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4.3.9 NEXT in 西宮事業
4.3.9 NEXT in 西宮事業 1462 目次 事業概要 ............................................................................................................................... 1464 4.3.9.1 4.3.9.1.1 本事業の背景と目的 ......................................................................................................... 1464 4.3.9.1.2 本事業の実施体制とスケジュール ................................................................................... 1467 4.3.9.1.3 本事業の概要 .................................................................................................................... 1473 本事業の成果 ........................................................................................................................ 1475 4.3.9.2 4.3.9.2.1 本事業で実施した疾病管理等 .......................................................................................... 1475 4.3.9.2.2 本事業で構築したシステム .............................................................................................. 1481 4.3.9.2.3 実証について .................................................................................................................... 1506 4.3.9.2.4 成果評価 ........................................................................................................................... 1509 4.3.9.2.5 事業継続性の検討 ............................................................................................................ 1519 総括(本事業の取りまとめ) .............................................................................................. 1524 4.3.9.3 4.3.9.3.1 本事業で把握された課題と解決に向けた検討 ................................................................. 1524 4.3.9.3.2 総括 .................................................................................................................................. 1525 【参考資料】 実証で使用した契約書や同意書等 ・別紙 1:患者説明書 ・別紙 2:同意書・同意撤回書 ・別紙 3:医師説明書 ・別紙 4:運用管理規程 ・別紙 5:業務委託契約書 臨床検査情報連携基盤実証事業結果報告書 1463 4.3.9 NEXT in 西宮事業 4.3.9.1 事業概要 4.3.9.1.1 本事業の背景と目的 4.3.9.1.1.1 本事業の背景 厚生労働省発表の「人口動態統計の概況」によると、平成 23 年 1 年間の死因別死亡総 数のうち、心疾患(高血圧性を除く)は 19 万 4,926 人で 15.6 パーセントを占め、悪性新 生物(がん)に続き第 2 位であった。このうち急性心筋梗塞が 4 万 3,265 人で心疾患全体 の 22.2 パーセント、その他の虚血性心疾患が 3 万 4,576 人で 17.7 パーセントであった。 平成 22 年から虚血性心疾患の死亡数・死亡率ともに上昇傾向である。 また、厚生労働省発表の「国民医療費の概況」によると、国民医療費のうち、平成 22 年度の心筋梗塞を含む虚血性心疾患の医療費は 7,420 億円で、平成 17 年度の虚血性心疾 患の医療費と比較すると 785 億円の増加である。さらに主傷病による傷病分類別にみると、 「循環器系の疾患」が 5 兆 6,601 億円(20.8 パーセント)と最も多い。 このように、国民の健康の改善の面から虚血性心疾患への対策は重要である。近年様々 な疾患に対して、専門医とかかりつけ医の間で、患者の予後を含めたアウトカム 1の改善 を目指した地域連携医療パスが適応されるようになったが、虚血性心疾患でも同様である。 虚血性心疾患における地域連携医療パスは、急性期の専門治療が行われた後、かかりつけ の医療機関に通院し、再び冠動脈造影再評価が行われ、さらにかかりつけ医での治療が継 続されるといった一連の医療連携を円滑に進めることを目的として、導入されている。 他方、平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災においては、被災地の各医療機関で 蓄積していた患者情報・医療情報が消失する事態が発生した。患者情報・医療情報の消失 による患者の不利益は非常に大きく、アウトカムへ影響することは明らかである。 岩手県では、地域連携型周産期医療情報ネットワークシステム"いーはとーぶ"で、妊婦・ 胎児情報を共有し、母体搬送に利用していた。県立大船渡病院では、市町村(大船渡市・ 陸前高田市・住田町)で妊婦情報を共有し見守りネットワークを構築しており、登録医療 施設は 40 施設(100%)、登録市町村 23 市町村(66%)であった。岩手県のすべての分娩取り 扱い医療機関をオンラインで繋ぐデータベースである。平成 23 年 3 月の平成三陸大津波 により陸前高田市は破壊され、市役所にある住民情報や妊婦情報もすべて一瞬で消失した。 しかし、"いーはとーぶ"に入力していたデータが盛岡市にあるサーバに残っていた。陸前 高田市は大津波で失われた妊婦情報を得られたことにより、妊婦の安否状況・避難状況の 把握や保健指導にも活用でき、地域連携医療システムの有効性が実証された 2。 また、東北大学循環器内科では、東日本大震災後の救急搬送の実態について調査を開始 した。今回の調査結果はまだ公表されていないが、過去の報告では、地震によって心疾患 1 「アウトカム」とは、患者の QOL に代表されるような患者の視点からみた場合の治療や介入の成果指標や、 治癒率、生存期間のように医療者の視点からみた場合の治療や介入の成果指標などをいう。 2 小笠原 敏浩、原 量宏:災害にも強い地域連携型周産期医療情報ネットワークシステム"いーはとーぶ“ 本遠隔医療学会雑誌(1880-800X)8 巻 2 号 Page119-122 1464 日 が増加するとの報告がある。ロサンゼルス地震では、心疾患による突然死が平時の 5 倍程 度となり、非致死性の虚血性心疾患の発生件数も地震を契機に急増した。同じような傾向 は、阪神淡路大震災でも確認されており、その発生は平時の 3.5 倍であった。虚血性心疾 患の発生が増加する原因は、もともと虚血性心疾患を含めた動脈硬化性疾患を持っていた 患者へ急激なストレスがかかることによるとされている3。 これらの報告から、災害時の虚血性心疾患に対しても、地域連携医療システムを利用し た対策は、多くの患者のアウトカムを向上することが期待できる。「いーはとーぶ」の例 にも見られるように、災害時にも医療が適切に行われるためには、平時から医療機関間で 情報を共有できる、シームレスな地域連携医療の仕組みが必要不可欠である。 3 小玉 誠、渡部 裕、相澤 義房:大災害時の急性心血管疾患の発生 Page144-150 1465 Annual Review 循環器 2008 巻 4.3.9.1.1.2 本事業の目的 本事業は、虚血性心疾患のアウトカムの改善を目指したシームレスな地域連携医療を実 現するために、平成 22 年度「医療情報化促進事業」『i-MATCH 事業』 (以下、i-MATCH 事業という)で抽出した課題を解決し、さらに、被災地において活用可能な仕組みを構築 し、被災地支援の一助となることを目的に、 「NEXT in 西宮」事業として取り組んだもの である。 具体的には、i-MATCH 事業で構築した地域連携医療システムをもとに、以下の項目に ついて実証することを目的とした。i-MATCH 事業は、PCI(percutaneous coronary intervention、経皮的冠動脈形成術)を受けた虚血性心疾患患者のアウトカムの向上を目指 し、奈良県中南和地域において IT を活用した地域連携医療システムの実証を行った事業 である。 参加医療機関や対象患者数が十分でなければ事業の自立化が難しいことから、フ ィールドを兵庫県阪神南二次医療圏(西宮市)に移し、i-MATCH 事業で構築した システムの適用可否を検討し、必要に応じてシステムを改修し、実証する。 医師の検体検査結果入力の負担軽減のため、臨床検査情報連携基盤4を利用した検 体検査結果の自動取込み機能を構築し、実証する。 i-MATCH 事業で構築したシステムを拡張するために、標準 12 誘導心電図波形デ ータ(以下、心電図データという)を、医用波形の標準規格である MFER(Medical waveform Format Encoding Rules)形式で表示する機能を追加し、実証する。 被災地にも活用可能な、汎用的な地域連携医療システムのあり方について検討す る。 4 医療機関(かかりつけ医等)から検査を委託される者(臨床検査会社等)が、検査委託元の医療機関の医師の 指示のもと、検体検査結果を指定されたところに、標準化された形式で提供することを可能にする情報基盤 1466 4.3.9.1.2 本事業の実施体制とスケジュール 4.3.9.1.2.1 実施体制 本事業は、フクダ電子株式会社を代表団体として実施した。事業を推進する実施体制と 各団体の役割分担は図 4.3.9−1 にその概要を図示する。 フクダ電子株式会社は、代表団体として事業の統括管理を行った。フクダ電子兵庫販売株 式会社は、運用地域内に拠点を有し、各医療機関の状況を熟知していることから、検討段 階での医師へのヒアリングや運用フェーズにおける現場での各種調整や導入支援等を担 当した。 一般社団法人循環器診療フォーラム in 西宮は西宮地区における循環器診療において、 地域連携医療を推進し診療情報を共有する体制を構築すること、ならびに専門領域の情報 交換を図り、同地区内における循環器診療の向上発展と地域に貢献することを目的とした 団体である。兵庫医科大学病院をはじめとする西宮地区の基幹 7 病院と西宮市医師会(か かりつけ医 200 医療機関あまり)が共同で、循環器診療における地域連携医療の推進を目 的として平成 20 年に設立した。本事業においては、運用の主体として、地域連携コーデ ィネイト等、現地における基幹病院専門医とかかりつけ医の参加に関する調整を行い、ま た地域連携医療システムにおいて共有する情報項目の抽出と定義の作業を担当した。 兵庫医科大学循環器内科は、基幹病院として参加し、本事業の全般にわたり、循環器医 療の専門家としての見地からアドバイスを担当した。 NPO 法人ヘルスサービス R&D センター(略称:CHORD-J)は患者情報・医療情報の 管理主体として、本事業に参加する各医療機関への説明(資料作成)や、各医療機関にお ける手続きに関する側面支援を行い、また運用開始までに各医療機関との間で、患者の個 人情報保護やデータの管理に係る契約を締結し、その運用を実施した。さらに、個人情報 管理担当として、個人情報に関する取り扱いの説明文書を作成し、個人情報に関する問い 合わせや苦情に対応する体制を整えた。(問合せや苦情の一次窓口は、フクダ電子兵庫販 売株式会社にヘルプデスクを置いた。) 一般社団法人 HIMAP は、臨床的な見地から、追加開発の各フェーズにおいて必要な資 料提供や支援・助言等を行い、成果評価指標の評価、分析の中心的な役割を果たした。 株式会社アトリスは、新たな機能の追加開発、共通モジュールの改修を担当した。その 中で、外部(臨床検査情報連携基盤、心電計等)からのデータ取得部分についての連携機 能の開発は Orange System 株式会社が行い、臨床検査情報連携基盤の開発は、株式会社 ケーアイエスが担当した。医療クラウドサーバや診療情報参照用の携帯情報閲覧端末の管 理は株式会社ウェルネスが担当した。 コンソーシアムの体制については、図 4.3.9-1 に示す。 1467 図 4.3.9-1 コンソーシアムの体制 4.3.9.1.2.2 人員体制 本事業を推進するにあたっての役割と代表者、責任者等は下図 4.3.9−2 の通りである。 図 4.3.9-2 責任者・担当者の配置 1468 また、本事業に参加予定の地域の医師群のヒューマンネットワークを構築し、 「NEXT in 西宮事業」における患者情報・医療情報の利活用に関する協議を行うために、運営委員会 を設置した。 運営委員会では、一般社団法人循環器診療西宮フォーラム in 西宮から医師群に向けて シームレス WG での議論について説明を行った上で、本事業で構築したシステム(以下、 NEXT システムという)の設計、開発、及び導入に関わる課題について検討のうえ、意思 決定を行った。 実施スケジュール 4.3.9.1.2.3 本事業では、以下の 6 つのフェーズに分けて作業を行った。 (1)検討・準備 (2)要件定義 (3)設計 (4)開発 (5)運用・調査 (6)評価・報告 それぞれのフェーズはさらに細かな作業項目に分類した。フェーズ及び作業項目の実施 スケジュールを表 4.3.9−1 に示した。 表 4.3.9−1 実施スケジュール H24 フェー 作業項目 ズ 4 地域連携医療で共有すべき項目の決定 1 アクセス権の確定 検討・準 同意書・運用マニュアルの作成 備 倫理審査・個人情報対応 運用主体と医療機関の契約 ヒアリング 2 要件定 義 心電図データ等の取得機能の要件定義 検体検査結果の取得機能の要件定義 臨床検査情報連携基盤の要件定義 HIS 5との連携機能の連携検討 3 設計 5 H25 携帯情報閲覧端末ユーザインターフェースのデザ イン HIS:Hospital Information System、病院情報システム 1469 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 H24 フェー 作業項目 ズ 4 心電図データ等の取得機能の設計 検体検査結果の取得機能の設計 臨床検査情報連携基盤の設計 HIS との連携機能の設計 携帯情報閲覧端末ユーザインターフェースの実装 心電図データ等の取得機能の開発 検体検査結果の取得機能の開発 臨床検査情報連携基盤の開発 4 開発 HIS との連携機能の開発 サーバの設定 サーバと情報閲覧端末の管理・運用 既存機能を用いた先行調査 マニュアル作成 成果指標の確定 評価前値の取得 5 運用・調 査 導入説明 携帯情報閲覧端末の配布、運用の準備 事業間連携の実証 NEXT システムの運用 6 評価・分析 評価・報 事業継続性の検討 告 H25 報告書作成 1470 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 (1) フェーズ 1:検討・準備 本事業の運用地域(阪神南二次医療圏)において、地域連携医療において共有す べき診療情報項目や、参加医療機関の医師や医療情報部門スタッフのアクセス権 限のあり方等を検討し、決定した。 各医療機関が本事業に参加するために必要な契約書類の整備や院内手続き(倫理 審査委員会等)を進め、運用地域において地域連携医療の環境を整えた。 (2) フェーズ 2:要件定義 「臨床検査情報連携基盤」からのデータ取得や、基幹病院の病院情報システム (HIS) との連携において、NEXT システムにどのような機能が求められるかを 検討し、要件定義を行った。 基幹病院やかかりつけ医で測定された心電図データ(MFER)等を共有するための 機能について検討し、要件定義を行った。 「臨床検査情報連携基盤」についての要件定義を行った。 被災地へより簡便に NEXT システムを導入するための方策についての検討を行っ た。 以上の要件定義に先立ち、運用地域の医療機関に対して現状のヒアリングを行っ た。 (3) フェーズ 3:設計 本事業に参加する医師に利用しやすいシステムとするため、携帯情報閲覧端末の ユーザインターフェースのデザインを検討し、設計した。 基幹病院やかかりつけ医で測定された心電図データ(MFER)等の取得機能、「臨床 検査情報連携基盤」からのデータ取得機能、基幹病院 HIS との連携機能について 設計を行った。 (4) 臨床検査情報連携基盤について設計を行った。 フェーズ 4:開発 携帯情報閲覧端末のユーザインターフェースを実装した。 基幹病院やかかりつけ医で測定された心電図データ(MFER)等の取得機能、臨床検 査情報連携基盤等からのデータ取得機能、基幹病院 HIS との連携機能について開 発を行った。 臨床検査情報連携基盤について開発を行った。 開発した各機能の実装と、それらの設定・管理、および利用者向けマニュアルの 作成を行った。 開発した各機能の実証に先立ち、運用地域において試験運用をし、ユーザインタ ーフェースの使い勝手等の確認を行うとともに、実証にあたっての課題を抽出し、 開発内容に反映した。 (5) フェーズ 5:運用・調査 参加医療機関に向けて説明会を実施したうえで、携帯情報閲覧端末を配布し、 NEXT システムの運用を開始した。 1471 本事業の成果を評価する指標を検討し確定した。アンケート調査等の手法により、 NEXT システムの運用前後についてデータの取得を行った。 臨床検査情報連携基盤について、利用者向けマニュアルを作成した。臨床検査会 社等に導入する際の説明、問い合わせ対応などのサポートを行った。 (6) フェーズ 6:評価・報告 本事業の成果と課題を取りまとめ、報告書を作成した。 本事業の終了後も、運用地域において NEXT システムを継続するための課題を抽 出し、事業化への基礎とした。 1472 4.3.9.1.3 本事業の概要 本事業は、PCI を施行された患者の慢性期における疾病の管理を目的とし、かかりつけ医と 専門医(基幹病院)の連携により、中期的にはフォローアップ率の向上と受診中断率の減少を、 長期的には対象患者の心血管イベントの減少を目指した。 本事業で用いるシステムは、i-MATCH 事業において構築したシステムを活用し、その課題や 医療機関から求められた要望を踏まえ改修を行った。 i-MATCH 事業において構築したシステムでは以下の課題、要望が挙がった。 ① HIS から自動的にデータを取込むことができないため、医師がデータを二重入力し なければならず、医師に負担がかかった。 ② 患者が再発を起こした際の、急性期医療の質向上を目指す上で最も重要なデータで ある、心電図データの共有が望まれた。 医師の二重入力の課題については、基幹病院では、HIS とのデータ連携を実装することとし た。かかりつけ医においても、導入されている HIS とのデータ連携を検討したが、HIS によっ てシステム構造やデータの保存形式が大きく異なっており、また、そもそも HIS が導入されて いないかかりつけ医もあったため、実現することが困難であるとの結論に至った。そこで、本 事業では、臨床検査情報連携基盤を利用して、かかりつけ医が臨床検査会社等に委託した検体 検査結果を自動的に取込む仕組みを構築した。 また、i-MATCH 事業では、基幹病院とかかりつけ医の間で、奈良県虚血性心疾患地域連携 パスに記載されている診療情報を共有できるシステムを構築したが、本事業では、被災地域へ の展開を図るために、災害時にも情報の共有を可能とする汎用性の高いシステムとする必要が あると考えた。そのためにはできるだけシンプルで、どのような場合にもわかりやすく、利用 しやすいシステムとする必要があった。 そこで、本事業では、必要最小限の情報共有を検討し、入院中(基幹病院の専門医)の「診 療内容(退院時サマリ)、退院時処方情報、心電図データ等の生理検査情報、検体検査結果、 病名情報」と、退院後(かかりつけ医)の「心電図データ、検体検査結果」を共有する仕組み を構築した。心電図データについては、MFER 形式で共有することとした。 本事業で構築した仕組みを図 4.3.9-3 に示す。 1473 本事業での新規開発部分 • 心電図等のデータ取得(基幹病院・かかりつけ医) • 心電図等の参照(基幹病院、かかりつけ医) • 臨床検査情報連携基盤の構築 • かかりつけ医の検体検査結果取得(臨床検査情報連携基盤との連携) • 基幹病院の HIS との連携 図 4.3.9-3 本事業のシステム概要図 1474 4.3.9.2 本事業の成果 4.3.9.2.1 本事業で実施した疾病管理等 4.3.9.2.1.1 虚血性心疾患の疾病管理について 今日の虚血性心疾患の治療では、急性期の PCI の有用性が確認されており、患者は発 症後できるだけ早期に PCI が可能な施設に搬送される。 そもそも、虚血性心疾患は持続的に続く動脈硬化の進展の過程のひとつのイベントで あり、PCI はその進展過程のある一時点において血流改善を得る治療なので、血流改善 のみでは患者の長期予後を保証するには不十分と考えられる。動脈硬化進展の下地とし ての冠危険因子に対する薬物療法介入と禁煙、運動あるいは食餌嗜好の改善など、生活 習慣の包括的な改善により動脈硬化の進展予防がなされない限り、二次予防を含めた本 疾患の改善はありえない。そのためには基幹病院で行われる専門医療である急性期治療 後、慢性期を担うかかりつけ医においても、生活習慣改善と薬物療法が継続されること が重要となる。そして 6 ヶ月から 9 ヶ月後には治療冠動脈に再狭窄や再閉塞がないかど うかの冠動脈造影評価を再度基幹病院で行う事が必要である。そしてその後はさらにか かりつけ医での治療が継続される。 具体的には、日常診療では症状および検査値に異常のないこと、合併する危険因子が ある場合には各危険因子に対する加療が満足にできているかが達成目標となる。これら を達成するために、地域連携医療パス上のチェック項目として以下のものを含む。検査 では胸部 X 線、心電図および採血検査があり、基幹病院ではこれに加え心エコー図や冠 動脈造影検査が必要となる。ステント留置の有無に関わらず抗血小板薬投与は必須であ るが、アスピリン単独あるいはチエノピリジンとの二者併用の方針に関しては基幹病院 にて決定し、実施する。また観察項目として、日常での胸痛など心筋虚血症状、息切れ 等心不全徴候の有無のチェックを行うことが重要となる。 疾病管理とは、主に慢性疾患を持つ人々を対象にする包括的な医療アプローチであり、 継続的なケア、重篤化予防、適切な臨床評価、優れた臨床診断、効果的な処方などを促 進する可能性がある概念である。伝統的な医療アプローチに比較すると、疾病管理的な 医療アプローチは、前者が断片的な側面があるのに対して、後者は、継続性が担保され、 疾患の重篤化を防ぐ介入を提供する。このように、虚血性心疾患の疾病管理における連 携医療は、疾患の二次予防および再発時における患者の QOL 向上につながると考えられ る。 1475 4.3.9.2.1.2 本事業における疾病管理について 本事業では、虚血性心疾患の疾病管理を支援するために、i-MATCH 事業における成果 と課題を踏まえ、疾病管理体制の構築に取り組んだ。i-MATCH 事業では、奈良県中南和 医療圏において、奈良県が策定した地域連携パスを電子化したが、本事業では、より汎用 性を高めるため、共有する診療情報の項目を限定し、極力医師の手間を省くシステムにす ることとした。 本事業で注力した事項は以下の通りである。 医師の負担を軽減 NEXT システムを利用するにあたって、医師の負担を軽減するために、検体検 査結果等の二重入力が発生しないように検討することで、特にかかりつけ医の医 師の負担の軽減を図った。 汎用性を高めるための必要最小限の診療情報の抽出 本事業では、共有する診療情報を虚血性心疾患の疾病管理に必要な最小限の診 療情報項目に限定することし、本事業を被災地域に展開することを考慮し、特定 の地域に依存しない汎用性を高めた診療情報を抽出した。 心電図データの共有 虚血性心疾患において、症状から急性心筋梗塞を疑う場合、軽度の心電図変化 も見逃さないことが重要である。一見、明らかな心電図変化がないようでも以前 の心電図と比較することでその差異を判読・診断できる場合があるためである。 虚血性心疾患の再発が疑われた場合、かかりつけ医での心電図データが基幹病院 でも閲覧できる仕組みがあれば、診断から治療までの時間の短縮に寄与し、アウ トカムの向上につながると考えられるため、心電図データの共有を行うこととし た。 虚血性心疾患の疾病管理を支援する NEXT システムを構築するにあたり、 本事業では、 参加する基幹病院の専門医が中心となり、患者の入院中の診療情報のうち、最低限かか りつけ医で必要な情報は何かについて協議を行った。 その結果、入院中の情報については退院時サマリを用いることにより、必要な情報を 総覧的に閲覧できるので最適であるという結論に達した。具体的に退院時サマリに記載 することを決定した診療に関する項目は以下の通りである。 ① Problem List(疾病管理上の問題点を列挙) ② 主訴 ③ 既往歴 ④ 嗜好歴(喫煙、アルコールの状況) ⑤ 現病歴 ⑥ 入院経過 ⑦ 検査データ(検体検査結果) 虚血性心疾患に関するガイドライン上、二次予防のために経過をみる必要 1476 があるとされる検体検査結果をもとに必要最小限を目指し、以下の検査項 目を記述することとした。 血清クレアチニン HbA1c LDL-コレステロール HDL-コレステロール 中性脂肪 EF(ejection fraction:退院時エコー) ⑧ 病名 ⑨ 処方内容(処方情報) 退院時処方だけでなく、患者からヒアリングした服用中の薬剤を網羅し、 記述することとした。 上記のうち、検体検査結果(EF 以外)、病名情報、処方情報については HIS にも登録されているが、 現状でも退院時サマリに記載している事項であること HIS とのデータ連携を実現すべく調整を行ったが、すべての基幹病院でデ ータ連携を実現することが困難であったこと 退院時サマリは必要な情報を総覧的に閲覧できるものであること 以上の理由で退院時サマリに引続き記載することとした。 さらに、前述の通り医師からの要望であった心電図データをMFER形式のデータとして 用いることとし、また、CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)データ6の共有も行うこととし た。 CAVI データとは、血圧に依存せず動脈硬化を定量評価できる指標として、その有用性 が期待されている検査値である。虚血性心疾患は、動脈硬化から引き起される疾患であ るが、動脈硬化の程度を定量的に測定できることは、疾病管理に重要という、専門医の 意見があり、共有する診療情報に加えることとした。 退院時サマリについては、本事業開始以前には、本事業に参加した 3 基幹病院におい ては、それぞれ異なる様式が用いられていたが、この協議を経て、図 4.3.9-4 に示す 3 基 幹病院共通の「退院時サマリテンプレート」を作成した。NEXT システムに登録すべき 退院時サマリの項目を前述のように決定しただけでなく、共通のテンプレートが作成で きたことにより、今後新たな基幹病院が本事業に参加する場合、その医療機関に対して、 どのような形でのデータ提供を求めればよいかが明らかとなった。 6 血圧・脈波検査装置で測定するデータ 1477 図 4.3.9-4 退院時サマリテンプレート かかりつけ医から共有される診療情報についても、基幹病院の専門医が中心となって、 疾病管理のために共有する診療情報として何が必要であるかの検討を行った。i-MATCH 事業では、患者の観察項目や生活指導の有無をチェックする項目、検査値が目標に達し ていない場合のアラート、再冠動脈造影の時期のお知らせなど、かかりつけ医に対して リマインド行う機能を実装したが、地域連携医療パスを電子化していたためにシステム の入力項目が多く、手間がかかる一方で得られるメリットが少ないとの課題があった。 したがって、よりシンプルで必要な診療情報のみを共有できるシステムにすべきである という結論に達した。具体的に共有する情報は、基幹病院と同様の検体検査結果と心電 図データに絞った。 これらの疾病管理に必要な最小限の診療情報を NEXT システムの支援により共有する という極めて簡便な仕組みによって、基幹病院の専門医とかかりつけ医が連携して虚血 性心疾患の患者を地域ぐるみで疾病管理をしていくこととした。 1478 4.3.9.2.1.3 共有する診療情報の取得・保存・観覧に関して 基幹病院からの診療情報の取得に関しては、医師の手間をできるだけ省くこと、また依 頼書の発行などの運用を通して取得情報の間違いを防ぐことを検討した。 退院時サマリは、前述の通り 3 病院共通のテンプレートを用い、HIS から word 形式の ファイルとして取得することとした。NEXT システムに退院時サマリを登録する際に、 word 形式のファイルに挿入したタグ(患者 ID、作成者、作成日等のインデックス情報) により、情報項目をブロック単位に取得し、連携サーバに保存する仕組みとした。退院時 サマリ以外の基幹病院の診療情報は、SS-MIX2 に準拠した形で HIS から自動取得すること を模索した。しかしながら、基幹病院での HIS の入れ替え等の事情があり、本事業では、 SS-MIX2 に取り込み可能な CSV ファイルを HIS から出力し、これを NEXT システムにア ップロードすることとした。使用した CSV ファイルの一部を図 4.3.9-5 に示す。 図 4.3.9-5 CSV ファイルの一部 かかりつけ医が臨床検査会社等に委託した検体検査結果は、臨床検査情報連携基盤と連 携することにより、NEXT システムに自動登録できるようにした。本事業では、3 つの臨 床検査会社(検査センター)(西宮市医師会検査センター、株式会社ファルコバイオシステム ズ、株式会社日本医学臨床検査研究所)からの検体検査結果の自動的な取込みを行った。 臨床検査情報連携基盤の開発ならびに実証・評価の実施は、今後の地域連携医療(とり わけ病診連携)の拡大・深化に大きく貢献し、また他地域・他領域において活用されるこ とが見込まれ、今後、地域連携医療を普及・促進させるために有効な仕組みであると考え る。 心電図データは、MFER 形式で保存、閲覧できる仕組みとした。運用に使用したのは、 フクダ電子株式会社製と FME 社製の 2 社の心電計であった。MFER 形式の利用により、 医師の手元にある携帯情報閲覧端末上で、特定の心電計メーカーに制限されない心電図デ ータの閲覧が可能となった。閲覧する心電図データは、JPG などの画像でないデジタルデ ータで保存されているために、心電図波形の拡大や縮小が容易で、かつ心電図の微小な特 異部分を忠実に再現し表示でき、心電図判読において非常に有意である。 CAVI 値については、基幹病院の血圧脈波検査装置から出力された診断結果の画像(JPG) を NEXT システムに登録することとした。 4.3.9.2.1.4 本事業で構築したシステムの利用に関して NEXT システムの利用者は、基幹病院の専門医とかかりつけ医である。まず、虚血性心 1479 疾患で PCI 治療を施行した患者を対象に、基幹病院では、患者の退院時に HIS から出力し た疾病管理に必要な専門医が記録した退院時サマリ等の診療情報を、システム補助者が診 療情報登録専用のアップロード PC を介して連携サーバにアップロードする。次に、連携 サーバに登録された患者がかかりつけ医を受診する際に、かかりつけ医は、基幹病院から 提供された診療情報を、携帯情報閲覧端末を用いて閲覧し、患者に対して二次予防のため の指導や継続的な予後治療を行うことができ、より品質の高い地域ぐるみの疾病管理を行 うことができる。 また、かかりつけ医では、臨床検査会社等に委託した検体検査結果が臨床検査情報連携 基盤を通じて NEXT システムに自動的に登録され、二次予防のために、検体検査の時系列 な結果を、携帯情報閲覧端末を用いて閲覧することができる。 患者が虚血性心疾患を再発し専門医で治療を受ける際も、連携サーバに登録されている 過去からの検体検査結果や心電図データなどの時系列の診療情報を閲覧し早期に適切な 診断を行うことができる。このように NEXT システムは診断支援ツールとして早期の治療 開始に役立てることが可能であると考えられる。 本事業の診療情報の連携概要を図 4.3.9-6 に示す。 図 4.3.9-6 診療情報連携の概要 1480 4.3.9.2.2 本事業で構築したシステム 4.3.9.2.2.1 実施した疾病管理を行う為に構築したシステム NEXT システムにおけるデータフローと機能について図 4.3.9−7 に整理した。 図 4.3.9-7 構築システム概要図 ① 基幹病院で、循環器内科の専門医が患者 ID、患者氏名、退院日を記載した依頼書を発 行し、医療情報部門のシステム補助者が HIS から患者基本情報を抽出し、連携サーバ にアップロードする。このアップロードをもって、当該基幹病院の患者として登録さ れる。 ② かかりつけ医でも、HIS あるいはオンラインレセプトに入力されているデータから患 者基本情報を所定のフォーマットの CSV ファイルとして作成し、連携サーバにアップ ロードする。このアップロードをもって、当該かかりつけ医の患者として登録される。 ③ 基幹病院で、その他の診療情報(病名情報、退院時処方、検体検査結果)について、患者 基本情報と同様に、循環器内科の専門医が患者 ID、患者氏名、退院日を記載した依頼 書を発行し、医療情報部門のシステム補助者が、基幹病院の HIS から上記の診療情報 を抽出し、連携サーバにアップロードする。①の患者の診療情報として登録される。 ④ 基幹病院で、循環器内科の専門医が患者 ID、患者氏名、検査日時(年月日時分)を記載 した依頼書を発行し、医療情報部門または生理検査部門のシステム補助者が、基幹病 院の生理検査システムから心電図データおよび CAVI 値を抽出し、連携サーバにアッ プロードする。①の患者の心電図データおよび CAVI 値として登録される。 ⑤ かかりつけ医でも、生理検査システムから心電図データを抽出し、連携サーバにアッ プロードする。②の患者の心電図データとして登録される。 ⑥ RDBMS+管理機構に保存された基幹病院、かかりつけ医の診療情報が HL7 v2.5 形式 に変換される。 ⑦ HL7 v2.5 に変換されたデータは SS-MIX2 形式の診療情報提供用ストレージに保存さ れる。 ⑧ RDBMS+管理機構を参照し、診療情報提供用ストレージから共通モジュールを使用し 1481 て、診療情報提供書として出力し、かかりつけ医に HL7CDA 形式のファイルで渡す。 ⑨ 3 つの検査センター(西宮市医師会検査センター、株式会社ファルコバイオシをステム ズ、株式会社日本医学臨床検査研究所)から、かかりつけ医に委託された検体検査結果 を指定された形式の CSV ファイルとして作成し、臨床検査情報連携基盤にアップロー ドする。 ⑩ 臨床検査情報連携基盤から出力された SS-MIX2 の形式のファイルが、SFTP のプロト コルで転送され、診療情報提供用ストレージに保存される。 ⑪ 他事業との事業間連携を行う。具体的には SS-MIX2 の形式で事業間の共有項目をファ イル出力し、他事業のシステムとデータ交換を行う。 ⑫ HL7 v2.5 形式の受領データを RDBMS+管理機構及び連携機構で管理する。 ※ 上記の①~⑫のうち、①~⑤および⑨~⑫については本事業で構築された機能であり、⑥ ~⑧については、i-MATCH 事業で構築された機能である。ただし、⑧の共通モジュール の部分については、本事業で製品化を促進するため、改修を行った。改修の概要について は後述する。 ※ 循環器内科の専門医が医療情報部門、生理検査部門に発行する作業依頼書は、基本的には 基幹病院の既存の書式を利用したが、書式が存在しない場合は、当コンソーシアムで作成 した、以下のような作業依頼書を使用した。図 4.3.9-8 に作業依頼書の例を示す。 図 4.3.9-8 作業依頼書(例題) 1482 4.3.9.2.2.2 基幹病院での診療情報アップロードについての運用フロー 前述したように、NEXT システムへの診療情報の登録は、医師の手間をできるだけ省く 方法、自動化により漏れのない方法を検討し、基幹病院からの診療情報については、退院 時サマリも含め HIS から自動取得する方法を模索した。しかし、以下の理由から医療情 報部門での手動アップロードに方向転換をした。 HIS 自体がデータ出力の機能を持たない。 上記について、データ出力機能追加を検討したが、HIS への機能追加や、HIS 自体を 別のシステムに入替えをするタイミングと重なり実現できなかった。 生理検査部門のシステムは HIS から半ば独立している場合が多く、データ連携機能 を1基幹病院で 2 システムについて付加するには費用的な問題があった。 基幹病院のセキュリティポリシーとして、外部システムの機器の院内ネットワークへ の接続の許可が得られなかった。 上記を踏まえて検討した、基幹病院での診療情報アップロードの運用フローを以下に示 す。 (1) HIS からの診療情報アップロード 図 4.3.9-9 に HIS の診療情報アップロードに関する運用フローを示す。 図 4.3.9-9 HIS からの診療情報アップロード運用フロー図 ① 循環器内科の専門医は、アップロードする同意取得済み患者の患者番号、 退院日等を指定して医療情報部門への依頼書を作成し、医療情報部門へ渡 す。 ② 医療情報部門スタッフは、循環器内科専門医から渡された患者の診療情報 出力依頼を受付ける。 1483 ③ 医療情報部門スタッフは、該当患者の診療情報を HIS から抽出する。 ④ 医療情報部門スタッフは、該当患者の診療情報を連携サーバにアップロー ドする。 (2) 生理検査システムからの心電図データ等のアップロード 図 4.3.9-10 に生理検査システムからの心電図データ等のアップロードに関する運用フロ ーを示す。 図 4.3.9-10 生理検査システムからの心電図データ等のアップロード運用フロー図 ① 循環器内科の専門医は、アップロードする同意取得済み患者の患者番号、 検査日時(年月日時分)を指定して生理検査部門への依頼書を作成し、生理 検査部門へ渡す。 ② 生理検査部門スタッフは、循環器内科専門医から該当患者の該当心電図デ ータ等の出力依頼を受付ける。 ③ 生理検査部門スタッフは、該当患者の該当心電図データ(MFER 形式)およ び CAVI 値を生理検査システムから抽出する。 ④ 生理検査部門スタッフは、抽出した心電図データ(MFER 形式)および CAVI 値を医療情報部門に渡す。 ⑤ 医療情報部門スタッフは、生理検査部門から渡された心電図データ(MFER 形式)および CAVI 値を連携サーバにアップロードする。 1484 4.3.9.2.2.3 (1) 構築したシステムが備えている機能 診療情報の登録機能 以下の共有する診療情報を連携サーバにアップロードまたは臨床検査情報連携 基盤から自動登録し、SS-MIX2 形式でストレージに保存する。共有する診療情報の 一覧を表 4.3.9-2 に示す。 表 4.3.9-2 共有する診療情報一覧 情報種類 NO 情報内容 基幹病院 かかりつ け医 患者基本情報 1 患者番号、患者氏名、生年月日等、 ○ ○ 患者を識別する情報 2 病名情報 対象患者の有する病名の情報 ○ 3 退院時処方情 退院時に処方された薬剤の情報 ○ 基幹病院の HIS または臨床検査情 ○ 報 検体検査結果 4 ○ 報連携基盤から出力される検体検 査結果 退院時サマリ 5 基幹病院に入院していた期間の必 ○ 要な情報を総覧的に閲覧できる文 書 心電図情報 5 生理検査システムから出力された ○ ○ MFER 形式の心電図 ※検査属性 (XML)が添付される場 合もある。 基幹病院の診療情報およびかかりつけ医の心電図データについては、アップロー ド専用の PC を用意し、アップロード作業を行う。かかりつけ医の検体検査結果は、 臨床検査情報連携基盤と連携し自動的に登録する。 ※ 基幹病院ではアップロード作業を医療情報部スタッフに依頼するため、アップ ロード画面からは診療情報を参照できないように制限を加えた。 ※ 臨床検査情報連携基盤と連携の詳細は後述する。 (2) 診療情報の閲覧機能 連携サーバにアップロードされた診療情報は、NEXT システム専用の携帯情報閲 覧端末(iPad)にて閲覧するものとした。以下に閲覧の各画面の説明を行うものとす る。 1485 1) 患者選択画面 各医療機関で使用している患者番号を入力し、検索後、患者を識別する情 報が表示される。図 4.3.9-11 に表示例を示す。 図 4.3.9-11 患者選択画 2) 退院時サマリの閲覧画面 選択された患者の退院時サマリが表示される。図 4.3.9−12 に表示例を示す。 図 4.3.9-12 退院時サマリの閲覧 1486 3) 心電図データの選択画面 選択された患者の心電図データは、アップロード順に一覧表示される。「表 示」の部分をタップすることで、対象の心電図データが別画面にて表示され る。図 4.3.9−13 に表示例を示す。 図 4.3.9-13 心電図データの選択 4) 心電図データの閲覧画面 前項の心電図データ選択画面で選択された心電図データを表示する。 MFER 形式のデジタルデータを使用して表示を行っているため、1/2、×1、×2 など感度を変更して表示可能となる。また、心電図データの左上に所見名が 表示される。図 4.3.9−14 に表示例を示す。 図 4.3.9-14 心電図データの閲覧画 1487 5) CAVI 値の閲覧画面 選択された患者の CAVI 値がアップロード順に一覧表示され、選択すると、 当該 CAVI 値(JPEG)が表示される。図 4.3.9−15 に表示例を示す。 図 4.3.9-15 CAVI 値(JPEG)の閲覧 6) 検体検査結果の閲覧画面 選択された患者の検体検査結果が登録順に表示される。図 4.3.9−16 に表示 例を示す。 図 4.3.9-16 検体検査結果の閲覧 1488 7) 病名情報の閲覧画面 選択された患者の基幹病院でアップロードされた病名情報が表示される。 図 4.3.9−17 に表示例を示す。 図 4.3.9-17 病名情報の閲覧画面 8) 退院時処方情報の閲覧画面 選択された患者の基幹病でアップロードされた退院時の処方情報が表示さ れる。図 4.3.9−18 に表示例を示す。 図 4.3.9-18 退院時処方情報の閲覧画 1489 (3) 診療情報の閲覧許可・患者紐付け機能 NEXT システムは、各医療機関の診療情報を共有するための機能を有している。 以下の共有の手順を示す。 1) 診療情報の閲覧許可 各医療機関の医師は、本事業への参加同意をした患者に関して、連携サー バに保存された、自医療機関の当該患者の診療情報を他のどの医療機関に閲 覧許可するかを指定する。図 4.3.9−19 に閲覧許可画面を示す。 図 4.3.9-19 診療情報の閲覧許可画 2) 患者紐付け 前項で閲覧許可された医療機関の医師は、許可された患者の一覧からその 医師の所属する医療機関に登録された患者と紐付けを行う。この紐付けによ って当該患者についての他の医療機関の診療情報が閲覧可能となる。図 4.3.9−20 に患者紐付け画面を示す。 図 4.3.9-20 患者紐付け画面 1490 4.3.9.2.2.4 (1) セキュリティ対策に関する考え方とそれを実現するための技術的な対応 診療情報アップロード時の診療情報参照を制限 NEXT システムでは基幹病院における診療情報のアップロード作業は、専門医の 負担軽減および院内の規則に従うことなどから、医療情報部門のスタッフによる作 業とした。 そのため、医療情報部門のスタッフの作業用に、携帯情報閲覧端末とは別にアッ プロード用ノート PC を用意した。PC 上のユーザインタフェースでは診療情報を 閲覧することは出来ないように制限を加えた。 図 4.3.9−21 にアップロード作業用の機材を示す。 図 4.3.9−21 アップロード用機材 1491 図 4.3.9−22 にアップロード作業用のユーザインタフェースを示す。 図 4.3.9−22 アップロード作業用ユーザインタフェース (2) 医療クラウド上の連携サーバへの接続のセキュリティ保護 各医療機関の医師が閲覧に使用する携帯情報閲覧端末および診療情報アップロ ード用ノート PC には、オンデマンド VPN の認証用の証明書をインストールし、接 続毎に VPN を設定し、接続の保護を行った。 また、臨床検査診療情報連携基盤との連携については、SFTP を使用し医療機関 (かかりつけ医)+臨床検査会社(検査センター)別にアカウント管理をし、連携用ファ イルは ZIP ファイルにパスワードを付した。NEXT システムでは、SFTP サーバを 設置する DMZ を用意した。 図 4.3.9−23 にセキュリティについて記した概要図を示す。 1492 図 4.3.9−23 NEXT システムのセキュリティ概要図 (3) 携帯情報閲覧端末での使用アプリを制限 携帯情報閲覧端末には iPad を利用した。iPad 上に診療情報を残さないことを目 的として、ブラウザアプリの Safari を使用不可にし、その他のブラウザアプリなど 余計なアプリのインストールを防ぐために AppStore への接続を使用不可とし、ま た画面キャプチャも不可とした。そのために、機能制限用の構成プロファイルを iPad にインストールした。 (4) 携帯情報閲覧端末(iPad)紛失への対策 使用する携帯情報閲覧端末(iPad)は全て MDM(Mobile Device Management:モバ イル機器管理)に登録し、管理した。 管理された iPad の紛失の際には、存在位置の探索、パスワードロック、情報消 去のワイプを、MDM のサービスを利用し、対処することとした。 また、4.3.9.2.2.4(3)で示した構成プロファイルを、MDM を利用し、一括してイン ストールすることが可能であり、全ての iPad に同一の操作環境を用意することと した。 1493 4.3.9.2.2.5 (1) 共通モジュールの開発について 共通モジュールの機能概要 i-MATCH 事業では、以下の共通モジュールを開発した。 ・診療情報提供書(医療機関間)出力 このモジュールは、診療情報提供書に必要な個々の診療情報を診療情報提供書の 標準フォーマットと規定されている形式(「HL7J-CDA-005「診療情報提供書規格(医 療機関への紹介状) (ver.1.00)」(日本 HL7 協会)」)のファイルとして出力する目的 で使用する。 また、このモジュールは他システムに容易に組み込むことができるよう、変換機 能をライブラリとして提供する形式をとっている。これにより、各システムの目的 にあったユーザインターフェースと組み合わせ、変換機能を処理する実行エンジン として使用できる。 以下に共通モジュールの概要を示す。 ① 共通モジュールの目的 シームレスな地域連携医療の実現のためには、医療機関間で標準形式のデー タの交換が必要である。 当該モジュールは診療情報を、標準形式の診療情報提供書へ変換することを目 的とする。 システム構成概要を図 4.3.9−24 に示す。 SS-MIX2 標準化 ストレージ 共通モジュール 診療情報提供書(医療機関間) 出力 補足データ 拡張 ストレージ 図 4.3.9−24 システム構成概要 1494 診療情報 提供書 (医療機関間) (HL7CDA) ② 共通モジュールの機能 共通モジュールの機能を表 4.3.9-3 にまとめた。 表 4.3.9-3 共通モジュールの機能 共通患者 ID、 SS-MIX2 標準化ストレージ(案)格納データ ・患者情報(病名を含む) 入力 ・病名 ・処方 等 補足データ用拡張ストレージ格納データ ・心電図 ・疾患別情報ファイル 等 共通患者 ID を元に、SS-MIX2 標準化ストレージからは診療情 処理 報、補足データ用拡張ストレージからは各種ファイルへのリフ ァレンス情報を取得し、診療情報提供書を作成する。 出力 心疾患診療情報提供書データ(HL7CDA) 。 ③ データ入出力の概要 図 4.3.9−25 に共通モジュールの概要について示す。 ① 発行番号 ② 発行日 ③ SS-MIX 標準化ストレージ格納データファ イルパス(患者情報、病名、処方) ④ 拡張ストレージ格納データファイルパス (心電図、検体検査データ) (3)パラメータ類 ⑤ 拡張ストレージ参照プロトコル指定 ⑥ 診療情報提供書出力先パス ⑦ 診療科コード (1)入力データ ① SS-MIX 標準化ストレージ 格納データ ・ 患者情報 ・ 病名情報 ・ 処方情報 ・ その他 診療情報提供書 (医療機関間)出力の ○○のインタフェース インターフェイス (2)出力データ ①診療情報提供書 (医療機関間) (4)コントロール ② 拡張ストレージ格納データ ・心電図データ ・検体検査結果 図 4.3.9-25 共通モジュール概要 1495 ④ 準拠する仕様書、ガイドライン ・HL7J-CDA-005「診療情報提供書規格(医療機関への紹介状) (ver.1.00)」 (日本 HL7 協会) また、電子署名方式については、以下の規格に準拠する。 ・HL7J-CDA-002「CDA 文書電子署名規格(ver. 1.02)」(日本 HL7 協会) 出力する診療情報内容については以下のマスターコードを用いる。 ・HS001 医薬品 HOT コードマスター ・HS005 ICD10 対応標準病名マスター ・HS014 臨床検査マスター また、外部参照として添付される書類については以下の規格を用いる。 ・ HS010 保健医療情報-医療波形フォーマット-第 92001:符号化規則 ・ HS011 医療におけるデジタル画像と通信(DICOM) ・ HS012 JAHIS 臨床検査データ交換規約(注 1) (注 1:ファイル転送型の規約を用いる。) なお、 上記にあてはまらない添付書類がある場合は PDF 形式の書類を添付する。 また、外部参照ファイルのメディアへの格納については以下の規格が策定され ている。オンラインにて診療情報提供書を転送する場合でもこの規格にできる だけ準拠し、メディアとの相互互換性を確保する。 ・HL7J-CDA-004 「可搬電子診療文書媒体規格(ver1.01)」(日本 HL7 協会) ⑤ 本報告書にて参考にしている技術文書について 本報告書では、以下の技術文書を参考にしている。 ・[JAHIS 技術文書 10-103]地域医療情報 連携システム HL7 CDA による地 域連携パスの情報項目及び書式 脳卒中編(「他疾患への展開ガイド」付き) ・[JAHIS 技術文書 11-101]地域医療情報連携システム 簡易な XML 形式の 診療データからの HL7CDA 文書生成方式 ・SS-MIX2 標準化ストレージ 構成の説明と構築ガイドライン Ver1.0 rev1 ⑥ 前提条件・制約事項 ・データの作成は HIS とは別のサーバー上にて実施することを前提とする。 ・SS-MIX2 標準化ストレージ、補足データ用拡張ストレージに格納されている データに不具合はないことを前提とする。 ⑦ その他 ・PCI 用診療情報提供書の標準化については、今後の検討課題とする (2) 本事業での修正作業のポイント 1496 本事業では i-MATCH 事業で開発した共通モジュールの製品化に向けて、パッケ ージ化を意識し、SS-MIX2 への対応及び実装の見直しを行った。また、組込みされ ていたミドルウェアを分離し、よりパッケージとして販売し易い製品にすべく改修 を行った。 (3) 本事業での修正作業に関するデータ設計 ① 入力データ 以下に入力データ概要を示す。 SS-MIX(注:2.5 版) 患者基本情報 病名情報 処方情報 その他 補足データ用拡張ストレージ(SS-MIX で保持できないデータをすべて格納) 心電図データ 検体検査結果 その他 ② 出力データ 診療情報提供書。※ただし、PCI に関しては検討を行う。 ③ 入力パラメータ 以下に入力パラメータ概要を示す。 発行番号 発行日 SS-MIX 標準化ストレージ格納データファイルパス(患者基本情報、病名 情報、処方情報等) 拡張ストレージ格納データ URL(心電図データ、検体検査結果等) 拡張ストレージ参照用プロトコル指定(http、ftp、file 等) 診療情報提供書出力先パス 診療科コード ④ 使用する主なコード表 以下に使用する主なコード表を示す。 性別(JMIX T0001) 都道府県(JIS X0401) 続柄(JMIX C0002) 続柄(世帯主用)(JMIX C0002) 入外区分(HL70482) 診療科(MR9P/レセ電診療科コード) 処方せん区分(MERIT-9 Prescription) 1497 用法区分(USR0007) 頓用条件(HL70335) 単位(MERIT-9 Prescription) 経路(HL70162) 部位(HL70163) 剤形(MERIT-9 Prescription) 結果値タイプ(HL70085) 薬品コード(HOT) 検査材料コード(JLAC10) 検査項目コード(JLAC10) 病名コード(ICD10) (4) 本事業での修正作業に関する機能設計 ① 処理フロー 処理フローの概要は以下の通り。 SS-MIX からのデータ取得 変換処理 出力処理 1498 ② 処理フロー図 上記①の処理フローを以下に図示する。(図 4.3.9-26) SS-MIXからのデータ取得 開始 サーバが見つからない ログイン失敗 検索パス不正 ログイン画面表示 ログイン 検索パス作成 SS-MIXフォルダ開放 HL7ファイルへのパス取得 タイムアウト ファイル読取・一時保存 変換処理 SS-MIXファイルのパース データの取得失敗 データの変換失敗 メモリ不足 一時領域より取得 XML形式に変換 出力用データに追加 出力処理 タイムアウト・データ不正 開始 図 4.3.9-26 処理フロー図 1499 診療情報提供書送信 ③ 処理詳細 上記①の処理フローの詳細を以下に示す。 SS-MIX からのデータ取得 SS-MIX にログインする。 連携患者 ID から検索パスを作成する。 検索パスを使用して、対応する SS-MIX 上のフォルダを開く。 SS-MIX から検索パス下に配置されているすべての HL7 ファイルへの パスを取得する。 それぞれのファイルパスを使用して、ファイルを読み取り、読み取っ たデータを一時領域に保管する。 エラー発生時のメッセージ エラー発生時の主なメッセージを以下に示す。 サーバが見つかりません。 サーバへのログインが失敗しました。 検索パスのフォーマットが不正です。 タイムアウトしました。 変換処理 それぞれの SS-MIX ファイルに対し パースする。 項目用データを一時領域より取得する。 テンプレートを使用して、項目用データを XML 形式に変換する。 作成された変換後データを、出力用データに追加する。 エラー発生時のメッセージ エラー発生時の主なメッセージを以下に示す。 一時領域データの取得に失敗しました。 変換に失敗しました。 メモリーが足りません。 出力処理 クライアントに完成した診療情報提供書データを送信する。 エラー発生時のメッセージ エラー発生時の主なメッセージを以下に示す。 タイムアウトしました。 データが不正です。 ④ ログ設計 ログの出力先 /var/log/imatch/ 出力するログの一覧(契機と内容) アクセスログ 1500 操作ユーザーが共通モジュールにアクセスする度に記録される。 記録されるログの項目は以下の通り。 アクセス日時 操作病院 ID 操作ユーザーID 利用端末 操作ログ 操作ユーザーが心疾患診療情報提供書を作成する度に記録される。 記録されるログの項目は以下の通り。 提供書取得日時 操作病院 ID 操作ユーザーID 連携患者 ID エラーログ 処理中に発生した各種エラーを記録する。 記録されるログの項目は以下の通り。 エラー発生日時 操作病院 ID 操作ユーザーID 連携患者 ID エラー内容 1501 (5) 製品化に向けたスケジュール 共通モジュールの製品化に向けたスケジュールを図 4.3.9-27 に示す。 平成 25 平成 24 年 NO 区分 1 流通 2 設計 3 開発 テス 4 ト 年 項目 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 月 月 月 月 月 月 月 月 月 月 販売スキームの 検討 パッケージ販売 本事業仕様への SS-MIX2 対応 対応 NEXT システム 実環境で 開発 での開発 互換性の確保 互換性 評価 (拡張領域データ への対応) ・マニュアル、メディア 5 製品 販売開始 準備 製品準備 ・プロモーション ・製品準備 図 4.3.9-27 製品化に向けたスケジュール 1502 4.3.9.2.2.6 (1) 臨床検査情報連携基盤の開発について 臨床検査情報連携基盤の目的・背景 地域連携医療を普及させるためには、かかりつけ医の参加が必須であるが、HIS が導入されていないかかりつけ医が大部分を占める現状を考慮すると、かかりつけ 医より電子化された診療情報を取得することは容易ではない。 しかしながら、HIS が導入されていないかかりつけ医であっても、臨床検査を臨 床検査会社に委託している場合には、臨床検査会社にて検体検査結果を電子化して いることが多い。この検体検査結果を利活用することができれば、HIS が導入され ていないかかりつけ医からの検体検査結果を、電子的に地域連携医療に利活用する ことが期待できる。一方で、検体検査結果の標準化が進んでいないため、電子化さ れた検体検査結果の利活用が困難な状況もある。 これらの課題を解決するために、平成 23 年度東北復興に向けた地域ヘルスケア 構築推進事業の診療検査基盤作業部会にて、臨床検査会社(検査センター)が受託し ている医療機関の医師からの指示のもと、地域連携医療システム等の指定された提 供先に検体検査結果を標準化された形式で提供する為の情報基盤(臨床検査情報連 携基盤)に関する仕様書の作成がおこなわれた。 その後、仕様書について第 2 回推進委員会において報告が成されたところ、推進 委員より、仕様書に基づいて開発・実証・評価を行う必要がある旨の意見が出され、 本事業において実施することが合意された。 そこで「NEXT in 西宮事業」では、臨床検査情報連携基盤を開発し、複数の臨床 検査会社(検査センター)にシステムの提供を行った上で、実証・評価を行い、今後 の地域連携医療の普及に繋げていくものとした。 1503 (2) システム仕様の概要 臨床検査情報連携基盤の概要を図 4.3.9-28 に示す。 図 4.3.9-28 システム概要 (3) NEXT システムにおける臨床検査情報連携基盤の位置付け 臨床検査情報連携基盤に収集された各臨床検査会社(検査センター)の検体検査結 果から、かかりつけ医に指定された患者の検体検査結果を定期的に連携し、NEXT システムのサーバに自動登録される。臨床検査情報連携基盤を含む、NEXT システ ムの全体像を図 4.3.9-29 に示す。 図 4.3.9-29 NEXT システム全体像 1504 (4) セキュリティガイドラインへ対応 臨床検査情報連携基盤で構築するシステムを運用する場合、ASP・SaaS 事業者 に該当するため、セキュリティに関する下記の4つのガイドラインに準拠する必要 があり、ガイドライン準拠を行った。 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン (厚生労働省) 医療情報の安全管理に関するガイドライン 第 4.1 版 (厚生労働省) ASP・SaaS 事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン (総務省) 医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン(医療 情報を受託管理する情報処理事業者向けガイドライン)(経済産業省) (5) ネットワーク接続方式に関する対応 医療機関から臨床検査情報連携基盤への接続は、予め接続先を特定の範囲に限定 することは難しいことから、SSL の利用や共通鍵方式による暗号化などの危険性へ の対策を行なった上で、インターネット回線を使用することとした。 臨床検査会社から臨床検査情報連携基盤への接続は、大手臨床検査会社であれば 閉域網を利用した IP-VPN の利用が考えられるが、大手臨床検査会社以外の利用を 考慮すると、インターネット VPN で接続できる手段も残しておく必要がある。 (6) セキュリティへの対応 臨床検査情報連携基盤について、運用に当たって想定される危険性を抽出し、対 応策を検討し、実装を行った。詳細を図 4.3.9-30 に示す。 図 4.3.9-30 想定される危険への対応策 1505 4.3.9.2.3 実証について 4.3.9.2.3.1 実証参加患者の属性と人数 本事業の対象患者は、基幹病院にて PCI を行い、継続治療をかかりつけ医にて受ける、 若しくは受けている患者である。本事業は、37 名の患者から参加同意を取得し、NEXT システムに登録したが、2 名は実証期間終了間際の参加同意取得であったため、基幹病院 で必要な診療情報が揃わなかった。よって 35 名を診療情報連携の対象とした。 35 名の患者の属性は以下の表 4.3.9-4 に示した通りである。 表 4.3.9-4 連携対象の患者の属性 項目 患者数 結果 (人) 35 男女比(男/女) 24/11 年齢(平均) (歳) 退院時疾患名 (人) 72±7.0 [ 49 心筋梗塞 4 狭心症 26 陳旧性心筋梗塞 2 無症候性心筋虚血 2 病名なし 1 合併症 82 ] (人) 高血圧 3 脂質代謝異常 2 糖尿病 2 高尿酸血症 1 慢性腎臓病 1 2006 年 8 月 28 日-2012 年 12 月 20 入院日の分布 平均入院日数 - 日 (日) 5.3±4.3 [ 1 - 19 ] また、これらの患者のうち、25 名の患者の心電図を保存し、診療に利用した。1 患者 あたり数回の心電図が保管されたこともあり、保存心電図データ数は 52 件となった。ま た、実証期間中にかかりつけ医を受診し、基幹病院とかかりつけ医の間で共有した情報を 利用して診察を行った患者のうち、アンケートを取得できた患者は、分析対象とした患者 35 名のうち 20 名であった。20 名の患者の属性を以下の表 4.3.9-5 に示す。 1506 表 4.3.9-5 実証の効果を評価した患者の属性 項目 結果 連携を行った患者数 20 年齢分布 60 歳代 (人) 5 70 歳代 (人) 12 80 歳代 (人) 3 男女比(男/女) (人) 14/6 心疾患罹病期間(中央値) (年) 2 かかりつけ医通院間隔(中央値) (ヶ月) 1 基幹病院通院間隔(中央値) (ヶ月) 6 上記のうち、年齢、男女比以外の属性情報から患者の通院状況を把握でき、例えば、ど の程度の期間の検体検査結果を時系列に表示すべきか、あるいは、どの程度の頻度で診療 情報のアップロード作業が発生するか、データ容量の増加の度合いはどの程度か、などを 判断する参考となると思われる。 実証参加患者については、当初は、新規に基幹病院で PCI を行った患者のみを対象と する議論もあったが、実証期間が十分ではないことから、新規に PCI を施行された患者 だけでなく、過去に PCI を施行され、現在も継続して治療を行っている患者を含めるこ ととした。 対象患者の抽出のために、まず、虚血性心疾患で基幹病院にて PCI を行い、参加医療 機関に通院中である患者を調査することから開始した。基幹病院の専門医の協力を得て、 患者の抽出を行い、実際にかかりつけ医に該当患者が通院中であることを確かめた上で、 患者への説明を開始した。この方法により患者を効率的に抽出できた。 4.3.9.2.3.2 実証参加機関数と名称・団体数・役割 実証に参加した医療機関は、「一般社団法人循環器医療フォーラム in 西宮」に参加し ている基幹病院 3 施設(兵庫医科大学、明和病院、西宮渡辺心臓・血管センター)、かか りつけ医 14 施設(大植クリニック、大西内科循環器科、小田内科、勝部医院、北垣クリ ニック、すぎもとクリニック、鈴木内科クリニック、中田内科医院、橋本医院、はまおか クリニック、半田医院、福井内科医院、ふなもとクリニック、前田クリニック)であった。 基幹病院は、患者の退院時サマリを含む入院中の診療情報を、NEXT システムにアップロ ードを行った。各基幹病院の登録患者数は、兵庫医科大学 10 名、明和病院 10 名、西宮 渡辺心臓・血管センター17 名であった。(※ただし、2 名については期間内に退院時サ 1507 マリなど必要な情報が揃わなかった。) 患者の参加同意の取得にあたっては、基幹病院の専門医またはかかりつけ医が説明を行 い、参加の同意を得ることとした。ただし、基幹病院の専門医やかかりつけ医が多忙であ り、患者への説明が十分にできない場合を考慮し、患者情報・医療情報の管理主体である NPO 法人 CHORD-J のスタッフまたは事務局のスタッフが説明のサポートを行う体制を とった。しかし、実際には、同意取得患者 37 名のうち、説明のサポートを行ったのは、 2 名であった。 4.3.9.2.3.3 実証の際の患者情報の外部保存について 本事業では、患者の個人情報を病院の外部で保存するため、運用開始にあたっては、基 幹病院の倫理審査委員会で承認を得る必要があった。倫理審査委員会においては、患者情 報・医療情報の外部保存に関するセキュリティ対策が最も重要視され、セキュリティ対策 の詳細に関する説明書類の提出が必要であった。 また、患者情報・医療情報の保管主体である NPO 法人 CHORD-J と本事業に参加する 医療機関の間で、患者情報・医療情報の保管、管理に係る業務の委託契約が必要であった。 委託契約にあたり、セキュリティ対策の詳細な内容を掲載し携帯情報閲覧端末の運用ルー ルを含めた規程を新たに作成し、医療機関に提出した。 1508 4.3.9.2.4 成果評価 本事業の成果評価指標として、以下の項目を設定した。本事業は、長期的には疾病を管 理することによる心血管イベントの減少を目指すものではあるが、その効果を判定するた めには数年間の継続的運用が必要であり、本事業の運用期間中には長期的指標についての 検討はできなかった。 4.3.9.2.4.1 (1) 臨床面の評価 ヒューマンネットワーク構築状況 基幹病院 3 施設、かかりつけ医療機関 13 施設を目標としたところ、結果として、基幹 病院 3 施設、かかりつけ医療機関 14 施設の参加を得て、目標を達成することができた。 先にも述べた通り、本事業は、すでに構築されている一般社団法人循環器医療フォーラム in 西宮のヒューマンネットワークを活用し、事業を進めた。今後、一般社団法人循環器 医療フォーラム in 西宮に参加している、他の医療機関の参加も見込んでいるところであ る。 (2) 患者の評価 入院中(基幹病院)の診療情報(退院時サマリ等)をかかりつけ医にて閲覧し診察した 患者 20 名について、本事業への参加についてのアンケート調査を行った。基幹病院とか かりつけ医の医療機関間で、自分の診療情報が十分伝わると感じている患者が 70%とな り、事業参加前に十分伝わっていたと考えていた 55% に対して上昇した。 (図 4.3.9-31) また、本事業への参加が、今後の自分の診療に十分役立つと思う患者の割合は 85%とな り、本事業への参加の満足度が高いと評価できた。(図 4.3.9-32) 1509 図 4.3.9-31 医療機関間の情報共有に対する患者の評価 3人 15% 0% 17人 85% 0% 十分役立つ 17人 ある程度役立つ 3人 余り役立たない 0人 全く役立たない 0人 わからない 0人 図 4.3.9-32 本事業参加患者の満足度 (3) 臨床評価 1) 患者アウトカムの向上 患者アウトカムの指標としては、①PCI 後患者の総死亡率の低下、②心不全で入院した 患者の割合の低下、③心筋梗塞の再発の割合の低下、④脳卒中合併率の低下をあげた。先 にも述べた通り、この指標は本事業における長期的な指標である。今回は運用期間に限り があったため、十分な評価は不可能であった。運用開始から評価までの観察期間では、登 録患者に①から④のイベントの発生はみられなかった。 2) 患者に対する診療の質向上 連携医療機関間の処方情報共有率の上昇 医師へのアンケート調査により、本事業参加前と比較して、連携先の医療機関の処方情 報が得られやすくなったかどうかを評価した。運用後アンケート調査に協力した医師数は 10 名であり、いずれもかかりつけ医であった。 連携医療機関の間の処方情報が、NEXT システム運用前と比較して、NEXT システム運 用後では得られやすくなったと思うかとの質問に対して、「1:全くそう思わない」~「7: 非常にそう思う」(4:どちらでもない)の 7 段階評価を行った。運用前に比較して、処 方情報が得られやすくなったと答えた医師(評価の点数が 5 点以上の医師)は、70%(7/10 人)であり、NEXT システムの運用により、処方情報の共有率が上昇する実感が得られた。 再発患者における NEXT システム上の心電図データ閲覧実施 運用期間中に再発をおこし、システム上の心電図データを閲覧が必要となった患者は発 生しなかった。しかし、連携医療機関間での心電図データの共有閲覧は可能となっており、 1510 このようなイベント時には役立つと思われる。 患者がかかりつけ医以外の医療機関を受診した回数(突然の発作でもかかりつけ医以外で 受診できた回数) 運用期間中に、急な状態の変化により、かかりつけ医および通院している基幹病院以外 の医療機関を受診した患者は発生しなかった。 各種リスクファクタ目標達成割合 NEXT システムでは、疾病管理のための共有する検体検査結果として、血清クレアチニ ン、HbA1c、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪をとりあげた。運用 期間中に、かかりつけ医にて、検体検査が臨床検査会社に委託され、その結果が NEXT システム上に保存された患者は 6 名であった。6 名の患者について、退院時の検体検査結 果と最新の検体検査結果の前後比較を行った結果を表 4.3.9-6 に示した。 目標達成割合は、虚血性心疾患の二次予防のために目標とされている数値を達成してい る患者の割合を示した。今回は、運用中に検体検査が臨床検査会社に委託された患者が 6 名であり、その 6 名についても全ての検体検査項目が委託されていなかったため、前後比 較および運用後の目標達成割合は参考値にすぎない。今後、事業の継続により、検体検査 結果の蓄積がなされていけば、これらの数値を参考として、疾病管理がうまくいっている かどうかを評価することが可能となる。 1511 表 4.3.9-6 運用前後の検体検査結果比較 前後比較が システム運用前 システム運用後 運用後データの 平均値 平均値 目標達成割合注 1) 6 0.83±0.30 0.87±0.25 e-GFR に変換して評価 6 74.4±27.5 67.4±18.0 50%(3/6) HbA1c注 2)(%) 2 5.6±1.2 6.1±1.5 50%(1/2) 中性脂肪(mg/dl) 3 93±53 67±8 100%(3/3) 項目 可能な 患者数 血清クレアチニン e-GFR (ml/min./1.73m2) 注1) 心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)や動脈硬化性疾患予防ガイ ドライン(2012年版)から、e-GFR≧60ml/min./1.73m2、HbA1c(NGSP)<7.0%、 LDL-コレステロール<100mg/dl、HDL-コレステロール≧40mg/dl、中性脂肪<150mg/dl を目標値とし、割合を算出した。 注2) HbA1cは、運用後のデータはすべてNGSP基準であった。しかし、退院時サマリには JDSかNGSPかの記載がなく、比較することが難しかった。今後の退院時サマリは NGSP基準になると考えられるが、少なくとも2011年以前のデータはJDSデータであ ることを念頭におき、前後の検体検査結果を比較検討する必要がある。 注3) 6名の患者については、脂質代謝について総コレステロールと中性脂肪が検査されてお り、LDLコレステロールやHDLコレステロールは検査されていなかった。HDLコレス テロール値がないことから、LDLコレステロールの計算値の算出もできなかったため 評価ができなかった。脂質代謝異常に関する検体検査項目の共有がこのままで良いか どうか、実際の診療に合致するものかどうか、の見直しをする必要がある可能性が示 唆された。 1512 事業面の評価 4.3.9.2.4.2 (1) 実用性の評価 1) 端末の操作感 医師へのアンケート調査により、画面レイアウトの見やすさ、患者の診療情報のうち閲 覧したい項目選択の操作のしやすさ、表示項目の順序、文字の大きさ、画面の色合い、に ついて、「1:とてもわかりにくい、あるいは見にくい」~「7:とてもわかりやすいある いは見やすい」(4:どちらでもない)の 7 段階評価を行った。また、NEXT システム構 築にあたってベースとなった i-MATCH 事業で構築したシステムとの比較も行った。結果 を表 4.3.9-7 に示す。 表 4.3.9-7 ユーザビリティの調査 i-MATCH システムよ 項目 評価中央値 5 以上の評価を り NEXT システムの方 した医師の割合 が改善されていると回 答した医師の割合 画面レイアウトの 6(5-6) 100%(10/10) 50%(5/10) 5(4-7) 60%(6/10) 50%(5/10) 表示項目の順序 6(5-6) 80%(8/10) 40%(4/10) 文字の大きさ 5(3-7) 50%(5/10) 50%(5/10) 画面の色合い 6(4-7) 80%(8/10) 50%(5/10) 見やすさ 項目選択表示の操 作感 どの評価をみても、回答者の内、5 以上の評価点数をつけた割合が 50%を超えており、 概ね良い評価と言える。しかし、画面別の評価をしてみると、見にくい画面として、50% (5/10)の医師が「患者選択画面」を、20%(2/10)の医師が「検体検査結果画面」をあ げており、これらの画面については、レイアウトを変更するなどの工夫が必要である。 2) 医師の負担感 本事業では、基幹病院の専門医については、医療情報部門のシステム補助者に依頼し、 診療情報を HIS から抽出しアップロードする作業を行ったため、医師の負担軽減には一 定の効果があったと思われる。 一方で、かかりつけ医については、運用後のアンケート調査において、現在の負担感が 将来的には軽減するであろうと答えた医師は 40%(4/10)のみであった。自由意見において も、かかりつけ医が普段利用している電子カルテシステムとは別に携帯情報閲覧端末が必 要で、それぞれ操作をしなければならず、システムが全て 1 つにまとまっていることが望 ましいとの意見があった。また、アンケート調査に回答した医師はかかりつけ医であった が、基幹病院側の作業について、退院時サマリのアップロードが負担になるのではないか 1513 という意見もあがっていた。この点については、基幹病院での NEXT システムの運用フ ローについて、かかりつけ医への説明が十分ではなかったためと思われる。 3) 参加医師の満足度 アンケート調査に回答した医師の 70%(7/10)は、NEXT システムの機能および表示項 目が十分であると答えており、その充実度は、7 段階評価で中央値が 5.5 であった。また、 NEXT システムを利用することにより、医療機関間の情報共有ができ、メリットを感じる ことができると答えた医師は 90%(9/10)であった。しかし、ヒアリングの中では、表示項 目は多ければ多いほどメリットが大きいと答えた医師や、追加機能として、心エコーや心 臓カテーテル検査の動画の閲覧などの意見も出ており、今後の機能をどこまで要望に応じ て拡張させていくかについて検討が必要であると考えられた。 1514 4.3.9.2.4.3 システム面の評価 (1) 利用頻度(利用状況の評価) 1) ユーザ別利用頻度 ユーザ ID 別にログを取得し、アクティブユーザの比率や利用頻度分布、多頻度ユ ーザの特性等を分析した。ユーザ数は 18 名であり、そのうち 3 名は基幹病院の医療情 報部門のスタッフであり、診療情報のアップロード作業のためにユーザ登録を行った。 ユーザ種別ごとのログイン回数を表 4.3.9-8 に示す。 表 4.3.9-8 ユーザ種別ごとのログイン回数 ユーザ種別 ログイン回数 基幹病院専門医 29 回 かかりつけ医 209 回 システム補助者(アップロード作業) 150 回 システムへのログイン回数を見るとかかりつけ医が圧倒的に多く、やはり、PCI 治 療後の患者の来院が定期的にあり、かかりつけ医でのフォローアップの重要性が理解 できる。また、今回の参加同意した患者数と比較すると、かかりつけ医のログインは 頻回のアクセスがある。これは、かかりつけ医が NEXT システムへの興味を示すもの と推察され、医師の地域連携医療システムへの期待を感じられた。ただし、さらにユ ーザ別のログイン回数にばらつきがあることを見ると、医師により興味や期待が異な ることも想定される。 他方、システム補助者のログイン回数=150 回は、予想よりも多いものだった。NEXT システム運用の当初にアップロードのトラブルが発生した関係もあるが、やはり、ア ップロード作業の負担を考えさせられる。この点については、HIS との連携による診 療情報の自動取得などシステム面の推進、および運用面の効率化を検討していく必要 性を示すものと思われる。 1515 2) システム機能別利用頻度 システム機能別にログを取得し、頻繁に使われた機能とそうでない機能の差異を分析し た。 システム機能別の利用頻度(アクセス回数)を表 4.3.9-9 に示す。 表 4.3.9-9 システム機能別の利用頻度 機能 利用頻度(アクセス回数) 患者選択 571 回 退院時サマリ 532 回 心電図 194 回 血圧脈波診断 42 回 検体検査 103 回 病名 66 回 退院時処方 78 回 上記の機能のうち患者選択は必ず行う操作であるため、回数が多いがこれを除くと、や はり、退院時サマリの利用が圧倒的に多い結果となった。事業開始当初、退院時サマリと 心電図データの閲覧が重要であることが基幹病院の専門医から指摘されたが、その通りの 結果となった。 検体検査結果、病名情報、退院時処方情報については、今回の運用では兵庫医科大学病 院からのみの連携だったため、利用頻度が低かったと考えられる。その分、これらの情報 が網羅されている退院時サマリの利用頻度が高まったとも考えられる。ただ、検体検査結 果については臨床検査情報連携基盤との連携もあり利用頻度が比較的高いと想像される。 また、今回の利用頻度から判断は出来ないが、HIS から出力される処方情報はその病院 が処方した薬剤だけの情報であり、一方、退院時サマリには患者から聞き取った服用して いる薬剤全てを記載するといった意見が、退院時サマリを作成した専門医からあった。本 事業において対象とする患者は他の持病がある場合も多く、HIS からの処方情報のみでは 不足であることが考えられる。そのためには、処方情報の入力機能など、システム的な支 援を検討する必要があると思われる。 いずれにしても、前項でも述べた通り、運用期間の機能の利用にはシステムへの興味で の機能へのアクセスも含まれると思われるため、今後、NEXT システムを継続的に運用し て行く中で、機能の必要性をアクセスログから定期的に分析し、システムのブラッシュア ップに役立てていくことが求められる。 1516 3) 登録患者数 運用期間中の NEXT システムに登録された患者数は 37 名である。患者からの同意書 の取得を、基幹病院の専門医だけでなくかかりつけ医でも行った。患者のこれまでの 来院状況から、かかりつけ医での同意書取得が効果的であったと考えられる。 (2) ユーザビリティ(システム改善点の抽出) 1) NEXT システムの役割の理解 アンケート調査に回答した医師のうち、80%(8/10)の医師は、心血管イベントの減少に役 立つシステムであると答えた。また、医師全員が、患者への病状の説明時にも使えると答 えた。ユーザは、本来の NEXT システム利用の役割を認識できていると評価された。 また、虚血性心疾患の疾病管理を通じた二次予防について、患者への説明素材としても 応用できる可能性が示唆された。 2) 機能構成の分かりやすさ 画面の分かりやすさ画面のレイアウト、表示する項目の絞り込みや表示順序、文字の大 きさ、画面の配色等について、アンケート調査を行った。結果は、2.4.2.1.1 で示した通り、 概ね良い評価を得た。 3) 操作のしやすさ 操作のしやすさの評価として、操作を習熟するまでにどの程度の期間が必要と思うかに ついて調査を行った。結果は、最短 2 時間から最長 1 年間であった。ヒアリングでは、NEXT システムを利用する患者数が少ないため、実際にシステムを利用する回数が少なく、利用 間隔が長いために、習熟までに時間がかかると感じている医師が存在していた。できるだ けわかりやすい利用者向けマニュアルなどを整備することにより、習熟をサポートする必 要があると考えられる。 直感的な操作、一貫した動作については、携帯情報閲覧端末として、iPad を使用してい るため、操作について特に詳しい説明をサポートデスクに求めてくる医師はいなかった。 また、操作に要するステップ(クリック、タップ)数は、ほとんどが 1、2 ステップである ため難しいという意見はなかった。 ただ、応答時間に関しては、心電図閲覧画面では心電図データの展開などで少し時間が かかる場合があり、その間の表示が分かりにくいとの意見があった。そこで、砂時計アイ コンの表示などユーザインタフェースの改修を行った。 4) ユーザサポート 利用者向けマニュアルや FAQ の充実度や分かりやすさ、ヘルプデスクの対応の態度や迅 速性、正確性等について「1:全くわからない、あるいは非常に評価が低い」~「7:非常 によくわかる、あるいは非常に評価が高い」(4:どちらでもない)の 7 段階で評価した。 結果を以下の表に示す。 1517 表 4.3.9-10 ユーザサポートに対する評価 項目 評価の中央値 5 点以上の評価をした 医師の割合 マニュアルや FAQ の充実度や分かりや 4(1-7) 20%(2/10) 5(1-7) 40%(4/10) 6(2-7) 50%(5/10) 6(2-7) 60%(6/10) すさ ヘルプデスクの態度 ヘルプデスクの迅速 性 ヘルプデスクの正確 性 利用者向けマニュアルについては、多忙な医師が使用することを考慮すると、ページ数 の多い丁寧なマニュアルよりもむしろクイックマニュアルのような数ページの簡略化した マニュアルの方が有用であったと考えられる。今回のサポートの経験を受けて、利用者向 けクイックマニュアルの作成を検討していくこととする。 また FAQ については、本事業期間内にヘルプデスクに寄せられた質問とその回答や、直 接医療機関を訪問した際の対応を整理し、今後のヘルプデスクスタッフの対応業務に活か すものであり、最終的には web 画面からの FAQ 参照の実現を目指すものとする。 1518 事業継続性の検討 4.3.9.2.5 4.3.9.2.5.1 事業継続ための費用負担に関する調査 事業継続性のために、参加患者および医師に対して、費用負担に関するアンケート調査を行 った。1 ヶ月あたりどの程度の費用を負担して良いかを調査し、調査結果を事業継続のための計 画の参考とした。 結果として、患者が 1 ヶ月あたり負担しても良いと考える金額は、1000 円/月までであった(図 4.3.9-33 参照)。一方、医療機関が 1 ヶ月あたり負担しても良いと考える金額は 1000 円/月が 最も多く、5000 円/月が最高額であった(図 4.3.9-34 参照)。 図 4.3.9-33 1 ヶ月に負担可能な金額(参加患者) 図 4.3.9-34 1 ヶ月に負担可能な金額(参加医師) 1519 4.3.9.2.5.2 収支についての計画立案 本事業で構築したシステムを他地域へ広げて行くことを想定して、年間の収支計画を策 定した。 (1) 収入についての計画 事業継続のため費用負担については、各地域に運営団体(西宮地区においては一般社団 法人循環器診療フォーラム i n 西宮)を設立あるいは既存の団体を運営団体とし、資金がそ れらの運営団体に集まる仕組みを構築することとした。 具体的には以下のような費用負担を想定した。 ① システムの利用者である医療機関団体(地域の医師会を含む)からの利用料 各医療機関の費用負担については、前述のアンケート調査での金額と実際に必要な費用と の間で検討が必要である。 また、参加医療機関の拡大を促進し1医療機関あたりの負担金額を抑えることにも考慮 し、患者からの費用負担も加えて検討をしていくこととする。 →1 地域:300 万円、3 地域で 900 万円と想定(平成 28 年度時点) ② 本事業に協賛するメリットのある企業(医療機器メーカ、薬剤メーカ)の支援 西宮地区をモデル地域として、地域連携医療の仕組みが企業としてのビジネスモデルと して評価されるものになるよう検討を重ねていく。 →1 地域 5 社程度を目標とし、1 社:50 万円、1 地域で 250 万円、 3 地域で 750 万円と想定(平成 28 年度時点) (2) 支出についての計画 人件費については、本事業のサポート業務を想定し、これにシステム関連の維持費用が 加算されるものとした。 ① 人件費 トラブルの一次窓口や物品の配布を行う一般的な運用サポートスタッフとシステムトラ ブルに対応するシステムサポートスタッフを 1 地域 1 名ずつ配置する。 →1 地域:130 万円、3 地域で 390 万円と想定(平成 28 年度時点) ② システム関連費用 現在発生している費用は、データアップロードで発生する回線使用料とデータセンタ利 用料だが、これ加えソフトウェア保守と iPad のレンタル料・MDM 使用料も含むシステム 運用管理料が発生する。 ソフトウェア保守料、データセンタ利用料(VPN 使用料含む) 地域に関わらず同じものを使用するため一律とする。 →ソフトウェア保守料:50 万円、データセンタ利用料:400 万円 (平成 28 年度時点) 回線使用料、システム運用管理料 これらについては参加医療機関が増えれば増加するが本事業と同規模で他地域に展開す 1520 ると仮定して以下のような費用が発生する。 →回線使用料=1地域:36 万円、3 地域で 108 万円と想定 (平成 28 年度時点) →システム運用管理料=1地域:36 万円、3 地域で 108 万円と想定 (平成 28 年度時点) ③ その他、想定外の状況への対処として、100 万円を計上した。 以上を表 4.3.9-11 にまとめて表示する。 表 4.3.9-11 収支計画 25 年度 収入(A+B+C) 26 年度 28 年度 ① 3,500 11,000 16,500 (A) 3,000 6,000 9,000 千円 3,000 3,000 3,000 1 2 3 (B) 500 5,000 7,500 千円 500 500 500 数 1 10 15 支出(D+E+F) ② 9,560 12,020 15,280 人件費 (D) 2,100 2,600 3,900 運用サポート人件費 千円 1,600 1,600 2,400 システム関連人件費 千円 500 1,000 1,500 6,460 8,420 10,380 医療機関団体(医師会を含む)からの利用料 単価 支払者(団体)数 企業の支援 単価 支払者(企業数)数 システム関連費(外注・委託分含む) 数 (E) ソフトウェア保守料 千円 500 500 500 回線使用料 千円 360 720 1,080 データセンタ利用料 千円 4,000 4,000 4,000 システム運用管理料 千円 1,600 3,200 4,800 (F) 1,000 1,000 1,000 ▲ 6,060 ▲ 1,020 1,220 その他の支出 収支(①-②) 1521 (3) 施設別の費用負担 ① 基幹病院 イニシャルコスト アップロード用 PC 設置費用=10 万円 携帯情報閲覧端末(iPad)については運営主体が負担 ランニングコスト(年額) アップロード用 PC の回線使用料=運営主体が負担 携帯情報閲覧端末(iPad)の回線使用料=運営主体が負担 ② かかりつけ医 イニシャルコスト アップロード用 PC は既存の PC を利用 携帯情報閲覧端末(iPad)については運営主体が負担 ランニングコスト(年額) アップロード用 PC の回線使用料=既存のインターネット回線を使用 携帯情報閲覧端末(iPad)の回線使用料=運営主体が負担 ③ 検査センター(臨床検査情報連携基盤の運用コスト) イニシャルコスト サーバ導入・設定費用=35 万円 ランニングコスト(年額) サーバ運用・管理費用=200 万円 ソフトウェアライセンス費用=60 万円 収支の最適化についての試み 4.3.9.2.5.3 (1) 収入最適化についての試み ① 受益者(参加医療機関)に一定の負担を求める。 ② NEXT システムの有用性を地域の医師会や地方自治体に働きかけて、参加医療機関の数を増や す。 ③ 関連商品販売を行う医療機器メーカや薬剤メーカに賛同企業を増やす。 ④ 患者へのアンケート調査の結果を受け、患者の費用負担も検討していく。 (2) 支出最適化についての試み 以下を実現しシステムの維持費用を最適化する。 ① 連携サーバの使用サーバ数等の削減を検討する。 ② 携帯情報閲覧端末(iPad)を運営主体が買取りレンタル料を削減を実現する。 この場合、初期費用は発生するが、最終的にはレンタル料が無くなり費用を抑えられると考え られる。 ③ 医療機関の既存のインターネット回線を利用した Wi-Fi 環境に移行し、通信費を削減を実現す る。 既存のインターネット回線の利用に当たっては、院内のネットワークと完全にわけることで、 1522 セキュリティ面での配慮をすることとする。 4.3.9.2.5.4 事業継続性についての総括 以上のことから、地域連携医療システム維持のために、支出についてはさらなる費用圧縮に 向け検討を継続していかなければならないが、やはり最低限度必要な費用は発生する。最低限 必要な費用を補っていくためには、受益者である医療機関からの費用負担をまず安定的に維持 する必要があると考える。また、表 4.3.9-11 の収支計画には組みこんでいないが、患者へのア ンケート調査結果により、患者への費用負担も合わせ考えることも可能と考える。本事業の運 用地域である西宮地区の地域性が影響している可能性はあるが、自らが抱える疾病(虚血性心 疾患)の発作が起きた際、必要な情報が専門医とかかりつけ医で共有されていることにより、 医療の質が高まるのであれば、費用を支払っても良いという患者意見があった。 医療機関や患者に費用負担を求めるためには、IT を活用した地域連携医療の重要性をアピー ルしていく必要がある。具体的には、NEXT システムが実際の臨床現場で役に立った事例をま とめたパンフレットを作成し、地域の医師会や地方自治体、あるいは広く市民に働きかけてい くような広報的な取り組みである。 さらに、企業からの支援については、医療機器メーカや薬剤メーカに対して、本事業との関 連性から協賛を求めるだけでなく、本事業の地域連携医療が社会的に極めて重要な意義のある ものであり、地域連携医療に協力し国民の QOL 向上に寄与することが、企業としてのメリッ トになるよう、継続して検討を重ねていく必要があると考える。 1523 4.3.9.3 総括(本事業の取りまとめ) 4.3.9.3.1 本事業で把握された課題と解決に向けた検討 基幹病院の HIS との連携に関する課題 4.3.9.3.1.1 基幹病院の HIS で使用されている薬剤等の独自コードを標準コードへ変換する際に、病院と の調整作業や、取り扱うコード数が大量であるといった問題が明らかとなり、HIS との連携に 向けた作業に時間を要した。HIS との連携については、HIS への機能追加や入替えの時期に、 診療情報の連携に関する機能を仕様として盛り込むような働きかけが必要である。 さらに質の高い医療を目指した共有情報の追加 4.3.9.3.1.2 本事業において、心電図の共有を行ったことをきっかけに、さらに質の高い医療を目指し、 参加医師から、心エコーや心臓カテーテル検査等の動画像など視覚に訴える診療情報の共有を 要望された。この要望については、現場の医師と相談し、優先順位を決めて段階的に実現を目 指すこととする。 4.3.9.3.1.3 さらなるデータ入力の負荷軽減の課題 本事業では、基幹病院の専門医は HIS に診療情報を入力し、アップロード作業を行うシステ ム補助者に対して作業依頼するだけとなり、専門医の負担軽減には貢献できたと考えられる。 しかし、HIS にデータ出力機能が無いために、システム補助者の患者基本情報の転記等の手間 が発生した医療機関もあった。また、作業依頼を紙ベースで行ったためアップロード抜けが発 生するなど人為的なミスも発生した。これらの問題解決ためにはシステム面・運用面の両面か ら検討していく必要がある。 1524 総括 4.3.9.3.2 成果評価からの考察 4.3.9.3.2.1 本事業において設定した成果評価指標の評価結果から、総括として以下を考察する。 (1) 臨床面での評価から ① 本事業の運用を担った、兵庫医科大学の増山教授を代表理事とする、一般社団法人循環器医療 フォーラム in 西宮は、循環器疾患における地域連携医療を推進するために設立された団体で あり、参加の専門医・かかりつけ医の意識が極めて高く、運用のためのヒューマンネットワー クが整っていた。 ② 患者からも医療機関間の診療情報共有が自分の診療に十分に役立つとのアンケート調査結果 を得た。 ③ 臨床評価では、患者のアウトカム指標については、運用期間の関係で十分な評価は得られなか った。しかしながら、患者に対する診療の質向上としては、参加した医師から、処方情報の共 有率の観点から一定の評価を得た。 心電図データ閲覧については、運用期間中に再発をおこし、かかりつけ医が登録した心電図デ ータを基幹病院の専門医が閲覧する患者は発生しなかったが、連携医療機関間での心電図デー タの共有閲覧が、心疾患イベント時に役立つとの評価を得た。 ④ 本事業では、地域に依存しない最小限の共有診療情報を目指し、疾病管理のために共有する検 体検査結果として、血清クレアチニン、HbA1c、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、 中性脂肪を指定し運用を行った。結果としては疾病管理がうまくいっていると判断するにはデ ータ量に問題があり、今後の事業継続の中で蓄積されたデータで評価を続ける必要がある。 (2) 事業面・システム面での評価から ① 参照端末操作感については、使用した医師から、画面レイアウトの見やすさ、閲覧したい項目 選択の操作のしやすさ、表示項目の順序、文字の大きさ、画面の色合い、など概ね良い評価を 得た。他方、医師から、既存のシステムにもう 1 つシステムが加わったことによる負担感を示 された。 今後、HIS との連携などシステム面での融合を検討する必要があると思われる。ただし、本事 業では、アップロード作業はシステム補助者が実施したため、医師による二重入力などの負担 は、ある程度軽減できたと考える。 ② システムのログから機能別の利用頻度を把握し機能の重要度等を判定するのは、運用期間だけ では難しいが、今後、事業を継続して行く中で、システムログを集積し分析していくことが、 NEXT システムの充実を図るための機能の取捨の判断に役立てて行けると思われる。 本事業で構築した機能以外に、心エコーや心臓カテーテル検査等の画像や動画などの閲覧が、 さらに質の高い診療を実現するために、医師から要望された。動画については、サーバ容量な ど維持費に関わることもあり、まずは画像の保管・閲覧する機能の検討を進めていくこととし たい。 ③ システムの習熟については、医師により差があり、実際に利用回数の少ない医師からはシステ ムが難しいものであるという感覚が伝わった。また、NEXT システムでの患者紐付けについて 1525 は、連携サーバ上で各医療機関ごとに患者の診療情報が保存され、保存された診療情報への閲 覧許可を医師が他の医療機関に与え、その後、患者紐付けを行うなど仕組みや診療情報の持ち 方など、理解が難しい部分もあり、今後、ユーザインタフェースも含めより直感的に理解でき るシステム作りを検討していく必要があると考えられる。 4.3.9.3.2.2 被災地域を含む他地域への展開に関して 本事業において、標準化の採用や最小限の共有診療情報の検討により汎用性の高いシステム を構築したことで、被災地域を含めた他の地域でも、容易に導入することができるようになっ たと考える。 以下に NEXT システムの他地域への展開の可能性について総括した。 (1) 医療クラウドに SS-MIX2 利用したパッケージング 本事業で構築した連携サーバは、医療情報保存の標準化である SS-MIX2 を用いたストレー ジを有し、また、虚血性心疾患について地域を限定しない最小限の共有診療情報を検討したも のであるため、NEXT システムを導入する地域の特性に合わせたシステム改修が発生せず、短 期間での NEXT システムの稼働を実現することができる。このことが被災地におけるシステム の導入に際しても、大変有効であると考えられる。 (2) 心電図データに標準規格 MFER を採用 標準規格である MFER を採用することで、単なる画像データの利用とは異なり、鮮明な波 形の表示や感度を変更しての波形の表示も実現でき、診断精度の向上が期待できる。更に、標 準規格のデータを扱っているため、特定の心電計のメーカに依存することなく、複数の心電計 メーカの心電図データに対応することができる。 (3) モバイル機器使用による診療情報の登録・閲覧 NEXT システムでは、診療情報のアップロードや閲覧にモバイル機器を利用した。運用にお いて、利用したモバイル機器のみでシステムの運用が可能であるとの結論を得た。被災地の医 療機関を含め、それぞれの医療機関の環境により、使用機器の制限があるが、モバイル機器を 使用することで NEXT システムを展開していく範囲を拡大することができる。 (4) 臨床検査情報連携基盤とのデータ連携 HIS を導入していないかかりつけ医が多い中で、かかりつけ医から電子データとして検体検 査結果を連携することは難しい。また、かかりつけ医が臨床検査を委託している臨床検査会社 では検体検査結果は電子化されているものの、その電子化されたデータが標準化されていない ため、地域連携医療において利活用することが困難であった。 NEXT システムが、臨床検査情報連携基盤と連携することにより、かかりつけ医のシステム 導入状況や委託している臨床検査会社に依存することなく、検体検査結果を電子的に利活用す ることが可能となった。これは被災地域および他地域においても活用が可能であり、また、今 1526 後地域連携医療に大きく貢献し、普及・促進させるために有効な仕組みであると考える。 1527