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インドにおける会社の財務報告 - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ

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インドにおける会社の財務報告 - 長崎大学 学術研究成果リポジトリ
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
インドにおける会社の財務報告
Author(s)
嶺, 輝子
Citation
東南アジア研究年報, (29), pp.69-85; 1987
Issue Date
1987
URL
http://hdl.handle.net/10069/26513
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
69
インドにおける会社の財務報告
嶺
輝 子
1.はじめに
わが国では,アジア諸国の,財務報告制度を含む会計制度についての研究は,非常に少な
い。特に,インドのそれは,ほとんど皆無といってもよい状態である。イギリスや米国では,
インドの会計制度について,幾つかの調査研究が行われてきている。最近の調査研究の一つ
くの
に,・のレストン(C.Marston)の『インドにおける財務報告』(1986年)がある。この本
は,インドの上場会社30社の,1982年から1983年に公表された計算書類を調査し,その
開示されている財務情報と,社会的および非財務的情報の内容,それに,その開示状態につ
いて,宗主国であるイギリスのそれと比較する形で検討している。そこで,インドの会計制
度研究の第一歩として,本論文では,マルストンの本を招介する形で,インドにおける会社
の財務報告について検討することにする。
(2)
2.会計に影響を及ぼす環境
会計をとりまく環境的要因が,その国の会計実務の発展に影響を及ぼすということは,多
くの
くの人々によって主張されている 。その環境的要因には,社会的,経済的,法的および政
(1)Claire Marston, Financial Reporting in India, Croom Helm:Ltd,1986.なお,この本
は,次のような構成になっている。すなわち,
第1章環境が会計に及ぼす影響
第2章利益の測定と資産評価
第3章情報開示
第4章 社会的情報および非財務情報の開示
第5章 インドの財務報告:実態分析
第6章要約および結論
付録
(2) Ibid., pp.1−34.
(3)例えば,ゼフは,会計原則の発展が会計理論および会計実務と,社会的,経済的および政治的
影響の相互作用によって促されることを論証した(S.A.Zeff, Foreign Accounting Principles
in Five Countries, Stipes Publishing Co.,1971)し,また,チョイとミューラーも,経済の
タイプ,法律制度,政治制度および社会的風土などの環境が,会計の発展に影響を与えると述べ
ている(F.D.S.Choi&d.G.Mueller, An Introduction to Multi−national Accounting,
Prentice−Ha11,1978, pp.23−28)。
70
治的要因が含まれる。一般に,・自由主義経済社会と社会主義経済社会とでは,会計制度は異
}
なるし,また,高度に工業化が進んだ先進国と,工業化がいまだ十分に発達していない発展
途上国との間でも,会計制度は異なる。しかしながら,一部の発展途上国の会計制度は,先
進国の会計制度と類似している。例えば,インドの会計制度とイギリスのそれとの間には,
類似性がみられる。その類似性は,インドが長い間イギリスの植民地として直接支配されて
いたため,インドの会計および財務報告実務が,イギリスのそれをモデルにしていたことに
起因する。しかしながら,第二次世界大戦後に独立したインドのその後の発展は,イギリス
の会計制度との類似性を保ちながらも,その差異を徐々に拡大して行くことになる。そこで,
以下,独立後のインドの政治的および経済的環境の一般的変化について概観した後,会計お
よび財務報告実務の発展に影響を与えたと考えられる環境条件として,法律,税制,証券取
引所,専門職業および学界について検討することにする。
インドは,独立後,富の集中の排除と所得の平等な分配を指導原理とする憲法の精神に則っ
くの
て,社会主義的経済 の道を進むため,ソ連で試みられているような経済5力添計画を採用
した。経済5丁年計画は,国家主導による重工業産業基盤を確立することによって,インド
を農業国から工業国に転換させることを狙いとしたものであった。そのため,金融財政,貿
易など,さまざまな産業分野まで,経済計画に基づく政策が打ち出された。外国からの製品
の輸入を制限し,輸入品にとって代わる製品を自国で製造することを目的とした「輸入代替
くの
工業化」は,その重要な政策として導入された。そして,1966年までは,この政策は成功
し,急速に工業化が進められたのである。しかし,その後,1975年までは,工業化による
成長は,大きく鈍化してしまった。その原因は,猛烈な早越,国際収支の悪化,急速に発展
(4)インドは,基幹産業を,国家的所有もしくは統制によって創設・発展させ,それを核として,
その周辺に私的所有の多様な関連産業を編成して拡大再生産の国内的基盤を確立して行こうとい
う構想の下に,産業を,①基幹産業,②基幹関連産業および③その他の消費財産業の三つの範疇
に分類した。そして,①は国営企業に,②は国家が参加した民間企業に,③は,国家による生産・
投資規制のもとでの民間企業に,委ねらμた(西口章雄・浜口恒夫編『インド経済:発展と再編』
世界思想社,昭和61年,40∼41頁および44∼45頁)。かかる国民経済は,混合経済的発展を目
指す一種の社会主義的経済体制であるといえる。
(5)輸入代替工業化政策は,インドが独立後「凝して採用した産業政策であって,「近代的重化学
工業における特定の基軸産業を経済成長の戦略部門としそ設定し経済計画によって国内市場向け
に方位づけられたこれらの産業の前方・後方関連における発展を通して,経済成長と工業化脅達
成しようとするものである。この戦略のもとで,工業製品輸出の役割は国内市場向け工業化の発
展の補足手段として位置づけられてきた。また輸入は,必要不可欠でしかも国内で得られない品
目に限って認める原則(the principle of‘esse血tiality’and‘indigenously non−availability’)
が採られた。そのため,ごく最近まで「制限リスト」あるいは「ライセンス制限リ㌔スト」に含ま
れない品目の三木は禁止されてきた(‘ni1’policy)。加えて機械,’自動車用部晶医薬品,化学
製品,非電気器具,特定タイプのプラスチック原料,電線などの主要輸入代替品目は,高率の関
税が賦課され輸入が極度に制限されてきた」(『上掲書』64∼65頁)のである。
インドにおける会社の財務報告 P ’ 71
している外国市場で機会を掴むことの失敗,インフレーション,ならびに,パキスタンおよ
び中国との戦争にあった。
1975年以降,インド経済は,オィルシヨツクによる猛烈な原油価格の上昇によって,大
きな影響を受けた。インド政府は,輸入代替工業化政策を,国内企業の手厚い保護のもとで
推進したのであるが,この政策は,資本財産業の多様な発展と産業構造の高度化を促す一方
で,非効率・高費用な生産構造を創り出した。非効率・高費用化をもたらした主要な要因の
一つは,財閥企業およびその他の大企業に対して企業の拡大を規制し,できるだけ多数の企
くの
業に対して機会を与えるための産業認可政策 によって,産業的細分化が起こり,規模の経
くの
済性が追求できなかったことにある 。こういつたことから,インド政府は,輸出を推進力
として,生産効率の高い大規模な輸入代替工業化を促進する方向に,産業政策の重点を徐々
に移していった。この経済自由化へ向けての産業政策の転換は,噛高関税,輸入割り当て,数
くの
量規制,産業認可規制の大幅引き下げないし緩和を促し ,インド経済を,ソ連寄りの計画
経済から西ヨーロッパスタイルの市場経済への道を進ませることになったのである。
資本主義市場経済と民間企業の活動自由化へ向けてのインド政府の政策は,会計および財
務報告に直接的な影響を与えることになる。特に,会社法の改正を通じて,情報開示および
監査の面に影響を与える。事実,情報開示および監査に関する会社法の要求は,一部の分野
ながら,イギリス以上に拡大されているのである。
く 以上で,インドの一般的経済環境についての説明を終え ,次に,会計に影響を与えると
考えられる個々の環境条件について検討して行くことにする。
(1)法的環境
インドの会計および監査の法的基礎は,イギリスの1948年会社法をモデルとした,1956
(6)産業認可政策は,民間企業が生産・投資を行う場合,政府の認可を受けるこζを要求し,行政
面から生産・投資を規制しようとするものであった。特に,1970年6月から実施された「独立
および制限的商慣行法」は,資産規模が2億ルピー以上の大企業(財閥の企業集団を含む)およ
び「支配的企業」(Dominant Undertaking)が企業の規模を大幅に拡大する場合と,新企業
の設立,他企業の吸収・合併を行う場合には,中央政府の事前の審議・承認を要求した。このこ
とから,大企業の拡大・成長は抑制され,結果として,多くの中小企業に産業認可が交付され,
大企業と競争することなく,新しい事業に進出することができたのである(『上掲書』59∼60
頁および68∼69頁)。なお,中小企業の育成は,社会的平等の達成の方策と考えられ,小規模工
業育成政策として,小規模工業企業が今後もっぱら生産することになると考えられる留保品目を
設定し,これらの品目の生産は,産業認可規制から除外された。
(7) 『上掲書』67∼68頁。
(8) 『上掲書』73頁。
(9) マルストンは,一般的経済環境の他に,公営企業の会計および政府会計が,民間企業の会計実
務に影響を与えたことを説明しているが,これは,ある部門の会計が他の部門の会計に影響を与
えたということであって,会計分野内部の影響であるから,ここでは敢えて取り上げないことに
する。
72
年インド会社法である。この1956年インド会社法は,1936年インド会社法の多くの規定を
残存させているものの,多くの規定を追加している。そのうち,特に注目すべき点は,標準
貸借対照表形式と損益計算書の内容に関する明細書についての規定を導入したことである。
1956年会社法は,その後,数次にわたって改正されているが,1965年および1969年の改正
では,ある一定の会社に対して,原価計算書類の作成・保存および原価監査の義務に関する
規定が導入された。それによると,生産,加工,製造または鉱業に従事する会社は,中央政
府が原材料,もしくは労力の使用,あるいはその他の原価項目に関する三舞を会計帳簿に包
含するように要求した場合には,かかる原価の明細を示す会計帳簿(原価計算書類)を作成
し,備え置かなければならないのである(法面233B条(1))。この他にも,1971年10月と
1973年10月に公布された二つの「通達」(Notification)によって,開示規則が拡大されて
いる。
また,インドでは,イギリスで要求されている以上の幅広い報告が,法律によって要求さ
れている。例えば,インドの監査役の義務は,「1975年製造会社およびその他の会社(の
監査役報告書)に関する規則」(Manufacturing and other Companies(Auditor’s Report)
Order 1975)と題する会社法に基づいて発布される規則(order)の結果として効力が漏せ
られるのであるが,この1975年規則は,「社会監査規則」(sQcial audit order)として知ら
れており,製造,鉱業,加工,サービスの供給・提供,交易および金融・投資などめ事業を
営む会社に適用される。なお,監査役として就任できるのは,「1949年勅許会計士法」でい
う勅許会計士に限られる(法類226条(1))。
以上,概観してきたように,インドにおける会計の法的基礎は,イギリス会社法の影響を
大きく受けている1956年会社法である。しかしながら,その後,会社法は,インドの環境
からのニーズに法が応える形で改正されてきている。インド政府は,1975年規則(社会監
査規則)によって,また,一定の会社に対して原価記録の保存および原価監査を義務づける
ことによって,監査役の責務をかなり強化している。イギリス政府は,同様の規定を制定し
ていない。しかしながら,1967年,1976年,1980年および1981年のイギリス会社法は,
その他の面で,監査役の職務を増大させているのである。
(2)税制
ある一部の国々では,歳入法が報告利益に直接影響を与える。例えば,減価償却は税法規
定に従って行われ,その計算された償却費が,そのまま会計上の償却費として計上される。
イギリスおよびインドの両国とも,課税所得計算は,本質的には,財務報告(=会計上の
利益計算)とは分離されている。しかしながら,所得税法上の減価償却率を用いるインドの
会社は,減価償却に関する会計方針の開示を法的に要求されないので,多くの会社が,この
所得税法上の減価償却率を利用する傾向にある。また,インドの税法は,棚卸資産の評価方
法について何も規定していない。健全な商業会計原則に準拠していれば,いかなる評価方法
でも,税務当局によって認められることになっている。例えば,インフレニション期には課
インドにおける会社の財務報告 73
税所得の減少となる「後入先出法」も,税務当局によって承認されている。なお,イギリス
の会計基準では,「後入先出法」は,棚卸資産の評価方法として認められていない。
結論として云えることは,インドおよびイギリスの歳入法は,その他の一部の国々ほど会
計に影響を及ぼしていないということである。課税所得は,会計上の利益を調整することに
よって計算されるのである。
.(3)会計職業
インドの会計職業は,「インド勅許会計士協会」と「インド原価および労務会計士協会」
という二つの主要な団体から成っている。これらの団体は,どちらとも,インド政府によっ
て公認されたものである。1949年勅許会計士法は,勅許会計士協会に,インドの勅許会計
士の業務を指導・規制する法的権限を与えたが,イギリスには,このような法律はない。な
お,1979年現在の勅許会計士は,21,000人であった。
インド勅許会計士協会は,メンバーの教育やガイダンスのために,本やパンフレットを発
行している。1976年,協会は,棚卸資産の評価および開示に関する国際会計基準を採用す
ることを決定した。そして,協会は,従来インドで用いられてきた多様な会計方針および実
務との調和を図るために,「会計基準審議会」(ASB)の設立を決定した。 ASBの主要な役割
は,協会の評議会によって基準が確定されるように,事前に,基準を文章で作成することで
あり,また,ASBは,確定された会計基準を広く知らせ,関係者による,その会計基準の採
用を促す責任があるのである。
他方,原価および労務会計士協会は,,イギリス原価および労務会計士協会一現在の
「原価およグ管理会計士協会」(lnstitute of Cost and Management Accountan七s)一が
設立された後25朝して,「1959年原価および労務会計士法」に基づいて法定組織となった。
原価会計士は,1956年会社法で要求されている原価監査を専門に行う唯一の職業会計士で
あり,1979年現在では,この協会のメンバーは,5,000人であった。
上記のインドの会計職業についての説明から明らかなように,インドの会計職業は,多く
の面で,イギリスのそれと類似していると考えられる。しかしながら,インド政府は,ある
一部の分野では,イギリスの場合よりも一層強力な統制を行っている。会計職業は,高度化
した経済部門のニーズに適合したものであるが,インドは発展途上国の一員であるにもかか
わらず,他の発展途上国と比較して洗練された会計職業構造と,多数の有資格会計士を有し
ている。このため,インドの会計士は,中東で有利な就職を探しているし,また,インドの
未発展の経済部門のニーズについても,二つの協会の教育プログラムで考慮されている。
(4)証券取引所
インドの証券取引所は,「1973年外国為替規制法」(Foreign Exchange Regulation Act,
1973)によって影響を受けてきている。その規制法は,インドのある特定の産業分野で活動
している多国籍企業に対して,インド人による支配が可能になるまで,その持分を減少させ
ることを要求している。
74
証券取引所が会計環境に影響を与えることのできる一つの方法は,上場認可規程に,計算
書類の開示および測定に関する規則を含めることによってである。事実,イギリスでは,証
券取引所が上場会社に対して,会社法によって要求されている情報以外のある一定の情報の
開示を要求している。これに対して,インドの証券取引所は,上場会社に対して,法律上要
く の
求されている最低限の情報以上の開示を要求していない 。これは,投資家グループからの
圧力がないこと,追加費用が必要なこと,強制が困難なこと,および,法律上の開示要件の
みで情報ニーズを満たすのに十分であるという意識に原因があると思われる。投資家グルー
プからの,より多くの情報を求める圧力が少ないのは,インドの証券取引筋が,会社金融の
唯一の重要な源泉ではないからである。制度的金融の主要な源泉は,全国レベルでも,また
州レベルでも,金融機関(インド産業開発銀行,インド産業金融公社などを含む)である。
インドでは,会社資金を,資本市場よりもむしろ金融機関に大きく依存しているのである。
以上のことから明らかなように,会計および財務報告実務に及ぼす証券取引所の影響は,
インドよりもイギリスの方が大きいといえる。なお,両国とも,証券取引所は,上場要件と
して,職業会計基準(会計職業団体が妥当なものとして定めた会計基準)への準拠を強制し
ていない。
(5)学界の影響
インドの大学は,会計の発展に重要な影響を与えてきた。会計職業へ従事する人々は,多
くの場合,商学士の資格を取っている。大学の商学部では,財務会計,原価および管理会計,
監査,税制,それに,それらに関連する法律のすべての科目が開設されている。学生は,修
士課程へ進むことによって,一層,研究を深めることができる。事実,幾つかの大学では,
修士課程で上級レベルの会計学コース(advanced level accounting courses)が提供されて
いる。
大学はまた,調査研究にも従事している。大学の調査研究努力は,インドにおける会計知
識の核心部分の向上に,実質的に貢献していると考えられる。会計調査に関係のある団体に
は,「インド社会科学調査研究協議会」(ICSSR)と,「インド会計学会」(IAA)がある。 IC
SSRは,会計および財務管理の分野での調査を行っている。これに対して, IAAは,対象を
会計の調査研究に限定した,アカデミックな小団体である。会計調査研究は,多くの大学や
専門機関で行われており,また,会計職業界と学界との間にも密接な結びつきがある。
以上,要約すれば,インドとイギリスの両国では,高等教育機関が,将来の会計士のため
に基礎訓練を提供するとともに,アカデミックな調査研究も遂行しているといえる。アカデ
(10) ギュータ(Gupta)は,インドの証券取引所は,固定資産,売上高,関連会社,資金フロ「
取締役報告書および(取締役会)議長説明書といった分野で,一層多くの情報を上場会社に要求
すべきである,ということを示唆している(U.L.Gupta, Working of Stock Exchanges in
India, Thomson, New Delhi,1972, p.233)。
インドにおける会社の財務報告 ’ 75
ミックな調査研究やその他の活動は重要であるけれども,会計への影響という点では,会計
職業や政府のそれほど大きくはない。
⑥ 会計環境に及ぼすその他の影響
会計実務の発展に影響を及ぼすかもしれないその他の要因としては,多国籍企業の存在が
考えられる。また,IM:F,国連, OECDといった国際組織も,会計問題に関与しており,会
計の変化や発展に貢献しているかもしれない。さらに,経営者の姿勢も関係があるかもしれ
ない。インドおよびイギリスの両国では,経営者は,競争相手を利することになるのを恐れ
て,ある一定の情報を開示したがらないと云われている。こういつた経営者の考え方が,法
律上要求される最低限の情報のみを開示する実務を招くことになるのであるが,こういつた
傾向は,イギリスよりもインドの方で普通にみられる。
以上,会計および財務報告実務に影響を及ぼす各種の環境的要因について検討してきたが,
インドとイギリスの会計および財務報告実務には,基本的に類似性がみられる。しかし,イ
ギリスがECに加盟したことによって,イギリスの会計および財務報告実務は, ECから大
きな影響を受けてきている。例えば,EC第四号指令は, EC加盟国の会計実務および財務
諸表の様式・内容を調和させる目的で,1978年7月に発令された。このEC第四号指令の提
案を国内で実施するために,、イギリスは,1981年に,その提案を盛り込んで会社法を改正
した。今後とも,イギリスの実務は,ECによって大きな統制を受け続けることになるであ
ろう。これに対して,インドは,ECから直接,影響を受けることはない。インドは,自国
のニーズ(経済発展を計画するのに役立っ情報を要求する政府のニーズは強いのに対し,投
資家グループからのニーズは弱いという特徴がある)に適合するように,実務をリードすれ
ばよいのである。このことからも,今後ますます,インドとイギリスの会計および財務報告
実務の差異は,拡大して行くと予想される。
(11)
3.開示される財務情報の内容とその開示状況
ここでも,インドとイギリスの実務を比較する形で検討して行く。
.(1レ会計方針の開示
会計方針とは,会計実務において財務諸表(=計算書類)の作成・表示のために採用さ
れた会計処理,評価および表示の原則,基準,手続および方法等のうち,重要な指針となる
もののことであるが,1979年11月に,インドの会計基準審議会(ASB)は,会計基準書第
1号「会計方針の開示」(Disclosure of Accounting Policies)を公表した。その序文には,
次のようなコメントが述べられている。すなわち,「ここ数年間,インドの若干の企業では,
財務諸表を作成・表示する際に採用した会計方針についての別個の明細書を,年次報告書に
(11)Claire Marston, op.cit.,pp.58−90.
76
含める実務を採用してきている。しかしながら,一般には,現在,すべての財務諸表におい
て規則的に,かっ十分に開示されているとは限らない。多くの企業は,重要な会計方針の一
部についての記述を,計算書類の注記に含めている。しかし,開示の性質および程度は,会
計部門と非会計部門との間,および,同一部門内の単位間でかなり多様である」と。かかる
現状から,会計基準書第1号は,財務諸表を作成・表示する際に採用したすべての重要な会
計方針を,一括して財務諸表の一部として(つまり,注記として)開示すべきことを勧告し
た。しかしながら,マルストンの調査によれば,多くの会社が,いまだこの勧告を実施する
までには至っていないという。すなわち,調査した上場会社30社のうち9社だけが,会計
方針についての明細書を年次報告書に含めていたにすぎないという。現在のイギリスの実務
では,ほとんど例外なく,会計方針1ま,明細書としてか,または一括して注記において開示
く されており ,この点では,インドの実務と対照的である。
インド勅許会計士協会の調査研究委員会が1981年に202社を対象とした調査によれば,
インドで開示されている重要な会計方針と,その開示している会社数は,次のようである
(表1)。
表1:会計方針のディスクロージャー
会 計 方 針
ディスクローズしている会社数
(202社のうち)
棚卸資産の評価基準
131
減価償却方法
38
外貨建取引の換算
26
退職金の処理
14
固定資産の評価
9
研究開発費の処理
6
保険の方法
4
建設期間中の支出の処理
4
出所:Research Committee of the Institute of Chartered Accountant$
of India,‘Precedents in Published Accounts’1981.
(12)イギリスで開示されるべき会計方針の例として掲げられているものには,次のようなも,のがあ
る。1981年会社法で開示が義務づけられているものとしては,減価償却および資産の価値減少
に関する会計方針(付則第1の第36条)幽と,外貨換算に関する会計方針(付則第1の第58条第
1項)である。標準会計実務基準書痴を号「会計方針の開示」では,固定資産の減価償却三調査
開発費,特許権,商標権などの無形固定資産の会計処理および償却;棚卸資産および仕掛品;長
期契約;繰延税金;分割ないし割賦取引;リ.一ス取引およびレンタル取引;外貨の換算;修繕お
よび更新;連結方針;不動産開発取引;製品ないし用役の保証などに関する会計方針の開示を勧
告している(para.13)。
インドにおける会社の財務報告 . 77
次に,一つの具体的な例として,減価償却に関する会計方針の開示について検討してみよ
う。1982年11月に,インドのASBは,会計基準書第6号「減価償却会計」(Depreciation
Accoun七ing)を公表した。この基準書は,企業を律する規定(会社法や所得税法などの規
定)が,減価償却費の計算のための基礎を提供するだろうと説明している。そして,減価償
却に際しては,償却資産の償却可能額を,規則的な基準(つまり規則的な減価償却方法)に
基づいて,耐用年数中の各会計期間に配分すべきであると勧告している。さらに,選択され
た減価償却方法は,毎期,継続して適用されるべきであり,減価償却方法の変更は,法律の
要求に応じる場合,会計基準に準拠させる場合,あるいは,その変更によって財務諸表の作
成・表示が一層適切となる場合に限られるべきであると述べている。
会計基準書第6号は,減価償却に関して,次の情報が財務諸表で開示されるべきであると
いう。すなわち:
①償却資産の種類毎の取得原価,または,取得原価に代わるその他の金額
②償却資産の種類毎の当期の減価償却費の総額
③その減価償却累計額。
また,その他の会計方針の開示とともに,次の情報も財務諸表で開示されるべきであると
述べている。すなわち:
④適用した減価償却方法
⑤企業を律する規定に明記されている原則的な償却率と(実際に適用したそれとが)異
’なる場合には,その資産の減価償却率および耐用年数。
この会計基準書初6号が公表される前に実施された,インド勅許会計士協会の調査研究委
員会の調査(1981年)では,202社のうち,38社だけが,減価償却方法を開示しているに
すぎないということであった。また,マルストンの調査(1982/1983年)によれば,30社の
うち15社が,採用した減価償却方法を開示している。2社は,単に,減価償却費を,会社
ラ くユの
法定350条 または第205条(2)(b)に基づいて計算したと述べているにすぎない。残
りの13社は,減価償却方法について全く触れていない。これは,これらの会社が,所得税
法の規定する償却率を用いた定率法を採用したか,また拡,会社法第205条(2)(b)で規
定されている定額法を支持する会社法第305条で規定されている方法を採用したことを意味
しているのである。
(15)
インドにおける減価償却に関する会計方針の開示状態は,標準会計実務基準書第12号
(13)会社法第350条は,臨時償却および2倍加速償却を含む通常の減価償:却として,特定の率で計
算される総額を,純利益の計算に含められる減価償却費として規定している。
’(14)会社法第205条の(2)の(b)は,資産の原価の95%を耐用年数にわたって分割した額(っ
まり,定額法によって計算した額)を,純利益の計算に含める減価償却費としてもよいことを規
糾している。
(15)標準会計実務基準書第12号「減価償却の会計」(1977年12月一1981年11月改訂)は,次
の事項を,償却資産の主要な種類毎に財務諸表で開示すべきことを勧告している(para.22)。
(a)採用された減価償却方法;
(b)採用された耐用年数または償却率;
(c)当期に配分された減価償却費の総額;
(d)償却資産の総額とその減価償却累計額。
78
および1981年会社法によって減価償却に関する会計方針の開示が要求されているイギリス
ほど,満足なものではない。イギリスの会社では,一般に,減価償却方法以外に,資産の種
類毎の償却費や耐用年数を開示している。
② セグメント報告
セグメント報告に対するインドめ法律上の要求は,商品および用役の種類毎に売上数量と
売上収益を開示することである。商品および用役の種類毎の営業利益の開示は,要求されて
いない。輸出額は表示する必要があるが,地域的分析までは要求されていない。これに対し
て,イギリスでは,1981年会社法および1976年証券取引所上場認可規定によって,事業種
く の し
類別および地域別の売上高および利益の開示が要求されている 。さらに,1981年会社法
くユの ヨ
は,従業員数についてのセグメント報告を要求している 。そのセグメントの決定は,経営
者に委ねられているが,従業員数の地域的ないし機能的(事業の種類別)分析か,製品グルー
プ別分析かのいずれかが選択されることになると思われる。このように,セグメント報告に
ついての法律および証券取引所の要求の点からすれば,インドは,イギリスに比べて,かな
り見劣りしているといえる。
マルストンの調査によれば,調査したインドのほとんどの会社が,基本的な法律上の要件
は遵守していたという。しかしながら,製品ライン別の営業利益まで開示している会社は皆
無であり,わずかに,2社のみが,売上についての地域的分析を開示しているにすぎない。
その1社であるThe State Trading Corporation of India Limitedは,商品別の輸出および
輸入分析,さらには,国別の各輸出・輸入商品毎の合計を開示していた。また,もう1社の
The Indian Farmers:Fertilizer Co−operative I.imitedは,インドの州毎の肥料の売上明細
を,金額よりもむしろ重量で開示していた。インドの調査研究委員会の調査がセグメント報
告について何も言及していないことからも判るように,一般的に,インドでは,セグメント
報告については,あまり関心を持たれていないといえる。
(3)財政状態変動会計
1981年6月に,インドのASBは,会計基準書第3号「財政状態の変動」(Changes in:Fi−
nancial Position)を公表した。その序文で,多くの国々で,財政状態変動表が監査済計算
書類の一部として提供されるのが普通の実務になっている,とコメントしている。インドで
は,財政状態変動表は,法律上要求されていないが,かかる変動表を開示する進歩的な実務
(16)1981年会社法は,会社が2種類以上の事業を営み,それらの事業が相当程度異なる場合には,
その事業の種類毎の,(a)売上高および(b)税引前の利益または損失額を開示することを要求して
いる。また,会社が複数の市場(複数の国)で販売しており,それらの市場が相当程度異なる場
合には,各市最高の売上高を開示しなければならない(付則第1の第5年条)。1976年証券取引
所上場認可規定(1979年改軍)は,売上高の地域的分析および在外事業活動の利益の地域的分
析を要求している。ただし,後者については,損益に対する特定の地域からの貢献が異常な性質
のものでない場合には,不要とされる(第2章10(c>)。
(17)1981年会社法は,各区分別の従業員の平均人数を開示することを要求している。そして,そ
の場合の区分は,経営者が会社の活動を区分する方法を勘案して決定することができると規定さ
れている(付則第1の第56条(5))。
インドにおける会社の財務報告 79
があることも,事実である。会計基準書誌3号は,財政状態変動表が年次計算書類に添付し
て開示されるべきことを勧告した。財政状態変動表では,経営活動から供給される資金と経
営活動に使用される資金を区分して示すのであるが,各企業は,その置かれている状況に最
も有用な表示形式を採用すればよく,会計基準書跡3号は,三つの表示形式を掲げている。
これらいずれの表示形式も,イギリスの標準会計実務基準書第10号「資金の源泉および使途表」
(18)
(一般に「資金運用表」ないし「資金計算書」と訳出されている)に掲げられているもの
とは,正確には一致していない。
インドの調査研究委員会の調査では,202社のうち,非常に少数の会社のみが財政状態変
動表(=資金運用表)を開示していたにすぎないと述べている。これに対して,マルスト
ンの調査では,30社中12社以上が財政状態変動表を開示していたという。なお,イギリス
では,イギリス勅許会計士協会が調査(1977/1978年)した300社のすべてが資金運用表を
くユ 開示していた ということからも明らかなように,すでに,資金運用表は,実質的に,損益
計算書や貸借対照表とともに,正規の財務諸表に組み入れられているといえる。
(4)歴史的財務報告
事業年度別の歴史的財務総計を開示する実務は,イギリスおよびインドの両国とも,広く
普及している。法律上では,計算書類で前事業年度との比較数値を提供することを要求して
いるにすぎない。それにもかかわらず,会社は,一般に,過去数事業年度にわたる財務情報
を,比較可能な形式で提供している。インドの会社が,かかる歴史的財務情報を開示する傾
向は,最近数年間に増加したものである。
インドの調査研究委員会の調査によって,大多数の会社が,しばしば,適切な比率および
統計を掲げた多年度にわたる歴史的財務要約表を提供していることが指摘されている。そし
て,歴史的財務数値は,5年ないし10年にわたるものであった。マルストンの調査でも,30
社中19社以上が10年以上の歴史的財務情報を,そして7社が5∼9年の,2社が2∼4年の,
歴史的財務情報を提供していたという。イギリスにおいて,歴史的財務要約表が広く開示さ
れるようになったのは,法律的要求によるものでも,また,証券取引所上場認可規程に基づ
く の
くものでもない。1964年の証券取引所理事長の要請によってであるといわれている 。そして,
現在では,ほとんどすべての会社が,歴史的財務要約表を開示するまでに至っているのである。
(5)単純計算書類および財務ハイライト
法律で要求されている詳細な計算書類に加えて,単純化された計算書類や財務ハイライト
(18)標準会計実務基準書目10号は,1975年7月半公表され,資金運用表は監査の対象となる財務
諸表の一部でなければならない(para.6)と述べている。また,付録で,資金運用表の三つの
雛型を示している。
(19)イギリスの資金運用表開示の推移に関する調査結果については,藤田幸男「イギリスにおける
資金情報の開示」企業会計31巻8号(1979年8月),61頁に詳しい。
(20)大矢知浩司「イギリス計算書類の特徴」彦根論叢i208号9 i1981年5月),99頁。
80
の明細表を開示する実務は,インドとイギリスの両国で広く行われている。「概況」とか
「当年度の吟味」など,さまざまな見出しで,財務ハイライトの一覧表ないし明細表が提供
されたり,また,一部の会社のように,主要な項目および数値のみを示した要約損益計算書
および要約貸借対照表が提供されたりしている。これらは,要約賢覧的に,重要な財務情報
を提供しようというものである。:インドの調査研究委員会の調査によれば,大多数の会社が,
年次報告書の一部として,しばしば,適切な比率や統計を伴う過去数事業年度にわたる要約
を提供しており,さらに,一部の会社では,当事業年度の貸借対照表と損益計算書を単純化
し,要約したものを提供しているという。こういつた単純計算書類や財務ハイライトを提供
する実務は,今後ますます普及し続けるだろうということが謝査上,予想されている。
(6)生産能力および原材料の消費に関する報告
インド政府は,産業の成長をコントロールするための法律を制定した。「独占および制限
的商慣行法」(1970年)によって,大企業は,認可を受けた生産能力の範囲内に生産能力を
留めなければならない認可生産能力制度(一般には産業認可制度と呼ばれている)に服する
ことが求められた。したがって,生産能力を拡大するためには,事前に,中央政府に申請し,
認可を受けなければならないのである。この制度ないし政策の目的は,大企業の生産能力を
抑制することを通じて,かかる法律の対象とならない小企業の成長を促すことであった。そ
れはともあれ,この制度を有効に機能させるために,会社法は,認可済生産能力と稼働生産
能力の開示を要求した。認可済生産能力と稼働生産能力は,各製品別にそれぞれ示されなけ
ればならないとともに,その際の表示単位は,認可状に記載されている数量単位でなければ
ならない。さらに,すべての製造会社は,それらの生産能力に加え,実際の生産量も開示す
ることを要求されている。
また一方で,消費したすべての重要な基礎原材料の数量および金額を,項目毎に開示する
ことが要求されている。原材料,補助材料,予備部品および資本財を輸入している場合には,
それぞれの輸入額もまた開示しなければならないのである。イギリスでは,生産能力や原材
料の消費に関する特別の報告は求められていない。
(7)予測情報
イギリスにおいても,また,インドにおいても,法律上,年次報告書でめ利益予測に関す
る情報の開示は要求されていない。インドでは,取締役報告書において会社の業務状況の開
示が求められているので,広く解釈すれば,ここで利益予測情報の開示が法的に要求されて
いるといえるかもしれない。インドの調査研究委員会の調査によれば,(取締役会)議長説
明書では,共通して,会社の将来の見通しについて,漠然と,具体的な数字を示さないで説
明しており,調査した202社のうち104社が,取締役報告書に,将来の計画についての情報
を含めていたということである。マルストンの調査でも,予測情報を開示していた会社があっ
たという。例えば,The Tata Iron and Steel Company Limi七edの取締役報告書では,「当
年度の見通し」,「近代化:犠牲と便益」および「展望」という見出しの下に,将来的な情報
インドにおける会社の財務報告 、 81
が示されていた。そこでは,利益予測情報は示されていなかったものの,近代化計画のコス
トの明細が示されていた。また,Bharat Earth Movers Limitedの取締役報告書でも,会
社の将来の発展計画について述べた,「業績と予測」と題する節が含まれていた。
イギリスでは,議長説明書や取締役報告書での予測情報以外に,上場会社または上場申請
会社が取引所に提出する目論見書において,また,公開買付け・合併(takeover bids and
merges)の際に開示される予測情報が関心を呼んでいる。さらに,1975年7月に公表され
た「会社報告書」(The Corporate Report)が,将来の利益,将来の雇用の見通し,将来の
投資の見込みなどの情報を含む「将来予測報告書」の作成を提案していることも注目される。
そして,こういつたことを受けて,イングランド・ウェールズ勅許会計士協会は,1978年
11月に,利益予測に関する監査のあり方を示した基準書第23号「利益予測に関する会計士
の報告書」(Accountants Reports on Profit Forecasts)を公表したのである。しかし,現
在までのところ,「将来予測報告書」が年次報告書の一部として一般に公表されるまでには
至っていない。
(8)損益計算書での情報開示
インドおよびイギリスの会社法は,計算書類の本文で,また補足的注記において損益に関
して開示すべき一定量の情報を規定している。イギリスでは,1981年会社法によって,開
示すべき情報が大幅に拡大されており,証券取引所は,法的に開示が要求されている以外の
情報まで開示を求めている。インドでは,証券取引所は,情報の追加的開示を要求していな
い。インド会社法は,損益計算書の形式について特に規定していないが,次のような事項の
開示を要求している6
1(a)総売上高,すなわち会社により達成された売上総額であり,ここでは,会社の扱う
商品の種類別の売上額と売上数量をも示すものとする。
(b)総販売代理人に支払われた手数料。
(c)その他の販売代理人に支払われた手数料。
.(d)通常の取引上の割引以外の販売仲介料および売上割引。
2 製造会社の場合:
(a)消費した原材料の項目毎の金額および数量。 1
(b)製品の種類別の期首在高と期末在高,並びに出庫額と出庫量。
3 李易企業の場合:
(a)取り扱い商品の種類別の総仕入高と期首在高お去び期末在高。
4 用役の提供または供給を行う企業の場合:
(a)提供または供給した用役から生ずる総収益。
5 2,3および4で言及した範例の二つ以上に該当する会社の場合には,期首および期
末在高,仕入,売上,それに,原材料の消費に関して総額を示すとともに,それぞれの
金額および数量を示し,かっ提供した用役からの総収益を示しているときには,要件を
82
十分に遵守したものとみなす。
6 その他の会社の場合には,異なった見出しの下で,稼得した総収益。
7 仕掛りを有する企業の場合には,完成品の期首および期末の数値。
8 固定資産の減価償却,更新または価値の減少に対して引き当てられた額。そういった
引き当てが減価償却費という手段によってなされていない場合には,かかる引き当てを
行うために採用された方法。全く引き当てがなされていない場合には,その事実が記載
されるものとし,法第205条第(2)項に従って計算された減価償却遅滞額が注記で開示
されるものとする。
9 会社の社債およびその他の固定借入金,すなわち固定した期間の借入金,に関する利
息額。また,もしあれば,業務執行取締役に対して,そして,もしあれば,支配入に対
して支払われた,または支払われるべき利息額を,別々に区別して表示する。
10利益に対するインド所得税,および,その他のインドの課税による賦課額。もしあれ
ば,インド所得税からの軽減の適用を受けて他に課せられる税額。その場合,可能であ
れば,異なる税金毎に区別して表示するものとする。
11以下に対する準備金:
(a)株式資本の払戻し,および
(b)借入金の返済。
12重要であれば,準備金に積み立てられた,または積み立てられるべく予定されている
額および,準備金の取り崩し額の総額。ただし,貸借対照表作成日において存在して
いることが判明している特定の負債,偶発債務,またはコミットメントに当てられる引
当金は含まれない。
13重要であれば,特定の負債,偶発債務またはコミットメントに当てられる引当金とし
て積み立てられた額または,不要となった引当金を取り崩した額の総額。
14 次の各項目について,各項目毎に生じた支出:
(a)貯蔵品および予備部品の消費。
(b)動力および燃料。
(c)賃借料。
(d)建物の修繕。
(e)機械の修繕。
(f)(i)給料,賃金および賞与。
(n)傷害その他の基金に対する負担金。
(皿)労働者および職員の福利厚生費(前年度の引当金または準備金を取り崩さない
範囲で)。
15(a)取引上の投資とその他の投資を区別しての,投資からの収益額。
(b)収益の性質を明記した,その他の受取利息。
インドにおける会社の財務報告 83
(c)上記(a)および(b)号において総収益で表示されているときは,控除される所得税額。
16(a)前年度の引当金または準備金を取り崩さない範囲での,合名会社の構成員の計算で
獲得した利益,または蒙った損失の程度を区別して示した,投資に基づく損益。
lb)金額的に重要であれば,会社によって通常行われない,または,例外的ないし非反
復的な性質を有する状況において行われた種類の取引に係る損益。
(c)雑収益。
17(a)従属会社からの利益配当。
(b)従属会社の損失に備えての引当金。
18支払われた,または宣言された配当金総額。この場合,かかる額が所得税を控除され
ているか否かを明記する。
19重要であれば,会計基準の変更に伴う影響。
上記の情報に加え,さらに多くの情報を,損益計算書に対する注記事項として開示するこ
とが,会社法によって要求されている。
以上で,開示される財務情報の内容および開示状況についての検討を終えるが,インドで
は,調査研究委員会の,202社を対象とした調査結果をまとめた『公表計算書類の慣行』が
指摘しているように,,最近では,法律によって要求されている以上の情報を開示する傾向が
みられるようになった。しかし,それは,まだまだ一部の特定の進歩的な企業に限られたも
のである。インドとイギリスは,多くの類似性を有しながらも,全体として,インドの財務
報告書での情報の開示は,イギリスほど包括的なものとはいえないように思われる。
4.おわりに
若干の資料を追加しながら,マルストンの『インドにおける財務報告』(1986年)に従っ
て,インドとイギリスにおける財務情報の開示について述べてきたのであるが,最後に,ま
く め
とめとして,マルストンが調査したインドの上場会社30社 と,イングランドおよびウェー
(21)調査対象のインドの会社名および計算書類の決算日は,以下の通りである。
会社名 計算書類の決算日
Ashok Leyland:Limited 1982年12月31日
Associated Cement Company Ulnited ・ 1983年7月3ユ日
Bata India Umited ’ 1982年12月31日
Bharat Earth Movers Limited 1982年3月31日
Binny:Limited ’ 1983年6月30日
Ceat Tyres of India 1」imited 1983年3月31日
Crompton Greaves Limited 「 1983年6月30日
Dunlop lndia:Limited 1982年12月31日
Godfrey phillips lndia:Limited 1982年12月31日
84
ルズ勅許会計士協会が調査した1982/1983年のイギリ.スのトップ企業500社から抽出した
く 300社について,一定の重要な財務情報項目の開示状況を比較したものを,一覧表にし.て
く 示しておくことにする。
Gujarat State Fertilisers Company:Limited 1982年12月31日
Hindustan Ferodo Hmited 1982年12月31日
ノ
Hindustan Motors Limited .1983年3月31日
Indal Aluminium Company Limited .「 1982年12月31日
Indian Airlines . . 、 1982年3月31日
The Indian Cable Company Limited ・.1983年3月31日
Indian:Farmers FertilisOr Co−operative Limited 1982年6月30日
The In“ian Tube Company Limited 『 1983年3月31日
JagatjiもCotton Textile Mills:Limited . ‡983年.4月30目
Larse血and Toubro L,imited ’ 1982年9月30日
National Organic Chemical Industries Hmited 1982年12月31日
Peico庖lecもronics and Electricals Limited(Philips) 、1982年6月$0日
Shaw Wallace and Combany員miもed ・ 1982年12月31日
The State Trading Cofporation of India Limited 1983年3月31日
Straw Products Limited ’ 1982年12月31日
.The Tata Engineering and Locomotive Company:Limited 19呂3年3月31日
The Tata Iron and steel companン:Limited . . 1983年3月31日
The Tata Oii Mills Company:Limited ・ 』 1983年3月31日
Unioh Carbide lndia:Limited ’ . 1983年12月25日
The vazir sultan T6bacco company:Limited 1982年9月30日
Voltas Li頭ted .. . .. 1982年「6月3q日
(22) ‘:Financial Reporting 1982−83:ASurvey of UK Published Accounts’pu,blished by
the Institute of Chartered Acco廿ntants ill England and Wales。
(23)Claire Marston, op. cit.,pp.123−130 and ppr 139−142.. ,
85
インドにおける会社の財務報告
インドおよびイギリスの財務報告に関する調査結果の要約
イ
情 報 項 目
イ ギ リ ス
ド
ン
難ている%
鰍ている%・
(1)財務的歴史:
・10年以上
19 63
91 30
・、5年以上9年以下
’7 23
18 6
・2年以上4年以下
i 13
181 60
30
290
30 100
212
71
2 7
199
66
② セグメント報告:製品ライン別
・売上高
・営業利益
㈲ セグメント報告:地域別
・売上高
2 7
・(輸出のみ)
(28) (93)
・営業利益
0 0
ゑ
229
・在外活動のない会社
76
48 16
(4)資本的支出:当期中のもの
・明細なし(総額)
0 0
0 0
30 100
300 100
・明細なし(総額)
0 0
300 100
・少なくとも二種類以上
1 3
・部分的で不完全な情報
3 10
・少なくとも二種類以上
⑤ 資本的支出:計画されているもの
・契約上のコミットメントのみ
}・
0
里 87
30
⑥ 減価償:却方法
・完全な開示
・会社法に準拠
・開示なし
282 94
15
50
2
7
里
43
30
(7)資金計算斉
12
40
(8)留保利益計算:書
30
100
(9)固定資産の構成
30
100
㈹ 棚卸資産の構成
30
100
ω 価格変動修正財務諸表
l;1
100
鑑
(1)
75
95
0 0
};1}
26 87
98
・証券投資のない会社
・適用不能
α3)通:貨の換算方法
100
77
(・在高のない会社)
(B市場性のある有価証券の市場価格
;ll
9 30
159
86
8 27
192
64
αの 外国為替損益
・外国為替損益を損益計算書に反映
させる場合と方法についての開示
⑮ 売上高および粗売上利益
30 100
・売上高が粗売上利益のみ
300 100
・両方
0 0
q6)所得税の開示
’講祭課脚る所得税について 2997
※売上高と営業利益の両方を開示している会社といずれか一方のみを開示している会社が含まれている。
300 100
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