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函南原生林

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函南原生林
函
南
原
生
林
静岡
観察ガイ
ド
自然
県
21
ク
ブッ
静
岡
県
自
然
観
察
ガ
イ
ド
ブ
ッ
ク
1
⃝
函南原生林
KANNAMI-GENSEIRIN
自然保護憲章 (昭和49年6月5日制定)
自然をとうとび,自然を愛し,自然に親しもう。
自然に学び,自然の調和をそこなわないようにしよう。
美しい自然,大切な自然を永く子孫に伝えよう。
出かける前に
大きな声を出さないで,静かに観察しましょう。
生きものはとらないで,観察のために必要なときは,観察が
終わったらもとの場所にかえしましょう。
危険な場所,危険な生きものには注意しましょう。
ごみは出さないようにし,もし出したら持ち帰りましょう。
たき火をしたり,タバコを吸いながら観察したりすることは
やめましょう。
自然観察の持ち物
自然観察の服装
ぼう し
リュックサック フィールドノート
手ぶくろ
とえんぴつ
帽子
すいとう
長そで
シャツ
お弁当
雨具
水筒
〈あると便利なもの〉
ゆったりした
長ズボン
ず かん
そうがんきょう
双眼鏡
運動ぐつ
または長ぐつ
地図
ルーペ
ビニールぶくろ
図鑑
巻尺
1
箱根峠へ
国道
1号
線
富士箱根
ランド
学習の
N
アカガシ
農場前
み
た
だ
石
函南
原生林
大
ブア
ナカ
ガ
シ
林道
道
街
旧
道
農
雲助徳利の墓
山中城跡
らせん橋
来
山中 光
函南
原生の森
川
W.C.
J
R
三
島
駅
へ
JR函南駅へ
2
紫水の池
山
中
城
跡
町営 木立
キャンプ場
観
音
滝
函南ゴルフ場
月光天文台を経て
JR函南駅へ(約8km)
箱根峠へ
交 通 案 内
鞍掛山
1004m
R1
芦ノ湖
無線中継所
東名
高速
富士箱根ランド入口
箱根峠
道路
箱根へ
県
熱道
海
箱
根
峠
線
道
三島市
函南町
熱海
湯河原峠
大観山・湯河原へ
R414
函南原生林前
R136
N
十国峠・熱海駅へ
W.C.
…バス停
●バスで
…駐車場
JR熱海駅から伊豆箱根鉄道バ
…トイレ
ス「元箱根行」で48分,函南原
原生林(学習の道)コース
生林前で下車。または同50分,
原生の森コース
キャンプ場コース
0
500m
富士箱根ランドで下車。
1km
3
函
南
原
生
林
と
そ
の
周
辺
の
自
然
函南原生林と
その周辺の自然
かんなみげんせいりん
はこ ね がいりんざん
くらかけやま
函南原生林は,箱根外輪山の一つである鞍掛山の標高840m付近
しゃ めん
らい こう がわ
の南西斜面から来光川上流域の550m付近に広がっている総面積
かん なみ ちょう
すい げん かん よう りん
223haの自然林で,下流の函南町の田畑をうるおす水源涵養林と
して,300年以上も手厚く保護されてきた森林です。
きんばつりんない
昭和59年に,函南町はこの禁伐林内に「学習の道」と呼ぶ自然
遊歩道を整備し,その後,平成 5 年に原生林とその南西側一帯を
しずおかけん
げんせいりん し ぜんかんきょう ほ ぜん ち いき
林野庁と静岡県が原生林自然環境保全地域に指定し,「原生の森」
と呼ぶ自然公園が整備されました。ここでは「原生林(学習の道)
コース」
「原生の森コース」,それに「キャンプ場コース」の 3 か
所を案内します。
み しま
はこ ね とうげ
函南原生林は,三島方面から国道 1 号を箱根峠方面に登って行
やまなかじょうあと
き,山中城跡を通り過ぎると,右手の南側の来光川の深い谷の向
ふ
じ はこ ね
こうに見えるうっそうとした森です。また,富士箱根ランドから
の入口付近からも森の全体のようすが見られます。
「学習の道」自然遊歩道は 3 か所から入ることができます。一周
コースから遊歩道には,樹令100年ぐらいのブナやヒメシャラ,
アカガシ,ケヤキ,カエデなどが多く見られます。なかでも樹令
500年以上といわれるアカガシや樹令700年以上といわれるブナは
しょう ちょう
函南原生林を象徴する樹木で,函南町は平成元年,原生林地域を
ふ ばつ
「不伐の森」として後世に残すことにしました。この原生の森か
ら原生林に向かう遊歩道はケヤキ,アブラチャン,イタヤカエデ,
オオモミジ,スダジイ,アラカシ,ウラジロガシなどがうっそう
と茂る森を作っています。
し すい
原生の森公園は,周りの谷から流れ出た水を蓄えた「紫水の池」
4
を中心に手入れが行き届いている自然公園です。公園の西側の遊
歩道は草原が広がり,秋にはマツムシソウをはじめいろいろな草
こんちゅう
が花を咲かせ,その花には多くの昆虫が集まります。野草や昆虫
に親しむよい場所です。
うまさかしゅうらく
キャンプ場は函南駅から馬坂集落を通って原生の森に行く途中
かんのんだき
にあります。近くには観音滝があり,来光川に注いでいます。滝
付近にはヤマミズ,ヤマネコノメソウといった湿った場所を好む
植物が多く見られます。また,コバノカナワラビ,イノデ,ヒロ
ハイヌワラビなどのシダ植物も観察できます。
らくようじゅ
じょう りょくじゅ
函南原生林は,冬に葉を落とす落葉樹と葉を落とさない常緑樹
とくちょう
が混ざって生育しているのが特徴です。ブナやヒメシャラ,ケヤ
キ,アカガシ,カエデは根を大地にしっかり張りめぐらせて養分
を吸収しているだけでなく,降った雨水を蓄えていますので,こ
た がたへい や
れらの,樹木が生育している森林は,田方平野をうるおす水源涵
養林として大切に保護されてきました。森にはカタツムリの一種
であるヒカリギセルやヒキガエル,ヤマアカガエル,サワガニな
どの小動物も観察できます。それにいろいろのコケ類やシダ類も
生育しています。
早春のころには,めだたない花を咲かせるコチャルメルソウ,
セントウソウ,ミヤマカタバミ,ニリンソウが,葉のない落葉樹
こずえ
の梢から降り注ぐ太陽の光をいっぱい受けています。初夏には,
もえ ぎ いろ
萌黄色の若葉が森をいろどり,梢の先を吹く風がヤマボウシの花
あおむらさき
をゆすり,地表にはヤマルリソウは青紫色,ヤマジオウは紫色の
小さな花を咲かせます。秋の函南原生林は,色とりどりの葉に染
まり,森は一時のにぎわいとなります。晩秋から冬には,遊歩道
は落ち葉でうまり,落ち葉を踏みしめながら山道を歩くとき,や
わらかな山道の感触が足の裏から伝わってきます。
5
函
南
原
生
林
と
そ
の
周
辺
の
自
然
●函南原生林の生い立ち
かんなみげんせいりん
はこ ね きんばつりん
「函南原生林」は,かつて「箱根禁伐林」と呼ばれていましたが,
いつのころからか「函南原生林」という呼び名が一般的となり,
最近では「箱根禁伐林」の名は忘れ去られようとしています。
すいげんかんようりん
この森を源流とする来光川下流域の人々の水源涵養林(水源を
確保するための林)として,その名が示すとおり,森の樹木はいっ
さい切ることを禁じ,たきぎ取りや落ち葉かきのために森の中へ
入ることさえ許さず,地元の人たちの自ら定めた厳しい決まりに
え
ど
じ だい
守られながら,江戸時代以来,何百年もの間,森は手厚く保護さ
れてきました。
とくがわばく ふ
ご
しかし,徳川幕府はこの箱根禁伐林を見過ごすはずがなく,御
りん
林として取り立てようとしたり御用炭の供出を強制したりしまし
たが,そのつど,関係町村の首長たちは,この森が下流域の人々
の水源涵養林であることを訴え,取り立ての中止願いを出して幕
府に中止させたり,計画の縮小をさせてきました。
幕府にとっても,この森が箱根の関所と地続きであることから,
い
てっぽう
で おんな
(武
当時,幕府がもっとも恐れていた江戸への「入り鉄砲に出女」
器としての鉄砲の持ち込みと,人質として江戸に残された諸大名
の奥方が逃亡すること)の関所破りのぬけみちとして利用される
ことを防ぐための,自然のとりでとしての機能を重視していたら
しく,あまり強制できない弱みがあったこともうかがえます。
めい じ
い しん
ち けん
明治維新後も,明治 6 年の地券発行の際,官有地の取り扱いを
いりあい
受けましたがこれを退け,明治13年に2,670haの入会使用権が認め
られました。このうち,317haを水源涵養林として,生木立は絶
対切らないという方針のもとに,「禁伐林組合」が設立され保護
管理運営に当たることになり,明治23年市町村制施行にともない
み しま し
「函南村外 3 ケ村禁伐林組合」
,昭和16年の三島市制施行にともな
6
▲函南原生林の全景
い「箱根山禁伐林組合」と改称され,今日に至っています。
しかし,昭和初期に管内で起きた水騒動によって大量の資金が
さかさがわかんのんだき
必要となり,現在の原生林から逆川観音滝に至る禁伐林は一部25
haが,方針を破って伐採,売却されてしまったのです。
箱根山禁伐林組合では,二度とこの過ちを繰り返さないことを
せき ひ
誓い,
「原生の森」側からの原生林入口に「不伐の森」の石碑を
建て,自らをいましめています。
とうげ
じっこく
りょうせん
しかし,上部地帯は箱根峠と十国峠を結ぶ稜線近くで展望に優
れていることから,早くも昭和 8 年には自動車専用道路(現,箱
根スカイライン)が開通し,戦後もゴルフ場やホテル,レジャー
施設の建設が進みました。学校建設費用のための木立売却案や動
ゆう ち
物園誘致案のうわさが流れたこともありました。
箱根禁伐林は私たちの祖先が何百年もの間,命がけで守り続け
い
ず
てきた森で,全国有数の観光地,伊豆と箱根の接点にあります。
この函南原生林を,今後どのように守り,後世に引き継いで行
くべきでしょうか。私たちも「ふるさとの自然」の保護について,
ここで,一度真剣に考えてみましょう。
7
函
南
原
生
林
と
そ
の
周
辺
の
自
然
●観察できる植物
かんなみげんせいりん
函南原生林やその周辺は,ややすずしい場所を好むいろいろな
種類のカエデやブナ,ヒメシャラ,ケヤキ,リョウブ,ヤマボウ
シなどに混じって,温かい地方の山地を好むアカガシやヤブニッ
せいいくかんきょう
ケイ,ウラジロガシなどの樹木が見られます。生育環境を異にす
る樹木が同じ場所に一緒に生活していることはたいへんにめずら
しく,貴重な場所といえます。そのうえ,数百年以上に渡ってこ
の森の樹木を切ることを禁止し,保護されてきたので,この森で
はオオモミジ,ブナ,イヌシデ,ヒメシャラ,アカガシ,ケヤキ,
ハリギリなどの大木が観察できます。中でもブナとアカガシは日
本でも一・二を争う巨木といわれています。
原生林にある大ブナは樹令 700年以上といわれ,幹は大人が 7
人ぐらいでないと取り巻くことができません。大ブナは老木で,
か
この数年,枝の枯れがめだつようになってきました。
しずおかけん
静岡県内では,ブナの生育場所は標高1,000mぐらいの山地です
が,函南原生林は標高700m前後の
場所で観察できます。
森に入るとほかの樹木の木肌とち
あわ
せきかっしょく
がって淡い赤褐色をした樹木がめだ
ちます。ヒメシャラです。幹に触れ
てみましょう。どんな感じがするで
しょうか。
カエデの仲間の樹木もめだちます。
秋には紅葉したカエデの落ち葉を拾
い,19ページの図を参考にしながら
名前を調べてみるのも,楽しみのひ
とつです。
8
▲ヒメシャラとブナの林
竹ぼうきを逆さにしたような枝ぶりの樹木が空に枝を広げてい
こずえ
ます。ケヤキです。晩秋になり葉を落としてしまうとその梢に青
き せいしょくぶつ
々と葉を広げている植物がめだちます。ヤドリギという寄生植物
ですが,夏にはケヤキの葉が茂っていて見えにくかったのです。
箱根を代表する植物の一つヤマボウシは梢の先に花を咲かせる
ので,花を近くで見るのはむずかしいですが,原生林を一望でき
る場所から見てください。
遊歩道の足元にも注意を向けてみましょう。春から初夏には,
スミレの仲間がかわいらしい花を咲かせています。花や葉の形か
ら何という名前のスミレか調べてみると親しみが深まると思いま
す(21ページ)。どれが花なのかはっきりしない植物もあります。
コチャルメルソウという植物で,近くで見てみると,ちょっと変
わった形をした花が観察できます(23ページ)
。
枝についている葉が左に 2 枚,右に 2 枚と,あまり見かけない
植物があります。葉は強いにおいがするコクサギです。葉のつき
とくちょう
方に特徴があるので,注意していると見つけることができます。
地面をはっていて一年中青々とし
せ たけ
た葉をつけている 背 丈 が40∼50cm
の低い植物で,初夏のころには円す
い状の白い花をつけ,熟した紅色の
実も見られるのはツルシキミです。
有毒植物なので気をつけましょう。
くき
茎の高さが20cmぐらいで,輪生する
三枚の葉の真ん中に花をつけている
の は,エ ン レ イ ソ ウ で す。漢 字 で
「延齢草」と書き,これも有毒植物
の一つです。
▲新緑の函南原生林
9
観察地
1
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
原生林(学習の道)コース
N
熱海駅・箱根峠へ
小さな社
富士箱根ランド
富士箱根ランド
可 学習の道
W.C.
アカガシの大樹
(No.2)
山
中
城
跡
へ
函南原生林
林道
沢
観察広場
テーブル・ベンチ
ブ
ナ
の
大
樹
急坂
高
ア
圧
カ
線
ガ
シ
の
大
樹
(No.1)
函
南
原
生
林
前
熱
海
駅
へ
案内板
原生の森
(くわしくは34ページ)
紫水の池
0 100m
函南駅へ(約8km)
10
箱
根
峠
へ
鉄とう
木道
木
立
キ
ャ
ン
プ
場
へ
2
∼
3
台
可
500m
●コースの案内
「学習の道」への入り口は 3 本ありま
ふ じ はこ ね
す。第一の道は富士箱根ラインを下がり
かんなみ
函南原生林が一望できる場所が入り口
です。少し急な坂道を下って行くとス
ズタケの間からヒメシャラやブナが独特
の木肌を見せてくれます。右手にアカ
▲大ブナ
ガシの大木が目に入ります。
そこで学習の道の 1 周コースに合流します。
あた み
第二の道は県道箱根峠熱海線のバス停「函南原生林前」から下っ
て行く最短距離のコースで,高圧線の鉄とうを過ぎた所で学習の
道に合流します。
第三の道は「原生の森」から登り道を進んで行くと,いろいろ
な種類の樹木の間を抜け,尾根を越え谷間の小川を渡り,しばら
く進むと学習の道に合流します。
学習の道は 1 周約 2 kmの道程で,標高差150mほどです。観察
をしながら歩くと,思った以上に時間がかかります。
至 富士箱根ランド
観 察
マ ッ プ
0
100m
200m
300m
400m
500m
標高705m
ブナ
ヒメシャラ
ブナ
ウラジロガシ
ブナ
アカガシ
(大)
アカガシ(大)
ケヤキ
オオモミジ
イタヤカエデ
コクサギ
ツルシキミ
ブ ス
ナ ズ
タ
ケ
函南原生林
タンナサワフタギ
エゴノキ
イヌガヤ
N
ヒメシャラ
バイケイソウ
標高643m
ブナ
ヤドリギ
ヒメシャラ
ブナ
ヒメシャラ
チドリノキ
ブナ
ケヤキ
コクサギ
ブナ
イヌシデ
エンコウカエデ
至原生の森
ハ
コ
ネ
ダ
ケ
ヤマボウシ
ツルアジサイ
アカガシ(大)
シラキ
コ
チ
ャ
メ
ル
ソ
ウ
ツ
ル
シ
キ
ミ
リ
ョ
ウ
ブ
ア
ブ
ラ
チ
ャ
ン
ブナ(大)
ス
ズ
タ
ケ
ハ
リ
ギ
リ シキミ
アカガシ(大)
ハコネダケ
標高775m
シラキ
イワガラミ
ヤブ
ニッケイ
リョウブ
マユミ
リ
ョ
ウ
ブ
鉄とう
オオバウマノスズクサ
シラキ
ガマズミ
至 箱根峠
標高850m
函南原生林前
至 熱海駅
11
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
●函南原生林の樹木
かんなみげんせいりん
え
ど
じ だい
函南原生林は江戸時代
より水源涵養林として木
を切ることを禁じてきま
した。このため,今でも
みごとな自然林が残され
ています。高木のアカガ
あ こうぼく
▲学習の道入口から見た函南原生林全景
シやブナ,亜高木のシキ
だんたいりん
おんたいりん
ミやエゴノキ,低木のツルシキミ,アオキなど暖帯林や温帯林を
代表する樹木が混生し,すきまもなく茂っています。
アカガシ
アカガシはドングリをつ
ける仲間ですが,一年中葉
じょう りょくじゅ
を茂らせる常緑樹です。新
芽や材質が赤いのでこの名
がつけられました。材質は
固く,ささくれにくいため,
木刀を作ります。
▲アカガシ
オオカミノケタケ
アカガシの老木には,人
の黒髪に似たものが垂れ下
がっています。長いものは
1 m以上もあります。ホウ
ライタケ(キノコ)の一種
で,この森ではよく見かけ
ますので,探してみましょ
う。
12
▲オオカミノケタケ
ブナとアガリコ
ブナは日本中の森で見られ,森
を構成する重要な樹木の一つで,
「森の母」とも呼ばれています。
大木となり,秋には大量の葉を落
らくようじゅ
とす落葉樹で,その数は 1 本で数
十万枚ともいわれ,木の下にスポ
ンジ状に積もり,地下には 5 トン
から 8 トンの水を蓄えることがで
▲ブナ
きます。ですからブナの森は土の表面が乾くことがなく,すがす
がしく感じられます。
ブナの別名を「シロブナ」とも
呼び,木肌は白くスベスベしてい
ますが,ブナの幹にはすき間ない
ち
い るい
きんるい
そうるい
きょうせいたい
ほど地衣類(菌類と藻類の共生体)
まだら も よう
が付着して幹は斑模様に見えます。
大木なので材木は大量に採れます
が腐りやすい欠点があり,材木と
しては中級以下です。
▲ブナとその種子
せんぱくざい
今では工夫して建築材や船舶材,
ナメコの栽培にも使われます。
大木となったブナをよく観察し
てみてください。たいへん大きな
コブが見られます。切り口などが
大きくふくらんだためにできます。
これを「アガリコ」と呼んでいま
す。
▲ブナにできたコブ(アガリコ)
13
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
ヒメシャラ
赤くつやのある木肌がめだちま
す。スラッと伸びた木の姿がきれ
いです。白くて小さいツバキに似
た花が咲き,いい香りがします。
材質も赤く割れにくいために家具
やフローリングに,また皮付きの
はこ
まま床柱に利用されています。箱
ね
根はヒメシャラの東限です。
▲ヒメシャラ
ミズナラ
オオナラとも呼ばれ20mを越え
る高木になります。毎年つけるド
ングリはリスやイノシシの大好物
です。木材としても優れ,家具や
ワインのたる,キノコの原木にな
り,炭は「ナラマル」と呼ばれ,
パチパチと火花が出ない優良炭で
す。
▲ミズナラ
シキミ
森の中に自生する中低木です。
香花(コウバナ)と呼んだほうが
なじみがあり,墓地に供えられま
あわ
す。 3 ∼ 4 月に香りのよい淡い黄
色の花を咲かせ, 9 ∼10月に星の
形をした実をつけ,熟すとさけて
種が飛び出しますが,実は有毒で
す。
14
▲シキミの花と実
ケヤキ
よく街路樹として植えられてい
ます。原生林でめだつ高木の一つ
です。夏はたくさんの葉を茂らせ
ますが,秋にはすべて落葉し,林
内は明るくなります。
材質は木目が美しく湿気にも強
いので寺や神社の建築には欠かせ
ない優良材です。
▲ケヤキ
イヌガシ
カシと名がついていますが,カ
シやナラの仲間ではなく,ドング
リは作りません。黒く柔らかい実
をつけ,葉は光沢があって,もむ
と香りがします。クロモジやクス
ノキ,ヤブニッケイの仲間です。
シラキ
▲イヌガシ
林内の沢沿いの少し光の射し込
む所に生える10m以下の低木で,
カキの葉に似た葉をつけ,秋には
黄色から赤へと紅葉する美しい木
です。枝や葉を傷つけると白い乳
液を出します。材質が白いことか
ら,この名がつきました。
▲シラキ
15
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
マメザクラ
ふ
じ さん
はこ ね
富士山や箱根を中心とした地域
に多く,フジザクラとも呼びます。
全体に小型の樹木で,花は小さく
て下を向いて咲きます。
葉の柄に小さいイボのようなも
のが左右に一つずつついています。
みつせん
これを蜜腺と呼び,サクラの仲間
とくちょう
の特徴です。
▲マメザクラ
アオキ
高さ2mくらいの低木で,庭木
としても植えられています。名前
の通り,葉も若枝も濃い緑色をし
ています。花は 3 ∼ 5 月ごろに咲
きますが,秋に熟した赤い実が翌
年の 5 月ごろまで残るので,花と
実を同時に観察できます。
▲アオキの実
ツルシキミ
林内に生えるもっとも小さな木
の一つです。高さ50cmほどで,
くき
下の茎が地をはっています。 3 ∼
5 月ごろに小さな花をたくさん
つけ,秋には真っ赤な実を10個ほ
どつけているのでめだちます。有
毒な植物なので気をつけましょう。▲ツルシキミ
16
▲雌花
▲雄花
タンナサワフタギ
名前のような沢をふさぐような
大きな木にはなりません。木肌は
白くボロボロとして弱々しい感じ
がしますが,材は白く固く,ち密
いんかん
で,印鑑や床柱として利用されま
たん な
す。函南地方を「丹那」と呼びま
すが,タンナサワフタギの「タン
かんこく
さいしゅうとう
ナ」は韓国の済州島のことです。
▲タンナサワフタギ
アブラチャン
かわいらしい名ですね。アブラ
ちゅう ごく ご
は「油」,チャンは 中 国 語 で「れ
せい
き 青(油のしぼりかす)」のこと
なので,「アブラアブラ」という
ことです。
樹皮からも実からも油が採れ,
灯明に使われました。葉は生でも
よく燃え,枝は弾力があるので,
▲アブラチャン
ものをしばることもできます。
クロモジ
「オーイ,クロモジをくれ」とお
すし屋さんなどで今も聞かれます。
この木はよい香りがするので,
つまよう じ
皮を付けたままけずって,爪楊枝
にします。今でも高級和菓子につ
いています。安い楊枝はシラカバ
などを使っています。
▲クロモジ
17
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
●よく似た仲間の木
ミズキとヤマボウシ
この森には同じ仲間のミズキとヤマボウシがあります。よく似
た姿の樹木で見分けにくいのですが,下図を参考によく観察して
ください。そのちがいが理解できます。
名前
葉
花
実
ミ
ズ
キ
柄が長い
中
央
が
花
ヤ
マ
ボ
ウ
シ
総包は白い
花弁のよう
柄が短い
木の高さ 用途
食
べ
ら
れ
な
い
約 20
メ
ー
ト
ル
こ
け
し
・
げ
た
食
べ
ら
れ
る
約 10
メ
ー
ト
ル
庭
木
・
器
具
材
イワガラミとツルアジサイ
ともによく似たつる植物です。つるから気根を出して高い木に
よじ登り,光をたくさん得ようとしますが,決して木の養分を取っ
たり,成長をさまたげたりはせず,木と共存共栄しています。ち
がいを比べてみましょう。
イワガラミ
飾り花は1枚
若い葉は赤色の
はん紋がある
葉のふちの切れ
こみがあらい
18
ツルアジサイ
飾り花は4枚
葉のふちの切れ
こみは細かい
●カエデの仲間
この森では,カエデの仲間が 7 種類以上観察できます。モミジ
と呼んでもまちがいではありませんが,植物名を知るためにはカ
エデの仲間と覚えてください。
カエデの仲間は種類が多く,いずれも秋には美しく色づく代表
つい
的な樹木といえます。葉は枝から 2 枚ずつ対になってつき,果実
よく
とくちょう
は必ずプロペラのような翼があるのが特徴です。カエデ類は紅葉
が美しいばかりではなく,建築材,器具材,工芸品などにもたく
さん使われています。イロハモミジは床柱や工芸品。イタヤカエ
デからはスキー板,バット,ボウリングのピンを作り,ウリハダ
カエデはピアノのけんばんやフローリングの床材として利用され,
オオモミジは庭木やぼんさいに,高さも10m以上となり公園樹や
建築材としてたいへん役立っています。
▲イロハカエデ
(イロハモミジ)
▲イタヤカエデ
▲ウリハダカエデ
▲オオモミジ
▲カジカエデ
▲チドリノキ
19
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
●原生林を彩るかわいい草花
かんなみげんせいりん
函南原生林は高い木が生い茂っていて,よく陽の当たる草原は
ありません。だから草花たちは,葉と葉の間からちらちら入って
くるわずかな陽の光で生活しています。小さくてめだたない花が
多いのはそのためです。
「学習の道」を進みながらよく見ると,足も踏み込めないくらい
ぐんせい
にタニギキョウやヤマジオウが群生しているのに気づきます。そ
してさらに観察すると,林にいろどりをそえているかわいい草花
たちに,たくさん会えることでしょう。
文中の( )は,花が咲いている時期です。
タニギキョウ( 5 ∼ 8 月)
ちらちらと陽の光がゆれている
木かげで,緑と白のじゅうたんの
ように群生しています。高さ10cm
ほどですから, 1 本ではめだちま
せんが,たくさんの白い花が咲い
ているとみごとです。
▲タニギキョウ
ヤマジオウ( 8 月)
うっかりすると見落としそうな
草ですが,うすいピンクの花がと
てもきれいです。たくさんの仲間
が集まって生えています。
熱を下げる薬になる「ジオウ」
という草の縮れている葉が似てい
▲ヤマジオウ
20
るので,この名前になりました。
●スミレの仲間
林内で多く見られるスミレを比べてみましょう。
エイザンスミレ( 4 ∼ 5 月)
日かげが好きです。花が大きく,
葉にギザギザが多くて「スミレか
な?」と思うくらいです。
▲エイザンスミレ
ナガバノスミレサイシン
( 3 ∼ 5 月)
たいへいようがわ
太平洋側の雪の少ない地方にだ
け生えています。全体にスマート
な感じです。
▲ナガバノスミレサイシン
シコクスミレ( 4 ∼ 5 月)
し こく
四国で最初に発見されました。
おもに太平洋側の山地に見られ,
花はほかの 3 種より小さく,白く
▲シコクスミレ
て四角っぽいです。
タチツボスミレ( 2 ∼ 5 月)
日本中,たいていのところで見
くき
られます。茎の途中から柄を延ば
▲タチツボスミレ
して花をつけます。
!
スミレの仲間のびっくり!
へい さ か
スミレの仲間には,
「閉鎖花」という種だけの花があり,1 個に50
し ぼう
個前後の種があります。種にアリの好む脂肪があるので,アリが遠
くまで種を運びます。花が終わり秋になると,葉や茎が春の 2 倍く
らいに大きくなります。日本ではスミレの仲間は草だけですが,外
国ではスミレの仲間は木のほうが多いです。
21
観
察
地
1
⃝
ヤマルリソウ( 4 ∼ 5 月)
しゃめん
春の林の湿り気の多い斜面に
よく咲いています。
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
ワスレナグサの仲間です。株
を作って次々とかわいいルリ色
の花をつけます。それで名前に
むらさき
ルリが入っていますが紫色や青
やピンクなどの花もあります。
▲ヤマルリソウ
ネコノメソウ( 4 ∼ 5 月)
2 つくっついている実がネコ
の目に似ていることから名前が
つきました。湿っている所が好
きで,林内でも集まって生えて
いることが多いです。
くき
花も葉も茎も実も,同じよう
な色です。探してみましょう。
▲ネコノメソウ
ニリンソウ( 4 ∼ 5 月)
春を待っていたように白い花
をいっぱい開きます。ふつうは
2 個の花をつけますが, 1 個の
ことも 3 個のこともあります。
根が地下で横に伸びたり,な
なめに伸びたりして増えるので,
かたまって生えていることが多
▲ニリンソウ
22
いです。
ハルトラノオ( 4 ∼ 5 月)
真っ直ぐに立った茎の3∼15cm
ほ
の先に白い穂のような花が咲きま
す。それが,トラの尾のように見
えます。
春の早い時期に咲くので,名前
に ハ ル が つ き ま し た。「春 が 来
た!」と知らせてくれる花の一つ
です。
▲ハルトラノオ
ウラシマソウ( 3 ∼ 5 月)
うらしま た ろう
花の先が,童話の浦島太郎がも
っている釣り糸のように見えます。
葉や茎などのしるが体につくと
かぶれるので,注意しましょう。
栄養のあるなしでその年によっ
て同じ草がメスになったり,オス
になったりすることがあります。
▲ウラシマソウ
コチャルメルソウ( 4 ∼ 6 月)
谷に沿って集まって生えていま
す。土の中に茎を伸ばして増える
からです。小さな花に近づいてよ
く見てください。実はたいへん変
ちゅうごく
わった形で,中国の楽器のチャル
メラに似ています。屋台のラーメ
▲
ン屋さんがふいているラッパです。▲コチャルメルソウ
実
23
観
察
地
1
⃝
ダイコンソウ( 6 月∼ 8 月)
学習の道に沿って,黄色い花を咲
かせます。根元近くの葉がダイコン
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
の葉に似ています。
花が終わると,トゲがいっぱいあ
る丸い実がなります。その実にカギ
形の毛があって,人の衣服や動物の
毛に引っかかって運ばれます。
▲ダイコンソウ
エンレイソウ( 4 ∼ 6 月)
ひし形のような大きめの葉 3 枚の
上に 1 ∼ 2 cmの地味な花をつけま
す。さみしそうで変わった姿なので
すぐ覚えられます。
根が胃の薬になることから「エン
レイ(命が延びる)」の名前がつい
たと言われています。
▲エンレイソウ
バイケイソウ( 7 ∼ 8 月)
早い春,芽を出す草木も少ない林
の中で,ひときわあざやかな緑色の
大きな新芽を出します。おいしそう
ですがシカも食べない毒草です。
夏には,ウメの花に似た小さな
くき
白っぽい花をたくさんつけます。茎
▲バイケイソウ
24
は 1 ∼ 2 m以上にもなる草です。
キッコウハグマ( 9 ∼10月)
こう ら
キッコウとはカメの甲羅のこと
です。つやのある葉をよく見ると
カメの甲羅に似ています。
花は,先が5つにさけている小
さな花が3個集まっています。種
はタンポポのように,綿毛をつけ
て飛んで行きます。
▲キッコウハグマ
ツルリンドウ( 8 ∼11月)
茎はつるになっています。小型
のリンドウみたいな花が咲きます。
か
木の葉が散ってほかの草花が枯れ
あかむらさき
たころ,ハッと目を引く赤紫色の
はでな実をつけます。
花と実が同時に見られることも
あります。
▲ツルリンドウ
!
タンポポQ&A
Q:タンポポの花は,原生林の中で,見つかるでしょうか?
A:タンポポの花は原生林の中ではほとんど見られません。原生林
は葉が茂っていますので,日の光は緑の葉を通って地面に届きます。
タンポポの仲間は,緑の葉を通った光では成長できません。ですか
ら,たとえ強い生命力を持っているセイヨウタンポポでも,原生林
の中で花を咲かせることはむずかしいのです。
25
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
●昆虫・鳥以外の小動物
せきつい
この森の中には,ウサギ,ネズミ,ヘビ,カエルのような脊椎
どうぶつ
こんちゅう
動物の仲間と,カニ,貝,昆虫,クモのような脊椎(背骨)をも
む せきついどうぶつ
たない無脊椎動物の仲間の小さな動物たちが住んでいます。
カナヘビの仲間
脊椎動物でヘビやカメな
どのは虫類でトカゲに似て
います。原生の森の明るい
と こ ろ な ど に 住 み,長 い
シッポを使ってあぶなっか
しいところなどもすばやく
動き回って虫などを捕らえ
て食べています。
▲ニホンカナヘビ
アズマヒキガエル
脊椎動物でイモリなどと同じ
りょうせいるい
両生類です。春早く水たまりな
どに卵を産みます。オタマジャ
クシから成長したカエルは,水
を離れて暗い森の中の湿った場
所などに住み,動く虫やミミズ
などを長い舌ですばやく捕らえ
て食べています。
▲アズマヒキガエル
!
毒ヘビに注意!
森の中などに入るときは,マムシ,ヤマカガシなどの毒ヘビにかま
れないように注意しよう!
26
キセルガイの仲間
無脊椎動物でタコや貝を含む
なんたいどうぶつ
軟体動物の仲間です。陸に住む
めずらしい巻き貝の一つで,形
がタバコを吸う道具のキセルに
似ているのでついた名前です。
木の穴の中,木のかげなどの暗
いところに生息しています。
▲ヒカリギセル
サワガニ
無脊椎動物でエビやカニを含
こうかくるい
む甲殻類の一つです。谷川の流
れなどに住んでいますが,森の
中の湿った場所にもよく現れま
す。ハサミで小さな虫などを捕
らえて食べています。
▲サワガニ
ザトウムシの仲間
無脊椎動物で 8 本の足をもつ
クモに近い仲間ですが,クモの
ように胸と腹の間は細くくびれ
ていません。長くて細い足のう
もうもく
ち,前から 2 番目の足を,盲目
の人(ザトウ)が頼りにして歩
くつえのように動かしながら歩
くことからついた名前です。
メクラグモともいいます。
▲ナミザトウムシ
27
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
●「原生林」の昆虫
かんなみげんせいりん
函南原生林は禁伐林として扱われてきたため,ブナ,アカガシ
うす
などの大木が頭上をおおっていて,林の中は昼間でも薄暗くなっ
こんちゅうるい
ています。昆虫類を見つけるのはむずかしいのですが,昆虫が住
かんきょう
む環境を覚えれば,いろいろな昆虫を見ることができます。
キマワリ
こうちゅう
くち木や葉などの上には甲虫の仲
間が見つかります。とくに湿ったく
ち木は,ある種の甲虫にとってエサ
であり,また,かくれ家にもなって
います。キマワリはそのような場所
にいる甲虫です。光沢のある黒色ま
せきどうしょく
たは赤銅色の体に長い足をもってい
て,名前の通り木の幹を盛んに歩き
▲キマワリ
回っています。
オサムシの仲間
後ろ羽が退化して飛べない甲虫で
しずおか
す。住む場所で変化が大きく,静岡
けん
県に住むアオオサムシは名前とはち
がって赤い銅色でシズオカオサムシ
という別名をもっています。このほ
か数種のオサムシが見られますが,
いずれも夜に活動します。
まん が
か
て づかおさ む
漫画家の手塚治虫さんはオサムシ
が好きで,
「治虫」というペンネー
ムをこの虫からつけたことでも有名
です。
28
▲アオオサムシ
キリシマミドリシジミ
函南原生林を代表する樹木アカガ
シの新芽を幼虫が食べて育つチョウ
です。オスは緑がかった金色の輝く
表と銀色の裏の羽をもつ小型のチョ
ウで, 7 月の終わりごろ林の上部を
飛んでいます。メスは10月ごろまで
生きて,アカガシやアラカシなどの
冬芽の脇に卵を産んでいきます。
ヒカゲチョウの仲間
▲キリシマミドリシジミ
ヒカゲチョウの仲間は,幼虫がサ
サ類を食べること,暗いところにい
るなど生活が似ているため,函南原
生林の中では比較的よく目にする
チョウです。ヒカゲチョウ,クロヒ
カゲ,ヒメキマダラヒカゲ,ヤマキ
マダラヒカゲがいます。いずれの種
も目玉模様が羽の裏側についた茶色
▲ヒカゲチョウ
系の地味なチョウですが,青い金属
光沢のリング状模様が目玉の周りに
あり,よく見るととてもきれいです。
この仲間の前足は退化していて,
足が 4 本しかないように見えます。
ヒメキマダラヒカゲは花に集まりま
すが,ほかは樹液や動物の死がいに
きています。
▲クロヒカゲ
29
観
察
地
1
⃝
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
●原生林と原生の森の野鳥
原生の森の池とその周辺には,ハクセキレイ,キセキレイ,セ
こずえ
グロセキレイ,梢にはホオジロ,早春にはカルガモ,夏にはツバ
メがいます。ツバメが水面すれすれに飛びながら水を飲むところ
を見ることができます。
かんなみ
池から函南原生林へ向かう途中の林では鳥の鳴き声を多く聞け
じょう りょくじゅ
るところです。常緑樹が多いせいか,冬でも葉が多く,木が高い
ため,鳥の姿を見つけにくいかもしれません。アオゲラがくちば
か
しで枯れ木をたたく音(ドラミング)を聞くこともできます。朝
晩には,トラツグミの「チィーン」とか,「ヒーイー,ヒョー」
という鳴き声を聞くことができます。また,遠くの方からアオバ
トの「オーアオー,オーアオー」という鳴き声も聞こえてきます。
ここで紹介する以外にも,メジロ,ヤマガラ,エナガ,キジバ
ト,カケス,アカハラ,ホトトギス,キビタキ,ヤブサメ,ミソ
サザイ,イカル,ツグミ,アオジなどの声も聞けます。最近は夏
にはサンコウチョウ,ヨタカの声はめったに聞けません。
セグロセキレイ(通年)
頭から胸,体の上面は黒く,
まゆ
眉の上,くちばしの上下と腹
は白色。
「ジジッ,ジジッ」
とにごった声で鳴きます。
なわ張り性が強く,車のフ
ェンダーミラーに写った自分
の姿を攻撃することもありま
▲セグロセキレイ(全長21cm)
30
す。
アオゲラ(通年)
顔から首は灰色,頭とほほは
おうりょく しょく
赤く,背中は黄緑色で腹部に黒
い横じま模様があります。
「キョ
ッ,キョッ」,「ケレケレケレ」,
春には「ピョー,ピョー,ピョ
ー」と鳴きます。学習の道と原
ぶん き てん
生の森の分岐点あたりでよく観
察できます。
▲アオゲラ(全長29cm)
コゲラ(通年)
「ギィー,ギィー」という戸が
きしむような音で,いることに
気づきます。頭上から体の上面
くろかっしょく
つばさ
は黒褐色で,背と翼には白い横
じまがあり,体の下面はうすい
わきばら
灰色で,脇腹に褐色のたてじま
があります。
▲コゲラ(全長15cm)
ウグイス(通年)
ささ
笹やぶか小枝が密生している
所にいて,見つけにくいです。
「ホーホケキョ」と鳴き,春を
告げます。
「ケッキョ,ケッキョ,
……」という谷渡りの声も出し
ます。冬でもやぶの中で,
「チャ
ッ,チャッ」と鳴きます。
▲ウグイス(全長雄16cm,雌13cm)
31
観
察
地
1
⃝
クロツグミ( 4 ∼10月)
もっともすばらしい森林の歌
い手。「キッコ,コッキィーョ,
原
生
林
︵
学
習
の
道
︶
コ
ー
ス
コッキーョ,ケコケコ,チョコ」
などとオスはさえずります。
けしずみいろ
オスは消炭色で,くちばしと
目の周りは黄色,腹は白くて黒
さんかくはん
の三角斑がたてに並んでいます。
▲クロツグミ(全長22cm)
シジュウカラ(通年)
スズメくらいの大きさで,白
いほほ,胸から腹に黒いネクタ
とくちょう
イが特徴です。さえずりは「ツ
ツピー,ツツピー」とくり返し
ます。秋冬には,ヒガラ,エナ
ガ,メジロ,コゲラなどと群れ
を作り,えさをとりながら,林
▲シジュウカラ(全長14cm)
を渡って行きます。
コガラ(通年)
黒いベレー帽をかぶった小鳥。
つばさ
かっしょく み
はいいろ
背と翼は褐色味のある灰色。の
どは黒く,ほほから胸と腹は白
わき
はい かっ しょく
くて,脇 は 灰 褐 色。「フチィー
フチィーフチィー」とか,
「ピッ
ピィーピ」とか,
「ピッピィーピ」
とさえずります。
▲コガラ(全長12cm)
32
ホオジロ(通年)
こずえ
池の周辺の木の梢などめだつ
ところで,細い声で早口に「チ
ョッピーチリーチョーツク」な
どとさえずります。「チチッ,
チチッ」とも鳴きます。下面と
こし
あかちゃいろ
腰の赤茶色,顔の黒白模様が特
徴です。
▲ホオジロ(全長16cm)
ルリビタキ(11∼ 4 月)
「ヒッ,ヒッ」とか「グワッ,
グワッ」という鳴き声で林内に
いることに気づきます。オスは
わきばら
背中がルリ色,脇腹がだいだい
色をしてます。枝に止まり尾を
振ります。メスは背中がオリー
ブ褐色です。
▲ルリビタキ(全長14cm)
ヒヨドリ(通年)
みつ
ツバキの蜜と木の実を好み,
全身が灰褐色で,ほほが茶褐色
の中形の鳥です。「ピーヨ,ピ
ーヨ」とよく鳴くので,ヒヨド
リという名前がつけられたとい
かんなみげんせいりん
われます。函南原生林に来ると,
いつも鳴き声が聞こえます。
▲ヒヨドリ(全長27cm)
33
観察地
2
観
察
地
2
⃝
原
生
の
森
コ
ー
ス
原生の森コース
山中城跡へ
N
函南原生林へ
木立キャンプ場
函南駅へ
車
止
め
案内板
林
道
管
理
道
遊
歩
道
紫水の池
遊歩道
芝生広場
展パ
望ノ
台ラ
マ
P
JR函南駅へ
約8km
0
100m
▲ヤマボウシ
34
管
理
棟
W.C.
500m
▲パノラマ展望台からの富士山
●コースの案内
かんなみげんせいりん
らいこうがわ
「原生の森公園」は函南原生林の南西,来光川の源流部に位置す
る自然公園です。国土保全・保健休養の場として整備されたもの
し すい
あずま や
で,調整地の機能をもつ「紫水の池」を中心に,東屋,トイレな
こうようじゅ
どの公園施設が整備され,従来からあったヒノキや広葉樹のほか
にヒメシャラ,ケヤキ,アラカシ,マメザクラ,ヤマツツジなど
約90種の花木が植えられ,その中を遊歩道がめぐり,四季折々の
花が観察できます。「紫水の池」や沢では魚類の姿も見られます。
はこ ね やません
しば ふ
林道箱根山線をはさんで「紫水の池」の反対側には 3 か所の芝生
ひろ ば
広場があり,その周囲はせまいながら草原になっています。この
こんちゅう
ような明るい場所ではチョウ,トンボなどの昆虫の活動を目にす
ることができます。この公園は函南原生林に接していることから,
小動物や鳥類などを観察することもできます。
函南原生林への起点であると同時に,手軽な自然観察のコース
になっています。
▲駐車場から見た「紫水の池」周辺
35
観
察
地
2
⃝
原
生
の
森
コ
ー
ス
●春の植物
コブシ
葉を広げる前に白い花を枝先に
らくようじゅ
つける落葉樹です。早春の山野で
はよくめだちます。秋にはにぎり
こぶしのようなゴツゴツした実を
つけることから,この名がつけら
れています。実は熟すると,皮が
さけて赤色の種を白い糸でつりさ
▲コブシ
げます。
ヤマブキ
4 月ごろ,根元から群がって生
くき
えるしなやかな細い茎に,あざや
こ がねいろ
かな黄金色の花を咲かせます。黄
金色のことを「ヤマブキ色」とい
うくらいです。花弁は 5 枚の直径
や
え
ざ
3 ∼ 5 cmほどの花ですが,八重咲
きもあります。函南原生林に接す
▲ヤマブキ
わき
る遊歩道脇に植えられています。
メタセコイア
ちゅうごく
中国で発見され,生きている化
しんようじゅ
石として有名な針葉樹です。公園
などによく植えられています。カ
ラマツとともに冬に葉を落とす針
葉樹の一つで,春の新緑とともに,
秋の紅葉もみごとです。クシ歯状
とくちょう
のうすい葉が特徴です。
36
▲メタセコイア
スミレ
地上部に茎をもたないスミレで,
むらさき
花は濃い紫色です。葉はヘラのよう
ようへい
よく
な形で葉柄に翼をもっています。コ
ンクリートのすき間にも生える強い
草ですが,周りに背の低い草が生え
てくると消えてしまいます。公園内
では,遊歩道の脇や芝生広場の中で
見ることができます。
▲スミレ
タンポポ
しゃめん
駐車場横の斜面を黄色に染めてい
るのは,おなじみのタンポポです。
昔から日本にある種類と外来種とが
ありますが,公園で見られるのは,
▲タンポポ
がく
萼が反り返っている外来種のセイヨ
ウタンポポです。花は小さな花が集
まったものです。虫メガネを使って
観察してみましょう。
▲在来種
▲外来種
ホオノキ
高さ20mを超す大木になる落葉樹
です。長さ20∼30cmの長だ円形の大
きな葉が枝先に集まっているのが特
徴です。
5 月ごろ,枝先に 6 ∼ 9 枚の花弁
をもつ直径15cmほどの大きな花を
つけるのですが,葉がじゃまをして,
よく見えません。
▲ホオノキ
37
観
察
地
2
⃝
原
生
の
森
コ
ー
ス
●夏・秋の植物
マツムシソウ( 9 ∼10月)
あおむらさきいろ
とうじょう か
夏から秋に淡い青紫色の頭状花
くき
を茎のいただきにつけます。外側
ぜつじょう
つつじょう
につく舌状の花と内側につく筒状
の小さな花とでできています。茎
たい せい
は60∼90cmで 対 生 して枝分かれ
し,葉も対生で羽状に分かれてい
しば ふ ひろ ば しゅうへん
ます。公園南側の芝生広場周辺に
見られます。
▲マツムシソウ
ヤマラッキョウ( 9 ∼11月)
秋になると細長い葉の間から30
か けい
∼40cmの花茎を出し,その先に数
あかむらさきいろ
十個の赤紫色の花をつけます。花
には短い柄があり,半ば開き,お
しべは花びらよりも長く突き出し
ています。公園南側の芝生広場周
しゃめん
辺の斜面に見られます。
▲ヤマラッキョウ
オトコエシ( 8 ∼10月)
山野によく生えている 1 mくら
いの多年草で,全体に白い毛が生
えています。根元から地面に沿っ
て伸びる枝を出して繁殖します。
花は対生で切り込みが深く,茎は
上部で多数に枝分かれし, 8 ∼10
月に白い花をつけます。実にうち
ほう
わのような包があります。
38
▲オトコエシ
ミゾホウズキ( 6 ∼ 8 月)
谷川のほとりや湿地に生えるやわ
らかい草で無毛です。茎は四角で根
なな
元から枝分かれし斜めに立ち上がり
わき
ます。 6 ∼ 8 月に上部の葉の脇に黄
がく
色の葉をつけます。萼は筒状で花の
しんけい
し
先は5つにさけ,やや唇形です。紫
すい
水の池東側の沢沿いに見られます。
コムラサキ( 6 ∼ 7 月)
▲ミゾホウズキ
らくようていぼく
湿地を好む落葉低木の園芸種で枝
た
は弓なりに垂れることが多いです。
初夏に葉の付け根より少し上がった
あわ
ところから出る柄に,淡い紫色の小
さな花が集まってつきます。実は秋
になると美しい赤紫色になります。
芝生広場周辺に植えられています。
函南原生林のものは白い実をつける
種類がほとんどです。
▲コムラサキ
オニドコロ( 7 ∼ 8 月)
ご せい
つる性の多年草で,葉は互生,先
のとがった丸いハート型をしていま
おうりょく しょく
す。花は黄緑色で茎は右巻きです。
よく似ているヤマノイモは,葉が
対生で,細長いハート形で,柄の元
にムカゴがつきます。花は白く茎は
左巻きで,根は食用になります。
▲オニドコロ
39
観
察
地
2
⃝
原
生
の
森
コ
ー
ス
●「原生の森」の昆虫
こんちゅう
人の手が加わった公園なので,町中でも見られる昆虫と山の昆
し すい
虫の両方を見ることができます。紫水の池周辺では,トンボの姿
こうちゅう
が多く,草木の花にはチョウをはじめ,ハチや甲虫の仲間が食事
に来ています。地面を歩き回っている昆虫もいます。まだほ装し
ていない遊歩道は,これらの昆虫のよい観察場所です。
トンボ
群れを作って止まることなく飛
うす き いろ
び回っている薄黄色のトンボは,
ウスバキトンボです。このトンボ
は大陸方面から春に飛んできて分
布を広げています。ほかにナツア
カネ,コノシメトンボ,シオカラ
トンボ,オニヤンマなどのトンボ
が見られます。ナツアカネとアキ
アカネはよく似ていますが,胸の
模様で区別できます。
▲ナツアカネ(夏ごろ)
マルハナバチ
黄色と黒のしま模様をもつ,ず
んぐりとしたハチで,体は毛でお
おわれ,まるでぬいぐるみのよう
です。花から花へせわしなく移動
して,幼虫のエサになる花粉を集
めています。このことを利用して,
この仲間のハチが温室のトマトを
受粉させるため,昆虫の性質が応
用されています。
40
▲アザミに来たトラマルハナバチ
ヤマトシジミ
青い羽をもつ小さなチョウが地面
近くを飛び回ります。ヤマトシジミ
のオスです。もっとも普通に見るこ
とができるチョウの一つで,幼虫の
エサとなるカタバミがあれば,都会
の中でも見ることができます。メス
は黒い羽をしています。カタバミの
みつ
花で蜜を吸っています。
▲ヤマトシジミ
ジャノメチョウ
しば ふ ひろ ば
夏,芝生広場の中をゆっくりと飛
び,草むらに忍び込むように止まる
黒いチョウが見られます。羽に目玉
じゃ
模様があるジャノメ(蛇の目)チョ
ウです。
ススキの生える明るい草原に住み,
メスは大型で色が薄く,オスとは簡
単に区別できます。
▲ジャノメチョウ
●甲虫
夏から秋にかけて,花の上に小型
のカミキリムシがいます。アカハナ
カミキリ,ヨツスジハナカミキリな
どハナカミキリの仲間が食事に来て
いるのです。色,模様ともに変化に
富んだ種類が多くいます。近づいて
も逃げないので,花の上にいるよう
すをゆっくり観察できます。
▲アカハナカミキリ
41
観察地
3
観
察
地
3
⃝
キ
ャ
ン
プ
場
コ
ー
ス
キャンプ場コース
えん提
N
原生の森へ3km
山中城跡へ
町営木立キャンプ場
管理棟
炊飯棟
W.C.
観音滝
P
逆川
来
光
川
J
R
函
約南
6.3 駅
km へ
0
水道タンク
100m
300m
▲キャンプ場の管理棟
42
●函南町立木立キャンプ場
かんなみげんせいりん
らいこうがわ
函南原生林の西,来光川のほ
こ だち
とりにある木立キャンプ場は,
ヒノキやスギの人工林に囲まれ,
本来の自然にはとぼしいものの,
付近には四季を通じて多くの野
の草花が,訪れる人たちの目を
楽しませてくれます。
収容人員は160名,30区画のテ
▲キャンプ場
ントサイトと,管理棟,炊飯棟,トイレ棟,各 1 か所のほか,キ
ャンプファイヤー広場,炊事広場,駐車場(15台)からなる町営
かんのんだき
キャンプ場です。近くには「原生の森」「原生林」「観音滝」があ
り,自然観察をかねたトレッキングが楽しめます。
*開設期間:4/20∼10/31(要予約)
た がたぐんかんなみちょうかみざわ
*申込み,問い合わせ:〒419-0122 田方郡函南町上沢81
函南町教育委員会社会教育課(中央公民館内) (0559-79-1733
●観音滝
キャンプ場の下流300mほどのと
ころにある滝,水量は多くないが,
一年中絶えることなく,一部,簡易
水道の水源として飲料水に利用され
ています。
昔はこの辺りが原生林の入口で,
滝の上には胸の高さの幹の周りが
456cmのケヤキや,318cmのウラジ
ロガシなどの巨木のほか,周辺には
シダ植物の種類が豊富です。
▲観音滝
43
観
察
地
3
⃝
キ
ャ
ン
プ
場
コ
ー
ス
●付近の植物
ヘクソカズラ( 8∼ 9 月)
林のふちなどに生える多年草のつ
くき
あく
る植物です。茎は左巻き,全体に悪
しゅう
臭があります。
たいせい
葉は対生,葉柄の基部には左右の
たくよう
托葉が合わさってできた三角形の合
つつがた
成托葉があります。花は筒形で先が
5 つにさけていて,筒中は暗紅色で
外は白く美しいです。
▲ヘクソカズラ
ヤブヘビイチゴ( 4 ∼ 5 月)
ヘビイチゴの実は表面がでこぼ
おうりょく しょく
こしており,葉は黄緑色でつやが
なく,日なたに生えますが,ヤブ
ヘビイチゴの実は表面がなめらか
で,葉は濃い緑色でつやがあり,
やぶの中や林のふちなどのやや日
かげに生えています。
▲ヤブヘビイチゴ
クサギ( 7 ∼ 8 月)
山野に生える小低木。葉は長い柄
らんけい
があって対生し,三角状卵形の葉,
ふちはなめらかで,短い毛が密生し,
悪臭があります。花は白く,長い筒
部の先は 5 つにさけて開き,よい香
りがします。果実は丸く青色でつや
あかむらさきいろ
がく
があり,星形の赤紫色の萼が残って
いてたいへん美しいです。
44
▲クサギ
アケボノソウ( 9 ∼10月)
山野の湿地に生える 1 ∼ 2 年草で
す。茎は高さ60∼90cm,枝別れが多
いです。茎は対生し, 3 本の脈がめ
だちます。
花は白く,径 2 cmの筒状で,基部
まで深く 5 つにさけてたくさんの黒
あわ
はんもん
点があり, 2 個の淡い緑色の斑紋は
▲アケボノソウ
みつを分泌します。
マツカゼソウ( 8 ∼10月)
野山の木かげに生える多年草で,
とうらんけい
葉は倒卵形の小葉が集まってでき
ており,透かして見ると半透明の
油点が見られます。
花は白色で径 5 mmほどの小花
ほ じょう
が穂状に集まって咲きます。花弁
がくへん
4 ,萼片 4 ,おしべ 7 ∼ 8 本,め
しべ 1 本です。
▲マツカゼソウ
ゲンノショウコ( 7 ∼10月)
草原や道端に生える多年草です。
茎は地上をはい,葉は手のひら状
に 3 ∼ 5 に深く切れ込み,長い柄
たん
があって対生します。花は白,淡
こうしょく
こう し しょく
紅色,紅紫色など地域変異があり,
この辺りでは白色が普通です。花
径15mmくらいで花弁 5 ,萼片 5 ,
▲ゲンノショウコ
おしべ10本,めしべ 1 本です。
45
観
察
地
3
⃝
キ
ャ
ン
プ
場
コ
ー
ス
ノササゲ( 7 ∼10月)
林のふちなどに生える多年草
のつる植物です。葉は 3 枚の小
くき
葉からなり,茎とともに無毛で,
たん おう しょく
花径18mm前後で 淡 黄 色 です。
がくへん
ほかのマメ科植物の萼片にはギ
ザギザがありますが,これはす
っぱり切ったような形なのでひ
と目で区別できます。
▲ノササゲ
センニンソウ( 7 ∼10月)
林のふちなどに見られる多年
草のつる植物です。葉は 3 ∼ 7
たいせい
枚の小葉からなり対生で,花は
円すい形に集まって白い花を多
数つけます。花弁はなく,花弁
のように見えるのは萼片で 4 ,
おしべ,めしべとも多数です。
▲センニンソウ
ミズヒキ( 8 ∼10月)
やぶかげに生える多年草です。
長さ 5 ∼15cmのだ円形の葉で,
はん
その上面には黒いハの字形の斑
もん
紋があります。花は花弁がなく,
深く 4 つに割れた萼片がまばら
ほ じょう
な穂状につき,花の上面が赤く,
下面が白いので,のし袋の紅白
みずひき
の水引に見立てて名前がつけら
れました。
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▲ミズヒキ
●観音滝周辺のシダ植物
▲クリハラン
▲クラマゴケ
▲マメヅタ
▲ジュウモンジシダ
▲イワガネゼンマイ
▲キヨタキシダ
▲リョウメンシダ
▲イブキシダ
▲キヨスミヒメワラビ
47
MEMO
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富士山憲章 (平成10年11月18日制定)
(行動規範)
めぐ
富士山の自然を学び,親しみ,豊かな恵みに感謝しよう。
はぐく
富士山の美しい自然を大切に守り,豊かな文化を育もう。
かんきょう
ふ
か
きょうせい
はか
富士山の自然環境への負荷を減らし,人との共生を図ろう。
富士山の環境保全のために,一人ひとりが積極的に行動しよう。
けいしょう
富士山の自然,景観,歴史・文化を後世に末長く継承しよう。
静岡県・山梨県
◇著 者 (この本をつくった先生がた)
大嶋 章(長泉町) 鈴木 昭紀(三島市)
大嶋よし子(長泉町) 谷川 久男(三島市)
岡本 由美(裾野市) 花野井忠司(三島市)
川添 雅則(三島市) 真辺征一郎(清水町)
杉本 文雄(韮山町) 湊 清(三島市)
◇写真協力 富永 保
静
岡
県
自
然
観
察
ガ
イ
ド
ブ
ッ
ク
2
⃝
『静岡県自然観察ガイドブック』シリーズ
好評発売中
1 引佐渋川
1
3 安倍峠
⃝
⃝
2
1
4 寸又峡
⃝ 浜北森林公園
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3 天城峠とその周辺 1
5 水窪自然林
⃝
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4 大井川河口
1
6 愛鷹山麓とその周辺
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5 佐鳴湖
1
7 西伊豆の自然
⃝
⃝
6 城ヶ崎海岸
⃝
7 丸火自然公園
⃝
1
8
⃝
桶ヶ谷沼
1
9
⃝
小笠山
8 県民の森
⃝
2
0
⃝
三保と久能山
9 岩岳山
⃝
1
0 日本平
⃝
2
1
⃝
函南原生林
1
1
⃝
伊豆須崎
1
2
⃝
御前崎海岸
※この本は古紙100%配合の
再生紙を使用しています。
自然観察ガイドブック7
函南原生林
函
南
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表紙写真:大ブナ
定価300円
(本体286円+税)
企画編集/静岡県
〒420-8601 静岡市追手町9-6 環境部自然ふれあい室
Tel 054-221-2849
(自然ふれあい係)
(社)
静岡県出版文化会
〒420-0856 静岡市駿府町1-12 県教育会館2F
Tel 054-255-4451 FAX 054-254-5779
著 作/大嶋 章 鈴木 昭紀 大嶋よし子
谷川 久男 岡本 由美 花野井忠司
川添 雅則 真辺征一郎 杉本 文雄
湊 清
制作発行/
(株)
静岡教育出版社
〒422-8006 静岡市曲金5-5-38
Tel 054-281-8870 FAX 054-286-6590
0103
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