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IDCJ QUARTERLY NEWSJuly 2002

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IDCJ QUARTERLY NEWSJuly 2002
IDCJ
QUARTERLY
NEWS
ISSN 0919-1690
編集・発行
July 2002 ● No.36
財団法人 国際開発センター
企画・広報室
〒135-0047 東京都江東区富岡2-9-11 京福ビル
TEL(03)3630-7301 FAX(03)3630-8095
ホームページhttp://www.idcj.or.jp
2001年度の事業活動
視点
IDCJは、開発と協力に関わる新しい動向やテーマを敏感にキャッチし、積極的に取り組んでまいりました。また、様々な専門機関、コンサ
ルタント、研究者などとの協調を図りつつ、その中核としての研究スタッフの強化を進めています。我が国ODAの内容を重視する動きが一
層強まっている近年、開発協力におけるソフト分野の多様化と充実、様々な開発問題に対する総合的アプローチの適用など、IDCJが先駆的
に対応すべきニーズはますます大きくなっています。2001年度事業はそうしたニーズに対処しつつ、いずれも順調に推移し、所期の事業
計画を達成することができました(p. 2「2001年度事業一覧参照」)。
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人材養成事業
日本人を対象とした人材養成事業のうち、経済産業省補
助事業「プロジェクト・マネジメント・コース」では、「プ
ロジェクト評価の理論と実務」、「環境経済性評価」を始めと
する43コースを実施し、延べ364名の参加を得ました。また、
国際協力事業団(以下JICA)委託「海外長期研修員派遣業
務」では、継続研修員57名および新規派遣研修員29名の派
遣管理業務を行いました。
途上国の人材を対象とした事業では、JICA委託「開発政
策コース」に13ヵ国13名、「工業プロジェクト評価と中小企
業育成セミナー」に10ヵ国11名、「日韓共同研修 経済開発
政策と市場経済」に10ヵ国20名の参加を得ました。
その他、アブダビ皇太子府委託の国際シンポジウム
'International Symposium on the Japanese Experience in
Development: Lessons and Opportunities for the Gulf'をア
ブダビにて開催し、(財)中東協力センター委託「中東産油
国投資促進事業(投資環境整備支援事業∼専門家派遣)」で
はサウディアラビアへの専門家派遣を実施しました。また自
主事業であるタイ・スタディ・ツアーには、大学生・大学院
生・一般社会人から多数の参加をいただき、好評を得ました。
調査事業
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題に関する東京クラブ」事業(第2年次)を国際交流基金日
米センターの助成を受けて実施しました。
開発に関する論考をまとめた刊行物として「IDCJ
FORUM」第22号(特集/アフリカ農村開発)を、日本自転
車振興会の補助金を受けて刊行しました。
国際交流事業
研究員を途上国政府や国際会議へ派遣し、また、講演
会・セミナー・シンポジウム等へ講師として派遣しました。
また、2001年度もJICA委託「海外開発専門家招聘事業」
を実施し、世界銀行タンザニア事務所のDr. Benno Nduluを
迎え、JICA/IDCJ共催セミナー「アフリカの経験に基づく援
助効果の理論と実際」を開催した他、中国の都市化政策に関
する開発調査を3年間実施してきた成果を踏まえて、シンポ
ジウム「都市化:21世紀中国の挑戦−東アジア都市間協力
と競争の時代−」を開催しました。
資料整備事業
主に経済産業省の協力を得て日本自転車振興会による補
助事業として実施した資料整備事業については、利用者が途
上国の開発関連情報及び経済協力、開発問題の基本的な情報
を迅速かつ的確に利用できるよう、選書、配架に留意し、そ
の充実を図りました。
2001年度は、計54件の調査を実施し、我が国のODAの新
その他の事業
しい領域や課題に取り組みました。調査件数は昨年度を大幅
IDCJ創立30周年記念シンポジウムをはじめ、評価や中東
に上回ったうえ、JICAの大型プロジェクトを新規に4件受託
時事問題等その時々で関心の高いテーマを選び、広く一般に
したことで、継続案件を含めた大型プロジェクトの実施件数
公開した講演会を開催しました。広報活動としては、「国際
が過去最多となりました。
開発センター年報」(和文・英文)、「IDCJ Quarterly News」、
分野としては、貧困、教育、農村開発、保健、環境・エ
ネルギー等のテーマに重点を置き、社会開発協力の新しいア 「IDCJ FORUM」を刊行しました。
プローチ、国別経済構造改革支援政策、ODAに関する国際
会 議 に 向 け た 諸 課 題 、 評 価 手 法 の 研 究 と 各 種 評 価 調 査 、 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● CONTENTS ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
視点/2001年度の事業活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
DACを中心とする各種援助政策に関する調査、NGOに関す
2001年度事業活動一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
る調査などに取り組みました。
調査ホットライン/タンザニア国地方開発セクタープログラム策定支援調査 ・・3
自主研究事業
「事業評価者養成のためのプログラム開発」事業(第2年
次)を笹川平和財団の助成を受けて、また「地球規模の水問
調査ホットライン/タイ国農村活性化のための人的資源開発計画調査 ・・3
国際交流/ジョルダン・重要政策中枢支援・産業政策長期派遣専門家の体験を通して ・・4
国際交流/タイ・エイズ予防・地域ケアネットワークプロジェクトについての報告 ・・4
トピックス/3分セミナー「教育開発援助は『盆栽プロジェクト』で」・・5
インフォメーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1
◆◇2001年度事業一覧◆◇
人材養成事業
1.経済産業省補助研修事業
◆プロジェクト・マネジメント・コース
2.国際協力事業団委託事業(発展途上国人材の養成)
◆Development Policies Course(開発政策コース)
◆Seminar on Project Appraisal for Industry and SME's Development
(工業プロジェクト評価と中小企業育成セミナー)
◆KOICA-JICA Joint Workshop on Economic Development Strategy
and Market Economy(日韓共同研修 経済開発政策と市場経済)
3.国際協力事業団委託事業(我が国人材の養成)
◆海外長期研修員派遣業務
4.その他の事業
◆International Symposium on the Japanese Experience in Development:
Lessons and Opportunities for the Gulf(アブダビ皇太子府委託)
◆中東産油国投資促進事業(投資環境整備支援事業−専門家派遣)
((財)
中東協力センター委託)
◆タイ・スタディ・ツアー
調査事業
1.外務省
◆沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の具体的プログラム化に向け
た基礎調査
◆国連持続可能な開発会議に向けた環境ODAの新たなる取り組み
◆新規援助モダリティーに対する他主要ドナーの援助動向分析調査
◆GII(人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ)の評価調査
◆対ヴィエトナム国別評価
◆TICAD IIIの開催へ向けての支援調査
◆日米協力によるNGO研修プログラム企画及び実施運営
◆貧困削減戦略ペーパー(PRSP)と他ドナー援助政策の分析調査
◆「水」に関連する国際機関及び各ドナーの政策及び援助の実態に関す
る調査
2.経済産業省
◆石油資源開発等支援(対中東産油国投資促進事業調査)
3.国土交通省
◆経済基盤施設整備支援調査
4.農林水産省
◆農林水産業国別協力方針策定のための基礎調査事業:基本調査
◆農林水産業個別協力戦略推進事業
5.環境省
◆環境ODAの環境改善効果事前評価手法の開発に関する基礎調査
6.国際協力事業団
◆アフリカ農村開発手法の作成;開発調査パイロットスタディのフォロ
ーアップ調査
◆アフリカ農村開発手法の作成;開発調査の開発計画に係る調査
◆タイ国農村活性化のための人的資源開発計画調査(第1年次)
◆タンザニア国地方開発セクタープログラム策定支援調査(第2年次そ
の1・その2)
◆ミャンマー国基礎教育改善計画調査(第1年次)(第2年次)
◆インドネシア国地域教育開発支援調査フェーズ1(第4年次)
◆インドネシア国地域教育開発支援調査フェーズ2(第1年次)
◆タイ、ラオス国国境地域総合開発計画調査(2年次その2)
◆中国郷村都市化実験市(海城市)総合開発計画調査(第3年次)
◆チリ国地域経済開発・投資促進支援調査(第3年次)
◆プロジェクト研究日本型国際協力の有効性と課題(第2年次)
◆モザンビーク国除隊兵士再定住地域村落開発計画調査(第2年次)
◆ヴィエトナム国地域振興のための地場産業振興計画調査
◆カザフスタン国アスタナ新首都総合開発計画調査(第3年次)
◆カンボディア国首都圏・シハヌークヴィル成長回廊地域開発調査(4
第1年次)
◆アフリカ農村開発手法の作成;アフリカ農村開発手法の作成
◆アフリカ農村開発手法の研究;エティオピア国におけるFAO食料安全
保障事業への協力可能性検討に係る調査
◆イラン基礎情報収集調査(プロジェクト形成調査)(マクロ経済・開
発計画)
◆ウズベキスタン国プロジェクト経済評価(公共事業一般)
◆タイ鉱工業プロジェクト(中小企業診断制度)成果普及調査
◆タイ国国家計量標準機関プロジェクト第2次短期調査
◆日中友好環境保全センタープロジェクトフェ−ズIII短期調査(プロジ
2
ェクト効果分析)
◆貧困削減戦略ペーパー情報収集及び分析(2)
◆ミャンマー国保健医療協力計画プロジェクト形成調査(公共医療サー
ビス/保健医療行政)
◆ミャンマー保健医療プロジェクト形成調査(保健医療情報整備)
◆モデル評価事例集(案)及び英文評価マニュアル(案)の作成
◆ユーゴースラヴィア国基本情報収集プロジェクト形成調査(農業)
7.国際協力銀行
◆開発パートナーシップデータベース作成
◆灌漑セクターにおける事業再評価に係る調査
◆フィリピン:「地方自治体支援政策金融事業」に係る案件実施支援調査
8.日本貿易振興会
◆地球環境・プラント活性化事業等調査に関する過去のF/Sの評価とフ
ォローアップ
◆同時多発テロ事件と対アフガニスタン軍事行動が湾岸産油国に与える
影響の分析調査
9.(財)中東協力センター
◆エジプト・トルコにおける産業経済動向調査に関する調査
◆中東産油国投資促進事業(調査事業)−IT専門家派遣・研修生受け入
れ及びIT産業育成のための戦略等調査−
◆中東産油国投資促進事業(調査事業)−クウェイトの基礎インフラの
現状と将来展望戦略等調査−
◆中東産油国投資促進事業(投資促進ビジョン作成事業)
10.環境事業団
◆海外民間環境保全団体の実態等に関する調査業務
11.日本SAARC特別基金事務局社団法人国際交流サービス協会
◆SAARC情報冊子作成事業
12.エネルギー総合推進委員会
◆エネルギ−施設に対する社会的受容について
13.Project Expert Co., Ltd.
◆Survey of reviewing the support plan for establishing a small and
medium enterprise diagnosis and guidance system
自主研究事業
1.自主研究事業
◆「事業評価者養成のためのプログラム開発」事業(第2年次)
◆「地球規模の水問題に関する東京クラブ」事業(第2年次)
2.自主研究成果物『IDCJ Forum 22号 特集/アフリカ農村開発』の刊行
国際交流事業
1.研究員の途上国政府、国際機関等への派遣
◆国際協力事業団長期専門家派遣
◆国際協力事業団短期専門家派遣
◆国際会議への出席
2.海外開発専門家の招聘
◆世界銀行タンザニア事務所より専門家の招聘
◆中国国家発展計画委員会より専門家の招聘
その他の事業
1.資料整備事業
◆資料の収集・整理(日本自転車振興会補助事業)
◆資料の国際・国内交換の実施
2.発展途上国の開発に関する調査研究
◆日本自転車振興会補助事業 3.講演会、広報活動
◆講演会
◆広報活動
◆「国際協力の日」記念イベントへの参加
4.役職員の専門家としての対外活動
◆各種専門委員会委員等
◆シンポジウム、セミナー、学会等のパネリスト等
◆大学・援助実施機関等での講義、講演等
◆専門論文発表
*事業の詳細については、
「国際開発センター 年報2001-2002」をご覧下さい。
「国際開発センター 年報2001-2002」はホームページ
(http://www.idcj.or.jp/)からダウンロードできます。
担当:(財)国際開発センター 企画広報室 薮田(み)
Tel:03-3630-7301
E-mail:[email protected]
や配付、栽培中の天候や市況に関する情報の伝達、生産物の
調査
共同出荷など、農業生産のあらゆる面で、大きな役割を担っ
てきました。
HOT LINE
したがって、農業セクターの戦略を立てるということは、
ホットライン
民間セクター、政府セクター、そして非営利セクターの三者
を巻き込んだセクター全体の戦略を立てるということなので
す。経済学では、市場に任せておいては必要な公共物・公共
サービスが十分には提供されないという「市場の失敗」、そ
れに対処するために介入した政府の内部で非効率性や過剰規
IDCJの調査事業の中から、ホットな現地調査報告をお届けします。
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制が生じるという「政府の失敗」という基礎的ながら非常に
重要な概念がありますが、同様に「非営利セクターの失敗」
というものが現地では発生しているようです。長年の組合組
国際協力事業団
調 査 名:タンザニア国地方開発セクタープログラム策定
支援調査
織の活動を通じて、組織が硬直化するとともに、組織の存続
が自己目的化して、農民が欲する新しいサービスを提供でき
ていないという問題です。完成した「農業開発戦略」は、長
本件調査は、ヨーロッパ・ドナーや世銀など他ドナーと協
い間のアフリカの課題である貧困削減につなげるということ
調しながら、タンザニアの農業セクター全体の開発戦略とそ
を最終目標として、基本的にはマーケット・メカニズムが持
の実施プログラムの策定に関して政府にアドバイスして完成
つ力を利用して農業生産高と農民の収入を増加させていこう
させ、その実施のモニタリングと評価を行うことを目的とし
という内容です。不必要で重複している規制や徴税を整理し
ています。タンザニアは日本の数倍の広さがあり、この国の
て取り除くことにより、現在あまり機能していないマーケッ
農業セクター丸ごとの生き残りのための戦略策定を支援する
ト・メカニズムが機能するように刺激し、そしてマーケッ
というのは、じつにやりがいのある仕事です。
ト・メカニズムが適切に機能し出すことを前提として、政府
農業セクターは、農民や流通業者などの民間部門が主体で
と非営利組織の役割を再定義(再位置づけ)することを試み
はありますが、政府の役割も依然大きいセクターです。また、
ています。市場、政府、非営利の3つの分野の「失敗」を同
その中間に位置する非営利組織の役割も極めて大きいもので
時に解決しようという試みですが、この試みが成功するかど
す。例えば、米生産者の組合、コーヒー生産者組合、綿生産
うかを慎重に見守っていく必要があります。
(研究員 佐々木 亮/記)
者組合など、品目別の生産者組合は、肥料や農業機械の購入
国際協力事業団
調 査 名:タイ国農村活性化のための人的資源開発計画調査
しながら、その資金をどのように有効活用するのか(活用で
きる起業家や人材がいるのか)については、大きな課題を残
しているようで、そこに本調査の役割があります。
本調査は、タイ国の農村地域の振興を担う人材の育成にか
こうした中で、いわゆる「一村一品」運動も、タクシン首
かるマスタープランを作成することを目的にした開発調査
相の後押しで盛り上がりをみせています。全国で約8,000の
で、2002年2月より約1年の予定で進められています。
特産品がありますが、そのほとんどが食品、繊維製品、その
都市部と農村部の社会経済格差の拡大は、かねてからタイ
他軽工業品です。例えば、繊維製品、軽工業品をみても、素
の大きな問題となっていましたが、2002年スタートした第9
材がシルク、綿、その他植物繊維、竹、木材などに限られる
次国家開発5カ年計画でも、持続的開発のためのタイ国内の
ところから類似品が極めて多い状況です。
根本的不均衡の是正が大きく掲げられています。基本的哲学
私も10ヶ所以上のタンボンをまわり数十に及ぶ「一品」
として、国王が提唱した「足るを知る経済(sufficient
を見ましたが、ほぼ同様の天然素材のモノを特産品としてお
economy)」が採用されており、かつての外国投資と輸出に
り、デザイン、色、構造など、どう考えても差別化には限界
支えられた急速な経済成長と、その後に招来した経済危機な
があるのは明白です。また、品質的にも、多数の村の一品と
どへの反省が込められています。
いわれるものに魅力的な逸品(既に同分野で民間企業や先進
本調査でも、「地方の自立的発展とそのための人材開発」
を基本戦略として盛り込んでいます。
ここ数年、タイでは地方への権限委譲が大きな流れとなっ
ており、全国約70,000の各村落(ムバーン)に100万バーツ、
また、7,000あるタンボン(村の上部組織)にも多額の村お
的な村が商品開発し、都市部や海外に市場を構築しているケ
ースも多い)は少なく、残された大多数の類似品をどう転
換・育成していくのか、極めてチャレンジングな面も抱えて
いると言えそうです。
(主任研究員 小川 政道/記)
こし資金が補助されるなど、政策は具体化しています。しか
3
ジョルダン・重要政策中枢支援・産業政策長期派遣専門家の体験を通して
国際交流
(国際協力事業団長期派遣専門家)
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私は、JICAの長期派遣専門家として中東のヨルダンに
2002年3月まで2年間滞在しました。ヨルダン重要政策中枢
支援事業(産業政策)のチーフアドバイザーとして、現地の
産業支援策の作成や企業の国際競争力強化のために、様々な
技術協力事業を展開するプログラムに参画しました。
たまたま、私のヨルダン滞在中に、イスラエルでのインテ
ィファーダ事件や、アメリカ同時テロ事件があり、中東は世
界のトラブルの火種のように見られました。現地の我々は日
常的に危険にさらされているように思われていましたが、実
際にはヨルダンは平穏そのものであり、2年間を通じて治安
面で問題は全くありませんでした。
事件のおかげで、アラブ人、パレスチナ人、ムスリムとい
うと、何か粗野で危険で怪しい人々というイメージが作られ
つつありました。しかし実際には、彼等は勤勉で平和主義者
です。テレビニュースの中では、道ばたで石を投げているパ
レスチナ人が画面に映し出されていますが、多くのパレスチ
ナ人は商才があり、立派なスーツを着てアラブ地域のビジネ
スをリードしています。ヨルダン国民も6割はパレスチナ人
ですが、もともと土地を追われ財産を没収されてきたので、
人的資源/教育に対する熱意がとても強いです。
アラブ人は欧米に対しては複雑な思いを抱いていますが、
日本に対しては全幅の親しみを持っています。今後も国際社
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ヨルダン ジェラシュ市のローマ遺跡にて
会において日本の大切な友人になりうる人々です。しかし、
日本側がこうしたアラブの片思いに気付いていないのはとて
も残念です。ヨーロッパにとって長くアラブは文化の吸収先
でありましたし、日本人にとってもアラジンやシンドバッド
を通じてエキゾチックな興味をかき立てられてきた地域で
す。テロや紛争でなく、魅惑的なアラブの世界を、より多く
の日本人に知ってもらいたいと思っています。
(主任研究員 三井 久明/記)
タイ・エイズ予防・地域ケアネットワークプロジェクトについての報告
国際交流
(国際協力事業団短期派遣専門家)
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下痢等)、⑤母子感染予防、の5つの医療介入が含まれます。
2002年3月25日から2ヵ月間、タイ北部パヤオ県で実施中
タイのタクシン政権は、国民皆保険を目指し、2002年、
の「エイズ予防・地域ケアネットワークプロジェクト」(プ
ロ技)で、医療経済分析の短期派遣専門家として業務に携わ 「30バーツ政策」という医療保険スキームを打ち出しました。
これは、公務員やサラリーマン等の公的医療保険でカバーさ
りました。
れない人々を対象に、一回30バーツで医療サービスが受けら
パヤオ県は、タイの中でもHIV感染率が最も高い地域の一
れるシステムです。パヤオ県のHIV感染者とエイズ患者の半
つといわれています。2000年、タイ全国で、妊産婦のHIV感
数以上は農家の人々が占め、HIV/AIDSの医療サービスの多
染率は1.46%でしたが、パヤオ県では5.3%でした。パヤオ
くはこのシステムの中で運営していくことになります。今回
県では、バンコクやチェンマイ等の都市に、コマーシャル・
の調査では、上述の医療ケアパッケージに含まれる各医療介
セックス・ワーカーとして出稼ぎに行く女性が多く、出稼ぎ
入のコストを推計し、30バーツ政策のもと県立病院に分配さ
先でHIVに感染した後故郷に戻ってくる女性から、彼女たち
れる予算の中で、これらの医療サービスの提供が財政的に可
の配偶者やパートナーへの感染や、母体から子どもへの感染
が、主要感染経路として挙げられています。パヤオ県では、 能かどうかについて分析することを目的としています。
パヤオ県の中でもHIV感染者が多い地域をカバーする病院
1990年代半ばから後半にかけて、エイズの発症数が急増し、
HIV感染者とエイズ患者への「ケア(医療行為、社会支援、 では、HIV/エイズによる病院の医療費負担が大きく、これら
の医療費の財源確保や、日和見感染症の予防促進による患者
精神的サポートを含む)」が重要な課題となっています。
数の削減とそれに伴う病院の医療費負担の軽減等、戦略づく
これらを背景に、本プロジェクトでは、(1)医療ケアパッ
ケージの確立、(2)HIV/AIDSの問題に対応可能な人材育成、 りが今後の課題です。また、感染者や患者の精神的サポート
(3)地域住民主体のエイズケア対策の推進、を三本柱に、 や生活の質の向上のために、医療施設でのケアだけではなく、
地域住民と連携したHIV/AIDS対策を考えていくことも重要
1998年から活動を実施しています。(1)の医療ケアパッケ
ージには、①日和見感染症の予防、②日和見感染症の治療、 な視点と思われます。
③カウンセリングと血液検査、④苦痛緩和治療(発熱、咳、
(研究員 本田 文子/記)
4
「3分セミナー」シリーズ・・・
IDCJの研究員が、自分の専門分野における最新かつ
ホットなトピックを簡潔に紹介します。
TOPICS
るだけ「全体的(holistic)」なものにすることである。本来
なら追求すべき巨大複合プロジェクトの小さなひな形に仕立
てることである。例えて言えば、巨大複合プロジェクトの
「盆栽」を作ることである。その「盆栽」を国中のあちこち
3 分 セ ミ ナ ー
に植えていくことである。
教育開発援助は
「盆栽プロジェクト」で
その要諦は「関係者をいかに盛り上げるか」
私の考えでは、「盆栽プロジェクト」の要諦は個々の教育
技術的・財政的・行政的な要素をいかに取り扱うかにはな
い。その要諦は「関係者をいかに盛り上げるか」にある。教
育分野の「関係者」、英語でいうステーク・ホールダーは多
い。学校関係者(校長、教師、生徒、親)、行政関係者(中
財団法人 国際開発センター
理事 豊間根 則道
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央・地方行政官)、地元関係者(地元有力者、地元民)等で
ある。それらの多様な人々が教育への関心を共有し、自分た
ちの置かれた状況と問題を理解し、その解決へ向けてともに
行動を起すとき、その時初めて教育開発の抱える問題の根本
教育開発援助は難しい
開発途上国への教育開発援助は多くなされてきているが、
にメスの刃が届くのである。教育の複合的な目標の達成に向
けて、例え一歩であっても前進するのである。遠回りに見え
本当に効果のある援助をするのはなかなか難しい。教育開発
て、これが確実な近道である。多くの教育開発援助はこれを
の究極の目標が単純ではないからである。「できるだけ多く
しない。問題は要素に分解される。要素に分解されるのと一
の子供に、できるだけいい質の教育を与え、しかもそれが一
緒に関係者も分断される。従って「全体的」な盛り上がりは
人一人の子供に定着する」ことが同時に達成されなくては、
ついにない。ある要素限りの成功は、別の要素の失敗、不作
真に効果が上がったとは言えなかろう。ところが、えてして
為によって容易に相殺されてしまう。かくしてモグラたたき
教育開発援助はその複合的な目標の一部だけに焦点を絞り、
は続くことになる。
そこだけをよくしようとする。例えば、小学校を新しく建て
る。しかし、そこに配属されるべき教師までは手が回らない。 「おらが村の学校」を造れ
教科書を配る。しかし、教師の授業法は旧態依然のままにお
少し前までの日本では「おらが村の学校」ということがよ
かれる。教師の研修をする。しかし、そこで習ったことを実
く言われた。村人は誇りをこめて学校をわが物として見てい
践するために必要な予算はない。学校補助金を配る。しかし、
たのである。私は、このモデルが今の開発途上国でも有効だ
その使い道は学校のニーズと無関係に決められる。あるいは、
し、必要ではないかと考える。「おらが村の学校」を造る、
それが真に活用されるように指導することまではしない。確
助けるための「盆栽プロジェクト」が求められている。
かにいろいろな援助が施されるのであるが、複合的な問題の
一面を表面的にしか取り上げないために、問題の息の根をい
つまでも止めることができない。それはまるで大きなモグラ
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たたきを見る趣がある。
豊間根 則道
(とよまね のりみち)
教育開発援助は「盆栽プロジェクト」であるべし
しかし、そうは言っても援助ができることにはおのずと限
界がある。もし上に挙げた目標を同時に実現すべく追求した
ら、その援助はその国の教育政策そのものと化し、国を挙げ
ての巨大な複合プロジェクトとならなくてはならない。それ
は現実的ではない。とすれば、その限界の中でとるべき道は
一つしかないと思う。それは個々の援助プロジェクトをでき
1948年岩手県生まれ。
ペンシルバニア大学大学院都市地域計画学科修了。
Ph.D.
1985年10月、(財)国際開発センター入職。以来、
地域総合開発計画調査を中心に数々の調査に従事。
教育分野では、JICA初の教育分野の開発調査であ
る「インドネシア国地域教育開発支援調査」(1999
∼2001年)を皮切りに、2001年からは「ミャン
マー国基礎教育改善計画調査」、2002年からは
「インドネシア国地域教育開発支援調査フェーズ2」
の総括を務めている。
専門:地域経済、地域開発
5
5∼7月のスケジュール
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調査事業
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5月∼7月に現地調査を実施したプロジェクトを記載。
調査国は、当該調査の全調査国を表し、個人によって異なる。
◆ 経済産業省 資源エネルギー庁
「平成14年度石油資源開発等支援(対中東産油国投資促進事業調
査)」
フランス、サウジアラビア 畑中
アラブ首長国連邦、サウジアラビア、イラン 黒田/大口
イラン、アラブ首長国連邦、カタール、フランス、イギリス
石井/長谷川
◆ 国際協力事業団
「タンザニア国地方開発セクタープログラム策定支援調査(第3
年次その1)
」 タンザニア 薮田/大久保/藍澤/佐々木/江本/林
「ミャンマー国基礎教育改善計画調査(第3年次)」
ミャンマー 豊間根/増田/田中(義)/木村/永松
「タイ国農村活性化のための人的資源開発計画調査(第2年次)」
タイ 薮田/吉村/小川/藍澤/黒田
「プロジェクト研究−日本型国際協力の有効性と課題(第3年次)」
タイ、ベトナム 山田
(健)
/林
ケニア 三井
「インドネシア国地域教育開発支援調査フェーズ2(第1年次)
」
インドネシア 豊間根/佐藤/増田/細川
「カンボディア国首都圏・シハヌークヴィル成長回廊地域開発調
査(第2年次)」
カンボディア 川原/阿部(貴)/寺原
「ヴィエトナム国地域振興のための地場産業振興計画調査(第2
年次)」
ヴィエトナム 堀口
「アフガニスタン国カブール市緊急復興支援調査」
アフガニスタン 田中
(浩)
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「ミャンマー国日本人材開発センター短期調査」
ミャンマー 大久保
◆ 国際協力銀行
「最近の原油価格低迷が中東産油国の政治・経済状況に及ぼす影
響について」
サウジアラビア、アルジェリア 建部
「フィリピン地方自治体支援政策金融事業に係る案件実施支援調査」
フィリピン 奥田/寺原
◆
(財)中東協力センター
「中東諸国産業経済動向調査」
イラン、アラブ首長国連邦、エジプト 田中
(浩)
◆
(社)日・タイ経済協力協会
「平成14年度30周年評価事業の評価ミッション派遣」
タイ 堀口
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国際交流事業
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West African Rice Development Programme(WARDA)訪問
コートジボアール 高瀬
International Fertilizer Development Center
(IFDC)
-Africa 理事会出席
トーゴ 高瀬
人材養成事業
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◆ 我が国の人材養成事業
1.プロジェクト・マネジメント・コース[自主事業]
1)入門・プロジェクト評価理論と事例(財務分析、経済分析)
2)社会開発:国際保健の基礎と事例
3)社会開発:教育と開発(教育セクターの分析方法)
4)プロジェクト評価理論の社会・経済分析∼経済分析・社会
経済分析を中心として∼
◆ 途上国人材養成事業
1.開発政策コース[国際協力事業団]
2.工業プロジェクト評価と中小企業育成セミナー[国際協力事
業団]
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http://www.idcj.or.jp/
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企画広報室
エネルギー/環境室
プロジェクト営業課
管理課
研修担当
IDCJ のホームページでは、IDCJ組織概要や事業内容のご紹介、調
査・研究の実績紹介、セミナー・研修プログラムのご案内をしている
ほか、出版物であるIDCJ年報(和文・英文)、IDCJ Quarterly News、
IDCJ Forum、IDCJ Working Paper Series等のバックナンバーを掲載
しています(2000年度以降の出版物はダウンロードが可能です)
。
また現在は、エネルギー・環境室から発信される「アフガニスタン・
アップデート」、「エネルギー・環境情勢」などの特集シリーズも掲載
しており、今後も様々なテーマに亘って最新の情報をお届けしていく
予定です。ぜひ、ホームページもご覧下さい。
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IDCJは業務効率を一層改善すべく、去る6月に事務所の改装工事を行
いました。これに伴いTEL・FAX番号、E-mailの一部を変更いたしま
したのでご案内いたします。なお、現住所および代表TEL・FAX番号
は従来通りです。
業務本部
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おしらせ
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IDCJホームページのご案内
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TEL:03-3630-8031
FAX:03-3630-8095
E-mail:[email protected]
TEL:03-3630-7301
FAX:03-3630-8095
E-mail:[email protected]
TEL:03-3630-7271
FAX:03-3630-8120
E-mail:[email protected]
TEL:03-3630-6911
FAX:03-3630-8120
TEL:03-3630-6911
FAX:03-3630-8120
E-mail:[email protected]
TEL:03-3630-8031
FAX:03-3630-8095
E-mail:[email protected]
●編集後記●
W杯サッカー開催が終わり早くも1ヶ月が経とうとしています。今で
も忘れられないのは、試合終了後に選手がユニフォームを交換する場面
です。テレビCMにもなった光景ですが、おそらく他のスポーツではあ
まり見たことがない光景ではないでしょうか。たった今まで全力をぶつ
け合って戦った相手と、互いのファイトを称え合い、汗びっしょりのユニフォーム
を交換して着ること。それは、異なる地で同じ志を持ってこれまでの長い月日を戦
ってきたお互いを、仲間であると認め合った瞬間のように私の目に映りました。このよう
な形で地球上の人々が互いを許し合い、存在を認め、尊重し合うとき、世界に平和が訪れ
るのでしょうか。(薮田み)
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