Comments
Description
Transcript
内合付近の金星
内合付近の金星 ―位相角と見え方― 垣立 1.はじめに 金星が太陽のまわりを公転する際、地球・太陽・金星の位置関係により、形を変えることは中学校で 学んだ。それに以前から金星に興味を待っていた私は、実際の金星の見え方は教科書通りなのだろうか と疑問に思った。2007 年は8月 16 日が内合の位置に来るための、その変化を追うには最適であると考 えたことと、米原高校天文台の天体望遠鏡は昼間にも金星が観測できることを知り、金星を継続して観 測していき、その形の変化を調べていくことにした。 2、目的 (1)金星を継続して観測し、位置関係(位相角)によって金星の形がどのように変化するかを調べる。 (2)金星の見え方についての予想と実際の見え方の違いを調べる。(天文年鑑などに記載されている輝面 率と実際に観測した金星の輝面率との違いや輝面率と位相角の関係を調べる。) 3.観測方法(撮影方法) ⑴観測装置・・・西村製作所製 30cm 反射望遠鏡 (シュミットカセグレン式、焦点距離 6000mm) ⑵撮影方法 ①天体望遠鏡にカメラを取り付ける。(直焦点法) ②スカイセンサーを用いて、金星を導入する。 ③まずファインダーで金星を視野の中央に導入し、次に 15cm 屈折望遠鏡で視野の中央に導入する。そして微調 整をして 30cm 反射望遠鏡の視野(ファインダーの視野) の中央に導入する。 図1.撮影装置 ④ピントを合わせた後、撮影する。撮影は、ISO100、1/640~1/1600”露出でそれぞれ3枚ずつ撮影す る。ただし、大気の揺らぎによる画像の乱れがひどい場合は余分に何枚か撮影する。 4.画像処理の方法 (1) Paintshop Pro X による処理 ①「カーブ」による明暗の処理:明るさとコントラストを調整し、金星を強調させる。 ②輝面の向きの調整:画像を回転させ、予想図と輝面の向きを合わせる。 ③トリミングの処理:トリミングツールを用いて、いらない部分を処理する。このとき、トリミング の大きさを変えないように注意する。 ① 図2.処理前の画像(2007.10.5.) ② ③ 図3.処理後の画像 5.金星の予想図の書き方 →図4 ①惑星をあらわす円を描き、その円に方角を描き示す。 このとき、東西は逆転するので注意する。 ②北から半時計まわりに暗緑方向角(θ)をとる。 ③暗緑方向角をとった円周から、円の中心を結ぶ直線を 引く。 ④円の中心を通り、先ほど引いた直線と垂直になるよう な直線を引く。そして、新たに引いた直線と円の交点 をそれぞれ A、C とする。 図4.金星の予想図の書き方 ⑤最初に引いた直線に、円の直径を1として、輝面率(k)の割合をとる。輝面率は暗緑方向角をとった方 向から考える。そして、このときとった輝面率の位置を B とおく。 ⑥A、B、C という点をとった後、それらを緩やかな曲線 で結ぶ。輝面率の割合をとった方が、輝面をあらわす。 補足 位相角とは・・2天体の相対位置のあらわす角度。ここ では、金星と太陽、金星と地球とを結ぶ線が なす角を示す。(→図5∠i)位相角は内合の 時に 180°、外合の時に0°になる。 輝面率とは・・・太陽光によって輝いて見える部分の全 表面に対する比率。金星の直径に対する明る い部分の長さの比率でもある。→図5k/l [出典] 新訂 初歩の天体観測 p.103,104 図5.位相角と地球から見たときの形 6.観測結果 ①金星の見え方(予想図と観測結果) 6-1 2007.8.1 6-6 2007,8,24 6-2 2007,8,9 6-7 2007,9,1 図6 写真は一番上の列にそろえる 6-3 2007,8,10 6-8 2007,9,11 6-4 2007,8,11 6-9 2007,9,17 6-5 2007,8,13 6-10 2007,9,18 6-11 6-12 2007,9,21 6-16 2007,10,12 2007,9,25 6-17 2007,10,17 6-13 6-14 2007,9,26 6-18 2007,10,18 ②観測日の金星の諸データと撮影した写真から求めた輝面率 6-15 2007,10,5 2007,10,10 6-19 6-20 2007,11,30 2008,3,2 表1 注)「観測した写真から読み取った値」は、輝面率を求めるために 求めた座標である。今回は、撮影した写真を PaintshopProX を 用いて長さを測る3地点 A~C の座標(x1,y1)、(x2,y2)、(a,b)を読 み取り、それらの間隔を長さとして求めた。 A 図7.輝面率の求め方(長さの測定方法)→ B ←C 7.まとめおよび考察 ⑴輝面率と位相角の関係について 予想していた通りに輝面率は内合の際に最も大きく、位相角が小さくなるにつれて輝面率が大きく なることがわかった。(図9)しかし、この観測とデータ処理の中で、次のような点もわかった。 ①一般的には、内合の際の位相角は 180°と考えられているが、金星の公転軌道面と地球の公転軌道 面が同じでないため、位相角は 180°にはならないこと ②8 月9日から 8 月24日までは、予想輝面率は0だったが、実際に撮影すると0ではなく、撮影で きた。この理由については、次のように考えた。 1)輝面率=0と表にはあるが、実際には 0.00 ではなく、たとえ 0.01(1%)の光でもあればデジタ ルカメラの CCD はその光をとらえることができたため、撮影できた。 2)大気や薄い雲、霞などにより光が散乱し、実際に輝く部分の周辺まで輝いているように見え、大 きく撮影された。 図8.予想された輝面率と位相角の関係 図9.実際の輝面率と位相角の関係 図 10.金星の位相角と輝面率の関係 輝面率は、内合付近で最小となり、 遠ざかるほど(位相角が小さくなる につれて)大きくなっていった。 ⑵金星の大きさと位相角の関係について 金星の大きさは、内合から外合にかけて次第に小さくなっており、その変化はなめらかな曲線的な 変化である。しかし、今回観測を行った期間(8月 16 日の内合から 10 月 29 日の西方最大離角まで の期間)は、ほぼ一定な変化が見られ、10 日で約9%ずつ小さくなっていることがわかった。 図 11.予想視半径と実測した直径の変化 図 12.金星の大きさと位相角の関係 8.今後の課題や研究を終えての感想 中学の知識では内合のときに金星は見えないはずであるが、実際には金星の軌道面と地球の軌道面が傾 きを持っているために内合のときにも欠けた金星が見える。この光景を見たとき、とても驚いた。しか し、大気のゆらぎや光の散乱によって正確な輝面率を求められなかったことは残念であり、今後は、さ らに工夫し、より正確な金星の撮影ができるようにしたい。 参考文献・資料 天文年鑑2007,2008 新訂 地学Ⅰ 初歩の天体観測 実教出版 平沢康男著 地人書館