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第11回~第12回 - C

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第11回~第12回 - C
‘A Painful Case’
1905年7月執筆
創作順序としては7番目になる
1906年に何度か手を加えられる
Joyceは ‘After the Race’ と ‘A Painful Case’ を最もで
きの悪い物語とみなしていた(Letter to Stanislaus, 6
November 1906)
1) 登場人物の名前について
James Duffy
JamesはJoyce自身のfirst name
Duffyの起源となっているゲール語dubあるいはduff
は「暗い、黒い」という意味
cf. Dublinという地名は「黒い水、黒い池」という意味
のゲール語dubhlinnに由来
弟のStanislausをモデルにしている?
Emily Sinico
Trieste時代のジョイスの音楽教師か19世紀に活躍し
ていたオペラ歌手からfamily nameをとった?
2) 語りの特徴
三人称だが、Duffyに近い視点をとり、ときにDuffyの内
面にまで入り込む(Mrs Sinicoの内面は描かれない)
Duffyは自分自身のことを三人称によって過去時制を用
いて語る習慣をもっていた(83)
↓
Duffyが彼自身について三人称で語ったかのようなスタ
イルで書かれた物語
みずからについて三人称で語ることによって他者を排除
した閉じられた回路を作り上げる(Garry Leonard)
3) James Duffyについて
銀行の出納係(cashier)
Chapelizodに住み、Baggot Streetまで通勤している
Chapelizodという地名はChapel d’Iseultに由来(Tristan
とIseultの伝説と関係が深い場所)
他者の認識が自己認識と異なることへの恐れにとらわ
れている
他者はDuffyの理想的な自己像に対する潜在的な脅威
となる
Bile Beansの広告をメモの表紙につける
便秘その他さまざまな症状に効く万能薬
Duffyは自分自身の内部に蓄積する不平不満を解消
するために何かを書いていた?
アイルランド社会党の集会に参加していたこと
知的な気取りから参加した→現実主義的な労働者に
対する違和感をいだく
Nietzscheへの関心が示すこと
当時最先端の思想だった
超人思想への共鳴?
大衆蔑視?
Chapelizod
Friedrich Nietzsche (1844-1900)
4) Emily Sinicoについて
Sydney Paradeに家がある(中産階級の住宅地)
夫は船長
Duffyの理想的な自己イメージを確証する存在
Duffyの聴聞司祭( ‘confessor’ )=理想的な聞き手とな
る
DuffyのMrs Sinicoの目に対する関心
←Mr Duffyは承認の視線を求めている
Duffyが自分の考え方に合わせてMrs Sinicoを一方的に
変えようとする不均衡な関係
the Rotunda
(Mr DuffyとMrs Sinicoが初めて会った場所)
5) Mr DuffyとMrs Sinicoはなぜ別れたのか
Mrs Sinicoがみずからの欲望を表したときDuffyは彼女
から離れる
「私は愛されることによって、明確な存在としての自分
と、愛を生じさせた、自分の中にある不可解なXとの落差
をじかに感じる」(スラヴォイ・ジジェク『ラカンはこう読め』
82頁)
Duffyが作りあげたMrs Sinicoのイメージとは異なる行動
に対してDuffyは困惑する
→Duffyのアイデンティティの動揺をもたらす
DuffyはMrs Sinicoに彼自身のアイデンティティを確認す
る役割だけを求めていた
↓
肉体的な接触の相互性を恐れる
Mrs SinicoはDuffyの言葉(the soul’s incurable
loneliness)を誤解していたのか?
↓
Mrs Sinicoはthe soul’s incurable lonelinessを癒そうと
したのだから、それは誤解ではない?
Phoenix Park
(Mr DuffyとMrs Sinicoが別れ話をした場所)
6) Mrs Sinicoの死がもつ意味
新聞記事が提示するMrs SinicoのイメージとDuffyの記
憶の中のMrs Sinicoのイメージとの落差
Mrs Sinicoはアルコールに溺れるようになっていた
‘Not merely had she degraded herself; she had
degraded him.’
Duffyの自己像を承認する女性というイメージの崩壊
↓
Mrs Sinicoは不可解な他者になる
食事をしているときにMrs Sinicoの死亡記事を目にする
食べ残された塩漬けビーフのキャベツ添え
→Duffyが消化吸収できないMrs Sinicoのイメージの
暗喩(Gerald Doherty)
DuffyはMrs Sinicoの声や手に触れられたと感じる
接触の相互性が不可解な他者となったMrs Sinicoの
存在を実感させる
Duffyの ‘moral nature’ =他者の視線を排除した独善性
の崩壊
Duffyの自己批判
自我の同一性を守るための新しいポーズ
自己憐憫によるアイデンティティの維持(cf. ‘Araby’ )
Duffygは人生の饗宴から放逐されたと感じる
以前からDuffyは人生の饗宴から放逐されていたの
ではなかったか?
物語の最後にDuffyはMrs Sinicoを完全に忘却して
いる(存在も声も感じなくなる)
Sydney Parade Station
(Mrs Sinicoが事故に会った場所)
7) なぜDuffy とMrs Sinicoの不倫愛は成就しなかっ
たのか?
語り手は異性愛の成就を求める願望を読者にいだかせ
ながら、途中でそれを否定する
Duffyの無神論、社会への無関心などを考慮に入れる
と、なぜ彼が不倫に躊躇するのか説明できない
唯一考えられる理由はDuffyが同性愛者だったということ
(Margot Norris)
Duffyの考え
Love between man and man is impossible because
there must not be sexual intercourse and friendship
between man and woman is impossible because
there must be sexual intercourse. (86)
読者はMrs Sinicoと同様にDuffyを異性愛者と思い込ん
でしまったがゆえに、彼がMrs Sinicoの愛を拒絶したと
きにショックを受ける
‘Ivy Day in the Committee Room’
Wicklow Street
Charles Stewart Parnell (1846-91)
Parnell’s grave in Prospect (Glasnevin) Cemetery
Kitty O’Shea (Mrs Charles Stewart Parnell)
(1846-1921)
Wicklow Street
Edward VII (1841-1910)
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