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協働による地域活性化への挑戦 - AHLA もうひとつの住まい方推進協議会

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協働による地域活性化への挑戦 - AHLA もうひとつの住まい方推進協議会
協働による地域活性化への挑戦 ~暮らしと福祉の「多機能複合拠点」その可能性を探る~
もうひとつの住まい方推進協議会(事務局;認定 NPO まちぽっと)主催の第 8 回「もうひとつの住まい
方推進フォーラム」は、2012 年 11 月 10 日(土)千葉市の千葉大学で開催された。フォーラムは 3 部構成で、
第 1 部は吉田一平・愛知県長久手市長の基調講演、第 2 部は事例報告、第 3 部 シンポジウムが行われた。
最後にアピールを発表し閉会した。
第 1 部 基調講演 吉田一平・愛知県長久手市長
吉田氏は、名古屋市の東側に隣接する長久手というまちで、高齢者福祉、子育て、多世代交流の場づく
りや地域づくりを実践してきた。
商社マンとして 15 年間務めていたときに、消防団活動で地域の自治に目覚め、地元で子どもたちをお
おらかに育てたいと、昭和 56 年に始めたのが、運動場もない、遊具もピアノもない、ただ外で遊ぶ、道
具はすべて手作りという何もない雑木林の中の幼稚園だ。ここから「混ざって暮らす」ことを軸とした福祉、
子育てなど地域づくりの事業を展開し、町長選に立候補を決意するまで、社会福祉法人愛知たいようの杜
による特別養護老人ホーム、ケアハウス、デイサービス、グループホーム、在宅介護支援センター、学校
法人吉田学園の幼稚園などを運営してきた。(これらを総称してゴジカラ村とも呼ぶ。)
平成 23 年 8 月に長久手町長選に出て当選し、24 年 1 月の市制移行に伴い初代市長に就任した。以下、
基調講演の概要を紹介する。
これからの地域のあり方 ~長久手方式の実現に向けて~
■混ざって暮らす社会
いろいろな木が混ざって共に生きる雑木林を暮らしの座標軸にしている。雑木林はさまざまな木がさま
ざまに暮らして、少しずつみんな我慢している。そしていつも未完成。ゴジカラ村の植林の基本はいろい
ろな木を植える。そうすると枯れない。同じものを集めると命は絶える。その考えで 1 万本の植林をした。
我が家を移動するときに地面を平らにするために端材が役に立った。世の中デコボコだが、水平移動させ
るためには、どんな人でも役に立つ。幼稚園の子どもたちは、大人が汚い、危ないというデコボコの道も
喜んで遊ぶ。雨が降ったガタガタ道を子どもたちは水面が光ってきれいだという。同じ道なのに子どもた
ちと大人の目線は違う。価値観によって違っ
て見える。
会社も学校も役所も、同じような人を集
め、数値で測れる結果を求める時間に追わ
れる世界といえる。そこでは失敗が許され
ない。失敗を許さぬ世の中のあり方が、今
の子どもを締め付けている。まず転んでみ
ること、そしてほめることが大切だ。失敗
が許され、いろいろな人が一緒に混ざって
暮らすのが、時間に追われない世界だ。 ゴ ジ カ ラ 村 の ケ ア ハ ウ ス で、80 歳 く ら
いの人が板前に頼んで特別料理を作っても
らって食べたときに、「これ辛いね」「そう
だね」と大きい声で文句言うので、板前が
講演する吉田氏
1
「食いたくなければ帰れ」と
言った。こうした形容詞の世
界は揉める。どちらも正解で、
いいところを取り入れると悪
いところが必ず付いてくると
思っている。
い ま、 介 護 施 設 で は、 入 居
者 80 人に対し職員 40 人が従
事 し て い る。 そ の 内 訳 は、 夜
勤 4 人、明け 4 人、休み 12 人、
勤務 20 人。日中勤務 20 人×
8 時 間 勤 務 ÷ 入 所 者 80 人 =
入所者一人当たりの時間は 2
時 間。1 日 わ ず か 2 時 間 し か
職員は入所者をみることがで
時間に追われない国
家庭、地域、子どもや
老人のいる暮らしの場
⇒生活集団
時間に追われる国
学校、病院、企業、軍隊など
働く人のいる仕事の場
⇒目的集団
❍いろいろな人々が一緒に暮らす
❍遠回りもよし
❍プロセスも楽しむ
❍存在そのものが大切
❍形容詞の世界
❍同質の人たちを集める
❍最短距離を最高の効率でいく
❍結果を求められる
❍能力に価値がある
❍数値の世界
・みんな正解
・目に見えないものにも価値がある
・自然(不揃い・多様)を大切にする
・正解がある
・目に見えるものを評価
・人工物(規格品)を必要と感じる
❍いいところを取り入れると悪い
❍悪いところを切り捨てると
いい所になると思っている
ところが必ずついてくると思っ
ている
きない。幼稚園も一人 10 分し
❍いつも未完成
❍完成解決をめざす
か子どもは先生に見てもらえ
な い。 そ こ で、 ゴ ジ カ ラ 村 で
は見てもらえない時間を地域の人や子ども、ヤギやチャボ、イヌなどの動物、虫たちなど、いろいろな人、
ものに混ざって暮らしてもらうことにした。混ざって暮らすことはわずらわしい。だが、そこで立つ瀬が
ある社会を考えてきた。老人ホームに入居しているおばあさんは楽しくなくても、明日も面倒をみてもら
うためにいつも頭をさげてお礼をいう。これでは立つ瀬がない。混ざって暮らすということは、時間に追
われてきちんと生活することより、「ほどほど」をキーワードにしないとできない。これは、人間関係をほ
どほどに、ぼちぼちと、だいたいで適当に付き合っていくことで共に生きていくという知恵である。
■長久手を日本一の福祉のまちに
こうした混ざって暮らすを基に、長久手のまち自体を特別養護老人ホームのようなまちに変えたいと
思っている。長久手市は、50 年前には人口 1 万人に満たない、予算も 1 億円にはるかに及ばない、役場の
職員は 40 人という乏しい財政の小さな自治体であった。現在は人口 5 万 2000 人、一般会計予算は 158
億円になっている。平成 17 年から 22 年の 5 年間の人口増加率は 11.9%で県内一である。人口千人あた
りの医師数、都市公園面積、平均年齢の若さなども県内一。高齢化率は地域によって 7%から 50%を超え
るところもあるが、全体としては 14%と低い。これらの地域資源を活かして日本一の福祉のまちにしたい
と言ったら、時間に追われる国の価値観の人たちからマニフェストがないと怒られた。まちは豊かになっ
たが、時間に追われ、家族や地域の絆が崩壊しつつある。地域の一定の課題も行政が担う状況になっている。
「普通のおじさん」が役所に入って驚いたことは、職員が挨拶ができない、人に会わない、現場に出ない
ことだった、役所の仕事は、暮らしの場が対象の仕事のはずだが、時間に追われる国の価値観で対応して
いるので、時間に追われない国の価値観で暮らしている人々とずれていることだった。就任して 1 年、職
員に言い続けていることは、①挨拶をする、②目を見て話を聞く、③「する」から「させていただく」、④
ゆっくりでいいから遠回りせよ、⑤失敗してもいい、の 5 つ。暮らしの場で生活する人に対応するには必
要なことだ。はじめの 3 つは認知症の人と付き合う時の原則でもある。
今までの役所の対応は筋力の低下を招くナースコールと同じで、住民の要望になんでも応えてきたこと
で、住民が自分ではなにも考えない住民力の低下を招いてきた。住民が文句を言って役所にやらせる時代
は終わった。住民も職員も価値観を変え、自分で考えることが必要になっている。そこで、市長直轄部署
「たつせがある課」を新設し、地域で気軽に集い、語らい、地域のさまざまな課題に対する取り組みを行う
ための拠点づくりのワークショップを開催している。そのワークショップでは、職員には「一切答えるな」
2
と言ってある。住民も職員に反応がないので、自分たちが考えようかということになった。ワイワイと住
民が議論することが既に始まっている。
■地域住民主体の福祉―まちづくり
福祉とは、住民の暮らしが変わることである。そのためには、行政におまかせではなく、住民自身が主
体となって考え、取り組んでいく必要がある。長久手弁で「しとねる(育てる)」から「しとなる(育つ)」
に変えようと言っている。つまり、これまでの専門家主体から地域住民主体へと変えていくということだ。
社会福祉制度がこうだからこれしかできないというのではなく、住民がワイワイと相談してこうしたいと
いうことを役所が形にしていく地域福祉を進めていく。
地域福祉とは、寝たきりのおじいさんも混ざって暮らすことで立つ瀬がある社会である。切り捨てるこ
とをしない、暮らしの場に合わせた融通無碍な社会を目指している。いろいろな考え方や価値観が異なる
人たちが一緒に暮らすことはわずらわしいし、いろいろと問題も起こる。それをどう解決していくのかが
課題だが、まあまあ、 ぼちぼち、だいたい、適当、と考えている。カメがくるのをウサギが待つという学
習をしないと一緒に暮らすのは難しい。
ゴジカラ村で、多世代共生拠点の計画を 1 年半ぐらいかけて検討した。これは、高齢者が 36 人、女子
学生が各フロアー 1 人、子育て世帯が 10 世帯入るコーポラティブ住宅で、女子学生の部屋の前には、廊
下にキッチンを置いて、おばあさんが出てきて話をするとか、子どもたちはフロアに出てきたり、寝たき
りの高齢者の部屋に行って勉強するという、みんながつながって暮らすわずらわしい計画を立て、着工と
いう矢先に東日本大震災が起きて、中断した。ゴジカラ村では、混ざって暮らすわずらわしさを実験して
きた。その経験から建物も環境もパーフェクトにしない、自然素材を多用する、行政の言う通りにしない、
不便になり文句をいうことで参加し考えるということが分かってきた。この考え方で、長久手の過去 50
年の歴史が植えつけた「時間に追われる国」の価値観の再構築を図っていきたい。何が正しいかはわから
ない。住民と行政が一緒に考えていく、悩んでいく、学習していくことがこれからは必要ではないか。
福祉=暮らしが変わる
~専門家主体から地域住民主体へ~
構
造
地域福祉 手作り
(非効率)
(時間がかかる)
社会福祉 制度
(効率的)
制度
(時間がかから
ない)
解決方法
の傾向
特
色
主
体
入力主導型 切り捨てる 地域住民
の問題解決 ものがない 主体
(融通無碍)
(達成感)
出力主導型 切り捨てる 専門家
の問題解決 ものがある 主体
(あてはめ)
(義務感)
3
第 2 部 事例報告
当日発表された 3 つの実践報告と1つの調査報告の概要を紹介する。
1.いなげビレッジ虹と風の実践報告
発表者;佐々部憲子(生活クラブいなげビレッジ虹と風運営協議会)
生活クラブいなげビレッジ虹と風(千葉市稲毛区園生町)は、UR園生団地の建て替えで空いた跡地に
高齢者住宅、介護サービス拠点などが入る「風の村」、生活クラブ生協の店舗などが入る「虹の街」の 2 棟
によって構成されています。2010 年度にはUR都市機構の団地再生公募事業および国交省「高齢者居住安
定化推進事業」となり、多様な法人の協働で誰もが安心して生活できる地域づくりを支える多機能拠点と
して 2011 年 7 ~ 8 月にオープンしました。
2011年7月~8月オープン
《生活クラブ風の村いなげ》
1F
2F
3F
《生活クラブ虹の街いなげ》
1F
デポー園生(生協のお店)
惣菜・弁当のお店ボナぺティ
(株)生活サポートクラブ
福祉用具販売、レンタル
鍼灸マッサージ院稲毛
2F
VAIC コミュニティケア研究所
地域活動スペース虹
会議室宙
デイサービスセンター稲毛
介護ステーション稲毛
訪問介護ステーション稲毛
赤とんぼ稲毛
園生診療所、
ショートスティ稲毛
サポートハウス稲毛
地域交流喫茶
Cache-Cache(カシュカシュ)
隣接するURグリーンピア園生団地には、226 戸・439 人が入居し、高齢化率は 32%で、園生町の
18%よりはるかに高く、女性のひとり暮らしが多いのが特徴です。事前のアンケート調査および地域懇談
会から団地住民が不便・不安に感じていることは、
・スーパーや病院が遠い ・福祉施設が少ない
・何かあった時の緊急対応が不安 ・気軽に集まれる場所がない ・エレベーターで自分の住む階まで上がってしまうので、住民同士で挨拶をしたり、
立ち話をする機会が減ってしまった ・建替え前に比べると「団地内で家を行き来する関係の人」が減ってしまった
4
などでした。こうしたニーズなども踏まえ、いなげビレッジ虹と風が地域への役割と
して目指したのは以下の3つです。
①要介護者をターミナルまで支えきる高齢者住宅・支援拠点を整備する
②生活協同組合員や地域住民などの力を活かして多種多様な機能を整備・創出し、高
齢者等が安心して生活できる地域づくりを支える
③UR公団団地内に地域で密着したくらしと福祉の拠点を整備し、団地再生を図る
■事業体別取り組み事業
①生活クラブ虹の街
・デポー園生(生活クラブのお店) ・地域活動スペース虹
②ワーカーズコレクティブ San
・デポーフロアー ・惣菜・お弁当の店ボナペティ ・地域交流喫茶 Cache-Cache(カシュカシュ)
③生活サポートクラブ
・福祉用具の販売とレンタル ・住宅改修 ・会議室「宙(そら)」
④ VAIC コミュニティケア研究所
・相談事業 ・子育て支援事業 ・地域交流事業 ・ボランティア活動支援
・インフォーマルサービス事業 ・権利擁護事業 ・福祉サービス評価調査事業
⑤生活クラブ風の村
・サービス付き高齢者向け住宅 ・ショートステイ ・デイサービス
・児童デイサービス ・訪問介護 ・訪問看護 ・診療所 ・鍼灸マッサージ院
⑥ワーカーズコレクティブまどれーぬ
・生活クラブ風の村の厨房業務
児童デイサービスは理由を問わない子どもの一時預かり事業です。2011 年 9 月~ 2012 年 3 月までの
利用者は 18 人で登録者は 12 人。2012 年 4 ~ 9 月は利用者 18 名、登録者 8 名でした。利用者は1km
圏域の人で、団地内の利用はありません。地域交流事業は地域で住民同士が世代を超えてつながる交流です。
今年度はヨガ教室・浴衣着付け教室をしたので 30 代の女性参加が多く、8 割ほどが1km圏域住民。イン
フォーマルサービス事業は生活支援サービスと見守りサービスです。10 月以降で、団地居住者の利用相談
が入っています。いきいき元気くらぶ(介護予防教室)の参加者はほとんど女性で、団地居住者が 7 割以
上を占めています。
虹の街のデポーは、買い物弱者支援のための出店。買い物代行サービスと配食サービスを行っています
(地域の見守り・気づき機能付き)。
今後に向けての課題は、次の3つです。
・事業を理解し運営団体間の連携を強める
・地域の認知度を高める ・地域とのネットワークづくりを進める(地域協議会の設置)
2.いなげビレッジ虹と風の調査結果報告
発表者;長井和音(千葉大学大学院修士)
多機能複合拠点による施設の複合化の効果と団地住民の生活の変化を調査しました。調査対象は、高根
台つどいの家といなげビレッジ虹と風の2つの複合拠点です。ここでは、いなげビレッジ虹と風の調査結
果を紹介します。
5
調査方法;
①事業者等に対するヒアリング(2011 年 8-11 月)
②地域懇談会、ワークショップへの参加(計 7 回、2010 年 7 月 -2011 年 6 月)
③隣接する園生団地入居者に対する多機能複合拠点導入前後 2 度のアンケート調査 (2010 年 12 月、2011 年 12 月)
園生団地入居者へのアンケート項目は、①買い物場所・診療所 ②団地内活動③気に入っている点④安心
感・定住意識の 4 点。2 度のアンケートの両方に回答した 57 世帯について導入によりどう変化したかを検
証しました。
「買い物場所」では、稲毛駅前や駅構内のスーパーが多数を占め、生協スーパー利用は 16 人。生協のみ
利用はゼロ。スーパーを遠いと感じている居住者が減少し、生協スーパーが近くにあるという意識が反映
されているようです。「団地内内活動」では挨拶や立ち話をする関係が 2 割増加。話す機会が増加したこと
が要因と思われます。敬老会、趣味の集まり、習い事など活動への参加者が若干増加しています。
「気に入っている点」の変化として、駅から近い、病院が近いと防犯面が増えています。「不満」点の変化は、
スーパーが遠い、福祉施設が少ない、病院が遠い、緊急時の対応の不満が減少したなどで、実際の利用が
なくてもいざというときに利用できる安心感が大きいようです。
「定住意識」は、住み続けるが減少し、わからないが増加しています。介護が必要になった場合に住み
続けるかについても分からないが増えていることから、介護をより現実的に考えていることがわかりま
す。拠点完成による安心感の高まりへの回答では、6 割近い世帯が安心感を感じています。団地に隣接する、
複数のサービスが併設するという利点も約 6 割があげており、夜が明るくなったなど防犯面の安心感も出
ています。拠点の利用頻度は、生協スーパーの利用が 3 割弱、拠点を利用していない人が 4 割。今後利用
を考えているサービスでは、診療所、スーパー、カフェが多くなりました。
事業運営者のヒアリング結果からは、高齢者専用賃貸住宅、児童デイなど福祉施設、地域交流事業の需
要が高く、稼動率も高いです。高専賃は家賃が高い割に需要が高く、スーパーなど様々な施設が複合化し
ているせいか、複合の効果で利用が高まっているといえるでしょう。生協スーパー利用者は当初計画より
下回っています。高齢者施設や子育て支援施設を利用するついでに、スーパーやカフェを利用する複合効
果がみられることから、拠点があることの安心感は高まったといえるのではないでしょうか。地域貢献に
ついては、喜ばれている、今までなかったにぎやかなイベントができるようになると期待されており、自
治会とはつながったが地域全体とはまだという声などもあります。安心感にはつながっているが、まだこ
れからだという事業者が多いのも特徴でした。
導入後は、カフェなどを利用して住民同士の話す機会が増加
■調査のまとめ
1)団地住民の生活実態の変化
【買い物距離・団地内活動】
・買い物場所に大きな変化はないが、買い物距
離の縮小
・団地内活動、挨拶する関係が増加
・福祉施設の少なさや緊急時の対応に対する不
満の減少
【定住意識】
・定住意識の高まりまでには至っていない
【安心感などの意識面】
・施設導入による安心感の高まり
(今後利用しようと考えている世帯は多く、近
6
くて便利で、いざという時に利用できる)
2)多機能複合拠点の利用について
【各事業の状況】
・福祉施設は、需要が高く、稼働率も高い
・スーパーは、当初の計画よりも下回っている
・どの事業もやっと落ち着いてきた状態
・団地住民の利用は少ない
【複合】
・高齢者施設、子育て施設を利用するついでにスーパーやカフェを利用を利用している
・高専賃利用者がデイサービスを利用したりと多くの複合利用が行われている
3.サービス付き高齢者向け住宅「ココファン日吉」
発表者;小早川 仁(学研ココファンホールディングス社長)
ココファングループ事業は高齢者の住まい・子育て支援を重点的にすすめています。社内ベンチャー方
式で高齢者住宅を 60 棟、子育て支援拠点は 10 数か所を展開しています。昨年改正された高齢者住まい法
については当時の国交大臣、厚労大臣へ提言しましたが、サービス付き高齢者住宅は、複合化でどんなサー
ビスをつけるのかがポイントです。建設に補助金をつけたことでいろいろな業者が参入し、質の担保が課
題となっています。
学研は 2009 年 10 月に「終の住処」へのニーズ調査を実施し、約 3500 名から回答を得ました。回答者
の平均年齢は 68 歳。回答の 1 位は住み慣れた地域に住み続けたい、2 位は医療と介護、経済面の安心。3
位はプライバシーへの配慮で、4 位が 24 時間 365 日見守りの安心。5 位は食事の提供(必要な時に注文も
できる)。夜中も部屋に入ってきて安否確認などされたくなくプライバシーを守りたい、しかしいつでも見
守ってもらえる安心感は欲しいと、一見矛盾していますがこれが実態です。上位 5 位まではすべてソフトで、
ハードよりもソフト、住まいよりも住まい方が重視されていることを踏まえて、事業を進めていきたいと
考えています。
サービス付き高齢者向け住宅の現状は誰をターゲットにしているかが定まっていません。ここ数年で高
ココファンシリーズの差別化戦略
齢化が一気に進み、有料老人
ホームの需給バランスが崩れ、
入居一時金が上昇していると
いう現実があります。世田谷
ポジショニング
自己負担可能額
(月額生活費)
以上
50万円
高
40~
50万円
30~
40万円
区内には 50 カ所ぐらいでき
て、一時金の平均が 3000 万
大手不動産系
大手介護・医療系
有料老人ホーム
プレイヤー
プレイヤー
円以上となっていますが、そ
れ で も 満 室。 厚 生 年 金 受 給
は平均で月に 15 万 7000 円。
この程度のふつうの厚生年金
25~
30万円
16~
25万円
中
13~
16万円
10~
13万円
6~
10万円
低
サービス付き高齢者向け住宅
『ココファンシリーズ』
シルバーハウジング
(公営住宅)
養護老人ホーム
特別養護老人ホーム
介護老人保健施設
軽度要介護
重度要介護
自立度
自立 要支援1要支援2 要介護1
要介護 要介護
要介護2
2 要介護3 要介護
要介護4 要介護
要介護5
健常~虚弱
生活者が入れる高齢者住宅の
ゾーンが絶対的に不足してい
るのです。高級外車と混雑す
る公共交通機関の中間の大衆
車がないとも言えましょう。
ココファンシリーズは、家賃、
食 事、24 時 間 365 日 の 見 守
7
りなどを含めてふつうの厚生年金生活で入れる大衆車をターゲットにしています。
子育て支援事業でも、地域でふつうに共稼ぎで暮らしている人が子育てできる住まいをターゲットにビ
ジネスを展開してきました。
高齢者住宅はこれまでの 7 年間で 5 万戸がつくられてきましたが、政府はこれから 10 年間で 60 万戸を
つくる目標を打ち出しています。補助金付きなので建設ラッシュが始まっており、いままでの高価格競争
から低価格競争がおきると思われます。団塊世代が 2025 年には 75 歳になりますから、高齢者のライフス
タイルが多様化し、終の住処の調査に表れた 5 つのニーズに応える付加価値競争が激化し、いろいろなタ
イプのものができてくるでしょう。対して、ココファンは低価格で良質な住まいを提供したいと考えてい
ます。
複合型拠点ココファン日吉は、URの団地再生事業の一角(全体の 20 分の 1 のスペース)で、サービ
ス付き高齢者向け住宅は自立棟(クリニックと学習塾など子育て事業併設)と介護棟(介護事業)があり、
保育園・幼稚園を併設しています。日吉は人気のある街で金額入札だけでいけば一時金が 5000 万円もす
るような高級な有料老人ホームになってしまうところですが、URの団地再生事業ということでココファ
ンのサービス付き高齢者プラス子育て支援の複合型事業として落札しました。同じURの隣の地区にファ
ミリー向けの分譲マンションが建ちましたが、隣に保育園、幼稚園、学研の寺子屋塾、低価格の高齢者住
宅がありますとココファンの施設に便乗して当初計画より高い価格で売り出したらすぐに満室になったそ
うです。これからもまちの価値が上がるような、活性化するようなものを作っていきたいと思っています。
ココファンでは、高齢者世帯、子育て世帯にやさしい住まいづくりを目指しています。保育園に預ける
のは核家族が多く、子どもたちはお年寄りと暮らす経験ができません。それが思いやりがない、キレやすい、
いじめなどにつながっているのではないでしょうか。そこで高齢者と子どもたちがふれあい、交流できる
場を積極的につくっていきたいと考えています。独居高齢者は認知症になる率が高いが、交流はその予防
になるというデータもあるからです。千葉県の柏市で地域包括ケアを実現するサービス付き高齢者住宅は、
小規模多機能、24 時間訪問介護・看護、クリニック、子育て支援事業、地域交流スペースなどが入り、ま
もなくスタートします。民間企業でも複合型、多世代交流ビジネスとして成り立つことを示したいのです。
4.UR都市機構の実践報告
発表者;前田正人(UR都市機構千葉地域支社住宅経営部担当部長)
1955 年日本住宅公団が発足し、2004 年に独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)となりました。
UR都市機構の事業は、大きく分けると都市再生、賃貸住宅の維持管理(約 76 万戸)、災害復興、ニュー
タウンの4つの事業があります。
賃貸住宅事業は、昭和 30 年代から都心居住者のための賃貸住宅供給を行ってきました。おもにファミリー
世帯・中堅所得層向けに全国 76 万戸の住宅を建設。1 戸あたり面積は平均 47 ㎡で、昭和 40 年代から 50
年代前半に大量に供給されました。その住宅が老朽化し、設備水準が低いものも多く、市場ニーズにマッ
チした改善が必要になっています。また、バリアフリー対応が必要な住宅が約 44%あります。
世帯主の年齢傾向は年々上昇傾向にあります。2010 年と 1985 年の 25 年間で、平均年齢は 41.7 歳か
ら 56.8 歳になっているのです。また、65 歳以上の世帯主は 5%から 35%に達しています。要因は、高度
成長期の入居世代が一斉に高齢化していることと、新規入居者の高齢者率が上昇したことです。実に世帯
の 14%が一人暮らしなのです。一方で、私たちは賃貸住宅ストックの再生・再編の方針を 2007 年 12 月
に定めました。ストック 76 万戸のうち、建て替えなどの団地再生事業を行うのが 16 万戸。既存住宅の改
善によるストック活用は約 57 万戸あります。
建て替え事業の進め方は、全面建て替え、一部建て替え、住棟を集約化しエレベータ付きの高層住宅に
して再入居させる 3 つの方法があります。集約化などで空いた建物は除却し、民間事業者等による住宅供
給等を実施し、福祉施設や拠点をつくります。柏市の豊四季台、船橋市の高根台の団地はほぼこのような
やり方で進めました。
8
高根台団地では、駅前に 400 床弱の総合病院が進出予定ということを考慮し、高齢者用施設と子育て支
援施設を入れ、全面建て替えから一部継続住戸に変更しました。複合施設の価値を団地居住者の方にも享
受してもらいたいのですが、建て替えをすると高齢化が進む現実のなかで、介護保険サービスを利用しな
い人をどうするか悩んでいます。介護保険サービス以外では、認可保育所など子育て支援施設の誘致をし
ています。高齢化少子化で学校の廃校も出ています。一方で団地再生したら容積率をアップせよという声
もありますが、URとして良好な住環境の基盤もつくろうということで樹木保全等を積極的にしています。
豊四季台は市、地元などと提携を結んで、地域高齢社会総合研究会、地域みんなのまちづくり会議を立
ち上げ、2011 年に「長寿社会のまちづくり」を発表しました。方向性は、地域ケアシステムの具現化で、サー
ビス付き高齢者向け住宅の建設と地域医療拠点の設置を核として、ココファンが受けています。また、就
労支援もしています。さらには休耕地を耕し収益を上げていけないかとも考えており、空いた土地の利用
は公募しています。現状としては視察が多いがまだ現地に何も誘致できておらず、課題は大きいです。
多摩平の森団地では、既存の 5 棟を除却しないで、民間事業者が建物ごと活用しています。2 棟がシェ
アハウスで 1 棟が庭園付き賃貸住宅、2 棟が高齢者向け住宅で、妻側に小規模多機能を増築して併設して
います。ストック活用でベーシックな事例としては、千葉市花見川団地で子育て・高齢者支援施設の併設
をしています。足立区大谷田一丁目団地はシニア相談所 空き店舗棟の活用などに取り組んでいます。商
業施設がないところは住宅を活用する事例もあり、かなりの数が利用しています。理由としては事業所の
職員が活発に動いていることが挙げられます。
1-7 建替事業の進め方
1
2
3
従前住宅の除却
建替後賃貸住宅の建設
本移転
先工区
仮移転
後工区
本移転
4
5
6
戻り入居
従前住宅の除却
公共施設の整備
整備敷地の譲渡
(公共団体・民間事業者
等)
民間事業者等による
少子高齢施設等の誘致
住宅の供給
9
第 3 部 シンポジウム
多機能複合拠点の可能性
パネリスト:
佐々部憲子さん(生活クラブいなげビレッジ虹と風運営協議会) 小早川仁さん(㈱学研ココファン 代表取締役社長) 前田正人さん(UR 都市機構千葉地域支社 住宅経営部担当部長) 長井和音さん(千葉大学大学院修士)
コーディネーター
小林秀樹さん(もうひとつの住まい方推進協議会代表幹事/千葉大学教授)
コメンテーター
吉田一平さん(愛知県長久手市長)
■多機能複合のイメージは
小林:パネリストは学生から部長、社長、ボランティアからビジネスマンまでと吉田市長の言われる雑木
林のようなパネリストたちである。吉田市長の基調講演には感銘を受けた。風邪をひいていて、いつもの
切れ味こそ無いが「だいたい、ほどほどに」進めさせていただきたい。吉田市長のコメントを自分なりに
解釈すれば、もともと暮らしはトータルなモノだが現在の施設は高齢者施設も子育て施設も役割で分解し
てできている。それなのに一度分解したものをもう一度元に戻そうとしているので違和感があるというこ
とだろう。そこで、議論を円滑にするために「多機能複合」に対してそれぞれが持っているイメージもし
くは解説を一言で言っていただいた後でディスカッションしていきたい。
佐々部:一言で言うと私が私らしく安心して暮らせるために必要となる機能。医療とか介護、生活支援が
一か所で必要に応じて複数利用でき、見知った顔があって、頼りになる場所のイメージ。
長井:いろいろな世代がライフステージの段階ごとに異なるいろいろなサービスを受けられる場所のイメー
ジ。
小早川:機能が二つ以上集まったとき多機能になる。有機的にそれぞれのサービスがつながっていること
と定義している。無関係のものを提供しても多機能とは呼ばない。企業なので経済合理性とか良い展望に
なるもの。
前田:大家の立場から考える
と、団地には様々な人たちが
住んでいるため、彼らが住み
やすくなるように様々なサー
ビスが一箇所に集まっている
こと。また、それらが複合し
たことでより経営的に安定性
を増すこと。一個の機能だけ
ではビジネスが回り難いので
はないか。
小林:吉田市長の思いは雑木
林のように、いろんな人が混
ざり合って住むということだ
と思う。共通項として多世代、
ただ集まっているのでなく有
機的に連携し、頼りになる生
活が生み出されているという
イメージがだされた。
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■多機能複合での相乗効果
小林:多機能複合で相乗効果が生み出されないと良さとは言えないので具体的にどんな相乗効果があるの
か紹介してほしい。
佐々部:例えば配食サービスを利用している A さんの事例。配食の際、職員が A さんの代金支払いの様子
がおかしいと気付く。見守りのインフォーマルサービスの担当スタッフが配食職員に同行して確認。情報交
換が始まる。デイ利用もわかりスタッフが訪ね、さらにケアマネとも連携、と次々に情報交換ができ、現状
を把握できた。ときどき勝手に団地内の見回りもしている。会えた高齢者に声かけし、介護予防教室=アミー
コという企画への参加を呼び掛けたりしている。団地の住人でない人とも話す。最近息子と同居したが、気
がねがありなるべく外に出るようにしているという方がその一例で、事務所内で声かけした人のことを共有
している。その後その人に友達ができた事もわかった。また、カフェの利用など、行動が活発に展開するよ
うになると多くの人がその人に関われるので広がりが相乗効果につながると思う。サービスなどの複数利用
者は徐々に増えている。例えばサービス付き高齢者向け住宅と診療所を利用したり、インフォーマルサービ
スと配食サービスを利用したりなど。複合していることで有機的に連動しやすいのだと思う。
しかし、オープンからしばらくはそれぞれの事業が軌道に乗るまで余力がなく、運営協議会でもその点
に踏み込んで具体策を講じなかった。また、お互いの事業内容の把握が薄くどの部分で連携が可能かイメー
ジがつかなかった。さまざまな資源をフルに活用するスキルも身についていないのかもしれない。今後は
個人情報の保護に留意しつつ、タイムリーに情報共有をおこない、拠点内での担当者会議やケース検討会
議ができればよりよい支援につながるのではないかと思う。また、現在、医療・介護の多職種連携を考え
る研究会や高齢化団地の課題解決に向けた勉強会などから地域の専門職を中心にネットワークができつつ
ある。さらに外部の資源・機能との連携もていねいに広げていきたいと思う。
小林:高齢者生活に関わる、いろいろな切り口があるとその人の生活全体に対応できるということ。次は
会場の千葉大学院生の質問である。「いろんなサービス提供は高齢者をお客さんととらえて対応している感
じを受けている。吉田市長の話は高齢者自身が考えて行動することが重要というが、高齢者の自立が大事
と指摘する吉田市長とそれを望みながらいなげビレッジの佐々部さん、ココファンの小早川さんも高齢者
へのサービスを商品化する(お客さん化する)ことの間に対立がないか。どう感じるか。」
佐々部:関係性が構築されていないこともあり、お客さんのように見えるかもしれないが、高齢者自身の考
えや主体性を引き出すことを心がけている。それぞれの事業者が提供するサービス等を利用される方は「お
客さん」である。一方で私たちは、地域包括ケアシステムの拠点として今後地域の住民、自治会、社会福祉
協議会、商店などの方々とともに「仮称:地域協議会」を設置し住民主体の地域づくりを具現化していきた
いと考えている。
「住まい手」が「自ら考え、動く」には地域課題の共通認識が必要で、さまざまな機会を
通じて地域住民との交流を深め、
「地域づくりの仲間」となれるよう、段階的に進めていきたいと思っている。
小林:お客様が大事だということでも良いと思うが。
小早川:事業者としては、対価をいただく限り、高齢者住宅に入居される方は「お客様」である。地域の
中で、様々な住まい方があり、それを自由に選択することができる環境をつくることが重要と認識している。
これからますますライフスタイルが多様化してくる高齢者の方々が、地域の中で自らの意志で選択・決定
するためには、乗り物で例えるなら、公共交通機関や高級外車、大衆車、などが地域でラインナップされ
ているべきだと考えている。
前田:賃貸住宅の大家の立場からは、「住まい手」はお家賃を払っていただいている「お客様」であること
は間違いない。その上で、新しい取り組みを進める時には、強力なパートナーでもある。
小林:長井さん、相乗効果の具体例をあげて下さい。
長井:いなげビレッジ入居者に複合利用についてのアンケートに協力いただいた。地域交流事業アミーゴ
に参加した人がデポー(スーパー)やカフェに寄ったり、風の村入居者がスタッフとデポーに買い物に来
たりを見受けた。デポー前での複合利用のアンケートでは、6 割近くがデポーを利用。4 割が他の施設を利用。
その中でもカフェ併用が最多。次がアミーコや風の村だった。
小林:4 割近くが他の施設利用。それは多いのではないか。複合するからデポー(スーパー)に来る。大
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きな効果と評価できるのではないだろうか。ココファン日吉での相乗効果
はあるか?
小早川:建設前の住民説明会ではのぼりに「家賃下げろ」と戦々恐々の雰
囲気であった。福祉施設建設反対もあったが、団地でやりたい「複合的夢」
と「どういう機能を作るか」を語ると、住民説明会から入居説明会に急遽
会場の雰囲気が変わった。今では高齢者住宅入居者と子どもが登校時に挨
拶を交わす、塾帰りの子どもがお年寄りのスーパーのかごを持つ等お年寄
りのサポートをしている。町が昔あった姿をとり戻したようだ。
■身近にある安心感のために
前田:具体の事例という訳ではないが、団地住まいの人は様々であり、例
えば、今必要ではないが将来的に(多機能複合施設が)必要かもしれない、
とか、自分は必要ではないが近所の高齢者が必要かも、というバーチャル
ニーズがいろいろ考えられるが、それが複合化してワンストップで見えて、ここにあると言うことが将来
の自分の安心感につながる。この効果は大きい。
小林:今の指摘は重要だと思う。実際に利用している事だけで評価するより、将来的にいざという時利用
佐々部憲子さん
できるかもしれないという安心感が大きい。それこそ評価できる。次の質問は「複合化は良いことだと思
うが有機的に機能するための工夫が必要。具体的な工夫を聞きたい。ハードが付いていたり、上下に並べ
るだけではだめなのではないか ? 具体の工夫があるか?」
佐々部:工夫はとても大事だと思う。吉田市長の話を聞いて、隣の人を気にする意識が持てるような工夫
が必要。アミーゴの企画でも認知症の人がいるが、企画した時間内のうち 8 割はしゃべっていた。講師の
話はそっちのけで。団地の知り合いが嫌な顔をしているが誰も言い出さない。知っている人に対して声か
けできる関係が作れるとよい。
小林 : 今の話はスタッフが高齢者に対応対話して気付く力が必要だということ。口でいうのは簡単だが難
しいこと。スタッフの教育はどうするのか。目標像はあるのか。
佐々部 : ファインドアウト相談をしているが、なかなか難かしい。資質もあるが、いろいろな人をみる意
識で人にかかわると、積み重ねでスキルアップにつながると思う。ファインドアウト判断基準も現場に任
せている。時々集まって事例、情報共有しているが判断が違うこともある。
小林 : 人の育成は課題である。ほかに具体的な工夫があるか。
小早川 : 機能複合化といっても、それぞれの機能が有機的につながっている機能でなければならないと考
えている。高齢者の方が加齢により、医療や介護、生活支援が必要になっても安心して暮らし続けるソ
フトや、地域の方がその複合拠点を生活の中で利用できる機能を盛り込むことが重要である。逆に言え
ば、その機能は、高齢者が集住していることで利用を見込め、セグメント別に収益構造が成立していること、
高齢者とそれぞれの機能が互いに依存しあう関係ができることで、結果としてリーズナブルな提供価格が
実現できる。機能の配置の仕方(設計工夫)、コーディネーターの役割(オペレーション)などが有機的に
使える役割を担うことになる。例えば、多機能複合では、ハード、建物自体の設計の工夫を、それぞれの
機能を考え行う。子育て支援事業と介護事業、高齢者住宅で自然にお互いのコミュニケーションが取れる
ように保育園に入る子どもたちの動線などを工夫をする。高齢者住宅のエントランスには高齢者対応の介
護事業者受付窓口を置き、24 時間ヘルパーが必ずいる状況をつくる。何かあったら駆けつけてくれる人と
人の安心感をつくるところで経済の合理性が働くように工夫する。ソフトでは介護サービス提供者の働く
環境づくり、または、子どもたちの宿題の場所を提供する場の提供やプログラムやカリキュラムを考えて
いる。それらがうまくシナジー効果が出ている。食事の食数の考え方などにも、経済性やビジュアルの工
夫もする。ビジネスモデルとしても考える。
小林 : ハード、ソフトは専門家が考えるのか。
小早川:初めはわからなくて図面のみだった。今は建設、企画、開発チーム内で考えている。
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■プロポーザルに活かすことは?
小林 : 前田さん、こういう工夫を期待して UR 側がプロポーザルするとかプロポーザルの中身で工夫してい
る点を紹介いただけるか。
前田 : この部分はプロポーザルでは事業者様からの提案に期待しているので、むしろ教えていただきたい。
参考までに事例紹介するが、柏市の「豊四季台」では医療を中心に議論する中で、在宅で看護、介護を利
用している人の情報の共有、処理のあり方が課題になっている。試行的に iPad を利用して一人の人の情
報を共有することを考え、ヘルパー、医師、歯科医師、薬剤師等が関わり書き込んでいくシステムをやろ
うとしていると聞いている。ネットワーク的に処理しようとしている。医師の情報が一番難しいと思うが、
個人情報的なことを多人数で共有することが重要だが、どのくらいまで許容されるか。重篤な場合にはで
きるかもしれない。
小林 : 豊四季台の一人の方の情報を iPad で情報共有しようという試みだと思うが、吉田市長はこんなのく
だらないとおっしゃりたいだろうか。
吉田 : そんなことはない。
小林 : 病院では治療という明確な目的のためにこういうシステムはつくっている。しかし、必ずしも治療
目的とは言えない高齢者住宅でそれが可能かどうか。試行錯誤、判断が分かれる。ココファンも園生団地
―いなげビレッジもプロポーザルに応募したわけだが、小早川さんからも、もし高級有料老人ホームが落
札したらどうなっていたかというご指摘もあった。UR には誘致したい企業イメージはあったか ?
前田 : ココファン日吉の場合は入居一時金をとってはいけないという条件はつけた。当時は画期的なこと
で、誰でも入れるようにしたかった。家賃まで踏み込んだ条件を出せるのかどうか悩ましい。プロポーザ
ルについて念のため説明すると、公募の場合、競争の公平性の観点から、評価基準を事前に明示し、それ
と価格をセットにして評価している。後からもっといい案を出してもダメ。事前にお示しした評価基準の
中で競争してもらうことになる。
小林 : どんなことを考え、売り込んだか、どんな競争があったか ?
小早川:日吉は場所が人気のある良いエリアだった。画期的だった事は募集の段階で UR がコンセプトを
明確にしたことだ。周りの団地の人も移り住めるように、医療と介護と子育て支援を併設して一番土地を
高く借りてくれる人にという条件だった。価格だけだと地域の人が住めない高いものになる。
小林 : 園生団地はどうだったか?
池田 :UR はサービス付き高齢者住宅のようなものを想定しておられたと思う。現在のサ高住水準では団
地の人は移り住めない。それでは団地再生の意味がないと提案した。その結果、団地に住みながら福祉
サービスが利用できる在宅の介護サービスの床面積が残床面積の50% 以上を占めるという条件になった。
50%以上の在宅系の介護事業というのは厳しい条件だと思う。結果的に手を挙げたのが生活クラブの社会
福祉法人。しかし最終的に1円でも高く最高額をつけたところが勝ちになる。
前田 : 定価販売という考え方もある。例えば行政に譲る時は競争にしない。
では、社会福祉法人や株式会社はだめなのかというと、理屈というよりど
こまで国民のコンセンサスが得られるかの問題である。選挙で選ばれる首
長の判断はやはり市民の理解・コンセンサスを得やすい。競争者がある場合、
定価販売で理解が得られるかどうか。UR が、必要なサービスの内容や水準
の評価の仕方をまだよく分かっていないことにも原因がある。
小林 : 今の話は高級老人ホームだとそこに入居できる人だけにしか恩恵が
ないので、50%を地域に開き貢献せよというのは行政の活動に近づくと
思う。
■多機能複合拠点は地域の役に立つのか
小林:地域に入って役立っていると感じるか。地域に役立つ活動などがあ
るか。
長井和音さん
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佐々部 : 活動して間もないので NPO として地域の有用な資源となっていきたい。ボランティア活動はまだ
できていない。地域の人たちの参加の機会をつくることが重要。地域懇談会を立ち上げてよかった。団地
自治会の方たちから実情を伺い、課題も見えてきた。つながりができ、自分たちが地域に貢献できること
が見えてくる。
長井 : 懇談会には何回か参加させていただいた。いなげビレッジが地域に対して何ができるか、どういう
貢献ができるかを話し合っていて良いと思った。運営までは難しいかもしれないが、団地自治会の人たち
だけでなく、地域の住民が話し合いにもっと参加しているといいと思った。住民の来やすい状況を作るこ
とができたらもう少し参加されたのではと思う。
小林 : ある程度回数を積み重ねると参加を広げる事が難しくなり、出席する人が決まってくるのは永遠の
課題である。それと施設へのニーズだけでなく開設後の運営スタッフの発掘はどうだったか?いわゆるワー
カーズ・コレクティブは作れたのか?
佐々部 : 虹まちでの活動はやってきているが、オープン前にワーカーズ・コレクティブという働き方の理
解がもう少し出来ていたら良かったと思う。ただオープン時には 2 つのワーカーズ・コレクティブがたち
上がった。地域の主婦たちがワーカーズの働き方に共感したというよりは、仕事をしたいという人たちが
参加してくれて働き方の理解は進んだと思う。
小林 : ワーカーズ・コレクティブとは何か、学生もいるので説明をしていただきたい。
佐々部:自分たちの地域課題を事業として作り出しそれを継続して解決するしくみ。女性たちが経済力も
付けながら働く働き方の事。
小早川:当たり前だがイベントをひな祭りや敬老の日だとか毎月のようにやり地域の方を招待するのはど
こでもやっている。介護施設とか高齢者施設にはフラダンス、コーラス、腹話術など地域住民のボランティ
アサークルの方が来てくれる。湘南地域ではその方たちのコンテストをやって入居者が審査し、優勝した
サークルには会社として賞金を出したりしてボランティアの方の興味をつなげているので取り入れたい。
小林 : 団地側からみると多機能複合施設に期待することは。
前田:そこに行けば何かあるという安心感があるということに尽きる。入札の時、施設を公募する際には
団地住民に事前に必要と思われる機能をアンケートする。しかし、質問の言葉づかいでデイとかショート
とか生活支援とかの言葉が難しくて正確に理解されなかったり、元気な人が多いとご本人も具体のニーズ
がよくわからないのだが、誰もこれからのことに漠然とした不安はある。複合的にそこにあれば具体的に
わかるし団地にとってありがたい。入所が困難な特養以外の選択肢も含めてそこに選べるものがあれば安
心するし、退去抑制になり、団地の魅力ともなる。
小林:質問がある。団地の家賃は5、6万円だが複合多機能の高齢者住宅は家賃が高いのでそこから移る
ということは難しい。今後低所得の高齢者が増えるが安い家賃での高齢者住宅の提供を UR はできるか、関
わっていくことができるか。
前田:本日は UR の組織としての見解というより私個人の見解として発言
していることをご理解いただきたいが、低所得者の生活に関して経済的
負担を誰が負うのかの議論が必要であると考える。UR の財源は基本は家
賃と共益費しかないため、UR が負担するということは団地に住む他の住
民が低所得者を支えているということになるが、それは正しい負担なの
か。それよりは、低所得者本人の所得を何とかする、つまり生活保護と
か年金を増やすのかなど、どの道を選択するのかの議論が必要。仮に土
地代をただにしても、エンドユーザーへの負担はそんなには安くならない。
都市再生機構法に「賃貸住宅に新たに入居する者の家賃の額について
は、近傍同種の住宅の家賃の額と均衡を失しないよう定めなければなら
ない。」と定められている。低所得層の高齢者対策、住宅政策として、UR
の基本目標は、良好な居住環境を備えた賃貸住宅の確保、居住者の居住
の安定を図り、公的賃貸住宅としての重層的かつ柔軟な住宅セーフティ 小早川仁さん
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ネットの充実に努めることを掲げており、(いろいろ制約はあるが)高齢者、
子育て世帯等政策的に配慮が必要な者に対する住宅セーフティネットとし
ての役割も果たしていきたいと考えている。
小林:安い家賃の住まいの提供はコンクリート住宅ではむずかしいところ
がある。多機能複合拠点では地域に開かれた介護サービスができるので、
その近くにある地域の一戸建ての空家とかを活用しシェア居住すれば一軒
あたり4万円くらいでできるので連携していくと可能性がある。もうひと
つ確認したい。多機能複合型のよさとして、経営者側から見ることが大事。
園生団地ではスーパーマーケットが撤退するという、単独では経営が無理
な地域に、複合施設を作ることによってスーパー利用客を増やすチャレン
ジといえる。経営側からみた特徴とか期待とかについて発言いただきたい。
最初の吉田市長の話に対して私が施設は機能別に分解していると指摘した。
小早川社長は補助金を使わないほうが良いというが、縛られた制度を使わ
小林秀樹さん
なくてはいけなくなるからか。
小早川:いままで社会福祉法人への補助率は高い。その代わり、効率性よりも面積要件などがんじがらめ
のルールに縛られる。今回の高齢者住宅の供給促進のために異業種からの参入も含めて国が予算つけて
いる。この事のためだけに参入するのはリスクが高い。1 回作ると 20 年、30 年運営しなくてはいけない。
地域に支持されるようなものを作るために補助金を活用するのであって、補助金を取るだけのために参入
するのであればなくて良いのではという意味である。
国は 2025 年までに地域の中で高齢者が安心して暮らすことができる住宅の整備をトッププライオリ
ティで考えている。要するに、安心付き高齢者集合住宅の供給を焦っている。よって、高齢者住宅に限定
した補助となっているのが現状である。事業者の中にはソーシャルミックスがあるべき姿であり、補助金
受給をあきらめて建築している事例も見受けられるが、やはり価格が高くなる。弊社では、多機能複合拠
点を整備する場合、高齢者住宅部分のみの補助金を申請している。補助金を検討する委員会の中では、建
物ではなく入居者に家賃補助として支給する案も検討したが、その支給方法では戸数の供給目標が達成で
きないという理由で、建築費の補助となった。
小林:園生団地いなげビレッジでも高齢者向けと児童向けデイサービスが隣接して作られている。それぞ
れ補助金を受けて作られている。玄関は二つ、あいだは壁で仕切りが必要などの制約がある。補助金とい
うより施設制度そのものが大きな問題だ。最後に吉田市長からコメントを。
吉田:先ほど話した、我がまち長久手市を特養にするというのは間違っていて、これからは多機能複合型
にしようと思う。長尾さんという医師が著書で一番幸せな死に方は孤独死
だと言っていた。不安だといっても色々な考え方がある。もう少し一緒に
考えたいし悩むだろう。私は幼稚園から始めた。社会のありようとか、子
どもから大人までいろいろな悩み事を持っていて、今や社会はどうにもな
らない。でも、やっと高齢者施設に関して新たな考えが出てきた。自分の
老後のためだけでなく一緒に考える時代になった。是非長久手市にこのメ
ンバーみんなで来て欲しい。そこで、また議論したい。
前田正人さん
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