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医学教育国際認証と反転授業による社会医学授業改革
医学教育国際認証と反転授業による社会医学授業改革 守山正樹・福岡大学医学部 〒814-0180 福岡市城南区七隈 7-45-1 Tel:092-801-1011x.3310 Fax:092-863-8892 E-mail. [email protected] 1.はじめに 現在「2023 年問題」への対応が医学教育の緊急課題 となっている。 「米国の医師国家試験:受験資格審査で、 米国外出身者は、国際認証を受けた医学部卒でない限 り、2023 年以降は受験資格を認めない」と全世界に通 達されたことが事の発端である。これを契機に日本の 医学教育が明治以来、本質的に変化していない事実が 「医学教育のガラパゴス化」と表現され、国際認証を 目指す改革が謳われ始めた。 「長すぎる授業時間(1 コマ 90 分)を 50 分へ」 「臨床実習時間 30%増加」 「英語力向上」 「医学生の自学自習の啓発支援」等、対応が求められ る。社会医学の授業につき授業改革の試みを開始した。 2.方法 授業時間を短縮するために、従来の 90 分授業の内容 を 15 分程度に圧縮する方法として、動画を用いるマイ クロレクチャ-の実験を始めた。動画の作成では、試 行錯誤を繰り返した結果、以下の2方針を採用した。 ① パワーポイントは用いない。(理由)パワーポイ ントで情報を詰め込むと、考える習慣が失われる。 ② 動画の時間は 15 分以内を目指す。 (理由)学生の 集中力が持続するのは最大限は 15 分程度と予測した。 本試行ではネットがあればどこででも使用できる YouTube、Blogger などのサービスを活用した。映像化 は当初 Web カメラを黒板前に設置し、その前で授業す ることを考えたが、カメラ設置から空き教室の確保に 至るまで制限が多い。そこで、より自由に、自宅や研 究室の片隅でも実行できる方法を模索し、iPhone の使 用に行き着いた。特に iPhone 前面のカメラは鏡的使用 が可能で、自身の映像を撮ることができる。結果とし て、椅子に着席し、iPhone が目の高さに来るよう、両 面テープで柱などに固定する方式を採用した。 大学の研究室・自宅・出張先で時間を見つけて映像 の試作を続け、2014 年 1 月から8月までの間に以下2 系統の授業用映像(マイクロレクチャー)を作成公開した。 ・社会医学 1)(医学部3年生用)9 回 ・医学概論 2)(医学部3年生用)6 回 4月からの社会医学の授業で反転授業を目指した。 学生には事前に自宅で映像を見るよう伝えた。毎授業 の冒頭で映像内容に関する小試験 10 分間を行った。そ の後、重要概念を中心に 40 分説明を補足、後半 40 分 は授業ボランティア(元患者さん等)との意見交換を行った。 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成26年度 教育改革ICT戦略大会 3.結果 実証実験では設備やシステム面の検討は不要だった ため、 「社会医学の知識・情報をどのように映像化する か」「反転授業として成立するか」「授業の動画をどの ように受け止めるか」等の質的検討に焦点を絞った。 1)知識を映像化する戦略の検討 【 a.キーワードのミニプラカード化】 黒板への板書の代わりとして、キーワードをミニプ ラカード化した。学生からは「電子的な字幕よりも、 情報が身近に感じられる」との感想が得られた。板書 よりも表示速度が速く、他の画像やキーワードと組合 せ、さらに移動しながらの表示が可能なため、印象に 残りやすい。字体は工夫が必要である。 【b.サインランゲージ(手話)の活用】 社会医学の重要な概念であるノーマライゼーション やインクルージョンを活かした授業とするため、母子 保健・職業保健などの授業の際は、言語表現だけでな く、初歩的な手話表現を取り入れた。 【c.重要な古典の一節を朗読して引用】 映像に、社会医学的に重要な古典の朗読を組み込み、 動画中の情報の情報元を体感的に示すことで、学習者 が啓発され、古典学習への関心が上がる、と期待され る。動画中心の電子的授業においても、旧来の印刷さ れた書籍が持つ意味は大きいと考えられた。 【d.地域を体感的に示す】 学生が地域の保健所や介護施設の見学・体験実習に 行く前週の地域保健の授業で、動画に実際の地域の映 像を組み込み、体験と知識が結びつくことを期待した。 【e.疾病や障害を体感的に示す】 疾病・障害の分類と医療/福祉の役割を示した際は 視野欠損によるロービジョンの状態を学生が体感でき る映像を用いた。視覚障害体験実習では学生はアイマ スクを装着するが、iPhone カメラのレンズの一部を覆 うことにより、映像からの疑似体験が可能になる。 【f.日用品による社会医学概念のシミュレーション】 予防は社会医学の中心概念だが、感染症では「外部 からの病原体侵入阻止」生活習慣病では「自身の生活 の内省」と焦点が異なる。疾病を判別する健康診断で は「ふるい分け」の概念が有効である。これらの概念 のシミレートし、イメージ化に役立つ日用品を示した。 【g.対話と思考の過程を示す】 社会医学の実践では、専門家の知識を分りやすく 人々に伝える一方、人々の考えを専門家が学ぶ必要が ある。発話や思考過程を模擬的に可視化して示した。 【h.動画内容の文字表示】 動画で話す全内容を Blogger で文字で示し、動画自 体は YouTube の映像を Blogger に組み込んだ。 2)学生の反応 7月の記述式・中間試験成績の平均値を昨年と比べ た結果、昨年 65.7 点に対し今年 71.2 点(学生 120 名 と向上した。Blogger 社会医学のページビュー数は授業開 始前1~3 月が 69、4月 1131、5月 1372、6月 504、 7月 1366、8月(20 日まで)371、総計 4813 だった。 公益社団法人 私立大学情報教育協会 平成26年度 教育改革ICT戦略大会 同期間の YouTube 視聴は総数 1345 だった。授業前・ 小試験時の学生の様子から、実際に映像で予習した学 生は 60%程度と推定された。社会医学授業全 9 回中、 各 回 学 生 の 60 % が 予 習 / 復 習 し た と し て 、 各 人 の YouTube 視聴を平均 1.5 回と仮定すると全 972 回、1345 の 72.3%となる。残りは学外者の視聴と推定される。 3)影響 授業中に使用したキーワードの幾つかは Google や Yahoo による通常のネット検索で、第1位の「マイクロ レクチャー」を始め、上位にヒットする場合が増えた。 「職業保健、社会医学、医の倫理、医学モデル、意識 化、エンパワーメント、親子保健、疾病の自然史」な どの言葉は第 20~40 位に位置付けられている。 4.考察 社会医学の授業に関しては、マイクロレクチャーの方式により、 授業の質を落とさずに、授業時間を短縮する目途がつ いた。医学部の他の基礎医学科目、臨床医学科目、あ るいは他学部の授業にも応用が可能だと考えられる。 YouTube、Blogger など、誰でも、何処ででも利用で きるメディアを使用しているため、従来の閉じたネッ トワーク内で行われる教育活動を越えてしまったが、 双方向システムではなく、遠隔地の視聴者のケアは困 難である。グローバル化の中、継続検討が必要である。 かって筆者が受けた医学教育は「分厚い書籍、板書、 掛け図、青焼きスライド、謄写版印刷物」などが組み 合わされたものであった。一方、過去 10 年来の医学教 育は「分厚い教科書、パワーポイント、パソコン印刷 物」に変化し、昨年あたりからは「電子ブック、パワ ーポイント」へと移行しつつある。しかし教員側の教 える技術、学生側の学ぶ技術は、大して変化していな い。高校時代までにせっかく身につけた「ノートを取 る技術」を使う局面を見出さないまま、膨大な医学知 識を前に、プリントや教科書に線を引くだけで精いっ ぱいの学生が多い現状を変える必要があろう。 医学教育の国際認証が進めば、授業自体の英語化も 視野に入れる必要がある。医学部での通常の授業を丸 ごと英語化する見通しは立っていない。しかしマイクロレクチ ャーの短時間の範囲であれば、作成 4)も視聴も難しくない。 通常の授業に組み込むことが可能である。 今回マイクロレクチャー試作を通して、改めてどう教えるべき か、考えさせられた。電子ブックや整備されたネット 環境の存在だけでは、反転学習は成立しない。ネット 時代の教え方の開発が求められる。 参考資料 (ML: 1)社会医学ML 2)医学概論ML 3)研究考察ML 4)英語 ML(試作段階) 5)ウェブサイト Micro-lecture) http://social-med.blogspot.jp/ http://liberal-med.blogspot.jp/ http://taiwa-act.blogspot.jp/ http://jp-senses.blogspot.jp/ http://www.wifywimy.com/