Comments
Description
Transcript
脂肪酸が付いた 持効型溶解インスリン製剤の誕生
第 418 号 2013 年 (平成 25 年)1 月 5 日発行(毎月 1 回 5 日発行)1977 年(昭和 52 年)4 月 1 日創刊 ISSN 0913-3380 インスリン製剤の 変遷をたどる 第9回 (6) 脂肪酸が付いた 持効型溶解インスリン製剤の誕生 新たな持効型溶解インスリンを求めて 新たな持効型溶解インスリンを求めて ●粟田 卓也(埼玉医科大学内分泌・糖尿病内科) 新たな持効型溶解インスリンを求めて 前回(2012 年 DITN 11月号)に紹介し デテミル (商品名レベミル®)は 2004 年(国 少)のためと考えられている。個体内変 3価コバルトインスリン イ と考えられた。しかしながら、NPH 内では 2007 年)に発売された(図 3) 。 動の少なさはインスリン効果の予測性を高 ンスリンに優る利点は認められず製剤化 たインスリン グラルギンはヒトインス 3価コバルトインスリン 長により持続性効果がもたらされるもの には至らなかった。 リンアミノ酸配列の修飾により中性環境 3価コバルトインスリン アルブミンとの結合と持続性効果 下では難溶性の沈殿となることから持続 製剤は無色透明の中性溶液であり、注 め、血糖コントロールの改善に寄与する 射後の皮下組織においても沈殿せずに溶 だけでなく、予期しない高血糖や低血糖 アルブミンとの結合と持続性効果 解したままである。ミリスチン酸部分の接 を少なくすることができるので、患者 QOL 触により6 量体が 2 つ結合したダイヘキサ の改善にもつながる。それ以外にも、イ 的な効果を示すことに成功したが、別の アルブミンは細胞外液に最も豊富に含 マーが形成されることと (図 4) 、ダイヘキ ンスリン デテミルは、インスリン治療にお 新たな持効型溶解インスリンを求めて 方法による持続性製剤の開発も進められ まれるタンパクであるが、微量元素・脂 サマー、6 量体、2 量体、単量体の各段 脂肪酸が付いたインスリン製剤の誕生 ける重要な問題である体重増加が他の基 アルブミンとの結合と持続性効果 ていた。3 価コバルトインスリンと脂肪 肪酸・酵素・ホルモンなどの内因性物質 脂肪酸が付いたインスリン製剤の誕生 階の状態で、皮下組織液中のアルブミンと 礎インスリンに比べて少ないという利点も 酸を付加したインスリンである。 や外因性の薬物などを吸着し運搬する。 ミリスチン酸が結合することによる血液中 認められる。 1995 年に、クルツハルスらは、B 鎖 29 位 への吸収遅延のために効果の持続性がも リジンのεアミノ基に炭素数 10 ∼ 16 の直 たらされる。血液中ではインスリン デテ 原子番号が 27 の遷移元素であるコバ さらなる改良を目指して 鎖飽和脂肪酸を付加したインスリンア ミルは 98 %がアルブミンと結合している 生理的なインスリン基礎分泌補充を目 ルトは、生体ではビタミン B 12 に含まれ ナログについて検討し、アルブミンと が、この結合は作用の遅延には少ししか 的とした、理想的なインスリンアナログ ている。第 6 回(2012 年 DITN 7 月号)で アルブミンとの結合と持続性効果 の結合度が動物における効果の持続性 影響しない。なお、血液中のアルブミン 製剤として期待されることとして、少な 超速効型インスリン製剤の 紹介したように、 ヒトインスリンは 3 個の さらなる改良を目指して と強く相関することを見いだした。そ 超速効型インスリン製剤の 新たな持効型溶解インスリンを求めて の中で、炭素数 14 のミリスチン酸を付加 ラインナップ 分子の数万分の 1 程度にしか結合しない くとも24 時間以上の持続性、 ラインナップピークのな ため、低アルブミン血症患者における効 い平坦な効果、個体間および個体内変動 し B 鎖 30 位のトレオニンを除いたインス 果の不安定性といったことは生じない。 が少ないことなどがある。しかし、持効 3価コバルトインスリン 脂肪酸が付いたインスリン製剤の誕生 持効型溶解インスリン製剤の誕生 2 量体が集まった 6 量体の結晶を形成す るが、2 価の陽イオンである亜鉛イオンが さらなる改良を目指して 2脂肪酸が付いたインスリン製剤の誕生 個配位することで安定化する。ノボ ノル 超速効型インスリン製剤の ディスク社・ノボ研究所のクルツハルス ラインナップ らは、亜鉛をコバルトに置換したインスリ リンアナログ(図 2)の効果が最も遅延す 臨床試験においては、インスリン レベ 型溶解インスリン製剤として登場したイ ることが注目され、新しい溶解性の持続 3価コバルトインスリン ミルの特徴として、持続性とともに効果 ンスリン グラルギン、インスリン デテミ 性インスリンアナログとして開発が進めら の安定性が認められた。基礎インスリン ルともに、NPHインスリンに対する優越 ン結晶の可能性に注目する。2 価亜鉛イオ れることとなった。なお、このインスリ 分泌補充として従来用いられてきた NPH 性は超速効型インスリンとの組合せによ ンを 2 価コバルトイオンで置換した 6 量体 ンアナログは、トレオニンを除いて( des インスリンでは、効果の個体内変動によ る HbA1c の改善や夜間低血糖の減少な 結晶を、さらに酸化することより作出さ アルブミンとの結合と持続性効果 threonine) ミリスチン酸<myristic(mir) る不安定な血糖変動が大きな問題であっ どとして認められたが、その限界も次第 れる 3 価コバルトインスリン結晶は、きわ acid>を付加してあることから、デテミ た。インスリン デテミルでは、インスリン と明らかとなってきた。そのため、ノボ めて安定である (図 1) 。 超速効型インスリン製剤の ル(detemir)と命名された(図 3) 。 効果の個体内変動が NPH インスリンの半 ノルディスク社は、さらに安定して長い 分以下であり、インスリン グラルギンより 持続時間を持つインスリンアナログ製剤 も優れていた(図 5) 。国内の 1 型糖尿病 の開発を進めることとなった。 さらなる改良を目指して 3 価コバルトインスリンは中性溶液で可 ラインナップ 脂肪酸が付いたインスリン製剤の誕生 溶性であり、皮下注射後でも沈殿しない が持続性効果を示す。2 価コバルトイン 非臨床試験において緩徐で持続的な薬 を対象とした臨床試験でも、NPHインス スリンは 2 価亜鉛インスリンとほぼ同様の 理作用と安全性が確認された後に、ヨー リンと比較して、空腹時血糖の低下とと 薬物動態を示すことや、3 価コバルトイ ロッパおよび日本において行われた臨床 さらなる改良を目指して もに個体内変動の有意な低下が認められ ンスリンがインスリン受容体と結合しない 試験において、NPHインスリンと比べて、 た。皮下組織で沈殿が生じない点と、血 ことから、3 価コバルトインスリンが 2 価 よりピークが少なく、より持続性の高い 中でのアルブミン結合によるバッファリ に還元される段階および血中半減期の延 製剤であることが認められ、インスリン ング効果(遊離インスリン濃度の変動が減 参考書籍 1)粟田卓也 : インスリンアナログ製剤の薬理学的特徴 と有効性, 安全性. 月刊糖尿病 2010; Vol.2 No.6: 2132. 2)小坂樹徳, 門脇孝 : 糖尿病診療の歩みと展望. 文光堂. 2007; pp337-349. 3)Kurtzhals P: Int J Obes 2004; 28(Suppl 2) : S23-S28. 4)Russell-Jones D: Int J Obes 2004; 28(Suppl 2) : S29S34. 超速効型インスリン製剤の ラインナップ L C14 直 (ミ 鎖飽和 リス チン 脂肪酸 酸) L L ブドウ糖注入率 (mg/kg/min) 8.0 Pro Co N N N Thr 17A N 35A N N Co L L Thr Phe Gly Arg Tyr Phe Glu A21 Asn Cys A1 Gly Leu Asn Leu Leu Glu Cys Glu Tyr Cys Thr Ser Ⅰle Cys Ser Leu His Ser B1 Phe Val Asn Gln His Leu Cys Gly 4.0 2.0 0 0 * 60 6 8.0 12 18 24 インスリン グラルギン 6.0 個 50 体 内 変 40 動 4.0 2.0 0 Diabetes 1995; 44: 1381-1385. 30 図1 3価コバルトインスリン6量体の立体構造 インスリン1分子を除いて表示してある。2個の3価コバ ルトイオンが、 それぞれ3分子のインスリンとB鎖10位の ヒスチジン部位(Nとして表示) で水素結合を形成する。 また、上下各3個の疎水性ポケットには溶液由来の水 分子や塩素イオンなどのリガンドが結合する (Lとして 表示)。 6.0 * Val Leu 50A 70 Ala Gln Gln (%) 80 Tyr Glu Val L NPHインスリン Val Tyr Ⅰle インスリン デテミル インスリン グラルギン Gly Cys Lys B29 インスリン デテミル 0 6 8.0 20 図2 インスリン デテミルの1次構造 12 18 24 18 24 NPHインスリン 6.0 10 4.0 0 *p<0.05 2.0 0 0 6 12 時間 Diabetes 2004; 53: 1614-1620. 図5 2種類の持効型溶解インスリンおよびNPHインスリンの個体内変動の比較 インスリン デテミル6量体 図3 脂肪酸を付加した持効型溶解インスリン製剤 ダイヘキサマー 図4 インスリン デテミル6量体とダイヘキサマー 右に代表的な症例におけるインスリン効果のプロファイルが示されているが、1型糖尿病 患者における皮下注射後24時間のインスリン効果(ブドウ糖注入率、GIR)の曲線下面 積を4日間測定した時の個体内変動(変動係数、CV) は、 インスリン デテミル(18例)、 イン スリン グラルギン(16例)、NPHインスリン(17例)の順に大きくなり、有意差が認められた。 (7) 第 418 号 2013 年 (平成 25 年)1 月 5 日発行(毎月 1 回 5 日発行)1977 年(昭和 52 年)4 月 1 日創刊 ISSN 0913-3380 インスリン製剤の 変遷をたどる 第35回 糖尿病スタッフ教育研究会 妊娠とインスリンアナログ製剤 妊娠時には母体および胎児の合併症 盤は通過しないと考えられてはいるも を防ぐために厳格な血糖コントロール のの、インスリン抗体とそれに結合し が必要であり、生理的なインスリン分 たインスリンは胎盤を通過することが 泌をうまく再現するインスリンアナロ 認められ(図 6) 、巨大児の成因となっ グ製剤のほうが適している。しかしな ている可能性も指摘されている。 がら、ヒトインスリンと異なる細胞増 アメリカ食品医薬品局(FDA)の分類 殖活性や免疫原性が胎児に悪影響を及 では、胎児に対する薬剤の危険度はA ぼす懸念もあり、インスリンアナログ のほぼ安全からXの禁忌まで 5 つのカ 製剤についての妊娠への安全性は個々 テゴリーに分かれる(表) 。インスリン に検討されなければならない。ヒトイ アナログ製剤に関しては、従来は超速 ンスリン、インスリンアナログともに、 効型インスリンのインスリン リスプロ 非生理的な血中濃度に至らなければ胎 およびインスリン アスパルトのみがヒ ■日 時:2013年4月20日(土) 16 : 00∼4月21日(日) 12 : 10 ■会 場:上郷・森の家 横浜市栄区上郷町1499-1 TEL 045-895-2211 ■内 容: 《4月20日(土)》 1型、 2型糖尿病患者さんのご講演/グループディスカッション 《4月21日(日)》早朝ウォーキングおよび講習 特別講演:東京女子医科大学糖尿病センター 内潟 安子 先生 《両日》患者疑似体験(SMBG体験)予定(体験は拒否することも可能です) ■参加対象:医療関係者 ■参加費:10,000円 ■申込・問合先: ノボ ノルディスク ファーマ(株)横浜オフィス 「糖尿病スタッフ教育研究会」担当 迄 住所、電話番号、氏名、性別、職種をご連絡下さい。 【TEL】 045-474-0361 【FAX】 045-474-0347 参加費の振込みをもって受付完了と致します。 振込先:郵便口座名 糖尿病スタッフ教育研修会 記号10280 番号84681501 ※日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位(第2群) ※日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位(第1群:看護の研修) ※日本糖尿病療養指導士認定更新のための研修単位(第1群:栄養士の研修) ※神奈川県糖尿病療養指導士(KLCDE)認定更新のための研修単位 以上の単位申請を予定しております。 トインスリンと同等のカ テゴリー B であったが、 (pmol/L) 4000 相関係数0.76 p<0.001 3000 動 物 イ ン ス リ ン 最近の NPH インスリンを 対照とした前向きランダ ム化比較試験の結果を受 けて、持効型溶解インス 2000 リンのインスリン デテ ミルは従来のカテゴリー 1000 C からカテゴリー B に引 き上げられた。耐糖能異 0 0 10 20 30 40 50 インスリン抗体(%結合率) N Engl J Med 1990; 323: 309-315. 常妊婦にとっては朗報で ある。 図6 1型糖尿病母体からの出生児45例における 臍帯血血清中のインスリン抗体と動物インスリンの検出濃度との相関 表 医薬品の胎児危険度分類(FDA) カテゴリーA ヒトの妊娠初期3カ月間の対照試験で、胎児への危険性は証明されず、 ま たその後の妊娠期間でも危険であるという証拠もないもの。 カテゴリーB 動物実験では胎仔への危険性は否定されているが、 ヒト妊婦での対照試 験は実施されていないもの。あるいは、動物実験で有害な作用が証明され ているが、 ヒトでの妊娠期3カ月の対照試験では実証されていない、 またそ の後の妊娠期間でも危険であるという証拠はないもの。 カテゴリーC カテゴリーD 動物実験では胎仔に催奇形性、胎仔毒性、 その他の有害作用があること が証明されており、 ヒトでの対照試験が実施されていないもの。あるいは、 ヒト、動物ともに試験は実施されていないもの。注意が必要であるが投薬 のベネフィットがリスクを上回る可能性はある。 ヒトの胎児に明らかに危険であるという証拠があるが、危険であっても、妊 婦への使用による利益が容認されることもありえる。 カテゴリーX 第8回 九州糖尿病看護スキルアップセミナー ■日 時:2013年2月11日(月・祝) 9 : 25∼16:45 ■会 場:九州大学医学部百年講堂 ■内 容: ・特別講演「認知症と糖尿病∼アルツハイマー病にならないために∼」 大分大学総合診療科学講座 診療講師 吉岩 あおい 先生 ・講演「認知症を患う高齢者の理解とケア」 社団医療法人 製鉄記念広畑病院 老人看護専門看護師 森山 祐美 先生 ・講演「認知症介護と認知症ケアマネジメントについて」 いまじん介護相談室(居宅介護支援事業所)主任介護支援専門員 工藤 美奈子 先生 ・講演「糖尿病療養指導士を活用した地域連携パス」 医療法人 社団シマダ 嶋田病院 内科部長 赤司 朋之 先生 ・講演「地域連携パスにおけるコーディネートナースの役割」 医療法人 社団シマダ 嶋田病院 福岡県糖尿病療養指導士 糖尿病連携コーディネートナース 坂本 則子 先生 ・講演「佐賀県糖尿病地域連携の取り組み∼地域とつながるチーム作り」 佐賀大学医学部附属病院 糖尿病看護認定看護師 藤井 純子 先生 ■参加費:JADEN会員 事前申込3,000円、当日参加3,500円 JADEN非会員 事前申込5,000円、当日参加5,500円 (参加費には昼食代が含まれています)※定員300名(会員優先、先着順) ■申込・問合先:往復はがき、 1人1枚(連名は無効)に、下記の必要事項を記入の上、 お申込 みください。必要事項:①氏名、 ②JADEN会員番号、 ③住所、 ④施設名と所属、 ⑤TEL番号、 ⑥FAX番号、⑦職種、⑧復側のはがきの表書き(ご自分の郵便番号、住所、氏名) 送付先:〒862-0976 熊本県熊本市九品寺6-2-3 医療法人 社団陣内会 陣内病院 川口 はるみ宛 担当・問合先:【FAX】 096-364-2654 陣内病院 川口はるみ宛 申込締切:平成25年1月24日(木) (当日消印有効) 受講決定通知:12月3日以降順次発送いたします。セミナーに関してのお問い合わせは FAXに限らせていただきます。お返事もFAXでいたしますので、問い合わせの際には必ず ご自分のFAX番号をご明記ください。 ※日本糖尿病教育・看護学会より<第1群>4単位(申請中) ※日本糖尿病療養指導士認定機構より<第2群>2単位(申請中) のいずれかの取得ができます。 D I T N 編 集 部 よ り DITN紙では、読者の皆さまから「Q&A」のテーマを募集しています。 「Q&A」のほか、読みたいテーマなどがございましたら、施設名、住所、氏名、 職業、電話番号を明記のうえ、FAXまたはE-mailにてお寄せください。 動物またはヒトでの試験で胎児異常が証明されている場合、 あるいはヒト での使用経験上胎児への危険性の証拠がある場合、 またはその両方の 掲載分には記念品を進呈いたします。 場合で、 この薬剤を妊婦に使用することは、他のどんな利益よりも明らかに 危険性の方が大きいもの(事実上の禁忌)。 宛先 DITN編集部 FAX:03-3265-5820 E-mail:[email protected]