...

TV応用を目指す有機ELディスプレイの駆動方式 -現状と課題

by user

on
Category: Documents
10

views

Report

Comments

Transcript

TV応用を目指す有機ELディスプレイの駆動方式 -現状と課題
[特別招待論文] TV 応用を目指す有機 EL ディスプレイの駆動方式
-現状と課題-
服部 励治
九州大学大学院システム情報科学研究院 〒819-0395 福岡市西区元岡 744 番地
E-mail:
[email protected]
あらまし 大型 TV 応用のためのアクティブマトリックス駆動有機 EL ディスプレイ(AMOLED)の駆動方法は,
小型携帯応用パネルと異なり周辺回路へのコスト低減要求が緩和されるために,校正メモリーを用いた輝度補償法
を使うことができるようになる.これにより,小型パネルではピクセル内の回路において行われていた輝度補償が,
大型パネルではピクセル外で校正メモリーを用いた画像データとの演算により行われるようになるであろう.その
場合,低コスト化を実現するためには,どのように各ピクセルの TFT および OLED 特性を読み出すか,また,既存
のピクセル補償回路と組み合わせどのようにメモリーを節約するかが重要となる.将来,それら校正メモリーや演
算回路は映像エンジンの一部に含められ,有機 EL 素子のポテンシャルを最大に活かした有機 EL 専用の画像処理技
術が発達することにより,LCD や PDP では成しえなかった最高の TV 表示品質が可能となるであろう.
キーワード 有機 EL ディスプレイ,駆動方式,TV,校正メモリー,輝度ムラ補償,映像エンジン
Driving Method of OLED Display for TV Application
-Present Status and Future Challenges-
Reiji HATTORI
Department of Electronics, Kyushu University
E-mail:
744 Motooka, Nishi-ku, Fukuoka 819-0385 Japan
[email protected]
Abstract: The driving method of the active-matrix driven organic light-emitting display (AMOLED) for a large-sized TV
application can use the luminous compensation method using a calibration memory since the cost-reduction demand to a
peripheral circuit would be decreased in contrast with the small-sized panel for a cellular-phone. This fact enables that the
luminous compensation in the large-sized display is preformed by the arithmetic operation with image and calibration data
outside of the pixel although the compensation in the small-sized panel has been carried out in the pixel circuit. In this method,
it is critical for the cost-reduction how to observe the TFT and OLED characteristics in each pixel and how to save the
compensation memory size in combination with the pixel compensation circuit technique. In future, the memory and the
operation circuit will be included in a digital imaging engine that enables the ultimate TV image quality, which have never
been achieved by LCD or PDP, by developing the digital imaging processing technology utilizing the potential of OLED at the
maximum.
Keyword: organic light-emitting display, driving method, TV, compensation memory, luminous mura compensation,
imaging engine
1. は じ め に
一 方 , 他 に 大 型 TV 応 用 を 目 指 す 動 き が あ る . し か
2007 年 , ア ク テ ィ ブ マ ト リ ッ ク ス 駆 動 有 機 EL デ ィ
し , TV 応 用 は LCD で も ご く 最 近 に 成 し 得 た 技 術 で あ
ス プ レ イ (AMOLED)は 携 帯 電 話 メ イ ン デ ィ ス プ レ イ と
る .TV 応 用 は 小 型 携 帯 応 用 に 比 べ 寿 命・輝 度・階 調 ・
して韓国メーカーによって本格的な量産が開始された.
動画などへ,さらに厳しい特性が求められるからだ.
有 機 EL 産 業 に と っ て こ れ は 将 来 を 占 う 注 目 す べ き チ
LCD 技 術 者 か ら 見 れ ば ,小 型 パ ネ ル で も ま だ 満 足 に 量
ャ レ ン ジ で あ る . 液 晶 デ ィ ス プ レ イ ( LCD) の 高 性 能
産 で き て い な い の に ,大 型 TV 応 用 な ど は 10 年 早 い と
化 と 低 価 格 化 が 進 ん で い る 現 状 に お い て ,LCD と 競 争
感じるのは無理も無い.
して市場を勝ち取ることはそう簡単なことではない.
し か し ,AMOLED の ポ テ ン シ ャ ル を 最 大 限 に 引 き 出
そ れ で も ,AMOLED は 低 消 費 電 力・薄 型・高 画 質 を 武
す こ と が で き る の は TV 応 用 で あ る . 言 い 換 え る な ら
器に多くの企業で開発が進められている.
ば 大 型 TV こ そ が LCD や プ ラ ズ マ デ ィ ス プ レ イ( PDP)
との差異をしめすことができる応用であろう.現在,
グ を 用 い た 40 イ ン チ の LTPS パ ネ ル も 発 表 さ れ た が ,
TV 市 場 を 握 っ て い る LCD と PDP で あ ろ う と も ,決 し
どうしても繋ぎ目が目立ってしまうため市場には受け
て動画特性・高精細化に関して完全なものではなく,
入れられなかった.したがって,大型パネルにおける
ま だ 割 っ て は い る 余 地 は 十 分 に あ る .LCD に 対 し て は
バ ッ ク プ レ ー ン 技 術 は a-Si TFT, ま た は そ れ に 類 似 し
高 速 応 答 性 ・ 高 コ ン ト ラ ス ト ・ 高 視 野 角 , PDP に 対 し
た技術以外に無いということになる.
ては低消費電力性で優位性があり,加えて両者に対し
通 常 ,a-Si TFT の 電 界 移 動 度 は 1cm 2 /Vs 未 満 で あ る .
圧倒的に薄型である点で勝負すれば勝機があるかもし
こ の 移 動 度 は LTPS に 比 べ か な り 小 さ い 値 で あ る が ,
れない.
OLED を 駆 動 す る に は 十 分 な 移 動 度 で あ る . こ れ は 誰
TV 応 用 を 実 現 す る た め に は 小 型 パ ネ ル に 比 べ 更 に
もが簡単な計算で確かめられることである.しかし,
長 寿 命 化 ・ 高 輝 度 化 が 必 要 と な る . 当 然 , 有 機 EL の
一般的にはこの移動度では不足であるとよく言われる.
更なる材料・素子開発が必要であるが,それと共に駆
本当はどちらなのか?この問題に正確に答えるのは
動方法の開発も重要になる.また,低コスト化に対し
少々複雑である.
ても駆動方法は深く関係する.今まで行われてきた有
図 1は , OLED の 電 流 効 率 を パ ラ メ ー タ ー と し た ピ
機 EL の 駆 動 法 の 研 究 は 小 型 パ ネ ル 用 中 心 で あ り , 大
ク セ ル サ イ ズ 635µm×212µm に お い て 輝 度 400cd/m 2
型 TV 応 用 の た め の 駆 動 方 法 は ま た 別 の 要 素 が 加 わ り
を 得 る と き に 必 要 な TFT の 電 界 移 動 度 と ゲ ー ト 幅 の 関
係 を 示 し た も の で あ る .現 時 点 の OLED 素 子 の 実 力 か
全く違った駆動方法が主流となる可能性がある.
こ の 報 告 書 で は 今 後 AMOLED が 目 指 す べ き 最 大 の
ら 3 色 と も 電 流 効 率 10cd/A を 得 る こ と は 可 能 で あ る の
市 場 で あ る 大 型 TV 用 パ ネ ル に お け る 駆 動 法 を 論 議 す
で , こ の 図 よ り 一 般 的 な a-Si TFT の 電 界 移 動 度
る.
0.4cm 2 /Vs で も ゲ ー ト 幅 が 約 100µm の TFT で 上 記 の 輝
度 を 得 る こ と が で き , ピ ク セ ル 内 に 通 常 の 形 状 で TFT
を設計できることが分かる.
2. バ ッ ク プ レ ー ン 技 術
はじめに,大型パネルにおけるバックプレーン技術
を 考 え る . 新 し い 技 術 と し て 有 機 TFT や 酸 化 物 TFT
などがあるが,現時点で量産可能な選択肢はアモルフ
しかしながら,この時に必要な電圧より次の二つの
問題が生じる.
第 一 の 問 題 は ソ ー ス - ド レ イ ン 間 電 圧 15V で あ る .
ァ ス シ リ コ ン( a-Si)TFT と 低 温 ポ リ シ リ コ ン( LTPS)
通 常 , OLED 駆 動 電 圧 が 5V 程 度 で あ る こ と を 考 え る
TFT の 二 つ で あ ろ う .AMOLED が 開 発 さ れ だ し た 頃 は
と 3 倍も高い値である.両者は直列に接続され同じ電
電 流 駆 動 能 力 か ら 考 え て LTPS で の み 駆 動 可 能 で あ る
流が流れることを考えると,輝度を得るために必要な
と 言 わ れ て き た . し か し そ の 後 , a-Si TFT で も 駆 動 す
OLED で の 消 費 電 力 の 3 倍 が TFT で 消 費 さ れ て し ま う
るパネルも表れ,現時点では小型パネルにおいては両
ことになる.この電力はただ熱に変わるだけであり,
方 の 技 術 に よ る 駆 動 が 開 発 さ れ て い る .一 方 ,20 イ ン
こ の 熱 が OLED の 劣 化 を 促 進 さ せ て し ま う と い う 弊 害
チ を 超 え る 大 型 パ ネ ル に お い て は LTPS を 選 択 す る こ
も起こる.
と は で き な い . な ぜ な ら ば LTPS で 作 製 可 能 な パ ネ ル
第 二 の 問 題 は ゲ ー ト 電 圧 20V で あ る .a-Si TFT に は
寸 法 が 20 イ ン チ 以 下 で あ る か ら だ .今 ま で に タ イ リ ン
閾値電圧シフトと言う問題があることは有名であるが,
TFT を 駆 動 さ せ て い く う ち に こ の シ フ ト が 起 こ り , 設
1000000
ゲート幅(μm)
100000
1000
10
L = 400 cd/m
Vgs = 20 V
Vds = 15 V
Vth = 5 V
1
0.001
図1
ない.この電圧を供給するのはソースドライバーであ
り ,LCD と 比 べ る と か な り 耐 圧 の 高 い LSI を 用 い な け
1
2
5
10
20
10000
100
計 値 と し て は ゲ ー ト 電 圧 30V 程 度 を 考 え な け れ ば な ら
電流効率
(cd/A)
ればならないことが分かる.さらに,この電圧で
ON/OFF す る ス イ ッ チ ン グ TFT を 動 作 さ せ る た め , ゲ
ー ト ド ラ イ バ ー に は さ ら に 10V 程 度 高 い 電 圧 が 必 要 で
2
あ る .ま た ,ス イ ッ チ ン グ TFT に も 閾 値 電 圧 シ フ ト が
あ る こ と を 考 え る と ゲ ー ト ド ラ イ バ ー の 電 圧 は 40V を
超えてしまう.
こ の 様 な 理 由 か ら ,「 OLED を 光 ら す た め に は a-Si
TFT の 移 動 度 で OK で あ る が , 消 費 電 力 ・ ド ラ イ バ ー
0.01
0.1
移動度 (cm2/Vs)
1
10
OLED 電 流 効 率 に よ る 移 動 度 と TFT ゲ ー ト
幅の関係
LSI 電 圧 を 考 え る と 一 桁 程 度 高 い 移 動 度 が 欲 し い 」 と
言うのが正確な表現であろう.しかし反対に,くし型
TFT を 用 い て ゲ ー ト 幅 を 稼 ぎ , 閾 値 電 圧 シ フ ト を 何 ら
かの方法で抑制できるならば,この移動度でも大丈夫
いて用いられるバックプレーン技術は,先に述べたよ
で あ る と 言 う 事 も で き る . a-Si TFT で OLED を 駆 動 で
う に a-Si お よ び そ の 類 似 技 術 と 限 ら れ る た め ,TFT の
きるかできないかは,移動度の大きさだけでは結論付
特性バラツキは問題ない程度に抑えられる.問題はゲ
けることのできない複雑な問題なのである.
ート電圧ストレスによる閾値電圧シフトである.
この閾値電圧シフトの問題を解決するために,従来
は小型パネルと同じようにピクセル回路による補償技
3. 大 型 と 小 型 パ ネ ル の 駆 動 法 の 違 い
図 2は 大 型 パ ネ ル と 小 型 パ ネ ル に お い て , ど の よ う
術が用いられてきた.しかし,大型パネルにおいては
な 周 辺 LSI が あ る か を 示 し た も の で あ る .こ れ は LCD
周 辺 回 路 LSI を 増 や す こ と が 可 能 で あ る .よ っ て ,「 外
の 場 合 を 参 考 に 描 い た も の で あ る が , OLED の 場 合 で
部に特性バラツキのデータを保存する校正用メモリー
も 価 格 面 で LCD と ほ ぼ 同 じ 程 度 を 求 め ら れ る こ と よ
を搭載し,このデータを使って映像データに演算を加
り大きく違わないはずである.
え,バラツキを補償する」というのが最近の大型
携帯電話用の小型パネルにおいてはコスト低減要
AMOLED に お け る 輝 度 補 償 の ト レ ン ド で あ る .実 は こ
求 が 厳 し く ,実 装 で き る LSI の 個 数 は 一 つ に 限 ら れ る .
の校正用メモリーを用いた補償方法は古くから考えら
従 っ て , OLED の 輝 度 補 償 は パ ネ ル 側 に 任 さ れ , 複 雑
れ て い た . 最 初 の 特 許 は パ ッ シ ブ マ ト リ ッ ク ス ( PM)
なピクセル回路を用いて輝度補償を行うことになる.
OLED パ ネ ル に 対 し て 見 る こ と が で き る [1].
また,小型パネルでは低消費電力化の要求が高いこと
AMOLED パ ネ ル に 対 し て 校 正 メ モ リ ー を 用 い た 補
よ り LTPS 技 術 が 主 に 採 用 さ れ て い る が ,LTPS の 場 合 ,
償 方 法 が 提 案 さ れ た の は 特 許 [2]が 最 初 だ と 思 わ れ る .
TFT 間 に 閾 値 電 圧 と 移 動 度 の バ ラ ツ キ が 存 在 す る . こ
この方法は実際に量産ビデオカメラ用モニターに採用
れらのバラツキは,そのまま輝度バラツキとなって表
さ れ た .こ の パ ネ ル は メ モ リ ー を 持 つ こ と に よ り LCD
れる.現在の輝度補償方法は電圧プログラム法と電流
に対してコスト競争力が弱まってしまうが,ある程度
プログラム法に大別されるが,現状は最も低く部材コ
の歩留まりを確保するためには有用な方法であったで
ストが抑えられる前者が量産に採用されている.しか
あろう.
し,この方法は移動度のバラツキが補償できないため
にプロセスへの負担が大きくなり,歩留まりの不安要
4. 大 型 パ ネ ル 向 け 校 正 メ モ リ ー 補 償 シ ス テ ム
因の一つとなる.一方,電流プログラム法は,移動度
大型パネルで用いることのできる校正メモリーに
のバラツキも補償でき,高い歩留まりを期待できるも
よ る 補 償 シ ス テ ム は 特 許 [3]に よ っ て 初 め て 示 さ れ た .
のの,プログラム速度と定電流ドライバーの価格に問
図 3は , そ の ブ ロ ッ ク 図 で あ る . こ の シ ス テ ム で は ,
題があるとされている.
まず各画素に流れる電流を電源線より測定し,その結
一方,大型パネルでは周辺回路の占めるコストの割
合が低くなり,小型パネルほどコスト低減の要求は高
データ信号
く な い こ と よ り , 数 多 く の LSI を 実 装 で き る . ゲ ー ト
およびソースドライバーの他に,コントローラーや映
データドライバー
像 エ ン ジ ン な ど の LSI が 実 装 さ れ る . 大 型 パ ネ ル に お
コント
ローラー
図2
校正
メモリー
電流測定
素子2
電流測定
素子3
走査ドライバー
大型パネル
電源
結果を記憶するメモリー
電流測定
素子1
ゲートドライバー
小型
パネル
ゲートドライバー
ソースドライバー
演算素子
映像
エンジン
大 型 / 小 型 パ ネ ル に お け る 周 辺 LSI
図 3 校 正 メ モ リ ー を 使 っ た AMOLED パ ネ ル 回 路
果をメモリーに蓄積する.そして,このデータを用い
る こ と が で き れ ば OLED 寿 命 の 問 題 は な く な る こ と で
て 各 画 素 の TFT 特 性 の バ ラ ツ キ・特 性 シ フ ト を 演 算 素
あろう.しかし,そのためには各ピクセル内に受光素
子でデータ信号に加え輝度バラツキを校正する回路構
子を設け,発光輝度を測定しなければならない.この
成になっている.
場合,輝度測定回路を如何にピクセル内に設置するか
ここで電流を測定するタイミングであるが,低温ポ
が問題である.また,受光素子のバラツキ,劣化も考
リ シ リ コ ン (LTPS) TFT の 場 合 は 特 性 シ フ ト が 小 さ い
えなければならない.輝度フィードバックは最も理想
ので,工場出荷時に一度測定するだけでバラツキは補
的な補償方法であるが,技術的バリアも高い.
償される.したがって,電流測定素子はパネルに実装
現 時 点 で 現 実 的 な 方 法 は TFT お よ び OLED に 流 れ る
せず出荷時に外部回路で測定することができる.また
電 流 を 測 定 し , TFT の 閾 値 電 圧 と 移 動 度 , OLED の 発
この場合,電流を測定するよりも輝度を測定してその
光 効 率 を 補 償 す る こ と で あ ろ う .こ こ で TFT の 特 性 は
デ ー タ を 扱 う 方 が OLED の バ ラ ツ キ も 含 ま れ る の で ,
電圧-電流の関係を最低 2 点で測定することにより求
より高精度に補償できる.この輝度をフィードバック
めることができる.閾値電圧と移動度という 2 つのパ
す る シ ス テ ム が 正 に 先 に 述 べ た 特 許 [2]の 内 容 で あ る .
ラメーターを決定するために測定点は 2 点以上必要で
し か し , a-Si TFT の 場 合 は 閾 値 電 圧 シ フ ト が 輝 度 補
ある.
償 の 対 象 で あ る た め ,随 時 TFT の 特 性 を 測 定 す る 必 要
し か し , OLED の 発 光 効 率 は 電 気 的 特 性 か ら 決 定 す
がある.よって電流測定システムのパネル上への実装
る こ と は 難 し く , 電 流 発 光 効 率 が 一 定 と 仮 定 し OLED
は必須である.また,その測定のタイミングは閾値電
に定電流を供給することにより対応しなければならな
圧シフトが非常にゆっくりと起こるため,毎フレーム
い . す な わ ち , OLED の 電 流 発 光 効 率 は 一 様 で 劣 化 が
ごとに測定する必要は無い.この頻度がどの程度必要
無 い と し て い る . も し , OLED の 電 圧 - 電 流 特 性 よ り
であるかは議論のあるところであるが,測定に時間が
発光効率の変化が類推できるならばディスプレイとし
かかる場合は,電源投入時のみに測定することも可能
て の AMOLED 寿 命 を 飛 躍 的 に 延 ば す こ と が で き る で
である.また,電源投入後,パネル温度が影響を与え
あろう.
る 場 合 は TFT の 特 性 が 変 化 す る た め パ ネ ル 駆 動 中 に 電
流を測定するシステムが必要となる.
6. 電 流 読 み 出 し 方 法
先に述べた図 3 におけるシステムとしての問題点は,
5. 校 正 要 素
電 流 測 定 に よ る 接 点 数 の 倍 増 で あ ろ う . 図 4(a)は 1 ピ
この校正メモリーによる輝度補償システムにおい
ク セ ル で の デ ー タ の 流 れ を 示 し た も の で あ る . OLED
て 校 正 す べ き 要 素 は , TFT の 閾 値 電 圧 特 性 と 移 動 度 ,
に流れる電流は電源線より測定されるため,その電流
OLED の 発 光 効 率 な ど が あ る . 最 終 的 に は 入 力 値 に 対
測定のための接点数はデータ線数と同じとなる.よっ
する発光輝度が補償されればよい.これを直接補償す
て デ ー タ ド ラ イ バ ー と 同 じ 程 度 の 個 数 の LSI を さ ら に
データ
+
データ
校正
メモリー
+
A
校正
メモリー
A
TFT1
選択
TFT
(a)
駆動
TFT
選択
TFT
TFT2
駆動
TFT
(b)
図 4 ピ ク セ ル 電 流 測 定 方 法 . (a)電 源 線 よ り 測 定 , (b)デ ー タ 線 よ り 測 定 .
接続しなければならない.これによるコストの増加が
問題となる.また,この方法では電源線を縦方向にし
選択線2
か張れず,電源線における電圧降下が問題になりやす
い .電 源 線 に 電 圧 降 下 が あ る と ,2TFT ピ ク セ ル 回 路 で
選択線1
は 駆 動 TFT の ゲ ー ト 電 圧 の 変 化 に な る た め ,縦 方 向 の
クロストークが発生する.したがって,通常,電源線
データ線
こ れ ら の 問 題 を 避 け る た め に は 図 4(b)の よ う に ピ ク
セ ル 回 路 に TFT 数 個 を 加 え ,デ ー タ 線 を 通 じ て 電 流 を
TFT1
測定する方法が考えられる.この様にすれば測定素子
駆動
TFT
選択
TFT
をデータドライバーに内蔵することにより接点数の増
電源線
TFT2
は縦横メッシュ状に張られている.
加を避けることができ,電源線もメッシュ状に張るこ
とができる.
た だ し ,図 4(a)の 場 合 ,駆 動 TFT を 線 形 領 域 で 使 う
こ と が で き る と 言 う 利 点 を 持 つ .こ れ は a-Si TFT バ ッ
図5 データ線電流測定ピクセル回路
クプレーンで消費電力を劇的に減少させることのでき
る技術である.
図 4(b) に お い て 電 流 測 定 時 は 電 源 線 に つ な が る
TFT2 を OFF, デ ー タ 線 に つ な が る 二 つ の TFT1 を ON
に し ,駆 動 TFT を ダ イ オ ー ド 接 続 す る .ま た ,パ ネ ル
駆 動 時 は TFT2 を 常 時 ON に し , デ ー タ 線 か ら 電 圧 に
よ り 駆 動 TFT の ゲ ー ト 電 圧 を 決 め OLED の 電 流 量 を 制
御できる.
この書き込み方法は電圧による書き込みになるの
で,電流書き込みとは違い大型高精細パネルでも高速
に 書 き 込 め る . こ の 際 , TFT1 を OFF と す れ ば , 通 常
の 2TFT ピ ク セ ル 回 路 と 同 じ に な り デ ー タ 線 に 電 流 が
流れないので,ソースドライバーに電流負荷がかから
な い .し か し ,駆 動 TFT の ゲ ー ト に か か る 電 圧 は デ ー
タ 線 に お け る 電 圧 降 下 分 の 差 が で き る た め , OLED 電
流にズレがおこる可能性がある.さらに選択線と別に
TFT1 制 御 用 バ ス ラ イ ン を 設 け な け れ ば な ら な い .し た
が っ て , TFT1 は 選 択 TFT と 同 時 に ON/OFF す る 方 が
望 ま し い . ま た , 選 択 時 と 同 時 に TFT2 を OFF と す れ
ば,これは正に電流プログラム駆動法と同じになる.
図 5に 具 体 的 な デ ー タ 線 よ り 電 流 を 測 定 す る ピ ク セ ル
回路を示す.この回路は以前我々が発表した電流プロ
グ ラ ム と 同 じ で あ る [4].
し か し ,こ の 回 路 で は OLED に 2 つ の TFT が 直 列 に
接 続 さ れ て お り , ON 抵 抗 の 高 い a-Si TFT を 使 う 時 に
は消費電力の点で問題になる.また,ピクセル回路が
再び複雑になり,開口率・歩留まりの低下が懸念され
る . こ れ ら 問 題 に 対 し 図 6に そ の TFT を 一 つ 省 い た
3T1C の ピ ク セ ル 回 路 2 種 類 を 示 す . 図 6 (a)は カ ソ ー
ド コ モ ン , 図 6 (b)は ア ノ ー ド コ モ ン の 場 合 で あ る .
選択線
選択線
データ線
TFT1
駆動
TFT
データ線
電源線
TFT1
駆動
TFT
選択
TFT
選択
TFT
電源線
(a)
(b)
図 6 3T1C デ ー タ 線 電 流 測 定 ピ ク セ ル 回 路 (a)カ ソ ー ド コ モ ン , (b)ア ノ ー ド コ モ ン .
OLED の 整 流 特 性 を 使 っ て 選 択 線 1 本 と TFT1 個 を 節
上 げ る こ と が で き る . 例 え ば 通 常 の 2T1C ピ ク セ ル 回
約している.これら回路の場合,電流測定時には電源
路では電源線の電圧降下が現れ,クロストークの原因
線 ま た は OLED の ア ノ ー ド 電 位 を 低 く す る 必 要 が あ り ,
となるが,電圧プログラム法や電流プログラム法を用
電流測定を電圧書き込みと同時に行うためには電源線
いれば原理的に電源線に電圧降下があってもクロスト
を選択線と同期させ逆相で変化させなければならない.
ークは現れない.
また,この様に変化させるためには電源線が選択線と
以上のように校正メモリーによる駆動方法はこれ
平行に張られなければならない.これは電源線がメッ
以外に様々なバリエーションが考えられるが,接続点
シ ュ 状 で は な く ,さ ら に パ ネ ル の 長 辺 方 向 で あ る た め ,
数,バッファーメモリー容量,ドライバーコストなど
電源線における電圧降下が懸念され,横方向のクロス
全て総合的に考慮し,全体としてコストミニマムを与
トークが問題になる可能性がある.なお,これらの
える駆動・回路を導き出さなければならない.
3T1C の 回 路 も 以 前 我 々 が 示 し た 電 流 プ ロ グ ラ ム の 回
路 と 同 じ で あ る [5].
8. AMOLED 専 用 映 像 エ ン ジ ン
このように電流プログラム駆動法で用いたピクセ
以上のように校正メモリー補償方法では,巨大なメ
ル回路は,そのまま校正メモリーを用いた補償回路と
モリーと高速の演算処理が必要になってくる.メモリ
して用いることができる.違いは,電流プログラム法
ーはドライバー内ではなく単独チップに納められ,演
では電流を書き込むが,校正メモリー法ではその時に
算は高速の映像エンジンの中で映像処理の一部として
必要な電圧を書き込むということである.
行われる様になるであろう.また,映像エンジンとし
て AMOLED の 特 性 を フ ル に 活 か し た 映 像 処 理 が 求 め
7. ピ ク セ ル 回 路 補 償 と 校 正 メ モ リ ー 補 償
今 ま で の AMOLED の 輝 度 均 一 性 は ピ ク セ ル 回 路 に
ら れ る で あ ろ う .つ ま り ,AMOLED パ ネ ル の 基 本 的 設
計指針は如何にバラツキの無いパネルを作るかでなく,
よる補償が中心であった.本報告においては大型パネ
如何に映像エンジンの言うことを利くパネルを作るか
ルの校正メモリーによる補償方法を論議しているが,
になる.
前節で述べたように従来のピクセル回路補償方法とも
深い関係がある.これら二つの補償方法は別々に用い
9. ま と め
なければならないものではなく,ピクセル回路補償と
本 稿 で は 大 型 TV 応 用 AMOLED パ ネ ル に お け る 駆 動
校正メモリー補償の併用も考えることができる.これ
方法の一つである校正メモリーによる輝度補償方法を
により,従来のピクセル回路補償により校正量を減ら
示 し た . 大 型 パ ネ ル で は 小 型 パ ネ ル と 違 い , 周 辺 LSI
し,校正メモリー補償におけるメモリーサイズや演算
に対するコスト低減要求が強くないために校正メモリ
量を低減することができる.
ーの搭載が許される.しかし,この補償方法を用いる
5 節の構成要素で述べたように,1 ピクセルで補償
場合でもそのピクセル回路には数多くの種類が考えら
す べ き 要 素 と し て , TFT の 移 動 度 ・ 閾 値 電 圧 , OLED
れ,コスト・特性・歩留まりなどを考えて決定されな
の電流発光効率の 3 つが考えられる.それぞれの要素
ければならない.
のバラツキを記憶するのに必要なビット数は,それぞ
れの要素のバラツキによって変わる.もし,その要素
バ ラ ツ キ に よ っ て 100% 輝 度 が 変 わ っ て し ま う 時 , 最
小ビットの輝度変化を補償するためには,その要素に
割り当てられるべきビット数はデータビット数と同じ
であるべきである.すなわち,8 ビットの映像入力で
あれば校正メモリーにも 1 要素 8 ビットが必要である.
ハ イ ビ ジ ョ ン TV の 場 合 , ピ ク セ ル 数 を 1280×720,
フルカラー,8 ビット入力,校正すべき要素が 3 つと
して校正メモリーに必要なメモリーサイズを考えると
2 ギガ以上となる.この様な大きなメモリーを持つこ
とがどの程度コストインパクトがあるか,また演算量
がどの程度負担になるかは詳しく調べてみないと分か
らないが,ピクセル回路補償と組み合わせればこのメ
モリーは劇的に削減することができる.
また,ピクセル回路補償を用いることにより精度も
文
献
特 開 平 10-254410
特 開 平 11-282420
特 開 2002-278513
R. Hattori, T. Tsukamizu, R. Tsuchiya, K. Miyake, Y.
He, J. Kanicki; IEICE Transactions on Electronics,
Vol.E83-C, No.5, pp.779-782 (2000)
[5] T. Shirasaki, T. Ozaki, K. Sato, M. Kumagai, M.
Takei, T. Toyama, S. Shimoda, T. Tano, R. Hattori,
Proceeding of Society for Information Display,
pp.1516-1519, (2004)
[1]
[2]
[3]
[4]
Fly UP