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解雇が無効とされるケース

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解雇が無効とされるケース
解説
事例・判例から学ぶ
解雇が無効とされるケース
弁護士 岡芹健夫 弁護士 安倍嘉一
第 1 解雇権濫用法理とは
使用者と労働者間の解雇を巡るトラブルは職場で起
こる紛争の原因の上位に常に位置し,それにまつわる
訴訟件数も一定数を保っています。
ご存じのとおり,日本には解雇権濫用法理が存在
し,使用者が有効に解雇をなすためには,この解雇権
濫用法理に基づいて行う必要があります。しかし,解
雇権濫用法理のハードルは高く,訴訟において解雇が
無効と判断されるケースもしばしばみられるところで
あり,使用者として有効な解雇を行うためには,解雇
権濫用法理の理解が必須といえます。
資料1 民法627条
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったとき
は,各当事者は,いつでも解約の申入れをするこ
とができる。この場合において,雇用は,解約の
申入れの日から2週間を経過することによって終
了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には,解約の申
入れは,次期以後についてすることができる。た
だし,その解約の申入れは,当期の前半にしなけ
ればならない。
3 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合に
は,前項の解約の申入れは,3箇月前にしなけれ
ばならない。
以下では,まずこの解雇権濫用法理が確立していく
経緯と内容について述べていきたいと思います。
1.解雇権濫用法理の確立の経緯
原則については,労基法をはじめ種々の労働法規が,
部分的に一定期間・一定事由による解雇を制限するよ
うになりました。
民法627条1項は,
「当事者が雇用の期間を定めな
しかし,解雇が労働者およびその家族に多大な影響
かったときは,各当事者はいつでも解約の申入れをす
をもたらすにもかかわらず,解雇禁止事由に該当しな
ることができる。この場合において,雇用は,解約の
い限り,解雇自由の原則はなお維持されていたため,
申入れの日から2週間を経過することによって終了す
労働組合は,労働者の雇用確保に注力し,解雇に激し
る」としており,かつては,使用者は本条項を根拠と
く抵抗するようになりました。
して,なんらの理由もなく一方的な意思で労働者を自
そこで,裁判所は,民法1条3項(資料2)の「権
由に解雇することが可能とされていました(資料1)
。
利の濫用は,これを許さない」という権利濫用の法理
戦後,労働基準法(以下,労基法)が制定され,2
を応用し,使用者の解雇の自由を制限する判決を多数
週間の解雇予告期間は,30日に延長され,解雇自由の
積み重ねていったのです。
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労務事情 2014.12.15 №1287
解説 事例・判例から学ぶ 解雇が無効とされるケース
資料2 民法1条
資料3 労基法20条
(基本原則)
第1条 私権は,公共の福祉に適合しなければなら
ない。
2 権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実
に行わなければならない。
3 権利の濫用は,これを許さない。
(解雇の予告)
第20条 使用者は,労働者を解雇しようとする場合
においては,少くとも30日前にその予告をしなけ
ればならない。30日前に予告をしない使用者は,
30日分以上の平均賃金を支払わなければならな
い。但し,天災事変その他やむを得ない事由のた
めに事業の継続が不可能となった場合又は労働者
の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合におい
ては,この限りでない。
2 前項の予告の日数は,1日について平均賃金を
支払った場合においては,その日数を短縮するこ
とができる。
3 前条第2項の規定は,第1項但書の場合にこれ
を準用する。
そして,この法理を述べた最初の最高裁判例が,日
本食塩製造事件(最高裁第二小法廷昭50.4.25判決,労
働判例225号速報カード5頁)です。同事件は,労働
組合との間で「会社は組合を脱退し,または除名され
た者を解雇する」旨のユニオン・ショップ条項を含む
労働協約を締結していた会社において,労働組合から
離籍処分を下された結果,上記条項に基づき会社を解
雇された労働者が,その解雇の有効性を巡って争った
て,
「解雇には客観的に合理的な理由が必要である」
事案で,判決は,
「使用者の解雇権の行使も,それが
という基本的な原則やその判断基準を明確にすべきで
客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是
はないかという意見が各方面から寄せられ,厚生労働
認できない場合には,権利の濫用として無効となる」
省の労働政策審議会労働条件分科会において規定案が
と判示し,解雇権濫用法理の内容が定式化されたので
取りまとめられた結果,2003年の労基法の改正にあ
す。
たって,同法18条の2「解雇は,客観的に合理的な理
また,同判決では,
「普通解雇事由がある場合にお
由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合
いても,使用者は常に解雇しうるものではなく,当該
には,その権利を濫用したものとして,無効とする」
具体的な事情のもとにおいて,解雇に処することが著
として成文化されることになったのです。
しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認
その後,同条は,2007年の労働契約法(以下,労
することができないときには,当該解雇の意思表示
契法)の制定により,同法16条に移行され,現在に
は,解雇権の濫用として無効となる」と述べて,解雇
至っています(労契法の成立に伴い,労基法18条の2
権濫用法理における「相当性の原則」も明らかにしま
は削除されました)
。
した。
しかし,このような判例による解雇権濫用法理は,
2.解雇権濫用法理の内容
30日の予告をすれば解雇は自由とする民法627条1
次に,解雇権濫用法理の具体的な内容について説明
項・労基法20条(資料3)の規定を大きく修正する
していきましょう。
ものではありましたが,事例を蓄積しないことには具
裁判所が明確に示しているわけではありませんが,
体的基準が確立されないことから,その存在および内
解雇権濫用法理は,①客観的に合理的な理由があるこ
容は,一般的な使用者や労働者には認識しづらいもの
と,②解雇が社会通念上相当であること,という2要
でした。
素から成り立っていると考えられます。
そのため,同法理の内容を法律のなかで明文化し
このうち,①の客観的に合理的な理由があると認め
労務事情 2014.12.15 №1287
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られる場合としては,a)使用者側に原因があるもの
種や職場の消滅・閉鎖による所属従業員の解雇(他の
として,経済的な理由による解雇(いわゆる整理解
職種や職場への配転の余地がない場合)といったもの
雇)
,b)労働者に原因があるものとして,労働者の
があります。そして,上記の解雇のなかで,最も広範
労務提供不能や適格性の欠如,および労働者の規律違
にみられ,裁判例としても多いものが整理解雇です
反等の非違行為,c)ユニオン・ショップ協定に基づ
が,これは,企業の存続を前提として,経営上必要と
くもの,があげられます。
される人員削減のために従業員の一部を解雇するとい
しかし,①の要素を満たしていたとしても,裁判所
うものです。
は,解雇の妥当性を審査するため,②の要素について
平成初頭のバブル経済の崩壊および国際競争の激化
も検討します。つまり,①の客観的に合理的な解雇理
を主因とするわが国の経済の低迷により,企業の余剰
由が存在することに加えて,解雇をもって臨むことが
設備,事業および人員の適正化を理由とした人員削減
「社会的に相当であり,苛酷に過ぎない」と認められ
が多くみられますが,前述の分類により,解雇の有効
ることが必要となるのです。
無効を判断する方法は異なります。
解雇は,この2つの要素を満たして初めて有効であ
たとえば,会社解散による会社従業員全員の解雇
ると認められ,その効力が発生することとなります。
(会社従業員の一部ではなく)の効力が争いとなった
次項では,上記①の解雇事由のうち,a)使用者側
静岡フジカラーほか2社事件の高裁判決(東京高裁平
に原因があるものとして,経済的な理由による解雇
17.4.27判決,労働判例896号19頁)は,会社解散によ
(いわゆる整理解雇)
,b)労働者に原因があるものと
る全従業員の解雇は整理解雇とは異なり,いわゆる,
して,労働者の労務提供不能や適格性の欠如の2つに
整理解雇の4要素の法理は適用されないとしていま
ついて,それぞれのケースに関する裁判例を取り上げ
す。また,旭川大学(外国人教員)事件の高裁判決
ながら,解雇が有効,または解雇権の濫用として無効
(札幌高裁平13.1.31判決,労働判例801号13頁)は,大
と判断される基準について述べていきたいと思います
学の教育改革に伴う語学特任教員のポジション消失を
(なお,b)の規律違反等の非違行為は,懲戒解雇の
理由とする有期労働契約教員の雇止め(雇用終了。語
対象となるものですが,本稿では紙幅の関係で割愛さ
学特任教員は1人しかおらず,語学特任教員の一部の
せていただきます)
。
みを雇用終了したものではない)について,整理解雇
第 2 会社の経営上の都合に原因が
ある解雇
の類推適用を否定しています。
2.整理解雇の法理の一般論
⑴ 整理解雇の有効性を判断する際に考慮される4つ
1.使用者側の原因による解雇の種別
の事項
第1にて触れたように,解雇には,大別して使用者
前述のとおり,使用者側の解雇のなかには,整理解
側の原因によるものと労働者側の原因によるものとが
雇の範疇には入らないものもあるのですが,実務にお
ありますが,ここでは使用者側の原因によるものを取
いては,その大多数は,いわゆる整理解雇にあたるも
り上げます(労働者側の原因によるものは後述第3で
のとなっています。この整理解雇は,人員整理削減と
取り上げます)
。
いう一部の者の犠牲(解雇による失職)により事業と
使用者側の原因による解雇の例としては,経営合理
残部の者の雇用を存続・継続させる点から,解雇のな
化による解雇(整理解雇)
,会社解散による解雇,職
かでもより厳格な法規制に服すると解されており,一
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労務事情 2014.12.15 №1287
解説 事例・判例から学ぶ 解雇が無効とされるケース
般には,下述のいわゆる整理解雇のための4要素の判
(年齢,勤続年数,勤怠,懲戒歴,再就職可能性,人
例法理が形成されています。
事考課等)が設定され,それが合理的であること,あ
ア 人員削減についての経営上の必要性
らかじめ従業員に周知されているか否か,といった諸
イ 解雇回避措置
事実が考慮されるのが一般です。
ウ 被解雇者選定の合理性(人選の合理性)
最後に,手続きの妥当性については,労働者や労働
エ 手続きの妥当性(労働者,労働組合との丁寧な
組合との協議の内容(協議の回数,充実度~説明内容
協議)
の具体性,資料の多寡等)
,労働者,労働組合の整理
これらの4つの事項につき,1つひとつすべてを充
解雇に関する合意(希望退職の条件,被解雇選定の基
足しなければ整理解雇は無効となるのか(4要件説)
,
準等についての合意)
,解雇手続き,要件について労
4つの事項についての事情を総合勘案して整理解雇の
働協約が存在する場合における労働協約の遵守の有
有効性が判断されるのか(4要素説)については見解
無,といった諸事実が考慮されることとなります。
が分かれてはいましたが,近時は4要素説が有力と
なっています(山田紡績事件・名古屋高裁平18.1.17判
3.整理解雇の法理の具体例
決,労働判例909号5頁,日本航空事件・東京高裁平
前述2の整理解雇の4要素の具体的内容の有無・程
26.6.3判決,労働経済判例速報2221号3頁)
。
度も,結局は具体的な事案に応じて千差万別であり,
⑵ 4要素の具体的な内容
前述⑴で述べた4つの事項(4要素)が裁判の実務
において,どのような具体的な事実関係を基に判断さ
れるかについて,簡単に触れておきます。
裁判例の具体的な検討・解析が必須になると思われま
す。そこで,以下に,特に主要と思われる裁判例の具
体的内容を概述します。
⑴ 人員削減の必要性
まず,
「人員削減についての経営上の必要性」につ
経営上の必要性が特に問題となった事案について,
いては,当該企業の損益状況(営業利益,経常利益,
以前は大村野上事件(長崎地裁大村支部昭50.12.24判
当期純利益や売上高等が中心となります)
,財務状況
決,労働判例242号14頁)のように,企業の存続維持
(自己資本比率,資金の余裕[流動性]等が中心とな
が危殆に瀕する程度にまで差し迫ったことを要すると
ります)などのほかに,競業他社との競争力の優劣,
したものもありました。近時は,たとえば東洋酵素事
売上げに占める人件費等の経費の割合といった数値も
件(東京高裁昭54.10.29判決,労働判例330号71頁)
問題となります。
が,採算が悪化した事業活動において,事業規模の縮
次に,解雇回避措置については,整理解雇前に当該
小の結果,労働力の需要が減少した場合には人員削減
企業が,配転,出向による雇用確保の努力を行ったか,
の必要性が認められると説示したように,企業の経営
新規採用の抑制をしているか,役員報酬削減,給与
判断を尊重する裁判例が主流です。
カット,残業抑制,一時帰休といった経費節減策を実
また,全企業的に経営危機ではなくとも,企業の1
施しているか,希望退職の募集を行っているか(ま
部門が経営不振の場合にも,整理解雇における人員削
た,希望退職の募集において,いかほどの割増や再就
減の必要性は必ずしも否定されるものではなく,東洋
職あっせん等の条件面での配慮をしているか)等の諸
酵素事件判決のほかにも,たとえば,鐘淵化学工業
事実が考慮されます。
(東北営業所A)事件(仙台地裁平14.8.26決定,労働
次に,被解雇者選定の合理性については,選定の基
判例837号51頁)は,企業全体としては黒字でも事業
準が恣意的ではないこと,すなわち,客観的な基準
部門別では不採算部門が生じているような場合には,
労務事情 2014.12.15 №1287
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赤字部門について経費削減等の経営改善を図ることは
生じるとは必ずしもいえないこと,希望退職を募集す
経営判断として当然と是認し,赤字部門(東北営業
れば代替不可能な有能な従業員が退職してしまう可能
所)の廃止による人員削減の必要性を肯定しています。
性があること,とった諸点が考慮されています。
人員削減の必要性につき肯定した近時の高裁の裁判
では,解雇前に配転や出向等の解雇回避措置(なる
例のなかで特に著名なものをあげますと,たとえば,
べく,雇用を当該企業内で吸収する義務)を行う必要
前掲日本航空事件(9頁)は,会社更生手続きにおけ
およびその程度についての裁判例はというと,一般的
る更生計画に基づく事業スリム化のための整理解雇に
にいえば,職種や職場が特定されていない従業員につ
ついて,結果的に会社の更生計画を超えて利益状況が
いては,解雇前に上記の措置を行う必要性が高いとさ
好転していたとしても,人員削減の必要性が否定され
れ,マルマン事件(大阪地裁平12.5.8判決,労働判例
るものではないとしています。一方,人員削減の必要
787号18頁)も配転等の解雇回避措置を取りうる状況
性を否定した近時の高裁の裁判例をあげますと,製造
で労働者1人を解雇したことにつき当該解雇を無効と
部門で整理解雇が行われる一方で,同じ製造部門にお
しています。
いて従業員の新規募集が行われたという事案のホクエ
特に,特定部門は赤字でも企業全体の経営は悪化し
ツ福井事件(名古屋高裁金沢支部平18.5.31判決,労働
ていない状況で当該特定部門につき整理解雇を行うよ
判例920号33頁)があります。
うな場合は解雇回避措置が強く求められるとされてお
⑵ 解雇回避措置
り,ジ・アソシエーテッド・プレス事件(東京地裁平
16.4.21判決,労働判例880号139頁)は,配転,出向,
解雇回避措置について実務上多くみられる問題は,
一時帰休等の解雇回避措置を取らずに行った整理解雇
希望退職募集を整理解雇前に行うことの要否です。無
を無効としています。ただし,企業の経営状況等に
論,解雇という一方的に労働者を失職せしめる措置を
よっては,解雇が有効となる場合もあります(CSFB
取る前には,自ら職を辞してよいという者を募る(労
セキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件・東京
働者の意思に反して失職せしめるよりも,辞めてもよ
地裁平17.5.26判決,労働判例899号61頁)
。
いという者から辞職してもらう)といった措置を取る
一方,従業員の職種や職場が特定されているような
ことが好ましいことはいうまでもありませんが,企業
場合,原則論としては配転等の解雇回避措置は不要と
の事情によってはその措置を取ることが困難であるこ
なるところですが(例として,角川文化振興財団事
とも少なくありません。
件・東京地裁平11.11.29決定,労働判例780号67頁)
,
この点についての代表的な裁判例であるシンガポー
必ずしも不要とする方向で裁判例は固まってはおらず
ル・デベロップメント銀行(本訴)事件(大阪地裁平
(前掲のシンガポール・デベロップメント銀行〈本
12.6.23判決,労働判例786号16頁)は,東京と大阪に
訴〉事件判決などは,勤務地限定の従業員の場合で
支店があった外資系銀行の人員整理において,大阪支
も,それ以外の勤務地への配転による雇用確保・解雇
店の閉鎖・従業員の整理解雇に際して,東京支店での
回避の措置が必要であるとしています)
,実務として
希望退職の募集は必要ないとの旨を判示しています。
は,配転等の解雇回避措置を尽くしておくのが無難と
すなわち,仮に東京支店で希望退職を募集して東京支
いえます。
店より退職者が出たとしても,その人員分を大阪支店
より東京支店へと転勤させることは困難であること,
⑶ 被解雇者の選定の合理性
会社の規模が小さく,希望退職募集による退職者が出
この要素については,設定された選定基準が使用者
れば退職に応じない者を就労させるのに適当な部署が
の恣意的選択を排除する客観的なものであれば,おお
10
労務事情 2014.12.15 №1287
解説 事例・判例から学ぶ 解雇が無効とされるケース
むね肯定されるのが裁判例の傾向です。具体的には,
側が以前より経営状況と再構築の必要性を説明し,解
遅刻・欠勤・早退の総合計時間を基準としたり(明治
雇の際も,繰り返し売上高減少と業務の減少を具体的
書院〈解雇〉事件・東京地裁平12.1.12決定,労働判例
に説明して早期退職の受入れを求め,その後も特別加
779号27頁)
,年齢を基準の1つとした例(エヴェレッ
算金の支給や再就職支援の費用相当額を含め,可能な
ト汽船事件・東京地裁昭63.8.4決定,労働判例522号11
限り退職金の加算の条件を付するなどの努力をしてい
頁)などは,いずれも整理解雇を有効としています。
る事案において,整理解雇を有効としています。
一方,単に「適格性」といった抽象的な選定基準を
なお,企業側と労働組合との間に労働協約があり,
用いた整理解雇が主張された事案については,評価者
そのなかに事前協議約款がある場合には,約款の相手
の主観に左右されるとして,解雇が無効とされていま
方である労働組合と十分な協議をすることなく行われ
す(労働大学〈本訴〉事件・東京地裁平14.12.17判決,
た整理解雇は無効となります(例として,東京金属ほ
労働判例846号49頁)
。また,ヴァリグ日本支社事件
か1社〈解 雇 仮 処 分〉事 件・水 戸 地 裁 下 妻 支 部 平
(東京地裁平13.12.19判決,労働判例817号5頁)は,
一定年齢を基準としたケースで,非組合員のみを上記
基準により整理解雇しつつ組合員に対しては翌年ベー
15.6.16決定,労働判例855号70頁)
。
4.整理解雇以外の解雇の具体例
スアップを行い,上記基準年齢での昇給停止の解除も
前述3では,整理解雇における解雇についての裁判
約束するなどの格差のある処遇を行っていること等を
例をあげましたが,たとえば,業種の環境の変化によ
理由に,解雇を無効としています。
る経営悪化を原因とした会社解散による解雇が問題と
⑷ 手続きの妥当性
なった前掲静岡フジカラーほか2社事件(8頁)など
は,前述3で述べた整理解雇4要素についての検討で
整理解雇において妥当とされる手続きは,それこそ
はなく,当該事案に即し,会社解散・従業員全員解雇
倒産に瀕しているような場合と企業に余裕があるよう
の必要性,当該解雇に至る手続きの両側面より,解雇
な場合とでは当然ながら異なってくるものですが,一
の有効性が判断されるとされています(ただし,裁判
応,主だった裁判例をあげれば,次のとおりとなりま
において問題となる具体的事実関係としては,結局の
す。
ところ,企業経営の苦しい具体的な状況,解雇までに
まず,アイレックス事件(東京高裁平19.2.21判決,
どの程度丁寧な手続きを尽くしたか,といった点なの
労働判例937号178頁)は,企業の窮状を説明し従業
で,整理解雇の4要素を基準とする判断による場合
員を解雇するとの結論を告げるのみで,労働組合との
と,主張・立証の対象となる事実関係には,相当程度,
団体交渉でも退職の時期,方法等を含めた協議の可能
共通性が認められるのが実情ではあります)
。
性を示さなかった事案につき,相当な説明,協議が尽
くされていないとして整理解雇を無効としています。
また,九州日誠電氣(本訴)事件(福岡高裁平17.4.13
第 3 労働者に原因がある場合の解雇
判決,労働判例891号89頁)は,希望退職に際して,
労働者に原因がある場合に使用者が解雇するケース
その結果次第では整理解雇にまで及ぶことを従業員側
としては,①欠勤や休職により,労働者が労務を提供
に示していなかったことを問題として,整理解雇を無
できないことを理由とする場合と,②業務上のミスや
効としています。
命令違反,協調性の欠如等,労務は提供しているが,
一方,日本アグフア・ゲバルト事件(東京地裁平
その提供が不十分であったり,使用者や周囲との信頼
17.10.28判決,労働判例909号90頁〈要旨〉
)は,企業
関係を構築できなかったりすることを理由とするいわ
労務事情 2014.12.15 №1287
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ゆる適格性の欠如の場合が代表的なものといえます。
労働契約においては,労働者が使用者に使用されて
労働する債務を負っていますので(労契法6条〈資料
4〉
)
,欠勤等による労務の不提供は,いわば労働者の
債務不履行(履行不能)となりますし,労働者が使用
者の指示に応じた業務処理を行えなければ,労務の提
資料4 労契法6条
(労働契約の成立)
第6条 労働契約は,労働者が使用者に使用されて
労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うこと
について,労働者及び使用者が合意することに
よって成立する。
供が十分ではないとして,これも債務不履行(不完全
履行)となりますので,民法上の原則に従えば,労働
契約の解除事由(すなわち,使用者による解雇事由)
て存在しないにもかかわらず,
「約3年間にわたり加
となります。
害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らに
しかしながら,前述した解雇権濫用法理の下では,
よる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視さ
単に解雇事由があったというだけでは不十分ですの
れ,これらにより蓄積された情報を共有する加害者集
で,当該解雇事由となった労務不提供や勤務成績の不
団から職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほの
良が,解雇処分を有効と判断させるだけの「社会通念
めかし等の嫌がらせを受けている」といった,被害妄
上の相当性」が認められるかについて,検討が必要と
想的な認識を有しており,会社に事実の調査を依頼し
なります。
たものの,納得できる結果が得られなかったことか
1.欠勤等の労務不提供を理由とする解雇
⑴ 傷病を理由とする労務不提供
ら,問題が解決されたと判断できない限り出勤できな
いと会社に伝えたうえで,約40日間にわたり欠勤を続
けたため,会社が正当な理由のない無断欠勤を理由に
解雇したケースです。
労働者が欠勤する理由として最初にあげられるの
裁判所は,
「精神的な不調のために欠勤を続けてい
が,傷病による欠勤だと思います。特に最近はうつ病
ると認められる労働者に対しては,
(中略)使用者で
など,精神疾患による欠勤も増えています。
ある上告人としては,
(中略)精神科医による健康診
傷病による欠勤も使用者に対する労務不提供ですの
断を実施するなどした上で,
(中略)その診断結果等
で,これ自体は解雇事由になりうるところです。しか
に応じて,必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処
しながら,多くの企業では,傷病によって労働者が欠
分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべ
勤した場合に備えて傷病休職制度を設けており,休職
きであった」
(下線筆者。以下同)として,こうした
期間中に傷病が治癒して復職できた場合には,解雇し
措置を取らないまま行われた解雇を無効と判断しまし
ないという措置を取っています。この休職制度の目的
た。
は,解雇猶予にあるとされていますので(菅野和夫著
この事例のように,何らかの傷病が原因となって欠
『労働法』
[第10版]525頁)
,労働者が欠勤した場合
勤に至ったと考えられる場合には,まずは医師の診断
であっても,休職期間中に解雇することは,休職制度
を仰いだうえで,休職等の措置を検討すべきであり,
の趣旨に照らし,無効と判断されることになります。
たとえ形式的には解雇に相当する労務不提供が存在す
では,休職を命じずに,欠勤のみを理由として解雇
る場合であっても,慎重な対応が必要となります。
することは可能でしょうか。日本ヒューレット・パッ
他方で,休職を経て,休職期間が満了して解雇する
カード事件(最高裁第二小法廷平24.4.27判決,労働判
場合であっても,満了の事実だけで解雇が有効になる
例1055号5頁)では,労働者が,実際には事実とし
とは限りません。J学園(うつ病・解雇)事件(東京
12
労務事情 2014.12.15 №1287
解説 事例・判例から学ぶ 解雇が無効とされるケース
地裁平22.3.24判決,労働判例1008号35頁)では,労働
対応すべきだったと思われます。
者がうつ病で休職しており,休職期間の満了日が近づ
これに対し,医療法人社団聖仁会(横浜甦生病院)
いたのですが,使用者は,主治医から意見聴取をしな
事件(横浜地裁平10.2.9決定,労働判例735号37頁)
いまま,休職期間満了によって当該労働者を解雇しま
は,労働条件の一部について労働組合と団体交渉をし
した。裁判所は,
「被告(使用者)は,原告(労働者)
ていたものの話し合いがつかないため,1カ月余りに
の退職の当否等を検討するに当たり,主治医であるA
わたって就労を拒否した労働者を解雇したという,故
医師から,治療経過や回復可能性等について意見を聴
意による就労拒否のケースです。これについて裁判所
取していない。
(中略)被告の人事担当者であるM教
は,使用者が当該労働者を過去にも解雇し,その後裁
頭らが,A医師に対し,一度も問い合わせ等をしな
判で認諾(相手方の請求をすべて受け入れること)し
かったというのは,現代のメンタルヘルス対策の在り
ていたこと等より,職場復帰を巡る混乱の原因と責任
方として,不備なものといわざるを得ない」として,
の過半は使用者にあり,信義誠実の原則に照らして解
結論として解雇を無効としています。
雇権の行使は著しく不合理であり,社会通念上相当と
以上のように,傷病が理由と考えられる労務不提供
もいえないとして解雇を無効と判断しました。このよ
の場合は,使用者の判断だけで解雇に踏み切るのはリ
うに,意図的な労務不提供の場合でも,その理由に
スクがありますので,労働者に専門家である医師を受
よっては,解雇が相当ではないと判断される可能性も
診させ,その診断結果を踏まえて,解雇できる状況
あります。
(労務提供が期待できない状況)にあるのかどうかを
判断する必要があります。
⑵ 傷病以外の理由による労務不提供
以上のように,傷病以外の理由による労務不提供の
場合であっても,解雇が無効と判断される可能性はあ
りますので,使用者としては,労務不提供が発生した
場合でも,まずは理由を確認したうえで,出社を促し
傷病以外の理由による遅刻・欠勤・早退の場合も,
たり,不提供に対する指導を行うなどしたりして,不
解雇権濫用法理を踏まえ,解雇することが社会通念上
提供を解消するよう努め,それでも労務を提供しない
相当といえるかどうかの検討が必要になります。高知
場合に解雇を検討すべきだと思います。
放送事件(最高裁第二小法廷昭52.1.31判決,労働判例
268号17頁)は,ラジオのアナウンサーが2週間のう
2.適格性の欠如を理由とする解雇
ちに2回寝坊して遅刻し,定時のラジオニュースを放
前述のとおり,労働者は使用者の指揮命令に従って
送することができなかったため,普通解雇された事案
業務を行う義務がありますので,労働者が使用者の指
ですが,裁判所は,寝過ごしという同一態様で2週間
示に違反した場合は,解雇事由となります。
に2回も事故を起こしたことはアナウンサーとしての
この場合も,解雇権濫用法理の観点からすれば,単
責任に欠けるとしつつも,いずれも悪意ないし故意に
に命令違反(債務不履行)の事実があったというだけ
よるものではなく,またアナウンサーを起こすはずの
では,直ちに解雇として有効とはなりません。セガ・
担当者が寝過ごしていたこと,謝罪していること等を
エンタープライゼス事件(東京地裁平11.10.15決定,
理由に,
「解雇をもってのぞむことは,いささか苛酷
労働判例770号34頁)は,寝坊したり,コミュニケー
にすぎ」ると判断し,解雇を無効としました。悪意に
ションがうまく取れず取引先から担当替えを求められ
よるものではない,寝過ごし等のミスはだれにでもあ
たりしたため,使用者の社員下位10%未満の評価を受
りうることですから,会社としては,いきなり解雇す
けていた労働者が,退職勧告されたがこれを拒否した
るのではなく,まずは注意や軽めの懲戒処分によって
ため,会社が解雇したという事案です。
労務事情 2014.12.15 №1287
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裁判所は,
「就業規則19条1項各号に規定する解雇
り,その評価が悪ければ,その者の勤務成績が不良で
事由をみると,
『精神又は身体の障害により業務に堪
あることは一応いえそうです。
えないとき』
,
『会社の経営上やむを得ない事由がある
しかし,前述したセガ・エンタープライゼス事件の
とき』など極めて限定的な場合に限られており,その
ように評価が相対的に行われている場合は,労働者全
ことからすれば,2号(労働能率が劣り,向上の見込
体のなかで低い水準にあるとはいえますが,本当に解
みがないと認めたとき)についても,
(中略)平均的
雇に相当するほど能率・能力が低いのかどうかは判然
な水準に達していないというだけでは不十分であり,
としません。森下仁丹事件(大阪地裁平14.3.22判決,
著しく労働能率が劣り,しかも向上の見込みがないと
労働判例832号76頁)では,4年間の評価がほぼ最下
きでなければならないというべきである」
(括弧内筆
点だった労働者について,会社自体も業績不振であり
者)と判示し,当該労働者は,平均的な水準には達し
当該労働者の後任でも目標を達成できなかったことか
ていないが,相対的な評価が低いからといって「労働
ら,当該労働者の成績不振を一概には非難できないと
能率が著しく劣」
っているとはいえず,体系的な教育,
判示して,成績不振を理由とする解雇を無効と判断し
指導の実施によって労働能率の向上を図る余地があっ
ています。
たとして,解雇を無効と判断しました。
また,評価は,労働者の日々の業務を総合判断して
また,ブルームバーグ・エル・ピー事件(東京高裁
得る抽象的な「結論」ですので,その「結論」に至る
平25.4.24判決,労働判例1074号75頁)は,金融情報通
根拠となった「事実」をみなければ,労働者の何が問
信社に転職した労働者を,記事の配信のスピードが遅
題なのかはみえてきません。セガ・エンタープライゼ
く,配信本数も少なく,また周囲とのコミュニケー
ス事件でも,使用者が陳述書で労働者について,
「や
ションに問題がある等として解雇した事案です。
る気がない,積極性がない,意欲がない,あるいは自
裁判所は,
「勤務能力ないし適格性の低下を理由と
己中心的である,協調性がない,反抗的な態度である,
する解雇に『客観的に合理的な理由』
(労契法16条)
融通が利かない」などと記載していたのですが,裁判
があるか否かについては,まず,当該労働契約上,当
所は,
「これらを裏付ける具体的な事実の指摘」がな
該労働者に求められている職務能力の内容を検討した
いとして,事実とは認めませんでした。
上で,当該職務能力の低下が,当該労働契約の継続を
したがって,使用者が労働者の能率・能力が低いこ
期待することができない程に重大なものであるか否
とを主張していくためには,評価の結果だけでなく,
か,使用者側が当該労働者に改善矯正を促し,努力反
労働者の起こしたトラブルを具体的に(いわゆる5
省の機会を与えたのに改善がされなかったか否か,今
W1H〔だれが,いつ,どこで,だれと,何を,どう
後の指導による改善可能性の見込みの有無等の事情を
した〕を明確にして)拾い上げていく必要があります。
総合考慮して決すべきである」と判示し,後述するよ
うに,このケースでは解雇を無効と判断しています。
⑵ 使用者による改善の機会の付与
これらの判例をみると,いわゆる適格性の欠如を理
使用者による改善の機会の付与とは,端的にいえば
由とする解雇は,①労働者の能力や能率が低いこと,
注意・指導を行うことです。注意・指導を行えば,労
②使用者による改善の機会の付与の2点がポイントに
働者が問題点を認識し,改善方法を考えることができ
なっているといえます。
るからです。
⑴ 労働者の能率・能力が低いこと
多くの企業では,労働者に対して評価を行ってお
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労務事情 2014.12.15 №1287
また,最近では,能率・能力が低い労働者に対し,
改善のためのプログラムを実施するところもありま
す。前述のブルームバーグ・エル・ピー事件では,労
解説 事例・判例から学ぶ 解雇が無効とされるケース
働者に対し,3回の PIP(PerfomanceImprovement
特に,労働者にとって解雇は自身の生活基盤を失わ
Plan。各1カ月間)を実施したうえでも,改善がみら
せる重大な問題ですので,解雇する場合には裁判に発
れなかったとして解雇した事案です。もっとも,この
展する可能性を常に想定しておく必要がありますが,
ケースで裁判所は,PIP 等の改善プログラムのすべて
こうした書面やメールは,裁判においても有用な証拠
ではないにしても,相当程度達成できていることか
となります。
ら,改善の効果は上がっているし,設定目標自体も,
特段社内で決められた基準があるわけでもないとし
て,解雇を無効と判断しました。
第4 まとめ
したがって,ここでも,単に結果だけをみるのでは
以上,裁判例を,事例に着目しながら俯瞰してみま
なく,どの点について改善がみられたのか,どの点が
した。同じく解雇の裁判例といっても,解雇の原因が
不十分だったのか,具体的にみていく必要があります。
会社側の経営にある場合と,労働者本人側にある場合
⑶ 使用者側の準備
とで,考慮される法理はまったく異なってきます。ま
た,その各々の場合に限ってみても,会社側の経営が
以上のように,労働者の適格性欠如を理由に解雇す
原因である場合には若干の判断手法の類型化がみられ
る場合には,低い評価や改善プログラムといった外形
るものの(整理解雇の4要素)
,その具体的判断につ
的な事実だけでなく,低い評価を裏付けるトラブルや
いては事案によって大きく異なりますし,それこそ労
改善プログラムの内容・改善状況などを,具体的に検
働者側本人が原因である場合は,各事案の事実関係
討する必要があります。
(たとえば,労働者側の問題行為の5W1H 等)を各
しかし,労働者の能率・能力が低い場合,日常的に
事案ごとに勘案して解雇の有効・無効が判断されるこ
トラブルが発生することが多く,上司や同僚も逐一明
ととなります。
瞭に記憶しているとは限りません。そのため,いざ解
そうしたなかで,労働事件に携わる実務家としての
雇するという話になったときに,能力が低いことや毎
実感としては,解雇の有効・無効の分かれ目は,もち
日のように注意していることは認識していても,具体
ろん,その当該事案にかかわる事実関係の中身である
的にどのような事実を根拠にそのような結論に至った
ことは間違いないのですが,それには,使用者と労働
のか,どのような注意を行ったのか,当事者が覚えて
者との間のコミュニケーションの巧拙(特に使用者側
いないということもしばしばみられます。これを防ぐ
からのもの)の影響は看過できないと思われます。
ために,トラブルの内容や注意指導の内容は,そのつ
まず,整理解雇の場合を例にとれば,手続きの妥当
ど,記録に残しておくとよいと思います。
性(労働者,労働組合との丁寧な協議)が1つの判断
さらにいえば,トラブルが発生した場合に,トラブ
要素とされています。これなどはまさに使用者側が労
ルの内容とともに注意事項を記載した書面やメールを
働者側に対してどこまで充実したコミュニケーション
労働者に渡しておけば,能力や能率が低いことと,改
を取れるか,より砕いていえば,人員整理の理由・背
善の機会を与えたことの両方を記録に残すことができ
景や被解雇者の人選の基準について,その具体的内容
ます(ただし,日常的な些細なトラブルについても逐
と理由を説明するプロセスを尽くさねばなりません
一書面等を交付することは煩雑ですので,その場合に
(説明の内容だけでなく,労働者側が譲歩の姿勢を
は口頭で注意し,後で記録しておくとか,ある程度ト
まったく示さないような場合を除けば,ある程度の時
ラブルがまとまってから注意書に列記して労働者に交
間と手間・回数も必要です)
。こうした労働者側への
付するという方法も考えられます)
。
説明のプロセスを踏まないでおいて,裁判になって突
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然,人員削減の必要性等について主張を展開しても,
「それが真実なら,なぜ裁判になる前には示せなかっ
たのか」との疑いを裁判所より招くこともあり,主張
の信用性の点でマイナスとなるでしょう。
労働者本人の側に原因がある解雇などの場合でも,
たとえば能力不足による解雇のケースなどでも,解雇
に訴える前に,いかに丁寧に労働者に対して問題点を
指摘しつつ改善のための指導を行うか,その手間を惜
しまないかが,解雇の有効・無効の判断の重大な分か
れ目になります。
また,何よりも,解雇に訴えても認められるような
コミュニケーションの措置を事前に取ることで,そも
そも解雇を巡る係争にならないで済む,ということが
あります。すなわち,そうした措置を取ることで,労
働者側が使用者の措置に納得して,たとえば人員整理
の場合では希望退職に合意のうえ,事態を解決するこ
ともありますし,能力不足の社員の場合は,自己の注
意と自覚を向上させることもあれば,それがかなわな
いときは,自ら当該会社での就業は向いていないと悟
り,進退を考えるということもあります。
したがって,使用者側の人事・労務ご担当者におい
ては,こうした労働者とのコミュニケーションを取る
手間を厭わぬ姿勢が,何よりの労務管理,換言すれば
解雇紛争対策となることを,おわかりいただけます
と,筆者として幸いに存じます。
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労務事情 2014.12.15 №1287
●筆者プロフィール
岡芹健夫(おかぜり・たけお)
1991年3月早稲田大学法学部卒業。1992
年3月司法研修所入所(46期)。1994年4
月第一東京弁護士会登録・髙井伸夫法律
事務所入所。2009年5月髙井伸夫法律事
務所所長代行就任,2010年1月髙井・岡
芹法律事務所に改称・同所所長就任。第
一東京弁護士会常議員(2期)。第一東京弁護士会労働法制委
員会委員。経営法曹会議幹事。東京三弁護士会労働訴訟等協
議会委員。主な著書に,『取締役の教科書 これだけは知って
おきたい法律知識』(経団連出版),『雇用と解雇の法律実務』
(弘文堂),『人事・法務担当者のためのメンタルヘルス対策の
手引』(民事法研究会)など。
安倍嘉一(あべ・よしかず)
2000年3月東京大学法学部卒業。2003年
10月司法試験合格(第58期)。2005年10月
司法修習修了,第一東京弁護士会登録,
髙井伸夫法律事務所入所。第一東京弁護
士会労働法制委員会委員。経営法曹会議
会員。著書に『ケースで学ぶ 労務トラ
ブル解決交渉術』(民事法研究会),『現代型問題社員対策の手
引―生産性向上のための人事措置の実務―』(髙井・岡芹法律
事務所編,民事法研究会),『Q&A 職場のトラブル110番―管
理職のための必須知識―』(共著,民事法研究会),『管理職ト
ラブル対策の実務と法【労働専門弁護士が教示する実践ノウ
ハウ】』(共著,民事法研究会)など。
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