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ネパール・ゴルカ地震調査速報

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ネパール・ゴルカ地震調査速報
2015 年ネパール・ゴルカ地震被害調査速報
2015 年 6 月 20 日
OYO インターナショナル株式会社
応用アール・エム・エス株式会社
株式会社イー・アール・エス
はじめに
ネパール・ゴルカ地震の被災者の方々に謹んでお悔やみとお見舞いを申し上げます。
地震により被災にあわれた方々にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方やそのご家族には心よ
りお悔やみを申し上げます。
また、一日も早く復旧を果たされることをお祈りすると同時に、被災された皆様が平穏な暮らしを取
り戻せるよう心よりお祈り申し上げます。
ネパールに心を寄せる私どもが被災地を巡り、見聞きし考えたことが、どなたかのお役に立ち、ネパ
ールの復旧・復興に微力ながらも貢献できればと考え、被災地の状況を記録にとどめ、ここに公開させ
て頂きます。
被害調査メンバー代表
OYOインターナショナル株式会社
地震防災部長 金子史夫
目次
1
調査の概要 ..............................................................................................................
(金子 史夫) 1
2
地震の概要と地震動 ................................................................................................
(金子 史夫) 3
3
地形および地質 .......................................................................................................
(時実 良典) 6
3.1
4
5
6
7
カトマンズ盆地の地形地質概要 .................................................................................................. 6
3.1.1
基盤岩 ................................................................................................................................... 6
3.1.2
カトマンズ盆地堆積物.......................................................................................................... 6
3.2
段丘構成層 ................................................................................................................................... 7
3.3
建物被害状況 ............................................................................................................................... 8
3.3.1
Chapagau ............................................................................................................................. 8
3.3.2
Kirtipur ................................................................................................................................ 8
3.3.3
Parigau................................................................................................................................. 8
アンケート震度と高層アパート被害 ....................................................................
(長谷川浩一) 10
4.1
アンケートによる震度調査 ....................................................................................................... 10
4.2
高層アパートでのアンケート震度調査の試み .......................................................................... 11
4.3
高層アパートの被害 .................................................................................................................. 12
4.4
考察 ............................................................................................................................................ 13
建物被害 ................................................................................................................
(中嶋 洋介) 15
5.1
Around the Bus Park ............................................................................................................... 15
5.2
Bhaktapur 市および Kathmandu 市の中心街 ......................................................................... 17
5.3
Bhaktapur ................................................................................................................................. 18
5.4
Kathmandu Durbar Square -Thamel ..................................................................................... 19
5.5
Chautara ................................................................................................................................... 19
5.6
おわりに ..................................................................................................................................... 20
コミュニティ防災 .................................................................................................
(ショウ智子) 21
6.1
背景と目的 ................................................................................................................................. 21
6.2
対象地域 ..................................................................................................................................... 21
6.3
被害の概況 ................................................................................................................................. 21
6.4
コミュニティ防災活動を取り巻く状況の変化 .......................................................................... 22
6.5
ヒアリング結果 .......................................................................................................................... 23
6.5.1
ラリットプール市 16 区ナグバハールコミュニティ.......................................................... 23
6.5.2
カトマンズ市 34 区............................................................................................................. 24
6.6
避難に関して ............................................................................................................................. 25
6.7
まとめと考察 ............................................................................................................................. 27
謝辞 ................................................................................................................................................... 28
1
調査の概要
20 世紀末頃から大きな被害をもたらす大地震が各地で頻発している。2 万人余の犠牲者を出した 2001 年
1 月のインド・グジャラート州の地震直後に、ネパール・カトマンズ盆地を対象にして地震被害想定と地震
防災対策の調査が行われ、将来の大地震による被害への警鐘が鳴らされたが、13 年後に痛ましい被害が現実
のものとなってしまった。
この 2015 年ネパール・ゴルカ地震被害調査の目的は、被災したカトマンズ盆地での地震被害状況を調べ
て記録として残し、今後の地震対策や調査の参考資料としていくことが第一である。また、一方では、上述
のように、2001 年から 2002 年にかけて実施した地震被害想定および地震防災対策計画の成果がどのように
活かされたのか、あるいは活かされなかったのかを確認して、今後の類似調査のあり方を探る材料にしたい
ということがもう一つである。
こうした目的を達成するために、いくつかの分野から構成されるメンバーにより調査活動を行った。メン
バー、分野および日程は以下のとおりである。
表 1.1 調査メンバー
名前 (所属)
調査分野
地震
金子
史夫(OYO インターナショナル㈱)
地形・地質
時実
良典(応用アール・エム・エス㈱)
地震動(震度)
・被害概要
長谷川 浩一(OYO インターナショナル㈱)
建築構造
中嶋
コミュニティ防災
ショウ 智子(OYO インターナショナル㈱)
洋介(㈱イー・アール・エス)
表 1.2 調査日程
日付
調査内容
5/26~5/30
被害概要調査、地震動・アンケート震度(長谷川)
6/1
現地到着、打合せ(以下、全員)
6/2
被害概要調査(主な調査地域:Sakhu、Ghokarna、Gongabu、Kuleshwor)
6/3~6/5
個別調査(地震、地形・地質、高層建物・建物被害、コミュニティの防災活動)
調査マップを図 1.1 に示す。主な調査地域とそのルートおよび調査の対象とした内容を示した。図 1.1 で
示した調査地域の東側に位置する Sindhupalchoke の Chautara でも建物調査を行ったが、図示は割愛して
いる。また、調査マップは、あくまで今回調査した地区を示しており、すべての被害地域を示してはいない。
1
図 1.1 調査行動マップ
調査結果について、以下の項目ごとに章を分けて述べる。
・ 地震の概要と地震動
・ 地形および地質
・ アンケート震度と高層アパート被害
・ 建物被害
・ コミュニティ防災
2
2
地震の概要と地震動
2015 年ネパール・ゴルカ地震は、2015 年 4 月 25 日 12 時 56 分(現地時間)にネパールの首都カトマン
ズの西方約 80 ㎞の深さ約 15km で発生した。マグニチュードは USGS(アメリカ地質調査所)の発表によ
ればモーメントマグニチュード(Mw)が 7.8(当初 7.9)
、現地の DMG(鉱山地質部)によればローカルマ
グニチュード(ML)が 7.6 であった。ほぼ東西方向の走向のスラスト(衝上)タイプの地震であり、沈み込
み角度は 10 度前後と低角であった。
震源メカニズムの分析結果がいくつか発表されているが、いずれも、震央(図 2.1 の★)から東に向かっ
て長さ 150km、幅が 100km 程度の範囲が震源断層とされ、その東端はカトマンズ盆地のさらに東にまで伸
びている。主なすべりは震源断層の東側に偏り、カトマンズ盆地付近に分布していて、最大で 4m 程度とさ
れている(図 2.1 中の赤い部分)
。
図 2.1 2015 年ネパール・ゴルカ地震の震源モデル(八木によるすべり量が等値線で示されている)
一方、主に建物の倒壊に起因するとみられる死者率についてみると、震源に近い地域では死者率が低く、
逆に震源から離れたカトマンズ盆地の北側にあたる Sindhupalchoke 郡および Rasuwa 郡では 1%を超えて
おり(非常に厳しい被害)
、人口の多いカトマンズ盆地では 0.1%以下と低い。このことは、八木が示してい
るように、この地域の建物の被害に関係するような高周波のエネルギーがカトマンズ盆地の北側で主に放射
されていることと符合する。なお、震度分布図が USGS から提供されているが、上記の震源特性、および建
物の種類を考慮しない被害分布から推定している可能性があり、必ずしも正確ではないが、カトマンズでは
MMI 震度階で VII 程度、高周波地震動放射の中心に近い Chautara 市(Sindhupalchok 郡)などでは VIII
となっている。
3
Kathmandu
More than 1%:
Sindhupalchok, Rasuwa
More than 0.1%:
Dhorka, Nuwakot, Dhading, Bhaktapur
(Kathmandu: 0.07%)
6
図 2.1 死者率の分布
(Nepal Police による死者数データと国勢調査による人口データから作成)
次に、今回の地震の位置づけであるが、1833 年の地震の再来とも言われている。カトマンズ周辺には 3 つ
のセグメント(地震を繰り返し発生させる地域の単位)があって、東のセグメントでは 1934 年と 1255 年の
巨大な地震が発生している(約 700 年の再来周期)
。西のセグメントでは 1505 年に巨大な地震が発生したと
されており、東のセグメントと同じような再来周期であれば次の地震は今後 100~200 年のうちに発生する
ということになる。東と西のセグメントに挟まれたカトマンズ盆地付近(仮に中央セグメントと呼ぶ)では、
規模は東西セグメントの巨大地震に比べるとやや小さいが、1833 年の地震、今回の 2015 年の地震と、約 200
年周期で被害地震が発生している。
これら 2 つの地震の震源域が中央セグメントの北に偏っていることから、
1833 年地震の 33 年後に 1866 年の地震(マグニチュードは 6.5~7.0 程度と言われている)が中央セグメン
トの南側(カトマンズ盆地の南)で発生したのと同様に、中央セグメントの南側の領域が 20~30 年後に活
動して地震が発生するのではないかとの見方もある。
被害の状況を見てみると、おもな被害は組積造(石造、日干し煉瓦造、焼成レンガ造のうち泥モルタル)
に集中しており、セメントモルタル使用のレンガ造、鉄筋コンクリート造の被害は限定的である。施工品質
の悪さも多数確認されたが、構造の種別だけからすると、カトマンズ盆地では 100~200 ガル程度の地震動
であったのではないか想定された。強震観測記録は盆地中央の Kanti Path での USGS による記録が現時点
で公開された唯一の資料であり、最大加速度が 164 ガルとなっている。公開された加速度応答スペクトルを
見ると、0.5 秒と 4.5 秒に 0.6g 程度のピークがあり、ゆっくりとした揺れに細かい揺れがのっていたという
ことがわかる。カトマンズ盆地はかつて湖であったために厚い堆積層があり、この影響で長周期が出ている
との見方がある。また、盆地の中央と端の方では周期成分が異なる可能性があり、場所によっては表層地盤
の影響が出ることもあるが、現状はこれ以上の情報がない。DMG の観測記録、北海道大学高井准教授が設
4
置した 4 カ所の観測記録も未公開である。特に高井准教授の 4 地点のうち岩盤サイトである Kirtipur の観
測記録が入力地震動を考える上で重要となる。
図 2.3 Kanti Path における強震観測記録(USGS による)
5
3
地形および地質
3.1 カトマンズ盆地の地形地質概要
3.1.1 基盤岩
カトマンズ盆地の基盤岩は、先カンブリア紀の堆積岩起源の変成岩と花崗岩類等からなるカトマンズナッ
プと、インド大陸とユーラシア大陸に挟まれたテチス海に堆積した堆積物からなるカトマンズコンプレック
スから構成されている。
3.1.2 カトマンズ盆地堆積物
カトマンズ盆地には、鮮新世~更新世にかけて堆積したと考えられている湖成層および陸成層が厚く堆積
しており、最大層厚は 600m にも達する。カトマンズ盆地堆積物の最下部は主に礫層から成る Bagmati 層
(盆地南部では Tarebhir 層と呼ばれる)から構成され、その上位に細粒堆積物から成る Kalimati 層(盆地南部
では Lukundol 層と呼ばれる)から構成される。更に、盆地南部には Lukundol 層の上位に崖錐堆積物から成
る Itati 層が覆っている 1)。
これらの堆積物は、露頭で確認できる範囲では半固結状態となっており、ハンマーで叩いて何とか崩せる
程度の硬さである。一方で、地下水が飽和した盆地地下でのボーリング試料は深度 45m 以下では Kalimati
層が自重で崩壊してしまうほどの柔らかさであったとの報告がある 2)。
図 3.1 カトマンズ盆地の地質図 3)
6
図 3.2 カトマンズ盆地の地形地質断面概略図 1)
図 3.3 カトマンズ盆地堆積物の湖成層と含まれる植物化石
3.2 段丘構成層
カトマンズ盆地には古い方から、Gokarna 層・Thimi 層・Patan 層によって形成される段丘面が広がって
いる 4) (図 3.1)。Gokarna 層は礫とシルト層の互層によって構成されており、河川ないし湖の堆積物と考え
られている。Thimi 層はシルト層を主体としており、湖成デルタ周辺に堆積した堆積物と考えられている。
Patan 層は細礫から成る礫層を主体としており、扇状地~氾濫原の堆積物と考えられている 1)・4)。
左: Gokarna 層 中: Thimi 層 右:Patan 層
図 3.4 カトマンズ盆地内の段丘を構成する地層
7
3.3 建物被害状況
3.3.1 Chapagau
Chapagau はカトマンズ盆地南部の段丘状の高台に位置する町である。
河川との比高が 100m 近くあるが、
浅井戸(図 3.5、左側)や村落内に池があるなど地下水位が浅いことが伺われる。この地域でも組積造の建物を
中心に大きな被害が出ており、最上階が路上に落ちる形での被害が顕著にみられる。一方で、木製の柱を使
用した寺院の建物には顕著な被害がみられないなど、組積造に被害が集中していた。
図 3.5 Capagau の建物被害等
3.3.2 Kirtipur
Kirtipur は基盤岩が露出する山地に建物が多く建っている都市である。基盤岩が露出する地区では建物の
被害は確認されず、普段通りの生活が営まれていた(図 3.6、左側)。一方で、基盤岩の上に堆積物が載ってい
る地区では建物被害が観察された(図 3.6、右側)。二つの地区で被害に差が生じた要因としては、地盤条件の
ほかに、二つの地区での建物の耐震性の差(堆積物が載っている地区には古い組積造の建物が多い一方で、基
盤岩が露出する地区では RC 造の建物が多い)が考えられる。
図 3.6 Kirtipur の建物被害等
3.3.3 Parigau
盆地南部に位置する Parigau は、車道から徒歩で 500m ほど段丘崖を下った場所にある農家が散在する集
8
落である。この場所でも大きな被害を受けた組積造の建物が至る所で見られた。他の地域では倒壊した建物
のがれきの撤去作業が進行しており、再利用可能な煉瓦が選別されるなどの復旧・復興に向けた動きがみら
れたが、この集落では倒壊したまま全く手が付けられていない建物が多く、自動車でのアクセスが可能な集
落との復旧・復興の程度に差がみられた。
図 3.7 Parigau の建物被害等
参考文献
1) Sakai H:Stratigraphic division sedimentary facies of the Kathmandu basin group, central Nepal.
J Nepal Geol Soc 25(Special issue), pp.19-32, 2001
2) 酒井 治孝:2015 年ネパール地震のテクトニクスとカトマンズの極軟弱地盤
http://www.geosociety.jp/hazard/content0087.html
3) 吉田 充生:ヒマラヤ上昇の落とし子達-山間盆地の形成,木崎甲子郎編,上昇するヒマラヤ,築地
書館,pp.103-114,1988
4) Yoshida, M and Igarashi, Y:Neogene to Quaternary lacustrine sediments in the Kathmandu
Valley, Nepal. Jour. Nepal Geol. Soc. 4(Special issue), pp.73-100,1984
9
4
アンケート震度と高層アパート被害
4.1 アンケートによる震度調査
2 章に述べたように、地震観測記録の公開は現時点では限定的である。そのため、被害地域での住民への
アンケート方式による震度調査が重要である。本調査団の調査期間中に、山口大学の村上ひとみ准教授が現
地入りされており、NSET(National Society for Earthquake Technology-Nepal) および愛媛大森伸一郎准
教授の協力を得てアンケート震度調査票を更新し、調査を実施していたので、一部同行させていただいた。
カトマンズ盆地内で特に被害の大きかった Gongabu のほか、Tribhuvan 大学工学部学生寮(写真 4.1)
、
Thimi 近郊の調査(写真 4.2)に同行した。
村上准教授による調査結果は、日本建築学会の被害調査速報会
にて公表された。同速報会資料 1)の P.140 には、アンケート平均
震度の分布が示されている。アンケート震度の調査結果に基づく
平均値は、実際の震度階よりも小さくなる傾向があるが、相対的
な差異は概ね妥当である。図 4.1 に平均値と実際の震度とを比較
した例 2)を示す。今後、詳細な分析に基づいた換算式により修正
メルカリ震度へ変換される予定である。
住民の方の地震の揺れの捉え方は興味深く、
「立っていること
ができないほどの揺れであった」
「怖くて 2 階から飛び降りた」
というコメントの一方で、
「少し怖かったが室内では安全であっ
た」という回答も多くみられた。一方、家具や棚の状況について
は、
「
(店内の)棚の品物はほとんど散乱しなかった」との回答がほ
とんどであり、被害が少なかった Thimi 付近の集落では、
「隣のア
パートの 3 階のベランダの桟の上に置いてある植木鉢が、地震によ
って落ちてこなかった」との証言もあった。地震の揺れの特徴とし
て、非常にゆっくりとした揺れであったことを推し量ることができ
図 4.1 Example of correlation of Max
item and Average item questionnaire
intensities to USGS intensity for the
1984 Morgan Hill and the 1986
Hollister earthquake. 1
る。
写真 4.1 Tribhuvan Univ. Eng. Campus
写真 4.2 Survey at the shop near Thimi
10
4.2 高層アパートでのアンケート震度調査の試み
近年、カトマンズ盆地では、10 階建て以上の高層アパートが多く建設されており、UNDP 調査資料(2013
年)によると建設中のものも含めて 10 階建て以上の高層アパートは 23 棟ある。周期の長い揺れは、これら
の建物の固有周期と近く、揺れが増幅されたことが推測される。そこで、高層アパートを対象として、被害
調査を実施した。外観の観察のほか、アパート住民へのアンケート震度調査を実施する予定であったが、実
際には、調査した高層アパート(階数 14 階~17 階建て)6 棟のうち 5 棟では住民が避難しており、分析を
行うのに十分な回答は得られなかった。外観の被害がほとんど見られない建物でも住民が避難している事例
が見られ、今回の地震に対する高層アパート住民の反応は、やや過剰とも言える程度に大きい。
唯一アンケートを実施することができた Sun City アパートメント(17 階建て)で、回収できた調査票は
わずかに 8 通であった。そこで、今回の地震の特徴を示すと思われる屋内の様子に関する調査項目(Q12~
Q14)の結果を地震時に居た階数別に表 4.1 に示す。限られた階での調査結果ではあるが、1 階と 8 階以上
での家具や棚、吊り下げられた物への影響が非常に少ない一方、2 階、6 階での影響が認められる。特に 6 階
では 2 通の回答が得られ、いずれも同様の結果であることから、地上から約 1/3 の高さの中間層において、
特に振動が大きくなったことが確認できる。
表 4.1 Answers to the Questionnaires Q12 – Q14
Q12. What happened to hanging
objects, such as pictures on the wall
and lights?
1) Nothing.
1) Nothing.
3) Considerable swinging with
banging noises, and some swung out
of place.
Q13. What happened to objects
on the shelf?
Q14. What
furniture?
1) Nothing.
1) Nothing.
2) Some mover on the shelf.
1) Nothing.
1) Nothing.
1) Nothing.
6
6
4) Partly damaged or fallen.
3) Considerable swinging with
banging noises, and some swung out
of place.
3) Some fell from the shelf.
2) Some mover on the shelf.
2) Slight shake.
3) Considerable shake.
8
11
1) Nothing.
2) Slight swinging without noises.
1) Nothing.
1) Nothing.
1) Nothing.
1) Nothing.
16
1) Nothing.
1) Nothing.
1) Nothing.
回答者の
居た階数
1
1
2
写真 4.3 Sun City Apartment
11
happened
to
4.3 高層アパートの被害
高層アパートでは、主要構造部である RC フレームには被害が無く、主要構造部以外のレンガ壁部(モル
タル塗装)でのクラック、剥落、一部崩壊がみられた。クラックのパターンは、壁に対して斜め方向に入る
場合と、RC フレームとの境界部分に水平、鉛直方向に入る場合がみられた。被害の多いのは低層階で、中
層階がこれに次ぐ。低層階部分(1 階、2 階)ではクラック、剥落が多く目につき、中層階ではクラックが見
られた。Sun City アパートメントの 1 階に位置する事務室の被害を写真 4.4 に示す。
Ring Road のやや北側の高台に位置する Park View Horizon での被害は、今回調査した高層アパートの中
では最も甚大であった。クラックおよび剥落は低層~中層に広く分布し、特に、低層部分のレンガ積みの壁
は崩壊して、屋内が見えている箇所も見受けられた(写真 4.5、写真 4.6)
。このアパートの立地は盆地の北
側の縁辺部に位置しており、見晴らしがよい(写真 4.6)
。盆地の中心部と比べると、堆積層は相対的に薄い
ことが推測される。一方、前出の Sun City は、盆地の東側に位置するが、近くを Manohara 川が流れてい
る。地盤と建物高さの関係が、どのように被害に結びつくのか今後の解析が必要である。
写真 4.4 Ground floor of Sun City Apartment
写真 4.5 Park View Horizon Apartment
12
写真 4.6 Park View Horizon Apartment and View to the south
4.4 考察
今回の被害調査では、被害を受けなかった建物も多く確認した。被害を受ける要因を探ることは容易では
ないが、
建築年代が古くとも施工、
維持状態が良ければ崩壊せずクラックで済んでいる
(写真 4.7, 写真 4.8)
。
そのほかに、構造物の高さによって、震動から受ける影響が大きく変わることが挙げられる(写真 4.9、崩壊
した Dharahara Tower)
。
写真 4.7 Buildings at Trichandra Campus, Tribhuvan Univ.
写真 4.8 Historical building at Kirtipur
写真 4.9 Collapsed Dharahara Tower
13
参考文献
1) 村上ひとみ, 2015, 人的被害と震度調査, 日本建築学会ネパールゴルカ地震災害調査速報会資料,
131-144, https://www.aij.or.jp/jpn/symposium/2015/nepal.pdf
2) 村上ひとみ・鏡味洋史, 1991, アンケートによる高密度震度調査法の修正メルカリ震度階への適用,
地震, 2, 44, 271-281, https://www.jstage.jst.go.jp/article/zisin1948/44/4/44_4_271/_pdf
14
5
建物被害
建物の被害調査について、事前に入手した被害調査報告書を手がかりに、特定の地域の街歩きを実施し建
物被害の傾向および構造上の問題点を中心に調査を実施した。重点的調査を実施した地域、その地域の特徴
および日程を以下の表 5.1 に示す。なお、6 月 2 日はこの国の一般的な建物を把握するため被害が著しい地
域の調査をおこなった。
Date
June-02
June-03
June-04
June-05
表 5.1 調査地域、その地域の主な構造種別および地域の特徴
Representative structure type
Area
Special notation
of area
Sankhu,
Brick masonry
General characteristics
Gokharna,
Confined masonry
of structurre
Gongabu,
RC frame + infill
Sitapaila, Balkhu
Around Bus Park
Confined masonry
New town
Bhaktapur
Brick masonry
Traditional old city
Between Durbar
Brick masonry
Center of Kathmandu
Square and
Confined masonry
Thamel
Chautara
Confined masonry
Mountain city
5.1 Around the Bus Park
このエリアは、1993 年にバスパークが建設された以降に開発が進んだ地域で、比較的建設年代が新しい建
物が集中している。鉄筋コンクリート造(+レンガ壁)あるいは鉄筋コンクリート枠組みレンガ組積造(柱が
200~250mm 角程度)の建物が多い。中央を南北に流れる
Bisnumati 川を挟んだ両側で、倒壊した建物が多数確認さ
れた。それら建物被害の特徴を以下に示す。
・ 概ね 4~7 階の建物が倒壊している(地盤および地
震動と建物の周期に関係している可能性もあるが、
現時点では不明である。)。それら建物は、上層に増
築が行われている場合もあり、
1階の柱に過度の鉛
直力が掛かっていた可能性もある。
【写真 5.1、写真
5.2】
・ 多くの建物で、1 階が店舗あるいは宿泊施設のロビ
ー等の用途となり、
ソフトストーリーおよび偏心な
図 5.1 Investigation log in Balaju
どの構造上の問題により、1階の一部の柱の変形が大きくなり、鉛直力を支えきれず倒壊したもの
と予測される。
【写真 5.1、写真 5.2】
・ 1階に店舗のあるビルでは、道路側の開口部にある柱の柱頭および柱脚で曲げ破壊が多く観察され、
残留変形が現れている建物も多く確認された【写真 5.3、写真 5.4】
。また、店舗奥に配置されたレン
ガ壁は、せん断破壊が生じている例が多い【写真 5.5】
。
・ コンクリートフレーム内のレンガ壁は、せん断破壊しているものが多く、面外方向への落下はあま
15
り確認されなかった。レンガ壁がある程度の地震力を負担し、クラックは出ているものの崩壊まで
には至らなかった建物も多々あるものと思われる【写真 5.6】
。
・ 倒壊した建物の配筋状況を観察するとせん断補強筋等の問題点がいくつか確認された。
写真 5.1 1、2 階の層崩壊で倒壊した建物
写真 5.2 2 階柱頭破壊状況
写真 5.3 ソフトストーリーによる残留変形
写真 5.4 柱頭柱脚の曲げ破壊
写真 5.5 内壁(レンガ壁)のせん断破壊
写真 5.6 外壁(レンガ壁)のせん断破壊
16
5.2 Bhaktapur 市および Kathmandu 市の中心街
図 5.2 Investigation log in Bhaktapur
図 5.3 Investigation log on Durbar Square –
Thamel
このエリアは、歴史が長く建設年代の古い建物が集中している。建物の構造は、主に組積造(レンガ)で
ある。この組積造は、レンガの種類とモルタルの種類でさらに細分化して区別することができる。目視の範
囲では、表 5.2 のような組み合わせが主体であった。また、調査を通じてレンガ組積造の崩壊過程を推測し
てみた【写真 5.7~写真 5.12】
。
このエリアでは、アドベレンガ+泥モルタルは甚大な被害となっていた。
表 5.2 レンガの種類とモルタルの種類の組み合わせ
モルタルの種類
泥
レ
ン
ガ
の
種
類
泥+石灰
セメント
焼成レンガ
耐震性能
アドベ
(日干しレンガ)
写真 5.7 ひび割れ発生
写真 5.8 大きな隙間の発生
17
写真 5.9 外壁の転倒
写真 5.10 残留変形
写真 5.11 部分的な倒壊
写真 5.12 完全な倒壊
5.3 Bhaktapur
調査範囲での泥目地タイプの組積造は、倒壊したものも多いが、倒壊を免れたとしても残留変形があり、
応急的な支え等により辛うじて建っている状態であった。建物被害の特徴を以下に示す。
・ 泥目地タイプの組積造は、倒壊したものも多い。倒壊を免れたとしても残留変形が残っている【写
真 5.13】
。
・ 古い組積造では、床が木造で組まれているものが多い。そのため、水平剛性が小さく、建物がない
方向に歪むように変形している【写真 5.14】
。
写真 5.13
写真 5.14 建物全体の歪み
組積造の残留変形
18
5.4 Kathmandu Durbar Square -Thamel
カトマンズ市の中心街であり、旧王宮地区がある。旧王宮地区では歴史的建造物が多く被災しているが、
これに関しては多数の報告があるので、ここでは割愛する。
表通りではそれ程被害を確認できないが、裏路地を入ると多数の建物で残留変形が顕著な組積造が多数確
認された【写真 5.15、写真 5.16】
。
写真 5.15
写真 5.16 組積造の残留変形
組積造の残留変形
この 2 つの地域では、鉄筋コンクリート造あるいは枠組み組積造に関しては、内部にはクラックが多数発
生している可能性があるものの、外観上は被害が生じているものはほとんど確認されなかった。
5.5 Chautara
カトマンズから東へ約 50 ㎞離れた山の尾根に沿って街が形成
されているエリアである。本震の震央からは、約 100km 離れて
いるが、本地域の建物の固有周期に近い短周期の地震動成分が多
く放射された地域に近いため、
被害の状況から MMI 震度階で 8.5
(今回の地震では最高)が推定されている。
目視の範囲では、大破以上の損傷を受けていると思われる建物
が多く、ほとんどの建物で何らかの損傷が発生しているようであ
った【写真 5.17】
。図 5.4 の Log に沿った右側の建物が、矢印方
向(北東)に転倒するように倒壊している建物が多く観察された。 図 5.4 Investigation log in Chautara
反対から観察した倒壊状況では、層崩壊をおこしている建物が多
い【写真 5.18】
。また、斜面の影響も考えられる。
19
写真 5.17 尾根沿いの道の両側の倒壊した建物
写真 5.18 尾根下から見た倒壊した建物
5.6 おわりに
鉄筋コンクリート系の建物では、被害が集中している地域がある。崩壊したほとんどが低層部分の層崩壊
に起因するものと思われる。組積造の建物では、おおよそ全域で被害が発生しているが、これも被害が集中
している地域がある。組積造の中では、泥モルタルタイプの被害が甚大であった。残留変形を示す建物も多
く見られた。残留変形のある組積造建物に関して、変形を戻すことは不可能と思われ、今後復旧時には難し
い問題が残されている。
20
6
コミュニティ防災
6.1 背景と目的
国際協力機構(JICA)の開発調査案件「ネパール国カトマンズ盆地地震防災対策計画調査」
(以下、JICA
カトマンズ盆地地震防災計画調査)の中で 2001 年にコミュニティ防災活動をパイロット活動として実施し
た。
1. 当時のコミュニティ防災活動の参加者にヒアリングを行い、その後のコミュニティ防災活動状況
も含めて、ネパール・ゴルカ地震での対応にどのような影響があったのかを知り、今後の防災活動の
改善のためのフィードバックを行うことを今回の被災地調査の第1の目的とした。
2. 宗教・文化的背景の違いによる避難場所の実際の使われ方を知り、今後の避難計画を策定する上
での配慮事項について学ぶことを第 2 の目的とした。
6.2 対象地域
1. ラリットプール市、16 区ナグバハール(ダルバール広場からほど近く、ネワール族の中庭形式で
集住する形態の伝統的なコミュニティで地域の結びつきが強い地域)
2. カトマンズ市、34 区(新市街地)
6.3 被害の概況
ナグバハールのネワール族の集住する隣同士の建物が隣接する中庭形式の住宅は、一部に築 80-90 年にも
なる日干し煉瓦による組積造もあったが、日干し煉瓦が連なる箇所以外は、お互いの構造を支え合い、崩壊
までには至らなかった。しかし、ナグバハールのコミュニティの中で日干し煉瓦造りの建物が 3-4 棟続い
ている 1 箇所だけは、建物が崩壊した。しかし、幸い人は外に出ており、犠牲者はいなかった。ナグバハー
ルの住民で唯一、ナガチョウクという離れた場所にある職場の建物が崩壊して死亡した女性が 1 名いた。災
害関連死では、4 月 25 日の地震の数日後、余震から地震を心配して心臓発作で亡くなった女性が 1 名いた
ものの、ナグバハール内での地震による直接の死者はなかった。負傷者は 4-5 人であった。
写真 6.1 ラリットプール ナグバハール地域での崩壊した建物
21
建物被害については、軽微なものも含め、クラックは 90%以上の建物で見られ、支柱による支えで辛うじ
て立っているような建物もあった。
カトマンズ市 34 区についても、死者はなく、外観からは被害は殆ど認められないものの、建物によって
は、室内に入ると限定的ではあるが軽微なクラックが入っている建物もある。
6.4 コミュニティ防災活動を取り巻く状況の変化
2001 年当時の JICA の開発調査のカウンターパート(C/P)は内務省で、パイロット活動を実施するにも地
域の活動を管轄する自治体は C/P 機関として特に定めがなく、各市に防災課などは存在しなかった。カトマ
ンズ市の社会福祉局が唯一自治体で、社会の安全について職務として規定されているにすぎなかったため、
防災活動を実施しようにも、容易ではなかった。ラリットプール市では、防災や安全に関する部署はなかっ
たため、関連しそうな部局を回って来るべく地震リスクを説明し、防災の必要性を説きコミュニティ防災活
動を自治体とともに実施する交渉から始めた。
2005 年の兵庫行動枠組みが採択された後、ネパールは自治体でもコミュニティ防災の活動予算をつける
ようになってきた。2007 年には区以下のコミュニティのレベルで防災委員会の設置は義務化され、一般に浸
透するようになった。地域防災活動に関するガイドラインに沿って、組織的に実施されるようにもなり、予
算もケースバイケースではあるが、要求に応じて 1 コミュニティに 5 万-10 万ルピー程度が配分されるよ
うになった。
現在では、カトマンズ市には防災課ができ、1 名の職員に加え 6 名のカトマンズ市警察がサポートメンバ
ーとして所属している。ラリットプール市では、都市開発部のもとに防災課ができ 5 名の職員がいる。バク
タプール市では、建設課のもとに防災担当官が 1 名いる体制となった。
ナグバハールの 16 区の区役所(とはいっても 2 部屋のみの小さな事務所)は現在市役所からアポイント
されるセクレタリー、アシスタントセクレタリー、ソーシャルワーカーの 3 名が勤務している。本区役所は、
防災啓発のポスターで埋め尽くされており、14 年前と比べて防災に対する意識が大変高まっていることを伺
わせた。区役所には防災委員会のメンバー表、防災マップ、耐震住宅の建築に関する留意事項、地震時の行
動などが所狭しと掲示されていた。
写真 6.2 建物の耐震性確保のための留意事項、防災啓発ポスター、防災マップ
22
6.5 ヒアリング結果
6.5.1 ラリットプール市 16 区ナグバハールコミュニティ
震災直後、ナグバハールのコミュニティでは日頃の訓練でも実施していたように、Drop Cover Hold の姿
勢で身を守り、1 分程の揺れの後、中庭に落ち着いて、お年寄りを手助けしながら協力して避難した。緊急
対応全般も問題なく、応急手当の訓練を受けていたナグバハールの防災委員会により、負傷者の怪我の手当
が困難なく円滑に行われた。
2001 年の活動では、応急時の訓練は持続性を考慮し、ネパール赤十字と共同で実施した。その後もネパー
ル赤十字はリフレッシャー訓練も含めて継続的に行い、ナグバハールのコミュニティ全体で応急手当は 190
人、ライト捜索救助は 54 人を育成するまでに拡大した。多くの住民が慌てず行動できたのも、事前にトレ
ーニングや定期的な防災訓練をさらに小さなユニットである「トル」のレベルで行っていたためであった。
2001 年当時は、防災訓練の中で、テント設営から応急手当、ライト捜索救助のトレーニングを実施したが、
これが最初の防災に関するトレーニングであり、これをきっかけとして、継続的に訓練を行い、着実に数を
増やしてきた。
プロジェクト後の変化としては、コミュニティの人々の防災意識の向上を継続的に図れたこと、防災を通
じてコミュニティの結束が強くなったこと、安全な建物に関する知識も普及が図られ、新築する建物におい
ては、帯筋をより多く配置し、全体的な配筋量や柱と梁の結合部を強固なものにするなどの意識は高まり、
14 年前と比べて実際の建設現場でも安全性の高い建物が建てられるようになった。
写真 6.3 新築現場(左)
、中庭に張られたテント(右)
地震の後、住民は不安や度重なる余震から、建物の中から出て中庭で過ごしたという。ナグバハール内に
は、大小 4 つの中庭があり、うち最も大きな中庭には、中国の支援による 12 平米程度の規模の大きな 11 張
のテントが張られ、個人所有の小さなテントも隙間に置かれた。政府からは自治体、区を通じて、被災者に
は 3000 ルピーが送られ、野菜、砂糖、米などの食糧が救援物資としてナグバハールの被災家庭に配布され
た
(ネパールでは、
援助物資は届かないことが多い)
。
物資の配布や避難者名簿の作成は防災委員会が担った。
これも事前に予行演習を行っていたことから、混乱なく実施された。
当時のナグバハールの防災委員会の委員長は、現在は 16 区の防災委員会の委員長を担うようになり区内
でも防災では重要人物となった。ナグバハールの防災委員会は 11 人の若い世代がメンバーとなって引き継
23
いでいる。当時から若い世代を取り込むことが重要との認識を防災委員会メンバーは持っており、世代交代
が行われた。また、地域の結びつきは防災活動を通じて、14 年前と比べて更に強まったとのことであった。
地震から 1 か月強が経過していた訪問時は、ラリットプール市 16 区内のコミュニティ代表者、ローカル
の市民社会組織の代表、16 区のソーシャルワーカーが集まり、地震後の対応についてレビュー会議を行って
いた。緊急対応は円滑であったこと、今後復興に向けて、まずは心理的なサポートが必要との意見が大多数
を占めた。
写真 6.4 地震後のレビュー会議、コミュニティで共同所有する水タンク、貯水槽
ナグバハールのコミュニティでは、
防災資機材関連を充実させていた。
個人が所有する給水タンクに加え、
共同所有の給水タンクがあり、1000 リットルが貯えられる大型のものの他、水浄化システムもアメリカのド
ナーの支援により新規に備えた。また、区の防災委員会を通して、JICA の支援品であるポンプによる消火
ホース(アクセス範囲 200m)をここ 1-2 年の間で備えた。この取り扱い方についてもトレーニングを受け
ており、狭隘道路から構成されるこの地域の防火についても強化された。
なお、給水タンクは、ビジネス用途に大口で使用する際には、便益を受ける者が使用料をコミュニティに
支払うこととなっており、コミュニティの活動費用としてプールしている。このように、徴収したコミュニ
ティの資金で地域のコモンズを維持管理する仕組みは地域の強い結びつきを示しており、ソーシャルキャピ
タルとしてもポテンシャルが高く、コミュニティ防災を実施する上でも大変重要な資源である。
6.5.2 カトマンズ市 34 区
新興住宅地であるカトマンズ市 34 区の防災委員会の委員長は大変リーダーシップに優れており、防災に
も大変積極的であり、ネパール国内の防災ネットワークのメンバーとして現在も活動を行っている。防災委
員会の委員長は、耐震補強の必要性も感じており、7 年前に自身の家を増築する際には、耐震性を高めた構
造で通常のコストに比べ 5%程度加算した金額で自宅を改修した。近所の住民が補強のやり方を見学に来た
ため、そこで耐震補強のやり方に関して広報活動も行った。
その後、10 区に移住した後、34 区の区長は防災に積極的ではなく、34 区の防災活動は持続的にならなか
った。地域全体の活動にはならなかったものの、個人的な活動としては、今回の地震でも 1 週間後に自ら被
災地に赴き、ブルーシートや医薬品などの救援物資を 300 家族に配布し、教員養成研修でも防災に関する講
演をしている。
24
この 14 年間で、コミュニティの住民の防災知識は相当高まったという。防災広報も市役所が行うように
なり、各区での防災委員会も区によっては形式的なところもあるものの、組織化が義務化されたことで住民
レベルでも防災への関心が喚起されることになったという。今回の地震で階を増やして増築することは危険
であることを住民は思い知った。
安全なまちづくりという意味では、昨今道路拡幅が順次行われており、住民は自宅の一部の敷地を提供し
(通常は無償提供)
、前面道路の拡幅に協力した。
6.6 避難に関して
今回の地震から 1 か月強が経過した時点で、カトマンズ盆地では 2 万人程度の避難者がいると言われてお
り、887 箇所のオープンスペースにて過ごしているとのことである。避難者の殆どは自宅に近いオープンス
ペースでテントを張って暮らしており、地震発生直後に食事の配布がある間は、職場に出てこないワーカー
もいたとのことであるが、米や水程度の配布になった時点で、昼間は働きに出かけ、テントは男性よりも女
性の方が多く残って留守を預かっている状況が多く見られた。
カトマンズ盆地の中でも規模の大きな避難場所である Tundikhel には、6 月 2 日の時点で 3,340 人の避難
していた。避難者数のピークは 4 月 25 日直後および 5 月 12 日にマグニチュード 7.3 の余震直後であった。
直後の避難者は必ずしも家を失った人々ではなく、余震を恐れて、夜、避難してくる人々で、余震が少なく
なる 5 月 3 日以降 5 月 11 日までは 2,000 人弱から 1,400 人くらいまでと減少傾向にあったが、5 月 11 日の
余震後の 5 月 14 日~6 月 2 日の調査時点までで 3,000 人強となっており、5 月 11 日の余震以前よりも避難
者数は多くなっていることから、この余震で新たに建物被害があったとも考えられる。
Total
14000
13000
12000
11000
10000
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
2015/6/2
2015/6/1
2015/5/31
2015/5/30
2015/5/29
2015/5/28
2015/5/27
2015/5/26
2015/5/25
2015/5/24
2015/5/23
2015/5/22
2015/5/21
2015/5/20
2015/5/19
2015/5/18
2015/5/17
2015/5/16
2015/5/15
2015/5/14
2015/5/13
2015/5/12
2015/5/9
2015/5/11
2015/5/8
2015/5/10
2015/5/7
2015/5/6
2015/5/5
2015/5/4
2015/5/3
2015/5/2
2015/5/1
2015/4/30
2015/4/29
2015/4/28
2015/4/27
0
図 6.1 大規模避難場所の避難者数の推移
2013 年に内務省から USAID の支援のもと、カトマンズ盆地の空地に関する報告書が出された。この中で
は 83 箇所のオープンスペースそれぞれの適切な使い方や特徴などが提案されており、オープンスペースを
含む周辺地域の衛星写真が添えられている。この 83 箇所については 2013 年 4 月の官報にも載り周知され
た。
ヒアリングから、被災者は借家人がより多く生活しているようであった。また、1 か月強経過するまで、
全国的に学校は閉鎖され、6 月 2 日から一斉に学校は再開された。学校もレクレーションプログラムを中心
25
に生徒のメンタルケアを重視していた。避難場所では、NGO が子供向けにお絵かきやゲームなどを行って
おり、被災者の心理的なケアにも配慮していた。
カトマンズ盆地のインフラは電気の計画停電が日常的に行われていたり、水道管が敷設されている地域が
極めて限定的なため近所の水利施設から運ぶことが日常であったり、水道管があっても供給される時間が非
常に限られていたりすることから、普段から耐性があると考えられていた。今回の地震では、カトマンズ盆
地内では電気は数日後には回復し、住民の間では住宅被害以外の不便に関する声は殆どきかれなかった。貯
水タンクも 3 日程度の貯えのある世帯が 2001 年当時で 4 割程度となっていた。避難場所に貯水タンクを持
ち込んでいる避難家族も多くみられた。
写真 6.5 テント内にペットの犬を連れている家族 かまぼこ型のシェルター
写真 6.6 軍管理の避難場所の水や食料のストック、テント内の調理スペース
避難に関しては、2001 年時点での社会調査結果では「被害時にはカーストに関係なく、避難や食事をとも
に行える」との回答が大多数ではある一方、15%程度はカーストへのこだわりを持っていた。今回のゴルカ
地震直後に避難場所では、多数の被災者や余震を心配する人々であふれ、このような緊急時にはカーストは
関係なく隣接しても殆ど問題とはならなかった。
26
写真 6.7 避難場所での子供たち向けプログラムの様子(左)避難場所の配置図(右)
6.7 まとめと考察
1. 2 箇所の事例の違いは、市役所、区役所の防災活動に対する支援に加え、継続的な実践活動やトレーニ
ングが外部の防災専門機関により行われたことである。防災には継続的な取り組みは必要であるが、
コミュニティだけで実施するには限界があり、定期的な専門組織や専門家からのインプットは必要で
ある。また、コミュニティ防災では少ない金額であっても何かしらの活動費があることで、防災委員
会が活性化し地域に根付いている。
2. ナグバハールでは、個人のリーダーシップに加え、若者からなる地縁組織(スポーツ同好会や趣
味サークル)や地縁の宗教組織など、人のつながりの基礎になるソーシャルキャピタルが存在してい
た。防災活動を継続的に行えたのも、このような地縁組織による人のつながりを活用できたことが大
きい。防災活動を行う前提として、地縁組織があれば一番良いが、無い場合、人のつながりを促進し
ていくことが必要である。そのためには、防災だけに留まらず、コミュニティ開発と連携した活動や
地域のニーズに合致した共通の関心事項に関連する活動を作り、それに対する自治体の支援も防災活
動の仕組みの中に盛り込んで継続性を担保することも必要である。
3. ナグバハールでは、コミュニティの運営にあたり、非常時の貯水タンクの大口使用者から使用料
を徴収しコミュニティ活動の資金にするシステムを構築した。このようにコミュニティ内で収益をあ
げる仕組みがあることで、外部資金や支援獲得だけでなく、内部での継続的な活動が可能となること
がわかる。このような活動は必ずしも防災でなくてもよく、コミュニティの結束を強くするという間
接的な効果も防災に寄与する。
4. コミュニティリーダーは、区の防災委員会にも関わる重要人物であり、市や区と連携し、防災関
連資機材の支援を受けることができた。市、区の予算や活動を連携させることで、防災力向上にあら
ゆるチャンスを活用することができた。
27
7
謝辞
本被害調査は、NSET(National Society of Earthquake Technology)の協力を得て実施した。ここに記し
て謝意を表する。
Acknowledgement
We express our appreciation to NSET (National Society of Earthquake Technology) for their kind
cooperation to our earthquake survey.
1 日も早く、ネパールに笑顔が戻りますように
I wish Nepal will have peace in the heart again.
編集担当:加地広美
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