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民法条1334条第2項
一一 7 7 取締役等の説明義務 音日 月良 =主 同 生 IEENVM 序論 説明義務者および質問権者 説明義務の範囲および程度 説明拒絶の正当な理由 説明義務の履行方法 結語 序 壬A、 両問 株主総会において株主が会議の目的たる事項につき質問したり意見 を陳述したりすることができるのは、明文の規定を待つまでもなく理論上 当然のことである 。 株主総会の活性化を図るとともに、会社役員の自覚を (1) 促し株主の質問をなす機会を確保する目的から、 1981年商法改正により、 取締役および監査役の説明義務を定める規定が導入された( I 日商237条ノ ( 2) 3) 。 説明義務は、株主が有する質問権の裏返しである。表から質問権と 規定しでも、裏から説明義務と規定しでも、実質的な内容に差はない 。 会 社法314条は上記規定を継受したものである 。 委員会等設置会社制度の新 設に伴い執行役が(旧商特 21条の 14第 7 項 3 号、 2002年)、 また会計参与制 度の新設に伴い会計参与が (2005年)、説明義務者に付加された 。 会社法314条は、会議体の一般原則から認められる質問権の確認的規定 8 7 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 として位置づけられている。すなわち株主総会が本来的機能を効果的に発 揮するために、取締役に対し 、 通常提案理由としてなすべき積極的説明義 務に加えて、質問のあるときに限り、そのうち議決事項については、議案 の賛否の合理的判断のために必要な具体的情報の提供を義務付け(受動的 説明義務)、株主の総会参与権の実質化を図る趣旨で、会議体の一般原則 に基づき認められていた取締役の義務を確認的に規定したものであって、 自益権と不可分な一個の権利として株主に特別に認められたものではな く、また 一般的説明義務を認めたり、株主に情報開示請求権を与えるもの でもない(大阪高判平成 2 年 3 月 30 日判例時報 1360号152頁)。 2 学説に目を転じると、会社法314条は株主に特別の情報開示請求権 を付与したものであるとする見解が主張されている。すなわち質問権は、 株主の利益を保護するための固有の権利であり、株主の投資利益を保護す ) 4 ( るために認められる情報を得るための権利であると位置づけられる。議決 権行使の観点だけでなく、経営者の経営説明責任の追及のため、資質・能 力の確認のため、あるいは投資判断のため、要するに株主利益の追求のた めに、説明義務の履行がなされてしかるべきことになる 。 説明義務の範囲についても、これを広く解釈する傾向が見られる 。 株主 が知りたい情報が全部法令で拾われているわけでもないから 、 一般の株主 (合理的な株主)が知りたいと思うような質問内容であれば、会社計算規則 によれば書かなくてもよいことになっている会計事項についても 、 説明す (6) べきことになる 。 情報開示事項を指定している法務省令の規定も、事項を 特定しているだけで、その具体的な外延内包を明らかにしているわけでは ない。会社が株主総会前に計算書類等によってした情報開示が十分なもの かどうかは、まず株主が総会で質問のか た ちで審査し、さらにはこれらに 関する、あるいはこれらに基づく総会決議の取消訴訟のかたちで裁判所に よる審査の対象にすることもできる 。 法的な説明義務の範囲 ・ 程度が本稿の主たる考察対象となるが、それと は別に 、 IR sRelations) 上の観点からどの よ うな説明をすること r o t s e v n I ( 取締役等の説明義務(服部) 7 9 が望ましいかも、実務上は重要な課題となる。議題関連性のない質問であ るからといって、全く何も説明しないとすれば、質問株主は疑いや不満を もっおそれがある。法的な説明義務については、横軸として議題関連性の 範囲が問われ、縦軸としてどの程度まで詳しく説明すべきであるかが問わ ( 9) れることになる。 3 横軸および縦軸の双方において説明義務を広く解することは、株主 総会における審議の充実および活性化に寄与する。他方、説明義務違反は 株主総会決議取消事由(会社831条 1 項 1 号)につながるほか、決議事項に 限らず報告事項に関する説明義務違反であっても、過料の制裁(同 976条 9 号)が定められている以上、説明義務の範囲と程度に ついては 、客観的 かつ或る程度明確な限度(基準)の設定が必要になる。 (1) 稲葉威雄「商法等の一部を改正する法律の概要(中 ・ ー )J 商事法務 908 号 8 頁、 元木伸 「 商法等の一部を改正する法律の概要」ジュリスト 747号 34頁 。 (2) 稲葉威雄『会社法の解明~ ( 2 0 1 0 ) 408頁。 (3) 浜田道代『逐条解説会社法第 4 巻~ ( 2 0 0 8 ) 161 頁 。 (4) 末永敏和『会社役員の説明義務~ ( 1 9 8 6 ) 193 頁。 (5) 末永敏和「判例研究」ジュリスト 1291 号 104頁。 (6) 座談会「改正会社法施行後の株主総会(下 )J ジュリスト 788 号83 頁(江頭憲 治郎発言) 。 (7) 稲葉威雄「株主総会の開示機能 J ~商法と商業登記』所収 (1998) 220 頁 。 (8) 三谷革司/森慎一郎「説明義務 J ~Q&A 株主総会の実務』所収 (2012) 262頁 。 (9) 鴻常夫ほか『株主総会(改正会社法セミナー) ~ ( 1 9 8 4 ) 176頁(森本滋発言) 。 E 説明義務者および質問権者 1 会社は、決算期ごとに、その事業年度に関する計算書類・事業報告 およびその附属明細書を作成しなければならない(会社435条 2 項) 。計算 書類等の作成者は、業務執行行為の一部と考えられるので、代表取締役(指 ( 1 0) 名委員会等設置会社では、取締役会が選定した執行役)である。会計参与設 0 8 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 2号 . 置会社においては、計算関係書類の作成は、代表取締役(執行役)および 会計参与により共同して行われる(会社374 条 1 項)。 取締役が株主総会において決議事項につき説明義務を負うのは、議案提 出者であることによる。指名委員会等設置会社であっても、総会提出議案 の内容の決定は取締役会の専決事項である(会社416条 4 項 5 号)。ただし、 株主総会に提出する取締役・会計参与の選任・解任議案の内容については、 指名委員会がこれを決定する(会社404条 1 項)。指名委員会等設置会社に おいて取締役候補者につき株主が指名委員会としての説明を求めて質問し ) 1 1 ( た場合、指名委員会自体は説明義務の主体とされていないから、委員長で ある取締役が説明することになろう。また株主総会に提出する会計監査人 の選任・解任・不再任議案の内容についても、指名委員会等設置会社では 監査委員会がこれを決定する(会社404条 2 項 2 号) 。 計算書類等の作成者である取締役・執行役は、定時株主総会への報告(第 O 期事業報告、計算書類、連結計算書類報告の件)により、受任者としての ) 2 1 ( 報告義務を果たす(会社330条・ 402条 3 項、民法645条)。これは、株主から の質問の有無にかかわらず行われる 。 会社の概況(事業の経過および財産・ 収益状況)を株主に報告し、それに基づいて株主が取締役・執行役のいわ ゆる経営責任をチェック可能ならしめることを主目的としている。出席株 主から質問がされると、附属明細書の記載事項(会社則 128条、会社計算 117 条)を目安として、計算書類等に記載すべき事項を補足、敷街する程度の 説明を行うことになる 。 2 取締役の職務の執行を監査した監査役は、監査報告を作成し(会社 381条 1 項、会社則 129条・ 130条、会社計算 122条 """'128条)これを報告するこ とにより、また取締役と共同して計算関係書類を作成した会計参与は、会 計参与報告を作成し(会社374条 1 項、会社則 102条)これを報告することに より、受任者としての報告義務(会社330条、民法645条)を果たす。出席 株主から質問がされると、監査報告の内容は会社法施行規則および会社計 算規則で詳細に法定されていることから、監査役としてはそれを補足、敷 取締役等の説明義務(服部) 8 1 桁する程度の説明を行うことになる 。 取締役提出議案についても、監査役の説明義務が生じうる場合がある。 取締役が株主総会に提出しようとする議案について、監査役は調査義務を 負い 、法令・定款に違反し、または 著しく不当な事項があると認めるとき は、調査結果を総会に報告しなければならないからである(会社384条)。 計算書類等が法令・定款に合致しているか否かにつき会計監査人と監査 役の意見が異なるとき、会計監査人は定時株主総会に出席して意見を陳述 することができる(会社398条 1 項)。意見不一致の有無にかかわらず、定 時株主総会における出席要求決議があれば、会計監査人は総会に出席して 意見を陳述しなければならない(同条 2 項)。この意見陳述義務は、会社 法314条の説明義務とは異なる。会計監査人の意見に対し出席株主からの 質問があれば、それに応答すべきことになる。会計監査人については別室 待機扱いとするか、議場内で議長側の席とすることが普通であるが、議場 ( 1 4 ) 入場も別室待機もしないケースが少なからず存在するようである。出席要 求動議が提出され、可決される蓋然性が認められるならば、会計監査人は ( 1 5 ) 少なくとも別室で待機する必要がある。出席要求動議の提出が予想される が、委任状を含めた出席予定株主の保有議決権数から見て、動議はほぼ確 実に否決されると判断されるのであれば、議場入場や別室待機をしないと いう対応を選択する余地もある。会計監査人が定時株主総会に出席してい なかった(集中開催日で時間の都合がつかなかった)ところ、予想外に出席 要求動議が提出され可決されてしまったとすれば、続行について決議し(会 社317条)、継続会(会日は続行決議で定められる)において会計監査人が意 見陳述する。 3 会社法314条は株主総会の議長を説明義務者として挙げていない。 取締役社長、取締役会長、執行役社長が議長を務めているのであれば、少 なくとも取締役または執行役としての立場で説明義務者となる。 総会の定足数および議決権という手続事項に関する株主の質問を議長が 無視したことをもって質問権の妨害に当たり、取締役選任決議の暇庇があ 2 8 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 ると主張して、取締役職務執行停止仮処分が申請された。金沢地決昭和 62 年 9 月 9 日判例時報 1273 号 129頁は、本件総会について決議方法が法令・ 定款に違反し又は著しく不公正であるという取庇は存在せず、また保全の 必要性も認められないとして、仮処分申請を却下した。①手続的事項は会 議の目的たる事項(決議事項および報告事項)に関しないものであるから、 説明義務(質問権)の対象にならず、②議長の総会開催宣言の後、事務局 から出席株主数、委任状関係、招集手続の適法性等につき報告があ っ たこ とによる。 手続的事項は会議の目的事項とは異なり会社法314条の説明義務の対象 外であるとしても、会議体の一般原則に従い、総議決権数、定足数および 出席株主等について株主から質問が出されれば、議長がこれに回答すべき ことになる 。 総会の成立や議事運営に関する説明義務の違反も、会社法 314条のそれと同様、決議取消原因となりうるし、株主の求めた事項につ いて正当な理由なく説明をしなかったとして過料に処せられうる(会社 976条 9 号) 。 他方、総会開催日に関する質問については、会社法 314条か らも会議体の一般原則からも上記の説明義務は生じないが、実務的には丁 寧に回答することが望ましいことはいうまでもない。 4 指名委員会等設置会社の株主総会において、原告株主は、執行役の 解任に関する指名委員会の基準の有無を質問したところ、指名委員会から の回答がなく、これは説明義務違反に当たると主張して、株主総会決議取 消を求めて訴えを提起した。東京地判平成23年 2 月 24 日資料版商事法務 328 号64頁 (HOYA 事件)は、原告株主の提案議案を否決した各決議の取 消を求める部分をいずれも却下し、会社提出の議案を可決した各決議の取 消請求をいずれも棄却した。 議長から、指名委員会が執行役の解任について基準を設けており、原告 が指摘する業績に関することは、専門性だけではなくいろいろな観点から 判断されるべきであるということが説明されており、かつ、この説明は指 名委員による回答ではないが、原告株主の質問に相応する具体的な回答と 取締役等の説明義務(服部) 8 3 なっており、被告会社の取締役等は会社法 314条所定の説明義務を果たし たものと認められるという。 指名委員は会社法314条に列挙されていないが、取締役として説明義務 を負う。株主が指名委員(会)としての説明を求めたにせよ、指名委員(会) 自体は説明義務の主体とされていないから、質問内容にふさわしい取締役 等が説明すれば足りる。本件被告会社では指名委員会が執行役解任基準を 設けていたようであるが、執行役の選任および解任は取締役会の専決事項 である(会社402条 2 項・ 403条 1 項 .416条 4 項 9 号)。指名委員会は、執行 役に係る取締役会決議の議案内容の決定権限を有していない。したがって、 執行役解任基準に関する株主の質問について、必ずしも指名委員(長)が 質問内容に最もふさわしい回答者であるとは限らない。議長からの回答を もって、説明義務が果たされたと認められたとする結論は、是認される 。 5 株主提案に係る議案にあっては、議長は提案株主に対して提案理由 を説明する機会を与えなければならない(山形地判平成 1 年 4 月 18 日判例タ イムズ 701 号231頁)。出席株主から質問がなされる場合、議長はその裁量で 提案株主に対して回答の機会を与えることになるであろうが、会社法 314 条は提案株主を説明義務者とはしていない。提案株主に回答させるべき義 務が議長にあるわけでもない。仮に会議体の一般原則から提案株主が説明 義務を負うと解するとしても、質問に提案株主が回答しなかったからと いって、それが決議取消事由に該当することはないし、過料の制裁も勿論 ない。 株主提案に関する質問は、①株主提案に係る議案の内容自体に関するも ののほか、②株主提案を審議するうえで必要な会社情報に関するものが ある。株主提案に係る議案に対する取締役会の意見に関する質問とか、当 該議案(たとえば、 0 億 O 千万円の自己株式取得)が可決された場合におけ る財務・事業投資・競争力に及ぼす影響に関する質問とかが、②に属する。 ②のタイプの質問がなされる場合、取締役としては、一般株主が株主提案 に係る議案に対する賛否を判断するうえで合理的に必要な範囲で会社法 8 4 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 314条の説明義務を負う。 6 質問株主は、原則として、回答者を指名する権利を有するわけでは ない。質問に対する説明者の指名は、議長が議事整理権に基づいてこれを ( 2 0 ) 行う。株主が「この質問については、取締役 B 氏に回答していただきたい」 と求めたとしても、議長はそれに拘束されることなく、質問内容に応じて 担当職務などの点から適切な説明をなしうる取締役 C を指名し、 C に説明 させることができる。株主にとっては、目的事項の合理的な判断のために 必要な説明が十分になされたか否かこそが重要であって、取締役のうちの ( 2 1 ) 誰により説明されたかにはそれほど意味がないことによる。もっとも、質 問の内容からして特定の取締役 B に対して質問することに意味がある場合 には、取締役 C が回答しても、合理的な判断のために必要な説明が十分に ( 2 2 ) なされたとはいえないこともあろう。 株主が新任・再任取締役候補者の適格性について質問をした場合、取締 役選任議案に関する株主総会参考書類の法定記載事項(会社則 74条各項) に敷桁して適切な説明がなされることになる。取締役候補者 A のスキャン ダノレ(会社の業務遂行に関わるものであるとする)について、株主から質問 がなされる場合、新任取締役候補者に限らず再任取締役候補者であっても、 A が自ら質問に回答する義務を負うわけではない。適切に説明をなしうる ( 2 3 ) 取締役 B を議長が指名し、 B が回答すれば足りる。議長自身が説明しても よい。 説明義務者である取締役が概括的に説明したうえで、説明補助者として ( 2 4 ) 従業員や外部弁護士に細目的事項を回答させるスタイノレもありうる。 7 監査役会設置会社では、個々の監査役が作成した監査報告に基づき、 会議を開催する方法または情報の送受信により同時に意見交換しうる方法 により審議したうえで、監査役会の監査報告を作成する(会社381条 1 項後 段・ 390条 2 項 1 号、会社則 130条、会社計算 123条・ 128条)。監査役会監査報 告の内容は多数決により決定されるが(会社393条 1 項)、たとえば報告事 項丙に関する監査役会監査報告の内容と監査役 D の監査報告の内容とが異 取締役等の説明義務(服部) 8 5 なる場合には、監査役会監査報告に D は自己の監査報告の内容を付記する (会社計算 123条 2 項・ 128条 2 項)。報告事項丙に関し付記された監査役 D の 監査報告の内容について、株主から質問がなされた場合には、 D が説明す べきことになる。 監査方法および監査結果に関する質問に対しては、監査役が説明しなけ ればならない。実際の説明者を誰にするかが議長の権限であるからといっ て、監査役が説明すべき質問内容について、議長が取締役を指名して説明 させることはできない。 複数の監査役 ABC 間で役割分担が定められ、事業甲の監査は A が、事 業乙の監査は B が、事業丙の監査は C がそれぞれ担当している。事業甲の 監査方法および監査結果について株主が監査役 C を指名して質問を出して きた場合、監査役が独任制の機関であることを重視すれば、株主により指 名された C が説明しなければならないことになりそうである。事業甲は監 査役 C の担当外であるが、 C としては、担当の監査役 A から聴取したこと を基礎として事業甲の監査方法・結果を説明しなければならない。各監査 ( 2 5 ) 役は取締役の職務執行の全般を監査する義務を負っていることによる。 しかし、独任制の機関であることが「誰が説明すべきであるか j の問題 と直結しているわけではなく、議長は、事業甲の監査を担当した監査役 A ( 2 6 ) を指名し、 A に説明させてもよい。あるいは、株主から指名を受けた監査 役 C が概括的に説明したうえで、監査役 A が細目的事項を回答するという スタイノレも望ましい。 8 ドイツ株式法 131条 1 項によれば、株主の要求を受け、株主総会に おいて取締役会により会社の事務に関し解説が与えられる。そのことが議 事日程の目 的たる事項の適切な判断のために必要である場合に限られる 。 解説義務者および株主総会外での解説を強制する非訟手続の名宛人は、 ( 2 7 ) 会社である。会社の機関として取締役会が解説を与える。解説付与および 解説拒絶に関する決定は業務執行上の措置であり、定款または取締役会の 業務規程が別段の定めを設けていない限り、複数の取締役員は共同しての 8 6 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 み業務執行の権限を有する(株式法77条 1 項)。取締役会議長または取締役 員が株主総会において解説を与えている場合、他の取締役員による黙示的 な同意が推認される。 取締役員以外の者、たとえば株主総会議長、監査役員 (OLG C e l l eAG ( 2 8 ) 2005 , 438 , 440) 、取締役員・監査役員に対する損害賠償請求権の行使のた めの特別代理人 (LG M chen AG2008 , 794, 796) は、説明義務を負わない。 取締役会が取締役員以外の第三者(監査役員・従業員・弁護士)に説明を委 ねたり、第三者の陳述をもって自己の説明とすることも認められる (RGZ 167, 151 , 1 6 9;OLGC e l l eAG2005 , 438 , 440) 。 9 説明請求(質問)をなしうるのは、株主またはその代理人である。 会社法314条は株主の説明請求権を単独株主権として承認しており、定款 規定によっても、これを少数株主権としたり、たとえば 6 か月前から引き 続き株式を有する株主のみがこれを行使しうるように制限することはでき ない。また定款規定により、株主の説明請求を株主総会の承認決議にかか らしめるとか、質問に対して回答するか否かについて取締役が株主総会の ( 2 9 ) 判断を仰ぐようにするとともできない。 取締役等による説明は株主総会議場でなされるのであるから、総会に出 席することのできない株主は質問権を有しない。株主総会招集通知を受け ない株主として、①完全無議決権株式の株主、②当該総会における決議事 項の全部につき議決権行使することができない議決権制限株式の株主(会 社298条 2 項)、③自己株式の株主すなわち当該会社、④相互保有株式の株 主(会社308条 1 項本文括弧書、会社則 67条)、⑤単元未満株式の株主(会社 189条 1 項)が挙げられる。招集通知を受けない株主は株主総会に出席で きないと解することが自然であり、その場合、上記①~⑤の株主はすべて 質問権を有しないことになる。 もっとも、上記①および②の株主には質問権が認められるとする少数説 ( 3 0 ) も見られる。議決権のない株主といえども株主総会の構成員であり、ただ ( 31) 単に議決権だけが停止されていると理解すれば、①および②の株主も出席 取締役等の説明義務(服部) 8 7 ( 3 2 ) 権・発言権・質問権といったいわゆる総会参与権を有することになる。決 議事項(甲)につき議決権を行使することができない株主といえども、決 ( 3 3 ) 議の内容に関しては多大の利害関係を有するから、議案(甲)について発 言したり質問したりすることは認められてよいというわけである。これを 否定するにせよ、少なくとも報告事項については、①および②の株主にも 質問権があると解釈する余地はある。 しかし、招集通知を受けない株主は株主総会に出席することができず、 したがって報告事項も含め質問権を有しないと割り切って考えるべきであ ろう。 1 0 ドイツ株式法においても解説請求権は、第一義的には議決権の適切 な行使に資することを目的としているが、同時に(少数)株主権の行使に とっても意義を有するものと構成されている (BGHZ 160 , 385) 。解説請求 権者は、株主総会に出席する全株主である。株主の持株数や持株比率の如 何、あるいは議決権の有無には左右されない。議決権のない優先株式の株 主(株式法 139条)にも解説請求権が認められる (OLG S t u t t g a r tAG2011 , ( 3 4 ) 97) 。出資が株式法 134条 2 項の意味で完全に給付されていな くても、 ( 3 5 ) また 136条による議決権の排除が妥当する場合も同様である。会社に対す 93 , ( 3 6 ) る関係における形式的な株主地位の存在が基準となる。記名株式にあって は、株主名簿に株主として登録された者が会社に対する関係において株主 とみなされる(株式法 67条 2 項 1 文)。株主が議案の賛否を既に決心してい るときであっても、当該議案に関する解説請求権の行使は妨げられない (OLGDs e l d o r f AG1987, 21 , 22f) 。 解説請求権は株主の法定・任意代理人によっても行使される。任意代理 ( 3 7 ) 人の代理権の範囲は授権行為(委任契約)の解釈により定まるが、疑いが 残る場合には、境界設定の困難さを回避するため、当該株主総会における 議事日程のすべてに及ぶものと推定される H e i l b r o n nNJW1967, 1715, 1716) 。 (LG Kl nAG1991 , 3 8:LG 8 8 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 ) 597頁 。 4 1 0 2 ( ) 0 1 ( 江頭憲治郎『株式会社法第 5 版~ ) 1 1 ( 杉原光俊「質疑応答 J ~株主総会の実務相談』所収 (2012) 259 頁 。 ) 117頁。 1 1 0 2 ( ) 2 1 ( 大江忠『要件事実会社法 (2) ~ ) 3 1 ( 杉原 ・ 前掲注 (11) 248頁 。 ) 4 1 ( ~株主総会白書2012年版』によれば、会計監査人の出席状況と席の位置は次の 通りである(商事法務 1983 号 110頁) 。①入場あり 30 . 8% (議長側 15.2% 、株主側 9 . 8% 、 議場内の別席 5 .8%) 、②別室待機3 1. 4% 、③来場せず37. 1% 。 ) 5 1 ( 大江・前掲注 (12) 117頁 。 ) 6 1 ( 福岡真之介「動議 J ~株主総会の実務相談』所収 (2012) 301 頁 。 ) 7 1 ( 三谷/森・前掲注 (8) 256 頁 。 ) 8 1 ( 杉原 ・ 前掲注 (11) 259頁 。 ) 9 1 ( 松尾剛行「事前質問 J ~ Q&A 株主総会の実務』所収 (2012) 185頁 。 ) 0 2 ( 大江 ・前掲注 (12 ) 117頁。 ) 1 2 ( 三谷/森・前掲注 (8) 253頁 ) 2 2 ( 森本滋『注釈会社法( ) 3 2 ( 三谷/森 ・前掲注 (8) 267頁 。 9)141 頁 。 8 9 1 ~ ( 5) ) 杉原・前掲注 (11) 261 頁 。 4 2 ( ) 5 2 ( 森本 ・ 前掲注 (22) 141 頁 。 ) 6 2 ( 杉原 ・前掲 注 (11) 260頁 。 . 7 1Anm. 3 1 zKommentar , 2013 , S t e s e g n e i t k )A . g H t( i e l o g i r :G n ) Herrler , i 7 2 ( . 5 1 ) 監査役員の説明 義務 を肯定する見解もある 。 Trescher, DB1990 , 5 8 2 ( ) 末永敏和「説明義務の機能」民商法雑誌85巻 4 号25 頁。 9 2 ( ) 末永・前掲注 (29) 28頁は、 ①② に限らず、⑤の株主にも質問権を認める 。 0 3 ( ) 280頁 。 5 6 9 1 八木弘『会社法上巻~ ( ) 1 3 ( ) 17頁 。 8 6 9 1 ) 境一郎『注釈会社法 (4)~ ( 2 3 ( ) 末永・前掲注 (29) 27頁 。 3 3 ( ) 議決権 は、出資の完 全な履行をも っ て始まる(株式法 134条 2 項 1 文) 。 4 3 ( ) Hüffer , Aktiengesetz , 2.Aufl. , 1995, 5 3 ( 1Anm.4. 3 1 ) Herrler , S 6 3 ( S131Anm.3. ) 任意代理人によ る解説請 求は決 議事 項のみに及ぶと解されることもある 。 7 3 ( Eckardt , in:Geßler/ Hefermehl/ Eckardt / Kropff , AktGKommentar , 1973 , S131Anm.19. 取締役等の説明義務(服部) E 8 9 説明義務の範囲および程度 1 株主は株主総会の目的事項に関連する「特定の事項J について説明 を求める必要があり、一般的・抽象的な質問に対しては、取締役等の説明 ( 3 8 ) 義務は生じない。株主の質問内容が決議事項・報告事項と関連性を有して いるからといって、詳細にわたりすべて説明義務が生じるわけではない。 質問が会議の目的事項に関するものであることという要件(会社 314条)は、 関連性の有無のみならず、議題に関し株主が判断をなすためにそこまで詳 しい説明が客観的に必要か否かの観点からも判断される。 原告(株主)が質問を継続している途中で、議長が質問を打ち切り、他 の株主の質問に移行させたとして、株主総会決議の取消(決議方法の著し い不公正)が求められた。東京地判平成 10年 9 月 7 日資料版商事法務 198 号254頁(富士銀行事件)は、原告が約20分にわたり計算書類の付属明細書 中の営業経費に関する質問を継続しながら、使途不明金について、存在し ない旨の回答を受けた後も、これに納得せず、議論に及ぶに至った状況下 で質問が打ち切られたものと認定したうえで、原告は既に質問の回答を得 ているから質問権を害されておらず、他方で、他の株主の質問の機会を確 保する必要もあることを考慮すれば、議長による適正な範囲内の議事整理 権の行使であったと判示し、決議取消請求を棄却した。 株主は質問権を有するが、(当該株主が)主観的に納得できる回答を得る まで質問を継続する権利までを有するわけでないことは、勿論である。 2 報告事項については平均的な株主が当該事項を合理的に理解できる 程度に、また決議事項については平均的な株主が当該議案に関し賛否の判 断をなしうる程度に説明が行われたと評価できるならば、取締役等は説明 義務を尽くしたことになる。 質問事項に関する説明の範囲程度の判断は個別事案につき、相対的に、 合理的な平均的株主の立場を基準になせば足りる(大阪高判平成 2 年 3 月 9 0 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 30 日判例時報 1360号152頁)。すなわち説明義務は、平均的株主が目的事項を 理解し決議事項につき賛否を決して議決権を行使するに当たり、合理的判 断をするのに客観的に必要な範囲において認められる(福岡地判平成 3 年 5 月 14 日判例時報 1392 号 126 頁) 。 3 質問株主が平均的株主よりも豊富な知識や判断材料を有している場 合には、どう考えるべきであるか。 Y 会社(日本交通、本店松江市)の株主総会において原告株主 X(社名は Y と同じ「日本交通」、本店大阪市)が質問権を行使したのに、 Y が説明義 務を尽くさなかったとして、総会決議の取消が求められた。 Y は元々は X の子会社であり、現在でも、 X は Y の発行済株式総数の 20.8% を保有して おり、両社は同一商号で同じサービスマークを用い同種営業を営んでいる。 松江地判平成 6 年 3 月 30 日資料版商事法務 134号 100頁は、 X がなした ry と関連会社との年間取引額及び取引内容についての会社別の明細」の質問 に対し、 Y の取締役が何ら回答しなかった点は説明義務違反であり、これ は計算書類承認決議につき決議方法の法令違反を招来するとしつつも、暇 庇の程度は軽微であり、かっ暇庇は決議結果に影響を及ぼさなかったとし て、取消請求を裁量棄却した。 X は、 Y には平均的株主は存在せず、(豊 富な知識を有する)株主 X を基準として説明義務を(広範に)画するべきこ とを主張していた。しかし本判決は、質問株主が平均的株主より多くの知 識を有していることが明らかな場合には、そのことを前提に説明を簡略化 して差し支えないとした。 広島高松江支判平成 8 年 9 月 27 日資料版商事法務 155号47頁は、 X の控 訴を棄却した。平均的株主基準について、控訴審判判決は次の 2 点を付け 加えている。①平均的株主は、実在する株主の平均を意味する概念ではな く、取締役の当該説明が客観的に説明義務の履行に当たるか否かを判断す る基準としての概念である。②説明義務は株主の合理的な判断に必要な情 報を提供するという目的のための手段であるから、質問株主が会議の目的 事項について合理的な判断をするために必要な情報を得ている場合には、 取締役等の説明義務(服部) 9 1 もはや当該株主に対して説明する必要がない 。 質問株主の知識・能力が高いからといって、当該株主との関係において、 説明義務の範囲が拡張したり高度化したりするわけでは勿論ない 。 平均的 株主基準の役割は、特定の株主が客観的に必要な範囲・程度を超えて詳細 な説明を求めてきた場合に、取締役等の説明義務違反を否定するところに ( 4 0 ) 求められる。 Y 会社の株主構成は、 X 派と Y を支配する T 派とに分かれており、両派 のいずれにも属しない一般株主が存在していたか否かは不明である。知識・ 能力の高い特定株主の質問に対しては、取締役等の説明を簡略化しうると すれば、他の一般株主には当該説明が十分理解できないケースも存在する であろう。質問株主に理解しうる説明がなされている以上、当該説明が他 の一般株主には十分理解できないものであるからといって、それが直ちに 説明義務違反になるわけではない。もとより一般株主としては、「平均的 株主をして適正知識水準に到達させる範囲・程度の説明」を、取締役等に 対し再度求めることができる。適正知識水準とは、平均的株主が決議事項 について合理的な理解および判断(議案の賛否)を行い得る状態をいう。 取締役の説明が質問株主をして適正知識水準に到達させるものであれば、 説明義務が尽くされたといえる。質問株主に対する回答(説明)を平均的 株主が理解できるか否かは、副次的な考慮要因にとどまる 。 4 株主 X( 投資ファンド)が、 Y 会社(東京スタイル)の株主総会にお いてなされた第 4 号議案(取締役選任議案)、第 5 号議案(監査役選任議案)、 第 6 号議案(退任取締役への退職慰労金贈呈議案)、および第 7 号議案(退任 監査役への退職慰労金贈呈議案)について、 Y の取締役および監査役の説明 義務違反を主張して、各決議の取消を求めて訴えを提起した。 東京地判平成 16年 5 月 13 日金融商事 1198 号 18頁は、本件株主総会に出席 した時点で X が有していた Y に対する知識・情報の内容や総会における審 議の内容をも考慮した上で、いずれの決議についても Y の取締役および監 査役として必要な説明義務は尽くされていたものと判示し、 X の請求を棄 9 2 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 却した。なお本判決は、 Y の議長による総会の議事運営について、株主の 質問を打ち切りあるいはこれを無視した点において不公正さを否定できな いと認められるものの、これが本件各決議を取消すことを認めるに足りる ほどの著しい程度にまで達してはいないとした。 Y 株式 1000株を保有する株主 X は、内外の有価証券等に関する投資顧問、 情報提供サービス業を営んでおり、 Y の筆頭株主 s び Y の第 5 位株主 M( 持株比率4.16%) (持株比率9.65%) 及 との間で締結した投資一任契約に 基づく運用者でもある。 X は Y に対して事前質問状を送付しており、その 中で、有価証券保有割合が Y 総資産の 43% に達していることを指摘した上 で、有価証券評価損に係る責任についての Y の考え、 Y における有価証券 投資に係る全体のポートフォリオ、資産運用に係る社内規程等、取締役会 による社長 T(在任期間 24年)の職務執行の監視機能等に関する質問がさ れていた 。 総会議長である代表取締役社長 T は、専務取締役 B による一括回答の後、 株主からの質問を受け付け、有価証券の含み損等につき説明を行った(所 要時間 30分)。その後は、各議案について議案説明後に質問を受け付け、 審議および採決が行われた 。 5 東京スタイル事件判決は、日本交通事件判決と同様、部分的に質問 者基準を用いている。すなわち「質問株主が既に保有する知識ないしは判 断資料の有無、内容等をも総合的に考慮して…・・・・ ・ ・平均的な株主が議決権 行使の前提としての合理的な理解及び判断を行い得る状態に達しているか 否かが検討されるべきである。 . .... . ...質問株主が平均的な株主よりも多く の知識ないしは判断資料を有していると認められるときは、そのことを前 提として、説明義務の内容を判断することも許される。 J (前掲金融商事 1198 号29頁)。 日本交通事件では株主 7 名の閉鎖会社において総会質問事項について全 株主が既知であったと推測され、平均的株主基準は勿論、全株主基準によっ ても説明義務は尽くされたと結論づけられたはずであり、その意味で質問 取締役等の説明義務(服部) 9 3 者基準(知識豊富な質問株主に対する説明は簡略化しうる)は傍論にとど ( 4 2 ) まる。東京スタイル事件で、も、 X の質問がなされる以前に、既に平均的な 株主が合理的な理解および判断をなしうる状況にあったとすれば、簡略な 説明を正当化する根拠として、質問株主に豊富な知識や能力を持ち出す必 ( 4 3 ) 要はなかったとも言える。以上は、平均的株主基準を貫徹すべしとの立場 からの議論である。他方、平均的株主基準を否定し、豊富な知識や高い能 力を有する株主の質問に対しては、詳細かっ高度な説明が必要になるとい ( 4 4 ) う趣旨で、質問者基準が説かれることもある。私見は、本章 3 で述べたよ うに、取締役の説明は質問株主をして適正知識水準(平均的株主が合理的 な理解および判断を行いうる状態)に到達させるものであることを要すると 考える。質問株主の知識や能力が高ければ、相対的に簡略化した説明によっ て質問株主は適正知識水準に到達することができる。 6 東京スタイノレ事件において原告株主 X が取消を求めた 4 件の決議の 中で、最も問題を含む第 5 号議案 (K を Y の監査役に選任する旨の議案)の 審議及び採決の経過について検討する。第 4 号議案の可決後、株主 R (X の代表取締役社長、 1000株保有)、株主 N (X の監査役、 1000株保有 ) 、株主 D (X の投資担当者、 1000株保有)、株主 H (X の副社長 、 1000株保有)が第 5 号 議案について質問を求めていたところ、議長 T は、そのまま採決に入り、 第 5 号議案は賛成多数により承認可決された。 説明拒否事由が存在しないにもかかわらず、株主の質問に対して全く何 も説明しなければ、それは説明義務違反に該当する。取締役の説明義務は 株主総会における株主からの具体的な質問により説明を求められて初めて 生ずるものであるとすれば(東京高判昭和 61 年 2 月 19 日判例タイムズ 588 号96 頁)、株主に質問の機会を与えなかったり、株主からの質問を受付けなかっ た場合は、原則として説明義務違反でなく、むしろ総会議長の議事整理権 (会社315条)行使の不適切・不公正が問題となる。 第 5 号議案の審議において数名の株主が質問ありと発言していたにもか かわらず、議長 T はこれを無視したのであるから、具体的な質問が一切な 9 4 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 されていない。しかし本判決は、株主から質問の意思表明がなされた時点 で、取締役が質問の内容を予測できた場合であれば、説明義務の問題が生 じ得るとする(前掲金融商事 1198 号31 頁)。本件に即していえば、議長 T が 特定の質問(監査役候補者 K が本件有価証券投資の当時 Y の取締役であったこ とから、監査役としての適格性に関する質問)をしそうな株主を、敢えて指 名しなかった場合には、質問前であるにもかかわらず例外的に説明義務の 問題になるというわけである。事前質問状が予め送付されていた場合、総 会で当該株主から質問の意思表明がなされた時点で、通常、取締役は質問 の内容を予測できたといえよう。 X は、 Y に対し、取締役会議事録の閲覧、保有有価証券の開示を請求し、 当該情報の開示を受け、 Y 保有の有価証券の取得価額等に加えて、 Y がM 関連債による 40億円の損失計上を行ったこと、新たに U 銀行出資の特別目 的会社の優先株式を 100億円取得したことを認識し、 M 関連債40億円、 N ファンド 50億3000万円、 S 株式41億3000万円の各取得に当たり、いずれも Y 取締役会決議を経ていないことについても知悉していた 。本件 で X は、 Y の杜撰な有価証券投 資を暴露・意見表明する意図で質問しよう として いた。 本判決は、監査役候補者 K の適格性を判断するために必要な具体的事項 の内容は決議時点で明らかにされており、平均的株主を前提とする限り、 第 5 号議案の決議について合理的な理解及び判断を行うために必要な事項 の説明はなされていたとして、個別的な審議が行われなかった事実が取締 役の説明義務違反を構成するとまでは言えないと結論づけた(前掲金融商 事 1198 号 32 頁)。 質問がなされる以前に平均的な株主が合理的な理解及び判断を行いうる 状態に達していたからこそ、説明義務違反が否定されると指摘されること ( 4 8 ) もあるが、本判決は、平均的株主がそのような状態に達していたことを少 くとも明示的には述べていない。「質問株主としては、本件投資に係る監 査役候補者の適格性について平均的な株主が判断するのに十分な資料を有 取締役等の説明義務(服部) 95 していた」とする判示は、平均的株主が合理的判断をなすに必要な知識・ 資料を、質問株主が既に有していた趣旨を述べるにとどまる。論者によっ て、平均的株主を基準として用いる局面および手法に相違があることに留 意する必要がある。 本判決は、第 5 号議案を含め 4 件の各決議について説明義務違反を否定 したが、説明義務違反としつつ、決議方法が著しく不公正とまではいえな いとして、決議取消請求を棄却することもできた。説明義務違反が法令違 反として決議取消事由を構成するとしても、裁量棄却により同様の結論を 導くことができる。 7 定時株主総会 (2013年)において実際に株主から発言がなされた質 問事項を比率の高い順に並べると、経営政策・営業政策、配当政策・株主 還元・財務状況、 リストラ・人事・労務、子会社・関連会社関係、株価動 向、役員報酬・賞与・退職慰労金、クレーム・事件・事故、株主総会の運 ( 4 9 ) 営方法、内部統制状況・リスク管理体制となる。 経営政策に関する質問が事業報告の内容(会社則 118条以下)のいずれか と関係するものであれば、取締役等は説明を拒否することができない。事 業報告は、平均的株主にとって、そこに記載されている事項自体で会社の 事業を合理的に理解する上で必要な情報は与えられる前提で立法化されて おり、したがって、事業報告およびその附属明細書の開示情報を敷街・補 足する説明を行えば足りる。 取締役の報酬議案を提出する場合、報酬の算定基準、既に定められてい る報酬を変更する場合には変更理由、対象取締役の員数が株主総会参考書 類に記載される(会社則 82条 1 項 1 号 '"'-'3 号)。退職慰労金については、退 職する各取締役の略歴が、また議案が一定の基準に従い退職慰労金の額を 決定することを取締役、監査役その他の第三者に一任するものであるとき は、その一定の基準も(但し、各株主がその一定の基準を知りうるための適 切な措置が 講じられ ている場合はこの限りでない)、株主総会参考書類に記載 される(会社則 82条 1 項 4 号、 2 項)。監査役の報酬議案についても、上記 6 9 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 とほぼ同様である(会社則84条)。 役員報酬議案が提出されない株主総会であっても、当期に係る取締役お よび監査役それぞれの報酬等総額と員数が、また役員報酬額・算定方法の 決定に関する方針を定めているときは、当該方針の内容および決定方法の 概要も、事業報告に記載される(会社則 121条 3 号 "-'5 号) 。 役員報酬に関す る質問が上記事項と関連するものであれば、取締役等の説明義務がこれに 1) 5 ( も及ぶが、そこでも事業報告および附属明細書の記載事項を敷街・補足す る程度の説明をすれば足りる 。 8 ブリヂストン Y の定時株主総会 (1987年 3 月 30 日)において、第 4 号議案が、「取締役 9 名、監査役 1 名に対し、当社所定の基準に従い相当 の範囲内で退職慰労金を贈呈する 。 贈呈の金額、時期、方法等は退任取締 役については取締役会に、退任監査役については監査役の協議にそれぞれ 一任する」との内容で、可決された 。 Y の退職慰労金内規は本店に備え置かれ、閲覧に供されていた 。 内規に よれば、退任取締役の各職位(取締役会長・副会長・社長・副社長・専務・ 常務など)在任月数に応じ月額報酬の 60% を累計して基本退職慰労金とし、 在任中、特に功労のあ っ た場合、それの 3 割を限度として功労加給金を決 定・支給するものと定められていた 。 出席株主から「せめて金額でも明示することはできませんか」との発言 があったが、議長は「金額は個人にかかわる問題であるから、できませんj と回答するのみで、採決の手続に入 っ た。 X は取締役等の説明義務違反が あると主張し、総会決議の取消を求めた。 Y は、①具体的金額は総会段階 では明示不可能か、調査しなければ説明できないものであるから、明示の 拒絶には正当な理由がある、②支給基準の内容等は予め内規を閲覧してい れば判然とすると主張した 。 東京地判昭和 63年 1 月 28 日判例時報 1263 号 3 頁は、説明義務違反(決議 方法の法令違反)を理由に、第 4 号議案承認決議を取消した。判旨の概要 は次の通りである。株主総会が退職慰労金贈呈決議をするには、自ら支給 取締役等の説明義務(服部) 9 7 金額または最高限度額を決定するか、明示的・黙示的に支給基準を示した 上で当該基準に従った具体的金額を取締役会に決定させる(監査役の協議 に 一任する)ことが必要である 。 支給基準を定めて取締役会等に一任する 際には、それが株主の利益に反しない理由として、③一定の確定された支 給基準が存在すること、⑥支給基準は株主に公開されており周知のもので あるか又は株主が容易に知りうること、。基準内容が支給額を一意的に算 出できるものであることについて説明しなければならない 。 具体的金額の明示に調査が必要であるにせよ、調査を必要とする理由と、 総会の場で明示しなくとも株主の利益に反しない理由とを説明する必要が ある 。 株主の質問事項は内規を予め閲 覧 すれば知りえたことであるにせよ、 質問があれば、上記③⑥⑤の内容を説明する必要がある 。 第一審判決により取消された決議(第一の決議)のされた株主総会の翌 年の定時株主総会において、 Y は再度同じ内容の退職慰労金贈呈議案を上 ( 5 2) 程し(但し、今回は総金額を明示した)、これを決議した(第 二 の決議) 。 第 二 の決議は、第一の決議の取消が確定した場合に、遡って効力を生じるも のとすると明示していた。東京高判昭和 63年 1 月 28 日判例時報 1297 号 126 頁は、第二の決議が有効に成立している現在においては、 X による第一の 決議の取消を求める本件訴えの利益は消滅するに至ったと判示し、原判決 の主文第二項 1 の部分を取消し、 9 X の訴えを却下した 。 (株)ヤマトマネキン Y の定時株主総会において、創業オーナーた る取締役 A の死去に伴い、退職慰労金 9000万円を贈呈し、支払時期・方法 は取締役会に 一 任する旨の議案が承認可決された 。 株主 x (y の元常務) が上記金額の算出根拠を質問したととろ、取締役 B は、従業員退職金規定 による換算退職金の 2 倍を基礎に A の功労を考慮し決定したと説明した。 X は計算式及び基準の説明を繰り返し求めたが、議長は質疑を打切り採決 の手続に入った 。 X は、説明義務違反を理由に決議取消を求めた 。 京都地判平成 1 年 8 月 25 日判例時報 1337号133頁は、議案自体に退職慰 労金の具体的金額が明示されていれば、計算式・根拠についてまで説明義 8 9 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 務はないとして、 X の取消請求を棄却した 。 大阪高判平成 2 年 3 月 30 日判 例時報 1360号 152頁は、具体的な退職慰労金額を明示した議案が提出され た場合は、一義的基準、計算式の提供がなくても、取締役の功労、業績評 価をなしうるに足る略歴、功績に関する情報が与えられれば、右金額の賛 否(修正)の判断は十分に可能であると判示して、 X の控訴を棄却した 。 Y は、株主総会前に、 A の退職慰労金を 9000万円とする理由を説明すべ く、 A の経歴および功績の概要を記載した参考資料を株主に予め配付して いた 。 Y の元常務取締役であり退職慰労金決定前例を熟知していた X に とっては勿論、一般株主にとっても本件議案に対する賛否の合理的判断は 十分に可能であ っ た 。 具体的金額を明示した議案である以上、一義的基準 や計算式の説明は不要である 。 0 1 南都銀行 Y の定時株主総会において、退任役員 5 名(取締役 4 名、 監査役 1 名)に対し、「当行の定める 一定の基準に従い相当額の範囲内で退 職慰労金を贈呈することとし、その具体的金額、贈呈の時期、方法等は退 任取締役については取締役会に、退任監査役については監査役の協議に一 任する」旨の議案を承認する旨の決議がなされた 。 株主 X が「基準ではな く金額を明確に公表せよ」と発言したところ、 Y の専務取締役 B は、「算 出基準は基礎額と乗数と在位年数を乗じて計算しており、それぞれについ ては役員会で決定させていただきたい」と説明した。議長 A は、議場で質 疑の打切りを諮 っ た上で、 採決の手続に入った 。 X は、説明義務違反を理由 に決議取消を求めた 。 Y は、① X は金額公表を要求するのみで算出基準の 説明を拒んでいたから、取締役が積極的に算出基準について説明すべき義 務はない、② Y は役員退職慰労金規程( 書面)を本店に備え置き、株主の 閲覧に供していると主張した。 奈良地判平成 12年 3 月 29 日金融商事 1090 号20 頁は、具体的金額が想定で きないばかりか、その額が数置を代入すれば一義的に算出されうるものか どうか判断しえず、十分な説明がされたと認められないと判示し、決議方 法の法令違反として本件決議を取消した 。 Y の上記主張①については、 X 取締役等の説明義務(服部) 9 9 が金額の公表を求めていたとしても、少なくとも、金額を一義的に算出で きる基準の存在を説明すべきであったと判示され、主張②については、役 員退職慰労金規程を Y 本店で閲覧できる状態にあることを各株主に対する 招集通知に記載するか、少なくとも、 X から質問を受けたときに、本店備 え置きの規程を閲覧することで支給額を算出しうる旨を説明すべきであっ たと判示された。 Y には支給基準が存在し、専務取締役 B は基準の概要を説明しているが、 ③基準が閲覧可能であること、及び⑥基準内容が支給額を一義的に定め得 ることの説明が不十分であったことから、説明義務違反があると判断され たものといえよう。 1 1 前掲東京スタイル事件で、は、退任取締役に対する退職慰労金贈呈(第 6 号議案)決議についても、 X は取消を求めている 。株主 N(X の監査役)が、 Y の有価証券投資に関する当時の取締役の職務執行(監視義務の履行状況) を質問しており、これについて議長 T (Y の代表取締役)が説明している。 本判決は、一般論として、支給基準に関する質問があった場合は、確定 基準の存在、基準の周知性(閲覧可能なこと)、基準内容が支給額を一意的 に定め得ることを説明しなければならず、また退任取締役の職務執行状況 に関する質問があった場合には、取締役の略歴に敷桁して、その業績、従 来の職務執行状況など、平均的株主が合理的な判断を行うため必要な事項 を付加的に明らかにしなければならないとする 。 株主 N の質問後に株主 S (X の従業員)が質問を求めたが、議長 T はそ れを許可せず第 6 号議案の採決に移行した。株主 S は、退職慰労金の総額、 個別額および支給基準について質問を予定していたと主張する。本判決は、 有価証券投資に関する監視義務の履行状況については既に説明が行われて おり、退職慰労金の算定根拠に関する質問がなかった (X は第 6 号議案に 賛成すると態度表明しており、 Y の取締役において、株主 S が 総額、個別 額お よび支給基準につき質問を行うとは予測できなかった)から、議長 T が株主 S の質問を受付けないまま採決に移行しても、説明義務違反を構成しない 0 0 1 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 とした。 支給基準について質問しそうな株主 S を議長 T が敢えて指名しなかった 場合は、質問前であるにせよ例外的に説明義務が生じるとする考え方に依 拠した判示といえる。本件は例外に該当せず支給基準に関する説明義務は そもそも生じていないことになるわけであるが、本判決は念入りに次の諸 点も挙げている。 X は、 2 年前の定時株主総会で支給基準について質問し、 議長 T が具体的に答えていた 。また 1 年前の定時株主総会では、 X は予め 退職慰労金規程の閲覧請求をし、これに Y が応じていた。 2 Y 1 (インターネットナンバー)の株主総会および種類株主総会におい て、全部取得条項付種類株式制度を利用して Y を G (GMO メディア)の 完全子会社とするため合計 4 個の議案が、 G らの賛成多数により可決され、 その結果、少数株主 X ら(持株比率 15%) は Y から締め出された。 X らは、 説明義務違反(決議方法の法令違反)を理由に各決議の取消を求めた。株 主からの iG が資本欠損会社であるか、 か」とする質問に対して、議長は、 Y の親会社としての適格性がある iG の純資産、親会社としての適格性 については、議題に関係がないので、回答を差し控える」と応じた。 東京地判平成22年 9 月 6 日判例タイムズ 1334号 117頁は、取締役の説明 の一部に説明義務違反があること (G の財務状況は本件議案を合理的に判断 するのに客観的に必要な範囲に含まれる)を認めながらも、① Y が G の完全 子会社となる理由、②完全子会社化のために全部取得条項付種類株式を用 いること及びその具体的手続、③完全子会社化により Y から排除される株 主が受ける金員の額、その根拠について、平均的株主が各議案を合理 的に 判断するのに必要な範囲の説明はなされていたことから、違反事実が重大 でなく、かっ決議に影響を及ぼさないとして、決議取消請求を裁量棄却し た。説明義務違反を法令違反として当然に決議取消事由とするよりも、説 明義務違反により決議方法が著しく不公正と認められる場合にはじめて決 議が取消されると柔軟に解釈することが妥当と思われる。 取締役等の説明義務(服部) 101 ( 3 8 ) 角田大憲「取締役等の説明義務 J W 論点体系会社法 2~ 所収 (2012) 494頁 。 ( 3 9 ) 江頭・前掲注 (10) 352頁。 ( 4 0 ) 得津晶「既知事項質問に対する取締役の説明義務と議長の議事運営」ジュリ スト 1312号 164頁。 ( 4 1 ) 専務取締役 B の回答時間は約 13分であった 。 ( 4 2 ) 得津 ・ 前掲注 (40) 167頁 。 ( 4 3 ) 家田崇「判例研究」判例タイムズ 1197号78頁 。 ( 4 4 ) 末永 ・ 前掲注 (5) 105頁 。 ( 4 5 ) 家田 ・ 前掲注 (43) 82頁。 ( 4 6 ) 得津 ・ 前掲注 (40) 166 頁。 ( 4 7 ) 得津・前掲注 (40) 167頁。 ( 4 8 ) 家田 ・ 前掲注 (43) 8 1 頁、三谷/森 ・ 前掲注 (8) 259頁 。 ( 4 9 ) W株主総会白 書2013年版』商事法務 2016 号 120頁 。 ( 5 0 ) 大江 ・ 前掲注 (12) 122頁、杉原・前掲注 (11) 252頁 。 ( 51 ) 杉原 ・ 前掲注 (11) 253頁。 ( 5 2 ) 退任取締役 8 名に対して合計金 3 億 5950万円、退任監査役 1 名に対し金 3978 万円とされる。 ( 5 3 ) 鈴木竹雄「株主総会の運営に関する諸問題」商事法務 925 号 4 頁 。 N 1 説明拒絶の正当な理由 株主総会の目的である事項(決議事項および報告事項)に関しない質 問については、取締役等は説明を拒否することができる(会社314条但書)。 東京建物 Y の株主総会において株主 X は、①株主総会のあり方、及び② M が Y に委託したピルの設計管理の仕事に関して、予め質問状を提出して いた。なお X はM の代表者であり、 M が Y に委託した仕事に関し不満を有 していた。 Y の取締役は質問状に一括回答したが、 X は説明義務違反を主 張し、決議取消を求めた。東京地判昭和 60年 9 月 24 日判例時報 1187号 126 頁は、①の事項については説明義務が尽くされたと認められ(取締役は改 正法の趣旨を十分に配慮して総会を運営していくと回答) 、 ②の事項は会議の 目的たる事項に関しない(説明義務がない)と判示して、 X の請求を棄却 1 0 2 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 した。営業取引上の問題に関する質問であっても、それが報告事項の内容 の的確な理解や決議事項の合理的な判断に必要なものであれば、説明義務 がある。本判決は、質問状の提出により説明義務が発生するとの理解を前 提としているようにも推測される。 東京高判昭和 61年 2 月 19 日判例時報 1207号 120頁も、 X の控訴を棄却し た。上記②は会議の目的たる事項に関しない。控訴審判決は、原判決と異 なり、予め質問状が提出されていても、総会で質問がされてはじめて説明 ( 5 4 ) 義務が発生することを明らかにした。多数の質問状に対し一括説明する際 に、質問者の氏名を明らかにしなくても、何ら説明義務を尽くさなかった ことにはならない。 2 ゴノレフ場の新規造成・建設に伴う許認可手続、コース設計業務の委 託を受けている甲会社の株主総会において、委託者である乙会社の前オー ナーと現オーナーとの間の争いに関し質問することは、会議の目的たる事 項に関しないものである(東京地判平成 8 年 10月 17 日判例タイムズ 939号227頁)。 前章 12 のインターネットナンバ一事件においては、出席株主から第三者 機関 (KPMG 及びアタックス)による株価算定書及び第三者機関に交付し た算定の基礎資料の開示が求められたが、裁判所は、それは平均的株主が 会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲に含まれない とした。 1 株当たり 70 円という金額の算出方法ないし根拠について、議長 により具体的に説明されていることが理由とされている(前掲判例タイム ズ 1334号 128 頁)。株主 X が前年に甲野 (y の取締役会長兼 GMO グ、ノレープの 代表)に対し Y 株式を 1 株当たり 700 円で買うと申し出た際に拒絶した理 由についても質問されたが、回答は差し控えられた。裁判所は、過去に行 われた株主聞の売買交渉の内容は、平均的株主が会議の目的事項を合理的 に判断するのに客観的に必要な範囲に含まれないとした(同 129頁)。 第 2 章 3 で述べた通り、手続的事項は会議の目的事項とは異なるとして も(前掲金沢地判昭和 62年 9 月 9 日)、会議体の一般原則に従い、株主から 総議決権数、定足数および出席株主等について質問が出されれば、議長は 取締役等の説明義務(服部) 1 0 3 これに回答しなければならない。 3 製品の製造コストや新製品の開発・企画、販売戦略など会社の企業 秘密(大阪地判平成 1 年 10月 4 日資料版商事法務68号111頁)とか係属中の訴 訟の詳細については、その説明をすることにより株主の共同の利益を著し く害する(会社の企業価値を低下させる)のであれば、そのような質問に対 する説明を取締役は拒むことができる 。 「株主の共同の利益」という文言は、 株主と会社という対抗軸を設定することは適当でないとして考慮されたも のであり、これは実質的には 「 会社の利益J ( 55) を意味するという 。 回答する ことにより取締役の民事責任が問われるからといって、説明を拒めない 。 濫用または加害の意図を全く有しない株主による善意の質問であって ( 56) も、それに回答することが会社の利益を害するならば説明を拒める 。 不用 意な説明をすることにより会社の利益を害したときは、取締役は責任を問 われることなる 。 その意味で、説明を拒絶しうるにとどまらず、拒絶しな ( 5 7 ) ければならない場合も存在する。 4 調査を要する質問に対しては、説明を拒絶することができる(会社則71 ( 5 8 ) 条 1 号)。株主総会終了後に調査をして、質問株主に後日回答する義務もない。 総会会日の相当期間前に質問事項を会社に通知した場合には、調査が必 要であることを理由としては、説明を拒絶できない(会社則 71条 1 号イ)。 総会目的事項に関しないとか、株主共同の利益に反することを理由として 説明を拒絶できることは、勿論である 。 通知が相当期間に不足している(当 該質 問の調査に必要な時間を確保できない)とか、調査に過大な 費用や労力 ( 5 9) を要する場合にも、説明を拒絶することができる 。 口頭で質問が告げられ たり会社のウェブサイトに質問が書き込まれた場合にも事前の通知があ っ たことになりうるが(通知内容が不明確ならば 事 前通知したことにならない)、 定款またはその授権に基づく株式取扱規程等により、通知方法を 書面によ ることと定めることも認められる 。 株主総会の会場で手持資料を見たり在席担当者に聞いたりすることによ り直ちに説明することができる(事後的な事情を加味しない)ならば、説明 4 0 1 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 に必要な調査が著しく容易である場合(会社則 7 1条 1 号ロ)といえるので、 調査が必要であることを理由としては説明を拒絶できない。 5 株主の質問に対して説明することにより株式会社その他の者(当該 株主を除く)の権利を侵害することとなる場合(会社則 7 1条 2 号)にも、説 明を拒絶できる。説明により第三者の名誉・信用を毅損したり、プライパ シーを侵害したり、営業秘密を漏洩することになれば、会社は損害賠償請 求を受けることになってしまう。会社の権利を侵害する場合は、通常、株 主の共同の利益を著しく害する場合にも該当する。質問株主が自己の権利 侵害を受忍して説明を求めるケ ー スでは、権利侵害は説明拒絶の正当事由 とはならない。 同一事項の繰返し質問に対しては、議長がその発言を制止しうるが、議 長による議事整理権の行使がなくても、取締役等は説明を拒絶できる(会 社則 71条 3 号)。 会社関係者である取締役から重要事実の伝達を受けた情報受領者も、会 社関係者と同様に、インサイダー取引の規制対象とされ(金商 166条 3 項)、 重要事実の公表後でなければ、当該上場会社の特定有価証券等に係る売買 等をしてはならない。株主総会において質問の回答を受ける出席株主も情 報受領者に該当する。未公表の重要事実に関する質問に対しては、インサ イダー取引の誘発を防止するため、説明しないことにつき正当な理由があ る場合として(会社則 71条 4 号) 、 説明を拒絶できる。 ) 最判昭和 61年 9 月 25 日資料版商事法務 31 号 18頁も、 X の上告を棄却した。 4 5 ( ) 稲葉 ・ 前掲注 (2) 409頁。 5 5 ( ) 三谷/森・前掲注 (8) 263頁 。 6 5 ( ) 大江 ・ 前掲注 (12) 132頁。 7 5 ( ) 三谷/森 ・ 前掲注 (8) 263 頁 。 8 5 ( ) 大江・前掲注 (12) 133頁。 9 5 ( ) 三谷/森 ・ 前掲注 (8) 264頁 。 0 6 ( ) 489 頁。 6 0 0 2 ) 相津哲/葉玉匡美 /郡谷大輔『論点解説新会社法~ ( 1 6 ( ) 大江 ・ 前掲注 (12) 135頁、角田・前掲注 (38) 504頁。 2 6 ( 取締役等の説明義務(服部) V 1 0 5 説明義務の履行方法 事前質問書の通知は、調査の必要性を理由とする説明拒絶を封じる (会社則 71条 1 号イ)。平成24年度の株主総会においては書面質問なしの会 社が 92.7% (1845社中 1710社)を占めており、 書面質問があった 134社の内 訳は、(ア) 1 問 1 答によって会社29社、(イ)一括回答によった会社80社、 (ウ)当日株主欠席のため回答しなかった会社22社、(エ)その他 8 社(重 複回答)となっている。(エ)の中には、株主宅へ出向いて説明というもの ( 6 3 ) が見られる。 取締役等の説明義務は、株主総会において株主から特定の事項について 説明を求められた場合に生ずるものであり、株主が事前質問書を会社に提 出していても、株主総会で質問がない限り、取締役等がこれについて説明 する義務を負うものではない。事前質問書提出株主が株主総会当日に欠席 した場合、他の株主から同一の質問がなされない限り、当該事項について 説明義務は生じない。 いわゆる一括回答は、株主総会における株主の質問に対する説明義務の 履行としてされたものということができず、予め一般的説明をしたという にとどまる(東京地判平成 1 年 9 月 29 日判例時報 1344号 163 頁)。このような 一括回答の法的性格から見て、取締役等は説明の対象事項を取捨選択する ことができ、自己の通知した質問事項に対する説明が一括回答から漏れた 株主は、議長から発言の許可を得て質問すべきことになる。 2 事前質問書を提出して株主総会に出席した株主が、一括回答におい て自己の通知した質問事項につき説明を受けなかったために改めて質問の 意思表明(挙手)をしたが、議長に指名されなかった場合はどうか。東京 電力決議取消訴訟事件において原告株主は、自己が質問の意思表明をした 時点で質問権の行使があったものとみなし、事前質問書に記載した事項の ( 6 4 ) 全部について説明義務が生じると主張した。しかし東京地判平成 4 年 12 月 1 0 6 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 24 日判例時報 1452 号 127頁は、議長に指名されないため結局その質問をし なかった場合についても、当該事項について質問があったとはいえず、こ れに対する説明義務は生じないとした。挙手している株主甲の質問内容を 容易に予測できたからこそ、議長が敢えて甲を指名しなかったような場合 には説明義務の問題が生じうる。多数の株主が質問の挙手をしている場合 であっても、必要な質問が出尽くすなどして、それ以上もはや議題の合理 的判断のために必要な質問が提出される可能性がないと客観的に判断され るときには、議長は質疑応答を打ち切ることができる。 3 Y HOYA 事件において、原告株主 X は 111項目から成る事前質問書を (HOYA) に送付していた。 X は株主総会で執行役の解任に関する指名 委員会の基準の有無を質問したところ、議長から、質問に相応する具体的 な説明がなされた(第 2 章 4) 0 x は、総会当日も会場で事前質問(残り 110項目)の回答を求め何度も挙手したのに議長から無視されたのであり、 これは説明義務違反に当たると主張した。しかし前掲東京地判平成23年 4 月 14 日は、質疑応答は株主の質問がないことを確認した上で終了しており、 挙手したのに無視されたとする X の主張は前提となる事実を欠くとした 。 一般論として、取締役等は、決議事項の内容、質問事項と決議事項との関 連性の程度、質問がされるまでに行われた説明(事前質問書に対する一括回 答等)の内容および質問事項に対する説明の内容に加えて、質問株主が保 有する資料等も総合的に考慮して、平均的株主が議決権行使の前提として 合理的な理解および判断を行い得る程度の説明をする義務を負うという。 株主 A が事前質問書(質問事項甲を記載)を会社に提出していたところ、 株主総会の会場で株主 B が質問事項甲について説明を求めた場合、「当該 ( 6 5 ) 株主 A が......通知した」とする法文言(会社則 71条 1 号イ)から見て、取 締役等は株主 B に対しては調査の必要性を理由として回答を拒絶すること ができる(説明義務が発生しない) 。 事前質問書を提出した株主 A 自身が総 会に欠席しているにせよ、 A の代理人 a が質問事項甲について説明を求め た場合、取締役等は a に対しては調査の必要性を理由として回答を拒絶す 取締役等の説明義務(服部) 1 0 7 ることができない。 4 株主総会の 2 日前に事前質問書が会社へ到着したが、当該質問に対 する回答の調査 ・ 準備には少なくとも 5 日間を必要とするのであれば、「相 当の期間前に(会社則 71条 I 号イ) J 到着していない以上、取締役等として は調査の必要性を理由として回答を拒絶することができる 。事前質問書の 受領後、総会当日までの聞に、会社の通常の業務に支障を来たすことなく 合理的な範囲で調査を行えるかという基準で判断される。質問の種類や内 容の如何によって、また調査のために動員できる従業員数や費用の如何に よって、相当の期間は相対的に判断される。会社の規模に比し不相当に高 額な費用を要する質問に対しては、説明しないことにつき正当の理由があ る場合(会社則 71条 4 号)として回答を拒絶することができる。 A 会社の株主 B は議題提案権を行使し、自己が提出しよ うとする議案の 要領を株主に通知することを A 会社に請求した。 A 会社は株主提案を第 5 号議案として招集通知に記載した。株主 C は事前質問書を A 会社に提出し たが、そこには第 5 号議案に関する質問が記載されていた。質問事項が第 5 号議案の趣旨とか内容に関するものであるならば、 A 会社の取締役は提 案株主 B に当該質問事項を知らせることができる。提案株主 B は株主総会 に出席し、議長の許可を得た上で株主 C の質問に回答することもできるが、 ( 6 8 ) 調査義務や説明義務を負うわけではない 。株主 C の質問事項が、第 5 号議 案に対する取締役会の意見(当社取締役会は本議案に反対します)の内容に 関するものであったり、第 5 号議案が承認可決された場合の A 会社に及ぼ される影響に関するものであるならば、取締役等としては、株主総会で株 主 C から質問があれば応答できるように調査・準備しておく必要がある。 5 事前質問書が提出されている場合、審議に入る前に、株主の質問を 待つことなく、取締役等が事前質問事項を整理・要約した上で回答する場 合がある。一問一答方式または一括回答方式のいずれを採るかは、議長の 裁量に委ねられる。説明義務の発生前になされる一括回答は、厳密には説 ( 6 9 ) 明義務の履行ではないが、一括回答の説明が株主の理解・判断にとって十 8 0 1 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 分な内容であったとすれば、その後に株主から質問が出されても、「ただ いまご質問の点は、先ほど一括回答でご説明した通りです」と述べればよ い 。 一括回答の説明を不十分と考える株主は、改めて質問を発し、より詳 細な説明を求めることになる 。 このことは、事前質問書を提出していたが、議長の裁量判断によって質 問項目が一括回答の対象事項として取扱われなかった場合であっても、同 様に妥当する 。 野村詮券 Y の定時株主総会において株主 X は事前質問書を提出していた が、当該質問事項に対する説明は一括回答から漏れていた 。 一括回答後に 質問を受付ける機会が与えられたが、総会に出席していた X の代理人甲は 何らの質問もしなか っ た 。 X は、他の 4 件の事前質問事項には一括回答し ていたのであるから、適法な本件事前質問事項についても、(総会で)質 問したと同じ範囲、同じ程度の説明回答をなすべき義務があったと主張し た。 しかし東京高判平成 2 年 7 月 3 日資料版商事法務 78号 100 頁は、出席 株主が実際に質問しないのに必ず説明しなければならないとか、議長が名 指しで株主に質問を促したうえ説明しなければならないとする X の主張 は、法的義務に関する主張としては採用できないと判示した 。 6 中部電力 Y の定時株主総会において株主 X は、約 1600個の質問が記 載された事前質問書を提出していた 。 質問事項の大多数は原子力発電に関 するものであった 。 Y は質問事項を分類した上で、 4 名の副社長が分担し て約 1 時間にわたって一括回答を行った。 X は、一括回答では事前質問書 の質問事項に対応して説明されておらず、質問事項の 一部についてしか説 明されなかったと主張し、決議の取消を求めた 。 名古屋地判平成 5 年 9 月 30 日資料版商事法務 116号 187頁は、本件決議に は説明義務違反の違法がある旨の X の主張には理由がないとして、決議取 消請求を棄却した 。 一括回答に関する判示事項のうち次の 4 点が重要であ る 。 ①説明義務は会議の目的事項を合理的に判断するのに必要な範囲の説 明であれば足り、一括回答であるからといって違法となるものではない 。 取締役等の説明義務(服部) 1 0 9 ②本件一括回答の説明内容は客観的に見て合理的なものである。③事前質 問書記載の質問に対して回答を求める旨の発言が総会の場でなされたとし ても、事前質問書に記載された全項目について質問がされたと見ることは できない。④約 1600個の事前質問事項はそのほとんどが原子力発電に関す るものであって、議題である「手 u 益処分案承認の件 J との関連性が極めて 薄く同決議事項の合理的判断のために必要な質問であるとは認め難い。 X は、議長が質問を一人一間・一項目に制限したことも本件決議の暇庇 になると主張したが、本判決は、非常に多数の株主が質問の機会を求めて いる場合には、できるだけ多数の株主に質問の機会を保障する必要があり、 議長が合理的な範囲内で質問数等の制限を課すことは議事の整理として適 切であるとした。 7 事前質問書に 1000個を超す大量の質問項目が記載されていたとして も、通常、その大多数は報告事項や決議事項の審議と関係しない一般的質 問である 。仮にその よ うな一般的質問が株主総会の会場でなされ ても、説 明義務は生じない。したがって、調査・準備をしたり、一括回答の中で拾 い上げて説明する必要もない。報告事項や決議事項と実質的関連性の認め られる質問項目を 20個記載した事前質問書が総会の 5 日前に提出された ケースにおいて、各質問項目の調査に 1 日ずつ必要であるとすれば、会社 は任意に 5 個の質問項目を選択して調査し、残り 15個については「相当の ( 71) 期間 J 内の質問ではないわけであるから、総会において調査を要すること を理由に説明を拒絶しても、説明義務違反にならないと解されよう。 8 ドイツ株式法においても説明義務は、株主総会で株主が解説付与請 求すなわち質問を議長に向けて発することにより発生する。総会の準備段 階で解説請求が行われていたとしても、総会の会場で改めて質問が発せら れることを要する COLG Frankfurt/MNZG2007 , 546 , 547) 。質問事項や質 問理由の予告が必要なわけでは勿論ないが、複雑な又は特別な解説請求に あっては予告が推奨される。質問事項が複雑なものであるにもかかわらず 質問予告がなされていない場合、総会での質問に対する説明に不十分なと 0 1 1 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 ころがあったとしても説明義務違反が否定される可能性が高まることによ る (OLG f AG1992 , 34 , 35) 。 r o d l e Ds 株主の解説請求は口頭でなされることが通常であるが、書面による質問 (日本における事前質問書とは異なり、総会の会場において書面で解説請求する ) 2 7 ( こと)も認められる 。 定款または業務規程は株主の質問・発言権を時間的 に相当な範囲で制限することを議長に授権しうると定める株式法 131条 2 項 2 文は、書面による質問と調和しにくいようにも思えるが、質問書を朗 読したり電子的情報処理システムを利用すれば、他の出席株主にも直ちに 質問内容が伝わる。書面に よる質問についても、解説(回 答)は口頭 で行 われる 。 質問書は複数の類似質問を統合・要約することができ、総会の効 率的な進行にも役立つ。質問書の朗読にも、上記の時間的制限は妥当する。 解説請求につき書面によるべき旨を定款で定めることは許されないが(株 式法23条 5 項 1 文)、口頭によるべき旨を定めることは認められる。 質問株主は解説を請求する意思を明確に表明することを要し、野次(呼 び声)とか取締役等との個人的会話は解説請求に当たらない。 9 質問株主は、解説が付与される前であれば、解説請求を何時でも撤 回することができる (LG zAG1988 , 169 , n i a M 170) 。解説請求権の集団的 性格に鑑みて、その撤回は明確に表明され、他の総会出席者に認識される に至ることを要する。他の株主は当該質問を自己の質問として解説請求す ることができる 。質 問に対する回答が不十分であり、議長が再質問するか どうかを尋ねたにもかかわらず、再質問しなかったからといって、解説請 求の撤回が推断されるわけではない 。 もっとも、解説義務違反を理由とす る決議取消請求が排除される可能性はある。 株主が質問の後、他の出席者を代理人として選任することなく、総会の 会場から退席した場合、もはや説明をする必要がないと解されることが ) 6 7 ( 多い。退席株主の質問が残っていることを指摘した上で、取締役が当該質 問の要望を出席者に照会したところ、当該質問を自己の質問として解説請 求しようとする出席株主が存在しなかった場合に限り、説明を省略しうる 取締役等の説明義務(服部) 1 1 1 ( 77) とする見解も主張される。 1 0 解説請求権の成立にとっては、求められている情報が議事日程の目 的たる事項の適切な判断のために必要である(株式法 131条 1 項 1 文)こと が、決定的な意義を有する。解説が必要性を有するのは、一般的に知られ ている事実に基づき会社の状況を認識している「客観的に思考する平均的 株主」の視点から出発して、 議事日程の目的事項に関する株主の判断にとっ て、当該解説が僅かとはいえない程度の寄与をなしうる場合である (BGHZ 180 , 9=BGHNJW2009, 2207, 2212) 。質的重要性の基準と呼ばれる。平均的 株主を誤りへ導く情報は、適切な判断のために必要なものでは勿論ない (OLGS t u t t g a r tAG2012, 377, 378) 。 解説請求権は、付与される情報の詳細さの程度および数量的観点からも 限界 づけられる。不相当なま でに 多数の質問は、議題との個別的関連性と ( 7 8 ) は独立に、適切な判断のための必要性を失わせることがある。このような 場合、議長は質問株主に上記の趣旨を指摘し、質問数の削減を要請すべき ( 7 9 ) ことになる。 求められた解説が単に質問株主の部分的知識を補充するにとどまり、平 均的株主に十分な判断基礎をもたらすに至らないケースを想定する。客観 化された基準に依るにもかかわらず、これは解説請求に矛盾しないものと される (KG NJW-RR1995 , 98 , 99) 。質問株主が解説請求前の時点で既に 議案に対する賛否を決心していても、また解説請求により求めている情報 ( 8 0 ) を 質問株主が知っ ているとしても、解説請求は妨げられない 。その根拠と して、客観化された平均的株主基準とか、情報の名宛人は株主総会に出席 ( 8 1 ) している全株主であることが挙げられる。 ( 6 3 ) w株主総会白書2012年版』商事法務 1983号 115頁 。 ( 6 4 ) 原告株主は次のように主張した。本文のように解さないと、会社は、事前質 問書記載事項のうち説明したくないものにつき、 一括説明では説明を省略してし まう。これに不満な株主が質問のため挙手しでも、議長は当該株主の指名を避け ることにより、説明を行わずに済ませることができる 。 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 2 1 1 ) 5 6 ( 松尾・前掲注(1 9) 175頁 。 ) 6 6 ( 杉原 ・前掲注 (11) 264頁 。 ) 7 6 ( 松尾・前掲注 (19) 179 頁、杉原 ・ 前掲注 ( 11 ) 265頁 。 ) 8 6 ( 松尾 ・前掲注 (19) 185頁 。 ) 9 6 ( 森本 ・前掲注 (22) 155 頁 。 ) 前掲東京地判平成 4 年 12月 24 日(東京電力事件)では、延べ 5500項目の質問 0 7 ( 事項が記載されていた 。 ) 1 7 ( 松尾・前掲注 (19) 182頁。 ) Herrler , 2 7 ( 1Anm.9. 3 S1 . 8 ) LGK lnAG1991, 3 3 7 ( 5. fAG1992 , 34, 3 r o d l e ) VglBGHZ101 , 1 ;OLGD s 4 7 ( 1Anm.11. 3 ) Herrler , S1 5 7 ( ) 6 7 ( 末永 ・前掲注 (29) 30 頁。 ) Herrler , 7 7 ( . S131Anm.11 . 8 7 tAG2012 , 377 , 3 r ga t t u t ) OLGS 8 7 ( 1Anm.19. 3 ) Herrler , S1 9 7 ( 5. fAG1992 , 34, 3 r o d l e ) OLGD s 0 8 ( 1Anm.19. 3 1 ) Herrler , S 81 ( VI 1 結語 説明義務を論じる際、横軸に議題関連性の有無が、また縦軸に説明 の程度(詳細さ)の問題が設定される。説明義務が尽くされたといえる程 度について、わが国ではいわゆる平均的株主基準に従って判断される。 ド イツでは議題関連性を判断する場面でも、既に「客観的に思考する平均的 ) 3 8 ( 株主」の基準が用いられる。 決議事項に関し説明すべき実質的関連事項は、株主総会参考書類記載事 項が基本となる。参考書類の作成を義務づけられていない会社であっても、 会社法施行規則 73条以下により参考書類への記載を求められている事項が 4) 8 ( 一応の目安となる。取締役選任議案に関して、取締役候補者の適格性が質 問されたとする。参考書類には、取締役候補者の略歴、当該会社における 取締役等 の説明義務(服部) 1 1 3 地位・担当(再任候補者)、重要な兼職状況、所有株式数、特別利害関係、 社外取締役候補者とした理由(再任候補者の場合、取締役会・委員会への出 席状況を含む)が記載されている 。 参考書類記載事項から敷街される事項 として、再任候補者については従来の職務執行状況も説明義務の対象に含 まれる。平均的株主が議案の賛否につき合理的な判断を行うために、付加 的に明らかにされる必要があることによる 。 すなわち参考書類記載事項を 敷桁して説明すべき範囲の画定に当たり、やはり平均的株主基準に依拠す ることになる 。 2 説明義務履行(説明義務が尽 く されたか)の有無は、一般的には、平 均的株主が合理的な理解および判断を行い得る程度の説明がなされたか否 かにより決せられると説かれる 。 学説の一部では、質問株主の知識や能力 が高い場合には、説明もそれに応じて可能な限り(詳細に)なすべきであ るとする見解も主張される。この 議論の背後には、質問に対す回答(説明) の名宛人は質問株主、平均的株主または出席全株主の誰であるのかという 問題が潜む 。 取締役の回答は第一義的には質問株主に向けてなされるが、 説明を受ける一般出席株主の理解状態にも配慮する必要がある 。 平均的株主が決議事項について合理的な理解および判断(議案の 賛 否) を行い得る状態を、ここでは便宜的に適正知識水準と呼ぶことにしよう 。 取締役等の説明が質問株主をして適正知識水準に到達させるものであれ ば、説明義務が尽くされたといえる 。 質問株主の知識や能力が高い場合に は、相対的に簡略化した説明によって質問株主は適正知識水準に到達する ことができる 。 簡略化した説明を不十分と感じる他の出席株主としては、 平均的株主をして適正知識水準に到達させる(=通説のいう平均的株主基準 を充足する)程度の説明を、取締役等に再度求めればよい 。 他方、質問株 主の知識や能力が低いからといって、相対的に詳細な説明が求められるこ ( 8 8 ) とにはならない 。 合理的な説明に納得しない株主、いわゆる「ごねる J 株 主に対する説明も、これと同様である 。 3 前章 10 で述べた通り、 ドイツ株式法では、質問株主が質問の時点で 4 1 1 愛知学院大学論叢法学研究第 56 巻第 1 ・ 2 号 既に議案の賛否を決心していても、また質問株主が保有情報から既に質問 の答えを知っているのに敢えて質問しているとしても、解説請求は妨げら eldorf A G1992, 34, 35) 。その根拠として、客観化された れない COLG Ds 平均的株主基準とか、説明の名宛人は出席全株主であることが挙げら ) 0 9 ( れる。これに対して、わが国では、質問株主が既に平均的株主基準に達し ているから、あるいは説明の客観的必要性に欠けるから等の理由により、 ) 1 9 ( 取締役等は説明義務から免責されると説かれる。しかし、議題の実質的関 連事項に該当する質問である以上、答えを知っている質問株主が敢え て質 問したからといって、取締役等が何ら説明する必要がないとは言えない。 相対的に簡略化した説明をすべきであろう。 答えを知っているのに敢えてなされた質問に対し、何ら回答がなされな かったとすれば、それは説明義務違反となり得るが、説明義務違反が直ち に決議取消の結論に至るとは限らない。説明義務違反を法令違反として当 然に決議取消事由に該当するとした上で、取消請求を裁量棄却する手法が 通常であろうが(前掲日本交通事件判決、前掲インターネットナンバ一事件判 決)、むしろ説明義務違反により決議方法が著しく不公正と認められる場 合にはじめて決議が取消されると柔軟に解すべきであろう。 ) 2 8 ( 鴻ほか ・ 前掲注 (9) 176 頁(森本滋発言)。 1Anm.19. 3 ) Herrler,!3 1 3 8 ( ) 角田・前掲注 (38) 497頁 。 4 8 ( ) 5 8 ( 吉井敦子「判例研究(東京スタイノレ 事件) J 商事法務 1821 号 112頁。 ) 6 8 ( 末永 ・ 前掲注 (5) 105 頁 。 ) 通説は、私見と異なり、平均的株主をして適正知識水準に到達させるもので 7 8 ( あることを要するという考え方を前提としている。 ) 通説のいう平均的株主基準を充足する程度の説明をすればよい。 8 8 ( ) 9 8 ( 得津 ・ 前掲注 (40) 166 頁。 9. 1 1Anm. 3 ) Herrler,!3 1 0 9 ( ) 91 ( 吉井・前掲注 (85) 117頁 。