...

Chapter 7 有機化合物

by user

on
Category: Documents
34

views

Report

Comments

Transcript

Chapter 7 有機化合物
Chapter 7 有機化合物
有機化合物の概要
7.1
7.1.1
有機化合物の特徴
自然界に存在する物質のうち,生物を形作る物質には多くの類似した特徴がある。これらの
分子は炭素原子の結合によって基本の単位が作られている。その単位を構成する炭素原子には
水素,酸素,窒素,イオウやハロゲンなどが結合している。また,このような単位が酸素や窒素
によって結び付けられている場合も多い。そこで,炭素原子の結合が分子の構造の基本となっ
ている物質を有機化合物と呼んでいる。
è 構造
有機化合物の基本の単位は炭素原子によって形作られている。2 個の炭素原子間の結合
には次のような3種類の結合があり,さらにその結合する炭素原子の数には制限がないた
め,炭素原子と水素原子だけからなる化合物にも無数の種類がある。
C
C
sp3 混成
@
C
Ä
Ä
C
@
sp2 混成
C
C
sp 混成
図 7.1: 2 個の炭素原子による結合
有機化合物にはいろいろな性質がある。例えば,エタノール (C2 H5 OH) は水に対して
任意の割合で溶解するが,ジエチルエーテル ((C2 H5 )2 O) や石油は水に溶解しない。この
ような性質の違いは,分子の構造を作る基本骨格とその分子に種々の性質を付加する官能
基と呼ばれる原子団との働きによって生ずる。分子の性質のうち,沸点,融点の高さにつ
いては分子間や分子内での水素結合1 を考慮しなければならない。
有機化合物の性質 = 基本骨格 (炭素,酸素など) の性質 + 官能基の性質 1
ここで,次に有機化合物の代表的な基本骨格と官能基を次に示す。なお,RÄ はアルキ
ル基 (アルカンから水素原子1個をはずした原子団) などを示すが,次の図における R1 Ä
から R7 Ä については水素原子でもかまわない。
酸素,窒素,フッ素原子に結合した水素原子と,他の酸素,窒素,フッ素原子の間に生ずる結合。この H+ を
やり取りすることによって生ずる化学結合。
129
{ 基本骨格
R1
R2
R4
C
C
R1
R5
Ä
C
R3
R3 R6
アルカン
@
R2
C
Ä
@
R1
C
C
R2
R4
アルケン
アルキン
図 7.2: 炭素のみによる基本骨格
R2
R1
C
R2
R4
O
C
R1
R5
C
O
R3
R3
R6
エーテル結合
@
C
Ä
Ä
R4
O
エステル結合
R2
R1
C
R3
H
Ä
N
@
R8
b
"
b "
R9
C
C
R7
Ä
Ä
O
アミド結合とペプチド結合
O
ケトン基
図 7.3: 酸素,窒素を含む基本骨格
Ab
"
b "
B
C
O
ケトン (ケトン基) を作る
をカルボニル基といい,A,B に炭素が結合
しているものがケトン基である。このカルボニル基の片方 (例えば,B) に水素 (H)
が結合した場合をアルデヒド基,ヒドロキシル基が結合した場合をカルボキシル基
といい,次に示す官能基である。 なお,アミド結合のうち,タンパク質中のもの
を特にペプチド結合という。
130
{ 官能基
R1
X
ハロゲン
R1
OH
R1
水酸基
(ヒドロキシル基)
NO2
R7
C
Ä
H
@
@
O
ニトロ基
アルデヒド基
図 7.4: 中性の官能基
ヒドロキシル基は金属ナトリウムと反応し,水素を発生する (水の場合を考える)。
ニトロ基を持つ化合物は一般に黄色の色を持ち,密度が水よりも大きくなる。アル
デヒド基を持つ化合物は還元剤となる。
O
R1
SO3 H
スルホン酸基
(スルホ基)
R7
Ä
Ä
C
@
OH
カルボキシル基
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b"
水酸基
(ヒドロキシル基)
図 7.5: 酸性の官能基
すべて酸として働くが,その強さは一般にスルホ基が強い。しかし,官能基がど
のような環境で存在するかによって,その酸としての強さはかなり変化する。
R
Ä
H
N
@
H
アミノ基
図 7.6: 塩基性の官能基
アミノ基の窒素原子には非共有電子対が存在し,この電子対に対して,H+ が配位
することで,塩基として働く (アンモニアの場合を考える)。
è 一般的性質
有機化合物は分子性物質で,成分である各原子は共有結合している。しかし,原子間の
電気陰性度の違いから生ずる分極のため,極性を持つ分子や水素原子が電離しやすい分
子も存在する。スルホ基やカルボキシル基など酸性を示す官能基では,その酸素原子と
水素原子間の共有電子対が酸素側に偏っていて,H+ が生じ易い。また,分子内の酸素原
子,窒素原子は水素結合する。特に,-OH,-NH-などの構造を持つものは分子間や分子
内で水素結合し,分子量の割に高い沸点を示す。
131
しかし,一般に融点,沸点は無機化合物と比べて低く,デンプンなどのような分子量の
大きな固体では加熱することによって液化せずに分解してしまうことが多い。
また,有機化合物における化学変化の反応速度は小さく,そのため,反応させるには触
媒や長時間の加熱が必要となることが多い。
7.1.2
有機化合物の成分元素の検出
è 炭素,水素の検出
試料 + CuO
Ä!
加熱
CO2
Ca(OH)2 水溶液
Ba(OH)2 水溶液
で白色沈殿
(BaCO3 は有毒)
+
H2 O
塩化コバルト紙
ピンク色
#
青色
è 窒素の検出
試料 + ソーダ石灰
(CaO と NaOH の混合物)
Ä!
加熱
NH3
ネスラー試薬が橙黄色に変色
濃塩酸で白煙
è 硫黄の検出
試料 + 金属ナトリウム
Ä!
加熱,融解
試料 + 水酸化ナトリウム (s)
Ä!
加熱,融解
試料 + ギ酸ナトリウム
Ä!
加熱
+水,+酢酸
硫化ナトリウム
#+酢酸鉛
PbS(黒色)
硫化ナトリウム
#+酢酸鉛
PbS(黒色)
H2 S
# 酢酸鉛紙
硫化鉛
è 塩素の検出
黒く焼いた銅線の先に試料を付けて燃やすと,成分の塩素が銅と反応し,緑色の炎が生
ずる (銅の炎色反応)。
132
7.1.3
有機化合物の定量分析 { C,H,Oの定量
一定量の試料 ( W g ) を完全燃焼させ,生じた CO2 と H2 O の質量 ( g ) から組成式 (実験式)
を求める。
塩化カルシウム管
O2
試料 +
白金ボート
ソーダ石灰管
粒状酸化銅 (CuO)
図 7.7: 定量分析の装置
è 水素の質量
塩化カルシウム管の質量増加より求める。
WH
MH2
M H2 O
1
= WH 2 O Ç
9
= WH 2 O Ç
(7.1)
(7.2)
è 炭素の質量
ソーダ石灰管の質量増加より求める。
WC
MC
MCO2
3
Ç
11
= WCO2 Ç
(7.3)
= WCO2
(7.4)
è 酸素の質量
試料の質量と検出された炭素,水素の質量の和との差から求める。
WO = W Ä (WH + WC )
è W g 中の原子の数の比
以上の値より,組成式 CX HY OZ は次のように求められる。
133
(7.5)
WC
WH
WO
:
:
12:0
1:00
16:0
= x : y : 1:00
X :Y :Z =
= ãx : ãy : ã
(7.6)
(7.7)
(7.8)
次の設問に答えよ。なお,原子量としては次の値を用いよ。
原子量の値 H=1.00 C=12.0 N=14.0 O=16.0
A. ある炭化水素を分析したところ,質量比で炭素を 85.7% ,水素を 14.3% 含んでいた。ま
た,この化合物の分子量は 56.0 である。この化合物の分子式を求めよ。
B. ある有機化合物 11.0 mg を酸素中で完全に燃焼させたところ,二酸化炭素 34.6 mg,水
14.1 mg を生じた。また,この物質の蒸気密度は酸素の 1.3 倍であった。この物質の分子式
を求めよ。
134
炭化水素 Cn Hm
7.2
炭化水素の分類
7.2.1
炭化水素 Cn Hm
-
飽和炭化水素
-
アルカン Cn H2n+2
メ タ ン ,エ タ ン ,
プロパンなど
- 鎖式炭化水素
(脂肪族炭化水素)
- 不飽和炭化水素
- アルケン Cn H2n
エチレン,
プロペンなど
- アルキン Cn H2nÄ2
アセチレン,
プロピンなど
飽和炭化水素
-
6
シクロアルカン
Cn H2n
シクロヘキサンな
ど
脂環式炭化水素
6
?
不飽和炭化水素
-
シクロアルケン
Cn H2nÄ2
シクロヘキセンな
ど
-
環式炭化水素
?
芳香族炭化水素
ベンゼン,トルエン,エチルベンゼン,スチレン
など
135
図 7.8: メタン
図 7.9: エチレン
図 7.11: トルエン
図 7.10: シクロヘキサン
図 7.12: スチレン
136
7.2.2
アルカン (パラフィン,メタン系炭化水素)
炭素原子間の結合がすべて単結合 (一重結合) である炭化水素をアルカンという。
è アルカンの構造式と分子模型
H
H
C
H
H
H
図 7.13: メタン
図 7.16: メタン
H
H
C
C
H
H
H H
図 7.14: エタン
H
H
H
C
C
C
H
H
H
H
図 7.15: プロパン
図 7.17: エタン
図 7.18: プロパン
è アルカンの沸点
表 7.1: アルカンの沸点,融点と状態
名称
分子式
メタン
エタン
プロパン
ブタン
CH4
C2 H6
C3 H8
C4 H10
C5 H12
C6 H14
ペンタン
ヘキサン
..
.
ヘキサデカン
ヘプタデカン
オクタデカン
沸点 (℃)
Ä161
Ä89
Ä42
Ä0.5
36
69
C16 H34
C17 H36
C18 H38
137
融点 (℃)
常温,常圧での状態
Ä183
Ä184
Ä187
Ä138
Ä130
Ä95
gas
gas
gas
gas
liquid
liquid
18
22
28
liquid
solid
solid
è アルカンの構造の特徴
鎖状のアルカンについては,その構造は次のように表現できる。
H Ä CH2 Ä CH2 Ä ÅÅÅÄ CH2 Ä H
(7.9)
従って,炭素数 n のアルカンは一般式
Cn H2n+2
(7.10)
で表わされる。このように一般式で示される一群の化合物を同族体または同族列という。
ある炭素原子1個に対して単結合によって結合できる炭素原子数は最大4個である。そ
のため,同じ分子式であってもその構造が異なる分子が存在する。このような同じ分子式
で示されるが,構造の異なる化合物を構造異性体と呼ぶ。例えば,分子式 C4 H10 の化合
物における構造異性体は,ブタン,2-メチルプロパンがある。
H
H
H
H
H
C
C
C
C
H
H
H
H
H
H
H
H
H
C
C
C
H
H
C
H
H
H
H
図 7.20: 2-メチルプロパン
図 7.19: ブタン
図 7.21: ブタン
図 7.22: 2-メチルプロパン
アルカン C5 H12 および C6 H14 の構造異性体を示性式で示せ。
138
炭化水素 C7 H1 6 の構造を考えたとき,次のように空間的な配置の違う2種類の炭化水
素が存在する。
H
H
CH3 CH2 CH2
C
CH3 CH2
CH2 CH3
C
CH2 CH2 CH3
CH3
CH3
図 7.23:
図 7.24:
この2つの化合物の空間的な配置を次に示す。左の化合物と右の化合物は鏡像の関係にあ
り,重ね合わすことができない。このような関係を光学異性体という。
H
ìê
CH3 CH2 CH2 a
! CH2 CH3
a !
H
ìê
CH3 CH2 a
! CH2 CH2 CH3
a !
íë
íë
CH3
CH3
図 7.25:
図 7.26:
139
è アルカンの名称
有機化合物をはじめ,すべての化合物の名称については命名法が定められている。日本
語での命名法は日本化学会化合物命名小委員会が定めている。これを組織名という。
{ 直鎖の枝分かれのない飽和炭化水素
炭素数 C1 ~ C4 のものは慣用名をそのまま組織名として使用する。炭素数が C5
以上のものは,炭素原子の数に対応するギリシャ語の数詞に接尾語"アン ane"をつ
ける。
1
mono
モノ
2
di
ジ
7
hepta
ヘプタ
8
octa
オクタ
CH4
メタン
methane
C2 H6
エタン
ethane
表 7.2: 数詞の例
3
4
tri
トリ
tetra
テトラ
5
penta
ペンタ
9
nona
ノナ
10
deca
デカ
11
undeca
ウンデカ
表 7.3: 直鎖炭化水素
C3 H8
C4 H10
C5 H12
プロパン
propane
ブタン
butane
ペンタン
pentane
6
hexa
ヘキサ
12
dodeca
ドデカ
C6 H14
ヘキサン
hexane
{ 側鎖 (枝分かれ) のある炭化水素
分子中の最も長い炭素原子の鎖をもつ炭化水素の水素原子がアルキル基に置き換
えられた化合物 (誘導体) として命名する。
アルキル基の名称は,対応する直鎖アルカンの接尾語"アン ane"を"イル yl"に置
き換えて造る。
CH3 Ä
メチル
methyl
表 7.4: アルキル基の名称
C2 H5 Ä C3 H7 Ä C4 H9 Ä C5 H11 Ä
エチル プロピル ブチル ペンチル
ethyl
propyl
butyl
pentyl
C6 H13 Ä
ヘキシル
hexyl
側鎖の位置は,直鎖部分の端から炭素原子につけた位置の番号で示す。このとき,
位置番号は最も小さな値となるようにする。また,各アルキル基の名称には接頭語
としてその数を表わす接頭語をつける。
CH3
1 CH
CH3
Ä2 CH Ä3 CH Ä4 CH2 Ä5 CH3
図 7.27: 2,3-ジメチルペンタン 2,3-Dimethylpentane
3
140
è アルカンの製法
アルカンの実験室における製法として,カルボン酸ナトリウムの無水物と水酸化ナト
リウムの固体を混合し,加熱分解させる方法がある (脱炭酸)。この反応をアルキル基を
RÄ で示して表わすと
R Ä COONa + NaOH Ä! R Ä H + Na2 CO3
(7.11)
となる。 例えば,無水酢酸ナトリウムの脱炭酸によってメタンが生じ,
CH3 COONa + NaOH Ä! CH4 + Na2 CO3
(7.12)
また,酪酸ナトリウムの脱炭酸によってプロパンが生ずる。
CH3 CH2 CH2 COONa + NaOH Ä! CH3 CH2 CH3 + Na2 CO3
(7.13)
一方,工業的には熱分解 (クラッキング) を用いる。この方法は,アルカンを高温で熱
分解する方法で,炭素数の少ない炭化水素が分解によって生ずる。
CH3 (CH2 )6 CH3
500 ℃
-
CH3 (CH2 )2 CH3 + CH2 = C(CH3 )2
25 ~ 70atm ブタン
2-メチルプロペン
-
CH4 + CH3 CH = CH2
メタン プロピレン
è アルカンの物理的性質
アルカンは炭素原子の鎖にそれよりも電気陰性度の小さな水素原子が結合している。電
気陰性度の値は,炭素が 2.5 ,水素が 2.1 である。炭素-炭素間には電気陰性度の差がな
く,炭素-水素間の電気陰性度の差も小さい。そのため,極性がほとんどなく,水 (極性溶
媒) と混合せず,上層に分離する。また,無極性分子であるため,分子間力はファンデル
ワールス力となり,その結果,沸点は同一分子量では,
直鎖アルカン > 枝分かれアルカン
となり,同一の構造では,分子量が大きいほどその値が高くなる。
図 7.28: アルカンにおける炭素数と沸点の関係
141
è アルカンの反応性
アルカンは非常に反応性に乏しく,温和な条件下での反応は困難である。しかし,強力
な試薬を用いたり,高温,高圧の条件下では反応することがあるが,その制御は難しい。
{ 燃焼 (酸化)
高温で,十分な酸素があるときは,
CH4 + 2O2 = CO2 + 2H2 O(l) + 891kJ
(7.14)
の発熱反応が生ずる。低級 (炭素数の少ない) のアルカンは空気中において淡青色の
炎を生じる。また,メタンの爆発限界は空気中において 5.3 % から 14.0 % である。
一方,酸素が不足し,不完全燃焼するときには
CH4 + O2 Ä! C + 2H2 O
(7.15)
となり,煤を生ずる。
なお,高温においてニッケル触媒を用いると,
2CH4 + O2 Ä! 2CO + 4H2
CH4 + H2 O Ä! CO + 3H2
(7.16)
(7.17)
の反応を生じさせることができる。このとき生じた CO と H2 の混合気体を酸化亜
鉛触媒で反応させるとメタノールを合成することができる。
CO + 2H2 Ä! CH3 OH
(7.18)
{ ハロゲン化 (ラジカル置換反応,連鎖反応)
アルカンと塩素や臭素の混合物に光や熱を加えるとアルカンの水素原子がハロゲ
ンに置換される反応が生ずる。この反応はモノハロゲン化で停止させることは困難
である。例えば,メタンと塩素の混合気体に光を当てると,次のような段階を経て
反応が進む。
(光による分解)
第一段階 Cl-Cl Ä! 2ClÅ
第二段階 ClÅ+ CH4 Ä! H-Cl + CH3 Å
第三段階 CH3 Å+ Cl-Cl Ä! CH3 Cl + ClÅ
このような過程を次々と繰り返し,CH3 Cl(クロロメタン Chloromethane,塩化メ
チル),CH2 Cl2 (ジクロロメタン Dichloromethane,塩化メチレン2 ),CHCl3 (クロロ
ホルム Chloroform)3 ,CCl4 (四塩化炭素 Tetrachloromethane)4 というハロアルカン
(ハロゲン化炭化水素) を生ずる。これらのうち,クロロメタンは常温常圧で無色の
気体である。しかし,他の物質は無色の液体であり,水よりも密度の値が大きい。
なお,一般にある分子内の原子や原子団が別の原子や原子団と置き換わる反応を
置換反応というが,置換反応は必ずしもラジカルによるものばかりではない。
2
原子団 ÄCH2 Ä をメチレン基という。
麻酔作用があるため,取り扱いには注意が必要。
4
現在,製造,販売が禁止されている。
3
142
7.2.3
シクロアルカン
炭素原子が環状に結合した構造を持つ飽和炭化水素をシクロアルカンという。シクロアルカ
ンの一般式は,
Cn H2n
(n ï 3)
(7.19)
で表わされる。
炭素数
3
4
5
6
7
8
名称
2-メチルヘキサン
2-methylhexane
メチルシクロヘキサ
ン
methylcyclohexane
表 7.5: n î 8 であるシクロアルカン
名
称
沸点 (℃)
シクロプロパン
シクロブタン
シクロペンタン
シクロヘキサン
シクロヘプタン
シクロオクタン
cyclopropane
cyclobutane
cyclopentane
cyclohexane
cycloheptane
cyclooctane
-33
13
49
81
118
149
表 7.6: アルカンとシクロアルカンの比較
沸点 (℃)
CH3
CH3 Ä CH Ä CH2 Ä CH2 Ä CH2 Ä CH3
密度 (20 ℃)
99
0.679
101
0.769
""bb
bb""b
b CH3
シクロアルカンの性質は対応するアルカンに似た性質を持つ。
なお,シクロヘキサンには構造上次の2つのタイプが存在する。この2つのタイプを比べる
図 7.30: イス型 (左) と舟型 (右)
図 7.29: イス型 (左) と舟型 (右)
と舟型では水素原子が接触している。従って,この形の分子にイス型より変化させるには水素
原子間の反発に逆らって変形しなければならない。そのため,舟型はイス型よりもエネルギー
が 1mol 当たり,28.9kJ 高くなる。
143
7.2.4
不飽和炭化水素の構造
鎖式炭化水素のうち,炭素炭素間の結合に二重結合もしくは三重結合を持つものを不飽和炭
化水素という。このうち,二重結合を分子内に1個だけ持っている炭化水素は,アルカンに比
べて水素原子の数が2個だけ少なくなり,一般式
Cn H2n
(7.20)
で表わされ,この鎖式炭化水素をアルケンという。
また,三重結合を分子内に1個だけ持っている炭化水素は,アルカンに比べて水素原子の数
が4個少なくなり,一般式
Cn H2nÄ2
(7.21)
で表わされ,この鎖式炭化水素をアルキンという。
è アルケン (エチレン系炭化水素,オレフィン炭化水素) の構造
図 7.31: cis-2-Butene と trans-2-Butene
二重結合している炭素原子2個とそれに結合している4個の原子は同一平面上に存在す
る。また,この二重結合を軸とした回転はできないので5 ,C4 H8 分子には二重結合の位
置の違いによる構造異性体,1-Butene,2-Methylpropene,2-Butene が存在し,さらに
2-Butene には原子団の空間的位置関係による立体異性体の一つである幾何異性体 (シストランス異性体),cis-2-Butene,trans-2-Butene が存在する。幾何異性体は二重結合に対
する原子団の位置関係から生ずるものである。
次の分子式で示される化合物の幾何異性体を構造式で示せ。
1. C2 H2 Cl2
2. C5 H10
5
ô 結合している p オービタルのため
144
分子式
C2 H2
C3 H6
C4 H8
表 7.7: アルケンの例
名称
融点 (℃)
エチレン
プロペン (プロピレン)
1-ブテン
2-メチルプロペン
(イソプチレン)
シス-2-ブテン
トランス-2-ブテン
沸点 (℃)
-169.
-185.
-185.
-140.
-104.
-47.
-6.
-7.
-139.
-106.
4.
1
è アルキン (アセチレン系炭化水素) の構造
図 7.32: propyne と 2-butyne
三重結合している炭素原子2個とそれに結合している2個の原子は直線上に位置している。
分子式
C2H2
C3 H4
表 7.8: アルキンの例
名称
融点 (℃)
アセチレン
プロピン
沸点 (℃)
-82
-103
昇華温度-84
-126
8
-32
27
-23
(メチルアセチレン)
C4 H6
1-ブチン
(エチルアセチレン)
2-ブチン
(ジメチルアセチレン)
145
不飽和炭化水素の性質
7.2.5
è アルケンとアルキンの物理的性質
分子量と融点,沸点の関係は飽和炭化水素とよく似ている。
è 炭素-炭素不飽和結合の生成
{ アルコールの濃硫酸,五酸化リン,アルミナによる脱水
H
OH
C
H+
-
C
H
OH+
2
C
C
-
H
OH2
C
C+
-
H+
OH2
C
C
図 7.33: 脱水による二重結合の生成
アルコールに濃硫酸を加えて熱すると脱水が生じ,炭素原子間に二重結合が生成
する。例えば,アルコールとしてエタノールを用い,濃硫酸6 で 160 ~ 180 ℃の温度
で脱水するとエチレンが生ずる。
C2 H5 OH Ä! C2 H4 + H2 O
(7.22)
なお,このとき温度が 130 ℃ では次の反応が生じ,ジエチルエーテルが生成する。
2C2 H5 OH Ä! (C2 H5 )2 O + H2 O
(7.23)
また,脱水はより水素の少ない方から生ずる。
OH H
CH3
C
C
H
H
CH3
conc.H2 SO4
- CH3
主生成物
副生成物 H
C CH3 + CH2 C
C
C
H
H
図 7.34: 水素原子の外れ方
6
濃硫酸は 290 ℃ で分解し,317 ℃ で沸騰する。
146
H
H
CH3
エチレンは実験室において次のようにして製造される。
フラスコの中に濃硫酸 60g を入れ、
約 165 ℃に加熱する。滴下漏斗(先
端は濃硫酸中に浸す)から、エタ
ノール 10g を少しずつ加える。発生
するエチレンを水上置換で試験管
に集める。このエチレンには、少
量の SO2 が含まれているので、
希水酸化ナトリウム溶液と振り混
ぜたのち、水中で他の試験管に移す。
エタノール
発生したエチレンは
水上置換で補集
SO2 + 2NaOH Ä! Na2 SO3 + H2 O
(7.24)
油浴で加熱する
{ 水酸化カリウムの濃厚エタノール水溶液による不飽和結合の生成
H
X
C
C
H
X
C
C
X
H
OHÄ
-
OHÄ
-
H2 O +
XÄ
C
C
+
C
C
+ 2H2 O + 2XÄ
図 7.35: 不飽和結合の生成
{ 工業的製法 (クラッキング)
石油を 700 ~ 900 ℃の温度でクラッキングするとエチレンを主成分とする混合ガ
スが選られ,1200 ~ 2000 ℃の温度でクラッキングするとアセチレンを主成分とす
る混合ガスが選られる。
{ アセチレンの簡単な製法
炭化カルシウム (カルシウムカーバイド)7 に水を加えると,アセチレンガスを発生
すが,不純物を含むため,独特の匂いがする。
7
CaC2 ,石灰岩を強熱して造った生石灰とコークスを混合し,2000 ℃に強熱すると得られる。
147
CaC2 + H2 O Ä! C2 H2 + Ca(OH)2
(7.25)
è アルケンとアルキンの酸化反応
過マンガン酸カリウム水溶液による不飽和炭化水素の酸化
C
アルケン
Ä!
グリコールの生成
KMnO4 希薄中性溶液 (常温以下)
アルケン
Ä!
二重結合の切断
KMnO4 濃厚溶液 (高温,酸,アルカリ)
アルキン
Ä!
三重結合の切断
MnOÄ
4
-
C
C
C
O
O
-
@ Ä
Mn
O
Ä @
C
C
+
MnO2
OH OH
OÄ
図 7.36: グリコールの生成
以下に,具体的な反応例を示す。
Ä
3CH2 = CH2 + 2MnOÄ
4 + 4H2 O Ä! 3(CH2 OH)2 + 2OH + 2MnO2
(CH3 )2 C = CHCH3
CH3 C CCH3
)
)
(7.26)
(CH3 )2 CO + CH3 COOH
(7.27)
2CH3 COOH
(7.28)
è 付加反応
2種類の化合物が直接結合し,新しい化合物を生成する反応を付加反応という。
A + B Ä! C
(7.29)
{ 水素付加
触媒として実験室では白金 Pt もしくはパラジウム,工業的にはニッケルを用い
ると,炭素-炭素間不飽和結合に対して水素を付加することができる。
CH3 CH = CH2 + H2 Ä! CH3 CH2 CH3
CH3 C CH + 2H2 Ä! CH3 CH2 CH3
(7.30)
(7.31)
{ ハロゲン付加
アルケン,アルキンを臭素の四塩化炭素溶液や水溶液に通すと臭素が炭素-炭素間
不飽和結合に対して付加するため,臭素の赤色が消える。この反応は二重結合や三
重結合の検出に利用される。
148
C
-
C
C
Br
Br
BrÄ
-
C+
C
Br
C
Br
Br
図 7.37: 臭素の付加
{ 酸,水の付加 (H{Br,H{Cl,H{OSO3 H,H{OH など)
水素原子は水素原子の多い方の炭素原子に結合する。
H
H
C
C
H
●
-
C
C
H
●
図 7.38: H{●の付加
Hé+ R
Hé+
CéÄ C
H
- H
Hé+ ● éÄ
H
R
C
C+
H
H
●Ä
- H
H
R
C
C
H
H
●
図 7.39: 参考
CH2 = CH2 + H2 O Ä! CH3 CH2 OH(リン酸触媒)
反応例
CH3 CH = CH2 + H2 O Ä! CH3 CH(OH)CH3
(7.33)
CH3 CCl = CH2 + HCl Ä! CH3 CCl2 CH3
(7.35)
CH3 C CH + HCl Ä! CH3 CCl = CH2
(7.34)
CH3 CH2
H
H
C
C
H2 SO4
(7.32)
H
H
- CH3 CH2
C
CH3
OSO3 H
149
H2 O
- CH3 CH2
加熱
(7.36)
H
C
OH
CH3
{ 硫酸と硫酸水銀によるアルキンへの1分子の水の付加
CH
CH
HgSO4
H2 SO4
CH3 CHO
図 7.40: アセチレンへの水の付加
H+
H|C
H
C|
H
OHÄ
H
+Ä
C
- @C
Ä
- @C
Ä
Ä
@
H
Ä OH
エノール型
C
OH
H
- H
C
C
Ä
@
@
ケト型
O
H
図 7.41: 参考:アルケンへの水の付加
{ アセチレンより付加反応によって生成する重要な化合物
CH
CH
+ H2O
H
C
H
CH
CH +
@
H{O b
Ä
Ä
H
H
-H
C
@
C
C
Ä
H
@
@
OH
O
H
ビニルアルコール
アセトアルデヒド
図 7.42: アセチレンへの水の付加
"
b "
C
H
CH3
-
O
H
@
C
Ä
Ä
H
C
@
O
C
Ä
CH3
@
@
O
酢酸ビニル
図 7.43: アセチレンへの酢酸の付加
150
CH
CH
H|C
N
-
H
@
C
Ä
Ä
H
C
CH
@
HCl
CH
H
-
@
Ä
C
C
Ä
C N
H
アクリロニトリル
H
@
Cl
H
塩化ビニル
ビニルクロライド
図 7.44: アセチレンへのシアン化水素,塩化水素の付加
H
2CH
-
CH
CH2
C|C
C|H
HCl-
@
C
H
Ä
H
Ä
C
@
Ä
C
H
C
Ä
Cl
ビニルアセチレン
クロロプレン
図 7.45: アセチレンへのアセチレンと塩化水素の付加
@
H
è 重合反応
分子量の小さい分子が結合して,高分子化合物を生成する反応を重合反応という。こ
のとき,重合する物質を単量体 (モノマー),その結果生じた高分子化合物を重合体 (ポリ
マー) という。
このポリマーが生ずる反応が付加反応によって生ずる場合を付加重合,縮合反応8 によっ
て生ずる場合を縮重合という。
[ 例 ] 赤熱鉄管にアセチレンを通すと,ベンゼンが生ずる。
3CH CH Ä!
"bb
ó
î
"
(7.37)
ñ"
ï
b
b"
また,エチレンでもどうようにしてベンゼンを合成できる。更に,4 分子のアセチレンを
重合させることも可能である。
H
n
@
C
H
Ä
Ä
H
C
@
H
H
-
C
H
C
H
n
@
C
Ä
Ä
C
@
H
-
H
H
C
C
Cl
H
H
H n
H
Cl n
ポリエチレン
ポリ塩化ビニル
図 7.46: ビニル基を持った化合物の付加重合 (1)
8
A + B Ä!C + H2 O での H2 O のような低分子量の物質が外れることによって2分子より1分子が生ずる反
応をいう。
151
H
@
C
n H
Ä
Ä
H
H
C
@
@
C
Ä
Ä
C
H
-
@
C
Ä @
@
C
Ä
@ Ä
Ä
Cl
C
@
@ Ä
C
Ä @
H
H
H
H
Cl
クロロプレン
ネオプレンゴム
図 7.47: ビニル基を持った化合物の付加重合 (2)
H n
è アセチリドの生成
三重結合の炭素に直結している H 原子は金属イオンと置換するため,アセチレンガスを
アンモニア性硝酸銀溶液やテトラアンミン銅 ( II ) の水溶液に通すと,金属原子に置換さ
れた化合物が生ずる。特に銀原子に置換した銀アセチリド (白色沈殿) は摩擦や熱によっ
て分解爆発するため,ダイナマイトの起爆剤などに利用された。
C2 H2 + 2Ag+ + 2NH3 Ä! C2 Ag2 + 2NH+
4
152
(7.38)
7.2.6
エチレン,アセチレン
è エチレン
無色で甘い匂いの気体,エタノール,エーテルにはよく溶け,水にはわずかに溶ける可
燃性の気体。その爆発限界は,空気との混合物で 3.1 ~ 32 % である。
{ 付加反応
É 水素付加 (白金触媒)
C2 H4 + H2 Ä!
É 塩化水素の付加
C2 H4 + HCl Ä!
É 塩素の付加
C2 H4 + Cl2 Ä!
É 水の付加
C2 H4 + H2 O Ä!
{ 付加重合により分子量 800 ~ 1800 の高分子であるポリエチレンが生成する。
{ 実験室での製法
温度の条件
è アセチレン
無色無臭 (通常は不純物のため悪臭がある) の気体で,アセトンにはよく溶けるが,水に
はわずかしか溶けない。
{ 1.4 atm 以上に圧縮すると分解爆発する。
C2 H2 = 2C + H2 + 227kJ
{ 燃焼
É 通常の空気中では煤を出して不完全燃焼する。
É 十分な酸素がある場合には,3800 ℃に達する炎を得る。
É 爆発限界は,2.5% ~ 81%
{ 反応系統図
É 塩化水素の付加
C2 H2 + HCl Ä!
É 水の付加
C2 H2 + H2 O Ä!
É 酢酸の付加
C2 H2 + CH3 COOH Ä!
{ 実験室での製法
153
7.2.7
芳香族炭化水素
分子式 C6 H6 で表わされるベンゼンは,
sp2 混成オービタルとなっている炭素原子
6 個が正六角形に配置した構造を持ち,各
炭素原子の p オービタルがすべて重なって
いる (電子分布の非局在化,これを共鳴構
造という)。そのため,アルケンやシクロア
ルケンの炭素炭素二重結合とは異なった性
質を示す。炭素炭素間結合の距離は,
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
図 7.48: ベンゼンの空間充填モデルと構
造式
一重結合では 1:54 Ç 10Ä1 nm,
二重結合では 1:33 Ç 10Ä1 nm
であるのに対して,
ベンゼンの炭素炭素間結合の距離は
1:40 Ç 10Ä1 nm
となっている。
反応性の面では,ベンゼンに対する付加反応は起こりにくく,ベンゼン環 (核) に結合してい
る水素原子の置換反応が生じやすい。
図 7.49: トルエンとクメン
154
構造
名称
融点 (℃)
沸点 (℃)
密度 (g= m`)
5.5
80.1
0.879
95.0
110.6
0.866
Ä25.1
114.4
0.880
Ä47.8
139.1
0.864
13.2
138.3
0.861
Ä96.0
152.4
0.862
Ä30.7
155
145.2
0.909
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
benzene
"bb
ó
î
" CH3
"
"
ñ"
ï
b
b"
toluene
"bb
ó
î
" CH3
"
"
ñ"
ï
b
b CH3
b" b
o-xylene
"bb
ó
î
" CH3
"
"
ñ"
ï
b
b"
CH3
m-xylene
"bb
ó
î
" CH3
"
"
ñï
"bb""
CH3 "
p-xylene
"bb
ó
î
" CH(CH3 )2
"
"
ñ"
ï
b
b"
cumene
"bb
ó
î
" CH=CH2
"
"
ñ"
ï
b
b"
styrene
è ベンゼンの化学的安定性
{ 水素付加によるシクロヘキサンの生成
""bb
bb""
+
Pt 25 ℃
H2
""bb
bb""
図 7.50: シクロヘキセンへの水素付加
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
+
3H2
Pt 200 ℃
""bb
bb""
図 7.51: ベンゼンへの水素付加
{ 紫外線照射による付加反応
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
+
3Cl2
- Cl
H
H
P
êêP
ClP
S Cl
êh
h
Pêê HS
ê
S
ê Cl
P
êh
Sê
Ph
S
H êê
ClP
P
Sê
H
図 7.52: ベンゼンへの塩素付加
Cl
H
図 7.53: C6 H6 Cl6 ,BHC
156
è 芳香族置換反応 (求電子置換反応)
表 7.9: 置換反応の試薬と生成物
試薬
求電子試薬
生成物
反応名
ハロゲン化
Br2 ,
Cl2 (Fe)
Br+ ,
Cl+
ニトロ化
conc:HNO3
+
NO+
2
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" NO2
"
"
conc:H2 SO4
スルホン化
"bb
ó
î
" Br
"
"
ñ"
ï
b
b"
conc:H2 SO4
SO3
"bb
ó
î
" SO3 H
"
"
ñ"
ï
b
b"
各置換反応の反応式は次のようになる。
{ ハロゲン化 (Fe を触媒として使用する)
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
+ Br2 Ä!
"bb
ó
î
" Br
"
"
ñ"
ï
b
b"
+ HBr
(7.39)
{ ニトロ化 (混酸を使用する)
ベンゼンと濃硫酸を混合し,その後,濃硝酸を加え,50 ~ 60 ℃に暖める。
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
+ HNO3 Ä!
157
"bb
ó
î
" NO2
"
"
ñ"
ï
b
b"
+ H2 O
(7.40)
{ スルホン化
ベンゼンと濃硫酸を混合し,60 ~ 70 ℃に暖める。
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
+ H2 SO4 Ä!
"bb
ó
î
" SO3 H
"
"
ñ"
ï
b
b"
+ H2 O
(7.41)
è 置換反応生成物の性質と反応
{ ニトロベンゼンからのアニリンの合成
ニトロベンゼンは,比重 1.2 の水に溶けない淡黄色の液体で,芳香を有する有毒物
質である。ニトロベンゼンを鉄 (Fe) やスズ (Sn) と塩酸を用いて加熱しながら還元
するとアニリンを生ずる。
"bb
ó
î
" NO2
"
"
ñ"
ï
b
b"
Ä!
"bb
ó
î
" NH2
"
"
ñ"
ï
b
b"
(7.42)
このとき,スズを用いるとスズは Sn4+ まで酸化される。
アニリンは微弱塩基性の液体でリトマス紙を青変しない。また,さらし粉の水溶液
と反応し,紫色の呈色を示す。また,酸化剤によって酸化されるとアニリンブラッ
クとなる。
{ クロロベンゼン,ベンゼンスルホン酸からのフェノールの合成
ベンゼンスルホン酸は,融点 50 ~ 51 ℃の白色の結晶で潮解性9 が強く,その水溶液
は強酸性10 を示す。
このベンゼンスルホン酸やクロロベンゼンからフェノールを合成することができる。
"bb
ó
î
" SO3 H
"
"
ñ"
ï
b
b"
NaOHaq
-
"bb
ó
î
" Cl
"
"
9
10
"bb
ó
î
" SO3 Na
"
"
"bb
ó
î
" ONa
"
"
(7.43)
NaOH(s) ñ
ï
ï
アルカリ融解 bñ"
bb""
b"
NaOH
ñ
ï
加圧,300 ℃
bb""
"bb
ó
î
" ONa
"
"
ñ"
ï
b
b"
空気中に放置すると,空気中の水分を吸収し,湿ってくる性質。
酸解離定数の値は 2 Ç 10Ä1 である。
158
(7.44)
"bb
ó
î
" ONa
"
"
"bb
ó
î
" OH
"
"
H+
ñ"
ï H2 O + CO2
ñ"
ï
b
b
b"
b"
(7.45)
ここで生成したフェノールは,融点 43 ℃の固体で,66 ℃以上では水と任意の割合
で混合する。その水溶液に塩化鉄 ( III ) 水溶液を加えると Fe3+ イオンと錯体を
造り赤~紫色の呈色を示し,臭素水では白色の 2,4,6-トリブロモフェノール (2,4,6Tribromophenol) を生成する。
è 配向効果
{ オルト,パラ配向性
表 7.10: オルト,パラ配向性が現れる構造
"bb
ó
î
" OH
"
"
"bb
ó
î
" Cl
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" NH2
"
"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" CH3
"
"
ñ"
ï
b
b"
上記表のような置換基がベンゼン核に対して存在するとき,この物質に対する置換
反応は,この置換基に対するオルト位とパラ位に生ずる。これをオルト,パラ配向
性という。
{ メタ配向性
表 7.11: メタ配向性が現れる構造
"bb
ó
î
" NO2
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
"bb
"bb
ó
î
" COOH "
ó
î
" SO3 H "
ó
î
" CHO
"
"
"
"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
上記表のような置換基がベンゼン核に対して存在するとき,この物質に対する置換
反応は,この置換基に対するメタ位に生ずる。これをメタ配向性という。
{ 配向性の違いを利用した化合物の合成
CH3
"bb
ó
î H2 SO4
"
ñ"
ï
b
b"
CH3
-
"bb
ó
î
"
+
ñ"
ï
b
b"
SO3 H
159
CH3
"bb
ó
î
" SO3 H
"
"
ñ"
ï
b
b"
(7.46)
OH
"bb
ó
î HNO3
"
ñ"
ï
b
b"
OH
-
H2 SO4
"bb
ó
î
"
+
ñ"
ï
b
b"
NO2
Cl
"bb
ó
î SO3
"
H SO4
ñ"
ï 2
b
Cl
-
b"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
SO3 H
SO3 H
"bb
ó
î FeCl3
"
"bb
ó
î
"
+
OH
"bb
ó
î
" NO2
"
"
ñ"
ï
b
b"
(7.47)
Cl
"bb
ó
î
" SO3 H
"
"
ñ"
ï
b
b"
(7.48)
SO3 H
-
"bb
ó
î
"
(7.49)
ñ"
ï
b
b Cl
b" b
è 側鎖の酸化
側鎖のアルキル基は,酸化剤によって酸化され,カルボキシル基に変わる。
CH3
"bb
ó
î+
"
ñ"
ï
b
b"
COOH
+
Cr2 O2Ä
7 + 8H
CH3
"bb
ó
î +
- "
ñ"
ï
b
b"
2Cr3+ + 5H2 O
(7.50)
"bb
ó
î
" CH3
"
"
COOH
KMnO4 - "ó
"bb
î
" COOH
"
(7.51)
"bb
ó
î
" CH2 CH3
"
"
KMnO4 - "ó
"bb
î
" COOH
"
(7.52)
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
160
è ジアゾ化
ニトロベンゼンを還元して得ることのできるアニリンに対して,0 ℃に保ちながら亜硝酸
ナトリウム水溶液を加え,さらに塩酸を加えると,亜硝酸ナトリウムと塩酸のつぎの反応
NaNO2 + HCl Ä! HNO2 + NaCl
(7.53)
によって生じた亜硝酸とアニリンが反応し,塩化ベンゼンジアゾニウムが生成する。この
変化をジアゾ化という。
"bb
ó
î
" NH2
"
"
ñ"
ï
b
b"
+
HNO2 - "ó
"bb
î
"N
"
HCl
N ClÄ
ñ"
ï
b
b"
(7.54)
塩化ベンゼンジアゾニウムは無色の結晶で,水に溶け易いが,その結晶は不安定なため打
撃,加熱により分解 (爆発) する。また,水溶液中でも不安定で,温度が 0 ℃より高くな
ると次のように分解し,フェノールを生ずる。
"bb
ó
î
" N2 Cl
"
"
H2 O
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" OH
- "
"
ñ"
ï
b
b"
+ HCl + N2
(7.55)
また,次の反応によって塩化ベンゼン,ヨウ化ベンゼンを生成する。
"bb
ó
î
" N2 Cl
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" N2 Cl
"
"
ñ"
ï
b
b"
Cu2 Cl2 - "ó
"bb
î
" Cl
"
HCl
ñ"
ï
b
b"
KI
"bb
ó
î
" I
- "
"
ñ"
ï
b
b"
161
(7.56)
(7.57)
{ アゾ化合物
塩化ベンゼンジアゾニウム C6 H5 N2 Cl に対して,アミンを塩酸に溶かした溶液 (弱
酸性) や,フェノールを水酸化ナトリウム水溶液に溶かした溶液 (弱塩基性) を加え
ると,ジアゾカップリングが生じ,アゾ化合物が生ずる。アゾ化合物は染料などに
利用される。
"bb
ó
î
" N2 Cl
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" N2 Cl
"
"
ñ"
ï
b
b"
+
+
"bb
ó
î
" NH2
"
"
ñ"
ï
"b
"
"bb
ó
î
" NH2
"
"
b"
HCl - "ó
"bb
î
" N=N
"
+ HCl
ñ"
ï
b
b"
(7.58)
ñ"
ï
b
b"
pÄ アミノアゾベンゼン (黄色,橙色)
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
"b
"
"bb
ó
î
" OH
"
"
b"
NaOH- "ó
"bb
î
" N=N
"
+ NaCl + H2 O
ñ"
ï
b
b"
(7.59)
ñ"
ï
b
b"
pÄ ヒドロキシアゾベンゼン (赤橙色)
pÄ フェニルアゾフェノール
図 7.54: pÄ ヒドロキシアゾベンゼン
"bb
HOb
ó
î
b"
"bb
ó
î
" N2 Cl +
"
"
ñ"
ï
b
b"
ñ"b
ï
b
"
ó
î
b
b"
"bb
HOb
ó
î
b"
ñ"b
ï
"b
"
"
ó
î
b
b"
N=N
"b
ób
î
"
"
"
ñ"
ï
b
b"
ñ
ï
bb""
1Ä フェニルアゾ Ä2Ä ナフトール (赤橙色)
NaOH -
ñ"
ï
b
b"
åÄ ナフトール
2Ä ナフトール
(7.60)
162
è 炭化水素のハロゲン化物
{ 付加反応の例
CH2 = CH2 + Cl2 Ä! CH2 ClCH2 Cl
(7.61)
CH CH + HCl Ä! CH2 = CHCl
(7.62)
CH4 + Cl2 Ä! CH3 Cl + HCl
350 ~ 400 ℃の加熱または光
(7.63)
CH3 CH2 OH + HBr Ä! CH3 CH2 Br + H2 O
(7.64)
{ 置換反応の例
"bb
ó
î
"
+ Br2
ñ"
ï
b
b"
加熱
Fe
-
"bb
ó
î
" Br
"
"
ñ"
ï
b
b"
+ HBr
(7.65)
è ハロゲン化物の性質
水に溶けにくく,有機溶媒として優れた性質を持ち,不燃性であるが毒性がある。
163
エーテル
7.3
7.3.1
エーテルの物理的性質
アルカンや有機溶媒にはよく溶けるが,エーテル結合 C Ä O Ä C の結合角は 111 ゜であるた
めやや極性があり,また,O 原子の非共有電子対によって水と水素結合できるため,低分子量
のエーテルは水にわずかに溶ける。
名 称
表 7.12: 分子量と沸点の関係
構 造
ジメチルエーテル
プロパン
エタノール
エチルメチルエーテル
ブタン
ジプロピルエーテル
1-ヘキサノール
7.3.2
CH3 OCH3
CH3 CH2 CH3
CH3 CH2 OH
CH3 CH2 OCH3
CH3 CH2 CH2 CH3
CH3 CH2 CH2 OCH2 CH2 CH3
CH3 CH2 CH2 CH2 CH2 CH2 OH
分子量
沸点 (℃)
46
44
46
60
58
102
102
-24.8
-42.1
78.5
7.9
-0.5
89
157
エーテルの化学的性質
エーテルは反応性に乏しいが,その蒸気は可燃性である。
è ジメチルエーテル
b.p.-24.8 ℃で,水に対する溶解度は, 0.16 mol/g である。
図 7.51: ジメチルエーテル
è ジエチルエーテル
b.p.34.48 ℃で,揮発性,引火性ともに大きく,有機溶剤,麻酔剤として使用される。
163
ヒドロキシル基を持つ化合物 Cm Hn OH
7.4
7.4.1
アルコール,フェノールの分類
表 7.13: アルコールの融点,沸点,水に対する溶解度
化 合 物
名 称
融点 (℃)
沸点 (℃)
溶解度 (g/100g)
一 価
CH3 OH
C2 H5 OH
CH3 CH2 CH2 OH
CH3 CH(OH)CH3
CH3 CH2 CH2 CH2 OH
CH3 CH2 CH2 CH2 CH2 OH
メタノール
エタノール
1-プロパノール
2-プロパノール
1-ブタノール
1-ペンタノール
-98
-115
-127
-90
-90
{
65
78
97
82
117
138
1
1
1
1
8.0
2.2
1,2-エタンジオール
(エチレングリコール)
-13
198
1
1,2,3-プロパントリオール
(グリセリン)
18
{
1
二 価
CH2 (OH)CH2 (OH)
三 価
CH2 (OH)CH(OH)CH2 (OH)
表 7.14: アルコールの構造からの分類
一般式
例
名 称
H
第一級アルコール
R
C
OH
CH3 OH メタノール
OH
CH3 CH(OH)CH3 2-プロパノール
OH
CH3 C(CH3 )2 OH 2-メチル-2-プロパノール
H
R
第二級アルコール
R
C
H
R
第三級アルコール
R
C
R
164
表 7.15: フェノールおよびフェノール誘導体の融点 (℃),沸点 (℃)
構 造
"bb"
" OH
"
"
"
名 称
m.p.(℃)
b.p.(℃)
フェノール
41
182
アゾ染料,医薬,合成樹脂
p-クレゾール
35
202
アゾ染料,消毒剤
ピクリン酸
123
爆発
火薬,医薬品,(強酸)
1-ナフトール
96
288
アゾ染料
2-ナフトール
122
296
アゾ染料
ヒドロキノン
174 ~ 175
b
b
b
b""
"bb"
" OH
"
"
"
b
"b
b
CH3 "
b""
OH
O2 N b
"bb"
" NO2
b""
"
b
b
b
b""
NO2
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"b
ï
b
"
ó
î
b
b"
ñ"
ï
b
b"
OH
"bb
ó
î
"
ñ"b
ï
"
b
ó
î
b
b"
ñ"
ï
b
b"
"bb"
" OH
"
"
"
b
"bb
b""
HO"
165
現像液,防腐剤
7.4.2
アルコールの化学的性質
è アルコールの合成法
{ 微生物による発酵
デンプン,グルコースを酵母菌によって発酵させると,エタノールと二酸化炭素が
生ずる。
C6 H12 O6 Ä! 2CH3 CH2 OH + 2CO2
(7.66)
{ 水性ガスを原料とする合成
酸化亜鉛 (ZnO),酸化クロム ( III ) を触媒として,350 ~ 400 ℃,150 ~ 200atm
の条件で一酸化炭素と水素を反応させるとメタノールが生ずる。
CO + 2H2 Ä! CH3 OH
(7.67)
メタノールは標準体重で,8 ~ 20g の摂取で失明し,致死量は 30 ~ 50g である。
{ ジアゾニウム塩の分解
ジアゾニウム塩の水溶液の温度を高くすると分解しヒドロキシル基を生ずる。
R Ä NH2 + HNO2 ) [R Ä N2 ]+ ) R Ä OH + N2
(7.68)
è 水酸基の持つ特徴
水酸基 (ヒドロキシル基) には極性があるため,水酸基間において水素結合が可能である。
水素結合の結合エネルギーは 12.6 ~ 20.9 kJ /mol と弱いが,分子の配列に重要な役割を
果たしている。
そのため,低級アルコールでは水分子との水素結合が十分に生ずるために水によく溶ける.
è アルコールの水酸基における性質
{ イオン化傾向の大きな金属との反応
水素結合ができるとともに,電気陰性度の違いから O 原子と H 原子間の結合に強い
極性が生じている。そのため,金属ナトリウム,カリウムなど還元力の強い金属と
は反応し,水素を発生する。しかし,水溶液中において電離し,水素イオンを生ず
ることはない。
2CH3 CH2 OH + 2Na Ä! 2CH3 CH2 ONa + H2
(7.69)
{ 酸触媒脱水反応
温度が高いときには1分子からの脱水によりアルケンを生成し,温度が低いときに
は2分子からの脱水によりエーテルを生成する。
166
{ 酸化反応
第一級アルコールは高温の CuO により酸化されアルデヒドを,また,硫酸酸性の過
マンガン酸カリウム水溶液や二クロム酸カリウム水溶液により酸化されるとカルボ
ン酸を生ずるが,第二級アルコールではいずれの場合でもケトンが生ずる。なお,第
三級アルコールはこのような酸化反応を示さない。
第一アルコールの場合
R Ä CH2 Ä OH ) R Ä CHO ) R Ä COOH
(7.70)
第二アルコールの場合
(R)2 CH Ä OH ) (R)2 C = O
(7.71)
1. エタノールを濃硫酸で脱水するとき,160 ℃で生ずる反応と 130 ℃で生ずる反応を記せ。
2. 1-プロパノールを酸化銅 ( II ) や硫酸々酸性過マンガン酸カリウム水溶液で酸化したとき
の生成物を示せ。
3. 2-プロパノールを硫酸々酸性過マンガン酸カリウム水溶液で酸化したときの生成物を示せ。
4. 2-ペンテンに硫酸々性過マンガン酸カリウム水溶液を反応させたときの生成物を示せ。
167
7.4.3
フェノールの化学的性質
フェノール類はヒドロキシル基を持つため,水と水素結合できる。その結果,フェノールは
わずかに水に溶解するが,多価のフェノール類は水に対する溶解度が大きくなる。
フェノールが H+ を放出して生ずる陰イオンは次のような共鳴構造を生成し,安定化するた
め,酸として働くが,その酸としての強さは弱く,酸解離定数の値は Ka = 1:0 Ç 10Ä10 である。
OÄ
OH
O
O
"bb
"bb
ó
î "
"
Ä""bb
"
""bb
"
õ
õ
õ
ñ
ï
b
b
bb""
b
b
bb""
b
b
b""
b""
Ä
図 7.52: フェノールの共鳴構造
7.4.4
フェノールの合成法
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
?
CH
"bb
ó
î
"
" b
"
b
ñ"
ï
b
b"
クメン
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" SO3 Na
"
"
ñ"
ï
b
b"
ベンゼンスルホン酸
ナトリウム
ベンゼンスルホン酸
-
-
CH3
"bb
ó
î
" SO3 H
"
"
-
"bb
ó
î
" Cl
"
"
ñ"
ï
b
b"
クロロベンゼン
CH3
CH3
-
-
@ Ä
C
"b
ób
î
"
Ä @
"bb
ó
î
" ONa
"
"
ñ"
ï
b
b"
ナトリウム
フェノキシド
OOH
CH3
ñ"
ï
b
b"
クメンヒドロ
ペルオキシド
-
図 7.53: フェノールの合成
168
?
"b
ó
î
" OH
" b
"
ñ"
ï
b
b"
7.4.5
フェノールの反応
è 塩基との反応
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" ONa
"
"
-
+ NaOH
ñ"
ï
b
b"
+ H2 O
(7.72)
è 置換反応 (オルト・パラ配向性)
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
î
" OH
HNO3 - "ó
"
混酸
ñ"
ï
b
b NO2
b" b
"bb
ó
î
" OH
"
"
+
ñ"
ï
"b
O2 N "
b"
(7.73)
o-ニトロフェノールでは分子内で水素結合が生じている。
混酸により,十分にニトロ化を行なうと,黄色結晶性のピクリン酸を生じる。ピクリン酸
は水溶性の強酸である。
NO2
"bb
ó
î
" OH
"
"
3HNO3 -
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñï
(7.74)
"bb""b
b NO2
O2 N "
è Kolbe のサリチル酸合成
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b"
NaOH
中和
"bb
ó
î
" OH
"
"
-
ñ"
ï
b
b COONa
b" b
CO2
125 ℃,4 ~ 7atm
H+
-
169
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COONa
b" b
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
(7.75)
(7.76)
è ベークライト
OH
"bb
ó
î
"
+
ñ"
ï
b
b"
OH
HCHO
OH
"bb
ó
î
" CH2 OH
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" CH2 OH
"
"
Ä!
ñ"
ï
b
b"
OH
"bb
ó
î
"
+
ñ"
ï
b
b"
OH
付加反応
OH
Ä!
OH
OH
"bb
"bb
ó
î
" CH2b
ó
î
"
"
b"
置換反応
ñ
ï
ñ
ï
bb""
bb""
"bb
"bb
ó
î
ó
î
b
" CH2b
" CH2
b"
b"
"
"
-
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
"
"bb
ó
î
"
OH
OH
CH2
CH2
ñ"
ï
ñ"
ï
"b
"b
b CH2"
b CH2
"
b" b
b" b
図 7.54: フェノール樹脂の合成
7.4.6
代表的な化合物の性質
è エタノール C2 H5 OH
芳香のある無色の液体 (密度 0.789 g/cm 3,b.p.78.3 ℃) で,水によく溶け,その水溶液
は中性である。蒸留では 95% 水溶液までの濃縮が可能で,無水アルコール (99.3%以上)
を作るには,これに CaO やベンゼンを加え,蒸留する。
良好な溶媒で,無機塩類はよく溶ける。エタノールに樹脂を溶かしたものをニスという。
{ 金属ナトリウムとの反応
2C2 H5 OH + 2Na Ä! 2C2 H5 ONa + H2
(7.77)
C2 H5 ONa をナトリウムエトキシド (ナトリウムエチラート) といい,吸湿性のある
170
白色粉末で,水に溶解させると分解する。
C2 H5 ONa + H2 O Ä! C2 H5 OH + NaOH
(7.78)
{ 酸との反応
アルコールの置換反応として,次のようなハロゲン化の反応がある。
C2 H5 OH + HCl Ä! C2 H5 Cl + H2 O
(7.79)
また,濃硫酸と反応させると,
C2 H5 OH + H2 SO4 Ä! C2 H5 OSO3 H(硫酸エチル) + H2 O
(7.80)
の反応が生じ,硫酸エステルができる。この硫酸エステルは,温度が 130 ℃ならば,
次の反応によりエーテルが生ずる。
C2 H5 OSO3 H + C2 H5 OH Ä! C2 H5 OC2 H5 + H2 SO4
(7.81)
また,温度が 160 ℃ならば,次のように分解し,エチレンが生ずる。
C2 H5 OSO3 H Ä! C2 H4 + H2 SO4
(7.82)
{ 酸化剤との反応
KMnO4 ,K2 Cr2 O7 ,CuO などいろいろな強さの酸化剤によって,アルコールは酸
化される。
H
R
C
OH
H
KMnO
-4
CuO
R
C
Ä
H
KMnO
-4
@
@
R
C
Ä
OH
@
@
O
(7.83)
O
R1
R2
C
OH
H
C
H
OH
-
KMnO
-4
CuO
C
OH
R1
R2
@
C
Ä
-
OH
O
Cb
" b
b
"
b
(7.84)
O
図 7.55: アルコールの酸化
メタノール,エタノールを CuO を用いて酸化したときの生成物,硫酸酸性過マンガ
ン酸カリウム水溶液で酸化したときの生成物を答えよ。
171
{ 検出法 (ヨードホルム反応)
エタノール C2 H5 OH 1.0 m` に I2 0.3g を溶かし,水 5.0 m` を加える。この混合物に
6.0 mol /` の水酸化ナトリウム水溶液を I2 の色が消えるまで加え,50 ~ 60 ℃の温
水の中に入れてしばらく放置した後,これを冷却するとヨードホルム CHI3 の黄色
結晶が析出する。ヨードホルムは殺菌剤として使用される。この反応をヨードホル
ム反応という。エタノール C2 H5 OH,アセトアルデヒド CH3 CHO,ジメチルケトン
CH3 COCH3 などの検出に利用される。
CH3
CH3
CH
,
OH
C
O
図 7.56: ヨードホルム反応の生ずる構造
è メタノール
メタノールの蒸気と空気の混合物に,加熱した白金線,銅線を入れることによって,メタ
ノールは酸化され,ホルムアルデヒドが生ずる。
CH3 OH + CuO Ä! HCHO + H2 O + Cu
(7.85)
è エチレングリコール (1,2-エタンジオール)
無色粘性,甘味のある液体で,水に溶け易い,二価のアルコールである。
H
@
C
H
Ä
Ä
H
C
@
H
エチレン
H
(O)
酸化
@
C
C
Ä
- Ä @ Ä @
H
H2 O
H 加水分解
H
O
エチレン
オキサイド
H
H
H
C
C
H
(7.86)
OH OH
エチレン
グリコール
è グリセリン
無色粘性,甘味のある液体で,水に溶け易い三価のアルコールで,油脂の加水分解によっ
て得られる。
(RCOO)3 C3 H5 + 3H2 O Ä! 3RCOOH + C3 H5 (OH)3
(7.87)
また,混酸によって硝酸エステルにするとニトログリセリンとなる。
C3 H5 (OH)3 + 3HNO3 Ä! C3 H5 (ONO2 )3 + 3H2 O
172
(7.88)
"bb
ó
î
" COOH
"
"
+
ñï
"bb""
HOOC"
O
)
H
HO
@ Ä
H
H
C
C
H
H
OH
H
O
C
"bb
ó
î
" Cb
b
"
"
b Ä @ Ä b
ñ"
ï
"b
b
b "
b"
C
O
C
H
Ä @
H
O
図 7.57: ポリエチレンテレフタラートの構造
è 石炭酸 (フェノール)
柱状結晶 (m.p.40.8 ℃) で,水にわずかに溶ける (6 g/水 100 g,20 ℃)。その水溶液は微
弱酸性 (Ka = 1:0 Ç 10Ä10 ) である。従って,水酸化ナトリウムと中和し,そのナトリウ
ム塩の水溶液に二酸化炭素を通すとフェノールが遊離する。
C6 H5 OH + NaOH Ä! C6 H5 ONa + H2 O
(7.89)
C6 H5 ONa + H2 O + CO2 Ä! C6 H5 OH + NaHCO3
(7.90)
フェノールの水溶液に塩化第二鉄水溶液を加えると,紫色の呈色が見られる。
フェノールは毒性があり,その 3% 水溶液は消毒薬として使用される。また,染料,ベー
クライト (石炭酸樹脂) や医薬品の原料として使用される。
è クレゾール
石炭酸に類似の性質を持つ。
クレゾールには,o-クレゾール (m.p. 31 ℃),m-クレゾール (m.p. 11.9 ℃),p-クレゾー
ル (m.p. 34.7 ℃) の三種類の位置異性体が存在する。クレゾールの構造異性体にはその他
に C6 H5 OCH3 が存在する。
173
アルデヒドとケトン
7.5
7.5.1
物理的性質
è 化合物の例と沸点,融点
構 造
名 称
融点 (℃)
沸点 (℃)
比重
アルデヒド
HCHOZ
CH3 CHO
CH3 CH2 CHO
ホルムアルデヒド
アセトアルデヒド
プロピオンアルデヒド
-92
-123.5
-81
-20
20
49
0.815
0.781
0.807
ベンズアルデヒド
-26
179
1.046
アセトン
エチルメチルケトン
ジエチルケトン
-94
-86
-42
56
80
102
0.791
0.805
0.814
"bb
ó
î
" CHO
"
"
ñ"
ï
b
b"
ケトン
CH3 COCH3
CH3 COC2 H5
C2 H5 COC2 H5
1 CHO
H
2C
OH
HO
3C
H
H
1 CHO
1 CHO
1 CH OH
2
2C
O
HO
3C
H
H
2C
OH
HO
2C
H
H
HO
3C
H
HO
3C
H
4C
OH
HO
4C
H
H
4C
OH
H
4C
OH
5C
OH
H
5C
OH
H
5C
OH
H
5C
OH
6 CH OH
2
グルコース
6 CH OH
2
ガラクトース
6 CH OH
2
マンノース
6 CH OH
2
フルクトース
図 7.58: ヘキソースの構造
è カルボニル基の特徴
R1
カルボニル基の構造 @
C
R2
Ä
O
R1
カルボニル基の分極 @
C + OÄ
R2
Ä
カルボニル基は分極しているため,アルデヒドやケトンの分子間の相互作用は強く,同分
子量のアルカンよりも高沸点となる。しかし,分子間での水素結合はできないため,同分
174
子量のアルコールよりも低沸点である。また,水分子による水素結合が可能であるため,
低分子量のものは水に可溶となる。
7.5.2
化学的性質
è 合成法
{ アルコールの酸化
H
R
C
OH
KMnO
-4
H
C
R
Ä
H
O
CuO
C
R1
OH
KMnO
-4
H
OH
@
@
O
R1
R2
C
R
KMnO
-4
@
@
Ä
CuO
R2
@
C
Ä
(7.91)
O
(7.92)
{ オゾン分解
R1
R2
@
C
Ä
Ä
R3
C
@
O3 R2
R4
R1
R3
C
C
O
H2 Ni
R4
O
@OÄ
R1
R2
@
C
Ä
O
O
C
Ä
@
R3
(7.93)
R4
{ アルキンの水和
R Ä C C Ä H + H2 O -
Rb
"
b "
CH3
(7.94)
C
O
{ カルシウム塩の乾留
(CH3 COO)2 Ca Ä! CH3 COCH3 + CaCO3
(7.95)
CH3 -を H -に置き換える (ギ酸カルシウム) とホルムアルデヒドが生成する。
175
è 反応
{ 酸化還元反応
酸化剤に対してアルデヒドは還元剤として働くが,ケトンは還元剤とならない。な
お,強い酸化剤はケトンを分解し,カルボン酸を生成することもある。
アルデヒドにアンモニア性硝酸銀水溶液を反応させると銀が析出する。この反応を
銀鏡反応という。
R Ä CHO AgNO3 +NH4 OH
-
R Ä COOÄ + Ag
(7.96)
アルデヒドにフェーリング液11 を反応させると酸化銅 ( I )(赤色沈殿) を生ずる。こ
の反応をフェーリング反応という。
R Ä CHO CuSO4 +ロッシェル塩 R Ä COOÄ + Cu2 O
(7.97)
{ ヨードホルム反応
CH3 COCH3 + 3I2 + 4NaOH Ä! CH3 COONa + CHI3 + 3H2 O + 3NaI
7.5.3
(7.98)
代表的な化合物の性質
è ホルムアルデヒド
刺激的な特臭を持つ水に可溶な気体 (b.p.-19.3 ℃) で,その 40% 水溶液をホルマリンとい
う。還元性があり,銀鏡反応やフェーリング反応を示す。
HCHO
(O)
-
HCOOH
(O)
-
H2 O + CO2
(7.99)
{ 銀鏡反応
{ フェーリング反応
{ 重合する性質があり,ホルムアルデヒドだけで重合したり,フェノール,尿素,メ
ラミンと重合し,フェノール樹脂,尿素樹脂,メラミン樹脂を生成する。
11
フェーリング A 液 (硫酸銅水溶液 [6.0 g/100 m`]) とフェーリング B 液 (ロッシェル塩 [酒石酸カリウムナトリ
ウム [34.0g] +水酸化ナトリウム [10.0g/100 m`]] 水溶液) の混合液
176
H
H
@
C
H
HO
付加重合
-
O
Ä
C
H
+
R3
C
O
Ä
+
ñ"
ï
b
b"
n
@
R1
H
-
R2
C
R3
CH2
C
H
R3
図 7.60: ホルマリンを用いた脱水縮合
OH
"bb
ó
î
"
O|H
H
図 7.59: ホルムアルデヒドの重合
R1
2R2
C
R1
R2
OH
HCHO
"bb
ó
î
" CH2 OH
"
"
Ä!
OH
OH
"bb
ó
î
" CH2 OH
"
"
"bb
ó
î
"
+
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
付加反応
ñ"
ï
b
b"
OH
Ä!
OH
"bb
"bb
ó
î
ó
î
" CH2b
"
"
b"
置換反応
ñ
ï
ñ
ï
bb""
bb""
図 7.61: フェノール樹脂の合成
H
N
O
C
Ä
b
b
N
H
H
"
"
N
H
H
+
N
@
H
C
Hb Ä
b
N
@ "
"
H
H
O
+ HCHO
Ä! O
C
Ä
b
b
H
N
"
"
@
CH2
C
HH
@ "
"
b
b Ä
N
N
H
O
H
図 7.62: 尿素樹脂の合成
è アセトアルデヒド CH3 CHO
沸点 20.2 ℃の水に可溶な物質で,還元性があり,銀鏡反応,フェーリング反応を示す。酸
化されると酢酸となる。
製法としては,エタノールの酸化やアセチレンに水を付加するなどの方法や触媒として
177
H
H
Cb
"C
b "
N
H
H
C
"
"
" b
b
"
N
N
H
H
Cb
C
"Cb
"C
b "
b
" b
b "
bN"
b
N
N
H
H
H C H
H C H
図 7.63: メラミン樹脂の構造
PdCl2 (塩化パラジウム) の塩酸溶液を用いるヘキストワッカー法がある。ヘキストワッ
カー法では 100 ℃に熱した塩化パラジウム塩酸溶液にエチレンと空気の混合気体を通す
ことでアセトアルデヒドが生成する。
H
@
C
H
Ä
Ä
H
C
@
H
(O) PdCl2
H
HÄCÄ C
H
Ä
H
@
@
O
図 7.64: ヘキストワッカー法
è アセトン (ジメチルケトン) CH3 COCH3
芳香のある無色可燃性の液体 (b.p. 56.3 ℃) で,水に可溶な良好な有機溶媒である。
製法としては,酢酸カルシウムの固体を乾留したり,
(CH3 COO)2 Ca Ä! CH3 COCH3 + CaCO3
(7.100)
塩化パラジウム (PdCl2 ) や塩化銅 ( II )(CuCl2 ) を触媒として,プロペン (CH3 CH=CH2 )
を酸化するワッカー法がある。
CH3 Ä CH = CH2 Ä! CH3 Ä CO Ä CH3
(7.101)
また,酸化銅 ( II )(CuO) を用いて 2-プロパノールから脱水素 (1 ~ 3 atm,400 ~ 500
℃) を行ったり,酸化することによっても生成する。
(CH3 )2 CHOH Ä! CH3 COCH3 + H2
(CH3 )2 CHOH Ä! CH3 COCH3 + H2 O
178
(7.102)
(7.103)
カルボン酸
7.6
7.6.1
カルボン酸の物理的性質
è 沸点,融点,酸解離定数
構造
名称
融点 (℃)
沸点 (℃)
HCOOH
CH3 COOH
CH3 CH2 COOH
CH3 (CH2 )2 COOH
HOCO(CH2 )2 COOH
ギ酸
酢酸
プロピオン酸
酪酸
コハク酸
8.4
16.7
-21.5
-7.9
185
100.5
118
141.1
163.5
235
2.1
1.8
1.3
1.5
6.3
2.5
安息香酸
122
249.2
6.4 × 10Ä5
サリチル酸
157
256
1.0 × 10Ä3
"bb"
" COOH
"
"
"
解離定数
×
×
×
×
×
×
10Ä4
10Ä5
10Ä5
10Ä5
10Ä5
10Ä5
b
b
b
b""
"bb"
" OH
"
"
"
b
b
b
b COOH
b""b
è カルボキシル基の特徴
CH3
C
Ä
O{H õ O
@
@
C
@
@
O - H{O
Ä
CH3
図 7.65: 酢酸の二分子会合
C=O,O-H 基の分極によって,水素結合ができ,分子会合により見かけの分子量が大きく
なるため,沸点,融点が分子量の割に大きくなり,また,低分子量のものは水によく溶ける。
高分子量の酸のナトリウム塩,カリウム塩は水中でミセルコロイドを生成する。
179
7.6.2
カルボン酸の合成
è 酸化による合成
{ 第一アルコールまたはアルデヒドの酸化
R Ä CH2 OH Ä! R Ä CHO Ä! R Ä COOH
(7.104)
[例]1-プロパノールを硫酸酸性の条件で二クロム酸カリウムを用いて酸化する。
+
3+ + 11H O
3CH3 CH2 CH2 OH + 2Cr2 O2Ä
2
7 + 16H Ä! 3CH3 CH2 COOH + 4Cr
(7.105)
{ アルキルベンゼンの酸化
5
"bb
ó
î
" CH3
"
"
+
+ 6MnOÄ
4 + 18H Ä! 5
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" CH2 CH3
"
"
Ä!
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" COOH
"
"
ñ"
ï
b
b"
"bb
ó
î
" COOH
"
"
ñ"
ï
b
b"
+ CO2
(7.106)
(7.107)
è 特殊な合成
Kolbe のサリチル酸合成法
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b"
NaOH
中和
-
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COONa
b" b
CO2
125 ℃,4 ~ 7atm
H+
-
180
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COONa
b" b
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
(7.108)
(7.109)
7.6.3
カルボキシル基の反応
è 塩の生成
塩基との中和反応によって塩を生ずる。一般に,ナトリウム,カリウム塩は溶解度が高く,カ
ルシウム,マグネシウム塩の溶解度は小さい。なお,高級脂肪酸 (炭素数が多く,アルキル基
が直鎖のもの) の塩は溶解度が小さく,その Na 塩を石鹸といい,ミセルコロイドを形成する。
また,Ca,Mg 塩は不溶性の塩 (金属石鹸) である。
R Ä COOH + NaOH Ä! R Ä COOÄ + Na+ + H2 O
Ä
2R Ä COO + Ca
2+
Ä! (R Ä COO)2 Ca #
(7.110)
(7.111)
è 脱炭酸反応
{ アルカンの合成 (アルカリ融解)
R Ä COONa + NaOH Ä! R Ä H + Na2 CO3
(7.112)
(R Ä COO)2 Ca Ä! R2 C = O + CaCO3
(7.113)
{ ケトンの合成 (乾留)
è 酸無水物の生成
カルボン酸を加熱するなどの方法で脱水すると,2つのカルボキシル基から脱水が生じ,酸無
水物となる。酢酸が脱水し,無水酢酸となり,フタル酸が脱水すると無水フタル酸となる。
酸無水物に水を反応させると加水分解し,カルボン酸を生ずる。
CH3
b
"
b "
C
O
O
b
"
b "
"bb
ó
î
" CO
"
"
@
CH3
C
ñ"
ï Ä
b
b CO
b" b
O
図 7.66: 無水酢酸
O
図 7.67: 無水フタル酸
181
è 脱水反応
カルボン酸とアルコールの混合物やカルボン酸とアミンの混合物に濃硫酸などの脱水剤を加
えて加熱すると,カルボン酸の ÄOH とアルコール,アミンの H がとれ,エステルやアミド
を生成する。この反応は可逆反応である。
この反応が生じにくい場合には,無水カルボン酸を用いると反応速度を大きくできる。
O
R
C
@
O
+
Ä
Ä
+
OH
O
H
Ä
R'
õH
-
Ä
Ä
C
R
@
+ H2 O
O{R'
図 7.68: エステルの生成
O
R
H
Ä
Ä
C
@
+
OH
H
@
O
H+
N
Ä
R'
õ
-
Ä
Ä
C
R
@N
Ä
+ H2 O
R'
H
図 7.69: アミドの生成
è 鹸化 (ケン化)
エステルやアミドは,希硫酸や塩基によって加水分解される。特に塩基によって加水分解する
と,カルボン酸の塩が得られる。この塩基による加水分解を特にケン化という。
酢酸エチルに水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱すると,次の化学変化が生じて酢酸ナトリ
ウムとエタノールが生ずる。
CH3 COOC2 H5 + NaOH Ä! CH3 COONa + C2 H5 OH
(7.114)
è カルボン酸誘導体の反応例
(CH3 CH2 CO)2 O + H2 O
(CH3 CH2 CO)2 O + C2 H5 OH
(CH3 CO)2 O +
"bb
ó
î
" NH2
"
"
Ä!
Ä!
Ä!
ñ"
ï
b
b"
CH3 CH2 COOC2 H5 + H2 O
182
Ä!
†Ä
2CH3 CH2 COOH
(7.115)
CH3 CH2 COOC2 H5
(7.116)
+CH3 CH2 COOH
(7.117)
"bb
ó
î
" NHCOCH3
"
"
ñ"
ï
b
b"
(7.118)
+CH3 COOH
(7.119)
CH3 CH2 COOH + C2 H5 OH
(7.120)
CH3 CH2 COOC2 H5 + NaOH
CH3 CH2 CONHCH3 + NaOH
CH3 CH2 COOC2 H5 + CH3 OH
7.6.4
Ä!
CH3 CH2 COONa + C2 H5 OH
(7.121)
CH3 CH2 COONa + CH3 NH2
(7.122)
Ä!
†Ä
CH3 CH2 COOCH3 + C2 H5 OH (7.123)
Ä!
代表的なカルボン酸
è カルボン酸の分類
{ 脂肪酸と芳香族カルボン酸
鎖状炭化水素基 (アルキル基など) にカルボキシル基 (-COOH) の結合したカルボン酸
を脂肪酸,ベンゼン核に直接カルボキシル基の結合したものを芳香族カルボン酸とい
う。また,ステアリン酸 C17 H35 COOH のようなものを高級 (飽和) 脂肪酸,オレイン酸
C17 H33 COOH のようなものを高級不飽和脂肪酸という。
{ 多価カルボン酸
1分子中のカルボキシル基の数をカルボン酸の価数という。酢酸は1価の脂肪酸であり,
{ オキシ酸
1分子内にカルボキシル基と水酸基を持つものをオキシ酸という。乳酸,リンゴ酸,ク
エン酸,酒石酸などがある。
è 蟻酸 HCOOH
m.p.18 ℃, b.p.100 ℃の酢に似た強い刺激臭を持つ液体で,水への溶解性の大きい有機酸中
では最も強い酸である。その酸解離定数の値は,Ka = 1:8 × 10Ä4 である。
ギ酸分子は液体状態で会合 (二量体) しているため沸点が分子量のわりには高い値を示す。ま
た,還元剤として働く (炭素原子の酸化数は+2)。ギ酸を濃硫酸と混ぜ、熱すると次の式の反
応が生ずる。
HCOOH Ä! CO + H2 O
(7.124)
è 酢酸 CH3 COOH
m.p.16 ℃,b.p.117 ℃の液体で,液体状態では二分子会合している。その酸解離定数の値は,
Ka = 1:8 × 10Ä5 である。
純粋に近いものを氷酢酸という。
è 無水酢酸 (CH3 CO)2 O
m.p.-73 ℃,b.p.140 ℃の液体で,無色刺激臭のある水にあまり溶けない酸無水物である。エ
タノールやエーテルにはよく溶ける。
水に溶けると加水分解する。
(CH3 CO)2 O + H2 O Ä! 2CH3 COOH
この反応では H+ が触媒となるため,溶解し始めると分解速度が大きくなる。
183
(7.125)
また,アセチル化のための試薬として,合成に使用される。
C2 H5 OH + (CH3 CO)2 O Ä! C2 H5 OCOCH3 + CH3 COOH
CH3 CH2 NH2 + (CH3 CO)2 O Ä! CH3 CH2 NHCOCH3 + CH3 COOH
è ステアリン酸 C17 H35 COOH
(7.126)
(7.127)
白色固体,動植物体内の油脂を加水分解すると得られる高級飽和脂肪酸である。分子の長さ約
2.0nm(20ó
A) である。
図 7.70: ステアリン酸
図 7.71: オレイン酸
è オレイン酸 C17 H33 COOH
シス型構造の高級不飽和脂肪酸で,1mol につき,水素 1mol が付加する。
CH3 (CH2 )7 CH = CH(CH2 )7 COOH
è その他の高級不飽和脂肪酸
リノール酸
CH3 Ä (CH2 )4 Ä CH = CH Ä CH2 Ä CH = CH Ä (CH2 )7 Ä COOH
リノレン酸
CH3 Ä CH2 Ä CH = CH Ä CH2 Ä CH = CH Ä CH2 Ä CH = CH Ä (CH2 )7 Ä COOH
図 7.72: リノール酸
è アクリル酸 CH2 = CH Ä COOH
ビニル基をもち,不可重合する。
アクリル系樹脂の原料としても使用される。
184
H
CH3
C
C
H
COOCH3
図 7.73: アクリル系樹脂の例
è 乳酸 CH3 CH(OH)COOH
SP 3 混成となっている炭素原子に結合している 4 つの原子もしくは原子団がすべて異なる場
合に,その炭素原子を不斉炭素原子という。このような炭素原子が存在するとき,鏡像の関係
にある構造を持つ分子が存在できる。このような関係にある分子を光学異性体という。
乳酸はこのような不斉炭素原子を 1 つ持ち,その水溶液は光の振動面を旋回させる性質を示
す。これを光学活性という。この性質を利用することで,乳酸や糖分の濃度を測定することが
できる (糖度計)。
ìê
! COOH
!
íë
CH3
Ha
a
OH
図 7.74: 乳酸の構造
図 7.75: 光学活性
è マレイン酸とフマル酸
HOCOCH = CHCOOH で示される二価のカルボン酸には,シス型のマレイン酸とトランス
型のフマル酸がある。融点は,マレイン酸が 133 ~ 134 ℃で,フマル酸は 300 ~ 302 ℃であ
る。二重結合のため,常温では相互の構造の変化は生じないが,高温において変化する場合も
ある。
温度を高くすることによって脱水が生じ,酸無水物となるのはマレイン酸であり,無水フマル
酸はその構造から存在しない。
185
図 7.76: マレイン酸の構造
図 7.77: フマル酸の構造
è シュウ酸 (COOH)2 Å2H2 O
二価の酸および還元剤として働き,塩基や過マンガン酸カリウムなどの酸化剤の定量に用いる。
(COOH)2 + (O) Ä! 2CO2 + H2 O
(7.128)
(COOH)2 Ä! 2CO2 + 2H+ + 2eÄ
(7.129)
また,濃硫酸を用いて脱水すると,二酸化炭素と一酸化炭素の混合気体を生ずる。
(COOH)2 Ä! CO2 + CO + H2 O
(7.130)
加熱により,100 ℃で結晶水を失うが,急激に加熱すると分解し二酸化炭素とギ酸となる。
(COOH)2 Ä! CO2 + HCOOH
(7.131)
è 安息香酸
融点 m.p.122 ℃,100 ℃以下で昇華する無色板状結晶,
熱水,エタノール,エーテルに可溶な物質で,食品
防腐剤,染料などの原料として利用される。
"bb
ó
î
" COOH
"
"
ñ"
ï
b
b"
186
è サリチル酸
m.p.159 ℃で,昇華する物質。塩化第二鉄水溶液と反
応し,赤紫の呈色反応を示す。また,アルコール,カ
ルボン酸と反応し種々のエステルを作る。
7.6.5
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
おもなカルボン酸(資料)
表 7.16: おもなカルボン酸
飽和脂肪酸
名称
不飽和脂肪酸
示性式
HCOOH
CH3 COOH
C2 H5 COOH
C3 H7 COOH
C4 H9 COOH
C5 H11 COOH
C6 H13 COOH
C7 H15 COOH
C8 H17 COOH
C9 H19 COOH
C10 H21 COOH
C11 H23 COOH
融点 (℃)
トリデカン酸
C12 H25 COOH
ミリスチン酸
ペンタデカン酸
パルミチン酸
へプタデカン酸
ステアリン酸
C13 H27 COOH
C14 H29 COOH
C15 H31 COOH
C16 H33 COOH
C17 H35 COOH
44.5
~ 45.5
54.1
53 ~ 54
62.65
61.1
70.5
おもな多価カルボン酸
融 点 (℃) 名称
ギ酸
酢酸
プロピオン酸
酪酸
吉草酸
ヘキサン酸
へプタン酸
オクタン酸
ノナン酸
デカン酸
ウンデカン酸
ラウリン酸
(ドデカン酸)
名称
8.4
16.6
-20.83
- 5.26
-34.5
- 3.4
- 7.46
16.5
15
31.3
29.3
44.8
所在
示性式
コハク酸
二枚貝
HOCO-CH2 -CH2 -COOH
188
名称
ãÄ リノレン酸
示性式
C2 H3 COOH
C17 H29 COOH
リノール酸
C17 H31 COOH
オレイン酸
C17 H33 COOH
アクリル酸
融点 (℃)
14
-11.3
~-11.0
- 5.2
~- 5.0
13.3
オキシ酸
名称
示性式
融点 (℃)
乳酸
CH3 CH(OH)COOH
16.8
5.0
γ-リシノール酸
C14 H29 CH(OH)CH2 CH2 COOH
所在
融 点 (℃)
示性式
130.8
リンゴ酸
リンゴ, 葡萄の果実
HOCO-CH2 -CH(OH)-COOH
170
酒石酸
葡萄の果実
HOCO-CH(OH)-CH(OH)-COOH
100
クエン酸 レモン, ミカン, ウメの実
HOCO-CH2 -C(OH)(COOH)-COOH
187
エステルとセッケン
7.7
7.7.1
エステル
è エステルの反応
水素イオンを触媒とした加水分解と塩基によるケン化がある。加水分解には一般に希硫酸を用
いるが,希塩酸などでも加水分解する。ただし,硝酸を用いた場合には,硝酸が酸化剤として
も働くため,生じた有機化合物が分解される。ケン化はおもに希水酸化ナトリウム水溶液を用
いるが,水酸化カリウムでも同様な反応が生ずる。
CH3 COOC2 H5 + H2 O Ä! CH3 COOH + C2 H5 OH
CH3 COOC2 H5 + KOH Ä! CH3 COOK + C2 H5 OH
(7.132)
(7.133)
なお,エステルの名称は, カルボン酸の名称{アルコールのアルキル基名 となる。表記の仕方
は,酢酸エチルでは CH3 COOC2 H5 もしくは C2 H5 OCOCH3 となり,ギ酸メチルでは HCOOCH3
もしくは CH3 OCOH となる。また,ギ酸エステルは還元性を示さない。
è 重要なエステル
{ 酢酸エチル CH3 COOC2 H5
m.p.-83.6 ℃,b.p.77.2 ℃の西洋梨やパイナップルに似た香気を持つ無色の液体。
図 7.78: 酢酸エチル
{ サリチル酸メチル
サリチル酸とメタノールを混合し,濃硫酸を加えて
熱すると生成する。芳香を有し,消炎,鎮痛作用が
ある。
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
+ HOCH3 Ä!
188
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
b COOCH3
b" b
"bb
ó
î
" OH
"
"
+ H2 O
ñ"
ï
b
b COOCH3
b" b
(7.134)
{ アセチルサリチル酸 (アスピリン)
サリチル酸に無水酢酸を作用させて,アセチル化
すると生成する。白色無臭の結晶で,水に溶けに
くい解熱作用がある物質である。バッファリンの
主成分である。
"bb
ó
î
" OH
"
"
+ (CH3 CO)2 O Ä!
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
"bb
ó
î
" OCOCH3
"
"
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
"bb
ó
î
" OCOCH3
"
"
ñ"
ï
b
b COOH
b" b
図 7.79: サリチル酸メチル
+ CH3 COOH
(7.135)
図 7.80: アセチルサリチル酸
è おもな人工香料となるエステル
名 称
示 性 式
沸 点 (℃)
用 途
酢酸ペンチル
酢酸イソペンチル
酪酸イソペンチル
イソ吉草酸イソペンチル
酪酸エチル
デカン酸エチル
酢酸オクチル
CH3 COOC5 H11
CH3 COOC5 H11
C3 H7 COOC5 H11
C4 H9 COOC5 H11
C3 H7 COOC2 H5
C9 H19 COOC2 H5
CH3 COOC8 H17
148.8 ~ 149.0
142
177 ~ 178
192.7
121.55
241.5
210
バナナ油
ナシ油
アンズ油
リンゴ油
パイナップル油
バラ油
ジャスミン油
189
è 油脂
表 7.17: 油脂の例
動物性
植物性
脂肪
牛脂,豚脂,バター
ヤシ油,木ロウ,カカオ脂,パーム油
脂肪油
鯨油,イワシ油,タラ肝油
オリーブ油,ひまし油,大豆油
ごま油,ナタネ油,アマニ油
油脂の成分は,高級脂肪酸のグリセリンエステルである。1mol の油脂を加水分解すると,1mol
のグリセリンと 3mol の高級脂肪酸が得られる。
H2 C{OH
+
HO{CO{R1
H2 C{O{CO{R1
HC{OH
+
HO{CO{R2
HC{O{CO{R2
H2 C{OH
+
+
3H2 O
HO{CO{R3
H2 C{O{CO{R3
図 7.81: グリセリン,高級脂肪酸と油脂
{ 油脂に含まれる脂肪酸
炭素数は 13 以上で,主
に 15 や 17 が多く,ほと
んどが奇数である。
{ 常温での状態
飽和脂肪酸からできて
いる油脂は常温で固体
であり,不飽和脂肪酸
からできている油脂は
常温で液体である。
図 7.82: 油脂
{ 油脂の性質
一般に,黄色もしくは褐色で,特有の匂いを有する。水には不溶,アルコールには難
溶であるが,有機溶媒にはよく溶ける。比重が 0.90 ~ 0.97 で水に浮かぶ。
天然の油脂は混合物であるため,明確な融点は示さない。
また,Zn や ZnCl2 を触媒とすると,加熱水蒸気により加水分解される。
C3 H5 (OCOR)3 + 3H2 O Ä! 3RCOOH + C3 H5 (OH)3
190
(7.136)
アルカリを用いてケン化すると,完全に反応し,高級脂肪酸の塩とグリセリンを生ず
る。このとき,油脂 1g をケン化するのに必要な水酸化カリウム (KOH,56.1 g=mol) の
mg 数をケン化価という。
C3 H5 (OCOR)3 + 3KOH Ä! 3RCOOK + C3 H5 (OH)3
(7.137)
ケン化価が X である油脂の分子量を X を用いた式で表せ。
油脂が不飽和脂肪酸でできているとき,この油脂にはヨウ素が付加できる。このとき,
油脂 100g に付加するヨウ素のグラム数値をヨウ素価という。
分子量が M で,ヨウ素価が Y である油脂1分子中の炭素炭素間二重結合の数
を M と Y を用いた式で表せ。なお,油脂を構成する炭素炭素間不飽和結合は
二重結合のみと考えてよい。
表 7.18: 空気中での固化 (酸化重合) とヨウ素価の関係
乾性油
ヨウ素価 > 130
半乾性油 130 > ヨウ素価 > 100
不乾性油 100 > ヨウ素価
O
C
C
C
C
C
C
C
C
C
C
O2
C
C
C
C
C
C
C
O
C
C
C
É ボイル油
乾性油に PbO の粉末を混合し,加熱処理することによって,乾性を増加させたもの
で,ペンキなどに用いられる。
例)アマニ油は 3 ~ 5 日で固化するが,これに 1 ~ 2%の PbO を混合すると 5 ~ 8
時間で乾燥するようになる。
É 硬化油
不飽和脂肪酸よりなる油脂に対して,H2 の付加し (触媒はニッケル粉末),常温にお
いて固体となるようにした油脂のことで,人造バター (マーガリン) などがある。
191
è セッケン,合成洗剤
{ 石鹸 RCOONa,RCOOK
É 製法
セッケンの製法にはケン化法と中和法がある。ケン化法は牛油,ヤシ油,硬化油を
ケン化し,その後に塩析することによって取り出す方法である。このとき,セッケ
ンは表面に浮かんでくる。
C3 H5 (OCOR)3 + 3NaOH Ä! 3RCOONa + C3 H5 (OH)3
(7.138)
中和法は油脂を過熱水蒸気で加水分解し,その後に生じた脂肪酸を中和することで
セッケンとする方法である。
É 性質
セッケンは弱酸であるカルボン酸と強塩基の塩なので,加水分解により塩基性を
示す (フェノールフタレインの呈色がみられる)。
R Ä COOÄ + H2 O Ä! R Ä COOH + OHÄ
(7.139)
また,酸を加えると R-COOH が遊離する。
セッケンの水溶液中では,セッケン粒子はミセルコロイド (分子数 50 ~ 120 ) を
作っている。
COOÄ
高級脂肪酸イオン
20ó
A
水溶液中
有機溶媒中
192
アルカリ金属以外の金属塩は,水に不溶で,石油等には溶ける。これを金属石鹸
という。
2R Ä COOÄ + Ca2+ Ä! Ca(OCOR)2 #
(7.140)
また,セッケン水では,水に比べてその表面張力が小さくなる。
舟の進む方向
セッケン
表面張力が弱くなる
図 7.83: セッケンの界面活性剤としての働き
このように,ある物質に少量の他の物質が溶け込むことによりその表面張力が著し
く低下する現象を表面活性(界面活性)という。また,このような働きをする物質
を界面活性剤という。
石鹸の洗浄作用は,次のような段階を経て働く。
1. 水溶液の表面張力を著しく低下させることで,繊維の間に浸透する
2. 繊維に固着している汚れを湿らせ柔らかくする (湿潤作用)。
3. 汚れが電気的な引力によって固着している場合にはイオンによって電荷を中和
する (電気的中和作用)。
4. 汚れが油性のときにはこれを乳化する (乳化作用)。
5. セッケンミセルが汚れを吸着する (吸着作用)。
{ 合成洗剤
合成洗剤には,アルキル硫酸塩洗剤(硫酸化高級アルコール洗剤、アルコール系洗剤)
やアルキルベンゼン・スルホン酸塩洗剤(ABS洗剤、石油系洗剤)などがある。
É アルキル硫酸塩洗剤(硫酸化高級アルコール洗剤、アルコール系洗剤)
高級一価アルコールの硫酸エステルのナトリウム塩である。
R Ä OH + HO Ä SO3 H Ä! R Ä O Ä SO3 H + H2 O
R Ä O Ä SO3 H + NaOH Ä! R Ä O Ä SO3 Na + H2 O
(7.141)
(7.142)
よく使用されるアルコールを次に示す。
ラウリルアルコール (1-ドデカノール) C12 H25 OH
セチルアルコール (1-ヘキサデカノール) C16 H33 OH
この合成洗剤の水溶液は中性で,酸による遊離や硬水による沈澱を生じない。
É アルキルベンゼン・スルホン酸塩洗剤(ABS洗剤,石油系洗剤)
この合成洗剤の製造工程を示す。
193
R Ä H + Cl2 Ä! R Ä Cl + HCl
R Ä Cl +
"bb
Rb
ó
î
b"
ñ"
ï
b
b"
+
"bb
ó
î
"
"bb
Rb
ó
î
b"
Ä!
HO-SO3 H
(発煙硫酸)
"bb
Rb
ó
î
b"
Ä!
ñ"
ï
b
b"
"bb
Rb
ó
î
b"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b SO3 H
b" b
+ HCl
(7.144)
+ H2 O
(7.145)
+ H2 O
(7.146)
ñ"
ï
b
b SO3 H
b" b
"bb
Rb
ó
î
b"
+ NaOH Ä!
(7.143)
ñ"
ï
b
b SO3 Na
b" b
{ 合成洗剤のバクテリアによる分解
アルコール系洗剤は廃水中において分解されるが,ABS洗剤はアルキル基が枝分れし
ているものは分解されにくい。しかし,ABS洗剤でもアルキル基が直鎖型のものは分
解されやすく,soft ABS と呼ばれている。
194
7.8
溶媒抽出法による芳香族化合物の分離
溶媒抽出
CH3
CH3
ñ"
ï
b
b"
NH2
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
OH
"bb
"bb
ó
î
ó
î
" COOH "
" OH
"
"
"
"bb
ó
î
" COOH
"
"
ñ"
ï
b
b"
CH3
CH3
"bb
"bb
ó
î
ó
î
" COOH "
" NH2
"
"
"
'
水相
CH3
NH3 Cl
ñ"
ï
ñ"
ï
b
b
OH
CH3
b"
b"
"bb
"bb
ó
î
" COOH "
ó
î
"
"
ñ"
ï
b
"bb
b" "
ó
î
" NH3 Cl
"
CH3
ñ"
ï
b
b"
NH2
ñ"
ï
b
b"
&
%
+エーテル
+NaOH 水溶液
"bb
ó
î
" COONa
"
"
CH3
"bb
"bb
ó
î
ó
î
" COOH "
" OH
"
"
"
"bb
ó
î
" COOH
"
"
?
' ?
ñ"
ï
b
b"
?塩酸を加える エーテル相
?
$
?
&
"bb
ó
î
"
$?
CH3
"bb
ó
î
" NH2
"
"
ñ"
ï
b
b"
%
ñ"
ï
b
b"
ñ"
ï
b
b"
?
?
'
+NaHCO3 水溶液
$?
CH3
"bb
ó
î
" COONa
"
"
CH3
ñ"
ï
b
"bb
b" "
ó
î
" COONa
"
OH
ñ"
ï
b
b"
&
'?
上がエーテル相で,
下が水相
CH3
"bb
ó
î
" OH
"
"
ñ"
ï
b
"bb
b" "
ó
î
195
&
ñ"
ï
b
b"
%
? +NaOH
水溶液
$
"bb
ó
î
" ONa
"
"
ñ"
ï
b
b"
CH3
CH3
"bb
ó
î
"
ñ"
ï
b
b"
%
Fly UP