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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
機能性を有する減塩高菜漬けの製造を目的とした阿蘇高
菜の乳酸発酵に関する研究
Author(s)
境, 雅子
Citation
Issue date
2014-09-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/32204
Right
機能性を有する減塩高菜漬けの製造を目的とした
阿蘇高菜の乳酸発酵に関する研究
2014 年 9 月
熊本大学大学院自然科学研究科
境
雅子
目
第1章
次
序論
1.1 研究の背景
1.1.1
野菜の摂取と健康
・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
1.1.2 野菜の保存と乳酸発酵
1.1.3 アブラナ科の野菜
1.2 研究の目的
第2章
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
食塩添加量を軽減し発酵過程を安定化させるための高菜漬けからの
乳酸菌の単離
2.1 緒言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
2.2 実験材料および方法
2.2.1 阿蘇高菜漬け A,B の製造と阿蘇高菜漬け C のサンプリング
17
2.2.2 高菜漬けの浸出液の pH の測定
・・・・・・・・・・・・・
18
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
2.2.3 MRS 培地
2.2.4 培養による菌の単離
2.2.5 単離菌の保存
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
18
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
19
2.2.6 カタラーゼ試験と単離した菌の形状観察
2.2.7 糖の資化性試験
・・・・・・・・・
19
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
2.2.8 MRS 培地による乳酸発酵試験
・・・・・・・・・・・・・・
2.2.9 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づく菌種の同定
2.2.10 高菜ジュース培地を用いた乳酸発酵試験
1
20
・・ 21
・・・・・・・・・ 22
2.3 結果
2.3.1 高菜漬けの初期にでる浸出液の pH の変化
2.3.2 単離したコロニーの形態的特徴
・・・・・・・・ 23
・
・・・・・・・・・・・・・ 24
2.3.3 カタラーゼ試験, 顕微鏡観察, 糖の資化性試験
2.3.4 MRS 培地による乳酸発酵試験
・・・・・・・ 24
・・・・・・・・・・・・・・ 26
・
2.3.5 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づく菌種の同定 ・・ 28
2.3.6 高菜ジュース培地を用いた乳酸発酵試験
・・・・・・・・・ 30
2.4 考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
2.5 要約
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
第3章
単離した乳酸菌をスターター菌として用いた減塩高菜漬けの生産
3.1 緒言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36
3.2 実験材料および方法
3.2.1 スターター菌
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.2.2 スターター菌を用いた高菜漬けの製造
3.2.3 分析
37
・・・・・・・・・・ 38
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38
3.2.4 スターター菌 B17-4 が産生した EPS の分離とその構成糖の分析 39
3.2.5 スターター菌を接種した高菜漬けの経日的菌叢解析
・・・・ 40
3.3 結果
3.3.1 高菜漬の pH 変化
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.3.2 生成乳酸濃度の経日変化
・・・・・・・・・・・・・・・・
42
・・・・・・・・・・・・・・・
43
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
3.3.3 残存還元糖濃度の経日変化
3.3.4 EPS の構成糖
41
2
3.3.5 スターターに用いた乳酸菌の安定性の確認
・・・・・・・・
46
3.4 考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
3.5 要約
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
第4章
高菜漬けの製造過程における菌叢変化
4.1 緒言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
4.2 実験材料および方法
4.2.1 高菜漬け(食塩 6% (w/w))の製造
・・・・・・・・・・・・・
51
・・・・・・・・・・・・・・・
51
・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
52
・・・・・・・・・・・・・・・・
52
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
54
4.2.2 高菜漬けの経日的菌叢解析
4.2.3 初発 pH の影響の検討
4.2.4 分析
4.3 結果
4.3.1 D/L-乳酸濃度の経日変化
4.3.2. 菌叢の経日変化
4.3.3 増殖に及ぼす初発 pH の影響
・・・・・・・・・・・・・・
56
4.4 考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
4.5 要約
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64
第5章
乳酸発酵による阿蘇高菜の成分変化と成分の機能性への影響
5.1 緒言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
65
5.2 実験材料および方法
5.2.1 スターター菌を用いた高菜漬けの製造
5.2.2 高菜と高菜漬けの成分抽出
・・・・・・・・・・
66
・・・・・・・・・・・・・・・ 67
3
5.2.3 高菜と高菜漬け抽出物の逆相 HPLC 分析
・・・・・・・・・
67
5.2.4 高菜と高菜漬け抽出物の総ポリフェノール量と抗酸化能評価試験 68
5.2.5 高菜漬け抽出物の分取用 HPLC による分画
・・・・・・・・
69
5.2.6 分画物の分子量測定と抗酸化能評価試験
・・・・・・・・
69
5.3 結果
5.3.1 高菜と高菜漬けの抽出物量
・・・・・・・・・・・・・・・ 70
5.3.2 高菜と高菜漬け抽出物の逆相 HPLC 分析
・・・・・・・・・ 70
5.3.3 高菜と高菜漬け抽出物の総ポリフェノール量と抗酸化能評価試験 73
5.3.4 分取用 HPLC による高菜漬け抽出物の分画
・・・・・・・・
73
・・・・・・・・・
74
5.4 考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
78
5.5 要約
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
82
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
83
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
89
5.3.5 分画物の分子量測定と抗酸化能評価試験
第6章
総括
引用文献
謝辞
・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102
4
第1章
序論
1.1 研究背景
1.1.1 野菜の摂取と健康
食生活や栄養に関心を持ち暮らすことは,人々が健康的な生活を送る上で欠
くことのできないことである.日本人の食事は,高炭水化物,低脂肪,低動物
性蛋白質,高塩分であったが,1900 年代の食生活の変化に伴い,栄養状態が改
善されてきた (Tanaka et al., 1992).しかし近年,食事や運動・喫煙・飲酒・スト
レスなどの生活習慣が関与していると考えられる疾病が注目されるようになっ
てきた.このような疾病として,癌,心臓病,脳卒中,高血圧,糖尿病,脂質
異常症,肥満などが挙げられる.すべての人々が健やかで心豊かに生活できる
活力ある社会とするために,生活習慣を改善して健康を増進し,生活習慣病等
の発病を予防する一次予防が重視されており,食生活や栄養のバランスの改善
に取り組むことは,注目すべき課題となっている (厚生労働省, 2012a).
野菜や果物にはビタミン,ミネラル,食物繊維の他にポリフェノールのような
フィトケミカルが含まれている.これらの成分を含む様々な野菜や果物を摂取
することで,循環器疾患やある種の癌を予防することができるという疫学的調
査結果が報告されている (Liu, 2004 ; Marmot, 2011 ; Liu, 2013 ).また,摂取量の
多いグループは摂取量の少ないグループに比べ,循環器疾患の発症率や死亡率
が低いという報告もある (Bazzano et al., 2002 ; Hung et al., 2004 ; Leenders et al.,
2013).食生活において,野菜や果物の摂取は健康維持、疾病予防の観点から重
要であると考えられる.
5
しかし,野菜の消費量は平成 4 年が 1 人 1 年当たり 108 kg であるのに対し,
平成 24 年には 93 kg にまで減少している (農林水産省, 2012).また 2000 年に厚
生省により策定され,その後 2012 年に改正された「21 世紀における国民健康づ
くり運動 (健康日本 21(第 2 次))」において,成人 1 人 1 日当りの野菜の摂取目
標量を 350 g 以上としているが,20 歳以上の平均摂取量は平成 24 年に 287 g で
あり目標値に達していない.特に 20 代から 40 代の世代で野菜が不足している
(厚生労働省, 2012b).どの世代においても,容易に安定して多様な野菜が供給さ
れ,十分に摂取できるような工夫や対策が必要であると考える.
1.1.2 野菜の保存と乳酸発酵
日本は四季折々の旬の野菜に恵まれている.また,栽培技術と流通の発達に
より,旬にかかわらず一年中野菜を摂ることも可能になってきている.しかし,
気象条件の影響を受けて作柄は変動しやすく保存性にも乏しいため,供給量が
減少することもある.野菜の安定した供給のための対策が講じられているが (農
林水産省, 1988),野菜の傷みを最小限に抑える保存や加工の技術開発が進展すれ
ば,一層安定的な取り扱いができるようになると考える.
食品の保存のために,乾燥,加熱,冷凍・冷蔵,脱酸素,加圧,燻煙,pH 調
整,保存料の添加など様々な処理の方法や加工技術がある (特許庁, 1999).また
数千年前から微生物を利用した発酵の技術が用いられてきた.発酵は食品や飲
料の保存性や安全性を高めるだけでなく,成分を変化させて特有の風味を付与
し,栄養価を増すこともできる.発酵食品中の有益な微生物として Bourdichon
ら (2012) は,195 種の細菌を挙げているがそのうち 123 種が乳酸菌である.
野菜は一般的に乳酸菌が関与して発酵が進む (Hutkins, 2006).乳酸菌は糖質を
6
発酵してエネルギーを獲得し,乳酸を多く生成する細菌である.球菌と桿菌が
存在し,グラム染色陽性,カタラーゼ陰性で,芽胞を形成しない.乳酸菌によ
る 糖 質 の 発 酵 は , ホ モ 乳 酸 発 酵 と ヘ テ ロ 乳 酸 発 酵 に 大 別 さ れ る (Fig.1-1,
Hutkins, 2006 ; Reddy et al., 2008).ホモ乳酸発酵を行う乳酸菌は,消費するヘキ
ソースのほぼすべてを乳酸に変換する.ヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌は,単糖
から乳酸と乳酸以外の物質のエチルアルコール,二酸化炭素,酢酸等を生成す
る. Lactobacillus 属の中には,ホモ乳酸発酵を行うが,グルコース濃度などの
培養条件が異なる場合には,ヘテロ乳酸発酵を行う通性ヘテロ発酵型の菌も存
在する (Bergey's Manual, 1986, 2009).このような発酵経路によって糖が乳酸に変
換されるが,生成した乳酸や酢酸は食品中の腐敗菌や雑菌,カビの増殖を抑え
る抗菌効果を有している (Holzapfel, et al., 1995 ; Holzapfel, 1997, 2002).近年の安
全で良質な食品を求める傾向の中で,人々が伝統的に食品の製造において利用
してきた微生物由来の抗菌性物質を効果的に活用しようとする食品加工・保存
技術について,関心が持たれ研究が行われている (森地, 2002).
上述したように,乳酸発酵では保存性,安全性や風味に寄与する物質が生成
されるが,発酵食品とともに体内に取り込まれる乳酸菌そのものものが有用で
あるという報告もあり,その利用が期待されている (森地, 2008).適量投与した
とき宿主の健康に有益である生きた微生物をプロバイオティクスという
(FAO/WHO, 2002).野菜の漬物から単離した乳酸菌の中には,動物の腸まで達す
ることのできる菌が存在することを示唆した報告や (Bevilacqua et al., 2010),整
腸作用のある菌についての報告があり (Chiu et al., 2008),プロバイオティクスと
して有効である可能性が示されている.また,漬物中からプロバイオティクス
の候補を探す研究も行われている (Ji et al., 2013).
7
Fig. 1-1
Generalized scheme for the fermentation of glucose in lactic acid bacteria.
(Hutkins, 2006;Reddy et al., 2008)
このように乳酸発酵は保存効果があり,乳酸菌の中には保健効果があると考
えられる菌も存在する.また,発酵を経ることで抗酸化作用のような効果を発
揮する成分が生じる可能性についても予測されてきた (Caplice and Fitzgerald
1999).発酵技術は, 現代においても健康的な食生活に貢献できるものと期待さ
れる. 野菜を摂取するために,伝統的な発酵技術と現代の生物学的技術の融合
によって,乳酸菌や発酵に関する研究がなされるべきであると考えられている
(Di Cagno et al., 2013).
8
1.1.3
アブラナ科の野菜
熊本県ではアブラナ科の野菜である高菜が年間 3000 トン生産されている (文
部科学省, 2009).阿蘇高菜を用いた高菜漬けは伝統的な野菜の発酵食品として知
られている (Fig. 1-2).高菜は,フウチョウソウ目 (Capparales), アブラナ科
(Brassicaceae) の植物で,からし菜 (Brassica juncea) の変種である.アブラナ科
の植物は 350 属,3500 種からなり,食用として利用されている例として,キャ
ベツ・ブロッコリー・カリフラワー・ケール・芽キャベツ (Brassica oleracea),
カブ・白菜 (Brassica rapa) などがある.また,種子が食用油として利用されて
いる例として西洋アブラナ (Brassica napus),香辛料として利用されれている例
としてシロガラシ (Brassica hirta),クロガラシ (Brassica nigra) などがある.西
洋わさび (Armoracia rusticana) やワサビ (Wasabi japonica) もアブラナ科の植物
である.
Fig. 1-2
Aso takana and Aso takanazuke.
9
アブラナ科の野菜については,フィトケミカルに関する多くの報告がある
(Podsedek, 2007 ; Björkman et al., 2011).フィトケミカルとは植物中に含まれる炭
水化物,タンパク質,脂肪,ビタミン,ミネラル,食物繊維とは異なる生物学
的活性を有する非栄養性の化合物である.果物,野菜,穀物において 5000 種類
以上が同定されている (Liu, 2004 , 2013). アブラナ科の野菜の特徴を示すフィ
トケミカルとしてグルコシノレートが挙げられる.これは主にフウチョウソウ
目の植物の第 2 代謝産物であり,百種類以上が同定されている.グルコシノレ
ートは植物組織の物理的損傷が起こった時,酵素ミロシナーゼと接触して分解
する.分解時にはグルコシノレートからグルコースが遊離し,アブラナ科の野
菜に特有の辛み成分であるイソチオシアネートが生成される (Rask et al., 2000 ).
カラシ菜にはグルコシノレートの中でもアリル基を有するシニグリンが多く含
まれているという報告があり (Rangkadilok et al., 2002 ; Zhao et al., 2007),分解
するとアリルイソチオシアネート (allyl isothiocyanate ; AITC) が生じる (Fig.
1-3, Zhang, 2010).ある種のイソチオシアネートについては,シトクローム P450
や第 2 相解毒酵素の誘導を調節することが報告されており,制癌作用があると
考えられている. また,抗菌,抗カビ効果も報告されている (Mithen et al., 2000 ;
Zhang, 2010 ; Abdull Razis and Noor, 2013).
Fig. 1-3
Structure of Sinigrin and AITC. (Zhang, 2010)
10
フェノール化合物についても機能性に関する報告があり,重要な構成成分で
ある.これらは配糖体を形成しているものや有機酸と結合しているもの,さら
に複数のフェノール化合物で構成されたものなどがあり,複雑かつ多様な形の
フェノール化合物が存在している (Fig. 1-4, Lin and Harnly, 2010).フェノール化
合物の中でポリフェノールであるフラボノイドは 4000 種類以上が同定されてい
る (Liu, 2004, 2013).フラボノイドの中でフラボノールが最も広く存在しており,
アブラナ科の野菜では,主なものとしてケルセチン,ケンフェロール,イソラ
ムネチンが挙げられる (Lin et al., 2010 ; Cartea et al., 2011).フラボノイドの中に
は,抗酸化効果をはじめ抗炎症効果,抗癌効果,抗糖尿病効果などを有するも
のがあることが報告されている (García-Lafuente et al., 2009 ; Ravishankar et al.,
2013 ; Babu et al., 2013).
アブラナ科の野菜には様々な機能性を有する成分が含まれていると考えられ
る.さらに,アブラナ科の野菜の発酵によって成分変化や総ポリフェノール量
の増加がみられ,抗酸化効果が上昇したという報告例もあり (Harbaum et al.,
2008),野菜,漬物ともに摂取効果が期待される.
11
Fig. 1-4
Structural skeletons of hydroxycinnamic acid derivatives and flavonoids
found in Brassica vegetables. (Lin and Harnly, 2010)
12
1.2 研究の目的
流通の発達した現在,阿蘇高菜漬けの消費の拡大を推進することは,多くの
人の健康の維持,増進につながるかもしれない.しかし,高菜漬けは雑菌の増
殖を抑え保存性を高めるために,一般的に様子を見ながら適宜食塩が加えられ
ている.その結果,塩分濃度の高い高菜漬けになりがちである.塩分の摂り過
ぎは高血圧を招くことが報告されており,また,高血圧は循環器系疾患の主要
な危険因子であることが指摘されている (Conlin, 2007 ; Brown et al., 2009 ; He
and MacGregor, 2010 ; Kokubo, 2012).そのため,2002 年に WHO は 1 日あたりの
摂取量の目標値を 5 g 未満に設定している.日本は「21 世紀における国民健康
づくり運動 (健康日本 21(第 2 次))」において平成 34 年度までの目標値を 1 日あ
たり 8 g 未満に設定している. また,日本高血圧学会では高血圧の治療を要す
る人に対し 1 日あたり 6 g 未満の摂取を推奨している.しかし,日本人の塩分の
摂取量は 1 日あたり 10 g を超えている (He and MacGregor, 2010 ; Webster et al.,
2011 ; 厚生労働省, 2012a,b).減塩は循環器疾患を減少させるための実行可能な
経済的にも負担のかからない効果的な方法であると考えられているため(Brown
et al., 2009 ; He and MacGregor, 2010), 高菜漬けにおいても塩分濃度を低下させ
ることが望ましいと考えられる.
塩分濃度を低下させても雑菌が増殖しない品質の安定した高菜漬けの製造の
ためには,高菜を自然に発酵させるのではなく,漬け始めるときに適量の乳酸
菌を添加するとよいと考えられる.この方法により速やかに乳酸発酵が進み,
短時間のうちに pH を大きく低下させ雑菌を抑え込むことができると考えられ
る (Yousif et al., 2010 ; Wouters et al., 2013d).その結果食塩の添加量を減らすこ
13
とができる.
そこで,減塩高菜漬けの製造を目的として,乳酸菌の単離と同定およびその
発酵特性評価を行い,高菜に接種する乳酸菌を選抜した. 選抜した乳酸菌を用
いて実際に高菜漬を試作した. また,阿蘇高菜漬けの機能性成分に関する情報
を得ることで,品質を向上させた減塩高菜漬けの製造を試みることができると
考えられる. 高菜漬け中の機能性成分を明らかにし,その機能性成分の濃度や
効果の上昇を図るために,発酵過程における成分変化に関する分析を行った.
14
第2章
食塩添加量を軽減し発酵過程を安定化させるための高菜漬けからの
乳酸菌の単離
2.1 緒言
阿蘇地方において,高菜漬けは保存食として各家庭で伝統的に漬けられてい
る.高菜は秋に種が播かれ,葉が数センチ広がったところで厳しい冬を越す.
阿蘇高菜の特徴として茎が細いことが挙げられる.3 月から 4 月にかけて伸びた
細い柔らかい茎を,根もとから機械を使わず 1 本ずつ手作業で摘み取るため,
阿蘇高菜の収穫のことを「高菜折り」という.収穫した高菜は茎を数十本束に
してまとめ,木製の板の上で塩もみする.プラスチックのバケツ中にプラスチ
ックの袋を敷き,その袋の中に塩もみした高菜の束を数層に重ねて置く.各層
に少しずつ食塩を振りかけるため,塩もみに使う分も含めて一般的に 4% (w/w)
から 6% (w/w)の食塩が高菜漬けに添加される.高菜の束を重ね終わった後,で
きる限り袋の中の空気を除いて袋を閉じ,プラスチックの落し蓋を置く.その
落し蓋の上に重石をのせて保存する.漬け始めには高菜から水分が出るため,
それを適宜除きながら乳酸発酵が進むのを待つ.葉の色が緑色の初期の高菜漬
けを新漬けという.新漬けはグルコシノレートの分解産物によると考えられる
特有の辛みを有しており,乳酸発酵によって酸味のある高菜漬けに変わってい
く.長く保存する場合は,適宜食塩を添加し,表面に雑菌が増殖しないように
注意が払われる.最初から 8% (w/w)程度の食塩を加える高菜漬けは,本漬けと
呼ばれ,数か月間にわたって嫌気的状態で保存し,その後食用に供される.
このような乳酸発酵による野菜の漬物は世界各地で伝統的な方法で製造され
15
ており,発酵に関与する菌として多くの漬物で共通した乳酸菌もあれば,地域
ごとに特性のある乳酸菌も報告されている (Lee, 1997 ; Tamang et al., 2005 ;
Chen et al., 2006 ; Plengvidhya et al., 2007 ; Sesena and Palop, 2007 ; Chao et al.,
2009 ; Paramithiotis et al., 2010 ; Di Cagno et al., 2013).阿蘇地方特有の風土で栽培
された高菜を用いて,地域に伝わる伝統的な漬け方によって製造された高菜漬
けには,阿蘇地方の環境に適した乳酸菌が生息していると考えられる. そのた
め,高菜に添加する乳酸菌を得ることを目的として,乳酸菌の生育が良好であ
る MRS 培地を用いて,阿蘇高菜漬けから菌の単離を試みた.
単離した乳酸菌の分類や同定には様々な方法がある.細胞やコロニーの形状
のような形態的特徴や,生育温度,生育 pH,耐塩性,発酵形式,糖類発酵性,
生成乳酸の立体異性のような生理的・生化学的性状に基づいて識別が行われて
きた.また,細胞壁のペプチドグリカン構造のような化学分類学的指標に基づ
いても分類が行われてきた.1960 年代には DNA の塩基組成(G+C 含量)の割合,
DNA/DNA ハイブリッド形成による相同性解析のような DNA に基づく指標も導
入された.近年では,16S rRNA 遺伝子の塩基配列の解析のように豊富な情報量
に基づいた系統分類も行われている (日本乳酸菌学会編, 2010).
現在,16S rRNA 遺伝子の塩基配列に基づいた分類では,乳酸菌は以下のよう
に分類されている.原核生物のうち Archaea は2つの門,Bacteria は 23 の門に分
けられているが, Bacteria の中で Firmicutes 門は Bacilli,Clostridia,Erysipelotricha
という 3 つの綱で構成されている.Bacilli 綱は,Bacillales, Lactobacillales とい
う 2 つの目で構成されている.乳酸菌はLactobacillales目の菌であり 6 科 33 属か
らなっている. Lactobacillaceae 科は Lactobacillus,Pediococcus などの属,
Leuconostocaceae 科は Leuconostoc,Weissella などの属,Enterococcaceae 科は
16
Enterococcus,Tetragenococcus などの属,Streptococcaceae 科 は Streptococcus,
Lactococcus などの属で構成されている (Bergey's Manual, 2009 ; 日本乳酸菌学会
編, 2010).
顕微鏡観察,糖の資化性試験や MRS 培地を用いた乳酸発酵試験を行い,単離
菌株の分類を経日的に行った.分類した単離菌株の中から代表菌株を選んで,
16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列解析に基づいて菌種の推定を行った.菌種
を推定した菌株について高菜ジュース培地による乳酸発酵試験を行い,MRS 培
地による乳酸発酵試験結果と合わせてその評価を行い,減塩高菜漬けの製造に
適した乳酸菌を選抜した.
2.2 実験材料および方法
2.2.1 阿蘇高菜漬け A, B の製造と阿蘇高菜漬け C のサンプリング
2010 年 3 月に阿蘇市の農場で高菜 12 kg を摘み取った.農場に設置された木
製の板の上で,高菜を塩もみした. 6 kg の高菜には塩もみに使用した食塩も合
わせて食塩を 8% (w/w),残りの 6 kg の高菜には食塩を 6% (w/w)添加し,それぞ
れプラスチックのバケツに漬けた.これらの高菜漬け A (食塩 8% (w/w)) と高菜
漬け B (食塩 6% (w/w)) をその日のうちに熊本市に持ち帰り,2009 年の阿蘇市乙
姫の月別平均気温と同じになるように調節して保存した.保存を開始した日を
day0 とした.保存温度は day1-4, 3 月, 7.6°C, day5-34, 4 月, 11.6°C,day35-65, 5
月, 16.2°C, day66-95, 6 月, 20.2°C, day96-126, 7 月, 23.1°C, day127-157, 8 月,
24.1°C,day158-175, 9 月, 20.8°C である.
2010 年の 4 月に阿蘇市の市原農園で収穫して漬け,市原農園の屋外に高菜漬
17
け A, B と同様の容器で保存してあった高菜漬けを 2010 年 7 月にサンプリングし,
保冷箱に入れ熊本市に持ち帰った.これを高菜漬け C とした.食塩は適宜様子
を見ながら加えられていた.
2.2.2
高菜漬けの浸出液の pH の測定
高菜漬けは製造初期の段階で浸出液が生じる.高菜漬け A および高菜漬け B
から出た浸出液をサンプリングし,pH を経日的に測定した(HM-25G; DKK-TOA).
2.2.3 MRS 培地
菌の単離および植え継ぎ・保存には MRS 培地 (peptone 10 g/L, meat extract 10
g/L, yeast extract 5 g/L, glucose 20 g/L, Tween 80 1 g/L, K2HPO4 2 g/L, 酢酸ナトリ
ウム 5 g/L, クエン酸水素二アンモニウム 2 g/L, MgSO4.7H2O 0.2 g/L, MnSO4・
nH2O 0.05 g/L) を用いた.培地の初発 pH は 6.0~6.5 の範囲になるように調整し,
2%の NaCl を加え滅菌 (121°C, 20 min) したものを使用した.Agar (15 g/L)は必
要に応じて加えた.
2.2.4
培養による菌の単離
高菜漬けからの菌の単離は,以下のように 2 通りで行った.
Day16 の高菜漬け A および day13,day17 の高菜漬け B の水分から単離する場
合は,高菜から出てきた水分を MRS 寒天培地にコンラージ棒を用いて塗布し,
30°C で 2~4 日間培養した.MRS 寒天培地上に見られる数種類のコロニーを白
金耳で拾い滅菌水で適宜希釈し,MRS 寒天培地に塗布して 30°C で 2~4 日間培
養した.
18
Day165 の高菜漬け A と,day62,day175 の高菜漬け B,漬け始めて 4 か月目
の高菜漬け C から単離する場合は,高菜漬けを刻んで MRS 液体培地に加え,
30°C で 2 日間静置培養した.培養液を MRS 寒天培地に 100 μL 塗布して 30°C
で 2~4 日間培養した.MRS 寒天培地上一面に白く広がった菌を 1 白金耳採り,
滅菌水で適宜希釈し,100 μL を MRS 寒天培地にコンラージ棒を用いて塗布し,
30°C で 2~4 日間培養した.
以上の 2 通りの操作で培養後,MRS 寒天培地上に生えてきたコロニーを色,
大きさなど目視で区別し単離した.
2.2.5
単離菌の保存
コロニーの色や形状を考慮して選抜したコロニーを白金耳で拾い MRS 寒天培
地に画線培養し 3 週間ごとに植え継いだ.また,画線培養した菌を 1 白金耳採
り,MRS 液体培地で 30°C で 3 日間培養した.この培養液と滅菌 (121°C, 20 min)
した 50%グリセリン水溶液を混ぜ 15%グリセリン溶液とし,滅菌した冷凍保存
用のチューブ (2 mL Plastic Cryogenic Vial; IWAKI ) に入れ-80°C で保存した.
2.2.6 カタラーゼ試験と単離した菌の形状観察
各菌株を MRS 寒天培地 (NaCl 2%) で 30°C,2 日間培養した.コントロール
には納豆菌を用いた.3%過酸化水素水 0.5~1 mL を培養した菌に滴下し気泡の
有無を観察した.
顕微鏡観察 (Eclipse E200; Nikon) は油浸法を用いて 1000 倍で観察した.
19
2.2.7 糖の資化性試験
糖の資化性試験は MRS 寒天培地からグルコースを除いたもの,グルコースの
代わりにスクロース,D-アラビノースまたは L-アラビノースを 20 g/L 入れた
MRS 寒天培地を作成し行った.NaCl を 2% 添加し,pH を 6.0 - 6.5 に調整した.
調べたい乳酸菌を一白金耳とって培地上に画線し,2 日間,30°C で培養した.
プレート上での増殖度をグルコース除去培地上で培養したものと比較し,糖の
資化性を判断した.
2.2.8 MRS 培地による乳酸発酵試験
高菜漬けから単離したコロニーについて,形状や色,大きさが異なると判断
したものに対して,経日的に MRS 培地を用いた乳酸発酵試験を行った.比較対
象として独立行政法人製品評価記述基盤機構より購入した乳酸菌 L. plantarum
subsp. plantarum NBRC 101975 (以下,NBRC 101975 と記載する) を使用した. 乳
酸菌を MRS スラントに植え継ぎ,30°C で 48 時間培養した.滅菌 (121°C, 20 min)
した MRS の前培養用培地 10 mL に,植え継いだ乳酸菌を一白金耳植菌し,30°C
で 24 時間静置培養した.滅菌した MRS の本培養用培地 50 mL に前培養液を 10%
植菌になるように 5 mL 添加し,30°C で 72 時間静置培養した.pH は pH メータ
ー (HM-25G; DKK-TOA) を使用して測定した.菌体濃度は培養液の 660 nm の吸
光度 (OD660) を紫外可視分光光度計 (UV-1700; Shimadzu) により測定した.乳
酸発酵した MRS 培地を遠心分離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清をフィルター
ろ過し (0.45 μm Cellulose acetate membrane filter; Advantec),適宜希釈後,グルコ
ース濃度および D/L-乳酸濃度を測定した.グルコース濃度は F-キットグルコー
ス (Roche Diagnostics),D/L-乳酸濃度は F-キット乳酸 (Roche Diagnostics) を用い
20
て測定した.単離した菌の中で必要と認められるものについては酢酸ナトリウ
ムを含まない MRS 培地を用いて同様の乳酸発酵試験を行った.
後述する 2.2.9 の 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づく菌種の同定の
結果をもとに,各単離日において異なる菌種ごとに 1 株ずつ選び,合わせて 13
菌株について試験結果を 2.3.4 に示した.13 菌株に A16-1, A165-1, B13-1, B17-1,
B17-2, B17-3, B17-4, B62-1, B175-1, B175-2, C120-1, C120-2, C120-3 の記号番号を
付けた.記号 A, B, C とその付属の数字は高菜漬けの種類と漬けて何日目である
かを表し,ハイフンの後の番号で菌種を区別した.
2.2.9 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づく菌種の同定
MRS 培地を用いた乳酸発酵試験の結果をもとに,経日的に乳酸菌をグループ
分けし,各グループから数菌株を選んで,16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列
に基づく菌種の同定を行った.
単離した乳酸菌の DNA 抽出はビーズビーティング法で行った.抽出した DNA
の濃度を,微量用紫外可視分光光度計 (Beckman DU-530) を用いて測定した.
次に,16S rRNA 遺伝子を標的とした PCR を行った.Taq ポリメラーゼは AmpliTaq
Gold (Applied Biosystems) を用いた.プライマーには 27F (5'-AGAGTTTGATCCT
GGCTCAG-3') / 518R(5'-GTATTACCGCGGCTGCTGG-3') のプライマーセットを
使用し,最初の熱変性 95°C,5 min の後,熱変性 95°C,1 min,アニーリング 50°C,
1 min,伸長反応 72°C,2 min の条件で 25 サイクルの反応を行った.PCR 産物の
精製には Ultra Clean PCR Clean-up Kit (MO-BIO Laboratories ) を用いた.増幅し
た DNA 断片を pT7Blue ベクター (Novagen) に Ligation mix kit (Takara) を用いて
挿入した.操作方法は Kit の protocol にしたがって行った.Ligation 反応液 10 μL
21
をコンピテントセル Escherichia coli DH5α (Takara) 100 μL と混合し,常法に従い
形質転換を行った.得られた白コロニーからのプラスミド DNA 抽出には Wizard
SV minipleps DNA purification system (Promega) を用いた.操作は Kit のプロトコ
ルに従って行った.得られたプラスミドを EcoRⅠ(Takara) と PstⅠ(Takara) で切
断し,目的の遺伝子が挿入されているか判断した.その後,-47M13 プライマ
ーをシーケンスプライマーとして,塩基配列の決定はタカラバイオ社のシーケ
ンス解析サービスに外注した.得られた塩基配列を NCBI データベースと照合す
ることにより,乳酸菌の菌種を推定した.菌種の推定を行った菌株について,
近隣結合法により系統樹を作成した.
2.2.10 高菜ジュース培地を用いた乳酸発酵試験
13 菌株の中で菌種が異なると推定された A16-1, A165-1, B13-1, B17-2, B17-4,
B175-2, C120-2, C120-3 に B17-4 と同じ菌種である C120-1 を加えて,高菜ジュ
ース培地を用いた乳酸発酵試験を行った.比較対象として乳酸菌 NBRC 101975
も使用した. 乳酸菌を MRS スラントに植え継ぎ,30°C で 48 時間培養した.滅
菌した MRS の前培養用培地 10 mL に,植え継いだ乳酸菌を一白金耳植菌し,30°C
で 24 時間静置培養した.高菜と高菜の 2 倍の重量の蒸留水を混合しミキサーで
粉砕し,1 時間室温で放置後滅菌した.この高菜ジュース培地 50 g に前培養液
を 5 mL 添加し,30°C で 72 時間静置培養した.pH は pH メーターを使用して測
定した.乳酸発酵した高菜培地を希釈後,遠心分離 (8000 rpm, 4°C, 15 min) した.
上清をフィルターろ過後,グルコース濃度,還元糖濃度,D/L-乳酸濃度を測定し
た.グルコース濃度は F-キットグルコースで,還元糖濃度はソモギー・ネルソ
ン法で測定した.D/L-乳酸濃度は F-キット乳酸を用いて測定した.
22
2.3 結果
2.3.1 高菜漬けの初期にに出る浸出液の pH の変化
高菜漬け A (食塩 8% (w/w)) では day32 まで,高菜漬け B (食塩 6% (w/w)) で
は day27 まで浸出液が観察された.また,高菜漬け A に比べ,高菜漬け B のほ
うが早く変色が始まった.高菜から出た水分の pH 変化を Fig. 2-1 に示した.高
菜漬け A の浸出液は漬け始めてから徐々に pH が低下し,day32 に pH 5.2 であっ
た.高菜漬け B の浸出液は day14 が pH 5.7 であったのが,day16 に pH 4.8 まで
低下し,その後 day27 には pH 4.3 まで低下した.なお,Fig. 2-1 に示した採取日
以降は浸出液が得られなかったので,pH の測定は行わなかった.塩分濃度 8%
(w/w)よりも,塩分濃度 6% (w/w)の高菜漬けでより乳酸発酵が進みやすいことが
推察された.
Fig. 2-1
Changes of pH during incubation of Takanazuke A (8% (w/w) NaCl) and
Takanazuke B (6% (w/w) NaCl).
Symbols: ◆, Takanazuke A; ■, Takanazuke B.
23
2.3.2 単離したコロニーの形態的特徴
高菜漬け A において,day16, day165 とも,それぞれ 1 種類と考えられる直径
1~2mm 程度の白色のコロニーが得られた.
高菜漬け B において,day13 には,1 種類と考えられる直径 1~2 mm 程度の白
色のコロニーが得られた. Day17 には数種類の大きさのコロニーが混在してい
たが,そのうち 1 種類は保存後 1,2 週間で死滅しやすい菌であった.この菌は
炭酸カルシウム入りの MRS 寒天培地において透明なハローの形成範囲が狭く,
乳酸の生成量が少ないことが予想された. Day17 には day13 と同様のコロニー
も得られたが,直径 2 mm 程度で粘性のある白色のコロニーも得られた.Day62
には,直径 2 mm 程度で粘性のある白色のコロニーのみが得られた.Day175 に
は,day62 と同様のコロニーに混じって灰色の滑らかでない直径 1~2 mm 程度
のコロニーも観察された.
高菜漬け C において 3 種類のコロニーが観察された.直径 1~2 mm 程度で粘
性のある白色のコロニー,灰色の直径 1~2 mm 程度のコロニー,直径 1 mm 以
下の非常に小さいコロニーがそれぞれ同じくらいの数で観察された.
2.3.3 カタラーゼ試験,顕微鏡観察,糖の資化性試験
カタラーゼ試験,顕微鏡による形態の観察,および糖の資化性の試験結果を
Table 2-1 にまとめて示した.
24
Table 2-1
Phenotypic characteristics of the representative strain from takanazuke.
StrainNo. Morphology
A16-1
Cocci
A165-1
Rods
B13-1
Cocci
B17-1
Rods
B17-2
No data
B17-3
Cocci
B17-4
Rods
B62-1
No data
B175-1
No data
B175-2
Rods
Sucrose
+
+
D-Arabinose
L-Arabinose
-
-
-
-
-
-
+++
++
-
-
+
±
No data
No data
No data
No data
-
-
+++
+++
-
±
+
+
No data
No data
No data
No data
No data
-
+++
+
±
-
+
-
C120-3
Rods
Rods
Cocci
-
-
-
++
+
+
±
±
-
+
+
±
101975
Rods
-
++
±
±
C120-1
C120-2
Catalase
-
-
Catalase test : active +, negative -, Bacillus subtilis var. natto +
Sugar assimilation test : much growth +++ or ++, growth +, weak growth ±,
no growth-
25
2.3.4 MRS 培地による乳酸発酵試験
13 菌株と比較対象菌株 NBRC 101975 の MRS 培地による乳酸発行試験結果を
Table 2-2 に示した.
A16-1, A165-1, B17-1, B17-2, B17-4, B62-1, B175-1, C120-1, C120-3 は消費した
グルコースに対する生成した乳酸濃度が 96.0%, 84.7%, 86.4%, 77.9%, 82.1%,
83.6%, 89.8%, 92.8%, 100%であり,ホモ発酵型の乳酸菌であると考えられた.そ
の中で A16-1, A165-1, B17-1 は乳酸中の L-乳酸の生成比率が高かった.一方,
B13-1, B17-3, B175-2, C120-2 は消費したグルコースに対する生成した乳酸濃度
が 44.3%, 48.2%, 34.5%, 48.0%であり,ヘテロ発酵型の乳酸菌であると考えられ
た.その中で B13-1, B17-3 は乳酸中の D-乳酸の生成比率が高かった.
なお高菜ジュース培地の乳酸発酵試験で用いた 9 菌株 A16-1, A165-1, B13-1,
B17-2, B17-4, B175-2, C120-1, C120-2, C120-3 と比較対象菌株 NBRC 101975 の試
験結果については,高菜ジュース培地の乳酸発酵試験結果 (Fig. 2-4) と同様に
Fig. 2-2 に示した.
26
Table 2-2
pH, OD660, consumption of glucose and production of lactate in
fermentation tests with MRS medium using isolated bacteria.
Fig.2-2
Consumption of glucose and production of lactate in fermentation tests with
MRS medium using isolated bacteria.
27
2.3.5 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づく菌種の同定
単離した乳酸菌の 16S rRNA 部分塩基配列を調べた結果 A16-1 は Enterococcus
faecium GU460395, A165-1, B17-1 は Lactobacillus sakei AB682465, B13-1, B17-3
は Leuconostoc mesenteroides subsp. mesenteroides AB596937, Leu. mesenteroides
subsp. dextranicum AB596940, L. delbrueckii subsp. bulgaricus HM058319 の 3 種類
の 菌 , B17-2 は L. curvatus AB682464 , B17-4, B62-1, B175-1, C120-1 は L.
paraplantarum AB626065 または L. plantarum HQ610929, B175-2 は L. brevis
AB690242,C120-2 は L. parabrevis AB626068,C120-3 は Pediococcus parvulus
AB681216 との相同性が高かった (Table 2-3).
B13-1, B17-3 は 3 種類の菌との相同率が 100% であった.球菌でありスクロー
スを資化しヘテロ発酵型であったため, L. delbrueckii subsp. bulgaricus ではなく,
Leu. mesenteroides であると判断した. Leu. mesenteroides subsp. dextranicum はア
ラビノースを資化しないが Leu. mesenteroides subsp. mesenteroides はアラビノー
スの資化性を有することから,L-アラビノースを資化した B13-1, B17-3 は Leu.
mesenteroides subsp. mesenteroides であると推定した (Bergey's Manual, 1986,
2009).
B17-4, B62-1, B175-1, C120-1 は L. paraplantarum および L. plantarum との相同
性が高かったため,これ以降これらの菌は L. (para)plantarum として記載した.
13 菌株は 4 属 8 種類の乳酸菌に分かれた. 系統樹を Fig. 2-3 に示した.
28
Table 2-3
Estimation of isolated strains with partial 16S rRNA gene sequence.
Fig. 2-3
Phylogenetic tree of isolated clones and their related lactate-producing
bacteria.
29
2.3.6 高菜ジュース培地を用いた乳酸発酵試験
高菜ジュース培地中の還元糖およびグルコース濃度は 5.5 g/wet-kg,3.0
g/wet-kg であった.高菜ジュース培地 (本培養培地) 50 g に前培養液を 5 ml 加え
たので,前培養液に含まれる 1.8 g/wet-kg のグルコースが高菜ジュース培地に持
ち込まれている.グルコースの高菜ジュース培地への持ち込みを考慮すると,
7.3 g/wet-kg の還元糖,4.8 g/wet-kg のグルコースが含まれることになる.これら
の値から測定した還元糖量とグルコース量を差し引いて還元糖消費量とグルコ
ース消費量を求め,乳酸生成量と合わせて Table 2-4 および Fig. 2-4 に示した.
高菜ジュース培地を用いた乳酸発酵試験結果では,E. faecium A16-1 は,グル
コースの 72%を消費していた.A16-1 以外の菌株は,グルコースをすべて消費し
ていた.B17-4 と C120-1 は同じ菌種 L. (para)plantarum であるがそれぞれの還元
糖消費量は 99%および 70%と異なり,C120-1 は還元糖の中でもほとんどグルコ
ースしか消費していなかった.Leu. mesenteroides B13-1, L. brevis B175-2, L.
parabrevis C120-2 は MRS 培地を用いた乳酸発酵試験でヘテロ発酵型と考えられ
た乳酸菌であり,高菜ジュース培地においても還元糖消費量に対する乳酸生成
量はそれぞれ 30%, 34%, 25%と低かった (Fig. 2-2,Fig. 2-4).高菜ジュース培地
にはグルコース以外の 5 炭糖も含まれると考えられることから,MRS 培地以上
に乳酸以外の物質を多く生成したと考えられた.
30
Table 2-4
pH, consumption of sugars and production of lactate in fermentation tests
with takana juice medium using isolated bacteria.
Fig. 2-4
Consumption of sugars and production of lactate in fermentation tests with
takana juice medium using isolated bacteria.
31
2.4 考察
高菜漬け A, B から単離された乳酸菌の経日変化をまとめると,高菜漬け A は
初期の段階では球菌の E. faecium が主であるが,約 5 カ月後には桿菌の L. sakei
が優占種になると考えられた. 一方,高菜漬け B では pH が低下する前の day13
の段階では Leu. mesenteroides が優占種であるが, pH が低下した後に採取した
day17 (Fig. 2-1) になると Leu. mesenteroides に加えて L. sakei, L. curvatus, L.
(para)plantarum の計 4 種類の乳酸菌が混在することがわかった.約 2 カ月経過
すると L. (para)plantarum が優占種になっていた.さらに約 4 カ月が経過した
day175 の高菜漬けでは L. (para) plantarum に加えて L. brevis が単離された.ア
ブラナ科のキャベツを使ったドイツの伝統的発酵食品であるザワークラウトで
は,発酵させて 1 日目は Leu. mesenteroides が優占種であるが,7 日目で L.
plantarum が優占種になり pH も低下したと報告されている (Plengvidhya et al.,
2007).また,ギリシャの伝統的な方法で漬けられたアブラナ科のカリフラワー
では,発酵の初期の段階で Leu. mesenteroides が pH を低下させ,その後,L.
plantarum が優占種になり, より pH を低下させたことが報告されている
(Paramithiotis et al., 2010).食塩を 6% (w/w)添加した高菜漬け B においても同様
に Leu. mesenteroides から L. (para)plantarum へと優占種が変化したことから,ア
ブラナ科の野菜の漬物において起こりやすい優先種の変化であると推測された.
台湾のからし菜漬けで,最初に食塩 4% (w/w)が加えられている suan-tsai では,
漬けて 2 か月目に L. (para)plantarum が優占種として単離されている.また
L.namurensis と相同性の高い菌が優占種として単離されており,L. brevis も単離
されている (Chao et al., 2009).しかし,最初に食塩 13% (w/w)が加えられている
32
suan-tsai では,2 か月後に耐塩性の Tetragenococcus halophilus が優占種として単
離されている (Chen et al., 2006).高菜漬け A,B でも発酵後に単離された菌種に
違いがあり,塩分濃度の違いは生息する菌種に影響を与えるようである.
L. sakei A165-1 は MRS 培地では D-乳酸を 3%, L-乳酸を 97%生成した (Fig. 2-2).
しかし,高菜ジュース培地では D-乳酸を 47%,L-乳酸を 53%生成した (Fig. 2-4).
L. sakei は MRS 培地で L-乳酸を生成し,キャベツジュース培地で D/L-乳酸を生
成することが報告されており (Bergey's Manual, 1986, 2009),L. sakei A165-1 の挙
動は報告の内容と同様の結果であった.L. sakei と L. curvatus は乳酸ラセマーゼ
を有しているが, L. sakei の乳酸ラセマーゼの誘導は,酢酸ナトリウムによって
抑 制 さ れ , L. curvatus は 抑 制 さ れ な い と い う 報 告 が あ る (Obayashi and
Kitahara.,1959 ; Garvie, 1980 ; Bergey's Manual, 1986, 2009 ; Lee et al., 2011).酢酸ナ
トリウムを含まない MRS 培地を用いて乳酸発酵試験を行ったところ L. sakei
A165-1 は 10.4 g/L の乳酸を生成し,D-乳酸が 49% ,L-乳酸が 51%であった.従
って,L. sakei A165-1 は MRS 培地で乳酸ラセマーゼの誘導が抑えられ,高菜ジ
ュース培地では抑えられなかったと考えられた.
L. curvatus B17-2 は MRS 培地において D-乳酸を 47% ,L-乳酸を 53%生成した.
酢酸ナトリウムを含まない MRS 培地でも D/L-乳酸の生成比はほぼ同じであり
D-乳酸を 49% ,L-乳酸を 51%生成した.これは L. curvatus の乳酸ラセマーゼ
に関する報告を支持する結果であった.
16S rRNA の部分塩基配列解析に基づく系統樹によると L. sakei A165-1 と L.
curvatus B17-2 は近縁であると考えられる (Fig. 2-3). L. sakei と L. curvatus の違
いに関して様々な分類のための実験が行われているが (Koort et al., 2004),乳酸
ラセマーゼの酢酸塩による抑制の違いで区別できることが示唆された.
33
高菜ジュース培地を用いた発酵試験で pH を 4 以下に低下させていたのは L.
sakei A165-1, L. curvatus B17-2, L. (para)plantarum B17-4, L. (para)plantarum
C120-1, P. parvulus C120-3 と比較対象菌株 NBRC 101975 であり,それぞれの値
は 3.8, 3.8, 3.7, 3.9, 3.7, 3.7 であった (Table 2-4).高菜ジュース培地と MRS 培地
を用いた両方の乳酸発酵試験で乳酸を多く生成し,より pH を低下させた
Lactobacillus. (para)plantarum B17-4 と Pediococcus parvulus C120-3 を高菜漬けに
接種する乳酸菌として選抜した.
2.5 要約
2010 年 3 月に阿蘇市で収穫し,漬けた高菜漬け A (食塩 8% (w/w)), B (食塩 6%
(w/w)) を熊本市に持ち帰り,経日的に MRS 培地を用いて菌を単離した.また阿
蘇市の市原農園から 2010 年 7 月に提供された高菜漬け C から MRS 培地を用い
て菌を単離した.
高菜漬けから単離した菌のコロニーについて,形状や色,大きさが異なると
判断したものに対して,MRS 培地を用いた乳酸発酵試験を行った.試験結果を
もとに乳酸菌をグループ分けし,その中から代表菌株を選んで,16S rRNA 遺伝
子領域の部分塩基配列解析による単離株の菌種の推定を行った.その結果,4 属
8 種の乳酸菌 (Enterococcus faecium, Leuconostoc mesenteroides, Lactobacillus sakei,
L. curvatus, L. (para)plantarum, L. brevis, L. parabrevis, Pediococcus parvulus) が単
離されたと考えられた. Leu. mesenteroides は L. delbrueckii subsp. bulgaricus と
塩基配列のみでは区別することができなかったが,顕微鏡観察とスクロースの
資化性で区別した.さらにアラビノースの資化性を調べることで Leuconostoc
34
mesenteroides subsp. mesenteroides であると推定した.
16S rRNA 遺伝子領域の解析から,L. sakei A165 と L. curvatus B17-2 は近縁で
あると考えられるが MRS 培地を用いた乳酸発酵試験における生成乳酸の D/L
比が明らかに異なった. この違いは MRS 培地に含まれる酢酸ナトリウムによ
る乳酸ラセマーゼの阻害作用が両乳酸菌で異なるためと推測した.
菌種の同定の結果,菌種が異なると推定された 8 種の乳酸菌について,高菜
ジュース培地を用いた乳酸発酵試験を行った.高菜ジュース培地と MRS 培地の
両培地で乳酸を多く生成し pH を低下させた L. (para)plantarum B17-4 と P.
parvulus C120-3 を減塩高菜漬けの製造に適した乳酸菌として選抜した.
35
第3章
単離した乳酸菌をスターター菌として用いた減塩高菜漬けの生産
3.1 緒言
漬物を発酵させるときには,乳酸発酵を促すために,以前に発酵が成功した
漬物を新鮮な野菜に加えて漬け込むか,あるいは前によくできた漬物を保存し
た容器を使用する方法が経験的に行われてきた.また,乳製品では,Lactococcus
属,Lactobacillus 属,Leuconostoc 属などのスターター菌を使って,発酵を制御し
てきた (森地,2002, 2008).スターター菌とは,接種される食品に望ましい変化
を与えるために用意された,多くの生きた微生物を集まりである.スターター
菌は発酵を加速させ,期待される製造物ができるように発酵を制御する
(Holzapfel, 1997, 2002).
近年は,野菜にもスターター菌を利用した報告例がある.高菜と同じくアブ
ラナ科の植物であるキャベツで作るザワークラウトでは,スターター菌を接種
することにより,低塩でも食感や風味の質を維持した一定品質のザワークラウ
トを製造できることが報告されている (Johanningsmeier et al., 2007).また,キャ
ベツにスターター菌を接種することによって早く発酵が進み,低塩のザワーク
ラウトが製造されている (Beganović et al., 2011).ザワークラウトに加えて,オ
リーブの漬物,キムチのように大規模に製造されているものについても,スタ
ーター菌として利用できる株を探索し,その効果を評価する研究が行われてい
る (Bevilacqua et al., 2010 ; Chang and Chang, 2011).さらに,他の野菜の発酵でも
スターター菌の利用に関する研究が行われるようになってきている (Yokoi et
al., 2006 ; Yan et al., 2008 ; Wouters et al., 2013a,d).
36
スターター菌は,産業用に開発された乳酸菌を用いるよりも,発酵させる食
品にもとから付着していている菌を単離し,その食品の発酵に利用すると,保
存性,風味,栄養に対して良い効果をもたらすという報告がある (Leroy and De
Vuyst, 2004 ; Di Cagno et al., 2013).そこで第 2 章で高菜漬けから単離し選抜した
Lactobacillus (para)plantarum B17-4 と Pediococcus parvulus C120-3 をスターター
菌として阿蘇高菜に接種し,減塩高菜漬けの製造を試みた.試験製造した高菜
漬け (食塩 2% (w/w)) の pH,乳酸濃度,還元糖濃度を経日的に測定した.また,
高菜漬け (食塩 2% (w/w)) から DNA を抽出し,16S rRNA 遺伝子領域の部分塩
基配列に基づく菌叢解析を経日的に行うことで,接種したスターター菌の安定
性について調べた.
3.2 実験材料および方法
3.2.1 スターター菌
L. (para)plantarum B17-4 と P. parvulus C120-3 の両乳酸菌を MRS 寒天培地上で
30°C で 48 時間培養した.培養した菌を白金耳で採り,滅菌した MRS 前培養用
培地 (NaCl 2%) 10 mL に植菌し,30℃で 24 時間静置培養した.この前培養液 5 mL
を滅菌した MRS 本培養用培地 50 mL に加え,30°C で 24 時間静置培養した.こ
の本培養液について滅菌水を用いて適宜希釈し,MRS 寒天培地に塗布して 30°C
で培養し,形成したコロニー数を計測することで菌体濃度を算出した.
37
3.2.2 スターター菌を用いた高菜漬けの製造
2011 年 4 月に阿蘇市の市原農園で高菜を収穫し塩もみした.高菜 2 kg (食塩
2% (w/w)) の入ったポリ容器 2 つと, 高菜 4 kg (食塩 6% (w/w)) の入ったポリ
容器 1 つを熊本市に持ち帰った.持ち帰った日を day0 とした.スターター菌の
本培養液 20 mL を遠心分離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清を除き,滅菌水を加
えて 20 mL にメスアップし,高菜 2 kg (食塩 2% (w/w)) にそれぞれ接種した.こ
れらの菌体濃度は,B17-4 が 1.0×109 cfu/mL,C120-3 が 4.3×109 cfu/mL であっ
た.その後室温で 1 日放置した.高菜 4 kg (食塩 6% (w/w)) にはスターター菌を
接種せず対照群とした.Day1 に,スターター菌を接種した高菜漬け (食塩 2%
(w/w)) は 60 g ずつ,接種しなかった高菜漬け (食塩 6% (w/w)) は 110 g ずつ小
分けし,プラスチックの袋に詰め脱気後ヒートシーラーで密封し,インキュベ
ーター内で保存した.インキュベーターの温度は,2010 年の阿蘇市乙姫の月別
平均気温に合わせて day 1-28, 4 月, 10.8 °C, day29-59, 5 月, 15.9 °C, day 60–89, 6
月, 20.0°C,
day 90-120, 7 月, 23.6 °C, day 121-151, 8 月, 25.0 °C, day 152-181, 9
月, 21.8 °C で保存した.スターター菌を用いた高菜漬けでは発酵期間中に水分の
除去を行わなかったが,対照群の高菜漬け (食塩 6% (w/w)) では,day2, 4, 6, 17,
31 に高菜漬けの重量 110 g に対し 3.9, 4.3, 3.8, 3.9, 3.4 %の水分を除いた.
3.2.3 分析
スターター菌を接種した高菜漬け(食塩 2% (w/w)) は day0, 3, 7, 12, 30, 60, 90,
181 に,対照群の高菜漬け(食塩 6% (w/w)) は day0, 4, 7, 12, 19, 30, 40, 60, 90, 180
に,滅菌した三層のガーゼを用いて絞った.なお,day0 についてはスターター
菌を接種する前にガーゼで絞った.絞汁を遠心分離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),
38
上清をフィルターろ過 (0.45 μm Cellulose acetate membrane filter; Advantec) した
ものについて pH,D/L-乳酸濃度,還元糖濃度を測定した.pH は pH 計 (HM-25G;
DKK-TOA) を用いて測定した.D/L-乳酸濃度は,フィルターろ過した上清を適
宜希釈後,F-キット乳酸 (Roche Diagnostics Corporation) を用いて測定した.還
元糖濃度は,フィルターろ過した上清を適宜希釈後,ソモギー・ネルソン法で
測定した.
Day181 の高菜漬け (食塩 2% (w/w)) については,フィルターろ過した上清を
適宜希釈後,アラビノース,マンノース,ガラクトース,キシロース,グルコ
ースの濃度を HPLC (LC-10A System; Shimadzu) で測定した.カラムは Shim-pack
ISA-07/S2504 (Shimadzu) を用いた.移動相は A 液 (0.1M ホウ酸カリウム緩衝液)
100%から B 液 (0.4 M ホウ酸カリウム緩衝液) 100%へのグラジエント溶離とし,
液流量は 0.6 mL/min,カラム温度は 65°C に設定した.糖の検出は,1% (w/v) の
アルギニンおよび 3% (w/v)のホウ酸を含む反応試薬を用い,当該反応試薬の流
量を 0.5 mL/min とし,反応温度を 150°C とし,蛍光検出器の励起波長 (Ex) は
320 nm,検出波長 (Em) は 430 nm として行った.糖の標準試薬はシグマ社から
購入した.
3.2.4 スターター菌 B17-4 が産生した EPS の分離とその構成糖の分析
B17-4 を接種した高菜漬けでは粘性のある物質が観察された.その物質は菌体
外多糖のエキソポリサッカライド (exopolysaccharide ; EPS) であると考えられ
たため構成糖の分析を行った.
B17-4 を MRS 前培養用培地 10 mL に 1 白金耳加え,30°C で 1 日培養した.前
培養液 5 mL を本培養用培地 50 mL に加え,30°C で 1 日培養した.本培養液 3 mL
39
を遠心分離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清を取り除き,滅菌水で 3 mL にメス
アップした.これを塩もみした 300 g の高菜 (食塩 2% (w/w)) に接種した.高菜
の上に重石をのせ 30°C で 7 日間発酵させた.
EPS の分離は Salazar ら (2009) の文献を参考にした.漬けた高菜を滅菌した
三重のガーゼで絞り,得られた絞汁に 1 N の NaOH 溶液を等量加えた.室温で
一晩,穏やかに攪拌した後,遠心分離 (8000 rpm, 4°C, 15 min) で菌体を除去した.
上清に 2 倍量の無水冷エタノールを加えて 48 時間,4°C で放置後,遠心分離
(10000 rpm, 4°C, 30 min) により沈殿物を集めた.沈殿物に無水エタノールを加え
遠心分離後 (10000 rpm, 4°C, 30 min),風乾した.得られた未精製の EPS を 3 mL
の超純水に溶解させた.希釈した液 2.7 mL と 25%塩酸 0.3 mL を沸騰水浴中で 3
時間反応させた.反応後放冷し,10% NaOH で pH 5~6 に中和し,4 mL にメス
アップした.フィルター (0.45 μm Cellulose acetate membrane filter; Advantec) で
ろ過後,3.2.3 と同様の方法で HPLC 分析を行った.
3.2.5 スターター菌を接種した高菜漬けの経日的菌叢解析
滅菌したガーゼで絞った day12, day90, day181 の高菜漬けの絞汁を遠心分離し
て (8000 rpm, 4°C, 15 min) 上清を除き,滅菌水を加え懸濁した.懸濁液を遠心分
離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清を捨て,滅菌水 200 μL に懸濁し DNA 抽出に
用いた. DNA 抽出から菌種の同定までの操作は,第 2 章の 2.2.9 に準じて行っ
た.
40
3.3 結果
3.3.1 高菜漬けの pH 変化
各高菜漬けの pH の経日変化を Fig. 3-1 に示した.B17-4, C120-3 を接種した高
菜漬け (食塩 2 % (w/w)) の pH は,day3 ではそれぞれ pH 6.0,pH 6.6 であった.
Day7 になると B17-4, C120-3 ともに pH 4.7 になり,スターター菌を接種した高
菜漬けは,1 週間で pH の値が大きく低下した.その後,day12 では,B17-4 を接
種したものは pH 4.3,C120-3 を接種したものは pH 4.2 まで低下した.さらに,
day181 ではそれぞれ pH 4.1, pH 3.8 であった.一方,対照群の高菜漬け (食塩 6%
(w/w))では day4 が pH 6.5,day7 が pH 6.1,day12 が pH 5.8 と徐々に低下し,day40
には pH 4.2 まで低下した.Day180 は pH 3.8 であった.阿蘇の市原農園で漬けら
れた自然な発酵の実際の高菜漬けは,day4 で pH 6.7,day15 で pH 6.0 であり,
発酵初期の段階での pH の大きな低下は見られなかった.その後,day46 には pH
4.0 まで低下した.
8
pH (-)
6
4
2
0
0
50
100
150
200
Fermentation days (d)
Fig. 3-1 Changes in pH during fermentation.
Symbols: □, B17-4; △, C120-3; ◆, control; ×, Ichihara Farm.
41
3.3.2 生成乳酸濃度の経日変化
乳酸濃度の経日変化を Fig. 3-2 に示した.スターター菌を接種した高菜漬けの
乳酸濃度は day12 までに大きく増加した.しかし,day12 において,B17-4 を接
種した高菜漬けの乳酸濃度は 18.6 g/L であり,C120-3 を接種した高菜漬けの 21.9
g/L に比べて低かった.それ以降も B17-4 を接種した高菜漬けの乳酸濃度は
C120-3 を接種した場合よりも低かった.スターター菌を接種しない高菜漬けの
乳酸濃度は day60 まで徐々に増加した後,day60 以降は C120-3 を接種した高菜
漬とほぼ同じ濃度になった.181 日目の B17-4,C120-3 を接種した高菜漬けの乳
酸濃度,180 日目の対照群の高菜漬けの乳酸濃度はそれぞれ 24.5g/L, 30.5 g/L,
Lactate concentration (g/L)
28.8 g/L であり L-乳酸が 28%, 51.1%, 42.7%であった.
35
30
25
20
15
10
5
0
0
50
100
150
200
Fermentation days (d)
Fig.3-2 Changes in lactic acid concentration during fermentation.
Symbols: □, B17-4; △, C120-3; ◆, control.
42
3.3.3 残存還元糖濃度の経日変化
B17-4 を接種した場合と C120-3 を接種した場合で,高菜漬けの生成乳酸濃度
が異なったため,液中の還元糖濃度を測定し,Fig. 3-3 に示した.Day0 の還元糖
濃度は 33.5 g/L であった.Day3 において,B17-4 を接種した高菜漬けの還元糖
濃度は 25.8 g/L であり 7.7 g/L の減少が見られたが,C120-3 を接種した高菜漬け
の還元糖濃度は 33.8 g/L であり変化が見られなかった.B17-4 あるいは C120-3
を接種した高菜漬けにおいて pH が 4.7 まで低下した day7 の還元糖濃度は,B17-4
を接種した高菜漬けが 27.0 g/L であり,C120-3 を接種した高菜漬けの 24.0 g/L
よりも若干濃度が高かった.Day7 以降 day181 まで,B17-4 を接種した高菜漬け
の還元糖濃度は,C120-3 を接種した高菜漬けの還元糖濃度よりも高い傾向を示
した.
なお,
B17-4 と C120-3 を接種した高菜漬けの day181 の上清中の還元糖濃度と,
アラビノース,マンノース,ガラクトース,キシロース,グルコースの濃度を
Table 3-1 に示した.Day181 において,B17-4 と C120-3 を接種した高菜漬けの還
元糖濃度は,それぞれ 9.49 g/L, 5.29 g/L であった (Fig. 3-3).アラビノース,マ
ンノース,ガラクトース,キシロース,グルコースの総量はそれぞれの高菜漬
けで 3.89 g/L,3.57 g/L であった.したがって,これらの単糖以外の還元糖濃度
は,それぞれ 5.6 g/L, 1.72 g/L であり B17-4 を接種した高菜漬けには単糖以外の
還元糖が多く含まれていると考えられた.
43
Residual reducing sugar (g/L)
Fig. 3-3
40
30
20
10
0
0
50
100
150
200
Fermentation days (d)
Changes in residual reducing sugar concentration during fermentation.
Symbols: □, B17-4; △, C120-3.
Table 3-1
Sugar composition of supernatant sampled from takanazuke on day 181.
44
3.3.4 EPS の構成糖
B17-4 が生成したと考えられる EPS の構成糖の分析結果を Table 3-2 に示した.
Table 3-1 に示した還元糖の分析結果に相関して,アラビノース,ガラクトース,
グルコースの含量が多かった.高菜に含まれる糖含量を反映しているものと考
えられた.
Table 3-2
Acid-hydrolyzed sugar composition of EPS extracted from takanazuke
with B17-4.
45
3.3.5 スターターに用いた乳酸菌の安定性の確認
スターター菌接種後 day12, day90, day181 で得られたクローンのホモロジー検
索結果を Table 3-3 に示した.どちらの高菜漬けも接種した乳酸菌が day181 まで
優占種であった.
Table 3-3
Homology analysis of obtained clones.
B17-4
Closest relatives
Number
of clones
20/20
Sequence
similarities
100%-
99.8%
Day12
(20 clones)
L. paraplantarum AB626065
L. plantarum HQ610929
Day 90
L. paraplantarum AB626065
21/21
(21 clones)
L. plantarum HQ610929
100%-
99.8%
Day181
(22 clones)
L. paraplantarum AB626065
L. plantarum HQ610929
22/22
100%-
99.8%
C120-3
Closest relatives
Day12
Pediococcus parvulus AB681216
Number
of clones
24/24
Sequence
similarities
100%-
99.8%
Day 90
(23 clones)
Pediococcus parvulus AB681216
23/23
100%-
99.8%
Day181
(23 clones)
Pediococcus parvulus AB681216
21/23
Leu. mesenteroides AB596937
1/23
100%-
99.8%
100%
Schlegelella sp.KB1 AY538706
1/23
99.8%
(24 clones)
46
3.4 考察
L. (para)plantarum B17-4 および P. parvulus C120-3 をスターター菌として接種し
た高菜漬けは,対照群に比べ発酵初期に早く pH が低下し,乳酸の濃度が増加し
た(Fig. 3-1, Fig. 3-2). オリーブの発酵 (Spanish-style green olive) で単離した L.
plantarum LPCO10 をスターター菌として接種し,オリーブの発酵を行うと,10
日目までに pH が低下するが,自然な発酵では徐々に pH が低下し,60 日後にほ
ぼ同じ pH の値になることが報告されている (Leal-Sanchez et al., 2003).高菜漬
けのスターター菌と同様の効果が示されていた.有機酸によって,腐敗菌やグ
ラム陰性菌やカビの増殖が抑えられる
(Holzapfel, et al., 1995 ; Holzapfel, 1997,
2002).B17-4 または C120-3 のスターター菌の接種は,発酵の早い時期に乳酸の
増加をもたらすため,より短い期間で雑菌増殖が抑制されると考えられた.
3.3.3 の結果で述べた通り, B17-4 を接種した高菜漬けには day181 において
単糖以外の還元糖が多く含まれていると考えられた (Fig. 3-3, Table 3-1).B17-4
を接種した高菜漬けは発酵初期の段階から粘性物質が観察され,粘性は次第に
減少した.この粘性物質の生成は MRS 寒天培地のコロニーにおいても観察され
た.一方,C120-3 を接種した高菜漬けでは粘性の物質は観察されなかった.L.
plantarum の中には,培地の糖を用いて粘性物質である EPS を産生する株が報
告されている (Tallon et al., 2003 ; Liu et al., 2011). Day12 以降,B17-4を接種し
た高菜漬けの乳酸濃度が C120-3 を接種した高菜漬けに比べて低いのは,B17-4
が高菜に含まれる糖を用いて,乳酸発酵を行うとともに EPS を産生したためと
考えられた.EPS は,EPS を生成した細菌自身または他の細菌の生成する EPS
分解酵素によって分解される例が報告されている.例えば L. rhamnosus R は EPS
47
を産生するが,EPS は菌体自身の糖質加水分解酵素によって分解され粘性が減
少したことが報告されている (Pham et al., 2000 ; Badel et al., 2011).EPS を産生
する細菌自身が EPS を分解し,炭素源として利用するという報告がある一方で,
EPS を産生するほとんどの細菌は,EPS をすべて完全に分解する酵素を持って
おらず,単糖まで分解できないという報告もある (Wolfaadt et al., 1999 ; Badel et
al., 2011).B17-4 を接種した高菜漬けでは発酵初期に EPS が産生され,その後
EPS が完全に単糖まで分解されず,単糖以外の還元糖が上清中に含まれていた
ことが推察される.
B17-4 を接種した高菜漬けで得たクローンは,day181 まですべて接種した菌
と同じであった.C120-3 を接種した高菜漬けで得たクローンは,day90 まです
べて接種した菌と同じ配列であったが,day181 でヘテロ発酵型の Leuconostoc
mesenteroides AB596937 および Schlegelella sp.KB1a AY538706 と相同性の高い菌
が,23 クローン中 1 クローンずつ検出された (Table 3-3).Leu. mesenteroides は
pH 6.5 では増殖するが,pH 4.8 では増殖しないとされており (Bergey's Manual,
1986, 2009),酸性の状態では生息しにくいと考えられるが pH 3.8 で検出された.
Schlegelella sp.KB1a AY538706 は,熱耐性のグラム陰性細菌である.コンポスト
の固形成分から単離されており,菌体内に貯蔵したポリヒドロキシ酪酸
(polyhydroxybutyrate ; PHB) を炭素源が少ない時に分解すると考えられている細
菌である (Romen et al., 2004).C120-3 を接種した高菜漬けからスターター菌以
外の菌が 23 クローン中 2 クローン検出されたが,どちらの高菜漬けも day181
まで接種した菌が優占種であった.長期保存の場合は一般的に塩分濃度が高い
が,スターター菌を接種すれば 181 日経過しても低塩で,安定した菌叢で保存
することができた.スターター菌を接種した高菜漬けは塩辛くなく,阿蘇地方
48
において製造されているものと同様の風味であった.このようにスターター菌
を接種することで,減塩高菜漬けを試験製造することができた.
3.5 要約
食塩添加量を減少させた高菜漬けを製造することを目的として,高菜漬けか
ら単離した乳酸菌 L. (para)plantarum B17-4 と P. parvulus C120-3 をスターター菌
として接種し,食塩を最初に 2% (w/w)だけ添加して高菜漬けを試作した.塩も
みした高菜 1 kg (食塩 2% (w/w)) に対して,B17-4 が 1.0×1010 cfu,C120-3 が 4.3
×1010 cfu の割合で接種した.また,食塩を 6% (w/w)添加して塩もみした高菜に
は乳酸菌を添加せず対照群とした.発酵温度を月ごとに阿蘇市の月別平均気温
に合わせて保存したところ,乳酸菌を接種した高菜漬けは,12 日目に B17-4 接
種で pH 4.3,C120-3 接種で pH 4.2 になった.一方,スターター菌を接種しない
高菜漬け (食塩 6% (w/w)) は徐々に pH が低下し,40 日目でようやく pH 4.2 に
なった.B17-4 を接種した高菜漬は C120-3 を接種した高菜漬けに比べて生成乳
酸濃度が低く,残存還元糖濃度が高かった.これは,B17-4 が細胞外分泌多糖
(EPS) を生成したためと考えられた.B17-4 または C120-3 を接種した高菜漬は,
接種直後から 181 日目にかけてスターター菌が優占種であり,低塩条件でも 181
日間菌叢が安定していたことが確認できた.
49
第4章
高菜漬けの製造過程における菌叢変化
4.1 緒言
第 2 章で述べたように,スターター菌選抜のために,MRS 培地を用いて経日
的に高菜漬けから乳酸菌を単離し菌種の同定を行った.発酵した野菜から培養
によって菌を単離し,優占種の同定や菌叢解析を行うことは広く行われている
(Tamang et al., 2005 ; Chen et al., 2006 ; Plengvidhya et al., 2007 ; Tanganurat et al.,
2009 ; Chao et al., 2009 ; Paramithiotis et al., 2010).しかし,食品中の細菌の中には,
培養条件によっては単離しにくい菌も存在することが報告されている (Ampe et
al., 1999).そのため,食品中の微生物の解析を,培養による方法と培養によらな
い方法を組み合わせて行う提案がなされてきた (Giraffa, 2004 ; Temmerman et al.,
2004).実際に,培養による方法と培養によらない方法で,両者を比較した報告
例が近年多くなされている (Endo et al., 2008 ; Wouters et al., 2013c,b ; Nguyen et
al., 2013).そこで,培養によらない方法で経日的に高菜漬けの菌叢の解析を行い,
高菜漬けに関与する乳酸菌と菌叢変化の様子を把握することにした.第 3 章に
おいてスターター菌 Lactobacillus (para)plantarum B17-4 と Pediococcus parvulus
C120-3 を高菜漬けに接種し,それぞれ減塩高菜漬けを製造した.このとき対照
群としたスターター菌を接種しない高菜漬け(食塩 6% (w/w)) から DNA を抽出
し,16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列を調べることで,経日的に菌種の同定
と菌叢の解析を行った.
50
4.2 実験材料および方法
4.2.1 高菜漬け (食塩 6% (w/w)) の製造
3.2.2 で示したように,高菜漬け (食塩 6% (w/w)) を製造した.
4.2.2 高菜漬けの経日的菌叢解析
Day0, day19, day40, day90, day180 の高菜漬けを滅菌した 3 層のガーゼで絞った.
得られた絞汁を遠心分離して (8000 rpm, 4°C, 15 min) 上清を除き,沈殿物に滅菌
水 1 mL を加えて懸濁した.懸濁液を遠心分離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清
を捨てた.沈殿物に滅菌水 200 μL を加えて懸濁し,DNA 抽出に用いた.DNA
抽出から菌種の同定までの操作は,2.2.9 と同様に行った.
なお,PCR 時に使用した DNA テンプレート の濃度は day0, day19, day40, day90,
day180 においてそれぞれ,19 ng/μL, 100 ng/μL, 70 ng/μL, 103 ng/μL, 115 ng/μL で
あった.得られた塩基配列を NCBI のデータベースと照合することにより,乳酸
菌の菌種を推定した.相同性の高いとされる数種類の菌種の塩基配列と各クロ
ーンの塩基配列を比較し,キメラと考えられるものは除いた.得られた塩基配
列は DNA Data Bank of Japan (DDBJ) に AB852111 - AB852186 として登録した.
4.2.3 初発 pH の影響の検討
2010 年に高菜漬けから単離・同定した菌株 L. curvatus B17-2, L. sakei A165-1, L.
(para)plantarum B17-4 をグリセロールストックから起こした. MRS (NaCl 2%)
寒天プレートで各菌株を 30°C で 48 時間培養した.各菌株のコロニーを拾い MRS
寒天のスラントに植菌し,30°C で 48 時間培養した.pH 6.5 に調整した MRS 液
51
体培地を 50 mL ずつ,3 つの 100 mL の三角フラスコに入れ滅菌し (121°C, 20 分),
前培養用培地とした.各スラントの菌を前培養用培地に白金耳で植菌し,30°C
で 24 時間静置培養した.pH 6.5, 6.0, 5.5, 5.0, 4.5, 4.0 に調整した MRS 液体培地 を
50 mL ずつ 100 mL の三角フラスコに入れ,本培養用培地とした.前培養液を 5 mL
ずつ 6 種類の pH に調整した本培養用培地に加え,30°C で 48 時間静置培養した.
経時的に本培養液を採取し,OD660 値を測定した.
4.2.4 分析
Day 0, 4, 7, 19, 30, 40, 90, 180 に,高菜漬け (食塩 6% (w/w)) を滅菌した 3 層の
ガーゼを用いて絞った.絞汁を遠心分離後 (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清をフィ
ルターろ過したものについて,F-キット乳酸を用いて day 7, 19, 30, 40, 90, 180 に
D/L-乳酸濃度を測定した.pH は day 0, 4, 7, 19, 30, 40, 90, 180 に測定した.
4.3 結果
4.3.1 D/L-乳酸濃度の経日変化
高菜漬けの絞汁の pH は,day 0, 4, 7, 19, 30, 40, 90, 180 においてそれぞれ 6.62,
6.51, 6.11, 5.75, 5.19, 4.19, 4.22, 3.83 であり,生成乳酸濃度は day 7, 19, 30, 40, 90,
180 において,0.7, 8.7, 10.7,18.5, 25.8, 28.8 g/L と増加した (Fig. 4-1).このときの
L-乳酸の比率はそれぞれ 63.4, 97.0, 84.1, 47.3, 43.8, 42.7%であり (Fig. 4-2),発酵
初期には L-乳酸が多く生成されたが, 発酵が進むにしたがって D-乳酸の比率が
高くなった.
52
Fig. 4-1
Changes in pH and lactate concentration during fermentation.
Symbols: ●, lactate; ■, pH.
Fig. 4-2
Change in D/L-Lactate concentration during fermentation.
■, D-lactate; □, L-lactate.
53
4.3.2 菌叢の経日変化
Day0 に 29 クローン,day19 に 46 クローン,day40 に 51 クローン,day90 に
57 クローン,day180 に 52 クローン,合計 235 クローンの 16S rRNA 遺伝子領域
の部分塩基配列解析を行った.Fig. 4-3 に day0 から day180 までの菌叢の変化を
示した.Day0 では Pseudomonas 属のみが検出された.
Day19 では,Pseudomonas
属の菌は消滅し,L. curvatus のみが検出された.Day40 になると L. curvatus 56.9%,
L. (para)plantarum 39.2%,L. sakei 3.9%であった.Day90 は L. (para)plantarum
50.9%,L. sakei 45.6%,L. curvatus 1.7%,
Weissella 属 1.7%であった.Day180 は
L. (para)plantarum 59.6%,Weissella 属 32.7%, L. curvatus 3.8%, L. alimentarius
1.9%,であり Clostridium 属 も 1.9%検出された.Clostridium 属と考えられる菌は
Clostridium disporicumNR_026491,または Clostridium sp. A7-9 AB238882 との相
同性が 98.3%であった.
発酵初期は L. curvatus が優占種であったが次第に L. curvatus に代わって L.
(para)plantarum が優占種として増加した. pH が低下し乳酸の生成量が減少し
た day90 には L. (para)plantarum と並んで L. sakei も一時的に優占種となった.
54
Fig. 4-3
Temporal profile of the bacterial community during fermentation.
,Pseudomonas
,Weissella
,L. curvatus
,L. alimentarius
,L. (para)plantarum
,Clostridium
55
,L. sakei
4.3.3 増殖に及ぼす初発 pH の影響
検出した L. curvatus, L. sakei, L. (para)plantarum は,単離した L. curvatus B17-2,
L. sakei A165-1, L. (para)plantarum B17-4 と相同性が高かった.そこで,B17-2,
A165-1, B17-4 の 3 菌株を用いて増殖に及ぼす初発 pH の影響を調べた.Fig. 4-4
に示したように,L. curvatus B17-2 と L. sakei A165-1 は初発 pH が 4.5, 4.0 ではほ
とんど増殖しなかった.一方,L. (para)plantarum B17-4 は初発の pH が 4.5 でも
増殖しており酸に強いと考えられた.
Fig. 4-4
Growth curves of L. curvatus B17-2 (a), L. sakei A165-1 (b), and L.
(para)plantarum B17-4 (c) in MRS broth medium at various pHs.
Symbols: ■, pH 6.5; □, pH 6.0; ▲, pH 5.5; △, pH 5.0; ●, pH 4.5; ○, pH 4.0.
56
4.4 考察
生の野菜においては Enterobacteriaceae や Pseudomonadaceae などが生息してい
て,乳酸菌は少ししか生息していないことが報告されている (Hutkins,2006 ; Di
Cagno et al., 2013).本研究においても,day0 においては Pseudomonas 属のみが検
出され,乳酸菌は検出されなかった. Day19 では Pseudomonas 属は全く検出さ
れなくなり, L. curvatus のみが検出された.ネギの自然な発酵では,生のネギ
において MRS プレートによる菌数測定で,log2-log3 (cfu/ mL)であった乳酸菌が,
発 酵 の 第 1 週 目 に log8-log9 (cfu/mL) に ま で 増 加 し て い る . 一 方 で , PC
(Pseudomonas cetrimide) プレートによる菌数測定で, 多いとき log5 (cfu/mL) の
菌数であった Pseudomonadaceae は,ほぼ第 1 週目に消失しており,高菜漬けと
同様の結果が報告されている (Wouters et al., 2013b).食塩と乳酸によって
Pseudomonas 属の細菌は抑制されたと考えられた.
Pseudomonads の中で,狭義の Pseudomonas 属は 16S rRNA 遺伝子領域の塩基
配列に基づく分類で,P. syringae group, P. fluorescens group, P. chlororaphis group,
P. putida group, P. stutzeri group, P. aeruginosa group, P. pertucinogena group の 7 つ
のグループに分類される (Anzai,et al., 2000 ; Bergey's Manual, 2005).検出され
た 29 クローンのうち 26 クローンは P. syringae group との相同性が高かった
(Fig.4-5).P. syringae group については植物に病原性を示す菌に関する報告があ
る (Takikawa et al., 1989).収穫時,高菜の葉に傷みが部分的に観察された.傷ん
だ葉の多くは除去して漬けるが,検出された菌は傷んだ葉に生息する
Pseudomonas 属の菌であることが推察された.
Day19 では 46 クローンすべてが L. curvatus であった.高菜ジュース培地によ
57
る L. curvatus B17-2 の乳酸発酵試験において, D-乳酸は 46%,L-乳酸は 54%で
あった(Table 2-4, Fig. 2-4).しかし,day19 に検出した L. curvatus が生成した乳酸
は,ほとんどが L-乳酸であった (Fig. 4-2).第 2 章でも述べたとおり L. curvatus
は 乳酸ラセマーゼを有しており , その合成は L-乳酸によって誘導さ れる
(Bergey's Manual, 1986, 2009).高菜ジュース培地では乳酸ラセマーゼが誘導され
たと考えられるが,day19 までの高菜漬けでは L-乳酸の量が十分ではなく乳酸ラ
セマーゼの誘導が起きていないと考えられた.
L. curvatus は day40 に 56.9%にまで減少した.代わりに day40, day90, day180
において L. (para)plantarum が 39.2%, 50.9%, 59.6%と徐々に増加した (Fig. 4-3).
検出した L. (para)plantarum は,L. (para)plantarum B17-4 との相同性が高く耐酸
性に優れているため増加したと考えられた.Day19 以降 day40 まで,D-乳酸の割
合が 52.7%にまで増加しているのは L. (para)plantarum による D-乳酸の生成に加
え,L. curvatus の乳酸ラセマーゼによる L-乳酸 から D-乳酸への異性化が起きた
ためと考えられた.
L. sakei は,初発 pH の影響を調べた試験では L. curvatus と同様に低い pH の
MRS 培地では増殖しなかったが (Fig. 4-4),pH が低下した day90 の高菜漬けで
45.6%検出された (Fig. 4-3).L. curvatus と L. sakei はアルギニンの分解に関して
違いがある.すなわち,L. curvatus はアルギニンを分解しないが (Bergey's Manual,
1986, 2009),L. sakei に関してはアルギニンの分解に関する報告がある (van de
Guchte et al., 2002 ; Rimaux et al., 2012). L. sakei は,ソーセージのような肉の発
酵食品から単離または検出されている (Kesmen et al., 2012).肉のように炭水化
物が制限されている発酵食品から単離した L. sakei では,アルギニンデイミナー
ゼ (ADI) 経路が機能する例が報告されている.アルギニンはオルニチンに変換
58
され,その過程で ATP が作られる.さらに,この代謝によってアンモニアも生
成する.ATP 生成によるエネルギーの供給は,競争で有利に働くと考えられて
いる (Rimaux et al., 2012).低い割合ではあるが pH 4.5 でも ADI 経路を通して,
アルギニンが変換されることが L. sakei CTC 494 において示されている (Rimaux
et al., 2011).しかし,アルギニンの代謝におけるシトルリンの生成は,合成培地
のグルコース濃度が 27.5 mM 以上のとき抑えられるという報告がある (Montel
et al., 1987).Day90 において乳酸発酵が進み,グルコースが減少した状況の中で
L. sakei の ADI 経路が機能し,増殖したものと考えた.その結果,day40 におい
て 4.19 であった pH が,day90 において 4.22 と若干上昇したものと推測した.
Day180 では L. (para)plantarum 59.6%に加えて,Weissella 属が 32.7%検出され
た.台湾のからし菜の漬物では,発酵初期のサンプルから Lactobacillus 属,
Leuconostoc 属,Pediococcus 属とともに Weissella cibaria と W. paramesenteroides
が単離されている (Chao et al., 2009).韓国のキムチでは,16S rRNA 遺伝子クロ
ーンライブラリー法によって W. koreensis が優占種として検出されている (Kim
and Chun, 2005).トウガンを発酵させた,台湾の yan-dong-gua では発酵の初めの
段階でガラクトースを資化しない W. cibaria が優占種として単離されているが,
5 日後からほとんどガラクトースを資化する W. paramesenteroides に置き換わっ
たことが報告されている (Lan et al., 2009).キュウリを発酵させた台湾の
jiang-gua では W. cibaria が単離されている.これは生のキュウリからも単離され
ているが,生のキュウリでは,16S rRNA 遺伝子解析から W. hellenica との相同
性が 99.7%,W. paramesenteroides との相同性が 98.4%である菌が単離されている.
単離された菌は,表現型の試験においてこれら 2 種の菌の特徴を有しているが,
RFLP 法 (Restriction Fragment Length Polymorphism Analysis) に よ っ て W.
59
hellenica であることが示されている (Chen et al., 2012).今回検出された 18 クロ
ーンは部分的 16S rRNA 遺伝子の解析では,データベースとの照合によると W.
paramesenteroides EU855224 と の 相 同 性 が 高 く 99.6 ~ 98.3% で あ っ た が ,
Weissella 属の他の菌種の可能性もあると考えられた.
第 2 章 2.4 で述べたように,ザワークラウトや (Plengvidhya et al., 2007),カリ
フ ラ ワ ー の 漬 物 で は (Paramithiotis et al., 2010) , ヘ テ ロ 発 酵 型 の Leu.
mesenteroides が最初の段階で発酵を進める.その後,耐酸性で,ホモ発酵型の L .
plantarum が優占種となることが報告されている.カブを発酵させたイタリアの
brovada では,発酵初期にヘテロ発酵型の L. hilgardii が単離され,その後,
Pediococcus parvulus が優占種となって単離されている.L. plantarum は発酵のど
の段階でも単離されている (Maifreni et al., 2004).からし菜を発酵させた台湾の
suan-tsai では,漬けて 3 日目に Lactobacillus 属,Leuconostoc 属,Weissella 属,
Pediococcus 属の乳酸菌が単離されており,2 か月後には,L. plantarum と L. brevis
が優占種として単離されている (Chao et al., 2009).高菜漬け B では,発酵初期
の day13 に Leu. mesenteroides が優占種として単離され,day17 には L. sakei,L.
curvatus, L. (para)plantarum も単離された.その後,L. (para)plantarum が優占種
となり,day175 にはヘテロ発酵型の L. brevis も単離された.本章の解析では発
酵初期に Leu. mesenteroides は検出されず,発酵過程の初めの段階からホモ発酵
型の乳酸菌 L. curvatus が検出された.L.curvatus B17-2 は単離後,MRS 寒天培地
を用いた植え継ぎで死滅しやすい菌であった. しかし本章の解析では,L.
curvatus は発酵初期において生存に有利な菌であると考えられる結果だった.そ
の後 L. curvatus は減少し, L. (para)plantarum が時間の経過とともに増加して
いった. Day180 には L. (para)plantarum と共に,ヘテロ発酵型の Weissella 属も
60
検出された.L. (para)plantarum は,どちらの解析方法においても長期に渡って
生息したことが確認された (Table 4-1).
高菜漬け C からは,主要な乳酸菌として L. (para)plantarum と共に,L. parabrevis
と P. parvulus も単離されたが,本章の高菜漬けの解析では, L. parabrevis や P.
parvulus は検出されなかった.これは,漬けた容器の取り扱い方法や,保存した
容器の周辺環境の違いなどによるものと考えられた.
生のトマトから単離した L. plantarum POM 1 や L. plantarum POM35 を接種し
たトマトジュースは,スターター菌を接種しないトマトジュースに比べ,発酵
後低温で 40 日保存後も,スターター菌を接種しないトマトジュースに比べ,ア
スコルビン酸とグルタチオンの濃度が大きく低下せず 維持されている (Di
Cagno et al., 2009 ).イタリアのオリーブの実の発酵で単離された L. plantarum は
増殖しやすく,pH 2.5 でも生存し胆汁酸に耐性があり,Escherichia coli O157:H7
への抗菌作用を示すため,スターター菌の候補となっている (Bevilacqua et al.,
2010). ネギの発酵で得られた L. plantarum IMDO 788 をスターター菌としてカ
リフラワー とミックス野菜に接種したとき,どちらの発酵においても早く pH
を低下させている. また,発酵期間を通して優占種として維持されたことが報
告されている(Wouters et al., 2013d).このように L. plantarum はスターター菌に
関する報告例がある.スターター菌として L. (para)plantarum B17-4 は優れた高
菜漬け用スターター菌であると評価したが,本章の菌叢解析においても経日的
に増加が確認され,確かにスターター菌として利用できるかもしれないと考え
られた.
61
Fig. 4-5 Phylogenetic tree of clones based on similarities in partial 16S rRNA gene
sequences measured on day 0.
62
Table 4-1
The prevalence of lactic acid bacteria by the combination of culture-
dependent and culture-independent approach.
Culture-dependent analysis
(Chapter 2)
NaCl 6% (w/w)
stored in a plastic bucket
Day13
Leu.mesenteroides
Day17
Leu.mesenteroides
L. sakei
L. curvatus
L. (para)plantarum
Day62
Culture-independent analysis
(Chapter 4)
NaCl 6% (w/w)
stored with vacuum packaging
Day19
L. curvatus
Day40
L. curvatus
(L. sakei)
L. (para)plantarum
Day90
L. (para)plantarum
L. sakei
(L. curvatus, Weissella)
L. (para)plantarum
Day175 L. (para)plantarum
(L. brevis)
Day180 L.(para)plantarum, Weissella
(L.curvatus, L.alimentarius)
The number of bacteria in parentheses is less.
63
4.5 要約
食塩を 6% (w/w)添加する従来法での高菜漬製造過程における菌叢変化を調べ
た。阿蘇で収穫し塩漬けした高菜を持ち帰り,小分けし吸引密封して月ごとに
阿蘇市の月別平均気温に合わせて保存した.生成乳酸濃度は day 7, 19, 30, 40, 90,
180 においてそれぞれ 0.7, 8.7, 10.7, 18.5, 25.8, 28.8 g/L と増加し,L-乳酸の比率は
63.4, 97.0, 84.0, 47.3, 43.8, 42.7%と変化した.Day 0, 19, 40, 90, 180 の高菜漬けか
ら DNA を抽出し,16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づく菌叢解析を行
ったところ,培養経過に伴って優占種が変化した.Day0 では Pseudomonas 属の
みが検出された. Day19 では L. curvatus のみが検出された.その後,day40 で
は L. curvatus (56.9%), L. (para)plantarum (39.2%), L. sakei (3.9%)と菌叢が多様化
し,day90 では L. (para)plantarum (50.9%), L. sakei (45.6%), L. curvatus (1.7%),
Weissella 属 (1.7%)となった.Day180 では L. (para)plantarum (59.6%), Weissella 属
(32.7%), L. curvatus (3.8%), L. alimentarius (1.9%), Clostridium 属 (1.9%)に変化し
た . 検 出 さ れ た L. (para)plantarum は , 高 菜 漬 け B か ら 単 離 し た L.
(para)plantarum B17-4 との相同性が高かった.L. (para)plantarum B17-4 は,耐酸
性の菌であり,スターター菌として確かに利用できると考えられた.
64
第5章
乳酸発酵による阿蘇高菜の成分変化と成分の機能性への影響
5.1 緒言
近年,健康の維持・増進,疾病予防のために,食品中の生体調節機能を有す
る成分について関心が高まっており,成分分析やその機能性に関する研究が広
く行われている.アブラナ科の野菜中のフィトケミカルであるグルコシノレー
トやフラボノイドの機能性に関する研究が行われていることは,第 1 章で述べ
たとおりである.しかし,阿蘇高菜中ではどのようなグルコシノレートやフラ
ボノイドが構成成分であるか調べられておらず,成分の機能性に関する報告例
もない(文部科学省, 2009). また,発酵後の成分やその機能性に関する情報もない.
発酵食品や発酵飲料では発酵過程で成分が変化する例や,変化した成分の機
能性が上昇したという報告がある.例えば, スターター菌として豆乳に L.
paraplantarum KM,Enterococcus durans KH,Streptococcus salivarius HM,Weissella
confusa JY をそれぞれ接種したところ,イソフラボンであるダイゼインやゲニス
テインの配糖体が減少しアグリコンが増加している.特に,L. paraplantarum KM
を接種した場合の配糖体からアグリコンへの変換率が高い結果となっている.
配糖体の加水分解は乳酸菌が生成する β-グルコシダーゼによるものであり,菌
種によってその生成能に違いがあるという考察が行われている (Chun et al.,
2007).また,玉ねぎに L. plantarum S1 をスターター菌として接種すると,スタ
ーター菌を接種しないものに比べケルセチンの配糖体が減少し, 抗酸化効果の
あるケルセチンが増加したという報告がある.この成分変化はスターター菌が
生成する酵素と玉ねぎの酵素の働きによるものであるという考察が行われてい
65
る (Bisakowski et al., 2007).食用の種子類においても,Bacillus subtilis や L.
plantarum をスターター菌として接種すると,接種しないものに比べフェノール
化合物の総量が増加し抗酸化効果が上昇している.Bacillus subtilis や L.
plantarum には強い β-グルコシダーゼ活性があるという例をもとに,この試験結
果についても酵素反応により生物学的活性を持った化合物が増えたためかもし
れないという考察が行われている (Wang et al., 2014).このような報告例がある
ことから,L. (para)plantarumB17-4 をスターター菌として接種した減塩高菜漬け
の成分に関する科学的情報を得ることにした.
生活習慣との関連がある癌,循環器疾患,糖尿病のような疾病の発症や病態
の悪化に関わる因子として,活性酸素種が重要な役割を果たしていると考えら
れている (今田ら, 1999 ; Boots et al., 2008 ; García-Lafuente et al., 2009 ;
Ravishankar et al., 2013).そこでフィトケミカルの中でも抗酸化効果の報告例の
あるポリフェノールに着目し,高菜と高菜漬けから成分の抽出を行った.抽出
物中の機能性成分を明らかにし,その機能性成分の濃度や効果の上昇を図るた
め,発酵過程の成分変化に関する分析を行った.
5.2 実験材料および方法
5.2.1.
スターター菌を用いた高菜漬けの製造
2011 年 4 月 に 阿 蘇 市 で 収 穫 し - 20 ℃ で 保 存 し て あ っ た 阿 蘇 高 菜 に L.
(para)plantarum B17-4 を接種し,成分抽出用の高菜漬けを模擬的に製造した.ス
ターター菌の培養とスターター菌を用いた高菜漬けの製造は,第 3 章 3.2.1,3.2.2
に準じて行った.本培養液 5 mL を遠心分離し (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清を
66
捨て滅菌水で 5 mL にメスアップした.このスターター乳酸菌液を,流水で解凍
し 2% (w/w)の食塩を加え塩もみした高菜 500 g にふりかけなじませた.添加し
た菌体数は 4.8×108 cfu であった.スターター菌を接種後,高菜をプラスチック
の袋に入れて吸引密封し,16°C で保存した.11 日後に pH 4.5 になったところで
発酵したと判断し,成分抽出に用いた.
5.2.2
高菜と高菜漬けの成分抽出
逆相 HPLC の分析,および総ポリフェノール量やラジカル消去活性を測定す
るため,高菜と高菜漬けから成分を抽出した.高菜と高菜漬けを凍結乾燥後,
乳鉢を用いて液体窒素中で粉砕した.乾燥粉末の高菜と高菜漬けそれぞれ 15 g
を,ギ酸で pH 3.2 に調整した 70%エタノール 200 mL に入れ,15 時間撹拌し抽
出を行った.抽出液を遠心分離し (8000 rpm, 4°C, 15 min),上清を回収した.ロ
ータリーエバポレーターを用いて減圧乾燥を行い,エタノールを蒸発させた.
抽出物を凍結乾燥後 (Freeze dryer VD-41; Taitec),分析に用いた.
5.2.3 高菜と高菜漬け抽出物の逆相 HPLC 分析
逆相 HPLC (CBM-20A, SPD-M20A, LC-10AT, COT-10A, DGU-12A; Shimadzu)を
用いて標準試料および各抽出物の分析を行った.カラムは L-columnODS ((財)化
学物質評価研究機構 4.6×150 mm i.d.5 μm) を使用し,カラム温度は 30°C に設定
した.標準物質のコーヒー酸 (caffeic acid ; CA) とケルセチンは 50 %メタノール
に溶解させ 0.1 g/L とし,
1:3 の割合で混合して用いた.抽出物は 50%エタノ
ールに 0.125 g/L の濃度で溶解させフィルターろ過後分析に用いた.インジェク
ト量は 20 μL にした.移動相には,A 液に蒸留水 (1% トリフルオロ酢酸),B
67
液にアセトニトリル (1% トリフルオロ酢酸) を用い,流速 1.0 mL/min にて送
液した.グラジエント条件は溶離液 B の濃度 20% (0min), 70% (40min), 100%
(42min), 100% (55min), 20% (55.1min), 20% (56 min)で分析を行った.検出波長は
310 nm とした.
5.2.4 高菜と高菜漬け抽出物の総ポリフェノール量と抗酸化能評価試験
総ポリフェノール量はフォーリン-チオカルト法により測定した.抽出物は
50%のエタノールに溶解させ 4.0×10-2 g/mL に調整して用いた.試験管にサンプ
ル 200 μL と超純水 3.2 mL を入れた.1.8 N フェノール試薬を超純水で 2 倍に希
釈し 200 μL 加えて撹拌した.3 分後,10% Na2CO3 水溶液 400 μL を加えて撹拌
し,室温で 1 時間反応させた.その後,750 nm の吸光度を測定した.没食子酸
(GA) を標準物質として検量線を作製し,GA 当量の mg GA/g dry weight で表記
した.
次 に , DPPH ラ ジ カ ル 消 去 活 性 試 験 に よ り 抗 酸 化 能 評 価 を 行 っ た .
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl (DPPH) (ナカライテスク) をエタノールに溶解し,
200 μM DPPH/EtOH 溶液を調製した.50%エタノールで抽出物を段階的に希釈し,
その各サンプル 50 μL に pH 5.5 の酢酸緩衝液 50 μL と 200 μM DPPH/EtOH 溶液
100 μL を加え , 遮光して 20 分間放置した.マイクロプレートリーダー
(ImmunoMini NJ 2300)を用いて反応液の吸光度を 490 nm の波長で測定した.ラ
ジカル消去活性は,吸光度比 (各サンプルの吸光度 / コントロールの吸光度)
を求め,得られた濃度依存曲線から DPPH ラジカルを物質が 50%除去できる濃
度 IC50 値を,GA 当量の mg GA/L で表記した.
68
5.2.5
高菜漬け抽出物の分取用 HPLC による分画
分取用 HPLC (UV/VIS-155, 502, 305, 306, 811D; Gilson) を用いて高菜漬け抽出
物の分画を行った.カラムは L-columnODS ((財)化学物質評研究価機構 20×250
mm i.d.5 μm) を用い,カラム温度は 30°C に設定した.移動相には,A 液に蒸留
水 (1% トリフルオロ酢酸),B 液にアセトニトリル (1% トリフルオロ酢酸) を
用い,流速 10 mL/min にて送液した.グラジエント条件は溶離液 B の濃度 20%
(0 min), 70% (40 min), 100% (42 min), 100% (55 min), 20% (55.1 min), 20% (56 min)
で分画を行った.検出波長は 310 nm とした.インジェクション量は 1 mL とし
た.
フラクションコレクター (SF-2120 Advantec) を用いて各フラクション 10 mL
を集めた. 紫外可視分光光度計 (UV-1700; Shimadzu) を用いて分画物の 370 nm,
400 nm の吸光度を測定することで目的成分が分取できているか確認を行った.
減圧乾燥を行い,アセトニトリルを除去することで 2 種類の分画物を回収した.
サンプルは凍結乾燥させ,重量を測定し試験に用いた.
5.2.6
分画物の分子量測定と抗酸化能評価試験
MALDI-TOF Mass (autoflex III smartbeam; Bruker Daltonics) を用いて分子量を
測定した.分画物をアセトニトリルで溶解し試料プレートに滴下後乾燥させた.
Reflector Positive の測定モードで窒素レーザー紫外光 337 nm を照射し,[M+H]
+
として分子量を検出した.分画物の抗酸化能評価試験は 5.2.4 に準じて行った.
69
5.3 結果
5.3.1 高菜と高菜漬けの抽出物量
高菜から 50.6 mg/g fresh weight (0.51 g/g dry weight)を抽出した.また, 高菜漬
けから 60.6 mg/g fresh weight (0.61 g/g dry weight)を抽出した.
5.3.2
高菜と高菜漬け抽出物の逆相 HPLC 分析
高菜抽出物は親水性の成分ばかりであると考えられた.一方,高菜漬け抽出
物は親水性の成分が減少し,疎水性の成分が増加していた (Fig. 5-1).その中で
も,枠①,②のリテンションタイム 18~19 min および 47 min のピークは発酵後
の生成物であると判断した.標準試料および枠①,②のピークの吸収スペクトル
を Fig. 5-2 に示した.枠①のピークは 2 つあるがスペクトルの特徴にほとんど
違いがみられなかったため大きなピークのスペクトルのみ示した. 枠①のピ
ークはケルセチンと非常によく似たスペクトルパターンを示したが,リテンシ
ョンタイムはケルセチンより疎水性側に出ていた.この成分は,ケルセチンに
類似したフラボノイド骨格を有するポリフェノールであると推測した.
次に,枠②のピークは 400 nm 付近と 650 nm 付近に吸収があった.葉緑体の
色素成分であるクロロフィルは主に 400-500 nm と 600-700 nm 付近に吸収帯を持
つことから,枠②の成分は発酵により変化した色素成分であると推測した.
70
Fig. 5-1
Chromatogram profiles of CA, Quercetin and compounds extracted from
takana, takanazuke in reversed phase HPLC.
71
Fig. 5-2
Spectra profiles of CA, Quercetin and compounds①,② extracted from
takanazuke.
(①,②;Fig. 5-1)
72
5.3.3 高菜と高菜漬け抽出物の総ポリフェノール量と抗酸化能評価試験
総ポリフェノール量は,高菜抽出物では 18.7 mg GA/g dry weight であり,高菜
漬け抽出物では 21.2 mg GA/g dry weight であった.
DPPH ラジカル消去活性の IC50 値は,高菜抽出物では 17.3 mg GA/L であり,
高菜漬け抽出物では 12.5 mg GA/L であった.
塩漬けや乳酸発酵の過程を経ることで,総ポリフェノール量が上昇し,それ
に伴い DPPH ラジカル消去活性も高まる結果となった.
5.3.4 分取用 HPLC による高菜漬け抽出物の分画
分画時のクロマトグラムを Fig. 5-3 に示した.分析用 HPLC (Fig. 5-1) と分収
用 HPLC の結果を比較すると,リテンションタイムが遅れているが,カラムサ
イズが大きくなったことの影響であると考えられた.28 min 付近のピークと 48
min 付近のピークがそれぞれ Fig. 5-1 の枠①と枠②のピークに相当すると判断し
た.そこで 26 min から 30 min までのフラクションおよび 47 min から 51 min ま
でのフラクションの吸光度測定を行い,それぞれ吸光度値の高いフラクション
について減圧乾燥,凍結乾燥を行い分画物①, ②とした.
73
Fig. 5-3
Chromatogram profiles of compounds extracted from tkanazuke in
preparative HPLC.
5.3.5 分画物の分子量測定と抗酸化能評価試験
MALDI-TOF MS による分画物①,②の測定結果を Fig. 5-4 に示した.
分画物①では m/z 286.86 および m/z 316.89 のピークが観察された.5.3.2 で述
べたように,分画物①はフラボノイド骨格を持つと考えられ,ケンフェロール
(分子量 286.2) とイソラムネチン (分子量 316.2) であることが予想された.イソ
ラムネチンは,ケンフェロールの 3’位炭素にメトキシ基が結合した構造である
(Fig. 1-4).測定時にイソラムネチンのメトキシ基が分解され,ケンフェロールが
検出されたと推測した.
分画物②では,m/z 461.14, m/z 534.20, m/z 595.15, m/z 611.13 のピークが観察さ
れた. 高等植物において葉緑体のクロロフィル a(b)はクロロフィラーゼと呼ば
れる酵素によって長鎖エステル鎖のフィチル鎖が加水分解され,クロロフィリ
74
ド a(b)となる.その後,分子の中心に存在するマグネシウムが脱離しフェオフォ
ルバイト a(b)になると考えられている.しかし酸性条件下では, マグネシウム
が脱離しフェオフィチン a(b)となり,その後クロロフィラーゼによる分解が進み
フェオフォルバイト a(b)に変化する (鳥越・條, 1988 ; 佐賀, 2010).報告による
と,分子量 870.6 のフェオフィチン a の質量分析において,フィチル基が脱離し
たと考えられる m/z 593.3 のピークが検出されている.また,フェオフィチン a
からメトキシカルボニル基が脱離した分子量 812.6 のピロフェオフィチン a の質
量分析において,フィチル基が脱離したと考えられる m/z 535.5 のピークが検出
されている (力石ら,2007).これらの質量電荷比の値に近いフラグメントイオ
ンが分画物②でも検出された.さらに,ピロフェオフィチン a は 410 nm と 660 nm
近辺に吸収ピークを持つが,Fig. 5-2②の吸収スペクトルの波長はこれに近い値
を示している (力石ら, 2007). 以上の結果から,分画物②はクロロフィルから
の生成物であると推測した.
次に,DPPH ラジカル消去活性を測定することで,分画物①,②の機能性を評
価した. 高菜および高菜漬けの抽出物の評価結果も合わせて Table 5-1 に示した.
分画物①の DPPH ラジカル消去活性の IC50 値は 13.9 mg GA/L であった.分画物
①では高菜漬け抽出物に近い抗ラジカル活性が得られたことから,活性につい
て報告のあるフラボノイドであることが示唆された.分画物②は,今回測定し
た濃度範囲で IC50 値が得られなかったことから色素成分であることが示唆され
た.
75
Fig. 5-4
MALDI-TOF MS spectral profiles of preparative HPLC fraction ①,②.
76
Table 5-1
DPPH radical-scavenging activity of takana extract, takanazuke extract,
and fraction ①,②.
77
5.4 考察
逆相 HPLC による分析の結果,高菜の抽出物に比べ高菜漬けの抽出物では疎
水性の 2 つのピークが観察された.これらの吸収スペクトルは,フラボノール
のケルセチンと葉緑体の色素成分の吸収スペクトルに類似していた.抽出成分
の分画を行い,分画物の MALDI-TOF MS による分子量測定を行ったところ,フ
ラボノールの一種であるイソラムネチンとクロロフィルからの生成物と考えら
れるスペクトルが観察された.フラボノイドの多くは植物中で配糖体を形成し
ている (Lin and Harnly, 2010 ; Cartea et al., 2011).発酵の過程でイソラムネチン配
糖体がより疎水性の高いアグリコンのイソラムネチンに変化したと推察した.
韓国のからし菜では,イソラムネチン配糖体 (Isorhamnetin 3,7-di-O-β-Dglucopyranoside) が抽出,同定され (Choi et al., 2000),アグリコンであるイソラ
ムネチンと共にその機能性について in vivo と in vitro での試験が行われている.
ストレプトゾトシン(STZ) で糖尿病を誘発したラットにイソラムネチンを腹腔
内投与した場合,血漿,肝臓,腎臓において,イソラムネチンがイソラムネチ
ン配糖体に比べ脂質酸化抑制効果があったことがチオバルビツール酸試験
(Thiobarbituric acid reactive substance ; TBARS assay)で報告されている.また,
DPPH ラジカル消去活性試験においてもイソラムネチンがイソラムネチン配糖
体に比べラジカル消去能が高いことが報告されている (Yokozawa et al., 2002).
このように,アグリコンがフラボノイド配糖体に比べ抗酸化効果が高いという
報告例は多く,トロロックス等量抗酸化能試験 (Trolox equivalent antioxidant
capacity ; TEAC assay) で,ケルセチンがその配糖体であるルチンに比べ抗酸化
効果が高いことも報告されている (Harbaum et al., 2008 ; Ravishankar et al., 2013 ).
78
また, Aspergillus kawachii の生成する酵素を玉ねぎに作用させると,玉ねぎの
ケルセチン配糖体から一部グルコースが遊離した配糖体やアグリコンが増え,
DPPH ラジカル消去活性が上昇したという報告もある.Aspergillus kawachii の生
成する酵素の中には強いグルコシダーゼ活性を持つものがあり,成分変化は酵
素反応によるものと考えられている (Yang et al., 2012).アブラナ科の野菜の発
酵過程における成分変化も野菜や微生物由来の酵素が関与していると考えられ
ている(Harbaum et al., 2008).減塩高菜漬けにおいても,発酵の過程で高菜由来
の酵素または L. (para)plantarum B17-4 の生成する酵素によって配糖体が加水分
解され,アグリコンが増加して DPPH ラジカル消去活性が上昇したと考えられ
る.成分変化が高菜由来の酵素や L. (para)plantarum B17-4 の生成する酵素によ
るものであるかどうかを確かめ,その活性化に関する評価を行うことで機能性
成分の濃度や効果を上昇させることができるかもしれない.
フラボノイドの抗酸化効果はラジカルの捕捉によるものだけではない.生体
2+
+
内で鉄イオン(Fe ) や銅イオン(Cu ) が生じる時,これらのイオンは過酸化水素
やヒドロペルオキシドと反応し, ヒドロキシラジカルやアルコキシラジカルを
発生させる (岩村, 2002). フラボノイドの中には鉄イオンや銅イオンとキレー
トを形成し,ラジカルの発生を抑えるものが存在する.また,酸化酵素の阻害,
第 2 相解毒酵素の誘導,抗酸化酵素の活性化によっても抗酸化効果を示す
(Ravishankar et al., 2013).
イソラムネチンの抗酸化効果についても,その作用機序の解明が行われてい
る.フラボノイドは細胞内シグナル伝達経路においてキナーゼに作用するとい
う報告がある (García-Lafuente et al., 2009 ; Ravishankar et al., 2013).
NF-E2
関連転写因子 (NF-E2 related factor 2 ; Nrf2) は,抗酸化酵素や第 2 相解毒酵素の
79
誘 導 を 担 う 転 写 因 子 で あ る が , 通 常 の 状 態 で は 細 胞 質 蛋 白 質 (Kelch-like
ECH-associated protein 1 ; Keap1) と結合した状態で細胞質に存在している. イ
ソラムネチンで処理したヒト肝癌由来細胞株である HepG2 細胞において,細胞
外シグナル調節キナーゼ (Extracellular Signal-regulated Kinase ; ERK1/2), プロテ
インキナーゼ Cδ (protein kinase C delta ; PKCδ),AMP 活性化プロテインキナーゼ
(AMP-activated protein kinase ; AMPK) のリン酸化を伴って Nrf2 が核内に移行し
たと考えられる報告が行われている. Nrf2 は核内で遺伝子上に存在する抗酸化
剤応答配列 (antioxidant response element; ARE) に結合することで抗酸化タンパ
ク質などの発現を調節する. イソラムネチンによる処理は,Nrf2-ARE 経路を
活性化させ,酸化ストレス応答酵素であるヘムオキシゲナーゼ (hemeoxygenase
1 ; HO-1) や,グルタチオンの合成の律速反応を触媒するグルタミン酸システイ
ンリガーゼ (glutamate cysteine ligase ; GCL) の発現量を増加させている (Yang
et al., 2014).このような抗酸化効果を有するイソラムネチンを含む阿蘇高菜漬け
を食することで,生活習慣に起因する疾病を予防し,発症や悪化を防ぐことが
できるかもしれない.
イソラムネチンの機能性に関しては,抗炎症効果や抗癌効果に関する報告も
行われている. 過剰な炎症反応は循環器疾患,癌,2 型糖尿病などの病態の重要
な因子である.これらの疾病に対しフラボノイドは抗炎症効果を有すると考え
られる報告が行われている.フラボノイドの中にはアラキドン酸の代謝に関わ
る ホ ス ホ リ パ ー ゼ A2(phospholipase A2 ; PLA2) , シ ク ロ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ
(cyclooxygenases ; COXs),リポキシゲナーゼ (lipoxygenase ; LOX) の活性を調節
するものがある. これらの酵素を阻害することで炎症性メディエーターである
プロスタグランジンやロイコトリエンの産生が抑えられる. フラボノイドによ
80
るこれらの酵素の阻害は抗炎症反応機構において重要であると考えられている.
(García-Lafuente et al., 2009).イソラムネチンに関しては,炎症に関与する酵素
の発現誘導を抑制するという報告が行われている.プロスタグランジン
E2(Prostaglandin E2 ; PGE2) の生合成においては COX-2 と膜結合型プロスタグ
ランジン E2 合成酵素 (Membrane-associated PGE synthase-1 ; mPGES-1) が作用
しているが,リポポリサッカライド (lipopolysaccharide ; LPS) で活性化されたマ
ウスのマクロファージにおいて,イソラムネチンは COX-2 と mPGES-1 の
mRNAs の発現を阻害し,PGE2 産生を抑えている (Hämäläinen et al., 2011).
また,イソラムネチンは正常な胃の上皮細胞においては毒性を示さないが,
ヒト胃癌細胞においてその増殖を抑える.ペルオキシソーム増殖因子活性化受
容体γ(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ; PPAR-γ) は 15-デオキシプロ
スタグランジン J2 (15-deoxy-prostaglandin J2 ; 15d-PGJ2) のような生理的リガン
ドで活性化される転写因子であるが,これは胃癌細胞においてイソラムネチン
によっても活性化されることが報告されている.イソラムネチンによる PPAR-γ
経路の活性化を通してアポトーシスが誘導されると考えられている
(Ramachandran et al., 2012).
上述したように様々な機能性を有しているが,さらにイソラムネチンの機能
性について試験を行い解明することで,減塩阿蘇高菜漬けの価値を高めること
ができるかもしれない.
81
5.5 要約
L. (para)plantarum B17-4 をスターター菌として接種した減塩高菜漬けの製造
過程における成分変化とその機能性への影響に関する分析を行ったところ,塩
漬けや乳酸発酵を経ることで総ポリフェノール量は若干増加し, それに伴い DP
PH ラジカル消去活性が高まった.
逆相 HPLC による分析の結果,高菜の抽出物に比べ高菜漬けの抽出物では,
より疎水性の 2 つのピークが観察された.これらの吸収スペクトルと,分取し
た 2 つのピーク成分の MALDI-TOF MS による分子量測定から,分画物はフラボ
ノールの一種であるイソラムネチンとクロロフィルからの生成物であると推定
した.イソラムネチンと考えられる成分は高菜漬け抽出物の DPPH ラジカル消
去活性に近い値を示した. フラボノイドの多くは植物中では配糖体を形成して
おり,また,フラボノイド配糖体よりもそのアグリコンは抗酸化効果が高いと
いう報告例がある. 高菜漬けの発酵過程で,イソラムネチン配糖体がアグリコ
ンに変化し DPPH ラジカル消去活性が高まったものと推察している.
82
第6章
総括
野菜の摂取は生活習慣に関連する疾病の発症を予防し病態の悪化を防ぐと考
えられる報告がなされている.野菜には機能性を有するフィトケミカルが含ま
れており,その機能性成分の効果は発酵によって上昇するという報告もある.
また,ビタミン,ミネラルや食物繊維も含まれており,野菜やその発酵物の摂
取は食生活にとって重要である.
熊本県の阿蘇地方では伝統的にアブラナ科の野菜である高菜が栽培され,乳
酸発酵によって発酵が進む高菜漬けが生産されている. 阿蘇高菜漬けは名産品
として広く流通するようになってきているが,製造過程で雑菌の増殖を抑える
ために様子をみながら適宜食塩が加えられ,塩分濃度が高くなりがちである.
食塩の摂り過ぎは高血圧を招くため,添加する食塩を減らした高菜漬けが製造
できれば良いと考えた.また,阿蘇高菜漬けの機能性成分に関する科学的情報
が得られれば,より質の高い減塩高菜漬けの製造を試みることができると考え
た.そこで保存の効く品質の安定した減塩高菜漬けを製造することを研究の目
的として阿蘇高菜の乳酸発酵に関する研究を行った.さらに高菜と減塩高菜漬
けの成分抽出を行い機能性成分の濃度や効果の上昇を図るため,発酵過程にお
ける成分の変化に関する分析を行った.
漬け始めにスターター乳酸菌を接種するとことで,食塩の添加量を減らし,
雑菌の増殖を抑えた高菜漬けが製造できると考えた.第 2 章ではスターター菌
に適した乳酸菌の選抜のために阿蘇高菜漬けから乳酸菌の単離,同定と,乳酸
発酵試験による菌の評価を行った. スターター菌に適した乳酸菌を高菜漬けか
ら単離するため,阿蘇市で収穫し漬けた高菜漬け A (食塩 8% (w/w)),B (食塩 6%
83
(w/w)) を熊本市で保存し乳酸菌を経日的に単離した.また,阿蘇市の市原農園
から提供された高菜漬け C からも乳酸菌を単離した.単離した菌株について
MRS 培地を用いた乳酸発酵試験を行い,乳酸菌をグループ分けし,その中から
代表菌株を選んで,16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列による菌種の推定を行
っ た . そ の 結 果 , 4 属 8 種 の 乳 酸 菌 (Enterococcus faecium, Leuconostoc
mesenteroides, Lactobacillus sakei, L. curvatus, L. (para)plantarum, L. brevis, L.
parabrevis,
Pediococcus parvulus) を 単 離 し た . Leu. mesenteroides は L.
delbrueckii subsp. bulgaricus と塩基配列のみでは区別することができなかったが,
顕微鏡観察とスクロースの資化性で区別できた.さらに,アラビノースの資化
性を調べることで Leu. mesenteroides subsp. mesenteroides であると推定した. L.
sakei A165-1 と L. curvatus B17-2 は 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列に基づ
く解析では非常に近縁である. しかし L. sakei A165-1 は MRS 培地中で L-乳酸
を多く生成し, L. curvatus B17-2 は D/L-乳酸を生成した.L. sakei と L. curvatus
の違いに関して様々な分類のための実験が行われているが,乳酸ラセマーゼの
酢酸塩による抑制の違いで区別できることが示唆された.
菌種の同定の結果,菌種が異なると推定された E. faecium A16-1, L. sakei
A165-1, Leu. mesenteroides B13-1, L. curvatus B17-2, L. (para)plantarum B17-4, L.
brevis B175-2, L. parabrevis C120-2, P. parvulus C120-3 の 8 菌種に B17-4 と同じ
菌種である C120-1 を加えて,9 菌株について高菜ジュース培地を用いた乳酸発
酵試験を行った.単離した乳酸菌の中で,高菜ジュース培地と MRS 培地の両培
地で乳酸を多く生成し pH を低下させた L. (para)plantarum B17-4 と P. parvulus
C120-3 を高菜漬けに適したスターター乳酸菌として選抜した.
第 3 章では,食塩を最初に 2% (w/w) だけ添加し,選抜した乳酸菌をスタータ
84
ー菌として接種して高菜漬けを試作した.食塩を 6% (w/w) 添加して塩もみした
高菜には乳酸菌を添加せず対照群とした.乳酸菌を接種した高菜漬けは 12 日目
に L. (para)plantarum B17-4 接種で pH 4.3,P. parvulus C120-3 接種で pH 4.2 にな
った.一方,スターター菌を接種しない高菜漬け (食塩 6% (w/w)) は徐々に pH
が低下し,40 日目でようやく pH 4.2 になった.L. (para)plantarum B17-4 または
P. parvulus C120-3 を接種した高菜漬は,接種直後から 181 日目にかけてスター
ター菌が優占種であり,低塩条件でも 181 日間菌叢が安定していたことが確認
できた.
B17-4 を接種した高菜漬は C120-3 を接種した高菜漬けに比べて生成乳酸濃度
が低く,残存還元糖濃度が高かった.これは,B17-4 が細胞外分泌多糖である
EPS を生成したためと考えられた.Day181 において B17-4 を接種した高菜漬け
の絞汁上清は C120-3 の上清に比べアラビノース,マンノース,ガラクトース,
キシロース,グルコース以外の糖の濃度が高かった. B17-4 が発酵初期に EPS
を生成し, その後自身の糖質分解酵素で EPS を単糖まで完全に分解できず単糖
以外の還元糖が残っていると考えられた.乳酸菌が生成する EPS について,免
疫調節作用や抗腫瘍効果を示したという報告例がある. 多様な乳酸菌由来の
EPS やその分解物から,生物学的活性を有する物質が得られる可能性があり期
待 が 持 た れ て い る (Ruas-Madiedo et al., 2002 ; Badel et al., 2011) . L.
(para)plantarum B-17-4 が生成する EPS と考えられる物質やその分解物を分離し,
その機能性に関する試験や評価を行う必要があるかもしれない.
スターター菌を選抜するために,MRS 培地を用いた培養によって経日的に高
菜漬けから乳酸菌の単離を行った.しかし,食品中の細菌の中には,培養条件
によっては単離しにくい菌も存在することが報告されている.そのため,研究
85
者の間で食品中の微生物の解析を培養による方法と培養によらない方法を組み
合わせて行う提案がなされてきた.そこで第 4 章では,培養によらない方法で
経日的に高菜漬けの菌叢の解析を行い,高菜漬けに関与する乳酸菌と菌叢変化
を把握することにした.第 3 章のスターター菌を用いた減塩高菜漬けの製造で
対照群として用いた高菜漬け (食塩 6% (w/w)) から DNA を直接抽出し,16S
rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列を調べることで,経日的に菌叢の解析を行った.
その際に,高菜漬けの乳酸濃度の変化の分析も行った.生成乳酸濃度は day 7, 19,
30, 40, 90, 180 においてそれぞれ 0.7, 8.7, 10.7, 18.5, 25.8, 28.8 g/L と増加した.L乳酸の比率は 63.4, 97.0, 84.0, 47.3, 43.8, 42.7%と変化し,day19 ではほとんど L乳酸であったが,その後徐々に D-乳酸が増えてきた.Day0, 19, 40, 90, 180 の高
菜漬け (食塩 6% (w/w)) の菌叢解析の結果,培養経過に伴って優占種が変化した.
Day0 では Pseudomonas 属のみが検出された. Day19 では L. curvatus のみが検出
された.その後,day40 では L. curvatus (56.9%), L. (para)plantarum (39.2%), L. sakei
(3.9%)と菌叢が多様化し,day90 では L. (para)plantarum (50.9%), L. sakei (45.6%), L.
curvatus (1.7%), Weissella 属 (1.7%)となった.Day180 では L. (para)plantarum
(59.6%), Weissella 属 (32.7%), L. curvatus (3.8%), L. alimentarius (1.9%), Clostridium
属 (1.9%)に変化した.検出した L. curvatus, L. sakei, L. (para)plantarum は,高菜
漬け A, B から単離した L. curvatus B17-2, L. sakei A165-1, L. (para)plantarum B17-4
の 16S rRNA 遺伝子領域の部分塩基配列と相同性が高かった.初発 pH 試験で L.
(para)plantarum B17-4 は酸に耐性を示した.一方,L. curvatus B17-2 と L. sakei
A165-1 は pH 4.0 と 4.5 では増殖しなかった.しかし,L. sakei は酸に弱いにもか
かわらず day90 の高菜漬けで L. (para)plantarum と共に優占種になった.L.
curvatus はアルギニンを分解しないが,L. sakei は グルコース濃度が低い培地で
86
アルギニンを利用でき,アルギニンデイミナーゼ(ADI)経路が機能する例が報告
されている.Day90 において乳酸発酵が進み,グルコースが減少した状況の中で
L. sakei の ADI 経路が機能し増殖したものと考えた.発酵初期の段階で Leu.
mesenteroides が単離されたが,培養によらない方法では L. curvatus が検出され
た.その後,どちらの方法でも L. (para)plantarum は長い期間優占種として単離,
検出された. 従って,L. (para)plantarum B17-4 をスターター菌として用いるの
は適切であると考えた.
第 5 章では,L. (para)plantarum B17-4 をスターター菌として接種し減塩高菜漬
けを製造する過程で,成分変化やその抗酸化効果への影響に関する分析を行っ
た. 70%エタノールを用いて,阿蘇高菜と発酵後 11 日目の高菜漬けから成分の
抽出を行った.乳酸発酵を経ることで,抽出物の総ポリフェノール量は若干増
加し,それに伴い DPPH ラジカル消去活性が高まった.逆相 HPLC による分析
の結果,発酵後の抽出物では,高菜の抽出物に比べてより疎水性の 2 つのピー
クが観察された.これらの吸光度スペクトルと分取した 2 つのピーク成分の
MALDI-TOF MS による分子量測定から,分画物はフラボノールの一種であるイ
ソラムネチンとクロロフィルからの生成物であると推定された.イソラムネチ
ンと考えられる分画物は高菜漬け抽出物と同程度の DPPH ラジカル消去活性を
示した.フラボノイドは植物中で配糖体を形成していることが知られている.
また,アグリコンは配糖体に比べ生物学的活性が高い例が報告されている.高
菜漬けの発酵過程で,イソラムネチン配糖体が,アグリコンに変化したことで,
DPPH ラジカル消去活性が高まったものと考えた.
生活習慣との関連があると考えられる癌,循環器疾患,糖尿病のような疾病
は,発症や病態の悪化にかかわる因子として活性酸素種が重要な役割を果たし
87
ていると考えられている. 抗酸化効果を有する減塩菜漬けを食することで,疾
病を予防し,発症や悪化を防ぐことができるかもしれない.イソラムネチンの
機能性に関する解析を進めることで,その効果をいっそう明らかにすることが
できると考える.
機能性食品は一般的に,生体調節機能が十分に発現できるよう設計・加工さ
れた食品である (国立健康・栄養研究所).機能性を高めるために,スターター菌
を利用した発酵の制御に関する検討をさらに行うことで,機能性食品としての
開発も行えるのではないかと考えている.
減塩阿蘇高菜漬の製造方法について,単離した乳酸菌とともに地元に還元し,
阿蘇高菜漬の多様化と普及に貢献できればと考えている.
88
引用文献
Abdull Razis, A.F., Noor, N.M., Cruciferous vegetables:Dietary phytochemicals for
cancer prevention. Asian Pac. J. Cancer Prev., 14, 1565-1570 (2013).
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Zhang, Y., Allyl isothiocyanate as a cancer chemopreventive phytochemical. Mol. Nutr.
Food Res., 54, 127-135 (2010).
Zhao, D., Tang, J., Ding, X., Analysis of volatile components during potherb mustard
(Brassica juncea, Coss.) pickle fermentation using SPME-GC-MS. LWT-FOOD SCI
TECHNOL. Food Sci. Tec., 40, 439-447 (2007).
101
謝辞
本研究を遂行し,学位論文をまとめるにあたり終始御指導,御鞭撻を賜りま
した指導教官である森村茂准教授に厚く御礼申し上げます. また研究室におい
て御指導,御助言を賜りました新留琢郎教授,太田広人助教,前任の研究室の
教授でありました木田建次現四川大学教授に厚く御礼申し上げます.
論文審査委員として御指導,御助言を賜りました新留琢郎教授,井原敏博教
授,坂田眞砂代准教授に厚く御礼申し上げます.
市原豪氏をはじめとする市原農園の皆様には,本研究のために多大なる御理
解と御協力をいただきました.このことに対し厚く御礼申し上げます.
本研究に御協力いただきました 2012 年度修士課程卒業生の永野真佑巳さん,
森翔吾君,竹部洋平君に心より感謝いたします.また,乳酸菌に関する実験手
法を教えていただきました 2009 年度修士課程卒業生の塩屋日奈子さん, 遺伝子
解析に関する実験手法を教えていただきました 2011 年度修士課程卒業生の葭原
孝雄君,渡邉千夏さんに心より感謝いたします. そして,様々な面で御支援い
ただきました研究室の多くの学生の皆様に深く感謝いたします.
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The list of published papers in this study
1. Sakai, M., Nagano, M., Ohta, H., Kida, K., Morimura, S., Isolation of lactic acid
bacteria from takanazuke as a starter strain to reduce added salt and stabilize
fermentation. Food Sci. Technol. Res., 19(4), 577-582(2013).
2. Sakai, M., Nagano, M., Ohta, H., Kida, K., Morimura, S., Salt-reduced takanazuke
produced with an isolated starter strain. Food Sci. Technol. Res., 20(4),
749-753(2014).
3. Sakai, M., Ohta, H., Niidome, T., Morimura, S., Changes in microbial community
composition during production of takanazuke. Food Sci. Technol. Res., 20(3),
693-698(2014).
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