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多 岐 亡 羊 II - 同志社大学 情報公開用サーバ
多 岐 亡 羊 II Vol. 16 2012 年度西澤ゼミ学生論文集 同志社大学法学部・政治学科 2013 年 3 月 はしがき 中国の学者・楊子(ようし)が、分かれ道が多くて、逃げた 羊を見つけることができなかったことを深く悲しんだ。「分か れ道が多いために羊を逃してしまったのと同じように、学問の 道もあまりに多方面にわたっているために、真理を見失ってし まうことを悲しんだのだ」と、後にその弟子の一人・心都子(し んとし)が説明したそうだ。 現代日本が抱える政治的な問題や日本あるいは外国の有権 者の投票行動・価値観について、多くの立場の研究に触れ、ま た、興味を持った具体的な疑問点について、各自が独自な視点 で分析を行ったわけだが、それには1年はあまりにも短かった。 おかげで、政治のメカニズムが理解できたというより、むしろ よけいに分からなくなったというのが正直なところだろう。ま さしく、 「多岐亡羊」である。 さて、2012 年度もまた、例年とは異なる 1 年だった。私が、 シェフィールド大学(イギリス)での在外研究に秋学期に行く ということで、前期は「集中ゼミ」、そして後期は「Skype に よる遠隔ゼミ」となった。学生諸君には、不便をかけないよう にと心がけたつもりであるが、いろんな意味でたいへんであっ たことはたしかである。にもかかわらず、このように『多岐亡 羊』がまとまったことを嬉しく思う。私が不在な分だけ、逆に、 学生諸君の自主性と連帯感が高まったようも思う。 それにしても、今年のゼミは、学年を超えて仲がよい。初め て試みた Facebook を通じて発見したのだが、 (私の知らない間 に)ゼミ生で、あちこちに旅行もしていたようだ。 ところで、大学で学ぶことの究極の目的は、「真理とは何か (あるいは人間とはどういう生き物なのか)」という問いに対 する答えを見いだすことである。それにしても、大学の 4 年は 短すぎる。今年度も、「真理を問う」ことのおもしろさを、君 たちが少しは体験できたと私は信じているが、4 年生の諸君は、 卒業後もこの問いに対して自問を続けることになるだろう。ま た、在学生は、残る時間を大切にして、今年以上に勉学に励ん でほしい。来年度のさらなる飛躍を期待したい。 西澤由隆 2013 年 1 月 14 日 光塩館の研究室にて i もくじ はしがき ················································ 3 年生論文 1. 自治会・町内会と投票参加度 ·········· 西澤由隆 i 浦岡教之 1 -なぜ自治会・町内会加入者の投票参加度は高いのか- 2. 政治的社会化の影響 ······················ 浦田祐香 15 -初期政治的社会化とパーソナリティ- 3. 若者の政治関心をはぐくむ 社会的役割の変化 ··· 林香織 4. 自治体発のキャラクターは政治参加への 「波及効果」を持つのか ······ 山内逸平 30 52 -政治参加度にみるキャラクターの可能性- 4 年生論文 5. 衆参の違いは与党支持者にどのような 投票行動の変化をもたらすのか 池田洋 64 岡本怜子 78 岡山義信 90 日裏瑠奈 113 -与党支持者による参議院選挙での離反投票- 6. どのような女性が政治参加するのか · 7. 分割政府時の地方議会議員行動、 首長と政党の統制 ··· -大阪府議会を事例に- 8. 個人の政治関心の変化 ··················· -2003 年と 2005 年の世論調査データの比較から- 9. どのように職業が 投票行動を規定するのか -少数派職業と職業利益代表- ii ··· 山岸未加 123 3 年生論文 1 自治会・町内会と投票 参加度 ―なぜ自治会・町内会加入者の投票参加度は高 いのか― 浦岡 教之 1. はじめに 組織加入者は、非加入者に比べてより政治に参加する傾向があ る。Sidney Verba and Norman H. Nie (1972) によると、市民は 組織に加入することで政治的刺激に触れる機会が多くなる。また、 組織が目的を達成するために政治的活動を行う場合、より一層政 治に参加する(Verba and Nie 1972, p.174-208)。 では、最も一般的な市民社会組織の一つである自治会・町内会 の加入者は、どの程度政治に参加しているのだろうか。表 1 は、 自治会・町内会加入と投票をクロス表に整理したものである。表 1 を見ると、自治会・町内会加入者のうち 87.2%が投票に行ってお り、非加入者の 79.2%と比べて高い値を示している。つまり自治 会・町内会加入者は、非加入者に比べてより投票に行く傾向があ る。 表1 自治会・町内会 自治会・町内会加入と投票のクロス表 (%) 投票 参加 不参加 合計 加入 87.2 12.8 100 非加入 79.5 20.5 100 出典:第 44 回衆議院議員総選挙意識調査 N 745 862 カイ二乗値:17.211 危険率:.000 しかし、自治会・町内会の活動内容を考慮した場合、この結果 は納得できるものではない。なぜなら、自治会・町内会は住民相 互の連絡・区域の環境美化や清掃活動などを主な活動としており、 政治的活動をほとんど行わないからである。1 その活動内容は、 基本的に地域の住みやすさの向上を目的としたものが多い。した がって、自治会・町内会への加入によって、政治的刺激に触れる 機会が多くなり、その結果、より投票に参加したとは考えにくい。 以上の内容を踏まえて、本稿では、 「なぜ自治会・町内会加入者 の投票参加度は高いのか」というリサーチクエスチョンを設定す る。そして、その疑問に対する答えとして、 「自治会・町内会加入 者は、地域に愛着を抱いているので、その結果投票に行く」とい う地域愛着度仮説を提示する。 しかし、本稿を通じて一つ断わっておきたいのが、地域愛着度 仮説には逆の因果メカニズムも想定できるということである。す 1 なわち、地域に愛着を抱いているからこそ、自治会・町内会に加 入するという因果メカニズムである。分析においては、この逆の 因果メカニズムも考慮するべきであるが、本稿の使用データでは その点について分析をおこなうことができなかった。あらかじめ 了承していただきたい。 結論を先取りして述べるなら、この仮説は支持されなかった。 つまり、自治会・町内会加入者の投票参加度を高めている要因は、 地域愛着度ではなかった。しかし、その一方で、投票参加度を高 めている別の要因を発見することができた。それは、従来指摘さ れてきているような社会経済的変数であった。 本稿の構成は次の通りである。まず 2 節でリサーチクエスチョ ンに対する仮説とそのメカニズムを紹介する。次に 3 節で分析枠 組みに触れ、4 節で分析結果を提示する。5 節では本稿の総括をお こなう。 2. 仮説 2-1. 仮説に入る前に 蒲島 (1986) によると、組織加入は直接的に投票に影響を与える のではなく、媒介変数を通じて、間接的に影響を与えている(蒲 島 1986, p.185-187)。2 言い換えると、組織加入自体が投票に影 響を与えているのではなく、何らかの媒介変数が影響を与えてい るということである。 その媒介変数の中で重要な部位を占めているのは、社会経済的 変数(年齢・性別・教育)や政治心理的変数(政治関心・支持政 党)である。つまり、組織加入者には、社会経済的変数や政治心 理的変数に偏りがある人が多いということである。組織加入者が、 社会経済的地位の高い人や政治関心が強い人などに限られていた 場合、組織加入と投票の関係はみせかけの関係にすぎず、それら の変数をコントロールすると、組織加入自体の影響はなくなって しまう。 組織加入者にそれらの変数の偏りが見られる理由として、組織 の性質や活動内容を挙げることができる。組織がある特定の条件 をもつメンバーで構成されている場合、社会経済的変数に偏りが 生まれる。その代表例は、婦人会だろう。婦人会は、その名の通 り、女性のみで構成されている。そのため、性別という社会経済 的変数が女性だけに偏ってしまう。一方、組織が政治的な活動を 主としている場合、加入者は活動を通じて、政治に関心を抱くだ ろう。労働組合がその良い例である。労働組合は、労働条件の改 善や制度の改正を求めるなど政治的な活動をおこなう。それゆえ、 労働組合加入者は政治関心が高いという様に政治心理的変数にば らつきが発生する。 以上の内容を整理すると、組織加入は主に社会経済的変数や政 治心理的変数を媒介変数として、投票に影響を与えている。組織 加入と投票の関係を図式化すると、図 1 のようになる。 2 図1 組織加入と投票の関係 社会経済的変数 組織加入 (性別・年齢 ・教育程度) 投票 政治心理的変数 組織加入 投票 (政治関心・支持政党) しかし、自治会・町内会がそれらの媒介変数を通じて、投票に 影響を与えているとは考え難い。なぜなら、自治会・町内会は半 ば強制的に参加しなければならないものであり、政治的活動もあ まり行わないからである。半強制的に参加しなければならないこ とを考慮すると、加入者の社会経済的変数(年齢・性別・教育程 度)に著しい偏りがあるとは考えにくい。ロバート・ペッカネン (2008)も、加入者が幅広い層から来ているという特徴を指摘し ている。また、政治的活動をあまり行わないという性質から、加 入者の政治心理的変数(政治関心・支持政党)に大きなばらつき があるとも断言できない。以上から、自治会・町内会では、図 1 の社会経済的変数や政治心理的変数が媒介変数として機能してお らず、別の媒介変数が機能しているのではないだろうか。 本稿では、上記の内容を踏まえて、地域愛着度という別の媒介 変数を提示し、自治会・町内会が投票に与える間接的影響につい て実証する。 2-2. 地域愛着度仮説 本稿では、 「なぜ自治会・町内会加入者の投票参加度は高いのか」 というリサーチクエスチョンに対し、地域愛着度仮説を提示する。 この仮説は、 「自治会・町内会加入者は、地域に愛着を抱いている ので、その結果投票に行く」というものである。図式化すると、 図 2 のようになる。以下では、図 2 を参照しながら、地域愛着度 仮説のメカニズム(a と b)について説明する。 図2 自治会・町内会加入 a 自仮説のモデル図 地域愛着度 b 投票 ●a のメカニズム 自治会・町内会の活動は、非常に多岐にわたる。その活動は居 3 住区域を中心にして、住民相互の連絡、区域の環境美化や清掃活 動、地域の運動会や祭りなど幅広い。また、正月行事や盆踊り、 花見といった年中行事をおこなうところもある。 このように、自治会・町内会の活動は多様であるが、その活動 は主として地域の暮らしやすさの向上を目的にしている。上記の 活動を例にとっても、加入者間の緊密性の向上を目指し、地域を 住みやすくするという点で共通している。辻中ら (2009) も、「町 内会・自治会など近隣住民組織に関する全国調査」に基づき、清 掃・美化や生活道路の管理などの最低限の住環境・施設管理を基 礎としながら、地域社会の諸問題に取り組むという自治会・町内 会 の 基 本 的 な 活 動 ス タ ン ス を 指 摘 し て い る ( 辻 中 2009, p124-131)。3 4 自治会・町内会の活動が自分の居住地域の暮らしやすさを向上 させるとすれば、加入者は活動を通じて地域に愛着を抱くのでは ないだろうか。居住地域の暮らしやすさの向上を目指して活動す ることにより、地域に愛着を抱くという関係は想像に難くないだ ろう。 以上から、図 2 の a では、自治会・町内会に加入することで地 域に愛着を抱くというメカニズムを想定する。 ●b のメカニズム 地域愛着度の高い人は、選挙を通じて地域的な問題の解決を図 るだろう。なぜなら、地域的な問題を解決するために、選挙を必 要とする場面は数多く考えられるからである。例えば、地域内で インフラ整備が不十分なところがあるとしよう。そのせいで、多 くの地域住民が交通の不便さに頭を悩ませている。地域愛着度の 高い人ならば、どうにかしてインフラ整備をすすめ、暮らしやす い地域を実現したいと考えるだろう。しかし、住民が直接的にイ ンフラを整備することはできない。それゆえ、選挙の際に、イン フラ整備の充実を謳う候補者に投票するだろう。したがって、地 域愛着度の高い人ほど、より暮らしやすい地域を目指して投票に いくと言える。 実は、地域愛着度と投票参加の相関関係については、すでに研 究がなされている。その例として、三宅・西澤 (1997) の研究があ る。彼らは、地域との心理的距離の近い人、つまり地域に対して 愛着を抱いている人がより投票に行くことを実証している(三 宅・西澤 1997, p.183-206)。5 以上から、図 2 の b では、地域に愛着を抱いている人は投票に いくというメカニズムを想定する。 3. 分析枠組み 3-1. 使用データ 本稿では、上記の仮説を実証するために、財団法人明るい選挙 推進協会の「第 44 回衆議院議員総選挙についての意識調査」を使 用する。6 4 3-2. 分析手順と予想される結果 分析は 4 段階でおこなう。 まず第 1 段階では、自治会・町内会への加入が、他の組織加入 をコントロールしても、投票にプラスの影響を与えているのかを 確認する。なぜなら、蒲島 (1988) も指摘している通り、有権者は ただ一つの組織に加入するわけではなく、往々にして複数の組織 に同時に加入している場合が考えられるからである(蒲島 1988, p.93)。他の組織加入の影響を排除するため、自治会・町内会加入 と他の組織加入を独立変数に、投票を従属変数に設定して、重回 帰分析をおこなう。7 予想される結果は、自治会・町内会加入が 投票にプラスの影響を与えるというものである。 第 2 段階では、自治会・町内会への加入が、社会経済的変数(年 齢・性別・教育程度)をコントロールしても、投票にプラスの影 響を与えているのかを確認する。第 1 段階の分析に、コントロー ル変数として社会経済的変数を加えて、重回帰分析をおこなう。 ここでは、自治会・町内会加入のプラスの影響は維持されるが、 他の組織加入の影響は社会経済的変数の投入により確認できなく なるという分析結果を想定する。 次に、第 3 段階では、自治会・町内会への加入が、政治心理的 変数(政治関心・支持政党)をコントロールしても、投票にプラ スの影響を与えているのかを確認する。第 1 段階の分析に、コン トロール変数として政治心理的変数を加えて、重回帰分析をおこ なう。この分析においては、自治会・町内会のプラスの影響は維 持されるが、他の組織加入の影響は政治心理的変数の投入によっ て打ち消されるという結果を予想する。 上記の第 2・3 段階の分析で、コントロール変数として社会経済 的変数と政治心理的変数を別々に投入するのには理由がある。そ れは、もし従来の指摘通り、自治会・町内会加入の影響がこれら の二変数によって打ち消された場合、どちらの変数が原因かを特 定するためである。 最後の第 4 段階では、自治会・町内会への加入が、社会経済的 変数・政治心理的変数ではなく、地域愛着度を経由して、投票に プラスの影響を与えているのかを確認する。第 2・3 段階で使用し たコントロール変数(社会経済的変数・政治心理的変数)に、あ らたに地域愛着度を追加して、重回帰分析をおこなう。本稿の仮 説の通り、地域愛着度が媒介変数として機能しているならば、第 4 段階の分析によって、自治会・町内会加入のプラスの影響はなく なり、全ての組織加入の影響が確認できなくなるだろう。 5 図 3 第 1~ 4 段 階 の 分 析 結 果 の 予 想 図 第1段階 第2段階 自治会・町内会 ○ ○ 婦人会 △ × 青年団・消防団 △ × 老人クラブ(会) △ × PTA △ × 農協その他の農林漁業 △ × 労働組合 △ × 商工業関係の経済団体 △ × 宗教団体 △ × 同好会・趣味のグループ △ × 住民運動・消費者運動・市民団体 △ × 社会経済的変数(年齢・性別・教育程度) - ○ 政治心理的変数(政治関心・支持政党) - - 地域愛着度 - - 第3段階 ○ × × × × × × × × × × - ○ - 第4段階 × × × × × × × × × × × ○ ○ ○ 3-3. 作業定義 ここでは、第 1~4 段階の分析における主要な変数の作業定義を それぞれ提示する。なお、詳しい作業定義については、補遺に掲 載しているので参照して頂きたい。 ●組織加入の作業定義 本分析で使用する全組織(自治会・町内会、婦人会、青年団・ 消防団、老人クラブ、PTA、農協その他の農林漁業、労働組合、 商工業関係の経済団体、宗教団体、同好会・趣味のグループ、住 民運動・消費者運動・市民団体)は、それぞれ加入=1、非加入=0 に再コードした。 ●投票の作業定義 投票については、投票した=1、投票しなかった=0 に再コードし た。 ●地域愛着度の作業定義 地域愛着度については、非常に感じている=1、かなり感じてい る=.67、あまり感じていない=.33、全く感じていない=0 に再コー ドした。 6 4. 分析結果 表 2 組 織 加 入 と 投 票 の 関 係 組織効果 自治会・町内会 婦人会 青年団・消防団 老人クラブ(会) PTA 農協その他の農林漁業 労働組合 商工業関係の経済団体 宗教団体 同好会・趣味のグループ 住民運動・消費者運動・市民団体 男性 年齢 教育程度 旧中・旧高卒 新高専・短大・専修学校卒 旧高専大・新大卒 大学院(修・博)卒 政治関心 支持政党 地域愛着度 調整済みR二乗値 .065** .046 -.001 .046 .054 -.017 .084* .053 .063 .129*** .088 社会経済的 変数効果 .030 .047 .039 .007 .091** -.013 .102** .034 .067 .088*** .056 -.008 .006*** 政治心理的 変数効果 .045** .094** -.004 .042 .047 -.037 .073 .017 -.049 .099*** .108 地域愛着度 効果 .020 .032 -.007 .021 .090* -.030 .050 -.026 .003 .064* .070 -.052*** .004*** .116*** .158*** .243*** .271*** .144*** .195*** .259*** .036 .448*** .296*** .108*** .127*** .127** .028 .076 .130 .143 注)教育程度については、小・高小・新中卒を参照カテゴリーに設定した。 *P<0.1 **P<0.05 ***P<0.01で統計的に有意 偏回帰係数 (B値) を掲載 表 2 は、第 1~4 段階の分析結果を一覧にしたものである。 まず、組織効果のコラムから確認していこう。このコラムを見 ると、他の組織加入をコントロールしても、自治会・町内会への 加入が投票にプラスの影響を与えていることがわかる。また、労 働組合加入と同好会・趣味のグループ加入も、投票にプラスの影 響を与えている。 次に、社会経済的変数効果のコラムに目を移してほしい。する と、自治会・町内会加入の影響が有意な結果ではなくなっている ことがわかる。つまり、自治会・町内会加入のプラスの影響は、 社会経済的変数によるみせかけの相関関係であった。一方、労働 組合加入と同好会・趣味のグループ加入は、先ほどの組織加入の コラムの結果と変わらず、投票にプラスの影響を与えている。ま た、PTA 加入も投票にプラスの影響を与えていることがわかる。 続いて、政治心理的変数効果のコラムにうつろう。このコラム を見ると、政治心理的変数をコントロールしても、自治会・町内 会加入が投票にプラスの影響を与えていることが確認できる。ま た、婦人会加入と同好会・趣味のグループ加入も、投票に対して 7 統計的に有意にプラスの影響を与えている。 最後に、地域愛着度効果のコラムに注目してほしい。すると、 自治会・町内会加入が、有意な結果になっていないことが確認で きる。この結果は予想結果と一致しているが、地域愛着度の投入 による影響とは言い難い。なぜなら、先ほどの社会経済的変数を コントロールした時点で、自治会・町内会加入の影響が有意では なくなっていたからである。つまり、自治会・町内会の影響は、 社会経済的変数の投入により打ち消されたのであって、地域愛着 度の投入によって打ち消されたのではない。その一方で、PTA 加 入と同好会・趣味のグループ加入だけが、投票にプラスの影響を 与える結果となった。 以上の結果を総括すると、自治会・町内会加入の投票に対する プラスの影響は、社会経済的変数によるみせかけの関係であった ということができる。また、本稿の主たる目的ではなかったが、 同好会・趣味のグループ加入が、第 1~4 段階の全分析を通じて、 投票に対して統計的に有意にプラスの影響を与えていることを確 認できた。 5. おわりに 本稿では、 「なぜ自治会・町内会加入者の投票参加度は高いのか」 というリサーチクエスチョンに対し、「自治会・町内会加入者は、 地域に愛着を抱いているので、その結果投票に行く」という地域 愛着度仮説を提示して、分析をおこなった。しかし、従来の指摘 の通り、自治会・町内会加入も他の組織加入と同様に、社会経済 的変数を経由して投票に影響を与えていることが分かるだけとな った。つまり、本稿の地域愛着度仮説は支持されなかった。 一方で、自治会・町内会加入者の投票参加度を高めている要因 を特定できたことは、一定の成果であった。その要因は、政治心 理的変数ではなく、社会経済的変数であった。本稿の予想通り、 自治会・町内会はあまり政治的な活動をおこなわないため、政治 関心などの政治心理的変数に影響を与えることはなかった。 最後に、本稿の課題について触れ、締めくくりに代えることに する。まず、第一の課題としては、分析に用いた社会経済的変数 (性別・年齢・教育程度)のうち、どれが投票に強く影響を与え ているのか確認できなかった点である。今回、そこまで踏み込む ことができなかったが、今後、検討していく必要があるだろう。 第二に、本稿の最初で述べた通り、地域愛着度仮説における逆 の因果メカニズムを考慮できなかった点があげられる。本稿では、 自治会・町内会加入が地域愛着度を高めるという一方的な関係し か分析できていない。それと同時に、地域愛着度が自治会・町内 会加入につながるというメカニズムも十分に想定できる。使用デ ータの限界とはいえ、逆の因果メカニズムを考慮できなかったの は、大きな課題である。 注 (1) 山崎丈夫 1999. 『地縁組織論-地域の時代の町内会・自治 8 会、コミュニティ』 p.33 の 表 1 認可地縁団体の規約に定め る「目的」において明示されている活動内容 から数種類の活 動を抽出した。 2 ( ) 実際、蒲島は同書の中で、社会経済的変数と政治心理的変数 をコントロールして分析をおこなっており、その結果、組織 の直接的影響を確認できるものはなかった。 (3)「町内会・自治会など近隣住民組織に関する全国調査」は、文 部科学省の特別推進研究の一環として、筑波大学人文社会科 学研究科の自治会・町内会(代表:辻中豊)が 2006 年 8 月 ~2007 年 2 月にかけて日本全国の自治会組織を対象に実施し たものである。詳しくは、辻中ら (2009) を参照。 4 ( ) 辻中ら (2009) は、自治会・町内会の社会サービス活動を、 住環境の整備・施設管理、親睦、問題対処:安全、問題対処: 福祉・教育、問題対処:その他に分別し、社会サービスの実 施状況について分析している。 5 ( ) 三宅・西澤 (1997) は、居住形態(持ち家) ・居住年数・都市 規模という 3 つの変数をもとに、地域との心理的距離が投票 に与える影響について分析している。そのうち、居住形態(持 ち家)・都市規模が投票に影響を与えていることを実証した。 6 ( ) ここで利用したデータは、 「第 44 回衆議院総選挙についての 意識調査」である。 「第 44 回衆議院議員総選挙についての意 識調査」は明るい選挙推進協会からの依頼を受けて 2005 年 (平成 17 年)10 月に社団法人中央調査社が実施した世論調査 である。同志社大学・法学部の西澤由隆先生のご指導と便宜 により利用することができた。データを公開・寄託され、利 用できるようにしてくださった先生方に感謝いたします。 (7) 本稿の分析では、他の組織加入を、それぞれ別々に投入して いる。なぜなら、因子分析(主成分分析、バリマックス回転) などを用いて、ある程度のグループ分けを試みたが、有効な グループ分けができなかったからである。他の組織加入の度 数が少ないという問題点が考えられるが、ご容赦いただきた い。 <補遺> ○全組織加入 ・質問文「あなたは、このような団体に加入していますか。あれ ばいくつでも結構ですからあげてください。 」 ・回答コード「言及=1、言及せず=0」をそのまま利用 ○地域愛着度 ・質問文「あなたは、この市(区・町・村)にどの程度愛着を感 じていますか。この中からお答えください。 」 ・回答コード「1. 非常に愛着を感じている、2. かなり愛着を感 じている、3. どちらとも言えない、4. あまり愛着を感じて いない、5. 全く愛着はない、6. わからない」から「3. どち らとも言えない、6. わからない」を欠損値として取り除き、 9 1 非常に愛着を感じている=1、かなり愛着を感じている =.67、 あまり愛着を感じていない=.33、全く愛着はない= 0 に再コード。 ○男性 ・回答コード「1. 男性、2. 女性」を男性=1、 女性=0 に再コ ード。 ○年齢 ・質問文「あなたのお年は満でおいくつですか。 」 ・実数をそのまま投入した。 ○教育程度 ・質問文「あなたは学校はどこまでいらっしゃいましたか。」 ・回答コード「1. 小・高小・新中卒、2. 旧中・新高卒、3. 新高 専・短大・専修学校卒、4. 旧高専大・新大卒、5. 大学院(修・ 博)卒、6. わからない」から「6. わからない」を欠損値と して除外した。加えて、 「小・高小・新中卒」を参照カテゴリ ーに設定し、その他の選択肢をそれぞれ該当するもの=1、該 当せず=0 に再コードして投入した。 ○政治関心 ・質問文「あなたはふだん国や地方の政治についてどの程度関心 をもっていますか。」 ・回答コード「1. 非常に関心がある、2. 多少は関心がある、3. ほ とんど関心がない、4. 全く関心がない、5. わからない」か ら「5. わからない」を欠損値として取り除き、非常に関心が ある=1、多少は関心がある=.67、ほとんど関心がない=.33、 全く関心がない=0 に再コード。 ○支持政党 ・質問文「あなたは、ふだん何党を支持していらっしゃいますか。 」 ・回答コード「1. 自由民主党、2. 民主党、3. 公明党、4. 日本 共産党、5. 社会民主党、6. 国民新党、7. 新党日本、8. 新党 大地、9. その他、10. 支持政党なし、11. わからない」から 「11. わからない」を欠損値として取り除き、1~9 の選択肢 =1、10=0 に再コード。 <シンタックス> ○第 1 段階の分析のシンタックス MISSING VALUES govote (5). recode neighb (1=1)(2=0) into neighb2. recode women (1=1)(2=0) into women2. recode yngfire (1=1)(2=0) into yngfire2. recode oldmen (1=1)(2=0) into oldmen2. recode pta (1=1)(2=0) into pta2. recode farm (1=1)(2=0) into farm2. recode union (1=1)(2=0) into union2. recode prof (1=1)(2=0) into prof2. recode religion (1=1)(2=0) into religion2. recode dokokai (1=1)(2=0) into dokokai2. recode smoveorg (1=1)(2=0) into smoveorg2. recode govote (1-3=1)(4=0) into govote2. 10 REGRESSION VARIABLES=govote2 neighb2 women2 yngfire2 oldmen2 pta2 farm2 union2 prof2 religion2 dokokai2 smoveorg2 /DEPENDENT govote2 /METHOD=ENTER. ○第 2 段階の分析のシンタックス MISSING VALUES govote (5). MISSING VALUES educ (6). recode neighb (1=1)(2=0) into neighb2. recode women (1=1)(2=0) into women2. recode yngfire (1=1)(2=0) into yngfire2. recode oldmen (1=1)(2=0) into oldmen2. recode pta (1=1)(2=0) into pta2. recode farm (1=1)(2=0) into farm2. recode union (1=1)(2=0) into union2. recode prof (1=1)(2=0) into prof2. recode religion (1=1)(2=0) into religion2. recode dokokai (1=1)(2=0) into dokokai2. recode smoveorg (1=1)(2=0) into smoveorg2. recode educ (2=1)(else=0) into educ2. recode educ (3=1)(else=0) into educ3. recode educ (4=1)(else=0) into educ4. recode educ (5=1)(else=0) into educ5. recode sex (2=0) (1=1) into sex2. recode govote (1-3=1)(4=0) into govote2. REGRESSION VARIABLES=govote2 neighb2 women2 yngfire2 oldmen2 pta2 farm2 union2 prof2 religion2 dokokai2 smoveorg2 sex2 age educ2 educ3 11 educ4 educ5 /DEPENDENT govote2 /METHOD=ENTER. ○第 3 段階の分析のシンタックス MISSING VALUES govote (5). MISSING VALUES polint (5). MISSING VALUES partsupt (11). recode neighb (1=1)(2=0) into neighb2. recode women (1=1)(2=0) into women2. recode yngfire (1=1)(2=0) into yngfire2. recode oldmen (1=1)(2=0) into oldmen2. recode pta (1=1)(2=0) into pta2. recode farm (1=1)(2=0) into farm2. recode union (1=1)(2=0) into union2. recode prof (1=1)(2=0) into prof2. recode religion (1=1)(2=0) into religion2. recode dokokai (1=1)(2=0) into dokokai2. recode smoveorg (1=1)(2=0) into smoveorg2. recode polint (1=1)(2=.67)(3=.33)(4=0) into polint2. recode partsupt (1-9=1)(10=0) into partsupt2. REGRESSION VARIABLES=govote2 neighb2 women2 yngfire2 oldmen2 pta2 farm2 union2 prof2 religion2 dokokai2 smoveorg2 polint2 partsupt2 /DEPENDENT govote2 /METHOD=ENTER. ○第 4 段階の分析のシンタックス MISSING VALUES attached (3,6). MISSING VALUES govote (5). MISSING VALUES polint (5). MISSING VALUES partsupt (11). MISSING VALUES educ (6). recode attached (1=1)(2=.67)(4=.33)(5=0) into attached2. recode neighb (1=1)(2=0) into neighb2. recode women (1=1)(2=0) into women2. recode yngfire (1=1)(2=0) into yngfire2. recode oldmen (1=1)(2=0) into oldmen2. recode pta (1=1)(2=0) into pta2. recode farm (1=1)(2=0) into farm2. 12 recode union (1=1)(2=0) into union2. recode prof (1=1)(2=0) into prof2. recode religion (1=1)(2=0) into religion2. recode dokokai (1=1)(2=0) into dokokai2. recode smoveorg (1=1)(2=0) into smoveorg2. recode polint (1=1)(2=.67)(3=.33)(4=0) into polint2. recode partsupt (1-9=1)(10=0) into partsupt2. recode educ (2=1)(else=0) into educ2. recode educ (3=1)(else=0) into educ3. recode educ (4=1)(else=0) into educ4. recode educ (5=1)(else=0) into educ5. recode sex (2=0) (1=1) into sex2. recode govote (1-3=1)(4=0) into govote2. REGRESSION VARIABLES=govote2 neighb2 women2 yngfire2 oldmen2 pta2 farm2 union2 prof2 religion2 dokokai2 smoveorg2 sex2 age educ2 educ3 educ4 educ5 polint2 partsupt2 attached2 /DEPENDENT govote2 /METHOD=ENTER. <参考文献> ・蒲島郁夫 1986. 「第 6 章 政治参加」 綿貫譲治・三 宅一郎・猪口孝・蒲島郁夫『日本人の選挙行動』 東 京大学出版会 pp175-202. ・蒲島郁夫 1988. 『政治参加』 東京大学出版会. ・善教将大 2008. 「政治参加としての自治・町内会参 加の実証分析-なぜ自治・町内会活動への参加者は 増加したのか」 『政策科学』16 巻 1 号 pp45-60. ・東海自治体問題研究所 1996. 『町内会・自治会の新 展開』 自治体研究社 . ・辻中豊・崔宰栄・山本英弘・三輪博樹・大友貴史 2006.「日本 の市民社会構造と政治参加-自治会、社会集団、NPO の全体 13 像とその政治関与-」 『レヴァイアサン』41:7-14. ・辻中豊・ロバート・ペッカネン・山本英弘 2009. 『現代日本 の自治会・町内会-第 1 回全国調査に見る自治力・ネットワ ーク・ガバナンス』 木鐸社. ・日本総合研究所 2003. 『ソーシャルキャピタル-豊かな人間 関係と市民活動の好循環を求めて』日本総合研究所. ・平野浩 2007 『変容する日本の社会と投票行動』 木鐸社. ・三宅一郎・西澤由隆 1997. 「第 7 章 日本の投票参加モデル」 綿貫譲治・三宅一郎 『環境変動と態度変容』 木鐸社 pp183-219. ・山崎丈夫 1999. 『地縁組織論-地域の時代の町内会・自治会、 コミュニティ』 自治体研究社 . ・吉原直樹 1980. 『地域社会と地域住民組織-戦後自治会への 一視点』 八千代出版株式会社 p73-157 . ・ロバート・ペッカネン著 佐々田博教訳 2008.『日本における 市民社会の二重構造-政策提言なきメンバー達』木鐸社. ・Verba, Sidney and Norman H. Nie, 1972, Participation in America : Social Equality and Political Democracy, New York : Harper & Row, pp174-208. 14 2 政治的社会化の影響 ―初期政治的社会化とパーソナリティ― 浦田 祐香 1. はじめに 人は何らかの形で政治に関わるため、生涯を通して政治意識を 獲得する。この個人が政治意識を形成する過程を政治的社会化と いう。政治的社会化は、 「社会の様々な機関によって媒介される過 程で、個人が政治に関連した態度傾向や行動様式を学習する過程 である」 (K.P ラントン 1978 p2 原文ママ)とも定義され、広 範な概念である。そして、政治的社会化は未成年期と成人以後の 大きく二つの時期に分かれる。一般的に、未成年期の政治的社会 化を初期政治的社会化、成人後の政治的社会化を後期政治的社会 化という。 この政治的社会化の二つの時期にはそれぞれ特徴がある。以下、 R.ドーソン/K.プルウィット/K.ドーソン(1986)を参考にし、政治 的社会化の二つの時期の特徴それぞれについて述べる。まず、初 期政治的社会化の行為主体には、家族・学校・マスメディア・団 体などが挙げられる。これらの行為主体より政治的な刺激を受け、 まず政治や国家・社会への帰属意識を形成すると言われている。 この帰属意識を前提に年齢を経るごとに、政治に対する知識を獲 得し、政治的な支持を持ち始めるのだ。このように初期政治的社 会化は、行為主体の影響に大きく左右される。一方、後期政治的 社会化は行為主体として、初期政治的社会化と共通する家族・団 体・マスメディア以外に職場が挙げられ、また団体も多様性がで る。そして、後期政治的社会化の大きな特徴は、政治の世界その ものから受ける刺激が大きいことである。成人後の個人は政治主 体から得られる情報から、自分に有益なものを選択し判断するこ とで政治的な支持を獲得していくのである。そのため、後期政治 的社会化は自発的に行われることが多いという特徴がある。なお、 二つの時期ともに個人の行動に大きな影響を与える重要な概念で ある。 この二つの時期の政治的社会化の特徴を踏まえて、本稿では初 期政治的社会化に注目して分析する。その理由は以下に述べる。 初期政治的社会化は、上記のように政治的な帰属意識、すなわち 政治意識の基礎の部分を形成する過程である。そのため、初期政 治的社会化で得られた政治意識はその個人の人生全てに影響を与 えるのではないか。つまり、成人後の政治意識や行動はすべて初 期政治的社会化で得られた政治意識が前提となっていると考える のである。これらのことから、本稿では初期政治的社会化は個人 の行動影響を与える重要なものであると捉え、初期政治的社会化 について分析を行うことにする。 15 また、本稿では初期政治的社会化は成人後の個人のパーソナリ ティ、特に行動力・積極性・社会性に影響を与えると仮定し、こ の三点に絞って分析する。この三点はあらゆる行動の前提である ため、個人の政治意識の前提を生み出す初期政治的社会化はこれ らに影響を与えているのではないかと考えたからだ。しかし、未 成年期の経験が個人のパーソナリティに影響を与えるという仮説 は、社会科学に限らず、世間一般でも考えられていることである。 だが、本稿では政治的社会化という政治的な概念が、政治的な行 動に限らず個人の成人後の行動に影響を与えるということに研究 の意義を見出した。 以上のことから、本稿では、 「初期政治的社会化は成人後の個人 のパーソナリティに影響を与えているのか」というリサーチクエ スチョンのもと、初期政治的社会化が成人後の個人に与える影響 について分析する。また、本稿では後期政治的社会化も成人後の 個人に影響を与えると考えているため、後期政治的社会化も分析 に入れる。これらの分析より、初期政治的社会化や後期政治的社 会化の影響を表し、重要性を示したい。 以上のことを論じるために、本稿では以下の構成をとる。第二 節では仮説を掲げ、仮説のメカニズムを説明する。第三節では、 分析方法を述べ、第四節では分析結果を示す。そして、第五節で 本分析全体の考察を述べる。 2.仮説 本稿では、上記のように、初期政治的社会化は成人後の行動力・ 積極性・社会性に影響を与えると仮定し、初期政治的社会化がも たらすものとして、四つの仮説を提示する。政治的運動参加・団 体加入、積極的運動参加(団体) ・積極的運動参加(私的グループ) の四つである。また、前述のように初期政治的社会化の行為主体 として学校・家庭・団体・マスメディアなどが挙げられると述べ ているが、本稿では、未成年者が直接関わることができ、身近に 感じられる学校・家庭・団体からの初期政治的社会化を中心に分 析する。 2-1. 行動増加面 本稿では、初期政治的社会化の影響による個人の経験が前提と なり、成人後の行動力が増すと考える。そのため、初期政治的社 会化の影響を受けた者のほうが政治的運動に参加し、より団体に も加入すると予想する。以下、そのメカニズムを述べる。 成人後の行動力は、初期政治的社会化の影響である「行動の模 倣」という潜在的な意識により生み出されるのだ。未成年者は学 校や家庭・団体(特に親・兄弟や教師)の政治的行動の具体的内 容や意図は理解出来ないとしても、それらの行動自体を知り、身 近に感じる。すると、未成年者は意識的・無意識的にそれらの行 動を模倣する。その模倣が成人後の個人の行動に現れるのではな いかと考える。つまり、初期政治的社会化の影響を受けた者は、 行為主体の政治的行動を意識的・無意識的に模倣するので、行動 的になるということである。 16 しかし、逆のメカニズムも起こりうる。それは、親・兄弟や教 師が政治的行動を積極的に行わない場合や個人が「行動の模倣」 ではなく、自らの興味・関心により行動を起こす場合である。こ れらの場合、初期政治的社会化が成人後の個人の行動力を増加さ せているのかいう疑問が浮かぶ。しかし、前者の場合は初期政治 的社会化が働かなかったもしくはマイナスに働いたということが できるし、後者の場合は自らの興味・関心の前提に初期政治的社 会化があると考えられる。そのため、やはり本稿では初期政治的 社会化は成人後の個人の行動力に影響を与えると考える。 2-2.積極性・社会性獲得面 本稿では、初期政治的社会化は、成人後の積極性・社会性に影 響を与えると仮定する。そのため、初期政治的社会化の影響を受 けた者は、あらゆる団体や私的なグループにおいて、集団内で積 極的に行動すると予想する。以下、そのメカニズムを述べる。 なぜ、初期政治的社会化が成人後の積極性・社会性に影響を与 えるのか。未成年期に学校や家族・団体の中で、積極的に活動し、 行為主体の意見を聞く・自らの意見を発言するといった機会を多 く与えられた者は、そのような場に慣れる。すると、積極的な活 動や自己主張を行うことに肯定的な意識・一種の憧れのようなも のを持つのではないだろうか。よって、未成年期に積極的な活動 が出来たか出来ていないかには関わらず、成人後もその意識を持 つため、集団内で積極的に行動するのではないかと考える。 また、積極的行動をとるには、集団内のメンバーと社会性をも って接することが必要である。この社会性も、初期政治的社会化 の影響を受けていると予想している。上記のような、未成年期の 積極的な活動・自己主張を行う機会では、必ず相手、メンバーが 存在する。そのため、自己主張するだけではその場は成り立たず、 そのメンバーの意見を聞き、メンバーとの間に良好な関係を保つ ことで、活動・議論が円滑に進むのである。未成年期にそのよう な対人関係をより意識し、社会性を獲得した者は成人後も社会性 を持ち続けるではないだろうか。 しかし、積極性や社会性に影響を与えるのは初期政治的社会化 だけではない。例えば、後期政治的社会化も影響を与えるだろう。 成人後、社会に出ると積極的・社会的に人と交流しなければなら なくなるであろう。そのような社会的な“つきあい”が成人後に は不可欠になる場合が多いため、後期政治的社会化も個人の積極 性・社会性に影響を与えるといえる。しかし、2-1.行動力増加 面でも述べたように、本稿では、初期政治的社会化によってもた らされる影響が成人後の個人の前提になっていると考える。その ため、本稿では初期政治的社会化が成人後の個人の積極性・社会 性に与える影響は重要であると考える。以上のことより、初期政 治的社会化は積極性・社会性に影響を与え、初期政治的社会化の 影響を受けた者は、集団内で積極的行動を行うようになるという 仮説を提示する。 また、本稿では団体だけでなく、私的グループも分析に入れた (詳細は作業定義に記載) 。私的グループは、気が合う人同士で構 17 成されるが、親密になりすぎるため衝突することも多く団体より も人間関係を保つのが難しいのではないか。そのため、私的グル ープへの積極的参加を分析することで、個人の人間性が見られる のではないかと考える。また、初期政治的社会化という政治的な 概念が私的グループという政治的でないモノに与える影響を調べ ることに面白みを見出した。以上から、本稿では、初期政治的社 会化が私的グループでの積極的参加に与える影響も分析する。 3.モデル図 <行動増加面> ①政治的運動参加 増 ②団体加入 増 <積極性・社会性獲得面> ③積極的運動参加(団体)増 ④積極的運動参加(私的グループ)増 初期政治的社会化 4.分析方法 データは jeds2000 を用いて、独立変数に初期政治的社会化・後 期政治的社会化、従属変数に政治的運動参加・団体加入・積極的 運動参加(団体) ・積極的運動参加(私的グループ)の四つの仮説 を投入して重回帰分析を行なった。1 統制変数は従属変数によっ て異なる。以下、特に記述すべき作業定義について記述する。 積極的行動の団体は、質問文で尋ねられている自治会・町内会、 PTA、同業者の団体、農協、労働組合、生協・消費者団体、ボラ ンティア団体、住民運動団体、市民運動団体、宗教団体、学校の 同窓会、政治家の後援会を用いる。私的グループとしては、質問 文で尋ねられている職場仲間のグループ、習い事や学習のグルー プ、趣味や遊び仲間のグループを用いる。 (具体的な尺度について は補遺参照)[以下、同様] また、初期政治的社会化の変数は「あなたが中学生や高校生だ った頃のことを思い出して、ここにあげる事柄について『はい』 『い いえ』でお答えください。 」という質問を用いた。なお、質問文で は中学生、高校生時の政治的社会化経験のみを尋ねているが、本 稿で用いる初期政治的社会化(未成年期)の代用としてこの質問 文を用いる。 そして、後期政治的社会化の変数は、成人期の一般的な政治的 学習は、「社会的役割の変化」「身近の同僚、所属する集団、関心 を払っているメディア、政治の世界からの作用やメッセージ」 (R. ドーソン,K.プルウィット,K.ドーソン 1986 p129)影響を受けてい るという記述を元に変数を作成した。よって、社会人であるか・ 結婚しているか・テレビニュースへの接触頻度・新聞への接触頻 度・団体内での政治的会話・私的なグループ内での政治的会話・ 身内内での政治的会話の七つの変数を一つの変数にまとめて、後 期政治的社会化の変数にした。以上のように、後期政治的社会化 は七つの質問項目をまとめて変数にしたため、後期政治的社会化 の代理変数として有効なのかという疑問が浮かぶ。しかし、本稿 18 では後期政治的社会化の性質を考慮し、より適している変数を R. ドーソン,K.プルウィット,K.ドーソン(1986)の記述に基づいて根 拠を持って選択し、代理変数を作成した。よって、本稿ではこの 変数が有効であるとし分析する。 では、次節から具体的な分析結果について述べる。 5.分析結果 本節では、四つの分析を提示・解説していく。行動増加面と積 極性・社会性獲得面の二つに分けて論じる。最初に四つの分析全 体としての結果を述べる。本稿で試みた分析により、四つの変数 全てに初期政治的社会化が影響を与えているということが示され た。また、後期政治的社会化も積極的行動(私的グループ)以外 では影響を与えているということが示された。以下、各々の重回 帰分析の表を提示し、四つの分析を個別に見ていく。 <行動増加面> 分析 1 政治的運動参加 ベータ 有意確率 .000 (定数) 初期政治的社会化 .141 .000 後期政治的社会化 .175 .000 政治的関心 .206 .000 年齢 .269 .000 性別 .161 .000 調整済み R 二乗値 0.215 政治的運動参加の分析では、統制変数として、政治的関心・年 齢・性別を投入した。それは政治的運動参加は政治的な行動であ るため、政治関心・年齢・性別が影響を与えるのではないかと考 えたからである。分析結果は、すべての独立変数で統計的に有意 な結果が出た。そして、ベータの値は初期政治的社会化が 0.141、 後期政治的社会化が 0.175 であり、ともに政治的運動参加に影響 を与えているという結果が出た。そのため、初期政治的社会化が 政治的運動参加に影響を与えるという仮説は支持された。 19 分析 2 団体加入 ベータ 有意確率 .113 (定数) 初期政治的社会化 .199 .000 後期政治的社会化 .322 .000 政治的関心 .010 .807 年齢 .135 .001 性別 .050 .202 調整済み R 二乗値 0.142 団体加入の統制変数にも政治的運動参加と同様の理由で、政治 的関心・年齢・性別を投入した。分析結果は、政治的関心以外は 統計的に有意な結果が出た。そしてベータの値は、初期政治的社 会化 0.199、後期政治的社会化 0.322 であり、やはりともに団体加 入に影響を与えているということが示された。そのため、この分 析でも私の仮説は支持された。 以上の二つの分析により、初期政治的社会化は政治的運動参加、 団体加入に影響を与えるということが示された。この結果により、 初期政治的社会化を受けた者は行動力が増すことが表せたのでな いかと思う。やはり、未成年者にとっては親や兄弟、教師などの 「行動の模倣」をしているのであり、初期政治的社会化は個人の 行動の基礎を作り上げる重要な役割を持つものであったのだ。ま た、後期政治的社会化も政治的運動参加、団体加入ともに影響を 与えているという結果がでた。よって、後期政治的社会化も個人 の行動に影響を与え、個人の行動を形成するものであるというこ とがわかった。 しかし、本分析には分析の有効性に問題がある。それは、R 二乗 値の低さである。二つの分析の R 二乗値は、政治的運動参加の分 析が 0.215、団体加入の分析が 0.142 であった。二つとも低い値で ある。この R 二乗値の低さからもこの二つの分析の有効性が疑わ れる。 この点が本分析の課題である。 20 <積極性・社会性獲得面> 分析 3 積極的行動(団体) ベータ 有意確率 .154 (定数) 初期政治的社会化 .211 .000 後期政治的社会化 .219 .000 年齢 .125 .006 性別 .072 .095 年収 .012 .772 調整済み R 二乗値 0.091 積極的行動(団体)の統制変数には、年齢・性別・年収を投入 した。それは、これらの統制変数が積極的行動(団体)にプラス の影響を与えていると考えたからである。分析結果は、年収以外 は統計的に有意な結果が出た。そしてベータの値は、初期政治的 社会化 0.211、後期政治的社会化 0.219 であり、ともに影響を与え ているということが示された。そのため、初期政治的社会化が積 極的運動参加(団体)に影響を与えているという仮説が支持され た。 分析 4 積極的行動(私的グループ) ベータ 有意確率 .000 (定数) 初期政治的社会化 .129 .039 後期政治的社会化 -.002 .972 年齢 -.055 .394 性別 -.043 .488 年収 .013 .835 調整済み R 二乗値 0.010 積極的行動(私的グループ)の統制変数にも、同様の理由で積 極的行動(団体)と同様に年齢・性別・年収を投入した。しかし、 分析結果は、初期政治的社会化が有意確率 0.039 である以外、そ の他の変数は統計的に有意にならなかった。従って、本分析では 積極的行動(私的グループ)には初期政治的社会化のみが影響を 与えているという結果になった。これも、私の仮説通りである。 以上の二つの分析より、初期政治的社会化が個人の成人後の積 極性・社交性に影響を与えているということが示されたのではな 21 いかと思う。よって、未成年の時期に積極的な活動や自己主張を 行う機会が多かった者は成人後も積極的・社交的であるというこ とが示されたと言える。また、積極的行動(団体)では後期政治 的社会化も影響を与えているということが支持されたが、積極的 行動(私的グループ)では、後期政治的社会化は有意な結果がで なかった。従って、積極的行動(私的グループ)では特に初期政 治的社会化が与える影響の割合が大きいと言える。また、この二 つの分析でも行動増加面の分析で述べたのと同様に分析の有効性 が疑われる。R 二乗値の低さが本分析でも課題である。 6.考察 本稿の分析により、初期政治的社会化は、後期政治的社会化に は及ばない面もあるが、成人後の個人に影響を与えるということ が支持された。特に、本稿で予想したように、初期政治的社会化 は、成人後の個人を行動的・積極的・社会的にする要因になって いるといえるであろう。行動的・積極的・社会的な素質は、政治 だけでなく、仕事や日常生活においても必要とされる素質である。 そのため、初期政治的社会化を促し、その効果を上げていくこと が今後、望まれるであろう。 また、初期政治的社会化の効果を上げるには、言うまでもなく 行為主体である学校・家庭・団体・マスメディアなどの努力も不 可欠である。そのため、行為主体が各々、初期政治的社会化の効 果を知り、政治に関心を持って行動していくべきであると思う。 最後に、本稿では分析の有効性の低さという課題が現れた。こ の点を改善し、再度実証的な分析を試みたい。また、本稿では初 期政治的社会化の効果のごく一部しか、分析できていない。今後、 初期政治的社会化の他の効果を発見してみたい。 注 (1)ここで利用したデータは、 「日本人の民主主義観と社会資本に 関する世論調査-2000」は、選挙とデモクラシー研究会(JEDS) (西澤由隆教授も参加)が実施された世論調査である。いず れも、同志社大学・法学部の西澤由隆先生のご指導と便宜に より利用ができた。それぞれのデータを公開・寄託され、利 用でるようにしてくださった先生方に感謝いたします。 <補遺> ○分析に使用した質問文とコード ●政治的運動参加 ・質問文「この中にあるようなことを今までに 1 度でも、した ことがありますか。それぞれについて、 「何度かある」 「1~2 回ある」 「1 度もない」でお答えください。 」 ・質問項目「①選挙で投票する②選挙に立候補する③選挙運動を 手伝う④候補者や政党への投票を知人に依頼する⑤政治家の 後援会員となる⑥政党の党員となる⑦政党の党員となる⑧政 党の活動を支援する(献金・党の機関紙を購読する)⑨政党 22 や政治家の政治集会に行く⑩国や地方の議員に手紙を書いた り、電話する⑪役所に相談する⑫請願書に署名する⑬デモや 集会に参加する⑭住民投票で投票する⑮地域のボランティア 活動や住民運動に参加する⑯自治会活動に積極的に関わる」 「(ア)何度かある(イ)1~2 回ある(ウ)1 度もない わ からない 無回答」 ・回答コード「1.何度かある2.1~2 回ある3.1 度もない 7.わからない8.無回答」を「2.何度かある1.1~2 回 ある0.1 度もない」に再コードした。なお、わからない・ 無回答は欠損値処理した。その上で 16 の項目を合算した。 したがって 0 点~32 点の指標となっている。 ●団体加入 ・質問文「次に、あなたが加入されているいろいろな組織や団体 についてうかがいます。①ここにあげている組織や団体の中 で加入しているものをすべてあげてください。」 ・質問項目「①自治会・町内会②PTA③同業者の団体④農協⑤労 働組合⑥生協・消費者団体⑦ボランティア団体⑧住民運動団 体⑨市民運動団体⑩宗教団体⑪学校の同窓会⑫政治家の後援 会」 「加入の有無1.はい2.いいえ」 ・回答コード「加入の有無1.はい2.いいえ」を「加入の有無 1.はい0.いいえ」に再コードした。その上で 12 の項目 を合算した。したがって 0 点~12 点の指標となっている。 ●積極的行動(団体) ・質問文「②あなたはその○○(○○と具体的に言う。以下同じ) の活動に積極的に参加していますか。 」 ・質問項目「①自治会・町内会②PTA③同業者の団体④農協⑤労 働組合⑥生協・消費者団体⑦ボランティア団体⑧住民運動団 体⑨市民運動団体⑩宗教団体⑪学校の同窓会⑫政治家の後援 会」 「積極的に参加(ア)たいへん積極的に参加している(イ)かな り積極的に参加している(ウ)あまり積極的に参加していな い(エ)積極的に参加していない わからない 無回答」 ・回答コード「1.たいへん積極的に参加している2.かなり積 極的に参加している3.あまり積極的に参加していない4. 積極的に参加していない7.わからない8.無回答」を「3. たいへん積極的に参加している2.かなり積極的に参加して いる1.あまり積極的に参加していない0.積極的に参加し ていない」と再コードした。なお、わからない・無回答は、 欠損値処理した。その上で 12 の項目を合算した。したがっ て、0 点~36 点の指標となっている。 ●積極的行動(私的グループ) ・質問文「あなたは○○のグループでのつき合いや活動に積極的 に参加していますか。 」 ・質問項目「①職場仲間のグループ②習い事や学習のグループ③ 趣味や遊び仲間のグループ」 「積極的に参加(ア)たいへん積極的に参加している(イ)かな 23 り積極的に参加している(ウ)あまり積極的に参加していな い(エ)積極的に参加していない わからない 無回答」 ・回答コード「1.たいへん積極的に参加している2.かなり積 極的に参加している3.あまり積極的に参加していない4. 積極的に参加していない7.わからない8.無回答」を「3. たいへん積極的に参加している2.かなり積極的に参加して いる1.あまり積極的に参加していない0.積極的に参加し ていない」と再コードした。なおわからない・無回答は、欠 損値処理した。その上 3 つの項目を合算した。したがって、 0 点~9 点の指標となっている。 ●初期政治的社会化 ・質問文「あなたが中学生や高校生だった頃のことを思い出して、 ここにあげる事柄について「はい」 「いいえ」でお答えくださ い。 」 ・質問項目「①中学校や高校の社会科の時間に、身近な政治問題 について教室で議論した覚えはありますか②中学校や高校で、 学校生活のことで疑問が起こったときに、先生にそのことを 訴えた覚えはありますか③中学校や高校で、生徒会活動によ く参加した方だと思いますか④中学校や高校生の時、身近な 政治問題について家族と議論した覚えはありますか⑤中学校 や高校生の時、日常生活での不満を家族に訴えた覚えはあり ますか⑥中学校や高校生の時、家族として何かを決めるとき に、自分の意見もたいてい聞いてもらったと思いますか」 「(ア) はい(イ)いいえ わからない 無回答」 ・回答コード「1.はい2.いいえ7.わからない8.無回答」 を「1.はい0.いいえ」に再コードした。なお、わからな い・無回答は欠損値処理した。なお、 「わからない」 「無回答」 は欠損値処理した。その上、6 つの項目を合算した。したが って、0 点~6 点の指標となっている。 ●テレビ・ニュースへの接触頻度●新聞への接触頻度 ・回答コード「1.全く見ない2.週一日3.週二、三4.週四、 五5.毎日、ほぼ毎日」を「0.全く見ない0.25.週一 日0.5.週二、三0.75.週四、五1.毎日、ほぼ毎日」 に再コードした。なお、わからない・無回答は欠損値処理し た。したがって、0 点から 1 点の指標となっている。 ●社会人であるか否か ・回答コード「1.勤め(公務員)2.勤め(公務員以外)3. 自営(自由業を含む)4.家族従業5.その他6.学生7. 主婦8.無職 無回答」を「0.学生・無職1.勤め(公務 員) ・勤め(公務員以外) ・自営(自由業を含む) ・家族従業・ 主婦」と再コードした。なお、その他・無回答は欠損値処理 した。 ●結婚しているか否か ・ 「あなたには配偶者(夫・妻)がいらっしゃいますか。」という 質問に対し、回答コード「1.いる2.いない」を「1.い る0.いない」に再コードした。 ●団体内の政治的会話の有無●私的グループの政治的会話の有 24 無 ・回答コード「1.はい2.いいえ」を「1.はい0.いいえ」 に再コードした。なお、どちらとも言えない・無回答は欠損 地処理した。 ●身内での政治的話題の有無 ・回答コード「1.ずいぶん話題になった2.ある程度話題にな った3.話題にならない」を「2.ずいぶん話題になった1. ある程度話題になった0.話題にならない」に再コードした。 なお、わからない・無回答は欠損地処理した。 ●政治的関心 ・回答コード「1・関心がある2.関心はない」を「1.関心が ある0.関心はない」に再コードした。なお、わからない・ 無回答は欠損値処理した。 ●性別 ・回答コード「1.男2.女」を「1.男0.女」に再コードし た。 <シンタックス> recode a26a(3=0)(2=1)(1=2)into 投票. recode a26b(3=0)(2=1)(1=2)into 立候補. recode A26C(3=0)(2=1)(1=2)into 選挙運動. recode A26D(3=0)(2=1)(1=2)into 投票依頼. recode A26E(3=0)(2=1)(1=2)into 後援会員. recode A26F(3=0)(2=1)(1=2)into 政党員. recode A26G(3=0)(2=1)(1=2)into 政党活動支援. recode A26H(3=0)(2=1)(1=2)into 政治集会. recode A26I (3=0)(2=1)(1=2)into 議員接触. recode A26J(3=0)(2=1)(1=2)into 役所相談. recode A26K(3=0)(2=1)(1=2)into 請願書署名. recode A26L(3=0)(2=1)(1=2)into デモ参加. recode A26M(3=0)(2=1)(1=2)into 住民投票. recode A26N(3=0)(2=1)(1=2)into ボラ・住民運動. recode A26O(3=0)(2=1)(1=2)into 自治会活動. MISSING VALUES 投票(7,8). MISSING VALUES 立候補(7,8). MISSING VALUES 選挙運動(7,8). MISSING VALUES 投票依頼(7,8). MISSING VALUES 後援会員(7,8). MISSING VALUES 政党員(7,8). MISSING VALUES 政党活動支援(7,8). MISSING VALUES 政治集会(7,8). MISSING VALUES 議員接触(7,8). MISSING VALUES 役所相談(7,8). MISSING VALUES 請願書署名(7,8). MISSING VALUES デモ参加(7,8). MISSING VALUES 住民投票(7,8). MISSING VALUES ボラ・住民運動(7,8). 25 MISSING VALUES 自治会活動(7,8). compute 政治的運動参加 =SUM(投票,立候補,選挙運動,投票依 頼,後援会員,政党員,政党活動支援,政治集会,議員接触,役所相 談,請願書署名,デモ参加,住民投票, ボラ・住民運動,自治会活動). FREQUENCIES 政治的運動参加. RECODE a19a(1=1)(2=0) into 自治会・町内会. RECODE a19b(1=1)(2=0) into PTA. RECODE a19c(1=1)(2=0) into 同業者団体. RECODE a19d(1=1)(2=0) into 農協. RECODE a19e(1=1)(2=0) into 労働組合. RECODE a19f(1=1)(2=0) into 生協・消費者団体. RECODE a19g(1=1)(2=0) into ボランティア. RECODE a19h(1=1)(2=0) into 住民運動団体. RECODE a19i(1=1)(2=0) into 市民運動団体. RECODE a19j(1=1)(2=0) into 宗教団体. RECODE a19k(1=1)(2=0) into 学校の同窓会. RECODE a19l(1=1)(2=0) into 後援会. MISSING VALUES 自治会・町内会(7,8). MISSING VALUES PTA(7,8). MISSING VALUES 同業者団体(7,8). MISSING VALUES 農協(7,8). MISSING VALUES 労働組合(7,8). MISSING VALUES 生協・消費者団体(7,8). MISSING VALUES ボランティア(7,8). MISSING VALUES 住民運動団体(7,8). MISSING VALUES 市民運動団体(7,8). MISSING VALUES 宗教団体(7,8). MISSING VALUES 学校の同窓会(7,8). MISSING VALUES 後援会(7,8). COMPUTE 団体加入=SUM(自治会・町内会,PTA,同業者団体, 農協,労働組合,生協・消費者団体,ボランティア,住民運動団体, 市民運動団体,宗教団体,学校の同窓会,後援会). FREQUENCIES 団体加入. RECODE a19as(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 自治会・町内会②. RECODE a19bs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into PTA②. RECODE a19cs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 同業者団体②. RECODE a19ds(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 農協②. RECODE a19es(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 労働組合②. RECODE a19fs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 生協・消費者団体②. RECODE a19gs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into ボランティア②. RECODE a19hs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 住民運動団体②. RECODE a19is(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 市民運動団体②. RECODE a19js(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 宗教団体②. RECODE a19ks(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 学校の同窓会②. 26 RECODE a19ls(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 後援会②. MISSING VALUES 自治会・町内会②(7,8). MISSING VALUES PTA②(7,8). MISSING VALUES 同業者団体②(7,8). MISSING VALUES 農協②(7,8). MISSING VALUES 労働組合②(7,8). MISSING VALUES 生協・消費者団体②(7,8). MISSING VALUES ボランティア②(7,8). MISSING VALUES 住民運動団体②(7,8). MISSING VALUES 市民運動団体②(7,8). MISSING VALUES 宗教団体②(7,8). MISSING VALUES 学校の同窓会②(7,8). MISSING VALUES 後援会②(7,8). COMPUTE 積極的行動=SUM(自治会・町内会②,PTA②,同業者 団体②,農協②,労働組合②,生協・消費者団体②,ボランティア ②,住民運動団体②,市民運動団体②,宗教団体②,学校の同窓 会②,後援会②). FREQUENCIES 積極的行動. RECODE a22as(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 職場仲間. RECODE a22bs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 習い事. RECODE a22cs(1=3)(2=2)(3=1)(4=0) into 趣味・遊び. MISSING VALUES 職場仲間(5,6). MISSING VALUES 習い事(5,6). MISSING VALUES 趣味・遊び(5,6). COMPUTE 積極的行動 2 =SUM(職場仲間,習い事,趣味・遊び). FREQUENCIES 積極的行動 2. RECODE a47a(1=1)(2=0) into 校内議論. RECODE a47b(1=1)(2=0) into 先生訴え. RECODE a47c(1=1)(2=0) into 生徒会活動. RECODE a47d(1=1)(2=0) into 家族内議論. RECODE a47e(1=1)(2=0) into 家族訴え. RECODE a47f(1=1)(2=0) into 自己意見. MISSING VALUES 校内議論(7,8). MISSING VALUES 先生訴え(7,8). MISSING VALUES 生徒会活動(7,8). MISSING VALUES 家族内議論(7,8). MISSING VALUES 家族訴え(7,8). MISSING VALUES 自己意見(7,8). COMPUTE 初期政治的社会化=SUM(校内議論,先生訴え,生徒 会活動,家族内議論,家族訴え,自己意見). FREQUENCIES 初期政治的社会化. RECODE a10(1=1)(2=0)into 政治的関心. MISSING VALUES 政治的関心(7,8). FREQUENCIES 政治的関心. RECODE ff34(1=1)(2=0) into 性別. 27 RECODE F56(1 2 3 4 7=1)(6 8=0) into 社会人. MISSING VALUES 社会人(5,88). RECODE a62(1=1)(2=0) into 結婚. RECODE a2a(1=0)(2=0.25)(3=0.5)(4=0.75)(5=1) into TV. MISSING VALUES TV(7,8). RECODE a2b(1=0)(2=0.25)(3=0.5)(4=0.75)(5=1) into newspaper. MISSING VALUES newspaper(7,8). RECODE a20a9(1=1)(2=0) into kaiwadanntai. MISSING VALUES kaiwadanntai(3,7,8). FREQUENCIES kaiwadanntai. RECODE a23c9(1=1)(2=0) into kaiwaasobi. MISSING VALUES kaiwaasobi(3,7,8). FREQUENCIES kaiwaasobi. RECODE a63p8(1=2)(2=1)(3=0) into kaiwakazoku. MISSING VALUES kaiwakazoku(7,8). FREQUENCIES kaiwakazoku. COMPUTE 後 記 政 治 的 社 会 化 =SUM( 社 会 人 , 結 婚,TV,newspaper,kaiwadanntai,kaiwaasobi,kaiwakazoku). FREQUENCIES 後期政治的社会化. MISSING VALUES f55(7,8). FREQUENCIES f55. REGRESSION /DEPENDENT 政治的運動参加 /method = enter 初期政治的社会化 後期政治的社会化 政治的 関心 ff35age 性別. REGRESSION /DEPENDENT 団体加入 /METHOD = ENTER 初期政治的社会化 後期政治的社会化 政 治的関心 ff35age 性別. REGRESSION /DEPENDENT 積極的行動 /METHOD = ENTER 初期政治的社会化 後期政治的社会化 ff35age 性別 f55. REGRESSION /DEPENDENT 積極的行動 2 /METHOD = ENTER 初期政治的社会化 後期政治的社会化 ff35age 性別 f55. <参考文献> ・三宅一郎 1989.『投票行動』. ・R.ドーソン/K.プルウィット/K.ドーソン 1989. 『政治的社会化―市民形成と政治教育』加藤秀冶郎 青木英実 中村昭雄 永山博之訳 芦書房. ・K.P.ラントン 1978.『政治意識の形成過程』 岩男寿美子 真 鍋一史 山口晃訳 勁草書房. 28 ・上條末夫 1975.「未成年者の政治的社会化」 『法学論集』12 号 pp33-42. ・川辺悠子 2008.「未成年期における政治的社会化の再検討」学 位論文(修士) 同志社大学. ・伊東亮三 1972.「アメリカにおける政治的社会化の研究動向と 公民教育の改革」 『社会科研究』20 号 pp33-42 . ・太田佳光 1984.「政治的社会化の研究―民主的価値の伝達とヒ ドゥン・カリキュラム―」高松短期大学紀要 14 号 pp47-57. ・中村菊男 1975.『現代日本の政治文化』ミネルヴァ書房. ・小林憲一 河野啓 2003.『政治不信~「転換期の政治意識・2 002」調査から~』日本放送協会編 2012.http://www.nhk.or. jp/bunken/summary/yoron/social/pdf/030201.pdf 29 3 若者の政治関心をは ぐくむ社会的役割の 変化 林 香織 1. はじめに 若者の政治的無関心や政治離れは、以前から様々な国で政治学 者や社会学者が議論しているテーマである。日本では児島和人 (1980)が、NHK 放送世論調査所の行う「日本人の意識」調査を用 い、20 代前半の国民が政治から遠ざかろうとしていることを、知 識面や感情面、そして行動面から確認している。また山田一成 (1996)は日本の大学生が若者の政治的無関心についてどのように 考えるかを、質問紙調査によって考察している。この調査から、 若者の政治的無関心は様々な次元から成り立つことが窺える。 1 アメリカでも、G. C. Edwards III, M. P. Wattenberg, R. L. Lineberry (1996) らが、学生向けの政治の教科書で、若者の政治 的無関心について論じている。彼らは、最新の政治的なニュース を知ることが大事だと感じる若者が減少していることや、若者の 持つ政治の知識量が高年層に比べて少ないことなどを取り上げて いる。 一方で、若者が年を重ねるにつれて政治化するということも実 証的に確認されている。三宅一郎(1990)は、20 代の前半では社会 への関心を持つ若者よりも個人的な事柄に関心を持つ若者の方が 多いが、20 代の後半になるとそれが逆転することを確認した。 2 つまりこの分析結果は、 「若者における政治関心のはぐくみ」と「年 齢」に相関があることを示す。 この先行研究は、 「若者においてなぜ年齢が政治関心を高めるの か」という一つの疑問をうむ。なぜなら、単に年を取ることが、 政治への関心を高めるという変化をもたらすとは考えにくいから である。加齢に加えて、政治関心に影響を与える何かが存在する のではないだろうか。 この疑問の答えとして、 「若者は『社会的役割の変化』を、年齢 を重ねるうちに経験するから」というものが考えられる。 R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson (1977) は、人が政治関心を高め る時期は「社会的役割の変化」が起こる時期と結びついており、 その一つが初期成人期(10 代の終わりから 30 代の始め)だと述べ ている。彼らによると、この時期に人は、結婚をする・社会人に なる・納税者になるといった政治的・社会的な役割の変化を経験 し、社会の中での自己を確立できるので政治関心がうまれるとい う。このような社会的ステータスの変化は、自分はついに社会人 30 になった・大人になったといった子供から大人への意識変化や、 今まではあまり感じられなかった政治と自身のつながりを発見す るきっかけになるのではないだろうか。そしてこの意識変化や発 見を通して、若者は政治に興味を持つのではないだろうか。 以上の先行研究をふまえて、本稿では「人はどのように政治関 心をはぐくむのか」というリサーチクエスチョンを設定し、その 仮説として「人は、もし初期成人期に社会的役割の変化を経験す れば、政治関心をはぐくむ」という「社会的役割の変化仮説」を 立てて、計量的に分析する。人が初期成人期に体験しうる「社会 的役割の変化」で、政治関心の増大をもたらすものは多々考えら れるが、本稿では具体的に「就職すること」 ・「結婚をすること」・ 「社会集団に加入すること」を取り上げる。 この分析を行った結果、 「社会的役割の変化仮説」はおおむね実 証された。そして三宅一郎(1990)の示した「加齢」と「政治関心の はぐくみ」の共変関係の間に、社会的役割の変化が作用している ことも部分的に確認できた。またどのような社会集団に入ること が政治関心のはぐくみにつながるのかも確認することができた。 これらのことを論じるために、本稿の構成を以下のとおりとす る。まず第 2 節では、本稿で扱う 3 つの「社会的役割の変化」が なぜ政治関心を高めるのかについて、先行研究を用いて論じる。 第 3 節では分析の枠組みを提示し、どのように社会的役割の変化 や政治関心を定義して分析を行うのかについて説明する。これら をふまえた上で、第 4 節では分析結果とその考察を述べる。最終 節では本稿全体のまとめを行う。 2. 仮説のメカニズム 2-1. 就職と政治関心 就職することがなぜ政治関心に結びつくのかには 2 つの理由が ある。 1 つ目の理由は、就職によって若者は経済的にも精神的にも独立 した人間へと成長するからである。職業生活を送りはじめた若者 は、 「初めて自分の収入で生活する」という大きな変化を経験する。 この変化により、若者は国民健康保険料や所得税など、国の管理 するお金が給与から天引きされることを知るようになる。つまり 若者は給料を通して、自分の生活に政治が深く関わっていること に気付くことができる。また収入を継続的かつ安定的に得るため には、仕事に向かう姿勢だけでなく、自分の生活全般をより慎重 に行わなければならない。このことに気付いた若者には自分の生 活に対する責任感が芽生えると考えられる。このような新しいお 金との関わりや意識変化は、自分が社会の一員になったという自 覚を芽生えさせ、その社会について知る意欲や意志が以前よりも 強くなると私は考える。 2 つ目の理由は、「政治と経済の関係がより現実的に理解できる ようになる」というものである。仕事というものは、自分が属し ている企業の経済活動を支える行為である。そしてこの経済活動 は、政府の行う政策や世界情勢に左右されることは言うまでもな い。つまり企業に属することで、企業の売り上げが政府の税制政 31 策に左右されることや、日本の対外的政策により海外の市場開拓 に影響が及ぶ、といったリアルな政治と経済のつながりに若者は 気付くと考えられる。そうすると若者は、仕事をより効果的に行 うために、それに関連した政治的規制などについて知りたい、知 るべきだと思うようになるのではないかと私は考える。実際に直 井道子(1972)は、「職場がどのような産業にかかわっているか、そ の産業に密接なつながりのある政策が政治上の争点になっている か、ということと、職場の人々の政治関心の強さとは関連がある」 と述べている(直井道子 1972, 62)。 以上のことから、若者は就職することで「社会の中の独立した 個人になった」という意識が強く育ち、政治と自己の「つながり」 に気づくことができるため政治関心が高まるという仮説を立てる。 2-2. 結婚と政治関心 R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson (1977) は、ほとんどの人にと って 20 代の時期が「成人としての責任」を身につける時期だとし ている。そしてこのような変化の時期の中で、政治的なものの見 方や考え方も成長、発達すると述べている。 私は、彼らのいう「成人としての責任」を形成させるものの一 つに「結婚」があると考える。なぜなら結婚は、自分の取った行 動が自分の生活だけでなく配偶者の生活にも大きく関わるように なるからである。結婚するまでは自分がどのように生きるかが自 分にしか返ってこなかったのに対し、配偶者ができると、その人 との生活を互いに守り、支え合えるような行動を取るようになる。 したがって、若者はパートナーとの生活を通して社会の中で責任 ある人間になったことに気づき、その責任を果たすために社会の 出来事を理解しようと考えるのではないだろうか。 また R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson は、結婚関係は「第一次 集団」の形を取っており、成人期における社会化に大きな役割を 果たすと考えている。第一次集団とは政治的学習に影響を与える 社会集団の 1 つである。3 これは生活のあらゆる面で関わる親密 な個人関係をさすので、政治的学習の相互作用が高いと彼らは主 張する。結婚関係という第一次集団の場合、パートナーの政治に 対する考え方・社会への接し方を知るうちに、今まで持っていた 政治的態度が大きく変化するきっかけや、 「政治の世界の日々の変 化を理解し、それに適応するためのきっかけ」が与えられるので ある(R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson, 1977, 翻訳 268)。結婚 をすると、前までは他人であった、自分とは違う生い立ちをたど った人と多くの時間を共有するようになるため、若者に新たな発 見や刺激をもたらすのだろう。 以上のことをふまえて、結婚をすることは、若者の行動に「責 任」を持たせ、新たな政治への関わり方を知るチャンスとなるた め、政治関心にプラスの影響を与えるという仮説を立てる。 2-3. 社会集団加入と政治関心 社会集団に加入することがなぜ政治関心を高めるのかについて は、複数の議論が存在する。まず川上和久(1994)は、社会集団を「社 32 会の一員として活動するために所属することになる集団」だと定 義しており、その団体の活動を通して政治が身近な存在になって ゆくと論じている(川上和久 1994, 118-119)。また R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson (1977) らも、社会集団は、人が自我を形成 する中で「自分が何者であり、どのように社会や政治の世界に対 応していくかという考えを決める」重要なアクターになるため、 人の政治的態度に大きな影響を及ぼすとしている(R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson, 1977, 翻訳 265) 。大矢吉之(1995)は、団体 加入が人をより大きな社会に帰属させること、そして自分が加入 している団体への「帰属感」が、政治的有効性感覚・政治関心・ 投票参加を促すと述べている。最後に蒲島郁夫(1988)は、団体に加 入すると政治について話す機会が増えて社会への興味が刺激され ること、そして団体活動を通して「将来政治活動へと発展可能な 技能や期待」を持つことができることを論じている(蒲島郁夫 1988, 123)。特に本稿の分析対象は自我がまだ完全に定まっていない初 期成人期の若者のため、以上に記したような変化のインパクトは 大きいだろう。 以上の先行研究から、社会集団に加入すれば、若者は自分自身 についてや自分がどのような社会で生きているのかを知ることが でき、政治と自身を関連づけて考えられるようになるため、政治 関心が高くなるという仮説を立てる。 3. 分析枠組み 3-1. 使用するデータ 「社会的役割の変化仮説」を計量的に分析するために、本稿で は「若い有権者の意識調査(第 3 回) ,2009」のデータを使用する。 4 この意識調査は、 「若者の投票行動と意識を探り、今後の選挙啓 発活動等の参考とするため」に明るい選挙推進協会が実施してい るものである(明るい選挙推進協会 2010, 1)。そして若者の意識 と有権者一般の意識を比較するために、この調査は「若者調査」 (満 16 歳以上 30 歳未満の全国に暮らす男女 3000 人)と「有権者調査」 (満 20 歳以上の全国に暮らす男女 3000 人)の 2 つから構成され ている。前者が本稿の分析対象である初期成人期を対象としてい るため、こちらのみを使用する。 3-2. 分析手法 上記に述べたデータを使用し、本稿では重回帰分析で仮説を実 証する。図 1 に示す通り、従属変数を「政治関心」とし、 「就職」・ 「結婚」 ・「社会集団加入」を独立変数とする。そして 3 つの独立 変数と共に、コントロール変数として「年齢」・ 「教育程度」・ 「性 別」を入れる。 33 図 1:分析モデル 就職 結婚 社会集団加入 政治関心 年齢 教育程度 性別 本稿では、若者が年齢を重ねる中で社会的役割の変化が起こる から政治関心が高まること、つまり三宅一郎(1990)の示した「年齢」 と「若者の政治化」の共変関係の間には、 「社会的役割の変化」と いうプロセスがあることを確認したい。したがって年齢をコント ロールした上でも、3 つの「社会的役割の変化」変数が有意になり、 政治関心との間にプラスの相関が出ることを予想する。 「教育程度」と「性別」は、政治関心と相関があることが計量的 に確認されている。5 よって本稿でもコントロール変数として使 用する。 3-3. 作業定義 (1) 従属変数 従属変数である政治関心については、 「あなたは国や地方の政治 にどの程度関心がありますか」という質問を使用する。そしてそ の回答である「全然関心がない」・「あまり関心がない」・「ある程 度関心がある」 ・「非常に関心がある」を順番に 0 から 3 に再コー ドした。 (2) 独立変数 就職 就業の有無については、 「あなたは何か仕事をしていますか」と いう質問を使用する。この質問に対し、 「仕事をしている」と答え た人は 1、 「学生」 ・「専業主婦」・ 「無職」と答えた人を 0 に再コー ドした。 結婚 結婚をしているかどうかは、 「あなたは結婚していらっしゃいま すか」という質問に対し、 「結婚している」と答えた人を 1、 「結婚 していない」と答えた人を 0 に再コードした。 34 社会集団加入 社会集団に加入しているかどうかは、 「あなたは、このような団 体に加入していますか。あてはまるものをすべて選んで番号に○ をつけてください」という質問を使用する。この質問で聞いてい る団体に対し、どれか 1 つでも○をつけた人を 1、「どれにも加入 していない」という選択肢に○をつけた人を 0 に再コードした。 (3) コントロール変数 年齢 この調査では、回答者に実年齢を聞いているため、実年齢をそ のまま分析に投入した。 教育程度 教育程度について使用する質問は「あなたが最後に在籍した(ま たは現在在籍している)学校を選んでください」である。本稿で は、この尺度をより実数に近づけるために、回答者の具体的な教 育年数を変数にした。しかし「若い有権者の意識調査(第 3 回), 2009」では学年までは聞いていない。そこで本稿では「回答者全 員が、回答した学校の最終学年」だと仮定し、 「中学校」に 9、 「高 校」に 12、「高等専門学校・短期大学・専修学校」に 14、「大学・ 大学院」に 16 というスコアーを与えた。6 性別 性別は「あなたは男性ですか、女性ですか。 」という質問に対し、 「男性」と答えた人を 1、女性と答えた人を 0 と再コードした。 以上の(1)から(3)の変数をコード化する上で、 「わからない」や「無 回答」と答えたものは全て欠損値として扱った。 なお、これらの変数について、年齢別の記述統計を補遺に掲載 する。 4. 分析結果 分析枠組みがつかめたところで、本稿の分析結果を表 1 に示す。 表 1:分析結果 ベータ 危険率 就職 -.004 .901 結婚 .047 .081 社会集団加入 .074 .002 年齢 .052 .127 教育程度 .114 .000 性別 .076 .001 調整済み R 二乗値=.032 3 つの独立変数の危険率をみていただきたい。まず「就職」の危 険率は 90.1%なので、 就職と政治関心の相関は確認できなかった。 だが次の「結婚」の危険率は 8.1%なので、初期成人期に結婚した 35 若者は政治関心が高まることを確認できた。7 また「社会集団」 の危険率も 0.2%のため、何かしらの社会集団に加入することが政 治関心の増大につながると確認できた。 次に年齢の危険率をみると、興味深いことにそれは 12.7%なの で、年齢と政治関心の間に相関がないことが分かる。つまり、若 者はただ単に成長する(年を取る)から政治化するのではなく、 その間に「結婚をする」 「何らかの社会集団に入る」という社会的 役割の変化を遂げているから政治化するということが確認できた。 ところで、補遺に示す通り、 「若い有権者の意識調査(第 3 回), 2009」が調査対象に聞いている社会集団には様々なものがある。 政治家の後援会といういかにも政治の知識を得られそうなものか ら、同好会・趣味のグループといった政治関心に影響を与えなさ そうなものまでバラエティーに富んでいる。 R. Gabriel A.Almond, Sidney Verva (1963) が行った実証的研 究によると、政治的有力感・政治的な議論の有無・政治問題につ いて意見表明をする意志の有無が、政治的団体加入者・非政治的 団体加入者・団体に加入していない者の順に低くなるという。つ まり社会集団の政治色の度合いは、加入者の持つ政治的態度の強 さに影響を与えるのである。 この先行研究をふまえて本稿では、どの程度の政治色が団体に あれば若者は政治関心をはぐくむことができるかを確認するため に、社会集団を定義し直して追加の分析を行った。具体的にいえ ば、この分析では社会集団を「非政治的団体」・「政治的な準拠集 団」 ・「政治的団体」の 3 つのカテゴリーに分類した。8 そして、 カテゴリーの中の団体に 1 つにでも加入している人を 1、それ以外 を 0 としたダミー変数を作成した。このプロセスを経て、 「団体無 加入」が参照カテゴリーとなる重回帰分析を行った。この追加分 析の結果を示したものが表 2 である。 表 2:追加の分析結果 ベータ 危険率 -.019 .515 就職 .035 .174 結婚 .056 .017 非政治的団体ダミー .049 .033 政治的な準拠集団ダミー .044 .049 政治的団体ダミー .066 .043 年齢 .108 .000 教育 .072 .001 性別 調整済み R 二乗値=.032 まず 3 つの社会集団ダミーの危険率だが、それらは上から順番に 1.7%・3.3%・4.9%となっている。つまりこの結果は、政治色の度 合いで分けた 3 つの社会集団カテゴリーには、参照カテゴリーで ある「団体無加入」に対して全て統計的な差があることを示して いる。一方で、3 つの社会集団カテゴリーのベータ値はお互いに近 36 い数値のため、これらのカテゴリー間にはたいして差がないこと が確認できる。したがって若者の政治関心のはぐくみには、団体 にどの程度政治色があるかは関係なく、とにかく何らかの社会集 団に参加することが重要なようである。 他にも、表 1 との比較にみる「結婚」と「年齢」の効果の変化が 興味深い。表 1 では結婚と政治関心の相関は確認できたが、年齢 では確認できなかった。しかし表 2 をみると「結婚」の危険率は 17.4%、「年齢」は 4.3%なので、「結婚」と政治関心の相関が確認 できなくなり、 「年齢」と政治関心の相関が確認できるようになっ た。この変化が起こるのは、「社会集団加入」 ・「結婚」 ・「年齢」の 相関が高いからだと考えられる。つまり、 「結婚」と社会集団ダミ ーのどれかが、そして「年齢」と社会集団ダミーのどれかが高い 相関関係にあるのだろう。 もう一つ、社会的役割の変化と政治関心の相関について分析する 上で考慮しなければいけないのは、回答者の考える「政治」のイ メージ差についてである。3-1.に示したように、本分析で扱うのは 16 から 29 歳までの男女、つまりおおよそ高校生から社会人までの 男女である。これらの年代は、ちょうど子供から大人へと成長す る年代であるため、回答者の中で政治に対するイメージが異なっ ている可能性がある。というのも、高校生(16 歳から 18 歳)はま だ有権者でなく、政治を身近に感じられるような出来事がまだあ まりない。したがって「政治」というものに対して高校生は、テ レビで放送されている、どこか自分の暮らしと別次元の世界で行 われているものというイメージがあるかもしれない。一方で 19 歳 以上の人は、有権者になったり、高校卒業・大学進学を通して将 来について真剣に考え始めたりすることで、高校生の時よりもメ ディアから知る政治が現実味を帯び、自分の生活に関わるものと して考えられるだろう。つまり、高校生から大学に進学するあた りのある段階で、若者の政治認識が変わる可能性が考えられる。 このことをふまえて、最後に、政治に対して異なるイメージを持 つ可能性のある高校生を除外し、19 歳から 29 歳までの「高卒以上 の人」のサンプルを使用して「社会的役割の変化仮説」を再分析 した。この分析結果が表 3 である。 表 3:分析結果(高卒以上モデル) ベータ 危険率 .022 .442 就職 .049 .094 結婚 .078 .003 社会集団加入 .097 .002 年齢(19-29 歳) .153 .000 教育程度 .081 .002 性別 調整済み R 二乗値=.048 「高卒以上モデル」の分析結果を見ると、表 1 と同じような結果 が出ている。就職の危険率は 44.2%のため有意な結果が得られず、 37 結婚と社会集団加入は 9.4%と 0.3%という危険率のため政治関心 を高める効果が確認できた。表 1 でも、危険率の値は少し違うが、 結婚と社会集団加入の政治関心への影響が確認できている。つま り、16 歳から 29 歳のサンプルで行った分析結果と、18 歳から 29 歳のサンプルで行った分析結果がほぼ同じなので、もし高校生と それ以上の年代の持つ政治に対するイメージが異なっていたとし ても、それが分析結果には影響を与えないことが確認できた。 しかし表 1 と表 3 で、 「年齢」変数の効果については異なる結果 が出ている。表 1 での年齢の危険率は 12.7%なので、年齢(16-29 歳)と政治関心の相関が確認できなかった。これに対して表 3 で は危険率が 0.2%のため、年齢(19-29 歳)と政治関心の相関が確 認できている。 この 2 つの異なる結果は、政治関心に対する加齢の効果が線形で はない可能性を示唆している。16 歳から 29 歳をサンプルとした分 析では「年齢」の効果が確認できず、19 歳から 29 歳の分析では効 果が確認できたということは、例えば 16 歳から 18 歳までの政治 関心に対する加齢効果はなく水平線で、19 歳を境にそれ以降は右 上がりとなるような線を描いている可能性が考えられる。このよ うな形を取っているがために、全てのサンプルで分析した表 1 で は、年齢の効果が確認できなかったのかもしれない。 5. まとめ 本稿では、 「人はどのように政治関心をはぐくむのか」というリ サーチクエスチョンを設定し、その仮説として「人は、もし初期 成人期に社会的役割の変化を経験すれば、政治関心をはぐくむ」 を挙げ、計量的に分析してきた。その結果、「社会的役割の変化」 に挙げた 3 つの変数のうち、 「結婚」と「社会集団加入」は政治関 心を高める要因だということが確認できた。そして社会集団の政 治色の度合いは政治関心のはぐくみには関係がなく、非政治的な 団体でも政治関心が高まることも確認できた。 「就職」と政治関心の相関が確認できなかったのは、政治と経 済のつながりが、社会人になってすぐには気付けないものだから かもしれない。直井道子(1972)が言うような会社と産業のつながり は、新人研修中や上司に付いて仕事を覚える段階の若者には知る 余裕がなく、キャリアを積んで仕事の責任や視野が拡大してはじ めて知られるのかもしれない。30 代以降も就職と政治関心に相関 がないのか、あるいは私のこの新たな仮説があてはまるのか、さ らなる実証研究をしてみたいところである。 また若者の仕事における未熟さも、就職と政治関心の相関が確 認できない理由の一つだろう。三宅一郎・木下冨雄・間場寿一(1967) は、社会人としてのキャリアを積んだ専門職・管理職がどのよう に政治的態度を形成するのかについて、3 点の議論を述べている。 それらは、専門家やホワイトカラーの、人と組織を束ねる能力が 政治過程を理解する能力になること、企業内外の多くの人と関わ る職務内容が社会や政治について深く知る機会になること、そし て仕事を通して「専門的知識と経験を提供するという社会的役割」 を担うことが社会的・政治的な関心を高めて維持するというもの 38 である(三宅一郎・木下冨雄・間場寿一 1967, 789)。これらの議 論から、まだこのような能力や仕事、そして社会的役割を担って いない若者は、職業から政治的態度を形成できないということが 考えられる。また彼らは人の持つ政治的有効性感覚や政党イメー ジ量はおおよそ「専門・管理職」・ 「事務従業」・ 「生産工程従業」・ 「個人営業」・「農業」の順番に低くなることを計量的に確認して いる。専門的な能力の習得や管理職への昇進にはある程度の経 験・キャリアを積まなければならないため、初期成人期において は職業と政治関心の相関が確認できなかったのかもしれない。 もう一つ今後の課題として挙げられるのは、 「コーホート」を考 慮した分析を行うことである。なぜならば、政治に対する態度は、 人格形成期にどのような政治経済的変動を体験しているかによっ て大きく左右されることが計量的に確認されているからである (Ronald Inglehart, 1977; 1990)。9 この先行研究をふまえると、 政治関心のはぐくみの大きさも、人格形成期に体験する社会的な 出来事によって差が生じるといえるかもしれない。いつか機会が あれば、これを考慮した上で、本稿の分析を再度行いたいと思う。 注 (1) 山田一成(1996)が行った質問紙調査では、大学生に「『最近の 学生は政治に無関心だ』と言われることがありますが、こう した発言について、どんな感想を持ちますか。 」という質問を 自由回答方式で聞いている(山田一成 1996, 227)。山田一成 はその回答を整理し、若者の政治的無関心の形態を「政治的 無力感」 ・「政治的不信感」 ・「政治的疎遠感」 ・「政治的無意味 感」の 4 つの次元に分けている。 (2) 三宅一郎(1990)はまず、若者が関心を持つであろう項目を複 数設定し、実際にどれに関心があるかを複数選択形式で聞い ている。その結果を元に林の数量化Ⅲ類を行い、若者が関心 を持っている事柄を「公共的領域」 (日本の政治情勢・選挙な ど)と「私的領域」 (ファッション・恋愛など)に分けた。そ してどの程度公共的関心と私的領域の関心を持っているかに 応じて、 「広領域型」(公共的・私的両方に関心がある人) 「公共集中型」 (公共的領域にのみ関心がある人) 「私集中型」(私的領域にのみ関心がある人) 「狭小型」 (関心を持つ項目自体があまりない人) の 4 つに、関心のパターンを区分した。 この 4 つのタイプと年齢の関連をあらわしたクロス表による と、20 代の後半になるにつれて「私集中型」の若者が減り、 「公共集中型」の若者が増えることが確認できる。 (3) R.Dawson, K.Prewitt, K.Dawson (1977) は、社会に存在す る様々な集団と政治的学習の関連を考察するために、集団を 「社会的準集団」 (社会階級・年齢集団など) 39 「第一次集団」 (家族・親しい仕事仲間など) 「第二次集団」 (宗教団体・農民団体・労働組合など) の 3 つに分類している。 これらは全て政治的社会化と強く関係しているが、それに影 響を与える方法がそれぞれ異なっている。本節で扱う第一次 集団はこの中で最も個人的で親密な集団のことをさす。 (4) 本分析に当たり、東京大学社会科学研究所 附属社会調査・デ ータアーカイブ研究センターSSJ データアーカイブから「若 い有権者の意識調査(第 3 回),2009」 (明るい選挙推進協会) の個票データの提供を受けました。このデータを寄託され、 学生にも利用できるようにしてくださった明るい選挙推進協 会に感謝いたします。 (5) 例えば京都市選挙管理委員会(1980,執筆者:蒲島郁夫)には、 「市政への関心度」を従属変数に、そして 6 つのデモグラフ ィックな要因を独立変数にした林数量化 I 類の分析結果が載 っている。これによると、高学歴者の方が、そして女性より 男性の方が市政に関心を寄せることが分かる。 また曽根泰教(1975)も同じような結果を実証的な研究から 確認している。 (6) 文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習推進課 専修学校教 育振興室(2012)が作成したパンフレットによると、専修学校 では学科によって学ぶ年数が異なる(1 年制から 4 年制まで)。 また短期大学も、大学によって 2 年制と 3 年制がある。しか し、 「若い有権者の意識調査(第 3 回) ,2009」では「高等専 門学校・短期大学・専修学校」で 1 つの選択肢のため、本稿 では全員が 2 年制の学校の最終学年だと仮定した。 また大学院を卒業した人は 18 年間教育を受けたことにな るが、大学で卒業する人の方が多いため、 「大学・大学院」は 16 と定義する。 (7) 分析結果を統計的に確認する場合、基本的には「有意確率 5% 基準」が使用される。しかし、10%基準を使っているケース も存在している。そこで本稿では 10%未満の有意確率は統計 的に有意だと考え、分析結果の議論を行った。 40 (8) 追加の分析では表 4 に示す通りに社会集団を分類した。 表 4: 社会集団の作業定義 非政治的団体 政治的な準拠集団 自治会・町内会 農協その他の農林漁業団体 婦人会 労働組合 青年団・消防団 商工業関係の経済団体 宗教団体 PTA 学校での自治会・部会 住民運動・消費者運動・ ・サークル 市民運動の団体 同好会・趣味のグループ NPO・地域づくり団体 政治的団体 政治家の後援会 ○「非政治的団体」とは、文字通り政治的な活動を行わない団体 をさす。これらは、非政治組織と政治参加の関係を分析した 蒲島郁夫(1988)のモデルを参考に選んだ。 ○「政治的な準拠集団」とは、 「政治家の後援会」といった明ら かに政治色のある団体ではないが、その活動がある程度政治 に関わっていて、完全な「非政治団体」だと考えにくいもの をさす。 蒲島郁夫(1988)は「農協その他の農林漁業団体」 ・「労働組 合」 ・「商工業関係」・ 「宗教団体」を非政治組織として扱って いるものの、それらの団体員が政治活動に動員されているこ とに注目している。なぜなら、それらの団体加入者が「選挙 運動や地域・住民運動のように、より積極性や自発性を必要 とする政治参加」を活発に行っていることを計量的に確認し たからである(蒲島郁夫 1988, 95)。また農林漁業団体に関 しては、この団体の目標が政治と強く関わっているためにそ の動員が行われると述べている。 次に R. Dawson, K. Prewitt, K. Dawson (1977) は政治的 な準拠集団として「労働組合」 ・「農民団体」 ・「宗教団体」を 挙げている。これらの加入者はその団体に一体感を求め、団 体の政治的意向を基準に自分の政治的意向を形成すると議論 している。 以上の先行研究から、農協その他の農林漁業団体・労働組 合・商工業関係の経済団体・宗教団体を「政治的な準拠集団」 と定義する。 「住民運動・消費者運動・市民運動の団体」も、ある程度 政治に準拠した集団だと考えられる。その理由を述べるため に、まずそれぞれの定義を紹介する。 ●住民運動…「狭義には、一定地域の住民が、彼らの住民権 を侵害する資本・権力に自発的・組織的に対抗して、それを 守ろうとする社会運動をさす。しかし、実態としては、この 作為防止型の運動のなかで、自主的・創造的なコミュニティ づくりへの自覚がよび起こされることがしばしば不可分であ るから、広義には住民自治に立つまちづくり運動、福祉コミ ュニティ運動も含まれる。」 (森岡清美・塩原勉・本間康平編 こ 41 の箇所の執筆者:越智昇 1993, 701) ●消費者運動…「生産-流通-消費-廃棄という一連の経済 過程のなかで、現在多様な形態をとって現れている消費者問 題を解決し、消費者の利益・権利を守ることを目ざして行わ れている消費者の主体的な社会運動のこと。」 (見田宗介・栗 原彬・田中義久編 この箇所の執筆者:伊藤守 1988, 462) ●市民運動…「政治的・社会的問題の解決をめざして、特定 の政治信条にとらわれず、市民が公民としての自覚に基づい て行う運動。」 (松村明編 2006, 1145) 以上をみると、これら団体の主な活動内容や最終目標は必 ずしも政治的ではない。しかしそれらを達成するためには政 治への働きかけが必要だと考えられる。なぜなら地域住民の 生活改善や消費者利益の保護、そして市民社会の改善は行政 が担う仕事でもあるからである。一般市民がこれら運動を効 果的に行うために、まず行政がどのような関連事業を行って いるのか知る必要があるだろう。したがってこれら運動を行 う団体は政治に準拠していると私は考える。 「NPO・地域づくり団体」の定義・活動内容は以下の通り である。 ●NPO…「政府・自治体や私企業とは独立した存在として、 市民・民間の支援のもとで社会的な公益活動を行う組織・団 体。」 (松村明編 2006, 「ABC 略語」 30) ●地域づくり団体…「地域づくりに取り組んでいる民間団体」 。 市民が地元のまちおこしや地域活性化を、芸術面・人材育成 面・環境面などから行っている。 (地域活性化センター編 「地 域づくり団体全国協議会ホームページ」) これらの活動内容は多種多様で、非政治的なものも多く存 在する。しかし社会や地域をよりよくするためには、政治が 行う社会的・地域的政策の知識や、それを行うための政治的 な手続きの知識がいるだろう。そして地域づくり団体の場合 は政治との連携が必要なケースもありうる。したがって両団 体を「政治的な準拠集団」カテゴリーに入れる。 ○「政治的団体」はその活動内容や目的が完全に政治的なものを さす。本稿では「政治家の後援会」のみが該当する。 (9) Ronald Inglehart (1990) はコーホート分析を用いて、 1886 年から 1975 年までに生まれた西ヨーロッパ 6 ヵ国の 人々を対象に、1970 年から 1988 年までの間に、物質主義者 と脱物質主義者の割合が年齢コーホートごとにどう変化する かを確認している。物質主義者とは、国家の安全・治安維持 や経済の安定・成長といった人々の生存に直接関係する「生 理的欲求」を重視する者で、脱物質主義者とは、言論の自由・ 生活の質の向上・政府に対する市民の声の反映といったより よい社会生活を求める「社会的および自己実現的欲求」を重 視する者のことをいう(Ronald Inglehart 1977, 翻訳 44)。 この分析結果によると、まず、70 年代と 80 年代に起こっ 42 た景気後退と悪性インフレによって、全ての世代が物質主義 の方向に傾いたことが確認された。また、戦後の急速な繁栄 やゆるやかな経済成長を成人になる前から経験している世代 は、それ以前の世代よりも脱物質主義的であることを確認し た。これらのことから Ronald Inglehart は、社会経済的な環 境の短期的変化(時勢効果)と、年齢集団の人格形成期に広 まっていた環境(長期的な世代効果)が重なることによって 価値観が変化することを実証的に確認した。 また、1 歳から 16 歳の時にインフレを経験したコーホート では、 「若い年齢層ほどより脱物質主義的になる」という他の 全ての年齢コーホートでみられていた傾向が阻まれた。この ことに対し、Ronald Inglehart は「価値観は相対的に人生の 初期に結晶化する傾向がある」と結論づけた(Ronald Inglehart 1990, 翻訳 100)。 43 <補遺> ○記述統計 図2:政治関心の度合い(年齢別) 200 160 120 非常に関心がある 度 数 ある程度関心がある 80 あまり関心がない 全然関心がない 40 0 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 N=1972 年齢 図3:就業者の割合(年齢別) 200 160 120 度 数 就業 80 無就業 40 0 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 N=2040 年齢 44 図4:既婚者の割合(年齢別) 200 160 120 度 数 既婚 80 未婚 40 0 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 年齢 N=2041 図5:社会集団加入者の割合(年齢別) 200 160 120 政治的団体 度 数 政治的な準拠集団 80 非政治的団体 無加入 40 0 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 N=1838 年齢 45 ○分析に使用した質問項目 Q4. あなたは国や地方の政治にどの程度関心がありますか。 1. 非常に関心がある 2. ある程度関心がある 3. あまり関心が ない 4. 全然関心がない 5. わからない 9 .無回答 F1. あなたは男性ですか、女性ですか。 1. 男性 2. 女性 9. 無回答 F2. あなたのお年は満でおいくつですか。 (実年齢を答える形式) 999. 無回答 F3. あなたが最後に在籍した(または現在在籍している)学校を 選んでください。 1. 中学校 2. 高校 3. 高等専門学校・短期大学・専修学校 4. 大学・大学院 5. わからない 9. 無回答 F4. あなたは何か仕事をしていますか。 1. 仕事をしている 2. 学生 3. 専業主婦 答 4. 無職 9. 無回 F5. あなたは結婚していらっしゃいますか。 1. 結婚している 2. 結婚していない 9.無回答 F6. あなたは、このような団体に加入していますか。あてはまる ものをすべて選んで番号に○をつけてください。 政治家の後援会 自治会・町内会 婦人会 青年団・消防団 老人クラブ(会) PTA 農協その他の農林漁業団体 労働組 合 商工業関係の経済団体 宗教団体 同好会・趣味のグル ープ 住民運動・消費者運動・市民運動の団体 学校での自 治会・部会・サークル NPO・地域づくり団体 その他 ど れにも加入していない わからない 無回答 ※「若者調査」の回答者で「老人クラブ(会)」に所属してい ると答えた人はいなかったため、分析では使用しなかった。 <シンタックス> *政治関心. fre Q4. RECODE Q4 (1=3)(2=2)(3=1)(4=0)(5=99)(9=99) INTO pinterest. EXECUTE. MISSING VALUES pinterest (99). fre pinterest. *性別. fre F1. RECODE F1 (1=1)(2=0)(9=99) INTO gender. EXECUTE. 46 MISSING VALUES gender (99). fre gender. *年齢(16-29 歳). fre F2. *年齢(19-29 歳). fre F2. RECODE f2 (16 thru 18=999) (else=copy) into 高卒以上. EXECUTE. MISSING VALUES 高卒以上 (999). fre 高卒以上. *学歴. fre F3. RECODE F3 (1=9)(2=12)(3=14)(4=16)(5=99)(9=99) INTO edu. EXECUTE. MISSING VALUES edu (99). fre edu. *結婚. fre F5. RECODE F5 (1=1)(2=0)(9=99) into marriage. EXECUTE. MISSING VALUES marriage (99). fre marriage. *就職. fre F4. RECODE F4 (1=1)(2 THRU 4=0)(9=99) into havejob. EXECUTE. MISSING VALUES havejob (99). fre havejob. **************************. *社会集団加入. *どれにも加入していない. fre F6_16. *政治家の後援会. fre F6_1. *農協その他の農林漁業団体. fre F6_7. *労働組合. fre F6_8. *商工業関係の経済団体. fre F6_9. *宗教団体. fre F6_10. 47 *住民運動・消費者運動・市民運動の団体. fre F6_12. *NPO・地域づくり団体. fre F6_14. *自治会・町内会. fre F6_2. *婦人会. fre F6_3. *青年団・消防団. fre F6_4. *PTA. fre F6_6. *同好会・趣味のグループ. fre F6_11. *学校での自治会・部会・サークル. fre F6_13. *社会集団加入(1 つ目の分析で使用した変数). COMPUTE SG=99. EXECUTE. *社会集団に無加入. if(F6_16=1) SG=0. EXECUTE. *何らかの社会集団に加入. if (F6_2=1) SG=1. if (F6_3=1) SG=1. if (F6_4=1) SG=1. if (F6_6=1) SG=1. if (F6_11=1) SG=1. if (F6_13=1) SG=1. EXECUTE. if (F6_7=1) SG=1. if (F6_8=1) SG=1. if (F6_9=1) SG=1. if (F6_10=1) SG=1. if (F6_12=1) SG=1. if (F6_14=1) SG=1. EXECUTE. if(F6_1=1) SG=1. EXECUTE. MISSING VALUES SG (99). fre SG. *社会集団加入(2 つ目の分析で使用した変数). COMPUTE SG3=99. 48 EXECUTE. *社会集団に無加入. if(F6_16=1) SG3=0. EXECUTE. *非政治的団体. if (F6_2=1) SG3=1. if (F6_3=1) SG3=1. if (F6_4=1) SG3=1. if (F6_6=1) SG3=1. if (F6_11=1) SG3=1. if (F6_13=1) SG3=1. EXECUTE. *政治的な準拠集団. if (F6_7=1) SG3=2. if (F6_8=1) SG3=2. if (F6_9=1) SG3=2. if (F6_10=1) SG3=2. if (F6_12=1) SG3=2. if (F6_14=1) SG3=2. EXECUTE. *政治的団体. if(F6_1=1) SG3=3. EXECUTE. MISSING VALUES SG3 (99). fre SG3. *ダミー変数. RECODE SG3 (0=1)(else=0) into RECODE SG3 (1=1)(else=0) into RECODE SG3 (2=1)(else=0) into RECODE SG3 (3=1)(else=0) into EXECUTE. 無加入ダミー. 非政治ダミー. 準拠ダミー. 政治ダミー. ***********************. *重回帰分析(表 1). reg var = pinterest gender edu F2 SG marriage havejob /dependent pinterest /method=enter. *重回帰分析(表 2). reg var = pinterest gender edu F2 非政治ダミー 準拠ダミー 政治ダミー marriage havejob /dependent pinterest /method=enter. 49 *重回帰分析(表 3). reg var = pinterest gender edu 高卒以上 SG marriage havejob /dependent pinterest /method=enter. <参考文献> ・明るい選挙推進協会編 2010. 『若い有権者の意識調査(第 3 回)―調査結果の概要―』 URL:http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/upload s/2011/01/wakamono.pdf 2012/12/17 参照. ・Almond, Gabriel A., and Sidney Verva. 1963. 『現代市民の 政治文化:五ヵ国における政治的態度と民主主義』 石川一 雄・片岡寛光・木村修三・深谷満雄訳 勁草書房 1974. ・地域活性化センター編 2012. URL:http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/dantai/dantai. htm 2012/11/11 参照. ・Dawson, R., K. Prewitt, and K. Dawson. 1977. 『政治的社会 化 ―市民形成と政治教育―』 加藤秀治郎・中村昭雄・青木 英実・永山博之訳 芦書房 1989. ・Edwards, G. C., III, M. P. Wattenberg and R. L. Lineberry. 1996. Government in America: People, Politics, and Policy. Brief Edition. 9th Edition. New York: Longman Publisher. ・Inglehart, Ronald. 1977. 『静かなる革命』 三宅一郎・金丸 輝男・富沢克訳 東洋経済新報社 1978. ・Inglehart, Ronald. 1990. 『カルチャーシフトと政治変動』 村 山皓・富沢克・武重雅文訳 東洋経済新報社 1993. ・蒲島郁夫 1988. 『政治参加』 東京大学出版会. ・川上和久 1994. 「若者にとっての政治の意味」 飽戸弘編 『政 治行動の社会心理学』 福村出版 所収. ・児島和人 1980. 「現代青年の政治的無関心の形成――その今 日的諸条件の考察」 日本放送協会放送世論調査所編 『第 2 日本人の意識―NHK 世論調査』 至誠堂 所収. ・京都市選挙管理委員会(蒲島郁夫執筆) 1980. 『京都市民の 投票行動――京都府・市議会議員選挙(昭和 54 年 4 月)を 素材として』 ・松村明編 2006. 『大辞林 第三版』 三省堂. ・見田宗介・栗原彬・田中義久編 1988. 『社会学事典』弘文堂. ・三宅一郎 1990. 『政治参加と投票行動 ―大都市住民の政治生 活―』 ミネルヴァ書房. ・三宅一郎・木下富雄・間場寿一 1967. 『異なるレベルの選挙 における投票行動の研究』 創文社. ・文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習推進課 専修学校教育振 興室 2012. 『専修学校』 URL:http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/senshuu/128 0727.htm 2012/12/18 参照. ・森岡清美・塩原勉・本間康平編 1993. 『新社会学辞典』 有斐 50 閣. ・直井道子 1972. 「政治的社会化過程における集団の役割」(2) 『社会学評論』23 巻 1 号 P.53-67. ・大矢吉之 1995. 「任意集団」 大矢吉之・加堂裕規・慶野義雄・ 久保山和人・富岡宣之 『デモクラシーと現代政治――政治を 動かすもの』 嵯峨野書院 所収. ・曽根泰教 1975. 「政治関心」 中村菊男編 『現代日本の政治 文化』 ミネルヴァ書房 所収. ・山田一成 1996 「<論説>大学生の政治的無関心について : 政 治的リアリティの構成と再構成(1)」 『社會勞働研究』 42 巻 4 号 P.244-227. 51 4 自治体発のキャラク ターは、政治参加への 「波及効果」を持つの か ―政治参加度にみるキャラクターの可能性― 山内 逸平 1. はじめに 昨今、地方自治体がキャラクターを導入するという事例をよく 耳にする。地方自治体発の有名なキャラクターを挙げるとすれば、 熊本県の「くまモン」や千葉県の「チーバくん」 、彦根市の「ひこ にゃん」など枚挙に暇がない。これらの活躍は注目を集め、世間 を大いに賑わせていると言える。現に 2008 年には、奈良県のキャ ラクターである「せんとくん」がその年の新語・流行語にノミネ ートされるほどの全国的な話題を呼んだことは記憶に新しい。 それでは、なぜこのような現象が起きているのだろうか。これ までにキャラクターを導入している組織の代表的な例と言えば、 プロ野球やサッカーのチームといったスポーツ団体が思い浮かぶ。 この場合でのキャラクターの役割は、チームに親しんでもらうこ とやファンとの一体感を上昇させるものだと言える。また、企業 が導入するイメージキャラクターは、導入する企業の製品やその 企業自体のイメージアップを目的として広報などに用いられるの である。これらの組織の例と同様に、自治体がキャラクターを導 入するということには、少なからず自治体側の意図や目的がある はずだ。 地方自治体のキャラクター導入の目的としては、地域振興や自 治体そのものの外部へのアピール、行政の記念碑的役割をキャラ クターに担わせるといったことが、各自治体のホームページなど から読み取ることが可能である。地域振興・自治体の外部へのア ピールは、キャラクターの管理が広報や観光、地域振興に関わる 部署が行っていることからもその意図があると言える。また、行 政の記念碑的役割とは、市政や県政の節目の記念事業の一環とし て市民からの公募でキャラクターを導入するということである。1 いずれにせよ、キャラクターの導入は以上の目的を果たすための 1 つの手段として用いられている。つまり、キャラクターを導入す る目的から共通して読み取れることは、自治体は「市民との関わ り」を増やすための手段としてキャラクターを導入しているとい うことである。すなわち、キャラクターという新たな「媒体」を 52 自ら作成し、それを通して自治体は市民および外部へとその魅力 を発信し、積極的に関わろうとしているのだ。 本稿ではキャラクターが地方自治体の有権者の政治参加にいっ たいどのような役割を果たし、影響を及ぼしているのかというこ とを明確にしたい。自治体がそこまでの効果を想定して導入して いるかどうかは定かではないが、そのような「波及効果」を期待 しているのかもしれない。政治学的な観点から地方自治体がキャ ラクターを導入するという現象を読み解くことで、キャラクター の持つ可能性や、この現象が単なる一過性のものであるのか、も しくは「波及効果」は生まれるのかということを明らかにできる だろう。もしも政治参加への「波及効果」が認められれば、キャ ラクターの持つ可能性が大いに広がると言える。本稿では自治体 が導入したこの新たな「媒体」が、地域住民と地方自治体の間の 心理的な距離感を近づけたのかどうかという点に着目し、客観的 なデータを用いることでその検証を行う。 2. 地方自治体のキャラクターについて 以下では、導入された地方自治体のキャラクターの現状や、自 治体はそれを通してどのような活動を行っているのかについて紹 介し、なぜそれが政治参加への「波及効果」をもたらすのかにつ いて説明する。 先述の如く、地方自治体で導入されたキャラクターは、その土 地の実態や魅力の発信・アピールを外部へと行うことが主な役割 である。それゆえ、キャラクターのデザインは各地方自治体の特 産品・名所・縁のある歴史上の人物などを具現化したものが多い のだ。2 また、着ぐるみを作成して貸出をし、地域のお祭りや全 国各地のイベントに出没させるといったことを行う自治体も多い。 市民は申請しさえすれば気軽にこの着ぐるみを利用できるように もなっている。それらの中にはブログ・Twitter・Facebook といっ た新しいメディアを活用して独自の情報発信を行っているものも ある。 熊本県が県の公式マスコットキャラクターとして導入した「く まモン」は、それらのメディアを積極的に利用しているキャラク ターの典型的な例であろう。Twitter で発信される内容は、今日は どこに出没しているのかということや、熊本県の特産品のアピー ルなどが主なものである。熊本県内では学校に行き生徒たちと一 緒にダンスを踊るといったことや、各地域のお祭りなどに登場す ることで市民と積極的に接触している。また、蒲島郁夫熊本県知 事とともに海外から来た要人を出迎えるといったことも行ってい る。3 さらには熊本県内のみならず、関西や関東のスーパーや百 貨店などで行わる九州関連のイベントや熊本県の PR イベントに 登場したり、災害が起こった地域に出向いたりするといったこと までも行っている。 「くまモン」のような大々的な活動とまではいかないが、その 他の地方自治体のキャラクターも同様の活動をしている。例えば、 兵庫県には「はばタン」という県の公式キャラクターが存在する。 このキャラクターは兵庫県が 1995 年に発生し甚大な被害をもたら 53 した阪神・淡路大震災の被害から復活したことを示すため、 「不死 鳥」がモデルなのだ。兵庫県のホームページでは「『はばタン』は 兵庫県のマスコットとして、県の広報誌や印刷物のみならず、イ ベント等にも登場し、様々な機会を通じて兵庫の県政情報や魅力 を発信していきます。また、県民の皆様にも、各種印刷物やイベ ント等でデザインや着ぐるみを使用していただけます。」という記 述がなされている(兵庫県のホームページより)。実際に、このキ ャラクターは、県内各地のイベントに現れることや県の広報誌に 掲載されているといったほか、兵庫県内の食育や環境学習にも導 入されるなど実に多方面で使用されていると言える。 3. 仮説およびそのメカニズム 2 節で見た「くまモン」や「はばタン」の事例から、いかに地方 自治体発のキャラクターが地域住民に密着した活動を行っている のかが分かる。 この事例をふまえて、本研究のリサーチクエスチョンに対応す る仮説として「地方自治体のキャラクターの導入は、住民の政治 参加を促す」という「キャラクター政治参加動員仮説」を提示す る。 この仮説では、自治体のキャラクターは住民と自治体の心理的 距離感を近づけるのではないかという点に着目した。そして、下 の図 1・2 は、その心理的距離感がいかにして縮むのかを図式化し たものである。2 節でも見たように地方自治体のキャラクターには その自治体を表す特徴やメッセージ性があり、住民にとって親し みやすく身近な存在であると言える。ゆえに、自治体がキャラク ターを導入し、地域のイベントなどで住民と関わることで、住民 は地方自治体への興味・関心や地域愛着度が上昇することが考え られる。そして、自分が住んでいる自治体への地域愛着度や興味・ 関心の向上が、住民と地方自治体との心理的な距離感が接近する ことに繋がる。心理的な距離感が近づけば自治体への関心も高ま り政治参加度が増加するということだ。一方で、キャラクターが 導入されていない自治体の場合は以上のようなことは起きず、自 治体と有権者との心理的な距離感は遠いままなのである。 なお、市町村合併に伴う自治体の規模の拡大による心理的な距 離感に着目し、 「合併による人口の増大は住民の政治参加に負の影 響を与える」とした矢野・松林・西澤の先行研究がある(矢野・ 松林・西澤 2004, 75)。この研究では自治体規模の拡大を「市町 村合併による自治体の人口増加」と定義している。この人口の増 加によって市民の行政を身近に感じる機会の低下・政治的有効性 感覚の低下・自治意識の欠如が発生し、心理的な距離感が広がる としているのだ。この検証結果は、地方自治体レベルでの住民と 自治体との心理的距離感の重要性を示唆したものだと言える。 54 図 1 キャラクターがいかにして政治参加度の上昇に作用するか 地域愛着度↑ 愛着度↑ キャラクター 政治参加 度↑ 自治体への関心 の関心↑ 図 2 キャラクターがある場合とない場合での有権者と自治体の心理的な距離感の差 〈キャラクターなし〉 住民 地方自治 体 両者の心理的距離は遠く、 結びつきも弱い 〈キャラクターあり〉 キャラクター 地方自治体 住民 キャラクターという「媒体」によって、両者の 心理的な距離感はより近くなり、結びつきも強くなる 心理的距離感尺度 キャラクターなし 0 キャラクターあり 4. 分析手法 4-1. 仮説の検証に用いる変数およびデータセットについて 3 節で示した仮説を検証するために、独立変数を「自治体のキ ャラクターの導入の有無」 、従属変数を「投票率の上昇」 、統制変 数を「2011 年と 2007 年の統一地方選挙の各行政区の投票率の 差」 ・「2011 年と 2007 年の統一地方選挙の各行政区での接戦度 の差」・ 「2011 年と 2007 年の統一地方選挙の各行政区での倍率 の差」 ・ 「キャラクターを導入してから選挙までの期間」として重 回帰分析を行う。本研究での分析単位は地方自治体であるため、 本研究内での「投票率」とは 2011 年と 2007 年に実施された統 一地方選挙での投票率を指す。 また、これを検証するために用いるデータとしては、私が作成 55 したデータセットを用いるものとする。その具体的な作成方法は 以下の通りである。まず、国勢調査で用いられている日本全国の 行政区画から系統抽出を行い 205 の自治体を抽出した。4 そし て 2007 年と 2011 年に行われた統一地方選挙での投票率など先 に述べた 5 つの変数すべてが分かる自治体のみをさらに抽出し た。 4-2. 作業定義について <従属変数> 投票率の変化 一概に「政治参加」と言うと様々な形態のものが想定されるが、 本稿では「政治参加」の程度を表すものとして、人々にとって最 も馴染みがあり、 「最も多くの市民が参加する政治活動である」 投票をその指標として用いるものとする(蒲島 1988, 7)。投票 率の「変化」であるが、該当する地方自治体で 2011 年に行われ た統一地方選挙の投票率から 2007 年の統一地方選挙の投票率を 引いた値をもとめ、その値を「変化」とした。 <独立変数> 自治体のキャラクターの有無 まずキャラクターの有無に関して抽出した地方自治体のホー ムページの記載を調べることや、それぞれの役所に電話をかける などして調査を行った。次に地方自治体が公認しているとするキ ャラクターが存在し、それが正式にその自治体のキャラクターと して認められた時期を調査した。そして、その時期が 2007 年と 2011 年の統一地方選挙の間であるということを「キャラクター が有る」自治体と本稿では定義した。 <統制変数> 以下の 4 つの統制変数は、 「キャラクターを導入した」こと以 外で投票率に影響を与えうる要因だと考えられるため、導入した。 都道府県レベルの投票率の差 1 つ目の統制変数として用いたのは「都道府県レベルの投票率 の差」という変数だ。これはすなわち該当する地方自治体が属す る都道府県全体での 2007 年と 2011 年の統一地方選挙の投票率 の差のことである。これの投入により、地域的要因などの影響に よる選挙への関心の上昇・低下を統制することが可能となる。 2007 年と 2011 年の統一地方選挙の間に起こった選挙に影響 を与えうる地域的な要因は具体的には 2 点挙げられる。1 点目は 2011 年の選挙は東日本大震災が発生し間もない時期に行われた ものであり、「派手な選挙運動の自粛ムードのなかで、従来とは 異なる異様な雰囲気で行われた」ということである(小林 2012, 111)。そして、2 点目はこの 2 回の選挙の間に大阪維新の会や減 税日本といった地方独自の新たな勢力が台頭したということで ある。これ以外にも考えられうる些末な要因があるかもしれない が、いずれにせよ地域的に投票率を増減させるような要因として 考えられうるものを統制する。 接戦度の差 2 つ目の統制変数は「接戦度の差」 である。 これは水崎・森(2007) 56 の先行研究の方法に倣ったものだ。これはすなわち、該当する選 挙区の「当選者と次点者の票差が有効投票に占める割合」を 2007・2011 年の選挙ともに算出し、その差の値を求めたもので ある(水崎・森 2007 , 147)。なお、該当する自治体が都道府県 や区の政令指定都市の場合は、そこに含まれる各市町村や各区の 接戦度をもとめ全体の平均値をその自治体の接戦度とし、差の値 を算出した。 この変数の投入により、選挙区ごとで異なる選挙戦の熾烈さを 統制することが可能となる。接戦度が低いことは当選者と次点者 が熾烈な選挙戦を繰り広げたことを意味し、有権者の選挙への関 心が高かったであろうことを意味する。一方で、接戦度が高いと 当選者と次点者の票差が大きいため、そこまで激しい選挙戦は行 われず、有権者の選挙への関心は高まらなかったであろうことを 意味する。 倍率の差 3 つ目の統制変数は、選挙の立候補者に対する「倍率の差」で ある。該当する地方自治体の選挙区の定数に対して、どれだけの 立候補者がいたかを調べ、倍率(=立候補者数/定数)として 2007・2011 年の選挙ともに計算し値をもとめた。そしてその差 の値を統制変数として用いた。なお、該当する自治体が都道府県 や区を政令指定都市の場合は、接戦度の差の場合と同様に各市町 村や各区の倍率を求めた後にその平均値をもとめる作業を行っ た。 この変数の投入により、 「接戦度の差」の場合と同様に選挙区 ごとで異なる選挙戦の熾烈差の度合いを統制することが可能で ある。つまり、倍率が高い選挙区ではより熾烈な選挙戦が行われ 選挙への関心が高まるであろうことが予想される。その一方で、 倍率の低い選挙区ではそこまで関心が高まらないであろうとい う状況の差を統制できるのである。 選挙までの期間 そして最後に 4 つ目の統制変数は、キャラクターを導入した 時から 2011 年 4 月までを表す「選挙までの期間」である。これ を投入することで長期間キャラクターを導入している自治体と、 まだ少しの期間しか導入していない自治体との違いを統制する ことができる。なお、数値の扱い方は、1 年を 1 として 1 ヶ月単 位の数値を算出し変数として用いた。また、導入していない自治 体や、2007 年から 2011 年の間に導入されていない自治体はこ の変数は 0 として扱った。 5. 分析結果 3 節と 4 節で設定した仮説と作業定義に基づき、重回帰分析を行 った。その結果が以下の表 1 に示したものだ。なお N=112 となっ ているのは、系統抽出により日本の全ての自治体から抽出した 205 の地方自治体のうちで、全ての変数を満たしているものだけしか 分析で取り扱うことができなかったからである。 57 表1 キャラクターの有無と投票率の変化 (N=112) 危険率 B 自治体のキャラクターの有無 -5.981 0.063 都道府県レベルの差 0.773 0.000 倍率の差 2.193 0.047 接戦度の差 -0.062 0.035 選挙までの期間 2.713 0.180 調整済み R2 乗値=0.326 まず、調整済み R2 乗値を見ると、この 5 つの変数で「投票率 の変化」の約 32%を説明することができると言える。つまり、5 つの変数がかなり高い割合で従属変数を説明しているというこ とだ。 さらに、危険率に着目すると「都道府県レベルの差」は有意確 率 0%基準で有意、 「倍率の差」 ・ 「接戦度の差」は有意確率 5%基 準で有意、そして「自治体のキャラクターの有無」は有意確率 10%基準で有意であった。また、「選挙までの期間」は有意では なかった。ゆえに「選挙までの期間」以外の変数は「投票率の変 化」に影響を与えることが確認できる。5 最も着目すべき点は「自治体のキャラクターの有無」の B 値 がマイナスの値になっていることである。これはすなわち、「キ ャラクターを導入すると投票率が低下する」ということであり、 当初私が期待していた結果とは正反対の結果になっているのだ。 つまり、 「キャラクター政治参加動員仮説」は支持されなかった ということである。 また、特に統制変数のうちの「都道府県レベルの差」の危険率 が有意確率 0%基準で有意であったことは興味深い。 「都道府県 レベルの差」と市町村レベルでの「投票率の変化」は確実に正の 相関関係があるのだ。これが意味することは、都道府県レベルで の投票率の上昇は市町村レベルでの投票率の上昇につながると いうことである。 6. 考察 以上の分析結果からも明らかなように、結果は期待した通りの ものにはならなかった。つまり「キャラクター政治参加動員仮説」 は支持されなかったということである。 しかし、この重回帰分析の結果からだけでは「キャラクターを 導入する自治体では投票率が低下する」という表面的なことしか 分からないということも事実である。よって、この結果が出た後 に実際にキャラクターを導入している京都市上京区と滋賀県米原 市の職員の方に、キャラクターの導入の経緯やその反響、投票率 との関係についての詳しい話を聞くことにした。6 どちらの自治体の職員の方も共通して述べていたことは、以下 の 3 点が挙げられる。まず、キャラクターの作成には多かれ少な かれ市民の声が反映されていることだ。すなわち、それはどこか に市民の意見やアイデアが取り入れられて完成したものであると 58 いうことだ。具体的には、キャラクターの名前を公募で決定する ものもあれば、市民からキャラクター作成の提案を受けるという こともあるそうだ。次に、キャラクターを作成した後の反響は主 にその地域の子どもやその保護者からの問い合わせが多かったと いうことだ。その具体的な内容としては「子どもがそのキャラク ターが好きなので、次はどのイベントに登場するのかを知りたい」 といったことや「グッズは販売されているのか」といったことだ そうだ。もちろん、他の地域の人々や他の世代の人々からも問い 合わせはあるそうだが、子どもやその保護者からの反響が絶大だ ったとのことである。そして最後に、キャラクターを作成する過 程にあたって投票率との関係までは想定していなかったというこ とだ。先にも述べたように、キャラクターはあくまで市民の声や 意見を重視して作成されているのである。 これらを通して分かったことは、キャラクターは市民からの意 見を吸い上げてできあがったものではあるが、現時点での市民へ の政治的な影響力は私が想定していたものよりもはるかに限定的 なものであったということだ。キャラクターの外見や登場する場 所などからも、主に子どもが興味や関心を抱くことは当然なのか もしれない。 以上のインタビューから判明した事実と「キャラクターを導入 すると投票率は低下する」という分析結果を併せて考えると、キ ャラクターの影響力は以下の図 3 のような構造になっているのか もしれない。まず、子どもやキャラクターの作成に関わった人々 以外の一般的な市民の層は、キャラクター導入によってそこまで 自治体への興味・関心や愛着心を抱かないのではないかというこ とが考えられる。また、それほどキャラクターに関心の無い人々 にとってはその導入はむしろ不愉快なのではないかということも 言えるのではないだろうか。すなわち、そのような人々にはキャ ラクターの導入という地に足のついていないようなものよりも、 自分たちにとってもっと利益になることを実施して欲しいと思わ せるのかもしれないということだ。 これらのことを考慮に入れると、私が当初想定していたメカニ ズムでキャラクターが住民の地域への愛着や自治体への興味・関 心を喚起させ、ひいては投票率まで上昇させる状態になるには、 それにかなりの知名度があり市民のどの層にも受け入れられてい る必要がある。すなわち、かなりハードルの高い前提が必要なの ではないかということが言える。つまり、 「キャラクター政治参加 動員仮説」が成立するには単にキャラクターを導入するというこ とだけではなく、老若男女を問わず幅広く認知され親しまれてい なければならないということだ。また投票率との結びつきから考 えるに、特に 20 代・30 代の子ども以外の層に向けてのキャラクタ ーの周知や広報が徹底されていかなければならないだろう。7 一方で、キャラクターはかなり長期的なスパンで考えると地域 への愛着等を上昇させるのに有効な手段のうちの 1 つなのかもし れないということも言えるだろう。すなわち、現在キャラクター を導入している自治体で育った子ども達は、その地域や自治体へ の強いアイデンティティを持つようになるかもしれないというこ 59 とだ。これはすぐに効果の出るものだとは言えないが、将来的に は彼らの政治参加を促す要因になるかもしれないと言える。 図 3 実態から考えるキャラクターの影響力 〈地域の市民〉 影響・大 地 方 自 治 体 作成 影響・小 キャラクター 【子ども】 【保護者】 【その他】 影響・大 意見提案・参加 【作成に 携わった 市民】 7. おわりに 政治学的観点、とりわけ投票率との関わりから昨今の地方自治 体のキャラクター導入についての分析・考察を行ってきた。その 分析結果においては、 「キャラクターの導入の有無」と「投票率の 変化」の間には負の相関関係があるということが確認された。一 方で、実際の自治体の職員の方々から聞いたキャラクターの影響 力は、子どもや作成に関わった層には少なからず有効であるとい うことが推測できる。 今回の分析を通して、3 点の課題が見つかった。1 点目は、分析 結果を説明する考察については分析結果と自治体の職員の方への インタビューから考えたあくまで私の推測に過ぎず、客観的な証 拠を明示して指摘することができなかったことである。2 点目は、 分析において「政治参加」を投票率だけに限定するのではなく、 もう少し幅広く定義すれば異なった結果になったのかもしれない。 というのも、投票参加以外のレベルでの政治参加度を加えること で、より幅広い視点に立ってキャラクターの影響について考察す ることができたからである。最後に、統制変数である「選挙まで の期間」の作業定義の段階において、1 年を 1 とするのではなく 1 ヶ月を 1 とすればよかったという点についても反省している。な ぜなら、1 ヶ月単位でキャラクターが導入されたかどうかを調べて いたにも関わらず、1 年を 1 としていたために 1 ヶ月あたりの数値 の重みがかなり少なくなってしまったからである。 いずれにせよ、自治体のキャラクターの導入は今まさに進んで いるものであると言えるため、キャラクターと投票率との関係は もう少し成り行きを見てから再度考えることが必要だとも言える。 今回の分析では 2007 年から 2011 年の統一地方選挙の投票率の変 60 化を採り入れているため、今後も継続的にこの相関関係を調査す ることで初めてキャラクターが政治参加に有効かどうかはっきり としたことが言えるようになるに違いない。 注 (1)ここでの「節目」とは、例えば市政・県政が始まってから何周 年ということや市町村合併が行われた時のことを指す。 2 ( )例えば、静岡県浜松市のキャラクターである「出世大名 家康 くん」はその名前からもわかるように浜松市に縁のある徳川家 康をモデルにしている。また、そのデザインの中には徳川家康 をベースにウナギやピアノといった浜松市に関係のある品物 が盛り込まれている。 (静岡県浜松市のホームページより) (3)タイのインラック首相が来日し、熊本県に訪れた際に「くまモ ン」は蒲島郁夫県知事とともに出迎えを行っている。また、蒲 島知事は首相に「くまモン」のぬいぐるみをプレゼントしてい る。 (『朝日新聞』4 月 23 日 朝刊 より) (4)国勢調査の結果は総務省統計局のホームページにおいて公開 されているため、そのデータを参照した。 (5)有意か否かの判断を行う際に、普通は 5%水準を用いるが、10% 水準を用いる場合もある。本稿では 10%未満も統計的に有意 だと考える。 (6)どちらの自治体も系統抽出により全国の自治体から抽出され た自治体であり、分析に用いたデータセットに含まれている。 投票率については京都市上京区では実質下降、米原市では実質 上昇していた。なお、京都市上京区へのインタビューは 2012 年 11 月 15 日に、滋賀県米原市へのインタビューは 2012 年 11 月 20 日に実施した。インタビューに協力して頂いた京都市 上京区の増田様と滋賀県米原市の田中様にはこの場を借りて 深く感謝いたします。 (7)昨今どの選挙においても投票率が低下していることは問題視 されているが、明るい選挙推進協会によると年代別の投票率は 20 代・30 代が他の年代に比べて特に低い値となっている。 (明 るい選挙推進協会のホームページより) <参考文献> ・明るい選挙推進協会編 2012 .URL:http://www.akaruisenkyo.or.jp/070various/072sa ngi/679/ 2012 年 11 月 30 日参照. ・朝日新聞 2012 年 4 月 23 日 朝刊. ・兵庫県編 2012 .URL:http://web.pref.hyogo.lr.jp/kk03/habtan_design. html 2012 年 11 月 20 日参照. ・蒲島郁夫 1988. 『政治参加』 東京大学出版会. ・小林良彰 2012. 『政権交代 民主党政権とは何であったのか』 中央公論新社. 61 ・水崎節文・森裕城 2007. 『総選挙の得票分析 1958-2005』木 鐸社. ・静岡県浜松市編 2012.URL:http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/square/i ntro/100year/chara.html 2012 年 11 月 24 日参照. ・総務省統計局編 2012 . URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001 032945&cycode=0 2012 年 8 月 20 日参照. ・矢野順子・松林哲也・西澤由隆 2005.『自治体規模と住民の政 治参加』 選挙学会紀要 4 号 pp63-78. 62 4 年生論文 5 衆参の違いは与党支 持者にどのような投 票行動の変化をもた らすのか ―与党支持者による参議院選挙での離反投票― 池田 洋 1. はじめに 近年、衆議院選挙に比べて参議院選挙では、政権与党が勝利を 収めることができないケースが多くなっている。55 年体制の成立 以降、自民党が議席において初めて過半数を割った 1989 年にはじ まり、1995・1998・2004 年の選挙でも得票数や獲得議席において 与党であった自民党が敗れ、野党が善戦している。2007 年と 2010 年の選挙では野党の議席が参議院の過半数を占めるようになり、 いわゆる「ねじれ国会」という衆参における多数派の逆転が生ま れた。1 しかしながら参議院選挙でこれだけ与党が敗北している 一方で、衆議院選挙での与党の敗北は 1993 年と 2009 年、そして 2012 年の 3 度しかない。 このように参議院選挙で与党である自民党が勝利を収めること ができなかった期間においても、政党支持率という有権者の態度 は大きく変化してこなかった。1973 年から 2008 年の間に 5 年ご とに実施されている NHK 放送世論調査所の世論調査では、支持な し層を除けば支持政党のトップは常に衆議院で与党である自民党 であった(図 1)。つまり、参議院選挙があった年に政党支持率の 逆転があったわけではなかった。 64 図 1 1973 年から 2008 年にかけての 5 年ごとの政党支持率の推移 60 50 自民党 (%) 40 自民党以 外 民主党 30 20 支持なし 10 0 1973 1978 1983 1988 1993 1998 2003 2008 (年) 出所:日本人の意識調査(NHK 放送世論調査所) 以上のように有権者が政党支持態度を大きく変えてこなかった ことから本稿では、支持政党を持つ有権者の中では相対的に多数 であった与党支持者(自民党支持者)に注目する。それは、選挙にお いて与党の主要な得票基盤であると考えられる与党支持者の一部 が、衆参の選挙の間で何かしらの心理的要因の変化によって投票 行動を変化させ、その両院間での選挙結果の違いを生み出してい ることを想定したからである。このように本稿では、与党支持者 に注目することによって衆議院選挙に比べて参議院選挙では与党 が勝利を収めにくくなっているというパズルを、部分的にではあ るが説明していく。そこで本稿では、リサーチクエスチョンを「衆 参の違いは与党支持者にどのような投票行動の変化をもたらすの か」と設定する。 上記のリサーチクエスチョンに対する答えとして本稿では「衆 院選安定志向仮説」を提示する。この仮説は、 「政権選択選挙」で ある衆議院選挙では内閣への不満・政党支持強度が与党への投票 に影響をあまり与えないが、 「政権選択選挙」ではない参議院選挙 においては政党支持強度が弱く、かつ政権に不満を持っていれば 野党に投票する傾向があるというものである。この仮説は「政権 選択選挙」である衆議院選挙と、そうでない参議院選挙の持つ制 度面での違いを基にしている(今井 2010)。結論を先に述べると、 残念ながらこの仮説は本稿の分析では支持されなかったが、与党 支持者が衆参で投票行動を変化させる要因をいくつか特定するこ とができた。それらは短期的に変化する要因というよりも長期的 な視点での要因であった。 本稿では以上のことを論じるために次のような構成ですすめて いく。2 節では本稿の分析の基になった先行研究を紹介する。その 先行研究とは、衆参での有権者の投票行動の変化についての研究 である。3 節では本稿で提示する「衆院選安定志向仮説」のメカニ ズムを述べ、どのような与党支持者が衆議院選挙と参議院選挙の 間で投票行動を変化させるかを予想する。そして 4 節でその「衆 院選安定志向仮説」を実証するための分析枠組みを提示する。5 節 65 でその分析の結果とその解釈を示す。最後に 6 節で本稿のまとめ と展望を述べて本稿の終わりとする。 2.先行研究 衆議院選挙と参議院選挙での有権者の投票行動の違いについて の研究には、今井(2010)がある。今井は「自民党(を中心とする) 政権と言う枠組みは持続してほしいと望むものの、現政権自体は 評価できないと考える有権者に対しては、 『政権選択選挙』である 総選挙では、棄権という形の業績評価投票をする傾向」と「『政権 選択選挙』ではない参院選では、野党候補への投票という形の業 績評価投票を選択する傾向」を仮説として導き出し、その仮説を 実証した(今井 2010 p12)。 また、今井は衆参での選挙結果の違いを生み出す要因として選 挙制度面に注目し、選挙サイクルと「選挙に吹く風」の関係性を 指摘している(今井 2008)。衆議院選挙に関しては、 「与党が実施の 時期をコントロールできるため、与党にとって『逆風』の下で選 挙を回避することも、逆に『追い風』を受ける中で解散総選挙に 打って出ることも可能であるのに対し、参院選に関しては、三年 に一度、夏に半数の議員が任期満了を迎えるため、その時に吹い ている『風』が与党にとって『追い風』であろうと『逆風』であ ろうと、選挙を実施せざるを得ない、という両選挙の違い」があ る(今井 2008 p92)。 以上のような有権者の心理的要因、選挙制度面での要因につい ての先行研究を踏まえた上で、次節でリサーチクエスチョンに対 する仮説を検討する。 3.仮説 上記の「衆参の違いは与党支持者にどのような投票行動の変化 をもたらすのか」というリサーチクエスチョンに答える上で、与 党は衆議院選挙よりも参議院選挙で勝つことが難しくなっている と現状を解釈することができる。実際に 1996 年から 2010 年の間 に実施された衆参各 5 回の選挙での、比例区における自民党得票 率の衆参それぞれの平均を比較してみる。すると、衆議院選挙で は 19.782%であったが、参議院選挙の平均は 17.036%と参議院選 挙の方が約 2.7%低かった。また、投票率を考慮した相対得票率の 平均で比較しても、参議院選挙では衆議院選挙に比べ、与党の得 票率は 1.5%低くなっていた。この事実からも、参議院選挙で与党 が勝つことが難しくなっているという現状が理解できる。 そして衆議院選挙において自民党の得票基盤になっているのは 自民党支持者である。表 1 は、本稿の分析で使用する 2003 年の衆 議院選挙での自民党投票における支持政党ごとの割合を示したも のである。約 80%の得票を自民党支持者から獲得していることか ら、自民党の得票を支えているのは自民党支持者であることがわ かる。 66 表1 03 年衆院選、自民党投票における支持政党ごとの割合(比 例区) 自民党支持 その他 支持なし 合計(N) 自民投票 79.1 4.3 16.6 100%(932) 非自民投票 23.5 48.5 28.0 100%(535) 出所:JESⅢ この衆議院選挙で自民党の得票を支える自民党支持者が、参議 院選挙でも同様に投票するのであれば選挙結果に大きな違いはう まれないはずである。ところが先述のとおり、近年の衆議院選挙 と参議院選挙の間には結果の違いがある。実際に表 2 からもわか るように 03 年の衆議院選挙にくらべ 04 年の参議院選挙では、自 民党支持者のなかでの自民党への投票の割合が約 6%低い。このこ とから本稿では、特に与党支持者(本稿の分析では自民党支持者) に限定して仮説を立て、実証していく。 表2 比例区における自民党支持者の投票政党 自民党投票 非自民投票 合計(N) 03 年衆院選 73.9 26.1 100%(724) 04 年参院選 67.7 32.3 100%(650) 出所:JESⅢ そして本稿で提示する「衆院選安定志向仮説」とは与党支持者 でありながらも野党に投票する有権者が、衆議院選挙に比べて参 議院選挙のほうが多いというものである。先行研究でも触れたよ うに、衆議院選挙では選挙結果がそのまま政権を決定するために、 有権者が「政権選択選挙」と認識する。一方で参議院選挙では与 党の敗北が直接は政権交代に結びつかない。さらに与党の敗北は 政権交代ではなく、与党内での内閣の交代につながるケースが多 い。そのために与党支持者であっても参議院選挙では野党への投 票をよりおこないやすくなる。以上のようなメカニズムで与党支 持者は参議院選挙で野党への投票をおこないやすくなるが、では どのような与党支持者がそのような投票行動をおこなうのであろ うか。 与党支持者の投票行動の変化を規定する要因の1つとして政党 支持強度が考えられる。この政党支持強度は、その政党に対する 忠誠心を表す尺度として解釈できる。政党支持強度が強い与党支 持者はその政党に対する忠誠心が強いために、衆参の選挙の違い、 つまり「政権交代選挙」であるかどうかに関わらず与党に投票す る可能性を想定できる。一方で政党支持強度が弱い与党支持者は その政党に対する忠誠心は強くない。そのために政党支持強度が 強い与党支持者にくらべ、支持する政党に対する投票の可能性は 低くなってしまうことが考えられる。 67 また、与党支持者の投票行動の変化を規定する他の要因として 内閣への不満が考えられる。内閣に不満を持つほうが持たない場 合に比べ、 「政権交代選挙」でない参議院選挙において野党への投 票をおこないやすくなるという上記のメカニズムがはたらきやす いと予想する。 そしてこの政党支持強度・内閣への不満は単独で効果を持つの ではなく、それぞれが同時にはたらいているときに与党支持者に 投票行動の変化をもたらすと予想する。言い換えると、政党支持 強度によって内閣への不満の効果が異なるということである。そ れは、政党支持強度という政党への忠誠心が弱い場合のほうが、 強い場合にくらべて内閣への不満が野党への投票につながりやす いと考えるためである。その政党への忠誠心が強ければ、多少不 満を抱いたとしても野党への投票を思いとどまるかもしれない。 一方で忠誠心が弱ければ、先述の通り参議院選挙では政権交代の リスクがなく、さらには敗北によって同じ与党内で内閣が交代す る可能性も期待できることから少しの不満によって野党への投票 に流れることが考えられる。 このメカニズムを、政党支持強度はその政党と支持者を結びつ ける接着剤、内閣への不満は政党から支持者を遠ざけるおもり、 そして与党への投票を避けることのリスクを防ぐセーフティーネ ットのようなものが、 「政権交代選挙」ではない参議院選挙にはあ ると、喩えることができる(図 2)。接着剤である政党支持強度が強 ければ不満を持っていても与党に投票するが、政党支持強度が弱 ければその政党に対する粘着性も弱くなり、同じ不満を持ってい たとしても与党への投票を避ける可能性がうまれてしまうのであ る。そしてそのメカニズムはセーフティーネットがある参議院選 挙ではたらくのである。 図 2 政党と有権者を結びつける政党支持強度のイメージ図 与党 強 与党 政党支持強度 弱 与党支持者 与党支持者 不満 与党投票か ら遠ざかる 可能性 不満 参議院 68 以上のことから「衆院選安定志向仮説」とは、衆議院選挙では、 与党支持者は政権に不満を持っていても政党支持強度に関わらず 与党に投票するが、参議院選挙においては、政権に不満を持って おり政党支持強度が弱ければ野党に投票する傾向があるという仮 説である。 図3 支持強度と衆参の違いによる投票政党の傾向(内 閣に不満を持つ与党支持者) 支持強度 強い 弱い 衆議院 与党 与党 参議院 与党 野党 4.分析枠組み 4-1. 使用するデータ 分析には 2001 年から 2005 年にかけての衆参 2 回ずつの選挙に おいてパネル調査を実施したサーベイデータである JESⅢを使用 する。2 この 4 回の選挙の中でも、内閣が成立してからある程度 の時間が経ち、内閣への業績評価が可能であったと予想できる 2003 年衆議院選挙と 2004 年の参議院選挙を分析に用いる。 4-2. 分析手順 自民党投票を従属変数、内閣不満(内閣業績評価)・支持強度弱ダ ミー・不満×支持弱の交互作用項を独立変数とした重回帰分析を おこなう。交互作用項を投入する理由は作業定義で詳しく述べる が、政党支持強度が弱く、かつ内閣に不満を持っている与党支持 者が投票行動を変化させるかどうかを確認するためである。また、 従属変数の自民党投票を規定すると考えられる他の長期的・短期 的要因をコントロール変数として投入する。具体的には自民党感 情温度・小泉感情温度・望ましい政権のかたち・ここ 1 年の景気 認識・年齢である。 また、分析対象は自民党支持者に限定する。自民党支持者に限 定する理由としては、野党支持者には同じメカニズムが、本稿の 仮説・分析上では成立しないからである。本分析では、与党が参 議院選挙において勝利しにくい現状を、与党支持者の投票行動の 変化によって説明する。具体的には、普通は自民党に投票すると 予想できる与党支持者が参議院選挙では与党に投票しにくくなる ことを一要因として、参議院での与党の負けを説明する。もし、 政党支持強度の弱い野党支持者が、野党の党運営や内閣の業績を 評価していたとするならば本稿の仮説のメカニズムに沿うと与党 に投票することになる。そうなると与党は得票基盤である与党支 持者以外からも得票を稼ぐことになり、このメカニズムでは与党 の負けを説明できないことになる。そのために本稿の分析では対 象を与党支持者に限定する。 分析は 2 段階にわけておこなう。第 1 段階に交互作用項を投入 しない基本モデルで分析をおこない、内閣不満・支持弱ダミーの 効果を確認する。その後、第 2 段階として基本モデルに交互作用 69 項を投入したモデルで分析をおこない、その違いを確認する。こ の基本モデルと交互作用項投入モデルとの比較によって、内閣不 満と政党支持強度が同時にはたらいているときにのみ投票に影響 があることを確認する。 4-3. 作業定義 自民党投票(自民-離反投票):自民党支持者がどのような投 票をおこなっているかを特定するために分析の従属変数であ る自民党投票を作成する。本稿では以下、自民党支持者の自 民党以外への投票を「離反投票」とする。本稿の分析では、 どのような自民党支持者が衆院選で自民党に投票し、参院選 では自民党に投票していないかを確認する。そこで、03 年衆 院選での自民党への投票を「1」、自民党以外への投票を「0」 と作業化をおこなう。この作業化は選挙区での投票と比例区 での投票でそれぞれにおこなう。この選挙区と比例区でのそ れぞれ「1」か「0」に作業化した自民党への投票を合計し、 03 年衆院選でのトータルとしての投票政党変数を作成する。 例えば選挙区・比例区ともに自民党に投票した場合は「2」と 表し、選挙区のみ、または比例区のみで自民党に投票した場 合は「1」と表す。そして衆院選での自民投票者のみを抽出す るため、03 年衆院選での自民 2 票投票(選挙区・比例区共に自 民党へ投票)を「1」とする。自民 2 票投票以外は分析で確認し たい対象ではないので欠損値とし、分析から除外する。次に 04 年参院選での自民投票(03 年衆院選と同じ手順で作成:0~2) を 03 年衆院選と同じ手順で作成する。 そして、衆院選では自民党に投票しているが、参院選では そうでない自民党支持者を表す変数を作成する。先に作成し た 03 年衆院選での自民党投票変数と 04 年参院選での自民党 投票変数をかけ合わせる。このことにより、衆院選では選挙 区・比例区共に自民党に投票している忠実な自民党支持者が、 参院選でどの程度自民党への投票をおこなっているかを図 4 のように 3 つの段階で表すことができる。3 このように 3 段 階で表すことで、単に自民党に投票したかどうかの「0」か「1」 かよりも、政党支持に忠実な投票をしているかどうかがを詳 しく示すことができる。 また、分析の対象とする 2003・2004 年では公明党も自民党 と連立を組んで政権を担当していたが、本稿では与党として は扱わない。自民党と公明党の間で支持者や議席の数が大き く異なるために政権内での実質的な立場に違いがあることや、 創価学会という堅い組織力の支持母体を公明党は有している 特殊性を持つために、本稿の分析で想定している離反投票の 可能性が低いからである。4 さらには自民党支持者の公明党 に対する投票も、連立の枠組みのなかでの離反投票と考える こともできるためでもある。その理由としては、自民党の相 対的な立場を弱くする意味での離反投票や、自民党という選 択肢がありながらも公明党に投票しているという点で離反投 票と考えることができるためである。 70 図 4 自民-離反投票変数の作成手順 衆院自民 2 票 衆院自民 1 票・0 票 参院自民 2 票 最も忠実な自民党投票 参院自民 1 票 ある程度の離反投票 参院自民 0 票 完全な離反投票 分析から除外 内閣不満(業績評価):内閣に対する不満を、内閣に対する業 績評価を作業化することで変数として作成する。内閣の全体 としての業績をかなり良い・やや良いと回答した場合を「0」、 どちらともいえないと回答した場合を「0.5」、やや悪い・か なり悪いと回答した場合を「1」として業績評価の悪さ、つま り内閣への不満を表す変数を作成する。 支持弱ダミー:政党支持強度を表す変数を作成する。本稿 の分析では、政党支持強度が弱い与党支持者を特に注目して いるために、熱心な支持者を「0」、あまり熱心でない支持者 を「1」と作業化する。支持なしは欠損値として扱う。 交互作用項(内閣不満×支持弱ダミー):政党支持強度が 弱く、かつ内閣に不満を抱いている与党支持者をこの変数に よって表す。交互作用項を使用する理由は、政党支持強度と 内閣への不満がそれぞれ単独に効果を持つのではなく、同時 にはたらいているときにはじめて効果を持つことを分析の上 で確認するためである。具体的な作業化は以下の通りである。 先に定義した内閣不満(0、0.5、1 の 3 段階)と支持弱ダミー(0、 1 の 2 段階)の変数どうしを掛け合わせる。このことにより次 のように 3 段階の変数として表す。政党支持強度が弱く内閣 に不満を持っている場合を「1」、政党支持強度が弱く業績 評価はどちらともいえないと答えた場合を「0.5」、業績評価 でかなり良い・やや良いと答えた場合、もしくは政党支持強 度が強い場合を「0」とする。 自民党感情温度・小泉感情温度・望ましい政権のかたち・ ここ 1 年の景気認識・年齢の作業定義、分析で使用する変数 の質問文については補遺を参照されたい。 4-4.予想される結果・モデル図 以上の手順で作業定義をおこない、2 段階での分析をおこなう。 第 1 段階では内閣不満と投票とのみかけの相関関係を確認する。 この第 1 段階では与党支持者の全体としての傾向は、短期的な変 化を予想できる内閣不満がネガティブで有意な結果として得られ ると予想する。そして同時に投入する支持弱ダミーは有意な結果 が得られないと予想する。それは仮説でも述べたように、政党支 持強度は単独で効果を持つのではなく、他の変数の効果を促進さ 71 せるはたらきを持つと予想するからである。 第 2 段階で交互作用項を投入することにより真の相関関係を確 認する。第 2 段階では、第 1 段階で確認できた内閣不満の効果は 確認できなくなり、一方で交互作用項の効果はネガティブで有意 な結果として得られると予想できる。そのことにより、内閣に対 する不満と投票とはみかけの相関関係にあり、内閣に対する不満 と政党支持強度という変数が同時にはたらいているときにのみ投 票に影響を与えるという真の相関関係を確認できる。 図 5 基本モデルでのモデル図 不満×支持 弱 内閣不満 支持弱 図 6 交互作用項投入モデルでのモデル図 離反 投票 内閣不満 支持弱 統制変数 離反 投票 統制変数 5.分析結果 上記の分析枠組みで得られた結果が以下の表 3・4 であるが、 結論から先に述べると「衆院選安定志向仮説」は支持されなか った。まずは表 3 の交互作用項を投入しない基本モデルの結果 を確認する。基本モデルでは内閣に対する不満において統計的 に有意な結果が得られず、予想とは異なり投票との関係を確認 することはできなかった。また、支持弱ダミーと自民党感情温 度の危険率は 2.6%、4.8%という結果が得られた。それぞれの B 値の係数は支持弱ダミーがマイナスで、自民党感情温度がプ ラスであった。このことから、政党支持強度が弱い自民党支持 者、自民党に対する感情温度が低い自民党支持者は参議院選挙 で離反投票をおこなう傾向があることがわかる。また、望まし い政権のかたちは危険率が 0.1%未満で統計的に有意な結果が 得られた。5 次に交互作用項投入モデルの結果を確認する。 「衆院選安定志 向仮説」を実証するために投入した不満×支持弱ダミーの交互 作用項の危険率は 38.3%と高い危険率で統計的に有意な結果が 得られなかった。またこのモデルでは、基本モデルで効果が確 認できた政党支持強度・自民党感情温度そして望ましい政権の かたちにおいて、基本モデルと同程度の危険率・係数で結果が 得られた。 72 表3 表4 基本モデル B 交互作用項投入モデル B 危険率 危険率 内閣不満 -.198 .208 不満×支持弱 .312 .383 支持強度弱 -.236 .026 内閣不満 -.453 .173 年齢 -.001 .123 支持強度弱 -.286 .018 自民党感情温度 .007 .048 年齢 -.001 .130 小泉感情温度 .005 .120 自民党感情温度 .007 .043 望ましい政権 .709 .000 小泉感情温度 .005 .136 政治関心 .187 .323 望ましい政権 .716 .000 1年の景気認識 .076 .745 政治関心 .167 .379 1年の景気認識 .074 .753 調整済みR2乗値0.217 調整済みR2乗値0.217 6.おわりに 本稿では「衆参の違いは与党支持者にどのような投票行動の変 化をもたらすのか」というリサーチクエスチョンを設定し、この 問いの答えとして「衆院選安定志向仮説」を提示し分析をおこな った。その結果、仮説は支持されなかったが衆参での投票行動を 生むその他の変数が確認できた。 分析で効果を確認できた変数には政党支持強度がある。この政 党支持強度は内閣への不満との交互作用ではなく単独で効果をも たらしていることが分析から示された。そしてその効果は自民党 への好感度を表す感情温度をコントロールしても確認することが できた。つまり政党支持強度が弱ければ、内閣への不満などのそ の他の要因に関わらず参議院選挙において自民党からの離反投票 を行う傾向があることが確認できた。 また、分析で確認できなかった変数として内閣への不満がある。 内閣への不満は単独でも、そして政党支持強度との交互作用でも 効果が確認できなかった。これは、基本モデルにおいても交互作 用項投入モデルにおいても予想とは異なる結果であった。この結 果から、自民党支持者は自民党投票か離反投票かを決める際に、 内閣への不満(業績評価)を考慮にいれていないことになる。 全体として結果をまとめると、短期的な業績評価や景気認識と いう変数が有意な結果を得られなかった一方で、短期的な要因と は言い難い政党支持強度や自民党感情温度、そして望ましい政権 のかたちで有意な結果が得られた。この結果より、衆議院選挙で は自民党への投票をおこなう自民党支持者の中でも、政党支持強 度が弱い場合や自民党感情温度が低い場合には参議院選挙で離反 投票をする傾向が確認できた。そしてこの政党支持強度や自民党 感情温度は短期的にあまり大きく変化しないと想定できるために、 この傾向が毎回の参議院選挙で続く可能性も予想できる。もしそ うであるならば、本稿のスタートラインである「近年の参議院選 73 挙において政権与党が勝利を収めることができないケースが非常 に多くなっている」現状を説明できるのではないだろうか。個々 の選挙ごとに参議院選挙の結果が短期的な要因によって左右され るというよりは、潜在的に参議院選挙では与党の得票基盤が衆議 院選挙よりも少ないからである。 2012 年現在、衆参でのねじれによって国会運営がより困難にな っていることは確かである。そしてその困難さは、2007 年の自民 党政権下で衆参でのねじれが生じたときと同じであろう。この現 状を考慮すると、どのような与党支持者が離反投票をする傾向が あるかを確認できたことは現状を説明するうえで重要なことであ る。また、本稿では使用できるデータの制約上、2004 年の参議院 選 挙までし か分析 できなか った。し かしな がら既述 のように 2007・2010 年の参議院選挙では与党が敗れ、衆参でのねじれが生 じた。この 2 つの参議院選挙での与党支持者の投票行動を確認す ることは、本稿の分析で得られた結果をより一般的にするために も、そして本稿の分析では確認できなかった新たなメカニズムを 発見するためにも必要である。このような課題をまた新たなパズ ルとして残したうえで、本稿を終わりたい。 注 (1)1989 年:社会党を中心とする野党が歴史的圧勝 。自民党が成 立以降、獲得議席において初めて過半数を割る。 1995 年:議席数では与党が大きく勝ったものの、得票率の トップは比例区・選挙区ともに野党であった新進党。 1998 年:得票率では自民党はトップであったが、非改選を 含めた議席数で過半数を割る。敗北の責任をとるために橋本 首相は辞任。 2004 年:民主党が改選議席のみでは第一党、得票率は比例 区・選挙区はともにトップ。 2007 年:民主党が非改選議席を含めて第一党に。与党であ る自公で過半数獲得ならず。ねじれ国会に。 2010 年:得票率においては与党である民主党がトップであ ったが、議席数においては自公を中心とする野党が大きく伸 ばし、再びねじれ国会に。 (2)JESⅢは、 「21 世紀初頭の投票行動の全国的・時系列的調査 研究(JESⅢ SSJDA 版),2001-2005」で、JESⅢ研究会が 実施された世論調査である。その個票データについて、東京 大学社会科学研究所附属日本社会研究情報センター・データ アーカイブ(Social Science Japan Data Archive)より教材 としての利用許可(申請者:西澤由隆教授)を得たものを使 用した。いずれも、同志社大学・法学部の西澤由隆先生のご 指導と便宜により利用ができた。それぞれのデータを公開・ 寄託され、利用でるようにしてくださった先生方に感謝いた します。 (3)作成した「自民-離反投票」変数の度数分布は以下の通りであ る。2003 年衆議院選挙で自民党に選挙区・比例区共に投票し た自民党支持者のうち、33.5%が 2004 年の参議院選挙では 1 74 票も自民党に投票していないことがわかる。 自民-離反投票の度数分布 N 自民投票0票 % 140 33.5 自民投票1票 53 12.7 自民投票2票 225 53.8 合計 418 100.0 (4)具体的に 2003 年における自民党支持者は JESⅢのデータ上 では 943 人で全体の 43.6%であった一方で、公明党支持者は 113 人で全体の 5.2%であり 8 倍を超える差が両党の支持者の 間にあった。また 2003 年の選挙後の議席数も自民党が 237 であったのに対し公明党は 34 と約 7 倍の差があった。 5 ( )「望ましい政権のかたち」の危険率は基本モデルで 0.00055% 未満、交互作用項モデルで 0.00045 未満であった。 <補遺> ・使用した質問項目(2004 年参議院選挙事前調査) 内閣不満(業績評価): あなたは小泉内閣のこれまでの実績に ついてどう思われますか。 全体としての小泉内閣のこれまでの実績ではいかがですか。 1:かなり良い、2:やや良い、3:どちらともいえない、4: やや悪い、5:かなり悪い 支持弱ダミー(政党支持強度):あなたは支持する政党の熱心 な支持者ですか。それともあまり熱心な支持者ではありませ んか。 1:かなり熱心な支持者、2:あまり熱心ではない支持者 小泉感情温度:今度は政治に影響力のある人物や政党につい てお伺いします。もし好意も反感も持たない時には 50 度と してください。もし好意的な気持ちがあれば、その強さに応 じて 50 度から 100 度の間の数字を答えてください。また、 反感を感じていれば、やはりその強さに応じて 0 度から 50 度のどこかの数字を答えてください。1 番目は「小泉純一郎」 です。小泉純一郎についてはどうですか。 (1)小泉 純一郎(5)自民党 望ましい政権のかたち:あなたは、今度の参議院選挙の後、 どのような政権ができることを望みますか。この中から1つ だけあげてください。 1:自民党単独政権、2:民主党を除いた、自民党と他の政党 の連立政権、3:自民党と民主党を含めた連立政権、4:自民 党を除いた他の政党の連立政権、5:その他() 、6:わから ない、7:答えない 75 政治関心:選挙のある、なしに関わらず、いつも政治に関心 を持っている人もいますし、そんなに関心を持たない人もい ます。あなたは政治上のできごとに、どれくらい注意を払っ ていますか。この中ではどれにあたりますか。 1:かなり注意を払っている、2:やや注意を払っている、3: あまり注意を払っていない、4:ほとんど注意を払っていな い、5:わからない、6:答えない 1 年の景気認識:今の景気は 1 年前と比べるとどうでしょう か。この中ではどれでしょうか。 1:かなり良くなった、2:やや良くなった、3:変わらない、 4:やや悪くなった、5:かなり悪くなった、6:わからない、 7:答えない ・統制変数の作業定義 自民党感情温度・小泉感情温度:上記の質問票にあるように、 自民党・小泉に対するそれぞれの好感度を、 「0」が最も反感 を抱いている、 「50」が好意も反感も抱かない、 「100」が最 も好意を抱いているとして 101 点の尺度で表した。 望ましい政権のかたち:望ましい政権のかたちとして自民党 単独政権を「1」、民主党を除いた、自民党と他の政党の連立 政権を「0.67」、自民党と民主党を含めた連立政権を「0.33」 、 自民党を除いた他の政党の連立政権を「0」と表した。 ここ 1 年の景気認識: 1 年前と比べた景気状態について、 かなり良くなったを「1」 、やや良くなったを「0.75」、変わら ないを「0.5」、やや悪くなったを「0.25」、悪くなったを「0」 と表した。 ・分析で用いたシンタックス recode g8(1=1)(2 thru 9=0) into partsup04. SELECT IF partsup04=1. *03 年投票 recode e1s2p(1=1)(2 thru 9=0) into votep03. recode e1s7(1=1)(2 thru 9=0) into votep032. compute totalvote03=sum(votep03,votep032). if(totalvote03=0)itdt03=0. if(totalvote03=1)itdt03=0. if(totalvote03=2)itdt03=1. MISSING VALUES itdt03(0). *04 年投票 recode h1s2p(1=1)(2 thru 10=0) into votep041. recode h1prty(1=1)(2 thru 12=0) into votep042. compute totalvote04=sum(votep041,votep042). compute vote34=itdt03*totalvote04. *支持強度弱、年齢 recode g8s1(1=0)(2=1) into pss04. recode g7x4(1=0)(2=0.25)(3=0.5)(4=0.75)(5=1) into fuman04. compute age01=2001-borny. compute age04=age01+3. MISSING VALUES g6x5(888,999). 不満 recode g7x4(1=0)(2=0)(3=0.5)(4=1)(5=1) into fuman. 76 *望ましい政権 recode g26(1=1)(2=.67)(3=.33)(4=0) into hopegov. *政治関心 recode g27(1=1)(2=.67)(3=.33)(4=0) into polint. *小泉感情温度 MISSING VALUES g6x1(888,999). *1 年前と比べた景気 recode g30(1=1)(2=.75)(3=.5)(4=.25)(5=0) into eco. *支持強度弱×不満 compute it=fuman*pss04. *回帰分析 REGRESSION VARIABLES=fuman pss04 age04 g6x5 g6x1 vote34 hopegov polint eco /DEPENDENT vote34 /METHOD=ENTER. REGRESSION VARIABLES=it fuman pss04 age04 g6x5 g6x1 vote34 hopegov polint eco /DEPENDENT vote34 /METHOD=ENTER. <参考文献> ・石川真澄・山口二郎 2010、『戦後政治史 第三版』岩波新書 ・今井亮佑 2008、 「分割投票の分析―候補者要因、バッファー・ プレイ、戦略的投票―」 『レヴァイアサン』 43 号、 60-92 ・今井亮佑 2008、 「総選挙に吹く『風』を弱める『候補者重視』 の有権者」 『中央公論』11 月号、92-100 ・今井亮佑 2010、「国政選挙のサイクルと政権交代」『レヴァ イアサン』47 号、7-39 ・蒲島郁夫 1988、『政治参加』 東京大学出版会 ・蒲島郁夫 1992、 「八九年参院選――自民大敗と社会大勝の構 図」 『レヴァイアサン』10 号、7-31 ・西澤由隆 2000、 「二票制のもとでの政策評価投票――九九八 年衆議院総選挙と投票モデル―」『同志社法学』52 号(3)、 p1-25 ・平野浩 2007、『変容する日本の社会と投票行動』木鐸社 ・三宅一郎 1989、『投票行動』東京大学出版会 ・NHK 放送文化研究所編 2010、 『現代日本人の意識構造[第 7 版]』 77 6 どのような女性が 政治参加するのか 岡本 怜子 1. はじめに 私たちは、日常的にニュース番組や新聞紙で政治に関する話題 を目にする。そして何気なく、その映像や写真を見ているだろう。 では、果たしてそこに何人の女性政治家が登場しただろうか。近 年の日本の政界の例として、2012 年 10 月 1 日に発足した野田 第三次改造内閣を見てみよう。 野田第三次改造内閣の 23 人が並 ぶ写真の中には、2 列目中央に映る田中文部科学大臣の姿が目立 つ。野田第三次改造内閣の中で女性閣僚は、田中氏ただ一人であ る。それ以前の内閣についても、女性が占める割合は大変低い。 (表 1) 日本の政治家は圧倒的に男性が多く、女性が少ないので ある。閣僚級の要職になると尚更、女性政治家が占める割合は低 くなる。また、入閣する女性政治家の名前は「厚生労働大臣」や 「内閣府特命担当大臣(少子化対策)」などの福祉・教育の分野 に多く見受けられ、「外務大臣」や「経済産業大臣」などではほ とんど見られない。日本の政界は数における男女比の偏りのみな らず、務める役職にも偏りがあると考える。 一方で海外に目を向けると、女性政治家が活躍している話題が 日本に比べて多いように感じる。先進諸国では、女性の大統領・ 首相の経験が一度もない国は少なく、政治の要職に女性が就いて いる割合は日本よりも高い。たとえばイギリスのサッチャー首相、 フィリピンのアロヨ大統領、ドイツのメルケル首相など、容易に 名前が思い浮かぶ。2012 年 12 月 19 日に韓国で行われた大統領 選挙では、朴槿恵氏が勝利し、東アジア初の女性大統領が誕生し た。このように諸外国では、女性政治家が日本に比べて多く、尚 且つ、大統領・首相や大臣などの要職に就いて活躍している様子 も伺える。 日本と海外の女性政治家の数の差、そして女性政治家が務める 役職の違いを踏まえて、本稿では「どのような女性が政治参加す るのか」というリサーチクエスチョンを設定する。このリサーチ クエスチョンを分析するにあたり、「男女共同参画社会の実現」 という戦後の日本社会の流れと、福祉・教育の分野を務める女性 政治家、これら双方の関係性に着目する。 2. 女性の政治参加のプロセス 本節では、女性が参政権を獲得してから、政治家として活躍す る現在までのプロセスについて概括しておこう。 女性が参政権を獲得したのは第二次世界大戦後、1945 年のこ とである。その翌年には第 22 回衆議院議員選挙が行われ、79 名 78 の女性が立候補し、39 名が当選した。 「当時、米国の連邦議会の 上下両院における女性議員の数は合わせても 10 人前後であった ことを考えると、この数は国際的レベルで画期的だった」(五十 嵐、2012、p.4)と評価されている。 その後、選挙制度が大選挙区・制限連記制から中選挙区・単記 制に変更されて以来、女性の当選者は激減し、女性政治家の低迷 期に突入する。また、「女性は家庭で家事や育児に従事するのが 当然」という社会的通念も、女性の政治進出を阻む一つの要因と なった。 しかし 1980 年代に入り、徐々に女性政治家の進出が促される。 そのきっかけとなったのが、「リクルート事件」や「首相の女性 スキャンダル」である。これらの汚れた政治を払拭する、 「変化」 のシンボルとして各党が女性候補者を擁立したのである。また、 男女共同参画社会の実現を目指す社会の流れも相まって女性に 注目が集まり、女性政治家が活躍し始めることとなった。 3. ライブリー・ポリティクス 女性政治家が活躍するきっかけとなった概念に「ライブリー・ ポリティクス」がある。ライブリー・ポリティクスとは、アメリ カの政治学者スーザン・バーガーが唱える概念で、日本では篠原 一氏が 1980 年代初頭から後半にかけて精力的に展開した。ライブ リー・ポリティクスを、 「生と生活に連関したいきいきとした政治」 と篠原氏は定義している。 篠原氏は、ライブリー・ポリティクスを説明するために、その 対概念として「ハイ・ポリティクス」 「インタレスト・ポリティク ス」についても言及している。ハイ・ポリティクスとは第二次世 界大戦以前の政党の伝統を継いだ、規制の政党が活躍した時代を 指す。その後、高度経済成長に伴い、物質的利益が至上価値とさ れる「インタレスト・ポリティクス」の時代に突入する。しかし、 利益政治が行き詰まり、高度経済成長が公害問題や都市問題を生 んだ事をきっかけに、「生活」に着目されるようになる。これが、 ライブリー・ポリティクスの始まりである。 「生活」という価値を 追求し、その価値を共に享受する「共生」を目指すライブリー・ ポリティクスでは、医療問題・介護問題・教育問題・環境問題な どに言及し、それらの担い手として「女性」に期待が寄せられた。 以上のように、 「生活」に重点をおいたライブリー・ポリティク スという概念の台頭と、女性政治家の進出には関連があると考え られる。 4.2 つの政治参加の形態 本稿では、 「政治参加」と「投票参加」を区別して考える。なぜ なら、政治参加と投票参加では、それらが有するコストが異なる と考えるからである。そこで、性別と投票参加の関係について検 討してみよう。 有権者が投票参加するか否かの原因はいくつか挙げられる。蒲 島(1988)の研究に、社会的属性と投票参加について分析しているも のがある。蒲島は、「投票参加における男女差はほとんどないが、 79 実際は 1969 年の第 32 回衆議院議員選挙以来、女性の投票率が男 性を上回っている。 (中略)しかし選挙運動と地域・住民運動では、 男性の方がより多く参加する。」と述べている。 1 つまり、投票 という行為については女性の方が積極的であるのに対して、デモ への参加などの政治参加については男性の方が積極的であるとい うことである。 全国明るい選挙推進協会が実施した「明推協選挙後調査(平成 17 年)」のデータを用いて、投票参加と性別の相関についてクロス 表分析を行うと以下のような結果が得られた。(表 2)このことか らも、投票参加については女性の方が積極的であると考えられる。 本来であれば、投票参加が積極的ならば政治にも積極的に参加す るはずである。しかしながら、女性は男性よりも投票参加は活発 ながら、政治参加は少ない。本稿では、投票参加のみならず、政 治参加も行う女性の共通項について分析する。 5. 仮説 本稿のリサーチクエスチョン「どのような女性が政治参加する のか」を実証するために、仮説を「ライブリー・ポリティクスを 目指し、学歴の高い女性は政治参加する」と設定する。 私がこのように考える理由は、ライブリー・ポリティクスとい う概念が女性に身近なものだと考えるからである。育児や健康な ど、女性が日常的に関わっている問題は、女性だからこそ気付く 視点もある。しかし、ただ単にライブリー・ポリティクスに関心 があるだけでは、政治参加までは至らないと考える。政治参加を して、日常生活で感じる諸問題を解決するためには、やはり政治 そのものの知識が必要となる。つまり、日頃の生活で感じる諸問 題(ライブリー・ポリティクス)を、勉学で培った知識(学歴) を用いて解決しようとすることが、政治参加に繋がると考える。 その関係を図示すると、次の様になる。この関係を、実証的に確 認してみよう。 ライブリー・ポリティクス × 高学歴 ⇒ 政治参加 6. 分析枠組み 6-1. 使用するデータ 前節で述べた仮説を検証するために、全国明るい選挙推進協会 が実施した世論調査である「明推協選挙後調査(平成 17 年)」を 用いて分析を行う。2 6-2. 作業定義 (1)政治参加 「あなたは、議員や候補者を後援する団体に加入されています か」 「あなたは、その後援会の会費を払っていますか、いませんか」 「あなたは、ふだん(選挙のときでなく)政党や議員が開く演説 会や報告会などに出られることがありますか」 80 「あなたは何かの問題で議員に頼んだり、政党の支部や後援会 に相談に行ったりしたことがありますか」 「あなたは、政党の出している新聞をふだんからお読みですか」 政治参加は、上記 5 つの質問への回答を合成することで定義す る。それぞれの質問に対して「参加」を 1、 「不参加」を 0 と定 義し、5 つの質問への回答を足し合わせる。なお、団体加入につ いては、 「加入し、かつ会費を払っている有権者」を 1、 「加入し ているが、会費は払っていない有権者」を 0.5、「加入していな い有権者」を 0 と定義した。よって、最も政治参加が活発な有権 者は 4、全く政治参加していない有権者は 0 の値をとる。 (2)ライブリー・ポリティクス 「今回の選挙で、どのような問題を考慮しましたか。この中 にあればいくつでも挙げて下さい」という質問への回答によっ て定義する。 この質問に対して、福祉・医療、年金問題、政権のあり方、 環境・公害問題、土地・住宅問題、政治倫理・政治改革、行政 改革、地方分権、教育問題を、ライブリー・ポリティクスとし て定義する。 上記 9 個の項目の内、選択した項目の数を足し合わせて定義 する。よって、「最もライブリー・ポリティクスを目指す有権 者」は 9、「全くライブリー・ポリティクスを目指さない有権 者」は 0 の値をとる。 (3)インタレスト・ポリティクス 「今回の選挙で、どのような問題を考慮しましたか。この中 にあればいくつでも挙げて下さい」という質問への回答によっ て定義する。 この質問に対して、景気・雇用、財政再建、税金問題、郵政 民営化、農林漁業対策、中小企業対策、国際・外交問題、憲法 問題、防衛問題、構造改革を、インタレスト・ポリティクスと して定義する。 上記 10 個の項目の内、選択した項目の数を足し合わせて定 義する。よって、「最もインタレスト・ポリティクスを目指す 有権者」は 10、 「全くインタレスト・ポリティクスを目指さな い有権者」は 0 の値をとる。 (4)学歴 「あなたは、学校はどこまでいらっしゃいましたか」という 質問への回答によって定義する。 その他、詳細の作業定義については補遺を参照されたい。 7. 分析(表 3~表 6) リサーチクエスチョン「どのような女性が政治参加するのか」 について、「ライブリー・ポリティクスを目指し、かつ、高学歴 な女性は政治参加する」と仮説を設定した。これらのことを実証 81 するために重回帰分析を行った。 まず、政治参加とライブリー・ポリティクスの相関を分析した (表 3) 。 表 3:ライブリー・ポリティクスと政治参加 従属変数 : 政治参加 ベータ 有意確率 定数 .074 ライブリー・ポリティクス .075 .033 インタレスト・ポリティクス .068 .056 性別 -.123 .000 年齢 .137 .000 学歴 -.048 .107 調整済み R 二乗値 .060 その結果、政治参加に対して、ライブリー・ポリティクス、イ ンタレスト・ポリティクス、性別、年齢の変数で、有意な結果が 得られた。つまり、ライブリー・ポリティクスやインタレスト・ ポリティクスに対する関心は、政治参加にプラスの影響を与えて いると言える。また、政治参加に与える影響は、インタレスト・ ポリティクスよりもライブリー・ポリティクスの方が大きいこと も以上の分析からわかった。 次に、ライブリー・ポリティクスとインタレスト・ポリティク スの両変数に、「学歴」を交互作用項として掛け合わせた変数を 作り、従属変数である政治参加との相関を分析した(表 4)。 表 4:ライブリー・ポリティクス×学歴 と 政治参加 従属変数 : 政治参加 ベータ 有意確率 定数 .549 ライブリー・ポリティクス .157 .099 インタレスト・ポリティクス .119 .202 ライブリー・ポリティクス×学歴 -.097 .351 インタレスト・ポリティクス×学歴 -.063 .544 性別 -.126 .000 年齢 .142 .000 学歴 .012 .782 調整済み R 二乗値 .061 その結果、ライブリー・ポリティクスでは 10%水準で有意な結 果、性別と年齢では 1%水準で有意な結果が得られたものの、そ れ以外の変数では有意な結果を得る事は出来なかった。 次に、本稿のポイントである「性差」に言及するために、サン 82 プルを男女に分けて分析を行った(表 5、表 6)。 表 5: ライブリー・ポリティクス×学歴 従属変数 : 政治参加(男性) と 政治参加(男性) ベータ 定数 ライブリー・ポリティクス インタレスト・ポリティクス ライブリー・ポリティクス×学歴 インタレスト・ポリティクス×学歴 年齢 学歴 有意確率 .683 .104 .471 .183 .201 -.054 .727 -.078 .621 .186 .000 -.015 .809 調整済み R 二乗値 .067 表 6:ライブリー・ポリティクス×学歴 従属変数 : 政治参加(女性) と 政治参加(女性) ベータ 定数 ライブリー・ポリティクス インタレスト・ポリティクス ライブリー・ポリティクス×学歴 インタレスト・ポリティクス×学歴 年齢 学歴 有意確率 .805 .231 .086 .045 .727 -.173 .233 -.061 .670 .106 .017 .068 .301 調整済み R 二乗値 .014 その結果、男性では、年齢のみ有意な結果が得られた。一方で 女性では、ライブリー・ポリティクスが 10%水準で有意、年齢 が 5%水準で有意な結果を得られたものの、それ以外の変数は有 意な結果を得られなかった。 学歴との相互交差項を入れたモデルの分析結果は、本稿で想定 した結果とは異なり、そのパフォーマンスは必ずしも良くない。 したがって、慎重な解釈が求められるところではあるが、仮に 10%水準の危険率を受け入れるとしよう。すると、ライブリー・ ポリティクスが女性においてのみ統計的に有意との結果は、興味 深い。本稿の仮設が想定した通りの傾向が確認されたことになる。 8. おわりに 以上の分析より、ライブリー・ポリティクスは政治参加にプラ スの影響を与えることがわかった。また、インタレスト・ポリテ ィクスよりもライブリー・ポリティクスの方が、政治参加に与え る影響が大きいことも明らかとなり、3 節で述べた「インタレス ト・ポリティクスからライブリー・ポリティクスへの移り変わり」 を実証することができた。 83 しかしながら、本稿で設定した「ライブリー・ポリティクスを 目指し、かつ高学歴な女性が政治参加する」という仮説について は、必ずしも実証することができず、また、本稿では、どのよう な女性が政治参加するかを十分には明らかにすることはできな かった。ライブリー・ポリティクスやインタレスト・ポリティク スの定義方法を見直し、再度、政治参加する女性の共通項を追求 したい。政治参加する女性の共通項を見出すことで、女性の政治 参加の増加に繋がることを期待する。 表 1:内閣における女性の閣僚 内閣 (人) 女性閣僚名 麻生 内閣 鳩山 内閣 2008/9/24- 2009/9/162010/6/8- 菅内 閣 2010/9/72011/1/142011/9/2- 野田 内閣 2012/1/132012/6/42012/10/1- 野田聖子 消費者行政推進 担当大臣 科学技術政策 食品安全担当大臣 千葉景子 法務大臣 千葉景子 法務大臣 岡崎トミ子 国家公安委員長 蓮舫 行政刷新担当大臣 小宮山洋子 厚生労働大臣 小宮山洋子 厚生労働大臣 小宮山洋子 厚生労働大臣 田中真紀子 文部科学大臣 小渕優子 少子化対策担当大臣 男女共同参画担当大臣 福島みずほ 少子化対策担当大臣 蓮舫 行政刷新担当大臣 蓮舫 行政刷新担当大臣 22 22 22 22 蓮舫 行政刷新担当大臣 蓮舫 行政刷新担当大臣 表 2: 性別と投票参加のクロス表 性別(人) 男性 女性 合計 ○ 635 712 1347 投票参加 × 118 154 272 753 866 1619 カイ二乗値:30.027 危険率:.000 使用データ:明推協選挙後調査(平成 17 年) 84 22 22 21 19 23 注 (1) 蒲島郁夫『政治参加』 p.99 1 行目~ (2) ここで利用したデータは明推協データである。「明推協選挙 後調査(平成 17 年) 」は、全国明るい選挙推進協会が実施し た世論調査である。それをレヴァイアサン・データ・バンク (LDB、木鐸社)より同志社大学が購入したものを、教材と して西澤由隆教授より提供を受けた。それぞれのデータを公 開・寄託され、利用でるようにしてくださった先生方に感謝 いたします。 <補遺> 分析に使用した質問文 Q5.あなたは今回の衆議院選挙では、投票しましたか、しません でしたか。この中から 1 つだけ選んで下さい。 govote (1)小選挙区選挙、比例代表選挙とも投票した (2)小選挙区選挙だけ投票した (3)比例代表選挙だけ投票した (4)どちらも投票しなかった (5)わからない ⇒1,2,3=1 4=0 5=欠損値として再コード SQ2.今回の選挙で、どのような問題を考慮しましたか。この中 にあればいくつでも挙げて下さい。 (1)福祉・医療 issue01 (2)景気・雇用 issue02 (3)財政再建 issue03 (4)税金問題 issue04 (5)年金問題 issue05 (6)郵政民営化 issue06 (7)政権のあり方 issue07 (8)環境・公害問題 issue08 (9)土地・住宅問題 issue09 (10)農林漁業対策 issue10 (11)中小企業対策 issue11 (12)政治倫理・政治改革 issue12 (13)行政改革 issue13 (14)地方分権 issue14 (15)国際・外交問題 issue15 (16)憲法問題 issue16 (17)防衛問題 issue17 (18)教育問題 issue18 (19)構造改革 issue19 (20)その他 issue20 (21)政策は考えなかった issue21 (22)わからない issue22 ⇒ライブリー・ポリティクスは、 issue01+issue05+issue07+isue08+issue09+issue12+issu13+is sue14+isue18 で定義する。 インタレスト・ポリティクスは、 issue02+issue03+issue04+isue06+issue10+issue11+issu15+is sue16+isue17+issue19 で定義する。 Q13.あなたは、議員や候補者を後援する団体に加入されていま すか。koen 85 (1)加入している (2)加入していない (3)わからない ⇒1=1 2=0 3=欠損値として再コード化 SQ2.あなたは、その後援会の会費を払っていますか、いません か。 koenpay (1)いる (2)いない (3)わからない ⇒1=1 2=0.5 3=欠損値として再コード化 Q15.あなたはふだん(選挙の時でなく)政党や議員が開く演説 会や報告会などに出られる事がありますか。meeting (1)出席する事がある (2)ない (3)わからない ⇒1=1 2=0.5 3=欠損値として再コード化 Q16.あなたは何かの問題で議員に頼んだり、政党の支部や後援 会に相談に行ったりした事がありますか。askpol (1)ある (2)ない (3)わからない ⇒1=1 2=0.5 3=欠損値として再コード化 Q17.あなたは、政党の出している新聞をふだんからお読みです か。 prtypapr (1)多少とも読む (2)読まない (3)わからない ⇒1=1 2=0.5 3=欠損値として再コード化 F1 性別 sex (1) 男性 (2)女性 ⇒1=0 2=1 として再コード化 F3.あなたは学校はどこまいらっしゃいましたか。educ (1)小・高小・新中卒 (2)旧中・新高卒 (3)新高専・短大・専修学校卒 (4)旧高専大・新大卒 (5)大学院(修・博)卒 (6)わからない ⇒1=0.2 2=0.4 3=0.6 4=0.8 5=1 6=欠損値として 再コード化 <シンタックス> *性別. recode sex (1=0)(2=1) into sex1. *学歴. recode educ (1=0.2)(2=0.4)(3=0.6)(4=0.8)(5=1) into educ1. *年齢. recode age (20 thru 24=0.12)(25 thru 29=0.24)(30 thru 39 =0.36)(40 thru 49=0.48) (50 thru 59 = 0.60)(60 thru 69 =0.72)(70 thru 79 = 0.84)(80 thru highest =1) into age1. fre age1. 86 *投票参加. recode govote (1=1)(2=1)(3=1)(4=0) into govote1. *投票参加と性別. crosstabs tables govote1 by sex /cells count expected /statistics chisq. *演説会. recode meeting (1=1)(2=0) into meeting1. *相談. recode askpol (1=1)(2=0) into askpol1. *政党新聞. recode prtypapr (1=1)(2=0) into paper. *後援会. recode koen (1=1)(2=0) into koen1. missing values koen1 (9). recode koenpay (1=1)(2=0.5) into pay. missing values pay (3,9). fre pay. if (koen1=0) koenkai = 0. if (pay=1) koenkai = 1. if (pay=0.5) koenkai = 0.5. fre koenkai. compute sanka =sum(meeting1,askpol1,paper,koenkai). fre sanka. recode issue01 (1=1)(2=0) into issue1. recode issue02 (1=1)(2=0) into issue2. recode issue03 (1=1)(2=0) into issue3. recode issue04 (1=1)(2=0) into issue4. recode issue05 (1=1)(2=0) into issue5. recode issue06 (1=1)(2=0) into issue6. recode issue07 (1=1)(2=0) into issue7. recode issue08 (1=1)(2=0) into issue8. recode issue09 (1=1)(2=0) into issue9. recode issue10 (1=1)(2=0) into issue101. recode issue11 (1=1)(2=0) into issue111. recode issue12 (1=1)(2=0) into issue121. recode issue13 (1=1)(2=0) into issue131. recode issue14 (1=1)(2=0) into issue141. recode issue15 (1=1)(2=0) into issue151. recode issue16 (1=1)(2=0) into issue161. recode issue17 (1=1)(2=0) into issue171. recode issue18 (1=1)(2=0) into issue181. 87 recode issue19 (1=1)(2=0) into issue191. *ライブリーポリティクス. compute lively = sum(issue1,issue5,issue7,issue8,issue9,issue121,issue131, issue141,issue181). fre lively. recode lively (0=0)(1=0.11)(2=0.22)(3=0.33)(4=0.44)(5=0.55)(6=0.66)(7= 0.77)(8=0.88)(9=0.99) into lively1. *インタレストポリティクス. compute interest = sum(issue2,issue3,issue4,issue6,issue101,issue111,issue1 51,issue161,issue171,issue191). fre interest. recode interest (0=0)(1=0.1)(2=0.2)(3=0.3)(4=0.4)(5=0.5)(6=0.6)(7=0.7)(8=0 .8)(9=0.9)(10=1) into interest1. *回帰分析 モデル1. regression /dependent sanka /method =enter lively1 interest1 sex1 age1 educ1. *ライブリー・ポリティクス×学歴. compute lively2 = lively1 * educ1. fre lively2. *インタレスト・ポリティクス×学歴. compute interest2 = interest1 * educ1. fre interest2. *回帰分析 モデル2. regression /dependent sanka /method =enter lively1 interest1 lively2 interest2 sex1 age1 educ1. *回帰分析 男性. temporary. select if (sex1=0). regression /dependent sanka /method =enter lively1 interest1 lively2 interest2 sex1 age1 educ1. *回帰分析 女性. temporary. select if (sex1=1). regression 88 /dependent sanka /method =enter lively1 interest1 lively2 interest2 sex1 age1 educ1. <参考文献> ・五十嵐暁郎 2012. 『女性が政治を変えるとき‐議員・市長・ 知事の経験』岩波書店. ・五十嵐暁郎 2012.『日本政治論』岩波書店. ・池田謙一 2007.『政治のリアリティと社会心理』木鐸社. ・大海篤子 2005.『ジェンダーと政治参加』 世織書房. ・蒲島郁夫 1988.『政治参加』東京大学出版会. ・川人貞史・山本一 2007.『政治参加とジェンダー』東北大学 出版会. ・篠原一 1982.『「ライブリー・ポリティクス」とは何か』総合 労働研究所. ・平野浩 2007.『変容する日本の社会と投票行動』木鐸社. ・御巫由美子 1999.『女性と政治』新評論. ・三宅一郎 1989.『投票行動』東京大学出版会. ・山口昭男 2009.『新編 日本のフェミニズム 4 権力と労働』 岩波書店 89 7 分割政府時の地方議 会議員行動、首長と政 党の統制 ―大阪府議会を事例に― 岡山 義信 1. はじめに 二元代表制を採用している政府では、行政府の長と議会の多数 党の党派が異なる「分割政府」状態になることがある。もし分割 政府になれば、行政府と議会が対立し法案がほとんど通らないデ ッドロック(dead lock)状態になる可能性がある。そのことは二元 代表制を採用しているアメリカでの、大統領と議会との関係に関 する多くの研究を通じて明らかにされてきた。 それらの先行研究では、分割政府時の立法パフォーマンスに対 する評価が分かれている。重要法案に限れば必ずしも分割政府が デッドロックを導かないとする議論が一方であり(Mayhew 1991)、 他方で分割政府下ではやはり法案が通りにくくなるという議論も ある(Coleman 1999)。こうした結論の違いは、分析における変数 の作業定義の違いや分析対象期間の違いなどにもよると思われる が、いずれにせよ分割政府時の立法パフォーマンスの評価につい ては一般的な共通認識が定着するには至っていないと言えよう。 そのような研究の中で、最も大きな論点となってきたのはアメ リカ議会における「政党の統制」の程度である。もし政党の統制 が弱いのであれば、議会の採決において議員個人が自身の政党の 立場と違う投票を行う交差投票(cross-voting)が起きやすく、分割 政府状態はそれほど問題にならない。しかし、政党の統制が強い のであれば交差投票は起きにくく、分割政府状態は致命的な問題 (デッドロック状態)となり得るのである。実際に、アメリカ議 会研究において、議員への政党からの統制(discipline)は弱いと評 価する論者(e.g. Weingast and Marshall 1988)は分割政府状態が 必ずしもデッドロック状態に結びつかないと論じる。一方で、政 党の統制を強いと評価する論者(e.g. Cox and McCubbins 2007)は、 分割政府状態が議会のデッドロック状態に結びつくと指摘する。 このように、分割政府の立法パフォーマンスについての研究者に よる評価の違いは、政党の統制の程度をめぐる評価の違いと言い 換えることが出来る。 本稿では、これらの分割政府・政党研究の成果を同じく二元代 表制を採用している日本の地方政府に適用する。近年、曽我・待 鳥(2007)や砂原(2011)などが理論的・実証的な地方政府の研究を蓄 積してきている。1 中でも曽我・待鳥(2007)や砂原(2011)の研究 90 は、「執政制度と選挙制度のあり方が政府部門間の関係を規定し、 さらには部門間関係や政党間関係が政策選択に影響を与える」 (曽 我・待鳥 2007 p.3)とする比較政治制度論の枠組みで地方政府を 分析している。本稿も同様にそのような比較政治制度論の枠組み を用いて、日本の地方政府における分割政府の分析を行う。 すなわち本稿では、日本の地方政府において、分割政府がデッ ドロックを導くのかどうかを分析する。具体的には分割政府状態 であった大阪府議会の 2009 年 9 月定例会を事例として、 「どのよ うな」議員が首長提出法案に反対し、あるいは賛成したのかを議 員個人レベルの計量分析によって明らかにする。 「どのような」議 員が首長提出法案に反対し、あるいは賛成したのかを特定するこ とで、分割政府とデッドロックの関係を明らかにすることが出来 るだろう。首長提出法案に賛成する可能性の高い議員がその議会 に多ければ、分割政府は安定的に運営されるだろうし、反対する 可能性の高い議員が多ければ、分割政府はデッドロックに陥る可 能性が高いだろうということが出来るからである。 ではどのような議員が首長提出法案に賛成、あるいは反対する のか。本稿では議員が選出された選挙区の定数の違いによってそ のことを説明したい。都道府県議会選挙では小選挙区制と大選挙 区制という異なった選挙制度が同時に用いられており、その定数 も 1 から鹿児島市・鹿児島郡区の 17(平成 23 年 3 月 30 日以降) までかなりのバラつきがある。Carey and Shugart(1995)によると、 選挙区定数は候補者が選挙の際に「個人投票(Personal Vote)」を 獲得しようとするインセンティブに大きな影響を与える。2 また そうしたインセンティブは、当選後の議員と政党との関係をも規 定する。もしある議員が個人投票を多く獲得して当選しているな ら、所属する政党から自律的であるだろうし、逆に「政党投票(Party Vote)」によって当選しているならその議員は政党から自律的でな くなるだろう。3 Hix(2004)や Carey(2007)は、選出される議員の 選挙制度(選挙区定数)の違いが政党からの統制の程度を変え、 その議員の議会における議決行動に影響を与えることを実証的に 明らかにした。本稿では、それらの成果に加えて、首長からの統 制も考慮に入れた上での議員の再選欲求(合理的選択)を前提と した議員行動を説明する一般的な仮説を導出して分析を行う。 以上のことを論じるために、本稿では以下の構成をとることと する。第 2 節では、本稿で扱う大阪府議会の 2009 年 9 月定例会に おいて、首長によって提出された「WTC 府庁移転案」とそれに伴 う「平成 21 年度大阪府一般会計補正予算案」に対する 2 つの首長 提出法案について述べる。具体的には、それらの法案が提出され るに至った経緯やそれぞれの議員がそれらの法案に対してどのよ うな行動(賛否)をとったのかについて記述する。第 3 節では、 第 2 節で示された議員の行動を説明する仮説を一般的な形で導出 して提示する。そこでは代替仮説の提示も行う。第 4 節では、本 稿の分析枠組みを提示する。第 3 節で示された仮説を本事例の分 析に当てはめた変数の操作化を行う。第 5 節では、第 4 節に基づ く分析結果を提示し、その解釈を行う。そして第 6 節では、本稿 の分析結果のまとめとそこから得られた含意、残された課題を述 91 べる。 2. 「WTC 府庁移転案」(大阪府議会 2009 年 9 月定例会) 本稿の従属変数は、「WTC 府庁移転案」とそれに伴う「平成 21 年度大阪府一般会計補正予算案」という 2 つの知事提出法案に対 して首長野党議員が賛成したのか反対したのかである。 4 本節で は、まずそれら 2 つの知事提出法案に対する議決結果やそれらの 条例案が提出されるに至った経過を概観する。そのことによって なぜこの事例を本稿の仮説をテストする事例として使用するのか、 また使用できるのかを明らかにしておきたい。 本稿が扱う 2009 年大阪府議会において、知事であった橋下徹は 2008 年 1 月に自民党府連推薦・公明党府本部支持を受けて圧倒的 得票率で当選を果たした。5 橋下知事は大阪府の財政改革に対し て強い意欲をみせ、その文脈の中で大阪府と大阪市による二重行 政の解消を図るために府市連携で行う政策案を打ち出していった。 その中で最初となった水道事業府市統合案は大阪市との合意を形 成することが出来ず頓挫した。6 一方で、橋下知事は 2008 年 8 月ごろに、大阪市の第三セクター会社が所有する大阪ワールドト レードセンタービルディング(WTC)に府庁を移転するという WTC 府庁移転構想を打ち出し、府市・府議会での合意形成を進め ていく。7 WTC ビルは、オフィス入居などによる大阪市への経済効果を期 待して 1995 年に大阪市の南港地域に完成した。しかし、アクセス の不便さやバブル崩壊により WTC 周辺の開発が進まなかったた め、オフィスへの入居も期待通りに進まなかった。その後、債務 が膨張し WTC を所有する第三セクターである株式会社ワールド トレードセンタービルディングは、2003 年に大阪地方裁判所に特 定調停を申請し 2004 年に金融機関の一部債権放棄と大阪市の一部 債務負担により調停が成立した。 8 WTC は民間社長を新たに迎 えて再建を図り、一時的には黒字も記録したが、2008 年 7 月段階 のオフィスの入居率は 79.3%であった。その内 70%程度が大阪市 とその関連団体で占められていた。このように WTC は実質、大阪 市の「第二庁舎」であった現状は変わらず、WTC の赤字は再び膨 らんでいった。9 一方で、大阪府は府庁の老朽化が進み、耐震性の問題から新た に新庁舎建設の必要が指摘されていたが、財政上の問題で先送り されていた。10 そのような市と府の状況の中で、橋下知事は 2008 年 8 月に、WTC 府庁移転構想を提起したのである。これは大阪市 にとってみれば、再建の難しい WTC の買い手を確保できると同時 に、大阪府にとっては新たに府庁を建設することなく購入費用だ けで多数の府庁職員を収容できるビルを取得できるといった、 府・市双方にとって問題を一度に解決できる可能性を持つ提案で あった。 その後、大阪府と大阪市の協議が始まり、当初 WTC の評価額に ついて府と市の間には大きな開きがあったが、最終的には府市共 同鑑定依頼により出された額に大阪市側が妥協するかたちで合意 に至った。11 橋下知事は 2009 年 1 月に WTC 府庁移転案の具体 92 案を出していたが、大阪市との合意が得られたところで直ちに同 年 2 月定例会(3 月)に知事提出法案として WTC 府庁移転案と予 算を提出した。 この条例案に対して大阪府議会における多くの議員の賛否がわ かれる。共産党はアクセスの悪さなどを理由に党として明確に反 対をした。12 当時、知事与党であった自民党の内部では市の湾岸 計画の失敗についての検証がなされていないなどを理由にした反 対議員があらわれた。その結果、自民党は分裂し、結局会派拘束 をかけることが出来なかった。13 もう一方の与党公明党は議決直 前になって審議の拙速を理由に会派として反対を表明、民主党は 会派拘束をかけず自主投票となった。14 この移転条例案の可決に は地方自治法により、出席議員の 3 分の 2 以上の賛成が必要とな っている。15 当時、大阪府議会の議員定数は 112 で、会派構成は 自民 49 人・公明 23 人・民主 24 人・共産 10 人・諸派 5 人であっ た。そして共産・公明が会派として反対しているため、共産・公 明以外の会派から 5 人以上の反対者が出た時点で法案は否決され るといった状況であり、可決はほぼ絶望的であった。このような 状況を打開することを目的として、報道機関に WTC 府庁移転案に ついての支持率を収集させるよう橋下知事は大阪府幹部に指示す るなど、府民の支持を背景に議員の行動にプレッシャーをかけた。 16 しかし結局、同条例案は 3 月 24 日に無記名投票で票決が行わ れ、賛成 46・反対 65・無効 1 の反対多数で否決された。17 この WTC 条例案をめぐる過程で橋下知事と自民・公明会派の対 立は鮮明になり、同年 4 月 24 日には自民党会派から橋下支持を鮮 明にした「自民党・維新の会」会派ができ、大阪府議会は分割政 府状態になった 。18 19 橋下知事は否決後、同法案可決への再チャレンジを言及し、同 年 7 月 23 日は明確に 9 月定例会での再提出を主張した。20 橋下 知事は再否決された場合、知事職を辞任して再出馬して府民の信 を問う可能性にまで言及するなど、府民の支持率を背景としたプ レッシャーを再び議員にかけた。21 そして 2009 年 9 月 25 日に 大阪府議会に同法案を再提出した。 前回の条例案を否決された際に橋下知事や自民党・維新の会会 派の議員らが無記名投票を批判したことにより、大阪府議会の会 議規則が改正され議会の賛成多数により、今回の議決は記名投票 で行うことになった。22 橋下知事は各会派を説得し、各会派は所 属議員の意見を取りまとめようと努力するが、今度も自民・民主・ 公明各会派は議員の意見を取りまとめることが出来ず、条例案可 決への見通しは混迷を極めた。WTC 府庁移転案を否決するが、補 正予算案を通して WTC を先行取得する案も自民・民主・公明を中 心に大阪府議会で出たが、結局、公明党が反対し、主要各会派は 議員の自主投票に委ねたまま 10 月 24 日の議決当日となった。23 WTC 移転案とそれにともなう一般会計予算案に対する会派別の 賛否は以下の表 1 である。WTC 移転案は可決には前述の通り 3 分 の 2 以上の賛成を必要とするが否決され、一般会計予算案は可決 されるという結果に終わった。24 93 表 1 WTC への府庁移転関連議案をめぐる会派別の府議の投票行動 移転条例 購入予算 自民 民主 公明 共産 維新 諸派 賛成 賛成 22 11 7 0 6 5 賛成 反対 1 0 0 0 0 0 反対 賛成 6 3 1 0 0 0 反対 反対 13 10 15 10 0 1 計 43 24 23 10 6 6 <自民のうち 5 人は会派からの離団を表明し、両案ともに賛成。議長(自民会派)は 移転条例案への投票(反対)のみ> 出典:『朝日新聞』2009 年 10 月 28 日 朝刊 を修正 本事例は以上の経緯によって「WTC 府庁移転案」否決・「平成 21 年度大阪府一般会計補正予算案」可決という結果になった。こ れらの事例を本稿の分析で用いる最も大きな理由はデータの制約 上の問題である。本稿では個人を分析単位とするので、議員個人 の条例案に対する賛否行動のデータが必要である。しかし、地方 議会の議決において記名投票はほとんど行われることはなく、さ らにそれを分割政府状態であったものに限ると、管見によるとこ ろこの 2 つの議決があるのみであった。 このような大きな、かつ消極的な理由で本事例を扱うことにな るが、積極的な理由も 4 点あげることが出来る。1 点目は、見てき たように本条例案が首長と議会の合意争点になっていないという ことである。地方議会の議決においては首長と議会の合意争点が 非常に多く、首長提出法案が否決されることもほとんどない。 25 そのような合意争点ではもちろん政党の統制や知事の統制で説明 できる余地はない。その点において本条例案は本稿の分析に適合 的であろう。 2 点目は、これも本事例の概観でみたように、本議決において多 くの会派が会派拘束をかけることが出来なかった点である。国会 同様に地方議会においても議員の行動単位は基本的に会派単位で ある。すなわち条例案に対する議員の賛否行動の多くは、所属す る会派で説明出来てしまうのである。しかし本事例では議席数上 位 3 会派である自民・民主・公明の各会派が会派拘束をかけるこ とが出来なかったので、所属する会派によって議員の行動を説明 できない。その点においても本事例は本稿の分析にふさわしい事 例である。 3 点目は、本条例案が政策イデオロギー上において偏りがないこ とである。条例案に対する議員の賛否行動は、本稿の仮説の前提 である議員の再選欲求だけによって決まるものではない。上記で みた会派単位の説明力をコントロールした上でも議員個人の政策 実現欲求によって、議員の条例案に対する賛否行動は変わってく るだろうと想定できる。しかし、本条例案は議員によって大きく 選好順位がかわるという理論的な説明を持つ性質のものではない。 すなわち議員の本条例案に対する政策実現欲求による説明は、か なりの程度この事例ではコントロールされているとみなすことが 可能である。 4 点目は大阪府議会の議員の多さである。大阪府議会は全国の地 94 方公共団体において議員数が一番多い議会である。本稿のような 議員個人を分析単位とした計量分析を行う際、ケース数の多さは 重要である。この点においても本条例案は本稿にとってふさわし い事例である。 以上、概観した本事例における 2 つの首長提出法案では、首長 野党議員は共産党会派などの例外を除いて、所属する会派に係わ らず賛成する議員もいれば反対する議員もいた。このような首長 野党議員の行動をわける要因は何か。次節ではそのことを説明す る一般的な仮説の導出を行う。 3. 仮説の導出 本節では、前節で述べたような分割政府下における首長提出法 案に対する首長野党議員の行動の違いを説明する仮説を導出する。 また 3-2 では代替仮説を導出し提示する。 3-1. 仮説 第 1 節でも触れたように議会において議員が自身の所属する政 党のラインに沿った投票をするかどうかは、多くは政党から議員 に対する統制の問題であった。Hix(2004)は EU 議会の選挙が国に よって違う選挙制度で実施されていることを利用して、EU 議員の 議会における議決行動の違いを実証的に明らかにした。同様に Carey(2007)は国際比較により選挙制度の違いで各国議会におけ る議員行動の賛否行動の違いを実証した。これら 2 つの研究では どちらも選挙制度を政党の議員に対する統制度の代理変数として 用いている。 選挙制度の違いで政党の議員に対する統制度の違いを説明する ことが出来る理由は、選挙制度によって候補者が選挙の際に「個 人投票」を得ているか、あるいは「政党投票」を得ているかに違 いが生じるからである。もし当選した議員が個人投票を多く獲得 して当選しているなら、所属する政党から自律的であるだろうし、 逆に政党投票によって当選しているならその議員は政党から自律 的でなくなるだろう。 ではどのような選挙制度が個人投票を必要とし、どのような選 挙制度が政党投票に依存するのか。Carey and Shugart(1995)は選 挙制度の候補者名簿方式・票の移譲方式・有権者の投票方式・選 挙区定数の 4 つの変数の違いが候補者の個人投票獲得のインセン ティブを変化させるだろうと理論的な説明をしている。 第一に、 「候補者名簿方式」変数は選挙の際に、政党が出す候補 者の名簿を誰が決めているかを表す変数である。政党が名簿を決 め、また有権者がその名簿を入れ替えたり出来ない制度 (closed-list)が、最も候補者にとって個人投票を獲得するインセン ティブが低く、政党が名簿や名簿の順位をコントロールできない (有権者が決める)制度(open-list)が、最も候補者にとって個人投 票を獲得するインセンティブが高い制度であることが理解できる。 第二の「票の移譲方式」変数は、候補者個人が獲得した票を自 身が所属する政党の他の候補者に移譲出来るかどうかを表す変数 である。候補者個人が獲得した票を同じ政党の他の候補者に移譲 95 する制度(例えば参院選の比例代表制など)では候補者が個人投 票を獲得するインセンティブは低く、移譲しない制度(例えば中 選挙区制)では逆に個人投票を獲得するインセンティブが高くな ると理解できる。 第三に、 「有権者の投票方式」変数は選挙における有権者の投票 方式の違いを表す変数である。有権者が政党に対して一票を投じ る制度が、最も候補者にとって個人投票を獲得するインセンティ ブが低く、有権者が個人に一票を投じる制度が、最も候補者にと って個人投票を獲得するインセンティブが高い制度である。 そして最後に「選挙区定数」変数は、上記の 3 つの変数と違っ て「候補者名簿方式」のとる値によって効果が逆になる。すなわ ち、closed-list の場合には選挙区定数が大きくなるに従って、候補 者が個人投票を獲得するインセンティブは低くなるが、open-list の場合には逆に定数が大きくなるにしたがって、候補者が個人投 票を獲得するインセンティブが高くなる。 Carey and Shugart(1995)は以上の 4 つの変数のうち、「候補者 名簿方式」 ・「票の移譲方式」・「有権者の投票方式」の 3 つの変数 から理論的に考え得る全ての選挙制度とそれぞれの個人投票との 関係を整理した。さらにそれを 4 つ目の変数、選挙区定数との関 係 で 捉 え 直 し 整 理 し た も の が 下 の 図 1 で あ る 。 Carey and Shugart(1995)は選挙区定数以外の 3 つの変数から 13 種類の選挙 制度(a~m)を整理した。Carey and Shugart(1995)の整理に依れば、 小選挙区制は個人投票獲得のインセンティブを生みにくい図 1 の a の線で、また中選挙区制は個人投票獲得のインセンティブを生み やすい k の線で表すことが出来る。26 この図は、a の選挙制度(小 選挙区制)は closed-list なので選挙区定数が大きくなるに従って個 人投票獲得インセンティブは減っていくが、k の選挙制度(中選挙 区制)は open-list であるため、選挙区定数が大きくなるに従って 個人投票獲得インセンティブは増えていくことを表している。 また、その図の中に日本の地方議会の選挙制度と個人投票との 関係だけをぬきだしたものが下の図 2 である。都道府県議会選挙 は小選挙区制と中(大)選挙区制という異なった選挙制度が同時 に用いられており、また中選挙区の定数も 2 から鹿児島市・鹿児 島郡区の 17(平成 23 年 3 月 30 日以降)までかなりのバラつきが ある。よって以下の図 2 で示された線を描くことになるのである。 つまり、小選挙区制と中選挙区制を同時に用いている日本の地方 議会選挙では定数 1(小選挙区制)の選挙区から定数 2(中選挙区 制)選挙区への変化は個人投票獲得インセンティブを大きく増や し、定数がそれ以上の選挙区では選挙区定数が増えるにつれて、 ゆるやかに個人投票獲得インセンティブが増えていくと理解する ことが出来る。 96 図 1 選挙制度と個人投票との関係 出典:Carey and Shugart(1995), p431 の図を修正 図 2 地方議会選挙における選挙制度と個人投票の関係 出典:Carey and Shugart(1995), p431 の図を参考に筆者作成 これらの図による説明は選挙制度と政党からの統制の強さの関 係といいかえることが出来る。その理由は既に述べているように、 個人投票を多く獲得している議員は政党から自律的であるし、個 人投票をあまり獲得できていないならその議員は政党から自律的 97 でなくなるだろうからである。 上で述べた Hix(2004)と Carey(2007)もおおよそこのようなメカ ニズムを想定して、仮説を導き実証した。そのことを考慮に入れ れば、本事例でも首長野党の議員は選出される定数が小さくなれ ばなるほど、政党からの統制が効いて首長提出法案に反対するこ とが予想されるだろう。 しかし、首長からの統制も考慮に入れると、首長野党の議員が 統制を受ける対象が首長になる可能性がある。なぜなら、首長の 人気が高いと次回の選挙で議員は首長のコートテールに乗ること で再選可能となるからである。そうであるなら、議員の行動を説 明する際に、首長と所属する政党からの両方の統制を考慮に入れ る必要があることになるのだが、どちらの統制を受けるかはその 議員の選挙区定数や首長の強さの程度によって変わってくるだろ う。 そのことを示したものが下の図 3 である。 横軸は選挙区定数で、 縦軸は首長野党議員が首長派に入る(首長提出法案に賛成する) 可能性を表している。首長からの統制だけを考慮に入れたものを 一重線で表し、政党からの統制だけを考慮に入れたものを二重線 で表している。 図 3 選挙区定数と首長派参入可能性(首長・政党の統制から) Hix(2004)や Carey(2007)は、図 3 の二重線のように政党からだ けの統制を考えた。しかし、もし首長が改革派知事のように一般 有権者の強い支持を得ているなら、定数の小さい選挙区(特に小 選挙区)から選出されている議員は自身の再選を考え、首長の統 制を受ける可能性があることを考慮に入れる必要があるだろう。 一方で、定数が大きい選挙区から選出されている議員は個人投票 を得て当選しているので、首長からの統制を受けにくく、首長の 統制を考慮に入れる必要はない。つまり、図 3 の左側では首長か らの統制を右側では政党からの統制を考慮に入れた(首長からの 98 統制を考慮に入れない)新たな仮説のモデルが必要である。それ を表したものが下の図 4 である。 図 4 仮説の概念図 この仮説の概念図では定数が小さい選挙区と大きい選挙区選出 の議員が首長派に参入(首長提出法案に賛成)する可能性が高く なることを表している。ただ、定数:小と定数:大の議員ではそ れぞれ首長派に入るメカニズムは違っている。定数:小の議員は 個人投票を得ていないので首長からの統制を受け(コートテール に乗り)首長派に参入する(所属政党からの離反行動をする) 。一 方、定数:大の議員は個人投票を得ているので政党からも首長か らも統制を受けず、自律的に行動出来る。この時、首長は政党か らより自律的な議員を知事派に参入させやすいので、定数:大の 議員は首長派に参入する可能性が高いと考えることが出来るので ある。つまり、政党から自律的な議員は所属政党から離反する可 能性が高いということである。 この曲線の原点がどのあたりの大きさの定数になるかは、首長 の強さ次第である。弱い首長の場合、原点はより左側(定数が小 さい)に寄るだろう。一方、強い首長の場合、より右側(定数が 大きい)に寄ることが考えられる。しかし、本稿では 2 節で述べ たように大阪府議会の 1 事例しか分析することが出来ないため、 首長の強さは一定なものとしてしか扱うことが出来ない。つまり 本事例で扱う橋下知事の強さがどの程度なのか(原点がどこに来 るのか)といった仮説を前もって提示することは出来ない。 今までの議論をまとめた仮説は以下のようになる。 仮説: 「選出された選挙区の定数が小さい議員と大きい首長野党議 員ほど首長提出法案に賛成する曲線回帰を導くことが出来る」 3-2. 代替仮説 これまで本稿の仮説を述べてきたが、首長提出法案に対して賛 成するか反対するかを決定する要因として選挙区定数以外にも重 要な変数があるだろう。つまり政党からの統制の程度は選挙区定 99 数のみによって決まらない。議員の当選回数や年齢、前回の選挙 での強さによってもそのことは変わってくるだろう。 当選回数が少ない議員ほど、年齢が低い議員ほど、前回選挙で 弱かった議員ほど、政党や首長から自律的でなくなると考えられ る。しかし、政党と首長どちらの統制を受けるかあるいは首長提 出法案に対して賛成するか反対するかは前もって予想することが 出来ない。ただ、これらの変数が本稿の従属変数にとって重要な 変数であることは多くの先行研究から明らかであるので、やや変 則的ではあるが以下 3 つの代替仮説を提示する。 代替仮説 1:「首長野党議員の当選回数が首長提出法案の賛否行動 に対して説明力を持つ」 代替仮説 2:「首長野党議員の年齢が首長提出法案の賛否行動に対 して説明力を持つ」 代替仮説 3:「首長野党議員の前回選挙での強さが首長提出法案の 賛否行動に説明力を持つ」 4. 分析枠組み 本節では本稿の分析枠組みを提示する。具体的には扱う事例・ 使用するデータについて述べる。さらに変数の操作化と分析手法 を示し、分析モデルの回帰式と使用する変数の記述統計を示す。 4-1. 扱う事例・使用するデータ 扱う事例に関しては 2 節で述べた通り、大阪府議会 2009 年 9 月 定例会における 2 つの首長提出法案を扱う。大阪府議会における 各議員のデータは、大阪府選挙管理委員会・大阪府議会の各ホー ムページからデータを得た。27 また当時の会派のデータに関して は大阪府議会の議会課の職員から直接データを提供して頂いたも のを使用する。 具体的には、各議員の年齢・前回選挙の得票数・選挙区・選挙 区定数・当選回数・選挙区有権者数・選挙区有効投票数などは大 阪府選挙管理委員会ホームページからデータを取得し、各議員の 2 つの首長提出法案に対する賛否行動や当時の所属会派などは大阪 府議会ホームページと大阪府議会の議会課職員からデータを取得 した。これらのデータを基に筆者が大阪府議会議員 112 人分のデ ータベースを作成した。28 本稿は、分割政府下における首長野党議員の行動を分析対象と するため、これらの 112 人から、首長与党会派である「自民党・ 維新の会」会派所属議員 6 人を分析から除外する。既に述べてい る通り、 「自民党・維新の会」会派は、2009 年 3 月の知事提出法 案である「WTC 府庁移転案」を契機にして自民・公明と対立し、 同年 4 月 24 日に自民党会派から橋下支持を鮮明にして結成されて おり、事実上、首長与党会派であるとみなす。よって本稿では 106 人の首長野党議員を分析することになる。 100 4-2. 変数の操作化と分析手法 ●従属変数 ・WTC 府庁移転案賛否ダミー・平成 21 年度大阪府一般会計補正 予算案賛否ダミー 本稿が分析する首長提出法案 2 つそれぞれの賛否を表す変数で ある。それぞれ法案に対する賛成を「1」、反対を「0」とコードす る。 ●独立変数 ・選挙区定数(2 乗) 本稿の主たる関心のある独立変数である。3 節で提示した本稿の 仮説では選挙区定数と従属変数の関係を曲線で想定している。従 属変数は選挙区定数の 2 次関数であると想定しているので、選挙 区定数を 2 乗した変数を作成した。 ・選挙区定数(ログ) この変数は 3 節の整理した Hix(2004)や Carey(2007)など、これ までの先行研究で実証されてきた議員の行動を所属政党による統 制で考えた選挙区定数と従属変数との関係を線形の関係で捉えた ものである。本稿ではこれらの関係を完全な線形と捉えず、図 2 でみたように小選挙区と中選挙区で大きな違いがあるとみなすの で、選挙区定数の対数との関係で捉える。それは選挙区定数 1 と 選挙区定数 2 では選挙制度が変わるので大きな統制の違いがある が、選挙区定数 6 と 7 ではそれほど統制の違いがないと考えるか らである。したがって選挙区定数の対数をとった変数を作成した。 ・選挙区定数(定数 1 ダミー) この変数は単純に小選挙区制か中選挙区制かを表す変数である。 選挙区定数 1 とそれ以外の選挙区定数では小選挙区制と中選挙区 制と選挙制度が違っており、小選挙区選出の議員は首長のコート テールに乗り、中選挙区選出の議員は首長のコートテールに乗ら ないと想定するために作成した。小選挙区制を「1」、中選挙区制 を「0」とコードした。 ●統制変数 ・年齢 この変数は単純に議員の年齢を表したものである。この変数が 2 つの従属変数においてどのような影響を与えるか明確な仮説はな いが、年齢の違いは政党からの統制や政策選好に違いを生むだろ うと考えそれを統制するためにモデルに投入する。 ・当選回数 この変数も単純に議員の当選回数を表したものである。この変 数も年齢変数同様、2 つの従属変数においてどのような影響を与え るか明確な仮説はないが、当選回数の違いは政党からの統制に大 きな違いを生むだろうと考え、そのことを統制するためにモデル に投入する。 ・得票マージン変数 この変数は議員の前回選挙での強さを表したものである。この 変数は各議員の選挙区におけるドループ・クオータ Q(=1/(1+ 選挙区定数))を計算し、各議員の前回選挙での絶対得票率からそ 101 のドループ・クオータを引き、その値をさらにドループ・クオー タで割った値である(得票マージン = (絶対得票率 - Q) / Q) 。29 前回選挙で強い議員ほど政党からの統制が効かないという想定で 投入するが、選挙において政党投票によって多くの得票を得てい るという意識が働く可能性もあり、予めどのような影響を与える か明確な仮説はないが、前回選挙での強さは政党からの統制に違 いを生むだろうと考えられるので、そのことを統制するためにモ デルに投入する。なお、無選挙で当選した議員は平均値を投入し た。 ・会派ダミー この変数は会派の違いによって従属変数に与える影響は異なる だろうという予測から自民ダミー・民主ダミー・公明ダミー・そ の他ダミーを作成した。しかし、本稿の分析では選挙区定数と会 派に直接関係があるので、これらの変数は分析では用いていない。 下の会派と選挙区定数のクロス表分析を行った下の表 2 をみてみ ると、会派と選挙区定数に一定の関係がみられることがわかる。 例えば、公明党は選挙区定数 1 の選挙区からは出馬しない傾向が みられるし、共産党は選挙区定数の多い選挙区から出馬する傾向 があるなどである。 もしこれらの変数を投入してしまうと、本来観察したい選挙区 定数の効果が適切に見られなくなる可能性があるので分析に用い ないことにした。また、2 節表 1 でみたように本稿の分析で用いる 従属変数は議員の所属会派によって説明できるとは言えず、これ らの変数を除外しても問題は大きくないと考えた。 102 表 2 議員の所属会派と選出選挙区定数のクロス表 選挙区定数 1 会派 フロンティア大 阪狭山 共産 公明 自民 社民 府民ネット大阪 豊中ネット 民主・無所属ネ ット 1 0.3 1 3.0 0 6.9 23 13.0 0 0.3 2 0.9 0 0.3 5 7.2 度数 期待度数 度数 期待度数 度数 期待度数 度数 期待度数 度数 期待度数 度数 期待度数 度数 期待度数 度数 期待度数 合計 度数 期待度数 Pearson のカイ 2 乗値:49.734 2 0 0.4 2 3.6 13 8.2 12 15.4 0 0.4 1 1.1 0 0.4 10 8.6 3 4 5 7 0 0.1 1 0.8 3 2.0 3 3.7 0 0.1 0 0.3 0 0.1 2 2.0 0 0.1 2 0.6 2 1.3 0 2.4 0 0.1 0 0.2 0 0.1 2 1.4 0 0.1 3 1.4 3 3.3 3 6.1 1 0.1 0 0.4 1 0.1 4 3.4 0 0.1 1 0.6 2 1.3 2 2.4 0 0.1 0 0.2 0 0.1 1 1.4 1 1 10 10 23 23 43 43 1 1 3 3 1 1 24 24 6 6 15 15 6 6 106 106 32 38 9 32 38 9 有意確率(両面):0.051 合計 4-3. モデルの回帰式と記述統計 本稿の分析に用いる従属変数はダミー変数であるので上で示し た独立変数で説明力を推定するロジスティック回帰分析を行う。 モデルの回帰式と分析に使用する変数の記述統計を以下にしめす。 = β₀ + β₁x₁ + β₂x₂ + β₃x₃ + β₄x₄ + e β₀:定数 x₁:選挙区変数 x₂:年齢 x₃:当選回数 x₄:得票マージン e:誤差 表 3 統制変数の記述統計 度数 年齢 当選回数 得票マージン 106 106 106 最小値 34 1 -0.70 最大値 76 10 -0.28 平均値 54.16 3.05 -0.53 標準偏差 9.73 1.98 0.08 表 4 独立変数の記述統計 選挙区定数 1 2 3 4 5 6 7 合計 32 38 9 6 15 0 6 106 度数 5. 分析結果 4 節で示したロジスティック回帰モデル式によって分析した結 果が以下の表 5 と表 6 である。表 5 は従属変数を WTC 府庁移転 103 案賛否ダミーにしたもの、表 6 は従属変数を一般会計補正予算案 賛否ダミーにしたものである。またそれぞれ、選挙区定数をもと にした独立変数として選挙区定数 2 乗・定数 1 ダミー・ログ定数、 3 つの変数を使用した 3 つの分析を 1 つの表にまとめている。 表 5 WTC 府庁移転案に対する首長野党議員の賛否推定 定数 2 乗モデル 定数 1 ダミーモデル ログ定数モデル 年齢 当選回数 定数 2 乗 選挙区定数 定数 1 ダミー ログ定数 得票マージン Constant B -0.113 0.015 0.087 -0.087 -----0.015 7.028 有意確率 0.001 0.926 0.254 0.119 ----0.629 0.004 Nagelkerke R2 乗:0.302(p<0.001) モデルの的中率:69.8% N=106 B -0.113 -0.022 ----0.964 ---0.002 5.713 有意確率 0.001 0.890 ----0.064 --0.943 0.010 0.288(p<0.001) 70.8% B -0.117 -0.001 -------1.846 -0.011 7.151 有意確率 0.001 0.995 ------0.036 0.718 0.002 0.299(p<0.001) 71.7% 表 6 一般会計補正予算案に対する首長野党議員の賛否推定 定数 2 乗モデル 定数 1 ダミーモデル ログ定数モデル 年齢 当選回数 定数 2 乗 選挙区定数 定数 1 ダミー ログ定数 得票マージン constant B -0.098 0.063 0.097 -0.976 ----0.371 6.314 有意確率 0.004 0.677 0.185 0.072 ----0.902 0.006 Nagelkerke R2 乗:0.234(p<0.001) モデルの的中率:66.7% N=105(議長を除く) B -0.097 0.050 ----1.111 --0.008 4.582 有意確率 0.003 0.742 ----0.028 --0.795 0.033 0.217(p<0.001) 68.6% B -0.101 0.077 -------2.037 -0.001 6.126 有意確率 0.003 0.609 ------0.015 0.968 0.007 0.230(p<0.001) 67.6% 表 5 と表 6 は従属変数が違うが、WTC 府庁移転案と一般会計予 算案は 2 節で述べたように密接に関連しており、ほぼ同じような 結果になった。そこで表 5 と表 6 の分析結果を並立的に解釈して いく。 まず、本稿の主たる関心のある変数であるそれぞれ 3 つの選挙 区変数のうち定数 1 ダミー変数とログ定数変数を投入したモデル の選挙区変数の効果をみたい。どちらの従属変数でも、定数 1 ダ ミー変数とログ定数変数はそれぞれプラス、マイナスの方向に統 計的に有意な係数が推定された。これは定数 1 ダミーモデルにお 104 いては、選出選挙区の定数が 2 以上の議員と比べて定数 1 の議員 の方が首長提出法案(WTC 府庁移転案・一般会計予算案)に賛成 する傾向があるということである。ログ定数モデルでは定数 1 の 議員から定数 7 の議員にかけて対数曲線系に首長提出法案に対し て反対する可能性が高まる傾向がみられるということである。そ して最後に選挙区変数の中でも、最も本稿が関心の変数である、 選挙区定数 2 乗変数は、表 5・表 6 どちらの従属変数も統計的に有 意な結果とはならなかった。 しかし、3 つそれぞれのモデルにおける Nagelkerke R2 乗値を 比較すると、どちらの従属変数においても選挙区定数 2 乗モデル が一番高く、このモデルが他のモデルに比べて一番説明力をもっ ている。30 またモデルの的中率をみると、選挙区定数 2 乗モデル が一番低いが、他の 2 つのモデルと比較して大きな差はなく、こ のことから選挙区定数 2 乗変数が直ちに意味のないものと評価す ることは出来ない。31 そこで、一般会計補正予算案賛否ダミーを従属変数にとったロ グ定数モデルと選挙区定数 2 乗モデルの post-estimation の比較を 行った。32 その結果が下の図 5 と図 6 である。図中の LL と UL はそれぞれ推移確率の 95%信頼区間の下限と上限を表している。 一般会計補正予算案に対する首長 野党議員の賛成確率 図 5 選挙区定数が一般会計予算案に対する首長野党議員の賛成確率に与える影響 (LOG 定数モデル) 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 1 2 3 4 5 選挙区定数 推定確率 LL (95CI) 105 UL (95CI) 6 7 一般会計補正予算案に対する首長野 党議員の賛成確率 図 6 選挙区定数が一般会計予算案に対する首長野党議員の賛成確率に与える影響 (定数 2 乗モデル) 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 1 2 3 4 5 6 7 選挙区定数 推定確率 LL (95CI) UL (95CI) 平均値 年齢:54.16 歳、当選回数:3.05 回、得票マージン:-0.53 図 5 のログ定数モデルにおいては定数 1 の 95%信頼区間の下限 と定数 7 の 95%信頼区間の上限が交差しておらず、ロジスティッ ク回帰分析の結果通りにやはり定数 1 と定数 7 との間には統計的 に有意な差があったことが確認できる。一方、ロジスティック回 帰分析では統計的に有意な係数が推定されなかった選挙区定数 2 乗変数を投入したモデルである図 6 では、予想した通りに 2 次関 数の曲線を描いていることがわかる。しかし、ここでは定数 1 と 原点である定数 5、原点である定数 5 と定数 7 との間に統計的に有 意な差があるかどうかが重要になる。それぞれの 95%信頼区間を みてみると定数 1 と定数 5 の間には統計的に有意な差があるが、 定数 5 と 7 の間には統計的に有意な差はみられないことがわかっ た。 定数 5 と 7 の間に統計的に有意な差がみられなかった理由は表 5 でみたように定数 5 以上のケースの少なさが一つの原因であると 推論することが出来る。ログ定数モデルでも選挙区定数 2 乗モデ ルでも定数が上がるにつれて首長提出法案に対して反対する確率 が減っていく点では同様であるが、選挙区定数 2 乗モデルではあ る点からその確率が高まるという点でログ定数モデルと違ってい る。しかし、本稿で扱ったこのサンプルではケース数が不足して いることからその点の違いを明らかにすることが出来なかったの であろう。しかし、統計的に有意な差はみられなかったが、経験 的なデータから得られた結果として 2 次曲線の原点が定数 7 より 106 手前にきていることは、首長提出法案の賛成確率を説明する際に 選挙区定数 2 乗変数が有力な変数である可能性を残したというこ とができるだろう。 最後にその他の変数であるコントロール変数の結果をみておき たい。まずは年齢変数である。この変数は 2 つの従属変数のどの モデルにおいても統計的に有意なマイナスの係数が推定された。 これは年齢が高い人ほど、2 つの首長提出法案に反対する可能性が 高いということである。年齢が高い人ほど首長からの統制を受け なかったと解釈すれば、それと整合的な結果であるが、政党から の統制も考慮に入れて考えるとやや解釈が難しくなる。単に従属 変数である法案の性質による可能性もあるだろう。府庁を移転す るといったやや革新的な法案に対して若い議員が賛成し、年配の 議員が反対したといった解釈も可能だからである。 次は当選回数変数である。この変数は 2 つの従属変数のどのモ デルにおいても統計的に有意な係数が推定されなかった。これは やや意外な結果であったが、議員は自身の当選回数によって次の 選挙での当選可能性を認識するのではなく、やはり選挙区定数の 違いが再選可能性に影響を与えていると解釈すればむしろ本稿の 仮説通りであろう。すなわち有力な代替仮説が反証されたという ことが出来る。 最後は得票マージン変数である。この変数も 2 つの従属変数の どのモデルにおいても統計的に有意な係数が推定されなかった。 この変数は前回選挙での強さを表すものであったのでこれも意外 な結果であった。これもやはり議員が自身の前回の選挙の強さを 再選可能性の材料として認識しておらず、むしろ選挙区定数が再 選可能性の認識に大きな影響をもっていたと解釈すれば、それは 本稿の有力な代替仮説が反証されたことになる。また、得票マー ジンの高さは、自身に再選可能性が確実であると認識していない 議員ほど、むしろ集票活動を積極的に行う結果であると解釈する ことが出来る。西澤(2012)は、地方議会議員は若い議員ほど得票数 を多く獲得していることを実証しており、その結果と整合的な結 果ともいうことが出来る。 以上の結果をまとめると、仮説にあげた選挙区変数の効果はお およそ確認できたということができるだろう。特に定数 1 の選挙 区から選出されている議員とそれ以外の選挙区から選出されてい る議員行動の違いは、どの選挙区変数を投入したモデルでも確認 できた。すなわち、定数 1 の選挙区選出の議員は他の議員に比べ て首長提出法案に賛成する可能性が高いことが統計的に示された。 定数 1 の選挙区選出の議員が、より首長の統制を強く受けている と考えることが出来る。これは政党の統制だけを考慮に入れてい た先行研究が明らかにしてこなかった点である。しかし、定数が 大きい選挙区から選出されている議員の議決行動はケース不足の ため統計的には明らかに出来なかった。つまり、選挙区定数 2 乗 モデルは部分的な確認に留まった。3 つのコントロール変数につい ては、年齢が高いほど 2 つの首長提出法案に反対する確率が高ま ることが確認でき、当選回数と得票マージンについては統計的に 有意な効果は確認できなかったが、それはむしろ本稿の選挙区変 107 数仮説の効果を裏付けるものであった。 6. おわりに 本稿では、二元代表制をとる日本の地方政府において出現する 可能性のある分割政府状態が政府のパフォーマンスにどういう影 響があるのか、すなわち分割政府状態はデッドロックに陥りやす いのかどうかという大きなクエスチョンを解き明かすために、議 員が受ける首長と政党の統制の観点から分析を行った。このよう な大きな問いに答えるために、本稿では分割政府であった 2009 年 大阪府議会における首長提出法案に対する首長野党議員の行動を 分析した。 本稿ではその時、議員に対する政党の統制と首長の統制の両方 の観点から仮説を導き出し、計量分析を行った。その仮説は部分 的に実証することが出来た。つまり定数が小さい議員に対して首 長の統制が効いていることはわかったが、大きい議員が首長提出 法案に賛成している傾向は統計的に有意な結果として表れなかっ た。それは、定数が大きい議員のケースが非常に少なかったこと が大きな理由として予想され、このサンプルから定数の大きな議 員の行動がどうなっているかはわからないということであろう。 選挙区定数以外の変数の分析結果をみると年齢が非常に大きな 説明力を持っていることや、前回選挙での強さはほとんど首長提 出法案の賛否行動に対して説明力を持たないことがわかった。こ のことは興味深い結果であった。特に前回選挙での強さの程度は 政党からの統制という意味において選挙区定数と同じ意味をあら わすが、前者はまったく効果がなかったのである。つまり、議員 は前回の選挙での強さ(獲得得票)を自分の強さとして認識して いないのであろう。 ここで本稿の最初の大きなクエスチョンである地方政府の分割 政府状態における立法パフォーマンスはどうなっているかについ て、戻ってみたい。本稿の分析結果からどのような答えを導ける のかを確認しておく。本稿の分析結果からは定数の小さい選挙区 から選出されている議員は首長提出法案に賛成する可能性が高い ということがわかったが、日本の地方議会選挙の選挙区定数の構 成は 47 都道府県ごとに異なっている。また、本稿の 1 事例の分析 ではこのことは強く主張できないが、選挙区定数の効果は首長の 強さによっても変わってくる。つまり、一番分割政府が問題とな らない例は首長が強く定数が比較的小さい選挙区の多い議会であ る。一方で分割政府が一番問題となる、つまりデッドロックに陥 りやすい例は首長が弱く、定数が比較的小さい選挙区の多い議会 であるということが出来るだろう。 このようにいくつか興味深い結果を導きだすことが出来たが、 本稿の分析には課題も残っている。一番大きな課題は、本稿の分 析が 1 事例であったことである。データの制約上、他事例を分析 することが出来なかったので多くの変数を定数として扱わざるを 得なかった。重要なものでそれらを挙げると首長の強さ・法案の 性質・議会会派の構成などである。これらの課題は今後、地方議 会が記名投票行ったデータが増えていけば分析可能となり解決さ 108 れるだろう。 また、本稿の仮説にとって重要な変数であった選挙区定数が綺 麗にバラついておらず、定数が小さいところに偏っていたことも 大きな問題であった。そのことによって定数の大きい選挙区選出 議員の行動を特定することが出来なかった。また、選挙区定数と 出馬している政党との影響も強かったため会派の影響をうまくコ ントロールできたとは言えないだろう。 これらの問題は分析事例を 1 つでも多く増やしていくことによ って解決される問題であるが、筆者がまだ気づいていない重要な 変数無視の可能性・分析手法の未熟さなどの問題も残っているだ ろう。これらの課題を分析事例の増加や理論・分析手法の精緻化 によってクリアしていくことが、地方議会研究や比較政治のさら なる発展の寄与に必要であろう。 注 (1) 他に辻(2002, 2006)や馬渡剛(2010)などがある。 (2) 個人投票とは「選挙の際に候補者が特定の宗教や階級・民族・ 経済状況などから得られる票ではなく、候補者個人の活動や 資質などに由来する票」(Cain, Ferejohn and Fiorina 1987 p.9 筆者訳)のことである。 3 ( ) 政党投票とは「政党の政策内容や有権者の支持政党など、政 党を基準に投じられた票」(建林・曽我・待鳥 2008 p.88)の ことである。 (4) 本稿では首長を支持する議会での会派を首長与党、それ以外 の会派を首長野党と呼ぶ。 (5) 『朝日新聞』2008 年 1 月 28 日 朝刊 (6) 『朝日新聞』2010 年 1 月 31 日 朝刊 (7) 『朝日新聞』2008 年 8 月 5 日 朝刊 (8) 『朝日新聞』2004 年 2 月 12 日 夕刊 (9) 『朝日新聞』2008 年 8 月 3 日 朝刊 (10) 『朝日新聞』2006 年 5 月 13 日 朝刊 (11) 『朝日新聞』2009 年 2 月 10 日 夕刊 (12) 『朝日新聞』2009 年 2 月 10 日 朝刊 (13) 『朝日新聞』2009 年 2 月 6 日 朝刊、『朝日新聞』2009 年 3 月 23 日 朝刊 (14) 『朝日新聞』2009 年 3 月 20 日 朝刊、『朝日新聞』2009 年 3 月 23 日 夕刊 (15) 地方自治法第 4 条第 3 項 (16) 『朝日新聞』2009 年 2 月 6 日 朝刊 (17) 『朝日新聞』2009 年 3 月 24 日 夕刊 (18) 『朝日新聞』2009 年 4 月 25 日 朝刊 (19) 一般的に、地方政府が分割政府になっているかどうかは知事 が選挙の際に、議会多数派の公認・推薦を受けているかどう かを基準としている。本稿の事例でもその基準に従って、橋 下知事の当選当時は統一政府であったとみなしている。しか 109 し、この 3 月の知事提出法案否決とその後の自民党・維新の 会会派が出来た過程からわかるように、この時点をもって当 時の大阪府議会は分割政府になったとみなす。 20 ( ) 『朝日新聞』2009 年 7 月 24 日 朝刊 (21) 『朝日新聞』2009 年 8 月 20 日 朝刊 (22) 『朝日新聞』2009 年 9 月 16 日 朝刊、『朝日新聞』2009 年 9 月 26 日 朝刊 23 ( ) 『朝日新聞』2009 年 10 月 27 日 夕刊 (24) 『朝日新聞』2009 年 10 月 28 日 朝刊 (25) 秋葉賢也(2001)・馬渡剛(2010) (26) Carey and Shugart(1995)は a を相対多数の小選挙区制、b を絶対多数の小選挙区制とし、日本の小選挙区制を a の選挙 制度に分類している。また、k・l・m の選挙制度を中選挙区 制としているが、立候補者の公認を有権者や予備選でなく政 党が行っている中選挙区制を k の選挙制度としており、日本 の中選挙区制を k の選挙制度に分類している。 (27) 大阪府議会 HP(http://www.pref.osaka.jp/gikai_giji/toppag e/index.html), 大阪府選挙管理委員会 HP(http://www.pref.o saka.jp/senkan/) (28) 初田豊三郎の辞職によって行われた枚方市選挙区補欠選挙 で選出された出来成元は、補欠選挙のため定数 1 で選出され ているが、ここでは枚方市選挙区の定数 5 として扱った。本 稿ではこれまで論じてきたように議員の再選欲求を仮定とし ており、 次回の選挙は定数 5 の本選挙で行われるからである。 29 ( ) この変数の作成にあたっては建林(2012)を参考にした。 (30) ロジスティック回帰分析では本来、R2 乗値は計算できない が、擬似的に R2 乗値を算出したものである。 (31) これはロジスティック回帰分析により推定された各議員の 従属変数が 1 を取る可能性と実際に従属変数が 1 になったか どうかの割合である。 (32) post-estimation は関心のある変数以外の変数を平均値など のある値に固定して、関心のある変数を変化させていったと きの従属変数が 1 を取る可能性をシミュレーションするもの である。ここでは選挙区定数 2 乗変数以外の変数を平均値に 固定し、選挙区定数 2 乗変数を変化させたときの従属変数が 1 を取る可能性の変化をシミュレーションした。 <参考文献> ・秋葉賢也 2001.『地方議会における議員立法』文芸社. ・品田裕 2012.「都道府県議会議員の支持基盤」 『レヴァイアサ ン』51:10-32. ・砂原庸介 2011.『地方政府の民主主義』有斐閣. ・砂原庸介 2012.「マルチレベル選挙の中の都道府県議会議員」 『レヴァイアサン』51:93-113. ・砂原庸介 2012.『大阪―大都市は国家を超えるか』中公新書. 110 ・曽我謙吾 2011.「都道府県議会における政党システム―選挙制 度と執政制度による説明」日本政治学会編『政権交代期の「選 挙区政治」』 (年報政治学 2011-Ⅱ)木鐸社, pp.122-146. ・曽我謙吾 2012.「政党・会派・知事与野党-地方議員における 組織化の諸相-」『レヴァイアサン』51:114-135. ・曽我謙悟・待鳥聡史 2008.『日本の地方政治――二元代表制政 府の政策選択』名古屋大学出版会. ・曽我謙悟・待鳥聡史 2008.「政党再編期以降における地方政治 の変動――知事類型と会派議席率にみる緩やかな二大政党化」 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実証的に検討していく。 2. 政治関心について 具体的な分析を進める前に、政治関心が選挙ごとに実際に「変 化」しているのかを確認する。 113 上の図は、2003 年と 2005 年の衆議院議員選挙の世論調査を用 いて、個人の政治関心の変化を度数分布にしたものである。図の 見方は、真ん中の.00 が「変化していない人」の層を表している。 そして、一番左-1 が「最も政治関心が低下した」層で、一番右 1 が「最も政治関心が高まった」層を指している。 図 1 を見ると、「変化していない」層が最も多いが、2003 年か ら 2005 年にかけて個人の政治関心には変化があることが確認でき る。また、政治関心の変化は低下・増加どちらか一方に偏ってい るわけではなく、プラスとマイナスのどちらにもバラツキが見ら れる。これらのことから、 「政治関心」は選挙ごとに「変化」して いることが分かった。では、政治関心の選挙ごとの変化は何によ って影響されているのであろうか。以下、検討を進めていく。 政治関心に影響を与える変数を分析した日本での研究として、 三宅ら(1967)が京都府宇治市で 6 回に渡って有権者にパネル調査 をしたものがある。三宅ら(1967)は「選挙への関心度は、一般 的な認知的要因レベルを構成する下位レベルのうちでも、認知的 なものより行動志向的なものに関心が深いと仮定できる。」 (『異な るレベルの選挙における投票行動の研究』三宅 1967 p,328)とし、 一般的な認知要因として「政党イメージ量」「政治的有効性感覚」 「投票義務感」 「保守性向」を立て、四要因とも高い関係があるこ とを示した。また、デモグラフィックな要因である性別、学歴、 職業も選挙への政治関心度と関係があることを分析している。 この研究から推測できることは、 「政治関心」は「政治参加」に 影響を与える要因と関係が深いということである。蒲島(1989) 114 は、「政治参加」に影響を与える要因として「投票義務感」「政治 的的有効性感覚」などを挙げている。つまり、 「政治関心」に影響 を与える要因を考えることで、 「政治参加」を促す要因を考えるこ とにもつながると考えられる。 3. 仮説 ここまでの内容を踏まえた上で、政治関心に影響を与える変数 を検討していく。以下に二つの仮説を立てる。 仮説(1) 対人的政治環境仮説 政治的な会話を他人とよく話す人は、政治への関心も高まる。 また、政治的な会話を話す相手が多くなるほど、政治関心の変化 にも影響を与えやすくなるのである。 池田(1997)は、世論調査データを用いて、政治関心に対してでは ないが、投票参加に対する、対人的情報環境について分析を行っ ている。それによると、対人的情報環境の中にいる有権者は投票 参加を行う際に情報環境に影響されやすくなると指摘している。 つまり、政治についての会話を行うような環境にいることで、周 りの人と同じような行動パターンを示すようになるのだと言える だろう。本稿では有権者の環境の全てを考慮するのではなく「政 治的な会話をする身近な人の有無」に焦点を当てて分析をする。 池田の議論を応用すると、普段から政治の話題を好む人と会話を することによって、回答者の政治への関心そのものが身近な人の 政治への態度や反応によって影響されてくると考えられる。つま り、回答者があまり政治に対して関心が低かったとしても、身近 な人と政治的な会話を重ねることで、政治への関心が高まってい くのである。その変化は、身近に政治的な会話をする人数が多く なればなるほど現れてくると仮定する。 しかし、対人的政治情報環境と政治関心は逆の関係も想定され る。つまり、政治関心が高いから、他人と政治的な会話を行うと いうことである。本稿では、政治関心は会話をする相手に影響さ れると仮定する。たとえ自分がそれほど政治へ関心が無かったと しても、自分の親しい人間の政治への関心が高ければ会話する中 で政治関心に変化がみられるとする。 仮説(2) 政治的義務感仮説 政治的義務感が高まった有権者ほど、同様に政治関心も高くな る。 政治的義務感は、投票参加を促す要因として多くの先行研究が ある。例えば、W・ライカー&P・オーデシュックら(1968)は、 ダウンズの概念を発展させ、政治的義務感が高ければ人は投票参 加を行うというモデルを提唱した。1 また、日本では、蒲島が投 票参加に影響を与える要因として、コスト感覚の次に大きいのは 投票義務感だという分析結果を示している(蒲島、1989)。このよ うに、政治的義務感は投票を行う上で、有権者の心理に影響を与 える要因だとして議論されてきた。 しかし本稿では、政治的義務感が投票参加だけでなく、政治関 115 心にも影響を与える変数として考える。政治的義務感を感じてい る有権者であれば、政治の責任は政治家だけでなくその政治家を 選んだ自分たちにもあると考える有権者が多いだろう。そのため、 投票権を「権利」だとは捉えずに「義務」だと捉えるのであると 思う。そして、義務感を感じている有権者は一票を行使する際、 「日 本の政治を任せる政治家」を選ぶために日本の現状や政治家の功 績などあらゆる情報を検討する。 「投票しなければならない」と思 う認識を持つことによって、普段から社会や政治について政治へ の関心が高まるのだと考えられる。 <モデル図> 政治関心 対人的政治環 境仮説 政治的義務感 仮説 4. 分析枠組み 4-1. 使用するデータ 前節の仮説を検証するために、本稿では JESⅢを使用する。2 JESⅢは 2001 年の参議院選挙から 2005 年の衆議院選挙に渡って 世論調査が行われたパネル調査である。本分析では 2003 年と 2005 年の衆議院議員の事前と事後の調査を使用する。パネル調査は、 同一の回答者に調査をするため、有権者の意識の変化を連続的に 見ることが可能である。 4-2. 作業定義 仮説を検証するに当たって、作業定義を以下に示す。 <独立変数> 仮説(1) 対人的政治環境仮説 2003 年、2005 年分も「あなたと話していて「日本の首相や政治 家や選挙のことが話題になる人で 20 歳以上の方」を思いうかべて ください。何かのついでという場合でもかまいません。話し相手 の方についてお尋ねします。」という質問とその回答を用いる。こ の質問は最大四人まで回答可能であり、いる場合は 1、いない場合 は 0 にコード化した。最後に一人から四人まで聞いた回答を合計 した。よって回答パターンは「会話をする人がいない」から「会 話をする人が四人いる」まで、5 パターン作成したことになる。わ からない・答えないは欠損値として除外した。 116 仮説(2) 政治的義務感仮説 政治的義務感に関する質問文として、 「投票に行くことについて、 この中からあなたのお気持ちに最も近いものを 1 つあげてくださ い。」とその回答を使用した。政治的義務感を感じるという回答を 1、どちらでもないという回答を 0.5、権利であるという回答を 0、 と再コードした。わからない・答えないは欠損値として除外した。 <従属変数> 政治関心 政治関心の指標は選挙のあるなしに関わらない普段からの政治 への関心を問うた質問文を使用する。有権者は答えない、分から ないも含めて 6 段階から回答している。関心があるを 1、関心がな いを 0 として、0.33 刻みでコード化を行った。なお、答えない・ 分からないは欠損値として分析から除外した。 <統制変数> ・性別 男性 1 女性 0 4-3. 分析手法 政治関心の変化が何によって影響されるのかということを確認 するために、独立変数同士の影響を考慮することができる重回帰 分析を用いる。 従属変数と独立変数ともに「変化」を見るために、2005 年の回 答から 2003 年の回答を引き、その差を変数として扱う。例えば、 「2005 年の政治関心と 2003 年の政治関心の変化=2005 年の政治 関心-2003 年の政治関心」と計算した。単純に 2005 年と 2003 年の数字を比較するのではなくて差を求めることによって個人の 変化を確認することができると考えた。 5. 分析結果 前節で示した分析枠組みで分析をした結果、表 1 のような結果 が得られた。 対人的政治環境仮説 政治的義務感仮説 性別 出所:JESⅢ 表 1 政治関心への重回帰分析 B値 ベータ .019 .096 .029 .037 .013 .025 危険率 .001 .220 .406 調整済み R2 乗:.009 それでは、表 1 から得られた結果を考察していきたい。まず、 それぞれの仮説の危険率を確認する。 「対人的政治環境仮説」の場合、危険率が.001 であり 1%以下 の水準で統計的に有意であると言える結果になった。一方「政治 的義務感仮説」の場合は危険率が.220 と高く、統計的に有意な結 果を得ることができなかった。本分析では、統制変数も含め、政 117 治関心の変化に影響を与える変数は、身近に政治についての会話 をする環境が整っている場合のみであった。 次に、危険率が低く有意な結果となった「対人的政治環境仮説」 の偏回帰係数(B 値)を見ていく。B 値とは、ある説明変数の値が 1 変化したとき、従属変数の予測値にどれだけ影響を与えるかを示 すものである。本分析では、すでに前節で紹介したように独立変 数と従属変数ともに、2005 年の回答から 2003 年の回答を引いて、 その「差」を「変化」した指標として当てている。調査の時期が 異なる回答を引くことで、全体として変化していなくても個人の 変化を捉えることができると考えた。 「対人的政治環境仮説」のB 値を確認すると 0.019 となっている。つまり、2003 年から 2005 年にかけて政治的な会話をする人が一人増えることで、政治への 関心が 0.019 ポイント上昇するということを示している。対人的 情報仮説では危険率も低く、B 値がプラスの数値を示しているので、 「対人的環境仮説」は支持されたと言えるだろう。 しかし、なぜ投票参加にも影響を与える変数である政治的義務 感仮説は有意にならなかったのであろうか。次節で見解を述べて いきたい。 6. おわりに 本稿の分析結果を踏まえて仮説を再検討していきたい。その前 に本稿の流れを振り返っておく。本稿のリサーチクエスチョンは 「個人の政治関心は何によって影響されるのか」であり、その答 えとして二つの仮説を立てた。一つめは「対人的政治環境仮説」。 二つ目は「政治的義務感仮説」とした。 分析結果から得られたことは、政治関心の変化に影響を与えて いる可能性がある仮説は「対人的政治環境仮説」のみであるとい うことであった。対人的政治環境仮説の指標には、普段から政治 について会話する相手がいるか否かというものを定めた。本分析 からは、政治的な会話をする人が増えると政治的な関心も高まり やすいことが示された。やはり、選挙以前から政治的な意見交換 を他人と行うことで、政治への関心も高まる確率が高いと言える。 一方、もう一つの仮説である「政治的義務感仮説」は危険率が 高く有意な結果を得ることが出来なかった。その要因として考え られるのは、投票参加に対して義務感を感じている人はその感情 は政治関心を経由することなく直接に投票参加という形で現れる のではないだろうか。政治的義務感は「しなければならない」と いった消極的な感情であり、政治関心が高ければ高いほど投票参 加を「したいからしている」といったような積極的な感情が芽生 えてくるのだと思う。政治的義務感と政治関心は、それぞれ投票 参加には影響を及ぼすが、一方的には影響を与えないということ を確認することができた。二つの仮説の結果から得られたことは、 政治に対する関心の変化は、個人の内面の変化の影響よりも、対 人を通した外部の変化の影響のほうが効果があると言えるだろう。 しかし、本稿で分析の対象として選択した 2003 年と 2005 年の 選挙は小泉政治が大きな盛り上がりを見せた衆議院議員選挙であ った。特に 2005 年の選挙では投票率が大幅に上昇し、有権者の関 118 心が高い選挙であったと言える。よって、パネルデータであると は言え、特殊な政治状況と短期間の観察では本当に政治的な会話 が政治関心に影響を与えているのか断定をすることはできない。 人はどのような政治的背景やどのような心理的背景の下で投票 を行うのであろうか。また、どのような状況下で棄権を選択する のであろうか。社会が多様化し複雑化してきている現代において、 人々が政治に対して無関心でいることは避けるべき状況である。 有権者が政治に対してもっと関心が持て、日常生活の中で政治に ついて気軽に話題にできるような工夫が必要ではないだろうか。 注 (1) W.ライカー&P.オーデシュックらの議論は、蒲島(1989)を参 照した。 (2) ここで使用したデータは JESⅢである JESⅢは、平成 14~ 18 年度文部科学省研究費特別推進研究「21 世紀初頭の投票 行動の全国的・時系列的調査研究」に基づく「JESⅢ研究プ ロジェクト」 (参加者・池田謙一:東京大学教授、小林良彰: 慶應義塾大学教授、平野浩:学習院大学教授)が行った研究 結果である。それをレヴァイアサン・データバンクより同志 社大学が代表して利用申請したものを西澤由隆先生のご指導 と便宜の下、利用させていただいた。この場を借りて、それ ぞれのデータを公開・寄託され、利用できるようにしてくだ さった先生方に感謝いたします。 <補遺> JESⅢ 調査票 抜粋 ・従属変数 Q25 政治に対する関心度、Q32 政治に対する関心度 選挙のある、なしに関わらず、いつも政治に関心を持っている人 もいますし、そんなに関心を持たない人もいます。あなたは 政治上のできごとに、どれくらい注意を払っていますか。こ の中ではどれにあたりますか。 1かなり注意を払っている 2やや注意を払っている 3あまり注意を払っていない 4ほとんど注意を払っていない 5わからない 6答えない ・独立変数 対人的情報仮説 Q43 次に、あなたと話していて「日本の首相や政治家や選挙の ことが話題になる人で 20 歳以上の方」を思いうかべてくだ さい。何かのついでという場合でもかまいません。話し相手 の方についてお尋ねします。(一人から四人まで) いる・いない Q45 次に、あなたと話していて「日本の首相や政治家や選挙の 119 ことが話題になる人で 20 歳以上の方」を思いうかべてくだ さい。何かのついでという場合でもかまいません。話し相手 の方についてお尋ねします。(一人から四人まで) いる・いない 政治的義務感仮説 Q4 投票義務感 Q6〔回答票7 〕投票に行くことについて、この中からあなた のお気持ちに最も近いものを 1 つあげてください。 1 投票に行くことは有権者の義務であり、当然、選挙に行かな くてはならない 2 有権者はできるだけ選挙に参加した方がよい 3 投票に行くかどうかは有権者が決めることなので、必ずしも 選挙に参加しなくてもよい 4わからない 5答えない F1 性別 F2 生年(西暦)あなたは何年何月何日生まれですか。満でお いくつですか。 <シンタックス> *政治に対する関心度. fre d25. recode d25(1=1)(2=.67)(3=.33)(4=0) into kanshin2003. fre kanshin2003. fre j32. recode j32(1=1)(2=.67)(3=.33)(4=0) into kanshin2005. fre kanshin2005. *2005-2003. fre kanshin2003,kanshin2005. compute kanshindis=kanshin2005-kanshin2003. fre kanshindis. *政治関心の記述統計. fre d25,j32. compute kijyutu =j32-d25. fre kijyutu. MISSING VALUES j32,d25 (8,9). compute j=j32. compute d=d25. compute kanshindis2=j-d. fre kanshindis2. *政治的義務感. RECODE d4(1=1)(2=0.5)(3=0) into duty2003. fre duty2003. recode j6(1=1)(2=0.5)(3=0) into duty2005. fre duty2005. 120 compute dutydis=duty2005-duty2003. fre dutydis. *政治的義務感の記述統計. MISSING VALUES d4,j6 (8,9). compute dutydis2=j6-d4. fre dutydis2. *対人的政治情報環境. fre d43x1. recode d43x1(1=1)(2=0) into poli2003. fre poli2003. fre d43x2. recode d43x2(1=1)(2=0) into poli20032. fre poli20032. fre d43x3. recode d43x3(1=1)(2=0) into poli20033. fre poli20033. fre d43x4. recode d43x4(1=1)(2=0) into poli20034. fre poli20034. fre j53x1. recode j53x1(1=1)(2=0) into poli2005. fre poli2005. fre j53x2. recode j53x2(1=1)(2=0) into poli20052. fre poli20052. fre j53x3. recode j53x3(1=1)(2=0) into poli20053. fre poli20053. fre j53x4. recode j53x4(1=1)(2=0) into poli20054. fre poli20054 . *2005-2003. compute poligoukei2003=sum(poli2003,poli20032,poli20033,poli200 34). fre poligoukei2003. compute poligoukei2005=sum(poli2005,poli20052,poli20053,poli200 54). fre poligoukei2005. compute poligoukei3=poligoukei2005-poligoukei2003. fre poligoukei3. 121 *統制変数. fre gender. *2005-2003. REGRESSION /DEPENDENT KANSHINdis /METHOD=ENTER dutydis,poligoukei3,gender. <参考文献> ・三宅一郎 1989. 『投票行動』 東京大学出版会. ・西澤由隆 2004. 「政治参加の二重構造『関わりたくない』意 識」 『同志社法学』264 号. ・蒲島郁夫 1989. 『政治参加』 東京大学出版会. ・三宅一郎・綿貫譲治・猪口孝・蒲島郁夫 1986. 『日本人の 投票行動』 東京大学出版会. ・三宅一郎・木下富雄・間場寿一 1967. 『異なるレベルの選挙 における投票行動の研究』 創文社. ・池田謙一 1997. 『転変する政治のリアリティ:投票行動の 認知心理学』木鐸社. ・池田謙一 2007. 『政治のリアリティと社会心理:平成小泉 政治のダイナミックス』 木鐸社. ・綿貫譲治・三宅一郎 1997. 『環境変動と態度変容』 木鐸社. 122 9 どのように職業が投 票行動を規定するの か ―少数派職業と職業利益代表― 山岸 未加 1. はじめに 昨年からこのテーマで有権者の職業と投票行動の関係について 研究を進めてきたが、職業と投票行動の関係には考慮すべき変数 が多々あったにも関わらず、「自営業」「サラリーマン」といった 分け方のみで分析・考察を進めたことを反省した。そして、就職 活動を経て日本の社会情勢や企業状況を少し垣間見ることが出来、 宮野(2000) が言う「職業と党派的態度の関連を考える上では、勤 め先の規模という変数も重要な意味を持つであろう」という言葉 の意味と、 「あなた自身の利益と次の人々の利益はどの程度一致す ると思いますか」という、ある世論調査の質問に対する回答で「中 小企業で働く人々」、「中小企業の経営者」の値が高いという結果 (JES 2003 年調査)の意味も、理解できたような気がした。1 三宅(1985) が唱える「職業利益代表モデル」に関して、有権者 は自分自身の利益がどのような職業的カテゴリーの人々の利益と 一致すると考えているのかについて、その心理的変数を明らかに した先行研究がある。それが前にも少し触れた JES 2003 年調査 である。2 以下に示す表1は、職業別に見た利益の一致度の認知 に関する調査結果である。 大経営 表 1 職業別利益一致度認知に関する調査結果 中小経営 大労働 中小労働 公務員 農林漁業 農林 0.16 0.24 0.19 0.30 0.19 0.71 商工 0.17 0.41 0.21 0.44 0.21 0.30 管理 0.31 0.37 0.40 0.45 0.31 0.26 専門 0.21 0.31 0.32 0.47 0.33 0.28 事務 0.21 0.28 0.30 0.45 0.37 0.29 労務 0.17 0.26 0.24 0.40 0.21 0.27 自由 0.19 0.37 0.20 0.39 0.29 0.31 出典:三宅(1985) 上記の結果について三宅(1985)は、 「回答者の職業利益の認知は、 やはり本人(あるいは家計維持者)の職業を反映したものとなって 123 いることがわかる。ただし同時に、本人の職業にかかわらず、『中 小企業で働く人々』の利益との一致度が高く認知されていること も注目される。この値は農林水産業で二位である以外、すべての 職業グループで最も高く、日本の有権者の職業利益認知の最大公 約数が「中小企業で働く人々」であることが推測される。」と分析 している。 以上のようなことからも、三宅(1985)によって「職業利益代表 モデル」に代表される、職業と党派的態度には明確な関連がある ことは実証されているが、さらに業種とその規模にまで踏み込ん だ分析は、意義のあることだと考える。特にここでは、 「多数派業 種」と「少数派業種」という分類での比較を試みたい。 2. モデル図 「職業が投票行動を規定するのか」というリサーチクエスチョ ンを明らかにするために、何らかの職業に就いている有権者が、 自身の就業業種の影響力の大きさが多数派であるかによって、投 票行動を決定づけるかどうかということを明らかにしたい。つま り、その党が当選すれば自身の職業に利益がある政党に投票する という「職業利益代表モデル」が、その職業の就業人口によって 適用されたりされなくなったりするか、ということを調べるのが 本稿の課題で、そのメカニズムを示すのが以下のモデル図である。 多数派業種 に就業 その党の政策が自身 の職業に利益がある 勢力を持っている 政党に投票 少数派業種 に就業 投票価値を考慮し 多数派に同調 3. 仮説 ―同調・社会的制約仮説― 「自分の属する集団と一つの『まとまり意識』を維持していた いというコンサマトリーな目標があったり(このまとまり意識を 、、、 伝統的に凝集性と呼ぶ)、社会的に逸脱者だというようなレッテル を貼られることを回避したいというフェイス目標や社会的関係維 持目標があるときに、生ずる」と、池田が指摘している(池田,1991 212p)。3 ところが、自身の職業、あるいは自身の職業と同じよう な職業の利益を考えて投票したとしても、その票の規模がある程 度多くなければ影響力はないと考えられるため、自身の職業に対 しての利益や見返りを求めて投票はするが、自身の勤め先の企業 規模や業種の就業人口が社会的制約としてはたらく可能性が考え 124 られる。 では、具体的にどのような職種の有権者が自民党に投票し、マ イノリティな職種の有権者が自らの意思とは無関係に同調し、あ るいは社会的制約を受けて自民党に投票するかの仮説を立てるべ く、自身の昨年のゼミ論文を参考にした。 「農業・自営業・管理職に従事する者は『戦後日本における自 民党の長期政権を構造的に支えてきた(農業・自営業は再分配依 存セクターとして、自民党との間で再分配的利益と票の交換を行 い、管理職は市場における強者の一員として、現存する政治・経 済的な秩序の維持と再分配用の資源および票の交換を行う)』(池 田 2007,p.31)」と、池田が述べているが、自身の分析(2005 年明推協調査データ)においても、数ある職種を「自営業者とサ ラリーマン」という二分割で分析をしたところ、自民党に投票し た有権者のうち 51.1%が自営業者であり、44.1%がサラリーマンで あった。要するに、自民党との間で再分配的利益と票の交換を行 うと考えられてきた自営業者のみならず、サラリーマンも多くが 自民党に投票していたのである。ではサラリーマンはどのような 職業利益を期待して自民党に投票したのだろうか。もし、自営業 者と自民党との票の交換関係と、自民党圧勝の予測を認知してい たならば、少数派の業種に分類される有職有権者は、自身の職業 利益とは裏腹に、同調投票を行ったのではないかと考えられる。 4.分析手法 平成 17 年 社団法人中央調査社「第 44 回 衆議院議員総選挙 についての意識調査」の質問項目を使用してクロス表分析を行い、 次の手順で考察する。4 1. 「比例代表選挙では、あなたが投票したのは何党でしたか。 」と いう質問に対する回答を、主要 5 政党に再コード化する。 2. 「あなたは、ふだん何党を支持していらっしゃいますか。」と いう質問に対する回答を、主要 5 政党に再コード化する。 3.「あなたのご職業は何ですか。このように分類した場合、ど れにあたりますか。」という質問に対する回答を、総務省統計局の 産業別就業人口の分類と対応させるため、13 業種に再コード化す る。 4.上記 3 つの質問項目をクロス表に整理し、支持政党と投票政 党のズレから、各職種の有権者がどのような投票行動を取ってい るかを分析する。 5.「あなたは、比例代表選挙で、政党を選ぶとき、どういう点 を重くみて投票する政党を決めたのですか。」という質問に対する 回答のうち、 「自分と同じような職業の利益を考えて」と「政党間 の勢力バランスを考えて」、「その党の政策や活動を考えて」を選 んだ人が、何党に投票しているかを知るため、この質問と投票政 党を問う質問をクロス表に整理し、考察する。 6. 「今回の選挙で、どのような問題を考慮しましたか。」とい う質問に対する回答のうち、「郵政民営化」を考慮したと答えた 人の投票政党と職業をクロス表に整理し、考察する。 125 5.実証 まず、有職者の産業別就業人口のうち、多数派と少数派の業種 を理解しておく必要がある。以下の表 2 は、総務省統計局による 産業別就業人口のデータから、平成 17 年のものを抽出し整理し たものである。グレーで網掛けにしてあるものが、多数派業種、 その他が少数派業種である。多数派と少数派の分類方法は、割合 を基準にして降順に並べた時の累積パーセンテージで 50%以上 を多数派、50%以下を少数派とした。 表2 総 A B C D E F G H I J 産業別就業人口 産業大分類 数 農業,林業 漁業 鉱業,採石業,砂利採取業 建設業 製造業 電気・ガス・熱供給・水道業 情報通信業 運輸業,郵便業 卸売業,小売業 金融業,保険業 K 不動産業,物品賃貸業 L 学術研究,専門・技術サービス業 M 宿泊業,飲食サービス業 N 生活関連サービス業,娯楽業 O 教育,学習支援業 P 医療,福祉 Q 複合サービス事業 R サービス業(他に分類されないもの) S 公務(他に分類されるものを除く) T 分類不能の産業 出典:総務省統計局「産業別人口データ」 就業者数 61,530,202 2,766,689 214,142 31,074 5,440,516 10,485,635 295,145 1,612,836 3,170,769 10,760,196 1,514,281 割合(%) 100.0 4.5 0.3 0.1 8.8 17.0 0.5 2.6 5.2 17.5 2.5 1,117,932 1,910,478 3,664,043 2,329,659 2,674,606 1.8 3.1 6.0 3.8 4.3 5,331,814 668,297 4,289,239 2,085,318 1,167,533 8.7 1.1 7.0 3.4 1.9 次に、職業別の支持政党と投票政党の一致を見る分析を行った。 以下に示す表 3 は、職業と支持政党、投票政党をクロス表にまと めたものである。表の大きさを抑えるため、少数派業種のみを取 り上げた。 126 表3 職業 公務 電気 ガス 運輸業 金融 保険業 不動産 新聞 放送 出版 情報 通信 サービ ス 教育 研究 サービ ス 支持 政党 自民 民主 公明 共産 社民 合計 自民 民主 合計 自民 民主 公明 社民 合計 自民 民主 合計 自民 民主 合計 自民 民主 公明 合計 自民 民主 共産 合計 自民 民主 公明 合計 自民 36.7 0.0 0.0 0.0 0.0 36.7 66.7 0.0 66.7 42.9 0.0 0.0 0.0 42.9 70.0 0.0 70.0 22.2 0.0 22.2 40.0 10.0 0.0 50.0 22.2 11.1 0.0 33.3 47.1 0.0 0.0 47.1 職業別支持政党と投票政党 投票政党 合計 民主 公明 共産 社民 (%)(N) 0.0 0.0 0.0 0.0 36.7 26.7 0.0 0.0 3.3 30.0 0.0 10.0 0.0 0.0 10.0 0.0 0.0 3.3 0.0 3.3 0.0 0.0 0.0 20.0 20.0 26.7 10.0 3.3 23.3 100.0(57) 0.0 66.7 33.3 33.3 33.3 100.0(7) 9.5 4.8 0.0 57.1 23.8 0.0 0.0 23.8 0.0 14.3 0.0 14.3 0.0 0.0 4.8 4.8 33.3 19.0 4.8 100.0(36) 10.0 80.0 20.0 20.0 30.0 100.0(18) 11.1 33.3 66.7 66.7 77.8 100.0(16) 10.0 10.0 60.0 20.0 0.0 30.0 0.0 10.0 10.0 30.0 20.0 100.0(14) 11.1 0.0 33.3 44.4 0.0 55.6 0.0 11.1 11.1 55.6 11.1 100.0(28) 5.9 5.9 58.8 35.3 0.0 35.3 0.0 5.9 5.9 41.2 11.8 100.0(36) カイ 2 乗値 1648.202 自由度 42 危険率.000 上記の表 3 から分かることは、少数派の業種に就く有権者が、 普段は自民党以外の政党を支持しているのに、自民党に投票して いる人がいるということである。注目すべきは、普段の支持政党 と今回の投票政党はおおかた一致しているのに対し、新聞・放送・ 出版業・広告業・映画製作業の民主党支持者 10.0%が、自民党に 投票しているということである。また、情報・通信サービス業の 民主党支持者 11.1%が、自民党に投票しているということである。 この 2 つの業種に共通するのは、 「マスメディア」ではないだろう か。彼らは国民よりも早く、そして多くの情報を所持していたと 127 考えられるため、国民以上に自民党の圧勝を予測していたのでは ないだろうか。これが必ずしも相乗り投票だとはいえないが、他 業種で支持政党と投票政党が違う値よりも少し多いことは事実で ある。 次に、 「あなたは、比例代表選挙で、政党を選ぶとき、どういう 点を重くみて投票する政党を決めたのですか。」という質問に対し て、 「政党間の勢力バランスを考えて」と回答した人が、何党に投 票したかをクロス表に整理した。以下の表 3 のとおりである。上 記、表 3 の結果より、少数派業種の中でも関心は、新聞・放送・ 出版業・広告業・映画製作業と情報・通信サービス業の有権者が 何を考えて自民党に投票したのかという点であるため、表 4 はそ の 2 業種に絞って考察する。 表4 職業 新聞 放送 出版業 情報 通信 サービス 業 投票政党 職業別投票政党と考慮した点 政党間の勢力バランスを考えたか はい 合計(%)(N) いいえ 自民 0.0 50.0 50.0 民主 10.0 20.0 30.0 公明 0.0 20.0 20.0 合計 10.0 90.0 100.0(14) 自民 0.0 35.7 35.7 民主 28.6 28.6 57.1 共産 0.0 7.1 7.1 合計 28.6 71.4 カイ 2 乗値 45.257 自由度 4 100.0(28) 危険率.000 この結果から分かることは、新聞・放送・出版業・広告業・映 画製作業と情報・通信サービス業の有権者が、政党間の勢力バラ ンスを考えて自民党に投票したかどうかということである。つま り、同調投票をしたかどうかを調べることができると考えた。 結果は、政党間の勢力バランスを考えて“自民党”に投票した人は いずれも 0.0%であり、自民党の圧勝に屈し、自民党に投票してお くという同調投票をした少数派業種の有権者はいなかった。しか し、別に面白い結果が得られた。政党間の勢力バランスを考えて“民 主党”に投票した人が、新聞・放送・出版業・広告業・映画制作業 で 10.0%、情報・通信サービス業で 28.6%いたということである。 ではもう一つ、「あなたは、比例代表選挙で、政党を選ぶとき、 どういう点を重くみて投票する政党を決めたのですか。」という質 問に対し、 「自分と同じような職業の利益を考えて」と回答した有 権者が、何党に投票しているかという結果をクロス表に整理した。 これも上記表 3 と同様、新聞・放送・出版業・広告業・映画製作 業と情報・通信サービス業の 2 業種に絞って考察する。以下の表 5 のとおりである。 128 表5 職業 新聞 放送 出版業 情報 通信 サービス 業 投票政党 職業別投票政党と考慮した点 職業の利益を考えたか はい 合計(%)(N) いいえ 自民 50.0 50.0 民主 30.0 30.0 公明 20.0 20.0 合計 100.0 100.0(14) 自民 35.7 35.7 民主 57.1 57.1 共産 7.1 7.1 合計 100.0 100.0(28) カイ 2 乗値.637 自由度 4 危険率.959 この結果から分かることは、この 2 業種の有権者は全く、自分 と同じような職業の利益を考えて投票政党を選んだわけではない ということである。 危険率も高いことから、これらの職業と投票政党、および職業 利益にはそもそもの相関が弱いのかもしれない。しかし、この 2 業種の有権者のうち、ふだん民主党を支持している 10%前後の有 権者が、今回の選挙で自民党に投票した理由を解明するためには、 それなりの説得材料と、そこから得られる考察が必要である。 以下の表 6 は、投票する政党を選択する上で、 「その党の政策や 活動を考えて」と回答した人の職業、および投票政党をクロス表 に整理したものである。質問票に記されていた回答割合を見ても、 その割合が高かったため、分析に加えた。 表6 職業 新聞 放送 出版業 情報 通信 サービス 業 投票政党 職業別投票政党と考慮した点 その党の政策や活動を考えたか はい 合計(%)(N) いいえ 自民 30.0 20.0 50.0 民主 10.0 20.0 30.0 公明 0.0 20.0 20.0 合計 40.0 60.0 100.0(14) 自民 21.4 14.3 35.7 民主 21.4 35.7 57.1 共産 0.0 7.1 7.1 合計 42.9 57.1 カイ 2 乗値 7.282 自由度 4 129 100.0(28) 危険率.122 この結果から分かることは、新聞・放送・出版業・広告業・映 画製作業のうち 30.0%の有権者が自民党の政策や活動を考えて自 民党に投票しており、情報・通信サービス業のうち 21.4%が自民 党の政策や活動を考えて自民党に投票しているということである。 しかし、情報・通信サービス業に関しては、民主党においても同 値の 21.4%が民主党の政策や活動を考えて民主党に投票している。 ということは、少数派業種のうちこの 2 業種に関して言えば、職 業利益は求めていないが、その党の政策や活動に賛同する部分が あって投票政党を決めているということが分かった。 6. 考察 上記の表 2~6 における一連の分析は、本稿が唱える「同調・社 会的制約仮説」を実証するためであった。自民党圧勝が予測され た本選挙で、少数派業種に就く有権者が、自身の職業が投票結果 に与える影響力の小ささを懸念し、それを社会的制約ととらえて 自民党に同調投票するのではないかという仮説である。そのこと をまず、有権者のふだんの支持政党と、本選挙の投票政党とのズ レで検証した。中でも、ふだんの支持政党が民主党であるのに、 本選挙で自民党に投票した人の割合が比較的高かった、新聞・放 送・出版業・広告業・映画製作業と、情報・通信サービス業の結 果に着目し、さらに分析を進めた。なぜ彼らが、民主党支持なの に自民党に投票したのかを明らかにするためである。期待する結 果は「政党間の勢力バランスを考えて」自民党に投票する人の割 合が高いということであった。この割合が高ければ、少数派業種 の有権者は、自民党に同調投票をしたと考えられるからである。 しかし、結果は思った通りに出なかった。だが、まったく正反 対の、興味深い結果が出た。 「政党間の勢力バランスを考えて」民 主党に投票した人が、新聞・放送・出版業・広告業・映画製作業 で 10.0%、情報・通信サービス業で 28.6%いたのである。情報・ 通信サービス業に関しては約 3 割が勢力バランスを考えて民主党 に投票しているということは、自身の職業が少数派であることを 顧みず、何らかのメッセージを持たせて民主党を支持したと考え られる。 この結果と表 6 と照らし合わせると、民主党に投票した情報・ 通信サービス業のうち 21.4%は、民主党の政策や活動を考えて投 票しているため、単に勢力バランスだけを考えて民主党に投票し たのではなく、党の政策や活動をも考慮して投票していることが わかる。 では、2005 年衆議院議員総選挙における、各党の政策とは何だ ったのであろうか。自民党と民主党のマニフェストを比較してみ ることにする。 130 【自民党と民主党 2005 年マニフェストの構造】 理念 郵 政 8 つのポイント 500 日プラン 各論 119 項目 自民党 民主党 (資料)日本経済調査協議会『マニフェストによる政治ガバナンスの確立』2006 年 自民党が郵政民営化一本であったことは多くの人に知られてい たかもしれないが、それに対する民主党のマニフェストというの は、上図にもあるように、大きく 8 つのポイントに分かれていた。 1.憲法、2.外交・安全保障、3.社会保障・雇用、4.子育て、5.教育 文化、6.地方分権・市民活動分権、7.財政健全化、8.経済・規制改 革・中小企業の 8 つである。しかし、情報・通信サービス業に従 事する有権者が、このうちどの政策に賛同し、民主党に投票する ことを決めたのかまでは、分からない。だが、質問項目に「今回 の選挙で、どのような問題を考慮しましたか。」という質問がある。 この回答項目の中に、自民党の一本柱である「郵政民営化」があ る。これを考慮したかどうかを分析すれば、少数派 2 業種の有権 者が、なぜ自民党に投票したかを明らかにできるかもしれない。 以下の表 7 がその結果である。 131 表7 職業 新聞 放送 出版業 情報 通信 サービス 業 投票政党 職業別投票政党と考慮した点 郵政民営化 考慮した 考慮していない 合計(%)(N) 自民 40.0 10.0 50.0 民主 30.0 0.0 30.0 公明 10.0 10.0 20.0 合計 80.0 20.0 100.0(14) 自民 35.7 0.0 35.7 民主 21.4 35.7 57.1 共産 0.0 7.1 7.1 合計 57.1 42.9 カイ 2 乗値 42.450 自由度 4 100.0(28) 危険率.000 郵政民営化に賛成なら自民党に投票し、反対なら民主党に投票 するという投票行動を前提として、この結果を見ると次のように 推測できないだろうか。表 2 の結果から取り上げることになった 少数派 2 業種については、新聞・放送・出版業・広告業・映画製 作業従事者のうち 40.0%が、情報・通信サービス業従事者のうち 35.7%が郵政民営化を考慮して自民党に投票したということが分 かったため、表 2 でふだんは民主党を支持しているのに、本選挙 においては自民党に投票した有権者に関しては、郵政民営化への 賛否で投票政党を変えた可能性が考えられる。 7. 結論 検証すべき仮説は「同調・社会的制約仮説」というもので、自 身の職業、あるいは自身の職業と同じような職業の利益を考えて 投票したとしても、その票の規模がある程度多くなければ影響力 はないと考えられるため、自身の職業に対しての利益や見返りを 求めて投票はするが、自身の勤め先の企業規模や業種の就業人口 が社会的制約としてはたらくのではないかと仮定したものであっ た。 今回の分析では、少数派の職業に焦点を当てて分析したために、 いずれのクロス表分析も該当者が少ない。したがって、これらか ら一般的なことは言えないかもしれないが、いくつかの興味深い 結果を得ることが出来た。 まず、少数派の職業に就いている有権者であっても、その業種 規模や就業人口を影響力としてとらえ、その影響力の小ささを懸 念して投票行動を取っているとはいえないことが分かった。つま り、死票をおそれて長い帯には巻かれろといったような同調行動 は見られなかったということである。しかし、対抗馬としての民 主党に集団で投票するという行動は見られた。3 割弱ではあったが、 「政党間の勢力バランスを考慮して」民主党に投票した少数派業 種の有権者の存在である。しかも、 「その党の政策や活動を考えて」 132 民主党に投票したという結果も得られたため、郵政民営化の一本 柱で圧勝を予感させた自民党に対して、郵政民営化には反対であ るというメッセージを乗せて民主党に投票した有権者が少数派業 種の有権者であったということは、少数派の影響力を想起させる 結果であった。 8. おわりに 池田(1991)は、「ノエル=ノイマンは『多数派の圧力』の重要性 を強調したが、それと同時に、見かけ上多数派の意見がいつも最 終的な勝利を握るとは限らないことにも、十分気がついていた。」 とも述べている(池田,1991,277p,)。ここで分析の対象とした 2005 年総選挙においては、少数派が社会的な影響力を持つことはなか った。しかしながら、過去の歴史におけるアメリカの公民権運動 の例などを思い返すと、初めは少数派であった人々が運動を起こ し、多数派を翻したという事実を見逃せない。そして、 「少数派が 社会的な影響力を持つとすれば、…いくつかの情報勢力の形成過 程を通じて、少数は意見を公共裡に議論される争点と化すること による。ただし、この争点化は少数派に社会的『発言権』を認め たり、メディアが少数派意見をピックアップすることが前提であ 、、、 るから、この点で情報ルートの重要性を強調しておくべきだろう。」 とも説いている(池田,1991,279p)。 「少数派では多数派と違って多 数の圧力に頼ることができないという意味で、情報勢力をめざす 以 外 に 世 論 形 成 に 及 ぼ す 影 響 力 の ル ー ト が な い 。」 ( 池 田 1991,278p)ということである。しかし、その意見が正しいもので あれば必ず、同意賛同する者が増え、いずれは大きな影響力をも つことも忘れてはならない。 今回の分析ではまさに、少数派の影響力を強調する分析結果を 得ることができた。仮説こそ実証されなかったものの、まったく 正反対の結果を得たことによって、それに関連する意見や議論に も触れることができ、同調が及ぼす社会的影響力や、そこに職業 利益という利害関係がはたらくと、また違った結果になるという ことも学ぶことができた。 つい先日行われた衆議院議員総選挙においても、マスメディア の影響力というのは大きく、投票する前から勢力を持っている政 党がどこかというのは、メディアによって決定づけられていたよ うに思う。しかし本当に正しいことはいつも多数派とは限らず、 本質を見抜く力と自分の判断軸をもつこと、様々な問題を多角的 に考慮することの大切さを、この分析を通して実感することがで きた。今後に生かしたいと思う。 注 (1) 宮野勝 2000. 『階層と政治』 東京大学出版会. (2) 三宅一郎 1985. 『政党支持の分析』 創文社. (3) 池田謙一 2007. 『政治のリアリティと社会心理 平成小泉 政治のダイナミックス』木鐸社. (4) ここで利用したデータは、 「第 44 回衆議院議員総選挙につい 133 ての意識調査」 (平成 17 年 10 月社団法人中央調査社)であ る。それをレヴァイアサン・データバンクより同志社大学法 学部が購入したものを西澤由隆教授のご指導と便宜により利 用ができた。それぞれのデータを公開・委託され、利用でき るようにしてくださった西澤教授に感謝いたします。 <補遺> 分析に使用した変数の作業定義 ○分析に使用した質問文と回答コード ◆SQ13. 「比例代表選挙では、あなたが投票したのは何党でし たか。」 自民党 民主党 公明党 社会民主党 日本共産党 国民新 党 新党日本 × その他 わからない 答えない ∇回答コード・・・自民党=1,その他=0 (×,その他,わからない,答えないは欠損値扱い) ◆SQ2.「今回の選挙で、どのような問題を考慮しましたか。こ の中にあればいくつでもあげてください。 」 (ア) 福祉・医療 (イ) 景気・雇用 (ウ) 財政再建 (エ) 税 金問題 (オ) 年金問題 (カ) 郵政民営化 (キ) 政権のあ り方 (ク) 環境・公害問題 (ケ) 土地・住宅問題 (コ) 農 林漁業対策 (サ) 中小企業対策 (シ) 政治倫理・政治改革 (ス) 行政改革 (セ) 地方分権 (ソ) 国際・外交問題 (タ) 憲法問題 (チ) 防衛問題 (ツ) 教育問題 (テ) 構 造改革 (ト) その他 政策は考えなかった わからない ((カ) 郵政民営化 のみ使用) ◆SQ14. 「あなたは、比例代表選挙で、政党を選ぶとき、どう いう点を重くみて投票する政党を決めたのですか。 」 (ア)地元の利益を考えて(イ)自分と同じような職業の利益を 考えて(ウ)国全体の政治について考えてから(エ)政党間 の勢力バランスを考えて (サ)名簿に載っていた候補者がよ かったから(オ)その党の政策や活動を考えて (シ)家族や 知人のすすめだから (カ)その党の党首を考えて (ス)どれとはいえない(キ)な んとなくその党が好きだから (ク)ほかの党よりましだから (ケ)私の支持する候補者が所属する党だから(コ)私の支 持する候補者が名簿に載っていた その他( ) わからな い ((イ) 自分と同じような職業の利益を考えて(エ)政党間のバラ ンスを考えて(オ)その党の政策や活動を考えて のみ使 用) ◆F4. 「(本人職業)あなたのご職業は何ですか(どんな仕事を なさっているのですか。ご自分で経営していらっしゃるので すか。勤めていらっしゃるのですか) 。このように分類した場 134 合、どれにあたりますか。 」 (ア)公 務 (イ)鉱 業(ウ)建設業(エ)製造業(オ)電気・ ガス・熱供給・水道業(カ)運輸業(キ)卸売・小売業・飲 食店(ク)金融・保険業(ケ)不動産業(コ)新聞・放送・ 出版業・広告業・映画製作業(サ)情報・通信サービス業(シ) 医療・福祉サービス業(ス)教育・研究サービス業(セ)法 律・会計サービス業(ソ)その他のサービス業 その他( ) 不明 (不明は欠損値扱い) <分析に使用したシンタックス> compute ptyvotep1 =ptyvotep. recode ptyvotep1(6,7,8,9,10,11=99). MISSING VALUES ptyvotep1(99). compute partsupt1=partsupt. recode partsupt1(6,7,8,9,10,11=99). MISSING VALUES partsupt1(99). compute shokugyou=yourind. recode shokugyou(14,15,16,17=99). MISSING VALUES shokugyou(99). <参考文献> ・池田謙一 2007. 『政治のリアリティと社会心理 平成小泉政 治のダイナミックス』木鐸社. ・池田謙一・村田光二 1991.『こころと社会』 東京大学出版 会. ・日本経済調査協議会 2006. 『マニフェストによる政治ガバナ ンスの確立』 日本経済調査協議会. ・三宅一郎 1985. 『政党支持の分析』 創文社. 135 多岐亡羊 Vol.16 2013 年 3 月 20 日 2012 年度西澤ゼミ学生論文集 初版 著 者 2012 年度西澤ゼミ生 発行者 西澤由隆 発行所 同志社大学法学部・政治学科 西澤由隆研究室 〒602-8580 京都市上京区今出川通東入る TEL: 075-251-3597 E-mail: [email protected] HP: http://ynishiza.doshisha.ac.jp/ 製本所 ナカバヤシ株式会社 Copyright © 2013 Nishizawa Seminar Printed in Japan