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内陸地震による地表での断層変位分布 - 人間環境システム専攻
構造工学論文集 Vol.50B (2004 年 3 月) 日本建築学会 内陸地震による地表での断層変位分布 DISTRIBUTION OF SURFACE FAULT DISPLACEMENTS DUE TO INLAND EARTHQUAKES 翠 川 三 郎*,三 浦 弘 之** Saburoh MIDORIKAWA and Hiroyuki MIURA The distribution of the surface fault displacements due to inland earthquakes is examined in order to provide basic information for seismic design considering the fault displacement. Turkey and Taiwan are compiled and analysed. The data from seven inland earthquakes in Japan, The results indicate that 1) the surface displacement increases with increase of the earthquake magnitude, 2) the average displacement at the survey points is approximately one third of the maximum displacement, and 3) the horizontal displacement is larger than 3 meters at about 30 % and several % of the survey points when the magnitude is about 7.5 and 7.0, respectively. Keywords: Fault displacement, Seismic design, Inland earthquake 断層変位,耐震設計,内陸地震 震(MJ7.0),1995 年兵庫県南部地震(MJ7.2)の4つの地震を選ん 1.はじめに 浅発の内陸地震では,断層をはさんで大きな相対変位が生じる場 だ。また,断層変位により大きな被害を引き起こした近年の地震と 合があり,断層をまたいで立地する構造物は甚大な被害を受ける。 して,1999 年トルコ・イズミット地震(MW7.4),同ドゥズジェ地震 近年では,1999 年トルコ地震や 1999 年台湾集集地震において,断 (MW7.0),1999 年台湾集集地震(MW7.5)の3つの地震を選び,計 層変位による構造物被害が多数発生した。長大構造物や交通施設な 7 地震を対象とした。地震の諸元を表 1 に示す。これらの地震は, どの線状に分布する構造物では,断層の存在が知られても断層をま 低角逆断層の台湾集集地震を除けば,ほぼ鉛直な横ずれ断層による たいで建設せざるを得ない場合も生ずる。従来このような構造物に 地震である。 対して相対変位に対する耐震性は一般に検討がなされていない 1) が, 2) 断層変位の測定点の位置や変位量は,各地震の調査報告書や論文 などによるものを用いた。これらの資料のうち,位置を特定できな 今後検討を加える必要があることが指摘されている 。 地震による地表での断層変位については,その最大値が引用され る場合が多いが,地表変位の量は断層に沿って一様ではなく,最大 い地点での変位量は用いなかった。また,変位量がある幅をもって 記載されている場合は,その最小値と最大値の両方を用いた。 値が観測される地点は局所的な場合もみられる。したがって,耐震 設計において考慮すべき断層変位の大きさを検討するための基礎的 資料として,最大値だけでなく断層変位の分布を整理しておく必要 があろう。本研究では,既往の文献を整理して,断層変位を伴った 表1 No. 対象とした内陸地震の諸元 年月日 地震名 MJ MW 地表断層 長さ(km) 過去の内陸地震での断層変位分布の性状について把握することを目 1 1891.10.28 濃尾 8.0 7.4 80 的とする。 2 1927.03.27 北丹後 7.3 7.0 30 3 1930.11.26 北伊豆 7.3 6.9 20 7.2 6.9 2.対象とした地震 4 1995.01.17 兵庫県南部 本研究では,日本の内陸地震のうちで,大きな断層変位が観測さ 5 1999.08.17 トルコ・イズミット - 7.4 140 れ,地表断層について詳細な調査がなされている地震として,1891 6 1999.11.12 トルコ・ドゥズジェ - 7.0 40 年濃尾地震(MJ8.0),1927 年北丹後地震(MJ7.3),1930 年北伊豆地 7 1999.09.21 台湾集集 - 7.5 80 * 東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻 教授・工博 ** 東京工業大学大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻 大学院生・工修 10 Prof., Dept. of Built Environment, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Dr. Eng. Graduate Student, Dept. of Built Environment, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, M. Eng. 3.各地震における断層変位分布 見断層の北西側の端点からの距離を表し,縦軸は変位量を表す。水 3.1 平方向の最大変位量は 8m である。鉛直方向の最大変位量は 6m で 1891 年濃尾地震 濃尾地震は 1891 年 10 月 28 日に発生した岐阜県を震央とするマグ ある。変位量の分布はスムーズには変化していないが,全体的な傾 ニチュードは 8.0 の地震であり,日本の内陸で発生した最大の地震 向としては,断層の中央部で大きな変位量がみられ,断層端での変 3) である。地震モーメント からモーメントマグニチュード(MW)を 位量は比較的小さい。 算出すると 7.4 となる。この地震に伴って,主に温見断層(長さ約 図 3 に水平および鉛直方向の変位量の頻度分布を示す。図の横軸 20km),根尾谷断層(約 35km),梅原断層(約 25km)において断層 は変位量を表し,縦軸はその頻度を表す。2m 以上の変位が確認さ 変位が生じた。断層の全長は 80km 程度である。 れた点は,水平方向で 23 地点あり,鉛直方向では 18 地点であった。 4) この地震の断層変位の変位量は,松田の報告 資料 5) および村松ほかの によるものを用いた。これらの資料から,水平方向について は 39 地点で,鉛直方向については 64 地点で変位量が得られた。図 3m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 16 地点あり,鉛直方 向で 11 地点あった。 3.2 1927 年北丹後地震 1 に地震断層の位置と変位量が調査された地点の位置を示す。図中 北丹後地震は 1927 年 3 月 7 日に発生した京都府の奥丹後半島を震 の星印は震央の位置を,図中の数字は観測された変位量(cm)をそれ 央とするマグニチュード 7.3 の地震である。地震モーメント 3)から ぞれ表す。各地点で観測された変位には場所毎に大きな差異がみら MW を算出すると 7.0 となる。この地震に伴って,郷村断層(長さ約 れる。 20km)および山田断層(約 8km)において断層変位が生じた。 水平および鉛直方向の変位量の分布を図 2 に示す。図の横軸は温 この地震の断層変位の変位量は,岡田ほか Horizontal 0.9∼1.2 2.7∼3.0 Gifu Pref. 0.9∼1.0 1.5 ebar a F. 0.6∼1.0 20km 20km 5.0 20km 20km 1.8∼2.1 ebar a F. 1.7 0.7∼1.0 1.0 ≒0.8 0.1 0.4∼2.4 0.1 1.2∼1.5 Aichi Pref. 左:水平方向,右:鉛直方向 15 Horizontal Frequency Horizontal 4 2 10 5 15 Vertical 6 4 2 20 図2 40 Distance (km) 60 濃尾地震における断層変位分布 80 Frequency Displacement (m) Displacement (m) 10 10 Um SE 6 0 00 1891 年濃尾地震における断層変位の測定点と変位量(m) NW 8 2.1∼2.4 1.2 Aichi Pref. 図1 8 Shiga Pref. 0.1 0 0 ≒0 0 ≒0 0 5.0 6.0 1.0 1.0∼2.0 ≒1.8 ≒2.0 F. Um 1.8∼2.0 i an 0∼4.0 Gifu Pref. 3.0 od Ne F. 2.4∼3.6 1.0 1.0 0.9∼4.0 ≒0 ≒0 3.0∼8.0 1.8∼6.5 10 10 1.5∼1.8 3.0∼4.0 3.5∼5.6 Shiga Pref. Fukui Pref. 0.9∼1.2 i an od Ne ≒1.5 ≒3.5 2.0∼2.7 2.0 2.4∼6.0 6.0∼7.4 . iF um . iF um Fukui Pref. k Nu 0.5 0.1 00 の資料によるものを Vertical k Nu 0.1 6) Vertical 10 5 0 2 図3 4 6 Displacement (m) 濃尾地震における断層変位の頻度分布 8 用いた。この資料から,水平方向については 183 地点で,鉛直方向 については 254 地点で変位量が得られた。地震断層の位置と変位量 Japan Sea が調査された地点の位置を図 4 に示す。 Kyoto Pref. 水平および鉛直方向の変位量の分布を図 5 に示す。図の横軸は断 層の北端からの距離を表す。全体的な傾向としては郷村断層の北寄 ura G om りで大きな変位がみられるが,個々の地点での変位量は大きくばら F. ついている。水平方向の最大変位量は約 4m であり,鉛直方向の最 大変位量は約 1.5m である。 図 6 に水平および鉛直方向の変位量の頻度分布を示す。2m 以上 の変位が確認された点は,水平方向で 46 地点あり,鉛直方向ではな かった。3m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 10 地点あり, 00 鉛直方向ではなかった。 3.3 2.5 2.5 1930 年北伊豆地震 5km 5km Hyogo Pref. 北伊豆地震は 1930 年 11 月 26 日に発生した静岡県伊豆半島の北部 を震央とするマグニチュード 7.0 の地震である。地震モーメント 図4 3) ma Ya F da . 1927 年北丹後地震における断層変位量の測定点 (●:水平および鉛直,○:水平のみ,△:鉛直のみ) から MW を算出すると 6.9 となる。この地震に伴って,主に箱根町 断層(長さ約 2.5km),丹那断層(約 7km),浮橋断層(約 4km),大 NNW 野断層(約 2km),加殿断層(約 2km),姫ノ湯断層(約 2.5km)に この地震の断層変位量は,松田 7) の資料によるものを用いた。こ の資料から,水平方向については 135 地点で,鉛直方向については 121 地点で変位量が得られた。地震断層の位置と変位量が調査され た地点の位置を図 7 に示す。 水平および鉛直方向での変位量の分布を図 8 に示す。図の横軸は Displacement (m) おいて断層変位が生じた。断層の全長は 20km 程度である。 ている傾向はみられるが,個々の地点での変位量は大きくばらつい ている。水平方向の最大変位量は約 3.5m であり,鉛直方向の最大 変位量は約 2.5m である。 図 9 に水平および鉛直方向各方向での変位量の頻度分布を示す。 2m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 20 地点あり,鉛直方 向では 3 地点であった。3m 以上の変位が確認された点は,水平方 Displacement (m) 断層の北端からの距離を表す。断層の北部で大きな変位が観測され SSE 4 Horizontal 3 2 1 4 Vertical 3 2 1 0 5 向で 3 地点あり,鉛直方向ではなかった。 3.4 10 Distance (km) 15 20 1995 年兵庫県南部地震 図5 兵庫県南部地震は 1995 年 1 月 17 日に発生した明石海峡付近を震 北丹後地震における断層変位分布 8) 央とするマグニチュード 7.2 の地震である。Wald によれば,この 50 約 8km),小倉断層(約 3km)において断層変位が生じた。 40 この地震の断層変位の変位量は,粟田ほか 9) の論文によるものを 用いた。この資料から,水平方向については 66 地点で,鉛直方向に ついては 61 地点で変位量が得られた。地震断層の位置と変位量が調 Frequency 地震の MW は 6.9 である。この地震に伴って,主に野島断層(長さ Horizontal 30 20 10 査された地点の位置を図 10 に示す。 50 層の北端からの距離を表す。断層端部で変位は小さい傾向にあるが, 40 個々の地点での変位量にはばらつきがみられる。水平方向の最大変 位量は約 2.5m であり,鉛直方向の最大変位量は約 1.5m である。 図 12 に水平および鉛直方向での変位量の頻度分布を示す。水平方 向では 1∼2m 程度の変位が多く,鉛直方向では 0∼1m 程度の変位 が多く確認された。2m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 3 Frequency 水平および鉛直方向の変位量の分布を図 11 に示す。図の横軸は断 Vertical 30 20 10 0 1 地点であった。 図6 2 3 Displacement (m) 北丹後地震における断層変位の頻度分布 4 F. ach i Akashi Strait Ha ko nem Kanagawa Pref. Tanna F. Shizuoka Pref. aF . Harima Sea Og ur aF . 図7 On oF Izu Peninsula F. no do a K 00 55 00 10km 10km 1930 年北伊豆地震における断層変位量の測定点 図 10 Displacement (m) Horizontal 3 2 Displacement (m) 1 4 Vertical 3 2 1 0 10 図8 20 Distance (km) 1995 年兵庫県南部地震における断層変位量の測定点 SSE Horizontal 2 1 Vertical 2 1 0 30 4 8 北伊豆地震における断層変位分布 図 11 兵庫県南部地震における断層変位分布 20 Frequency Horizontal 20 10 Horizontal 10 20 30 Vertical 20 10 1 図9 2 Displacement (m) 12 Distance (km) 30 0 3km 3km NNE S 4 1.5 1.5 (●:水平および鉛直,○:水平のみ,△:鉛直のみ) Frequency Displacement (m) Displacement (m) N Frequency Osaka Bay Himenoyu F. (●:水平および鉛直,○:水平のみ,△:鉛直のみ) Frequency Awaji Island . Ukihashi F. No j im Sagami Bay 3 北伊豆地震における断層変位の頻度分布 4 Vertical 10 0 0.5 1 1.5 2 Displacement (m) 図 12 兵庫県南部地震における断層変位の頻度分布 Black Sea Duzce Eften Lake Marmara Sea Duzce Golyaka Izmit Golcuk Guven Sapanca Lake Akuyazi 00 Iznik Lake 図 13 Karadere Karadere 20 20 00 40km 40km 1999 年トルコ・イズミット地震における断層変位量の測定点 図 16 4 2 Vertical 4 2 0 20 80 100 2 6 5 1 2 3 Displacement (m) 4 Vertical 4 2 10 5 トルコ・イズミット地震における断層変位の頻度分布 20 Distance (km) 30 40 トルコ・ドゥズジェ地震における断層変位分布 Horizontal 4 2 6 Vertical 図 15 4 6 Frequency 5 10 Horizontal 図 17 Horizontal 0 6 トルコ・イズミット地震における断層変位分布 10 E 0 Vertical Frequency Frequency 40 60 Distance (km) Displacement (m) Horizontal 図 14 Frequency W E 6 0 10km 10km (●:水平および鉛直,○:水平のみ,△:鉛直のみ) Displacement (m) Displacement (m) Displacement (m) W 55 1999 年トルコ・ドゥズジェ地震における断層変位量の観測点 (●:水平および鉛直,○:水平のみ,△:鉛直のみ) 0 6 Kaynasli 4 2 0 1 2 3 4 5 Displacement (m) 図 18 トルコ・ドゥズジェ地震における断層変位の頻度分布 3.5 1999 年トルコ・イズミット地震 トルコ・イズミット(Izmit)地震は 1999 年 8 月 17 日に発生した 北アナトリア断層系北西部を震央とする地震である。菊池・山中 10) Taiwan Strait によれば,これらの地震の MW は 7.4 である。この地震では,主に Golcuk セグメント(長さ約 8.5km),Tepetarla セグメント(約 19km), Fengyuan Taichung セグメント(約 15km)において断層変位が生じた 11) 。断層の全長 は 140km 程度である。 この地震の断層変位の観測点と変位量は,Lettis et al. Barka et al. 13) 12) および Nantou の論文によるものを用いた。これらの資料から,水平 Chelungpu F. Arifiye セグメント(約 27km),Karadere セグメント(約 15km),Asku Puli 方向については 100 地点で,鉛直方向については 34 地点で変位量が 得られた。地震断層の位置と変位量が調査された地点の位置を図 13 に示す。 水平および鉛直方向の変位量の分布を図 14 に示す。図の横軸は 00 10 10 20km 20km Golcuk セグメントの西端点からの距離を表す。断層の西端で大きな 変位量を示しており,このことはさらに西方の海中に断層が連続し 図 19 1999 年台湾集集地震における断層変位量の測定点 ていることを示唆している。各地点での変位量にはばらつきがみら (●:水平および鉛直) れる。水平方向の最大変位量は約 5.5m であり,鉛直方向の最大変 N の変位が確認された点は,水平方向で 33 地点あり,鉛直方向では 3 地点であった。3m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 14 地 点あり,鉛直方向では 0 地点であった。 3.6 1999 年トルコ・ドゥズジェ地震 ドゥズジェ(Duzce)地震は 1999 年 11 月 12 日に発生した北アナ トリア断層系北西部を震央とする地震である。菊池・山中 10)によれ ば,この地震の MW は 7.0 である。ドゥズジェ地震は,イズミット 地震による断層の東側で発生し,全長約 40km にわたって断層変位 が生じた。 この地震の断層変位の観測点と変位量は,Akyuz et al. 14)の論文に よるものを用いた。この資料から,水平方向については 76 地点で, Displacement (m) 図 15 に水平および鉛直方向の変位量の頻度分布を示す。2m 以上 Displacement (m) 位量は約 2.5m である。 鉛直方向については 14 地点で変位量が得られた。地震断層の位置と S 16 Horizontal 12 8 4 0 16 Vertical 12 8 4 0 0 20 40 Distance (km) 変位量が調査された地点の位置を図 16 に示す。 水平および鉛直方向の変位量の分布を図 17 に示す。図の横軸は断 図 20 60 台湾集集地震における断層変位分布 層の西端点からの距離を表す。各地点での変位量にはばらつきがみ られる。水平方向の最大変位量は約 5m であり,鉛直方向の最大変 6 Horizontal 図 18 に水平および鉛直方向の変位量の頻度分布を示す。2m 以上 の変位が確認された点は,水平方向で 22 地点あり,鉛直方向では 1 地点であった。3m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 46 地 Frequency 位量は約 3.5m である。 4 2 点あり,鉛直方向では 1 地点であった。 3.7 1999 年台湾集集地震 6 Vertical の南投県集集付近を震央とする地震である。菊池・山中 10)によれば, この地震の MW は 7.5 である。この地震に伴って,車籠埔断層(長 さ約 80km)において断層変位が生じた。 この地震の断層変位の観測点と変位量は,吾妻ほか 15) Frequency 台湾集集(Chi-Chi)地震は 1999 年 9 月 21 日に発生した台湾中部 4 2 の報告によ るものを用いた。この資料から水平方向・鉛直方向ともに 34 地点で 0 3 変位量が得られた。地震断層の位置と変位量が調査された地点の位 図 21 6 9 Displacement (m) 12 台湾集集地震における断層変位の頻度分布 15 表2 No. のの,各地点で観測された断層変位には大きなばらつきがみられ, 各地震での断層変位量の最大値,平均値,標準偏差 地震名 1 濃尾 2 北丹後 3 北伊豆 4 兵庫県南部 5 トルコ・イズミット 6 トルコ・ドゥズジェ 7 台湾集集 断層上でも小さな変位しか観測されなかった地点も少なくないこと 最大変位(m) 平均変位(m) 標準偏差 方向 8.0 6.0 3.7 1.5 3.5 2.4 2.1 1.4 5.5 2.4 5.5 3.5 15.0 6.2 水平 鉛直 水平 鉛直 水平 鉛直 水平 鉛直 水平 鉛直 水平 鉛直 水平 鉛直 2.9 1.6 1.2 0.5 1.1 0.5 1.0 0.4 1.6 1.1 2.3 1.3 3.4 2.3 がわかる。各地震に対して,観測された最大の変位量,各地点で観 2.3 1.5 0.9 0.3 0.8 0.5 0.6 0.3 1.3 0.7 1.2 0.9 3.0 1.3 測された変位量の平均値,その標準偏差を表 2 に示す。平均変位量 は最大変位量の 1/3 前後であり,各地点で観測された変位量のばら つきも大きい。 変位量がばらつくのは,地下の震源断層上での変位量が一様でな いこともあろうが,地表の地質地盤条件によって地表に断層変位が 現れにくくなる場合があるためとも推察される。ただし,本研究で 用いた原資料には,断層変位の調査地点での地質地盤条件の記載が ほとんどなく,地表の地質地盤条件と変位量との関係については検 討が困難である。 置を図 19 に示す。 各地点で観測された断層変位量の分布性状を把握するため,各地 水平および鉛直方向の変位量の分布を図 20 に示す。図の横軸は断 震での変位量の累積頻度分布図を作成した。MW が 7.5 程度の台湾集 層の北端点からの距離を表す。断層の北端部付近で局所的に大きな 集地震,濃尾地震,トルコ・イズミット地震による断層変位量の累 変位量がみられ,水平方向の最大変位量は約 15m であり,鉛直方向 積頻度分布を図 22 の(a)に,MW が 7.0 程度のトルコ・ドゥズジェ地 の最大変位量は約 6m である。ただし,断層の中部や南部では変位 震,北丹後地震,北伊豆地震,兵庫県南部地震による断層変位量の 量は 4m 程度以下である。 累積頻度分布を図 22 の(b)にそれぞれ示す。図の横軸は変位量を表 図 21 に各方向での変位量の頻度分布を示す。2m 以上の変位が確 し,縦軸は累積頻度(%)を表す。累積頻度はある変位以上の変位 認された点は,水平方向で 23 地点であり,鉛直方向で 17 地点であ 量が観測された地点の割合を表し,変位量が 0m のとき 100%として った。3m 以上の変位が確認された点は,水平方向で 13 地点であり, 表す。 図 22 をみると,全体的に鉛直方向よりも水平方向の変位量が大き 鉛直方向で 10 地点であった。 い。これは,対象とした地震が台湾集集地震を除けば横ずれ断層に よるものであり,台湾集集地震も低角断層であるために水平方向の 4.断層変位量の累積頻度分布 前章で示した断層変位分布から,各地震で観測された断層変位の 成分が卓越したものと考えられる。構造物に対する相対変位の影響 最大値は数m前後の場合が多く,台湾集集地震では 10m を越えるも を考える場合には水平方向と鉛直方向のベクトル合成値を考えるべ (a) (b) Cumulative Frequency (%) 100 Horizontal 80 Taiwan (Mw7.5) Nobi (Mw7.4) Turkey, Izmit (Mw7.4) 60 40 20 Vertical 80 Taiwan (Mw7.5) Nobi (Mw7.4) Turkey, Izmit (Mw7.4) 60 40 20 0 Horizontal 80 Turkey, Duzce (Mw7.0) Kita-Tango (Mw7.0) Kita-Izu (Mw6.9) Kobe (Mw6.9) 60 40 20 100 100 3 6 9 Displacement (m) 12 図 22 15 Cumulative Frequency (%) Cumulative Frequency (%) Cumulative Frequency (%) 100 Vertical 80 Turkey, Duzce (Mw7.0) Kita-Tango (Mw7.0) Kita-Izu (Mw6.9) Kobe (Mw6.9) 60 40 20 0 3 各地震における断層変位量の累積頻度分布 6 9 Displacement (m) 12 15 表3 各変位量に対する累積頻度値 参考文献 1) 累積頻度値(%) 地震 水平変位量 鉛直変位量 トルコ・ トルコ・ 北丹後 イズミット ドゥズジェ 台湾集集 濃尾 1m 85 74 55 78 2m 65 54 31 59 3m 35 36 13 25 5m 12 21 1 0 0 0 0 1m 89 48 59 46 2 10 5 2m 47 22 6 8 0 1 0 3m 28 14 0 8 0 0 0 5m 3 5 0 0 0 0 0 北伊豆 兵庫県南部 41 34 42 19 12 3 3 1 0 2) 日本道路協会:道路橋示方書・同解説Ⅴ耐震編,1991 Abe, M. et al.: Damage to Transportation Facilities, The 1999 Ji-Ji Earthquake, Taiwan –Investigation into Damage to Civil Engineering Structures-, pp.4.1-4.39, 1999 3) 佐 藤良 輔 : 日本 の 地 震 断層 パ ラ メタ ー ・ハ ン ド ブッ ク , 鹿 島 出版 会 , 390pp., 1989 4) 松田時彦 : 1891 年濃尾地震の地震断層, 地震研究所研究速報, 第 13 号, pp.85-126, 1974 5) 村松郁栄 , 松田時彦 , 岡田篤正 : 濃尾地震と根尾谷断層帯 内陸最大地 震と断層の諸性質, 古今書院, 340p, 2002 きかもしれないが、今回検討した地震についてはベクトル合成値は 水平方向の値で近似できるものと考えられる。 6) 7) 図から,MW が大きくなるほど,最大変位量は大きくなり,かつ 同じ変位量のときの累積頻度は高くなる傾向にあることがわかる。 ている。水平変位については,台湾集集地震や濃尾地震のような地 8) Wald, D. J.: Slip History of the 1995 Kobe, Japan, Earthquake Determined from Strong Motion, Teleseismic, and Geodetic Data, Journal of Physics of the Earth, Vol.44, pp.489-503, 1996 9) 粟田泰夫 , 水野清秀 , 杉山雄一 , 井村隆介 , 下川浩一 , 奥村晃史 , 佃 栄 吉, 木村克己 : 兵庫県南部地震に伴って淡路島北西岸に出現した地震断 震規模が大きい地震(MW で 7.5 程度)の場合,3m のときの累積頻 度値が 30%を越える。しかし,その他の地震(MW で 7.0 程度)の場 松田時彦 : 1930 年北伊豆地震の地震断層, 「伊豆半島」, 東海大学出版 会, pp.73-93, 1972 各地震での変位量に対する累積頻度をまとめたものを表 3 に示す。 表には水平・鉛直変位量が 1m,2m,3m のときの累積頻度値を示し 岡田篤正, 植村善博, 佃 栄吉 : 1927(昭和 2 )年北丹後地震の地震断層 と丹後半島域の活構造, 断層研究資料センター( FRED-C ), 144p, 1994 層, 地震 2, 第 49 巻, pp.113-124, 1996 10) 菊池正幸, 山中佳子 : EIC 地震学ノート(No.62s, 66, 72), 東京大学地震 合,3m のときの累積頻度値は 30%以下で,特に,北丹後,北伊豆, 研 究 所 地 震 予 知 情 報 セ ン タ ー http://www.eic.eri.u-tokyo. 兵庫県南部地震においては 3%以下である。鉛直変位については, ac.jp/EIC/EIC_News/index.html, 1999 3m のときの累積頻度値が 30%を越える地震はなく,最大の台湾地 11) リア断層系 1999 年 Izmit 地震に伴う地震断層のセグメント構造, 活断 震で 28%,濃尾地震で 14%である。また,北丹後,北伊豆,兵庫県 南部地震においては,変位量が 1m のときの累積頻度値は 10%以下 粟田泰夫, 吉岡敏和, 佃 栄吉, O. Emre, T. Y. Duman, A. Dogan: 北アナト 層・古地震研究報告, No.1, pp.325-338, 2001 12) Lettis, W., J. Bachhuber, R. Witter, C. Brankman, C. E. Randolph, A. Barka, W. D. Page and A. Kaya: Influence of Releasing Step-Overs on Surface Fault と比較的小さい。 Rupture and Fault Segmentation: Examples from the 17 August 1999 Izmit Earthquake on the North Anatolian Fault, Turkey, Bulletin of the 5.結び 本論文では,過去に発生した内陸地震による断層変位分布に関す Seismological Society of America, Vol.92, No.1, pp.19-42, 2002 13) Barka, A., H. S. Akyuz, E. Altunel, G. Sunal, Z. Cakir, A. Dikbas, B. Terli, R. る既往の文献を整理し,各地震での断層変位分布を把握することを Armijo, B. Meyer, J. B. de Chabalier, T. Rockwell, J. R. Dolan, R. Hartleb, T. 試みた。その結果, Dawson, S. Christofferson, A. Tucker, T. Fumal, R. Langridge, H. Stenner, W. 1) 地震規模が大きくなるほど最大変位量は大きくなる傾向があ Lettis, J. Bachhuber and W. Page: The Surface Rupture and Slip Distribution り,MW で 7.0 程度の場合には数 m 前後の場合が多く,MW で of the 17 August 1999 Izmit Earthquake (M7.4), North Anatolian Fault, 7.5 程度の場合には 10m を越える場合があること, 2) 調査地点での断層変位の平均値は最大変位量の 1/3 前後であり, 各地点で観測された変位量のばらつきも大きいこと, 3) MW で 7.5 程度の地震の場合には,地表変位が 3m を越える地点 は調査地点の 30%程度の場合が多いが,MW で 7.0 程度の地震 の場合には,数%程度である場合が多いこと、 を指摘した。これらの結果は,耐震設計で考慮すべき断層変位を設 定する際の基礎的資料として活用されるものと期待される。より定 量的な結論を得るためには、今後,検討事例を増やしたり,調査地 点の地質地盤条件と変位量の関係を検討することなどが必要となろ う。 謝辞 衣笠善博東工大教授には地質地震学の立場から貴重なご助言 を頂いた。本研究の一部は,科学研究費補助金基盤研究(B)「断層変 位による交通施設の震災軽減対策に関する研究」 (研究代表者:川島 一彦東工大教授)によった。 Bulletin of the Seismological Society of America, Vol.92, No.1, pp.43-60, 2002 14) Akyuz, H. S., R. hartleb, A. Barka, E. Altunel, G. Sunal, B. Meyer and R. Armijo: Surface Rupture and Slip Distribution of the 12 November 1999 Duzce Earthquake (M7.1), North Anatolian Fault, Bolu, Turky, Bulletin of the Seismological Society of America, Vol.92, No.1, pp.61-66, 2002 15) 吾妻 崇 , 杉山雄一 , 苅谷愛彦 , 粟田泰夫 , 李 元希 , 石 同生 , 盧 詩丁 , 呉 維毓 : 1999 年台湾集集地震に伴う地震断層の変位とセグメンテーシ ョン, 地質調査所速報, no.EQ/00/2 (平成 11 年度活断層・古地震研究調 査概要報告書), pp.221-235, 2000