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次世代モバイルネットワークの概要

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次世代モバイルネットワークの概要
次世代モバイルネットワークの概要
Next-Generation Mobile Network
● 加藤次雄
あらまし
世界の携帯電話ユーザは45億人を突破し,ますます増加を続けている。とくにここ数
年はインターネットアクセスや音楽のダウンロード,動画通信などのモバイルデータ通
信トラフィックが年率3倍近い伸びを示している。スマートフォンの人気に伴って今後
2020年までの10年間で200倍に激増するとも予測されているデータトラフィックを吸収
し,新たなサービスのプラットフォームとして注目されているのが,第3.9世代
(3.9G)と
も呼ばれるLTE
(Long Term Evolution)
である。
本稿では,2010年12月に国内でも商用サービスが開始された,この高速無線アクセス
を実現するLTEについて,その特徴と主要技術,ネットワーク構成について概要をまと
める。
Abstract
The number of people using cell phones in the world has exceeded 4.5 billion and
this figure is continuing to grow. For the past several years, mobile data traffic such
as Internet access, the downloading of music, and video communication has been
nearly tripling every year. With the popularity of smart phones, mobile data traffic
will increase 200 times in the next 10 years to 2020. There are high expectations that
Long Term Evolution (LTE), which is known as a 3.9G wireless system, will be a new
service platform that can support such a huge amount of mobile data traffic. This
paper describes the features, technologies and network architecture of LTE, which
started commercial service in December 2010 in Japan, realizing high-speed wireless
access.
FUJITSU. 62, 4, p. 377-382(07, 2011)
377
次世代モバイルネットワークの概要
バイルデータ通信トラフィックを収容する高速無
ま え が き
線アクセスシステムは,携帯電話をその起源とす
世界の携帯電話ユーザは45億人を超え,ますま
る 流 れ と, 無 線LANを 起 源 と す る 流 れ の 二 つ に
す拡大の傾向にある。その中でもインターネット
大きく分類できる。LTEは第3世代携帯電話方式
アクセスや動画伝送などのモバイルデータ通信ト
(3G)であるW-CDMA(Wideband Code Division
ラフィックは,ここ数年は年率3倍近い伸びを示し
Multiple Access) の 高 速 デ ー タ 通 信 規 格HSPA
ている。今後もクラウドやスマートフォン,あるい
(High Speed Packet Access) を 更 に 進 化 さ せ た
はセンサの普及により,モバイルのデータ通信ト
もので,下り100 Mbps以上,上り50 Mbps以上の
ラフィックは爆発的な拡大が予想されており,高
高速通信の実現を目指し,W-CDMA方式の標準化
速無線アクセスへの期待はますます高まっている。
団 体 で あ る3GPP(3rd Generation Partnership
今後2020年までの10年間で200倍に激増するとも
Project)で2009年3月にRelease 8として標準仕様
(1)
データトラフィックを吸収する
が定められた。第4世代向けに開発された技術を用
ための,新たな高速無線アクセスプラットフォー
いて,第3世代と同一の周波数帯を使ってサービス
ムとして注目されているのが,第3.9世代(3.9G)
をすることで,第4世代へのスムーズな移行をね
とも呼ばれるLTE(Long Term Evolution)である。
らっている。限りなく第4世代に近いシステムとい
本稿では,2010年12月に国内でも商用サービス
う意味で,HSPAが第3.5世代と呼ばれていること
予測されている
に対して,LTEは第3.9世代と呼ばれている。
が開始された,この高速無線アクセスを実現する
LTEについて,その特徴と主要技術,ネットワー
LTEの要求条件は,2005年の3月から3GPPで議
ク構成を述べるとともに,さらなる高速化に向け
論が開始された。第3世代までは,音声通信などに
た将来の動向について概要をまとめる。
用いるCS(Circuit Switched)ドメインと,デー
タ通信用のPS(Packet Switched)ドメインの両
LTEとは
方をサポートしていたが,LTEではシステムをシ
無線アクセスシステムの動向を図-1に示す。モ
ンプルにしてコストを低減するために,今後トラ
移動速度
高速
1G
MA/HSPA
W-CDMA/TD-SCD
DV
O/
-D
EV
00
20
MA
CD
IS-95
GSM
PDC
AX
WiM 02.168
WiFi
低速
LTE-Advanced
LTE
3G
(IMT-2000)
2G
(デジタル)
(アナログ)
AMPS
ETACS
NTT
2010
2000
携帯電話 1995
PAN
∼40 k
2.4 GHz
802.11b
Bluetooth
802.15.1
2M
802
高速無線
アクセス
システム
4
200
5 GHz
802.11a/g
802.11n
UWB
802.15.3a
ZigBee
802.15.4
14 M
.16m
802
.16e
54 M
100 M
1G
伝送速度(bps)
PAN: Personal Area Network
EV-DO: Evolution Data Only
EV-DV: Evolution Data and Voice
UWB: Ultra Wide Band
WiFi: Wireless Fidelity
AMPS: Advanced Mobile Phone System
ETACS:Extended Total Communications System
IS-95: Interim Standard-95
GSM: Global System for Mobile Communications
PDC: Personal Digital Cellular
TD-SCDMA:Time Division Synchronous Code Division
Multiple Access
図-1 高速無線アクセスシステムの動向
Fig.1-Trends of mobile communication systems.
378
FUJITSU. 62, 4(07, 2011)
次世代モバイルネットワークの概要
フィックの主流になるデータ通信に特化してPS
高出力送信が容易となるSingle-Carrier FDMAを
ドメインのみをサポートし,音声サービスはVoIP
採用している。
(Voice over IP)を用いてデータ通信としてPSド
(2)マルチアンテナ技術の適用
メインで提供することを想定している。また,第
基地局,および端末の双方において複数のアン
3世代で懸念となっていた遅延時間について,大幅
テナを用いた送受信技術をサポートすることによ
な改善をねらっている。
り, 周 波 数 利 用 効 率 の 向 上, カ バ レ ッ ジ の 増 大
3GPPにおいて,最終的にTR25.913
(2)
として承
認されたLTEの要求条件の概要を以下に示す。
を 実 現 し て い る。 伝 搬 環 境 な ど に 応 じ てMIMO
(Multiple Input Multiple Output),送信ダイバシ
(1)データ通信(パケット交換)に特化
ティ,ビームフォーミングから最適な方法を選択
(2)可変帯域をサポート(1.4 ∼ 20 MHz)
することができる。MIMOは,複数のアンテナを
(3)低遅延の実現
用いることで,同一周波数に異なるデータを送受
・接続遅延:最大100 ms以下
信する技術である。アンテナの数に応じて無線の
・転送遅延:5 ms以下(無線区間)
使用効率を上げることができる。LTEでは仕様上
(4)高速性の実現
は下り最大4ストリームのMIMOまでサポートして
・下りリンク:100 Mbps以上
いる。
・上りリンク:50 Mbps以上
(5)周波数利用効率の向上(第3.5世代比率)
(3)帯域幅の拡大
第3.5世代のHSPAが5 MHz幅の帯域を使うのに
・下りリンク:3倍以上
対し,LTEは最大で20 MHz幅までをサポートする。
・上りリンク:2倍以上
帯域幅と伝送速度はほぼ比例するため,帯域幅が
(6)既存システム(第3世代/第3.5世代)との共存
4倍になれば通信速度も4倍の高速化が可能となる。
次章以降では,上記要求条件を満足するために
さらに,LTEでは様々な帯域幅の周波数に適用で
LTEに採用された主要技術と,ネットワーク構成
きるように,1.4,3,5,10,15,20 MHzの帯域
の概要を示す。
幅をサポートしている。
主 要 技 術
(4)伝送遅延の低減
VoIPのサポートや,オンラインゲームなどのリ
LTEの最大の目的は高速な無線アクセスの実現
アルタイムアプリケーションを快適に利用するた
である。高速化のためには,無線利用効率の向上と,
めには,伝送遅延をできるだけ短くする必要があ
利用できる周波数帯域の拡大の二つが必要となっ
る。LTEでは短い無線フレーム長とパケット伝送
てくる。そのため,LTEでは以下の技術を採用し
に特化した無線チャネル構成を採用して伝送遅延
(3)−
(5)
ている。
(1)無線アクセス方式
の低減を実現している。また,無線ネットワーク
アーキテクチャに関して,第3.5世代まで採用され
下りリンクには,無線LANなどでも適用されてい
ていた無線基地局と無線制御局の2階層構成を改
るOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple
め,図-2に示すような無線制御局のないフラット
Access)を採用している。OFDMAは周波数軸と時
な構成とすることで,輻 輳のない最適条件におけ
間軸でユーザへチャネル(サブキャリア)の割当
る片方向伝送遅延5 ms以下を実現している。
てを行う。ユーザの無線環境に応じて伝送効率の
高いチャネルを割り当てることにより,周波数の
利用効率を向上させることができる。マルチパス
干渉への耐性も高く,第3世代,第3.5世代で採用さ
れているCDMA(Code Division Multiple Access)
LTEで採用された仕様・性能と第3世代,第3.5世
代の各無線方式の仕様・性能の比較を表-1示す。
ネットワーク構成
LTEを 収 容 す る た め の コ ア ネ ッ ト ワ ー ク
方式と比較して,同じ周波数幅の中に3 ∼ 4倍の
は,3GPPに お い てSAE(System Architecture
データを収容することができる。一方,上りリン
Evolution)という名称で検討が始まり,その結
クには,送信信号のピーク対平均電力比が小さく
果IPベースの次世代コアネットワークとしてEPC
FUJITSU. 62, 4(07, 2011)
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次世代モバイルネットワークの概要
(Evolved Packet Core) が,LTEと 同 様 に3GPP
Release 8の 標 準 仕 様 と し て 規 定 さ れ た。EPCは
データ通信用に特化したアーキテクチャであり,
Subsystem)の能力を用いて相当のサービスを提
供する。
(2)常時接続
(6),
(7)
以下の特徴を有している。
接続遅延を短縮するために,端末が電源をON
(1)パケットベースのアーキテクチャ
してネットワークに登録をした時点で,EPCは論
今後のトラフィックの主流がインターネットア
理的な伝送路を確立させる。コアネットワーク上
クセスをはじめとするデータ通信になることが想
では,常に伝送路が確立している状態を保つこと
定されることから,ネットワークの簡素化およ
になるので,実際に通信を行うときには,移動端
び効率化を図るために,パケット交換方式のみ
末と基地局間の無線の接続設定だけを行えばよい。
を規定している。第3世代システムで提供されて
このため,接続遅延時間の大幅な削減が可能とな
いる回線交換サービスは,IMS(IP Multimedia
る。無線区間でのプロトコルのシンプル化や前述
の無線ネットワークアーキテクチャのフラット化
と併せて,接続遅延時間100 ms以下を実現している。
MME/S-GW
MME/S-GW
(3)異種無線収容
EPCはLTEの収容を主眼として仕様化されたも
の で あ る が, 第3世 代 のW-CDMAや 第3.5世 代 の
HSPAといった3GPP準拠の無線システムだけでな
S1
S1
S1
S1
く,CDMA2000やWiMAX,WiFiといった様々な
無線アクセスも収容すると同時に,これらの異な
る無線アクセスシステム間のハンドオーバも可能
とする共通のコアネットワークとして規定されて
eNodeB
X2
いる。汎用的なIPを広く取り入れることによって,
X2
X2
eNodeB
無線アクセス方式に依存しないネットワークアー
キテクチャを構成している。
EPCネットワークアーキテクチャの概要を図-3
に示す。MME(Mobility Management Entity)は,
eNodeB
UE
UE
端末の認証や移動の管理を行う。既存のW-CDMA
やHSPAとのインターワークも行い,EPC内のユー
ザデータ転送経路の設定を行う。S-GW(Serving
Gateway) は,LTEの 無 線 基 地 局 で あ るeNodeB
UE
図-2 LTE無線ネットワークアーキテクチャ
Fig.2-LTE wireless network architecture.
(enhanced Node B)を収容し,ユーザデータを転
送する。LTEと既存のW-CDMA/HSPAへのユーザ
表-1 高速無線アクセスシステムの比較
W-CDMA
(3G)
Rev.0
LTE
Rev.A
多重化方式
DL:CDMA
UL:CDMA
DL:CDMA
UL:CDMA
DL:CDMA
UL:CDMA
DL:CDMA
UL:CDMA
DL:OFDMA
UL:SC-FDMA
周波数帯域
5 MHz
5 MHz
1.25 MHz
1.25 MHz
20 MHz
HPSK,QPSK
16QAM
DL:14.4 Mbps
UL:5.7 Mbps
HSDPA:2006
EUL:2008
BPSK,QPSK
8PSK,16QAM
DL:2.4 Mbps
UL:154 kbps
BPSK,QPSK
8PSK,16QAM
DL:3.1 Mbps
UL:1.8 Mbps
QPSK,16QAM
64QAMなど
DL:325 Mbps
UL:86 Mbps
2003
2006
2009
変調方式
HPSK,QPSK
データ速度
(最大)
DL:384 kbps
UL:64 kbps
商用開始時期 2000
380
CDMA2000 1xEV-DO
HSDPA/EUL
(3.5G)
FUJITSU. 62, 4(07, 2011)
次世代モバイルネットワークの概要
W-CDMA/HSPA
NodeB/RNC
HSS
SGSN
3GPP
アクセス
LTE
eNodeB
非3GPP
アクセス
PCRF
MME
S-GW
P-GW
キャリア
IPサービス
(IMSなど)
WiMAX
WiFi
図-3 EPCネットワークアーキテクチャ
Fig.3-EPC network architecture.
データの切替えを行うアンカーポイントの機能も
は更なる高速無線アクセスを実現するために,す
有する。P-GW(Packet Data Network Gateway)
でにLTE-Advancedの標準化が進んでいる。LTE-
は,IMSなどオペレータ自身が運営するIPサービ
Advancedは第4世代に位置付けられる無線アクセ
スシステムや,オペレータ以外のIPサービスプロ
ス方式であり,その名のとおりLTEの技術をベー
バ イ ダ と の 接 続 機 能 を 持 ち, 移 動 端 末 へ のIPア
スにしている。LTEにおける20 MHzの無線帯域
ドレスの割当てなどを行うとともに,WiMAXや
を複数束ねて最大100 MHzまでの高帯域化を図る
WiFiなど,3GPPで規定する以外の無線アクセス
キャリア・アグリゲーション技術や,最大8スト
を 収 容 す る。PCRF(Policy and Charging Rules
リームまでサポートするMIMOの拡張によって,
Function)は,EPC内におけるQoSなどのポリシー
1 Gbpsの高速化伝送の実現をねらっている。富士
や課金ルールを規定する。P-GWやS-GWにおいて,
通は,LTE端末や基地局,コアネットワーク装置
PCRFからの指示に従ったポリシー制御や課金制
およびこれらの装置を実現するための各種要素技
御 が 行 わ れ る。HSS(Home Subscriber Server)
術 の 開 発 を 既 に 行 っ て い る。 ま た,LTEやEPC
は,ユーザを特定するための各種識別子や,ユー
を効率良く構築,運用するための管理技術やエン
ザが契約しているサービスの情報などのユーザプ
ジニアリング技術の開発も進めており,LTEの商
ロファイルが格納されている。ユーザがeNodeBや
用サービスの開始に貢献してきた。引き続きLTE
NodeBを経由してネットワークにアクセスしたと
の本格的な普及に向けて開発を進めると同時に,
きに,MMEによってHSSに格納されているプロ
LTE-Advancedの実現に向けて標準化活動から実
ファイルが参照されて,ユーザ認証やサービスの
用化に至るまで,たゆまぬ研究開発を推進してい
認証が行われる。SGSN(Serving GPRS Support
く予定である。
Node)は,W-CDMAやHSPAに接続される端末の
認証や移動管理を行う。これらの各ノード間が汎
用のIPを用いて相互に接続することで,EPCは無
線アクセス方式に依存することなく,高速なデー
タ通信の効率的な転送を実現している。
む す び
参考文献
(1) 情報通信審議会 情報通信技術分科会 携帯電話等周
波数有効利用方策委員会 第32回.
(2) 3GPP:TR25.913
Requirements
for
Evolved
UTRA (E-UTRA) and Evolved UTRAN (E-UTRAN)
(Release 8).
本稿では,高速無線アクセスサービスを実現す
(3) 3GPP:TS36.300 Evolved Universal Terrestrial
るLTEに つ い て, そ の 特 徴 と 主 要 技 術, お よ び
Access (E-UTRA) and Evolved Universal Terrestrial
ネットワーク構成について概要を述べた。3GPPで
Access Network (E-UTRAN) overall description
FUJITSU. 62, 4(07, 2011)
381
次世代モバイルネットワークの概要
stage2 (Release 8).
(4) 3GPP:TR36.913
(GPRS)
Requirements
for
Further
Advancement for E-UTRA (LTE-Advanced) (Release 8).
(5) 齊藤民雄ほか:LTE/WiMAXシステムの動向.
FUJITSU,Vol.60,No.4,p.304-309(2009).
Enhancements
for
Evolved
Universal
Terrestrial Radio Access Network (E-UTRAN) access
(Release 8).
(7) 3GPP:TS23.402 Architecture enhancements for
non-3GPP accesses (Release 8).
(6) 3GPP:TS23.401 General Packet Radio Service
著者紹介
加藤次雄(かとう つぐお)
ネットワークシステム研究所 所属
現在,フォトニクス,ワイヤレス,IP
ネットワークの研究開発に従事。
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