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銚子沖における洋上風況観測結果 - 一般社団法人 日本風力エネルギー
銚子沖における洋上風況観測結果* The Characteristics of Offshore Wind measured off Choshi 福本 幸成** 大窪 一正*** Yukinari FUKUMOTO 1. Kazumasa OKUBO 山中 徹*** Toru YAMANAKA 石原 孟**** Takeshi ISHIHARA はじめに 日本の風力発電導入量は,2013 年度末で約 271 万 kW に達している 1)。しかし,今後陸上における適地は 減少し,さらなる風力発電の導入には,洋上風力発電 設備の建設は不可欠と言える。そのような状況の中, わが国の厳しい自然条件においても適用可能な洋上風 力発電技術の確立,および,洋上風力発電の導入促進 を目的に,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合 開発機構と東京電力が共同で,千葉県銚子沖 3.1km 地 点に風況観測タワー1 基,風車 1 基,海象観測機器を 建設・設置し,2013 年 1 月 29 日より,わが国初の沖 合着床式洋上風力発電所として運転を開始した 2)。 本論文では,2013 年 2 月~2014 年 9 月までの 20 ヶ 月分の観測データから得られる風況特性について報告 する。また,風況観測タワー本体が観測結果に与える 図-2 風況観測機器の配置とタワー外観 影響について整理すると共に,個別の観測機器(風速 計) が故障した期間のデータ補完方法について述べる。 2. 表-1 観測機器の仕様 洋上風況観測システムの概要 洋上風況観測タワーの設置位置を図-1 に示す。設置 位置は北緯 35°40′53″,東経 140°49′18″で,海岸から 3.1km,水深は 11.9m である。風況観測機器の配置と ソニック社製 SOW21-1 ソニック社製 SOD24-3 ソニック社製 SAT-600A 20Hz 285m 143m 143m 温湿度計 温度差計 波高計 ADCP 雨量計 ソニック社製 SOR1-502 視程計 ヴァイサラ社製 PWD12 気圧計 風力発電 設備 銚子市 三杯式風速計 矢羽式風向計 超音波式 風向風速計 サンプ リング 4Hz 4Hz LEOSPHERE 社製 WINDCUBE 横河電子機器社製 PTB-330 ヴァイサラ社製 HMP155 ソニック社製 SODMT-624 器の仕様を表-1 にそれぞれ示す。 N 機種名 ドップラーライダー 洋上風況観測タワーの外観を図-2 に,設置した観測機 出典:海上保安庁 海底地形図 (犬吠埼 第6367号8) 観測機器 風況観測 タワー 4Hz 4Hz 4Hz 4Hz パルス カウント 4Hz 本観測システムでは,観測タワー本体が周囲の風況 に与える影響を除去するため,三角形トラスのタワー 約 3km 本体各辺からそれぞれ張り出したブームの先端に,三 杯式風速計と矢羽根式風向計を設置している。ブーム 北緯35°40’53” ,東経140°49’19” -1~3 は,図-3,4 に示す通り,それぞれ 187.5deg., 図-1 * 風況観測タワーの設置位置 307.5deg.,67.5deg.の方角に向いており,各ブーム先端 平成 26 年 11 月 28 日第 36 回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演 ** 会員 東京電力㈱技術開発センター 〒230-8510 横浜市鶴見区江ヶ崎町 4-1 〒182-0036 東京都調布市飛田給 2-19-1 *** 非会員 鹿島建設㈱技術研究所 **** 会員 東京大学大学院工学系研究科 〒113-8656 東京都文京区本郷 7-3-1 に設置された三杯式風速計,矢羽根式風向計の機種番 号を,設置高さの情報と併せ,例えば M.S.L.+90m 高 さでは[90m-1],[90m-2],[90m-3]とした。 各高さ辺り 3 台の計測器で観測された風向・風速の − 225 − 風向計-2 風速計-2 風向範囲 ④ N 風向範囲 ③ 風向計-3 風向範囲 ⑤ 風向範囲 ② 風速計-3 N 風向範囲 Ⅱ 風向範囲 Ⅲ 風向範囲 ⑥ 風向範囲 Ⅰ 風向範囲 ① :タワー本体 :タワー本体 風向計-1 図-3 風速計-1 風向範囲 データ選択・処理ルール 風向範囲 データ選択ルール ①および④ 風向計-2 と-3 の平均 Ⅰ 風速計-1 ②および⑤ 風向計-1 と-2 の平均 Ⅱ 風速計-2 ③および⑥ 風向計-3 と-1 の平均 Ⅲ 風速計-3 風向範囲と矢羽根式風向計のデータ選択 図-4 電所での風況観測例 3) に倣い,各時刻における 10 分間平均風向に応じて,図-3,4 に示すルールに基づ いてデータを選択・処理している。 3. 観測タワー本体の影響とデータ補完方法 風向標準偏差[deg.] データは,オランダの Egmond aan Zee 洋上風力発 風向範囲と三杯式風速計のデータ選択 80 40 60 30 40 20 20 10 0 37.5 観測タワー本体が周辺の風況に与える影響を評価 67.5 し,図-3,4 に示すデータ処理方法の妥当性を検証す るため,2013 年 7 月~2014 年 6 月の 1 年間のデータを 図-5 0 97.5 217.5 [95m]平均風向[deg.] [80m‐1] [80m‐2] [80m‐3] 247.5 277.5 80m 高さにおける風向の標準偏差 対象として,以下のデータ整理を行った。なお,後述 の通り,90m 高さに設置した三杯式風速計の内の 1 台 が 2013 年 9 月 5 日~12 月 9 日の期間故障していたた ェイクの影響を受けていることを示している。 以上より,風上に対して正対する位置,および,観 め,ここでは 80m 高さでのデータを用いている。 測タワー本体の風下の位置では,観測タワー本体の影 (1) 風向データに対する観測タワー本体の影響 響を受けて風向が変動しており,これらの位置での計 95m高さで観測された平均風向が 37.5~97.5deg.お 測データを採用しない,本システムのデータ処理方式 よび 217.5~277.5deg.となる風向(風向計[-1]と[-2]の平 は,妥当なものであると言える。 均が採用される風向範囲②および⑤)を抽出し,80m (2) 風速データに対する観測タワー本体の影響 高さに設置された 3 台の矢羽根式風向計で計測された 80m高さで観測された平均風向が 7.5~127.5deg.と 風向の標準偏差を図-5 に示す。ただし,平均風速 10m/s なる風向(風速計[-3]が採用される風向範囲Ⅲ)を抽出 以上のデータのみを抽出している。横軸は,95m 高さ し,80m 高さに設置された 3 台の三杯式風速計で計測 での平均風向である。 された平均風速・最大瞬間風速・乱れ強さそれぞれの, 平均風向 67.5deg.付近において,観測タワー本体の 風速計同士の比を図-6 に示す。データは平均風速 風上側正面に位置する[80m-3]の風向計が大きな標準 10m/s 以上を抽出しており,横軸は 80m 高さでの平均 偏差を示している。これは,風が観測タワー本体を周 風向である。 り込む向きが切り替わっていることによる影響である。 [80m-1]および[80m-2]風速計が観測タワー本体の後 一方,平均風向 247.5deg.付近において,観測タワー本 流域となる風向範囲(7.5~37.5deg.,および,97.5~ 体の風下に位置する[80m-3]の風向計が比較的大きな 127.5deg.)では,それぞれタワー本体の影響を受けて 標準偏差を示している。これは,観測タワー本体のウ 風速は低め,乱れ強さは大きめの値となっていること − 226 − 1.4 150 [80m‐1]/[80m‐3] 120 [80m‐2]/[80m‐3] 1.2 平均風向[deg.] 平均風速の比 1.3 1.1 1 0.9 0.8 7.5 37.5 67.5 97.5 60 30 0 2014/2/28 2014/3/1 127.5 平均風向[deg.] 2014/3/2 2014/3/3 2014/3/4 2014/3/5 2014/3/4 2014/3/5 2014/3/4 2014/3/5 2014/3/4 2014/3/5 16 1.4 1.3 1.2 [80m‐1]/[80m‐3] 14 [80m‐2]/[80m‐3] 12 平均風速[m/s] 最大瞬間風速の比 90 1.1 1 0.9 0.8 7.5 37.5 67.5 97.5 10 8 6 4 [90m‐3] 2 [90m‐1,2]からの補完 0 2014/2/28 2014/3/1 127.5 2014/3/2 2014/3/3 平均風向[deg.] 20 1.6 [80m‐1]/[80m‐3] [80m‐2]/[80m‐3] 1.2 15 最大瞬間風速[m/s] 乱れ強さの比 1.4 1 0.8 0.6 10 5 [90m‐1,2]からの補完 0.4 7.5 37.5 67.5 97.5 [90m‐3] 0 2014/2/28 2014/3/1 127.5 2014/3/2 2014/3/3 平均風向[deg.] 30 80m 高さにおける風速 がわかる。一方,[80m-3]風速計が観測タワー本体に対 して風上側正面に位置する風向範囲(37.5~97.5deg.) 乱れ強さ[%] 図-6 25 [90m‐3] 20 [90m‐1,2]からの補完 15 10 では,[80m-1]および[80m-2]の風速計の方が高い風速 5 を示している。この原因として,タワー本体にぶつか 0 2014/2/28 2014/3/1 った風の回り込みにより,両側面付近で増速している 図-7 ことが考えられる。 2014/3/2 2014/3/3 [90m-3]風速計のデータ補完状況 ここで,風況観測タワーのブーム長設計時には,IEC 61400-12-1(Annex G)4)記載の次式に従い,タワー上流 90m 高さの風速計データから, 以下の補完式を算定し, 側の計測機器設置位置での風速低減率が,観測高さ データの補完を行った。 70m 以上で 1.0%以下,30m~60m で 1.5%以下,20m ①10 分間平均風速および最大瞬間風速: で 2.5%以下となるよう設計している。 U [ 90 m 2 ] 0.00002 80 2 0.93 2 U [ 90 m 1] 0.00002 80 0.93 L 2 U d 1 0.062CT 0.076CT 0.082 R (1) , for , for 7.5 80 (2) 80 127.5 CT:タワーのスラスト係数(=2.1×(1-t) ×t),t:タワー ②乱れ強さ: , for 7.5 80 I [ 90 m 2 ] I [ 90 m 1] , for 80 127.5 の充実率,L:タワーの見つけ幅,R:タワー中心から ただし,U[90m-1/2]:風速計[90m-1/2]で観測された平均風 の距離 速または最大瞬間風速,I[90m-1/2]:風速計[90m-1/2]で観 (3) 風速欠損データの補完 測された乱れ強さ,α:風向角(deg.) , ただし,Ud:低減された風速(接近風速に対する比) (3) 2013 年 9 月 5 日~12 月 9 日に故障した[90m-3]の三 補完精度の検証のため,風速計[90m-3]が採用される 杯式風速計のデータについて,図-6 と同様に整理した 風 向 範 囲 ( 7.5 ~ 127.5deg. ) が 約 4 日 間 継 続 し た − 227 − 2014/2/28 9:00 ~ 2014/3/4 17:00 の期間の,[90m-3]で 年 4 月が最も高く 10.0m/s 月平均乱れ強さは 2013 年 12 観測されたデータと,式(2),(3)によって風速計[90m-1, 月で最も大きく,11.7%であった。2013 年 2 月~2014 2]の観測データから補完したデータとを比較した(図 年 1 月までの 1 年間のデータを用いた,風向別風況特 -7)。両者はよく一致しており,この補完式により精度 性を図-9 に,年平均風況特性を表-2 にそれぞれ示す。 良く補完できることを確認した。 図-9 より, 南南西および北北東の風向発生頻度が高く, 特に南南西で平均風速及び風力エネルギー密度が高い 4. 2013 年 2 月~2014 年 9 月の風況特性 ことが確認された。 観測高さ 90mにおける,月平均風速,月平均乱れ強 5. さを図-8 に示す。20 ヶ月の間で,月平均風速は 2013 まとめ 本風況観測システムでは,観測タワー本体が周囲の 2013年 月平均風速 [m/s] 12 2013年(補完前) 2014年 風況に与える影響を除去するため,3 方向に張り出し 9 たブームの先端に三杯式風速計と矢羽根式風向計を設 6 置している。これらの観測データより得られた結果に 3 ついてまとめる。 12月 11月 10月 9月 8月 7月 6月 5月 4月 3月 2月 1月 0 1) 風上に対して正対する位置,および,観測タワー 2013年(補完前) 2014年 受けて風向の標準偏差が大きくなる。 図-8 12月 11月 10月 9月 8月 7月 強さは大きくなる。一方,観測タワー本体の側面 6月 0 5月 体のウェイクの影響を受けて風速は小さく,乱れ 4月 5 3月 2) 観測タワー本体の風下の位置では,観測タワー本 2月 10 1月 月平均乱れ強さ [%] 本体の風下の位置では,観測タワー本体の影響を 2013年 15 付近では,風速が大きくなる。 3) 3 方向に設置された三杯式風速計の内の 1 台に不 月平均風速および月平均乱れ強さ 具合が発生したとしても,残り 2 台の観測データ (観測高さ 90m) NNW NW 15 N 補完前 NNE 5 WNW NNW 補完済み NW NE 10 から,適切に補完することが可能である。 ENE WSW SW E W ESE WSW た,観測高さ 90m での年平均風速は 7.3m/s,年平 ENE 均風力エネルギー密度は 526.0W/m2 であった。 SSW E ESE SW 風向計・風速計を設置し,さらにドップラーライダー N を用いて M.S.L.+200m までの風況を観測している。今 NNW 1800 NW NE 10 ENE NNE 後,高度別の観測データを用いて洋上風の鉛直プロフ NE 1200 600 WNW 0 ENE 0 W WSW SW E W ESE WSW SSW E SE SSW SSE SSE S S (c) 乱れ強さ [%] ァイルを整理し,季節や時間帯,大気の安定度と鉛直 プロファイルとの相関を評価する。 ESE SW SE 今後の課題 本観測システムでは,M.S.L.+20m~90m の 8 高度に SSE S NNE 20 6. (b) 平均風速 [m/sec] N 30 SE SSW SSE S (a) 風向発生頻度[%] 図-9 NE 5 WNW SE WNW 4) 2013 年 2 月~2014 年 1 月の観測データから得られ NNE 0 W NW N 10 0 NNW 15 (d) 風力エネルギー密度 [W/m2] 風向風速および乱れの時刻歴データ (観測高さ 90m,2013 年 2 月~2014 年 1 月) 参考文献 1) NEDO HP 日本における風力発電設備・導入実績 http://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku/state/1-01.html 2) 助川博之, 福本幸成, 山中徹, 大窪一正, 石原 孟:銚子 沖 3.1km における洋上風況観測,第 35 回風力エネルギ ー利用シンポジウム,2013. 表-2 年平均風況 (観測高さ 90m,2013 年 2 月~2014 年 1 月) 年平均風速 [m/s] 年平均風力 エネルギー密度[W/m2] 年平均乱れ強さ [%] 7.3 526.0 9.1 3) P.J.Eecen, L.A.H.Machielse, A.P.W.M.Curvers : Meteorological Measurements OWEZ Half year report 01-07-2005 - 31-12-2005, 2007. 4) − 228 − IEC 61400-12-1, 2005