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2008 - 名城大学薬学部
疼痛の評価とその治療 名古屋大学・ルーマニア アレキサンドルイワンクザ大学 名誉教授 NPO J-DO医薬品適正使用推進機構 理事長 名城大学比較認知科学研究所 所長 薬学部薬品作用学教室 教授 鍋島 俊隆 痛みの発生の機序と分類 デカルト(Rene Descartes:1569-1650) 「動く火の微粒子が皮膚の点を動かし、脊髄に沿ったデリケートな ロープを引き脳室の手前のベルが鳴る。あたかもロープの一端を 引き教会のベルが鳴るのと似ている。」 大脳皮質体性感覚野 痛みの伝導・伝達 大脳辺縁系 中枢認知 視床 下行性抑制 (心理的な痛み の修飾) 脳幹 外側系 (新脊髄視床路) ゲートコントロー ル仮説 伝達 内側系(旧脊髄視床路) 修飾 伝導 末梢刺激 侵害受容器、 神経自由終末 シグナル変換 一次求心性神経線維 脊髄 前側索 侵害受容性疼痛 正常 痛みシグナルの入力 中枢での 痛み伝導・伝達 異常 神経障害性疼痛 痛みの修飾 異常 心因性疼痛 侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛 侵害受容性疼痛 体性痛 内臓痛 神経障害性疼痛 性質 明確な局在 局在不明確 関連痛 嫌な痛み、突発的な刺す 痛み、電気が走る痛み 機序 侵害受容器の興奮 侵害受容器の興奮 末梢・中枢神経系の異常 興奮 典型例 骨折、やけど等 治療法 虫垂炎の初期の痛み 帯状疱疹後神経痛、脳卒 など 中後の痛み等 鎮痛薬、神経ブロック 鎮痛補助薬、 交感神経ブロック 侵害受容性疼痛 化学刺激/発痛物質と受容体 ペプチド アミン プロスタノイド その他 リガンド 痛み関する 受容体 ブラジキニン B1、B2 組織損傷により、漏出した血漿キニノーゲンが血 漿カリクレインにより限定分解され産生。 サブスタンスP NK1 侵害受容性1次求心性線維の神経伝達物質。 軸索側枝の逆行性興奮(軸索反射)により末 梢組織内に遊離。 ヒスタミン 主にH1 炎症時に肥満細胞から産生。高濃度で痛み。 低濃度ではかゆみ。 セロトニン 5-HT1A、5-HT3 細胞障害により血小板や肥満細胞から放出 (頭痛: 5-HT1、 される。中枢では、下行性痛覚抑制系の神 5-HT2) 経伝達物質として内因性鎮痛効果に関与。 PGE2 EP1、EP2、EP3 侵害受容器の感受性を高めて痛みを増強。 PGI2 IP 中枢においても痛みを高める。 pH (H+) ASIC ASIC(acid-sensing ion channel)。C繊維に存在。 電位依存性カチオン チャネル 痛みの伝道や、疼痛過敏の機序に関与。 末梢痛覚の化学調節物質と痛覚過敏 腫脹の亢進 肥満細胞 ブラジキニン プロスタグランジン サブスタンスP K+ ヒスタミン 侵害信号 後根神経節 侵害信号 血管 サブスタンスP 脊髄 温度刺激 受容体 活性化 温度閾値 体内の局在 温度以外の活性化刺激 TRPV1 43℃< 感覚神経・脳 カプサイシン・酸・アリシン1)・脂質 TRPV2 52℃< 感覚神経・脳・脊髄・ 肺・肝臓・脾臓・大腸 機械刺激 TRPV3 32~39℃< 皮膚・感覚神経・脳・ 脊髄・胃・大腸 カンフル・カルバクロール2)・2-APB3)・サイモール4) TRPV4 27~35℃< 皮膚・感覚神経・脳・ 腎臓・肺・内耳 低浸透圧刺激・脂質・機械刺激(未確 定) TRPM4 warm 心臓・肝臓など カルシウムイオン TRPM5 warm 味蕾細胞・すい臓 カルシウムイオン TRPM2 36℃< 脳・すい臓など 環状ADPリボース・β-NAD+・ADPリボース TRPM8 <25~28℃ 感覚神経 メントール TRPA1 <17℃ 感覚神経・内耳 アリルイソチオシアネート5)・シナモンアルデヒド・カル バクロール2) ・アリシン1)・機械刺激(未確定) 1)アリシン:にんにくの主成分、2)カルバクロール:オレガノ(和名ハナハッカ)の主成分、3)2-APB: 2-アミノエトキシジフェニルボレイト (IP3 レセプターの阻害)、4)サイモール:タイム(ハーブの一種)の主成分、5)アリルイソチオシアネート:わさびの辛み成分 TRP: Transient receptor potential V: vanilloid, M: melastatin, A: ankyrin 富永真琴 総研大ジャーナル10号、40-45,2006 TRPA1 TRPM8 TRPV3 TRPV4 Trpm8 (CMR1) チ ャ ネ ル 活 性 TRPV1 TRPV2 Trpv4 浸透圧・ 機械 TRPA1 Trpv3 0 メントール アリシン・ シナモンアルデヒド・ カルバクロール 10 20 Trpv1 カンフル・ Trpv2 (Vr1) (Vrl1) カルバクロール カプサイシン 機械 30 40 50 温度(℃) 抗がん剤であるタキソール(paclitaxel)によって生じる痛みにTRPV4が関与の報告 知覚のシグナル変換 化学刺激 ASIC, P2X, P2Y, B1,B2受容体 機械刺激 機械刺激感 受性イオン チャネル Na+/Ca2+ の流入 ASIC: 酸感受性イオンチャネル受容体 P2X, P2Y:ATP感受性チャネル・受容体 B1, B2:ブラジキニン受容体 電位依存性 Na+チャネル 活動閾値到達 活動電位 温度刺激 TRPチャネル 受容体 熱刺激、機械刺激、化学刺激は、それぞれに特異的な末梢受容体を活性化し、 それによってイオン流入、末梢神経終末の脱分極を引き起こす。 末梢神経線維のタイプ 神経線 維タイプ 髄鞘 直径(μ m) Aα、Aβ 有 6 ~ 22 伝導速度 機能 (m/s) 10 ~ 85 運動、固有感覚(圧覚、触覚、位置覚) Aβはアロデニア(異所痛)に関与 Aγ 有 3~6 15 ~ 35 筋緊張 Aδ 有 1~4 5 ~ 25 一次痛、温度覚、神経終末に受容器なし、 カプサイシン非感受性 <3 3 ~ 15 血管運動、内臓運動、発汗、立毛 0.3 ~ 1.3 0.7 ~ 1.3 血管運動、内臓運動、発汗、立毛、神経 0.4 ~ 1.2 0.1 ~ 2.0 二次痛、温度覚、神経終末に受容器なし、 有 C(交感 無 神経) C(脊髄 無 後根) B 終末に受容器なし、カプサイシン感受性 カプサイシン非感受性 侵害受容線維 A δ 線維 鋭い痛み 有髄性(伝達速度は早い) 直径:太い 主に機械的侵害受容器 侵害刺激 機械的刺激 熱刺激 化学刺激 (BK, PG, SP) C 線維 鈍い痛み 無髄性(伝達速度は遅い) 直径:細い 主に多種侵害受容器 BK:ブラジキニン、PG:プロスタグランジン、SP:サブスタンスP C 線維 Ad線維 痛 み の 強 さ 一次痛覚 二次痛覚 時間 侵害刺激 末梢神経線維のタイプ 侵害受容性疼痛 侵害受容性疼痛 体性痛 内臓痛 神経障害性疼痛 性質 明確な局在 局在不明確 関連痛 嫌な痛み、突発的な刺す 痛み、電気が走る痛み 機序 侵害受容器の興奮 侵害受容器の興奮 末梢・中枢神経系の異常 興奮 典型例 骨折、やけど等 治療法 虫垂炎の初期の痛み 帯状疱疹後神経痛、脳卒 など 中後の痛み等 鎮痛薬、神経ブロック 鎮痛補助薬、 交感神経ブロック 内臓痛と関連痛 関連痛:心筋梗塞の際の、上腕部の痛みや、膵臓がんなどで 見られる背部痛など 皮膚 実際には、内臓の疾患によって生じ た痛みを同一の神経節を有する他 の部位の痛みとして認知 脊髄後根神経節 脳へ 一次求心性線維 内臓 自律神経系の 交感神経節 一次求心性線維 内臓と皮膚からの侵害受容入力の収斂 シナプス 神経障害性疼痛 侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛 侵害受容性疼痛 体性痛 内臓痛 神経障害性疼痛 性質 明確な局在 局在不明確 関連痛 嫌な痛み、突発的な刺す 痛み、電気が走る痛み 機序 侵害受容器の興奮 侵害受容器の興奮 末梢・中枢神経系の異常 興奮 典型例 骨折、やけど等 治療法 虫垂炎の初期の痛み 帯状疱疹後神経痛、脳卒 など 中後の痛み等 鎮痛薬、神経ブロック 鎮痛補助薬、 交感神経ブロック 神経障害性疼痛 神経障害性疼痛 原因 神経損傷、神経圧迫 主な疾患 帯状疱疹後神経痛、脳卒中後の痛み、糖尿病、 三叉神経痛、幻肢痛など がんの痛み関しては、 軟部組織浸潤、末梢・中枢神経系の浸潤圧迫、 手術・化学療法・放射線療法に伴う神経損傷 内因性の疼痛抑制機構 内因性の疼痛抑制機構 内因性オピオイドシステム ゲートコントロール仮説 下行抑制系 内因性オピオイドペプチド μ受容体 Met-エンケファリン Leu-エンケファリン ++ β-エンドルフィン ダイノルフィンA ダイノルフィンB α‐ネオエンドルフィン +++ ++ + + κ受容体 δ受容体 +++ +++ ++ +++ +++ +++ +++ + + •Gutstein HB, Akil H: Opioid Analgestic. In: Brunton LL, Lazo JS, Parker KL ed., Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 7th Edition, McGraw-Hill, Medical Publishing Division, 2006, pp. 547-590 より抜粋 •興味深い話では、鍼麻酔がナロキソンで拮抗 •NSAIDsの鎮痛効果がナロキソンで拮抗の報告など ゲートコントール仮説 痛い箇所を手で擦ると痛みが和らぐ機序の仮説 脊髄 後角 AaまたはAb線維 (非侵害性の機械 受容器由来) C線維 (侵害信号) 後索へ + - 患部を手で擦る 痛み刺激 介在 ニューロン - + + 投射 ニューロン 脊髄視床路へ 介在ニューロンによる 抑制 下行抑制系 大脳皮質体性感覚野 大脳 大脳辺縁系 視床下部 視床 脳幹の縦断面 中脳 脳幹 外側系 (新脊髄視床路) 内側系(旧脊髄視床路) 青斑核 橋 大縫線核 延髄 前側索 脊髄 一次求心性神経線維 中脳水道周囲 灰白質 脊髄 大細胞性網様核 延髄腹内側部 下行抑制系 視床下部視索前野 βエンドルフィンニューロン 中脳水道周囲灰白質(PAG) エンケファリンニューロン GABAニューロン 中脳背側縫線核(NRD) アミノ酸ニューロン 延髄大縫線核(NRM) セロトニンニューロン 脊髄後角 青斑核 NAニューロン オピオイド 受容体 - 非麻薬性鎮痛薬 + COX 阻害(-) アセトアミノフェン COX 阻害(+) アスピリン イブプロフェン インドメタシン 他のNSAIDs 脊髄後角 + オピオイド 受容体 - PGs BK - + 侵害受容器 COX-1、COX-2 :シクロオキシゲナーゼ モルヒネ製剤 ペチジン フェンタニル (コデイン) オピオイド鎮痛薬 抗炎症作用 (COX 阻害) 炎症 麻薬性鎮痛薬 知覚神経 神経ブロック 局所麻酔薬 神経破壊薬 ペンタゾシン トラマドール ブプレノルフィン エプタゾシン ブトルファノール 痛み治療の現実について 日本人にとって望ましいクオリティオブライフとは 多くの人が共通して大切にしていること 日本人が終末期に大切にしたいと考えていることを示す(一般市民2548 人および遺族513 人の調査)。 ◦苦痛がない ◦身体の苦痛がない ◦穏やかな気持ちでいる ◦望んだ場所で過ごす ◦自分が望んだ場所で過ごす ◦希望や楽しみがある ◦希望をもって過ごす ◦楽しみになることがある ◦明るさを失わずに過ごす ◦医師や看護師を信頼できる ◦信頼できる医師がいる ◦安心できる看護師がいる ◦話し合って治療を決められる ◦負担にならない ◦落ち着いた環境で過ごす ◦家族の負担にならない ◦人に迷惑をかけない ◦お金の心配がない ◦家族や友人とよい関係でいる ◦家族や友人と一緒に過ごす ◦家族や友人から支えられている ◦家族や友人に気持ちを伝えられる ◦自立している ◦身の回りのことが自分でできる ◦意識や思考がしっかりしている ◦ものが食べられる ◦静かな環境で過ごす ◦気兼ねしない環境で過ごす ◦人として大切にされる ◦「もの」や子ども扱いされない ◦生き方や価値観が尊重される ◦些細なことに煩わされない ◦人生を全うしたと感じる ◦ 振り返って人生を全うしたと 思うことができる ◦心残りがない ◦家族が悔いを残さない 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 日本人にとって望ましいクオリティオブライフとは 人によって重要さは異なるが,大切にしていること ◦できるだけの治療を受ける ◦やれるだけの治療はしたと思える ◦最期まで病気と闘う ◦できるだけ長く生きる ◦自然なかたちで過ごす ◦自然なかたちで最期を迎える ◦機械につながれない ◦病気や死を意識しない ◦普段と同じように毎日を送れる ◦よくないことは知らないでいる ◦知らないうちに死が訪れる ◦他人に弱った姿を見せない ◦家族に弱った姿を見せない ◦他人から同情を受けない ◦容姿が今までと変わらない ◦伝えたいことを伝えておける ◦大切な人にお別れを言う ◦会いたい人に会っておく ◦感謝の気持ちがもてる ◦価値を感じられる ◦生きていることに価値を感じる ◦仕事や家族としての役割を果たす ◦人の役に立っていると感じる ◦先々のことを自分で決められる ◦何が起こるかを知っておく ◦残された時間を知っておく ◦遺言などの準備をしておく ◦信仰に支えられている ◦信仰をもっている ◦ 自分を超えた何かに守られている ように感じる 日本人が終末期に大切にしたいと考えていることを示す(一般市民2548 人および遺族513 人の調査)。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 終末期のQOLとは何か?: U.S.A. VA(Veterans Affairs) study 量的研究 対象 患者・遺族・医師・看護師・MSW(社会福祉士)など1,462名 方法 質問紙調査 結果 患者 医師 疼痛がないこと 93% 99% 病状についてよく知っていること 96% 88% 心構えをしておくこと 84% 79% 人生が完成したと思えること 80% 68% 意識が明確であること 92% 65% 負担にならないこと 89% 58% 他人の役に立つこと 88% 44% Steinhauser, K.E.: JAMA, 284: 2476-2482, 2000. 森田達也, 臨床精神薬理 11, 777-86, 2008 患者が痛み治療を受けられない要因 (%) 患者が、がんに対する 不安・恐怖のため、 痛みを認められない 176名 患者が、痛みを 上手く医師に 伝えられていない 100 医師が、疼痛アセスメント を実施していない 29% 80 16% 60 痛みを詳しく聞かれたが治療 はされなかった 12% 100% 40 7% 113名 20 36% 63名 0 痛みの経験あり * 痛み治療を 受けたことがある * 術後痛以外で、「体幹部、腹部、肩から腰」に「鋭い痛み、鈍い痛み、うずくような痛み、脈打つ ような痛み、しびれるような痛み締め付けられるような痛み」を経験した患者(n=176) がん患者965名に対するWebアンケート調査結果 片岡理恵, MMJ 4(6): 533-536, 2008 痛みをドクターに相談しなかった理由(複数回答) ~「がんとは関係ない」「再発の兆候だと怖い」という思い込みが主要因~ 痛みを感じてから10日以内に医師に訴えなかった患者(n = 117) (%) 50 40 がんの痛みの軽視・ 思い込み・誤解 その他 医師・看護師への遠慮・ 関係悪化懸念 36% 30 22% 22% 20 12% 10 6% 4% 1% 0 関が 係ん なと いは と 思 っ た 思す っぐ たに 治 る と 思進 う行 との 怖予 い兆 だ と 処麻 方薬 さを れ た く な い 2% み痛 思聞 医 っい っい 師 とこ たて ・ もと く看 なを れ護 い騒 な師 ぐ いが と話 と を 2% 思「 う わる れさ たい く患 な者 い」 だ と 1% 思医看 っ師護 たに師 もに 伝伝 わえ るた との で 、 がん患者965名に対するWebアンケート調査結果 0% ド治 ク療 タを ーし にて 申く しれ 訳て ない いる 待次 っの た定 期 検 診 を そ の 他 片岡理恵, MMJ 4(6): 533-536, 2008 がん性疼痛に対する知識と痛みを 我慢する行動の関係 (%) 40 痛みは末期とは限らない (%) 40 39% 33% 30 10 0 知 ら な か っ た (n=82) 20 10 0 知 っ て い た (n=93) 知 ら な か っ た (n=75) 24/97名 20 19/93名 20% 25% 25/75名 30 32/82名 痛みを訴えず我慢している人の 割合 痛みは治療や手術の成否と 必ずしも関係ない 知 っ て い た (n=97) 片岡理恵, MMJ 4(6): 533-536, 2008 より抜粋 痛み治療を受けなかった患者の 治療希望 「痛みを経験したことのあるがん患者」176名のうち、「医師に痛みを訴えたことはあるが治 療を受けたことがない」と回答した61名に対し追加アンケートを実施。 n = 40 61名中、40名から回答。 (100%) 12名 (30%) 原因がはっきりする前でも、 痛みの治療をしてほしい 18名 (45%) 原因を特定し、痛みの治療を 行ってほしい がん患者965名に対するWebアンケート調査結果 6名 4名 (15%) (10%) 不満はない その他 片岡理恵, MMJ 4(6): 533-536, 2008 痛み治療について WHO 方式がん性疼痛治療法の5原則 がん性疼痛の薬物療法は,WHO の5原則に準じて行うことが推奨されている。 WHO が推奨するがん性疼痛治療法の5原則は以下のとおりである。 ❶ 経口投与を基本とする 簡便な方法で ❷ 時間を決めて定期的に投与する ◦「疼痛時」のみに使用しない ◦毎食後ではなく,8時間ごと,12 時間ごとなど一定の間隔で投与する ❸ WHO ラダーに沿って痛みの強さに応じた薬剤を選択する ◦ 原則として非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs,またはアセトアミノフェン)をまず投与し, 効果が不十分な場合はオピオイドを追加する NSAID、オピオイド、鎮 ◦ オピオイドは疼痛の強さによって投与し, 痛補助薬の併用 予測される生命予後によって選択するものではない ❹ 患者に見合った個別的な量を投与する ◦ 適切な量は鎮痛効果と副作用とのバランスが最もとれている量であり, 「常用量」や「投与量の上限」があるわけではない 鎮痛効果と副作用の ❺ 患者に見合った細かい配慮をする 確認 ◦オピオイドについての誤解をとく ◦定期投与の他にレスキューを指示し,説明する ◦副作用について説明し,適切な予防および対処を行う 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 痛みの治療について WHOラダー 強オピオイドの導入 弱オピオイドの導入 コデインリン酸塩 ジヒドロコデインリン酸塩 トラマドール ペンタゾシン ブプレノルフィン など NSAIDs・アセトアミノフェンの開始 NSAIDs: ロキソプロフェンナトリウム ジクロフェナクナトリウム メロキシカム など、 ± 鎮痛補助薬 SSRI 抗けいれん薬 ケタミン(麻薬)など 硫酸モルヒネ フェンタニル オキコドン塩酸塩 など 疼痛 (1)NSAIDsの開始 (2)オピオイドの導入 痛 み を と る (3)残存・増強した痛みの治療 持続的な痛みをとるために オピオイドを増量する (持続痛の治療ステップ) 1 嘔吐した 2 眠気が強い 3 意識障害・精神症状が生じた 4 効果がない 体動時や突然の痛みに対処する ためにレスキューを使う (突出痛の治療ステップ) (4)オピオイドの副作用対策 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 オピオイド鎮痛薬の導入 モルヒネは初回量10mg(1日 20mg)、オキシコドンは5~10mg (1日 10~ 20mg)とするのが望ましい。 NSAIDsまたはアセトアミノフェンを併用し、初回用量から痛みの強度に応じ てモルヒネ換算10~120mgまでは、前日用量の50%増をMAXとして適 切鎮痛効果が得られるように増量を実施する。(速放性製剤のレスキュー の用量は、経口では1日総量の1/4~1/8を1回量とする。1時間空けれ ば3回/日までを目安とする。) オピオイド導入後は、鎮痛効果のほか、モルヒネ・オキシコドンに特徴的な副作 用(眠気、悪心・嘔吐、便秘)などに注意する。 オピオイド の増量と減量 【増量】 モルヒネ換算1日経口投与量として: 10~120mgまでは、前日用量の50%増まで可能 120mgを超えた際には、20~30%の増量にとどめる 【減量】 急な減量は退薬症候を引き起こすため,15~20%2~3日ずつ ゆっくりと減量していく Withdrawal syndrome-退薬症候 (発汗,振戦,いらいら, 筋れん縮,腹痛(abdominal cramps), 頻脈,発熱) に注意する 永野知美ら, 薬局60 (4), 2009, 副作用について: NSAIDs・アセトアミノフェン ロキソプロフェン ショック、アナフィラキシー様症状(血圧低下、蕁麻疹、喉頭浮腫、呼吸困難等) 、溶血 ナトリウム 性貧血、白血球減少、血小板減少、皮膚粘膜眼症候群(Stevens‐Johnson 症 候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、急性腎不全、ネフローゼ症候群、間 質性腎炎 、うっ血性心不全、間質性肺炎、消化管出血、消化管穿孔 、肝機能 障害、黄疸、喘息発作、無菌性髄膜炎 (特にSLE又は MCTDの患者に発現し やすい。)など ジクロフェナク ナトリウム ショック、アナフィラキシー様症状(血圧低下、蕁麻疹、喉頭浮腫、呼吸困難等) 、消化 管潰瘍、再生不良性貧血、溶血性貧血、無顆粒球症、血小板減少、皮膚粘膜 眼症候群(Stevens‐Johnson 症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、紅 皮症(脱性皮膚炎)、急性腎不全(間質性腎炎、腎乳頭壊死等)、ネフローゼ症候 群、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、 無菌性髄膜炎 (特にSLE又は MCTDの患者に発現しやすい。)、重篤な肝障害 (劇症肝炎、広範な肝壊死等)、急性脳症、横紋筋融解症、脳血管障害 など メロキシカム 消化性潰瘍、喘息、急性腎不全、無顆粒球症、血小板減少、皮膚粘膜眼症候 群 (Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、水疱、多形 紅斑、アナフィラキシー様症状、肝炎、重篤な肝機能障害 など アセトアミノフェン ショック、アナフィラキシー様症状、皮膚粘膜眼症候群(Stevens‐Johnson 症候群)、中 毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)、喘息発作の誘発、肝機能障害、黄疸、顆粒 球減少症 など 添付文書・重大な副作用より抜粋 (mg/人) 10,000 海外とのがん性疼痛のオピオイド 市場規模の比較(2005年) 5倍 8,000 人 口 当 た り 使 用 量 3倍 6,000 3倍 4,000 1倍 2,000 0 ドイツ1) フランス1) アメリカ2) 日本 片岡理恵, MMJ 4(6): 533-536, 2008を一部改変 オピオイド鎮痛薬 モルヒネ N HO O H OH アヘンは、古代エジプトから、鎮痛薬、睡眠 薬として使用。アヘン中の主要アルカロイドで ある。 オキシコドン 1916年、アヘン中のアルカロイドである thebaine から誘導。1917年、ドイツでの臨 床での使用。 フェンタニル 1960年ポール・ヤンセン(ベルギー)により合成。 フェニルピペジリン骨格を有する合成麻薬。 モルヒネ 本剤はオピオイド受容体(主にμとκ受容体)に作用する 重要なオピオイドである。 他のオピオイドの鎮痛効力比の基準となる。 経口剤、注射剤、坐剤と豊富に剤形がそろっている。 肝臓では主にM3G(morphine-3-glucuronide)とM6G( morphine-6-glucuronide)に代謝され、大部分が尿中 に排泄される。 主要な副作用は、便秘、眠気、悪心・おう吐、せん妄で あり、副作用の観察と対策が重要である。 本剤の長期投与や大量投与の場合、急激な減量また は投与中止により退薬症状が発現する危険性がある。 本剤を減量・中止する場合、徐々に減量する。 恒藤暁、岡本禎晃 緩和ケアエッセンシャルドラッグ 2008、医学書院 オキシコドン Κ受容体も 本剤はオピオイド受容体(主にμ受容体)に作用するオピオイド である。 便秘、眠気、悪心・ おう吐、せん妄 鎮痛効力比はモルヒネの1.5~2倍である。 副作用はモルヒネに類似しており、副作用対策はモルヒネに準 じて行う。 腎機能障害のある患者でも、活性代謝物がほとんどないこ とからモルヒネに比較して安全に使用できる。 オキノーム®散をレスキュー投与する場合、量が多い時は水に溶 速やかな内服が可能 解して服用させると良い。 本剤の長期投与や大量投与の場合、急激な減量または投 与中止により退薬症状が発現する危険性がある。 本剤を減量・中止する場合、徐々に減量する。 徐放製剤のマトリックス基剤が糞便中にゴーストピル(抜け殻)と 臨床的には問題はない して排泄されることがある。 恒藤暁、岡本禎晃 緩和ケアエッセンシャルドラッグ 2008、医学書院 フェンタニル経皮吸収剤 本剤はオピオイドμ1受容体に選択的に作用して鎮痛効果を発現する 鎮痛効力比はモルヒネの75~100倍である。 十分な鎮痛効果を発揮するまでレスキュー投与を適宜使用する。 モルヒネやオキシコドンと比較して、副作用の発現率が低く程度も軽い。 モルヒネやオキシコドンから本剤に変更した場合、下剤は減量または中止 する。 腎機能障害がある患者でも、活性代謝物がほとんどないことから、 安全に使用できる。 モルヒネの長期投与や大量投与から本剤に切り替えた場合、モルヒネの 退薬症状が発現する危険性がある。この場合、モルヒネをレスキュー投与 することで症状は速やかに消失する。 モルヒネの長期投与や大量投与の患者の場合、部分的に (1/4~1/3量)かつ段階的に(3~4回)フェンタニル貼付剤に切り替える 方が安全である。 抜粋:恒藤暁、岡本禎晃 緩和ケアエッセンシャルドラッグ 2008、医学書院 副作用について: 弱オピオイド・強オピオイド リン酸コデイン 依存性、呼吸抑制 、錯乱、無気肺、気管支けいれん、喉頭浮腫、炎症性腸 疾患の患者に投与した場合に麻痺性イレウス・中毒性巨大結腸、(類薬:せん 妄)など ジヒドロコデイン 依存性、関節痛、呼吸促迫等の退薬症候、錯乱、無気肺、気管支けいれん、 喉頭浮腫、炎症性腸疾患の患者に投与した場合に麻痺性イレウス・中毒性巨大 結腸、(類薬:せん妄)など トラマドール 過敏症(ショック) など ペンタゾシン ショック、アナフィラキシー様症状、呼吸抑制、依存性、無顆粒球症 など ブプレノルフィン 呼吸抑制、呼吸困難、舌根沈下(手術後早期)、ショック、せん妄、妄想、依存性、 急性肺水腫、血圧低下からの失神 など モルヒネ 傾眠、便秘、ショック、依存性、呼吸抑制、錯乱、せん妄、無気肺,気管支けいれん, 喉頭浮腫、炎症性腸疾患の患者に投与した場合に麻痺性イレウス、中毒性巨大結 腸、肝機能障害 など オキシコドン 傾眠、便秘、ショック、アナフィラキシー様症状、依存性、呼吸抑制、錯乱、せん妄、無気 肺,気管支けいれん、喉頭浮腫、麻痺性イレウス、炎症性腸疾患の患者に投与し た場合に中毒性巨大結腸、肝機能障害 など フェンタニル 依存性、呼吸抑制、意識障害、ショック、アナフィラキシー様症状、けいれん 添付文書・重大な副作用より抜粋 オピオイド受容体を介する作用 親 和 性 µ1受容体 鎮痛,縮瞳,多幸感,悪心・嘔吐, 尿閉,そう痒感,徐脈 µ2受容体 鎮痛,鎮静,身体依存,呼吸抑制, 消化管運動抑制 κ受容体 鎮痛,鎮静,縮瞳,呼吸抑制, 悪心・嘔吐,鎮咳, 利尿,うつ,幻覚,離人感,気分不快 δ受容体 鎮痛,鎮静,身体依存,呼吸抑制, 消化管運動抑制,悪心・嘔吐 サブタイプ 鍋島俊隆:ペインクリニック 29:1407-1413,2008 Patient global evaluation of pain relief PERCENT OF PATIENTS 60 50 呼吸抑制 0 % 便秘 0 Excellent 嘔気 13 Good 嘔吐 8 Moderate うとうと 4 8 Unsatisfactory 皮膚炎 痛みのコントロール 日を追って痛みのコントロール がうまくいった。 40 30 169 μg/hr フェンタニル 20 58 μg/hr 10 0 Stabilization Days 0-28 Days 29-56 Days 57-84 STUDY INTERVAL Sloan PA et al., J Pain Symptom Manage. 1998 Aug;16(2):102-11 睡眠の質の変化(肺がん患者) p<0.01 p<0.01 p<0.05 平均スコア (%) 2.5 2.2 2.1 2.1 睡眠の質が日ごとに良くなった 100 80 各 ス コ 60 ア の 40 割 合 20 0 31.3% 25.0% 25.0% 50.0% 56.3% 56.3% 12.5% 18.8% 18.8% フェンタニル (2W) フェンタニル (3W) 56.3% 非常に不満:5 不満:4 変わらない:3 満足:2 非常に満足:1 満足 50.0% フェンタニル (1W) n=16 n=16 n=16 フェンタニル 25μg/hr (4W) (2.5mg/3days) n=16 常塚宣男, Prog. Med 28, 2999-3004, 2008 Mean (95% confidence limits) change from baseline in global assessment of well being幸せ度(VAS) Change in global well-being score* 50 95% 信頼区間 40 幸せ度が増した 30 改善 20 10 モルヒネからスイッチ フェンタニル50-100μg/hr 0 95% 信頼区間 -10 -20 悪化 -30 Day 0 Day 1 Day 2 Day 3 Visit 1 Visit 2 Visit 3 Visit 4 (N=19) (N=17) (N=16)(N=13) Day 5 Visit 5 (N=13) n, number of patients assessed. *Improvement shown by an increase in score. Paul McNamara Palliative Medicine 2002; 16: 425-434 Day 7 Visit 6 (N=11) Day 9 Visit 7 (N=12) Day 11 Visit 8 (N=11) Day 14 Visit 9 (N=8) Efficacy効能parameters Assessment Mean (95% CL) or n (%) Baseline recording VASa,b,c Global assessment of well being Painb Pain VASd Trouble/bother from paina Day time drowsiness Total sleepiness scoree Bothered by drowsiness VASb,d Sleep at night ratinge Poor Fair Good Very good Attention spane Gist of conversation Not at all A little Quite a bit All the time Train of thought Not at all A little Quite a bit All the time Following story lines Not at all A little Quite a bit All the time Cognitive functionb Power of concentrationf,g Quality of concentrationh,i Quality of working memoryi,j Quality of secondary memoryi,k Speed of memoryg,l 0-100, where 100 is the best possible score. t-test. cPrimary efficacy parameter. dScale 0-100, where 0 is the best possible score. Last recorded assessment P value 36.3 (25.6, 6.9) 54.8 (42.3, 67.3) 0.0031 37.5 (27.3, 47.8) 54.6 (43.9, 65.3) 30.3 (20.9, 39.8) 57.5 (46.0, 69.0) 0.2773 0.6588 9.4 (8.0, 10.7) 67.8 (53.9, 81.8) 7.3 (5.7, 8.9) 48.6 (32.9, 64.4) 0.0012 0.0171 0.9727 4 (21.1%) 4 (21.1%) 5 (26.3%) 6 (31.6%) 1 (5.3%) 8 (42.1%) 5 (26.3%) 5 (26.3%) 5 (26.3%) 8 (42.1%) 3 (15.8%) 3 (15.8%) 5 (26.3%) 9 (47.4%) 4 (21.1%) 1 (5.3%) 1 (5.3%) 11 (57.9%) 6 (31.6%) 1 (5.3%) 5 (26.3%) 10 (52.6%) 2 (10.5%) 2 (10.5%) 5 (26.3%) 8 (42.1%) 4 (21.1%) 2 (10.5%) 4 (21.1%) 11 (57.9%) 1 (5.3%) 3 (15.8%) 0.5898 0.1094 1.0000 1654 (1484, 1825) 89.3 (86.8, 91.7) 1.5 (1.3, 1.8) 207 (188, 226) 5551 (4583, 6519) matched-pairs signed ranks test. to attend to changes or to concentrate over sustained periods. gImprovement shown by a decrease. hAccuracy and speed of concentration, combined. 1623 (1469, 1776) 89.2 (85.6, 92.9) 1.7 (1.6, 1.8) 192 (167, 217) 4878 (4246, 5511) aScale eWilcoxon iImprovement bPaired fAbility jAbility Paul McNamara Palliative Medicine 2002; 16: 425-434 0.6771 0.8341 0.0345 0.3218 0.0212 shown by an increase. to retain and retrieve information in short term. kAbility to retain and retrieve information in long-term memory. lSpeed of information retrieval. 癌性疼痛患者におけるフェンタニル貼付剤と モルヒネ徐放剤の鎮痛効果と有害事象(Pooled Analysis) 試験概要:癌性疼痛および慢性疼痛に対するフェンタニル貼付剤 (TDF) と徐放性経口モルヒネ (SRM) の有効性・安全性を評価するため、投与期間28日以上のTDFのオープンラベル非対照試験と無作為 化対照試験(SRM対照)の8試験に関しプール解析を行った。N=1220 フェンタニルでは便秘、傾眠が尐ない VAS値の変化量28日値 がんの 疼痛 平均値 60 主な有害事象 疼痛 現在値 50 徐放性経口モルヒネ N=153 フェンタニル貼付剤 N=599 p<0.001 -5 -10 -15 -20 N=66 -25 -30 F N=86 M N=66 Percentage of patients 0 40 p<0.001 M 30 20 F 10 N=372 0 便秘 悪心 嘔吐 傾眠 Clark A.J. et al.:Curr Med Res Opin 20(9), 2004, 1419-1428(一部改変) モルヒネの鎮痛効果はμ1アンタゴニストで 拮抗されるが、便秘は拮抗されない A 鎮痛効果 Tailflick Latency (sec) Control 8 40 Naloxonazine Treated μ1アンタゴニスト 6 拮 抗 4 拮 抗 2 0 Saline Morphine Morphine (2mg/kg) (6mg/kg) Gastrointestinal Transit (cm) 10 B Control Naloxonazine Treated 30 便秘 拮抗されない 20 10 0 Saline Morphine Morphine (2mg/kg) (6mg/kg) Paul D and Pasternak GW, Eur J Pharmacol. 1988 May 10;149(3):403-4 オピオイド受容体を介する作用 親 和 性 µ1受容体 鎮痛,縮瞳,多幸感,悪心・嘔吐, 尿閉,そう痒感,徐脈 µ2受容体 鎮痛,鎮静,身体依存,呼吸抑制, 消化管運動抑制 κ受容体 鎮痛,鎮静,縮瞳,呼吸抑制, 悪心・嘔吐,鎮咳, 利尿,うつ,幻覚,離人感,気分不快 δ受容体 鎮痛,鎮静,身体依存,呼吸抑制, 消化管運動抑制,悪心・嘔吐 サブタイプ 鍋島俊隆:ペインクリニック 29:1407-1413,2008 強オピオイドのオピオイド受容体及び そのサブタイプへの親和性(結合能) フェンタニル オキシコドン モルヒネ µ1 ++++ 100 ++ 2 +++ 1 µ2 ++ +++ ++ κ +(κ1) +(κ1), +++(κ2) +(κ1) δ + + + µ ++++;Ki <1nMかつ分離能(Ki 比)>100倍 +++;Ki ≦100nMかつ分離能(Ki 比)≧1倍 ++;Ki >100nMかつ分離能(Ki 比)<1倍 +;Ki >100nMかつ分離能(Ki 比)<1倍 鍋島俊隆:ペインクリニック 29:1407-1413,2008 オピオイド鎮痛薬の比較 フェンタニル モルヒネ オキシコドン 嘔気・嘔吐 ± ++ + 便 秘 ± ++ ++(+++) 眠気・傾眠 ± ++ + せん妄 ± ++ + 呼吸抑制 + + + 掻 痒 - ++ + 鍋島俊隆:緩和医療学 11:149-154,2009 オピオイドの副作用対策 オピオイドの代表的な副作用:便秘、悪心・嘔吐、眠気 便秘: ・モルヒネ・オキシコドンの投与の際には緩下剤の併用が推奨されている。 ・オピオイド・ローテション(フェンタニルへのローテションの際には緩下剤を減らす) 悪心・嘔吐: ・予防的にプロクロルペラジン(ノバミン)などのドパミン系の制吐剤の併用が有効とされている。 ・2~3週でオピオイドによる便秘、悪心に馴化(耐性)が生じるとされているので、2~3週後に 減量を考慮する。 ・オピオイド・ローテション 眠気: ・併用薬の影響を考慮する。 ノバミンなどのドパミン系の制吐剤の併用を中止する。 ・1週でオピオイドによる眠気に馴化(耐性)が生じるとされている。 ・オピオイド・ローテション オピオイドローテションにより併用薬を減らせることがある→併用薬の副作用の回避 オピオイド ローテーション 1.鎮痛効果の改善 2.投与経路の変更 3. 副作用の軽減 オピオイドローテーション手順(例) 1)現在のオピオイドの1日総量を計算する.定時量+レスキュードース=1日総量 2)切り替えたいオピオイドの等力価量を計算する. 3)切り替えたいオピオイドの等力価1日量から20%程度減量した量を目標量として設定する (眠気など獲得していた耐性が切り替えた後,再度出現する可能性があるため.これを不完全 交叉耐性という). 4)レスキュードースの薬剤を選び,量を計算する.経口では1日総量の1/4~1/8を1回量とし, 皮下注・静注では1日総量の1/10~1/24を1回量とする. 5)現在のオピオイドから切り替えたいオピオイドに,1/2~1/3づつ2~3日かけて交差させなが ら切り替える. 6)切り替えたオピオイドを除痛程度と副作用を観察しながら量の調整をはかる. 永野知美ら, 薬局60 (4), 2009, 痛み(平均VAS値)の変化 10 肺がん患者 p<0.01 p<0.01 8 n=16 6 4 2 0 1.鎮痛効果の改善 2.投与経路の変更(経口→貼付) 3. 副作用の軽減 食欲(良い・非常に良い) 50.1 ⇒ 87.5% 眠気なし: 56.3 ⇒ 81.3% 嘔気なし: 56.3 ⇒ 81.3% オキシコドン 10-20mg/day n=16 n=16 フェンタニル 2.5mg/3days (2W) フェンタニル 2.5mg/3days (4W) 常塚宣男, Prog. Med 28, 2999-3004, 2008 Mean (95% confidence limits) change from baseline in total sleepiness眠気(VAS) Change in total sleepiness score* 3 2 2.投与経路の変更 3.副作用の軽減 眠気が減尐した 95% 信頼区間 1 モルヒネからスイッチ 悪化 0 改善 -1 フェンタニル50-100μg/hr -2 -3 95% 信頼区間 -4 -5 Day 0 Day 1 Day 2 Day 3 Visit 1 Visit 2 Visit 3 Visit 4 (N=19) (N=17) (N=16) (N=13) Day 5 Visit 5 (N=13) n, number of patients assessed. *Improvement shown by a decrease in score. Paul McNamara Palliative Medicine 2002; 16: 425-434 Day 7 Visit 6 (N=11) Day 9 Visit 7 (N=12) Day 11 Visit 8 (N=11) Day 14 Visit 9 (N=8) モルヒネからフェンタニルへの変更による副作用発現の減尐 p < 0.01 あり 軽減 なし 20 0 100 80 60 40 患者割合(%) 患者割合(%) 100 80 60 40 p < 0.01 モルヒネ フェンタニル 嘔気・嘔吐 なし 軽減 あり 20 0 モルヒネ フェンタニル M:F=100:1 便秘 p < 0.01 100 80 60 40 患者割合(%) 患者割合(%) 100 80 60 40 20 0 モルヒネ フェンタニル 傾眠 20 0 モルヒネ フェンタニル 副作用全般 ※2群間の比較は、Wilcoxonの符号付順位和検定により行った(N=24) 小西廣己ら、緩和医療学/7(3)283-288/(2005) フェンタニルの耐性形成について Transdermal therapeutic system (TTS) fentanyl dose and daily “rescue” morphine dose 250 Mean TTS-Fentanyl (mcg/hr) Mean Morphine (mg/d) 225 フェンタニルの投与でモルヒネのレスキュー用量が減尐した。 フェンタニルの用量は3倍に増えた。 200 175 フェンタニルの量 150 125 169μg/hr 2.9倍 100 75 79 mg 50 58μg/hr レスキューモルヒネ量 25 35 mg 0 -7 0 n=43 7 14 21 28 35 42 49 STUDY DAY 56 63 70 77 84 n=23 Sloan PA et al., J Pain Symptom Manage. 1998 Aug;16(2):102-11 Patient mean (SEM) pain visual analogue scale (0 = least possible pain; 100 = worst possible pain) PATIENT PAIN VAS (Mean, mm) 100 フェンタニルで痛みのコントロールはうまくいった。 90 80 35日までの評価 70 モルヒネより良い:62 % モルヒネと同等: 30 60 50 痛みの強さ 40 30 20 10 0 -7 0 7 14 21 28 35 42 49 56 63 70 77 84 STUDY DAY Sloan PA et al., J Pain Symptom Manage. 1998 Aug;16(2):102-11 オピオイド受容体作動薬の連続投与の後の ED50の変動に対する影響 耐性形成の度合 Fentanyl (t=58) Morphine (t=39) Oxycodone (t=20) Etorphine (t=52) Hydromorphone (t=35) 30 Infusion 20 15 Shift in ED50 25 Oxy 耐性が形成されやすい 10 Mor 5 耐性形成が弱い Fent 0 0 25 50 75 100 125 150 175 Multiple of ED50 200 225 250 275 300 ED50x倍数 Shveta V. Dighe et al Pharmacology, Biochemistry and Behavior 92 (2009) 537-542 最も抵抗の尐ない剤形は? 飲み薬 25% 注射 0% 貼り薬 75% 坐剤 0% n=24 常塚宣男, Prog. Med 28, 2999-3004, 2008 ●麻薬への反応性よる分類 麻薬が効きにくい痛みに対する鎮痛補助薬・麻薬性鎮痛薬/オピオイド受容体 麻薬によく反応する痛み ーがん性痛の約90% ・軟部組織への浸潤 ・内臓転移による痛み ・その他多くの痛み 麻薬に中等度反応する痛み ・骨転移・骨浸潤による痛み(←NSAIDsやステロイドを加える。放射線局所照射も有用) ・神経圧迫に伴う痛み(←ステロイドを加えたり、神経ブロックを併用) ・神経障害痛(麻薬性鎮痛薬は無効とされているが、神経障害痛の半数以上に有効) ・脳圧亢進時の頭痛 ・感染による炎症性痛 麻薬に反応しない痛み ・筋肉の攣縮による痛み(←ジアゼパムなど) ・筋緊張頭痛、筋筋膜性頭痛 ・求心路遮断痛(三環系薬抗うつ薬や抗痙攣薬など) ・交感神経依存性疼痛(←交感神経ブロックを併用) ・血管閉塞、狭窄に由来する痛み 麻薬によく反応するが、麻薬を使用すべきでない痛み ・腸管の収縮による痛み ・消化管閉塞に伴う疝痛 ・胃拡張不全痛 痛みの評価について がんによって生じる身体的な痛み がん細胞自体による痛み ・神経浸潤などのがんの浸潤、圧迫、 ・脳腫瘍、腸閉塞などの圧迫などによる内圧亢進、 ・壊死、壊死によるのう腫、 ・がん細胞からの発痛物質の放出 など がんの治療に起因する ・化学療法、放射線による口内炎・末梢神経障害 痛み ・手術による術後痛 ・切断術後の幻肢痛など がんに罹患していることに ・長期臥床(がしょう)による褥瘡(じょくそう)、筋け よる痛み いれんなど がん疼痛 がん疼痛: がんに起因する疼痛の総称 疼痛とは、「潜在的な、または実際に組織損傷を伴った不快な感覚的、精神的な体験であり、 常に主観的なもの」である。単にがんに起因する身体的な苦痛に留まらず、精神的、社会的、 霊的(スピリチャル)な苦痛もがん疼痛の要因である。 身体的苦痛 ・痛み ・他の身体症状 ・日常生活動作の支障 など 精神的苦痛 ・不安 ・いらだち ・孤独感 ・恐れ ・うつ ・怒り など トータル・ペイン (全人的痛み) 霊的苦痛 ・人生の意味 (自問) ・死の恐怖 ・価値体系の変化 ・神の存在への追求 ・苦しみの意味 ・死生観に関わる悩み ・罪の意識 など 社会的苦痛 ・経済上の問題 ・仕事上の問題 ・家庭内の問題 ・人間関係 ・遺産相続 など 薬局60 (4), 2009 疼痛の評価 1 日常生活への影響と満足度 「痛みに関しては,今の治療で満足されていますか? それと も痛みで日常生活に支障があって何か対応したほうがいいです か?」(疼痛治療についての総合的な評価) →疼痛により日常生活にどの程度支障があって,どの程度の 対応を希望しているかを確認する。特に,睡眠への影響につい ては必ず聞くようにする。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 2 疼痛のパターンと強さ ①疼痛のパターン 「痛みは1 日中ずっとありますか? それともたいていはいいけれど,時々ぐっと痛く なりますか?」 → 疼痛のパターンには,大きく分けて,持続痛(1 日を通してずっと痛い)と, 突出痛(普段の痛みは落ちついているが,1 日に数回強い痛みがある)がある。 疼痛のパターンを知ることにより治療方針を決定することに役立つ。 たとえば持続痛の場合は鎮痛薬の定期投与や増量,突出痛の場合はレスキュー を使うなど,そのパターンによって治療方針は変化する。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 2 疼痛のパターンと強さ ②疼痛の強さ 1日のうち,最小・最大の疼痛の強さをNRS (Numeric Rating Scale)で表してもらう。 一般的に0~3点を軽度の疼痛,4~6点を中程度の疼痛,7点以上を強い疼痛と考える。 さらに,最大の疼痛の回数を聞く。 →オピオイドを開始、継続するときには、痛みを定期的に評価し、1~3日で効果を判定。 頓用が1日4回以上の場合には定期処方の増量を検討 ※NRS(Numeric Rating Scale) 例:症状が全くないときを0、これ以上ひどい症状が考えられないときを10としたとき、 今日の(症状の)強さはどれくらいになりますか? 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 2 疼痛のパターンと強さ 疼痛の強さを数字で表現することは難しいので,詳しい説明が必要なことが多い。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」の例では、 「痛みの強さを数字で言うのは難しいと思いますが,血圧のように数字で表現して いただくとわかりやすいので教えてください。正解があるわけではないし,人と比べ るものではないので,あなたの感じを教えていただければ結構です。ぜんぜん痛く ないときを0点,もうこれ以上考えられない位すごく痛いときを10点とすると, 普段一番弱いときの痛みは何点くらいになりますか?」 「では,痛みが一番強くなったときは何点くらいになりますか?」 「その強い痛みが来るのは1日に何回ですか?」と聞く。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 症状を包括的に詳しく評価するツール 生活のしやすさに関する質問票 (http://gankanwa.jp/) 「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」事務局ホームページより 症状を包括的に詳しく評価するツール STAS-J:Support Team Assessment Schedule(http://plaza.umin.ac.jp/stas/) 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 症状を包括的に詳しく評価するツール STAS-J:Support Team Assessment Schedule (http://plaza.umin.ac.jp/stas/) 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 3 疼痛の部位と経過 「どこが痛みますか?」(疼痛部位を確認と診察) →ヘルペス・蜂窩織炎・外傷など,がんと関連しない疼痛が合併することがあるの で,画像検査をし,疼痛の原因となるがんが存在するかどうかを確認。 「いつから痛みがありますか?」 (以前からある疼痛かを確認) →「10年前から腰痛もち」(変形性脊椎症),「10 年前に手術した後から」 (開胸術後疼痛) など,現在のがんによる疼痛ではないことがある。 「ずっとよかったが,昨日から急に痛くなった」場合は,骨折,消化管穿孔, 感染,出血などを合併した可能性があるので,合併症の探索。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 4 疼痛の性状 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 5 疼痛の増悪因子と軽快因子 疼痛を強くする,または,和らげる要因について 「こういうときに痛みが強くなるとか,こうすると痛みが和らぐということは ありますか? たとえば,身体を動かしたときや,いつもの薬を飲む前に 痛みが強くなったりしますか?」 →患者と相談して疼痛が増悪する原因となるような刺激を避け,疼痛を和らげる 方法を取り入れることができる。 体動時に疼痛がひどくなる場合には,痛みが強くなってからではなく,尐し痛いと 感じたら早めに,または予防的にレスキューを投与する (動く前にレスキューを使用する)など。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 痛みを和らげるケア • 痛みの閾値に影響する因子 低下させる因子 不快, 不眠, 疲労, 不安, 恐怖, 怒り, 悲しみ, うつ状態, 倦怠感, 内向的心理状態, 孤独感, 社会的地位の喪失 上昇させる因子 症状緩和, 睡眠, 休憩, 周囲の人々の共感, 理解, 人とのふれあい, 気晴らしとなる行為, 不安減退, 気分高揚 鎮痛薬, 抗不安薬, 抗うつ薬 Twycross, et al 著, 武田文和 訳:末期癌患者の診療マニュアル, 第2版, 1991 ・増悪因子 ①定期薬内服前 ②夜間 ③体動 ④食事 ⑤排尿・排便 ・軽快因子 ①安静 ②保温 ③冷却 ④マッサージ 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 6 現在行っている治療の反応 現在行っている疼痛治療の反応を確認する。定期的な薬剤として 何を使用しているか,指示通り内服できているかを確認する。 疼痛治療の副作用として,嘔気・便秘・眠気について確認する。 “嘔気”は,「なし」「あり(経口摂取は可能)」「あり(経口摂取できない)」, “便秘”は,「なし」「あり(便の硬さは普通,硬い,軟らかい)」, “眠気”は,「なし」「あり(不快ではない)」「あり(不快である)」 などと具体的に聞く。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 疼痛の評価 7 レスキューの効果と副作用 疼痛時に使用する薬剤が処方されている場合には, その使用回数,効果と副作用を確認する。 ● 痛みが強いときに使うお薬は1 日に何回使っていますか? 効果は いかがですか?使った後,吐き気・眠気はありますか?」と質問する。 ●効果は,NRS を用いて評価するか,または「完全によくなった◎」 「だいたいよくなった○」「尐しよくなった△」「かわらない×」かを聞く。 ●副作用として,使用後に, 眠気が「なし」「あり(不快ではない)」「あり(不快である)」かを聞く。 ある場合には,「オピオイドの副作用対策」を参照して治療する。 日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」 ● WHO方式がん疼痛治療ガイドライン 癌患者の種々の症状に対するカリキュラム。 ●ASCO(American Society of Clinical Oncology、米国臨床腫瘍学会)のASCOカリキュラム 癌患者の種々の症状に対するカリキュラム。 ●APS(American Pain Society、米国疼痛学会)のガイドライン 非癌性疼痛を含めたガイドライン。 ●NCCN(National Comprehensive Cancer Netowork)のガイドライン 米国の21の癌センターによって作成された癌診療上のあらゆる過程に関するガイドライン。 ●NCI(National Cancer Institute、米国国立がん研究所)のPDQ(Physician Data Query:が んに関するデータベース) 癌診療上のあらゆる過程に関する情報。 ●EAPC(European Association for Palliative Care、ヨーロッパ緩和ケア学会)の勧告4) 癌性疼痛におけるオピオイドの使用に関するガイドライン。 ●日本医師会監修 「がん緩和ケアガイドブック 2008年版」「がん性疼痛治療のエッ センス 2008年版」 「がんに対するページ」からダウンロード可能。 平成20年度より都道府県、がん診療連携拠点病院等が主催して全国で開催される予 定の「がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会」で、テキストとなる内容。 http://www.med.or.jp/etc/cancer.html ●緩和ケア普及のための地域プロジェクト 「OPTIM」 医療従事者用のページに緩和ケアの症状マネジメントツールが掲載されており、評価 ツールや患者用パンフレットがダウンロード出来る。 http://gankanwa.jp/ ●日本緩和医療学会 「がん疼痛治療ガイドライン」 真興交易(株)医書出版部より販売。 ●日本ホスピス在宅ケア研究会 「がん緩和ケアマニュアル」 http://www.hospice.jp