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小口径望遠鏡による回帰新星 U Sco の 2010 年爆発時における分光観測

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小口径望遠鏡による回帰新星 U Sco の 2010 年爆発時における分光観測
小口径望遠鏡による
小口径望遠鏡による回帰新星
による回帰新星 U Sco の
2010 年爆発時における
年爆発時における分光観測
における分光観測
今村和義*, 國富菜々絵, 能勢樹葉, 田辺健茲 (岡山理科大学)
* [email protected]
1. Introduction
1-1
新星と回帰新星
新星とは光度が一定であった星が突如短時間で劇的に明るくなり(6~19mag)、
極大後は数十日から数百日かけて緩やかに減光していく爆発現象である。新星の本
性は激変星の一種で、白色矮星を主星とし、赤色星を伴星とする近接連星系である
ことがわかっている。さらに新星爆発は白色矮星表面上における水素の熱核暴走反
応で生じることが知られている。新星あるいは古典新星に対して、回帰新星とは新
星の中でも過去に爆発の記録があるものを指し、爆発から次の爆発までのタイムス
ケールが 100 年以下で、古典新星に比べて質量降着率が大きい系であると考えられ
ている。
1-2
回帰新星 U Sco の観測の歴史
U Sco はポグソンの式で有名な N. R. Pogson に
よって、1863 年に眼視(9.1 等)で初めて増光が発見
され、わずか一週間ほどで 12 等台にまで減光する
様子が観測されている(図 1)。その後は Thomas
(1940)のまとめで、ハーバードの写真乾板で 1906
年と 1936 年に写真等級で 8.8 等にまで増光してい
たことが判明し、U Sco が回帰新星であったことを
報告している。Payne-Gaposckin (1957)は、この時代に
おける U Sco の爆発時の諸量について、一日あたりの
図 1 Pogson が眼視観測した 1863
年爆発時おける U Sco の光度曲線
(Thomas, 1940).
減光率は約 0.7 等、t3 は 6.7 日、Mmax は-8.4 等になる
と報告している。
その後の爆発は 1979 年に O. Hull によって増光が発見され (IAUC No.3341)、こ
の年に初めて分光観測がなされ、バルマー線をはじめヘリウムや窒素などの顕著な
輝線が検出されている(Barlow et al., 1981 など)。これまで約 40 年ごとに爆発が検出
されていたが、8 年後の 1987 年に南アフリカの Overbeek によって 11 等台で増光が
発見されている(IAUC No.4395)。この発見は極大を過ぎた時期であったが、分光観
測の報告例がある (Sekiguchi et al., 1988 & Rosino and Iijima, 1988)。また Schaefer &
Ringwald (1995)は静穏期に食を検出し、軌道周期が 29.53 時間であることを明らかに
している。
さらに U Sco は、1999 年にベルギーの Schmeer によって 9 等台で発見され、極
大時は V 等級で 7.6 等にまで達していたことが Shaw によって観測されている(IAUC
No.7113)。t3 はこれまで知られていたものよりも早く、4.3 日であったことが報告さ
れており (Munari et al., 1999)、極大から 0.45 日後には分光観測がなされ (Anupama &
Dewangan, 2000)、1999 年の爆発で測光及び分光観測が詳細に行われている。
1-3
2010 年爆発時の発見
U Sco は 1999 年の爆発以来、約 11 年振りに 2010 年 1 月 28.47 日(UT)にアメリ
カの S. Dvorak によって 8.8 等で増光が発見された (cvnet-outburst 3573)。ただし第一
発見者はアメリカの Barbara G. Harris で、28.43 日(UT)に 8.1 等(V)で増光が発見され
ている(AAVSO alert notice 415)。
2. Observations
我々、岡山理科大学(OUS)チームは U Sco の増光の報告を受け、2010 年 1 月 28.840
日(UT)と 29.846 日(UT)に、同大学の田辺研究室天文台において、分光観測を行った(図
2)。観測装置は Celestron C11 (D=28cm, F10) + SBIG DSS-7 (R≈400) + SBIG ST-402 となっ
ている。図 3 は 1 月 28 日に Celestron C9 で我々が得た U Sco の画像(R filter)で、同時に
B, V, Rc, y フィルターによる多色測光観測も行っている。
11’×16’
N
W
図 2 分光観測用の望遠鏡 (Celestron C11)
図 3 我々が得た U Sco の R filter による画像
3. Results
3-1
発見から 0.41 日後のスペクトル
図 4 は発見から 0.41 日後(2010 年 1 月 28 日)に我々が得たスペクトルである。
Anupama et al. (2000)を参考に輝線の同定を行った結果、バルマー線をはじめ、He I
(4473, 5876, 7075)、N II (5001, 5679)、N III (4482, 4640)、O I (7774)、Mg II (7880)など
の顕著で幅の広い輝線が見られた。さらに Hαと Hβ輝線には、明瞭な 5000 km/s
Hγ
16000
12000
O I, Mg II
He I
14000
relative intensity
U Sco (UT: 2010/01/28.840)
Hα
18000
N II
He I
He I, NIII
N III
Hβ
20000
N II, He I
ブルーシフトした吸収線(P Cygni profile)が伴っていた。
10000
8000
6000
P Cygni profile
4000
5000km/s blue shift
2000
0
4000
4500
5000
5500
6000
6500
7000
7500
8000
8500
wavelength (Å)
Hα region
U Sco (UT: 2010/01/28.840)
19000
relative intensity
17000
15000
13000
11000
9000
7000
5000
6200
6300
6400
6500
6600
6700
6800
6900
7000
wavelength (Å)
図 4 上図は発見から 0.41 日後のスペクトル(2010 年 1 月 28.84 日 UT).
下図は Hα領域を拡大したスペクトル. Hαの FWHM は 6000 km/s に達していた.
Celestron C9 による多色測光の結果(28.81 日 UT)は以下の通りである。
B = 8.88, V = 8.60, Rc = 8.07, y = 8.66
B-V = 0.28, V-R = 0.53
3-2
発見から 1.41 日後のスペクトル
図 5 は発見から 1.41 日後(2010 年 1 月 29 日)に我々が得たスペクトルである。前
日のスペクトルと比べると、特に Hα輝線の輪郭に大きな変化が見られ、フラット
トップな形状に加え、レッドシフトした成分が卓越していた。これは爆発の非対称
性を示唆しているのではないかと考えられる。P Cygni profile は前日より顕著には現
れていなかった。
O I 7774, Mg II 7880
Hα
U Sco (UT: 2010/01/29.846)
He I 7075
15000
N II 5679
He I 5876
relative intensity
20000
Hγ
He I 4473, NIII 4482
N III 4640
Hβ
N II 5001, He I 5016
25000
10000
5000
0
4000
4500
5000
5500
6000
6500
7000
7500
8000
8500
wavelength (Å)
25000
Hα region
U Sco (UT: 2010/01/29.846)
relative intensity
20000
15000
10000
5000
0
6200
6300
6400
6500
6600
6700
6800
6900
7000
wavelength (Å)
図 5 上図は発見から 1.41 日後のスペクトル(2010 年 1 月 29.84 日 UT).
下図は Hα領域を拡大したスペクトル. Hαの FWHM は 7000 km/s に増大していた.
Celestron C9 による多色測光の結果(29.81 日 UT)は以下の通りである。
B = 9.89, V = 9.74, Rc = 9.09, y = 10.07
B-V = 0.15, V-R = 0.65
いずれのバンドでも、わずか 1 日で約 1 等の減光が見られた。
4. Summary
(1) 我々が観測した発見から 0.41 日後のスペクトルにはバルマー線をはじめ、ヘリ
ウムや窒素などの輝線が見られた。Hαの FWHM は 6000km/s に達しており、発
見から 1.41 日後に 7000km/s に増大していた。
(2) 発見から 0.41 日後の Hα, Hβ輝線には、明瞭な 5000km/s ブルーシフトした吸
収線 (P Cygni profile)が伴っており、発見から 1.41 日後の観測では顕著には見ら
れなかった。
(3) 発見から 1.41 日後の Hα輝線の輪郭変化が顕著であった。レッドシフトした成
分が卓越しており、爆発の非対称性を示唆しているのではないかと考えられる。
(4) 多色測光の結果、いずれのバンドでもわずか 1 日で約 1 等の減光が見られた。
Reference
Anupama, G. C. and Dewangan, G. C., 2000, AJ, 119, 1359
Barlow, M. J. et al., 1981, MNRAS, 195, 61
Munari, U. et al., 1999, A&A, 347, L39
Payne-Gaposchkin, C., 1957, The Galactic Novae, North-Holland P.C.
Pogson, N. R. et al., 1908, Mem RAS, 58, 90
Rosino, L. and Iijima, T., 1988, A&A, 201, 89
Schaefer, B. E. and Ringwald, F. A., 1995, AJ, 447, L45
Sekiguchi, K., et al., 1988, MNRAS, 234, 281
Thomas, H. L., 1940, BHarO, 912, 10
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