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1/17 生理学講義ノート 血 液 Index 総 論 ・・・・ 02 赤血球 ・・・・ 06
生理学講義ノート 血 液 Index 総 論 ・・・・ 02 赤血球 ・・・・ 06 白血球 ・・・・ 10 止 血 ・・・・ 12 問 題 ・・・・ 16 1/17 血液 総論 検査学専攻のみなさん、リンク先の「臨床血液検査」の項目を見てくらっとしてください。ずらずら~っと検査項目が並 んでますが、以下のページの内容が理解できれば、だいたいの目的だけはわかるはずです。各々の検査の方法、 結果の解釈などについては病態検査学でいやというほどでてくるので、そのとき勉強すればよい。ここでは目的を理 解することを目標にします。血液の生理についてのキーワードは以下のとおり。 血液の性状 下のリストの数字はなにも考えずに丸暗記してください。特に pH 7.4 (7.35-7.45) は重要。これが 7.35 より低いとアシ ドーシス、7.45 より高いとアルカローシスで、どちらも放っておいてはいけない状態です。pH をどうやって維持するか、 というのは「体液」のところで扱います。 血液の構成成分 血液は液体成分である血漿 plasma と、細胞成分である血球 blood cells からなる。次のページの試験管の絵は、 採血した血液をそのまま放っておくかまたは遠心したところ。血球は重いので下に沈んで、残る上清が血漿。血漿の ほとんどは水だけど、いろんな蛋白質、電解質などを含む。蛋白質のうち最も多いのはアルブミン albumin、次がグ ロブリン globlin。免疫のところででてくる免疫グロブリン immunogloblin はグロブリンの一種。フィブリノーゲンは血 液凝固のところででてくる。 2/17 血漿 plasma と血清 serum の違いについて。採血するときに抗凝固剤 anti-coagulant (EDTA、クエン酸など)を入 れて血液の凝固 coagulation を防いでおくと血漿。入れないと血清。一番の違いは血清では血液が凝固するので凝 固因子 coagulation factors (あとからでてきます) が消費され、そのうちのいくつかは枯渇してしまうこと。血液の凝 固に関する検査には血漿を使う。 下に沈む血球は大きく3種類に分かれる。赤血球 red blood cell、白血球 white blood cell、そして血小板 platelet。 赤血球が一番下にきて、これが体積で全体のどれくらいになるか、がヘマトクリット (Ht) 値。Ht は 45-55%くらいで、 男性のほうが女性よりも高い。白血球と血小板は、赤血球の上にもやもやっとした層 buffy layer をつくる。赤血球と 血小板はおのおの一種類しかないんだけど、白血球はいろいろある。細胞を一般染色で染めて、細胞質にぶつぶつ (細胞内顆粒)が見えるのが顆粒球 granular cells、見えないのが無顆粒球 agranular cells。顆粒球はさらに好中球 neutrophil、好塩基球 basophil、好酸球 eosinophil の3つに分かれる。好塩基球の顆粒は塩基性の色素でよく染まっ て青く見える。 好酸球の顆粒は酸性の色素でよく染まってオレンジ色に見える。好中球の顆粒はどちらの色素でも あまり染まらない。好中球の核はいろんな形のビーズがつながったように見えるので、別名が多核白血球 polymorphonuclear leukocyte: PML。無顆粒球には単球 monocyte とリンパ球 lymphocyte が含まれる。リンパ球は さらに T リンパ球と B リンパ球にわかれるけど、一般染色では区別はつかない。下の図の血球分類は基本中の基本 なので心に刻み込むこと。T と B が何の略なのかは免疫で勉強してください。 英語では leukocyte という言葉があって顆粒球を意味するのですが、これも日本語訳は白血球。日本語で白血球と 言うとき、WBC の意味で使う場合と、leukocyte の意味で使う場合がある。 一般染色って何のこと、というのは病態検査学で勉強してください。基本は、赤血球以外の血球細胞は透明で、その まま顕微鏡下で見ても見えない、ということ。上の絵のように色がついてるわけじゃありません。色をつけて見えるよ 3/17 うにするのが一般染色で、いろんな色素が使われる。これに対して、ある一種類の細胞だけ検出したいとか、あるマ ーカー分子だけを検出したいとかいう場合にはそのための特別な色素などを使うので特殊染色という。 血球の産生・分化=造血 hematogenesis or hemopoiesis(ヘマトジェネシス またはヘモポイーシス) 血球 blood cells をつくる過程が造血 hematogensis。胎生期にまず胚 embryo の卵黄嚢 yolk sack ではじまり、胎 児の肝臓・脾臓・胸腺・リンパ節で継続するが、生まれて3ヶ月ぐらいからは骨髄 bone marrow で行われる。すべて の血球細胞は多能性幹細胞からつくられる。幹細胞 stem cell というのは、自己再生 self-replication ができる細胞 のことで、何回分裂してもなくならない。下の図をゆっくり見てください。黄色で囲った細胞は骨髄にいる。分化過程を 追ってみると、まず骨髄系幹細胞 myeloid stem cells とリンパ系尿幹細胞 lymphoid stem cells に分かれる。骨髄系 の細胞からは赤血球、血小板、それにリンパ球以外の全ての白血球が分化する。ここで CFU (colony-forming unit) というのが出てくるけど、これは各々のサイトカイン (分化過程をコントロールするペプチド) への反応性で分けてい る。CFU-E (erythrocyte)、CFU-Meg (megakaryocyte)、CFU-GM (granulocyte/macrophage) はそれぞれエリスロポ イエチン erythropoietin、トロンボポイエチン thrombopoietin、GM-CSF (granulocyte/macrophage-colony stimulating factor) に反応する。エリスロポイエチンはどこでつくられるんでしたっけ?トロンボポイエチンは肝臓。骨髄系幹細胞 とリンパ系幹細胞から、おのおのの細胞の前駆細胞 (pro・・・)=芽球 (・・・blast) ができる。 左から順に、赤血球の前駆細胞が網状赤血球 reticulocyte。 この段階で核が失われる=脱核 denucleation。 網 状赤血球は末梢血にはほとんどいないけど、造血が亢進するとでてくることがある。血小板の前駆細胞が巨核球 megakaryocyte。血小板は巨核球の細胞質がちぎれてできるので、血小板にも核はない。好中球が単球と一緒に CFU-GM からできてくることに注意。単球は活性化されるとマクロファージ macrophage になる。 リンパ系幹細胞か 4/17 らは T リンパ球、B リンパ球が分化する。B リンパ球が活性化されて抗体を産生するようになったのが形質細胞 plasma cells。 血液の病態 血液の病態の基本は、血球が足りないこと。赤血球が足りないのが貧血 anemia で、動悸、息切れ、易疲労性など が主症状。白血球が足りない (=顆粒球減少 leukocytopenia またはリンパ球減少 lymphocytopenia) と感染症を起 こしやすくなって、これを易感染性とか感染傾向とかいうんだけど、普段はなにも悪さをしない常在菌 (皮膚、気道な どにいつもいるバクテリア、真菌など) が感染症をおこすようになり、これを日和見感染 opportunistic infection と呼 ぶ。血小板が足りない (=血小板減少 thrombocytopenia) と出血したときに血が止まらない (=止血 hemostasis が できない) ようになって、これが出血傾向 hemorrhagic tendency。それぞれの血球が足りなくなる原因は個々にある んだけど、例えば白血病 leukemia で骨髄が白血病細胞に占拠されてしまったとか、強烈な放射線に暴露されてし まったような場合、すべての血球の産生が抑制され、貧血、感染傾向、出血傾向などの症状がぜんぶ現れてくる。す べての血球が足りない状態を汎血球減少 pancytopenia とよび、骨髄での血球産生が全体として低下している状態 を骨髄抑制 bone marrow suppression とよぶ。 言葉を整理すると、 すべての血球が足りない=汎血球減少 pancytopenia 赤血球が足りない=貧血 anemia 白血球が足りない 顆粒球が足りない=顆粒球減少 leukocytopenia リンパ球が足りない=リンパ球減少 lymphocytopenia 血小板が足りない=血小板減少 thrombocytopenia 血球が多くて困るという状態はあまりない。赤血球が多いのが多血症で、これは慢性の低酸素状態 (高地に住んで る、または呼吸器疾患がある) で生じる。感染症・炎症の結果として白血球が増加する。これらの増加は生理的なで きごとである (もともとの原因は病気かもしれないけど、血球が増えること自体は正常。逆にこれらの状態で血球が 増えないことの方がおかしい)。 止血には血漿の凝固因子も必要だから、これが足りない場合も出血傾向をきたす。 5/17 赤血球 RBC 赤血球 RBC は 4.5-5.5 million/microL。核を含む細胞内小器官はまったく無くて、細胞質はヘモグロビンで満たされ ている。両側が凹 (biconcave: バイコンケイブ) になってて、これは表面積を最大にするためと考えられている (表 面積が大きいことにはどんな意味があるのでしょうか?考えてみてください)。ヘモグロビン hemoglobin はヘム heme とグロビン globin からなる。グロビンは、アルファ サブユニットが 2 つとベータ サブユニットが 2 つの4量体。 おのおのがひとつづつヘムを結合している。ひとつのヘムはひとつの酸素分子を結合できるので、ヘモグロビンは計 4つの酸素分子を結合できる。ヘムはポルフィリン環と鉄分子からなる。 ヘムの合成 ヘムのポルフィリン環はプロトポルフィリンと呼ばれる。プロトポルフィリンはグリシンとサクシニル CoA を出発材料と して何段階ものステップを経て合成される。最初のステップで必要な補酵素がビタミン B6 (ピリドキシン)。合成系を 見てみたい人はポルフィリン代謝で検索してください。この合成系の酵素欠損によりポルフィリン症を生じる。 赤血球の産生と破壊 骨髄での分化過程で、赤血球の前駆細胞はグロビン、プロトポルフィリン、そして鉄からヘモグロビンを合成する。ビ タミン B12 (シアノコバラミン)はヘモグロビンの合成に直接必要ではないんだけど、細胞の DNA 合成に必要。赤血球 6/17 の産生はエリスロポイエチンにより亢進する。できた赤血球は末梢血中にでるが、寿命は約 120 日で日々壊されて いる。老化した赤血球は脾臓 spleen、肝臓、骨髄のマクロファージにより貪食・破壊されるが、脾臓が最大の処理器 官である。 赤血球の破壊を溶血 hemolysis と呼ぶ。ヘモグロビンが破壊されるとヘムとグロビンに戻る。グロビン は蛋白質なのでアミノ酸に分解されて再利用される。ヘムのうち鉄は再利用されるけど、ポルフィリン環の部分は便・ 尿へ排出される。 鉄の再利用の方法を書き込んだのが下の図。鉄分子は血中ではトランスフェリン transferrin (Tf) に結合して運ば れる。肝臓ではトランスフェリンから鉄分子を受け取り、別の蛋白質フェリチン ferritin に結合して貯蔵する。貯蔵さ れた鉄は必要に応じて再び血中へ放出され、トランスフェリンに結合する。消化管から吸収された鉄も血中でトランス フェリンに結合する。こういう役割なので、鉄輸送蛋白質といったらトランスフェリンのことで、鉄貯蔵蛋白質といった らフェリチンのこと。 ヘムの鉄以外の部分はビリベルジンからビリルビンに代謝されて血中にでる。ビリルビンがどうやって便・尿に排泄 されるかはおのおの消化管、腎臓のところででてきたので復習してください。 7/17 赤血球が足りない=貧血 anemia 赤血球が足りない状態が貧血で、臨床的には動悸、息切れ、易疲労性などが主症状。出血によるロスを除くと、つく られる数が少ない場合と壊される数が多い場合に大別される。つくるほうがうまくいかない理由で最もありふれてい るのが鉄欠乏性貧血 iron-deficiency anemia で、赤血球は小さくなる。これよりずっとまれなのがビタミン B12 または 葉酸 folic acid が足りない場合で悪性貧血 pernicious anemia と呼ばれる。この場合、細胞の分化そのものがうま くいかないいため、できた赤血球は大きくなるので巨赤芽球性貧血 megaloblastic anemia とも呼ばれる。葉酸は初め てでてきたけど、ビタミンのひとつでいろんな細胞の分化に必要。白血病、放射線などが原因の骨髄抑制で生じるの が再生不良性貧血 aplastic anemia。この場合赤血球の数は減るけれども、できてくる赤血球の大きさは正常。赤血 球の大きさによって、小球性貧血、正球性貧血、大球性貧血という分け方をすることもある。 壊される数が多いための貧血を溶血性貧血 hemolytic anemia とよび、下に挙げたようないろんな原因で生じる。異 常ヘモグロビンというのはグロビン遺伝子の変異によるもので、サラセミア、鎌状赤血球症 sickle-cell anemia が代 表選手だけど、いろいろあります。不適合輸血はいいですね、ドナーの赤血球が抗原抗体反応で壊されてしまう。マ ラリア原虫は赤血球に寄生する。脾腫 splenomegaly はどんな原因であれ、脾臓が大きくなること。溶血性貧血の場 合、骨髄での赤血球の産生は正常に行われているか、むしろ亢進しているので、赤血球の大きさは正常であり、前 駆細胞である網状赤血球が末梢血で増加することがある。 Note: 間接ビリルビン/直接ビリルビン 脾臓および肝臓、骨髄のマクロファージ系の細胞でヘムはビリルビンに代謝される。このビリルビンは水に溶けない ので、血中ではアルブミンに結合して輸送される。アルブミンに結合することで血液に間接的に溶けるので、間接ビリ ルビン(または非抱合型ビリルビン)。 間接ビリルビンは肝臓でグルクロン酸抱合を受け、水に溶けるようになる。水に溶ける=血液に直接溶けるので、 直接ビリルビン(または抱合型ビリルビン)。 黄疸(=高ビリルビン血症)では総ビリルビン(=間接+直接)の血中濃度が増加する。その原因は大きく2つに分 類できる。溶血と、肝胆道系の疾患。溶血性貧血では、脾臓その他での赤血球の破壊の亢進のため、間接型ビリル ビンの血中濃度が増加する。これに対して、肝胆道系の疾患では消化管への排出の低下のため、直接ビリルビンの 8/17 血中濃度が増加する。肝胆道系の疾患のなかでも、胆管が閉塞するような場合に直接ビリルビンの増加が著しい。 Note: 悪性貧血と再生不良性貧血 「悪性」といわれるといや~な感じがしますが、原因がわからず、もちろん治療方法もさっぱりという時代につけられ た名前で、ビタミン B12 または葉酸の不足という原因がわかっている今日にはちょっと不適切なネーミングです。不足 しているものを補えば治療できる。 これに比べると、再生不良性貧血はやはり深刻な病態です。骨髄抑制に伴うので、今日でもなかなか治療は難し い。骨髄移植という方法はあるのですが、もちろんリスクを伴う。 9/17 白血球 WBC 繰り返しになるけど、白血球には下の図に示すように顆粒のある細胞とない細胞がある。数は 5,000-10,000/microL で赤血球、血小板に比べて桁違いに少ないことに注意。彼らの役割は病原体を含む外敵・異物を認識し、これを処 理すること。なので、感染・炎症により数が増える。白血球数が 10,000/microL を越えるとこれは何かある、と疑う。次 にはどれが増えてるかが問題になる。 「病原体を含む外敵・異物」という言い方がおおざっぱで気に入らないひともいるかと思うんですが、あまりに種類が 多すぎてこうとしか言いようがないんですね。英語では foreign substances。もちろん頻度の高いのは、バクテリア、 ウイルス、寄生虫などの感染。白血球にはそれぞれ得意とする相手がいて、通常のバクテリアの感染では好中球が 増加し、寄生虫の感染では好酸球が増加、ウイルスの感染では単球・リンパ球が増加する。これ、たいていの場合 は、と理解してください、感染があってもこれらの血球の数は変わらないことも多い。さらに逆向きに動くこともある。 例えば HIV (human immunodeficiency virus: AIDS の原因ウイルス)の場合、T リンパ球がターゲットなのでリンパ球の 数は逆に減少する。それから、「異物」のなかには輸血された血液、移植された組織も含まれる。胎児が母親にとっ て「異物」となることもある。 得意とする相手がいるように、得意とする戦い方がある。次の図で大きく3つに分かれて、好中球と単球による貪食 phagocytosis、好塩基球・好酸球による I 型アレルギー反応、そしてリンパ球による細胞性免疫反応。好中球と単球 がいっしょになって、上の図とグループ分けが変わってるのに注意。貪食 phagocytosis はわかりやすいと思います、 バクテリアなどをそのまま飲み込んで消化してしまう。好塩基球は抹消組織に常在する肥満細胞 mast cell と並ん で I 型アレルギー反応の主役、これらの細胞から放出されるヒスタミン、ヘパリン、セロトニンなどの活性物質がアレ ルギー反応をひきおこす。炎症の3徴というのがあって、腫脹 swelling、発赤 redness、疼痛 pain です。蜂とかくらげ に刺されたことあります?刺されたところは腫れて、赤くなって、痛い。これらの反応は局所で放出されるヒスタミンな どが原因。好酸球はヒスタミンを分解する酵素を分泌して、逆に炎症反応を抑える方向に働く。最後のリンパ球によ る細胞性免疫反応については免疫学のメインテーマなのでここでは省略します。 10/17 白血球が足りない=易感染性・日和見感染 白血球がどういう原因であれ減少すると、「病原体を含む外敵・異物」との戦いに敗れて感染症 infection をきたす。 容易に感染するので「易感染性」というけど、日和見感染 opportunistic infection のほうが現場で起きることをより具 体的に表してる。普段はなにも悪さをしない常在菌 (皮膚、気道などにうようよいるバクテリア、真菌など)が感染症 をおこすようになることで、AIDS でのカリニ肺炎・カンジダ性食道炎などが典型的な例。 白血球の数が減る原因は いろいろある。白血病・放射線暴露による骨髄抑制、ビタミン B12 不足では赤血球と並行して減少する。HIV は T リン パ球の数を減らす。薬物では、糖質ステロイドがリンパ球数を減少させることがよく知られている。白血球の数は正 常であっても、その機能がおかしいために同様の状態になることがあるけど、たいていは先天性の遺伝子欠損によ るものでまれな疾患と考えてよい。 11/17 止血 hemostasis / 出血傾向 hemorrhagic tendency 血管が破綻すると出血するけど、ひどい出血でなければそのうち止まる。時間経過で言うと、血管が破綻したとたん に起きるのが血管の攣縮、次に血小板が活性化されて血小板血栓をつくり、ほぼ時を同じくして血液が凝固する。攣 縮というのは聞きなれない言葉だけど、局所的に強く収縮すると思ってください、収縮するのは血管平滑筋で、これ は痛み受容器の活性化による反射、血小板から放出される局所活性物質による。平滑筋のない毛細血管からの出 血ももちろん止まるので、止血 hemostasis の主役は血小板(これは血球)と凝固因子(こっちは蛋白質)と考えてよ い。止血が完成すると、赤血球、血小板血栓がフィブリン(凝固因子のひとつ)でパックされた硬い塊りができる。これ を血餅 clot という。擦り傷の上にできる「かさぶた」。 動脈に弾性動脈というのがあったけど、そういう太い動脈からの出血は上記の止血のしくみがいくら活性化されても 止まらない。放っておくと命取りになるのは容易に想像できると思う。圧迫止血あるのみ。 血小板血栓の形成 血小板 platelet の数はちょっと幅があって、血中に 15 万-40 万/microL。核はないけど、細胞内小胞にいろんな分 子を貯め込んでいる。下のリストで、上の4つ、凝固因子からトロンボキサン A2: thromboxane A2 まではわかりやすい と思います、各々止血のいずれかのステップで働く。5 番目に PDGF (platelet-derived growth factor)というのが出てく る。PDGF は血管平滑筋、内皮細胞などに対する強力な増殖因子で、組織の修復を促す。 12/17 血管の損傷部位で血小板が集まってきて傷をふさぐ過程を見てみると、接着・放出・凝集の 3 つのステップにわかれ る。まず初めに、内皮細胞の基底膜および間質のコラゲン線維に血小板が接着する。接着した血小板からはいろん な局所活性物質が放出され、これらは血管を収縮させると同時に周りの血小板を活性化し、お互いを粘着させる。 最終的に周辺の血小板が凝集して血栓を形成し、出血を止める。血小板血栓は、次にでてくるフィブリンによって補 強され、硬くなる。 血液凝固 blood coagulation 血液凝固は種々の凝固因子 coagulation factor が関与するカスケード反応で、外因性経路 extrinsic pathway・内因 性経路 intrinsic pathway・共通経路 common pathway の3つの経路に分かれる。中心になるのは、次の図のまんな かあたり、プロトロンビナーゼがプロトロンビンを活性化してトロンビンに変えるところで、このステップが3つの経路を 結んでいる。複数のステップがカルシウム依存性であることに注意。カルシウムは血小板から放出される。 外因性経路:どういう原因であれ組織が破壊されると、組織因子 tissue factor (TF)が血管の外から内へ流入し、第 X 因子を活性化する。第 X 因子は第 V 因子と結合してプロトロンビナーゼをつくる。組織因子が血管の外でつくられ るので、外因性経路。組織因子の別名はトロンボプラスチン (thromboplastin)。 内因性経路: 血液が組織中のコラゲン線維に接触することが第 XII 因子を活性化する。第 XII 因子および血小板から 放出されたリン脂質の作用で第 X 因子が活性化する。 共通経路:プロトロンビナーゼがプロトロンビンを活性化してトロンビンに変える。トロンビンは可溶性のフィブリノーゲ ンを不溶性のフィブリンにかえる。フィルリンはやわらかい塊りをつくるが、第 XIII 因子の作用により安定化され硬い 凝血塊を形成する。 各経路のスキームが次の図。でてくる凝固因子のリストがその後の表。 13/17 番号 名 称 産生組織 活性化経路 I フィブリノーゲン 肝臓 共通 II プロトロンビン 肝臓 共通 III トロンボプラスチン 障害組織、血小板 外因性 IV Ca2+ V プロアクセリン、不安定因子 全て 肝臓、血小板 外因性、内因性 *VI 因子はない。 VII 血清プロトロンビン転換促進因子(SPCA)、 肝臓 外因性 安定因子、プロコンバーチン VIII 抗血友病因子 A 血小板、内皮細胞 内因性 IX 抗血友病因子 B、クリスマス因子 肝臓 内因性 X トロンボキナーゼ、スチュアート因子 肝臓 外因性、内因性 XI 抗血友病因子 C 肝臓 内因性 XII 抗血友病因子 D 肝臓 内因性 XIII フィブリン安定化因子 肝臓、血小板 共通 *プロトロンビナーゼは活性化 V 因子と X 因子の複合体。 凝固因子の多くは血漿蛋白質で、肝臓がつくる。肝機能不全のときに出血傾向をきたすのは凝固因子の産生低下 のため。また、ビタミンKはそのうちのいくつかの合成に必要。ビタミンKは脂溶性ビタミンのひとつなので、消化管か らの脂質吸収の低下により吸収が低下し、出血傾向の原因となることがある。 いったんできたフィブリンの塊りは組織修復の過程で吸収除去される。これが線溶系 fibrinolytic system の役割で、 プラスミノーゲン plasminogen 組織プラスミノーゲン活性化因子 tissue plasminogen activator (t-PA) などの一連の 蛋白質が関与する。 14/17 動脈硬化症 atherosclerosis による循環器疾患(典型的には狭心症、心筋梗塞)では、血栓症 thrombosis の予防の ため抗凝固薬 anti-coagulant が用いられる。代表的なのがアスピリン aspirin とワファリン warfarin。アスピリンはト ロンボキサン A2 の合成を抑制する。ワファリンはビタミンKに拮抗し肝臓での凝固因子の産生を阻害する。これらの 薬物の副作用として出血傾向をきたすことがある。 EDTA (エチレンジアミン 4 酢酸 ethylene diamine tetraacetic acid)、CPD (クエン酸-リン酸デキストロース citrate phosphate dextrose)はともに血液凝固を抑制するので、献血や検査用血液の採取時に加えて用いる。ヘパリン heparin も血液凝固を抑制する。ヘパリンは検査用血液の採取時に用いる以外に、人工透析や開心術の際に血栓形 成を予防する目的で用いる。 出血傾向 hemorrhagic tendency 血がとまりにくいことを出血傾向といい、血小板に原因がある場合と、凝固因子に原因がある場合の2つに大別され る。血小板の数が減るのは骨髄抑制のことが多い。血小板の数は正常でもうまく働かない状態、血小板無力症など があるけど、これはまれですね。凝固因子のどれかが遺伝性に欠損するのが血友病 hemophilia で、いろんなタイ プがある。 「血液の生理」のなかで、教科書ではあと血液型 blood type のことが書いてあるけど、これは臨床応用 (=輸血 blood transfusion) に直結するので病態検査学で勉強してください。 15/17 問 題 (1) 赤血球について正しいのはどれか? A. 1 1. 2. 3. 4. B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 ひとつの核を持つ。 数の正常値は約 50 万/μl である。 エリスロポイエチンにより産生が増加する。 細胞質はヘモグロビンで満たされている。 (2) 貧血(赤血球の数の減少)において減少する値はどれか? A. 1 1. 血中ヘモグロビン濃度 2. ヘマトクリット値 3. 赤血球の体積 4. ヘモグロビンの酸素飽和度 (3) 溶血性貧血の原因となるのはどれか? 1. 2. 3. 4. マラリア 脾臓の腫大 ヘモグロビン遺伝子の異常 不適合輸血 (4) 巨赤芽球性貧血の原因となるのはどれか? 1. 2. 3. 4. 胃の摘出 葉酸の不足 鉄の不足 腎不全 (5) 再生不良性貧血の原因となるのはどれか? 1. 2. 3. 4. 急性骨髄性白血病 放射線への暴露 鉄の不足 腎不全 (6) 白血球の機能として正しい組み合わせはどれか? 1. 2. 3. 4. 好中球 単球 リンパ球 好塩基球 ─ ─ ─ ─ 病原体の貪食 病原体の貪食 細胞性免疫 アレルギー反応 (7) AIDS (acquired immunodeficiency syndrome) について正しいのはどれか? A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 1. カリニ肺炎などの日和見感染をきたす。 2. T リンパ球の数が増加する。 3. HIV (human immunodeficiency virus)の感染による。 4. HIV は RNA ウイルスである。 16/17 (8) 血小板について正しいのはどれか? 1. 2. 3. 4. A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 A. 1 B. 1, 2 C. 1, 3, 4 D. 1, 2, 3, 4 E. 3, 4 数の正常値は 15-40 万/μl である。 巨核球から産生される。 数の不足は出血の原因となる。 凝固因子のいくつかを放出する。 (9) 血液中の凝固因子の不足をきたすのはどれか? 1. 2. 3. 4. 肝不全 貧血 脂肪性下痢 血友病 (10) 出血傾向の原因となるのはどれか? 1. 2. 3. 4. 抗凝固薬(アスピリン)の服用 血友病 白血病 ビタミン K の不足 解答 1. E 2. B 3. D 4. B 5. B 6. D 7. C 8. D 9. C 10. D 17/17