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相続税財産評価における収益方式

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相続税財産評価における収益方式
稲村 : 相続税財産評価における収益方式
商学論集 第 79 巻第 4 号 2011 年 3 月
【 論 文 】
相続税財産評価における収益方式
── ドイツ評価法に関する議論を参考として ──
稲 村 健太郎
I・は じ め に
相続税の課税物件は,相続または遺贈により取得した財産である。したがって,相続税において,
その財産をいかに評価するかということは,根本的な問題の一つである。特に事業用財産や非上場
株式を相続した場合に,その評価額を決定するにあたって問題が生じる場合が多い。
事業用財産や非上場株式を相続した場合の財産評価の方法の一つに,収益方式がある。収益方式
とは,評価対象企業が将来獲得する利益またはフリー・キャッシュ・フロー(債権者や株主等の資
金提供者に対する利払い,弁済または配当に充てることのできるキャッシュ・フロー)を一定の割
引率で割り引いた現在価値に基づき評価する方式である。具体的には,利益に基づいて評価を行う
収益還元方式とフリー・キャッシュ・フローに基づいて評価を行うディスカウンテッド・キャッシュ・
フロー(以下「DCF」という。
)方式がある。 また,株主が評価対象会社から将来獲得することが
期待される配当金に基づいて評価を行う配当還元方式も,収益方式の一つである1)。
事業用財産や非上場株式の相続税評価に,この収益方式を用いることは可能である。しかし,日
本では,収益還元方式や DCF 方式はあまり用いられない。その理由を明らかにし,問題点を指摘
することが本稿の目的である。
II・日本における事業用財産と非上場株式の相続税評価
1・時価の意義と収益方式の合理性
わが国においては,
相続における財産の評価は「時価」によることとされている2)。ここで,
「時価」
とはなにかということが問題となるが,多数説は客観的交換価値説を採っており,判例も支持して
いる。客観的交換価値とは不特定多数の当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる
価額のことである3)。
その通常成立する価格は,財産の種類によって異なる。たとえば売買目的有価証券は,相場変
動による利ざやを期待して保有するものであるため,通常,売買価格は市場価格によって成立する。
中小企業庁「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」(2009)9 頁
1)
相続税法 22 条
2)
東京高判平成 7 年 12 月 13 日行裁例集 46 巻 12 号 1143 頁
3)
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それに対して事業用財産や非上場株式は,継続して保有することによる利益を期待して保有するも
のであるため,売買価格は,その得られるであろう利益を考慮した価額によって成立するはずであ
る。
収益還元方式または DCF 方式においては,まず評価対象企業が将来獲得することが期待される
利益またはフリー・キャッシュ・フローに基づき事業価値の算定を行う。次に,遊休不動産などの
事業に関係のない不動産や投資有価証券などの非事業資産について,処分価値を見積もって加算を
行う。その上で,株主(事業主)以外の債権者等に帰属する借入金等の有利子負債や少数株主持分
などがあれば控除を行い,株主(事業主)価値を算定する4)。
ここで,事業価値は,将来獲得することが期待される利益またはフリー・キャッシュ・フロー5)
を一定の割引率6)で割り引いた現在価値である。
株主(事業主)価値=事業価値+非事業資産−有利子負債−少数株主持分
桜井教授は,
「割引計算の対象となる業績尺度が,配当・利益・キャッシュ・フローのいずれで
あれ,収益力の反映を意図するインカム・アプローチの重要性は,ますます高まっている。伝統的
な企業経営においては,事業内容が商業であれ製造業であれ,新鋭の固定的な設備への投資が重要
な戦略として位置づけられてきた。しかし固定設備を多用する伝統的産業においても,資産計上に
は直結しない研究開発活動の重要性が高まっており,またオフバランスとして取り扱われる自己創
設の無形資産の保有が業績を左右するような知的財産集約型の産業が,ベンチャー企業を中心に台
頭しつつある。したがって今後は,株式評価の 3 つのアプローチのうち,インカム・アプローチの
適用が妥当な株式評価額をもたらす事例が増加するものと思われる7)。
」と述べている。
また,企業評価や株式評価の実務上も,近年は収益方式が広く用いられており8),企業会計の分
野においても,固定資産の収益性の低下により投資額の完全な回収が見込めなくなった場合の減損
処理において,将来キャッシュ・フローの割引現在価値が考慮されている9)。
このように,継続保有による利益を期待して保有する事業用財産や非上場株式の評価に収益方
中小企業庁・前掲注 1,9 頁
4)
DCF 方式は,上述のとおり,評価対象企業が将来獲得することが期待されるフリー・キャッシュ・フロー(将
5)
来のフリー・キャッシュ・フローを永久に見積もることは不可能であるため,まず一定期間のフリー・キャッ
シュ・フローを予測する。また,その期間経過後については,予測期間の最終期のフリー・キャッシュ・フロー
をベースに一定の成長率が継続するものと仮定して継続価値を算出する。)を,一定の割引率で割り引いた現
在価値に基づき,株主価値を算定する手法であり,評価対象企業の継続を前提としている。
将来の利益を現在価値に割り戻す際に用いる割引率に関しては,一般的には,加重平均資本コスト(Weighted
6)
Average Cost of Capital「WACC」)を使用する。WACC とは,資本調達に伴うコスト等に基づき算定された比
率であり,自己資本コストと他人資本コストの加重平均等によってもとめられる。
桜井勝彦「残余利益モデルによる株式評価 非上場株式への適用をめぐって」
『税大論叢 40 周年記念論文集』
7)
(2008)173 頁
マッキンゼー・アンド・カンパニー(本田桂子訳)『企業価値評価第 4 版』(2006)115 頁及び日本公認会計
8)
士協会「株式等鑑定評価マニュアル」(1993)27 頁
「固定資産の減損に係る会計基準」二 4.
9)
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式を用いることには合理性があり,重要性が高まってきている。
ところが,実際の相続税評価実務においては国税庁が制定する財産評価基本通達によって評価さ
れることがほとんどである。以下では,財産評価基本通達による事業用財産と非上場株式の評価に
ついて検討する。
2・財産評価基本通達と事業承継の思考
(1) 事業用財産の評価
事業用財産の評価については,土地と建物をとりあげる。
財産評価基本通達において,土地の価額は,宅地,田,畑,山林等の地目の別に評価する10)。
市街地的形態を形成する地域にある宅地は,さらにその地区(高度商業地区,繁華街地区,普通
住宅地区,中小工業地区など)ごとに,路線価を基礎としてその土地の道路に対する間口や奥行き
等を勘案して評価する11)。
路線価は,売買実例価額,公示価格,不動産鑑定士等による鑑定評価額,精通者意見価格等を
基として国税局長がその路線ごとに評定した 1 平方メートル当たりの価額である12)。路線価につい
ては,ある路線に面している土地の 1 平方メートル当たりの価額は全て同じであるという前提に基
づいており,個々の事業用の土地について収益性を考慮するという考え方は採っていない。
市街地以外の地域にある宅地は,固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算した金額による
評価され13),収益性は考慮されない。
また,建物(家屋)の価額は,固定資産税評価額によることとされており,これも事業用の建
物の収益性は考慮されない。家屋の評価方法は,① 類似する家屋の売買実例を基として評価する
売買価格比較法,② 再建築費から経過年数,破損状況,需給状況の変化等に応じた減価額を控除
して算出した価額を基として評価する再建築費基準法,③ 賃貸収益から一般経費を控除した残額
を一定の金利で還元する収益還元法等が考えられるが,相続税における家屋の評価も固定資産税の
それと歩調を合わせる方法を補完的に採用しているものである14)。
このように,財産評価基本通達において,事業用財産である土地や建物(家屋)は収益性を考
慮せず,原則として事業用でない財産と同じように評価される。
(2)
非上場株式の評価
昭和 39 年の財産評価基本通達制定にあたり,取引相場のない株式の評価方法として,会社の規
模に応じて,大会社には類似業種比準方式,中会社には類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
方式,小会社には純資産価額方式,中小会社の非同族株主に対する例外的な評価方式として配当還
元方式が規定された。
類似業種比準方式は,事業内容が類似する上場企業の株価を基礎として,評価会社の利益,配当,
財産評価基本通達 7
10)
財産評価基本通達 11∼14
11)
財産評価基本通達 14
12)
財産評価基本通達 21
13)
肥後治樹『財産評価基本通達逐条解説』大蔵財務協会(2010)386 頁
14)
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純資産の 3 要素をその上場企業と比較して評価する方式である。つまり,利益,配当,純資産の金
額が,上場企業に近ければ近いほど,その会社の株価は上場企業の株価に近いと仮定して評価する
のである。
昭和 39 年制定当時は,類似業種比準方式を適用する「大会社」の基準として資本金 1 億円基準
があり,当時の上場基準と一致していた。したがって,大会社は上場会社とほぼ同じであるから類
似業種に比準して評価するというように,理論的に整合性が保たれていた15)。
しかしその後,昭和 47 年に通達改正が行われ,類似業種比準方式に斟酌率が導入された。これは,
上場会社と比較して評価した金額に一律 0.7 を乗じて評価するというものである。昭和 47 年当時は,
中小企業対策というものが強く議論されてきて,株式の時価とは何か,通常取引される価額とは何か
という問題よりも,どうしたら事業承継にかなうような株式評価ができるかという角度からの議論が
強調された結果として,一律に 7 掛けにすることによって評価を下げることとされたのである16)。
また,小会社の株式は,その大部分が同族会社で,その実態は個人企業と異ならないため,そ
の株式は個人事業に準じて評価を行うのが妥当であるという理由から17),昭和 58 年までは純資産価
額方式で評価することとされていた。しかし,昭和 40 年代以降の地価の高騰のため,純資産価額
方式で評価したのでは,相続税の負担が過重になって,事業の承継が困難になるという批判が中小
企業の間で強くなり,それを受けて昭和 58 年に通達が改正され,小会社の株式についても類似業
種比準方式を併用することが認められた。
さらに,類似業種比準方式の斟酌率は,平成 12 年の通達改正により,会社の規模により異なる
こととされ,大会社は 0.7,中会社は 0.6,小会社は 0.5 とされている。
また,配当還元方式は収益方式の一つであるが,非同族株主である少数株主が株式を所有する
ことによって受ける利益,すなわち配当金の額を収益とする18)特例的な評価方式である。配当のみ
を株主にとっての収益とするため,恣意的に配当を抑えることにより評価額を低くすることができ
るという問題がある。
配当還元方式における収益の額は,株式の過去 2 年間における平均配当金額によるとともに,特
別配当,記念配当等で継続性の認められないものの金額を除外することによって,通常的な配当金
額を求め,その金額を基として評価することにより評価の安定性及び安全性を図ることとしている。
また,資本還元率を 10% としているのは,取引相場のない株式は,将来の値上がり期待その他,
配当金の実額による利回り以外の要素がある上場株式とは異なっていること,また,収益が確定的
であり安定している預金,公社債等とは異なることなどから,比較的高い還元率を採用することに
よって,評価の安全性を図ることとしたものである19)。
品川芳宣・緑川正博『相続税財産評価の理論と実践』ぎょうせい(2005)21 頁
15)
品川・緑川前掲注 15,33 頁
16)
名古屋高判昭和 53 年 12 月 21 日月報 25 巻 4 号 1188 頁,神戸地判昭和 55 年 5 月 2 日月報 26 巻 8 号 1424 頁
17)
支配株主が株式保有から得るリターンには配当だけでなく役員給与も含まれるため,配当に役員給与を加え
18)
た額を割引率で割り引いて株価を算定する配当等還元方式が提唱されている。渡部尚史「相続税における配
当還元方式について」神戸学院経済学論集 39 巻 3・4 号(2008)32 頁
肥後・前掲注 14,654 頁
19)
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配当金額を一律 10% で割り引くこととされていることについて,この配当還元率が高すぎるこ
とから,一般に少数株主が取得する株式の評価額が低くなり,複雑なタックスプランニングなど租
税回避を惹起しているとの意見がある20)。
このように,財産評価基本通達は,非上場株式の評価について,中小企業の事業承継に資する目
的や,評価の安全性等を考慮して,評価額が低くなるように規定している部分がある。
ところで,租税行政庁は,租税法律主義の手続的側面である合法性の原則により,租税の減免の
自由はなく,法律で定められた通りの税額を徴収しなければならない。したがって,本来,通達に
よる政策目的の優遇(事業承継に配慮した非上場株式の優遇等)は認められない。通達は下級行政
庁に対して法令の解釈基準ないしその運用方針等の準則を示すものであって,一般国民を拘束する
ものではないから,通達による行政解釈に名を借りて,実質上,法制の改正または補充に等しい結
果をもたらし,国民の権利義務に重大な影響を及ぼすようなことは,現に戒められなければならな
い21)。
しかし,現実には,この通達による低額評価が長年継続して一般に適用されてきたことにより,
行政先例法22)となっているものと解される。そのため,非上場株式を保有する納税者は,通常は通
達の評価方式による結果となる。ここに,納税者間の公平の問題がある。非上場株式を保有する納
税者は時価より低い価格で被相続人の財産を引き継ぐことができ,相続税の負担が小さいのに対し
て,その他の財産を引き継ぐ納税者は,相続税の負担が大きくなる。
さらに,非上場株式を引き継ぐ納税者は,租税特別措置により,相続税の納税を猶予され,一定
の場合には納税を免除されることとしている23)。
これは,通達による優遇と措置法による優遇の二重の優遇であり,特に問題があるものと思われ
る。
ただし,措置法による納税猶予は「時価」を基準として計算した金額が猶予・免除されることと
されている。そして,その「時価」とは収益方式により算定された客観的交換価値であると考える
べきである。また,通達が一般国民を拘束するものではないことは前述のとおりであるから,措置
法は,非上場株式を財産評価基本通達により評価することを前提としているとは必ずしも言えない。
そうすると,問題は,優遇評価した価額を「時価」であるとする通達の側にあるということになる
だろう。
以上,日本における事業用財産と非上場株式の評価について検討してきた。以下ではドイツにお
ける事業用財産と非上場株式の評価について検討する。
事業承継税制検討委員会「中間報告」(2007)21 頁
20)
東京高判昭和 41 年 4 月 28 日判タ 194 号 14 頁
21)
租税法は侵害規範であるから,納税者に不利益な内容の慣習法の成立の余地はないが,納税者に有利な慣習
22)
法の成立は認めるべきである。このような考えから,納税義務を免除・軽減し,あるいは手続要件を緩和す
る取り扱いが租税行政庁によって一般的にしかも反復・継続的に行われ(行政先例),それが法であるとの確
信が納税者の間に一般的に定着した場合には,慣習法としての行政先例法の成立が認められる。金子宏『租
税法 15 版』弘文堂(2010)100 頁
租税特別措置法 70 条の 7,70 条の 7 の 2
23)
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III・ドイツにおける事業用財産と非上場株式の評価
1・総論
比較対象としてドイツを選択する理由は,日本の相続税は,昭和 25 年のシャウプ税制以来,原
則として遺産取得税の体系を用いており,ドイツと共通しているためである24)。
遺産取得税方式は,遺産取得者の取得額に応じて課税するものであり,相続人の担税力の増大に
対する課税である。もう一つの方式である遺産税方式は遺産の総額に対して課税するものであり,
財産税としての性質を持っている25)。
遺産取得税方式と遺産税方式では,財産の評価について考え方が異なりうる。かつてボンブライ
トは次のように述べた。
「財産の価値は誰にとっての価値かという問題に関連付けることなしには
確認不可能である26)。
」この考え方によれば,遺産取得税方式では,相続財産の価値は,取得者で
ある相続人にとっての価値であるから,
相続人が将来得ることが期待される利益またはキャッシュ・
フローの割引現在価値により評価すべきであるということになるだろう。また,相続税を遺産取得
による相続人の担税力の一時的・偶発的増大部分に対する所得課税として位置付ける場合には,当
該相続財産の価値は,取得時の時価(売買可能価格ないし取引価格)で評価すべきであるという,
いわゆる時価評価主義に通ずる27)こととなるであろう。
ドイツの相続・贈与税法においては,財産の評価は基本的に評価法(Bewertungsgesetz)という
法律に従って行われるが,相続税通達(Erbschaftsteuer Richtlinien)によっている部分もある。
-
2・1995 年の連法憲法裁判所決定
ドイツでは,従来の財産の評価額が,平等原則に反するとした連邦憲法裁判所の決定が,1995
年と,2006 年に出ている。
まず,1995 年当時は,評価法において,不動産の評価を統一価値(Einheitswert)により評価す
ることとされていた。この制度は 1925 年に導入されたもので,本来 6 年ごとに評価額の改定を行
うことにされていたのが,ほとんど改定されず,1974 年までは 1935 年の評価額が適用され,よう
やく 1974 年から 1964 年の評価額が適用されるようになった。1995 年時点では,他の財産は現時
点での取引価格で評価されているのに,不動産については 1964 年の価額で評価されていた。この
ように,当初から不動産所有者を優遇しつづけてきたのである28)。連邦憲法裁判所はこの評価格差
現行の制度は,遺産がどのように分割されても,税額の合計額が,相続人が法定相続分で相続したと仮定し
24)
た場合の税額の合計額と等しくなる法定相続分課税方式を採っており,純粋な遺産取得税方式を修正してい
る。金子・前掲注 22,488 頁
岩崎政明「相続税を巡る諸問題」『資産課税の理論と課題』(1995)168 頁
25)
James C. Bonbright, Valuation of Property(1937)p. 93
26)
岩崎・前掲注 25,176 頁
27)
中島茂樹・三木義一「所有権の保障と課税権の限界」法律時報 68 巻 9 号(1996)48 頁
28)
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を平等原則に反すると判断し,1996 年末に法改正が行われた。
これによって,相続税及び不動産取得税においては,不動産は,必要評価(bedarfsbewertung)
により算定される不動産所有価格(Grundbesitzwert)により評価することとなった29)。これは,既
建築の土地については簡略化された収益価値方式(Ertragswertverfahren)により評価し,非建築
の土地については,建築法典(Baugesetzbuch)に基づいて設置される鑑定委員会(Gutachterausschuss)が決定する標準地価(Bodenrichtwert)を 20% 減じて評価するものであった30)。
3・2007 年の連邦憲法裁判所決定
次に,ドイツ連邦憲法裁判所は,2006 年 11 月 7 日決定31)において,次の内容を判示した32)。
①
取得の価値に同一の税率で相続税を課す相続税法 19 条 1 項は,基本法(Grundgesetz)に反
する。その理由は,税の価値は対象財産の基本的なグループ(企業財産,土地,資本会社の
持分,そして農林業財産)と結び付けられているためであり,基本法 3 条 1 項の要件を満た
さない。
②
a)相続税の算定根拠に基づく財産の評価は,統一的な普通価値(Einheitlich am gemeinen
wert)によることで,重要な評価の目的が達成される。
b)その他,立法者は,場合によっては正確な目的(zielgenauer)と明確な基準(normen,立法者は,場合によっては正確な目的(zielgenauer)と明確な基準(normen立法者は,場合によっては正確な目的(zielgenauer)と明確な基準(normen,場合によっては正確な目的(zielgenauer)と明確な基準(normen場合によっては正確な目的(zielgenauer)と明確な基準(normen目的(zielgenauer)と明確な基準(normen(zielgenauer)と明確な基準(normen明確な基準(normen基準(normenklarer)の租税免除規定を整えるべきである。
まず,① については,税負担は評価額に税率を乗じることによって決まるものであるから,税
率が同一であるときは評価が平等になされていなければならないことを示したものである。
これは,
1995 年当時にも,同様の内容の判示がなされていたものであるが,今回あらためて違憲とされた。
背景としては,まずひとつに,事業用財産の評価は例外的な部分価値(Teilwert)により行うこ
ととされており,個々の経済財を個別に評価し,その合計額から債務の合計額を差し引くことによ
り評価していたことがあげられる。この事業用財産に属する経済財の範囲は,租税貸借対照表によ
り定められており,個々の経済財の評価額は帳簿価格によることとされていた(事業用不動産,有
価証券,資本会社持分は除く)
。これにより,過小評価が行われていたのである33)。
また,建物の立っている土地について,流通価値の水準より約 40% もの大幅な過小評価が行わ
れていたことがあげられる34)。
この判決を受けて,評価を適正化したうえで,判旨 ② b に沿うかたちで,事業承継税制を拡大
したという経緯がある。
澁谷雅弘「ドイツにおける相続税・贈与税の現状」日税研論集 56 号(2004)180 頁
29)
§145 BewG
30)
BVerfG Beschluss vom 7.11.2006 1 Bvl 10/02 DStR(2007)S.235
31)
この点について Pahlke 判事は,「相続税法の平等に適する体制の中心的な構造を作り出した」として支持し
32)
ている。Armin Pahlke “Deer Erbschaftsteuerbeschluss des BverfG” NWB Fach 10, S.1575 一方で,
Seer 教授の「連
邦憲法裁判所は重要でない論拠
(Argument für irrelevant)を固持している」
という批判がある。
Roman Seer “Der
Beschluss des BverfG zur Erbschaftsteuer vom 7.11.2006 Analyse und Ausblick” ZEV3(2007)S.101
-
Michael Messner “BVerfG : Verfassungswidriigkeit des ErbStG” AktStR Beilage(2007)
, Nr1, S.1
33)
Michael Messner, a.a.O., S.1
34)
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商 学 論 集
第 79 巻第 4 号
4・現行の財産評価における収益方式の適用
現行の評価法では普通価値(流通価値)によることが原則であり,普通価値とは,通常の商取引
で成立する売却によって得られる経済財の価値であり35),客観的交換価値を表わしている。
実務的には,それが市場価格のある資産であれば,普通価値の確定は比較的簡単であるが,安
定した市場がない場合には,類似した経済財の売却価格をよりどころとして普通価値を求めなけれ
ばならない36)。
取引相場のない資本会社の持分(株式)の普通価値は,過去に行われた第三者への売却価格を適
用する。ただし,1 年以内の売却だけ考慮に入れられる37)。これは,直近の売却価格が評価日にお
ける普通価値を適切にあらわしていると考えているためであろう38)。
ただし,非上場の資本会社の株式について,売買価格が不明なときは,資本会社の期待収益によ
る収益価値法(Ertragswert)または通常の商取引で用いられている方法,その他一般に認められ
た方法によることとされている39)。
また,事業用財産についても評価法 11 条 2 項が適用され,収益価値法その他の方法によって評
価することが規定されている40)。
事業用土地の収益価値法による評価は,土地部分と建物部分に分けて行い,それを合算する。土
地部分の価値は標準地価(Bodenrichtwert)に土地面積(Grundstücksfläche)を乗じて計算する。
そして建物部分の価値は,粗収益(Rohertrag)から営業費用(Bewirtsschaftungskosten)と地代利
息(Bodenwertverzinsung)を差引き,建物純利益(Gebäudereinertrag)を求め,それに倍率(Ver,建物純利益(Gebäudereinertrag)を求め,それに倍率(Ver建物純利益(Gebäudereinertrag)を求め,それに倍率(Ver,それに倍率(Verそれに倍率(Vervielfältiger)を乗じて建物収益価値を計算する41)。倍率は評価法別表 21 に定められている。
非上場の資本会社の株式と,企業財産は,簡易収益価値方式により評価することができる42)。た
だし,その適用により明らかに正しくない結果となる場合には,簡易収益価値方式を用いることが
できない。簡易収益価値方式は,今後継続して見込まれる年間収益(Jahresertrag)に資本化係数
(Kapitalalisierungsfaktor)を乗じて収益価値を計算する評価方式である43)。年間収益は,原則として
評価期日前 3 事業年度における事業成果(Betriebsergebnis)に基づく収益実績の和を 3 で除して
得られる年平均値を用いる44)。資本化係数は,
資本化金利
(Kapitalisierungszinsatz)の逆数
(Kehrwert)
§9 Abs.2 BewG
35)
Gerd
Gerd Rose und Christoph Watrin, Erbschaftsteuer mit Schenkungsteuer und Bewertungsrecht, Erich Schmidt Ver-
36)
lag(2009)S.99
§11 Abs.2 Satz2 BewG
37)
Gerd Rose und Christoph Watrin, a.a.O., S.109
38)
§11 Abs.2 BewG
39)
§109 Abs.2 Satz2 BewG
40)
§184∼188 BewG, Rose, S.116
41)
§199ff BewG
42)
§200Abs.1
43)
§201Abs.1,2
44)
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稲村 : 相続税財産評価における収益方式
であり45),資本化金利は,国債の長期利回りをベースとする基礎金利(Basiszins)に 4.5% の割増
(Zuschlag)を加えたものである46)。
簡易収益価値方式による収益価値=年間収益×資本化係数
資本化係数=(1/資本化金利)
×100
資本化金利=基礎金利+4.5
また,評価法は収益価値法以外の,一般に用いられている方法によることも認めている47)。これ
は DCF 法や乗数法(Multiplikatorverfahren)である。
DCF 法にはエクイティ法やエンティティ法がある。エクイティ法は企業の自己資本の市場価値
を直接計算するのに対して,エンティティ法は他人資本を含めた企業価値全体を計算し,その後他
人資本を差し引くことにより,自己資本の市場価値を間接的に計算するものである。Seer 教授は,
「企業価値は将来価値(Zukunftswert)である」と述べたうえで,収益価値法または DCF 法は正し
い(richtige)評価方法であると述べている48)。
乗数法は,実務において広く用いられている簡便な企業評価の手段である49)。しかし,
この方法は,
比較企業を選定し,その比較企業の利益とエンティティバリューの比率を用いて,評価企業のエン
ティティバリューを計算しようとするものであり,評価が比較企業の収益性に依存してしまうとい
う問題がある。
評価の下限は,納税者が市場に個々の財産を売却することによって得られる実質価値(Substanz評価の下限は,納税者が市場に個々の財産を売却することによって得られる実質価値(Substanz,納税者が市場に個々の財産を売却することによって得られる実質価値(Substanz納税者が市場に個々の財産を売却することによって得られる実質価値(Substanzwert)である。将来収益が期待できず,これ以上企業を営むべきではない場合には,実質価値が用
いられる。たとえば,全く利益が出ないような企業を保有しているようなときには,そのまま保有
し続けるよりも,直ちに個々の事業用財産を売却してキャッシュを得る方が合理的だからであ
る50)。
このように,ドイツにおいては,事業用財産や非上場株式の評価を行うに当たって,収益価値法
とともに,将来収益を加味した割引キャッシュ・フロー法の適用を認めている。
IV・お わ り に
本稿では,事業用財産と非上場株式の評価について,ドイツの制度と比較して検討してきた。
§203Abs.3
45)
資本化係数について,2008 年の基本金利が 4.58%,2009 年の基本金利が 3.61% となった結果,2008 年 12 月
46)
31 日と 2009 年 1 月 1 日で 12% もの変動が生じていることが指摘されている。Joachim Schiffer “Bewertung
von Unterunehmensvermögen nach der Erbschaftsteuerreform” DStZ(2009)Nr.15, S.554
§11Abs.2
47)
Roman Seer, a.a.O., S.103
48)
Gerd Rose und Christoph Watrin, a.a.O., S.138
49)
Gerd Rose und Christoph Watrin, a.a.O., S.139
50)
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商 学 論 集
第 79 巻第 4 号
事業用財産や非上場株式は,継続使用による利益を得ることを目的として取得・保有するもので
あるから,収益方式により評価するのが合理的である。収益方式は近年,評価実務や会計学の分野
で採用されており,現行のドイツにおける事業用財産と非上場株式の評価においても,収益方式と
しての収益価値法や,DCF 法の適用が認められている。
しかし,日本の財産評価通達では,少数株主の特例として配当還元方式を認めている他は,原則
として収益方式を採用していない。そして,通達による評価額は,安全性や事業承継を考慮して一
般に低いものとなる。そのため,納税者は,通達に拘束される必要があるわけではないものの,低
い評価額,ひいては少ない相続税額を求めて,通達により評価するのが一般的となっている。
日本では,通達による低額評価が存続したままで,事業承継税制として,措置法による非上場株
式等の納税猶予制度が創設された。これにより,通達と措置法による二重の優遇が存在する状態と
なっている。この点,ドイツでは,連邦憲法裁判所決定を受けて,評価を適正化したうえで,事業
承継税制を拡充したため,原則として評価における優遇はなくなっているといえる。
また,日本においては,相続税の基礎控除の引き下げによる課税ベースの拡大と最高税率の引き
上げが予定されているが,通達と措置法による二重の優遇がなされたままで,増税につながる税制
改正を行うことは,事業用財産を相続した者と,それ以外の財産を相続した者との間の不公平感を
助長する結果となるものと思われる。
参考文献
Armin Pahlke “Deer Erbschaftsteuerbeschluss des BverfG” NWB Fach 10(2007)
BVerfG Beschluss vom 7.11.2006 1 Bvl 10/02, DStR(2007)
Gerd Rose und Christoph Watrin, Erbschaftsteuer mit Schenkungsteuer und Bewertungsrecht, Erich Schmidt Verlag(2009)
James C. Bonbright, Valuation of Property, McGRAW HILL BOOK COMPANY(1937)
-
Joachim Schiffer “Bewertung von Unterunehmensvermögen nach der Erbschaftsteuerreform” DStZ, Nr.15(2009)
Klaus Tipke und Joachim Lang, Steuerrecht, Verlag Dr. Otto Schmidt(2009)
Michael Fischer, Roland Jüptner, Armin Pahlke, Erbschaft und Schenkung Steuer Gesetz Kommentar, Haufe(2009)
Michael Messner “BVerfG : Verfassungswidriigkeit des ErbStG” AktStR Beilage, Nr1(2007)
Roman Seer “Der Beschluss des BVerfG zur Erbschaftsteuer vom 7.11.2006 Analyse und Ausblick” ZEV3(2007)
-
岩崎政明「相続税を巡る諸問題」『資産課税の理論と課題』税務経理協会(1995)
金子宏『租税法第 15 版』弘文堂(2010)
桜井勝彦「残余利益モデルによる株式評価 非上場株式への適用をめぐって」
『税大論叢 40 周年記念論文集』
(2008)
澁谷雅弘「事業承継税制の現状」法学 69 巻 1 号(2005)
品川芳宣・緑川正博『相続税財産評価の理論と実践』ぎょうせい(2005)
肥後治樹『財産評価基本通達逐条解説』大蔵財務協会(2010)
事業承継税制検討委員会「中間報告」(2007)
中小企業庁「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン」(2009)
中島茂樹・三木義一「所有権の保障と課税権の限界」法律時報 68 巻 9 号(1996)
マッキンゼー・アンド・カンパニー(本田桂子訳)『企業価値評価第 4 版』ダイヤモンド社(2006)
渡部尚史「相続税における配当還元方式について」神戸学院経済学論集 39 巻 3・4 号(2008)
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