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節性リンパ球系病変の細胞診 - 日本臨床細胞学会群馬県支部

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節性リンパ球系病変の細胞診 - 日本臨床細胞学会群馬県支部
節性リンパ球系病変の細胞診
パパニコロウ染色とメイ・ギムザ染色による見方
群馬大学医学部保健学科検査技術科学専攻
蒲 貞行
「本テキストは、群馬臨床細胞学会主催ワークショップ(2015.1.24、於:前橋市)用に編集したもの
であり、許可なく当該会員以外による複写・転用を禁ずる. 参考文献を参照されたい. 2015.1.4 著者」
[はじめに] 日常診療でリンパ節腫脹の見られる場合,通常リンパ節穿刺細胞診が診療の1st stepとして行われる.
対象となる病変は施設の特徴にもよるが,概ね良性病変,癌の転移,悪性リンパ腫の順に多いことも念頭におく必要
がある.
リンパ球系病変の細胞診では,通常パパニコロウ(Pap)染色とメイ・ギムザ(M-G)染色を併用し,それぞれの特徴
を活かして観察し,最終的には1000倍(油浸)での確認が重要である.
本稿では,リンパ節構成細胞の理解,主な良性病変と悪性リンパ腫の細胞像,良性病変と悪性リンパ腫の基本的な
鑑別点などについて解説する.なお,リンパ節穿刺細胞診の正診率は約80%であるが,リンパ節捺印細胞診での細胞
像の解析が精度の向上に役立つため,本稿では主にリンパ節捺印細胞像を供覧する.
[標本作製法]
Mäy-Giemsa 染色法
捺印法について
・希釈 Giemsa 液(pH6~8 の水で 20 倍希釈)を準備する.
①
②
① 新割面を開く
・Mäy-Grünwald 液を塗抹面全体に盛り,2 分間固定する.
・ガラスの一端から静かに水を加え,2 分間静置する.
・染色液を盛ったまま流水槽に沈め,染色液を浮かせるよ
うに水洗する.
・水揚げした時点で速やかにガラス裏側の色素を拭く.
・準備した希釈 Giemsa 液を盛り,15 分間染色する.
② 割面の一端から反対の端へ
万遍なく押し当てる
捺印:割面を上に向け,上からスライドガラスを左側→
右側へ万遍なく押し当てる. 塗抹は 3 回/枚とする.
塗抹回数が多いと Pap.染色では乾いた所見を生じ易
い.
[標本観察法]
・1 枚ごと水洗し顕微鏡で素早く染色性を観察し,弱い場
合は残りの希釈 Giemsa 液で追い染めする.
・流水で水洗後,ガラスのラベル側を下端にし,縦にきれ
いな水で仕上げ洗いをする.(流水中のゴミの除去)
・ガラスのラベル側を下にし,立てて室温で自然乾燥を行
う.ドライヤーの強い風での乾燥は全体に青味を生じる
ため,できる限り離して弱い風で行う.
・キシロールで透徹し,封入する.
■リンパ節細胞診のすすめ方 <私の視点>
M-G染色: 私は,最初にM-G標本を総合倍率40~100倍で全体の塗抹状況(一様な出現性か,重積性部分の有無
について)を観察する【写真16】→次に400倍の視野に占める小型,中型,大型のリンパ球系細胞のおおよそ
の割合を観察する→400倍→1000倍で小型と中型細胞を正しく鑑別する【写真1,3】. 小リンパ球の出現率
が主体(50%以上)であれば良性病変が考えられる.逆に,小リンパ球が少なく,それ以外の細胞が主体を成す場合
は悪性リンパ腫が考えられる.さらにその上で構成細胞に多彩性が見られればT細胞性,ほぼ同様の染色性であ
ればB細胞性の悪性リンパ腫が考えられる.
Pap染色: 低倍率では結合性(癌の転移)や積乱雲構造(濾胞構造の有無) 【写真17】,さらには類上皮細胞,マクロ
ファージなどを観察する→必ず1000倍(油浸)で核形・核小体について観察する.小型の細胞でも「核形不整and
/or目立つ核小体目立つ核小体を含む細胞」の出現率に注目し,その出現率が主体(50%以上)であれば悪性リン
パ腫が考えられる【写真2,4】. 結合性は,未分化大細胞型リンパ腫【写真13】でも観察されることに留意する.
■リンパ節構成細胞の理解
《ポイント 1》リンパ球系細胞の分類【図 1,表 1】
・リンパ球系細胞にはB細胞およびT/NK細胞が含まれ,それぞれの分化成熟に応じて細胞形態が変化すると考えら
れる.図1は栗田3)により提示された分類であり,リンパ球系細胞が小リンパ球,中型リンパ球,リンパ芽球,大型
類リンパ球,免疫芽球などに分類されている.M-G染色は細胞分類を行う上で適している.
・リンフアデノグラム:良性病変では小リンパ球が平均80%占めるが,悪性リンパ腫では約15%程度と低く,悪性リ
ンパ腫ではその亜型ごとに他のリンパ球系細胞(中型リンパ球,大型類リンパ球など)の出現頻度が異なる.
・リンフアデノグラムは良性病変と悪性リンパ腫の鑑別に有用であるが,習熟すれば省略して差し支えない.
《ポイント 2 》リンフアデノグラムで重要なことは,M-G染色での小リンパ球と中型リンパ球の鑑別である.
・良性病変と悪性リンパ腫を鑑別診断する上で重要な学習ポイントである.
・蒲は「粗剛なクロマチンの中で,明らかに核小体と認識できない場合は小リンパ球」,「粗剛さが和らぎ,明らか
に核小体と認識できる場合は中型リンパ球」 と分類することにしている.【写真1,3参照】
・小リンパ球も細胞である故に核小体を有しており,時に「クロマチンが粗剛で,核小体を認識できる細胞」も見
られるが,核が小型で核形不整がなく,クロマチンが粗剛な場合は小リンパ球に分類することにしている.
《ポイント 3 》M-G染色によるその他の注目点.
・アズール顆粒:リンパ腫細胞の細胞質に明らかなアズール顆粒が認められる場合,極めて悪性のNK細胞性リン
パ腫と診断できることは有意義である.
・リンパ腫のT/B細胞性格の推定:B細胞リンパ腫(濾胞性リンパ腫の一部を除く)ではほぼ同様の細胞で構成さ
れ,T細胞リンパ腫(リンパ芽球型リンパ腫を除く)では多彩な細胞で構成されていることが多い.細胞性格の
推定率は約75%である2).
■良性病変での基本的事項
リンパ節に見られる良性病変には結核,トキソプラズマ,ウィルスを起因とする病変や,原因不明な病変(非特異
性リンパ節炎)など様々な病変が含まれ,その診断は細胞診的に必ずしも容易ではない.
ここでは,良性病変の基本的細胞像および腫瘍性病変(特に悪性リンパ腫)との鑑別を要する濾胞性過形成,壊
死性リンパ節炎,などの細胞像についての解説にとどめる.
1.濾胞性過形成:捺印Pap標本では濾胞構造を反映する「積乱雲様構造」【写真17】を認める.また,胚中心に由
来する大型類リンパ球の中等度増加(多い場合で約15%)や,Pap標本の強拡大(油浸)で軽度核形不整や小型な
がら明瞭な核小体を有する細胞を認めるため,しばしば後述の濾胞性リンパ腫との鑑別が必要とされる.両病変の
鑑別のためには,リンフアデノグラムにより主体が小リンパ球であることを確認することが必要である.
2. 壊死性リンパ節炎:中型リンパ球と共に大型類リンパ球や免疫芽球の軽度増加を呈する場合があるが,一般に
好中球は認めない.なお,症例によっては大型類リンパ球や免疫芽球が15%程度見られる場合, 末梢性T細胞性リン
パ腫との鑑別を要する. 主体は小リンパ球であり弦月状核を主とする組織球の確認により本疾患の診断は可能で
ある.
M-G染色で,全体的に小リンパ球が多く見られ,その中に大型類リンパ球や免疫芽球が散見されれば,多くの場
合良性病変が考えられる.その場合,小型の細胞が小リンパ球か,それとも中型リンバ球かを確認する必要があ
る. また,ホジキンリンパ腫【写真14,15】では,一見小リンパ球が多く,良性と思われる所見の中に,単核また
は多核で目立つ核小体(通常小リンパ球の核の大きさ.時にやや小型の場合もある)を有する大型細胞が出現す
るため注意する.
なお,良性病変では小リンパ球が平均85%程度占めるが,他に大型類リンパ球,免疫芽球,形質細胞あるいは好
中球など種々の細胞が混在する所見は,小細胞型リンパ腫との鑑別点となる.
M-G染色とPap染色の併用が望まれるが,濾胞性過形成では,核形不整や目立つ核小体を有する細胞,あるいは
壊死性リンパ節炎では大型細胞の出現頻度が高い傾向にあるが,標本全体を観察して判断する必要がある.
【注意】核濃染性小リンパ球:小リンパ球よりも小型で濃染性の核を持つが,核小体は目立たない.
アポトーシスの細胞と考えられるが,分類上は小リンパ球として扱う.【写真 1】
■悪性リンパ腫での基本的事項
悪性リンパ腫の細胞像の基本は,出現細胞の最も小型の細胞の種別を確認する.その小型細胞が小リンパ球で
あり出現頻度が 15%程度であれば,何らかの悪性リンパ腫の可能性がある.その上で,その他の細胞成分の出現
率を観察することで悪性リンパ腫の亜型を推定する.この判断は M-G 染色が適している.
Pap 染色は, 核形不整や目立つ核小体を有する細胞の出現頻度を観察することで,良性病変と悪性リンパ腫
の鑑別に有用である.
[標本観察法]を参照されたい.
○ B細胞リンパ腫[成熟(末梢性)B細胞リンパ腫]
1. 濾胞性リンパ腫【写真5,6参照】
腫瘍細胞は,胚中心に由来する中型リンパ球(centrocytes)や大型類リンパ球(centroblasts)に相当する中型
および大型の細胞が種々の割合で混合して出現する.中型細胞が優勢の症例(Grade 1),中型細胞と大型細胞が共
に増加している症例(Grade 2),および大型細胞が優勢の症例(Grade 3)に大別される.濾胞性過形成との鑑別
を要するが,M-G染色で小リンパ球が少なく,勾玉状核の中型細胞が増加し,かつPap染色で「積乱雲様構造」が認め
られれば本腫瘍と診断される.なお,穿刺細胞診で「積乱雲様構造」を認めることは稀である.
2. マントル細胞リンパ腫(写真3,4参照.解説省略)
M-G 染色では,ほぼ中型リンパ球で占められる.核形不整は軽度であるが,大小の核小体を複数有する細胞が大
部分を占めており,悪性リンパ腫と判断される.
Pap 染色では,悪性リンパ腫では一般に核形不整 and/or 目立つ核小体を有する細胞が大部分を占める.
3. びまん性大細胞型B細胞リンパ腫【写真7,8,12】
わが国で多く見られ,大型類リンパ球に相当する大型細胞が主体を占める悪性リンパ腫である.
なお,このカテゴリーには免疫芽球に相当する大型細胞が主体を成す免疫芽球型や,稀な症例ではあるがT細胞/
組織球豊富型【写真 12】なども含まれる. T細胞/組織球豊富型は,リンフアデノグラムによっても大型腫瘍細胞
(B細胞性)が10~20%程度であり,主体が良性の小リンパ球(Tリンパ球)より成ることから,細胞診での診断が
困難な症例の一つと言える.
○ T/NK細胞性リンパ腫
[前駆細胞性T細胞リンパ腫]
1. T前駆細胞リンパ芽球型リンパ腫/白血病
リンパ芽球(中型でN/C比が高く,繊細なクロマチン構造)に相当する細胞で占められ,単調な細胞像を示す.前
縦隔腫瘤を伴い,高率に骨髄浸潤が認められ,しばしば白血化を伴う.小児例が多いが成人にも見られる.
[成熟(末梢性)T 細胞リンパ腫]
2. 末梢性T細胞性リンパ腫,非特異型
T/NK 細胞性リンパ腫の中で,さまざまな定義のもとに分類された病変があるが,そのいずれにも当てはまらな
い疾患がここに分類される.ここでは,レンネルトリンパ腫とびまん性多形細胞型(中細胞型および大細胞型)に
ついて解説する.このカテゴリーの病変は,種々の細胞が混在するため, M-G 染色では多彩な染色性を呈する.
① レンネルトリンパ腫
中型リンパ球に相当する中型細胞が主体を成し,大型類リンパ球,免疫芽球,類形質細胞に相当する細胞なども
出現し末梢性T細胞性リンパ腫の特徴を示すが,全体に比較的小型の腫瘍細胞から成り良性病変と見間違える
場合がある.本疾患の特徴である類上皮細胞の増加は Pap 染色で確認し易く,更に強拡大(油浸)で核形不整,小
型ながら明瞭な核小体を確認することにより悪性リンパ腫としての判断が可能である.
②多形細胞型(中細胞&大細胞型)【写真 9,10】
主体を成す細胞は中型リンパ球に相当する中型細胞であり,大型類リンパ球,免疫芽球,類形質細胞に相当する
細胞のほか好酸球や類上皮細胞も散見されるなど,末梢性T細胞性リンパ腫の特徴を示す.症例によっては,大小
不同の顕著な例,クロマチンの凝集像が顕著な例,ホジキン様細胞の混在する細胞像を示す.
なお,こうした細胞像を呈し HTLV 感染が証明される場合は成人T細胞白血病/リンパ腫に分類される.
3. 血管免疫芽球性リンパ腫: Angioimmunoblastic T-cell lymphoma (通常 AITL と呼称される) 【写真 11】
中型リンパ球に相当する細胞が多数を占め,大型類リンパ球,免疫芽球,類形質細胞に相当する細胞のほか小型類
リンパ球(小型の異型リンパ球で,細胞質は狭く強塩基性,核形不整,クロマチンは濃染するものの核小体が明瞭な
細胞.反応性病変に見られる核濃染性の小リンパ球とは区別される),明細胞(細胞質が M-G 染色で塩基性を示さ
ず,中型の核を有する細胞),好酸球や類上皮細胞も散見されるなど末梢性T細胞性リンパ腫の特徴を示す.本病変
では形質細胞~類形質細胞~免疫芽球にわたる一連の細胞と明細胞の増加が見られる.
本病変は,近年濾胞ヘルパーT 細胞が濾胞外で増殖した病変との報告がある (Dupuis ら,2006)
○ Hodgkin リンパ腫
【写真 14,15】
WHO 分類(2001 年)での記載.
図1
・頚部に発生しやすい.
・若年成人に多い(日本:若年と中高年の 2 峰性).
・腫瘍組織:非腫瘍性炎症性成分の中に,単核[ホジキ
ン細胞:H 細胞]~多核[Reed-Sternberg 細胞:R-S 細
胞]の大型腫瘍細胞が散見される.
・腫瘍細胞:周囲は T 細胞により包囲されている.
【5 つの型に分類されている】
結節性リンパ球優位型 NLP: 主役は popcorn cell で,核
小体が小型で核形不整である.B 細胞性であることが判明した.
リンパ球豊富古典型 LP: リンパ球が多い.初期病変では
ないかと考えられている?
結節硬化古典型 NS: 日本に多い.典型的 R-S 細胞少.
混合細胞古典型 MC: 日本に多い.好酸球などが随伴.
リンパ球減少古典型 LD: R-S 細胞が多い.
★細胞診での各型の推定は必ずしも容易ではない.
★全体が反応性の像であっても,ホジキン細胞(単核
と多核)の有無に注意することが重要である.
小リンパ球と中型リンパ球の鑑別が
良性・悪性の判断を左右する.
表 1 リンパ節良性病変に見られるリンパ球系細胞: (MG染色)
細胞質の性状
文献3をもとに作成(蒲).
核の性状
核形・位置
大きさ
核小体の性状
クロマチン
狭く淡青のものが多い.
細胞質が豊富なものを
大リンパ球と呼ぶ.
核長径8±1μm
類円形
粗く凝集
しばしば塊状
(粗剛)
認め難い
細胞質は一般に狭少
核長径10±1μm.
核は小リンパ球より
やや大きい.
類円形~くびれ
粗剛感はない.
一部に凝集.
小型
細胞質は狭少
弱塩基好性.
N/C比が高く裸核状に
見えることが多い.
核長径10±1μm.
中型リンパ球と
ほぼ同大
類円形~多辺形.
しばしば切れ込みが
見られる.
繊細で密
しばしば小型
細胞径15~25μm程度の
大型細胞.
細胞質は弱塩基好性で中等
量、時に空胞が認められる.
核長径13±2μm
核はしばしば細胞質縁
に接する
細網状
中型で1~数個
細胞質は豊富
強塩基好性
核長径13±2μm
大型類リンパ球と
ほぼ同大
粗く顆粒状
1~2個で大型明瞭
細胞質は豊富で強塩基好性
特有の青紫色を呈し、
核周明庭を有する.
小型~中型
類円形で偏在
粗く凝集
斑紋状~車軸状
認め難い
核濃染性小リンパ球
細胞質は極めて狭い
(時に裸核状).
弱~好塩基性.
小リンパ球の核より
も更に小型
核形不整を示さず
濃染性
不明瞭
大型類リンパ球
免疫芽球
小リンパ球
small lymphocyte
中型リンパ球
medium-sized lymphocyte
リンパ芽球
lymphoblast
大型類リンパ球
large lymphoid cell
免疫芽球
immunoblast
形質細胞
plasma cell
【補足】
文献 5,6 などから引用した写真
小リンパ球が主体
核濃染性
小リンパ球
免疫芽球
中型リンパ球
小リンパ球が主体を
を成している
成している
写真 2 非特異性リンパ節炎(写真1と同一例).核は
写真 1 非特異性リンパ節炎
小リンパ球が主体を成しており良性病変と判断される.核
濃染性小リンパ球の混在も見られる.(M-G,原図 1000 倍)
小型でクロマチンは粗剛である.核小体は通常目立たな
い.核形不整 and/or 目立つ核小体を有する細胞は少な
く,小リンパ球が主体を成し良性病変と判断される.
写真 3
マントル細胞リンパ腫
写真 4
マントル細胞リンパ腫(写真 3 と同一例).
いずれも同様の細胞で構成され B 細胞性リンパ腫の像
いずれも中型で同様の細胞により構成される.核形不整は
である.核のクロマチン凝集が和らぎ核小体も観察さ
ほとんど見られないが,核のクロマチン凝集が和らぎ,核小
れ中型リンパ球が主体である.
体も大小複数有する細胞がほぼ 100%占めており,悪性リンパ
腫と判断される.核形不整 and/or 目立つ核小体を有する細
胞が主体を成し 悪性リンパ腫と判断される.
写真 5 濾胞性リンパ腫 いずれも中型リンパ球で占めら
写真 6 濾胞性リンパ腫 (写真 5 と同一例).核形不整
れる.核内空胞には免疫グロブリンを有するものと考え
and/or 目立つ核小体が 25%を遙かに超えている.積乱
られ, 濾胞性リンパ腫由来が強く疑われる.
雲構造が見られれば濾胞性リンパ腫と判断される.
写真 7 びまん性大細胞型リンパ腫
写真 8 びまん性大細胞型リンパ腫
大型類リンパ球で占められる.大型類リンパ球が増加
(写真 5 と同一例).大型類リンパ球が主体で,核形不整
し,核形不整や核の大小不同が目立つ場合悪性リンパ腫
and/or 目立つ核小体が主体を成すことから, びまん
が考えられる.空胞形成については症例により異なる.
性大細胞型リンパ腫と判断される.
中型リンパ球
大型類リンパ球
免疫芽球
類形質細胞
写真 9 多形細胞型(中細胞&大細胞型)
写真 10 多形細胞型(中細胞&大細胞型)
大小各種の細胞で構成されており,ここでの小型の細胞は
(写真 9 と同一例).核形不整 and/or 目立つ核小体が主
中型リンパ球である.多彩な細胞像は T 細胞性リンパ腫
体を成し, びまん性リンパ腫と判断される.大小各種
の特徴である.
の細胞で構成されているが,M-G の様に細胞分類するこ
とは難しい.
免疫芽球
形質細胞
類形質細胞
明
細
胞
写真 11 血管免疫芽球型 T 細胞リンパ腫:AITL.
形質細胞~類形質細胞~免疫芽球~明細胞など多
彩な細胞像を示す.これも T 細胞性リンパ腫の特
徴を示している.
反応性病変としないことが重要である.
末梢性 T リンパ腫の 15-20%を占める.
小型類リンパ球
中型リンパ球
大型リンパ球
【例外的な病変 その 1】
補足
細胞間に結合性が見られる悪性リンパ腫
腫瘍細胞が低頻度の悪性リンパ腫
類上皮細胞
【例外的な病変 その 2】
少数のリンパ腫細胞:B
多
数
の
T
小
リ
ン
パ
球
写真 13 未分化大細胞型リンパ腫
写真 12 細胞/組織球豊富型
59 歳、女
稀な症例ではある.リンフアデノグラムによっても大型腫
45 歳、 男
一般に悪性リンパ腫では密着性(結合性)は見られな
いが,この型ではリンパ腫相互の細胞間に密着性(矢
瘍細胞(B細胞性)が10~20%程度であり,良性の小リンパ球
印)が見られる.未分化癌の転移と鑑別を要する.
(Tリンパ球)が主体を成すため,細胞診での診断が困難な
結合性は Pap で観察し易い. ALK(p80)陽性例.
症例の一つと言える.
T/NK 細胞性リンパ腫の一型である.
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一型である.
類上皮細胞, 細胞間結合性, あるいは核所見などの観察には Pap.染色が適している.
悪性リンパ腫の細胞像は“単調な症例ばかりではない”
末梢性T細胞性リンパ腫,非特異型,成人T細胞白血病/リンパ腫,未分化大細胞型リンパ腫,濾胞性リンパ
腫などの様に,多彩,多形の細胞像を示す病変があり,一概に単調と評価することは適切ではない.
写真 14 リンパ節穿刺 Classical Hodgkin lymphoma (NS):
写真 15 リンパ節捺印 Classical Hodgkin lymphoma (LS):
小リンパ球や好酸球と共に単核のホジキン細胞が見られ
小リンパ球に囲まれた多核のホジキン細胞(R-S 細胞)が見
る. 全体が反応性の像を示す場合は,念のためホジキン細
られる.核小体が小リンパ球の核と同大であり診断は容易
胞の有無を確認する必要がある.
である.
HL では,核小体が小リンパ球の核と同大かそれ以上であれば診断は容易であるが,核小体が小型の場合,診断に苦慮する.
リンパ節捺印標本での低倍率細胞像 ※最初のページ[標本観察法]を参照されたい.
写真 16 M-G 染色 非特異性炎. 総合倍率 100 倍.
写真 17 Pap.染色 濾胞性過形成 17 歳,男.総合倍率 40 倍.
最初に M-G 標本で全体の塗抹状況,細胞の構成を観察する.
積乱雲様構造は Papanicolaou 染色で観察し易く濾胞構造を
次に倍率を高くし,小型の細胞が小リンパ球か中型細胞か
反映するが,壊れやすく封入は慎重に行う.
を観察する.ホジキンリンパ腫や T 細胞性リンパ腫との鑑
濾胞性過形成と濾胞性リンパ腫の鑑別が必要である.
別が必要である.
[参考文献]
1)栗田宗次,他:悪性リンパ腫を主とするリンパ節の穿刺細胞診,日臨細胞誌,32(6):1112-1117,1993.
2)蒲 貞行,他:リンパ節捺印細胞診の成績 -とくに,LSG分類に基づく非ホジキンリンパ腫について-,日臨細胞誌,22
(2):192-201,1983.
3)栗田宗次,須知泰山,ほか:悪性リンパ腫細胞診アトラス,名古屋大学出版会,名古屋,1994.
4)栗田宗次,蒲 貞行:造血器・網内系(リンパ節),細胞診の基本,下巻・各論,126-138,武藤化学,東京,1999.
5)蒲 貞行:(分担執筆)~基礎から学ぶ~細胞診のすすめ方.第2版(西 国広 編著),242-256,近代出版,東京,2007.
6)蒲 貞行:特集 細胞型別にみた細胞診―リンパ球系細胞の見方―,Medical Technology,31(6) :595-600,2003
7)蒲 貞 行,他:リンパ節スタンプ標本による反応性病変と悪性リンパ腫の細胞学的鑑別について,日本検査血液学会雑誌,5
(3):380-390,2004
8)蒲 貞行:特集 リンパ節細胞診標本の作製法と観察法,Medical Technology,33(12) :1279-1283,2005
9)蒲 貞行:パパニコロウ染色とメイ・ギムザ染色によるリンパ球系病変の鑑別点, 日本臨床細胞学会大分県支部会誌,19:16,2008
捺印標本の観察を基礎とするリンパ節細胞診の要点
■Pap.標本とM-G標本を併用する.
■最終的には、必ず油浸での所見を考慮する.
■細胞診で悪性リンパ腫を示唆する所見: ※但し、複数の所見を基に判断する.
M-G 標本でのアデノグラム:中型細胞以上の細胞が 50%以上を占める場合.
M-G 標本でのアデノグラム:大型類リンパ球が 15%を占める場合.
Pap.標本で、大型類リンパ球に核形不整が特徴的に見られる場合.
Pap.標本で核形不整または目立つ核小体を示す細胞が計 25%以上を占める場合.
Pap.標本は、核形不整、核小体、細胞間の結合性を観察する上で適している.
■症例により、Pap.標本とM-G標本の間には細胞診所見の難易差がみられる.
Pap.標本と M-G 標本とも、細胞診で悪性リンパ腫としての判断が可能な場合.
Pap.標本または M-G 標本のずれかが、細胞診で悪性リンパ腫としての判断が可能な場合.
※悪性リンパ腫としての判断が可能な標本を優先する.
Pap.標本と M-G 標本とも、細胞診で悪性リンパ腫としての判断が難しい場合.
※無理をしない. 但し、油浸を利用し、アデノグラム、核の大小不同性、核形不整、
クロマチンの凝集性、核小体所見などから、小リンパ球か否かの鑑別が参考となる
場合がある.
参考
甲状腺 MALT リ
ンパ腫細胞の
見方
Pap.標本
核と核小体の組み合わせ
類円形核
不整形核
目立たない核小体
長径1μm未満.
核・核小体ともに異型なし
核形不整のみ
①目立つ核小体
長径≧ 1μm.
②N/C 比≧1/4
③複数個の場合は
長径の和≧1μm.
目立つ核小体のみ
目立つ核小体を有する
不整形核
「ISN-PN」
「ISN-PN」 : irregularly shaped nuclei with prominent nucleolei
甲状腺では橋本病と MALT リンパ腫の共存例があり、また MALT リンパ腫の腫瘍細胞は
小~中型であることから、組織像での MALT ball 部分を観察し「核と核小体の関係」
について注目した. Pap.標本で ISN-PN が 20%以上であればリンパ腫の可能性が高い
(判別分析による確率:97%)
付録
肺のMALTリンパ腫の細胞像
甲状腺のMALTリンパ腫の細胞像
穿刺細胞像【引き離し法】(文献
3による)
甲状腺では、橋本病から MALT リンパ腫に移行することが多い。
そのため、腫瘍細胞像の理解が必要である。ISN-PN 細胞に注目されたい。
穿刺細胞診で橋本病と鑑別するための【common-MALT】の細胞像
(文献 1,3による)
以下の①~③の所見が揃えば、MALTリンパ腫の鑑別率は97%.(判別分析による)
(文献 1,3による)
①ISN-PN 細胞が 20%以上の場合、悪性リンパ腫(97%).
この所見により、LEL と FC 由来の細胞像が判明.
②好酸性上皮の中にリンパ腫細胞が見られた LEL 由
③総合倍率 40 倍の視野をはみ出す程に大きい集塊.
来細胞集塊. MALT リンパ腫の確率(83%).
集塊辺縁部にリンパ濾胞由来細胞とリンパ腫細胞が見
られる. MALT リンパ腫の確率(91%)
【注意】
1)MALTリンパ腫は、形質細胞の出現率が15%以上を示す【MALT-EPCD】(次ページ)と15%未満
の【common-MALT】に大別される.大部分は【common-MALT】である.
2)大型類リンパ球が15%以上示す場合は、びまん性大細胞型リンパ腫であり、MALTリンパ腫と
してはならない.【Common-MALT】での大型類リンパ球の出現率は平均5%程度であり、多くても
せいぜい15%未満である。(文献 3による)
著しく形質細胞への分化を示すMALTリンパ腫の穿刺細胞所見
【MALT-EPCD】 (文献 2,3による)
これらの症例はMALTリンパ腫の特殊型であり、形質細胞(出現率の平均24%:15-34%)であり
ISN-PN細胞との和が30%以上を示す。また、いずれもCD56-であり形質細胞腫とは異なる性格
を示す.
【関連文献】
1)甲状腺原発MALTリンパ腫のリンパ濾胞胚中心浸潤由来を示唆する山脈状集塊の細胞所見と
その意義.
蒲 貞行, 廣川 満良, 延岡 由梨, 樋口 観世子, 山尾 直輝, 鈴木彩菜, 高木 希,
小島 勝, 宮内 昭. 日臨細胞誌 2013: 52(5):428-436.
2)甲状腺原発での著しく形質細胞への分化を示すMALTリンパ腫の穿刺細胞所見: 7症例.
蒲 貞行, 廣川 満良, 延岡 由梨, 樋口 観世子, 山尾 直輝, 鈴木彩菜, 高木 希,
小島 勝, 宮内 昭. 日臨細胞誌 2013: 52(6):507-517.
3) Cytological Findings for the Diagnosis of Primary Thyroid Mucosa-Associated
Lymphoid Tissue Lymphoma by Fine Needle Aspiration
Sadayuki Kaba, Ph.D., C.F.I.A.C., Mitsuyoshi Hirokawa, M.D., Miyoko Higuchi, C.T., I.A.C., Ayana Suzuki C.T., Masaru Kojima, M.D.,
Akira Miyauchi, M.D.. Acta Cytologica. 2014.12.17. (published on line)
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