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アスファルトフィニッシャの変遷(その 7)
建設の施工企画 ’10. 1 71 アスファルトフィニッシャの変遷(その 7) 機械部会 路盤・舗装機械技術委員会 舗装機械変遷分科会 第 7 章 スクリード締め固め装置の変遷 (仕上げ性能) スクリードによる締め固めはフローティングスク リードの持つレベリング作用の効果を高めると同時に ローラによる転圧時にできる変形を少なくすることを 目的としている。本章では,その種類と変遷および締 図 7 ─ 1 タンパ構造の一例 め固め性能との関連について述べる。 ており,現在でも同様である。しかし昭和 30 年代後 (1)タンパ式スクリード 半から,寒冷地ではトペカのような耐摩耗性合材が使 (a)初期のアスファルトフィニッシャとタンパ装置 われるようになり,これらの合材は前述のデフレクタ 昭和 30 年代前半は国内アスファルトフィニッシャの とタンパのみでは流動性が悪く満足のいく仕上げ面が 黎明期で,この頃は各社とも最大施工幅員 3.2 ∼ 3.6 m 得られなかった。そこで合材の流入をスムースにする が主流であり締め固め装置はタンパ式であった。国産 ためにタンパ前部に先端の尖ったストライクオフ式 1 号機の東京工機㈱の TK6,住友機械工業㈱の HA32, デフレクタが装備された。またタンパそのものの先端 ㈱新三菱重工業の AF1,㈱新潟鐵工所の NF35(写真 形状もこの合材にマッチするよう改良された。写真 7 7 ─ 1)等各社の初代アスファルトフィニッシャはす ─ 2 は昭和 39 年(1964 年)に発売された三菱重工業 べてタンパ装置を装備していた。当初はベルト駆動式 ㈱ AF4S のスクリードである。 タンパもあったがほどなく油圧式に統一された。 写真 7 ─ 2 三菱重工業㈱ AF4S 写真 7 ─ 1 ㈱新潟鐵工所 NF35 タンパ式スクリード (d)タンパ式の問題点 (b)タンパの基本構造と機能 タンパ式では,後述のバイブレータ式に比べ高密度 タンパは,スクリード前部に配置され,上下往復運 の締め固めが期待できるが,回転数,ストローク,突 動を行い,アスファルト合材を一定の高さにカットし き出し量の調整が適正でないとスクリードが異常振動 締め固めると同時にスクリードの下に押し込む働きを し,仕上げ面に亀裂やほうき目と呼ばれる縦すじが発 する。通常油圧駆動でストロークは 3 ∼ 5 mm,回転 生することがある。またタンパ前後の隙間からアス 数は 1,200 ∼ 1,300 rpm で調整可能である。通常タン ファルトモルタル(アスファルトと微細骨材の混合物) パは図 7 ─ 1 に示すように中央で左右に分割されてお が侵入するため,清掃,維持管理に手間がかかり,さ り左右逆位相で,スクリード全体の振動を抑えている。 らにタンパエッジの摩耗にも注意が必要であった。こ (c)タンパ式スクリードのデフレクタ 通常タンパの前には,タンパ部にスムースに合材を 導入するためにデフレクタ(写真 7 ─ 1)が装着され れらの点は,その後改良が加えられている。しかし, 国産機ではタンパのみを装備したスクリードは姿を消 している。 建設の施工企画 ’10. 1 72 (2)バイブレータ式スクリード BSF-2 には電気制御式のバイブレータが装備されてい 国産機では昭和 40 年代前半頃まではタンパ式のみ た。昭和 40 年(1965 年)より輸入され当時のベスト が生産されていたが,当時国内に輸入されたアスファ セラーとなったバーバーグリーン SA41 は,油圧バイ ルトフィニッシャの多くはすでにバイブレータ式で ブレータ式であった。その後,国産機においてもバイ あった。国内機においてもその後の工事の大型化,舗 ブレータは油圧式が主流となった。 装条件等の多様化に伴い最大施工幅員 4.0 m 以上のア ②国産機のバイブレータ スファルトフィニッシャが開発されるようになった 住友重機械㈱は,昭和 44 年(1969 年)に SAF400 が,これらにはタンパに代わりバイブレータが装備さ さらに昭和 45 年(1970 年)には HA45C を発売した れるようになった。バイブレータ式スクリード(図 7 が,これらのアスファルトフィニッシャには本体に搭 ─ 2)は,高い密度を得ることより全体を均一に締め 載された交流発電機を動力源とした電磁式バイブレー 固め,所要のきめと平坦性を得ることを主な目的とし タ(写真 7 ─ 4)が採用された。 ている。 バイブレータ バイブレータ制御箱 中継ボックス バイブレータ 図 7 ─ 2 バイブレータ式スクリード (a)バイブレータの基本構造と機能 写真 7 ─ 4 住友重機械㈱ 電磁式バイブレータ付スクリード ③バイブレータ構造の変化 バイブレータは偏心体を取り付けたシャフトを油圧 昭和 48 年(1973 年),三菱重工業㈱の MF45 や㈱ モータで回転させるものが多く,締め固め効果に寄与 新潟鐵工所の NF50 には油圧バイブレータが搭載され するのは,振動数と振幅である。振幅は偏心体の質量 た。このバイブレータは二軸式で前後方向の振動を相 と偏心量によって決まり,振動数は通常 30 ∼ 50 Hz 殺し垂直振動のみを発生させるタイプであった。二軸 で使用されることが多い。起振力の調整は,振動数の 式バイブレータは構造が複雑でコストが高い割には, 調整により可能である。当初は電磁式のものも開発さ 垂直運動という特長が舗装性能において評価されず, れたが現在ではほとんどが油圧駆動式である。写真 7 現在では姿を消し,バイブレータ式スクリードのほと ─ 3 にバイブレータの一例を示す。 んどが写真 7 ─ 3 のような油圧一軸式バイブレータ である。 ④油圧バイブレータが主流に 昭和 50 年代中頃には,伸縮式スクリードが登場す るが,構造のシンプルさ,メンテナンスの容易さから 当時はこのスクリードにも油圧バイブレータが採用さ れた。 (c)バイブレータ式スクリードのデフレクタ ①初期のデフレクタ バイブレータ式スクリードはタンパのようにそれ自 体で合材の流入を助ける機能が弱いためスクリードの 前部に,合材の流入をスムースにするためのストライ 写真 7 ─ 3 バイブレータの一例 (b)バイブレータ式の導入と変遷 ①輸入機のバイブレータ 昭和 38 年(1963 年)に輸入されたセダラピッド(米) クオフと呼ばれる飲み込み部分を持ったデフレクタが 装着され,初期の頃はエッジ型と呼ばれる先端の尖っ たものが一般的であった。ストライクオフ型デフレク タ(図 7 ─ 3)は合材の種類により高さ,角度を調整 できるようにした。 建設の施工企画 ’10. 1 73 なっている。一方,締め固め装置と密接な関係にある デフレクタの形状・方式については,これまでメーカ ごとに前述のごとく種々変遷してきたが,近年の熟練 作業者不足や作業時間短縮指向により,調整の容易な R 型デフレクタが主流となっている。 (d)特殊バイブレータ ①可変式バイブレータ 昭和 51 年(1976 年) ,㈱新潟鐵工所から発売され 図 7 ─ 3 ストライクオフ型デフレクタ た NF220 や NF130,また,昭和 57 年(1982 年) ,住 友重機械工業㈱から発売された HA45C3 等には可変 ②一体型のデフレクタ 式バイブレータ(写真 7 ─ 7)が搭載された。寒冷地 小型機においてはバイブレータが主流でありデフ においては冬期合材の硬化が早く,ローラでの転圧を レクタは通常調整の不要な固定式である。写真 7 ─ 5 補助するようアスファルトフィニッシャでの初期締め は昭和 52 年(1977 年)の三菱重工業㈱ MF30 のスク 固め密度をできるだけ高めるべく開発された。バイブ リードで,スクリードフレームの前部にストライクオ レータ軸に装備されたバランスウエイトの位置を変更 フ型デフレクタの形状を持たせている。 することにより起振力を強・中・弱の 3 種類に調整す ることができる。 バランスウェイト 写真 7 ─ 5 三菱重工業㈱ MF30 スクリード 範多機械㈱では,スクリードの形態によりデフレク 写真 7 ─ 7 住友重機械工業㈱ 可変式バイブレータ ②打撃式バイブレータ タのストライクオフ形状をストレート(エッジ)型と 昭和 54 年(1979 年)に大成道路㈱が導入したフェー R 型(写真 7 ─ 6)に使い分けている。一段伸縮スク ゲル(独)S-1502(写真 7 ─ 8)には,締め固め装置 リードにはエッジ型,比較的フローティングしにくい が装備された本格的な油圧伸縮型スクリード(475 型 二段伸縮スクリードには R 型のデフレクタを採用し エキステンシブルスクリード)が装着されていた。こ ている。 のスクリードには回転式バイブレータではなく,打撃 ピストン(油圧ハンマー)式バイブレータ(写真 7 ─ 9) が採用され,電気式のスクリード加熱ヒータと共に伸 縮式スクリード下部構造をシンプルなものにした。こ 写真 7 ─ 6 範多機械㈱ストレート(エッジ)型デフレクタ(左)と R 型デフレクタ(右) ③最近のデフレクタ 近年,中型機の締め固め装置は,各社とも幅広い ニーズに応じて選択できるようバイブレータタイプと タンパ・バイブレータタイプの両方を提供するように 写真 7 ─ 8 フェーゲル(独) S-1502 建設の施工企画 ’10. 1 74 バイブレータスクリードが上下のみ振動するのに対し て,このスクリードは上下に振動するのと同時にスク リード前方のみが別途上下動し,両者が合成された挙 動を示す。これにより,このスクリードは,振動しな がら踏み固めるような動作を行い,締め固め能力を向 上させようとするものである。 このスクリードは,輸入された実績はあるが,輸入 年代や台数は不明である。 写真 7 ─ 9 フェーゲル(独) 打撃ピストン式バイブレータ (3)タンパ・バイブレータ式スクリード(図 7 ─ 5) のスクリードの打撃力調整は,打撃サイクルは一定 1970 年代後半になると,道路交通量の増加に対応 (68 Hz)で油圧の圧力(40 ∼ 150 bar)を変化させる すべく強度・耐久性の高い舗装が必要となり,その結 ことにより行った。これが後のプレッシャーバー付き 果アスファルトフィニッシャにこれまでより高い締め タンパ・バイブレータ式スクリード(HPC スクリード) 固め能力が要求されるようになった。これを受けバイ の開発に繋がったと思われる。 ブレータとタンパを併用したタンパ・バイブレータ方 ③水平振動スクリード(写真 7 ─ 10) 式(以降 TV 式)が導入された。TV 式スクリードは 昭和 63 年(1988 年) ,範多機械㈱は,仕上げ性の 上層路盤材の施工にも対応できるようにとのニーズに 向上と同時に騒音・振動を和らげ環境に配慮した水平 も応えることができた。この時期には,タンパの清掃 振動スクリード(写真 7 ─ 10)を開発した。振動の 性も改善されると共に条件に合わせた調整も可能とな 方向が水平方向のため表面をなでるように締め固め引 り,一段と高い締め固め性能が安定的に得られるよう きずりがでにくくまた,振動音が低くさらにスクリー になった。 ドマンの足への疲労も軽減できるのが特長である。 バイブレータ タンパ 図 7 ─ 5 TV 式スクリード (a)TV 式の導入と変遷 ①輸入機が先鞭をつける 写真 7 ─ 10 範多機械㈱ 水平振動スクリード 昭和 47 年(1972 年)に TV 式のフェーゲル(独) S-2000 が輸入された。その後これを皮切りに他の海 ④タンピング・バイブレータスクリード この方式は,図 7 ─ 4 に示すように,1 つのバイブ レータスクリードから構成されるものである。通常の 外メーカの TV 式アスファルトフィニッシャも国内に 導入された。 ②国産機での開発 三菱重工業㈱では昭和 58 年(1983 年)に初めて TV 式スクリードを開発,MF45VSTV に搭載して市 場導入した。これに引き続き,当初バイブレータ式と して開発された MF60,MF90(写真 7 ─ 11)もそれ ぞれその後 TV 化された。 ③機能の進化 ㈱新潟鐵工所では昭和 60 年(1985 年),TV 式デュ アルマットスクリードを開発,NF220ATV-DM(写 図 7 ─ 4 タンピング・バイブレータスクリード 真 7 ─ 12)を発売した。このスクリードの特徴は, 建設の施工企画 ’10. 1 写真 7 ─ 11 三菱重工業㈱ MF90TV 75 写真 7 ─ 14 範多機械㈱ F40C-TV 局では,アスファルト舗装工事の締め固め工程におい て,ローラによる転圧を省略する目的でアスファルト フィニッシャによる高密度の締め固め装置の研究が行 われた。室内試験の結果に基づき締め固め装置を開発, 強力締め固め型アスファルトフィニッシャとして当時 の三菱重工業㈱に製作を依頼したものがダブルタンパ 仕様の DF-1 である。DF-1 のスクリードには図 7 ─ 6 のように前後二基のタンパと一基のバイブレータが装 備され,タンパはそれぞれ独立してストローク調整が 写真 7 ─ 12 ㈱新潟鐵工所 NF220ATV-DM 可能。種々の舗装テストの結果,タンパの締め固め効 果が高く,アスファルトフィニッシャのみで約 95% タンパを完全に止めて,バイブレータ式としても使え の締め固め密度が得られることがわかった。ただし, ることであった。 エキステンション部の密度が低いこと,走行速度,敷 ④効果の促進 き均し厚,合材の種類に適切な振幅,振動数を見出す 住友建機㈱では昭和 61 年(1986 年),HA45C5TV ことができず,平坦性,騒音の問題についての課題が (写真 7 ─ 13)を発売した。この機種には,締め固め 残り,1 台製作しただけにとどまったが,後の日本に 効果をさらに高めるため前述の可変式バイブレータも おける締め固め装置の開発に貢献した。 装備された。 図 7 ─ 6 三菱重工業㈱ DF-1 高締め固めスクリード ② ABG(独)TAITAN ダブルタンパ型 TV 式スク 写真 7 ─ 13 住友建機㈱ HA45C5TV リード(図 7 ─ 7) 昭和 62 年(1987 年),国内では初めてダブルタンパ ⑤小型機での導入 型 TV 式スクリードを装備した ABG(独)TAITAN 範多機械㈱では平成 12 年(2000 年),小型機では 411 が鹿島道路㈱へ納入された。ダブルタンパ型 TV 国内初めての TV 仕様機 F40C-TV(写真 7 ─ 14)を 式スクリードは,一本の駆動偏心軸で前後 2 基のタン 開発した。 パを駆動する。アスファルト舗装のみならず厚い層の (b)特殊な TV 式スクリード ①三菱重工業㈱ DF-1 高締め固めスクリード 昭和 44 年(1969 年) ,当時の建設省関東地方建設 セメント処理ベースおよび転圧コンクリート(RCCP) の施工に適している。スクリードでの締め固め密度が 高く,したがってローラ作業による不陸の発生を最小 建設の施工企画 ’10. 1 76 ❷ ❸ ❶ タンパ ❷ バイブレータ ❸ プレッシャバー ❶ 図 7 ─ 7 ABG(独)TAITAN ダブルタンパ型 TV スクリード 図 7 ─ 8 フェーゲル(独) HPC スクリード 限度に抑えることが可能となり均一かつ高密度・高精 度な舗装を可能にした。通常の TV 式スクリードに比 べ 5 ∼ 7%高い密度が得られる。 ③フェーゲル(独) プレッシャバー付き TV 式スク リード 参考文献 建設の機械化(建設の施工企画) 建設機械 舗装 日本建設機械要覧 昭和 60 年(1985 年) ,国内で初めてフェーゲル製 プレッシャバー付き TV スクリード(HPC スクリー ド)を装備したフェーゲル(独)S1700 が大成道路㈱ へ納入された。プレッシャバーはスクリード後部に装 備され,油圧で毎分 3,000 ∼ 4,200 回の高速振動をす る装置で,国内には二本式(図 7 ─ 8)が多く入って いる。アスファルト舗装のみならず厚い層のセメント 処理ベースおよび RCCP の施工に適している。舗装 の厚さにかかわらず平坦性と高密度が達成でき,交通 量の多い道路でのひずみの防止や合材の短時間転圧等 に威力を発揮する。 写真提供 鹿島道路㈱ 大成ロテック㈱ 東亜道路工業㈱ 日本道路㈱ ㈱ NIPPO 前田道路㈱ ヴィルトゲンジャパン㈱ キャタピラージャパン㈱ 住友建機㈱ 範多機械㈱