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Salmonella Newport が分離された搾乳牛の下痢

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Salmonella Newport が分離された搾乳牛の下痢
症例報告
Salmonella Newport が分離された搾乳牛の下痢発症事例
岸本加奈子1) 兼廣 愛美1) 上川真希佳2)
清水 和1) 秋山 昌紀3)
(受付:平成 24 年 12 月 19 日)
A milking cow with diarrhea from which Salmonella Newport was isolated
KANAKO KISHIMOTO 1), MEGUMI KANEHIRO 1), MAKIYO KAMIKAWA 2),
MADOKA SHIMIZU 1)and MASANORI AKIYAMA 3)
1)Western Center for Livestock Hygiene Service, Hiroshima Prefecture,
1-15, Saijogojo-cho, Higashi-Hiroshima, Hiroshima, 739-0013
2)Northern Center for Livestock Hygiene Service, Hiroshima Prefecture,
1-4-1, Higashihon-machi, Shoubara, Hiroshima, 727-0011
3)Eastern Center for Livestock Hygiene Service, Hiroshima Prefecture,
1-1-1, Miyoshi-cho, Hukuyama, Hiroshima, 720-8511
SUMMARY
Salmonella Newport was isolated from feces of a milking cow which developed
diarrhea and fever on a dairy farm in this prefecture in 2011. The isolate was resistant to
multiple drugs on a drug sensitivity test, and possessed intI on a Salmonella virulent
gene test, suggesting that this drug-resistant strain may expand on the farm, for which
the careful selection of antibiotics and monitoring of the farm are necessary.
── Key words: Salmonella Newport, multiple drug resistance, intI
1)広島県西部家畜保健衛生所(〒 739-0013 広島県東広島市西条御条町 1-15)
2)広島県北部家畜保健衛生所(〒 727-0011 広島県庄原市東本町 1-4-1)
3)広島県東部家畜保健衛生所(〒 720-8511 広島県福山市三吉町 1-1-1)
─ 29 ─
広島県獣医学会雑誌 № 28(2013)
要 約
平成 23 年に県内酪農家で下痢,発熱を呈した搾乳牛の糞便から Salmonella Newport が
分離された.分離された株は,薬剤感受性試験により多剤耐性が認められ,サルモネラ病原
性遺伝子検査において intI の保有が確認された.このことは,薬剤耐性株が農場内に拡がる
可能性を示唆しており,抗生剤を慎重に選択するとともに,発生農場のモニタリングを続け
ることが重要と考えられた.
──キーワード:Salmonella Newport,多剤耐性,intI
序 文
Salmonella Newport(SN)は,牛に対する病原性
が確認されており,搾乳牛が発症した場合,激しい水
様性下痢と急激な乳量の低下を引き起こす1).また,
公衆衛生上,食中毒の原因菌としても報告があり,近
年,多剤耐性を示す SN の存在が問題となっている2).
今回,県内酪農家で,2日間という短期間に牛群全体
に下痢がまん延した症例において,SN が分離された
3 方法
1)細菌学的検査
分離及び同定は,糞便を材料とし,5%羊血液
寒天培地,DHL 寒天培地,ハーナテトラチオン
酸塩培地を用い,常法により実施し,分離された
菌はラピッド ID32E で同定した.
サルモネラ属菌と同定されたものについては,
サルモネラ血清型別試験を行い,O 抗原につい
てはスライド凝集反応で,H 抗原についてはマ
イクロプレート凝集反応で実施した.
薬剤感受性試験は,
一濃度ディスク拡散法(BD
社)により,アンピシリン(ABPC)
,アモキシ
ことから,その概要を報告する.
材料と方法
シリン(AMPC)
,セファゾリン(CEZ)
,セフ
ロ キ シ ム(CXM)
,オキシテトラサイクリン
(OTC)
,クロラムフェニコール(CP)
,ST 合剤
(SXT)
,ストレプトマイシン(SM)
,カナマイ
1 発生概要
成牛 44 頭を飼養している県内酪農家で,平成 23
年6月6日,搾乳牛2頭に下痢,発熱及び呼吸器症状
を認めた.翌日には同居牛にも同様の症状を認め,初
発の牛に加え,発症牛が 17 頭に拡大した(図1)
.
さらに,初発の2頭が起立困難になるなど,臨床症状
の悪化を認めたため,診療獣医師から病性鑑定依頼が
あった.
シン(KM)
,ゲンタマイシン(GM)
,コリスチ
ン(CL)
,ナリジクス酸(NA)
,エンロフロキサ
シン(ERFX)について実施した.
サルモネラ病原性遺伝子検査は,PCR 法によ
り実施し,組織侵入に関与する invA については
Swamy らの方法3),薬剤耐性遺伝子の伝播に関
する intI については Izumiya らの方法4)で実施
した.
2)ウイルス学的検査
糞便,鼻腔スワブ及びペア血清を材料として,
ウイルス分離,遺伝子検査,蛍光抗体法及び抗体
検査を実施した.
遺伝子検査は牛コロナウイルス,牛 RS ウイル
ス及び牛ウイルス性下痢(BVD)ウイルス,蛍
光抗体法は牛伝染性鼻気管炎(IBR)ウイルス,
抗 体 検 査 は BVD ウ イ ル ス, 牛 RS ウ イ ル ス,
IBR ウイルス,牛パラインフルエンザウイルス
3型(PI-3)
,牛コロナウイルス及び牛アデノウ
イルス7型(BAd-7)について実施した.
図1 発生概要
2 材料
臨床症状を示した搾乳牛9頭の糞便9検体(No. 1
〜9)及びうち5頭の鼻腔スワブ及びペア血清5検体
(No. 1〜5)を用いた.
─ 30 ─
広島県獣医学会雑誌 № 28(2013)
成 績
表 4 ウイルス抗体検査結果
BVD BAd-7 牛 RS
1 細菌学的検査
糞便9検体全てからサルモネラ属菌が分離され,血
清型別試験により,SN と型別された(表1)
.この
3
うち,10 cfu/ml 以上分離された検体(No. 2,7,8,
9)について薬剤感受性試験及びサルモネラ病原性遺
伝子検査を実施した.
No.1
No.2
No.3
No.4
表 1 SN 分離結果
検体
菌量(cfu/ml)
No.1
増菌培養により分離
No.2
7.6 × 105
No.3
増菌培養により分離
No.4
増菌培養により分離
No.5
増菌培養により分離
No.6
9 × 10
No.7
5.0 × 105
No.8
6.3 × 103
No.9
4.3 × 104
No.5
薬剤名
No.2
No.7
No.8
ABPC,AMPC
R
R
R
R
CEZ,CXM
R
R
R
R
No.9
OTC
R
R
R
R
CP
R
R
R
R
SXT
R
R
R
R
SM
R
R
R
R
KM
S
I
I
I
GM
S
S
S
S
CL
S
S
S
S
S
S
S
S
+++
+++
+++
+++
320
10
≧ 128
<2
32
320
≧ 640
Pre
32
20
64
2
64
Post
128
20
≧ 128
2
64
320
32
64
≧ 256
160
160
Pre
≧ 256 < 10
Post
128
40
32
64
128
Pre
<2
40
64
<2
128
40
40
32
<2
128
40
Post ≧ 256
< 10
16
64
64
80
Post ≧ 256 < 10
16
128
32
80
Pre
<2
はなかったため,SN,BVD 及び BAd-7 の農場への
侵入経路については不明であったが,短期間で下痢が
牛群全体にまん延したのは,SN に加え,BVD 及び
BAd-7 の関与が考えられた.
今回分離された SN は,セフェム系薬剤を含む8薬
剤で耐性を認め,多剤耐性を示した.近年,セフェム
系薬剤耐性を示す SN が国内外で分離されている2,5).
能性が考えられた.
発生農場での対応として,今回の検査結果を受け,
ニューキノロン系薬剤に変更することにより,短期間
で終息することができた.しかし,今後,薬剤耐性遺
伝子の獲得により,耐性を示す薬剤が増加することも
考えられるため,対策にあたっては,慎重に薬剤を選
択すると共に,発生農場のモニタリングを続けること
が重要と考えられた.
謝 辞
表 3 サルモネラ病原性遺伝子検査結果
No.8
32
Post ≧ 256
が分離されてきているため,ヒトの医療への影響が危
惧されている2,6).また,今回分離された株は,薬剤
耐性遺伝子の伝播に関与する intI を保有している株
が認められた.このため,耐性株が農場内に拡がる可
及び8の2株で陽性となった(表3)
.
No.7
<2
さらに,SN 以外の血清型でもセフェム系薬剤耐性株
サルモネラ病原性遺伝子検査は,invA 遺伝子につ
いては4株全てで陽性,intI 遺伝子については No. 7
No.2
≧ 128
本症例は,初発から2日間で牛群の約 40%が下痢
を発症し,短期間で牛群全体にまん延した.細菌学的
検査により,糞便全検体から SN が分離され,ウイル
ス抗体検査では,BVD 及び BAd-7 の抗体価の有意な
上昇が認められた.発生前,1ヶ月間に牛の導入など
表 2 薬剤感受性試験結果
NA
PI-3 牛コロナ
10
まとめ及び考察
薬 剤 感 受 性 試 験 は, 4 株 全 て に ABPC,AMPC,
CEZ,CXM,OTC,CP,SXT,SM の耐性を認めた.
KM は 1 株 の み に 感 受 性 を 認 め,GM,CL,NA,
ERFX は4株全てに感受性を認めた(表2)
.
ERFX
IBR
≧ 256
Pre
No.9
invA
+
+
+
+
intI
-
+
+
-
今回,サルモネラ血清型別試験ならびにご助言をい
ただいた,動物衛生研究所細菌・寄生虫研究領域の秋
庭正人先生に深謝します.
2 ウイルス学的検査結果
抗体検査では,No. 2,4及び5で BVD が,No. 3
文 献
で BAd-7 が抗体価の有意な上昇を認めた(表4)
.
なお,ウイルス分離,遺伝子検査及び蛍光抗体法
は,全検体陰性であった.
1)佐藤静夫:わが国における牛のサルモネラ症の発
生状況と対策,臨床獣医,24(3)
,10-14(2006)
2)野 末 紫 央: 搾 乳 牛 か ら 分 離 さ れ た 多 剤 耐 性
─ 31 ─
広島県獣医学会雑誌 № 28(2013)
Salmonella Newport,臨床獣医,24(3)
,23-27
(2006)
3)Swamy, S.C., et al.: Virulence Determinants
invA and spvC in Salmonella isolated from
Poultry Products, Wastewater, and Human
Sources. Appl. Environ. Microbiol. Oct, 37683771(1996)
4)Izumiya, H., et al.: Characterization of MultidrugResistant Salmonella enterica Serovar
Typhimurium Isolated in Japan. J.Clin.
Microbiol. July, 2700-2703(2001)
5)石 畒 史 ら: 多 剤 耐 性 Salmonella Newport の
国内初報告例,感染症誌,78,989-990(2004)
6)菅原 克ら:近年の牛由来 Salmonella Typhimurium
の薬剤耐性に関する考察,平成 19 年度福島県家
畜保健衛生業績発表会集録
─ 32 ─
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