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景気循環論
景気循環論 vol.16 小巻泰之 サスティナビリティとプラザ合意 開放経済下での経済政策の効果 本日の講義は, サスティナビリティ(維持可能性)とはなにか 経常収支の不均衡を是正する必要はあるのか. 解決する方法としてとられた「価格(為替)調整」 を扱います. (内外環境) ① 米国の双子の赤字(財政収支の赤字と経常収支の赤字) ② 米国経済の持続可能性(サスティナビリティ)問題として提起 by Paul Krugman ⇒ ドル暴落への懸念 ③ 対外不均衡の是正を国際協調で,国内不均衡は財政収支均衡法(グラム・ラドマン法)で ⇒85 年 12 月,財政収支均衡法(グラム・ラドマン・ホリングス法,GRH 法)を制定,財政赤字削減の取組 開放経済下での経済政策の効果 ポリシーミックスによるドル高 ⇔ 経常収支赤字によるドル安圧力 この2つは,共存することはできない. ドル暴落の懸念が高まる ドルが暴落してもアメリカは困りません. 困るのは,あなた方ではないですか?? 国際収支不均衡の是正のための考え方 1. 2. 3. 4. 弾力性アプローチ アブソープション・アプローチ ISバランスアプローチ 国際収支の発展段階説 弾力性アプローチ 輸出,輸入それぞれの要因で決定される マーシャル=ラーナーの安定条件 (輸出の価格弾力性)+(輸入の価格弾力性)>1 であれば,通貨安によって経常収支が改善 ※価格弾力性:為替が1単位変化した場合の需要の変 化分を意味する. 為替レートを直接調整すれば,良いじゃないか! アブソープション・アプローチ 国内需要を上回る分は,海外需要で吸収.これが黒字 Y = C + I + G + (X − M ) ⇒ X − M = Y − (C + I + G ) 国内で生産された分の内,国内で消費されない分が輸 出入となる 日本が内需拡大すれば良いじゃないか! ISバランスアプローチ 経常収支の黒字は,国内貯蓄超過を意味する Y = C + I + G + (X − M ) Y = C + S + T ⇒ X − M = (S − I ) + (T − G ) ・経常収支黒字は一国の経済構造(バランス)の結果 ・小手先(為替調整や内需拡大など)で調整されない アメリカの過剰消費,投資こそ問題であり, 日本だけの問題ではない! 国際収支の発展段階説 一国のISバランスが経済発展に対応して変化 国際収支の発展段階説の概要 発展段階 経済状況 財・サ 投資 経常収支 対外資産 第①段階 未熟な債務国 経済発展の初期段階では、国内産業の国際競争力が弱く財貨・サービスの収支 は赤字となる。一方、投資収益収支は、国内貯蓄の不足から海外からの資本が 流入し資本収支は赤字となり、対外債務残高は増加する(債務国)。両収支を合 わせた経常収支は赤字となり、資本収支は黒字となる。 ▲ ▲ ▲▲ ▲ 第②段階 成熟した債務国 経済構造の高度化に伴う国際競争力が高まりから、輸出超過となり財貨・サービ ス収支は黒字に転じる。一方、投資収益収支は、国内資本の不足から赤字が続 く。この結果、経常収支は赤字であるがその規模は縮小に向かい、資本収支は黒 字も縮小する。対外債務残高はさらに拡大する。 + ▲ ▲ ▲▲ 第③段階 債務返済国 輸出超過状況が続き、財貨・サービス収支黒字が投資収益収支の赤字を上回る と、経常収支は黒字に転じ、資本収支は赤字となる。経常収支の黒字化により、 対外債務が返済され、対外債務残高は徐々に縮小に向かう。 ++ ▲ + ▲ 第④段階 未熟な債権国 財貨・サービス収支の黒字が継続により、対外債務の返済が完了し対外純債権 が増加に転じる(債権国)。投資収益収支は黒字に転じ、経常収支の黒字幅は拡 大基調を強める。 + + ++ + 第⑤段階 成熟した債権国 国際間での相対的な競争力の低下(後発国の競争力の高まり)から、輸出鈍化・ 輸入拡大が続き、財貨・サービス収支は赤字に転じる。しかし、対外債権残高の 存在からの投資収益収支の黒字は続き、経常収支は黒字、資本収支は赤字を維 持する。 ▲ ++ + ++ 第⑥段階 債権取り崩し国 財貨・サービス収支の赤字が投資収益収支の黒字を上回り、経常収支は赤字に 転じる。この結果、資本収支は黒字に転じる。ストック面は健在(対外債権)だが、 フローでの収入は赤字であることから、徐々に債権は取り崩されていく。 ▲▲ + ▲ + 経済の発展段階が解決する問題.仕方ないでしょ! しかし,アメリカの圧力により・・・ (1)価格政策:プラザ合意(G5,1985年10月) ・国際協調:為替への介入 ⇒85年9月244円~86年8月までの1年間に153円,60%の円高. (2)数量政策 ・輸出面:自動車の自主規制,日米共同報告書(1986年1月) による輸出削減 ・輸入面:「対外経済政策」(1986年4月):関税引下げ,輸入 検査手続きの簡素化 やっぱり,最後は円高がやってきました. ニクソンショックと同じ帰結となりそうです 急激な円高 レーガノミックスとドル高 (円) 320 280 プラザ合意 240 200 160 120 7604 7704 7804 7904 8004 8104 8204 8304 8404 8504 8604 8704 (年月) 過去のペースを上回る急激な円高 急激な円高への対応策(1) ①金融の大幅な緩和: 公定歩合:86年1月5%→87年2月2.5% マネーサプライ:87年度から4年連続で2桁増加 急激な円高への対応策(2) ②景気後退期末期の財政政策(86/9総合経済対策,87/5緊急経済対策) → 景気の谷は1986年11月.なぜ,財政政策は遅れたのでしょうか?