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小学校体育科におけるICT機器利活用の有効性についての研究
個人・グループ研究の部 体育科 研究主題 小学校体育科におけるICT機器利活用の有効性についての研究 ―器械運動の実践を通して― 玄海町立値賀小学校 教諭 山﨑 耕成 1 主題設定の理由 玄海町では,各教室に電子黒板が配置されており,ICT機器が充実している。国語,算数,理科,社会で はデジタル教科書も入っており,授業中よく活用している。しかし,体育の学習では電子黒板を持ち出せない こともあり,なかなかICT機器を活用する機会がなかった。デジタルカメラを使えば児童の動きを撮影し確 認することはできるが,画面が小さくなかなかうまく活用することができなかった。児童にできる喜びを味わ わせるには,つまずきの状況がどのようになっているかを児童自身にも実感させることが大切であるが,自分 自身の挑戦する姿を振り返ることは困難である。そこで,学校にあるICT機器を組み合わせて活用する方法 や,活用する場面について研究すれば,器械運動の授業において技術の向上を図ることができないかと考え, この主題を設定した。 今までは,自分の動きを確認する手段は,他の人による観察か,ビデオカメラによる撮影であった。ビデオ を見ることは自分の動きの確認にとても役に立つが,録画してモニターで再生をするとなると手間がかかって しまうという欠点がある。また,リアルタイムで確認ができないため,即座に動きを確認して修正することは 困難であった。そこで,Web カメラで映像を撮り,撮った映像が数秒後に再生される装置(以後, 「遅延再生装 置」と呼ぶ)を使ってプロジェクタで映写すれば,リアルタイムに自分の動きを確認することができると考え た。 また,教師が個人指導をする場面でタブレット端末を活用して,スロー再生することができれば動きのポイ ントを気付かせる学習がより進むのではないかとも考えた。 2 研究の目標 小学校体育科において,児童の運動の技能と関心意欲を高めるための有効なICT機器の利活用方法を明ら かにする。 3 研究の仮説 小学校体育科において,自分の動きが確認できるようにICT機器を工夫して使うことによって,視覚的に 自分の動きを確認することができれば,つまずきの状況やそれを克服するための技のポイントをつかむことが でき,運動技能の向上を図ることができるであろう。 4 研究の内容と方法 (1) 研究内容 ア 器械運動の特性と視覚認識との関連について イ 器械運動の授業実践によるICTの有効性の検証 ウ 技能向上及び興味関心の高まりの効果の検証 (2) 研究方法 ア 器械運動の理論を研究し,視覚認識を利用した授業の在り方を考える。 イ 理論を踏まえて,ICTを効果的に利活用した授業を実践する。 ウ 運動の技能向上について及び児童の興味関心の高まりについて,学習カードの記録やアンケートを基に した分析と考察を行う。 - 1 - 5 研究の実際 (1) 器械運動の特性について ア 個人差に応じたスモールステップ学習・ステップアップ学習 器械運動は, 「できる」 「できない」がはっきりしており,できるようになれば楽しさを味わうことがで きるが,努力してもできないと嫌いになってしまう。小学校学習指導要領解説体育編第3学年及び4学年 の目標及び内容B器械運動には, 「運動の楽しさや喜びに触れ,その技ができるようにする。 」と記されて いる。そのためには, (ア) 身に付けさせたい運動に必要な感覚づくり(はねる,支える,丸まる,重心移動など)を十分に行う。 (イ) 目標となる技の運動像(目指す姿)のイメージを明確にもつ。 (ウ) 確実に基礎・基本を身に付けるために,学習内容を子どもの実態に応じてプログラム化する。 (エ) 子どもの感覚に共感できる内容での指導助言を心がける。 (オ) 模範的な運動像と子どもが実際に行う運動とを比較して,問題点を見付け適切な課題や修正するため の手立てを示す。 今回の実践では,特に(オ)について有効な手立てとなるよう視覚認識における工夫を行い, 「内容の習得」 と「できる喜び」につなげたいと考えた。 (2) 実践化への手立て ア 目標となる技の運動像(めざす姿)のイメージを明確にもたせる。 ・ インターネットを使って,技の動画をプロジェクタで壁に映し,イメージを明確にもたせる。スロー 再生も取り入れることで技のポイントをつかむ。 (ICT利活用) ・ 技のポイントが分かるように図入りのワークシートを作り活用する。 イ 子どもの感覚に共感し,小さな上達も見逃さず褒める指導助言を心掛ける。 ・ ipad で児童の動きを撮影し,その場で再生して提示することで視覚的に技のポイントを示しながら助 言する。 (ICT利活用) ウ 模範的な運動像と子どもが実際に行う運動とを比較して,問題点を見付け適切な課題や修正するための 手立てを示す。 ・ 模範になる児童の動きを ipad で撮影し,プロジェクタで壁に映す。再生ソフト「Coach’s Eye」を使 って着手,着地点などのポイントになる所に印を入れながら,説明する。 (ICT利活用) (3) 教材・教具(場づくり)の工夫 ア めあてやフィードバック情報が得られる場としてのICT利活用 ・ 自分の技が確認できるように,遅延再生ソフト LagMirror をパソコンにインストールし,Web カメラ で映像を撮り,5秒後の映像をプロジェクタで壁に映し出す。 (ICT利活用) ・ すべてのマットに,着地位置が分かるようにビニールテープで 10cmごとにラインを入れて映像で確 認できるようにする。 (ICT利活用) ・ 着手地点が分かるように跳び箱にラインを入れ,映像で確認できるようにする。 (ICT利活用) イ 実際に器械運動に利活用するICT機器とソフト (ア) ノートパソコン a 活用方法 インターネットに接続しプロジェクタで壁に映して, 手本となる技の動画を紹介する(図1) 。 図1 活用するサイト - 2 - 参考サイト: 「インターネットで体育の学習・アニメーションでコツをつかもう」 URL:http://taiiku17.web.fc2.com/kodomo.html b 特徴 ・ アニメーションで技のポイントが示してあり,児童たちにとても分かりやすい。 ・ スロー再生をすることができ,一つ一つの動きをしっかりと確認することができる。 (イ) 遅延再生装置(図2) a 使用した機器:Web カメラ,ノートパソコン,プロジェクタ b 使用したソフト:LagMirror c 特徴 ・ Web カメラの映像を遅く表示することで数秒前の自分の姿を確認することができるソフトウェア。 ・ 通常の鏡では確認しにくい自分の後姿などを見ることができる。 ・ 基本的にフリーソフトなので制限無く使用することができる。 ・ 1秒~10 秒まで遅延再生することができる。 白い壁に,投影 d 活用方法 (a) 児童の活用について ・ 遅延再生装置を設置した場で練習し,自分の動き Web カメラ を確認する。 ・ 友達と映像を見てアドバイスを言い合う。 ・ 跳び箱運動では,何秒の遅延にすると児童が確 プロジェクタ 認するのに最適か,いくつか試した。 「10 秒,7 LagMirrorをインストールした 秒,5秒,4秒,3秒」について試したが,5秒 ノートパソコン 遅延が児童に分かりやすいと考えた。 図2 遅延再生装置 壁に児童の動画を投影 (ウ) ipad ipad a 全体指導の場面について ・ 録画した児童の演技をプロジェクタに映す。 ・ 技を見せながら説明ができる。スロー再生で技 のポイントをつかむことができる。 プロジェクタ 動画に直接線を引いて,着 手など重要なポイントを 示すことができる。 図3 ipad(全体指導の場面) b 個人指導の場について ・ 教師が活動している児童の動画を撮影し,その場で コマ送りをしながら本人に見せ,技のポイントに気付 かせ,技能の向上を図る。 タイムテーブルを動かすこと ができ,見たいポイントで止 めることができる。 ・ 録画しておいた映像を紹介することで,技のポイン トに気付かせる。 図4 ipad(個人指導の場面) - 3 - (4) ICTを効果的に利活用した跳び箱運動の授業実践 平成 25 年4月 30 日~5月 23 日 ア 授業実践1 (第4学年 跳び箱運動) 平成 25 年5月 13 日実施 (ア) アンケート結果からの考察 表1 体育・単元に関する事前アンケート調査 男子 14 名 女子 17 名 計 31 名 はい どちらでもない いいえ 運動は好きですか 22 人(71%) 7 人(23%) 2 人(6%) 放課後に運動していますか 26 人(84%) 4 人(13%) 1 人(3%) 跳び箱は好きですか 20 人(65%) 7 人(23%) 4 人(12%) いつも思う ときどき思う ない 跳び箱が怖いと思ったことがありますか 2 人(7%) 15 人(50%) 23 人(77%) 跳び箱がつまらないと思ったことがありますか 0 人(0%) 7 人(23%) 23 人(77%) 跳び箱運動のどんなところが楽しい,おもしろいと感じますか。 ・高い跳び箱を跳べた時 ・失敗してもまた挑戦できるところ ・ほめられるところ・ジャンプするとき ・縦の跳び箱を跳ぶとき ・着地でポーズをきめるとき 跳び箱をするとき,どんなところがつまらない,怖いと感じますか。 ・高い跳び箱を跳ぶとき ・失敗してけがをしそう ・着地が怖い ・足,手,顔にあたりそうで怖い ・順番を守らない人がいる ・突き指をしたことがあるので怖い ・ミスして跳べなくなってから怖くなった ・跳び箱が揺れるので怖い ・首から落ちたことがあり,またなるかもしれないので怖い 運動が好きと答える児童は7割と,運動に対する意欲は高いが,跳び箱に関して言えば, 「好きでな い」と答える児童が1割を超え,跳び箱に対する恐怖心をもっている児童が5割を超えているため,恐 怖心を取り除き,意欲を高める工夫が必要である。 跳び箱運動を楽しいと感じるのは技能が高まったと実感している時や,周りから称賛や励ましの言葉 をもらった時であるということが分かる。つまらないと感じるのは技能の高まりを実感できないときや, けがなどの危険を感じる時であるということがうかがえる。特に今までけがをした経験のある子どもに その傾向が強く見られる。また,アンケートで知っている技を聞いたところ, 「普通の跳び方」 「足を閉 じた跳び方」 「台上前転」と3種類しか出なかったため,跳び箱運動の技についての知識は少ない。学 習カードを用いての学習もほとんど経験していない。 a ジャンプする時の姿,着地でポーズをとる場面を楽しいと感じているが,自分の姿を実際に見るこ とはできない。 b 教師から褒められることを大きな喜びと感じているが,終わった後に言葉で褒められただけは細か いポイントは分からない。 これらの a,b はICTを活用することによって改善を図ることが可能であろうと考える。 (イ) 教師の授業への意図 これらの実態を踏まえ,友達と関わり合いを大切にしながら,自分のめあてを達成することで跳び箱 運動の喜びを得られるようにする。また,基礎感覚が身に付いていない子どもも多いため, 「ぐんぐん タイム」で跳び箱運動の基礎となる腕支持・バランス・高さ・跳躍の感覚を高める運動に繰り返し取り 組ませることで基礎感覚を身に付けさせたい。 めあて1の活動では,跳び箱の段数だけにとらわれず,技の仕上がりに重きを置いて,発展した跳び 方ができる楽しみを感じられようにしたい。そのために,着地点の長さが分かるように,マットに距離 を表すラインを引いたり,着手の位置が分かるように跳び箱にラインを引いたりし,実際に映像を自分 で見ることで,技の出来栄えの高まりを感じさせたい。 - 4 - めあて2の活動では,たくさんの場を設置し,スモールステップごとに練習ができるようにする。学習 カードのステップ1ができたら2へ,2ができたら3へと,自分の能力に合わせて活動できるようにし, 友達ともお互いにチェックをし合い,声をかけ励まし合うことで楽しさを感じられるようにしたい。また, 跳び箱運動をつまらないと感じる児童も,活動に取り組みやすいよう工夫した場の設定を行う。技がなか なかできないもどかしさをもっているので,技ができるまでのスモールステップごとに評価をして,伸び が自分でも分かるようにしたい。そのために,図の入った学習カードを使い,技ができるようになるには, どのようなステップを踏むことが必要なのかを明確にし,一つ一つのステップができるごとに,シールを 貼り,喜びを味わえるようにしたい。 1つのステップ を終えると次の ステップまで進 む。 ここまででき たら,技の完 成!! ここからは,技を 技ができた さらにきれいにす らシール る た め の 発 展 技!! 図5 学習カード 図6 跳び箱運動系統表 表2 学習のねらいと道筋(全8時間 展開例 5/8) 1 2 3 4 5 6 ○オリエンテーション 集合・整列・あいさつ 10 ・学習のねらいと進 ○ 基礎感覚づくりの運動(ぐんぐんタイム)を行う。 め方、学習のルール や約束を知る。 めあて1 今できる技の完成度をより高める。 20 ・学習する技を試技 ・できる跳び方で、より大きく、より美しく跳び越す。 し、ポイントや場につ ・ひねりをいれたりして楽しむ。 いて知る。 7 30 ・今の自分の力を知 めあて2 もう少しでできそうな技に挑戦してできるようになる。 るために開脚跳びに 取り組む。 ・できそうな跳び方を決め、できそうな場や用具を使って跳べるようにする。 40 ・技のポイントごとに設けられた場で技に取り組む。 ○ まとめ ・学習カードの記入 ・感想発表 ・教師の話 ・あいさつ ・後片付け - 5 - 8 (ウ) ICT利活用のポイント a 遅延再生ソフト(LagMirror)を使って,自分の練習しているポイントがうまくできているのか確認する ことで,改善点を見付けさせ技の向上を図る。 b 教師が ipad を使って,活動している児童の動画を撮影し,コマ送り,停止などの機能を用いてうまくで きるためのポイントに気付かせる。 (エ) 展開例(5/8) 表3 5/8時の指導案 学習活動 は ※ 集合, 整列,あいさつをする。 じ ○ ぐんぐんタイムに取り組む。 め (手押し車,じゃんけん馬跳び,カエル足うちなど) 教師の働きかけと評価 ICT利活用 ○ ゲームの要素を取り入れ,遊び感覚で跳び箱運動 の基礎となる動きを習得できるようにする。 図7 ぐんぐんタイム(じゃんけん馬跳び) 図8 ぐんぐんタイム(カエルの足うち) めあて1 今できる技の出来栄えを高めよう な か ○ めあてを確認して練習する。 ・ 自分の活動したい場で今できる技に取り ○ 前回までの活動で技の出来栄えのよかった児童 の映像を見せ,技のポイントを復習する。 組む。 遅延再生装置 (プロジェクタ パソコン ・グループでお互いの伸びを確認する。 Web カメラ) ipad 図9 着地点を伸ばそうとしている児童 図 11 ipad で撮った映像を映してポイントの説明 ○ 自分の技をスクリーンの遅延再生を基に確認さ せ,工夫できるところをつかませる。 ○ つまずいている児童には,ipad で撮影した映像 図 10 遅延再生装置で確認するために技を試す児童 を見せて,自分の動きを確認させる。 安全に気を付けて,何度も繰り返し,技の練習をすることができる。 (関心・意欲・態度) - 6 - めあて2 新しい技に挑戦しよう ○ めあてを確認して練習する。 ・ 自分に合った場を選び,等質グループで 練習する。 ・ 互いに見合い,教え合いながら学習を進 ○ 自分の技をスクリーンの遅延再生を基に確認さ せ問題点をつかませる。 遅延再生装置 (プロジェクタ (踏みきりの位置,着手の位置,空間でのおしりの位 置,着地の位置を考えさせる。 ) パソコン Web カメラ) める。 ・ 映像を見て,自分の動きを確かめる。 ○ ipad で撮影したものを対象児童に見せて,自分 ipad の動きを確認させる。 (うまく跳べている児童の動 画と比較して,踏みきりの位置,着手の位置,おし りの位置,着地の位置などの違いに気付かせる。 ) 図 12 ipad を使ってアドバイスする教師 技ができるようになるためのポイントに気付き,工夫した場を選んで練習す ることができる。 (思考・判断) ま と め ○ 学習を振り返る ・ 学習カードに今日の感想を記入し,次回の めあてを立てる。 ・ 児童のよかった動きを紹介し跳び方のポイン トを考えさせる。 プロジェクタ パソコン ・ 今日の学習を振り返り,自分の頑張ったと ころや友達のよかったところを発表する。 ・ みんなで協力し,安全に気を付けながら, 用具を片付ける。 自分に合っためあてを立てることがで きる。 (思考・判断) 図 13 感想を記入している児童 (オ) 学習カードとアンケートを基にした分析 a 学習カードの記録より ・ 学習カードのめあての立て方に着目すると,○○を頑張 るというめあてを立てていた児童が,具体的なめあてを立 てるように変容してきた。これはテクニカルポイントを理 解し,それを意識して練習しようとしているからだと考え 図 14 A児のワークシート(めあて) られる。 ・ 毎時の感想では,遅延再生装置や ipad の映像を見た上で 改善点を書く児童が増えてきた。視覚により技が成功する ためのポイントについての認識が高まり,自分の課題に気 付いたからだと思われる。 図 15 B児のワークシート(めあて) - 7 - b 学習後のアンケートより 25 22 22 25 13 15 15 5 つも 20 20 2015 10 7 4 8 20 5 5 2 0ときどき 0 ない どちらでもない はい 図16 25 22 15 2 20 13 15 事前 事前 10 事後 5 22 25 22 10 事後 事前 7 8 4 5 事後 10 4 5 1 1 いつも いいえ 0 15 ときどき はい 運動は好きですか 図17 ない どちらでもない 0 いいえ 跳び箱は好きですか 22 25 20 15 15 事前 10 事後 22 15 13 13 事前 事後 5 25 0 いつも 4 5 4 2 ときどき いつも ときどき ない ない 図18 怖いと思ったことがありますか ・ 運動は好きか嫌いかとの問いについては,事前と事後を比べるとさほど変わりはなかった。 → 飛躍的な変化までは見られなかった。 ・ 跳び箱は好きですかという項目については「はい」と答えた児童が2人増え, 「いいえ」と答えた児童 が3人減った。 → ICTを取り入れた授業を行ったことで,跳び箱運動に対する関心を高めることが多少はできたの ではないかと考える。 ・ 跳び箱運動が怖いと思ったことがありますかという問いに「ない」と答えた児童が9人も減った。 → 技を失敗した姿を自ら見ることで,恐怖心をもつ児童が増えたということが分かる。しかし,技に 挑戦する児童は減らなかったことから,ふざけたり失敗したりすると危ないという認識が以前より高 まり,安全に気を付けて取り組むようになったと考える。 ・ ICT機器を使ってよかったか調査をしたところ,遅延再生装置については,31 人中 25 人がとても よかった,まあまあよかったと回答した。ipad については 31 人中 24 人がとてもよかった,まあまあよ かったと回答した。 → ICT機器が児童の関心を高め,活動によい効果を与えることができたと考える。 ・ 遅延再生装置を活用しての感想では, 「自分のよいところ,悪いところを人がいなくても自分で確認で きたので嬉しかった」 「自分でも見られるけど,周りの人からもアドバイスがもらえた」 「自分で間違い が直せるからよかった」 「自分の跳び方を見て勉強できた」などがあった。 → うまく活用できた児童にとっては,大変価値のあるものとなったと考える。 ・ ipad を活用しての感想には, 「みんながどんなふうに頑張っているか分かった」 「途中で止めたりして, コツが分かりやすかった」 「一回見たいところに戻れて見られるからいい」 「先生が ipad で自分のよかっ たところやアドバイスをしてくれた」 「ゆっくり見られて,だめなところもよいところも見られた」など があった。 → 説明する時に実際の児童の動きを示してその場で見せることができるので,大変価値のあるものと なったと考える。 イ 授業実践2(第4学年 マット運動) 平成 25 年 10 月9日 実施 (ア) ICTの利活用について 遅延再生装置を利活用し,自分の練習しているポイントがうまくできているのか確認することで,改善点 を見付けさせ技の向上を図る。 (低位の児童も利用できやすいように遅延再生装置を2つ設置する。 )教師が タブレットPCを使って,活動している児童の動画を撮影し,コマ送り,停止などの機能を用いてうまくで きるためのポイントに気付かせる。 - 8 - 事前 事後 (イ) 展開例(2/8) 表4 2/8時の指導案 学習活動 指導上の留意点 ※集合・整列・あいさつをする。 ○ すばやくできるように声を掛ける。 1 ぐんぐんタイムに取り組む。 ○ ゲームの要素を取り入れ,遊び感覚でマット運動の基礎となる動きを習得できる (カエル足うち,イヌさん,ウマさん,アザラシさん, ようにする。 手押し車前転など) めあて1 今できる技の出来栄えを高めよう 22 めあてを確認して練習する。 ○ 前回までの活動で技の出来栄えのよかった児童の映像を見せ,技のポイントを復 ・ ・ 自分の活動したい場で,今できる技に取り組む。 ・ グループでお互いの伸びを確認する。 ◎ ICTの活用の場面 習する。 ○ つまずいている児童には,タブレットPCで撮影した映像を見せて,自分の動き を確認させる。 スクリーンの遅延再生映像をもとに自分の技を確認させ,工夫できるところをつかませる。 (LagMirror をインストールしたPC,プロジェクタ,Web カメラ) めあて2 新しい技に挑戦しよう 図 19 ipad で助言を受ける児童 3 めあてを確認して練習する。 ・ 自分に合った場を選び,等質グループで練習する。 ○ 一回一回を大切に行っているかを観察し,必要に応じて助言する。 ○ 自分の技をスクリーンの遅延再生を基に確認させ問題点をつかませる。 ・ 互いに見合い,教え合いながら学習を進める。 ・ 映像を見て,自分の動きを確かめる。 タブレットPCで撮影したものを対象児童に見せて,自分の動きを確認させる。 (うまくでき ている児童の動画と比較して,着手の位置,おしりの位置,姿勢などの違いに気付かせる。 ) 4 学習を振り返る。 図 20 技を試す児童 ・ 学習カードに感想を記入し次回のめあてを立てる。 ○ 自分に合うめあてが立てられるよう,スモールステップを示し助言を行う。 ・ 今日の学習を振り返り,自分のがんばったところや 友達のよかったところを発表する。 ○ 児童のよかった動きを紹介し,技がきれいにできるためのポイントを考えさせ る。 タブレットPCで撮影した,動きのよい児童の映像を壁に映し,技のポイントに気付かせる。 使用機器:タブレットPC(Coach’s Eye をインストールしたもの),プロジェクタ ・ 協力し,安全に気を付けながら,用具を片付ける。 ○ すばやく安全にできるよう声掛けを行う。 図 21 技の紹介 (ウ) 学習カードを基にした分析 ・ 跳び箱運動の授業で遅延再生装置を活用できなかった児童も,今回は遅延再生装置を使って,自分の技 を確認し技の改善につなげることができた。 → 跳び箱運動の時,遅延再生装置は高度な技を練習する児童が自分の動きを確認する場となってしまっ ていたが, 2台設置したことで, 簡単な技に挑戦する児童も利用し技のポイントをつかむことができた。 ・ マット運動においても,遅延再生装置や ipad を使って着手位置,姿勢などの動きを確認することで,意 欲的に練習に取り組む姿がたくさん見られた。 → 跳び箱運動だけでなく,器械運動の授業でICTを利活用することは,児童の関心や意欲を高めるこ とにつなげることができ,とても有効であると考える。 - 9 - 6 研究の成果と課題 (1) 研究の成果 インターネットで実際の技を視覚的に認識することで多くの技とポイントの習得につながった。 遅延再生装置を使って自分の動きを視覚的に確認することができたため,自分たちで,どこをどうすると, もっときれいな技になるのか考え,友達と関わりながら練習を進めることができた。 ・ 自分の動きを視覚的に確認できるので,どんな練習をするといいのか,自分でつかむことができた。 ・ 発展技へも進んで取り組み,技の完成度に着目することができた。 ・ 技が完成して終りではなく,映像を見ることで友達の技と比較し,技の美しさに着目して発展技の練習 へつなげることができた。 ・ 学習の道筋が明らかになり,意識して技に取り組むことでより高度な技にも挑戦することができた。首 はね跳び(7人) ,頭はね跳び(4人)と多数の児童が技を完成させることができた。 ・ 1時目は開脚跳び,台上前転しかできなかった児童たちが,たくさんの技をできるようになった。 ・ 苦手な児童も意欲をもって取り組み,楽しそうに挑戦する姿が見られた。 以上のことから,ICT機器を工夫して使うことによって,視覚的に自分の動きを確認することができ, 多くの児童がつまずきの状況やそれを克服するための技のポイントをつかむことができ,運動技能の向上を 図ることができた。 (2) 今後の課題 ・ プロジェクタの設置,カメラの設置,パソコンの起動などのICT機器の準備に手間と時間がかかる。 ・ ICT機器を利活用することは体育の授業においてある程度効果があるが,ICT機器に頼り過ぎては いけない。即座に見ることができる,紙媒体による図の掲示も必要である。 ・ 恐怖心を少なくするためにどういう手立てを取るとよいか,ICTの視点からも考える必要がある。 ・ ほかのICT機器も効果的に活用する手立てはないのか考える必要がある。 ・ 視覚的に自分の動きを確認することができても,技のポイントが分からないとうまく活用することがで きず,できない部分だけを見てしまうことになり,関心・意欲の向上にもつながらないことがある。 7 総合考察 器械運動では,自分の動きを確認できたとしても,つまずきの状況を自分でつかむことがとても難しい。 また,技のポイントをつかむことも難易度が高い。しかし,今回の実践を通して,体育の授業においても, ICT機器を工夫して使うことによって,視覚的に自分の動きを確認することができれば,つまずきの状況 をつかむことができ,運動技能の向上を図ることが,ある程度はできるということが分かった。今後タブレ ット端末が導入されていくと,より一層有効な手立てとなるだろう。 児童が更に進んで活動できるようになるには,適切な助言や資料の活用,場の工夫が不可欠である。その ためには,手立てのすべてをICT機器に頼るのではなく,即座に見ることができる紙媒体による図の掲示 なども併せて使うことが大切である。ICT利活用には目的意識がとても重要である。 今回使ったICT機器以外にも活用できそうな機器がたくさんあるので,今後は,器械運動だけでなく, いろいろな授業で利活用の可能性を探していきたい。 ≪参考文献≫ ・ 文部科学省 『小学校学習指導要領解説 体育編』 2008 年 8 月 東洋館出版社 ・ 髙橋 建夫編著『新学習指導要領準拠「新しいマット運動の授業づくり」 』 2008 年 大修館書店 ・ 髙橋 建夫編著『新学習指導要領準拠「新しい跳び箱運動の授業づくり」 』 2009 年 大修館書店 ・ 戸川 克 『新学習指導要領対応「マット運動の指導法」 』 2010 年 小学館 ・ 堀江 文利監修『新学習指導要領対応「跳び箱運動の指導法」 』 2010 年 小学館 - 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