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サービス・イノベーションとその社会受容: 日本のコンビニエンス ストア

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サービス・イノベーションとその社会受容: 日本のコンビニエンス ストア
特定領域研究「日本の技術革新−経験蓄積と知識基盤化−」第 2 回国際シンポジウム研究論文発表会
平成 18 年 12 月 16 日
論文集
C−4
サービス・イノベーションとその社会受容: 日本のコンビニエンス
ストアにおける事例
Service Innovation and Its Social Acceptance: A Case Study of
Japanese Convenience Stores
水向 絢子1・松本 光崇1・横田 慎二1・小笠原 敦1
MIZUMUKAI Ayako1・MATSUMOTO Mitsutaka1・YOKOTA Shinji1・OGASAWARA Atsushi1
1
1
独立行政法人 産業技術総合研究所
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
社会受容,コンビニエンスストア,サービス・イノベーション,スーパーマーケット,消費者行動,
social acceptance,convenience store, service innovation, supermarket, customer behavior
はじめに
コンビニとスーパーの違い
現代社会では,さまざまな技術開発や,そうした
新技術の社会受容に伴うサービス・イノベーション
が,社会全体のシステムや人々のライフスタイルを
変えていく例が多く見られる.本稿では日本のコン
ビニエンスストア(以下,コンビニ)を事例として
取り上げ,コンビニにおけるサービス・イノベーシ
ョンが社会でどのように発生し、そして受容され,
また社会にどういった変化をもたらしたのかを,ラ
イバル業種とされるスーパーマーケット(以下,ス
ーパー)との比較という観点から検討していく.
コンビニとスーパーの違いには,店舗面積や営業
時間,販売価格(定価販売を原則とするコンビニに
対し,スーパーは安売り販売を行っている)などが
あげられる.店舗面積・商品数ともにコンビニを上
回り,かつ安売り販売を行っているスーパーの売上
高が減少し,コンビニがまだ発展の余地を見せてい
るのはなぜだろうか.
コンビニ市場の成長
1969 年,日本にコンビニが初めて登場した.その
後コンビニ市場は成長を続け,2005 年には店舗数
42,643,年間売上高 7 兆 4391 億円にまで達した 1).
近年は以前ほどの伸びは見られないが,2000 年以降
の店舗あたりの売上高の推移をスーパーと比較す
.スーパーの売上
るとその差は明白である(図 12))
高は減少しているのに対し,コンビニは 2004 年に
減少が見られるものの,翌年はわずかながら回復し
ている.コンビニで激しい価格競争も起こっていな
いことから,市場が飽和したとはまだ言いきれない.
17
1.8
15
1.75
14
13
1.7
12
11
10
スーパー
コンビニ
9
8
1.65
2001
2002
2003
2004
2005
年度
図1. コンビニ・スーパーの店舗あたりの売上高の推移
コンビニ発展の最大の要因は,さまざまな情報・
物流管理システム技術やサービスの導入により,イ
ノベーションを繰り返してきたことにある.長時間
営業の小売店としてスタートしたコンビニだが,狭
い店舗に消費者のニーズに合わせた商品を効率良
く置くために,POS や共同配送便などのシステムを
導入して,きめ細かな注文・在庫管理を行ってきた.
また物販のみならず,コピー機の設置や DPE・宅配
便の取次ぎなど各種サービスも積極的に導入し,
1980 年代後半からは公共料金や通信販売など各種
料金の収納代行,1990 年代後半からは ATM やマルチ
メディア端末などが設置されるなど,他の小売店に
.
は例を見ない独自の変化を遂げてきた(図 23))
コンビニにおけるサービスの多様化は現在も続
いている.現在日本のコンビニは当初の「小売店」
という枠を越え,特に都市部では「各種サービスの
ハブ」
,あるいは「社会インフラ」としての役割を
担っていると言える.
消費者による「使い分け」
1.6
2000
コンビニ売上高(億円)
スーパー売上高(億円)
16
コンビニ・イノベーションとその社会受容
しかし,コンビニの大きな特徴であった「24 時間
Briefing papers of 2nd International Symposium of Technological Innovations in Japan−Collecting experiences and establishing knowledge foundations−
16 December 2006
1974
1980
共同配送開始
1990
POS 導入
2000
新 POS 導入
2006
ATM・マルチメディア端末設置
宅急便取次・コピー機設置
各種料金収納代行サービス
24 時間営業・DPE 取次
図 2. コンビニにおける,各種システム・サービスの導入の歴史
表 1. コンビニ・スーパーの来店目的の比較
営業」だが,2000 年 6 月に施行された大規模小売店
舗立地法(大店立地法)により,スーパーなどライ
バル業種の小売店も深夜営業が可能となった.コン
ビニが営業時間で差別化を図れなくなったため,大
店立地法施行はスーパーに有利な状況を生み出す
と予想された.しかし先述のように実際にはスーパ
ーの店舗あたりの売上高は減少を続けている(図 1)
.
コンビニ市場が健在である背景には,コンビニと
スーパーの,消費者による「使い分け」がある.図
34)および表 14)・表 24)は,消費者アンケートにより
明らかになった,コンビニとスーパーの来店目的,
来店時間帯,および購入商品の違いである.
AM0−2
AM2−4
スーパー
コンビニ
AM4−6
AM6−8
時間帯
AM8−10
AM10−12
PM0−2
PM2−4
PM4−6
PM6−8
PM8−10
PM10−12
0
10
20
30
40
「よく来店する」と回答した人の割合
50
図3. コンビニ・スーパーの来店時間帯の違い
このように消費者は目的や商品に応じて両者を
使い分けており,コンビニはイノベーションによっ
てそうした消費者のニーズや要求に応え続けてい
るため,定価販売を維持しているにもかかわらず,
市場の拡大が可能であったと考えられる.
今後の課題
しかしここ数年,ポイントカードの発行などによる
間接的な値下げ,キャンペーンと称した期間限定の
値下げのみならず,清涼飲料水や調味料などの恒常
的な値下げが開始されるなど,コンビニでも少し
コンビニ
スーパー
第1位
自分の買い物(82.0%)
自分の買い物(83.4%)
第2位
サービスの利用(52.7%)
頼まれた買い物(42.6%)
第3位
雑誌類の立ち読み(29.3%) 商品チェック(20.6%)
表 2. コンビニ・スーパーでの購入商品の比較
コンビニ
スーパー
第1 位
弁当・おにぎり類(84.5%) 生鮮食料品(81.7%)
第2 位
水・お茶など飲料(81.1%) その他食品(60.5%)
第3 位
菓子・デザート類(61.0%) 菓子・デザート類(61.0%)
第4 位
雑誌・新聞(40.2%)
日用雑貨(55.6%)
第5 位
たばこ(26.0%)
ビール・お酒(35.0%)
ずつではあるが価格競争が開始している.今後コン
ビニが他のライバル業種との差別化を図り続け,消
費者の「使い分け」に応じていくためにも,消費者
である人間がコンビニに何を求めているのか,何を
基準にコンビニを選択しているのか,などを明らか
にしていく必要がある.今後は消費者の属性やライ
フスタイルなどの条件を設定し,そうした条件の違
いによる選択の基準,消費行動モデルなどを検証し
ていく.
参考文献
1)「月刊コンビニ」
(商業界)2006 年 8 月号
注
2)「月刊コンビニ」2006 年 8 月号,および「’06
日本スーパー名鑑」
(商業界)をもとに作成
3)「全図解 一目でわかるコンビニ業界」
(国友隆
一著)をもとに作成
4)「マイポイント/DNP」によるウェブアンケート
(2003 年)をもとに作成
https://www.mypoint.com/ja/docs/membersvoice/
voice_vol11-20.html
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