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15. 道化師様魚鱗癬モデルマウスにおける表皮分化機構の解明と新規治

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15. 道化師様魚鱗癬モデルマウスにおける表皮分化機構の解明と新規治
かなえ医薬振興財団2009年度研究業績集(第38集)
15.
道化師様魚鱗癬モデルマウスにおける表皮分化機構の解明と新規治
療法の開発
北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野
柳 輝希
キーワード: 道化師様魚鱗癬,表皮分化,ABCA12
Abstract
Harlequin ichthyosis (HI) is caused by loss-of-function mutations in the keratinocyte lipid transporter ABCA12. The
patients often die in the neonatal period, although HI survivors’ phenotypes improve within several weeks after birth. To
clarify mechanisms of the phenotype recovery, we studied grafted skin and keratinocytes from Abca12-disrupted
(Abca12-/-) mouse. Abca12-/- neonatal epidermis showed reduced total amounts and aberrant composition of ceramide.
Immunofluorescence and immunoblotting of Abca12-/- neonatal epidermis revealed defective profilaggrin/filaggrin
conversion and reduced expression of differentiation-specific molecules, loricrin, kallikrein5 and transglutaminase1,
although their mRNA expression was up-regulated. In contrast, Abca12-/- skin grafts kept in a dry environment exhibited
improvements in all these abnormalities. Increased transepidermal-water-loss, a parameter of barrier defect, was remarkably
decreased in grafted Abca12-/- skin. 10 passage-sub-cultured Abca12-/- keratinocytes showed restoration of ceramide
distribution, differentiation-specific protein expression and profilaggrin/filaggrin conversion, which were defective in the
primary-culture. Using cDNA-microarray analysis, lipid transporters including four ATP-binding cassette transporters were
up-regulated after sub-culture of Abca12-/- keratinocytes compared to primary-culture. These results indicate that disrupted
keratinocyte differentiation during the fetal development is involved in the pathomechanism of HI and, during maturation,
Abca12-/- epidermal keratinocytes regain normal differentiation processes. This restoration may account for the skin
phenotype improvement observed in HI survivors.
背景および目的
道化師様魚鱗癬は、最重症型の常染色体劣性遺伝性の先天性皮膚疾患である。患児は全身を板状の厚い鱗屑で
覆われ、口唇・眼瞼の外反を呈する。治療は集中治療室での全身管理と大量レチノイド投与が行われているが、
生後早期に死亡する例が多く、長期生存例は約半数である。2005 年、我々は道化師様魚鱗癬の病因蛋白が ATPbinding cassette (ABC) transporter の一つである ABCA12(ATP-binding cassette transporter A12)であることを同定し、
さらにこの ABCA12 が表皮顆粒層細胞の層板顆粒にあり、脂質輸送に働いていることを明らかにした(Akiyama
M et al. J Clin Invest 2005)。
ABCA12 は ATP のエネルギーを使い、生体膜を通していろいろな分子の輸送を行う ATP-binding cassette (ABC)
transporters という大きなスーパーファミリーに属する蛋白の一つである。ABC トランスポーターは最も大きな
遺伝子ファミリーであるが、その中でも ABCA12 が属する ABCA サブファミリーは近年、生体内での脂質輸送
に重要な役割を果たしていることが明らかになってきている。ABCA12 は 2595 個のアミノ酸により構成され、
-1-
12 個の膜貫通領域、2 つの ATP 結合領域を持つ膜蛋白である。その遺伝子はヒト染色体上の 2q34 に位置し、主
に皮膚にその発現は見られ、その他の臓器では胎盤、脳、肺などに発現することが知られている。
2007 年、我々はヒト胎児皮膚の解析により ABCA12 がヒト胎児期の皮膚発達過程で発現してくることを明ら
かにした(Yamanaka Y et al. Am J Pathol 2007)。2008 年、我々は Abca12 ノックアウトマウスを作成し、このマウ
スが本疾患を忠実に再現する道化師様魚鱗癬モデルマウスであることを報告した (Yanagi T et al. Hum Mol Genet
2008)。肉眼的に Abca12 ノックアウトマウスは皮膚の著明な過角化と亀裂・口唇の突出開口を認め、電子顕微鏡
および免疫染色にて層板顆粒の異常と角層セラミドの分布障害が見られた。これらの特徴はヒト道化師様魚鱗
癬患者と同様であった。
この研究では、このモデルマウスを使用して、新規治療法開発に向けたさらに詳細な病態解明(特に表皮分化
過程の検討)を行った。
方法
研究方法
ABCA12 が表皮細胞での脂質輸送・脂質代謝および表皮細胞分化機構に果たす役割を解明するため、下記の2
つの方法で研究を行った。1)Abca12 欠損マウスのおける表皮分化関連蛋白の発現解析(新生児皮膚・植皮皮
膚・初代培養細胞)、2)表皮の脂質解析:LC-ECI-MS 法での脂質解析(主にセラミド組成について)。
また他の具体的な研究方法については以下の通りである。
(1)DNA の抽出
マウスの Genotyping のための DNA の抽出は、マウス尾から QuickGene DNA Tissue Kit (fujifilm Coro, Tokyo )を
用いて行った。Genotyping の PCR 条件は、
参考文献の通りである(Yanagi T et al. Hum Mol Genet 2008)。
(2)RNA の抽出および RT-PCR 法
皮膚組織および肺組織からの RNA の抽出は、QuickGene RNA Tissue Kit II (Fujifilm Coro, Tokyo )を用いて行っ
た。RNA の逆転写は Superscript II (Invitrogen Corp, Tokyo)を用いた。マウス Abca12 の mRNA レベルでの発現を
確認する RT-PCR 法のプライマーは、フォーワードプライマー 5’-CATCGGTGGCTCCAGGGTAG-3’、リバース
プライマー 5’-CTTGGTGAGTGTGAGGTGGTAAC-3’とした。これらのプライマーにより Exon30-31 を含んだ
cDNA 配列が特異的に増幅され、256bp を得ることができる。コントロールとして、マウス GAPDH に対する PCR
を行った。
(3)ウェスタンブロット法
表皮組織及び初代培養表皮細胞の蛋白は RIPA バッファー(50mM Tris-HCl, pH7.5, 150mM NaCl, 1%Nonidet
P40, 0.5% deoxycholate, 0.1% SDS, Roche protease cocktail 1tablet)にて抽出した。5-20%のグラディエントゲルで
の SDS-PAGE にて分離し、PVDF 膜に転写した。PVDF 膜を 2% skim milk in Tris-buffered saline にてブロッキング
後、目的とする抗体にてインキュベートした。LAS-1000mini(Fujifilm, Tokyo)を用いて、ケミルミ発光法にて検出
した。
(4)抗体
アフィニティー精製ラビットポリクローナル抗マウス Abca12 抗体を新たに作成した。マウス Abca12 の C 末
端(2581-2594 アミノ酸残基)の合成ぺプチドを作成し、これを用いてラビットに免疫した。一次抗体としては、
ラビットポリクローナル抗グルコシルセラミド・セラミド抗体、ラビットポリクロ-ナル抗ロリクリン抗体、マウ
スモノクローナル抗ベータアクチン抗体等を使用した。二次抗体としては、AlexaFluor488 標識 Donkey 抗 rabbit
IgG 抗体、TRITC 標識 Goat 抗 rabbit IgG 抗体、HRP 標識 Goat 抗 rabbit IgG 抗体、HRP 標識 Goat 抗マウス IgG 抗
体を使用した。
(5)表皮からの初代培養法
野生型および Abca12-/-マウスの 18 日目胎児より皮膚を分離し、イソジン液・生理食塩水にて丁寧に洗浄した。
この皮膚を 0.25%トリプシン液に 37 度 3 時間 incubate し、その後、表皮と真皮を分離、表皮側をホモジネートし
て、表皮細胞を得た。得られた表皮細胞は CnT-57 培地(CellunTec Corp)を用いて培養した。表皮細胞を分化さ
-2-
せる際は、CnT-02 培地に変更し、24 時間後に 1.2 m MCaCl2 入りの CnT-02 培地に変更、さらに 48 時間 incubate
して分化表皮細胞を得た。
(6)光学顕微鏡
新生児および胎児マウス全身を 10%ホルマリンに浸け、エタノールにて脱水処理し、パラフィンに包埋した。
矢状断方向に 4µm の切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
(7)免疫蛍光抗体法
新 生 児 お よ び 胎 児 マ ウ ス の 背 部 皮 膚 お よ び 肺 組 織 に つ い て optimal cutting temperature compound (Sakura
Finetechnical Corp., Tokyo)に包埋し、5µm 切片を作成した。
(8)電子顕微鏡
マウス皮膚および肺組織を 5%グルタールアルデヒド液にて固定し、四酸化オスミウムにて incubate、その後脱
水処理ののちエポン 812 に包埋した。70nm の超薄切片を作成し、Uranyl acetate と lead citrate による電子染色を
行った。観察は、Hitachi H-7100 transmission electron microscope (Hitachi, Tokyo)を用いた.
(9)皮膚透過性試験
皮膚の外側から内側に対するバリア機能は、0.1%トルイジンブルー液を用いて行った。胎児もしくは新生児マ
ウス全身をメタノールにて拭き、PBS にて 1 分間洗浄、その後全身を 0.1%トルイジンブルー液に室温 5 分間浸
け、染色した。さらに、PBS で 15 分洗浄後、写真撮影した。
皮膚の内側から外側に対するバリア機能は、経表皮水分喪失量(Trans epidermal eater loss: TEWL)の測定によって
行った。TEWL は AS-VT100RS(Asahibiomed, Yokohama)を用いて測定した。また、マウスを室温に 3 時間放置
した際の体重減少も測定した。
結果
1)新生児における脂質分布の解析結果
抗グルコシルセラミド・セラミド抗体を用いた免疫染色の結果、Abca12 欠損マウス表皮では本来表皮細胞間に
認められるセラミド分布が認められなかった。脂質解析の結果においても、有意に合計セラミド量が減少してい
た(図1)。
-3-
図 1.ABCA12 欠損マウスの皮膚症状と脂質輸送障害
(A, B) 野生型と ABCA12 欠損皮膚の皮膚症状。Abca12-/- マウスは野生型に比べて小さく、紅色調であり、
四肢の短縮を認めた。
(C, D) 光学顕微鏡所見では、Abca12-/- マウスは正常の角層網目構造を認めなかった。(hematoxylin-eosin
染色; original magnification x40) (bars, 20 µm).
(E, F) 電子顕微鏡所見では Abca12-/- 新生児皮膚では多くの細胞内脂肪滴を認めた (F, red arrows)。 野生
型では正常の keratohyalin granules が認められた (E, red arrows) (original magnification, x3000) (bars, 2 µm)。
(G, H) 蛍光抗体法では、Abca12 の発現は (Alexa488, green) 野生型でのみ認められた。
(I, J) 蛍光抗体法では層板顆粒の主要な脂質である glucosylceramide/ceramide (GlcCer/Cer) (Alexa 488,
green), が Abca12-/- 新生児皮膚ではわずかに認められるのみであった。
(K) 新生児表皮を比較すると表皮重量当たりのセラミド量は Abca12-/- において減少していた(Abca12-/neonates, n=3; control neonates, n=2) (*p<0.01)
略語: GlcCer: glucosylceramide, Cer: ceramide,
-4-
2)表皮分化関連蛋白・mRNA の解析結果
蛍光抗体法・免疫ブロット法において、新生児 ABCA12 欠損マウス表皮はプロフィラグリン変換障害、および
ロリクリン・カリクレイン 5・トランスグルタミナーゼ 1 の減少を示した(図2)。新生児表皮から抽出した mRNA
の定量的解析(real-time RT-PCR 法)では、mRNA レベルでの減少は認めなかった(図2)。
図 2.ABCA12 欠損新生児皮膚では、表皮分化関連分子の減少と、プロフィラグリンの変換障害が認
められる
(A, B) 蛍光抗体法では 層板顆粒の内容物の一つである kallikrein 5 (KLK5) (Alexa488, green), の発現が
Abca12-/- 新生児皮膚では減少していた。
(C, D) Dansyl-cadaverine を用いた In situ transglutaminase 1 (TGase1) activity assay (FITC, green) では
Abca12-/- 新生児皮膚における減弱した transglutaminase 1 activity を認めた。
(E, F) 蛍光抗体法では loricrin (Alexa 488, green) の発現が Abca12-/- 新生児皮膚では減少していた。
(G, H) Abca12-/- と野生型新生児マウスはどちらも 顆粒層に profilaggrin/filaggrin (proFLG/FLG) (Alexa488,
green) の発現を認めた。しかしながら、Abca12-/- 新生児皮膚では profilaggrin/filaggrin の発現が角層全体
に及んでいた。
(I, J) Desmoglein 1(DSG1) (Alexa 488, green)の発現には差は認められなかった。 (nuclear stain; propidium
iodide, red, dotted lines, the skin surface) (original magnification x40) (bars, 20 µm)
(K) mRNA の発現解析。mRNA の発現レベルは、 loricrin, kallikrein 5 (KLK5), involucrin, transglutaminase 1
(TGase1), filaggrin (FLG) では Abca12-/- 新生児皮膚の方が野生型より高かった。 (Abca12-/- neonates, n=5;
wild type neonates, n=5, mRNA expression levels of wild type neonatal epidermis=1)
(L) 免疫ブロット法の結果。Kallikrein 5 (KLK5) と loricrin の発現は Abca12-/- 新生児皮膚では減少してい
た。Desmoglein 1(DSG1), involucrin, -actin の発現に差は認められなかった。
(M) anti-profilaggrin/filaggrin antibody を用いた免疫ブロット法では Abca12-/- 新生児皮膚ではより多い
profilaggrin/filaggrin 蛋白を認め、さらに高分子量の smear band (変換されていない profilaggrin peptides)
が特徴的に認められた。
略語: KLK5: kallikrein 5, LG: lamellar granule, TGase1: transglutaminase 1, CCE: cornified cell envelope, FLG:
filaggrin, KHG: keratohyalin granule, DSG1: desmoglein 1, proFLG: profilaggrin, 4FLG: filaggrin tetramer, 3FLG:
filaggrin trimer, 2FLG: filaggrin dimer, 1FLG: filaggrin monomer
-5-
3)植皮皮膚におけるセラミド分布・セラミド量の回復
植皮皮膚では蛍光抗体法および脂質解析の結果、顆粒層~角層にかけてのセラミド分布が改善していた。また
セラミド量についても改善がみられた(図3)。
図 3.Abca12-/-植皮皮膚における形態学的変化とセラミド分布の改善
(A, B) 植皮後3週の Abca12-/- 植皮皮膚は毛のない角化性局面を示した。
(C, D) 植皮後3週の光学顕微鏡所見 (hematoxylin-eosin stain; original magnification x40) (bars, 20 µm) 。毛
包・毛髪とも角化性局面の中に認められる。
(E, F) 強拡大像 (hematoxylin-eosin stain; original magnification x60) (bars, 10 µm). 植皮後3週では新生児期に
認められなかった keratohyalin granule を認める (F, arrows) 。
(G, H) 蛍光抗体法によって、Abca12 は植皮後も発現していないことが分かる。
(I, J) 蛍光抗体法の結果 glucosylceramide/ceramide (GlcCer/Cer) (Alexa 488, green)の発現を植皮後の
Abca12-/- 表皮で認めた (J, arrows)。
(K, L) 電子顕微鏡所見。植皮後の Abca12-/- 皮膚では多くの脂肪滴を顆粒層に認めたが(K, red
arrowheads)、角層における脂肪滴は減少していた(L, red arrowheads)。(bars: K; 100 nm, L; 200 nm)
(M) 脂質解析の結果、植皮皮膚では合計セラミド量が改善していた。(Abca12-/- grafted skins, n=2; control
grafted skins, n=2) (*p<0.01)
略語: GlcCer: glucosylceramide, Cer: ceramide
4)植皮皮膚における表皮分化関連蛋白の発現改善
表皮分化関連蛋白の発現異常(減少)は、カルシウム刺激によって分化誘導させた初代培養表皮細胞において
も同様であった。植皮皮膚・長期培養細胞ではこれらの異常は回復していた(図4)。
-6-
図 4.出生後の Abca12-/- マウス皮膚は表皮分化関連分子の発現および皮膚バリア機能が改善する
(A-J) 角化関連分子の蛍光抗体法所見。植皮後の Abca12-/- 皮膚では KLK5, in situ transglutaminase 1
(TGase1) activity labeling, loricrin ともすべて改善した。KLK5 および loricrin については免疫ブロット法で
も確認した(図 4K) profilaggrin/filaggrin の発現についても角層での発現が失われ、野生型と同様の染色パ
ターンとなった(図 4H)。anti-profilaggrin/filaggrin antibody を用いた免疫ブロット法では profilaggrin から
filaggrin への変換障害が改善されていた(図 4K)。(Nuclear stain; propidium iodide, red, original magnification
x40) (bars, 20 µm).
(L) 皮膚バリア機能は transepidermal water loss (TEWL)を測定して評価した。 Abca12-/- 新生児(red bar, left)
は野生型(blue bar, left)に比べて有意に高い TEWL を示した。(*p<0.001). 植皮後の Abca12-/- の TEWL は
(red bar, right) 新生児期に比べて有意に減少し(**p<0.001)、野生型マウス(blue bar, right)と同様のレベルに
なっていた。 (Abca12-/- neonates, n=3; wild type neonates, n=3; mature Abca12-/- skin, n=3; mature wild type
skin, n=3)
略語: KLK5: kallikrein 5, proFLG: profilaggrin, FLG: filaggrin, 4FLG: filaggrin tetramer, 3FLG: filaggrin trimer,
2FLG: filaggrin dimer, 1FLG: filaggrin monomer
5)表皮バリア機能の解析結果
経表皮水分喪失量を水分蒸散量測定器にて解析したところ、新生児期に著明であった経表皮水分喪失量は、植
皮皮膚では改善していた。(図4)
6)培養細胞における表皮分化関連蛋白の発現改善
初代培養細胞の免疫染色および免疫ブロット法の解析では、カリクレイン5およびロリクリンの発現減少が認
められ、新生児皮膚と同様の結果であった。また初代培養細胞を長期に培養するとこれらの角化関連蛋白の発現
が改善することが分かった。これは植皮皮膚でみとめられた改善と同様であった(図5)。
-7-
図 5.長期に培養した Abca12-/- mouse 表皮細胞は、glucosylceramide/ceramide の細胞内分布異常、分
化関連蛋白の発現低下、プロフィラグリンの変換障害の改善を示す
(A-F) 培養細胞における細胞内 glucosylceramide/ceramide の分布。分化誘導を行った初代培養 Abca12-/- 表
皮細胞は核周囲に凝集した染色パターンを示した (B and E)。一方、野生型マウスでは凝集せずに細胞全
体に分布していることが確認できた(A and D)。10 回の経代ののち、Abca12-/- 表皮細胞は凝集パターン
ではなく細胞全体に広く分布する染色パターンを示した (C and F)。(Nuclear stain; propidium iodide, red,
original magnification x60) (dotted lines are the cell surface)
(G) mRNA の解析では初代培養細胞同士の比較では差は認められなかったが、 長期培養 Abca12-/-表皮細
胞(red bars, right) は、初代培養 Abca12-/-表皮細胞および長期培養野生型表皮細胞に比べて loricrin,
kallikrein 5, transglutaminase 1 で高い mRNA 発現を認めた。Involucrin, filaggrin の mRNA 発現レベルに差
は認めなかった。(primary-cultured Abca12-/- , n=5; primary-cultured wild type, n=5, sub-cultured Abca12-/- ,
n=5; sub-cultured wild type, n=5, mRNA expression levels of Abca12-/- primary cultured keratinocytes=1).
(H) 免疫ブロット法の結果。初代培養 Abca12-/- 表皮細胞(lane 2)は野生型初代培養細胞(lane 1)に比べて
loricrin と kallikrein 5 (KLK5)の発現が減少していた。 Desmoglein 1 (DSG1), involucrin, beta-actin の発現に
は差が認められなかった。長期培養 Abca12-/- 表皮細胞では loricrin, kallikrein 5 の発現が回復していた
(lane 4, black arrowheads).
anti-profilaggrin/filaggrin antibody を用いた免疫ブロット法では、Abca12-/- 初代培養表皮細胞 (lane 2) は
filaggrin monomer が野生型初代培養細胞(lane 1)に比べて減少していた。さらに初代培養 Abca12-/- 表皮細
胞はプロフィラグリンと考えられる多くの高分子量バンドを認めた(lane 2). このフィラグリン発現パター
ンは長期培養細胞では改善していた (lane 4)。
略語: KLK5: kallikrein 5, TGase: transglutaminase, DSG1: desmoglein 1, proFLG: profilaggrin, 4FLG: filaggrin
tetramer, 3FLG: filaggrin trimer, 2FLG: filaggrin dimer, 1FLG: filaggrin monomer
-8-
考察
結果の解釈と結論
以上の結果は、1)ABCA12 を介した脂質輸送が胎児期の表皮分化には必須であり、2)ABCA12 の機能障害
により表皮脂質分布の異常だけでなく表皮分化関連蛋白も障害されること、を示していた(図6)。さらに植皮
皮膚の解析により3)表皮分化の改善が道化師様魚鱗癬生存者の皮膚症状改善をもたらしている可能性も示唆さ
れた。
図 6.予想される harlequin ichthyosis の病態
ここに示した研究結果から harlequin ichthyosis の病態を考えた。私たちの研究結果は、ABCA12 の機能欠
損による脂質輸送障害が、表皮脂質バリアの形成を異常をもたらすだけでなく、「表皮分化障害」ももた
らすことを示唆した。私たちの仮説では、harlequin ichthyosis の特徴の一つである hyperkeratosis はバリア
障害に対する代償機構ではなく表皮の分化と落屑機構の障害によるものであると考えられる。この仮説
は harlequin ichthyosis の皮膚症状が出生時および胎児期にすでに完成していることも説明できる。
発表論文
・ Yanagi T, Akiyama M, Nishihara H et al. Self-improvement of keratinocyte differentiation defects during skin
maturation in ABCA12-deficient harlequin ichthyosis model mice. Am J Pathol 177:106-118, 2010
参考文献
1) Akiyama M, Sugiyama-Nakagiri Y, Sakai K et al. Mutations in lipid transporter ABCA12 in harlequin ichthyosis
and functional recovery by corrective gene transfer. J Clin Invest 115:1777-1784. 2005
2) Yamanaka Y, Akiyama M, Sugiyama-Nakagiri Y et al. Expression of the keratinocytes lipid transporter
ABCA12 in developing and reconstituted human epidermis. Am J Pathol 171:43-52, 2007
3) Yanagi T, Akiyama M, Nishihara H et al. Harlequin ichthyosis model mouse reveals alveolar collapse and severe
fetal skin barrier defects. Hum Mol Genet 17:3075-3083, 2008
4) Yanagi T, Akiyama M, Nishihara H et al. Self-improvement of keratinocyte differentiation defects during skin
maturation in ABCA12-deficient harlequin ichthyosis model mice. Am J Pathol 177:106-118, 2010
-9-
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