Comments
Description
Transcript
第1章 物価安定下の世界経済
第1章 物価安定下 の世界 経済 世界経済 は、2003年後半 以降着 実に回復 を続け ている。また、1990年代以 降の世界経 済にみ られる 特徴の一 つとし て、物価安定 が顕著 となっ ているこ とが挙げら れる。特 に、03年秋以降 原油価 格が高騰 する中 で、各国 において インフレ圧 力が懸 念され つつも、 物価は 比較的 安定した 動きが 続いて い る 。 このよう な世界 的な物 価安定は 、物 価上昇率 や経済 成長率 の変動(ボラテ ィリティ )の縮小 と同時 に起こ っており 、超安 定(グ レート ・モデ レーショ ン、ある いは、グレート ・スタ ビリテ ィ)と 指摘され るよう にもな っている 1 。 本章では 、世 界の物価 の動向 につい て概観す るとと もに、物価安 定の要因 を分析する 。 第1節 イ ンフレ を抑制 し回復続 く世界 経済 1.物価 安定続 く世界 経済 ●安定続 く世界 の物価 世 界の 物 価上 昇率 は 、1990年代初 に おけ る約30 %か ら 4% へと 低 下した (第1-1-1表) 。特に 、最近で は、原油 価格高 騰や景気 の順調 な回復 等を背景 に各国にお いてイ ンフレ 圧力が懸 念され つつも 、物価 はおお むね安 定した動 きが続いて いる。 1 例 え ば 、 K i m and N elson (199 9) 、 Sto ck and Watson (200 2)、 B er nan ke (2004 ) 、 B ean (200 5) 等 。 第111表 世界の消費者物価上昇率と実質GDP成長率 (1)消費者物価上昇率 分散 (前年比、%) 1970 年代 80-84 85-89 9094 95-99 00-04 03 04 05 世界 10.1 14.6 16.2 29.5 7.9 3.8 3.7 3.7 先進国 − 8.8 3.9 3.8 2.0 1.9 1.8 アメリカ − 7.5 3.6 3.6 2.3 2.6 ユーロ圏 − − − 3.2 1.7 ドイツ − 4.5 1.3 3.7 1.1 日本 − 3.9 1.1 2.0 0.4 途上国 − 24.6 37.6 80.6 17.1 6.3 アジア − 9.2 11.2 10.3 7.3 2.7 中東 − 11.5 14.1 14.6 11.5 中南米 − 89.1 212.1 263.5 17.0 アフリカ − 4.5 1.3 3.7 1.1 70 年代 80 年代 90 年代 2000 年代 3.9 10.6 14.3 151.9 0.1 2.0 2.2 − 10.8 1.6 0.1 2.3 2.7 3.1 − 12.8 1.2 0.4 2.2 2.1 2.1 2.1 − − 0.9 0.0 1.5 1.0 1.8 1.7 − 4.8 2.4 0.1 0.0 ▲ 0.4 − 5.2 1.5 0.2 6.0 5.8 5.9 − 150.1 1383.2 0.4 2.6 4.2 4.2 − 6.0 14.0 0.8 6.7 7.1 8.4 10.0 − 15.9 15.2 1.4 7.9 10.6 6.5 6.3 − 13595.7 30071.4 3.4 1.5 1.0 1.8 1.7 − 3.2 186.2 4.4 70 年代 80 年代 90 年代 2000 年代 ▲ 0.6 ▲ 0.2 (2)実質GDP成長率 分散 (前年比、%) 1970 年代 80-84 85-89 9094 95-99 00-04 03 04 05 世界 4.4 2.7 4.0 2.6 3.7 3.8 4.0 5.1 4.3 1.9 1.4 0.7 1.3 先進国 − 2.2 3.8 2.3 3.1 2.4 1.9 3.3 2.5 − 2.3 0.6 1.4 アメリカ − 2.4 3.7 2.3 3.9 2.6 2.7 4.2 3.5 − 6.4 2.1 2.0 ユーロ圏 − − − 1.1 2.4 1.8 0.7 2.0 1.2 − − 1.9 1.5 ドイツ − 1.0 2.6 3.0 1.7 1.2 ▲ 0.2 1.6 0.8 − 2.1 3.5 1.7 日本 − 2.7 4.8 2.2 1.2 1.3 1.4 2.7 2.0 − 2.4 3.6 1.7 途上国 − 3.5 4.2 3.0 4.5 5.7 6.5 7.3 6.4 − 0.7 1.6 1.6 アジア − 6.5 7.2 7.8 6.8 7.0 8.1 8.2 7.8 − 1.3 3.4 1.2 中東 − 1.8 1.6 4.1 3.8 5.0 6.5 5.5 5.4 − 6.2 3.4 1.2 中南米 − 1.6 2.6 3.4 2.6 2.4 2.2 5.6 4.1 − 6.8 3.2 5.5 アフリカ − 1.0 2.6 3.0 1.7 1.2 ▲ 0.2 1.6 0.8 − 1.1 3.4 0.6 (備考)1.IMF “World Economic Outlook Database”より作成。 2.ユーロ圏は92年からのデータ。 3.分散は暦年値を元に計算。地域については、各地域の数値を使用した。 先進国に ついて みると 、70年代には 、物価 の高騰と 景気後 退が同 時に進行 する「スタ グフレー ション」を経験 し、80年代前半に は物価 上昇率 が8%台 であったが 、以 降低下が みられ 、特に90年代 後半以降 は2% 程度で 極めて安 定して いる。 途上国 では 、アジ アに おける 物価 安定が 顕著に なっ ている が、 高イン フレ国 であっ たラ テンア メリ カを始 めと するそ の他地 域に おいて も、 基本的に安 定化す る傾向 がみられ る。特にラテ ンアメ リカで は、80年代以降 累 積 債 務 問 題 か ら 高 イ ン フ レ に 直 面 し 、 90 年 代 前 半 に は 物 価 上 昇 率 は 263.5%となっ た。しか しなが ら、緊縮 財政等 のインフ レ抑制 政策の 実施や、 通貨危 機後 の変 動相 場制 への移 行等 によ り 2 、90年代末 から 物価上 昇率 は1 桁台まで収 束して いる。 また、最近に おける原 油・商 品価格 の高騰 局面であ る2003年秋以 降をみて も、消費者 物価上昇 率は先 進国で は抑制さ れてい る。世界 全体でみ ても、過 去の高騰局 面と比 べ、抑 制された 状況と いえる 。 物価上昇 率のば らつき を表す分 散も 、縮小 してい る。物 価上昇 率の安 定(ば らつきの縮 小)は 、(1)価格機能等 市場メカ ニズム を改善 する、(2)家計・企 業等経 済主体 の先 行きの 計画を 立て やすく する 、(3)インフレ リスク をヘッ ジするため の資源 を節約 すること ができ る等の 利点があ る 3。 ● 回復を続 ける世 界経済 一方で 、世界 の実質経 済成長 率は、90年代 初の2% 台から 4%前 後へとや や高まって いる(前 掲第1-11表) 。先進国 では、90年代前半 の2∼ 3%程度 の成長率と なって いるが 、成長 率のばら つき( 分散)をみる と、90年代以降 成長率がむ しろ安 定する ようにな ってい る。途 上国の 成長率 は、ア ジアは90 年代以降お おむね 7%台 となって いるが 、そ の他地域 の多く は成長 率が高ま っている。 2000年以降の世界 経済は 、成長 と物価 安定双方 の面で 、かつ てと比 べ良好 なパフォー マンス を示し ていると いえよ う。 2.原油 価格高 騰とそ の背 景 次に、物 価安定 の背景を 分析す る前に 、最近 の原油価 格高騰 とその 背景を みる。 2 ラ テ ン ア メ リ カ 各 国 は イ ン フ レ 抑 制 政 策 と し て 固 定 相 場 制 を 導 入 し て い た が 、為 替 レ ー ト の 過 大 評 価 、経 常 収 支 赤 字 の 深 刻 化 等 か ら 大 量 の 資 本 流 出 が 起 こ り 通 貨 危 機 に 至 っ た 後 、変 動 相 場 制 へ 移 行 し た ( メ キ シ コ : 94 年 、 ブ ラ ジ ル : 99 年 、 ア ル ゼ ン チ ン : 02 年 )。 3 物 価 上 昇 率 の 分 散 低 下 の 背 景 の 一 つ と し て 、 イ ン フ レ 持 続 性 (in flat ion pe rsist en c e: 一 度 イ ン フ レ が起こると しばら くその 状況が続 く)の低下 が指摘 されてい る。現 時点で 必ずしも 結論が 得られ た わ け で は な い が 、 多 く の 分 析 で イ ン フ レ 持 続 性 は 低 下 し た 、 と の 結 果 が 得 ら れ て い る (M eli ck a nd Gal ati (200 6) ) 。 ●高騰す る原油 及び一 次産 品価格 03年秋以降原油 価格は 大幅な上 昇基調 にある(第1-12図)。国際 石油市場 における代 表的指 標であ るWTI(ウエス ト・テキ サス・イ ンター ミディエ イト)先物価 格( 中心限月 )は 、03年9月 には28.31ドル/バレ ルであ ったが、 04年10月には53.09ドル/バ レル となり 、06年4月末 には71.88ドル/バ レルと なっている 。また、WTI以 外の主 要銘柄 である北 海ブレ ンド、ド バイの価 格にも大幅 な上昇 がみら れている 。 第1-12図 原油価格の推移 (1)名目 (ドル/バレル) 60 ドバイ 50 WTI 第 二次石油危 機 ア ジア危機によ る 落 ち込み後の減 産 合意 40 30 第一次石 油危機 20 10 北海ブレント 0 1970 75 80 85 90 95 2000 05 (年) (2)実質 (ドル/バレル) 90 ドバイ 80 70 60 WT I 50 40 30 20 10 北海ブレント 0 1970 75 80 85 90 95 2000 05 (年) (備考) 1.BP統計 (70∼82年 )及び Bloomberg(83年 以降)より作 成。 2.WT Iの価格は、 83∼86年は WTIスポ ット、87年以 降はWT I先物(中心 限月)を使 用。 3.北海ブ レント(I PE)の価 格は83∼88年 はスポッ ト、89年以 降はIPE先 物(中心限 月) を使用。 4.ドバ イ価格の定 義について は下記の通 り。 ・74年 以前: Saud i Arabian Light 34°API, posted price, ex Ras Tanura ・75∼ 94年:Middle Eas t Light 34 °API, spot ・95年 以降: Mediu m, Fateh 32°API, s pot, f.o.b. Dubai 5.実質 価格はアメリ カのCPI (総合)を 用いて200 5年基準とし た。 また、一次産 品価格(商品 価格 )につい ても 、世界 的な景気 拡大 、特に中 国に代 表され る新興 国の 台頭等 を背 景に上 昇が 続いて いる。 トウ モロコ シ、 金 、 原 油 等 主 要 国 際 商 品 17 銘 柄 の 先 物 価 格 か ら 算 出 さ れ る C R B (Commodity Res earch Bureau)先物指数(1967年=100)をみる と、生 産過剰や アジア通貨 危機に よる需 要減退の 影響等 により 、99年にはほ ぼ四半 世紀ぶり の低水 準(99年平 均値194.8)と なった (第1-13図 ) 。02年の 底打ち 以降上 昇基調とな り、05年には313.11ポイント と過去 最高水準 となっ ている 。 第113図 一次産品価格指数の推移 CRB先物指数 (1967年= 100) 350 300 250 200 150 100 1974 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 (年) (備考 )データストリー ムより作成。 ●今回の 原油価 格高騰 の特 徴 今回の原 油価格 高騰の 特徴とし ては 、過去 の二度の オイル ショッ クの時と 異なり、一時的 な供給シ ョック による ものでは なく、供給能 力に一 定の制約 がある中で 、アメ リカ、中 国を中心 に需要 の大幅 増が続い ている ことに より、 基本的 に需給 がタイ トに なって いる という 構造 的要因 が背景 とな ってい る、 という点が ある 。それに 加え、金融緩 和の中 で投機資 金が流 入して いること が指摘され ている 4 。 4 詳 細 は 、 内 閣 府 [ 2005]『 世 界 経 済 の 潮 流 2005 秋 』 第 II 部 第 2 章 参 照 。 そこで、今回の原 油価格 高騰を、過去の 高騰局面 と比較 してみる 。ここで は、過去 の世界 経済白 書でも取 り上げ られた 3回の高 騰局面 とも比 較しつつ 、 今回の局面 をみる ことと する(第1-1-4図) 。 これ までの 原油価 格高 騰局面 とし ては、 第一 次石油 危機(74年)、 第二次 石油危 機(79年)、ア ジア金 融危 機後の OPE C総 会によ る減 産をき っかけ とする上昇(99年)等が ある。過去3 回の高騰 局面と 比べる と、今 回は相対 的に緩やか な上昇 を続け ている。 一方、消費者 物価の動 きをみ ると、二度に 渡る石油 危機の 際には かなりの 上昇がみら れ、4年 間に2 倍弱に なった。しかし近 年の高 騰局面で は、消費 者物価上昇 は原油 価格上 昇と比べ 抑制さ れてお り、特 に今回 の高騰 局面は約 2年が経過 した現 時点で は、約 7%と 石油危 機時に比 し5分 の1の 上昇にと どまってい る。先進 国と途 上国で 区分する と、特に 先進国 では、石 油危機時 の上昇が25%程度 に比し 今回は約 4%と 6分の 1、途 上国で は、石 油危機時 に50%程度の上昇 がみら れたもの の、今回は 約10%と5分の 1にと どまって いる。 第114図 過去の原油価格高騰局面と消費者物価上昇率の動向 (1)原油価格 450 400 第一次石油危機 350 第二次石油危機 300 250 200 150 03年9月以降 99年1月以降 100 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 (四半期) (2)消費者物価上昇率(世界) 200 第二次石油危機 180 160 140 第一次石油危 機 99年1月以降 120 03年9月以降 100 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 1 4 15(四半期) (備考)1.IMF“International Financial Statistics”、Bloomberg より作成。 2.原油価格は∼ 83年までドバイ、 84∼85年 WT Iスポット、86年 ∼WTI先物 (中心 限月)を使用。 3 .以下の原油価 格高騰局面におい て、1期前=100として 4年分(16四 半期)を指数化し たもの。 第一次石油危 機:73年10月∼74年8月 第二次石油危 機:78年10月∼82年4月 近年の高騰局 面:99年1 月∼、03年9月∼ 第2節 原油価格高 騰下で の世界 的物価安 定持続 の要因 : The Great Moderation? 前節でみ たよう に、世 界経済 は、今 回の原 油等の一 次産品 価格高 騰が起こ る以前から 物価は 安定と いう特徴 がみら れてい た。特 に90年代後半 以降2000 年初までに みられ た世界 的な物価 安定の 要因に ついては 、こ れまで も様々な 分析が行わ れてお り、主な 要因と して、一 次産品価 格の低 下、構造 改革や規 制緩和、グ ローバル 化の進 展、より 緊縮的 な財政政 策のほ か、中長 期的な要 因とし て適 切な 金融 政策 運営等 が指 摘さ れて いる 1 。そ の意 味で、 現況 はも ともと物価 安定と いう特 徴がみら れてい た中で 、一次 産品価 格高騰 にもかか わらず、そ の傾向 が持続 している ととら えるこ ともでき よう。 本節では 、まず(1)原油価 格変動の 物価へ の影響 の低下に ついて みた上 で、 (2)グロー バル化 を含 めた経 済構 造の変 化やそ れを 背景と した 企業の 価格設 定行動の変 化、(3)財政・金融政 策運営 の変化 、につ いて 、主要国・地 域(以 下、主要 国)を中心 にみてい く。また、金融政 策運営 について は、さらに第 3節で主要 国を中 心に解 説する。 1.原油 価格変 動が国 内物 価にも たらす 影響の 低下 ●一次産 品価格 から消 費者物 価へ の影響 は低下 前節でみた ように 、一次 産品価 格高騰 が続く中 で、消 費者物 価は世 界的に 安定してい る。 そこで、主要国 について 、一次 産品価 格変動 が国内の 消費者 物価に 及ぼす 影響を、(1)一次産品 価格が 各国の 輸入物価 に及ぼ す影響 、(2)輸入物価が消 費者物価に 及ぼす 影響、の 二段階 に分けて みてみ よう。ま ず、一次 産品価格 と輸入物価 の関係 をみる と、一 次産品 価格が 上昇する と輸入 物価も 上昇する という関係 がある 。この 関係に ついて は、70年代と90年代以 降で特 に大きな 変化はみら れない (第1-21表) 。 1 IM F (2002 )、 Rogo ff ( 200 3) 、 M eli ck a nd Ga lat i (20 06) ほ か 。 Rogo f f (20 03) は 、 世 界 的 な デ ィ ス イ ン フ レ ー シ ョ ン( 物 価 上 昇 率 の 低 下 )の 要 因 と し て 、各 国 中 央 銀 行 の 制 度 及 び 運 営 の 改 善 ( 中 央 銀 行 の 独 立 性 の 強 化 、政 策 当 局 の 反 イ ン フ レ 意 識 の 高 ま り 、コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 進 歩 、金 融 コ ン ト ロ ー ル 能 力 の 向 上 )に 加 え 、財 政 政 策 の 改 善 、技 術 進 歩 、及 び グ ロ ー バ ル 化 と 規 制 緩 和 等 に よ る 財 ・ 労 働 市 場 の 競 争 の 高 ま り を 指 摘 し て い る 。ま た 、競 争 力 の 高 ま り は 賃 金 ・価 格 設 定 を よ り 柔 軟 な も のとし、物 価安定 を目指 す金融政 策運営 の効果 を高める 効果を もたら すと指摘 してい る。 ところが、次に、輸 入物価と 消費者 物価の 関係をみ ると、80年代ま では輸 入物 価が 上 昇す ると 消 費者 物価 コ アも 上昇 す ると いう 関 係が みら れ ていた が、90年代以降は その影 響が低下 し、か つ統計 的に有意 でなく なって い る 。 以上を踏ま えると 、かつ ては一 次産品 価格が上 昇する と、輸 入価格 も上昇 し、それが 国内の消 費者物 価まで 影響が波 及して いた。こ れに対し 、90年代 以降では 、一次 産品価格 が上昇 した場 合、輸 入物価に は依然 として 一定の影 響を及ぼす が、輸入物 価が上昇 しても 国内の 消費者物 価コア にはほ とんど影 響を与えな くなっ ている 。 第121表 原油等一次産品価格から消費者物価への影響は低下 原油等一次産品 価格 か ら輸 入物価 (年) 1970∼89 輸 入物価から消費者物価コア 90∼05 70∼89 90∼05 アメリ カ 0.36 ** 0.20 ** 0.33 ** -0.09 日本 0.48 ** 0.29 ** 0.23 ** 0.04 ドイツ 0.12 * 0.08 * 0.17 ** -0.11 イギリ ス 0.16 * 0.17 ** 0.29 * 0.01 韓国 0.33 ** 0.37 ** 0.51 ** 0.12 (備考 )1.アメ リカは76年∼、韓 国は75年∼。 2.BI S(2005)TableⅡ.2を参考 に推計。**は1% 水準で有意。 *は5%水 準で有意を示す。 ●原油依 存度の 低下 一次産品 価格が 高騰し ているに もかか わらず 、消費 者物価 が安定 している 要因の一つ として 、先進 国にお ける原 油依存度 の低下 が挙げ られる 。世界の 原油依存度 をエネ ルギー 効率性(GD P原単位 あたり の原油 消費量 )でみる と、71年と比べ、04年に は約2分 の1に 低下し ている( 第1-2-2表) 。 先進国にお ける原 油依存 度の低下 の背景 には 、70年代におけ る2度 にわた る石油危機 の教訓 による 政府・企 業の努力 、技術進 歩、サー ビス経 済化の進 展に加え 、グロ ーバル化 工業製 品の生 産が途上 国に移 転して いるため 、製造 業比率 が低 下し てい るこ とも寄 与し てい る 2 。一方 、途 上国 のエネ ルギ ー効 率性は改善 こそし ている ものの、先進国と 比べ依 然とし て低い状 況にあ る 3 。 第122表 世界各地域でみられるエネルギー効率性の改善 1971年 世界 80年 90年 2000年 04年 86. 9 77.1 59.9 50.7 47.2 100. 0 82.8 60.2 53.2 50.0 アメリカ 121. 2 101.0 71.0 59.2 56.1 ユーロ圏 85. 6 71.3 50.2 45.8 45.0 日本 109. 4 81.4 55.9 51.1 47.2 非OECD加盟国 151. 7 158.3 154.0 127.1 112.9 OECD加盟国 (備考 )1.IM F "World Economic Outlook Database"より作成 。 2.OE CD加盟国の1971年を100と して指数化したも の。 2.経済 構造、 企業の 価格 設定行 動の変 化 90年代後半以降 におけ る世界的 な物価 安定の 背景とし て、次に、企業の価 格設定行動 の変化 、グ ローバ ル化、規制緩 和及び 技術進歩 等をみ る。企業は、 グローバル な競争 等によ り、コ スト上 昇圧力 があって も価格 に転嫁 しにくい 状況になっ ている 。 ●安定的 な動き が持続 する 賃金上 昇率 主要国につ いて 、労働市 場の需 給状況 と賃金上 昇率の 関係を 示す、いわゆ る伝統的な(期待要 因を含 まない)フィリ ップス曲 線をみ ると、70年代から 80年代前半 頃まで は、失業率が 低下す ると賃 金が上昇 すると いう関 係が欧米 を中心にみ られて いた( 第1-2-3図) 。また、70年代に は、多 くの国 で何らか 2 3 IEA (20 02) 等 。 一 部 新 興 国 に お い て は 、原 油 価 格 変 動 に よ る 消 費 者 価 格 へ の 影 響 を 軽 減 す る 制 度 が あ る 。例 え ば 、 ア ジ ア 諸 国 で は 燃 料 補 助 金 制 度 が 普 及 し て お り 、デ ィ ー ゼ ル 油 、ガ ソ リ ン 等 の 燃 料 価 格 に 対 し て 直 接 的 あ る い は 間 接 的 に 補 助 金 を 拠 出 し 、燃 料 の 消 費 者 価 格 が 一 定 に 維 持 さ れ て い る 。一 方 で 、今 般 の 原 油 価 格 高 騰 に 伴 う 補 助 金 の 増 大 に よ り 、財 政 悪 化 や エ ネ ル ギ ー 効 率 の 悪 化 等 の 弊 害 が 顕 著 と な っ て お り 、 05 年 半 ば 頃 か ら 石 油 製 品 価 格 の 引 上 げ 等 の 対 策 を 行 い 、 補 助 金 制 度 の 削 減 や 廃 止 の 動 き も み ら れ て い る ( 詳 細 は 、『 世 界 経 済 の 潮 流 2005 年 秋 』 第 II 部 第 2 章 参 照 )。 の要 因に よ り物 価が 上 昇す ると 期 待物 価の 上 昇等 を通 じ て賃 金も 上 昇する という賃金 と物価 のスパ イラル的 な上昇 がみら れた。 しかし、80年代初 には、賃金と 物価の スパイラ ル的な 上昇は 沈静化し た 4 。 また、80年代半 ば頃から は、国 によっ て程度 の差はあ るもの の賃金 上昇率は 低下し、フィリ ップス曲 線が下 方にシ フトする ととも に、よ り水平 となって いる。 すなわち 、労働 市場の 需給状況 や物価 上昇率 の動向が 賃金に 及ぼす 影響は 以前より低 下し 、賃金 の上昇に よるホ ームメ ードイン フレを 引き起 こすよう なことはな くなっ ている ことが分 かる。 4 経 済 企 画 庁 ( 1986 ) 第1-2-3図 フラット化する賃金上昇率と失業率の関係 時間当たり賃金 (前年比、%) 1人当たり報酬 (前年比、%) アメリカ 15 15 12 12 ユーロ圏 81 ∼8 5年 9 9 7 0∼85 年 90∼05 年 6 6 90 ∼0 5年 3 3 0 5年 0 5年 0 0 0 2 4 6 8 10 12 0 2 4 6 8 ドイツ 時間当たり賃金 (前年比、%) 10 12 失業率(%) 失業率(%) 平均賃金収入指数 (前年比、%) 英国 30 15 25 12 20 71 ∼8 5年 9 15 90 ∼0 5年 6 10 70 ∼85年 3 5 05年 2 4 6 8 10 90∼0 5年 0 0 0 0 5年 0 12 2 4 6 8 韓国 月額賃金 (前年比、%) 40 40 35 35 30 30 25 25 20 71 ∼8 5年 15 7 1∼85年 15 10 10 90 ∼0 5年 5 12 日本 時間当たり賃金 (前年比、%) 20 10 失業率(%) 失業率(%) 90 ∼05年 5 05 年 0 05年 0 -5 0 2 4 6 8 10 12 失業率(%) -5 0 2 4 6 8 (備考)アメリカ:アメリカ労働局、ユーロ圏:Eurostat 、 ドイツ:ドイツ連邦銀行、英国:英国統計局、 韓国:韓国統計庁、日本:厚生労働省「毎月勤労統計調査」より作成。 10 12 失業率(%) ●企業の 価格設 定行動 の変 化とグ ローバ ル化の 進展 次に、主 要国の単 位労働 コスト をみてみ よう。アメリ カ、ユ ーロ圏 、いず れにおいて も、90年代半 ば以降 賃金の 伸びが安 定する 中で、単位労 働コスト の伸びもお おむね 落ち着 いた動き となっ ており 、一次 産品価 格が高 騰し始め た03年秋以降も依 然抑制 された動 きとな ってい る(第1-24図)。 また、単位 労働コス トの変 動を、製 造業に ついてみ ると、製 造業に おける 生産性上昇 が全産 業より 相対的に 高い状 況が続 く中で 、製造 業の賃 金は相対 的に抑制さ れてお り、単位労働 コスト は全産 業と比べ 低い伸 びとな っている 。 例えば 、アメ リカの 製造 業は年 によ っては 賃金 上昇率 が高く なっ ている が、 生産性上昇 に見合 ったも のとなっ ており 、単 位労働コ ストは 抑制さ れている 。 日本につい ては 、過剰 雇用が続 く中で 単位労 働コスト の減少 が続い ていた が、やはり 製造業 におい て、相対 的に抑 制され た傾向が みられ ている 。 第1-2-4図 製造業で特に安定する単位労働コスト アメリカ (前年比、%) 10 8 時間当たり賃金 時間当たり賃金 8 6 4 4 2 2 0 0 2 2 4 単位労働 コスト 4 労働生産性 6 労働生産性 6 8 1990 92 製造業 10 単位労働 コスト 6 (前年比、%) 非農業部門 94 96 98 2000 (年) 04 02 8 1990 92 94 96 98 2000 (年) 04 02 ユーロ圏 (前年比、%) (前年比、%) 全産業 10 製造業 10 8 8 6 6 4 時間当たり賃金 4 単位労働 コスト 2 時間当たり賃金 単位労働 コスト 2 0 0 -2 -2 労働生産性 -4 -4 -6 -6 労働生産性 -8 -8 1990 92 94 96 98 2000 02 (年) 04 1990 92 94 96 98 2000 02 04 (年) 日 本 (前年比、%) 全産業 (前年比、%) 10 8 8 時間当たり賃金 6 6 単位労働 コスト 4 単位労働 コスト 時間当たり賃金 4 2 2 0 0 -2 2 -4 製造業 10 4 労働生産性 -6 6 労働生産性 8 -8 1990 92 94 96 98 00 02 04 (年) 1 990 92 94 96 98 00 02 04 (年) (備考)アメリカ:アメリカ労働省、ユーロ圏:欧州中央銀行、 日本:経済産業省「鉱工業生産指数」「第3次産業活動指数」「全産業活動指数」、 厚生労働省「毎月勤労統計調査」、内閣府「国民経済計算」により作成。労働生産性はマン・アワーベース。 製造業の単 位労働 コスト の上昇が より抑 制され ている背 景には 、中 国を初 めとする途 上国に おける 供給力拡 大によ り、製造業を 中心に 各国企 業の世界 市場におけ るグロ ーバル な競争が 高まり 、コ スト上昇 圧力が あって も企業が それを価格 に転嫁 しにく くなって いるこ とが挙 げられる 。ま た、グ ローバル 化の中で 、企業 のみな らず消費 者も世 界中の より安価 な調達 先にシ フトする ことが可能 である という 事実が 、製品 供給者 である企 業にと って価 格低下プ レッシャー となっ ている との指摘 もある 5 。 世界貿易の 動向を みると 、世界 全体の 輸出に 占めるア ジアや 途上国 の比重 が増大して おり、 特に中 国が着実 にシェ アを高 めている (第1-25図)。 第1-2-5図 世界輸出に占める中国、アジア、途上国のシェア (%) 45 40.0 40 35 途上国 30 25 20 中国 を除くアジア 14.0 15 10 中国 6.5 5 0 1980 85 90 95 2000 (年) ( 備考) 1 .IMF“International Financial Statistics”、“World Economic Outlook”、 “Direction of Trade Statistics”、 台湾行政院より作 成。 2.途上国の うち、アジアの輸 出額は韓国、台湾 、香港、シンガ ポール、 インドネ シア、タイ、マレ ーシア、フィリピ ン、インド各国 の 輸出額を 合計したもの。 また、グ ローバ ルな競争 は、財 市場の みなら ず労働市 場にも 影響を 及ぼし ている。例えば 、ヨー ロッパで は国境 を越え た労働者 の移動 が以前 より容易 になってい るほか 、企 業は生産 拠点の 見直し やサービ スのア ウトソ ーシング を進めてい る。アウ トソー シング は、実現 した場合 はもち ろん、そ うでない 場合でも 、その 潜在的 圧力によ り多く の先進 国におい て労働 者や組 合の企業 5 B I S (2 005) 。 に対する交 渉力を 低下さ せる効果 を持っ ている 6 。 ●市場の 自由化 、規制 緩和 独占に よる超 過利 潤は財 ・サー ビス の価格 を高 止まり させ る効果 を持 つ。 通信、運 輸等の 分野にお ける経 済的規 制は、そもそも は規模 の経済 に起因す る自然独占 への対 応策等 として策 定され た。こ うした 規制は 、上限 価格の設 定等により 一定の 目的を 果たした ものの 、需 要規模拡 大や技 術進歩 を背景に 、 自然独占か ら潜在 的に競 争的な産 業に変 化して いき、各国の 政策は 規制を緩 和して自由 競争を 促進さ せる方向 へと傾 いてい った。 例えば 、ユーロ 圏では98年に 通信業の 規制緩 和が行 われた 。消費 者物価(通 信業)は 、もと もと技 術革新等 により 消費者 物価総合 と比べ 上昇率 が抑制さ れていたが 、規 制緩和後 しばら くは、価格が より引き 下げら れてい たことが 分かる(第1-26図) 。ま た、OE CD(経済 協力開 発機構)の 分析に よると、 市場におい て競争 の程度 が弱く 、かつ 規制が 強いほど 賃金が 高くな ることが 明らかにさ れてお り、このこと は特に 製造業 において 強くみ られる としてい る 7。 6 例 え ば 、E U 新 規 加 盟 国 か ら 西 欧 諸 国 へ の 移 民 の 増 加 、先 進 国 か ら 途 上 国 へ の 仕 送 り が 安 定 的 に 伸 び て い る な ど が 指 摘 さ れ て い る ( B I S (2005 ))。 7 Rogo ff ( 2003 )、 N icol ett i, et . al . (2 001) 第126図 消費者物価(通信)の動き (前年比、 %) ユーロ圏 8 6 4 総合 2 0 -2 -4 通信 -6 -8 10 12 1990 91 92 93 94 95 96 (前年比、 %) 97 98 99 2000 01 02 03 04 05(年 ) ドイツ 8 6 4 2 0 総合 -2 -4 -6 通信 -8 10 12 1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 (年) 英国 (前年比、%) 8 6 4 2 総合 0 -2 -4 -6 通信 -8 10 12 1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 (備考 )1.ユ ーロ圏:Eurostat、ドイ ツ:ドイツ連邦銀 行、英国:英国統 計局より作成。 2.ユーロ圏及び 英国はHICP( Harmonised Index of Consumer Prices )。 05 (年) 3.マク ロ経済 政策運 営の 変化と 期待イ ンフレ 率の低 下 物価安定の 背景に は、マ クロ経 済政策 の変化も あると 考えら れる。70年代 に物価高騰 に見舞 われた 先進国は 、そ れを教訓 として 、80年代に入 るとマク ロ政策運営 におい ても物 価安定を 重要な 政策課 題とする ように なり 、期待イ ンフレ率も 低下し ていっ た。 ●期待イ ンフレ 率の低 下 主要国の 期待イ ンフレ 率は低下 してい る。期待イン フレ率 につい て比較的 中長期でデ ータを 取得で きるアメ リカ(G DPデ フレー タ)及び英 国(消費 者物価 )につ いてみ ると 、アメ リカ では、70年 代から80年代 初頭 にかけ て、 一次産品価 格の上 昇を受 け期待イ ンフレ 率は大 きく上昇 した 。また 、英国で は、80年代央か ら90年代初頭に かけて の不動 産を中心 とした 投資ブ ームもあ り、期待イ ンフレ 率は高 水準で推 移した 。 しかし、アメリカ では80年代初 以降、英 国では80年代半 ば以降、期待イン フレ率は徐 々に低 下し、そ の後安 定的に推 移して いる。特 に、04年以降は原 油価格が大 幅に上 昇して いるにも かかわ らず 、期待イ ンフレ 率は低 水準を維 持している (第1-27図)。 第1-2-7図 アメリカ、英国における期待インフレ率の低下 (%) 15 アメリカ 実績 (GDPデフレータ) 10 予測 (期待インフレ率) 5 0 乖離(実績値−予測値) -5 1971 71 73 75 77 79 81 83 85 87 (%) 89 91 93 95 97 99 01 05 (年) 03 英国 15 予測 (期待インフレ率) 10 HICP 5 RPIX 0 乖離(実績値−予測値) 5 1985 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 (年) (備考)アメリカ:予測値はフィラデルフィア連銀“Survey of Professional Forecasters” その他はFRB・ブルームバーグより作成。 英国:イングランド銀行(BOE)資料より作成。92年よりインフレターゲットを採用、 参照する物価指標は当初RPIX(Retail Prices Index (RPI) excluding Mortgage Interest Payments)、03年12月からはHICP(Harmonised Index of Consumer Prices )。 期待インフレ率(Implied Inflation Spot Curve)は、BOEが 国債10年物利回り−インフレ連動債10年物利回りを計算し発表している。 期待インフ レ率の 低下の 背景は 、様々 な要因が あると 考えら れる。既にみ たグローバ ル化や 企業の 価格設定 行動の 変化は 、人々 の期待 インフ レ率を抑 制する効果 を持つ と考え られ、ま た、期待 インフ レ率が安 定して いるこ とは、 企業や労働 者の賃 金・価格設定 を抑制 させる 効果を持 つとい う相互 関係も考 えられる 。こう した企業 や家計 の行動 のほか 、以下に みるマ クロ経 済政策運 営も期待イ ンフレ 率の低 下に寄与 したと 考えら れる。 ●より緊 縮的な 財政政 策 90年代は 、先進 国のみな らず、途上国 でも財 政バラン スの改 善した 国が多 くなってい る。先進国で は、ア メリカ におけ る成長や ヨーロ ッパに おける財 政赤字削減 の動き 等によ り財政赤 字が改 善し 、GDP 比でみ たプラ イマリー バラン スは70年代 から80年代平 均で ▲0.1%であっ たが、90年 ∼02年平均で は2.8%とプラ スに転 じてい る(第1-28表) 8 。 途上国、特 にアフリ カ、ラテ ンアメ リカ等 多くの国 でも、財 政バラ ンスは 改善してお り、緊 縮的な 財政政策 が物価 安定に 寄与した と指摘 されて い る 。 第1-2-8表 主要地域にお ける一般政府赤字の改善状況 (G DP比、%) 基礎的財政収支 197089 先進 国 途上 国 ア ジア 中 東 中 南米 ア フリカ 1990-02 -0.11 2.76 -1.29 2.53 -0.13 -3.58 -1.20 -0.96 1.25 -1.63 財政収支 1970-89 1990-02 2.50 -2.13 (*) 3.91 7.57 4.58 6.45 3.56 4.48 2.70 4.99 (備考 )1.Rogoff (2003)、IM F "World Economic Outlook Database" より作成。 2.(*)の先 進国の財政収支 のみ199004 の数値。 3.先進国は 、オーストラ リア、オース トリア、ベルギ ー、カナダ、 デンマーク 、フィンラン ド、フランス 、ドイツ、ギ リシャ、アイ ルランド、 イタリア 、日本、オラン ダ、ニュージ ーランド、ノ ルウェー、ポ ルトガル、 スペイン、 スウェーデン 、英国、アメ リカ。 ●将来の インフ レ期待 を重視 した 金融政 策運営 70年代にお けるス タグフ レーショ ンの背 景には 、70年代初め のドル と金の 交換停止( ブレトン =ウッ ズ体制 の崩壊)後、新たな 変動為 替レー ト制の下 で各 国が 拡 張的 な金 融 政策 をと っ たこ とが あ った 。そ の 後、70年 代 から80 年代にかけ ての世 界的な インフレ ーショ ンの経 験を踏ま え、各国の 中央銀行 は、80年代に入 り金利 水準の変 更とい う政策 手段によ り為替 レート を中間目 標、物価安 定を最 終目標 とする金 融政策 を採用 するよう になっ た。 一方で、中央 銀行に 対する政 治的圧 力の影 響もあり、金利政策 は“t oo li tt le, too l at e” となる傾向が あった との指 摘もある 9 。この 点につ いては、80年代 8 欧米の財 政政策 をめぐる 最近の 状況に ついては 第2章 第1節 コラムの 第2表 を参照 。 9 例 え ば 、 三 木 谷 ・ 石 垣 ( 1998)。 半ば頃から90年代 にかけ て、第 3節で みるよう に、世 界的に 中央銀 行の独立 性に対する 関心が 高まり 、国に よって は独立 性向上の ための 法改正 等が行わ れた。ま た、将 来のイン フレ率 に対す る予想( 期待イ ンフレ 率)を 重視した 先見的(forwa rd l ooki ng)な金融政策運 営が行 われる ようにな り、期 待インフ レ率の抑制 、安定 化に寄 与したと 考えら れる。 第3節 物価安 定下 の金融 政策 本節では 、主 要国 ・地域(以下 主要国 )につ いて、まず初 めに最 近の金融 政策動向を 概観し た後、政策運 営の特 徴と最近 の変化 につい てアメリ カ、欧 州中央銀行 (EC B)、英国 を中心に 解説す る。 1.主要 国の金 融政策 動向 ITバブ ル崩壊 後、世界経済 の同時 減速を 受けて主 要国で は緩和 的な金融 政策がとら れた。し かし、最 近では、アメリ カを中心 とした 景気拡 大及び原 油価格高騰 等によ るイン フレ圧力 を背景 に、アメリカ の金融 政策は 緩和的か ら中立的水 準へと 移行し ている 。EC Bも05年12月以降利上 げに転じ 、中立 的水準への 移行過 程にあ る(第1-31図)。 各国の金 融政策 の市場 への影響 を実質 長期金 利(長 期金利 ―消費 者物価上 昇率 )で み ると 、04年 初以 降欧 米 では 緩や か な低 下基 調 にあ るも の の(第 1-32(1)図)、変 動の大 きい エネル ギー 等の品 目を 除いた コア 物価上 昇率を 用いて計算 した実 質長期 金利(長 期金利― コア消 費者物 価上昇率 )でみ ると、 この金融政 策の動 きを反 映して 、05年半ば以 降欧米に おいて 上昇傾 向が明確 になってき ている (第1-32(2)図) 。 第1-3-1図 各国の政策金利の推移 (%) 7 6 英国 5 4 アメリカ 3 ユーロ圏 2 1 日本 0 2000 01 02 03 04 05 (備考)1.アメリカ:FRB、ユーロ圏:ECB、英国:BOE、日本:日本銀行より作成。 2.ユーロ圏の政策金利は、ECB政策金利。 3.日本の政策金利は、無担保コールレート(翌日物)。 06 (年) 第13-2図 各国の実質金利の推移 ( %) (1)長期金利−消費者物価(総合) 5 アメリカ 4 ユーロ圏 3 2 1 日本 0 1 2000/1 5 9 01 /1 5 9 02/1 5 9 03/1 5 9 0 4/1 5 9 05/1 5 9 06/1 (年月) (2)長期金利−消費者物価(コア) (%) 5 ユーロ圏 4 アメリカ 3 2 1 日本 0 2000/1 5 9 01/1 5 9 02/1 5 9 03/1 5 9 04/1 5 9 05/1 5 9 06/1 (備考)1.アメリカ :FRB、ユーロ圏 :ECB、英国:B OE、日本:日本銀 行より作成。 2.コア消 費者物価の定義は以 下による。 アメリ カ:食品・エネル ギー除く。 日本:生 鮮食品除く。 ユーロ 圏:食品・エネルギ ー・アルコール・タ バコ除く。 (年月) (1)ア メリカ におけ る金 融政策 (i) アメリカ におけ る最 近の金 融政策 ●1%ま での大 幅な引 下げ とその 後の引 上げ 連邦準備制 度理事 会(F RB)は01年1月か ら年末ま でに緊 急利下 げを含 む 合計 11 回 に 及 ぶ利 下 げ を 実 施し た 。 政 策金 利 ( F F 金利 ) は 6.5% か ら 1.75%まで大幅に 引き下 げられ 、コア 消費者 物価でみ た実質 長期金 利も低下 した(前掲 第1-3-1図、第13-2(2)図) 。その 後地政学 的リス クの高 まりやデ フレ懸念等 により さらに 引き下げ られ 、03年6月には 大恐慌 時を含 めた過去 最低水準で ある1.00%に低下した 。 03年後半か ら景気 は回復 傾向に向 かった ものの 、物価 上昇率 が低い こと及 び雇用等が 軟調で あるこ とを理由 に、金利 は1.00%に据 え置かれ た。し かし、 やがて雇用 も回復 をみせ 始め、04年6月 には利 上げを開 始した 。 ●金融緩 和局面 を終え 中立 的水準 へ 05年には 、エネ ルギー価 格のさ らなる 上昇や 、ハリケ ーンに よる被 害等の 一時的 な影響 はあっ たも のの、 景気 は堅調 に拡 大し 、 「金 融緩 和の慎 重な取 りやめ」と表現 される 利上げが0.25%ポイン トずつ小 刻みに 継続し て行われ た。年後 半にか けて緩 和局面の 終了時 期や政 策金利の 中立的 水準に ついての 議論が市場 で活発 になる 中、F F金利 が4.25%に達し た05年12月の連邦公開 市場委 員会( FOM C) におい て 、 「金 融緩和 の取 りやめ 」と の表現 が削除 され、金融 緩和局面 は終了 した。こ の間、コ ア消費者 物価で みた実 質長期金 利(前掲第1-3-2(2)図)は、落ち 着いた 動きと なった。 しかし、そ の後も「 ある程度 のさら なる引 締め」と表 現され る利上 げは継 続している 。物 価上昇率 は、05∼06年初を通 じ総じて 安定的 に推移 している ものの、エ ネルギー 価格、雇 用等経 済資源 の利用率 上昇等 から、潜 在的なイ ンフ レ圧 力 が高 まっ て いる との 判 断が この 利 上げ の根 拠 とし て示 さ れてい る。 5月 8 日に 開催 さ れた F OM Cに お いて も0.25%ポ イン ト引 上 げられ (連続16回の 利上 げ)、5.00%と なった 。ただ し、 6月末 のF OMC では、 利上げ中断 もあり 得ると されてい る。 ●グリー ンスパ ン議長 から バーナ ンキ議 長へ 06年2月に はグリ ーンス パンFR B議長 が18年半の任期 を終了 し、バーナ ンキ前大統 領経済 諮問委 員会(C EA)委 員長が後 任とな ったが、同月に行 われた 議会証 言で 、 「 金融政 策に ついて は、グ リー ンスパ ン議 長の下 で行わ れた政策と 政策上 の戦略 を引き継 いでい くこと を最優先 課題と したい 」と発 言するなど 、当面 は従来 の金融政 策運営 を継続 していく とみら れる。 (ii) アメリカに おける 金融政 策運営 −90年代半ば 以降に みら れる変 化 ●グリー ンスパ ン時代 の金 融政策 とテイ ラー・ ルール アメリカ の金融 政策は 基本的に 物価安 定と完 全雇用の 二つを 目的と して いるが、グ リーンス パン時 代の金 融政策は 、テイラ ー・ルー ルでよ く説明で きると言わ れてい る 1 。テイラー・ ルール とは、 政策金利 の決定 にあた り物 価上昇率と 景気( 需給要 因)の両 方を考 慮する という考 え方で ある。 そこで、FF金利 と物価 上昇率 、GD Pギャッ プ(需 給要因 )の動 きをみ てみよう 。GD Pギャッ プにつ いては 推定誤差 も存在 するた め、断 定的な判 断は回避す べきで あるも のの、今次政 策金利 の引上げ 開始で ある04年6月は 、 物価が安定 する中 でGD Pギャッ プがマ イナス からプラ スに転 ずるタ イミ ングとほぼ 一致し ている ことが分 かる( 第1-3-3(1)図) 。 90年代後半 以降に ついて みても 、物価 がおおむ ね安定 する中 で、政 策金利 がGDPギ ャップ にある 程度対応 した動 きにな っている 。こ れは物 価安定を 図りつつ景 気の動 向に応 じて政策 金利を 決定し たことを 示唆し 、テイ ラー・ ルールとも 整合的 な動き といえる 。 1 Tay lor (1993 )。最 近 の 分 析 と し て は 、Cl a rid a , G ali a nd G e rtl er (2000 )、 Blind e r and R eis ( 2005 )等 。 第1-3-3図 各国のGDPギャップ、消費者物価、政策金利 (%) (1)アメリカ 14 12 10 政策金利(FFレート) 8 6 参照物価(前年比) 4 2 0 2 GDPギャップ 4 6 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 200 0 01 02 03 04 05 (年) (備考)1.アメリカ商務省、労働省、FRBより作成。 2.参照物価は、2000年1月がCPI総合、2000年2月∼04年6月がPCE総合、 04年7月以降はPCEコア。 3.GDPギャップは、Hodrick-Prescottフィルターにより推計(推計期間、 1970年Q1∼2005年Q4)。 (%) (2)ユーロ圏 14 12 10 政策金利 8 HICP(前年比) 6 4 2 0 2 4 GDPギャップ 6 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 20 00 01 (備考)1.欧州委員会、ECBより作成。 2.政策金利は、98年までがドイツ公定歩合、99年以降がECB政策金利。 3.GDPギャップは、HodrickPrescottフィルターにより推計(推計期間、 1991年Q1∼2005年Q4)。 02 03 04 05 (年) (%) (3)英国 14 12 10 政策金利 8 参照物価(前 年比) 6 4 2 0 -2 G DPギャップ -4 -6 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 (年) ( 備考)1.欧州委員会、英 国統計局、BO Eより作成。 2.参照物価は、2003年までがR PIX、04年以降が HICP。 3.GDPギャッ プは、Hodrick-Prescottフィル ターにより推計 (推計期間、 1970年Q1∼2005年Q4)。 (%) (4)日本 14 12 政策金利 10 8 消費者物価総合(前年比) 6 4 2 0 2 GDPギャップ 4 6 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 200 0 01 02 03 04 05 (年) (備考)1.内閣府、総務省、日本銀行より作成。 2.政策金利は、96年4月までが公定歩合、96年5月以降が無担保コールレート(翌日物)。 3.GDPギャップは(現実のGDP−潜在GDP)/潜在GDP(推計期間、1980年Q1∼ 2005年Q4)。推計方法は内閣府「平成17年度経済財政白書」の付注1ー1を参照。 テイラー・ルー ル型政 策反応関 数によ りアメ リカの金 融政策 を検証 しよう とする文献 は数多 くある が、例え ば、Blinder and Reis (2005)は、テイラー・ ルールはグ リーン スパン 時代のア メリカ の金融 政策を実 証的に よく説 明す るとする一 方で 、FO MCある いはグ リーン スパンに よる政 策決定 を文字通 りに示すも のでは ないと している 。彼 らは、推計結果 の残差 及び当 時の経済 状況を踏ま え、政 策金利 がテイラ ー・ル ールか ら乖離す る時期 として 、89 ∼92年の高金利か らのソ フトラン ディン グを試 みた時期 、98年10∼12月期∼ 99年1∼3 月期の 金融危 機、01年1∼ 3月期 ∼02年1∼3月 期の超 緩和局面 の三つをエ ピソー ドとし て挙げて いる 。この分 析によ れば、彼らも 主張する ように、グ リーンス パンに よる政 策運営は 、テイラ ー・ルー ルに基 づいたも のであった として も、ルールと して常 に硬直 的に採用 してい たもの ではなく 、 裁量的な余 地があ ったこ とが示唆 される 。 ●「予防 的」引 締め 94年2月に は、93年後 半以降の 景気拡 大に伴 うインフ レ圧力 の高ま りを未 然に防ぐた め金融 引締め に転じ、 FF金 利は95年2月ま でに3.00%から 6.00%まで引き上 げられ た。こ の時の 対応は 、足元で インフ レ圧力 の高まり を示す兆候 がみら れなく ても、将来イ ンフレ 圧力が高 まると 考えら れる場合 に、従来 に比べ より早い 段階で「予防 的(preempt ive)」に利 上げを行 い、イ ンフレを未 然に防 ぐよう にした対 応と言 われて いる 2 。 前掲第1-3-3(1)図をみる と、94年1∼ 3月期 時点での GDP ギャッ プは確 かに若干の マイナ スであ り、足 元の物 価上昇 率も落ち 着いて いる中 での引上 げとなって いる 。その後 、GD Pギャ ップは94年4∼ 6月期 にはマ イナスか ら若干のプ ラスに 転じ、物 価上昇 率もやや 加速し た。ただ し、両指 標ともに 安定圏内の 動きと なって おり、予防的 引締め が有効に 機能し たとも 判断され る。 その後、95年7月に は、失業 率が5.6%(95年6月)と当時の 失業率 水準に 比べると相 対的に 低い水 準にあり 、物 価も消 費者物価 上昇率 が約3 %であっ たにも関わ らず利 下げを 開始した が、GDP ギャップ は95年1∼3 月期には 既にマイナ スに転 じてお り、足 下及び 先行き の経済減 速に対 応して の引下げ と推測され る 3 。 2 3 経 済 企 画 庁 ( 1999)、 Ye llen (200 6) 、 Bl inde r (1999 )、 P akko (1995 )ほ か 。 当時 の議事録 による と、グ リースパ ン議長 は、先 行きの在 庫調整 を強い 懸念材料 として 指摘し ている。 ● 政府との 関係に みられ た変 化−独 立性の 向上 中央 銀行 の 独立 性と 物 価安 定 には 一般 に 相関 があ る こと が知 ら れて いる が、クリン トン前大 統領は、グリー ンスパ ン議長の 判断を 尊重し、FRBの 独立性を支 持した といわ れている 。 例えば 、ルー ビン 元財務 長官に よれ ば、「93年まで は、 大統領 と財務 長官 がFRBの 政策に ついて 度々口を 挟み 、圧力を かけよ うとし ていたが 、クリ ントン大統 領(93年1月 着任)は公の 場でF RBの政 策につ いて発 言しない という原則 を常に 守った 。 」と し、その 理由とし て、(1)金融政策に 関するF RBの 決定は 、可 能な限 り政治 的圧 力に左 右さ れるべ きで はない 、(2)FR Bの独立性 を明確 に支持 すれば、大統領へ の信頼、経済政 策への信 認、健全 な金融 市場へ の信 認が増 す、(3)FRB 議長に 政治 的圧力 を加 えてい るとい う印象 は、 国際 市場 に悪 影響を 及ぼ す、 など を主 張し たと してい る 4 。FR Bの場合 、以下 でみる英 国等と は異な り、法 制度の改 正等を 伴わず 実態とし て政治的圧 力から 独立し ていった といえ よう。 (2) ユー ロ圏に おける 金融 政策( ECB 設立以 後) ● 今次局面 におけ る景気 回復 の遅れ と金融 緩和 ECBは 、01年5月から 金利引 下げを 開始し 、03年6月まで に2% まで段 階的に引き 下げた。その後 は、04年以降、英 国やアメ リカ等 におけ る政策金 利引上げの 動きの 中で 、政策金 利は05年12月まで30か月にわ たり2 %に据え 置かれた 。低い 金利水準 が維持 された 背景とし て、ド イツを 中心に ユーロ圏 の景気回復 が遅れ ていた ことが指 摘され ている。特に、04年初か らフラ ンス、 スペイン等 では好 調な個 人消費を 背景に 景気は 回復して いたも のの 、ドイツ 、 オランダ等 では遅 れがみ られ、ユーロ 圏内の 景気回復 は国ご とにば らつきが みられてい た。 ● 5年2か 月ぶり にEC Bも 「予防 的」引 締め 05年12月の2%か ら2.25%への引 上げ時 におい ては、原油価 格高騰 が続く 4 ル ー ビ ン ( 20 02)。 ま た 、 メ イ ヤ ー 元 F R B 理 事 は 、 理 事 時 代 、「 ク リ ン ト ン 大 統 領 は 、 そ れ 以 前 の 誰 よ り も F e d の 独 立 性 を 尊 重 し 、グ リ ー ン ス パ ン 氏 を 二 度 に わ た り 議 長 と し て 指 名 し た 。私 の知る限り 、金融 政策に 何らかの 影響を 与えよ うとした ことは 公的に も私的に も一度 もなか った」 と し て い る ( M ey e r (20 00))。 中、消費者 物価指数( HIC P)5 上昇率は2.2%、コアHI CP上昇 率は1.4% と依然 抑制さ れてい たも のの、 トリ シェ総 裁は 、 「 インフ レに 関して はそれ が起き てか ら対 応す るよ りも 未然 に予防 (prevent ion)する方が 良い 」と し、 予防的な引 締めを 行った。その後、3月に 引上げが 行われ、6月に も引上げ が見込まれ る状況 となっ ている( 前掲第1-3-1図) 。 05年12月の 金利 引上 げ 時に お ける 物価 上 昇率 及び G DP ギャ ッ プの 動き をみると 、物価 上昇率が 比較的 抑制さ れている 中で、FRB の04年6月の引 上げ局面開 始時と 同様に 、GD Pギャ ップが マイナス からプ ラスに 転ずる時 期とほ ぼ一致 して いる( 第1-3-3(2)図)。それ 以前 におけ る引 上げ局 面の開 始となった99年11月もほ ぼ同様で 、G DPギ ャップが マイナ スから プラスに 転ずる状況 下で 、物価上 昇に先 立ち引 上げが行 われて いる。需給バ ランスの タイト化は 将来の 物価上 昇をもた らす可 能性が 高いと考 えると 、先 行きのイ ンフレリス クとし て、足元の需 給情勢 を考慮 した金融 政策運 営が行 われてい ると考えら れる。 (3)英 国にお ける金 融政 策 (i)英国に おける 最近 の金融 政策 ● 金利引下 げと住 宅価格 高騰 英国も、01年2 月に政策 金利を 6%か ら5.75%に引き 下げた のに続き 、以 降(9か月 連続)10回にわた り4% まで引 き下げた。その後 インフ レリスク を警戒する 中で政 策金利 は4%に 据え置 かれた が、03年2月 に再び 引き下げ られ、03年7 月の 再度引 下げに よっ て3.5%と歴史 的低水 準(48年ぶり)とな った。 しかし、一 方で、02年頃より 低金利 を背景 に、住宅需 要の増 加とと もに住 宅価格 上昇が 続き、 住宅 バブル を警 戒する 発言 が相次 ぐよう にな ってい た。 このため 、03年11月には3.75%に引上 げ、そ の後も断 続的に4.75%まで引上 げた結果、当時の 欧米の政 策金利 として最 も高い 水準と なった( 前掲第1-31 図) 。 5 各国 の消費者 物価統 計を調 整して計 測対象 の項目 を共通化 した、 ユーロ 圏全体の 消費者 物価指 数。 ● 05年8月の引下 げは 僅差に よる決 定 05年に入り 、住 宅価格は 沈静化 したも のの、それまで 住宅市 場の好 調によ って支えら れてい た消費 の伸びが 鈍化し 、経済 成長率 も伸び が鈍化し た。8 月には 、成長 率鈍 化等を 背景 に、政 策金利 は4.5%に0.25%ポ イント 引き下 げられた 。議事 録によれ ば、本 決定は 委員9 人のうち 引下げ が5票 であった のに対し 、キン グ総裁を 含む4 人は据 え置き 、と僅差 の決定 であっ たことが 明らかにな ってい る。 当時の物価 上昇率 とGD Pギャッ プの動 きをみ ると、GDP ギャッ プは05 年初よりマ イナス に転じ ている 。しか し、物 価上昇率 は緩や かなが らも上昇 しており、8月の金 融政策 委員会( MPC)会合時点 で明ら かにな っていた 6月の 消費者 物価 上昇率 は2.0%、会合 後に公 表さ れた7 月の 消費者 物価上 昇率は2.3%と目 標値 を超え るも のであ った。 MP Cが難 しい 選択を 迫られ ていたこと が分か る(前 掲第1-3-3(3)図) 。 ● 先見的( フォワ ードル ッキ ング) な政策 運営 英国中央 銀行( BOE )は、インフ レーショ ン・レ ポート という 四半期 報を公表し ており 、そ の中で先 行き2 年間の 物価上昇 率や経 済成長 率の見通 しを、ファ ン・チャ ートと呼 ばれる 確率分 布で示し ている。インフ レ見通し の作成には MPC 委員も 関与して おり 、政策 運営に機 械的に 連動し ているわ けではない が、MPC がフォワ ードル ッキン グな政策 判断を 行う上 での重要 な材料 とさ れて いる 6 。05年8月 の同 レポ ート をみ ると 、物 価上昇 率予 測を 示すファン・チ ャートで は、2 年後ま で1∼ 3%のレ ンジ内 に収ま っている もの の、 先 行き が一 時 的に 2% を 上回 るこ と が見 込ま れ る中 、06年 以降は 2%を下回 ること を予想 している(第1-34図)。MP Cによ る実際 の政策運 営において も、経済の 先行きを 考慮し た政策 決定を行 ってい ること が分かる 。 6 King (1997 b)。 な お 、 英 国 の イ ン フ レ 目 標 の 対 象 指 標 は 、 消 費 者 物 価 の 実 態 を よ り 反 映 し て い る こ と や 、 ユ ー ロ 圏 等 他 国 と の 比 較 が 容 易 に な る こ と か ら ( H M Tre asu ry (2003 ))、 03 年 1 2 月 に そ れ ま で 利 用 し て い た R P I X( 住 宅 ロ ー ン 金 利 を 除 く 小 売 物 価 指 数 )か ら 消 費 者 物 価( 消 費 者 物 価 指 数 。 ユ ー ロ の H I C P と 同 じ 。) へ 変 更 さ れ た 。 第1-3-4図 英国:2005年8月の物価上昇率ファン・チャート 消費者物価上昇率(前年比%) (年) (備考)1.B OE“Inflation Report, August 2005”による。 2.ファン・チャートは今後の予想 物価上昇率を扇状に表し たもので、色の最 も濃い部分が中 心予測(10%の確率 で実現すると予想)で あり、全体では 90%の確率で扇 状の中に収まると 予測している。 3. 3年目は機械的に 予測を延長したもの で委員会での合意は 得られていない。 (ii)英国の現 政権 下にお ける金 融政策 運営 ●通貨危 機とイ ンフレ ーショ ン・ ターゲ ティン グの導 入 英国では 、90年10月に自国通貨 を欧州 通貨の バスケッ トに連 動する 為替相 場メカニズ ム(ER M)に参 加し、為 替相場 安定を重 視する 金融政 策運営を 行っていた が、92年9月 の欧州 通貨危 機をきっ かけに ERM を離脱し 、フロ ート制に移 行した 。こう した中 で、金 融政策 に対する 信認維 持等を 目的とし て、92年10月に財務大臣 から「 消費者 物価(R PIX )の前 年比を 1∼4% の範囲内と する」旨 の発表 があり、インフ レーショ ン・ター ゲティ ングが導 入された。その後、物価上昇 率は低 下し、約 半年後の93年11月には おおむね 2.5%程度で推 移する ように なった( 第1-3-5図) 。 93年2月に は初の インフ レーショ ン・レポート が公表 される など、金融政 策運営の透 明性を 高める 取組がみ られた 。 (%) 第1-3-5図 英国:97年以降安定続く期待インフレ率 10 9 8 7 6 期待インフレ率 (Implied Inflation Spot Curv e) 5 Target (2.0%) 4 3 2 R PIX (住宅金利を除いた物価上昇率) 1 T arget range (1∼4%) Target (2.5%) HICP 0 1985 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年) (備考)1.BOE資料より作成。 2.BOEは、92年よりインフレーション・ターゲティングを採用、95年6月よりターゲットは 2.5%あるいは それ未満(2.5% or less)となり、97年6月より2.5%。参照する物価指標は当初RPIX( Retail Prices Index (RPI)excluding Mortgage I nter est Payme nts)、03年12月からはHICP(Harmonised Index of Consumer Prices) でターゲットは2.0%としている。 3.期待インフレ率は、BOEが国債10年物利回り−インフレ連動債10年物利回りを計算し発表している。 インフレ連動債導入は81年。 ●BOE の独立 性確保 とその 後の 期待イ ンフレ 率低下 しかし、インフ レ期待は 変動し つつも 高水準を 続け、4%台 後半で 高止ま りした。これは 、運営 の枠組み の信頼 性が必 ずしも高 くない ことを 意味して いた 7 。97年5月 に労 働党 のブレ ア政 権後 、金 融政 策運 営に ついて 枠組 みの 変更 が行 わ れ、 BO E に政 策手 段 の独 立性 が 確保 され た 。具 体的 に は、98 年6 月に B OE 法が 改 正さ れ、 政 府( 財務 省 )が 設定 し たイ ンフ レ 目標値 (Inflat ion t arget )を達成 するため 、B OEは 政策金利 の決定 を含む 権限を与 えられ 、政 策決 定機 関と してM PC が設 置さ れた 8 。イ ンフ レ目標 値は 、消 費者物価( RPIX )上昇率2.5%とし たが、こ れは常に2.5%を維 持するこ とを示 してい るの ではな く、あ る程 度の期 間で2.5%に戻 るよ う金利 を調節 することを 意味す る。た だし、消費者 物価上 昇率が目 標値の 上下1 %を超え た場合には 、B OEは その理由 を財務 大臣に 公開書簡 で報告 する義 務を負う 。 7 H M Tr ea sur y (20 02) 。 ま た 、 本 レ ポ ー ト 及 び K ing( 1999 )は 、 92 年 か ら 96 年 の 物 価 安 定 の 理 由 と し て 、 90 年 代 初 の 深 刻 な 景 気 後 退 に よ る 資 源 稼 働 率 の 低 下 及 び G D P ギ ャ ッ プ が マ イ ナ ス の 時 期 があったこ とを指 摘して いる。 8 た だ し 、例 外 的 な 場 合 と し て 、国 民 の 利 益 に 基 づ き 、政 府 は B O E に 対 し 限 ら れ た 期 間 金 利 に つ いて指示す る力を 有する ことが認 められ ている 。 その後、期待イ ンフレ率 は顕著 に低下 し、期 待インフ レ率及 び足元 の物価 上昇率とも に安定 した動 きが続き 、か つその 水準はイ ンフレ 目標の 水準へ収 斂してきて いる。すなわ ち、B OEの 場合、イ ンフレ ーショ ン・タ ーゲティ ングの導入 に加え 、B OEの独 立性確 保を含 めた政策 運営の 枠組み が確保さ れたことに より 、市場参 加者の 期待形 成を安定 させ、マクロ 経済の 効率性の 改善に寄与 してい るとみ ることが できる 9 。 コラム :テイラー ・ルー ルの推計 とテイ ラー原 則 本文で みた よう に、 少な くと も最近 の主 要国 の政 策金 利の 変更 は、物 価上 昇率 だけでなく 景気( 需給要 因)も考 慮して 行われ ていると 考えら れる。 テイラ ー・ ルー ルと は、 物価 上昇率 が長 期的 な目 標値 から どの 程度乖 離し てい るか、 及び 景気 変動 に対 応する 指標 (例 :G DP ギャ ップ) が均 衡値 から どの程 度乖離して いるか に応じ て、政策金 利の変 更を行っ ていく 金融政 策ルール である。 テイラ ー・ ルー ルに よれ ば、 基本的 に需 給ギ ャッ プが プラ ス( マイナ ス) とな れば、 金利 を引 き上 げ( 引き下 げ) る。 一方 、何 らか の要因 によ り仮 に物 価上昇 率(ま たは 期待 インフ レ率 )が 1%上 昇し たと しよ う。 この場 合、 実質 金利 は1% 低下するが 、これに 対応し て金利 を0.5% しか引き 上げな かった 場合、実 質金利は 依然0.5% 低下し たままで あり、緩 和効果 が持続 してしま う。し たがって 、金融政 策によ り物 価上 昇率( また は期 待イ ンフ レ率) 変動 の影 響を相 殺し 望ま しい 経路に 戻すために は、物価 上昇率の 変化以 上に名 目金利を 引き上 げる必 要がある (テイラ ー原則)。 テイラ ー・ ルー ルの 推計 方法 は様々 であ るが 、そ の一 例は 表の とおり であ る。 アメリ カで は、8 7年 以降 のグリ ーン スパ ン議 長の 在任 期間を 対象 とす ると 、それ 以前の ボル カー 議長 の在 任期間 とは 異な り、 テイ ラー ・ルー ルが 当て はま る結果 となっ てい る。 また 、期 待イン フレ 率の 長期 パラ メー タは1 より 大き く、 テイラ ー原則が当 てはま ってい る。 参考に 、ユ ーロ 圏、 英国 につ いてみ ると 、ユ ーロ 圏に つい ても 、デー タの とれ る92年 以降 ユー ロ導 入ま でみる と、 同ル ール 及び 原則 が当て はま って いる 。ユー ロ導入 後は 結果 が明 確で はない が、 推計 期間 が短 いた めかも しれ ない 。一 方、英 国につ いて は、9 7年 のブ レア政 権成 立後 に現 在の 金融 政策の 枠組 みと なっ たが、 9 その 一例と して、 長期金利 が名目 成長率 と一致す るとの 動学的 効率性が ほぼ実 現して いる。 同ルール及 び原則 がある 程度当て はまっ ている 。 テイラー・ルールの推計の一例 推計期間 79Q3∼86Q4 アメリカ 87Q1∼04Q4 92Q1∼98Q4 ユーロ圏 99Q1∼04Q4 77Q1∼92Q3 英国 92Q4∼97Q1 97Q2∼04Q4 日本 83Q1∼92Q4 ・ 期待インフレ率 短期 長期 0.069 0.876 (0.107) (1.048) 0.303 1.827 (0.143)* (0.288)** -0.295 3.069 (0.284) (0.204)** -0.03 -0.121 (0.169) (0.651) 0.086 0.466 (0.027)** (0.177)* 0.459 0.734 (0.088)** (0.131)** 0.674 13.462 (0.243)** (5.602)* 0.247 2.065 (0.03)** (0.425)** 需給要因 短期 0.148 (0.087) -0.324 (0.112)** 0.314 (0.063)** 0.391 (0.093)** 0.31 (0.066)** -0.137 (0.023)** 0.64 (0.129)** 0.07 (0.034)* S.E. J値(Prob.) 0.025 0.125 0.004 0.09 0.004 0.175 0.003 0.129 0.012 0.128 0.005 0.289 0.004 0.207 0.003 0.144 ・ i E Pt h GAPt (i : 各国政策金利、 P : コア消費者物価上昇率 、 GAP : GDP ギャップ ) (備考)1. it 0 1 t 1 1 t 2 t をGMMで推計。 h は4四半期。( )内は標準偏差。**は1%有意、*は5%有意を示す。 アメリカについては説明変数として自己ラグを2期まで加え、需給要因としてGDPギャップではなく、 失業率を用いた。ユーロ圏・英国・日本については期待インフレ率としてコア消費者物価上昇率ではなく、 それぞれHICPとRPIXと総合消費者物価上昇率を用いた。操作変数として、説明変数及び CRB商品価格指数上昇率の4期迄のラグ変数を用いた。 2. アメリカでのグリーンスパンFRB議長の在任期間は87年8月∼2006年1月。ユーロ圏でのユーロ導入は 99年1月。英国でのインフレターゲット導入は92年10月、ブレア首相の在任期間は97年5月∼。 2.主要 国の金 融政策 の特 徴 (1)独 立性と 透明性 の向 上 (i)独立性 の向上 ● 中央銀行 の政策 手段の 独立 性の確 保と中 央銀行 総裁の 任期 既にみたよ うに 、90年代半ば以 降、主 要国に おける中 央銀行 の独立 性は高 まっている 。中 央銀行の 独立性 を考え る概念と して、政策手 段の独 立性と政 策目的の独 立性が ある 。金融政 策の目 的自体 は国民か ら選ば れた政 府や議会 により設定 されて おり、 主要国で も法律 で規定 されてい る(第1-3-6表) 。 一方、政 策手段 の独立性 とは、目標を 達成す るための 金融政 策運営 上の責 任を負い 、目的 を追求す る方法 は自由 に決定で き、他 の政府 機関か ら簡単に は覆され ないこ とを意 味する 10 。欧米 ではF RB、 ECB 、BO Eいず れも 独立性を得 ている 。実際 には、委員会(ECB は理事 会)を 設置し 政策金利 等を決定し ており、委員会( 同)への 政府側 の出席の 有無等 には相 違がある ものの、出席の 場合でも オブザ ーバー としての 出席で あり、手段の 独立性は 確保されて いる。 手段の独 立性が 必要な 理由は 、金融 政策は一 定のラ グを伴 うもので あるこ と等により 、長期 的な視 野を持 って運営 する必 要があ るためで ある。中央銀 行総裁が長 期雇用 契約を 与えられ ること で、選 挙で選 ばれた 立法者が するで あろう努力 よりも 、総裁 が多く の努力 をするイ ンセン テイブ を与えら れるこ とになる 11 。 総裁の任期 をみる と、EC Bで8 年、FRB、BOE では5 年となっ てい る。 10 11 Blind er (199 9) ほ か 。 Blind e r (1 999) 、 F ujiki (2005 )ほ か 。 第1-3-6表 各国の中央銀 行の独立性と 委員会制 国名 アメリカ(FRB ) ユーロ圏(ECB ) 英国(BOE) 日本(BOJ) 連邦準備法 第2条A項 欧州共同体条約 第1 05条1項 イングランド銀行法 第1 1条 日本銀行法 第2条 ○政策の目的 根拠法 施行年 主要目 的 目的の数値化 1 913 FRB及びFOMCは、 最大限の雇用、物価の安 定、適度の長期利子率と いう諸目的を効果的に推 進するため、生産を増加 させる経済の長期的な能 力に適合する貨幣・信用 量の長期的増加を維持す るものとする。 なし 19 98 ECB金融政策の最も重 要な目的は物価安定の維 持である。これこそが金 融政策が経済成長及び雇 用創出に寄与するための 最善の手段である。 19 98 BOEの金融政策の目的 は物価の安定を維持する こと、及びそれに付随し て、経済成長、雇用創出 を含む政府の経済目標を 支援することである。 中期的に2%に近く2% より低い 199 8 日本銀行は、通貨及び金 融の調節を行うに当たっ ては、物価の安定を図る ことを通じて国民経済の 健全な発展に資すること をもって、その理念とす る。 2% 0∼2% PCE(コア) HICP HICP CPI 金融政 策委員会 FOMC ECB政策理事会 金融政策委員会 金融政策決定会合 委員の数 (外部任命委員) 12(0) 6(0) 9(4) 9(0) 物価安 定の 基準となる経済指標 ○政策決定過程 討議方 式 ベージュ・ブック、グ リーン・ブック、ブルー ブックを元に討議 2本柱(経済分析とM3 の参照値を含めた広範な マクロ分析)によるアプ ローチに基づき討議 インフレレポートを元に 討議 金融経済月報・関係業務 資料を元に討議 決定方 法 投票 投票 投票 投票 投票結 果 公表 公表せず 公表 公表 ○政策決定過程に おける政府の役割 政府の関与 なし(政府はFOMCに 出席することを認められ ていない) ・出席権(閣僚理事会議 長及び欧州委員会委員) ・議案提出権(閣僚理事 会議長) 政府・中 央銀行間の見解相違時 出席権(財務省代表者) ・出席権 ・議案提出権・議決 延期 請求権 政府優先規定(国家緊急 事態時) 議決延期請求(否決の可 能性あり) 28日間 期限 (議会承認により延長可) 1ヶ月 ○中央銀行総裁の 任免にかかる規定 任命主 体/承認主体 任期(年) 任期更 新 大統領/上院 欧州理事会(欧州議会・ 運営委員会に諮問)/加盟 国政府 元首(女王) 内閣(要両議院の承認) 5年 8年 5年 5年 再任可 再任不可 再任可 再任可 ○政府への信用 供与、財政ルール 財政法第5条 国債の直接引き受けは原 則禁止。(第5条但書によ り保有国債の借換は可能) 条約第10 1条 財政赤字の貨幣による ファイナンスの禁止 政府への 信用供与の可否 安定・成長協定 財政ルール ゴールデンルール、 サスティナビリティルー ル ○金融政策委員の 任命にかかる規定 任期(年) 理事:14年 地区連銀総裁:5年 8年 3年 5年 任期更 新 再任不可 再任可 再任可 委員とし て除 外される関係機関等 兼任不可 政府・取締役会の委員 (総裁と副総裁を除く) 欧州議会 NedCo(イングランド 銀行の取締役会の分科委 員会)が評価書を作成 ○外部による評価・監 視 議会 (備考)各国中 央銀行ホームページ 、藤木(2005)、 Tuladha r (2005) 、日本銀行企画 室(2000)より作成 。 兼任不可 国会 ● 一個人に よる政 策決定 ・運 営から 委員会 制へ 90年代前半頃ま では、FRB 等一部 の中央銀 行を除 き、意 思決定 権は総裁 又は財務大 臣が保 有して いた。以 後、英国、日本を含 め委員 会制に 移行する 中央銀行 が増加 してい る 12 。ヨーロッ パ諸国 もかつ ては総 裁が意 志決定 権を 保有する国 が多か ったが 、EC B設立 後は理事 会制を 採用し ている 。委員会 での意思決 定は、 投票に よる多数 決によ るもの が多い。 委員会制 か総裁 かの選 択の理論 的根拠 につい ては、総裁が 政策決 定につい て全 面的 に 責任 を負 う 方が その 所 在が 明確 と なり 説明 責 任の 遂行 の 観点か ら望ましい 、委 員会を 設置して も委員 が異論 を唱える ことは 現実的 には困難 という意見 もある 一方で 、委員 会制の 方が複 数の人か らのよ り広い 視野に立 った議論が 考慮さ れるこ とにより リスク 回避が 図られる こと 、等が 指摘され ている 13 。 (ii)透明性の向上 ● 独立性確 保の結 果求め られ る説明 責任、 透明性 の向上 独立性を有 した中 央銀行 は、自 らの政 策運営 や政策決 定につ いて国 民に対 するアカウ ンタビ リテイ(説明 責任)がある。また、国民に 説明し 信認を得 ることによ り、金 融政策 の効果が 高まる ことも 期待でき る 14 。 透明性の 向上は 、この10年で 大きく 変化、 改善の みられ た点で ある 15 。例 えば、FR Bでは、10年程前 までは、政策変 更が行わ れても すぐに は公表さ れなかった 。現 在では金 融政策 は透明 性が高ま り、政 策決定 及びそ の判断根 拠や金融政 策運営 につい て、国 民に分 かりや すい形で 情報公 開を行 うように なっている(第1-37表)。中央 銀行の 決定を 市場がよ り予測 できる ようにな ると、そ うした 市場をさ らに中 央銀行 が予測で きるよ うにな り、ま た中央銀 行は市場の 予測を 調整し ていく 、とい った相乗 的な効 果が働 き、金 融政策の 12 P olla rd (2004 ) に よ れ ば 、 88 の う ち 79 の 中 央 銀 行 が 委 員 会 制 を 採 用 し て い る 。 Blind e r (200 4, 200 5) , Lybek and Mo r ris (20 04) 。 委 員 会 制 の 理 論 的 根 拠 に つ い て は 依 然 議 論 、 研 究 が 進 め ら れ て い る と こ ろ で あ る (F ujiki (2005 ) )。 14 I M F は 、 中 央 銀 行 の 政 策 の 透 明 性 は 高 い こ と が 望 ま し い と の 判 断 に よ り 、 99 年 に 「 金 融 政 策 運 営 の 実 践 に お け る 透 明 性 ( Cod e o f Good P r a ctic es on Tran spa r en cy in mone ta ry a nd Fi nan ci al P olici es) 」 を 決 定 し て い る 。 そ こ で は 、 二 つ の 原 則 と し て 、 ( 1)一 般 市 民 が 政 策 の 目 標 と 実 施 方 法 を理解し、 かつ政 策当局 が目標達 成に真 摯に取 り組めば 、通貨 ・金融 政策の有 効性を 高めら れる。 (2)良 い ガ バ ナ ン ス は 、 中 央 銀 行 及 び 金 融 政 策 当 局 に 対 し 、 特 に 中 央 銀 行 及 び 金 融 政 策 当 局 に 高 い 裁 量 権 が 与 え ら れ て い る 場 合 に は 、 説 明 責 任 (ア カ ウ ン タ ビ リ テ イ )を 課 す 、 と し て い る 。 15 Blind e r (2 004) は 各 国 中 央 銀 行 に 最 近 み ら れ る 特 徴 と し て 、 透 明 性 の 向 上 、 委 員 会 制 の 導 入 、 市 場 と の 対 話 を 挙 げ こ れ を 「 静 か な 革 命 (Qui et revo lution )」 と 呼 ん で い る 。 13 効果のラグ が短く なるな どの改善 効果が 期待で きる。 第137表 説明責任と透明性 の向上 アメリカ(FRB) 欧州(E CB) 英国(BOE) 日本(BOJ) 議会報告及び議会証言 (年2回) 欧州議会、欧州理事会、 欧州委員会 (年1回) 政府 国会(財務大臣経由) 年2回 年8回 毎月 毎月 月1∼2回 説明 責任及び 透明 性の確保 報告先 政策会合開催 頻度 プレスリリース 政策決定当日 (政策決定内容及び背景、 の開示内容 投票結果) プレスリリース(政策決定内容の み)及びステートメント(政策決 プレスリリース 定内容及び根拠となる経済分析と (政策決定内容及び背景) 金融分析)、総裁記者会見 プレスリリース(政策決定内容) と総裁記者会見 議事要旨公表 とタイムラグ あり(3週間後) なし あり(2週間後) あり(約1か月後) 議事録公表と タイムラグ あり(5年後) 公表せず 公表せず あり(10年後) スタッフによる見通し MPC委員の指導の下作成したス タッフ見通し 政策委員の見通し ○ ○ ○ 経済(物価) 見通し 物価見通し の公表 FRBスタッフとFOMCメン バーが協議の上作成 ○ 公表 資料名 Monetary Policy Report to the Congress ECB sta ff m acro econ omic Inflation report pr ojec tion s fo r th e eu ro a rea 経 済・物価の将来 展望とリス ク評 価 公表 頻度 年2回(2、7 月) 年4 回(3、6、 9、12月) 年4回(2 、5、8、11月) 年2 回(4、10月) インフレーション・ ターゲティング × × ○ × 目標 数値 − − 2% − (備考)FRB、ECB、BOE、日本銀行より作成。 ● 政策決定 、議事 録の情 報公 開等に みられ る透明 性の向 上 透明性の向 上とし て、例え ば、FO MCに おける政 策変更 は、94年2月ま では、次 回FO MC数 日後の 議事要 旨公表 時まで 原則非 公開で あった 16 。94 年2月以降 政策変 更は即 時公開さ れるよ うにな り、市 場がF RBの 行動を予 測するこ とがよ り容易 になっ た 17 。98年12月以降は 、一般 公表さ れるべ きと FRBが考 える場 合にお いては 、金融 政策の 運営スタ ンスの 変更が 即日発表 されるよう になり 、2000年2月以降は プレス リリース が毎回 公表さ れるよう になった。04年12月には 、議事要 旨の公 表が早 期化され た。 なお、こ の間、03年8月 には、FOM Cは「 金融緩和 はしば らくの 間継続 16 89 年 10 月 に グ リ ー ン ス パ ン 議 長 ( 当 時 )は 、 下 院 議 会 で 、「 F O M C の 決 定 を 即 刻 開 示 す べ き 」 と の 要 求 に 対 し 、「 政 策 決 定 の 公 表 を 求 め ら れ る と 、 時 宜 を 得 た 適 切 な 政 策 変 更 が 妨 げ ら れ る 可 能 性 が あ る 」 と 証 言 し て い る ( Blind e r (1 999 )) 。 17 P ool e and R asc he (2003 ) する 18 」とし、初 めてフ ォワー ドルッ キング な表現 を声明 に明示 的に加 える ようになっ た。 第1-3-8表 FOMCの透明性向上、市場との対話に関する取組 年 月 主な変更点 94年 2月 会合の結果、政策変更が生じた場合に声明(ステートメント)を公表 95年 2月 79年以降の議事録を、会合後5年を経たものは開示 また、声明にFF金利の誘導目標値を記述 98年 12月 政策変更があった場合に加え、FOMCのリスクバランスに対する見解や将来 の金融政策の方向性(バイアス)が大きく変更された場合でも、必要と認めら れた場合に声明を公表 00年 2月 声明を毎会合ごとに公表 政策バイアスに関する記述を落とし、リスクバランスに関する評価を記述 02年 3月 各委員の投票状況を記述 03年 5月 物価上昇率についてのFOMCの見解を記述 8月 04年 12月 政策の先見的(フォワードルッキング)な方向性について記述 議事要旨の公開を早期化し、会合開催3週間後(次回のFOMC会合よりも 前)に公表 (備考)FRB、 Woodford(2005)、 Yellen(2006)、 Pakko(1995)より作成。 ECBは 、98年6月の設 立当初 より独 立性は保 証され ている が、2000年12 月にユーロ 圏経済 見通し を初めて 公表す るよう になった 。以 後経済 見通しは 、 6月と12月の月報 の中で 年2回公 表され ていた が、04年6月 からは マクロ経 済予測(EC B st aff macroeconomic p roject ions )という形で 独立し たレポー トとなり、 四半期 に一度 公表され ている 。 BOEでは 、97年の独立性 付与と ともに、MPCが 設置さ れ、政策 決定会 合後2週間 で詳細 な議事 要旨を公 表し、F OMC、ECB、BOE の中で最 も高い透明 性を持 つと指 摘されて いる 19 。 各中央銀行 の透明 性はこ のように 向上し ている が、現 在公表 される 情報の 種類には相 違点も ある 。ここで は投票 結果の 公表の仕 方と物 価指標 について 紹介する。 18 19 “ policy a c co mmo dati on c an b e maint ain ed fo r a consid e rab le p e riod ” Blind e r (2 004) ●投票結 果の公 開 各委員の投 票結果 は、F RBで は02年3月以降 プレス リリー スで、BOE では97年6月分以 降議事 要旨で公 表する ように なってい る。 一方、E CB委 員会開催 後は、プレス リリー スの公表 ととも に総裁 記者会 見が行われ る。政策 決定は 多数決 だが、投 票者の名 前、内訳 等は公 表されて いない。これは ECB は複数の 国の集 合体で あるとい うユー ロ圏の 特殊な事 情を踏まえ 、ユ ーロ加 盟国から の不当 な政治 的圧力が 委員に かかる ことを防 ぐだけでな く、運営理 事会が各 国利益 の主張 の場とな らない ように するため である 20 。 ●物価指 標とし て何を みる べきか ? 透明性の 向上を 図る上 で、市 場との 対話の 基礎とな る物価 安定の 指標とし ては、対象 とする 取引主体 や取引 段階の違 いを反 映して 様々な指 数(例 えば、 企業物価指 数、消 費者物 価指数 、GD Pデフレ ータ等 )があ り、そ れぞれ動 きも異なっ ている ため 、中央銀 行が金 融政策 運営のス タンス を説明 する際に は、重視す る物価 指数を 絞らない と対外 的な解 り易い説 明が困 難とな る 21 。 多くの 中央銀 行では 、消 費者物 価指 数を重 視し ている 。この 理由 として は、 (1)消費者 物価は 国民 生活に とっ て身近 であり 、透 明性の 観点 から適 してい ると考えら れるこ と、(2)速報性、等 が挙げ られて いる。 また、E CB、BOEで は消費 者物価 指数(総 合)を 採用し ている のに対 し、FR Bでは2000年2月以降 PCE 総合を採 用した 後、04年7月 以降PC Eコア(食 料、エ ネルギ ー除く消 費デフ レータ )を用い ている 22 。Blinder & Reis (2005)は、これは 食料品や エネル ギー価 格の変動 は一時 的なも のであり 、 長期的 なイン フレ期 待に は影響 しな い、と の考 えに基 づくも のと してい る。 一方で、将来の インフレ 期待が 2∼3 年に及ぶ 場合、コアも 総合も ほとんど 変わらない 、とい う指摘 もある 23 。 Blinder & Reis (2005)は、アメリ カの消 費者物 価総合及 び消費 者物価 コアを 比較し、ア メリカの 将来の 物価上 昇率(消 費者物価 総合上 昇率)を 予測する 指標として どちら が優れ ているか につい て簡単 な検証を 行って いる 。つまり 、 20 P adoa - Sch iopp a (2 000 ) 鵜 飼 、 園 田 ( 200 6) 22 ア メ リ カ で は 、 P C E デ フ レ ー タ 、 P C E コ ア と も に 月 次 で 公 表 さ れ て い る 。 04 年 7 月 の P C E 総 合 か ら P C E コ ア へ の 変 更 に つ い て 、F O M C は「 基 調 と な る イ ン フ レ ト レ ン ド の 指 標 と し て 、 よ り 優 れ て い る た め 」 と し て い る ( F R B ( 2004))。 23 La rs Sv ens son 教 授 に よ る 指 摘 と し て 、 Blin de r & R eis ( 2005 )に 紹 介 さ れ て い る 。 21 国民生活に おける 物価安 定の視点 からは 、すべ ての財・サー ビスに ついての 消費者物価(総合)をみるこ とが適 切と考 えられる が、足元 の消費 者物価指 数は、食料 やエネル ギー価 格変動 の影響を 強く受 ける。彼 らによれ ば、アメ リカでは2 回の石 油危機 を含め原 油価格 高騰は 一過性の もので あり 、長期的 なインフ レ期待 に影響 するも のでは ないと されて いる 24 。また、 検証結 果に よれば、総合の 上昇率予 測のた めには 、コア の方が予 測の精 度が高 くなって いる。 同様の推計 を、ア メリカ 、ユー ロ圏、英国、日本につ いて当 てはめ たのが 第13-9表である 。これ によ ると、 アメ リカは 、彼 らの結 果と 同様、 コアの 方が総合と 比べ推 計残差 が小さく 、予 測力が高 くなっ ている 。英国 や日本も 同様で、コアの 方が残差 が小さ く、日 本につ いては通 常用い られて いる生鮮 食品を除く コアと 比べ、生鮮・エネル ギーを除 くコア(内閣 府試算 )の方が さらに小さ くなっ ている。一方、ヨ ーロッ パについ ては、推 計期間 が96年以 降と 原油 価 格が 比較 的 安定 して い た期 間で あ った こと に 留意 する 必 要はあ るものの 、半年 から1 年先の予 測では コアよ りも総合 の方が 残差が 小さくな っている。 ただし 、その 差は2∼ 3年先 になる とほとん どなく なる。 24 理 論 的 に は 、物 価 安 定 と し て ホ ー ム メ イ ド・イ ン フ レ ー シ ョ ン の 調 節 が 金 融 政 策 の 対 象 で あ り 、 また長期の 物価上 昇率で あること から、 これを 測るもの として より適 している からで ある。 第1-3-9表 先行きのインフレ予測 (総合指数とコア指数の比較) 予測期間 6か月 12か月 24か月 36か月 アメリカ コア 0.84 0.68 0.63 0.59 (85年∼) 総合 0.89 0.74 0.74 0.73 欧州 コア 0.88 0.53 0.43 0.30 (96年∼) 総合 0.85 0.47 0.42 0.29 英国 コア 0.81 0.40 0.26 0.19 (96年∼) 総合 コア(生鮮・エネ ルギー除く) 1.32 0.67 0.46 0.41 1.36 0.93 0.93 0.93 総合 1.43 1.01 1.00 1.01 コア(生鮮除く) 1.41 0.99 1.00 1.01 日本 (85年∼) (備考 ) 1.各 国発表の物価指 数(アメリカ:P CEデフレータ 、欧・英:HC PI、 日 :CPI)より 内閣府試算。 2.Blinder & Reis(2005)を 参考に、各国の物 価上昇率(総合 )を、 同 指標で予測させ た場合及びコア で予測させた場合 の推計式残差。 残 差が小さい方が 説明力(予測力 )が高いと解釈さ れる。 推 計式は ・ P cons t . X t,t h t ,t 12 t 3.コ ア指数:変動の 大きい食料とエネ ルギーを除いて 算出した物価指 数。 (2)期 待形成 に働き かけ る金融 政策運 営の重 要性 ● なぜ期待 に働き かける こと が重要 なのか 市場金利 は、市場 の期待 形成の 変化から 大きな 影響を 受ける。一 方で、中 央銀行が調 節でき るのは 政策金利 である 短期金 利であり 、経 済主体 の消費や 投資行動 、さら には物価 に及ぼ す影響 の大きい 長期金 利、株 価や為 替に対し ては間接 的な影 響と なる 25 。長期金 利等の 指標は 、数か 月か ら数年 先の将 来 の政策金利 の方向 性に対 する期待 によっ て変動 する。 したがって 、将 来の短 期金利パ スにつ いての 市場の期 待形成 に働き かける ことが金融 政策運 営の上 で重要と なる。 25 こ こ で の 議 論 は Wo od fo rd (2005 )を 踏 ま え た も の で あ る 。 ● 金融政策 運営の 先行き につ いての コミッ トメン ト 今、極端な 例として 、何らか の要因 により、中央銀行 が今期 金利を 引き上 げ、その 要因や 来期以降 の道筋 につい て何も情 報を提 供しな いとする 。その 場合、 市場や 国民は 、引 上げの 背景 がイン フレ 懸念な のか景 気過 熱なの か、 あるいは今 後再び 金利を 引き上げ るのか それと も据え置 くのか 、据 え置いた 後また引き 上げる のか下 げるのか など 、不確 実性及び 情報の 非対称 性のある 中で個 々に判 断し、 自ら の期待 及び 最適化 行動 を修正 してい くこ とにな る。 しかし、実際に は既にみ たよう に中央 銀行の透 明性は 向上し 、政策 決定の根 拠等は公表 される ように なってい る。 ここで、さらに 、中央 銀行が現 在のみ ならず 将来の金 融政策 運営の 道筋に ついて十分 コミッ トメン ト(約束)できれ ば、市場が 個々に 将来の 予測を立 てる必要性 が低下 し、市場の期 待を中 央銀行 の目標値 の近傍 に安定 的に保つ ことができ るよう になる 。その 結果、経済を 安定化す ること ができ ると考え られる。また中 央銀行が 市場の 信認を 維持し続 けるた めには 、実際 に公表し た道筋に沿 い政策 を実施 する必要 がある 。しか し、何 ら制約 を設け ずに今期 のみの金利 につい て裁量 的な決定 を行う 場合 、国民が 予期し ないタ イミング で金利を引 き下げ ること により 、総需 要を刺 激し失業 率を一 時的に 引き下げ る、という ことが可 能とな り、その 場合、最 適水準よ りも高 いイン フレを招 くという 懸念( 動学的 非整合 性の問 題 26 )を生じさ せてし まう。 最近の 金融 政策運営で は、コミット メント をある 程度意識 したも のとな っている 。例え ば、先 にみた ように 、F RBは 、最 近の金 利引 上げ局 面にお いて 、 「 金融緩 和の慎 重な取 りやめ 」「ある 程度 のさら なる引 締め 」とい った 表現を 用いる ことにより 、先 行きの金 利につ いての 道筋を示 してい る。E CBは そこまで 明確でない ものの 、 「 金 融政策 は緩和 的」 「 物価安 定にかか るリス クは上 向き」 といった説 明によ りある 程度の方 向性を 示して いる。BOE はイン フレーシ ョン・タ ーゲテ ィングを 採用し ており 、コミ ットメン トとい う点か らは最も 明確といえ よう。 26 Ky dla nd an d P re scot t (19 77) コラム: 「 新しい ケイン ズ経済学」による最 適金融 政策分 析につい て 期待 に働 きか ける 金融 政策の 重要 性に つい ては 、最 近の「 新し いケ イン ズ経済 学」に基づ く最適 金融政 策のモデ ルによ り理論 的にも説 明され る。 「新 しい ケイ ンズ 経済 学」の 特徴 は、 価格 粘着 性を 仮定す る点 でケ イン ズ経済 学、あ るい はI S― LM 分析と 共通 して いる が、 ミク ロ的基 礎が 定式 化さ れ、期 待の役割が 厳密に 扱われ ている。 「新 しい ケイ ンズ 経済 学」に 基づ く最 適金 融政 策分 析を考 える モデ ルで は、期 待を考 慮し た総 需要 曲線 (IS 曲線 )及 び総 供給 曲線 (フィ リッ プス 曲線 )を仮 定する 。さ らに 、I S− LM分 析で は金 融政 策は マネ ーサプ ライ を調 節す ること により LM 曲線 をシ フト させ短 期金 利を 操作 した のに 対し、 本モ デル では 中央銀 行は物 価上 昇率 とG DP ギャッ プの 安定 を政 策目 標と し、社 会的 損失 関数 の最小 化を図 る主 体と 仮定 する 。この 場合 、社 会的 損失 関数 は、物 価上 昇率 の二 乗とG DPギャッ プの二 乗の加 重平均に 近似で きると される( 図1)。 また、家 計や企業 は各々 先行 きの 経済 情勢 を合理 的に 予想 しつ つ効 用ま たは利 潤の 最大 化を 図ると 考える と、 導出 され るI S曲線 、フ ィリ ップ ス曲 線は ともに 将来 のG DP ギャッ プや期 待イ ンフ レ率 に依 存して 決ま るこ とに なる 。な お、合 理的 期待 によ り、予 想される財 政・金 融政策 変更は経 済主体 の行動 に影響を 与えな い。 このフ レー ムの 下で は、 中央 銀行は 短期 金利 を調 節す るこ とに よりI S曲 線を 左右にシフ トさせ 、社会的 損失を 最小化 する(図 2)。し かし、例 えば、 図2の状 況下で 仮に 価格 ショ ック が発生 して フィ リッ プス 曲線 が上方 シフ トし た場 合、イ ンフレ を抑 制す るた めに 短期金 利を 調節 しI S曲 線を シフト させ れば GD Pギャ ップが 犠牲 とな り損 失の 増大は 避け られ ない 。し かし 、中央 銀行 が利 上げ と同時 に将来 の金 利( 引上 げ維 持)に もコ ミッ トし 、市 場の 信認を 得た 場合 は、 期待イ ンフレ 率の 低下 を通 じて フィリ ップ ス曲 線の シフ ト幅 をある 程度 相殺 でき 、損失 の増大を軽 減する ことが 可能とな る。 (図1)厚 生損失 の無差 別曲線 (図2 )IS曲 線とフ ィリッ プス曲線 インフレ率 金利引上げ IS曲線 大 厚生損失 金利引下げ インフレ率 厚生損失の無差別曲線 フィリップス曲線 小 A GDPギャップ 厚生損失の無差別 曲線 来期の期待インフレ率 +今期の価格ショック 0 GDPギャップ (参考文献 )三尾 (2005) (3)イ ンフレ ーショ ン・ ターゲ ティン グにつ いて 物価安定 という 目標を 達成する ために は、政策当局 の信頼 を確保 すること が何よりも 重要で ある。そのた めの一 つの方法 として 、金融 政策に 明示的な ノミナル ・アン カー 27 を設定し 政策の 透明性 を高め 、期待 インフ レ率を 低下 させるとと もに 、コミ ットメン トを明 確化す ることに より政 策当局 の裁量の 余地を小さ くする 考え方 がある。 90年代に、 ニュー ジー ランド (90年)、カナ ダ(91年 ) 、英 国(92年 ) 、ス ウェーデン(93年)等で 物価上 昇率に ついて目 標範囲(また は目標値 )を明 示的に設定 するイ ンフレ ーション・タ ーゲティ ングが 採用さ れた。その後増 加・拡大し、現在で はOEC D加盟 国で12か国、非加 盟国で 8か国 が採用す るに至って いる 28 。 なお、イ ンフレー ション・ ターゲ ティン グは、金融 政策の 枠組み の一つで あるが、 その定 義につ いては 、学術 的には 依然複 数の定 義があ るもの の 29 、 たとえばI MFで は以下 をインフ レーシ ョン・ターゲ ティン グの二 つの特徴 として明示 してい る 30 。 1) 中央銀行は 、唯一の 目標と してイ ンフレの 値ある いはそ の幅(レ ンジ) について コミット し、そ れに向 けて金融 政策を 執行す る。イ ンフレが 唯一の目 標という ことで 、物価 安定が金 融政策 の最重 要目標 であるこ 27 28 29 30 ノミナル ・アン カーとは 、物価 安定の ための錨 のよう な役割 を担うも の。 Tul adh a r (20 05) に よ る 。 Sv ens son ( 2002 )、 Sve nsson and Rude bus ch (1 998 )、 B e rn ank e and Mish kin ( 1997 )等 。 I M F ( 2 005) とがよく 理解でき 、目標 数値が 政策当局 の考え 方を伝 播する 一助にな る。 2) 中長期の インフレ 予想が 金融政 策の目標 値とな る。こ のため 、インフ レーショ ン・ター ゲティ ングは 「インフ レ予測 ターゲ ット」 である。 現在の物 価や雇用 契約、 物価ス ライド制 度によ り短期 のイン フレは事 前にある 程度決ま ってい るため 、金融政 策は将 来のイ ンフレ 期待にの み影響を 与えるこ とがで きる。 中央銀行 は新し い情報 に対応 して政策 変更を行 うことに より、 将来の インフレ 期待に 影響を 与え、 目標値に 近づけよ うとする ことで 、結果 的に現在 の物価 上昇率 を目標 値に近づ けることが できる 。 ● インフレ ーショ ン・タ ーゲ ティン グの利 点 インフレー ション・ター ゲティン グの政 策的意 義として は、透 明性の向 上、 中央銀行の 説明責 任の明 確化、インフ レ期待の アンカ ーを提 供し、それが実 体経済にも 良い影 響を及 ぼす、と 指摘さ れてい る 31。 また、キン グ総裁 は、英国 の経験を 踏まえ たイン フレーシ ョン・ ターゲテ ィングの利 点とし て、透 明性の 向上や 説明責任 、イン フレ期 待の調 整がより 容易 にな るこ との ほか に、 独 立性 のあ る中 央銀 行の 政 治的 合法性 (legit ima cy)を 確立す るので 、特に 不人気 な決定を 行う場 合に有 用である としている 32 。 ●各国に おける インフ レーシ ョン ・ター ゲティ ング導 入の経 緯 現在、イ ンフレー ション・ ターゲ ティン グを採用 してい る国も、90年代以 前は イン フ レ抑 制の た めに マネ ー サプ ライ や 為替 レー ト を中 間目 標 とした 金融政策を 採用し ていた 。しか し、実 際には これらの 中間目 標と物 価上昇率 の間の関係 が曖昧 だった ため市場 の信認 を得る ことがで きず 、目標 の達成が 困難となっ ていた ことが 物価上昇 率を明 示的な ノミナル・ア ンカー とするイ ンフレーシ ョン・ ターゲ ティング の導入 の背景 となった と考え られる 33 。 31 Wood for d (20 03) 等 King (2 004 )に よ る 。 こ の ほ か 、 Blind e r (2 004 )は 、 イ ン フ レ ー シ ョ ン ・ タ ー ゲ テ ィ ン グ は 、 中 央 銀 行 が 透 明 性 を 高 め る た め の 実 践 手 法 の 典 型 例 と し て 挙 げ る こ と が で き る 、と し て い る 。ま た 、イ ン フ レ ー シ ョ ン ・ タ ー ゲ テ ィ ン グ の 最 大 ( mo st es sen tia l) の 理 論 的 根 拠 は 、「 政 策 当 局 に 対 し 、 国 民 と 対 話 す る こ と を 促 す と と も に 、中 央 銀 行 に 説 明 責 任 と 規 律 を 課 す こ と に あ る 」と の 指 摘 も あ る ( B ern ank e et al (199 9))。 33 King (1997 a )、 (1997b )、 Tul adh a r (2 005) 32 また、途 上国に おけるイ ンフレ ーション・ター ゲティン グ導入 の背景 には、 アジア通貨 危機や ロシア 通貨危機 を経た 後、法的に制 度的枠 組みを 設けるこ とで中央銀 行の独 立性を 保証し 、金融 政策へ の信認を 高めよ うとい う意図が あったと指 摘され ている 34 。 ● FRBに おける インフ レー ション ・ター ゲティ ング導 入をめ ぐる議 論 FOMCで は、これまで 数次に 渡りイ ンフレー ション・ター ゲティ ングに ついて議論 してい る。95年1月の会 合では、ブ ローダ ス(リッチ モンド 連銀) 総裁がイン フレー ション 目標(オブジ ェクテ ィブ )を明示 的に提 示する 方が、 むし ろ短 期 的に はよ り 政策 変更 の 自由 度が 高 まる こと 等 を理 由に 賛 成の意 見を唱え ている 35 。一方 で、イ エレン 理事が 、複数 年に及 ぶイン フレー ショ ン・ター ゲット の導入に は反対 すると し、そ の理由と してF RBは 物価と雇 用双方の安 定を図 ること が重要で あり 、景気 安定のた めに物 価上昇 率が多少 望ましい水 準を上 回るこ とも政策 の選択 肢とな り得るこ と、多くの 中央銀行 は、実態と して物価 だけで なく景 気も重視 してお り、イン フレーシ ョン・タ ーゲテ ィング の導入 によ り中央 銀行 の信認 が高 まると いう保 証は ないこ と、 等を挙げて いる。 また、こ れらの 議論を 踏まえ 、グリ ーンスパ ン議長(当 時)は 、イ ンフレ ーション・ター ゲティン グは興 味深い 考え方で あり、長期的 な物価 安定指標 をアンカー として 持つこ とは重要 とする 一方で 、多く の人が 短期的 なフィリ ップス 曲線( 物価上 昇率 と失業 のト レード オフ )の存 在を信 じて いる中 で、 それを否定 し、物価安 定が長期 的目標 として 極めて重 要と発 言する ことは誤 解を招く、 として いる。 96年7月に は、ターゲ ットを示 すこと で市場 の過度な 反応を 警戒で きると の意見が出 され 、複数 のFRB 高官が コア消 費者物価 上昇率 2%と 発言した 。 05年2 月にも 議論さ れ 、 「長 期的 な物価 安定目 標を 数値化 する ことは いくつ かの利益を もたら す」との発 言もあっ たもの の、結論は保 留とさ れた 。なお、 イエレ ン(サンフ ラン シスコ 連銀)総 裁は、 最近 では 、 「長 期的 に望ま しい物 価上昇率を 数値で 示すこ とは市場 との対 話を深 化させる 上で有 益」とする一 方で 、 「イ ンフレ ーシ ョン・ ター ゲティ ングは 、長 期の目 標で あり、 雇用を 軽視してい るので はない ことを明 確にす る必要 」と発言 してい る 36 。 34 35 36 Tul adh a r (20 05) FOMC 議事録 による。 Yelle n (20 05)、 (2006 ) ●ECB におけ るイン フレー ショ ン・タ ーゲテ ィング 導入を めぐる 議論 ECBは 議事録 が公開 されてい ないた め、イ ンフレ ーショ ン・タ ーゲティ ングが議論 された か否か は必ずし も明ら かでは ないが 、イッ シング 専務理事 は、E CBの 金融 政策運 営につ いて 、(1)物価安定 が第一 目標 である こと、 を明ら かにし た上 で、(2)中央銀 行が物 価に影 響を 及ぼす こと ができ るのは 「長くかつ 不確実 なラグ 」を伴 うため 、物価 上昇率の 短期的 な舵取 りをする のは期 待過剰 であ り、政 策運営 に対 し柔軟 性を 持たせ てい ること 、(3)金融 政策を総合 的な観 点から 判断する ために 、物 価変動に 関する 短期的 分析に加 え、マネ ーサプ ライや 資産市場 に関す る長期 的分析も 不可欠 である ことから 、 「2本 の柱( 物価上 昇率 とマネ ーサ プライ ) 」 戦略 は重要 な役 割を担 ってい る、として いる 37 。 また、ト リシェ総 裁は、E CBの 政策運営 につい て、物価 安定を数 値で示 してはいる ものの 、いわ ゆるイ ンフレー ション・ター ゲティ ングとは 一線を 画す( かつF OMC とも 異なる )、独自 の金融 政策 枠組で ある と主張 してい る。インフ レーショ ン・ター ゲティ ングの問 題点と して、特 に資産価 格の高 騰が 全体 の 物価 水準 に 影響 を与 え るよ うな 事 態に 対し て対 応 しき れな い可 能性がある ことを 指摘し 、資産 価格の変 調を的 確に把 握するた めにも 、金融 政策は流動 性の動 向を十 分考慮し た上で とられ るべきで あると してい る 38 。 ●インフ レーシ ョン・タ ーゲ ティン グ導入 に当た っての 留意点 −諸外 国の経 験を踏ま えて FRBや ECB での議 論を踏ま えると、FRB では、イ ンフレー ション ・ ターゲティ ングを 導入し た場合 、法律 で政策 目的とし て規定 されて いる雇用 の最大化を どう整 理すべ きかが論 点の一 つとな っている 。一方、ECB では、 資産 価格 が 変動 した 場 合に 自由 度 が制 限さ れ るこ とを 懸 念し てい る ようで ある。 また、イン フレーシ ョン・タ ーゲテ ィング を有効に 機能さ せるには 、BO Eの例でみ たよう に、中 央銀行 の政策 目標を政 府(あ るいは 国民の 代表であ る担当 大臣等 )の経 済政 策目的 との 整合性 が保 たれる ように 設定 した上 で、 中央銀行が 、自 らの裁 量の下政 策目標 を達成 するイン センテ ィブを 常に持つ 37 38 Issing (2004 ) Tr ich et (2004 ) ような、国 民から 信認の 得られる 枠組み を設定 すること が重要 である 。 Goodfriend (2005)は、良い金融 政策の ために 中央銀行 が独立 性を持 つのは 必要条件で はある が、十分 ではな いと指摘 し、その 一因と して、中 央銀行に は政治 家、政 府から 様々 な(金 利引 下げ) 圧力 がある ことを 指摘 してい る。 解決策は 、中央 銀行の独 立性に 、枠組 み−中 央銀行が 説明責 任を負 えるよう な明確 な目標 −を伴 うよ うにす るこ とであ り、 枠組み として は、 かつて は、 金本位制、最近では 、固定為 替レー ト、低イ ンフレへ のコミ ットメ ントある いはインフ レーシ ョン・ ターゲッ トがあ るとし ている。 日本銀行で も、以 前より インフレ ーショ ン・タ ーゲティ ングに ついて 各種 レポートが 公表さ れ、金 融政策決 定会合 でも議 論されて いる。 また、06年3 月には「中 長期的 な物価 安定の理 解」と して望 ましい物 価上昇 率の数 値的水 準(0∼2%)が示さ れたとこ ろであ る。ただし、日本に インフレ ーショ ン・ ターゲティ ングの 議論を 応用する 場合に 考える べき点と しては 、ゼロ 金利制 約下で実質 的に操 作目標 が期待管 理しか ないこ とに注意 する必 要があ るとの 議論がある ことに は留意 する必要 があろ う 39 。 まとめ 90年代以降 の世界 的な物 価安定に は、経済構造 の変化 、生産 性向上 や国際 競争の高ま りによ る企業 の価格設 定行動 の変化 等の影響 がある が、政策も重 要であり 、財政 政策運営 が規律 を重視 するよう になっ たこと 、より 中長期的 な要 因と し て金 融政 策 運営 が物 価 安定 をよ り 重視 する よ うに なっ た ことも 寄与してい ると考 えられ る。 主要国の 中央銀 行(F RB、E CB、 BOE )につい て、最 近の金 融政策 動向をみる と、物 価上昇 率と需給 要因の 両方を 考慮しつ つフォ ワード ルッキ ングあるい は予防 的な政 策運営が 行われ るよう になって いる。 例えば 、FR B、ECB による 直近の 金利引上 げ局面 では、 足下の物 価上昇 率は安 定して 39 B e rna nke & R einh a rt (200 4)は 、 ゼ ロ 金 利 で の 金 融 緩 和 政 策 と し て 、 (1)期 待 に 働 き か け る 、 (2) 特 定 の 資 産 の 大 量 購 入 、 (3 )中 央 銀 行 の バ ラ ン ス シ ー ト の 規 模 の 拡 張 、 の 三 つ を 指 摘 し て い る 。 Egge rtson an d Wo od fo rd (2 003) は 、 こ の う ち 、 将 来 の 財 政 政 策 と の 関 連 を 除 く と 、 (2)や (3 )の 政 策 効 果 は 基 本 的 に な い と 主 張 し て い る (ほ か 、 Egge rts on (200 4) 等 )。 実 務 家 か ら の 主 張 と し て は 、 植 田 (2005)が あ る 。 いる状況の 中で、 GDP ギャップ がマイ ナスか らプラス に転ず る時点 で既に 引上げ(金 融政策 の緩和 的水準か ら中立 的水準 への移行 )を開 始した と考え られる。 また、金融 政策運 営につ いてみる と、各 国ごと の相違も みられ るもの の、 物価安定の 重要性 の認識 の高まり 等を背 景に、 特に90年代半ば 以降、 中央銀 行の独立性 及び金 融政策 の透明性 が向上 してい る。また 、政策 の先行 きに関 するシグナ ルを市 場に与 えること により 人々の 期待形成 に影響 を働き かける ことを重視 するよ うにな り、それ により 金融政 策の有効 性を高 めるよ うにな ったという 共通し た特徴 がみられ る。こ れらは 、中長期 的な物 価安定 及び経 済のボラテ ィリィ ティの 縮小に寄 与した と考え られる。 金融政策運 営で期 待形成 に働きか けるこ とが重 要となる のは、 期待が 変化 することで 、短期 金利の みならず 、長期 金利等 実体経済 に影響 するほ かの重 要な経済変 数にも より影 響力を及 ぼすこ とがで きるよう になる ためで ある。 そのために は中央 銀行は 透明性の 向上に 加え、 市場との 対話を 適切に 行い、 中央銀行の 行動が 人々に 理解され るよう になる ことが重 要であ る。 最近話題と なって いる政 策手法の 一つに インフ レーショ ン・ターゲ ティン グがあるが 、こ れは中央 銀行の コミッ トメント の内容 を明確 にし、期待形成 に働きかけ る上で もより 分かりや すいと いう意 味で、透明性 向上の 一つの有 力な手段と 考えら れる。ただし 、各国 の中央 銀行の導 入を巡 る議論 の中では 幾つかの課 題も指 摘され ており、財政・金 融政策全 体の枠 組みの中 で、実効 性を考えつ つ導入 の必要 性につい て判断 するこ とが重要 である 。 金融政策 運営は 、これ までも 経済・金融情 勢の変化 に応じ 変化し てきてお り、今後も 日々変化 してい くと考 えられる 。実際、各 国では 日々中 央銀行や 学者等によ る研究 発表、意 見交換 等が行わ れてい る。諸外 国の経験 は、各国 にとっても 重要な 情報で ある。今 後もさ らなる 研究、議 論が期 待され る。