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インドの水資源問題

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インドの水資源問題
2010/12/22
はじめに
水=あらゆる生命の源
生存に欠かせない共有資源
↓
にもかかわらず、水に関する危機的な状況
洪水被害の多発(本年夏のパキスタン)
・洪水被害の多発(本年夏のパキスタン)
・生活排水による表流水の汚染
・地下水の過剰汲み上げによる地下水位低下
・過剰灌漑による塩害あるいは湛水
↓
インドにおける水資源、安全な水供給と衛生設備の普及を事
例に、今後の水資源の開発・管理のあり方を検討する。
インドの水資源問題
TINDAS・基盤研究(S)「インド農村の長期変動に関する研究」
合同研究会「現代インドの社会変動と産業発展」
2010年12月19日、京都大学稲盛記念館
報告者:山本勝也(同志社大学商学部)
1
2
報告の構成
1.
2.
3.
4
4.
コンペンディウム環境統計について
MDGs Report 2010にみる飲料水と衛生設備状況
インド環境政策史
今後の課題
COMPENDIUM OF ENVIRONMENT STATISTICS OF INDIAについて
3
4
概要
目次
• 中央政府所管の統計・事業実施省(Ministry of Statistics and Programme Implementation)下の
Central Statistical Organisationによる。
•
•
•
•
•
• 現在、2008−09年度版まで、計10号刊行されている。
•
•
• 生物多様性、大気、土壌、水、居住環境の5つの
テーマについてのデータ
•
•
5
overvew
ch.1 Environment and Environment Degradation
ch.2 Development of Environment statistics in India
ch.3 Biodiversity
Flora / Forests / Fauna
ch.4 Atmosphere
Air and Transport / Energy / Industry / Greenhouse Gases / Noise
Ch.5 Land and Soil
Land Uses / Agriculture / Natural disasters / Mining
Ch.6 Water
Fresh, Marine
Ch.7 Human Settlement
Population and Poverty / Housing Slums and Basic Facilities / Waste Management
Appendix
6
1
2010/12/22
1.インドにおける水資源
①インドの表流水
1.インドにおける水資源
②インドの地下水
 インド全土での年間総降水量
=平均4兆㎥(比較:日本6,500㎥)
 河川の総流量=平均1,88兆㎥
 しかし、3ヶ月程度の雨期(およそ6〜9月)に降雨が集中
⇒利用可能水量は6 900億㎥(比較:日本860億㎥)
⇒利用可能水量は6,900億㎥(比較:日本860億㎥)
利用可能な地下水は、4,300億㎥(比較:日本
108億㎥)
このうち、約84%が農業や家畜用の灌漑に、
残り16%が家庭用 産業用水などとして用い
残り16%が家庭用、産業用水などとして用い
られている。
 州別の年間平均降水量=500㎜〜3,000㎜
インド全体での平均=1,250㎜
(比較:日本1,750㎜、世界の都市平均=970㎜)
カルナータカ州の沿海部=約3,600㎜
グジャラート州サウラシュートラ、カッチ=約500㎜
表流水の汚染がひどいため、地下水の利用
が多い(水利用の80%は地下水である)
7
8
2.水資源問題の現状
①世界の状況
 アジアの途上国は、気候変動、人口増加、水資源の不適切な管
理のために、10年以内にかつてない深刻な危機に陥る可能性が
ある。
 世界の海洋と沿岸海域において、デッドゾーン(貧酸素海域)が急
増し、約400カ所存在する(主に、化学肥料の流出とその富栄養化
が原因)。メキシコ湾などでは2万㎢を超えるデッドゾーンも確認さ
れている。
 東南アジアの海でも急速に魚が減少しており、このままではおよ
そ1億人の生活が脅かされる。
⇒課題:インド近海の漁業資源の状況は?
『地球白書2009‐10』より
ミレニアム開発目標の到達度に見る
飲料水、衛生設備の状況
9
10
改善された飲料水・衛生設備を利用できる
人口の割合
2.ミレニアム開発目標の到達度
 ターゲット7—C
「安全な飲料水と基本的な衛生設備を継続的に利用できな
い人々の割合を2015年までに半減する」
 UNDP(2006)によれば、南アジアに関しては、現状のペー
スであれば飲料水に関する目標は達成できるが、衛生設
であれば飲料水に関する目標は達成できるが 衛生設
備に関する目標は今のままのペースでは達成不可能で
(4年ほどずれ込む)、今までの倍近くの努力が必要とされ
ている。
飲料水
1990
Total
Total
Urban
Rural
95
64
87
96
78
Developing Regions
71
93
60
84
94
76
Southern Asia
75
91
69
87
95
83
82
95
77
85
93
80
Developed Regions
99
100
98
100
100
98
LDCs
54
81
47
62
80
54
excluding India
衛生設備
1990
2008
Urban
Rural
Total
Urban
Rural
World
54
77
36
61
76
45
Developing Regions
41
65
28
52
68
40
Southern Asia
25
56
13
36
57
26
42
74
30
50
65
42
Developed Regions
99
100
97
99
100
96
LDCs
24
43
19
36
50
31
excluding India
11
Rural
77
Total
 世界全体で見れば、2015年には、安全な水へのアクセス
に関しては依然として8億人が、衛生設備に関しては21
億人が、それぞれ利用できない状況のままとなる。
2008
Urban
World
12
2
2010/12/22
改善された飲料水へのアクセス
(都市、%)
改善された飲料水へのアクセス
(農村、%)
13
改善された衛生設備へのアクセス
(都市、%)
14
改善された衛生設備へのアクセス
(農村、%)
15
16
水道(tap water)の普及状況(%)
考察
 改善された飲料水へのアクセス
 2008年で比較すると、南アジアの状況はインドを除くと
低下する。また、都市では、インドを除いた南アジアの
状況は1990年よりも2008は悪化する(インドを含めた南
アジアでは改善)。
アジアでは改善)
 改善された衛生設備へのアクセス
 これも、都市では、インドを除く南アジアの状況は2008
年には1990年よりも悪化する。
⇒他と比べて、インド、特に都市部の改善が著しいとす
ると、その要因、取組みはどのようなものか?
17
水道あり計
敷地内
敷地外
水道なし計
1991年
全体
32.3
15.5
16.8
67.7
都市
65 1
65.1
42 3
42.3
22 8
22.8
34 9
34.9
農村
20.6
6.0
14.6
79.4
2001年
全体
36.7
20.8
15.9
63.3
都市
68.7
49.7
19.0
31.3
農村
24.3
9.6
14.7
75.7
18
3
2010/12/22
トイレの普及状況(%)
トイレあり
トイレなし
1991年
全体
23.7
76.3
都市
63.9
36.1
農村
9.5
90.5
2001年
全体
36.4
63.6
都市
73.7
26.3
農村
21.9
78.1
インド環境政策
19
インドにおける環境法整備
①1972年以前
20
インドにおける環境法整備
②法整備の機運高まる
 インドにおける環境汚染規制の沿革
イギリス植民地期20世紀初頭まで遡る。
主な問題は、下水・廃棄物による水質汚濁、騒音
 当初、刑法や警察法での取り締まり
当初 刑法や警察法での取り締まり
⇒1948年工場法、1951年産業法の制定へ
1972年、ストックホルムでの国連人間環境会
議。環境汚染が取り上げられ、水資源などの
問題について国際的な議論が始まる。
 自治体独自の法律の制定⇒ボンベイ、グジャラート
では、ばい煙規制法
 1953年河川汚濁規制法(オリッサ州)
 1969年水質汚濁防止法(マハラシュトラ州)
これに合わせて、インドにおいても、次表に示
すように環境関連法の整備が進む。
21
インドにおける環境法整備
③法整備の経緯
22
インドにおける環境法整備
④憲法第42次改正
1972年 野生動物保護法(国立公園、保護区の設置)
 インドの環境保護に関する憲法上の規定(野村・遠藤(1996)より)
第48A条:「国(State)は、環境の保護、改善ならびに国内の森林および野
生動物の保護に努めなければならない」
第51A条(g):「インド公民は、森林、湖、河川、野生動物を含む自然環境を
保護、改善し、更にすべての生物に哀れみを持つ義務を持つ」
 この他、連邦と州の間の立法権限の区分を変更。
この他 連邦と州の間の立法権限の区分を変更
1974年 水質汚濁防止法(河川の水質汚濁問題への対応)
1976年 憲法第42次改正
1977年 水質汚濁防止税法(中央と州の公害規制委員会の活動資金のため)
1980年 環境局設置、森林保護法
1981年 大気汚染防止法
1985年 環境局を環境森林省へ(Ministry of Environment and Forests)へ昇格。
この下に、中央公害規制委員会(Central Pollution Control Board)や各
州の公害規制委員会が設置される。
 森林、野生動物、人口のコントロールに関しては、連邦・州政府共管リス
トへ。
1986年 環境保護法(環境保護のための総合的法律)
 公衆衛生、下水道、農業、土地、漁業などは、州固有の管轄事項として
残る。
1991年 公害賠償責任保険法(化学工場から有害な物質が漏出し、2,500人以
上の死者と2万人以上の被害者を出した「ボパール事故」を教訓として
制定)
 先の国連ミレニアム開発目標と連携しながら、5カ年計画に関連環境対
策を位置づけている。
野村・遠藤(1996)を参照し、作成。
23
24
4
2010/12/22
インドにおける環境法整備
⑤水資源関連法制
年
名称
具体的な政府の取組み
①ガンガ・アクション・プラン
内容
1882年
地役法
The Easement Act
土地への付属物とみなし、地下水などの資源を個人的に利用する権利を与
える。一方、表層水はすべて国家に属し、国の資産とする。
1897年
インド漁業法
Indian Fisheries Act
漁などのために爆発物を用いること(いわゆる爆発漁法)を罰する。
1956年
河川協議会法
The River Boards Act
州間の問題を解決するための協議会を設置、中央政府もこれへ関わる。
1970年
商船法
Merchant Shipping Act
特定の沿海地域における商船からの廃棄物処理関する取り決め。
1974年
水質汚濁法
The Water Act
水質汚濁に関する法的取り決め。水質・排水に関する基準、汚染の恐れの
ある産業排水の許可制。
1977年
水質汚濁税法
The Water Cess (Prevention and control of pollution) Act
財政難から、規制委員会の活動資金を捻出するため。
1978年
水質汚濁税に関する規則
The Water Cess (Prevention and control of pollution) Rules
水道メーターの種類や取付け位置を指示。
1991年
沿岸制限区域に関する通告
Coastal Regulation Zone Notification
入江、潟、三角江などの保護、保全。
 1985年から始まった最初の河川浄化行動計画。現在、第Ⅱ期が
進行中。ガンガ(ガンジス)川のみではなく、その支流(ヤムナ川な
ど4つ)を含めた計画になっている。
 周辺都市からの家庭排水が汚染原因の80%を占めており、第Ⅰ
期としては、1992年までには日量6億6,000万リットルの家庭・工業
廃水が処理されたが、1994年3月には処理量が日量1億8,000万
が
が
が
リットルにまで減少、処理能力が低下している。
 インド最高裁による2001年の命令で、「ヤムナ川の汚染で市民は
きれいな水を得る憲法上の権利を奪われている」と指摘。
 宗教的儀礼としての水葬の問題。河畔に33基の電気火葬装置を
設置するが、うち25基はほとんど稼働せず。理由は電気供給不足
(MoEF (2009a)、重松(2003)参照)。
25
具体的な政府の取組み
②ヤムナ・アクション・プラン
26
具体的な政府の取組み
②ヤムナ・アクション・プラン(cont.)
 ガンガ・アクション・プランとあわせて、1996年から実施され
ている計画。
 国際協力銀行による円借款(総額178億円)に
よって、水質浄化プログラムを実施。
 ヤムナ川は、ガンジス川最大の支流。デリー、アグラを通
り、両市の重要な水源。
 ニューデリーでは住宅のうち55%しか下水処理につながっ
デリ では住宅のうち55%しか下水処理につなが
ていない。残りは、すべてヤムナ川へ未処理のまま流れ
込む状態。
 デリー首都圏での汚染状況は、BOD(生物化学的的酸素
用要求量)=50ppm、DO(溶存酸素)=0ppmという状況。沐
浴に適する水準(BOD=3ppm以下、DO=5ppm以上)を著し
く逸脱している。
 第Ⅰ期に、ヤムナ川流域沿いの15都市に、遮
集管と集水管 ポンプ場と圧力管 下水処理場
集管と集水管、ポンプ場と圧力管、下水処理場
(27カ所、途上国でも適用可能な低コスト小規模
分散型)、有料公衆便所、電気火葬炉、沐浴場
の設置・整備を実施。
 2003年に第Ⅰ期が終了し、現在、第Ⅱ期を実施
中(以上、MoEF (2009a)、原田(2005)参照)。
27
28
今後の課題
• 都市における水道・衛生設備の普及の状況
• 政府の取組みとしてのガンガ・ヤムナのアク
ション・プランの現状
• 統計資料の収集、整理
統計資料の収集 整理
ご清聴、ありがとうございました。
29
5
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