2008年1月から3月まで行われた 置かれている。その記載内容を見ると、「繰り返し が、ファンによる舞台訪問は番組終了前の2月頃か 来ている人が多く」 「台湾など海外からの旅行者も ら始まった。しかし、富山県内では地上波での放送 いる」 (同案内所)ことに驚くという。また、一般 が行われていなかったこともあり、城端の住民は作 客の観光客に比べ、 「滞在時間が長く、城端の雰囲 品の影響と分からなかったという。 気を感じてくれている」傾向がある。 <取組概要> さらに、作品に登場するお祭りのモデル「城端曳 この作品を活用した取組では、城端観光案内所な 山祭」「城端むぎや祭」は、中高年の見学者が多かっ どが前面に出た活動をしていない。ファンは、作品 たが、現在は20歳∼ 30歳代の若者も増加している。 に流れている雰囲気を感じ取るために城端を訪問し テレビ放送後3年以上経過するが、「今でも、毎日 ているのであり、観光視点が強くなりすぎると、そ のように、訪問者がいる」という。 れを壊してしまうためである。 この取組には、ピーエーワークスの協力によると そのため、 積極的に情報発信をすることはないが、 ころが大きい。同社は2002年より南砺市起業家支援 JR城端駅内にある城端観光案内所には作品のパネ センターでアニメ制作を行っており、「作品の世界 ルやポスターが掲示され、ファンを歓迎する姿勢を 観にあった地域が北陸にあれば、舞台として活用し 示している。 たい」(同社)としている。 また、南砺市では、作品の出演声優などを観光大 実際、2011年春のテレビアニメ「花咲くいろは」 使に委嘱したほか、主人公4人の特別住民票を発行 では、金沢市湯涌温泉を舞台のモデルにしている。 している。 城端と湯涌温泉は車で30分ほどの距離であることか 経緯 ら、2か所を回遊するファンも多い。 2008年1月 テレビ放送(∼3月) 南砺市の概要 2009年7月 南砺市城端伝統芸能会館主催による ファン感謝イベント 人口:54,911人(2012年1月1日現在) 2010年7月 特別住民登録 2010年12月 ファン有志によるイベント SRI 2012.3 No.106 ○地勢:富山県西部に位置する。世界遺産「白川郷・ 五箇山の合掌造り集落」を有する。 ○旧城端町は「越中の小京都」と呼ばれる小さな町。 新たな観光資源の創作に向けて 多様な事業者の参加で強みを発揮 ∼とある魔術の禁書目録・とある科学の超電磁砲∼ 「とある魔術の禁書目録(インデックス)」「とあ る科学の超電磁砲(レールガン)」は、架空の学園 都市を舞台とした作品である。映像の背景に、立川 市や多摩市の町並みが用いられている。 <きっかけ> 立川市の観光担当係長が、「立川」をキーワード にインターネット検索を行っていたところ、 「とあ る魔術の禁書目録」でのヒット数が増加しているこ ⓒKK/AMW/P-Ⅰ ⓒKK/AMW/P-ⅠⅡ ⓒ KK/MF/AMW/P-R とに気付き、同市の多摩モノレールなどが作品の背 景になっていることを知った(2009年) 。 「とある魔術の禁書目録」などを活用した 外国人向けの「立川来街誘致巡礼マップ」(英語版) その後、市内の観光事業者の会議において、その 作品を観光に活用する提案があり、実施することに <特徴> なった。 この取組は、立川市、立川観光協会のほか、商店 <取組概要> 街振興組合や金融機関、交通事業者、玩具メーカー 2011年1月にはアニメに登場した背景を実際の地 などからなる「とあるアニメの連絡会」を中心に行 図に示した「学園都市マップ」の配布イベントを開 われている。初めてアニメの活用に取り組んだため、 催し、約9,000人を集客した。その際のアンケート 「走りながら実績と効果を示す」ことで、関係者の 調査で、イベント後に市内を回遊しない帰宅者が 理解を得ていった。また、多様な事業者が参加して 20%いたことが明らかになった。そのため、同年11 いるメリットを生かし、玩具メーカーによる商品開 月の「秋の楽市」の中で開催したアニメフェスタで 発、商店街振興組合による情報発信など、各自が強 は、多摩大学と共同で、携帯コンテンツを活用した みを発揮して取組を行っている。立川市産業振興課 スタンプラリーにより、まちを回遊する仕掛けづく では、 「この連絡会のスキームやノウハウは、アニ りを行ったという。 メだけに限らず、様々なコンテンツにも活用できる また、訪日・在日外国人向けに立川が背景や舞台 のではないか」としている。 となったマンガやアニメを活用した「立川来街誘致 また、現在実施中の「立川市旧庁舎施設等活用事 巡礼マップ」 (英語版)も作成している。羽田空港 7 業」では、マンガ5万冊をそろえた「まんがぱーく 」 や都庁の観光案内所、ホテルなどへの配架のほか、 が整備される予定であり、今回の取組との連携によ シンガポールのアニメフェスタでも配布し、立川市 り、更なる効果が期待される。 のPRやインバウンド誘客に活用している。 立川市の概要 経緯 人口:178,673人(2012年2月1日現在) ○地勢:東京都のやや西側に位置する。多摩地区 2008年10月 テレビ放送(その後、続編あり) 2011年1月 学園都市マップ配布 の中心都市となっている。買い物や飲食などの 2011年4月 春の楽市 アニメフェア 目的で訪れる「都市型観光」が中心である。 2011年10月 外国人向けアニメマップ作成 2011年11月 秋の楽市 アニメフェスタ 7 「立川市旧庁舎施設等活用事業」における民間事業者の 提案概要書の記載であり、今後の変更もあり得る。 SRI 2012.3 No.106 217 静岡県の未来戦略 新たな訪問者層の獲得 ∼たまゆら∼ 「たまゆら」は、広島県竹原市を舞台とした作品 である。作品に現実感を持たせるために、同市が実 名で登場しており、 竹原の町並みも再現されている。 2010年にOVA8(オリジナル・ビデオ・アニメー ション)として発表後、2011年には続編がテレビア ニメ化され、新たに横須賀市も舞台となっている。 <きっかけ> ⓒ佐藤順一・TYA/たまゆら製作委員会 この作品ではそのまちで暮らす幸せや風景美が大 切なテーマとなっており、景観が重要であった。そ 市の広報紙での作品の紹介 のため、制作に当たって、 「生活感のある」 「きれい な海の見える」 「単線の電車が走っている、のどか <特徴> さのある」まちを条件に、旅行会社の関係者から意 竹原への旅行者の中心は中高年層や若い女性層で 見を聞いたという。その結果、竹原が舞台として選 ある。この取組によって、作品のファンである20歳 定された。 ∼ 30歳代の男性がそこに加わった。 9 製作委員会 では、作品のPRのため、竹原市と また、竹原は観光客向けの商店の多いまちではな の共同イベントなどを提案していた。そこで、竹原 いことから、興味のない者はすぐ立ち去ってしまう 市の文化施設4館の指定管理者であるNPO法人 傾向にある。しかし、作品のファンは、アニメに登 ネットワーク竹原が協力することになった。 場しているわけではない文化施設を見学するなど、 <取組概要> 「竹原の雰囲気を感じ取ろうとしてくれている」と ネットワーク竹原では、製作委員会がDVD販売 いう。そのため、ネットワーク竹原が管理する文化 などに合わせて開催するイベントを支援するととも 施設では、来館者が1割程度増加している。 に、 既存のお祭りとの連携も図っている。 例えば、 「た なお、この取組は市の主導でないことから、「N けはら町並み雛めぐり」ではアニメ関連のオリジナ POだけの活動と見られやすい」面もあるという。 ル商品の販売、 「たけはら国際芸術祭」では作品監 そのため、ネットワーク竹原では、市や観光協会、 督の講演やアニメを活用したスタンプラリーを実施 商工会議所、フェリー会社などと「チームたまゆら」 している。 を結成して情報共有を図っている。今後は、各団体 経緯 の連携を密にすることで、より効果的な観光誘客や 声優によるトークイベントなど 2010年11月 DVD販売開始 2011年2月 たけはら町並み雛めぐりとの連携 竹原市の概要 2011年4月 たけはら国際芸術祭との連携 人口:28,853人(2011年12月1日現在) 2011年10月 テレビシリーズ放送開始 ○地勢:広島県の南中部に位置する。江戸時代の 8 劇場での上映やテレビ放映などを主たる目的としない 作品。ただし、人気が高まると、後にテレビ放送・映画化 される場合もある。 9 220 ページ参照。 218 まちづくり活動を発展させたいとしている。 2010年10月 SRI 2012.3 No.106 町並みがそのまま保存されている。2000年度に は、町並地区が「都市景観100選」 (国土交通省) に選定された。 新たな観光資源の創作に向けて 3 先行事例から見るアニメツーリズムの特徴 ⑵ ありのままの地域を見せる 以上の事例を踏まえて、アニメ舞台訪問の特徴を アニメ舞台訪問は、作品に描かれた風景を追体験 まとめてみる。 するだけでなく、作品や地域に流れる世界観を感じ ることが目的である。そのため、仮に作品に登場し ⑴ 明確なターゲット ていなくても、その世界観を感じるために、その地 アニメ舞台訪問に訪れる者は、10歳代後半から30 域の様々な建物や施設に立ち寄る場合が多い。 歳代までが中心である。アニメの内容にもよるが、 また、ありのままの地域を見るために訪問するの 男性が多くなっている。 であり、大規模な施設整備などは必要ない。パネル 第1章で示したとおり、高校を卒業する18歳から やポスターの掲出などにより、ファンを歓迎してい 30歳代未満にかけての国内宿泊旅行参加率は、全年 る姿勢を示すことが重要である。 齢層中最も低くなっている。彼らにとってアニメの 舞台を訪問することは、強い旅行動機となり得るも ⑶ 旅行者が情報発信の主役 のである。 アニメ舞台訪問では、地域が気付かないうちに旅 また、アニメ舞台訪問での旅行目的地は、作品の 行目的地になっていることがある。 舞台となった地域であることから、他の観光地とは その理由は、図5−1に示すとおり、従来の観光 比較できない。つまり、その地域には圧倒的な優位 とは異なった経路で情報が発信されるためである。 性が存在しているのである。 従来の観光では、着地(観光地)や発地(旅行事 なお、海外では正式なテレビ放映などがほとんど 業者など)が、ガイドブックやインターネットなど 行われていないにもかかわらず、現在でもインター を使って、情報を発信する傾向にあった。つまり、 ネットの動画サイトなどで日本のアニメを見て、日 管理された情報が提供されていたのである。 本を訪問している若者がいる。クールジャパンの進 一方、アニメ舞台訪問に関する情報は、 「着地」「発 展により、日本アニメの放送は今後増加すると考え 地」からではなく、同じ旅行者から発信される。や られることから、訪日動機としてより有力となって がて、その情報を得た同じ作品のファンが、その地 いくであろう。 域を数多く訪問するようになる。地域側では、その 時点で初めて、その地域を舞台・モデルにしたアニ 図5−1 従来の観光と旅行者発信の旅行の相違 出所:当財団にて作成 SRI 2012.3 No.106 219 静岡県の未来戦略 メの存在を知るのである。 話が来ることはほとんどなく、早くても舞台に決定 なお、最近では、制作者があらかじめ地域に声掛 した後である。そのため、実写とは異なった誘致活 けをしている事例も増加している。アニメ制作者に 動が必要となる。 よると、アニメ舞台訪問の影響が大きくなっている ことから、 「あらかじめ情報提供することで、ファ イ 権利関係が分かりやすい ンと地域が嫌な思いをしないようにする」ためであ 実写の場合、作品の著作権だけでなく、出演俳優 るという。 などの肖像権、パブリシティ権などが関係してくる ため、権利許諾の窓口がバラバラとなっている。そ ⑷ 実写より観光に向くアニメ のため、主人公を使った観光誘客用のポスターを制 先述したとおり、アニメ舞台訪問はスクリーン 作することも容易ではない場合がある。一方、アニ ツーリズムの一種といえるが、実写の映画やテレビ 10 メでは、各種権利が製作委員会 に一元化されてい ドラマにおけるスクリーンツーリズムとは異なった ることが多く、窓口が比較的明確である。 点がいくつかある。 今回のヒアリング先には、フィルムコミッション ウ キャラクターが年をとらない (以下、 「FC」という)として実写の誘致などを行っ アニメでは、登場するキャラクターが年を取らな ている団体も多く、その中で明らかになったアニメ いことから、作品によっては、長い間放送が行われ 舞台訪問と実写のスクリーンツーリズムを比較した たり、人気が継続したりすることがある。例えば、 場合の特徴を見る。 2010年の「静岡ホビーフェア」では、実物大の「ガ ンダム」が設置され160万人来場したが、この作品 ア FC側の手間がかからない の初回テレビ放送は30年以上前である(1979年)。 実写の場合、ロケーション・ハンティング(ロケ また、清水を舞台にした「ちびまる子ちゃん」は ハン)によりロケ地選定を行い、 その後、 ロケーショ 1990年にテレビアニメ化され、既に20年以上経過し ン撮影(ロケ)が行われる。映画などの大規模ロケ ているが、今でも違和感なく受け入れられている。 の場合には、撮影関係者の宿泊や弁当調達などによ る経済的な効果が発生することもある。 4 アニメを観光資源にするには 一方、アニメでは、ロケハンでの映像を基に作画 アニメ舞台訪問は新しい観光形態であることか が行われるため、ロケは行われない。そのため、こ ら、先行事例においても、取組に当たって試行錯誤 うした経済的な効果は見込めない。しかし、実写で している面がある。ここでは、地域がアニメの舞台 のロケ時に発生する警察や行政などへの撮影許可手 となった場合に、それを活用する際のポイントをい 続きや各種の調整が不要である。 くつか示しておく。 東京近県のFCによると、テレビドラマなどの実 写では、 「つぶれた病院を撮影したいなど、どこに ⑴ 作品の世界観を大切に でもあるような施設への要望が多い」ため、FC側 アニメファンは作品の世界観を極めて重視する。 の手間はかかるが、地域のPRという効果が見込め そのため、作品とファンをつなぐ商品(グッズ)に ない案件も多いという。 10 このように、アニメの場合には、FCを活用する 必要が少ないことから、ロケハンの段階で地域側に 220 SRI 2012.3 No.106 原作の出版社やDVD販売会社、アニメ制作会社、玩 具メーカーなどで構成され、民法上の任意組合に該当する。 作品の制作資金を集めるだけでなく、作品に関連する事業 を実施する組織である。 新たな観光資源の創作に向けて は注意が必要である。 地域に製造会社があるなどの理由で、自分たちが 参考事例 県内A市を舞台にしたテレビアニメが放送され、 作りやすい商品の包装などにキャクラターを使い、 ファンによるアニメ舞台訪問が行われるように 安易に販売しようとする例がある。しかし、作品の なった(2005年) 。 制作者は、 「作品や地域とつながりのない商品は作 しかし、同市では同作品のテレビ放送がなく、 品の世界観に悪影響を及ぼし、作品の評価を低下さ アニメの舞台であることが地域住民に十分伝わっ せる」ことから、キャラクターなどの使用を認めな ていなかった。そのため、作品に登場した学校や い場合も多いという。主人公が高校生である作品に おいて、 地域から化粧品の商品化の提案があったが、 住宅地を訪問したファンに対して、住民から苦情 が発生した。 制作者は「高校生が使用する化粧品ではない」とし の公的機関がアニメ舞台訪問の取組内容を住民に発 て、応じなかった例もある。 信する必要がある(参考事例参照)。 商品ではないが、 「true tears」の事例で示したと それでも、住民から「なぜ行政がアニメのような おり、市町村がアニメのキャラクターを特別住民登 ものに関わるのか」との意見が寄せられる例もある 録し、その住民票の販売をすることがある。行政や ことから、観光入込客数や経済的な効果などの取組 地域が作品を大切にしている表れであるとともに、 成果をできるだけ定量的に把握し、住民に説明して 住民票の販売による歳入確保にもつながる取組であ いく必要がある。 る。埼玉県旧鷲宮町では、同様の住民票を合計4万 この点については、先行事例においても十分に対 枚発行して、完売したという(片岡 2010)。 応できているとはいえない。特に、行政や観光協会 作品の世界観を表すものとして、地域のお祭りな 以外の主体による取組の場合、費用や手間の問題で、 どが作品中に登場する場合がある。ファンには作品 調査が難しいのが現状である。 と地域の世界観を感じることのできる貴重な機会で あり、強い訪問動機となるものである。そこで、お イ 地域全体の利益となるように 祭りなどとの連携により、ファンが定期的に訪問す 商業者間の連携が不十分な場合、作品に登場する るきっかけを作ることも重要であろう。 事業者だけが利益を得るなど、取組が地域全体に広 がる際の阻害要因となる場合がある。そうした事態 ⑵ 行政参加による関係者間の連携強化を を防ぐため、例えば、旅行者が商店街で買い物をし アニメ舞台訪問は、新しい観光形態であることか た場合にキャラクターを描いたポイントカードを配 ら、従来のノウハウが役立たない場合も多い。その 布し、記念にしてもらう。さらに、買い物や飲食を ため、行政が取組に積極的に参加し、支援していく した店舗数に応じて、限定商品をプレゼントするな 必要がある。 どの工夫によって、地域全体の関係者が広く利益を 受けられるような仕組みを考える必要がある。 ア 住民への情報発信を 先述のとおり、アニメによる誘客の中心は10歳代 ⑶ 制作者とWin-Winの関係に 後半から30歳代までの男性である。この年齢層はあ アニメ制作者側との関係構築も重要な点である。 まり旅行に出ないことから、受入れ地域にとっては アニメ舞台訪問による観光振興はあくまで地域側の 新たな客層=異物である場合が多い。そのため、住 視点であり、制作者側にとっては作品の広報が主た 民に不信感を持たれないよう、行政や観光協会など る目的となる。取組内容は共通であっても、その目 SRI 2012.3 No.106 221 静岡県の未来戦略 的が異なっていることから、両者がWin-Winの関係 ロケ地効果で新たな旅行者層の獲得 ∼中国映画 非誠勿擾∼ を築く必要がある。 現在のアニメの大部分は「製作委員会」方式で制 <きっかけ> 作され、DVDやブルーレイ、キャラクターグッズ 「非誠勿擾」には、北海道道東地域(釧路市、網 などの販売により、作品制作の資金回収が行われて 走市など)が舞台として登場する。本作品の監督が、 いる。そのため、テレビ放送などの終了後であって 道東を旅行した際の経験を基に、脚本を執筆したた も、DVD販売時期などには制作者側の協力を得や めである。 すい。また、作品が成功した場合には続編や劇場版 主な舞台は、阿寒湖(釧路市)や能取岬(網走市) の制作なども行われることから、比較的長期にわた のほか、観光施設ではない教会や居酒屋なども舞台 る協力を得ることも可能である。 となっている。 地域側では、 こうしたアニメ業界の状況について、 作品は2008年12月に正月映画として公開され、3 十分理解した上で、対応することが求められる。 週間で中国での興行収入歴代第1位の大ヒットと なった。日本政府観光局北京事務所などがいち早く 5 外国人にも有効なロケ地巡り 対応したことから、公開直後から中国人旅行者が増 本章の最後は、アニメを離れ、中国映画「非誠勿 加し始めた。釧路市の阿寒湖温泉(旧阿寒町)の ラォ )」でインバウンド誘客に 擾(狙った恋の落とし方。 中国人延べ宿泊者数は、2007年度約400人から2008 成功した釧路市・網走市の事例を紹介する。 年度1,600人となり、2009年度、2010年度には1万 本県では、中国のテレビドラマ「杜拉拉昇職記」 1000人超に達している(図5−2) 。ただし、2011 において、静岡市や島田市、伊豆市がロケ地となっ 年度は東日本大震災の影響により、かなり厳しい状 た。同作品は、原作小説がベストセラーとなり、映 況になっているという。 画版も制作されるなど、中国では極めて認知度が高 <取組概要> いコンテンツとなっている。テレビドラマは2010年 この地域のインバウンド誘客に関する取組は、北 4月に浙江省などから放送開始となり、上海や北京 海道運輸局やひがし北海道観光事業開発協議会(ホ などの大都市でも放送された。 テルなどの民間事業者や観光協会、道東の自治体で 県では、放送開始前からロケ地パンフレットの制 構成)と連携して実施されている。 作や現地エージェント訪問などを行っていた。しか 非誠勿擾についても、この枠組みを活用したほ し、東日本大震災の発生などにより、今のところ、 か、2009年4月の現地商談会に合わせて、釧路市と 杜拉拉に関する取組は中断している。 網走市は共同でロケ地マップを制作した(右上図)。 一方、民間事業者が震災前の2011年2月に実施し さらに、ロケ地への看板設置やポスター制作なども た在日中国人向けのモニターツアーは、応募者多数 行っている。 により抽選になるほどであった。事業者によると、 経緯 「ツアーが中国本土の新聞にも取り上げられ、評判 222 2008年5月 道庁よりロケハン受入れの打診 となった」という。 2008年6月 ロケハン実施 今後の中国人旅行者の誘客に当たっては、有効な 2008年8月 北海道ロケ実施(1か月) 資源となっていくことが期待されることから、先行 2008年12月 映画公開 事例として紹介するものである。 2009年1月 北海道運輸局によるメディア招へい 2009年4月 釧路市・網走市などによる現地商談会 SRI 2012.3 No.106 新たな観光資源の創作に向けて 第6章 先行事例から見る「スポーツ+観光」 1 スポーツを観光資源に ⑴ スポーツツーリズムへの期待 スポーツツーリズムが政府の会議において初めて 議論になったのは、2010年1月の「観光連携コンソー シアム」である。同年11月の取りまとめでは、魅力 あるスポーツ資源を最大限に活用することで、 「イ ンバウンド拡大、国内観光振興、そして地域活性化 釧路市・網走市作成のロケ地マップ の「起爆剤」にする必要性を唱えている。 この取りまとめを踏まえ、「スポーツ・ツーリズ <課題> ム推進連絡会議」が組織され、2011年6月には「ス 道東地域は台湾や香港からの誘客が中心であった ポーツツーリズム推進基本方針」(以下、 「基本方針」 ことから、中国人旅行者の受入れ態勢があまり整っ という)が公表された。 ていなかった。この作品で一躍知名度が高まったた 基本方針に示されたスポーツツーリズムに期待す め、地域にとっては新たな旅行者層の受入れに、文 る効果のうち、主なものをまとめると表6―1のと 化の違いなどから戸惑いも見られるという。 おりである。 また、中国人旅行者の多くは、札幌のバス会社を ①は、スポーツという新たなテーマで日本の魅力 使っており、道東地域でのお土産などの購入がほと や奥深さを伝えることにより、訪日モチベーション んどない。そのため、経済的な効果は宿泊業者中心 の提供や向上に期待するものである。 になっている。 ②③は、プロ野球やJリーグなどのスポーツの観 <今後に向けて> 戦行動に観光を付加することや、地域の魅力を活動 本作品は公開後、既に3年以上が経過している。 的に楽しむためのサイクリング、スポーツイベント しかし、中国人旅行者の間では、作品のロケ地とし への参加など、参加するスポーツのコンテンツを開 て「道東はまだ有名である」という。そのため、釧 発することで、宿泊数の増加や旅行消費額の拡大に 路市、網走市では、これからもロケ地であることを 期待するものである。 活用していくとしながらも、「映画のロケ地以外の プラスアルファを提供できるかが重要」 としている。 表6−1 スポーツツーリズムに期待される効果 図5−2 旧阿寒町の中国人延べ宿泊者数 出所:スポーツ・ツーリズム推進連絡会議「基本方針」 を基に、当所にて作成 出所:釧路市「訪日外国人宿泊人数調べ」 SRI 2012.3 No.106 223 静岡県の未来戦略 ⑵ 「観る」スポーツと「する」スポーツ 観光面でも大きな効果があるとされている。 スポーツツーリズムにおけるスポーツには、 「観 また、自転車の「Mt.富士ヒルクライムレース」 (山 る」スポーツ(観戦型)と「する」スポーツ(参加 梨県)では、2011年には約5,500人の参加があった。 型)の2種類がある。 マラソンや自転車は、耐久性スポーツといわれ、 本県には、サッカーやバレーボール、バスケット 長時間で長い距離を移動する有酸素運動である。か ボールなどにおいて国内最高レベルのリーグに属す つては、 「きつい」 「苦しい」 「耐える」など否定的 るチームがあることから、その試合を「観る」マー イメージを持たれ、一部の愛好者が行うスポーツと ケットが存在している。 されてきた。 しかし、そうしたチームを有していない地域にお しかし、耐久性スポーツは、健康志向の高まりと いて観戦型のスポーツツーリズムに新たに取り組む ウェアや自転車などの機材の高機能化、ファッショ ことは、 非常に難しい面がある。 観光資源となるトッ ン性の向上により、中高年や若い女性層へとすそ野 プレベルのチームの誘致・育成には、高水準の施設 を広げている。 の環境整備が必要となることなどから、大きな費用 図6−1に示したとおり、スポーツ自転車の市場 がかかるためである。 規模は、2000年の約1,500億円から2010年には約2,000 一方、 「する」スポーツについて見ると、マラ 億円へと拡大している。また、 長距離を歩く「登山・ ソンや自転車、トレッキングなどのアウトドアレ キャンプ」も拡大している。一方、専用の施設を必 ジャーは、その地域の道路や地形などを活用するこ 要とする「ゴルフ」 「スキー・スケート・スノーボー とが多い。そのため、必ずしも専用の施設を必要と ト」の市場規模は縮小傾向にある。 しないことから、大規模な施設整備が不要である。 そこで次節では、耐久性スポーツの大会などのイ そこで本稿では、地域が新たに取り組みやすいス ベント開催を通じ、観光振興を図っている先行事例 ポーツツーリズムの例として、参加型スポーツを取 を紹介する。 り上げた。 図6−1 スポーツ用品の市場規模 ⑶ 耐久性スポーツが人気に 参加型スポーツを新たに観光資源にしようとする 場合、参加への障害が低いスポーツを選ぶ必要があ る。 つまり、野球やサッカーなどの団体スポーツの場 合、自分の都合以外に仲間の都合やグラウンドの確 保などの制約を受ける。一方、 マラソンや自転車は、 気軽に1人で行うことができることから、スポーツ ツーリズム向きの種目といえる。 2007年に始まった「東京マラソン」は、年々申込 者数が増加し、2011年大会では、定員3万5000人の 10倍近い34万人弱の申込があった。 本県でも、 「駿府マラソン」 「焼津みなとマラソン」 「掛川・新茶マラソン」では約1万人の参加があり、 224 SRI 2012.3 No.106 出所: (公財)日本生産性本部『レジャー白書』 新たな観光資源の創作に向けて 2 スポーツツーリズムの事例 運営組織の一本化により長期的な展望 ∼佐渡版スポーツツーリズムのあり方∼ ポーツ振興財団を設立した(市の100%出捐)。同財 団は5大会の運営事務を一括して行っている。 現在、報告書の各種の推進方策がすべて順調に進 <きっかけ> ちょくしているわけではないが、同財団では、「グ 新潟県佐渡市では、 「トキの舞う美しい島」「環境 ランドデザインがあることで目指すものが見えてく の島・エコアイランド」 「スポーツの島」を共通テー るものもある。また、年間スケジュールが示された マに、①佐渡国際トライアスロン大会、②佐渡ロン ことで、どの時期に何を検討するべきかが分かりや グライド210(サイクリング) 、③佐渡トキマラソン すくなる」と評価している。 ④佐渡金山ヒルクライム(自転車レース) 、⑤佐渡 <特徴> トキツーデーウオークを開催している。 5つの大会中、ロングライドの参加人数が最も多 こうした佐渡市のスポーツイベントを、 「観光等 いが、経済波及効果では佐渡国際トライアスロン大 交流人口の拡大、更には農林水産業の振興につなげ 会が最も大きくなっている。トライアスロンは競技 るため」 「受入れ体制や効果的なPR手法等を整理」 時間が長いことから、平均宿泊数も多いためである。 することを目的に、同市は「佐渡版スポーツ・ツー この大会は1989年から開催され、佐渡島の外周を リズム推進会議」を設置し、2010年12月に「佐渡版 使った日本最長のコースが「参加者の冒険心をくす のスポーツツーリズムのあり方について(報告書)」 ぐっている」という。それが他地域の大会と差別化 を公表した。この報告書には、前年のトライアスロ につながり、ここ数年は定員を上回る参加申込者数 ン大会における社会実験の結果を踏まえた各種の事 となっている。観光面からは定員の増加が望まれる 業提案や年間スケジュールが示されている。 が、大会参加者の安全の確保などを考えると、当面 <運営体制> は現在の定員で開催するという。 同市総合政策課によると、スポーツツーリズムの <財団との連携> 推進には全体的な視点を持つことが重要であるとい 佐渡市スポーツ振興財団によると、各大会の運営 う。表6−2のとおり、大会ごとの担当課が異なっ 事務が集約化されたことから、島民への広報・説明 ているため、 「観光」 「スポーツ」などの個別の視点 などが一括して行えるようになったという。また、 が先に立ちやすくなっている。また、実際に事業を 中長期的な視点から各大会を見ることができるよう 行うには、観光協会、体育協会などの設置目的が異 になったことから、今後は「佐渡が持っている素晴 なる団体間の調整にも難しい面があるという。 らしいところ、佐渡が伝えたいことを、どのように 同市では、2011年4月に一般財団法人佐渡市ス 参加者に伝えるかが課題」としている。 表6−2 各大会の参加者数等(2010 年) 出所:佐渡市 SRI 2012.3 No.106 225 静岡県の未来戦略 長距離レースによる大会のブランド化に成功 ∼ツール・ド・おきなわ∼ 業務を担当することによるノウハウや専門性の蓄積 に寄与している。 <きっかけ> 関係する12市町村では、担当職員を決めて休憩場 「沖縄海邦国体」 (1987年)において、沖縄本島北 所の設置・運営などの業務を行っている。しかし、 部(やんばる)は自転車ロードレース競技の会場と 単に通過するだけで、あまりメリットのない市町村 なった。同競技では、既存の道路を使用することか もあることから、多少の温度差もあるという。また、 ら、ハードは残らなかったが、 「自転車競技運営の 道路管理者も協力的であり、事前の下見で危険と感 ノウハウという貴重なソフト」が残った。それを生 じた箇所の補修対応や、大会開催に合わせた道路清 かして、2年後の1989年、「やんばる」はひとつを 掃の実施などを行っている。 合言葉に、観光振興・地域振興を目的とするツール・ <地域との連携> ド・おきなわ大会が始まった。 大会運営は、できるだけ地域にお金が落ちるよう <特徴> にするため、地元の事業者を中心に行っている。事 大会は、国際自転車競技連合公認の国際ロード 務局には地元(名護市)の旅行会社が入っており、 レースや市民ロードレース部門、サイクリング部門、 オフィシャルツアーを取り扱っている。 一輪車大会など各種イベントが同時に開催されてい また、宿泊による経済的な効果の分散も図ってい る。最も参加者数の多い市民ロードレース部門(最 る。市民ロードレース部門のスタート位置は走行距 長210キロメートル)では、公道を封鎖してレースを 離により数箇所に分散している。そのため、以前は 開催している。ロードレースでは、事故防止のため、 宿泊地の名護市からスタート地点まで当日の早朝に サーキット場や周回コースなどの閉鎖された場所で バス移動をしていた。現在は、前日のバス移動に変 開催される場合が多い11。しかし本大会は、沖縄本 えることで、スタート地点付近に宿泊してもらうよ 島北部のほぼ全域を周回しないようなコース設定と うにしている。 なっており、豊かな自然の中を走ることができる。 1989年の大会開始時には、公道封鎖を伴うことか 自転車雑誌では、 「ホビーレーサーの最高峰の大会」 ら、地域住民は必ずしも賛成ではなった。しかし、 との紹介もあり、ブランド化につながっている。 当時の名護市長が強い意思を持って住民に説明した このため、大会の発足時には、全参加者の2割強 ことで、大会の開催が実現したという。現在では、 であったロードレース部門への参加者が、現在は6 住民などのボランティア約3,000人が協力してくれ 割強にまで増加している(図6−2) 。ただし、公 ている。 道封鎖には、警察への提出書類の作成や、交差点ご とに交通整理の立哨などが必要なことから、 「運営 図6―2 ツール・ド・おきなわ大会参加者数 費用はサイクリング部門の方がかからない」 という。 <運営体制> 本大会の運営は、NPO法人ツール・ド・おきな わ協会と名護市など12市町村で構成される北部広域 市町村圏事務組合などが連携して行っている。この NPO法人は2001年に設立され、常勤職員が通年で 11 サイクリング部門は、関連法規を順守した走行となる ため、公道を封鎖することはない。 226 SRI 2012.3 No.106 出所:NPOツール・ド・おきなわ協会(2010) 新たな観光資源の創作に向けて 観光協会の強みを生かした大会運営 ∼伊豆の国市観光協会∼ 十万円するものも多く、宿泊する場合、保管場所が 本県でも自転車を活用した大会がいくつか開催さ 自転車の部屋への持ち込みや会議室、ロビーでの保 れている。民間事業者によるサーキットを利用した 管などの情報をインターネットに掲載している。大 ロードレースなどでは地域との結びつきが弱く、観 会限定の宿泊プランを用意している宿泊施設もある 光視点のあまりない大会もある、今回は、本県で最 という。 も早くサイクリング大会と観光を結びつけた一般社 大会の参加者の地域別割合を見ると、東部地区を 団法人伊豆の国市観光協会の取組を紹介する。 中心とする県内者が77%で、関東からは21%となっ <きっかけ> ている(2010年)。そのため、参加者779人に占める 狩野川100kmサイクリングは、2000年の伊豆新世 宿泊者数(延べ)は128人であり、日帰りが多くなっ 紀創造祭の狩野川コリドー構想12をきっかけに、観 ている。今後は、宿泊の可能性のある関東を中心と 光振興のために始まった。 した県外の参加者を増加させる必要があるが、観光 参加者数は、図6−3のとおり、第1回(2000 振興などを目的にしたサイクリング大会は各地で増 年)大会の400人から、第12回(2011年)大会は800 加しており、差別化が課題となろう。 名以上に倍増している。初心者向けの50キロメート <地域との連携> ルではなく、100キロメートルの人気が高まってお 大会開催時には、ボランティアスタッフとして、 り、 2009年からは、 「より長く」の声に対応するため、 伊豆の国市内にある大学病院の職員に協力しても 2日間にわたる160キロメートルのコースも設置し らっている。また、本大会の約1か月前に、伊豆市 ている(宿泊客増加の狙いもある) 。 観光協会などによる「伊豆半島横断サイクリング」 <運営体制> が開催されており、事前の広報や大会当日の運営な 本大会は、財団法人日本サイクルスポーツセン どで協力し合っているという。 ターや交通事業者、自転車販売店、伊豆の国市役所、 沿道の市町には大会告知の広報を依頼しており、 伊豆市役所などで構成されている実行委員会と事務 大会開催の回数を重ねるに従い、認知度は高まって 局の伊豆の国市観光協会が運営している。大きな組 いると感じている。しかし、地域住民の運営への参 織ではないが、 「各委員が主体的に参加しているた 加はあまりないことから、「今後の課題である」と め、スムーズな運営が可能」となっているという。 している。 重要となる。そのため、駐輪場の有無だけでなく、 <特徴> 観光協会では、大会終了後に電子メールを活用し 図6−3 狩野川100kmサイクリングの参加者数 て、アンケートを実施することで、参加者の満足度 向上に努めている。その結果、コースの変更や道路 管理者への道路舗装の依頼、レース終了時の補給食 の内容変更などの対応をしているという。 また、観光協会の強みを生かした取組も行われて いる。参加者の使用するスポーツ自転車は、1台数 12 狩野川の河川空間を自転車や歩行者が連続的に利用で きる空間として、周辺の観光施設・公共施設等も含め一体 的に整備する構想。コリドーとは回廊のこと。 出所: (一社)伊豆の国市観光協会 SRI 2012.3 No.106 227 静岡県の未来戦略 3 先行事例から見る参加型のスポーツツーリズム の特徴 スポーツ大会以外において年間を通じた集客の取 ⑴ 大会参加でレベルアップを確認する 組も重要である。少人数であっても、平準化して地 マラソンや自転車などの大会参加者の多くは、学 域を訪れてもらうことができれば、その効果は大き 生時代に専門的な競技経験を有しているわけではな いといえる。 い。健康づくりなどのために社会人になって競技を しかし、先行事例においても、そうした取組が十 開始した者も多い。 分できている例は少ない。地域側からは「拠点とな そのため、初めて大会に参加する際には、難易度 る施設整備や器具の購入が必要」「利用者が少なく、 の低い部門からスタートすることになる。自転車の その後の維持管理が困難」などの理由が挙げられて 場合であれば、初心者は、比較的距離が短く、競技 いる。 性のないサイクリング大会からスタートする。その また、そもそもスポーツをすることが目的で旅行 後、練習を重ねるうちに、より長い距離、そして競 しているため、県内の自転車ツアーガイドからは、 技性のあるロードレース大会にも挑戦することで、 より満足度を高めるようになる。 ⑵ もう一泊が少ない スポーツツーリズムでは旅行目的が明確であるこ とから、市町村の観光担当者によると、「大会終了 後すぐに帰路についてしまい、物見遊山的な観光の ためにもう一泊することがあまりない」ため、効果 を疑問視する声もある。 また、佐渡国際トライアスロン大会の国際Aタイ 13 「大 プ のように難易度の高い競技への参加者は、 会終了時には、疲労困ぱいになっている人も多い」 ことから、観光する余裕のない人も多い。 そのため、表彰式において地域の伝統芸能や郷土 食を提供することよって、大会の中に観光イベント を組み込んでいる事例もある。 13 スイム3.8キロメートル、バイク190キロメートル、ラン 42.2キロメートルの合計236キロメートルで競う。 228 ⑶ 難しい大会以外での訪問 SRI 2012.3 No.106 「繰り返し同じ地域を訪れるのではなく、いろいろ な地域を訪れる傾向にある」との指摘もある。 新たな観光資源の創作に向けて 第7章 「cool shizuoka」を目指そう ∼文化・スポーツと観光の連携に向けて∼ 図7−1 製作委員会方式によるスキーム 最後に、今までの考察を踏まえて、新たな観光資 源を創作するための具体的方策について提案する。 1 映像作品に参加する ⑴ 「見せたい作品」から「見たい作品」へ 観光誘客のためのプロモーションビデオを制作す 4 4 4 4 る地域は多い。それらは、地域が伝えたいという情 出所:各種資料を基に、当財団にて作成 報をできるだけ多く詰め込んだ「見せたい作品」が 中心となっている。そのため、 「面白くない」「印象 は異なった広報手段を持っていることから、製作委 に残らない」というものも数多くある。また、情報 員会の関係者からは、 「広報・宣伝への協力が最も 発信の機会や方法も限られていることから、旅行者 ありがたい」との意見がある。 が視聴する機会も少ない場合が多い。 例えば、鉄道事業者などと観光協定を結んでいる そこで、 「見せたい作品」ではなく、 「見たい作品」 地方自治体では、キャラクターを使用した観光振興 を制作し、多くの人に見てもらう必要がある。具体 (兼作品の宣伝)ポスターを、無償で駅や列車内へ 的には、静岡をロケ地にする商業作品に出資すると 掲出できる場合もある。また、商店街全体や公共施 いうことである。第5章で明らかにしたとおり、実 設などへのポスター掲出の取組については、 「民間 写作品と比べ、アニメ作品は観光と連携しやすいこ 事業者だけでは決してできない」という。さらに、 とから、本稿では、アニメ作品を例にその方法と可 地域全体で活動した場合、その内容がテレビや新聞 能性を述べる。 で紹介される場合も多く、「知名度の向上には非常 に役立つ」という。 ⑵ 作品と一体になって広報する 第5章で述べたとおり、 現在のアニメや映画は「製 ⑶ OVAから始めてみよう 作委員会」方式による制作が一般的である。図7− アニメ作品は実写と比較すると制作費は安いとい 1のとおり、出資者は、単なる資金の出し手ではな われている。しかし、例えばテレビシリーズの場 く、その作品のDVD販売や関連商品 (キャラクター 合、1話当たりの制作費は「1,100万円程度」(横田 グッズ)の制作販売などの役割を持っていることが 2007)とされており、全26話では数億円にも達する 多い。谷口・麻生(2010)によると、製作委員会方 ことになる。一方、テレビ放送を主目的としないO 式には、「多数で出資することによる事業リスクの 14 「100万円程度」(同書)とされ VA の分単価は、 分散」や「多業種が力を合わせる相乗効果への期待」 ており、30分の作品であれば3,000万円程度となる。 があるという。 製作委員会への最低出資割合は5∼ 10%程度であ そのため、地方自治体などの地域が参加する場合 ることから、OVAであれば、地方自治体が比較的 には、製作委員会にとってのメリット・役割を明確 出資しやすいといえる。 にすることが必要である。 14 218ページ参照。 この点について、地方自治体などは民間事業者と SRI 2012.3 No.106 229 静岡県の未来戦略 また、事例で示した「たまゆら」のように、その ⑵ 映像化を目指した文学を 作品の続編がテレビシリーズ化されることで、地域 公募作品は、若年層が主たる読者層の娯楽小説で の観光にとって、より大きな効果を生み出す可能性 あるライトノベル分野16に特化することも考えられ もある。 る。文庫本の売上げが減少する中、ライトノベルは 売上げを伸ばしており、文庫全体の2割程度を占め ⑷ コンテンツ産業の誘致・育成につなげる ているといわれている。 製作委員会への参加には、観光振興だけでなく、 また、東アジアにおいても、ライトノベルは「台 アニメなどの制作会社に静岡を知ってもらい、コ 湾や中国で「軽小説」として翻訳が浸透」 (朝日新 ンテンツ産業の誘致や育成につなげる意図もある。 聞2011年11月21日付け朝刊)していることから、クー 「true tears」の事例にもあったとおり、地域に制作 ルジャパンの有力なツールとなっている。 会社があることは、観光にとっても大きな強みとな 観光を主眼に考えた場合、作品が有名になり、視 るためである。 覚化されることによって、舞台背景などが明確にな 例えば、静岡市には、クリエーターの育成やコン ることが重要である。ライトノベルは、一般小説と テンツ産業の振興などの拠点である「静岡市クリ 比べて、イラストを多く使用することで、登場人物 エーター支援センター」が整備されており、アニメ や場面設定などをイメージしやすくしている。その 15 と関係の深いプラモデル産業 の集積という強みも ため、アニメ化やマンガ化などによる視覚化が行わ ある。製作委員会への参加は、その強みを生かすこ れやすくなっている。 とにより、他地域のコンテンツ産業と連携・誘致の また、出版社による作家の育成制度が、 「一般の きっかけとなろう。 文芸作家より手厚い」(同新聞)ことから、デビュー 作17がヒットし、映像化されている例も多くなって 2 文学と観光をつなげる いる。 ⑴ 観光視点からの文学賞の創設 伊豆文学賞のように地方自治体が文学作品を公募 3 スポーツを観光資源にする し、文学賞を選定する場合がある。こうした地方自 観光振興に参加型スポーツを活用する場合には、 治体主催の文学賞は、地域の文化創造・向上の観点 「参加者数の増加」「滞在日数の増加」が重要な点と から開催されることが多く、 受賞作が出版されても、 なる。 話題になることが少ない。 参加者数を増加させるには、リピーター=固定客 そこで、観光につながる文学作品を生みだすため を確保し、さらに、新たな参加者=新規客を獲得す に、 観光振興を目的にした文学賞の創設を提案する。 ることが重要となる。一方、 滞在日数の増加には、 「観 具体的には、大手出版社が開催している文学賞と協 る」スポーツとの連携などが考えられる。 働して、静岡が作品の舞台である、または舞台とな 以下でその方策を提案する。 り得る小説を「静岡賞」として選定し、全国刊行を 目指すというものである。つまり、図7−1にある 「原作の出版社」の役割の一部を地方自治体が担う のである。 明確な定義は存在しないが、表紙や挿絵へのアニメ調 のイラスト使用や、会話文が多いなどの特徴がある。文庫 本での出版が多くなっている。 15 17 静岡県「工業統計調査報告書」によると、出荷額の全 国シェアは90.7%(2009年)である。 230 16 SRI 2012.3 No.106 事例紹介した「とある魔術の禁書目録」の原作も作者 のデビュー作である。 新たな観光資源の創作に向けて 図7−2 スポーツの観光資源化に向けて 出所:当財団にて作成 ⑴ 参加者数を増加させるためには 裕をもった日程にすることがある。 ア 初心者から長い間参加できる大会に こうした家族連れを増加させるため、大会の前日 第6章で述べたとおり、大会参加者の多くは、難 に子ども向けのジュニア大会の開催や気軽なイベン 易度の低い大会から参加し始め、次第に難易度の高 トを実施するなどの工夫が必要であろう。また、耐 い大会へと参加している。 久性スポーツでは、大会当日にはスタートからゴー そこで、参加者増加のためには、一つの大会にお ルまで長時間かかることから、その間を利用したツ いて、初心者の参加しやすい部門から難易度の高い アー情報を提供する必要がある。 部門までをそろえることが必要である。つまり、部 さらに、マラソンのゴール前の数十メートルを応 門を細分化することで、参加者が自分の技術の向上 援者と一緒に走る「同伴ゴール」などにより、思い に合わせて継続的に参加しやすくし、固定客である 出づくりを行い、参加者の満足度を高める取組も重 リピーターを確保するのである。さらに、初心者の 要である。 参加しやすい部門を設定することで、新規客を獲得 することも可能となる。 イ 観るスポーツとの連携 スポーツツーリズムでは、旅行目的が明確である イ 大会のブランド化へ ことから、物見遊山的な観光を伴わない場合も多い。 難易度の高い部門を有することは、大会全体のブ しかし、旅行目的が同じであれば、「もう一泊」の ランド化につながる効果もある。ツール・ド・おき 可能が高くなる。そこで、 「観る」スポーツとの連 なわ大会では、210キロメートルの市民ロードレー 携が有効となる。 ス部門を開催していることが、 「ホビーレーサーの 自転車を例にとると、「観る」スポーツであるプ 最高峰の大会」という評価の一因になっている。 ロのレースの前後に大会を開催するのである。例え ば、日本を代表するステージレースである「ツアー・ ⑵ 「もう一泊」のためには オブ・ジャパン」は、毎年5月に全国7か所で開催 ア 子どもを連れて来やすい工夫 されている。本県では、 「富士山ステージ(小山町)」 大会参加者の中には、応援の家族を同行する者も いる。特に、子どもを連れているような場合には、 18 「伊豆ステージ(伊豆市) 」の2か所 が会場となっ 18 他のステージは、堺、奈良、美濃、南信州、東京。 観光視点が強くなり、大会の前後に宿泊するなど余 SRI 2012.3 No.106 231 静岡県の未来戦略 ており、観光資源にもなっている。さらに、2011年 入門者から上級者までレベルに応じたカテゴリー には、世界レベルの自転車競技大会の開催も可能な 分けにより、継続的な参加を可能にする。また、トッ 19 (伊豆市)が完成した。これ 「伊豆ベロドローム 」 プカテゴリーを他大会と差別化することで、大会全 らの大会や施設を活用した「観る」スポーツと、サ 体のブランド化を図るのである。 イクリングなどの「する」スポーツを連携させるこ さらに、事前練習者や「観る」スポーツと連携す とで、東部・伊豆における自転車でのスポーツツー ることで、旅行者の増加や宿泊数の増加を図ってい リズムの優位性が高まるであろう。 く必要がある。 ⑶ 各大会をシリーズ化する 4 文化・スポーツ・観光を一体化する 本県で開催されるスポーツ大会のうち、マラソン ⑴ 行政事務の一元化を などでは競技性のある大会が年間に複数回開催され 現在、「文化」「スポーツ」に関する事務は教育委 ている。こうした大会をシリーズ化し、ポイント制 員会の所管である地方自治体が多い。これは、「地 にすることも有効であろう。県などが年間ランキン 方教育行政の組織及び運営に関する法律」において、 グの上位者を表彰することによって、各地の大会へ 教育委員会の職務権限とされているためである。そ の参加意欲を高めるとともに、他地域の大会との差 のため、首長部局が文化・スポーツ事務を行うには、 別化・ブランド化にもつながっていくのである。 20 補助執行 により行うしかなかった。 しかし、2008年に同法が改正され、特例として、 ⑷ 大会以外でも訪れてもらう 条例の定めるところにより、首長部局が文化・スポー 大会以外での集客のためには、事前練習に訪れる ツに関する事務を担当できるようになった。これに 者を増加させる取組が必要となる。 より、 「地域づくり」という観点から「文化」 「スポー 例えば、佐渡市では、トライアスロンの事前練習 ツ」と他の地域振興などの関連行政との一元的な所 者向けに、大会のスタート地点からの距離を道路脇 掌が可能となったのである。 に表示したところ、「肯定的な意見が多数寄せられ 実際、沖縄県庁では、観光との連携を目的に、文 ている」とのことである。 化とスポーツに関する事務を教育庁から知事部局へ 他にも、大会ルート中に、普段開放されていない 移動している(2011年度)。 コースがある場合、日時を決めて一時的に使用させ 地域の状況にもよるが、文化、スポーツ、観光の るなどの対応も考えられる。 連携を重視するのであれば、行政事務の一元化を検 なお、こうした対応が有効であるのは、大会が事 討する必要があろう。 前練習をして臨むほど魅力的な場合である。その意 味では、これまで述べてきたような取組によって、 ⑵ 各種団体の連携の必要性 参加することが他人に誇れるようなブランド化され 文化、スポーツ、観光の連携を考えた場合、行政 た大会を作り上げなければならない。○○スポー 組織だけではなく、外郭団体や関連団体などを含め ツならば、「shizuoka」といわれるような「聖地化」 た一体的な組織体制の構築も検討する必要がある。 を図る必要がある。 現在、スポーツツーリズムの分野では、 「スポー 以上をまとめたものが、図7−2である。 20 19 国内唯一の屋内型板張り250メートルトラックを有して いる。常設観客席は1,800席。 232 SRI 2012.3 No.106 地方自治法第 180 条の7の規定。ある執行機関の事務を、 他の執行機関に執行させること。最終的な決定権は元の執 行機関が有している。 新たな観光資源の創作に向けて 図7―3 文化・スポーツ・観光の一体化 出所:当財団にて作成 ツによる地域経済活性化の推進組織」であるスポー ツコミッションが注目されている。 2011年10月には、 おわりに 全国初となる「さいたまスポーツコミッション21」 本稿では、アニメとスポーツを例に、新たな観光 がさいたま市に設置された。 資源を創作し、それを使った観光振興の可能性を検 本県でも、NPO法人掛川市体育協会が同様の取 討した。 組を行っている。同協会は、①掛川市の体育関係施 今回紹介した観光資源は、ターゲットが極めて明 設の指定管理者である、②旅行業の登録を行ってい 確であるがゆえに、誘客の可能性は高いものの、広 るという強みを生かし、大会開催や合宿などの申込 がりを欠くという面がある。 みに対して、会場確保や宿泊・移動の手配などのワ しかし、人々の価値観が多様化している現代では、 ンストップサービスを実現している。また、各種の 万人が興味を示すような観光資源を創作することは 手配について市内の企業を優先しているほか、合宿 極めて難しい。それぞれの地域が、ターゲットが明 の団体が地域交流を望んだ場合、交流先の地域団体 確である「小ネタ」を創作し、それを組み合わせる を紹介することもあるという。 ことで、面(地域)として旅行者を呼び込むべきで 図7−3に示したとおり、こうした組織は、旅行 ある。そこに行けば、「自分にとって、何か面白い 者や大会運営者・参加者の窓口となることにより、 ものが必ずある」と旅行者に思わせることが重要な 利便性を高めることにつながる。さらに、地域の民 のではないだろうか。 間企業や各種団体、住民などと連携・下支えするこ 最後になるが、今回のヒアリング調査では、多く とにより、地域への経済的利益や交流につなげるこ の方に対応していただいた。紙幅の都合などにより とも可能となる。 掲載できなかった事例も数多くある。この場を借り 21 てお詫びするとともに、調査への御協力にお礼を申 ㈳さいたま観光コンベンションビューローが事務局と なり、 「新たなスポーツ観光市場の創造」を使命としている。 ①イベント誘致、②イベント運営支援、③広報、④観光連携、 ⑤地域スポーツの振興などの機能がある。 し上げる。 (かたおか たつや) SRI 2012.3 No.106 233 静岡県の未来戦略 共同研究者 主席研究員 野村浩司 主任研究員 白土達夫 参考文献 尾家建生(2010) 「ニューツーリズムの概要と現状分析及び展望」『情報誌SRI』No.101,pp.3-9 大澤 健(2010) 『観光革命』角川学芸出版 岡本 健(2009) 「アニメ聖地巡礼の誕生と展開」『CATS叢書メディアコンテンツとツーリズム』 第1号,pp.29-62 外務省(http://www.mofa.go.jp/Mofaj/annai/shingikai/koryu/h18_sokai/05hokoku.html)2012/1/20 片岡達也(2010) 「萌えキャラでまちは燃えるか」『情報誌SRI』No.103,pp.18-23 川内 博(2011) 「スポーツアイランド佐渡市の取り組み」『月刊地域づくり』No.262,pp.16-17 観光庁(2010) 「観光連携コンソーシアムとりまとめ」 観光庁(2011) 「スクリーンツーリズム促進ガイドライン」 財団法人静岡総合研究機構(2006)『地域における国際観光戦略モデルの構築に関する研究』 財団法人静岡経済研究所(2009)『静岡県経済白書』静岡新聞社 静岡県(2010) 「平成17年度静岡県産業連関表」 社団法人日本観光協会(2011)『観光の実態と志向』 じゃらんリサーチセンター(2011)「じゃらん宿泊旅行調査」 じゃらんリサーチセンター(2011)「じゃらん宿泊旅行調査2011」『とーりまかし』第25号,pp.16-23 総合研究開発機構(2007)『地域におけるインバウンド観光マーケティング戦略』 高橋一夫編著(2011)『観光のマーケティング・マネジメント』ジェイティービー能力開発 立川市(2011) 「立川市都市型観光推進マーケティング調査事業報告書」 谷口功・麻生はじめ(2010)『図解入門業界研究 最新アニメ業界の動向とカラクリがよ∼くわかる本』 秀和システム 中村英仁・岡本純也ほか(2010)「なぜ「ツール・ド・おきなわ」の参加者は増加したのか」 『スポーツ産業学研究』vol.20,NO.2,pp.173-189 羽田耕治監修(2011)『観光学基礎』ジェイティービー能力開発 原田宗彦(2011) 「スポーツイベントによる地域活性化」『JOYO ARC』2011.2,pp.6-11 原田宗彦・木村和彦編著(2009)『スポーツ・ヘルスツーリズム』大修館書店 原田宗彦編書(2011)『スポーツ産業論 第5版』杏林書院 山下晋司編(2011)『観光学キーワード』有斐閣双書 山村高淑(2011) 『アニメ・マンガで地域振興』東京法令出版 横田弘道(2007) 『アニメビジネスがわかる』NTT出版 234 SRI 2012.3 No.106