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日本ユニシスグループにおける BCP関連活動紹介

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日本ユニシスグループにおける BCP関連活動紹介
MS&ADインシュアランスグループがご提供するリスクマネジメント情報誌
巻 頭 わが社のリスクマネジメント
<日本ユニシス株式会社>
日本ユニシスグループにおける
BCP関連活動紹介
特集1 2009年の新型インフルエンザ
日本企業の対応と今後の課題
特集2 長周期地震動による高層ビルの被害と対策
長周期地震動の特性
特集3 BCMS最新動向
正式運用が開始された BCMS 適合性評価制度とは
特集4 シリーズ/レピュテーショナル・リスク その①
∼取組みの意義∼
特集5 RIMS2010 年次総会報告
第
34号
2010.7
2010.7 第34号
1
7
わが社のリスクマネジメント
<日本ユニシス株式会社>
日本ユニシスグループにおけるBCP関連活動紹介
【特集1】
2009年の新型インフルエンザ 日本企業の対応と今後の課題
12 【特集2】 長周期地震動による高層ビルの被害と対策
長周期地震動の特性
14 【特集3】 BCMS最新動向
正式運用が開始されたBCMS適合性評価制度とは
17 【特集4】 シリーズ/レピュテーショナル・リスク その①
〜取組みの意義〜
19 【特集5】
RIMS2010 年次総会報告
22
災害・事故情報
24
インターリスク総研からのお知らせ
対象期間:2010年3月〜5月
わが社のリスクマネジメント
わが社の
リスクマネジメント
日本ユニシスグループにおけるBCP関連活動紹介
企業の中での情報システムが企業経
営と一体化している現代社会では、情報
システム基盤や情報システムサービスの
提供企業はユーザ企業の事業継続の鍵
を握っているといっても過言ではなく、情
報システムは電力や通信、水道、ガスなど
と並んで社会インフラである。つまり、情
報システム基盤とサービス提供を主たる
業務とする日本ユニシスグループにおけ
るBCP(事業継続計画)は、顧客企業の
日本ユニシス株式会社
BCPに直結しており、顧客の事業継続が
CSR推進部長
多田 哲
日本ユニシスグループの事業継続である
ともいえる。企業の社会的責任(CSR)を
考えるとき、BCPはその中核をなすもので
・情報システムトラブル
日本ユニシスグループにおける、最大の
資産は社員であり顧客システムであること
から、首都圏直下型大震災の場合に想
定される最大のリスクも社員の安全と顧
客システムの稼動に関するものである。
想定する災害で対応すべき順番は次の通
りと考えた。
①社員とその家族の安全
②顧客対応に必 要最 低限の自社機
能回復
③顧客情報資産の安全確保と障害シ
ステム回復
あると考えられるため、当社グループでは
2006年よりBCP推進を開始、BCPに関
してはCSR推進部が推進責任を担ってい
る。BCP策定当初は大震災、火災、情報
システムトラブルを想定、
その後、新型イ
ンフルエンザを対象とするBCPを追加、
2009年4月以降のA/H1N1流行では策定
したBCPを発動することとなった。
情報セキュリティとBCP
日本ユニシスグループでは20 04年以
来、総合セキュリティ戦略を策定実行し
てきている。その後2年ごとにその見直し
が図られ、現在では総合セキュリティ戦
略2008 1)としてユニシスグループ全体に
施策を展開している。BCPを考える上で
BCPで守るべきもの
BCPではどのような災害を想定するの
かによって準備する対応策も変わってく
る。起こる可能性が比較的高く、起こった
場合の影響が大きい災害をいくつか想定
し、共通する対応策をくくりだしながら、
2006年時点では次の三つを災害と想定、
対応策を検討することとした。
この情報セキュリティ戦略や施策との連
携は重要である。BCPで想定している災
害は、情報セキュリティ上の二次災害を引
き起こすきっかけになる可能性もあり、逆
に、情報セキュリティ施策が十分に実行
されていることで情報システムの冗長性
や社員の情報リテラシーレベルも高く保
たれ、情報システムの文書化も徹底して
いることから災害復旧が容易になるとい
う側面も持っているからである。
・首都直下地震
・本社ビル大火災
ICT
(情報通信技術)
の活用
設置を判断する。首都直下地震発生の
場合とそれ以外の地域での場合では災
企業行動基準と社員ガイドライン
平時には有用なツールとして活躍する
害対策本部を設置する場所を変えること
これまで述べてきたような企業としての
ICTが、災害時にはまったく役に立たな
にしている。本社災害対策本部の構成は
対応についてまとめたものを社内共通の
かった、
というケースがある。一番の社会
次のように考えている(図1)。
プロシジャー(処理手順)
として、
そして社
インフラである電力、
そして通信が不通
員個人の行動についてまとめたものをガ
ではほとんどのICTは役に立たない。
しか
し、災害発生後24時間から72時間ではい
くつかの社会インフラが復旧し、ICTも活
イドラインとして文書化している。社員が
社内の横連携の重要性
とるべき行動については、
社員携帯カード
にまとめて社員全員に配布し、
日常的に携
用できることが想定できる。BCPの検討
上記体制は、図1を見ると分かるよう
帯するよう促している。
このような取り決め
では次のようなフェーズで対策を考えた。
に、会社の中の多くの部署が横の連携を
に関しては社内周知が重要であり、
イント
①電力、
すべての通信、水道、ガス不通
とりながら動くことが求められる。普段か
ラネット等を通じて啓発を行っている2)。
②電力のみ復旧
ら緊急時の対応について議論し、用語
③電力とインターネット(携帯網)復旧
や文書の所在についてメンバーが認識し
④電力、通信復旧
ていることが重要である。2009年4月に
こうした想定やバックアップシステム設
A/H1N1流行が報道された際に、当社グ
計、災害後の再立ち上げ手順などは、情
ループにおいてはいち早く災害対策本部
大規模災害時の対応については、社会
報システムの設計において想定しておく
を立ち上げ、初回のBCP発動が15分の
インフラ、特に、電気、通信、水道などがど
べき非機能要件の中でも重要な要素で
議論で可能であったのは、こうした普段
れだけ早期に使えるかにより復旧施策の
ある。
からの活動がいざというときに役立つ証
差は大きいため、
これらの回復を待っての
明になったと感じている。後述する訓練
着手となる。具体的には、電気、通信、水
や、定例的な連絡会やBCPについての継
道、ガス、通勤手段など社会インフラの
危機管理体制とBCP
災害対策
続的な準備、検討は重要であり、当社グ
回復を待ち、出社可能な人から順に出勤
ループでは2006年より災害対策本部メン
することになるが、対策本部メンバーや優
一般的なリスク発生に備えた社内組
バーによる月例のBCPプロジェクト会議
先的な業務に従事する社員については
織として「リスク管理委員会」があるが、
を開催、 CBO(Chief BCP Officer)
とし
独自の安全確認と判断が必要となる。以
BCPにおける災害対策本部機能は想定
て任命されている代表取締役のもと議論
下、日本ユニシスグループとして準備して
する大災害に特化した組織体であり、災
を続けている。
いるいくつかの大震災を想定した施策を
害の種類、大きさや与える影響に応じて
紹介する。
【図1】本社災害対策本部体制
災害対策本部構成
本部長
CSR推進部
事務局
安全確認班
社内業務班
顧客対応班
人事、総務部門
経営企画、広報、法務、
財務、
データセンター部門
事業部、
サポート、
システムサービス部門
社内の業務関連対応推進、
在宅勤務推進、
社内外情報収集・発信
顧客システム保守・運用
サービスの対応
健康管理、安全確保、
人事政策の検討
代表取締役専務/常務
わが社のリスクマネジメント
【図2】エレベータサバイバルボックス
(16名利用時想定)簡易トイレ、非常用ライト、防災ラジオ、水、飴類、
ブランケット等
非常用備蓄とサバイバルボックス
大規模災害が起こった場合、企業や家
いる「サバイバルボックス」は、社員やお
時に対応すべき連絡先を列挙した「社員
客様のこうした状況への心理的対策とも
携帯カード」
を配布している
(図4)。
考えている 。
2)
庭においては3日間程度、外部からの支
援なしに持ちこたえる備えが必要である。
これは国や自治体からの救援物資などの
援助が差し伸べられるのは被災後3〜4日
以降となると想定することによる。日本ユ
館内放送、非常用電源、
トラン
シーバー
徒歩帰宅訓練と安否確認訓練
日本ユニシスグループでは、2006年度
から数回にわたって一部の部署で試行訓
ニシスグループでは、本社ビルなど東京
ビル館内における連絡手段として館内
練し、適当な距離とルートの検証を行っ
地区オフィス、全国支社店、
グループ会社
放送が有効である。停電時にも非常用電
た。2008年度からは組織長は参加必須と
などの事業所単位で備蓄をしている。食
源により館内放送の利用が確保される。
し、東京地区においては年間4-6回の徒
糧や水、簡易トイレなど緊急使用でない
ただしこれは一方向の連絡のみであるた
歩帰宅訓練を開始した。参加は社員誰
ものは各フロア倉庫内に保管し、懐中電
め、
相互連絡できるツールの確保も必要
でも一度は、業務の都合に合わせて訓練
灯やランタン、防災ラジオや拡声器など
である。高層ビルにおいては上層階と下層
日を選択できる研修形式とした。現在の
発災時すぐに必要となる備品や、怪我人
階のフロア間連絡においては携帯電話や
訓練ルートは本社を出発点とする以下6
が出た場合に簡易治療ができるよう救急
トランシーバーが有効と考える。
トランシー
コースで、距離は10km程度、歩行時間は
セットを各フロアのドア付近のキャビネッ
バーについては、
リピーター
(中継器)
を用
おおよそ2〜3時間である。
トに常備している。
意し、
階をまたがる通信を可能とした。
〔ゴール地点〕
また、発災時の停電により長時間エ
①品川 ②渋谷 ③新宿 ④池袋
レベータに閉じ込められる可能性に備
⑤北千住 ⑥浦安
災害実例から学ぶこと−−チェッ
クリストの有用性
ため暑い時期を避けた春、秋、冬とし、日
は最寄りの階に停止しドアが開く構造に
過去に実際に起こった大規模地震(阪
アルフライデーに合わせて、
すべての日程
なっているが、高層用、
中層用においては
神淡路大震災や中越地震など)
での対応
を金曜日とした。東京地区だけでなく、全
え、
すべての本社ビルエレベータの中に
「サバイバルボックス」を設置している
(図2)。エレベータは停電等の緊急時に
訓練日の設定に際しては、参加促進の
本ユニシスグループで実施しているカジュ
10階分相当の通過階があり、途中で停
については、
刊行物やインターネット等で
国の支社店においてもそれぞれの拠点独
電した場合には最寄り階にたどり着かず
さまざまな情報を入手できる。計画を進め
自のやり方で徒歩帰宅訓練を年に4回程
停止、即ち「閉じ込め」が発生する可能
る上でのヒントがたくさんあるが、
なかでも
度継続実施している。
性がある。大規模地震時には、エレベー
チェックリストを用意しておくことは有効で
タ復旧要員がすぐにかけつけてくれる保
あると考える。
日本ユニシスグループでは、
従って、本社と支社店、
グループ企業では
証はない。また、閉じ込められている側の
職務別にとるべき行動(特に初動)
に関す
安否確認訓練を実施している。年に4回
人は「いつ」救助が来るのかわからない
る「大地震時チェックリスト」(図3)
を作成
以上、
平日、休日、夜間などを想定して行
心理状態が続く。本社ビルに設置されて
している。また、社員には災害を含む緊急
い、
社員が会社に安否を連絡するメールア
また、図3に一覧したチェックポイントに
【図3】大規模災害時チェックリスト
ドレスや会社が社員の安否確認情報を入
大地震時 組織長チェックリスト
手するためのアドレス、パスワードなどの
□家族との安否連絡をしたか?
確認を行い、災害時に備えている。
□安否確認システムへ報告したか?
□メンバーの安否報告状況を確認したか?
□上司へ状況報告したか?
(一段組織長の場合)担当役員へ報告したか?
□(震度5強以上の地域に出張している部下がいる場合)安否確認したか?
在宅勤務の有用性
□(自身、
メンバーに被害があった場合)災害対策本部へ報告したか?
□(安全を確認した上で)担当する顧客の被害状況を確認したか?結果を災害対策本部へ報告したか?
以上が完了したら災害対策本部/上司からの指示を待つ。
顧客対応方針などは適宜災害対策本部に確認する。
大地震時 一般社員チェックリスト
災害時に外出や出社が困難な場合、
自宅において一部の業務ができる状態
に準備しておくことは事業継続のために
有効である。
インフラ面においてはセキュ
□家族との安否連絡を行ったか?
□安否確認システムへの報告を行ったか?
リティの確保が前提となるが、SASTIK3)
□(被害があった場合)上司へ報告したか?
やシンクライアントPCの利用で社内情
□震度5強以上の地域に出張している場合は、上司へ安否報告したか?
以上が完了したら災害対策本部/上司からの指示を待つ。
上司からの指示がない場合は上司の安否を確認し、必要であれば代行する。
【以下、支社・支店用】
大地震時 災対本部事務局チェックリスト
□家族との安否連絡を行ったか?
□対象地区社員へ安否確認システムが発動されているか?
□地域のグループ各社の安否報告状況を確認したか?
□単身赴任者、独身者、障害者の安否を確認したか?
報へのアクセスを確保し、
また電子キャビ
ネットサービスなども併せて利用すること
により情報セキュリティが確保でき、在宅
でも可能な業務も増える。日本ユニシスグ
ループでは一部の社員が完全在宅勤務
可能なシンクライアントPC環境を整えて
いるほか、全社員にSASTIKを配布し、出
□グループ支社店施設の被害を確認したか?
張などのテレワークや偶発的な在宅によ
□支社店災害対策本部本部長へ状況報告したか?
る業務情報へのアクセスに備えている。
□本社災害対策本部事務局へ連絡したか?
(他地域災害発生の場合)
□当該地域への出張者の有無を確認したか?いる場合、安否発令/確認を行ったか?
□首都圏発災の場合は、関西災害対策本部へ協力必要か確認を行ったか?
□他支社店地域での発災の場合、協力要請があるか留意する。
自席以外の場所からイントラネットや社
内サーバにアクセスできることにより、大
規模災害などの非常時においてもその有
用性が期待できる。
□支社店管轄区域をまたがって災害が広がっている可能性がある自支社店管轄道府県について安否確
認の発動を検討したか?
新型インフルエンザとBCP
【図4】社員携帯カード
2009年4月以降のA/H1N1ウィルスの
流行は多くの企業にBCP策定の必要性
を強く認識させた。当社では2 0 0 8年に
は新型インフルエンザを想定したBCPを
策定、
その後も流行被害度合いに応じた
BCPも想定していた。また、社外への情
報開示が重要と考え、流行の最初から
当社グループにおける対応状況につい
てWEBを中心に発信してきた2)。その結
果、
日本ユニシスグループの新型インフル
エンザ対応は、特定非営利活動法人事
業継続推進機構(BCAO)からアワード
2009「特別賞」を受賞した4)。流行時対応
の詳細は当社グループのWeb情報を参
照いただきたい。ここでは、時間をかけて
わが社のリスクマネジメント
準備をしてきたにもかかわらず、流行対応
企業対応や法制面での検討、個人の
簡単に整理してみた。
4.事業継続による従業員罹患への
賠償義務
:因果関係を示す証跡、労災
いただきたい点も課題として提示する。
●企業の対応の課題
5.
自宅待機の際の給与支払い
:業務、
プライベート、家族罹患
●政府・自治体対応
のプロセスで感じた多くの課題について
1.
平常時からキーメンバーの認識合
わせが重要
2.感染力、致死率の違いを勘案し
た施策実行が有効
3.複数情報ソースによる施策判断
が必要(厚生労働省、感染症研
究所、CDC(米国疫病管理予防
センター)、WHO(世界保 健 機
関)、安否確認)
4.パンデミック対応準備は基本的
社会機能が維持されることを前提
5.企業間認識ギャップの存在(マ
スク、濃厚接触者の扱いなど)を
認識
6.
情報発信の重要性(最初の感染
者を出したくない、
風評被害、
顧客・
取引先対応)
と他社との情報共有
7.
在宅勤務の有効性確認(学校閉
鎖による自宅待機、情報共有な
どで)
8.
今後のアクション→季節性インフ
ルエンザへの対応として定着させ
る(ワクチン接種促進、在宅勤務
ICT整備、
手洗い・咳エチケットな
ど社員啓発)
9.社会機能維持業者としての実行
性ある事業継続計画策定
●人事・法制面への対応
6.
自宅待機時の勤務表など人事面
の対応
:出勤者の扱い、自宅待機解除後
の対応
7.派遣企業との債権債務とルール
の徹底
:BCP情報共有化、説明会実施
8.教育、旅行、
セミナーなどイベント
主催者の責任
:キャンセル可能性の事前通知、
ロ
グ保管
9.
タミフル等備蓄・処方と薬事法
対応
:産業医との協力体制 10.
社会機能維持のための事業継続
必要性
:業界での判断、企業判断、厚生
労働省のガイドライン 11.
事業所閉鎖と企業責任
:感染拡大予防責任、社会機能維
持、顧客、社員、取引先
●個人の対応
1.38度以上の熱や咳など疑いあれ
ば職場や学校に行かない
2 .咳をするときはマスクをするか
ティッシュ、袖などで口を押える
3.軽い症状では医療機関を受診し
ないことも一つの選択肢
1.
労働協約、取引先・顧客との契約
:自宅待機時出社指示、
債務不履
行責任、
予知不可能な不可抗力か
4.妊婦、乳幼児、基礎疾患を有する
場合は、健康者よりも重症化の可
能性が高いため、早めの治療開始
が求められる
2.
事業所閉鎖時の従業員給与支払
い義務
:法令と企業姿勢
5.
流行蔓延時家族が罹患したときの
ための食料など2週間程度の最低
限の備蓄
3.
パンデミック時の有給休暇申請
:罹患懸念による出社拒否、積立
て有給休暇、自宅待機の扱い・
手当など
6.実家の親、兄弟、親戚、近所の寝
たきりの方、病気がちの一人住まい
の老人や知り合いとの連絡の確保
対応以外にも国として今後考え検討して
1.感染力、致死率の違いを勘案し
た施策実行が重要
→重度:スペイン風邪
(致死率2%以
上)
/中度:アジア風邪
(0.5-2%)
/
軽度:季節性インフル
(0.5%未満)
2.水際防疫、学校閉鎖の効果は限
定的
→海外感染者発生時に国内感染
拡大防止体制を敷くことが重要
3.
情報発信責任機関を明確化、定
期的な情報発信が必要
→国民へも科学的根拠を示す
4.
ワクチン、抗インフルエンザ薬製
造と接種・投与方針明確化
→厚生労働省が示す新型インフル
エンザ流行時のワクチン接種優
先順位であるカテゴリーⅠ、
Ⅱ、Ⅲ
の詳細化と重度被害時の想定
見直し(死者数、感染者数、出勤
率など)
BCPからBCMへ
以上述べてきたように、
日本ユニシスグ
ループでは想定する災害への対策や準
備を進めてきているが、
今後も継続的に
検討や準備できる事項は多い。BCPプロ
ジェクトでは対策の策定、準備のフェーズ
から継続的な運用(BCM:事業継続マネ
ジメント)のフェーズに移ろうとしている。
BCMフェーズにてBCPプロジェクトとして
考えるべきことを、
今後の課題を踏まえな
がら次の通り整理した。
社員啓発と教育
企業として対策を検討準備できること
の他にも、社員への啓発、教育は重要な
わが社のリスクマネジメント
アクションである。想定する災害が実際
須である。今後は社員の災害訓練や徒
おわりに
に起こった際に、企業活動を再開する最
歩帰宅訓練、災害対策本部訓練などで
重要な要素は社員であり、社員自身とそ
の情報交換を通して、懸念される震災時
企業におけるBCPや情報セキュリティ
の家族の生命の安全や健康が再開の前
の「高層マンション難民」や地盤液状化
対策においてはこれで十分という水準を
提になるからである。災害発生時の企業
対応策、代替オフィス対策など、日常の
想定することは難しい。企業が属する業
行動基準や社員行動のガイドラインは前
情報交換に加えた連携も必要と考えて
界や提供するサービス内容や顧客に応じ
述の通りであり、
それ以外にも各家庭に
いる。
た対策が必要であり、企業規模や体力に
おける備蓄や連絡方法の家族間での話
応じた検討と準備が必要である。一定レ
し合い、町内自治会や親類間での情報
交換の有無が災害後の復旧の早さに影
響を及ぼすと考えられる。特に新型インフ
ベルの情報セキュリティを保持し、向上
社内BCPプロジェクト
に努めることやBCPへの取り組みを行う
ことは企業の社会的責任と考える必要
ルエンザの場合の対応において、
ウィルス
関連部署からなる社内のBCPプロジェ
があり、CSR関連の活動の一つを構成
が強毒性の場合には、自宅での数週間
クトは活動を継続している。BCPやBCM
する。プライバシーマークや情報セキュリ
におよぶ籠城生活を余儀なくされること
は単一の推進部署が責任を持って進め
ティ認証取得が多くの企業で実施され、
も想定され、備蓄品の有無など事前準備
ればいいという性格の活動ではない。
企業の信頼性向上と実際の企業セキュ
が生死を分けることにもなると想定されて
ICT活用や社員への周知、人事情報の統
リティ向上に寄与してきたように、BCPの
いる。各企業においては企業としてできる
合活用など複数の部署が、危機感を共有
策定とBCMへの展開は企業にとって必
こと、社員への教育、啓発の他に、
こうし
し、知識と認識レベルを合わせながら進
須な活動となっている。
た情報を世の中に発信し、社会での新型
めていくべきプロジェクトである。BCP立
インフルエンザに対する危機意識や準備
案とBCMへの展開は、経営トップの認識
の必要性の啓発を行っていくことが期待
を確認しながら、経営者を巻き込んだ机
されていると考えている。
上訓練などを通して経営戦略レベルの取
以上
り組みとして企業をあげて推進していくこ
とが必要である。
IT業界としての取り組み
IT業界に属する企業は厚生労働省が
指定する社会機能維持業者である。ICT
注)
投資効果と評価指標
サービスや製品を提供する企業としては、
BCPプロジェクトは莫大な費用をかけ
ICTが停止に至らないようなサポートサー
て進めるプロジェクトではないが、安否確
ビスの継続努力を行うことが社会機能
認システムや在宅勤務のシステム導入な
維持のためには必須であり、業界として
ど相当なコストをかけて行うことも多い。
の統一的な判断基準も必要になると考え
新型インフルエンザも大震災も、近い将
ている。逆に、他のIT企業がサポートサー
来必ず起きるとはいえ、実際に発生する
ビスを継続する中、独自の判断基準でい
時期等は不明であり、情報セキュリティや
ち早く企業活動を自粛してしまうことも問
コンプライアンス対応のように、対応して
題となる。経団連やJEITA(電子情報技
いなければ情報漏洩や企業不祥事につ
術産業協会)などの組織活動を通して、
ながるという状況ではない。震災、新型イ
同業他社との連携を進めていくことが重
ンフルエンザなどを想定したBCPへの投
要である。
資とその評価については、社会貢献やメ
セナ、顧客満足度向上などと同様の企業
としての姿勢をどのように社会に示した
近隣企業との連携
災害発生時の近隣企業との協力は必
いのかというCSR的視点からの経営判
断が必要である。
1)総合セキュリティ戦略について
・http://www.unisys.co.jp/tec_info/
tr98/9802.pdf 2)日本ユニシスグループのBCP関連活動
・http://www.unisys.co.jp/csr/topics/
・http://www.unisys.co.jp/csr/pdf/
CSRrpt08_37-38.pdf ・http://www.unisys.co.jp/csr/pdf/
CSRrpt09_33-34.pdf ・h t t p: // w w w. u n i s y s . c o . j p /c s r/
report/bc4.html ・http://wwwunisys.co.jp/csr/report/
bc5.html 3)SASTIK
・http://www.unisys.co.jp/services/
ict/sastik.html 4)BCAOからアワード2009「特別賞」を受賞
・ht tp://www.bcao.org/work/pdf/
2009bcaoaward_newsrelease.pdf
特集
1
2009年の新型インフルエンザ
日本企業の対応と今後の課題
株式会社インターリスク総研
コンサルティング第二部 BCM第一グループ
主任コンサルタント 小山 和博
1.
はじめに
【図1】海外駐在員に対する指示(当社第三回調査より)
2009年4月、新型インフルエンザがメキ
駐在員・家族共に一部に
帰国を指示した…1.8%
シコにおいて発生し、極めて短期間に世
界中に拡大した。日本企業のリスクマネジ
メント担当者の多くが、この問題への対
応に追われた。2009年の新型インフルエ
ンザの流行は、
日本においては、2010年2
月ごろいったん収束した。幸い、
日本にお
駐在員・家族共に全員
帰国を指示した…1.4%
駐在員は一部に、家族は全員
帰国を指示した…1.4%
駐在員は残留、家族は全員
帰国を指示した…5.0%
駐在員は残留、家族は一部に
帰国を指示した…7.2%
駐在員・家族ともに帰国の
指示をしなかった…83.3%
ける致死率は他国と比較して極めて低い
駐在員の全部もしくは一
部に帰国を指示したのは、
全体の4.6%
水準に留まった。
しかし、当初予想してい
たH5N1強毒ではなく、H1N1弱毒という
想定外の病原性が「日本企業は過剰な
対応をした」と論難する一部の動きを生
み出すことになった。
発信された。一方、
メキシコから発信され
によれば、
「駐在員・家族とも帰国の指
2009年の新型インフルエンザに対する
る情報には、病原性が極めて高いことを
示をしなかった」とする企業が圧倒的に
日本企業の対応を概観すると、各社の対
示唆する情報もあった。とすれば、当初の
多く、新型インフルエンザ対策を実施し
応の流れは、おおむね3つの時間的な段
対応は、病原性が高い可能性を想定した
た企業全体の83.3%を占めた(図1)。ま
階に分けることができる。以後、
日本企業
ものにせざるを得ない。新型インフルエン
た、海外出張規制についても、全面的な
の対応をこの段階に沿って振り返った上
ザの病原性および感染力について見極
海外出張規制に踏み切ったのは、海外
で、
今後の課題を考える。
めがつかない以上、最悪の事態に備える
出張規制を実施した企業の4社に1社に
という行動は、理に適っていたといえる。
留まる(図2)。報道は必ずしも日本企業
当時の新聞記事を確認すると、
「駐在
員の家族を帰国させる」とする企業を取り
2.
日本企業の対応を振り返る
〜対応は過剰だったのか〜
(1)海外発生期における対応はむしろ
控えめなもの
海外発生期当初から病原性がそれほ
ど高くないとする情報がアメリカを中心に
の対策の全体像を示してはいない可能
性がある。
上げた記事が目立つ。また、帰国後につ
いても「一定期間ホテルから外出しない
よう指示した」
「帰国した駐在員、
その家
(2)国内流行早期には「濃厚接触者」の
取り扱いに各社が苦慮
族、長期出張者に対し、社内の研修施設
にて10日程度待機を指示」など厳しい感
関西地方で発症者が確認されて以降、
染予防策を実施した企業に関する記事
今回の新型インフルエンザの病原性が
が見られた。
だが、2009年8月の当社第三回調査1)
想定されていたほどではない可能性が高
いことを示す事象が報じられてはいた。だ
【図2】海外出張に関する指示(当社第三回調査より)
海外出張を
一部禁止した
海外出張を
全面的に禁止した
【図3】国内出張に関する指示(当社第三回調査より)
国内出張を
一部禁止した
42.6%
13.0%
55.6%の企業がなんらか
の海外出張規制を行った
と回答、全面規制はその
うちの4社に1社
国内出張を
全面的に禁止した
38.4%
3.0%
41.4%の企業がなんらか
の国内出張規制を行った
と回答、大半が一部地域
への国内出張を規制
が、厚生労働省は、兵庫県、大阪府の一
の要請、消毒用アルコールの配備などの
と、当時の社会状況により、企業が感染
部を感染拡大防止処置地域に指定し、
感染予防対策を中心として対応した企業
拡大防止について自主的に判断する余
封じ込めを図る対策をとった。これらの地
が多かった。
また、個人レベルの感染予防
地はかなり限られており、
「横並び」的な
域では学校や保育施設、福祉施設に対
対策に加えて、
社員やその家族がインフル
対応が多くなった感は否めない。
し休校が要請された。また、事業者にも
エンザと診断された場合は、会社に報告
感染機会を減らすための工夫を検討する
するよう指示している企業が多かった。
よう要請が行われた。感染拡大を助長し
当時の社会的な混乱の中で、一部企
業の対応が結果的に過剰となったところ
この時期になると、国立感染症研究所
もあったが、一定やむをえないだろう。
その
たとみられた学校に厳しい批判が加えら
が毎週発表している感染症サーベイラン
ような対応を厳しく論難すれば、社会的
れたのもこの時期である。結果として、各
スによるインフルエンザ流行レベル、新た
隔離を含む厳しい対応を必要とする感染
社の対応は慎重なものにならざるをえな
な死者と集団感染の状況、
そしてワクチ
症が発生した場合に、企業の安全サイド
かった。国内出張が多くの企業で規制さ
ンに関する問題に報道は集中した。この
の対応は及び腰になるだろう。
その結果、
れた(図3)。
ため、各社の対応状況について、報道さ
ある企業の「無責任な行動」が感染を拡
れることも少なくなった。
大させたと社会からみられた場合、
その企
この時期、各社が苦慮したのがいわゆ
る「濃厚接触者」の取り扱いである。発症
2010年2月ごろから、流行の収束傾向
者が確認されると、同一職場の従業員を
が見られたことから、各社において新型イ
濃厚接触者として休業させる対応が盛ん
ンフルエンザへの対応を終了する動きが
に報道された。大手都市銀行では、神戸
見られた。2010年3月末の厚生労働大臣
市のある支店で1名の感染者が出たこと
からの流行収束を示唆するコメントを受
をきっかけに「支店配属の社員は、管理
けて、
この動きは加速した。
職を除き全員自宅待機。代替行員を派遣
して営業を継続」とする対応を行った。こ
の対応は、国内での第一号発症者確認
(4)企業は社会状況に応じて対応せざ
るをえない
同様の対応は、外食業や小売業でも行わ
(3)国内流行期における対応は個人レ
ベルの感染予防対策が中心
3.
今後の新型インフルエンザ
対策について
(1)新型インフルエンザ対策は継続す
るべきか
の直後であったため、大きく報道された。
れた。
業に寄せられる批判は、
今回の比ではな
いと想定されるからである。
新型インフルエンザ対策について、企
業の実務担当者は、公衆衛生の観点だ
幸い2009年の新型インフルエンザは、
けから対策を検討するわけではなく、顧
日本国内における致死率が世界に類例
客への対応の観点からも対策の追加や
を見ないほど低い水準に留まった。企業
修正を実施する必要が生じる。また、一
の中には、
せっかく策定していた対策が
般に企業の実務担当者は、必ずしも感染
2009年の新型インフルエンザにはそのま
2009年8月以降の国内流行期では、当
症に関する深い知見を持っているわけで
ま適用できずに混乱したと振り返るとこ
社の把握する限り、
手洗い、
せきエチケッ
はない。更に、政府から提供される情報
ろも少なくない。
しかし、
もし何も対策を講
ト、
うがいなどの衛生的な習慣の社員へ
は、医療に関する知見を持ち合わせない
じていなかったとすれば、対応はもっと後
の推奨や、発熱した場合の出社停止、同
企業の実務担当者には理解困難な内容
手に回ったことは想像に難くない。これま
居する家族が発症した場合のマスク着用
のものも少なくなかった。このような事情
で取り組んできた各社の新型インフルエ
特集 1 2009 年の新型インフルエンザ
日本企業の対応と今後の課題
ンザ対策は無駄だったと総括するのでは
強化を図るべきである。
き最も重要な課題は、
「体調不良の従業
なく、想定とは異なる状況となった場合
の運用の仕方を工夫することに課題が
員は出社させない」
「従業員に手洗い、
手
(2)感染症対策と事業継続マネジメン
トはどのような関係にあるか
残されていたと総括するべきである。
また、
今回の流行の経験から、
いかなる
指消毒、
せきエチケットを徹底する」の2点
であると指摘する。この取り組みは、多額
の投資を要するわけでもない以上、
あらゆ
企業も、新型インフルエンザの流行が実
2009年、日本企業の事業継続マネジ
る企業が取り組める。まず、
この取り組み
際に起きれば、対策に取り組まざるを得
メント担当者の多くは、新型インフルエン
を安全衛生委員会などの枠組みを活用し
なくなるという実情が明らかとなった 。
ザ対策に忙殺されたであろう。だが、感
て、
日ごろから徹底することが着実かつ実
2003年の急性重症呼吸器症候群(SA
染症対策と事業継続マネジメントは一部
効性の高い方策である。
「風邪ぐらいで
RS)流行時も同様であった。
であれば、
重なるものの、本来異なる取組みである
休むな」などと常日頃から指導している会
平時から対策を十分に検討する方が良
(図4)。
社では、新型インフルエンザの流行下でも
2)
いのではないか。そして、検討するのであ
新型インフルエンザの大流行を想定し
れば、高病原性で飛沫感染するような感
た事業継続計画(以下、
BCP)の中に感
染症を想定した取り組みを考慮しておくこ
染症対策を含めているケースは少なくな
また、社会に影響を与えるような感染
とが「最悪に備えよ」とする危機管理の
いが、目的や視点が違うことを認識する
症の大流行が起きた場合、感染症対策
原則にも合致する。
ことが重要である。感染症対策は「従業
に必要な備品は瞬く間に売り切れとなる
員の健康を守る」という視点で実施され
ことが過去の経験から分かっている。最
さらに、従来懸念されてきた高病原性
「何を言われるか分からない」
と社員が出
勤してしまったという事例がある。
鳥インフルエンザウイルスH5N1型などに
る。一方、
BCMは「事業を継続し、
あるい
低限必要な備品は事前に備蓄するべき
由来する新型インフルエンザ発生のリス
は停止する」という視点で実施される。ま
である。感染症対策に必要な備品として
クは依然として残されている。高病原性
た、
BCMへの取り組みによって整備され
は、消毒液、清掃用具、個人防護具など
鳥インフルエンザウイルスH5N1型が鶏
た初動体制やマニュアルは、新型インフ
が挙げられる3)。
などから感染した患者数は昨年増加に転
ルエンザの大流行以外のリスクにも有効
じ、
今年に入っても感染者が続発してい
に活用できる場合があるが、感染症対策
る。
もちろん、人から人に感染する高病原
は目的外の活用が難しい。
性の新型インフルエンザに変化したわけ
ではない。ただ、人から人に感染する高
病原性の新型インフルエンザウイルスの
(3)最低限取り組むべき感染症対策と
はなにか
4.
今後の感染症を想定した事
業継続マネジメントについて
(1)マネジメント上のポイント
発生に対する警戒を解くべき状況ではな
いのである。各社は、2009年の経験を踏
公衆衛生の専門家たちは、企業が感
まえ、更なる新型インフルエンザ対策の
染症の流行拡大を防ぐために取り組むべ
●自社でとるべき対応を自社で検討する
組織が通常通り業務を行うことができ
ない場合を想定して、常日頃行っている業
【図4】事業継続マネジメントと個別リスク対策の関係
務の中で継続するべき業務を絞り込み、
新型インフル
継続するための方法を検討し、文書として
地震
事故や災害などの発生に伴って、重要な業務が中断しない
ように、または、中断してしまった場合に、目標復旧時間以内
に重要な業務を再開できるように計画し、準備するための包
括的な取組み。 ストライキ
取引業者
業務停止
工場の爆発
各 リ ス クへの一次 的 な 対 応
は 、各 リスク 所 管 部 署の 責
任範囲
事業継続マネジメント
理 由はともかく、通 常 通り
業務ができない場合の対応
がBCM所管部署の責任
情報システム
の停止
取りまとめることがBCPの策定である。
この事業継続のための方法論は、組織に
よって異なる。同じ業種であったとしても、
会社によって最適な方法論は異なる。
現在、様々な組織が新型インフルエン
ザを想定したBCPのひな型を配布してい
るが、新型インフルエンザへの対応として
は適切な内容でも、
BCPとしては適切な
内容であるとは限らない。事業を継続す
るという視点から、
まず自社でとるべき対
応を検討することが有効である。
有効性が損なわれる。有効性を確保し続
けるためにも、
平時においてBCPを運用
●なるべく多くの部署を巻き込んで検討する
する計画の中で、定期的に内容を見直す
多くの会社では、総務や人事を中心に
旨定めることが有効である。見直した内
検討し、対応を取りまとめていることが多
容の概略は年に一回を目安に経営層に
い。
それでは「非常時のみに必要な業務」
報告するとよりよい。
(安否確認など)は把握できても、
「非常
また、教育・演習の結果、見つけ出さ
時にも継続が必要な業務」は把握されに
れた問題点についても、
これらの定期見
くい。常日頃業務をやっている社員が現
直しの中で、修正していくことが重要であ
場の視点から、
「非常時にも継続が必要
る。ここまでのポイントを計画的に実行す
な業務」と「非常時であれば遅らせてよい
ることが事業継続マネジメントの本質で
業務」を仕分けしなければ、
BCPにはな
ある。
らない。
「非常時にも継続が必要な業務」を把
(2)あるべき文書構成
握するときの究極の問いかけは「非常時、
自分の部署に自分ひとりしかいない状況
日本では、ほとんどの会社が、大規模
では、何から手を付けるのか」である。な
地震を想定してBCPを策定している。
るべく多くの部署にこの問いかけを行う
2009年の新型インフルエンザの流行を受
ことが有効である。
けて、地震想定のBCPに加えて、高病原
性新型インフルエンザ想定のBCPを策
●薄く作って広く配布し、教育・演習を行う
多大な労力とコストを費やしてBCPを
完成した。この文書を秘密文書として、鍵
のかかるキャビネットに入れておく。これ
では、
BCPを作った意味は大きく損なわ
定した企業が多い。その結果、一部の企
業では以下のような問題が生じている。
・BCPの間で、
矛盾するような記述がある
・BCPの間で、使用されている用語の定
義がそれぞれ異なる
・BCPの内容修正に当たり、訂正すべき
文書が増えすぎる
・平時を想定した記述と有事を想定した
記述が混交し、分かりにくい
一般的に、危機管理および事業継続
に関する取り決めの中で、経営層の承認
を得る必要があるのは、基本的な方針と
危機管理および事業継続に関する基本
的な規定や計画である。具体的な手順ま
で踏み込んだ記述は、別冊子とした方が
更新や管理がしやすい。また、
リスクイベ
ントごとにBCPを複数作ってみると分か
ることだが、計画書の内容には共通する
項目が少なくない。
そこで、
BCPの統合を
目指す会社が出てきている。
具体的な案としては、事業継続マネジメ
ントに関して、共通する部分を文書として
取りまとめた上で、
リスクイベント(地震、
津波、新型インフルエンザなど事象は何
でもよい)
ごとのシナリオや継続するべき
業務は別紙としてとりまとめると分かりや
すい。また、平時の運用計画と有事の対
応計画は異なるものであるから、
切り分け
たほうがよい(図5)。
れることになる。社員の誰もがBCPの内
容にしたがって自然と行動できる組織文
化を醸成し、非常時に強い組織にするこ
と。これがBCP策定の最大の目的であ
る。この目的を達成するためには、
BCP
は、全社員向けの共通した項目と各部署
【図5】目指すべき文書構成の具体例
平時の計画
1:BCMに関する基本方針
2:平常時におけるBCMの推進体制
・総括部署、それ以外の部署の責任
有事の文書
[全社的な内容]
1:BCMに関する基本方針
2:緊急事態体制
独自の項目に分けてなるべく薄い形で作
3:想定するリスクイベント
・移行基準と判断権限者
成し、全社員が自分の部署のBCPを熟
4:優先継続業務の選定
・判断権限者の代行ルール
知できる環境を作ることが有効である。
また、社員がBCPの内容にしたがって
自然と行動できるようにするためには、社
員教育が欠かせない。社員がBCPの内
5:優先継続業務の継続計画の策定
6:リスクイベントに備えた準備
・資機材の整備と備蓄
・解除基準
・社員の非常連絡先の登録
・対応の検証
・緊急事態持ち出し品の指定
7:教育・演習
教育・演習プログラムを策定し、実行する
8:定期的な見直しと経営層への報告
ことが有効である。
●定期的な見直しを運用計画に盛り込む
一度策定したBCPは、人事異動、組
織改編などちょっとした組織のゆらぎで
10
4:緊急事態収束後の対応
・安否確認システムの運用
容を把握することができるよう長期的な
・緊急事態体制における組織と権限
3:優先継続業務の継続・再開
[各部署別の内容]
・優先継続業務に関する手順書
・緊急対策本部の具体的な手順書
別 紙
全社員向け資料
想定するリスクイベントごとの被害想定
・リスクイベントごとの初動対応
リスクイベントごとの対応方針一覧表
・緊急連絡先
各部署の優先継続業務一覧表
・安否確認システムの使用方法 など
特集 1 2009 年の新型インフルエンザ
日本企業の対応と今後の課題
【インフルエンザ想定の場合】
インフルエンザをリスクイベントとする
BCPでは、従来、
日本政府が新型インフ
ルエンザ対策行動計画の中で定めてい
た流行状況別の段階(第一段階〜第四
段階)
ごとに対策を定めるやり方か、世界
保健機関の流行状況別の段階(フェーズ
4〜6)ごとに対策を定めるやり方が主流
だった。
だが、
今回の新型インフルエンザでの
経験でわかるように、国際 機関や政府
の発信する情報に自社の対策を連動さ
せると、自社でコントロールできない事情
の影響を受けて、自社の対策をスムーズ
に打ち出すことができなくなる場合もで
てくる。
流行の段階ごとに自社の対策を整理
しておくことは客観性の高いアプローチ
だが、国際機関や政府が発信する段階
やフェーズだけではなく、発生前、発生直
後、社内発生など独自の段階の併用を考
えておきたい。また、実際の判断や運用
に当たっては、政府のアナウンス等を唯
一のトリガーとするのではなく、自社の判
断で段階やフェーズの移行もしくは留置
をできる余地を計画上残しておくべきで
ある。
対策の終了についても同様の問題が
生じる。
「対策本部長は、各種状況を総
合考慮した結果、新型インフルエンザの
流行が終息したと判断した場合は、当社
の新型インフルエンザ対策の終了を宣
言することができる」などの記述を計画
上入れておくことも望ましい対応と考え
られる。
(3)サプライチェーンマネジメントとの
連携
海外の主要企業では、従前よりサプラ
イチェーンを構成する各社のリスクマネジ
メントやBCPに関する状況を確認する取
流れの中で海外企業から質問書を受け
取った日本企業は少なくない。特に半導
5.
おわりに
体関連業界などでは、海外企業が比較
現在、
官公庁や学会、
各社においても、
的早い段階からこのような取り組みを先
2009年の新型インフルエンザの流行へ
行して実施している。日本企業において
の対応を振り返り、教訓をさぐる動きが
も、当社調査によれば、取引先のBCPを
活発に行われている。今回の新型インフ
一定の国際基準に基づいて監査している
ルエンザが一時的にも多大なる社会的
とする企業が現れている 。今後はこのよ
混乱をひき起きたことを考えれば、
今後の
うな取り組みが少なからず進行するもの
事業継続マネジメントへの取り組みに当
4)
と考えられる。
派遣企業や請負企業を活用している
たっては、感染症という要素を無視するこ
とはできないと思われる。
企業であれば、これら企業の感染 症の
大流行への対策状況を把握する取り組
今回の流行が最後の感染症の大流行
みは欠かせない。また、物流やシステムな
ではない。一社でも多くの企業が、
今回の
どの分野についても、対策について取引
教訓を活かして、感染症対策や事業継続
先・協力企業と調整しておくことが望ま
マネジメントの推進といった課題に取り
しい。
組まれることを切に望みたい。
以上
一方で、対策を実施していない取引先・
協力会社などに対して新型インフルエン
ザ対策の実施を要請する場合は、強制
的な要請・実質的な命令に当たらないよ
う留意する必要がある。独占禁止法や下
請法が禁止する優越的な地位の濫用に
当たるとされた場合、深刻な問題に発展
しかねないからである。感染症の大流行
がもたらすリスクは、業種や規模を問わず
すべての企業に当てはまる以上、一方的
に対策を要求するのではなく、対策を要
請する前段階として、自社の方針や具体
的な対策を取引先・協力会社などに開示
注)
1)当社は、これまでに三回、日本国内の上場企
業を対象とした新型インフルエンザ対策に
関するアンケート調査を実施している。
第三回調 査 の報 告書については、以下の
し、先方と事前に十分な意思疎通を図っ
URLからダウンロード可能である。
ていくことが必要である。その中で、先方
ht tp://www.irric.co.jp/books/pdf/
との相互協力の可能性を模索していくこ
とが望ましい対応だといえる。
サプライチェーンを構成する各社が、通
influ01.pdf
2)2009年2月(第二回調査)の段階では、3社
に1社が対応する予定がないと回答したが、
2009年8月(第三回調査)の段階では、9割
常通りの業務ができない非常事態におい
を超える企業が新型インフルエンザ対策に
て「何を優先的に継続するか」を協議し、
取り組んでいた。
一定の合意を形成することは、各社の利
益にも繋がる取り組みである。
3)備蓄品の詳細については、以下を参照。
http:// w w w.irric.c o.jp /influ e n z a /
report/pdf/report03.pdf
4)
「第三回事業継続マネジメント(BCM)に
関する日本企業の実態調査」
(株式会社イ
ンターリスク総研)に基づく。
り組みが積極的に進められている。この
11
特集
2
長 周期地 震 動 による高層ビル の 被害と 対策
長周期地震動の特性
株式会社インターリスク総研
コンサルティング第三部 災害リスクグループ
主任コンサルタント 1.
はじめに
害や、高層オフィスビルを対象とした長周
の周期の波を長周期地震動と呼ぶこと
期地震動と直下型地震による想定被害
とします。
1995年の阪神・淡路大震災(M7.3)以
の比較結果を中心に報告します。高層の
降、2004年の新潟県中越地震(M6.8)、
オフィスビルは企業の主要な拠点となっ
2008年の岩手・宮城内陸地震(M7.2)
ていることが多く、本社機能や基幹シス
など、近年は活断層を震源とする直下型
テムの運用拠点が高層ビルにある読者
地震によって、建物の倒壊や社会インフ
の皆様には、特に参考になる内容です。
ラの停止など、大きな被害が発生してい
最終回は、
『長周期地震動の予測と対
ます。
佐藤 公紀
3.
長周期地震動の特性
長周期地震動には、次に挙げる5つの
特性があります。
策(予定)』と題し、政府の機関である地
一方、2003年の十勝沖地震(M8.0)に
震調査研究推進本部が公表した「長周
よる苫小牧の石油タンク火災や、新潟県
期地震動予測地図 2009年試作版」や、
①マグニチュードの大きい大規模な地
震で発生する
中越地震による東京都港区の高層ビル
高層ビルの地震対策方法についてご紹
地震の規模(マグニチュード)が大きい
におけるエレベータケーブル切断事故な
介します。
ほど、震源から放出される地震波には長
ど、長周期地震動と呼ばれるゆっくりし
周期の成分が多く含まれるという傾向が
た揺れに起因する被害が、昨今注目され
あります。
ています。
本特集では、この長周期地震動にス
2.
長周期地震動とは
②震源から遠い場所まで伝わる
ポットを当て、発 生のメカニズムや、高
ひとつの地震動には短い周期※の波
一般的に、地震動は震源から遠く離れ
層オフィスビルの被害想定、最新の予
による揺れと、長い周期 の波による
るにつれて弱くなる特徴があり、地震動
測技術や高層ビルの対策方法などにつ
ゆっくり繰り返す揺れが混ざっています
が伝達距離にしたがって減衰することか
※
いて、3回の連載の中でご紹介します。
(図1)。図1の上段は実際の地震動波
ら「距離減衰」と呼ばれます。
しかしなが
なお、建築基準法では高さ31m(9〜10
形、中段は長周期地震動のみを抽出し
ら、周期が長い(=波長が長い)地震動
階程度)を超える建築物を「高層建築
た波形、
下段は短周期地震動のみを抽
は距離減衰が小さいという特徴があり、
物」、高さ60m(18階程度)
を越える建築
出した波形です。長周期地震動とは、
震源から遠く離れた場所にまで影響を及
ぼします。
物を「超高層建築物」と定義しています
その名の通り長い周期の波が卓越する
が、
ここでは、長周期地震動の影響を受
(長い周期の成分を多く含んでいる)地
けやすいと考えられる20階程度以上の
震動のことです。
央から約25 0 km離れた苫小牧市で大
ビルを対象とし、
「高層ビル」と称するこ
型石油タンクの火災が発生し、2004年
新潟県中越地震(M6.8)では震源から
初回の本稿では、
『長周期地震動の特
※地震動の周期とは、地面や地中のある地
点が波の山となってから再び山になるま
での時間のことです。
性』と題して、長周期地震動が発生する
どれぐらい長い周期の波を長周期地
ベータのケーブルにトラブルが発生する
ための条件や特性についてまとめます。
震動と呼ぶかについて、明確な定義や
など、長周期地震動では震源地から遠く
第二回は、
『長周期地震動による被害
基 準はありませんが、本 稿では高層ビ
離れた場所で大きな被害が発生していま
事例(予定)』と題し、過去に発生した被
ルが揺れやすい周期2〜3秒程度以上
すが、これは、距離減衰が小さいという
ととします。
12
2 0 0 3 年十勝沖地震(M 8.0)では震
約200km離れた東京の高層ビルでエレ
特集 2 長周期地震動による高層ビルの被害と対策
長周期地震動の特性
【図1】長周期地震動と短周期地震動1)
性質によるものです。
③堆積層で地震動が増幅する
長い周期の地震動は、堆積層と呼ばれ
る柔らかい地層で増幅しやすい特徴があ
層が存在することが知られており、長周
が蓄積され、小さな揺れでも構造物に被
期地震動による被害を受けやすい地域
害が生じる可能性があります。
と言えます。
④継続時間が長い
⑤高層ビルや石油タンクなどの構造
物が限定的に被害を受ける
ります。大規模な平野や盆地のように、
周期の短い一般的な地震動は数十秒
地震動による構造物の被害は、地震
深い地下構造がすり鉢状になり、堆積層
で収まりますが、長周期地震動は数分間
動の卓越周期(地震動に多く含まれる周
が厚く積もっているような場所では、堆積
継続することがあります。2009年9月に
期)
と構造物の固有周期(構造物が揺れ
層によって揺れが増幅したり、表面波と呼
地震調査研究推進本部が公開した「長
やすい周期)が合致した時に大きくなり
ばれる、地表に沿って伝わる波が発達し
周期地震動予測地図 2009年試作版」
ます。
たりすることによって、長周期地震動によ
によれば、関東平野や濃尾平野近辺で
周期2〜3秒程度以上の周期の波を長
る揺れがより大きくなります。
は5分近く揺れ続けると予測されています
周期地震動と考える場合、固有周期が
十勝沖地震でタンクに大きな被害が
(図2)。
0.1〜0.5秒程度の木造住宅や3階〜5階
発生した苫小牧市が位置する勇払平野
震源の近くで発生する短い周期の地
では、堆積層の厚さが最大で2km程度
震動と比較すると長周期地震動による
にも及ぶと言われています。関東平野や
揺れは一般的に小さい傾向にあります
一方、20階程度以上の高層ビルや大
大阪平野なども厚さ数kmに及ぶ堆積
が、揺れが長く続くことによってダメージ
型の石油タンクは、固有周期が2.0〜10
建ての中・低層ビルは、長周期地震動に
よる大きな被害は生じないと言えます。
秒程度ですので、長周期地震動の卓越
周期に合致し、大きな影響を受けます。
以上の特性から、近年、巨大地震発生
の確率が高まっている東海・東南海・南
海地震が発生した場合、東京、横浜、名
古屋といった大都市の高層ビルや、沿岸
部の石油タンクにおいて、長周期地震動
による大きな被害が懸念されています。
以上
参考文献
【図2】長周期地震動の継続時間の分布1)
1) 地震調査研究推進本部(2009)
:長周期地震動予測地図 2009年試作版
13
特集
3
BCMS最 新動向
正式運用が開始された
BCMS適合性評価制度とは
株式会社インターリスク総研
研究開発部
研究員 飛嶋 順子
2010年3月15日、
(財)日本情報処理
野』の制度があります。わが国では、こ
行う第一者監査(自己認証)、取引先間
開発協会(JIPDEC)が、事業継続マネ
れらの国際規格の定義に基づく制度
で行う第二者監査、
そして、利害関係の
ジメントシステム(BCMS)適合性評価
にJISマーク制度などわが国独自の規
ない第三者が行う第三者監査の3つの
制度(第三者認証制度)の正式運用開
制制度を含む『製品認証分野』の制度
方法があります。
始を発表しました。2008年7月から行っ
を加えて、第三者認証制度と総称され
てきた実証運用を経て開始されたもの
ています。
BCMS適合性評価制度では、第三
者監査による組織認証スキームが採
です。国際規格を認定基準(ISO/IEC
今回、JIPDECが立ち上げたBCMS
用されました。このスキームには、図1に
17021 )
とするBCMSの適合性評価制
適合性評 価制度は、
「組 織のBCMS
示すとおり、認定機関・認証機関(適合
度としては、UKAS(英国認証機関認定
が、英国規格BS 25999-2:2007への適
性評価機関)
・認証組織という3者のプ
1)
審議会)に続く、世界で2番目の制度で
合性を実証する」制度です。この制度の
レイヤーが登場します。これは、QMSや
あり、
わが国におけるBCMSの普及に大
現時点での適用基準は英国規格であり
EMSと同様のスキームで、認定機関が
きな一歩を踏み出しました。
国際規格ではありません。
しかし、組織
認証機関を認定し、認証機関が認証を
のマネジメントシステムを扱うことや、将
希望する組織を認証するというフレーム
来のBCMSの国際標準化動向に応じ
ワークとなります。
て、同制度の適用基準をISO等の国際
1.
はじめに 〜BCMS適合性
評価制度の概要〜
ISO(国際標準化機構)
とIEC(国際
電気標準会議)では、
「適合性評価」
QMSやEMSと異なるのは、認定機
規格に変更を企図する制度設計がなさ
関が(財)
日本適合性認定協会(JAB)
れていることから、QMS等と同様な『マ
ではなく、情報セキュリティマネジメント
ネジメントシステム分野』の適合性評価
システム(ISMS)やITサービスマネジ
制度といえるでしょう。
メントシステム(ITSMS)の認定機関で
また、同制度は、JIPDECという民間
あるJIPDECのみであることです。実証
を“製品、プロセス、システム、要員や
機関による任意の制度です。法規等に
運用に際しJIPDECは、JABとの協力
機関に関して規定された要求事項が
よって国に実施が義務付けられた制度
関係を結びましたが、BCMSの有効性
満たされているかどうかを実証すること
ではなく、QMSやEMS等と同様に、企
への見解の違いなどから、正式運用で
(ISO/IEC 170 0 0
業などの組織が自発的に認証を受ける
の協業には至りませんでした。BCMS
しくみとなっています。
適合性評価制度(実証運用含む)の認
)”と定めていま
2)
す。この定義に基づいた適合 性評 価
制度としては、品質マネジメントシステ
証機関は表1、認証取得組織は表2の
ム(QMS)や環境マネジメントシステム
とおりです。
(EMS)に代表される『マネジメントシ
ステム分野』の適合性評価制度と、試
験業務を行う機関が適正な実施能力
があることを実証する『試験所認定分
14
2.
フレームワーク
適合性評価の手法には、組織が自ら
特集 3 BCMS最新動向
正式運用が開始されたBCMS第三者認証制度とは
用基準として選ぶといったようにです。
BCMS認定機関
(JIPDEC)
認定
<組織認証スキーム>
B C M S 適 合 性 評 価 制 度の 適 用
基 準のうち、当面の認 証 基 準として
は、英国の事業継続協会(Business
<要員認証スキーム>
Continuity Institutes、BCI)のガイド
認定基準
BCMS要員認証機関
JIP-BCAC100
→ ISO/IEC 17021を準用
ラインを元に英国規格協会が策定した
「BS 25999-2: 事業継続マネジメント
承認
BCMS研修
コース基準
BCMS認証機関
契約等
BCMS審査員
研修機関
認証基準
(BS 25999-2)
−仕様」が選ばれました。この規格に
は、BCMSの確立及び運用管理につい
登録
BCMS審査員
資格基準
やEMSの認証基準同様PDCAサイク
ルを適用(図2参照)するなど、他のマネ
研修
認証希望組織(事業者)
ての要求事項が定められており、QMS
ジメントシステム規格との一貫性がある
BCMS審査員
程度確保されています。そのため、QMS
とBCMSなど、複数のマネジメントシス
【図1】BCMS適合性評価スキーム
(出典:BCMS適合性評価制度正式運用実施要領、JIPDEC)
ます。
【表1】BCMS認証機関(2010/5/26現在)
NO
1
この規格が選ばれた主な理由として
認証機関名称
は、2010年3月現在、BCMS適合性評
(財)
日本品質保証機構 マネジメントシステム部門 (JQA)
2
BSIグループジャパン
(株) (BSI)
3
ビューローベリタスジャパン
(株) システム認証事業本部 (BVQI)
4
SGSジャパン
(株) 認証サービス事業部 (SGS)
5
日本検査キューエイ
(株) <審査中>
価制度の認証基準として実際に運用さ
れている世界で唯一の規格であること
や、ISO/TC223(社会セキュリティ)で
開発中のBCMSに類する仕様を規定し
(出典:JIPDECホームページ http://www.isms.jipdec.jp/bcms.html)
【表2】BCMS認証取得組織(2010/5/26現在、公開希望組織のみ、五十音順)
NO
テムの統合も視野に入れることができ
た国際規格の原案「ISO/CD22301緊
急事態準備と業務継続マネジメントシス
テム」と概念が似通っていることなどが
組織名
所在地
認証機関
1
アイソ・ラボ株式会社
福岡県
JQA
2
株式会社ADEKA
(本社/相馬工場)
東京都
SGS
3
乾汽船株式会社(本社/神戸連絡事務所)
東京都
BVQI
4
株式会社NTTファシリティーズ 災害対策本部
東京都
SGS
BCMSの国際規格(今のところISO/
5
株式会社 クリエイトラボ
東京都
BSI
CD22301)が発行された時点で、同制
6
株式会社シンカーミクセル 本社
東京都
SGS
度の適 用基 準をB S 2 5 9 9 9 -2から国
7
ソラン株式会社
神奈川県
BVQI
際規格に切り替えることが決まってい
8
株式会社ディスコ
東京都
SGS
9
トッパンフォームズグループ
東京都
SGS
アウトソーシング事業本部 アウトソーシング事業部
横浜センター /バックアップサイト
(出典:JIPDECホームページ http://www.isms.jipdec.jp/bcms.html)
挙げられます。
B S 2 5 9 9 9 - 2の実 績に加えて将 来
の国際 標準化まで見据える理由は、
るからです。つまりJIPDECは、ISMS
適合性評価制度が、当初適用基準を
BS7799-2とし、ISO/IEC27001が発行
された時点で両規格の差分を埋めるこ
とを条件に切り替えたのと同じ道筋を、
3.
適用基準 〜何にあわせて
BCMSを作り上げるのか〜
準などさまざまなものがあり、
それぞれの
見込んでいるのです。BCMS適用基準
適合性評価の目的に適うものが選ばれ
の国際規格への切り替え時期は、ISO/
適合性評価における“規定された要
ます。例えば、
ある医療用具が安全性を
TC223の活動状況を鑑みて2012年ごろ
求事項”とは規格や基準類を指し、適用
満たしているかどうかを評価するために
とされています。
基準と呼ばれます。適用基準には、認
は、関連する日本工業規格(JIS)を適
定するための基準や認証するための基
BCMS適合性評価制度もたどることを
15
特集 3 BCMS最新動向
正式運用が開始されたBCMS第三者認証制度とは
BCMS
BCM
事業継続マネジメントシステムの継続的改善
利害関係者
の文
利害関係者
化にBCMを組
み
組織の理解
込
む
組
織
確立
維持及び
改善
事業継続の
要求事項
及び期待
演習、維持
及びレビュー
導入及び
運用
監視及び
レビュー
運営管理
された
事業継続
BCM
プログラム
マネジメント
BCM戦略の
決定
BCM対応の
開発と導入
【図2】BCMSプロセスに適用されたPDCAサイクルとBCMのライフサイクル
4.
認証の保証する範囲
(出典:BS 25999)
のではない」3)と明言しています。
つまり、
ればするほど、言葉も文化も商慣習も異
事業継続という側面のマネジメントシス
なるこれらのステークホルダーに対し、
既存のすべての『マネジメントシステム
テムの導入の実証であり、仕組みがある
自社が安定的に事業を継続できるしく
分野』の適合性評価制度において、認
からといって、
すべての事業中断に適切
みを持ち、取引するに足る企業であるこ
証の保証する範囲は、品質、環境等の
に対処できることを保証する制度では
とを証明する必要性に迫られます。その
側面に関するマネジメントシステムの導
ないということになります。
際、自己評価した結果を示すよりも、利
入の実証です。つまり、
マネジメントシス
害関係のない第三者に国際標準という
テム=仕組みがあることの実証であり、
世界共通のルールで認められたしくみを
仕組みが生み出す成果(例えば、製品
持つことを保証してもらった方が、信頼
やサービスの質)の絶対水準を保証す
るものではないことに注意が必要です。
それは、実際の認証の保証する範囲と、
5.BCMSの第三者認証の意義
性が確保されます。ここに第三者認証
の大きな意義があるのです。
サプライチェーンに代表されるように、
BCMSの導入(構築・運用)が第三者
社会が暗黙に求める範囲とにギャップ
企業間の依存関係が複雑に絡み合う
に実証されることにより、社会への説明
があることが問題となってきたからです。
現代社会においては、
たった一つの企業
責任を果たすことが可能となるのです。
「認証」というと、
どうしても製品認証の
の事業中断が引き起こした事態が、
その
イメージが強いせいか、社会は、常に何
取引先だけでなく、
社会的な損失にまで
らかの絶対水準があると思う傾向にあ
及んでいく可能性を常にはらんでいます。
るのです。
また、
事業中断を引き起こす自然災害や
この点についてJIPDECは、BCMS
人災といった様々なリスク事象が現実に
認証とは「組織が構築したマネジメント
発生する可能性は、
0(ゼロ)
にはなりませ
システムが、規制、顧客及び事業上の
ん。このようなビジネス環境や時代にお
要求事項、製品及びサービス、採用して
いて、
事業中断を管理するための仕組み
いるプロセス、並びにステークホルダー
を全く持たないという企業は、
もはやあり
の要求事項を満たすために、有効的な
えないのではないでしょうか。
活動が実施されていることを保証するこ
そして、
グローバル化が急速に進展す
と」であり、
「想定する大規模災害(地
る現代においては、顧客や供給先など
震、パンデミック等)に対して、組織の重
のステークホルダーが世界中に散らばっ
要業務が中断しないことを保障するも
ています。企業は、広範囲に事業展開す
16
以上
引用・参考文献
1)ISO/IEC 17021:2006 適合性評価−マネジメ
ントシステムの審査及び認証を提供する機
関に対する要求事項
2)ISO/IEC 17000:2004 適合性評価−用語
及び一般原則
3)BCMS実証運用最終報告、JIPDEC、
平成
22年3月
特集
4
シリ ーズ
レピュテーショナル・リスク その①
近年世界的に注目を集めつつあるレピュテーショナル・リスクに
ついての情報をシリーズでお届けします。
〜取組みの意義〜
株式会社インターリスク総研
コンサルティング第二部
マネージャー・上席コンサルタント 1.事例にみるレピュテーショナ
ル・リスク
金子 美和子
動に対する理解)
と社員のメールで実態
organization, be it a company, a
が明らかになった顧客への態度のギャッ
city, or a country.(筆者訳:レピュテー
プが、
この一連の騒動でわかってしまった
ションとは、個人もしくは組織について、
4月下旬に行われた「最強」と呼ばれる
ということがある。このようなステークホ
人々が、
こういう会社・街・国だと感じて
米投資銀行への米上院小委員会の公
ルダーの期待と企業のギャップが明らか
いるその認識のことをいう)」と紹介して
聴会は、同日にギリシャ等の長期債格下
になったとき、企業のレピュテーションは
いる。
すなわち、
「レピュテーション」
とは、
げが報じられたにもかかわらず、TVは生
大きく傷つき、危機に瀕することとなる。
「風評」のような事実とは異なる噂話と
中継を続けるほど、全米の高い注目を集
いうことでもなく、
「評判、名声」といった
めた。理路整然と回答する会社幹部に
よいイメージに限るものでもなく、企業・
対し、苛立った議員らの厳しい質問と、傍
組織・個人・地域などに対して、ステーク
聴席に陣取った抗議グループからの怒
声で、騒然とした雰囲気であった。同社
2.
レピュテーションとは
ホルダーが抱いている認識全体を指す
ものなのである。
が詐欺的行為により金融商品を不正販
上述の米投資銀行では、レピュテー
そして、望ましい形でよいレピュテー
売したとされるこの問題は、必ずしも米
ションを会社の競争力のベースとなる重
ションが形成されると、お客さまはより
国証券取引委員会(SEC)側の主張が
要な要素の一つに位置付けている。そし
高い確率でその企業の商品やサービス
全面的に正しいと断言できるものではな
て、
今回の事件をうけて、同社では、ただ
を選んでくれると思われるし、より多くの
く、同社に直接的な賠償などの財務損
ちにビジネス・スタンダード委員会を立ち
投資家がこの企業に投資をしたいと考
失が発生しているわけではない。しかし
上げ、
レピュテーションの再構築を宣言
え、より優秀な人材が集まってくることに
ながら、同社CEOも年次総会で述べて
した。
いる通り、この問題により「最も基本的
日本では、
「レピュテーション」は、一
な価値の中心にある、お客さまをどのよ
般に「評判、名声」もしくは「風評」と訳さ
うに扱うか」について、疑問が投げかけら
れることが多く、
「レピュテーショナル・リ
れる結果となり、業界の雄である同社の
スク」もしくは「レピュテーション・リスク」
レピュテーションを大きく傷つけることと
は、
「風評リスク」と訳されることが少なく
なった。
ない。しかしながら、同社をはじめとする
この背景の一つには、金融危機の際
欧米企業で認識する「レピュテーション」
に巨額の公的資金で救済されたにもか
は、
ヒト、
モノ、カネ、情報にならぶ重要な
かわらず、役員や従業員に対し高額な報
資産としてとらえられている。
もなり、企業の安定的な利益創出基盤
となる。
3.情緒的な評価と行動面に対
する期待
上述の米投資銀行の例にみたように、
レピュテーションには、①企業・組織の
酬を支払っている金融機関への批判的
米 国のレピュテーション・マネジメ
行動や構造などに対する「実態認識」
・
な感情(情緒的な評価)がある。もう一
ントをリードする機 関の一つであるレ
「期待」
(パーセプション)と、この実態
つには、140年間の歴史を持つ同社が築
ピュテーション・インスティテュートで
認識に基づく、②当該企業全体への信
いてきた、顧客に誠実な商品提供をして
は、
「Reputations are perceptions
頼や好意といった「情緒的な評価」が含
くれるという社会一般の期待(企業の行
people have of an individual or
まれる。そして、
この2つの認識が高い相
17
特集 4 レピュテーショナル・リスク その①
〜取組みの意義〜
関関係を持って存在している。
【図】
今日のグローバル企業にとって、最も脅威となるリスクとは?
この最終的に形成される情緒的な評
価は、高ければ高いほど、長期安定的な
マーケットや株主の確保につながり、
ま
た、
不祥事や事故などが発生した場合に
も好意的な対応が期待できる。例えば、
麻薬所持でタレントが逮捕された際、
ファ
ン層の人たちの中には、結婚した相手が
悪かったんだとか、だからといってそんな
にいじめなくてもいいじゃないかと思う人
たちが少なからずいたことは記憶に新し
い。逆に、前述の米投資銀行の例では、
もともと、金融機関に対する批判的な感
情が一般社会の根底にあったところに、
今回の事件が発生したことが、より事態
を悪化させた要因になったと考えること
出典: “Reputation : Risk of risks” The Economist Intelligence Unit
ができる。
一方、ステークホルダーが企業の行動
や実態について抱く「実態認識」
・
「期
待」
(パーセプション)については、
その企
に物的資産の損害や多額の賠償責任
業の「現実の姿」
・
「期待の実現性」
(リ
よりも、企業経営にとってより深刻な影
5.レピュテーショナル・リスクへ
の対応
アリティ)
と大きく乖離していないことが
響をもたらす。例えば、工場や建物が倒
望ましい。米投資銀行の例でも、ステー
壊してしまったとしても、工場や建物を
レピュテーショナル・リスクへの対応
クホルダーの期待する販売姿勢と実際
建てなおすことによって、事業を再開す
は、日本では、緊急時広報やネット上の
の社員の行動に大きな乖離があったこと
ることはできる。多額の賠償責任は、企
書き込み対策と捉えられることが多い。
が、企業への信頼度低下の大きな要因と
業経営に多大な負担となる可能性があ
確かに、パーセプションとリアリティの
なっている。
るが、保険などの手当てをあらかじめ講
ギャップが発覚した場合に、事態をより
じておくことで、かなりの部分をヘッジで
小さく抑えるという観点から、
これらの対
きるリスクになっている。
しかしながら、
レ
策も非常に効果的である。
しかしながら、
ピュテーションが大きく棄損してしまえ
それだけでは十分ではない。前出の米投
ば、事業の再開・継続準備は整っていて
資銀行が、
レピュテーション再構築の対
も、お客さまや社会が事業の継続を期
応策としてビジネス・スタンダードの見直
待してくれないことになり、
マーケットから
しに取り組んだことにも表れているよう
4.
レピュテーショナル・リスクとは
上記の例で見てきたとおり、
レピュテー
ショナル・リスクとは、
レピュテーションの
の退場を余儀なくされる事態となるので
に、パーセプションとリアリティのギャップ
2つの構成要素のうち、①企業・組織の
ある。
(=レピュテーショナル・リスク)がどこに
行動や構造などに対する「実態認識」
・
欧米の企業においては、レピュテー
あるかを把握し、事前にそのギャップをよ
「期待」
(パーセプション)
とその企業の
ショナル・リスクの重要性が高く認識さ
り小さくするよう日々努めておくことこそ
「現実の姿」
・
「期待の実現性」
(リア
れている。実際、エコノミスト・インテリ
が、企業をレピュテーショナル・リスクか
リティ)とのギャップのことである。この
ジェント・ユニットが 、2005年10月に、
ら守り、安定的な経営基盤を構築する要
ギャップが大きければ大きいほど、
リアリ
企業のリスク担当マネージャー269人の
諦となるのである。
ティが明らかとなった際に、
ステークホル
回答を得て実施した調査結果によれば、
ダーへの衝撃を生み、②当該企業全体
「今日のグローバル企業にとって、最も
への信頼や好意といった「情緒的な評
脅威となるリスク」として「レピュテーショ
価」を大きく低下させることになる。
ナル・リスク」を挙げた人が突出して多い
そして、
レピュテーションの棄損は、時
18
結果となっている
(図)。
以上
特集
5
RIMS2010 年次総会報告
株式会社インターリスク総研
コンサルティング第二部 主任コンサルタント 對間 裕之
コンサルティング第三部 上席コンサルタント 関口 祐輔
上席コンサルタント 吉村 伸啓
コンサルティング第四部 上席コンサルタント 蒲池 康浩
2010年のRIMS
(Risk and Insurance
③セッション(テーマ別の講演)の3つか
Management Society, Inc.)年次総会
ら構成されており、年1回、世界中のリスク
が、4月26日(月)から29日(木)の4日間の
マネジャーが一堂に会し、
リスクマネジメン
日程で開催された。第48回目となる今回
トに関連する最新のテーマ・手法等を発
は、米国マサチューセッツ州ボストンのコ
表・議論する場となっている。今回は、保
ンベンション&エキシビションセンターが
険会社やブローカー、監査法人、一般企
会場となった。
業のリスク担当者、
リスクコンサルティング
ボストンは、人口約60万人(全米第21
会社コンサルタントに加え、学識者や学
位)の都市で、
アメリカ独立戦争のきっか
生など、55カ国から約4,800名が来場し、
けともなったボストン虐殺事件、ボストン
エキシビション出展数も403社となった。
【写真1】ボストンのコンベンション&
エキシビションセンター
茶会事件などの舞台となるなど古い歴史
米国カジノ経営者、研究者から、各々
を持つとともに、
「米国のアテネ」と呼ば
れるように、多くの単科・総合大学や研
究施設、ハイテク企業の拠点ともなって
いる。また、ボストン・レッドソックスやボ
1.スペシャルイベント(特別講
演・基調講演)
の分野におけるリスクマネジメントの考え
方や、潜在するリスクに対する講演が行
われた。今回は、パネルディスカッション
ストンマラソンなどのスポーツ、全米でも
総会初日の26日午前に「特別講演」、
は開催されなかったが、会場には多くの
トップクラスの質と量を誇るボストン美術
期間中の昼食時には「基調講演」が開か
参加者を集めていた(特別講演・基調講
館、ボストンポップスも有名で、京都市の
れた。
演の概要は表1の通り)。
姉妹都市でもある。
RIMSとは、19 5 0年に創立された米
国・ニューヨークに本部を置くリスクマネジ
【表1】基調講演等の内容
テーマ
メント実務の発展と人材教育を目的とし
Harrah’s Entertainment社のCEO兼社長のゲイリー・ラブマン氏に
た非営利団体で、全世界で約1万人の会
員を擁する世界最大規模の組織である。
会員は、金融・保険・製造・公共団体など
よる講演。同社は、全米で数多くのカジノ・チェーンを運営し、不況下に
正しいカードに賭ける
(Playing the Right Card)
幅広い業界・領域のリスクマネジメントに
ルイベント(業界経営者や著名人等によ
る特別講演・基調講演)、②エキシビショ
ン(関連企業・団体によるブース出展)、
一人でもある。今回のテーマは、講演参加者に対して参加者がカジノで
勝負する時を例えに、
カジノに存在するリスクに対するリスクマネジメン
に88の支部があり、
日本RIMS支部は、
RIMSの年次総会は、主に①スペシャ
おいても着実に業績を上げている。ラブマン氏は元ハーバード・ビジネ
ススクール教授でもあり、サービス・プロフィット・チェーンの提唱者の
トの考え方を述べた。
関わる人により構成されている。北米地区
2001年に89番目の支部として加入した。
概 要
随筆家、研究者であり、数理ファイナンスの実践者だったナシム・ニコラ
ロバストネス
(頑健性)
と
稀な事象
Robustness and the
Black Swan
ス・タレブ氏による講演。タレブ氏は金融デリバティブの専門家でもあ
り、金融業界でも有名な人物である。また、予期しない稀な事象に関する
Black Swan理論を提唱している。Black Swan理論とは、
これまでの
経験や常識から外れる予期しない稀な事象が大きな影響を与えること
があるという内容である。講演の中で経験や常識に固執せず、予期しな
い稀な事象に対し、堅固な体制を構築することが重要であると訴えた。
19
Worker's Compensation
労働者災害補償関連サービス
Claims Service-Property/Casualty
クレームサービス
Risk/Loss Control/Safety Services
リスク・ロスコントロール
Consultants-RM
リスクマネジメントコンサルティング
Computer Software-RM
コンピュータソフトウェア(リスクマネジメント)
Self-Insured Services
自家保険サービス
Managed Care Service
医療保険関連サービス
Other/Miscellaneous Risk Management Related Services
その他リスクマネジメント関連サービス
Insurance-Property/Casualty
損害保険会社
Enterprise Risk Management
全社的リスクマネジメント
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100 110 120
(ブース数)
【図1】カテゴリ別出展ブース トップ10
2.
エキシビション(展示会)
エキシビションは、会場一階の大ホー
出展ブースの上位10カテゴリを図1に示
RM、
BCM、環境などあらゆるリスクを扱
す。例年と比較すると、労働者災害補償
う総合的な会社から、個別のリスクに特
関連サービス、
クレームサービス、
リスク・
化した会社までさまざまであった。
ルに400を超えるリスク関連の企業・団
ロスコントロールなど、上位の顔ぶれに大
火災・爆発、
自然災害系のリスクコンサ
体等がブースを構え、各社とも工夫を凝ら
きな変化はないが、近年注目されているE
ルティング会社では、専門性を持った人
した設営を行い、食べ物・飲み物、
ノベル
RM(Enterprise Risk Management)の
材を全世界に配置し、特にアジア圏(中
ティグッズを提供するなど、自社のアピー
出展ブースがトップ10入りした。
国、
インドなど)におけるサービスの強化を
ルの場として活気あふれる雰囲気であっ
保険会社、保険ブローカーなどの大手
うたった会社が多かったことが印象的で
た。東京ビッグサイトなどで開催される各
企業が、会 場の中心に広いスペースで
あった。また、自社開発の被害想定用の
種産業展を思い起こしていただくと想像
大々的に宣伝している一方、
リスク関連の
モデリングソフトを映像で紹介し、
自社の
に足る。一方、参加者にとっても、
リスク関
教育用書籍・映像集、報告書作成支援
技術力をアピールしている会社もあった。
連企業・団体が一堂に会しているため、
リ
ツールなど、一工夫された取り組みをする
なお、
各社のアピール方法も工夫がなさ
スク関連の情報収集には絶好の機会と
会社もあり、会場を散策するだけでも興
れており、パンフレットなどの各種資料の
なっていた。各社のブースには、商談用の
味深いものであった。
作りこみ、
タッチパネル式の大型スクリー
スペースが設けられ、重要顧客との商談
が行われている様子も垣間見えた。
【写真2】ランチタイムにRIMS Award受賞者を祝福
20
また、
リスクコンサルティング会社も多
く出展しており、火災・爆発、
自然災害、
E
【写真3】エキシビション会場
ンでのサービス紹介など、聞き手にとって
インパクトのあるものが多くあった。
【写真4】趣向を凝らした出展ブース
特集 5 RIMS2010 年次総会報告
【表2】分野・レベル別セッション数(2010年と2009年)
RIMS大会では、
セッションの合間の
初級
短い時間にエキシビションへ足を運びが
ちになるが、思い切って一日時間を取って
多くの関連企業を訪問し、最新情報の入
手と人脈形成を図ることも一考の価値が
あると感じた。
3.
セッション
セッションとは、保険やリスクマネジメ
ントの専門家が講師を務める講義形式
のセミナーである。今回のセッション数は
129であり、昨年と同数であった。分野別
で見ると、Risk Managementの減少が
中級
上級
最上級
2010年 2009年
合計 (昨年)
Claims Management
2
6
2
−
10
9
Employment Risk
3
−
1
1
5
7
Enterprise Risk Management
2
9
6
2
19
16
Finance
4
2
2
1
9
9
Industry Session
−
−
−
−
20
19
Insurance
4
8
1
2
15
12
International
2
5
−
1
8
8
Legal Legislation
−
7
−
−
7
6
Loss Control
2
6
1
−
9
8
Risk Management
5
19
2
1
27
35
24
62
15
8
129
129
合計
目立ち、前回の35から今回は27となった。
セッションはその内容により、初級〜最
上級まで4段階のレベルが設定されてい
訪問して実施されるオフサイト・セッショ
があれば、ある程度のレベルでこれを充
る。
(セッション傾向は表2をご参照いた
ンなど、参加者の興味に応じて様々な学
足できるセッションはあるだろう。
だきたい)
習機会が設けられていた。
セッションの講師は、企業のリスク管
セッションのテーマについては、
世界的
理部門担当者やコンサルタント、保険ブ
に危機感が高まる気候変動に関するもの
ローカーらが務め、
それぞれの成果やノウ
や、
ちょうど昨年のRIMS開催前後に発
ハウを披露していた。また、
セッションに
生し拡大した新型インフルエンザ(パンデ
今回のRIMS年次総会の直前、
アイス
よっては活発な議論がおこなわれ、時に
ミック)
を取り上げたセッションもあったが、
ランド南部のエイヤフィヤトラヨークトル氷
は講師の投げかけた質問に対して、参加
いずれもセッション数は限られていた。
4.
おわりに
河の火山が噴火した。欧州各国の空港が
者が互いに意見を述べ合うようなディス
企業のグローバル化や人材多様化に
一時閉鎖に追い込まれ、航空便の欠航が
カッションも展開された。セッションの大
対応するようなテーマとしては、多国籍企
相次ぐなど大混乱を招き、航空業界を始
多数は英語でおこなわれたが、日本語通
業におけるリスク対策や多様な人種の労
め、保険業界、観光業界などに大きな影
訳付きのセッションも2件あった(これら
働者を抱える米国企業での取り組みにつ
響を与えた。また、宮崎県における口蹄疫
は日本RIMS支部の主催)。
いてのテーマが見受けられた。これらの中
(こうていえき)の発生についても、
10年前
また、前述の129のセッション以外に、
では、本社や本国での画一的な対策のみ
に同じく宮崎県と北海道で発生した時と
保険会社や保険ブローカーがスポンサー
にこだわるのではなく、現地スタッフと対
は異なる様相を見せており、
リスクマネジメ
となる特別セッションや、近郊の施設を
話し理解を深め、個々の現場独自の方策
ントの重要性は高まるばかりである。
【写真5】セッション会場
も模索し実行することが必要であるとの
次回のRIMS年次総会は、2010年の
意見が展開されていた。海外での雇用を
第21回冬季オリンピックが開催されたカ
拡大する日本企業が増加する中、海外拠
ナダのバンクーバーにおいて、2011年5月1
点におけるリスク対策の推進も大きな課
日から5日までの5日間の日程で開催が予
題となっている。これら海外リスク対策を
定されている。毎年、観光もセットになっ
検討する上で、参考となるセッションもい
たRIMSツアーも旅行会社にて企画され
くつか見られた。
ている。これを機会に世界レベルの最先
以上のように、
セッションは幅広いテー
マで例年開催されている。
すべてがそうで
あるとは限らないが、参加者に具体的な
端のリスクマネジメントの醍醐味を感じて
みてはいかがだろうか。
以上
調査学習目的や取り組みたいリスク分野
21
株式会社インターリスク総研
RMFOCUS 編集部
対象期間:2010年3月〜5月
本情報はマスコミ等での報道をベースに編集しています。
火災・爆発
●札幌のグループホームで火災、7人死亡
3月13日午前2時半頃、札幌市にある認知症の高齢
●アイスランドで大規模噴火、欧州の空港閉鎖拡大
アイスランドで4月14日(現地)、大規模な噴火があ
りの推計原油流出量は190万リットル以上と発表し
た。総流出量は推計7,000万リットルを超え、1989年
り、大量の火山灰が欧州北西部の上空に拡散した。
のアラスカ沖のタンカー座礁事故(推定4,100万リッ
火山灰は18日、地中海に到達。欧州では19日にかけ
トル)を上回り、米国史上最悪の事故となった。米国
者向けグループホームから出火し、木造 2階建て約
航空便の欠航や空港閉鎖が拡大し、空のダイヤが大
大統領補佐官は30日、流出が8月まで続く恐れがあ
250㎡をほぼ全焼した。入居者の60〜90歳台の高齢
幅に乱れた。火山灰が航空機の視界を遮るほか、砂
ると指摘した。米政府機関は数週間のうちに流出し
者7人が死亡した。入居者9人のうち、1人は外泊で出
の破片がエンジン部品を破損する恐れがあった。
た原油がフロリダ州の大西洋岸に達すると予想。こ
火時に施設にいたのは8人。女性職員1人と合わせ、
火山灰の影響が小さくなった19日夜、欧州連合(E
の地域はカキやエビなど漁業が盛んで、鯨、イルカ
計9人がいた。女性入居者1人と女性職員は病院に搬
U)諸国が飛行制限の段階的緩和で合意した。20日
などの哺乳類の生息地でもある。主要産業である
送されたが無事だった。部屋はいずれも個室で、常勤
夜には、フランスやイタリアに続き英国やドイツも空
観光業などへの影響も懸 念され、経済的な打撃は
5人、非常勤7人の職員が勤務していたが、厚生労働
港閉鎖を解除し、欧 州航空路線の要となる主要空
10億ドルを超えるとの見方もある。石油メジャーは6
省令により、当直勤務は1人。要介助者がほとんどで
港は全面的に再開し、民間航空機の運航は5日ぶり
月以降、深海ロボットを使った新たな流出阻止作業
入居者は自力での避難が難しかったと見られる。
に正常化に向かった。22日には欧州各地の空港はほ
を始める。
火元と見られる居間のストーブ付近には洗濯した
入居者の衣類が日常的に干してあり、ストーブの火
ぼすべてが再開し、主要空路の運航が完全に正常化
した。
が洗濯物に引火した可能性がある。施設は消防法で
ユーロコントロールによると14日以 降に欠 航と
鉄道事故・航空機事故
義務付けられた消防計画や消防用設備の点検報告
なった便数は約9万5千便。欧州国際空港評議会は
を出しておらず行政指導を受けていた。建物が小規
足止めされた乗客は950万人に上り、空港の損失は
4月10日、ポーランドのレフ・カチンスキ大統領が搭
模だったため消防法に基づくスプリンクラーの設置
2億5千万ユーロ(約313億円)に達したとの見積りを
乗したワルシャワ発の旅客機がロシア西部で墜落し
義務はなかった。
●北海道で車が炎上し、4児が死亡
4月2日、午後10時前、北海道厚沢部町で車が炎上
し、生後7ヶ月から3歳の乳幼児4人が亡くなった。4
人は兄弟で、父親が30分間ほど車を離れていた。車
内などから2個分の使い捨てライターの金属片が見
つかった。事故前1ヶ月間に3歳の長女がライターで
火遊びをしていたことが2回あるといい、道警はライ
●ポーランド大統領搭乗機がロシアで墜落、事故死
発表。国際航空運送協会によると航空業界の損失
た。ロシア政府によると大統領を含む乗客96人全員
は少なくとも10億ドル(約920億円)に達した。旅行
が死亡した。大統領は第2次大戦中に発生した事件
業、観光業でも経済的損失が拡大。企業の物流も一
で亡くなったポーランド人の追悼式典に夫人ととも
部遮断。公式行事の延期や中止など各国外交にも影
に出席する予定だった。現職国家元首が航空機事故
響が出た。
で死亡するのは異例。旅客機はスモレンスク空港に
風水災・豪雨
4回着陸を試みた後、樹木に接触し滑走路の手前で
墜落、炎上した。同国の中央銀行総裁、下院副議長
らもいた。
●鶴岡八幡宮の「大銀杏」強風で倒れる
ターが出火源との見方を強めている。事故当時の車
急速に発達した低気圧の影響で関東地方では3月
内は子供の服や紙おむつ、ゴミなどで足の踏み場も
9日夜から10日朝にかけて季節外れの雪や強い風雨
3月23日午後7時過ぎ、目白駅付近で架線トラブルが
ないほどだった。これらに着火して、短時間に燃え広
に見舞われた。神奈川県鎌倉市では鶴岡八幡宮の
発生し、山手線の外回り・内回りと埼京線、湘南新宿
がったと見られる。
神木が倒れ、鉄道や空の便も乱れた。
ラインの全線が運転を見合わせた。山手線外回りは
地震・噴火
●中国青海省でM7.1の地震、死者2,000人超す
大銀杏は樹齢推定千年、高さ約30m、幹の周囲約
6.8m。鎌倉幕府の3代将軍源実朝を暗殺した公暁
●都心部電車,帰宅ラッシュ時架線トラブルで不通
午後9時14分に運転を再開。10時44分に埼京線が運
転を再開するまで全線復旧に約3時間半かかった。
がこの大銀杏の影に隠れたという言い伝えから、別
同駅付近では埼京線と湘南新宿ラインで、乗客約
名「隠れ銀杏」とも呼ばれた。1955年に県の天然記
4,700人が1時間以上車内に閉じ込められた。埼京線
中国国営の新華社によると中国青海省玉樹チベッ
念物に指定。八幡宮では県や専門家の助けを得て同
の乗客約1,500人は電車から線路に降り同駅まで徒
ト族自治州玉樹県で4月14日午前8時前(日本時間同
じ遺伝子を持つ後継木の再生に取り組んでいる。倒
歩で移動した。このトラブルによる運休は60本、電
9時前)、M7.1の地震が発生した。震源の深さは推定
れた木は元に戻せないので、
「根の復活」
(株から吹
車の遅れは122本で、乗客約26万人に影響が出た。
約33km。震源地付近の家屋は耐震強度の低いれん
く「ひこばえ」という緑の新芽による再生)、
「移植」
鉄道事業者によると同駅の周囲に通信ケーブルを
が造りや木造が多く、9割の建物が倒壊し、多数の住
(根元から約4mの幹部分を約7m離れた場所に植
設置する際、誤って屋内用の樹脂製の留め具で固定
民が生き埋めになった。被災地では水道網や電気、
え直し)、
「挿し木」
(若い枝約400本を挿し木して育
していた。紫外線で劣化した留め具が破損したため
通信がまひし、道路も寸断された。21日朝時点で地
苗)の3つの方法で再生に挑戦している。
ケーブルが橋上駅舎の梁から垂れ下がり、架線に接
震の死者は2,064人、行方不明者は175人、負傷者は1
万2,135人(うち重傷者1,434人)に上った。
玉樹県は省都の西寧市から南西へ約800Km離れ
た標高約4,000mの高原地帯。人口は約10万人で9割
以上をチベット族が占める。
海洋汚染
●メキシコ湾の米石油掘削基地で爆発、原油流出
4月20日(現地時間)、米国南部ルイジアナ州沖の
中国政府は2008年の四川大地震を機に校舎の安
メキシコ湾にある石油掘削基地で原油生産用の井
触しショートして停電となった。さらに垂れ下がった
ケーブルが山手線内回りの架線に巻き付くなどして
影響範囲が広がった。
疾病関連
全化を進めていたが間に合わず、震源地に近い玉樹
戸を掘削中に爆発があった。爆発によって作業員11
県結古鎮で20 校の校舎全てが倒壊・損壊したのを
人が行方不明になったほか、海底から大量の原油流
4月20日、宮崎県都農町で家畜伝染病である口蹄
始め、多くの小中学校が被災し多数の児童・生徒が
出が続いている。5月末時点になっても油田権益を
疫に感染した牛が確認された。その後、口蹄疫の感
死亡した。
持つ石油メジャーによる流出を食い止める作業が難
染は急速に広がり、感染拡大は5月末時点で止まっ
航。米地質調査所などの調査団は5月27日、1日当た
ていない。封じ込めのため牛や豚の移動を禁止した
22
●宮崎県で家畜伝染病の口蹄疫が発生、感染が拡大
区域の外で感染の疑いのある家畜が見つかったほ
強く打って死亡した。落下したもう1人と柱の近くに
どの著名絵画5点が 5月19日夜から2 0日朝にかけ
か、種牛を管理する農場にも感染が広がった。宮崎
いた男性1人が軽傷を負った。柱は長さ約17m、重さ
て、盗まれた。市当局は20日、5点の絵画の被害総
県は全国のブランド牛産地への子牛の供給を支え
6〜8トン、周囲約3m。ロープ4本とワイヤ3本を使っ
額は推定9千万〜1億ユーロ(約99億〜110億円)と
てきたが、その行方が危ぶまれるなど経済的被害は
て柱を引き起こそうとした際に、ワイヤが切れて柱
発表した。
日本の畜産業全体に及び始めた。
政府は5月19日の口蹄疫対策本部で、主な発生地域
が揺れ、3人がふるい落とされた。落ちた3人は命綱
をつけていなかったらしい。
盗まれたのはピカソの抽象画「ハトとえんどう豆」
やマチスの風景画「田園風景」のほか、モディリアー
の半径10キロ以内のすべての牛と豚にワクチン接種
これをさかのぼる4月9日には諏訪大社関連の同県
ニ、ブラック、レジェの作品。20日午前7時ごろ、巡回
を始め、感染拡大を遅らせたうえで全頭殺処分する
千曲市の古大穴神社でも約10mの柱を立てる御柱
の警備員が盗難に気づいた。美術館の窓ガラスの
ことを決めた。口蹄疫に対するワクチン接種は国内で
祭の途中で御柱が倒れ、4人が下敷きになった。男性
一部が割られ、鍵が切断されていたほか、防犯カメ
始めて。殺処分の対象は累計30万頭にも及ぶ可能性
1人が死亡、3人が重軽傷を負っていた。
ラに窓から侵入する人の姿が映っており、捜査当局
があり、宮崎県内の飼育頭数の約4分の1にあたる。
県は緊急事態を宣言し、県民に不要の外出自粛を
求めるなど対策を強めた。ウイルスの拡散を防ぐに
は、早い段階で消毒を徹底したり人などの移動を制
情報関連
が特定を急いでいる。
テロ・暴力行為
●世界最大規模のネット犯罪組織がスペインで摘発
限したりするのが原則だが、3月下旬と4月上旬の感
スペイン捜査当局は3月3日、大手金融機関などの
染疑いが見逃されるなど、対応が後手に回ったこと
コンピュータ計約1,300万台をウイルス感染させ、顧
3月29日、モスクワ中心部の地下鉄2箇所で連続爆
が感染拡大につながった可能性がある。
客のクレジットカード情報などを盗んだ疑いでスペ
発が発生した。30日時店で市民39人が死亡し、60人
●モスクワの地下鉄で連続爆破テロ、39人死亡
国内で口蹄疫が発生したのは2000年以来10年ぶり。
イン国籍の3人を逮捕したと発表した。捜査当局は
以上が負傷した。ロシア治安当局は通勤時間を狙っ
前回の殺処分は750頭(3農場)だったが、今回は5
米連邦捜査局(FBI)などと連携して3人の属する
た自爆テロと断定。女2人の自爆犯による犯行とみ
ている。最初の爆発は現地時間8時前にルビャンカ
月25日時点で既に約14万5千頭(約200農場)。前回
ネット犯罪組織を摘発した。被害は190カ国に及び、
は牛だけだったが、今回は体内でウイルスを牛より
その規模は世界最大級。標的とされた40以上の大
駅に停車中の地下鉄車内で発生し、2回目は約45分
100倍以上増殖させやすい豚に広がったため被害が
手銀行に加え、米経済氏フォーチュンが選んだ大企
後に4駅離れたパルク・クリトゥールイ駅で起きた。
拡大したとみられる。
業千社の半数以上が被害を受けていたという。
製品安全
●家庭用空気清浄機で発煙・発火恐れ
経済産業省は4月9日、空調機メーカーが製造した
盗難
治安当局によるとチェチェン独立派など北カフカス
地方の武装勢力が自爆テロに関わっている可能性が
高い。メドベージェフ大領領が就任した2008年5月
以来初めての大規模テロとなった。
●パリの美術館でピカソの絵など約110億円が盗難
パリ西部の市立近代美術館が所蔵するピカソな
家庭用空気清浄機のフィルター部分に不具合が見つ
かり、これまでに計8件の発火事故が起きていたと発
コラム
表。同社は同日、国内で販売した約83万台(2006年8
月〜10年1月製造)をリコール(回収・無償修理)する
と発表した。発火事故は08年8月から今年2月までに
8件発生。製品の下の床を焦がしたほか、昨年9月に
は特別養護老人ホームで脱臭フィルターが発火し、煙
を吸った80歳代の女性1人が検査入院した。
●サイクロン式掃除機でやけど事故多発
英国家電メーカー のサイクロン 式 掃除 機でやけ
ど事故が多発し、同社が販売台数の約1割にあたる
9万4千台について、原因の電源コードを無償交換し
ていることがわかった。コードの差込プラグ付近が
断線して火花や煙が出たり、プラグが加熱したりする
事故が07年6月以降に26件起き、24人が指などに軽
いやけどを負った。同社はこれまでにコードの異常
の訴えがあった1万6,700台についてコードの無償交
換に応じたほか、別のパーツの修理依頼があった7万
7,800台についてコードの無償交換を同時に実施し
た。ただし、全使用者を対象としたリコールは実施し
ていない。経済産業省によるとサイクロン式など大
出力掃除機で、配電電圧を海外仕様(230ボルト)か
ら国内仕様(100ボルト)に変更した製品は、コードに
流れる電流が約2倍、発熱量は約5倍になり、被覆が
熱で軟らかくなりやすく断線しやすいという。
施設・設備安全、レジャー事故
●諏訪大社御柱祭、木の柱から転落、2人死亡
5月8日午後5時過ぎ、長野県の諏訪大社下社で行
われていた御柱祭で、立てようとしていた木の柱に
<少子高齢化社会における事故の対応>
ライター遊びが原因とみられる火災により幼い子供4人が車内で焼死した事故はまだ記憶
に新しいことと思います。同様の事故の再発防止のため、経済産業省は5月21日、使い捨てライ
ターを簡単に着火できないよう、レバーを2段階の操作にするなどの安全規制を導入する方針
を決めました。この種の製品では何十年もの間、操作の容易性とコストダウンの追及が続いて
きましたが、子供の命の尊さを鑑みて製品の安全性を優先し利便性を捨てるという方向を社会
が選択したと言えます。
同様に社会が従来、性能やデザイン性を追い求めてきた方向を転換し、安全性や操作性重
視に力点を移した製品の例として、
「高齢者にやさしい自動車開発推進知事連合」が5月20日
提言した「近距離専用自動車」があります。高齢者向けの軽自動車より小さく小回りの利く2
人乗りの車です。高齢者の身体能力の衰えに合わせ、視力の衰えをカバーする見やすい計器
やミラー、筋力や柔軟性が低下しても押しやすいスイッチなど支援機能を求める一方、高速道
路には乗れないなど高速性能は求めていません。背景には、高齢者が加害者となる事故の割
合が増えており、対策が必要という状況もあります。全国の交通死亡事故は過去十年で約4割
減少したのに対し、加害者が65歳以上の事故の割合は1999年の12.0%から約8%増え、2009年
20.3%と5分の1を占めるまでになっています(警察庁統計)。
上述のような製品面の事故対応策を1つ目とすると、2つ目に教育面の取り組みがあります。
高齢者講習制度が導入され、高齢ドライバーの免許更新時に反応速度や認知能力等を調べる
取り組みが始まっています。一部教習所では4月から70歳以上のドライバーの頭などにセンサー
を付けて運転の癖までチェックしています。一般的な注意を呼びかけても、
「私は大丈夫」とか
「僕は十分注意している」というのが人の常です。それに対し各人の客観的な証拠を提示して、
反応速度や視力の衰えに対する注意を促そうというものです。
3つ目としてインフラ面の対応があります。地域密着型の高頻度巡回バスの導入が自治体等
で検討されています。高齢者の車の利用目的は買い物や通院、地域活動など近場がほとんど
なので、巡回バスを導入して自ら車を運転しないで済むようにしようというものです。高齢者の
運転ミスのリスクそのもの回避してしまうので一番根本に近い対策ですが、有効性を持つには
相当な社会資本の投下が必要です。
少子高齢化社会を迎えて、社会の仕組みに新たな価値が求められています。
乗っていた3人の男性が落下し、うち2人が頭などを
23
インターリスク総研からのお知らせ
■ 大学のメンタルヘルス対策セミナー
〜メンタルヘルスの体制構築と事例検証(大学の教職員対象)
教職員や学生のメンタルヘルスへの対応が大学にも求められる時代になりました。本セミナーでは、教職員・学生の心身のリス
クについてインターリスク総研が危機管理の立場からその対応体制等の整備を概観するとともに、保健同人社がEAPサービス
(メンタルヘルス対策支援)事業者の立場から、事例をあげて大学の取るべき対策を示唆するものです。
●日 時:平成22年7月21日(水)13時30分〜16時30分 開場13:00(予定)
●場 所:三井住友海上駿河台ビル 14階第1会議室
東京都千代田区神田駿河台3-9
●概 要:【第一部】
「大学のメンタルヘルスにおける危機管理体制」
講師:株式会社インターリスク総研 研究開発部部長 小林 誠 氏
【第二部】
「事例から大学のメンタルヘルス対策を考える」
講師:株式会社保健同人社 EAPグループ グループリーダー
臨床心理士 シニア産業カウンセラー 大谷 裕 氏
※終了後個別相談もお受けする予定です。
●定 員:60名 <注>定員超過により参加いただけない場合があります。
●参 加 要 件 :参加は大学の教職員の方に限らせていただきます。参加費は無料
●主 催:三井住友海上火災保険株式会社、株式会社保健同人社
●協 賛:株式会社インターリスク総研
●詳細・申込等:インターリスク総研ホームページに掲載 →http://www.irric.co.jp/
■ BCP点検メニュー(訓練・監査)を整理・充実させました。
事故や災害などの発生に備えて、被害の拡大防止 策や被害の状況に
(P)Plan
BCPの策定
応じた事業継続のあり方を、事前に計画書の形で整理(BCP)している
企業が増えていますが、当該BCPは策定すれば終わりというわけではな
く、PDCAサイクルに乗せてブラッシュアップを重ねていく(BCM)こと
で、はじめてその実効性が確保されます。
(A)Act
BCPの是正・改善
BCM
(D)Do
BCPの導入・運用
今般、インターリスク総研では、上記BCMの確立に役立つ「BCP点検
メニュー」を整理・充実させましたので、是非ともご活用願います。
以下、メニューを例示します。
①地震BCP訓練メニュー
地震が発生した状況下において、
「被害のとりまとめ」、
「人命と安全の確保・二次災害の防止」、
「事業インフラ
の復旧」等の手順を疑似体験いただく中で、BCPの課題
を洗い出します。
②新型インフルエンザBCP訓練メニュー
感染者がどんどん増え続ける状況下において、
「感染拡
大防止対応」、
「業務に従事する人のやりくり」等の手順を
疑似体験いただく中で、BCPの課題を洗い出します。
メニューを整理・充実
(C)Check
BCPの点検
③BCP訓練自力開催支援メニュー
主に中小企業における訓練の自力開催を支援するため
に、訓練手法をご説明ならびにツールをご提供します。
④BCM監査メニュー
英国のBCM規格BS25999-2※の要求事項をベースにし
た監査手法をご説明ならびにツールをご提供します。
あるい
は、
同手法を使ってインターリスク総研で監査を実施します。
※BS25999-2は将来BCM規格がISO化された際のベースになる
と言われています。
【用語について】
*BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)
=事故や災害などの発生に備えて、被害の拡大防止策や、被害の状況に応じた事業継続のあり方などを事前に整理した「計画書」
*BCM(Business Continuity Management:事業継続計画)
=上記計画(BCP)の実効性をPDCAサイクルに乗せて確保していく管理体制
24
本号で寄稿して頂いた方(敬称略)
R M F O C U S
多 田 哲(ただ てつ)
Risk
リスク
Management マネジメント
日本ユニシス株式会社 CSR推進部長
1977年 Find
Observe
大阪大学工学部卒業、
日本ユニバック
(現日本ユニシス)
入社、流通・サービス業システムエンジニア
1995年
オープンソフトウェア事業部マーケティング部長
1998年
スタンフォード大学客員研究員
2003年
ビジネスコンサルティング統括部長
2005年
CSR推進部長
リスクの発見
リスクの認識
Control
Undertake
リスクの制御
Solve
リスクの解決
リスクの引受
編 集 後 記
サッカーワールドカップ南アフリカ大会が佳境を迎えています。本
号が発行される頃にはグループリーグが終了し、決勝トーナメントが
繰り広げられている予定です。SAMURAI BLUE(日本代表)は勝ち
残っているでしょうか。
さて、開催国南アフリカは、
その治安の状況から、選手や多くのサ
ポーターの安全、大会運営の安全に懸念が寄せられていました。大イ
ベントにはトラブルが付き物です。一方、事故・災害・犯罪など不測の
事態を想定してリスクを洗い出し、分析・評価し、
予防対策や事後対応
策を立てておくこと、
つまりリスクマネジメントの構築がトラブルを最
小限に抑えるためには必要です。
ハード面、ソフト面に渡る綿密な準備とリスクマネジメントの実践
により、
ワールドカップ南アフリカ大会が成功裏に終わることを切に
願います。もちろん、SAMURAI BLUEの健闘も・
・
・。
2010年4月より、あいおいリスクコンサルティング、
フェニックスリス
ク総合研究、
インターリスク総研の3社は合併し、新生「インターリス
ク総研」としてスタートしています。本誌編集メンバーも一新しまし
た。本号は新メンバーによる初仕事です。皆、慣れないながらも新風
を吹き込むべく、張り切って紙面を作りました。今後とも本誌が皆さま
のお役に立てるよう、一同、一丸となって努力していく所存でございま
す。よろしくお願い申し上げます。
(Y.
T.
)
RMFOCUS
(第34号)
2010年7月1日
(照会先)TEL:03-5296-8911(代表)FAX:03-5296-8940
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〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台4-2-5 御茶ノ水NKビル
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(新)318
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