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ICEP news No.85 2014.4 大学紹介 〈5〉 九 州 大 学 -九州大学における資源人材養成及び石油資源開発などに関連した研究の紹介- 九州大学大学院工学研究院 1. はじめに 教授 佐々木 久郎 ンパスへのアクセス経路にある JR 九大学研都市 九州は古代から地下鉱物資 駅周辺や新キャンパス周辺は急速に変貌しており、 源に恵まれた地域として、製鉄、 九州で最も活気に溢れた地域として発展している。 銀や金の産出と製錬がなされた この寄稿では、主に九州地域における資源と環 歴史を持っている。例えば、九 境を取り巻く状況、九州大学における資源人材の 州大学の新キャンパスが整備さ 養成内容及び石油・天然ガス開発や地球環境問題 れつつある伊都地域などの北部 に関わる最近の研究トピックスなどを紹介する。 九州の砂鉄精錬、対馬の銀、日田の金など歴史的 遺構も多い。松本清張の「西海道談綺」に出てく る豊後・日田の金山の話など、歴史小説の舞台と しても取り上げられている。また、明治以降の北 部九州の石炭や製鉄など明治期の産業遺産も近年 注目されている。現在は鹿児島・菱刈鉱山で世界 最高水準の高品位の金鉱石が、福岡、大分、宮崎 の北部九州の太平洋側では石灰石が、それぞれ産 出されている。鉱物資源ではないものの、九州は 地熱資源に恵まれ、ベース電力となり得る再生エ ネルギーとして再認識されていることや、沖縄な 伊都キャンパスの空中写真(中央が工学研究院) どでの水溶性天然ガスの試掘など、明るい材料も (出典:九州大学ホームページ) 出てきている。 九州大学のメインキャンパスは、福岡市の中心 16 2. 九州大学における資源人材育成の歩み 部に近い東区箱崎の箱崎キャンパスから西区元岡 九州大学は明治 44 年(1911)に九州帝国大 の日本でも有数の広さと自然環境に恵まれた伊都 学として発足し、昭和 22 年(1947)学制改革 キャンパスに 2005 年から順次移転しつつあり、 により新制九州大学、平成 16 年(2004)に国 大学に入学した全新入生の基幹(教養)教育、工 立大学法人九州大学となった。 学研究院、比較文化研究院、数学系などが移転を 現在の 工学 部の ルー ツで ある工 科大 学も 帝国 終え、キャンパス人口も 10 万人を超えている。 大学とともに発足し、大正 8 年(1919)に教育 また、福岡空港から地下鉄で 35 分ほどの新キャ 制度の変更により工学部となった。九州における ICEP news No.85 2014.4 鉱物資源と素材生産の重要性に鑑み、大学の発足 年に採鉱学科が設置され、大正 3 年(1914)に 第 1 回卒業生(主に鉱山技術者)を輩出して以降、 ■地球工学講座の3研究室: 応用地質学、物理探査学、地球熱システム学 ■資源システム工学講座の3研究室: 昭和 51 年(1976)に資源開発工学科、平成 10 資源開発工学、岩盤・開発機械システム工学、 年(1998)に地球環境工学科地球システム工学 資源処理工学・環境修復工学 コース(学年定員 35 名)に改組しているものの、 総計約 2,220 名の資源系人材を一世紀に渡り継 ■エネルギー資源工学講座の研究室: エネルギー資源工学 続して輩出してきている。本年 3 月でちょうど の3大講座7研究室(教員数 20 名)で構成され 100 回目の卒業生も巣立ち、本年秋には発足時の ているが、2004 年の国立大学法人化以降におい 採鉱・冶金系の同窓会組織である「甲寅会」の百 ては大講座の役割は相対的に小さくなっている。 周年記念祝賀会の開催を予定している。 鉱物資源とエネルギー資源の地質、探査、開発、 一方、大学院教育は、昭和 28 年(1953)に 分離・回収、利用までの資源開発と生産に関わる 大学院工学研究科鉱山工学専攻としてスタートし、 資源系全般の人材育成に必要な教育カリキュラム 平成 10 年(1998)に大学院重点化により大学 と教員組織を発足時から概ね維持していることが 院工学研究科資源工学専攻に、平成 12 年(2000) 特徴である。また、7 研究室の海外からの留学生 に研究院制度の導入により工学府地球資源システ の在籍数は、本年 4 月現在 42 名であり、大学院 ム工学専攻に改組し、現在に至っている。現在の 学生の約 45%を占め、年々増加している。 修士課程及び博士課程における昨年度の修了者数 近年は 海外 フィ ール ドが 主な研 究対 象と なっ は、それぞれ留学生を含めて約 33 名及び 13 名 ていることから、国内外の研究機関、特にインド となっており、日本における主要な資源系人材の ネシアやタイ等の東南アジア諸国の研究機関との 育成を担っている。 連携プロジェクトも多く実施されている。各研究 以上のように、過去一世紀に渡り、各時代背景 室では、鉱物やエネルギー資源分野の課題研究を や産業界からの要請によって組織の変遷を経てい 実施すると共に、地球環境保全などのグローバル るものの、資源、素材、エネルギー及びそれらの な環境問題に関わる研究、自然災害の予測や防止 関連分野における技術者及び研究者を継続して輩 技術、非在来型エネルギー資源の開発、都市にお 出してきており、最近 10 年間ほどの「資源ブー ける資源のリサイクル、各種吸着材料を用いた環 ム」も影響してか、平成 17 年(2005)以前に 境修復技術など、周辺分野の研究も推進している。 比較して入学者及び進学希望者が確実に増加し、 産業界からの要望も多くなっている。 3. 資源分野の教育及び研究組織 研究組 織で ある 工学 研究 院地球 資源 シス テム 工学部門に所属する教員が主に工学部地球システ ム工学コース及び大学院工学府地球資源システム 工学専攻における資源系教育〔概ね海外の鉱山・ 石油工学(Mining & Petroleum Engineering) に相当〕を担っている。 部門の研究組織は、 写真 1 ビチュメンにおける油中水滴 エマルション(平均粒径 5μm) 17 ICEP news No.85 2014.4 九州の海洋資源については、昨年度から本学の 海洋システム工学部門の教員と、九州北部・西部 の海底下 炭層ガ ス生産 のフィ ージビ リテ ィ調査 (表 1 参照)、海底下鉱物資源の物理探査手法の 開発、サブシー生産設備や FPSO などの海上設備 についての情報交換と今後の開発推進母体となる 写真 2 「海洋資源開発・利用プロジェクト創出研究会」 実験室で生成させた重質油の CO 2 フォーミィオイル を九州地域産業活性化センター(麻生渡 会長)の 支援を得て立ち上げている 7) 。 5. 国際的資源と環境問題に関わる取組み 現在、資源枯渇や地球規模の温暖化による気候 変動などのグローバルな問題が私たちの日常生活 にもある種の“影”を落としている状況にある。 私の大学の講義においては、 「資源は入口、環境は 出口」という以下のような持論を学生に説明して いる。例えとして、地球は“金魚ばち”のような もので、エサ(資源)を多くとれば排出物も多く 写真 3 九州大学が登録した MEOR 用嫌気性石 油資化性微生物 AR80 の電子顕微鏡写真 3) なり、金魚ばちの水(環境)が汚れ、結果として 中の金魚(人間)が自分の排泄物によって不快な 環境に苦しむことになるが、かといって環境に気 4. 石油・天然ガス開発及び海洋資源開発への を取られてエサをとらなければ自身の生存や成長 取組み が危ぶまれることになるため、人類は資源とエネ 石油及 び天 然ガ スに 関連 した研 究と して は、 SAGD 法によるオイルサンドからのビチュメン 生産におけるエマルション生成 2) の影響(写真 1)、 い宿命も持っている。 私ども の地 球資 源シ ステ ム工学 部門 にお いて 重質油及び石炭等の原位置燃焼攻法の数値シミュ は、レアアース・レアメタルの資源量評価、海洋 レーションモデルの開発、中東重質油層に対する 資源の物理探査法、地熱・地中熱利用、鉱山の環 水蒸気攻法による油生産、CO 2 ガス圧入後の減圧 境修復、都市におけるリサイクル(アーバンマイ による CO 2 マイクロバブルを含む重質油(フォー ン)、低品位炭のガス化、CO 2 地中貯留、CO 2 を ミィオイル、写真 2)の増積率と粘度低下、石油 利用した資源生産と固定化、地下貯留層における 貯留層内の嫌気性石油資化性微生物を利用した石 微生物による CO 2 の CH 4 への転換 油増進回収(MEOR) 3) 、CO 2 圧入による炭層メ を重視したテーマに関わる研究を実施している。 タンガス生産 (CO 2 -ECBM)における流体浸透 4) 5) など、環境 一方、地球資源システム工学専攻においては、 、海底下のメタンハイドレー 世界展開力強化事業及びグリーンアジア国際戦略 ト層から熱水供給による統合化したガス生産シス プログラム(リーディング大学院)によるグロー テム(図1参照)などのテーマについて研究して バル人材養成事業を東南アジア諸国の大学と連携 いる。 して推進している。 率と増積率の変化 18 ルギー消費を伴う経済及び産業活動を止められな ICEP news No.85 2014.4 図1 1) 海底下メタンハイドレート層からの熱水供給によるガス生産と発電システム (海底下から 海上浮体へ生産したメタンガスをガスタービン複合発電に使用し、その発電廃熱をメタンハイドレ ート層の水平坑井群から低温熱水として圧入することでハイドレートの分解熱を供給する) サイトの水深:130 m 3 海底面からの炭層深度:370 m、 夾炭層厚さの合計:10 m、石炭の密度:1.2 ton/m 2 単位面積当たりの炭層のメタン埋蔵量:8.4 Nm3/m 面積 3 1坑井からのガス生産量:約2,000 Nm /day/坑井(水平井:×2) 1サイトの坑井数:約50本(水平井:25本)、ライフ:15年 坑井間隔:350 m 3 2 1サイトの面積:約7.8 km (サイト内包蔵メタンガス量 = 6.6億 Nm ) ガス生産量 100,000 m3/day = 0.365億 Nm3/年 坑井掘削・仕上げ費用:80 億円、プラント設備他:80 億円 3 年間ガス生産量:28.8 Mm /年、都市ガスとして販売する場合の収入:15 億円/年 ガス全量をガス火力発電に利用した場合の見込発電量:18 MW 表1 CBM 生産モデル(1サイトでのメタン生産量の目標値: 100,000 m 3 /day) 6) 6. 地球温暖化問題に関連した取組み て、CO 2 地中貯留に関連するモニタリング技術の 国連機関の IPCC が危惧する地球温暖化問題に 研究を、九州大学の広大な新キャンパスの特色を 対して、石油開発技術を適用し得る CO 2 地中貯留 生かした共同利用試験フィールドを利用して実施 技術が期待されている。これに関連する研究とし している(写真4参照) 7) 。世界における土壌あ 19 ICEP news No.85 2014.4 るいは岩石層から大気圏に放出されている CO 2 紹介する。深さの異なる 5 本の坑井が掘削されて ガス量は、人類の活動によって放出される温暖化 おり、地表及び土壌 CO 2 濃度/フラックスを測定 ガス量の実に約 8 倍の 2,020 億トン/年と推定さ するためのモニタリングポイントを 93 本設置し れている。この試験フィールドにモデル坑井を掘 ている(写真4)。主要坑井は深さ 100m の 2 本 削し、土壌 CO 2 ガスの測定法とモニタリングポス の坑井であり、ケーシングパイプと光明管でカバ トの開発を実施している。これは、地下微生物の ーし、下部は裸坑とし花崗岩層のフラクチャーに 働きによって主に土壌から CO 2 ガスが自然放出 接続する構造となっている。ケーシングパイプの されるが、気候(気温)と土壌水分などによって 内径は 102.3 mm 及び 76 mm であり、裸坑は 日々変動するため、地下貯留層からの漏えい CO 2 内径約 76 mm に掘削し、ケーシングパイプの外 ガスの明確な検出が困難であるため、長期信頼性 周はセメンチングを施すことで、坑井下部のみか の高い大気 CO 2 ガス濃度及び土壌 CO 2 ガスフラ ら流体の流入と流出が可能なように仕上げている。 ックスモニタリングポストを開発し、CO 2 貯留地 また、孔底が地下水面に近い深さ 20m の井戸を 域の安全・安心を保障することと土壌から大気へ 3 本掘削し、飽和水帯と不飽和水帯の挙動を分け 放 散 さ れ て い る 莫 大 な CO 2 ガ ス 量 ( 10~ 30 てデータ取得ができるように配慮している。これ 2 ton/km /日)の科学的バックグランドデータを らの坑井を利用して、人工的な CO 2 ガスフラック 取得・収録することを目標として取り組んでいる。 スを発生させ、自然 CO 2 濃度/フラックスとの相 伊都キャンパス・共同試験フィールドの状況を 写真 4 違などを明らかにする研究を進めている。 九州大学・伊都キャンパス共同利用試験フィールドにおける坑井、採取した花崗岩層の コア試料及び CO 2 モニタリングポストの試作機を用いた試験研究風景 20 8) ICEP news No.85 2014.4 6. おわりに Sugai (2014), The effect of megascopic 九州は、東アジアと東南アジアへの「ゲートウ texture on swelling of a low rank coal in エー」という地理的な位置付けにある。素材産業 supercritical carbon dioxide, International や造船業などにも優れた基盤技術を持つ地域であ Journal of Coal Geology 125 (1), pp. り、地下資源開発に必要な開発機械、掘削機械、 45-56. 海上浮体設備などを手掛ける特色を持つ企業も活 5) Y. Sugai, I.A. Purwasena, K. Sasaki, K. 動していることから、深部地下資源や海洋・海底 Fujiwara, Y. Hattori, K. Okatsu (2012), 資源開発を担う技術ポテンシャルを有している。 Experimental 九州大 学に おけ る鉱 物や エネル ギー 資源 開発 studies on indigenous hydrocarbon-degrading and hydrogen-producing に関わる人材の輩出は 2 世紀目に入っているが、 bacteria 世界を舞台とした資源開発やその生産現場におい restoration of natural gas deposits with てリーダーシップを十二分に発揮できるグローバ CO 2 sequestration, Journal of Natural ル人材の養成拠点となるためには、鉱物及びエネ Gas Science and Engineering 5, pp.31-41. ルギー資源に関連する産業界との緊密な連携が不 6) 佐々木久郎(2014), 九州の“海洋資源”につ 可欠である。ご支援をお願いしたい。 in an oilfield for microbial いて, 九州経済調査月報(九州経済調査協会), 2014-4, p.20. 参考文献 7) V. Susanto, K. Sasaki, Y. Sugai, T. 1) K. Sasaki, Y. Sugai, T. Yamakawa (2014), integrated thermal gas production from methane hydrate formation, SPE/EAGE European Unconventional Conference (Vienna, Resources Austria), SPE Yamashiro (2013), Mixing gas migration in fractured rock through unsaturated and water-saturated layer: Result of a pneumatic gas injection test, Energy Procedia 37, pp.3507-3512. 167780-MS. 2) K. Maneeintr, T. Babadagli, K. Sasaki, Y. 8) 佐 々 木 , 菅 井 , 川 崎 , 内 藤 , 川 村 , 福 馬 (2014), oil CO 2 貯 留 サ イ ト 上 に お け る 土 壌 並 び に 表 層 on CO 2 のモニタリングとバンダリーダムCCS oil-swelling factor and interfacial tension プロジェクト, 平成 26 年度資源・素材学会春 by 季講演会-低炭素社会構築のための CCS への Sugai(2014), Analysis emulsion-carbon using enhanced dioxide pendant oil of system drop recovery heavy method and for carbon 取り組み, 37-13. dioxide storage, International Journal of Environmental Science and Development 5 (2), pp.118-123. 3) I.A. Purwasena, Y. Sugai, K. Sasaki (2013), Estimation of the potential of an anaerobic 佐々木 久郎 (ささき 秋田県出身 専門:資源開発・生産工学 1984年3月 北海道大学大学院工学研究科博士 1985年4月 秋田大学助手、講師、助教授、教授 ~2005年7月 (工学資源学部地球資源学科) 2005年8月~ 九州大学大学院工学研究院地球資源 thermophilic oil-degrading bacterium as a candidate for MEOR, Journal of Petroleum Exploration and Production Technology 後期課程修了、工学博士 2013 (December), pp.1-12. 4) F. Anggara, K. Sasaki, S. Rodrigues, Y. きゅうろう) システム工学部門・教授 現在に至る 21