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2波長高出力半導体レーザ

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2波長高出力半導体レーザ
2波長高出力半導体レーザ
菅 康夫
電子デバイス事業本部 システムデバイス第 3 事業部
CD/DVD 光ディスクの読み取り/書き込み用として今後主流となる,2波長高出力半導体レーザを開発し
ました。
この半導体レーザを使用することにより,光ピックアップに CD/DVD 用個々の半導体レーザを搭載する必
要がなくなり,光学部品点数の削減や光学系の調整を容易にするなど大きなメリットがあります。
本稿では,2波長高出力半導体レーザを実現した要素技術について解説します。
などがあり,それぞれに応じた波長
の半導体レーザから,CD/DVD 用の
の半導体レーザが必要になります。
2 種類の波長帯のレーザ光を出すこ
1982 年に音楽を デ ジ タ ル情報で
CD に対しては 785 nm 帯赤外半導体
とができます。図 1 は,光ディスク
記録する CD が発売されて以来,光
レーザ,DVD は,660 nm 帯赤色半導
装置のピックアップ光学系の模式図
ディスクは,ビデオ映像を記録する
体 レーザ,BD に は,405 nm 帯 青 紫
です。CD/DVD 用それぞれ個々の半
DVD,ハイビジョン映像を記録する
半導体レーザ が用い ら れ ま す。ま
導体レーザを用いるピックアップと
Blue-ray(BD)へと大容量化が進み,
た,光ディスク装置は,下位互換が
2 波長半導体レーザを用いるピック
さらにパソコンのデータ記録用とし
規定されており,BD 装置では,BD
アップを比べると,後者の方が,半
ても使われています。この光ディス
に加えて,CD と DVD も,DVD 装置
導体レーザやレンズ,回折格子など
クから情報を読み出す,または,情
では,DVD に加えて CD も取り扱い
の光学部品点数を少なくでき,さら
報を記録するために必要なのが半導
が 可 能 に なって い ま す。一 方,光
に CD/DVD 共通の光路により光路
体レーザです。今回は,CD/DVD 用
ディスクは,読み取り専用(ROM)
調整が容易という利点があります。
の 2 種類の波長帯の出力を 1 個の半
ディスクと記録(録画)可能ディス
これらにより,今後の光ディスク装
導体レーザで実現した 2 波長高出力
クの二種類に分けられますが,半導
置には,2 波長半導体レーザの搭載
半導体レーザについて解説します。
体レーザも,読み取り専用の低出力
が主流となります。
1
2
はじめに
レーザと記録(録画)用の高出力レー
半導体レーザとは
3
ザに分けられます。ここで解説する
光ディスクには,CD や DVD,BD
2 波長高出力半導体レーザは,一つ
半導体レーザの素子構造
図 2 は,2 波長高出力半導体レー
DVDレーザ
2波長レーザ
光学部品
光学部品
光ディスク
CDレーザ
光ディスク
光学部品
プリズム
ハーフミラー
ハーフミラー
光センサー
集光レンズ
集光レンズ
a)
単体レーザを2個使う場合
b)
2波長レーザを使う場合
図 1 光ディスクピックアップの模式図
28
光センサー
図 2 2 波長高出力半導体レーザチップ
ザに搭載するレーザチップの斜視図
です。レーザチップは,n 型 GaAs 基
板の上に赤外(CD 用)レーザ部と
赤色(DVD用)レーザ部を同一チッ
プ上に形成しますが,基板まで彫り
込んだ中央の溝によりそれぞれ分離
しています。
レーザ光は,基板上に形成する nクラッド層,活性層,p- クラッド層
などで構成した結晶層の内,活性層
から発生します。発生した光が横方
図 3 2 波長高出力フレームレーザ
向に広がるのを防ぎ前後方向に集
光・制御するために,結晶層に縦状
ます。
当社の2波長高出力半導体レー
た場合,その発熱で端面が溶解し,
の溝を形成したエアリッジ構造をし
ザ で は,赤 外 レーザ 部,赤 色 レー
レーザが劣化することを防ぐための
て い ま す。半導体レーザ か ら出る
ザ部とも AlGaInP を用いています。
ものです。当社の 2 波長半導体高出
レーザ光の波長は,p クラッド層と n
記録用として用いる半導体レーザで
力レーザでは,CD レーザ部と DVD
クラッド層にはさまれた活性層内の
は,パルス発振で 300 mW,CW(連
レーザ部,両方に端面窓領域を作っ
量子井戸層に用いる結晶で決まりま
続波発振)でも 100 mW 以上のレー
て,高出力の レーザ光出射で の劣
す。CD レーザに対しては,AlGaAs,
ザ光を出すことが要求されます。ま
化がない構造になっています。図 3
または GaAs を,DVD レーザに対し
た,赤外,赤色高出力レーザでは,
は,図 2 の 2 波長高出力半導体レー
て は GaInP を用い ま す。一方,ク
レーザチップの端面付近をレーザ光
ザチップをフレームパッケージに搭
ラッド層は,発生した光を活性層に
に対して光吸収がない領域にしま
載した事例です。
閉じ込める役割を持つ結晶材料であ
す。この領域を端面窓領域と呼びま
れば比較的材料選択の自由度があり
すが,高い出力のレーザ光を吸収し
シャープ技報 第99号・2009年8月
29
4
要素技術
2 波長高出力半導体レーザを実現
クアップ光学系の規定 110μm に合
ラ イ ト ス ク ラ イ ブ に 対 応,ま た,
わせて± 0 . 5μm 以内の精度で作る
DVD レーザとしては,DVD-R 20 倍
ことができます。
速書き込みに対応可能な光出力仕様
です。当社 2 波長高出力半導体レー
するために開発した要素技術を以下
(4)端面コート技術
に列記します。
ザは,CD 側が 90℃パルス 430 mW,
半導体レーザでは,レーザ端面の
CW 230 mW の仕様になっています。
保護と反射率の制御を目的として,
特 に CD 側 は,温 度 90℃,光 出 力
端面に薄膜を後付けします。赤外部
430 mW と余裕があるため,DVD 側
結晶組成を制御した結晶膜を形成
と赤色部それぞれで適正な反射率に
光路にロスがないことを優先に光学
す る 必 要 が あ り ま す。当 社 で は,
制御できるコート膜の構成を採用し
設計ができ,DVD 側に必要な光出力
MOCVD法での結晶成長と不要な結
ま し た。ま た,端 面 コート に ECR
を低減できるメリットがあります。
晶層をエッチングで除去する技術を
プラズマ CVD(PECVD)法を用い
さらに,CD 側の光路調整に裕度を
確立しています。
ることで,端面劣化を抑え,信頼性
もたせることができ,ピックアップ
を高めています。
組み立て時の調整が容易になりま
(1)結晶成長技術
赤外部,赤色部それぞれに膜厚,
(2)窓領域形成技術
す。図 4 は,2 波長高出力半導体レー
(5)組み立て技術
赤外部のクラッド層を,赤色部の
ザの特性を示します。DVD 側,CD
ク ラッド 層 と 同 じ AlGaInP と し ま
半導体レーザチップはサブマウン
側それぞれのパルス動作(それぞれ
した。窓領域は,結晶表面から Zn
トと呼ばれる誘電体上に,AuSn な
光ディスク書き込み使用の条件)で
を拡散させて作りますが,Zn が拡散
どの接着材により張り付けます。2
の I-L 特性と放射光特性(CW 動作)
する経路を赤外部/赤色部とも同じ
波長高出力半導体レーザでは,赤外
です。I-L 特性は温度に対する変化
結晶材料にすることで,同じプロセ
部と赤色部を 40μm 程度の溝で分離
を,また,放射光特性は光出力に対
スで両方の窓領域を形成することが
してありますが,この間がショート
する変化の測定結果です。
できます。
しないように,サブマウントに張り
光ディスク用途には,I-L 特性にキ
付ける必要があります。当社は,画
ンク(電流と光出力特性の折れ曲が
(3)リッジストライプ形成技術
像認識技術を駆使した高精度な組
り)と呼ばれる折れ曲がりがないこ
フォトリソグラフのプロセスでク
立技術により赤外部と赤色部間の
と,また,放射光特性が水平方向,
ラッド層を エッチ ン グ し て リッジ
ショートなど不具合のない組立技術
垂直方向とも,単峰形状で,ピーク
ストライプを形成します。
(2)と同
を確立しました。
の角度が光出力に対して変動しない
様,エッチングするクラッド層を同
5
じ AlGaInP に す る こ と で,赤外部
ことが求められます。図 4 に示すよ
レーザ特性
うに CD レーザ,DVD レーザは,そ
と赤色部のリッジ形状を,それぞれ
表 1 は,当社 2 波長高出力半導体
れぞれ I-L 特性にキンクはなく,放
の高さ,幅を制御して,同時に形成
レーザ の特性仕様で す。CD レーザ
射光特性もピーク角度に出力変動の
することができました。
これにより,
と し て は,CD-R 48 倍 速 書 き 込 み,
ない単峰形状の特性が得られていま
CD部/DVD部の発光点間隔は,
ピッ
また,CD レーベルへ直接描画する
す。図 5 は,レーザの光出力を所定
表 1 2 波長高出力半導体レーザの仕様
絶対最大定格 T= 25℃
項目
30
仕様値
赤色(DVD)レーザ
赤外(CD)レーザ
単位
光出力(CW)
125
250
mW
項目
記号
赤色(DVD)レーザ
条件
標準値
赤外(CD)レーザ
条件
光出力(パルス)
350
450
mW
しきい値電流
Ith
̶
70
̶
60
mA
動作温度(CW)
80
90
℃
動作電流
Iop
P 0 = 120 mW
190
P 0 = 150 mW
240
mA
動作温度(パルス)
80
90
℃
動作電圧
Vop
P 0 = 120 mW
2.4
P 0 = 150 mW
2.4
V
発振波長
λ
P 0 = 120 mW
661
P 0 = 150 mW
785
nm
水平放射角
θ
P 0 = 120 mW
9.5
P 0 = 150 mW
9
°
垂直放射角
θ
P 0 = 120 mW
16
P 0 = 150 mW
15
°
スロープ効率
η
̶
1 . 00
̶
0 . 90
W/A
標準値 単位
図 4 2 波長高出力半導体レーザの特性
図5 信頼性試験結果
の値に維持するように連続駆動した
験の開始時の 20%上昇するまでの時
は,従来それぞれ,単独のレーザ素
時,レーザ に流す電流値(Iop)の
間を個々の寿命と し て定義し,Iop
子が使われておりましたが,今後
時間変化を調べた結果です。
CDレー
の増加率より故障時間を推定します
は 2 波長高出力半導体レーザが主流
ザの書き込み(パルス駆動)
,ライ
が,いずれの条件化でも平均的な故
となり,単体レーザに置き換わって
トスクライブ(連続駆動),それぞ
障時間は,10 , 000時間を超えており,
いくと考えられます。当社は,CD/
れの用途に対して,最も条件が過酷
光ディスクとしての使用上問題のな
DVD レーザともにさらなる高出力,
となる高温での試験を実施した結
い信頼性が得られています。
高温動作が可能な高性能レーザの創
果。いずれの条件でも,レーザ動作
は停止することなく安定に連続動作
6
おわりに
しています。半導体レーザの信頼性
CD/DVD 用光ディスクそれぞれ
の指標としては,Iop が連続駆動試
の読み取り/書き込み用途と し て
出に向けて研究開発に取り組んで参
ります。
シャープ技報 第99号・2009年8月
31
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