Comments
Description
Transcript
「古今和歌集」⑴
LS1182HR101BZ–01 そで 「古今和歌集」⑴ ① 春立ちける日よめる きのつらゆき 紀貫之 へんぜう 遍昭 (夏の日に)袖を濡らして(手で)すくった(山の)清水が(冬には寒さで) ぬ 立春の日に詠んだ(歌) 袖 ②ひちて ③むすびし水のこほれるを春立つけふの風 ④やとくらむ 全 訳 凍っていたのを、立春の今日の(暖かい)風がとかしているだろうか。 にしのおほてら 西 大寺のほとりの柳をよめる たま い せ 伊勢 浅緑色の糸をより合わせて、(その糸で)白露を玉として貫いている、(美 西大寺の付近の柳を詠んだ(歌) ① 浅緑糸よりかけて白露を珠 ②にもぬけ ③る春の柳 ④か 全 訳 しい)春の柳よ。 ① かり 帰る 雁をよめる はるがすみ (春になり、北国へと)帰る雁を詠んだ(歌) 春 霞 立つを見すててゆく雁は花なき里に住み ②や ③ならへ る 全 訳 春霞が立ち込める(よい季節になったのに、それ)を見捨てて(北国へと 帰って)行く雁は、花が(咲か)ない里に住み慣れているのか。 なぎさ 渚 の院にて桜を見てよめる にしき ありはらのなりひら 在 原 業平 素性 そ せい もし(この)世の中にまったく桜(というもの)がなかったら、(人々の) 渚の院で桜を見て詠んだ(歌) 春の心は(本当に)穏やかだろうに。 花盛りに京を見やりてよめる 花の盛りに京(の都)を遠く眺めて詠んだ(歌) 紀友則 きのとものり (京の都を)はるかに眺めると、柳(の緑色)と桜(の色)を混ぜ合わせて、 桜の花が散るのを詠んだ(歌) 日の光がのどかな春の日に、どうして落ち着いた心もなく桜の花は散るの だろうか。 全 訳 ① ひさかたの光 ②のどけき春の日に ③しづ心なく花の散る ④らむ 桜の花の散るをよめる (ほかでもなく、この)都こそが春の錦(の織物)であることよ。 全 訳 見わたせば柳桜を ②こきまぜて都 ③ぞ春の錦なりける ① 全 訳 世の中に ①たえて桜のなかり ②せば春の心は ③のどけから まし 4 5 6 1 2 3 154 ■文法・語句チ ェ ッ ク ①春立ちける日 立春を指す。第四句の「春立つ」も同じ。 ②ひち 〈水につける・ぬれる〉という意の動詞「ひつ」の連用形。 ③むすびし 「むす(掬)ぶ」は〈両手ですくう〉の意。「し」は過去の 助動詞「き」の連体形。 「き」は直接体験した過去に用いる。 ④や…らむ 係り結び。 「や」は疑問を表す係助詞。「らむ」は現在推量 の助動詞「らむ」の連体形。 《掛 詞 》 「むすび」は「掬び」と「 (氷が)結び」の掛詞。「春」は「(氷 かけことば ◆プラス1点 が)張る」との、 「 (春が)立つ」は「 (氷を)裁つ」との掛詞。 《縁語》 「むすび(結び) 」 「春(張る) 」 「立つ(裁つ)」「とく(解く)」 は、 「袖」の縁語である。 まくらことば ①浅緑 「糸・野辺」などを導き出す 枕 詞 とす 〈浅緑色の〉の意。 る説もある。 ②にも 「に」は、ここでは〈…として〉という意の格助詞。「も」は係 助詞で、ここでは詠嘆の意を表している。 ③る 存続の助動詞「り」の連体形。 ④か 詠嘆の終助詞。疑問の意を表す係助詞「か」ではない。 ①雁 秋に北国から渡ってきて、春になると帰っていく渡り鳥。 ②や…る 係り結び。 「や」は疑問を表す係助詞。「る」は存続の助 動詞「り」の連体形。 ①たえ 下に打消語を伴い〈まったく〉という意を表す、 呼応(陳 て 述)の副詞。 ①見わ 「見わたす」は〈はるかに眺める〉の意。「ば」は已 たせば 然形に接続しているので、順接の確定条件を表す接続助詞。 休まる暇がないという嘆きの中に、桜に対する深い愛情が読み取れる。 見事に咲けば心が浮き立ち、散るとなると落胆する。桜によって心の ◆プラス1点 の未然形。 ③のどけから 〈気持ちが穏やかである〉という意の形容詞「のどけし」 止形。〈もし〜だったら、…だろうに〉の意となる。 は 順 接 の 仮 定 条 件 を 表 す 接 続 助 詞。 「まし」は反実仮想の助動詞の終 ②せば…まし 反実仮想の構文。「せ」は過去の助動詞「き」の未然形。「ば」 4 ①ひさかたの 《枕詞》「光・空」などの語を導き出す。 ③ぞ…ける 係り結び。「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 きまず」の連用形。 ②こきまぜ 〈混ぜ合わせる・かきまぜる〉の意のザ行下二段活用動詞 「こ 5 ④らむ 現在の原因推量〈どうして…するのだろう〉の助動詞。 ③しづ心 〈静かで落ち着いた心〉という意味。 けし」の連体形。 ②のどけき 〈(天候などが)穏やかだ〉という意味の形容詞「のど 6 1 2 3 ③ならへ 「ならふ」は〈慣れる〉という意味のハ行四段活用動詞。 古今和歌集 155 LS1182HR101BZ–02 LS1182HR101BZ–03 うたあはせ 「古今和歌集」⑵ ていじのゐん 亭子院の歌 合 の歌 きのつらゆき 紀貫之 紀貫之 桜の花が散ってしまった(その桜を散らせた)風のなごりとして、水のな 亭子院の歌合の歌 さくら花散り ①ぬる風の ②なごりには水なき空に波 ③ぞ立ちける 全 訳 い空に波が立っている(ように、花びらが舞っている)ことだ。 よ 山寺に ①まうでたりけるによめる やま べ か そで よみ人知らず 旅先で泊まって春の山のほとりに寝た夜は、(昼間見た現実の景色と同じ 山寺に参詣した時に詠んだ(歌) ② やどりして春の山辺に寝たる夜は ③夢のうちにも花ぞ散りける 全 訳 題知らず く)夢の中でも花が散っていたことだ。 さつき 題不明 たちばな 五月待つ花たちばなの香をかげ ①ば ②昔の人の袖の香 ③ぞ する 全 訳 五月を待って咲く 橘 の花の香りをかぐと、昔親しかったあの人(=かつ ての恋人)の袖の香りがするよ。 題知らず し たま み ぶのただみね 壬生忠岑 遍昭 はすの葉は(泥水に生えて、しかもその)濁りに染まらない(清らかな) はすの露をみて詠んだ(歌) へんぜう (日が)暮れるかと思うと(たちまち)明けてしまう夏の夜を、もの足り 題不明 にご はちすの露をみてよめる ないと(思って)鳴くのか、山のほととぎすよ。 か。 き ① 秋立つ日よめる おと ふじはらのとしゆき 藤 原 敏行 秋が来たと目にははっきりと見えないけれども、風の音で(秋の訪れに) 立秋の日に詠んだ(歌) はっと気づいたことだ。 全 訳 秋来ぬと目には ②さやかに見え ③ねども風の音に ④ぞ ⑤おどろかれ ぬる 心で(ありながら)、どうして(葉の上の)露を玉と(見せかけて人を)だますの 全 訳 はちす葉の濁りに染ま ②ぬ心 ③もて ④なにかは露を珠とあざむく ① 全 訳 暮るるかとみれ ①ば明けぬる夏の夜を ②あかずと ③や 鳴く山ほととぎす く 10 11 12 7 8 9 156 LS1182HR101BZ–04 ■文法・語句チ ェ ッ ク と「散ってしまった風」となるが、ここでは〈 (桜の花を)散ら ①ぬる 完了の助動詞「ぬ」の連体形。「散りぬる風」は直訳する せた風〉という意。 ②なごり ここでは〈風がおさまった後に残っている様子〉という意味。 ③ぞ…ける 係り結び。 「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 ◆プラス1点 風がおさまったあと空に舞っている桜の花びらを、水面に残る余波に 見立てている。 ①まう ダ行下二段活用動詞「まうづ」の連用形。ここでは〈参 で 詣する〉の意。 美化して「春の山辺に寝たる」と表現した。 ②やどり 旅先で宿泊すること。ここでは参詣した山寺に宿泊したのを ③夢のうちにも 〈夢の中でも〉の意。 「昼間、現実に花盛りの景色を見 たのはもちろん、夜、夢の中までも花が散っていた」と解釈する。 ①ば 已然形「かげ」に接続しているので、順接の確定条件を表す 接続助詞。 ②昔の人 〈昔親しくしていた人〉の意。ここでは、昔の恋人を指す。 こう ③ぞ…する 係り結び。 「する」はサ行変格活用動詞「す」の連体形。 ◆プラス1点 当時の貴族は男女を問わず衣服に香をたきしめていた。かつての恋人 は、橘の香りに似た香をたいていたのだろう。 ①ば 已然形「みれ」に接続しているので、順接の確定条件を表す 接続助詞。 終止形。ここでは〈もの足りない〉の意。 ②あかず カ行四段活用動詞「あく」の未然形+打消の助動詞「ず」の 詞の連体形。 ③や鳴く 係り結び。「や」は疑問の係助詞。「鳴く」はカ行四段活用動 はす ①はちす葉 蓮の葉のこと。 「はちす」は、「蓮」の異称。 ②ぬ 未然形に接続しているので、打消の助動詞「ず」の連体形。 た働きをする。ここでは、〈…で〉の意。 ③もて 「もちて」から転じた語。体言や連体形に接続し、格助詞に似 にかは」で〈どうして…か〉という意の連語。結びの語である「あざ ④なにかは…あざむく 「なに」は疑問の副詞。「か」「は」 は係助詞で、「な むく」は、カ行四段活用動詞の連体形。 ①秋立 「立秋(=暦の上でこの日から秋と定められた日)」を つ日 指す。 ②さやかに 形容動詞「さやかなり」の連用形。〈はっきりと〉の意。 接続助詞「ども」。全体で〈…ないけれども〉の意。 ③ねども 打消の助動詞「ず」の已然形「ね」+逆接の確定条件を表す ④ぞ…ぬる 係り結び。「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形。 ⑤おどろかれ 〈はっと気づく〉という意味であるカ行四段活用動詞「お どろく」の未然形に、自発の助動詞「る」の連用形が接続したもの。 古今和歌集 157 10 11 12 7 8 9 LS1182HR101BZ–05 こ うたあはせ 「古今和歌集」⑶ これさだの み 是 貞 親王の家の歌 合 によめる しか ね おほえの ち さと 大江千里 み ぶのただみね 壬生忠岑 月を見ると、さまざまに何となく悲しいことだ。私一人(だけ)の秋では 是貞親王の家の歌合で詠んだ(歌) 月見れば ①ちぢにもの ②こそ 悲しけれわが身ひとつの秋にはあら ③ねど 全 訳 是貞親王の家の歌合の歌 ないのだけれども。 やまざと 是貞親王の家の歌合の歌 山里は秋 ①こそ ②ことに わびしけれ鹿の鳴く音に目をさまし ③つつ 全 訳 おほしかふちの み つね 凡 河内躬恒 山里では秋がとりわけ寂しくつらいことだよ。(夜は)鹿の鳴く声に何度 も目を覚まして。 白菊の花をよめる 凡河内躬恒 当て推量で折るならば折ることにしようか。初霜が(一面に白く)降りて 白菊の花を詠んだ(歌) ① 心あてに折ら ②ばや折らむ初霜の置き ③まどはせる白菊の花 全 訳 (菊の花か霜かの)見分けがつかないようにしている白菊の花を。 もみぢ 池のほとりにて紅葉の散るをよめる 風吹け ①ば落つるもみぢ葉水 ②清み ③散らぬかげ ④さへ底に見えつつ 全 訳 池のそばでもみじが散るのを(見て)詠んだ(歌) 風が吹くと(木から)落ちるもみじの葉は(水面を美しく彩っている。そ 与されない花が咲いたことだ。 源 宗于 雪が降ると、(寒さのために)冬ごもりをしている草にも木にも、春に関 紀貫之 きのつらゆき 山里は(とりわけ)冬に寂しさがまさって感じられることだ。人の訪れも 冬の歌として詠んだ(歌) みなもとのむねゆき して)水が澄んでいるので、(まだ)散らない(で枝に残っているもみじの)姿ま 冬の歌とてよめる でも(池の)底に見え隠れしていることだ。 全 訳 雪ふれば冬ごもり ①せる草も木も春に ②知られぬ花 ③ぞ咲きける なくなり、草も枯れてしまうと思うので。 全 訳 山里は冬 ①ぞさびしさまさりける ②人目も草も ③かれぬと思へば 17 18 13 14 15 16 158 ■文法・語句チ ェ ッ ク ①ちぢ 〈さまざまに〉という意の形容動詞「ちぢ(千ぢ・千千) に なり」の連用形。あとにある「ひとつの」に対応させた表現。 ②こそ悲しけれ 係り結び。結びの語は、形容詞「悲し」の已然形。 ③ねど 打消の助動詞「ず」の已然形「ね」+逆接の確定条件を表す接 続助詞「ど」 。全体で〈…ではないけれども〉の意。 ①こそ 係り結び。結びの語は、形容詞「わびし」の …わびしけれ 已然形。 ②ことに ここでは、 〈とりわけ・ひときわ〉という意。 ③つつ 反復・継続〈ずっと…し続けて〉を表す接続助詞。 ①心あて 〈当て推量・あてずっぽう〉の意。 ②ばや…む 「ば」は未然形に接続しているので、順接の仮定条件 を表す接続助詞。 「や」 は疑問の係助詞。結びの語は、意志の助動詞「む」 の連体形。全体で〈〜だとしたら…しようか〉の意となる。 ③まどはせる 〈見誤らせる・区別できなくする〉という意の四段活用 動詞「まどはす」の命令(已然)形+存続の助動詞「り」の連体形。 ①ば 已然形に接続しているので、順接の確定条件を表す接続助詞。 意味を表す接尾語。ここは、 「澄んでいるので」と訳す。 ②清み 「み」は、主に形容詞の語幹について〈…なので〉という ③散らぬかげ 「かげ」は、ここでは〈姿・形〉の意。「まだ散らずに枝 に残っているもみじの姿」と解釈する。 解釈する。 みじだけでなく、そのうえまだ枝に残っているもみじの姿までも」と ①ぞ…ける 係り結び。 「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 山里では、特に冬が寂しいことを強調している。 か ①せる サ行変格活用動詞「す」の未然形+存続の助動詞「り」の 連体形。 点に注意して読む。 掛詞により、「人目も離れぬ」「草も枯れぬ」という構造になっている ◆プラス1点 詞の終止形。 目が離る」は、〈人の往来が絶える〉という意味。 「ぬ」は完了の助動 ③かれぬ 《掛 詞 》 「かれ」は、「人目が離れ」と「草が枯れ」の掛詞。「人 かけことば ②人目 ここでは、〈人の出入り・往来〉の意。 17 草木に積もった雪を、「春に知られぬ花」と表現している。 ◆プラス1点 ③ぞ…ける 係り結び。「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 詞「ず」の連体形。〈関与されない〉の意。 ②知られぬ 「れ」は受身の助動詞「る」の未然形。「ぬ」は打消の助動 18 13 14 15 16 ④さへ 添加〈そのうえ…までも〉の副助詞。「散って水面に落ちたも 古今和歌集 159 LS1182HR101BZ–06 LS1182HR101BZ–07 「古今和歌集」⑷ 雪の降りけるをよみける きよはらのふか や ぶ 清 原 深養父 きのとものり 紀友則 (今は)冬だけれども、空から花が散ってくるのは、(もしかして)雲の向 雪が降ったのを詠んだ(歌) 冬 ①ながら空より花の散りくるは雲の ②あなたは春に ③やあるらむ 全 訳 こうは(もう)春なのであろうか。 雪の降りけるを見てよめる ごと 雪が降ったので、それぞれの木に(真っ白な)花が咲いたことだよ(枝に 雪が降ったのを見て詠んだ(歌) 雪降れ ①ば木 ②毎に花 ③ぞ咲きにけるいづれを梅と分きて折ら ④まし 全 訳 積もった雪がまるで白梅の花が咲いたように見える)。どれを(本物の)梅と区別 大 よそじ 在 原 業平 ありはらのなりひら 臣の四十の賀、九条の家にてしける時によめる ほりかはのおほいまうちぎみ 堀河 して折ったらよいのだろうか。 んだ(歌) 堀河大臣(=藤 原 基経)の四十歳の祝賀を、九条の家で催した時に詠 ふじ わらの もと つね さくら花 ①散りかひくもれ ②老いらくの来むといふ ③なる道 ④まがふがに 全 訳 桜の花よ、散り乱れて(空を)曇らせよ。老いというものがやって来るだろうと いわれている道が分からなくなるように。 おほえの ち ふる こし ふぢはらのかねすけ 大江千古が越へまかりける ①うまのはなむけによめる 藤 原 兼輔 しらやま あ な た が( こ れ か ら ) 行 く 北 陸 の 白 山 は 知 ら な い け れ ど も、( 真 っ 白 な ) 大江千古が北陸地方へ下った(時の)送別会で詠んだ(歌) が きのつらゆき 紀貫之 (=湧き出る清水を石で囲んで溜めてある所)のほとりで言葉を交わした わ 志賀の山越え(=京都から大津市北部に出る山越えの道)の時に、石井 足しないであなたと別れてしまうことよ。 むことができない山の中にある石井の水のように、(十分にお話できないため)満 両手で水をすくう手の(間から落ちる)しずくのために、(すぐに)濁って十分飲 人と別れた時に詠んだ(歌) 全 訳 ① むすぶ手のしづくに濁る山の井の ②飽かでも人に別れ ③ぬるかな よめる 志賀の山越えにて、石井のもとにて物言ひける人の別れける折に し を探し求めて、(あなたの行く)後を尋ねて行きましょう。 雪の(降る)あいだあいだに、(あなたが)行く通りに(雪の上に残された)足跡 全 訳 君が行く越の白山しらねども ③ゆきの ④まにまに ⑤あとはたづねむ ② 22 23 19 20 21 160 LS1182HR101BZ–08 ■文法・語句チ ェ ッ ク ①ながら 接続助詞。ここでは逆接の確定条件を表している。 ②あなた 〈向こう〉という意味の代名詞。 ③や…らむ 係り結び。 「や」は疑問を表す係助詞。結びの語の「らむ」 は現在推量の助動詞「らむ」の連体形。 ◆プラス1点 空から降る雪を、花に見立てて詠んだ歌である。 ①ば 接続助詞。已然形に接続しているので順接の確定条件を表す。 ②毎 「ごと」は、名詞について〈それぞれ〉の意を表す接尾語。 ③ぞ…ける 係り結び。 「ぞ」は強調の係助詞。結びの語の「ける」は 詠嘆(過去)の助動詞「けり」の連体形。 は「いづれ」 )とともに用いて、迷いを含む意志を表す。「折ったらよ ④まし 「まし」は反実仮想の助動詞だが、疑問の意を表す語(ここで つくり いのだろうか」 「折ればいいのかしら」などと訳す。 ◆プラス1点 この歌では、第二句の「木毎」は「梅」の字の偏と旁を切り離して歌 り ごう に詠み込んだものだという解釈がある。和歌の技法にこのような技法 はなく、漢詩の「離合詩」という技法を応用したと考えられる。 ①散り 〈散り乱れて空を曇らせよ〉の意。 「か(交)ふ」 かひくもれ は〈行き違う〉という意味で、 ここでは花が散り乱れる様子を表す。 ②老いらく 「らく」は接尾語で、主に動詞の終止形についてその語を 名詞化する。 「老いらく」は「老ゆらく」が変化した形で、〈老いとい うもの〉の意。 ③なる 伝聞〈…そうだ・…といわれている〉の助動詞 な「り の」連体形。 ④まがふがに 「まがふ」は〈見分けがつかなくなる〉という意の四段 活用動詞の連体形。「がに」は上接した動詞の理由・目的を表す接続 助詞(終助詞という説もある)。ここでは〈…となるように〉という 意味。 ①うまのはなむけ 旅立つ人を送る、送別の宴のこと。 じょ ことば 音「知ら(ねども)」を導き出す。なお、「白山」は北陸の霊山・白山 はくさん ②君が行く越の白山 《序 詞 》 「 白 山 」 の「 し ら 」 の 音 が 直 後 の 同 かけことば のことで、「ゆき(雪)」の《縁語》でもある。 ③ゆき 《掛 詞 》「雪」と「行き」。「跡」の《縁語》でもある。 た、「ままに」と同様に〈(あなたが行く)通りに〉の意も持つ。 ④まにまに ここでは、〈(雪が降る)あいだあいだに〉という意味。ま ⑤あと 《掛詞》「(雪の上に残された)足跡」と「 (あなたの行く)後」。 ①むすぶ手のしづくに濁る山の井の 《序詞》清水が湧き出る場所 を石で囲んで水を溜めただけである簡素な石井では、手から漏れ 出るしずくのために、せっかくの井戸の清水が濁ってしまって十分に 飲めないことから、「飽かでも」を導き出す。 ②飽かで 「で」は接続助詞で、未然形に接続して打消接続を表す。〈満 足しないで〉という意味。 ③ぬる 完了の助動詞「ぬ」の連体形。 古今和歌集 161 22 23 19 20 21 み かさ 「古今和歌集」⑸ もろこし かすが あ べのなか ま ろ 阿倍仲麻呂 天の原ふりさけ見れ ②ば春日 ③なる三笠の山に出で ④し月かも ① あま 唐土にて月を見て詠みける 24 題知らず さつき よみ人知らず ほととぎす鳴くや五月のあやめ草 ②あやめも知らぬ恋もする ③かな ① しょう ぶ 名のように、(私は)物事の道理もわからない(ような、情熱的な)恋をすること ほととぎすが鳴く、この五月のあやめ草(= 菖 蒲)の「あやめ」という 題不明 よ。 全 訳 といふ所の海辺にて、かの国の人、⑦うまのはなむけしけり。夜になりて、 広々とした大空をはるかに仰ぎ見ると(月が出ているが、これは出発前に 唐の国で月を見て詠んだ(歌) 月のいとおもしろくさし出でたりけるを見てよめるとなむ語り伝ふる。 全 訳 日本で見た)春日にある三笠の山に出ていた月(と同じ)なのだなあ。 壬生忠岑 み ぶのただみね 春日の祭りに ①まかれりける時に、もの見にいでたりける女のも とに、家をたづねてつかはせりける その女の)家を探して贈った(歌) 春日大社の祭礼に参った時に、見物に出かけていた女の所に、 (あとで ② 春日野の雪間を分けておひいでくる草の ③はつかに見えし君 ④はも 全 訳 が)見えたあなただなあ。 よみ人知らず 思ふ ぬ 小野小町 (あの人のことを)思いながら寝たので(あの)人が(夢に)見えたのだ 題不明 ろうか。もし夢と知っていたなら、目を覚まさなかっただろうに。 全 訳 思ひつつ 寝れば ②や人の見えつらむ夢と知り ③せばさめざらましを ① を のの こ まち 春日野の雪の(消え)間をかき分けて生え出てくる(若)草のように、わずかに(姿 題不明 ほのかに(夜が)明ける明石の浦の朝霧の中を、島かげに隠れて(見えな が(派遣され)到着した時に、一緒になって帰国しようと思って出発したところ、 題知らず 月がたいそう趣深くさし上ったのを見て詠んだと語り伝えられている。 全 訳 ① ほのぼのと ②あかしの浦の朝霧に島隠れゆく舟を ③しぞ 25 くなって)いく舟を(しみじみと)思うことだ。 題知らず 明州という所の海岸で、その国(=唐)の人が、送別の宴を催した。夜になって、 長年を経ても、帰国できなかったのを、この国(=日本)からまた使い(=遣唐使) この歌は、昔、仲麻呂を唐の国に学問をさせに(日本が)派遣したところが、 かすが かりいたりけるに、たぐひてまうで ⑥来なむとて出で立ちけるに、明州 またの年を経て、 ⑤え帰りまうで来ざりけるを、この国よりまた使ひま この歌は、昔、仲麻呂を唐土にものならはしに遣はしたりけるに、あ 26 27 28 LS1182HR101BZ–09 162 LS1182HR101BZ–10 ■文法・語句チ ェ ッ ク ①天の原 ここでは〈広々とした大空〉という意味。 ②ば 已然形に接続しているので、順接の確定条件を表す接続助詞。 ③なる 断定の助動詞 な 「り の 」連体形。ここでは存在〈…にある〉の意。 ④し 過去の助動詞「き」の連体形。 「き」は、話し手が直接体験した 過去の回想に用いる助動詞。 き ⑤え…ざり 「え」は打消語と呼応し、不可能の意を表す副詞。「ざり」 は打消の助動詞「ず」の連用形。 く ⑥来なむ カ行変格活用動詞「来」の連用形「来」+強意の助動詞「ぬ」 の未然形「な」+意志の助動詞「む」の終止形。「きなむ」と読む点 に注意。 ⑦うまのはなむけ 旅立つ人を送る、送別の宴のこと。 まくら ことば ①ほのぼのと 《枕 詞》 「明石」を導き出している。また、「ほの かけことば ぼのとあかし」は〈ほのかに夜が明ける〉という実景でもある。 ②あかし 《掛 詞 》 「明かし」と「明石」を掛けている。 ③しぞ…思ふ 「 ぞ … 思 ふ 」 は 係 り 結 び。 「 し 」 は 強 意 の 副 助 詞。「 ぞ 」 は強調の係助詞。旅の心細さを強調した表現である。 朝霧の中、島伝いに漕ぎ出して消えるように見えなくなる小舟によっ ◆プラス1点 て、自らの旅の心細さを詠んだ歌である。 じょことば ①ほと 《序 詞 》あとにある「あやめ とぎす鳴くや五月のあやめ草 しょう ぶ (文目)」を導き出している。なお、「あやめ草」は 菖 蒲のこと。 とは、理性を失うほどの情熱的な恋のこと。 ②あやめ ここでは〈物事の道理・事の筋道〉の意。 「あやめも知らぬ恋」 ③かな 感動の意を表す終助詞。 ①まか れ り 〈 参 り ま す 〉 と い う 意 で あ る 四 段 活 用 動 詞「 ま か る 」 の命令(已然)形「まかれ」+完了の助動詞「り」の連用形。 ②春日野の雪間を分けておひいでくる草の 《序詞》「はつかに見えし」 を導き出している。 ③はつかに 〈わずか・ほんの少し〉という意の形容動詞「はつかなり」 の連用形。 ④はも 終助詞「は」+終助詞「も」。強い詠嘆・感動を表す連語。 ぬ ①寝れ 「寝れ」は下二段活用動詞「寝」の已然形。 「ぬれ」と読 ば む点に注意する。「ば」は順接の確定条件を表す接続助詞。 ②や…らむ 係り結び。「や」は疑問を表す係助詞。「らむ」は現在の原 因推量の助動詞の連体形。 は 順 接 の 仮 定 条 件 を 表 す 接 続 助 詞。 「まし」は反実仮想の助動詞の連 ③せば…まし 反実仮想の構文。「せ」は過去の助動詞「き」の未然形。「ば」 体形。〈もし〜だったら、…だろうに〉の意となる。 古今和歌集 163 26 27 28 24 25 LS1182HR101BZ–11 「古今和歌集」⑹ 題知らず を のの こ まち 小野小町 い せ 伊勢 うたたね(の夢の中)に恋しい人を見てからは、(はかなく頼りにならな 題不明 うたたねに恋しき人を見 ①てしより夢 ②てふものは ③頼みそめてき 全 訳 いと思っていた)夢というものを頼みに思いはじめるようになった。 そで (今夜の月は私の気持ちに)ぴったりと合って、物思いに沈む時の(涙で ① あひにあひてもの思ふころのわが袖に ②宿る月 ③さへぬるる顔 ④なる 全 訳 ぬ 濡れた)私の袖に映る月までも、(涙で)濡れる顔であることよ。 伊勢 もの思ひけるころ、ものへまかりける道に、野火の燃えけるを見 てよめる 冬枯れの野辺と我が身を ①思ひ ②せば ③もえても ④はるを待たましものを 全 訳 物思いに沈んでいたころ、外出した途中で、野焼きの火が燃えていたの を見て詠んだ(歌) もしも冬枯れの野原だと自分のことを思ったならば、たとえ燃えたとしても(芽 小野小町 が萌え出て若草が張る〈=野原一面をおおう〉)春を待つだろうけれども。 題知らず 色見え ①で ②移ろふものは世の中の人の心の花に ③ぞありける 全 訳 題不明 小野 篁 を ののたかむら (花ならば色あせるのがはっきりわかるが、)色が(目に)見えないで色あ せるものは、(ほかならぬ)世の中の人の心の花であったことだなあ。 の ①みまかりける時によみける いもうと 妹 親しい女性が死んだときに詠んだ(歌) さん ず (私が悲しんで)泣く涙が雨となって降ってほしい。もしその雨で(死後に) る ひ え 諒 闇になりにければ、 ②さらに世にもまじらずして比叡の ① りやうあん ぶく にんみょう かうぶり こけ たもと へんぜう 遍昭 亡くなり)諒闇になってしまったので、(以来)全く人付き合いもせずに 仁 明 天皇の御時に、蔵人頭として日夜親しくお仕え申上げたが、(帝が 濡れた私の)粗末な僧衣の袂よ、せめて乾くだけでもしてくれよ。 人々はみな(喪があけて)華やかな着物になったということだ。(悲しみの涙に だ(歌) 服を脱いで、ある者は位階を賜りなどして、喜んだのを(比叡山で)聞いて詠ん 比叡山に登って、出家してしまった。その翌年、(喪があけたので)人々はみな喪 ひ えいざん 全 訳 みな人は ⑤花の衣になりぬ ⑥なり苔の 袂 よ乾き ⑦だにせよ 御服ぬぎて、あるは 冠 たまはりなど、喜びけるを聞きてよめ ④ 山にのぼりて、③か し ら お ろ し て け り。 そ の ま た の 年、 み な 人 を、 深草のみかどの御時に、蔵 人 頭にて夜昼なれつかうまつりける くら うどの とう 渡る(三途の)川の水が増えたならば、(彼女は)帰ってくるから。 全 訳 泣く涙雨と降ら ②なむ渡り川水まさり ③なば帰りくる ④がに 33 34 29 30 31 32 164 ■文法・語句チ ェ ッ ク ①てし 完了の助動詞「つ」の連用形「て」+過去の助動詞「き」 より の連体形「し」+起点を示す格助詞「より」。 ②てふ 「といふ」が転化したもので、意味は〈…という〉。 ③頼みそめてき 「頼みそむ」は〈頼みにしはじめる〉という意味。「て」 は完了の助動詞「つ」の連用形。 「き」は過去の助動詞の終止形。 ①あひ 〈 (私の気持ちに)ぴったりと合って〉の意。「に」 にあひて は格助詞で動作を重ねることで強調する働きがある。 ②宿る ここでは、 〈映る〉という意味。 「涙で濡れた私の袖に、月影が 映る」と解釈する。誇張表現である。 ③さへ 添加〈そのうえ…までも〉の副助詞。「私が涙で濡れているこ とに加えて、そのうえ袖に映った月までも涙で濡れている」と解釈す る。 ④なる 断定の助動詞「なり」の連体形。連体形止めは詠嘆の意を表す。 かけことば ①思ひ 《掛 詞 》 「思ひ」と、 「火」 。 ②せば…まし 反実仮想の構文。 「せ」は過去の助動詞「き」の未 然形。 「ば」は順接の仮定条件を表す接続助詞。「まし」は反実仮想の 助動詞の連体形。 〈もし…だったら、…だろうに〉の意となる。 ③もえても 《掛詞》①で取り上げた「火」の縁語である「燃え」と、〈草 木が芽吹く〉という意味の「萌え」 。 「ても」は接続助詞「て」+係助 詞「も」で逆接の仮定条件〈たとえ…しても〉を表す。 ◆プラス1点 季節が巡る野原とは違い、情熱の炎をどれほど燃やそうとも、過ぎ去 った青春は戻らないことを悟った女性の悲しみが詠まれている。 ①で 打消接続〈…しないで・…せずに〉の接続助詞。 ①みまかり 〈死ぬ〉意の四段活用動詞「みまかる」の連用形。 した。 人の心を花にたとえ、「色が目に見えないが、色あせるもの」と表現 ◆プラス1点 ③ぞ…ける 係り結び。「ける」は詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 ②移ろふ ここでは、〈色があせる〉という意味。 32 ①諒闇 天皇が父母の喪に服する期間。ここでは仁明天皇自身の喪。 (終助詞という説もある)。 〈…するから〉という意味。 ④がに 動詞の連体形に接続し、その動作の理由・目的を表す接続助詞 続助詞「ば」。全体で〈もし…たならば〉の意。 ③なば 完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」+順接の仮定条件を表す接 ②なむ 他者に対する願望を表す終助詞。未然形に接続する。 33 ⑦だに 最小限〈せめて…だけでも〉の副助詞。 る。 ⑥なり 伝聞の助動詞の終止形。作者はこの時、都ではなく比叡山にい ⑤花の衣 〈華やかな着物〉の意。 「苔の袂」と対応する表現。 ④御服 ここでは〈喪服〉の意。 ③かしらおろしてけり 〈髪をそって出家してしまった〉という意味。 て完全否定を表す。ここでは打消の助動詞「ず」の連用形と呼応。 ②さらに…ず 「さらに」は呼応(陳述)の副詞。打消語と呼応し 34 29 30 31 ④はる 《掛詞》 「春」と、 〈一面におおう〉という意味の「張る」。 古今和歌集 165 LS1182HR101BZ–12 LS1182HR101BZ–13 「古今和歌集」⑺ 病して弱くなりにける時よめる ありはらのなりひら 在 原 業平 在原業平 最後には(だれもが)行く道とは前もって聞いていたけれども、(それが) 病気をして衰弱してしまった時詠んだ(歌) ① つひに行く道とは ②かねて聞き ③しかど昨日今日とは思はざりし ④を 全 訳 昨日今日(という差し迫ったことだ)とは思わなかったなあ。 題知らず 題不明 ① おほかたは月をも ②めでじこれぞこの積もれ ③ば人の老いとなるもの 全 訳 一般的には(賞美される)月でも(私はこれを)賞美しないつもりだ。こ ② ふち よみ人知らず れ(=月を見ること)こそが、積み重なると、人の老い(の原因)となるもの(だ からだ)。 題知らず あ す か がは (この)世の中では何が永久不変であろうか、いや変わらないものなど何 題不明 世の中は何 ①か 常なる 飛鳥川昨日の淵 ③ぞ今日は瀬になる 全 訳 よみ人知らず もない。明日という名の飛鳥川の昨日の(深い)淵が、今日は浅瀬になる(ように)。 世の中は夢か ①うつつかうつつとも夢とも知らず ②ありて ③なければ 全 訳 (この)世の中は夢なのか、現実なのか。現実とも夢とも(どちらなのか) 凡 河内躬恒 おほしかふちの み つね わからない。(世の中は)存在するけれども、 (実は)存在しない(ような、 不確かなものな)ので。 山の法師のもとへつかはしける う (憂き)世を捨てて山に入る人(=出家する人)は、山でもやはり辛い時は、 山の法師のもとへ贈った(歌) ① の嘆きもなく喜びもなきことを思ひてよめる きよはらのふか や ぶ 清 原 深養父 よい時勢にあって栄えていた人が、急に(その)繁栄を失って嘆くのを 見て、自分自身が嘆きもなく喜びもないことを思って詠んだ(歌) もない。 光のない谷には春も無関係なので、(花が)咲いてすぐに散る(という)心配ごと 全 訳 ② 光なき谷には春も ③よそなれば ④咲きてとく散るもの思ひもなし 時なりける人の、にはかに時なくなりて嘆くを見て、みづから (今度は)どこへ行くのだろう。 全 訳 世を捨てて ①山に入る人山にても ②なほ憂き時は ③いづちゆくらむ 39 40 35 36 37 38 166 ■文法・語句チ ェ ッ ク ①つひ 「つひに」は〈最後に・結局〉という意の副詞。 「つ に行く道 ひに行く道」とは、 最後にはだれもがたどる「死出の旅路」のこと。 ②かねて ここでは〈前もって・あらかじめ〉という意の副詞。 ③しかど 過去の助動詞「き」の已然形「しか」+逆接の確定条件を表 す接続助詞「ど」 。全体で〈…だったけれども〉の意。 ④を 感動・詠嘆を表す間投助詞。 この和歌は「昔、男、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ(=昔、 ◆プラス1点 あ る 男 が 病 気 と な っ て、 そ の 病 気 で 死 ぬ に 違 い な い と 思 っ た の で )」 という詞書を伴って、 『伊勢物語』の第一二五段にも収録されている。 ①おほかた 〈一般的に〉という意味。 ②めでじ 〈賞美する〉という意の下二段活用動詞「めづ」の未然 形+打消意志〈…しないつもりだ・…したくない〉の助動詞の終止形。 ③ば 接続助詞。已然形に接続しているので、順接の確定条件を表す。 ◆プラス1点 月の周期で暦を数える陰暦では、月の移り変わりはそのまま年月の経 過となる。また、アジアには月見を楽しむ風習があるが、月を見るこ とを不吉だとする俗信もあった( 『竹取物語』などにも見られる)。 かけことば あ す ①か常なる 係り結び。 「か」は疑問・反語を表す係助詞。ここで は反語。結びの語は形容動詞「常なり」の連体形「常なる」。 れ、 「昨日」 「今日」の縁語となっている。 ②飛鳥川 《掛 詞 》 《縁語》 「飛鳥川」の「あす」には「明日」が掛けら ◆プラス1点 ③ぞ…なる 係り結び。「なる」は四段活用動詞「なる」の連体形。 「昨日」「今日」「明日」という語が並び、時の流れが暗示されている。 ①うつつ ここでは〈現実〉の意。「夢」の対義語。 ②ありて 「あり」はラ行変格活用動詞「あり」の連用形。ここで は〈存在する・実在する〉の意。この「て」は逆接の条件を表す接続 助詞。 ③なければ 「なけれ」は形容詞「なし」の已然形。「あり」の対義語で 〈存在しない〉の意。「ば」は順接の確定条件を表す接続助詞。 ①山に入る人 ここでは〈出家する人〉の意。 ②なほ 〈やはり〉という意味の副詞。 「らむ」は現在推量の助動詞の連体形。全体で「どこへ行くのだろう」 ③いづちゆくらむ 「いづち」は〈どこへ・どちらへ〉の意の疑問の副詞。 と訳す。 ①時な 「時」は、 ここでは〈勢いの盛んなとき〉の意。 「時 りける人 なりける人」とは、よい時勢にあって栄えていた人のこと。 ②光 天皇の恩恵をたとえた表現。「光なき谷」とは、出世には恵まれ なかった作者自身を指す。なお、直後の「春」は恩恵によって得られ る立身出世などをたとえている。 ③よそ ここでは〈無関係・無縁〉という意味。 ④咲きてとく散る 〈(花が)咲いてすぐに散る〉の意。手に入れた権勢 が、すぐになくなってしまうことのたとえ。 古今和歌集 167 38 39 35 36 37 40 LS1182HR101BZ–14