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グローバリゼーションと旅館労働力の再編

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グローバリゼーションと旅館労働力の再編
グローバリゼーションと旅館労働力の再編
山口 恵子 温泉観光地は、ジェンダー化され周辺化された再生産労働の集積地である。
近年、
グローバル化が進むなか、温泉観光地で、労働力の再編が進んでいる。本稿は、温泉
観光地おける旅館・ホテルの労働力再編を事例として、労働力の動員・設置と差異の
再導入について検討を行う。事例とした旅館では、青森からの出稼ぎや地元のイン
フォーマルな派遣を利用して、女性の周辺労働力を動員してきた。
しかし近年、旅館
の合理化、管理化、仕事の外注化が進んでいる。
その結果、基幹労働力化が進められ
る一方で、周辺労働力は他のアジアからの研修生、若年派遣労働者、外注化された地
元の主婦パート労働者に代替されるようになった。
そして、出稼ぎなどの流動的な中
高年労働者は、労働市場から排除された。
この労働力の動員・配置からは、変わらない
ジェンダー化に加えて、エイジズムによる差異化もみてとれる。
これは製造業とは異
なり、コスト面のメリットのみならず、
「おもてなし」
を重視する旅館労働というサー
ビス業の特性にも関わると考えられる。
日本国内の流動的な女性労働力を動員して
きた旅館労働でも、
〈再生産領域のグローバル化〉の進行がみられ、また多様な周辺
労働者の競合が始まっている。
キーワード:グローバリゼーション、
周辺労働、
ジェンダー秩序
1 問題設定
1.1 温泉観光地の旅館労働
本稿は、グローバリゼーション下の温泉観光地における、旅館・ホテルの労働力再編に注目
し、
労働力の動員・配置の内実と差異の再導入の意味について検討するものである。
日本の温泉観光地は、女性の労働力を多く吸収してきた場所である。温泉観光地の主力の
旅館・ホテルでは、客に密着したサービスを行う仲居などの接客、宴会、配ぜん、調理、清掃な
どの仕事で、多くの女性が働いた。武田尚子と文貞實は
「旅館従業員の労働市場は、低賃金で
働く、
分断された労働者の市場であり、
その担い手としては女性を募集し、
集積させてきた。
し
理論と動態
59
かし、このような労働市場の特性は女性に親和的で、皮肉なことにさらに女性労働者を呼び
込むプル要因として機能している」
という
[武田・文 2010:187]
。
また、旅館・ホテルの外でも
大きな温泉観光地には、
「芸者」
の置屋が多数あり、旅館やホテルへと女性を派遣した。
軒を連
ねたさまざまな飲食店・小売店でも多くの女性が働いた。
温泉観光地は、ジェンダー化された
多様な
「サービス業就業者特化地域」
[武田 2006]
であり、
再生産労働の集積地であった1)。
そこでは、温泉観光地の地元の女性はもとより、周縁部から移動してきた女性、労働移動を
重ねる女性など、地理的な面でも、雇用条件の面でも、流動的な労働力を動員してきた。
その
不安定就労の蓄積の上で、これらの地域は、生活保護率や母子世帯率が高く、貧困が集積する
場でもあった
[山口 2005; 武田・文 2010]
。
ジェンダー研究においては、1980年代より
〈労働力
の女性化〉
〈移動の女性化〉
〈貧困の女性化〉
という概念が次々と検討されてきたが、日本の温
泉観光地は、
かつてよりそれらが集積したような空間であったといえよう。
西澤晃彦は、この地方都市の旅館・ホテルや風俗産業の従業員になって寮に入るというパ
ターンを、
非組織・非定住の状況にあり、
より不安定な労働力として社会に接合されている
〈都
市下層〉
に至る人の流れのひとつと指摘している
[西澤 1995, 2000]
。
また岩田正美は、空間的
に表現される社会的排除について、
「主要な社会関係から排除されながら、生身の体はその社
会空間から消えてなくなることはできないような矛盾の中にある排除」
とし、この矛盾を解決
するのが、
「同じ社会空間の中に、排除された人々を引き受け、そこに隠蔽あるいは隔離する
特殊空間の形成」であるという
[岩田 2008:108-9]
。温泉観光地は、ジェンダー化された周辺
労働の集積する
「特殊空間」
であったといえる。
1.2 研究目的
グローバリゼーション下の労働力の編成を論じた研究は少なくない。
しかし、日本の社会
学を中心とした
「外国人労働者」の研究は、外国人労働者のみに注目し、エスニシティや定住
化の側面に関心が集中する傾向にあった。
一方で労働研究においては、寄せ場研究と同様に、
外国人労働者の研究は周辺的なものとして扱われてきた。
また、近年では非正規雇用化の増
大とともに、若年派遣労働者の労働問題が関心を集めて久しい。
しかしこれらの問題関心は
各々で独立して追及される傾向にあり、グローバリゼーション下において日本の労働市場全
体の構造変動が進むなかで、こうした周辺労働力がどのように競合させられつつ位置付けら
れているのか、
という視点が希薄であったと思われる。
こうしたなかで、産業編成と地域労働市場の変容について、とりわけ周辺労働力の再編に
注目した研究に、丹野清人による越境する雇用システムと外国人労働者に関する一連の実証
研究がある
[丹野 2007]
。
丹野は、
豊田市内の自動車製造業に関する研究から、
景気低迷下にお
いて外国人労働者から日本人労働者への置き換えが進むという、周辺部労働力間の新たな競
争の生成を論じている。
つまり、大手企業における
「外国人労働力」
の撤退が、外国人の自社直
接雇用から日本人社外工への置き換え、および業務請負業から送り出されてくる社外工内に
おける外国人から日本人への代替という形をとる。
さらにより下位の下請会社においては、業
務請負業から送り出される間接雇用の外国人労働者が占めていた仕事に、パートタイマーの
女性と業務請負業から送り出される高齢者が取って代わる。
こうして外国人労働者が条件の
60
低い労働市場へと下降させられているという
[丹野 2003]
。
グローバル化のコスト圧力のなか
で、企業は
「戦略的に現業職労働者の最適な組み合わせである
『労働力ポートフォリオ』
」
[丹
野 2003:53]
の構築を進めており、主にコスト面の利益がそれを促している。
丹野は、こうし
た変動を引き起こすグローバリゼーションの本質について、
「差異の再導入」
であると指摘し
ている
[丹野 2007]
。
早い段階から高度な重層的下請システムを構築し、社外工や期間工、出稼ぎなどの非正規
労働を制度化してきた自動車製造業であるが、外国人労働者の利用という点でも、業務請負
業において
「日系人」
を多く動員し、他産業に先駆けてグローバル化を図ってきた。
その産業に
おいて、
近年は主にコスト面からこうした周辺労働力の再編が起こっているという。
しかし、サービス業の、とりわけ旅館・ホテルなどの宿泊業においては、こうしたコスト面の
みで労働力が置き換えられるわけではない。極力マニュアル化され、省力化された製造業と
は異なり、旅館・ホテルなどの
「おもてなし」
を重視するタイプの対人サービス業は、肉体労働
かつ強い感情労働が求められる
「半ケア労働」である
[武田・文 2010]
。
グローバリゼーション
下のサービス業における労働力再編は、丹野の指摘とは異なった差異の再導入の秩序がある
と思われる2)。
ここでは、サービス業の中でも流動的で排除された労働である旅館・ホテルに
注目する。
そうした労働において、誰が動員され、差異はどのように再導入されているのか。
そ
してそれはどのような排除と結びついているだろうか。
本稿で用いるデータは、東京の近県に位置し、主に東京圏の客を受入れることで歴史を重
ねてきたA温泉における調査による。後述するように、A温泉は大規模な温泉観光地であり、
「東京の奥座敷」
として、日本の経済の高度成長期を通じて、大いに栄えた。
調査は2006年から
継続しており、
2日間などの短期から、
3週間ほどの長期まで、
複数回の滞在により行った。
調査
方法は、
聞き取りや参与観察、
資料収集などの質的調査である3)。
以下、まずは旅館・ホテルの労働の特質について、旅館・ホテルの経営状況、労働と労働市場
の特質、そこに動員される労働者について整理する。
次に、温泉旅館における周辺労働力の変
化について、事例から、仕事の内容とその担い手に注目して整理する。
さらにそれを受けて労
働力の動員と配置、
その帰結について検討する。
最後に考察を行う。
2 旅館・ホテルの労働
まず、旅館・ホテルなどの宿泊施設における労働の一般的特質について、先行研究や資料、
聞き取りデータよりまとめる。
なお、旅館業法によると、宿泊業はホテル、旅館、簡易宿所や下宿業からなる。
しかしその営
業形態の幅は非常に広い。神谷隆之は、都市に立地して客に宿泊と飲食を独立して提供する
都市ホテルやビジネスホテルからなる
「都市型ホテル」
と、主に非都市に立地して、一泊二食
などで客に宿泊と飲食をセットで提供するような、リゾートホテルや温泉・観光地の旅館・
ホテルなどを含む「旅館・地方型ホテル」に分類している
[神谷1995]
。本稿で念頭におくの
は、後者の、宿泊と飲食をセットで提供するような伝統的なスタイルの「旅館・地方型ホテ
ル」である。
理論と動態
61
2.1 旅館・ホテルの経営状況
宿泊業全体の市場規模は、バブル経済期に急速に拡大したことを受けて1991年には4兆
9,440億円にまで達したものの、その後は縮小傾向にあり、2004年は3兆3,130億円となっている
[国土交通省編 2006:139]
。
生活衛生関係営業施設数のデータによると、宿泊業の主流であっ
た旅館は、ピークの1980年83,226軒から大きく減少しており、2009年は48,966軒と、この30年
間に約4割減少となっている。
一方でホテルの数は着実に右肩上がりで増加し、1980年2,039軒
であったものが、2009年は9,688軒である。
客室数については、旅館はバブル期を境に減少に転
じ、2009年は791,893室であった。
一方、ホテルは急激に増加し、2009年は798,070室と、はじめて
旅館の室数を超えた
[厚生労働省健康局生活衛生課 2010]
。
旅館・ホテルでは、高度経済成長期以降、企業の慰安旅行やツアーなどの団体客の伸びが
著しく、そのニーズに合わせて、客室の増設や大広間宴会場、各種アミューズメント施設など
の設備投資が行われた。
しかし1980年代後半以降は、旅行需要が個人や小グループでの旅行
になり、客層が変化する。多くの旅館・ホテルは、過重な債務による資金の借り入れ困難や施
設の老朽化、また、大型の客室に個人客を宿泊させることによる定員稼働率の低下などの結
果、さらに経営が悪化するという悪循環に陥っている
[国土交通省編 2006:140-1]
。
景気の悪
化も進む2000年以降は、旅館・ホテルの倒産件数は増加し、著名な老舗旅館の倒産も少なくな
い。
また近年では、
大震災の影響も追い打ちをかけている。
温泉観光地の旅館・ホテルは、露天風呂や貸し切り風呂を備えるなど個人客向けの設備投
資を行ったり、料金のバーゲンを行ったり、地域で一体化したさまざまなイベントやサービス
の提供にアイデアを絞るなど、
生き残りをかけた営業を行っている。
2.2 旅館・ホテルの労働
こうした旅館・ホテルは、サービス業のなかでは大規模な労働者を抱える産業である。
2009
年の経済センサスによると、日本全体の旅館・ホテルの事業所数は、47,895事業所、従業者数
は649,934人である。バブル経済崩壊後の1996年の事業所・企業統計調査では、64,724事業所、
805,143人であることを考え合わせると、この10年強の間に、事業所数で約2割5分、従業者数で
約2割の大幅な減少となっている。
宿泊と飲食の一体化した旅館・ホテルの労働には、性格の異なった多様な職種があり、
「ホ
テルはサービス業職種のデパートと呼ばれるほどである」
[川喜多 1987:131]
。
たとえば、フ
ロント、客室
(仲居や客室係、ルーム)
、飲料、調理、間接作業
(清掃、警備、リネン、施設管理)
が
ある。
営業や総務などの事務職の存在もいうまでもない。
こうした多様な労働が、客の動きに合わせた多様な時間帯で必要とされる。
旅館・ホテルの
労働の特徴として、まず挙げられるのは、労働需要の波動性と勤務の不規則性である。
つまり
旅館・ホテルは季節やイベントにより需要が大きく異なる。一日を通しても、客がチェックイ
ンした夕方から夜にかけて、そしてチェックアウトするまでの朝の時間帯が忙しい。
しかし業
務そのものは一日中および深夜もある部門もあり、サービスごとの繁閑が大きい。
とりわけ、
より客に近い所で働く客室の労働者は、客の出入りに合わせて終わりの時間が不定であり、
62
「中抜き勤務」
「たすきがけ」
といわれるような、長時間の昼休憩が入る変則的な働き方となる
ことが多い
[神谷 1995; 武田・文 2010]
。
また、客数に合わせて、休日が変更されることも多い。
旅館・ホテルでの経験のまだ浅い労働者からは、肉体労働で
「きつい仕事」だと語られること
が多かった。
また、労働自体はそれほど複雑なものではないが、肉体労働とともに、強い感情労働を求め
られる。聞き取りによると、資格などを持つ必要はなく、
「難しい仕事ではない」
「誰でもでき
る仕事」
「決められたことをすればよいため、それほど苦労はない」
のだという。
しかも、
「干渉
的サービス」
の減少と
「旅館のホテル化」
によって、ますます仕事が単純化されている
[文ほか
2007]
。後ほど詳述するが、たとえば、各部屋について特定の客に密着して行っていた食事の
世話、見送りなどのサービスが、食事は部屋ではなくレストランにて行う、見送りは省略する
などである。
しかしその一方で、
客への
「おもてなし」
は徹底され、
表情、
ふるまい、
気遣い、
身だ
しなみなどの規律に従うような感情労働が強く求められる。
さらに旅館・ホテルの労働条件で特徴的なのは、寮や社宅が完備されていることである。
日
本労働研究機構が1993年に全国940社の旅館・ホテルに行った量的調査の結果によると、温泉
地旅館の76.4%、観光地旅館の63.0%、リゾートホテルの59.5%、観光地ホテルの55.8%が寮や
社宅を整備しており、それは事業規模との相関がみられた
[日本労働研究機構 1994:59-60]
。
それは会社側にとっては労働者の確保のため、また労働者にとっては、住と食がただちに確
保され、
移動に伴う大きな出費がなくとも、
仕事を始めることができるという側面もある。
2.3 労働市場の特徴と動員される労働者
こうした労働を必要とする旅館・ホテルは、典型的な労働集約型産業とされ、慢性的な人手
不足の状況にある。特に旅館の客室担当者の確保が難しい。神谷によると、従業員の確保難
は、都市型ホテルよりも、旅館・地方型ホテルで、また中小規模の所で多いという
[神谷 1995:
27]
。
よって経営する側は、あらゆる求人ルートを使って労働者を募集してきた。
職業安定所、
求人雑誌、折込チラシ、クチコミ、配ぜん会・派遣会社などである。近年では、専門学校とタイ
アップして、若年労働力の確保に努める所も存在する
[平井 1998; 武田・文 2010:115]
。
こう
したなか、旅館・ホテルは広く労働者を吸収することとなり、以前は
「履歴書がいらない仕事」
と言われていた。参入・退出が容易で、人の移動が激しい。そこには、とりわけ温泉観光地は
個々の旅館の独立度が高く、
かつ限られた空間にライバルが凝集するという空間特性もある。
聞き取りによると、労働者の引き抜きがよく行われ、また明日にでも隣の旅館・ホテルに移っ
て働くこともあるのだという。
こうした市場を通じて旅館・ホテルに吸収される労働者は、女性で、かつ非正規労働が多
い。
2009年の経済センサスによると、旅館・ホテルで働く女性
(398,679人)
の場合、常用正社員
が27.5%、常用正社員以外が50.1%、臨時雇用者14.2%、その他
(個人業主、家族従業員、有給役
員)
で8.2%である。
男性
(296,255人)
の場合、常用正社員が52.6%、常用正社員以外が26.1%、臨
時雇用者7.3%、その他で14.1%である。男性より女性の労働者が多いことはもちろんである
が、男性は常用正社員が5割強なのに対して、女性の常用正社員は3割弱にすぎず、女性の非正
規労働が主要な役割を担っていることが分かる。旅館・ホテルは積極的に女性の労働力を動
理論と動態
63
員してきた。
とりわけ客室担当の仲居などの仕事に典型的であるが、笑顔での迎えと見送り、
お茶出し、食事運びと片付け、こうした一連の仕事が主婦の
「家事の延長」
の仕事とみなされ、
ふさわしいとされてきた。
以上のように、慢性的人手不足であること、女性労働力を好んで必要とすること、寮が併設
されていることなどの背景のもとに、旅館・ホテルにはさまざまな事情を抱えたり、流動する
女性の労働者が引き寄せられた。
労働省婦人少年局が1955年に行った
「未亡人等の雇用に関する調査」は、全国の特殊飲食
店、一般食堂、すし屋、めん類飲食店、喫茶店、その他の飲食店、旅館ホテルの7業種に関して、
全国554事業所の調査を行っている。旅館・ホテルは女子労働者数の割合が51.7%と最も低い
が
(最も高いのは特殊飲食店の76.4%)
、女子労働者数における
「未亡人」
の割合は25.6%と最も
4)
高い
(最も低いのは喫茶店の10.5%)
[労働省婦人少年局 1956]
。
こうして以前から、旅館・ホ
テルには、
単身女性やシングルマザーの女性が吸収されてきたことが分かる。
また、遠方からの出稼ぎ労働者も安定したルートとして動員された。関東圏の著名な温泉
観光地である箱根町では、1958 ~ 1997年
(ピークは1970年代前半)
、熱海市では1958 ~ 2003
年の間、出稼ぎが利用されており必要不可欠のものだったという
[武田・文 2010:83-4]
。
後ほ
ど言及するB旅館においても、高度経済成長期から出稼ぎ労働者が利用されている。
より末期
の2000年代になると、
出稼ぎといってもほぼ通年で働く人が多く、
中高年の単身者や事情を抱
5)
える人が多かった
[山口 2011a, 2011b]
。
この高齢ということに関して、神谷は
「従業員の確保
難と高齢化の問題がリンク」
していることを指摘している。
つまり、従業員が不足していなが
ら若年層を中心に採用がままならず、
そのためもあって高齢者を活用しているが、
同時に高齢
化が問題になるという皮肉な状況である
[神谷 1995:30]
。
武田・文は、こうして動員される過
程には、
住み込み可能ということと、
経験や年齢が不問という労働条件がキーになると指摘し
ている
[武田・文 2010:126]
。
このように見てくると、旅館・ホテルの労働は、建設業の飯場労働とのさまざまな共通点が
みてとれる。需要の繁閑が大きく、それに応じた不規則・不安定な労働であること、労働には
ジェンダーが色濃く反映されていること、参入障壁が低くて寮を利用するような周辺労働力
を吸収してきたことなどである。
3 B旅館の事例より
3.1 B旅館の概要
こうした旅館・ホテルの労働であるが、近年、一部の大型の
「旅館・地方型ホテル」
において
は、労働力の再編が進んでいる。
ここからは、具体的に一つの旅館の労働力構成の変化に注目
する。
なお、以下は、A温泉旅館組合、見番組合、B旅館社員、人材派遣会社社員、清掃会社社員、
出稼ぎ労働者、
研修生、
役場福祉課担当者などへの聞き取りから、
再構成している。
B旅館は、関東圏に位置するA温泉にある。
もともと峠の入り口のひなびた宿場町であった
が、1920年代の鉄道の開通とともに、相次いで宿泊施設が開業した。
そして東京との距離が縮
まるにつれて、温泉観光地としての道を歩み始める。
1950年代半ばからは大型資本のホテル
64
が進出し、職場の慰安旅行やメーカーの招待旅行、各種業界団体などの団体旅行の隆盛の波
にも乗り、
また、
継続的な公共事業の実施もあり、
多くの客が押し寄せた。
1960年代半ばには町
では人手不足が顕著となり、求人対策協議会を作って、出稼ぎ労働の受け入れを始めている。
こうしてこの地は、旅館・ホテルに、そこで働く労働者、チャンスを求めて外からやってきた土
産物屋、飲食店、遊行業、衣料品店、よろずや、置屋等が軒を連ね、峠の入り口の歓楽都市とし
て、
膨張した。
その後、オイルショックも乗り切り、1990年前後に宿泊客数のピークを迎える。
しかしすで
に1980年代には施設の供給過剰が言われるようになっていた。
以降、温泉場の停滞が進み、高
齢化と人口減、景観の荒廃がみられる。
もともと高かった生活保護率であるが、現在では生活
保護ギリギリの困窮層も増えている。ただし、近年は清流を生かした観光が脚光を浴びてお
り、
温泉街はやや息を吹き返しつつある。
こうした温泉観光地において、B旅館は、1950年代半ばの創業後、規模を拡大し続けた大型
旅館である。
もともと平屋の小規模旅館としてスタートし、途中増築を繰り返した。最大時の
旅館は4つの建物からなり、内部には、各200畳以上の4つの宴会場、コンベンションホール、
ゲームセンター、プール、ボーリング場、大浴場その他を備えていた。
いわゆる
「デラックス旅
館」
である。
1970年代ごろの最盛期は、会社や老人会、農協、メーカーの招待旅行などの業界の
団体客で、
大いににぎわった。
毎日900人前後の客が押し寄せた。
旅館では、人手不足のなかで30年以上前から青森からの出稼ぎ労働を利用し始めた。青森
県の女性を駐在員として雇用し、この女性が青森県内の職業安定所を回りながら会社の説明
会を行い、
労働者を募集していた。
しかし、
この地域の停滞とともに経営は厳しさを増し、
2000
年代に入って民事再生法の適用を受ける。
同時に、この青森の駐在員の制度もとりやめた。
そ
の後、経営者の交代のもとにリニューアルオープンした。貸し切り風呂を作るなど浴槽やロ
ビーを中心に新しく設備投資を行い、新しいサービスやイベントを次々に打ち出し、現在は少
しずつ客足を戻しつつある。
近年は中国や韓国などの他のアジア地域からの観光客も増大し
ている。
この50年近い旅館の歴史のなかで、周辺労働力の構成はどのように変化したのか、特に仕
事内容とその担い手に注目しつつ整理する。
以下、最盛期とリニューアル直前、リニューアル
後の3つの時点の労働力の構成をみてみよう6)。
3.2 旅館の最盛期
B旅館の最盛期であった1970年代後半の主な仕事とその流れは、図1の通りである。
なお、こ
の図は旅館のすべての仕事を網羅したものではなく、出稼ぎなどの周辺労働力として位置づ
けられた労働者が主に行っていた仕事に焦点を当てたものとなっている。
部屋付きの
「ルーム」
(いわゆる仲居業)
は、朝6時頃に出て、客への
「お茶出し」
と
「お見送り」
を行い、のち、お茶の器を片づける。途中休憩が入って、15時ごろに客の
「お迎え」と
「お茶が
え」
を行う。
必要に応じて宴会の手伝いにもいく。
終わりは目安としては21時ごろであるが、客
の都合に合わせて長引くことも少なくない。
このころは、チップがもらえた時代である。約40
人がこのルームの仕事で働いており、半数は青森出身者であった。
ルームの仕事は、着物を着
理論と動態
65
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図 1 旅館の主な仕事の流れ(1970 年代後半)
て帯を締めた
「本番」
と作業服の
「下番」があり、出稼ぎの人は下番からの出発である。
「番頭」
は、8時ごろ出勤し、
「布団上げ」
を行うことから始まる。
途中休憩が入り、15時頃に来て、
「料理
出し」
(調理場から宴会場に料理を運ぶ)
、
「布団敷き」
「料理引き」が主な仕事になる。仲居の
補助の裏方のようなもので、各フロアに一人ずつ、約20人が雇用されていた。
ほとんどが男性で
あった。
清掃は、主に地元の女性がパートで雇われていた。客のチェックアウト後、
「掃除機かけ」
、
「拭き掃除」
などの清掃を行う。
おおよそ9時から15時頃までの労働時間であった。
C会は、もともと地元で置屋をやっていた女性がインフォーマルに手配していた
「配ぜん
会」
のような集まりである。
高齢になった元
「芸者」
などが多く働いており、多い時で約30人の
人がいた。
1970年後半から旅館の朝食のバイキングの関係はすべてこのC会が担っており、と
きに夜の宴会の手伝いに回ることもあった。
B旅館専属で人を派遣していた。
その他、チェックインや客の部屋までの案内などを行うフロント、客を運ぶ送迎係、料理の
出し引きを含めて、夜の宴会の関係を取り仕切る宴会係もある。
調理の関係には、ほかに洗い
場と調理場の仕事がある。
さらに、先述したように、出稼ぎの募集担当として青森の地元の女
66
性が青森で一人雇われていた。宴会の折には多くの
「芸者」が地元の置屋から派遣され、座敷
をにぎわした。
これらの仕事のうちで、出稼ぎ労働者が担当していたのは、主にルーム、洗い場、番頭であ
る。
このころは、
特定の季節のみ働きに出る季節出稼ぎの人が多かった。
3.3 リニューアル直前
時代を経て、2000年代に旅館がリニューアルされる直前の構成は、次のようであった。
正社
員85人
(うち女性30人)
、パートタイマー 40人
(同37人)
、出稼ぎ者70人
(同40人。ただし季節雇
いは15人のみで、後は通年扱い)
。
全体で約230人中150人が青森出身者であり、より近年まで、
青森からの労働者がかなりの割合を占めていた。
ただし、青森の出稼ぎといっても、このころ
にはすでに季節出稼ぎの形態は数少なくなっており、1年を通して働く通年出稼ぎや、長らく
地元には帰っていない、
などの労働者も少なくなかった。
3.4 リニューアル後
旅館リニューアル後の2000年代になると、図2のように、労働力の構成と仕事は大きく変化
した。
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図 2 旅館の主な仕事の流れと労働者の配置(2000 年代)
理論と動態
67
ルームの仕事は、旅館の方針として
「部屋付き」ではなくなった。同時に着物の着用もなく
なった。
仕事は、おおよそ6時から10時まで朝食のバイキングの準備と料理や食器の出し引き
を担当する。途中休憩が入って、15時頃から夜の食事の準備や接客、後片付けとなる。
この担
当は清掃などと比べると、他地域からやってきた中高年女性が多い。従来の青森出身の労働
者はいったん解雇され、より仕事ができると判断された10人弱が再雇用された。
多くがパート
労働で、
このルームの仕事で働く。
この仕事には、そのほか、中国からの20代の女性の研修生が約5人働く。大手旅行代理店が
受託している研修プログラムを通じて派遣されている。
彼女らは1年で母国に帰り、代わりに
また新しい研修生がやってくる。
また、リゾートバイトを専門に取り扱う派遣会社を利用して、春夏などの多忙期には、大学
生などのアルバイトを1カ月などの短期で約10人を利用した。
14時から22時までで、主にバイ
キングの担当となる。近年では、同様の派遣会社から、1年を通じての労働者派遣も利用する
ようになった。
派遣業者は、北は札幌から南は沖縄まで、全国にリクルートの窓口を持ってお
り、登録者は約8万人、20・30代で8割を占める。
そのうち約1,000人がコンスタントに働いてい
るという7)。
清掃係は、働く時間や場所は変わらないが、パートでの直接雇用から、近県に本部を置く清
掃専門会社へと仕事が外注化された。
支部のオフィスを旅館内に置き、3人の社員に、パート・
アルバイトとして働く登録者が約80人いる。登録者の大半は地元
(近隣の市を含む)
の中高年
女性であり、他の旅館・ホテルでさまざまな形で働いてきた人が多い。
他に地元の高校生のア
ルバイトもいる。
調理場は、交代制となり、昼の11時から通して働く場合と、朝5時半ごろに来て、休憩が入っ
て午後3時ごろから入る場合との二つの形態となった。洗い場の仕事は、朝8時ごろ来て洗い
場で働き、休憩が入る。
夜は7、8時ごろから再び仕事開始となる。
その他、フロントは三交代制
になり、より若い男女が配置されるようになった。
フロントの労働者はその多くが正規雇用で
ある。
近年
「芸者」
がこの旅館の座敷に呼ばれることは、
限りなく少なくなった。
なお、
リニューアル後は、
正社員化を進めるという経営方針の元、
約50人を正社員とした。
近年
では、
10人前後の新卒者の採用も始まった。
全体として、旅館では従業員教育に力がそそがれるようになる。笑顔やあいさつなどの態
度、身だしなみなど、客のもてなしのマニュアルが徹底されるようになり、定期的に社長の話
を聞くミーティングも設置された。
また、食材や飲料などのモノの流れのチェックも徹底され
るようになった。
4 旅館における労働力再編
4.1 旅館労働の合理化と管理化
以上のようなB旅館の労働力構成の変化の前提として、まず確認しておかなければならな
いのは、仕事の内容や配置の合理化傾向と、その一方での
「おもてなし」の徹底による感情労
働の管理強化である。
68
合理化という点では、旅館の仕事やサービスの内容とコストが見直された。客の食事はす
べて館内のレストランで行われるようになり、特定の客への密着したサービスが廃止された。
つまり、部屋付きのルームや番頭の仕事はなくなり、よりホテル化した労働が増えた。
前述し
た
「干渉的サービス」の減少と
「旅館のホテル化」の流れは、この旅館でも例外ではなかった。
ルームや番頭の仕事に典型的な、客の
「ケア」
に近い密接なやり取りのなかで、工夫の余地を
持ってサービスを行うような労働から、飲食店のウエイトレス・ウエイターと類似した労働へ
と変わった。
また、フロントは三交代制、調理も二交代制となり、時間配分の面でもより合理的
な配置となった。
ただし、
こうした点での合理化は進められても、
例えば、
仕事の途中に長時間
の休憩をはさむ労働形態自体は、
依然として維持されている。
一方で、
「おもてなし」
の強化は、従業員教育と管理の徹底として現れていた。
細やかな笑顔
や身だしなみの徹底、客への気配りといったことが、強く求められるようになった。
社員研修
会が定期的に行われるようになった。宿泊客が記入したアンケート用紙は全部集計され、従
業員のミーティングの際に丁寧にフィードバックされるようになった。
こうした仕組みにも
後押しされ、労働者は、客の前では常に徹底した感情労働を求められ、身体の管理が要求され
るようになる8)。
4.2 労働力の動員と配置
こうした旅館全体の経営刷新とも結びつきつつ、
周辺労働力は再編された。
第一に、基幹労働力と周辺労働力の二極化傾向である。
リニューアル後は、正社員の比率を
高め、質の良い労働力を積極的に確保するようになった。
また、若年の新入社員を採用し、長
期的な教育も視野に入れた労働力確保に努める。
いわゆる基幹労働力化の流れが顕著である。
第二に、その一方で、基幹労働力から排除された周辺労働力は確保されており、かつ再編さ
れた。
最盛期は、国内の周縁部からの出稼ぎが確実な労働力として、大きな役割を果たしてい
た。継続的に求人を行う女性の担当者を青森に置き、労働力を絶えず地方から確保するルー
トを長らく維持し続けた。
また、地元のパートと地元の組織からの派遣で、短時間の女性労働
力を確保していた。
リニューアル後は、仕事の外注化と別ルートからの短時間労働者の動員が行われるように
なった。
外注化は、これまでは直接雇用によってまかなっていた清掃などの仕事が、丸ごと清
掃の専門会社に外部委託された。
直接雇用をやめることで、コストが削減され、また清掃の徹
底が行われるようになった。
ここに動員されるのは、地元の中高年女性のパート労働である。
また、リゾートバイトを専門に派遣する業者から、若者の派遣を受けるようになった。
1年を通
じた周辺労働力の確保としては、中国からの研修生が動員された。
より少ないコストで、確実
な労働力の確保ということに加えて、活気や癒しの非日常を求められる旅館・ホテルにとって
は、彼女らの
「若さ」
は大きな魅力である。
さらに研修生については、近年、
中国からのツアー客
が増加しており、その顧客対応という点からも、メリットがある。
小規模でより顧客密着型の
サービスを維持する旅館は別であろうが、少なくともB旅館のような大規模で、より客の自由
を尊重するタイプの旅館は、
こうした研修制度の利用は、
大きな利点がある。
そして、
青森からの出稼ぎ労働者は、
一部が再雇用される形でパート労働となった。
理論と動態
69
ただし、
この労働力の動員に関しては、
さらなる人的コストの圧縮が最優先されているわけ
ではない。
旅館の管理業務に携わる男性は、
「旅館ってのは、マンパワーがものすごく大事で、
それしかない事業みたいなものですから。
そうですよ、人がいないと成り立たないです、人材
がいないと。
そりゃ給料下げるわね、いい人材を掘り起こすなんて、そんな世の中都合のいい
ようにはできてないですよね」
と語る。
旅館では、出稼ぎのルートが終了し、それに代わるもの
として、新しく導入された研修や派遣などの仕組みも取り入れて、とにかく安定した良質な
労働力を確保したい、という意向が強い。
もちろん出稼ぎ労働者の時代から決して賃金が高
かったわけではないことには、
留保が必要であるが。
こうして動員された労働者の職場配置には、ジェンダー、年齢、地域などのさまざまな差異
が利用されていることが読み取れる
(図2参照)
。
ルームや清掃は女性、ドライバーは男性とい
う水平的な性別職域分離によるジェンダーや、最初に客とコンタクトするフロントは若々し
く華やかなイメージを期待される若年層、ルームや清掃、洗い場は中高年層というエイジズ
ム、また、短時間パート労働は地元の女性、途中に長時間の休憩が入り重労働であるルーム
は、
青森や外国などの他地域からの女性という、
地域性による差異である9)。
ここには、雇用と生活の安定性の面を考慮すると、女性間の階層化もみてとれるようであ
る。
最も安定的であるのは、
年齢に関わらず正規雇用の女性であり、
多くが地元出身である。
次
が地元の短時間パート労働者、そして最も不安定なのは、長時間で不規則な労働に従事する
移動労働者であると考えられた10)。
4.3 労働市場と居住からの排除
こうした再編の結果、それまでかろうじて労働市場の末端で労働力として接合されていた
中高年の出稼ぎ労働者および流動的な労働者は、労働市場から締め出されるという意味で、
排除された。
出稼ぎ労働者の多くは、青森の地元での労働市場から排除されており、またさまざまな事
情もあって、関東圏の旅館にたどりついている
[山口 2011b]
。
まさに、
「彼ら彼女らは排除され
外部化され、外部化されてあるがゆえに再び排除されている。
この二重の排除によって、彼ら
彼女らは、組織から疎んじられまた定住社会からは孤立している。
その一方で、下層労働者と
して労働力化されている」
[西澤 2000:32]
という状況下に置かれていた。
旅館の民事再生法申請による整理解雇の時点では、多くが中高年齢であった出稼ぎ労働者
は、
出身地に帰る場合が大半ではあったが、
一部の人々は行き先を失った。
また、
もともと流動
性が高かった
「芸者」
などの仕事も、派遣する見番組合に所属していた女性が、最盛期は約250
人存在したが、
近年は約20人となり、
高齢化も進んでいる。
こうした旅館・ホテルの労働者が仕事を失ったとき、まだ働ける若さや身体、ネットワーク
等があれば、他の温泉地へと移り、再び旅館・ホテルで働き始めることも可能であったろう。
し
かし、そもそも中高齢者にその機会は限られており、何よりも産業の停滞が著しいなかで、多
くの旅館・ホテルにおいても、仕事の外注化や人員整理、そして労働力の代替が進んでいる。
次の仕事の機会は少ない。そして失業すると会社寮を退出しなければならず、戻る場所があ
る労働者はまだしも、
いきおい住まいに困窮する場合も出てくる。
70
岩田正美は、企業が雇用する労働者に対して提供する住宅である
「労働住宅」
は、労働者へ
の福利厚生としての側面と企業の側の事業遂行における利便性の側面の二つに存在理由が
あるという。
そしてそこには、雇用の終結が住宅喪失と直結するということ、労働者の自由が
制限されやすいということ、社会への帰属の起点となるような住宅財が持つ社会機能を脅か
すこと、の三つのリスクがつきまとうことを指摘している
[岩田 2009:170-3]
。
職住一体化し
た労働の年月を重ねる中で、一部の人々は故郷へは帰らない、帰れない状態となり、援助を受
ける機会や人間関係に乏しくなっていく。
これまでのように慢性的な人手不足の中で、高齢者であっても労働力として動員していた
旅館・ホテルにおいても、その再編が進む中で、労働者が
「人間廃棄物」
[Bauman 2004=2007]
とされていく。
それは、若い頃から寮を利用しつつ旅館労働に派遣される者にとってもまた、
無関係なことではない。
5 考察
他の
「先進国」
と比すると、日本が国外からの
「移民」
の労働力を大規模に動員することなく
高度経済成長を達成した背景に、農村部からの労働力の動員があったことはよく指摘される
ことである。
集団就職の若者や地方からの出稼ぎ労働者は、主に中小企業において、周辺的で
不安定な労働に従事した。それから1980年代後半のバブル経済期の本格的な人手不足の時
代が到来すると、代わりにグローバルな周辺部からの出稼ぎ移住労働者が動員されるように
なった。五十嵐泰正は、景気変動に関係なく慢性的な人手不足・後継者不足を抱えている
「衰
退産業」
は、よい労働条件を提示できず、国内労働者のみならず、日系ブラジル・ペルー人が集
まることも少ない。
そこで頼らざるを得ないのが、賃金を抑えることができるだけでなく、一
定期間の継続的な雇用も期待できる外国人研修・技能実習生であると指摘している
[五十嵐
2011:27-8]
。
ここで事例とした大型の
「旅館・地方型ホテル」
でも、慢性的な人手不足のなかで、出稼ぎ労
働者の動員が終焉を迎え、近年研修・技能実習制度が導入されたのを機に、海外からの若年女
性労働力の動員にいたった。それは旅館・ホテルなどの低賃金サービス業における、
〈再生産
領域のグローバル化〉
[伊藤・足立2010]のいっそうの進行であるといえよう。さらに、労働者
派遣法の改正などを背景として、日本の雇用の非正規化と派遣会社の増大によって、国内で
の若年労働力の動員のルートが確保された。
結局、周辺労働力としては、出稼ぎ労働者や地元の派遣・パートの女性労働者から、若い女
性研修・実習生、日本の若年派遣労働者、外注化された地元の女性パート労働者らと代替され
ていた。
さらにそうした労働者について、ジェンダーや年齢、地域などの差異による職場配置
がみられた。他方で、元出稼ぎなどの流動的な高齢労働者は、労働市場から排除された。
もと
もと非正規労働が多く、多様な周辺労働が動員されていた旅館であるが、こうした差異が再
導入され、
周辺労働力は変わらず動員されている。
このような労働力の再編をみてくると、周辺労働力としてやはり女性が動員・配置されて
いるという点で、ジェンダー秩序は維持されていることが分かる。
他方で、エイジズムはより
理論と動態
71
強化されて導入・配置されているようであった。
それは若い=安いということだけではなく、
サービス業のなかでもとりわけ
「おもてなし」
を重視する旅館・ホテルゆえの、見栄えの良さや
感情労働も勘案されてのことである。
コストの面はもちろん重要であるが、製造業とは異なっ
て、旅館・ホテルの労働においてはむしろ、ジェンダーとエイジズムが強化されているようで
あった。
若年労働力の動員がままならなかった旅館・ホテルであるが、人材派遣会社や研修制
度の利用によって、その確保が可能になれば、利用するところは増大するだろう。
競合する従
来の中高年労働者は排除される傾向が強まることが予想される。
こうした再編の背景には、女性が旅館で働くようになった経緯においても、また、研修制度
の導入が可能になった経緯においても、国家の政策的背景が大きく影響していると考えられ
るが、本稿ではこの点については触れることができなかった。
S. サッセンは、1980年代半ばか
らの
〈移動の女性化〉
が、送り出し国家、民間の斡旋業者、労働者自身によって国境を越えてグ
ローバルに展開される複数のサーキットを編成していることを指摘し、それをグローバルな
〈サバイバル・サーキット〉
として論じた。
再生産労働部門における国際移動は、こうした国家・
市場・世帯のせめぎ合いのもとにある
[Sassen 2002]
。
国内からの出稼ぎ労働者が、海外からの
移住労働者、および国内の若年移動労働者にとってかわるとき、そこにはどのような
〈サバイ
バル・サーキット〉
の編成がみられ、そこにはどのような権力が働いているのか、その解明が次
の課題となる。
[注]
1)
足立眞理子によると、再生産概念は、労働力の再生産および広義の社会的再生産という二つの水
準で用いられてきており、現役労働力および補充要員としての次世代の再生産と、市場経済社会
の社会的再生産がいかにして行われうるのか、という問題に焦点を当ててきた。
しかし、加えて、
高齢者介護や、国際結婚や親族間での国境を超える移動、
「ホステス」
の海外就労、人身売買ある
いは身体部位や身体由来物質の取引なども包括して、
「再生産」
の社会領域を広げて概念化する
ことを提案している
[伊藤・足立 2010:8-10]
。歴史的に多くの温泉場では、
「芸者」
「酌婦」
といっ
た
「性─情愛サービス」が提供されてきた。
さらに、近年の宿泊業の対人サービス業における
「お
もてなし」
の徹底は、労働者に対して
「ケア」
に近い、強い感情労働を求めるようになっている。
こ
のようなことから、温泉地に集積する旅館・ホテルにまつわる労働を再生産労働の一部ととら
え、
温泉観光地は、
再生産労働の集積する空間としてとらえておきたい。
2)
サービス業の労働力再編について、現代都市の構造変動と合わせて説明を試みた代表的な研究
者にS. サッセンがいる。
よく知られているように、サッセンは、グローバル化の新しい国際分業
が進む中で、製造業の比重が低下、そして経済のサービス化が進行し、それが大都市の階層変
動をもたらすことを明らかにしている。つまり、モノを生産する製造業等とは異なり、基本的に
サービス業は海外移転や産業転換ができず、移動できない。
多国籍企業の中枢管理部門が集中す
るようなグローバル・シティにおいては、高所得専門職が増加するが、その一方で、そうした層の
ライフスタイルを支える低賃金サービス労働者への需要も増大する。その低賃金サービス業に
は、膨大な移民が吸収されている。
結局、グローバル・シティでは、高所得専門職を供給する部門
と低賃金サービス部門との両極化を機軸とした資本蓄積がなされ、都市の階層的な分極化が進
72
む。
グローバル都市は、戦略的部門にたいしてサービス労働を提供する諸活動に、多数の女性と
移民を統合する拠点である
[Sassen 1988=1992, 2001=2008]
。
3)
本調査は、A温泉の多くの方々に多大なる調査協力をいただくことで実現した。
重ねて深く感謝
したい。
また、本研究は、2008年度
「弘前大学若手萌芽研究」
の研究費助成を受けた。
なお、個人の
聞き取りの日時などは、
匿名性を確保するためにあえて示していない。
4)
本調査で対象となった事業所は、労働者10人以上、かつ1人以上の
「未亡人」
を雇っている事業所
から抽出されている。
5)
青森からの出稼ぎ労働者と称しているが、初期の頃は確かに季節出稼ぎであり、毎年青森の地元
への帰郷がみられた。
しかし、後年になって通年出稼ぎになるにしたがって、帰郷する予定の
「出
稼ぎ」
というカテゴリーにはすでにあてはまらなくなっている場合も多いと考えられる。武田・
文は、北海道の利尻島・礼文島から箱根への女性出稼ぎの実態について詳細に明らかにしている
[武田・文 2010:82-104]
。
そのケースが、女性出稼ぎの典型的な形態であり、本稿のケースは、出
稼ぎでも末期の時期にあたるものと考えられる。
6)
リニューアル以前、以降にかかわらず、旅館での労働力を調達するルートや業者は、固定的なも
のではなく、相当流動的である。
バブル期の数年間は日系ブラジル人の労働者が働いていたこと
もあったり、近隣の倒産したホテルの労働者を丸ごと受け入れたりしたこともあった。
また、リ
ニューアル前後も、いくつかの派遣会社からの派遣労働者を受入れてみたが、なかには
「外国人」
で言葉が伝わらずに混乱して、その会社の利用はやめたこともある。
とにかく旅館側は、一貫し
て人材確保に四苦八苦していた。
ここでは、1970年代後半と2000年代において、比較的長く利用
されているルートや会社について示した。
7)
派遣会社のパンフレットによると、派遣業者のリゾートバイトの職種としては、仲居、ホールス
タッフ、ベル、フロント、販売、調理・調理補助、裏方
(ルームメイク、洗い場ほか)
、スキー場のス
タッフ、レジャー施設のスタッフなど、観光地の多岐にわたる仕事が含まれる。強調されている
のは
「家賃・食事・光熱費が全部0円」
という触れ込みである。
8)
武田・文は、旅館・ホテル側は、いつでも同じサービスの提供を目的とした従業員の質的な向上を
めざす規律・訓練プログラムを重視し、その際に、対人コミュニケーションのスキルが重要にな
るという。
さらに従業員自身がプロ意識を持ち、それらのプログラムを実践することが求められ
ていると指摘している。
具体的には研修時に、基本的な心得や規律、生活への道徳的介入の見え
隠れする
「ルーム係のマニュアル」が配布され、対人コミュニケーションのスキルの意識化がも
たらされていることを指摘している
[武田・文 2010:127-30]
。
9)
北明美は、質問紙調査の結果から、ビルメンテナンス業における性と年齢が、職種の相違や雇用
形態の差に結びついて、対称的な就業構造を形成していることを指摘している。
つまり、
「一般清
掃」
は、女性中高年齢労働者が多く、かつ全体の6割近くが非正規労働者である。
これに対し、
「保
安など」
は男性中高年の労働者が多く、非正規労働者は3割強である。
「設備管理」
と
「その他」
のビ
ルメンテナンス業務は、相対的に年齢構成が若く、前者は正規の男性労働者がほとんどである一
方で、
後者は特に非正規労働者に女性が多い
[北 2001:145]
。
10)
女性の若年派遣労働者は、本事例では、一時的な派遣の場合と、年単位の派遣の場合がみられた。
しかし、後者はまだ少人数であり、詳細が不明である。
これについて奥山眞知は、温泉地の旅館
理論と動態
73
業における客室係就業者は、4つの層に分化していくことを指摘している。
すなわち、ホワイトカ
ラー化した客室係、下層性を強いられる正規・非正規従業員層、高級旅館や老舗旅館の
「ベテラン
の客室係」
、
若年のアルバイト・フリーター層を中心とした非正規雇用者である
[文ほか 2007]
。
今
後も、このようなアルバイト・フリーター層を中心とした非正規労働の若者の旅館・ホテル労働
での増大が見込まれ、
注視していくべきである。
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2007,
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(やまぐち・けいこ 弘前大学)
理論と動態
75
【欧文要約】
The Restructuring of a Japanese-Style Hotel's Workforce in a Globalized Society
YAMAGUCHI, Keiko
Hirosaki University
Hot spring tourism areas in Japan gather genderized and marginalized reproductive
labor. Restructuring of the workforce has gone hand in hand with globalization in recent
years. This article will explore the mobilization of a workforce and reintroduce distinction
in the case of one hot spring tourism area. The Japanese-style hotel in this case mobilized
migrant workers from Aomori prefecture and temporary female laborers from the
local area. Recently, however, the Japanese-style hotel has promoted streamlining,
controlling and outsourcing. As a result, regular workers have become better geared
for employment. At the same time, female trainees from other Asian countries, young
dispatch workers, and female part-time workers from the local area have been mobilized
as marginal laborers. On the other hand, elderly migrant workers were excluded from
the labor market. This restructuring of the workforce shows distinction of age in addition
to keeping the unequal gender ratio. It has relation to characteristics of the service
industry which is not only for costs but also for good image, for“Omotenasi”(hospitality),
image unlike in the manufacturing industry. Globalization of the reproductive sphere is
progressing most in the marginalized female service sector, and competing with other
marginal workers.
Keywords: globalization, marginal workers, gender order
76
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