Comments
Description
Transcript
「最近の中国の海洋膨張政策と国際摩擦」
2016.10.29 拓殖国際フォーラム・レジュメ 「最近の中国の海洋膨張政策と国際摩擦」 会員 茅原郁生 問題意識 ①21 世紀の海洋管理の制度化は機能しているか ②中国はなぜ海峡進出を続けるのか? ③中国の南シナ海進出に伴う軋轢は何か? ④ハーグ仲裁をめぐる確執と中国の反応は? ⑤東シナ海での日中間の角逐と影響は? 1.21世紀における海洋を巡る情勢 ①海洋ガバナンスの視点 ・人間社会は海洋への依存を強めている(海上輸送、観光、漁業、再生可能エネルギー:風力、波力、海潮流、 温度差、海藻、空間利用、海洋環境、生態系など) ・海洋という国際空間での秩序形成と持続可能な開発への取り組み・・・海洋を巡る各国の競走と協力: ②海洋を巡る諸問題 ・海洋、遠海の環境悪化、汚染・水産資源の減少、海面利用の競合、安全、秩序への脅威(密輸、 ) 、 1982 年に国連海洋法条約発効・・・米は非加盟ながら深海部を除き国際慣習法として認める ③20 世紀後半から新しい海洋秩序の構築 ・前半までは「広い公海」と「狭い領海」・・・海洋の自由が原則 ・大陸棚のエネルギー資源に関する排他的権利及び沿岸漁業資源保護の保存水域の設定 ・1973 年に国連海洋法条約審議の国連海洋法会議スタート ・82 年に国連海洋法条約の採択・・・・94 年に条約発効 ・海洋に自由から海洋の管理へ ④国連海洋法条約の概要・・・締約国は 168 カ国 (2016.6) ・ 航行の自由の確保 ・ 沿岸国の海域及び資源管理の拡大 ・ 領海 12 海里、排他的経済水域 200 海里、大陸棚、島制度 ・ 深海底は人類の共同財産、 ・ 海洋環境の保護、保全の共同責任 ・ 海洋の科学調査、海洋技術の発展、紛争解決 ⑤21 世紀に問われてくる国家の海洋力(立ち向かう、生かす、活用する) ・海洋の総合管理と開発に取り組む政策力 ・海洋環境を保全し、海洋を経済活動、安全保障などに活用する 2.中国の海洋進出 ①新興国家の領域拡大と「力の信奉者」として力で現状変更 ②「合理的三次元戦略的国境を追求(徐光裕)」 『解放軍報』1978.4.16)」・・・海洋、海底、宇宙の柔らかい戦略空間に進出 ③中国の海洋権益観 ・経済利益・・・海底資源、漁業資源、シーレーン、 ・安保上のバッファーゾーン、ナショナリズムと求心力 ④安全保障環境の間隙を突いた海洋進出 1 ⑤中国の海軍戦略と海軍力の強化 ・海軍戦略: 「近海防御・遠海護衛の結合型戦略」に転換 *1980 年代に「近海防御戦略」が誕生(第 1 列島線まで) ・ 「将来の局地戦の多発地域は沿海地域、島礁・海上」の戦争観 ・ 「海上多層縦深防御戦略」 ( 「艦船知識」93 年 1 期) 第1層海区(150 海里まで);ミサイル艇など小型艦艇 第2層海区(300 海里まで);駆逐艦など多用途護衛艦 第3層海区(東シナ-南シナ海)潜水艦、爆撃機、ミサイル防衛 *現代の考え方・・・第 2 列島線まで対象海域を拡大し積極化 ・米国は「接近阻止・要域拒否(A2/AD) 」と警戒評価 ・空母、DF21・26 ミサイルの実戦配備で遠洋海軍志向 ⑥海洋進出を突き動かす国内の問題 *人口扶養の要求と中国経済の低迷の余波 *政権への求心力が必要・・・ナショナリズムの起爆剤と集団 指導の体制疲労への対応:反腐敗闘争 別紙1:茅原郁生「習近平主席の反腐敗闘争」『世界日報』(2014.3.16) 3.中国の南シナ海進出と関係国との軋轢 ①遅れた南シナ海進出・・・1974 年にパラセルへ、88 年からスプラトリー諸島へ、その時点で諸国が既に実効支配 ②「南シナ海は核心的利益」論^ 別紙2:「中国の横暴な南シナ海事案」『世界日報』 (2014.6.5) ③中国の海洋進出の実態 ・1988 年 3 月にスプラトリー諸島海戦(赤瓜礁海戦) で勝利し、ジョンソン南礁(赤瓜礁)のほか、永暑礁、 華陽 礁、ヒューズ礁(東門礁)、南薫礁、渚碧礁を実効支配に ・2015年、南シナ海の埋め立てが国際問題に:スービ、ガベ ン、*ファイアリークロス、ミスチーフ、ヒューズ(東門礁)、 **ジョンソン南礁 (赤瓜礁)と**クアテロン礁 (華陽 礁)の7つの岩礁の埋め立てが急速進展(*飛行場、**飛行 場と灯台建設) ④南シナ海に防空識別圏設定の野望:スカボロー相が焦点 別3:同「中国の南沙軍事拠点か問題」『世界日報』 (2015.6.16) 4:同「南シナ海で強硬姿勢の背景」『FujiSannkei』 (2014.7.1) 「南シナ海のリバランス」『FujiSannkei』 (2015.6.23) 設定と管轄権 別 別5:同 ⑤「九段線」 *49年蒋介 石による11段線、54年9段線、管轄権の不明、越、比、台、馬な どの実効支配。との錯綜 *九段 線の管轄権の実態 ⑥軍 事演習による示威 軍事演習の威圧=南部戦区で三艦隊の実弾演習・・・範長龍 副主席の視察と海上での軍事力対応の強化を常万全国防部 長が強調(軍報16.7.20)など 2 4.ハーグ仲裁の結果と波紋 ①中比間の摩擦と比の 7 項目の提訴・・・中国外交の失敗 ②ハーグ仲裁の要点:中国の完敗 別 6:同「再浮上する南シナ海問題」『世界日報』 (2016.6.14) 1)南シナ海で中国の「歴史的権原」認めない、2)南シナ海の「九段線」には法的根拠はない、 3)中国埋め立ての7人工島は「島」ではない、4)南沙海域には法的な意味での「島」はない ③仲裁裁定への中国の反応・・・ 「紙屑」「棚にほっておけばそれで終わり」などの反応 *白書: 「中国は談判を通じて中国とフィリッピンとの南シナ海を巡る係争を解決することを堅持する(南 シナ海白書)」を出して 143 項目にわたる中国側の見解を強弁 *公式反論:「中国の領土主建や海洋権益はいかなる主張も受け入れない、仲裁裁定の影響を受けない・・・ 中国は国際法治及び公平と正義を擁護する」 (習近平・トウスク欧州理事会議長との会談) ・王毅外相「法律の上着を着た政治的茶番、交渉を通じて紛争の平和的解決に努力する」新華社 16.712) ④中国の反論の背景・・・来秋の党大会、習主席権力集中の挫折、経済低迷 ⑤裁定執行の阻止と無効化 ⑥比の政権交代とドウテルテ大統領の不可解な行動 ⑦分断化されるASEAN・・・全会一致方針の限界 ⑧南シナ海の「行動規範」策定促進(2017) 5.東シナ海における日中間の確執・・・ハーグ仲裁結果の波及 ①尖閣諸島の領有権を巡る問題 ・1895 年に日本の領土化:1 月に閣議決定と沖縄県編入 ・中国の領有権主張:歴史的権原と台湾付属島で下関条約(4 月)で割譲 ②日中平和友好条約締結時の尖閣問題・・・・・当時は反覇権条項が中心課題 ③尖閣諸島の政府買い上げ(2010)に起因する中国の実効支配(の常態化) 2011 以降中国漁船の巡視船への体当たり、香港人上陸、中国内の反日デモ ④中国の防空識別圏の設定と軋轢の増大 ⑤2016 年東シナ海での挑発的な行動・・・警察権から軍事力対峙へ 6 月 9 日の軍艦の接続水域侵入、8 月漁船 400 と公船 15 隻の領侵 ⑤排他的経済水域の境界をめぐる確執・・・中間線理論と大陸棚理論 別 7:同「力が支配する海の尖閣問題」『世界日報』 (2012.9.27) 別 8:同「懸念される東シナ海の有事」『世界日報』 (2013.9.8) 6.中国の海洋進出への対応 ①紛争発火の阻止・・・危機管理(海上連絡メカニズムの相期発効) *当面のヘッジと関与・・・党大会を控えた権力闘争 ・・・弱腰が出来ない習近平の事情と中国内穏健派の助勢 ②海洋秩序の回復・・・ハーグ調停に実効化 ③東アジアの安全保障環境維持 ・・・南シナ海での『行動規範』の成立 ④米軍事力のプレゼンス維持・・・米中核のハブ・スポークス 同盟関係と日米豪印の連携強化、西太平洋の安全確保 *米中衝突回避の姿勢・・・米日陰謀論の楔打ちへの対応 ⑤国連機能の活用・・・国連改革と中ロ連携に楔 別 9:同「海洋秩序見出す中国への対応」『世界日報』 (2016.8.16) ご静聴、有り難うございました。 3 了