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平成 27 年度 中小水力ESCO事業推進モデル事業委託業務 ESCO

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平成 27 年度 中小水力ESCO事業推進モデル事業委託業務 ESCO
平成 27 年度電源立地地域対策交付金事業
平成 27 年度
中小水力ESCO事業推進モデル事業委託業務
ESCO事業導入可能性調査結果報告書
平成 28 年 2 月
北海道経済部産業振興局環境・エネルギー室
(受注者:北電総合設計・北海道開発技術センター コンソーシアム)
目次
1 調査の目的と概要 ........................................................................................................................... 1
1.1 調査の目的 ................................................................................................................................. 1
1.2 ESCO事業について ............................................................................................................... 1
1.3 調査の内容 ................................................................................................................................. 2
2 調査対象地点の選定 ....................................................................................................................... 3
2.1 水力発電計画地点調査 ............................................................................................................... 3
3 導入可能性の分析・検討 ................................................................................................................ 5
3.1 事業採算性の評価 ...................................................................................................................... 5
3.2 発電原価、内部収益率の算定 .................................................................................................... 7
3.3 ESCO事業の導入可能性の判定........................................................................................... 11
3.4 系統連系対策費を考慮した分析 .............................................................................................. 14
3.5 導入促進に向けた課題と今後の取り組み................................................................................ 17
1 調査の目的と概要
1.1 調査の目的
北海道は、全国1位の中小水力の導入ポテンシャル量を有し中小水力発電の可能性があ
るものの、水利権取得手続きや、開発適地の奥地化が進むなかで、系統連系のための経費
負担増などにより導入が進んでいない状況にある。
本調査は、北海道が管理するダムや農業用水路、上下水道など多様な中小水力を活用し
た発電に対して、ESCO事業の導入可能性を調査することにより、地域における中小水
力発電の導入促進を図ることを目的とする。
1.2 ESCO事業について
(1) 従来のESCO事業
ESCO(エスコ)とは Energy Service Company の略称で、ESCO事業とは、建
物、施設の省エネルギーに関する包括的なサービスを顧客に提供する事業である。このエ
ネルギーサービスを行う事業者をESCO事業者と呼び、省エネルギー診断、設計、施工、
運転・維持管理、資金調達等の工事に係る全てのサービスを提供する。
省エネルギーの保証を含む契約形態(パフォーマンス契約)をとることにより、顧客の
利益の最大化を図ることができるという特徴を持つ。
(2) 水力発電を活用したESCO事業
本調査では、省エネルギーに関するサービスの一環として、ESCO事業者である民間
事業者が水力発電を導入することにより、顧客となるダム、農業用水路、上下水道等の管
理者(自治体及び土地改良区)の管理費(光熱費)の削減を図るとともに、水力エネルギ
ーの有効活用とダム等施設管理における環境負荷を低減するESCO事業を想定する。
民間事業者は、自治体等とESCO事業契約を締結し、水力発電設備の建設(設計・改
修、運転・維持管理含む)や施設の設備の省エネ化を図る。また、契約期間中、固定価格
買取制度を活用した売電による事業収入を得て、ダム等施設に係る光熱費を負担する。
図 1.1 水力発電を活用したESCO事業の経費と収益の配分模式図
1
1.3 調査の内容
(1) 調査対象地点の選定
道が管理するダムや自治体等が管理する農業用水路、上下水道を対象とした水力発電計
画地点をリストアップして、各々の計画諸元(使用水量、落差、出力、発電量等)、水利
権の状況、系統連系の可能性、発電設備の設置コストなどについて整理する。
リストアップした地点から、経済性等を勘案して、導入可能性を分析・検討する調査地
点(道管理ダム 1 箇所、農業用水路・上下水道 15 箇所程度)を選定する。
(2) 導入可能性の分析・検討
選定した調査対象地点について、発電規模、発電量、建設費に基づいて、発電原価、内
部収益率等を算定して、ESCO事業を導入した場合の採算性の分析や検討を行う。さら
に、経済性指標及び計画精度、立地・環境、許認可リスク、系統連系制約等について分析
を行い、ESCO事業の導入可能性を評価する。
図 1.2 調査フロー図
2
2 調査対象地点の選定
2.1 水力発電計画地点調査
(1) 既往の水力発電計画地点調査
道が管理するダムや自治体等が管理する農業用水路、上下水道を対象とした水力発電計
画地点をリストアップするため、表 2.1 に示す水力発電計画地点調査の報告書等を参照し
た。
表 2.1 道内における水力発電計画地点調査
既往水力調査名
調査年度
中小水力開発促進指導事業基礎調査
調査概要
H11~
(未利用落差発電包蔵水力調査)
既設構造物(ダム、水路)における遊休落差や余剰
H19
水圧等の未利用落差を利用した包蔵水力を把握
(財)新エネルギー財団(以下「NEF」という)
H11-H15 既設ダムの未利用落差を対象
H16-H19 既設水路の未利用落差(H21 報告)
ハイドロバレー計画開発促進調査
H14~
NEF
地元市町村が実施する自家消費を基本とした水力発
現在
農業水利施設を活用した小水力等発電に係る調査
電所の開発計画を調査
H24~
北海道 農政部
ダムや用水路などの農業水利施設を活用した小水力
現在
ダム管理用発電可能性調査
及び太陽光発電に係る検討・調査
随時
ダム管理用発電の実施可能性を調査
北海道 建設部
中小水力発電導入推進調査
H24
道内の発電可能施設の現状把握と、導入可能性が
北海道 経済部
高い施設における中小水力発電の導入可能性検討
(2) 調査地点の選定
リストアップした各水力発電計画地点について、表 2.2 に示す各項目の調査を行い、調
査対象地点の絞り込みを行った。
表 2.2 具体的な調査項目
調査項目
計画の検討精度
調査内容
 計画地点の既往検討の検討精度を調査
(包蔵水力調査,可能性検討,概略設計,基本設計,実施設計)
経済性
 計画地点の経済性を調査
キャッシュフローによる建設投資回収年、kWh建設単価(建設費/年間可能発電
電力量)、発電原価等
発電諸元
 計画地点の発電諸元を調査
取水位,放水位,有効落差,最大出力,発電電力量、概算工事費等
流量資料
 計画地点の流量資料の有無を調査
河川法の水利使用許可、電気事業法の許可には、10 ヶ年分の流量資料が必要
水利権の状況
 計画地点の許可水利権内容を調査
取水期間と取水量、許可期限等について調査
系統連系
 計画地点の系統連系の可能性を調査
電力会社の電力系統に接続する場合の制約等について調査
現地確認
 既設設備の状況
 発電設備の配置計画(既設設備との制約)
 周辺状況(アクセス道路の有無,配電線の有無,周辺環境)
3
その結果、本調査の対象とする 14 地点(上水道 5 地点、下水道 4 地点、農業用水路 4
地点、道管理ダム 1 地点)を選定した。
表 2.3 調査地点一覧表
発電諸元
No
地点※
使用水量
有効落差
出力
電力量
工事費
建設単価
発電原価
(m3/s)
(m)
(kW)
(MWh)
(百万円)
(円/kWh)
(円/kWh)
計画
精度
1
上水道①
0.85
38.20
250
1,850
109
59
1.6
概略
2
上水道②
2.40
36.70
690
5,501
621
113
1.4
概略
3
上水道③
0.22
73.77
108
790
131
165
6.0
概略
4
上水道④
0.70
52.80
280
2,455
221
90
3.9
概略
5
上水道⑤
0.25
3.60
6
53
54
1,013
14.1
可能性
6
下水道①
0.45
1.85
4
35
18
509
12.9
可能性
7
下水道②
0.15
1.35
1
9
11
1,178
24.8
可能性
8
下水道③
1.15
4.00
27
157
63
402
32.5
可能性
9
下水道④
0.99
2.50
12
105
42
396
6.1
可能性
10
農業用水①
2.00
18.80
290
750
370
493
6.6
概略
11
農業用水②
2.40
5.60
89
225
263
1,110
11.1
概略
12
農業用水③
2.40
5.50
87
221
282
1,216
12.2
概略
13
農業用水④
4.50
5.30
171
436
521
1,135
11.4
概略
14 道管理ダム
4.00
28.46
910
5,573
817
147
4.7
可能性
※地点名は、一部協力機関の意向を踏まえて施設区分で表記している。
※上水道①,②,③,④は,「ハイドロバレー計画開発促進調査」における諸元
※上水道⑤,下水道①,②,④は,「中小水力発電導入推進調査」に基づいた諸元
※下水道③は,自治体ヒアリング結果に基づいた諸元
※農業用水①~④は,「農業水利施設を活用した小水力等発電に係る調査地区リスト」(北海道農政部 HP より)に基づ
いた諸元
※道管理ダムは,北海道建設部検討成果に基づいた諸元
選定した調査対象地点における発電計画の傾向を、表 2.4、図 2.1 に示す。
表 2.4 調査対象地点の発電計画の傾向
施設区分
上水道利用発電
下水道利用発電
農業用水路利用発電
道管理ダム
発電計画の特性
使用水量の割に出力が大きい⇒高落差
設備利用率が高い⇒流量変動が無く、通年で発電可能
使用水量、発電力が小さい⇒低落差
設備利用率が高い⇒流量変動が無く、通年で発電可能
使用水量の割に発電力が小さい⇒低落差
設備利用率が低い⇒発電期間が短い
使用水量、発電力が大きい⇒高落差
設備利用率が高い⇒流量変動が無く、通年で発電可能
図 2.1 調査対象地点の発電計画の傾向
4
3 導入可能性の分析・検討
3.1 事業採算性の評価
(1) 評価方法
水力発電を利用したESCO事業の導入可能性の評価は、民間事業者の事業参入を前提
とし、事業投資プロジェクトとして採算性が確保できるか、どうかを判断することが重要
となる。
本調査では、事業の採算性を評価する方法として内部収益率法を用いる。
内部収益率(IRR※)は、事業期間中に発生する費用の現在価値の累計と便益の現在価値
の累計が等しくなる割引率をいう。すなわち、事業より得られるキャッシュ・インフロー
の現在価値から投資に必要なキャッシュ・アウトフローの現在価値を差し引いた値である
正味現在価値(NPV)が0 となる割引率のことで、内部収益率が大きければ投資する事業
は経済性が優れていることを表す。
内部収益率が企業が達成すべき投資利回りの基準を上回れば、事業の経済性を有すると
判断できる。さらに、事業者がどのプロジェクトに投資するのが有利かを判断するために
も利用可能である。
投資利回りの基準となる割引率については、事業の種類や社会情勢に応じて様々な値が
設定されるが、本調査では、
「平成 24 年度調達価格及び調達期間に関する意見(調達価格
等算定委員会:経済産業省)
」で設定された値である
IRR:7%
を基準とした。
なお、内部収益率の算定に当たっては、事業期間中のキャッシュフローを計算する必要
があるほか、年経費等の条件が必要となるので、計算の過程で得られる発電原価、キャッ
シュフローの正味現在価値(NPV)等の経済性評価指標についても算出した。
5
(2) 経済性の評価条件
内部収益率等の経済性評価指標の算定に当たっては、以下に示す資料に参考に評価条件
を設定した。
・中小水力発電導入の手引き(H24.12,北海道)
・経済性評価モデルの構築に係る調査報告書(H25.3,NEF)
・中小水力発電計画導入の手引き(H26.2, NEF)
・ハイドロバレー計画ガイドブック(H17.3 経済産業省資源エネルギー庁・NEF)
経済性の評価条件のうち、主要項目で設定した内容を表 3.1 に示す。
表 3.1 主要項目の評価条件
項目
設定条件
事業期間
固定価格買取制度の調達期間に合わせて 20 年に設定
売電収入、価格
固定価格買取制度の利用
出
力
売電価格
1,000kW 以上
200kW 以上
30,000kW 未満
1,000kW 未満
24.0
200kW 未満
29.0
34.0
平成 27 年度調達価格、初期 20 年間
資金調達
100%自己資金
税金等
減価償却,固定資産税,法人所得税,水利使用料等
年経費
建設後の運転維持費(修繕費,人件費,一般管理費,その他経費)を計上
経費項目
人 件 費
諸経費率
建設費×0.17%
建設費×0.631%
修 繕 費
初年度 建設費×0.31%,年増分 0.019%
耐用年数 40 年,平均 0.631%
その他経費
建設費×0.31%
一般管理費
直接費(人件費+修繕費+その他経費)×12%
ハイドロバレー計画ガイドブック(H17.3 経済産業省資源エネルギー庁・NEF)
6
3.2 発電原価、内部収益率の算定
(1) 調査対象地点諸元
調査対象地点の発電計画諸元及び工事費の内訳を示す。
表 3.2 調査対象地点発電計画諸元一覧表(その1)
計画地点名
単位
上水道①
上水道②
上水道③
上水道④
上水道⑤
下水道①
下水道②
335.21
-
-
-
273.00
-
-
-
135.50
62.21
-
-
-
73.77
52.80
3.60
1.85
1.35
2.40
0.22
0.70
0.25
0.45
0.15
250
690
108
280
6
4
1
1,850
5,501
790
2,445
53
35
9
取水位
EL.m
135.40
134.90
333.30
放水位
EL.m
87.00
84.00
197.80
総落差
m
48.40
50.90
有効落差
m
38.20
36.70
0.85
最大使用水量
最大出力
年間可能発電電力量
設備利用率
総工事費
m3/s
kW
MWh
%
百万円
84.5
91.0
83.5
99.7
100.8
99.9
102.7
109.1
621.0
130.7
221.0
53.7
17.8
10.6
10,600
kW 当たり建設費
千円/kW
436
900
1,210
789
8,950
4,450
kWh 当たり建設費
円/kWh
59
113
165
90
1,013
509
1,178
-
S形プロペラ
横軸フランシス
ポンプ逆転水車
横軸フランシス
インライン
立軸クロスフロー
立軸クロスフロー
発電機形式
-
誘導発電機
誘導発電機
誘導発電機
誘導発電機
誘導発電機
誘導発電機
誘導発電機
土地補償費
百万円
-
-
-
-
-
-
-
建物関係
百万円
26,700
-
23,040
-
-
-
土木関係
百万円
30,241
203,300
26,510
70,037
-
-
-
電気関係
百万円
66,800
269,400
89,830
103,100
48,000
15,700
9,300
間接費
百万円
12,059
121,600
14,360
24,823
5,680
2,060
1,270
(合計)
百万円
109,100
621,000
130,700
221,000
53,680
17,760
10,570
水車形式
-
表 3.3 対象地点発電計画諸元一覧表(その2)
計画地点名
単位
下水道③
下水道④
農業用水①
農業用水②
農業用水③
農業用水④
道管理ダム
取水位
EL.m
98.10
-
216.90
132.10
138.95
185.39
57.20
放水位
EL.m
94.10
-
196.00
126.35
133.08
178.74
27.50
総落差
m
4.00
-
20.90
5.75
5.87
6.65
29.70
有効落差
m
4.00
2.50
18.80
5.60
5.50
5.30
28.46
m3/s
1.15
0.99
2.00
2.40
2.40
4.50
4.00
最大使用水量
最大出力
年間可能発電電力量
設備利用率
総工事費
27
12
290
89
87
171
910
MWh
157
105
750
237
232
459
5,573
%
66.0
99.9
29.5
30.4
30.4
30.6
69.9
百万円
63.0
41.6
369.2
263.0
282.0
521.0
816.5
897
kW
kW 当たり建設費
千円/kW
2,333
3,467
1,273
2,955
3,241
3,047
kWh 当たり建設費
円/kWh
402
396
492
1,169
1,276
1,195
147
-
プロペラ
立軸クロスフロー
横軸フランシス
S 型チューブラ
S 型チューブラ
S 型チューブラ
横軸フランシス
発電機形式
-
誘導発電機
誘導発電機
同期発電機
誘導発電機
誘導発電機
誘導発電機
同期発電機
土地補償費
千円
-
-
-
-
-
-
建物関係
千円
6,000
-
18,770
-
-
-
40,880
土木関係
千円
13,000
-
101,830
-
-
-
316,940
電気関係
千円
37,000
37,100
180,550
263,000
282,000
521,000
318,370
間接費
千円
7,000
4,500
68,070
-
-
-
140,300
(合計)
千円
63,000
41,600
369,220
263,000
282,000
521,000
816,490
水車形式
※農業用水①,②,③の3地点の電力量は,自治体ヒアリング結果に基づいた年間可能発電電力量
7
-
(2) 経済性指標の算定結果
設定した条件にしたがって算定した、発電原価、内部収益率(IRR)を示す。
各地点の経済性指標の算定結果を考察すると、上水道利用発電、ダム利用発電は、発電
原価が安く、高い収益性を示すが、下水道利用発電、農業用利用発電は収益性が低く、い
ずれの地点も事業期間である 20 年以内での初期投資の回収はできない。
表 3.4 調査対象地点の経済性評価結果一覧表(その1)
計画地点名
発電原価
単位
上水道①
上水道②
上水道③
上水道④
上水道⑤
下水道①
下水道②
円/kWh
4.0
7.4
10.9
5.9
65.3
32.9
75.3
百万円
326
747
106
375
-27
-4
-6
IRR:内部収益率
%
28.9
15.2
11.8
19.3
投資回収年
年
4
6
8
5
NPV:正味現在価値
-
-
-
21 以上※
21 以上※
21 以上※
※ 投資回収年行の’21 以上※’は、事業年間で投資回収できないことを示す。
表 3.5 対象地点の経済性評価結果一覧表(その2)
計画地点名
発電原価
単位
下水道③
下水道④
農業用水①
農業用水②
農業用水③
農業用水④
道管理ダム
26.0
25.8
31.8
71.4
78.1
73.0
9.6
百万円
-7
-4
-112
-136
-152
-273
618
IRR:内部収益率
%
1.5
1.6
-
-
-
-
投資回収年
年
17
17
21 以上※
21 以上※
21 以上※
21 以上※
円/kWh
NPV:正味現在価値
※ 投資回収年行の’21 以上※’は、事業年間で投資回収できないことを示す。
各地点の kWh 当たり建設単価と発電原価の関係を示す。
900
800
700
○ 上水道
◇ 下水道
□ 農業用水
△ 道管理ダム
建設費(百万円)
600
500
400
300
200
100
0
0
200
400
600
発電出力(kW)
図 3.1 発電出力と建設費の関係
8
800
1,000
11.3
8
90
80
○ 上水道
◇ 下水道
70
□ 農業用水
△ 道管理ダム
発電原価 (円/kWh)
60
50
40
30
20
10
0
0
200
400
600
800
1,000
発電出力 (kW)
図 3.2 発電出力と発電原価の関係
35%
○ 上水道
30%
◇ 下水道
□ 農業用水
△ 道管理ダム
25%
IRR (%)
20%
15%
10%
5%
0%
-5%
0
200
400
600
800
1,000
kWh当り建設単価(円/kWh)
図 3.3 kWh 当たり建設単価と内部収益率の関係
9
1,200
1,400
(3) 事業採算性に関する考察
各地点の経済性指標の算定結果を考察すると、上水道利用発電、ダム利用発電は、発電
原価が安く、高い収益性を示すが、下水道利用発電、農業用利用発電は収益性が低く、い
ずれの地点も初期投資を回収するには、事業期間である 20 年以上の年数が必要とされる。
1) 上水道利用発電
 一定の使用水量で発電できるので、設備利用率が高く、発電量が大きい
 既設水路を再利用できるので、建設コストは安価である
 kWh 当り建設費は 90~160 円/kWh、発電原価は 6~11 円/kWh
 プロジェクト内部収益率(PIRR)は、11~19%と高い収益率となる
2) 下水道利用発電
 落差が小さく、出力、発電量が小さい
 軽微な施設(水車、発電機)で済むので、建設コストは安価である
 kWh 当り建設費は 400~500 円/kWh、発電原価は 25~75 円/kWh
 収益が小さく、正味現在価値(NPV)がマイナスとなるため、内部収益率(IRR)が算
定できないか、または著しく低い
3) 農業用水路利用発電
 発電期間がかんがい期間に限定されるため、設備利用率が低く、発電量が小さい
 比較的、大きな使用水量となるので機器費が嵩み、建設コストは割高である
 kWh 当り建設費は 500~1300 円/kWh、発電原価は 30~80 円/kWh
 収益が小さく、正味現在価値(NPV)がマイナスとなり、内部収益率(IRR)は算定で
きない
4) ダム地点
 ダムによる落差が得られることから、出力、発電量が大きい
 水路も短くて済むことから建設コストは安価である
 kWh 当り建設費は 147 円/kWh、発電原価は 9.6 円/kWh
 プロジェクト内部収益率(PIRR)は、11.3%と高い収益率となる
10
3.3 ESCO事業の導入可能性の判定
(1) 事業の導入可否判断
事業採算性の評価結果に加え、計画精度、立地・環境、許認可リスク、系統連系制約等
について評価を行い、ESCO事業の導入可能性を3段階で評価した。
表 3.6 導入可能性評価
評価
A
B
C
評価基準・内容
・事業採算性が非常に高い
・今後の精度を高めた調査・設計の結果,建設費アップ,系統連系増強費を考慮しても,採算性の
確保が可能と判断される
・立地・環境に関する課題が少ない
・現在の検討精度では,事業採算性の確保が可能
・今後の精度を高めた調査・設計の結果により,採算性の確保が困難になる場合も想定される
・事業採算性は高いが,立地・環境に関する課題が多い
・現在の検討精度では事業採算性が低い
・今後の精度を高めた調査・設計でも採算性向上が見込めない
(2) 導入可能性の判定
表 3.7 ESCO事業導入可能性評価結果(その1)
計画地点名
最大出力
最大使用水量
有効落差
可能発電電力量
設備利用率
単位
上水道①
上水道②
250
kW
上水道③
690
上水道④
108
上水道⑤
280
6
0.85
2.40
0.22
0.70
0.25
m
38.20
36.70
73.77
52.80
3.60
MWh
1,850
5,501
790
2,445
53
84.5
91.0
83.5
99.7
100.8
3
m /s
%
総工事費
百万円
109.1
621.0
130.7
221.0
53.7
kW 当たり建設費
円/kW
436
900
1,210
789
8,950
kWh 当たり建設費
円/kWh
59
113
165
90
1,013
修繕費
千円/年
688
3,919
825
1,395
339
人件費
千円/年
185
1,056
222
376
91
一般管理費
千円/年
145
828
174
295
72
その他経費
千円/年
338
1,925
405
685
166
発電原価
円/kWh
4.0
7.4
10.9
5.9
28.9
15.2
11.8
19.3
IRR(内部収益率)
NPV(正味現在価値)
%
326
百万円
747
106
65.3
-
375
-27
事業採算性評価
-
◎
◎
◎
◎
×
発電計画の精度
-
◎
◎
◎
◎
△
許認可リスク
-
小
小
小
小
小
-
計画地点付近の
配電線に連系
・増強費用は軽微
計画地点付近の
配電線に連系
・増強費用は軽微
計画地点付近の
変電所に連系
・配電線増強工事
が必要
計画地点沿いの
33kV 送電線接続
・変電設備設置が
必要
計画地点付近の
配電線に連系
・増強費用は軽微
系統連系の可能性
導入可能性評価
-
今後の課題と対策
-
A
A
A
A
C
浄水を利用する
ため水道水質、断
水に対して、影響
がないように、綿密
な施工計画、維持
管理計画が必要
浄水を利用する
ため水道水質、断
水に対して、影響
がないように、綿密
な施工計画、維持
管理計画が必要
水道水質、断水
に対して、影響がな
いように、綿密な計
画が必要
原水を利用する
た め、 塵 芥 対 策 も
必要
水道水質、断水
に対して、影響がな
いように、綿密な計
画が必要
取水量の変更
許認可手続きの準
備が必要
コスト低減に向
けた対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用(海
外製機器等)
11
表 3.8 ESCO事業導入可能性評価結果(その2)
計画地点名
最大出力
最大使用水量
有効落差
可能発電電力量
設備利用率
単位
下水道①
下水道②
下水道③
下水道④
農業用水①
4
1
27
12
m3/s
0.45
0.15
1.15
0.99
2.00
m
1.85
1.35
4.00
2.50
18.80
kW
MWh
%
290
35
9
157
105
750
99.9
102.7
66.0
99.9
29.5
総工事費
百万円
17.8
10.6
63.0
41.6
369.2
kW 当たり建設費
円/kW
4,450
10,600
2,333
3,467
1,273
kWh 当たり建設費
円/kWh
509
1,178
402
396
492
修繕費
千円/年
112
67
398
262
2,335
人件費
千円/年
30
18
107
71
629
一般管理費
千円/年
24
14
84
55
493
その他経費
千円/年
55
33
195
129
1,147
発電原価
円/kWh
32.9
75.3
26.0
25.8
31.8
-
-
1.5
1.6
-
IRR(内部収益率)
NPV(正味現在価値)
%
-4
百万円
-6
-7
-4
-112
事業採算性評価
-
×
×
×
×
×
発電計画の精度
-
△
△
△
△
○
許認可リスク
-
小
小
小
小
小
計画地点付近の
配電線に連系
・増強費用は軽微
計画地点付近の
配電線に連系
・増強費用は軽微
連系可能量なし、
配電線に連系
変電所に連系
近傍変電所に、バ
・増強費用は軽微
・配電線増強工事
系統連系の可能性
-
計画地点付近の
計画地点付近の
ンク逆潮 流対策、
計画地点付近の
が必要
配電線増強工事
が必要
導入可能性評価
-
C
C
C
C
C
-
コスト低減に向
けた対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用(海
外製機器等)
コスト低減に向
けた対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用(海
外製機器等)
コスト低減に向
けた対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用(海
外製機器等)
コスト低減に向
けた対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用(海
外製機器等)
コスト低減、発
電量増加に向けた
対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用
・新規水利権取得
による期間延長,
取水量の増加
今後の課題と対策
12
表 3.9 ESCO事業導入可能性評価結果(その3)
計画地点名
最大出力
最大使用水量
有効落差
可能発電電力量
設備利用率
総工事費
kW 当たり建設費
単位
農業用水②
農業用水③
農業用水④
道管理ダム
89
87
171
910
m3/s
2.40
2.40
4.50
4.00
m
5.60
5.50
5.30
28.46
MWh
237
232
459
5,573
kW
30.4
30.4
30.6
69.9
百万円
263.0
282.0
521.0
816.5
%
円/kW
2,955
3,241
3,047
897
kWh 当たり建設費
円/kWh
1,169
1,276
1,195
147
修繕費
千円/年
1,660
1,779
3,288
5,152
人件費
千円/年
447
479
886
1,388
一般管理費
千円/年
351
376
695
1,089
その他経費
千円/年
815
874
1,615
2,531
発電原価
円/kWh
71.4
78.1
73.0
9.6
IRR(内部収益率)
NPV(正味現在価値)
-
%
-
-136
百万円
-
-152
11.3
-273
618
事業採算性評価
-
×
×
×
◎
発電計画の精度
-
○
○
○
○
許認可リスク
-
系統連系の可能性
-
導入可能性評価
小
小
小
小
計画地点付近の
計画地点付近の
計画地点付近の
計画地点付近の
連系可能量なし、
連系可能量なし、
連系可能量なし、
連系可能量なし、
近傍変電所に、バ
近傍変電所に、バ
近傍変電所に、バ
近傍変電所に、バ
ンク逆潮 流対策、
ンク逆潮 流対策、
ンク逆潮 流対策、
ンク逆潮 流対策、
配電線増強工事
配電線増強工事
配電線増強工事
配電線増強工事
が必要
が必要
が必要
が必要
-
C
C
C
A
-
コスト低減、発
電量増加に向けた
対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用
・新規水利権取得
による期間延長,
取水量の増加
コスト低減、発
電量増加に向けた
対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用
・新規水利権取得
による期間延長,
取水量の増加
コスト低減、発
電量増加に向けた
対策が必要
・低コスト、高効率
機器の採用
・新規水利権取得
による期間延長,
取水量の増加
精度を上げた計
画・設計、費用見
積りが必要
・レイアウト、使用
機器の見直し
・具体的な流量制
御、運用方法の検
討
今後の課題と対策
ESCO事業の導入可能性を評価した結果、上水道を利用する 4 地点と道管理ダムの 5
地点で 10%を超える高い収益率となるほか、立地・環境の面からも問題が少なく、許認可
リスクも小さいことから、Aランクと評価した。
13
3.4 系統連系対策費を考慮した分析
(1) 有望地点と系統連系対策費
事業の導入可否判断結果で、A ランクと判定した上水道を利用する 4 地点と、道管理ダ
ム地点において、接続地点、接続に要する費用(送電線,変電所設置)を想定して、再度、
採算性の評価を行った。
系統連系対策費としては、各地点の近傍の系統連系状況に応じて
 配電線増強費
 バンク逆潮流対策費
 変電設備設置費
を計上する。
表 3.10 各計画地点の系統連系状況
計画地点名
最大出力
系統連系の可能性
増強対策
(kW)
上水道①
250
上水道②
690
上水道③
108
上水道④
280
道管理ダム
910
計画地点付近の
配電線(240/415V 級)
配電線に連系
計画地点付近の
配電線(240/415V 級)
配電線に連系
計画地点付近の
配電線(架空 3.3~6.6kV 級)
変電所に連系
計画地点沿いの
開放型屋外変電設備
33kV 送電線接続
計画地点付近の
近傍変電所にバンク逆潮流設備
連系可能量なし
配電線配電線(架空 3.3~6.6kV 級)
表 3.11 各計画地点の系統連系対策費
計画地点名
最大出力
(kW)
配電線
配電線
配電線
バンク逆潮
変電設備設
系統連系
亘長
単価
増強費
(km)
(百万円/km)
(千円)
流対策費
置費
対策費
(千円)
(千円)
(千円)
上水道①
250
1
7.8
3,900
-
-
3,900
上水道②
690
1
7.8
3,900
-
-
3,900
上水道③
108
5
18.0
45,000
-
-
45,000
上水道④
280
-
道管理ダム
910
14.6
-
18.0
14
-
131,400
-
2,821
60,000
-
60,000
134,221
(2) 系統連系対策費を考慮した経済性指標の算定
前項に示した系統連系対策費を考慮した経済性評価を実施する。対象地点の評価条件の
一覧を示す。
1) 経済性評価条件
表 3.12 対象地点の経済性評価条件一覧表(系統連系対策費含む)
区
計画地点名
分
最大出力
最大使用水量
発
有効落差
電
年間可能発電電力量
諸
設備利用率
元
総工事費
設
備
概
要
経
単位
kW
上水道①
250
上水道②
690
上水道③
108
上水道④
280
道管理ダム
910
0.85
2.40
0.22
0.70
4.00
m
38.20
36.70
73.77
52.80
28.46
MWh
1,850
5,501
790
2,445
5,573
m3/s
%
84.5
91.0
83.5
99.7
69.9
百万円
113
625
176
281
951
kW 当たり建設費
円/kW
452
906
1,627
1,004
1,045
kWh 当たり建設費
円/kWh
61
114
222
115
171
工事費(送電含)
百万円
113
625
176
281
951
最大出力
kW
250
690
108
280
910
最大理論出力
kW
318
863
159
362
1,116
常時理論出力
kW
221
694
145
176
452
停止率
%
5.0
5.0
5.0
5.0
5.0
1,850
5,501
790
2,445
5,573
2
2
2
2
2
年間可能発電電力量
MWh
建設期間
年
事業期間
年
事業後の扱い
-
譲渡
譲渡
譲渡
譲渡
譲渡
固定買取価格の適用
-
適用する
適用する
適用する
適用する
適用する
20
20
20
20
20
売電価格(初期 20 年間)
円/kWh
29.0
29.0
34.0
29.0
29.0
売電価格(21 年目以降)
円/kWh
9.7
9.7
9.7
9.7
9.7
支払利息
%
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
返済期間
年
20
20
20
20
20
自己資本比率
%
50.0
50.0
50.0
50.0
50.0
物価上昇率
%
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
割引率
%
3.0
3.0
3.0
3.0
3.0
事業報酬率
%
減価償却
-
耐用年数
年
20
20
20
20
20
税
償却率
%
10.0
10.0
10.0
10.0
10.0
金
固定資産税率
%
1.4
1.4
1.4
1.4
1.4
等
法人所得課税率
%
35.1
35.1
35.1
35.1
35.1
水利使用料
千円/年
479
1,445
293
429
1,183
託送料
千円/年
0
0
0
0
0
修繕費
千円/年
713
3,943
1,109
1,773
5,999
人件費
千円/年
192
1,062
299
478
1,616
一般管理費
千円/年
151
833
234
375
1,267
その他経費
千円/年
350
1,937
545
871
2,947
済
評
価
条
件
年
経
費
3.0
200%定率法
15
3.0
200%定率法
3.0
200%定率法
3.0
200%定率法
3.0
200%定率法
2) 発電原価、内部収益率の算定結果
設定した条件にしたがって算定した発電原価、プロジェクト内部収益率(PIRR)を示す。
表 3.13 対象地点の経済性評価結果一覧表
系統連系
対策費
なし
計画地点名
単位
発電原価
NPV:正味現在価値
発電原価
PIRR:プロジェクト内部収益率
NPV:正味現在価値
上水道②
上水道③
上水道④
道管理ダム
4.0
7.4
10.9
5.9
9.6
%
28.9
15.2
11.8
19.3
11.3
百万円
326
747
106
375
618
円/kWh
4.1
7.5
14.6
7.5
11.1
%
28.0
15.1
7.8
15.0
9.2
百万円
323
744
72
330
517
円/kWh
PIRR:プロジェクト内部収益率
あり
上水道①
図 3.4 に各地点のプロジェクト内部収益率(PIRR)を示す。図中の白抜きマークは系統
連系費を考慮しないときの値で、塗り潰しマークは系統連系対策費を考慮したときの値で
ある。
PIRR[%]
30%
上水道①(系統連系対策費なし)28.9%
上水道①(系統連系対策費あり)28.0%
25%
20%
上水道④(系統連系対策費なし)19.3%
15%
上水道④(系統連系対策費あり)15.0%
上水道②(系統連系対策費なし)15.2%
上水道②(系統連系対策費あり)15.1%
10%
上水道③(系統連系対策費なし)11.8%
道管理ダム(系統連系対策費なし)11.3%
道管理ダム(系統連系対策費あり)9.2%
上水道③(系統連系対策費あり)7.8%
5%
0%
0
50
100
150
200
250
300
350
kWh当たり建設費 [円/kWh]
図 3.4 各地点の内部収益率:PIRR
系統連系対策費が嵩む上水道③、上水道④では、プロジェクト内部収益率(PIRR)が 4
~10%低下するが、いずれの地点も事業性評価の目安とした 7%を上回っており、系統連
系費を考慮しても十分な収益性がある。
16
3.5 導入促進に向けた課題と今後の取り組み
(1) 検討精度の向上
 本調査は、既往の可能性調査,概略設計を基礎データとしているため、検討精度の向
上を図り,採算性の再評価が必要
 建設費,維持管理費,既存施設の改造費,発電電力量の算定等について精査が必要
(2) 建設コストの低減
 海外製機器の採用,水圧管路等への一般市販管の採用
 近年開発されている低コスト・高効率化水車の適用性検討
(3) 発電量の増大(農業用水路)
 新規水利権取得による取水期間の延長(かんがい期⇒通年)
,取水量の増加
(4) 既設設備の構造,機能への影響確認
 既存施設を利用する場合,既設設備の水圧上昇、耐震などに対する安全性,機能維持
について確認が必要
(5) 維持管理体制の確保,効率化
 冬期間のアクセス道路の除雪,結氷対策等、維持管理体制の整備が必要
(6) 系統連系の接続
 系統連系接続の可否および増強費の必要性とそれを考慮した採算性の確認は必要
17
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