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2015年 Vol.3 - J-ISCP|認定NPO法人国際心血管薬物療法学会日本

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2015年 Vol.3 - J-ISCP|認定NPO法人国際心血管薬物療法学会日本
平成27年3月31日発行
J-ISCP会誌
Vol.3 No.1 2015
心血管薬物療法
リポ蛋白リパーゼと動脈硬化症
動脈硬化の免疫学的機序
2型糖尿病患者における動脈硬化の評価とその治療の新展開
リスク予後因子としての血管内皮機能
動脈硬化予防としての心臓リハビリテーション
S
血清脂質検査の最新知見
J
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第3巻 1号
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S
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as
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o
i
t
tio
ec
Cardiovascular Pharmacotherapy
冠動脈インターベンションの新機軸
冠動脈疾患治療を目指したナノ・ドラッグデリバリーシステムの開発
■ J-ISCP研究会報告
脂質・糖代謝異常から心血管疾患を守る
~最新知見とホットトピックス~
■ 学術集会参加記
ISCP本会 STATE OF HEART 2014(アデレード)に参加して
NPO法人 国際心血管薬物療法学会日本部会
Japan Section for International Society of Cardiovascular Pharmacotherapy
心血管薬物療法 第3巻 第1号
目次
巻頭言
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」第 3 巻発刊にあたって………………………………… 2
吉田 雅幸
東京医科歯科大学先進倫理医科学分野
Review
血清脂質検査の最新知見……………………………………………………………………… 3
吉田 博
東京慈恵会医科大学附属柏病院
リポ蛋白リパーゼと動脈硬化症……………………………………………………………… 9
小林 淳二
金沢医科大学総合内科学
動脈硬化の免疫学的機序……………………………………………………………………… 17
島田 和典
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学
2 型糖尿病患者における動脈硬化の評価とその治療の新展開…………………………… 27
三田 智也
順天堂大学大学院代謝内分泌学内科
リスク予後因子としての血管内皮機能……………………………………………………… 35
野間 玄督
広島大学原爆放射線医科学研究所ゲノム障害病理研究分野心血管再生医科学部門
動脈硬化予防としての心臓リハビリテーション…………………………………………… 45
木庭 新治
昭和大学医学部内科学講座・循環器内科学部門
心血管薬物療法 第3巻 第1号
冠動脈インターベンションの新機軸………………………………………………………… 51
阿古 潤哉
北里大学医学部循環器内科学
冠動脈疾患治療を目指したナノ・ドラッグデリバリーシステムの開発………………… 57
的場 哲哉
九州大学大学院医学研究院循環器内科学
J-ISCP 研究会報告
「脂質・糖代謝異常から心血管疾患を守る~最新知見とホットトピックス~」………… 63
学術集会参加記
ISCP 本会 STATE OF HEART 2014(アデレード)に参加して… ………………… 67
松田 守弘
国立病院機構 呉医療センター 臨床研究部予防医学研究室
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」第 3 巻発刊にあたって
東京医科歯科大学 吉田 雅幸
先進倫理医科学分野
国際心血管薬物療法学会日本部会(J-ISCP)の会誌「心血管薬物療法」第 3 巻が発刊されることになりました。
J-ISCP は、心血管疾患の薬物療法の理解と進歩に貢献するため、種々の事業に取りくみ、国民の健康増進と
医療の発展に寄与することを目的としています。
これまでは一般に方々への疾患理解を深めていただく目的で、各地で市民公開講座を開催し、それぞれ大き
な反響をいただいてきましたが、学会の趣旨に賛同いただける評議員の先生方も 50 名を数えるようになり、
今年 2015 年 6 月には第 1 回の学術集会を京都にて開催する運びとなりました。今後は、一般の方々への情報
発信に加え、最先端の心血管領域の基礎・臨床研究についても本学会で取り上げていきたいと考えております。
そのような流れのなかで、この第 3 巻の内容としては心血管疾患の大きなリスク因子である「動脈硬化症」
をテーマに最先端のトピックを基礎から臨床まで網羅的にカバーするため、各分野のトップランナーの先生方
にご執筆をいただきました。まず、動脈硬化の基礎研究のトピックとしては、その進展機序に関わるリポ蛋白
リパーゼ(小林先生)と免疫学的要因(島田先生)について解説をいただきました。また、動脈硬化症病変の
可視化について三田先生から興味深い内容を論じていただきました。動脈硬化症の臨床的診断技術として重要
な血清脂質検査(吉田博先生)と血管内皮機能検査(野間先生)についても解説をいただいております。近年、
動脈硬化症の治療として、血管形成術も大きな位置をしめています。これについては阿古先生から冠動脈イン
ターベンションの新機軸について、的場先生からはドラッグデリバリーという点から解説をお願いしました。
また、運動療法やリハビリテーションも心血管疾患の治療・予防には大変重要です。この点から木庭先生に解
説をいただきました。
このように第 3 巻では、読者の皆様に役に立つ多彩な情報を盛り込んでいます。本書が皆様の今後の心血管
疾患診療に少しでも貢献できれば幸いです。
2
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
血清脂質検査の最新知見
吉田 博
東京慈恵会医科大学附属柏病院 副院長 中央検査部 教授
東京慈恵会医科大学 大学院代謝栄養内科学 教授
要旨
脂質異常症は動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の主要なリスク因子である。高カイロミクロン
血症による膵炎を除き、脂質異常症の多くは自覚症状を欠くため、健康診断でのスクリーニングな
どや、虚血性心疾患・脳血管障害・高血圧・糖尿病・慢性腎臓病(CKD)など ASCVD のリスク
評価として、血清脂質が評価される。空腹時採血における LDL-C、HDL-C、トリグリセリド(TG)
の測定は基本であるが、LDL-C は直接法ではなく Friedewald の式を用いた評価が動脈硬化性疾患
予防ガイドラインのなかで推奨されている。LDL-C が脂質異常症の治療対象の基本であるが、とく
に高 TG 血症においては、次なる対象として non HDL-C が留意されるべきである。リポ蛋白プロファ
イルを詳細に定量する新規検査としてリポ蛋白分画(HPLC 法)が保険収載されており、今後の活
用が期待される。その他、サイエンスの進歩や学際的な取組みにより多様な血清脂質の測定が発展
してきているが、動脈硬化性疾患のリスク評価と管理の精度を大きく進展するためにも、定量的な
検査だけでなく質的検査あるいは機能的評価が検体検査のなかで展開することを期待したい。
キーワード
動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、血清脂質、リポ蛋白、脂肪酸、HPLC リポ蛋白定量法、
動脈硬化性疾患予防ガイドライン
異常症の診断基準は表 1 のとおりである 1。2012 年
1.はじめに
に改訂された動脈硬化性疾患予防ガイドラインに
脂質異常症は動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)
示されているように、空腹時および TG が 400mg/
の主要なリスク因子である。脂質異常症では、高カ
dL 未満の場合、LDL- コレステロール(LDL-C)の
イロミクロン血症による膵炎を除き、多くは自覚症
評価には原則として Friedewald の式(F 式:LDL-C
状を欠く。したがって、健康診断でのスクリーニン
= TC-TG/5 – HDL-C)を用い、LDL-C が管理目標値
グなどや、虚血性心疾患・脳血管障害・高血圧・糖
を達成した後の二次目標として non-HDL-C を評価
尿病・慢性腎臓病(CKD)など ASCVD のハイリス
するとされている 1。またこの新ガイドラインには、
ク群におけるリスク評価として、血清脂質が評価さ
境 界 域 高 LDL-C 血 症(LDL-C が 120 ~ 139mg/dl)
れる。本稿では、主として保険適応を受けている検
という概念が新たに導入された。また、冠動脈疾患
査を中心に概説する。
リスクが極めて高い家族性高コレステロール血症
(FH)の診断基準は、成人(15 歳以上)の場合、未
治療の LDL-C が 180 mg/dl 以上、腱黄色腫またはア
2.脂質異常症の診断
キレス腱肥厚(X 線軟線撮影にて幅が 9 mm 以上あ
脂質異常症は空腹時採血のサンプルを用いた血清
れば肥厚有)あるいは皮膚結節性黄色腫(眼瞼黄色
脂質測定により診断される。スクリーニングのため
腫は除く)、FH あるいは若年性冠動脈疾患の家族歴
の基本的な検査項目は、総コレステロール(TC)、
(2 親等以内の血族)のうち 2 項目が該当すれば FH
ト リ グ リ セ ラ イ ド(TG)、HDL- コ レ ス テ ロ ー ル
と診断される。但し、注意深い経過観察および再検
(HDL-C)の 3 項目である。原則的に 10 ~ 12 時間
査や家族歴に関する詳細な調査が必要である。また、
以上絶食後の空腹時に採血するが、水やお茶などの
LDL-C が 250 mg/dl 以上ならば FH が強く疑われる。
非エネルギー飲料水の制限は必要としない。脂質
F 式には① TG が 400mg/dL 以上の検体では使用
3
表1
脂質異常症:スクリーニングのための診断基準
脂質異常症:スクリ
ングのための診断基準 (空腹時採血
(空腹時採血*))
表 1. 脂質異常症:スクリーニングのための診断基準(空腹時採血*)
LDLコレステロール
LDLコレステロ
ル
140 mg/dL以上
140
mg/dL以上
120‐139 mg/dL
高LDLコレステロ ル血症
高LDLコレステロール血症
境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール
HDLコレステロ
ル
40 mg/dL未満
40 mg/dL未満
低HDL‐コレステロール血症
低HDL
コレステロ ル血症
トリグリセライド
150 mg/dL以上
高トリグリセライド血症
LDLコレステロール値はFriedewald (TC‐HDL‐C‐TG/5) の式で計算する。
トリグリセライド値が400 mg/dL以上や食後採血の場合にはnon HDL‐C
g
(TC‐HDL‐C)を使用し、
その基準はLDL‐C+30mg/dlとする。
*10‐12時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし、水やお茶などエネルギーのない水分の
摂取は可とする。
出典: 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版
できない、②カイロミクロンが増加している検体
では使えない、③Ⅲ型高脂血症では LDL-C が誤っ
出典:3.LDL-C
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版
および HDL-C 測定の
直接法について
て高値となる、④空腹時検体のみで使用できるな
どの制限がある。Friedewald の論文に掲載されてい
1997 年、日本の試薬メーカーにより世界で初め
るサンプルは空腹時の検体であることに留意しな
て前処理を必要とせず血清から直接 LDL-C を測定
ければならない。すなわち、食後採血の場合や TG
できる直接法試薬が発表されてから、わが国では
が 400mg/dL 以上の場合は、F 式を適用できない。
LDL-C 直接法試薬によって測定された LDL-C 値が
「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年」では、
診療等で評価されるようになった。8 種のホモジニ
このような場合に、non-HDL-C(TC – HDL-C)を
アス法試薬に関する精確性の検討の中で、健常者で
用いるとしている。アポ蛋白 B 含有リポ蛋白のコ
は一部を除き概ね満足できる結果だったが、疾患群
レステロールを包括する non-HDL-C は、とくに高
では精確性に問題があるとする Miller らの報告 3 を
TG・低 HDL-C 血症の際に、LDL-C に加えて心血
はじめとして、検体による測定値のバイアスや標準
管病のリスク予測に貢献する。
化に関する問題が浮上した。また、欧米の臨床試験
表 1 に示す診断基準に基づき脂質異常症が診断さ
だけでなく、MEGA、JELIS、J-LIT などわが国の臨
れたら、必要に応じてリポ蛋白電気泳動検査(アガ
床試験や疫学調査の多くは F 式によって算出され
ロースゲルまたはポリアクリルアミドゲル)により
た LDL-C のデータに基づくエビデンスである。以
脂質異常症のタイプ(Ⅰ~Ⅴ型)を決定する。そし
上のような経緯から、動脈硬化性疾患予防ガイドラ
て、まず、続発性の脂質異常症を見出し,原疾患の
イン 2012 年版 1 においては、LDL-C は F 式により
治療を優先する 1, 2。とくに脂質異常症の表現型の
算出すること、non HDL-C を高 TG 血症の場合の二
診断が困難な場合(IIb 型と III 型の鑑別、IIb 型と
次目標として設定し、TG が 400mg/dL 以上および
重症 IV ~ V 型の鑑別など)、異常なリポ蛋白の出
食後採血の場合は non HDL-C を評価すると記載さ
現が疑われる場合(胆汁うっ滞時の Lp-X、大型な
れている。
アポ E-rich HDL など)、低 HDL-C 血症の鑑別診断
先の Miller らの論文に対応して、動脈硬化学会、
には、アポ蛋白や電気泳動の検査を追加する。
臨床化学会、臨床検査医学会の 3 学会が共同して
LDL-C 直接法試薬の検証試験を実施した 4。健常
者の LDL-C について LDL-C 直接法試薬は合計誤
4
差の基準以内に測定できていたが、脂質異常者の
患リスク因子であり保険医療で定量測定できる Lp
LDL-C 測定は精確度が不十分であり、とくに高 TG
(a)やカイロミクロンレムナントが多い場合にも見
血症で比較的に LDL-C 値の低いサンプルではプラ
られる。また、リポ蛋白電気泳動検査は保険医療に
スバイアスが認められた。食後のサンプルなどで
て血清脂質の異常を評価するのに大切な検査である
は non-HDL-C が有用であることがガイドラインに
が、定量性に欠ける。
示されているが、その際に HDL-C 直接法試薬の精
前項の LDL-C 直接法試薬の問題点やリポ蛋白電
確度も重要である。上記の 3 学会の研究グループは
気泳動検査の定量性などが議論されるなかで、筆
HDL-C 直接法試薬の調査も行い、健常者の HDL-C
者らは産学共同で 2001 年より研究を進め、2013 年
については何れの試薬も合計誤差基準内に測定でき
7 月には、新しいリポ蛋白検査として保険収載され
ていて、脂質異常者のサンプルでは 2 ~ 3 の試薬を
た HPLC リポ蛋白定量法を開発し、その検査項目
除き基準を満たしていることが確認されたことか
名はリポ蛋白分画(HPLC 法)である 7, 8。本法には
ら、non-HDL-C は概ね正しく評価できている 5。
表面にジエチルアミノエチル基を導入したポリマー
系の親水性ゲルが充填されている非孔性陰イオン交
換カラムが用いられ、荷電を疎水性結合度の違いを
4.新規リポ蛋白検査法
利用して溶離液(過塩素酸ナトリウムの濃度段階)
先述したように、リポ蛋白電気泳動検査により脂
で分離するリポ蛋白をそれぞれ分画ごとにコレステ
質異常症のタイプを決定できる。例えば、冠動脈疾
ロール定量する。本 HPLC 法は HDL と LDL の他に、
患を発症しやすい家族性 III 型高脂血症ではアポ蛋
IDL、超低比重リポ蛋白(VLDL)
、その他の分画の
白 E のフェノタイプの検査(保険診療が認められ
コレステロール濃度を 6 分以内に測定できる
(図 2)
。
ていない)でアポ蛋白 E2/E2 の同定により診断でき
本法を用いたリポ蛋白プロファイルと Framingham
るが、まずは TC と TG がともに高く、リポ蛋白分
Risk Score(FRS) の 関 連 性 の 検 討 で は、IDL-C が
画(アガロース法)による broad βバンド(図 1)
6
FRS に強く関連していることが分かったが、IDL-C
の確認が基本である。この broad βバンドは中間比
はⅢ型高脂血症や腎不全で高値であることが知ら
重リポ蛋白(IDL)コレステロール(IDL-C)が高
れており、non-HDL-C の詳細な評価または beyond-
くなる高 TG 血症で見られやすいが、家族性 III 型
LDL-C という観点から IDL-C の測定は注目される 8,
高脂血症では TC および TG 値が基準範囲内のとき
9
でも認められる。同様に IDL-C が高いときに、リ
定値に合せて開発されており、リポ蛋白分画(HPLC
ポ蛋白分画(ポリアクリルアミドディスク電気泳動
法)で測定される LDL-C と IDL-C の和に相当する。
。前項の LDL-C 直接法は標準法であるβ-Q 法の測
Mid-band が認められるが、動脈硬化性疾
図2法)では
リポ蛋白電気泳動(アガロースゲル)
(+)
図2 リポ蛋白分画(HPLC法)の概要
ポ蛋白分 (
法) 概
(‐)
broad β
Auto sampler
Auto sampler
Injection
vol: 1 μL
Injection
volume
Ⅲ型高脂血症
Column ov en (25 oC)
Mix er
Detector
Column
Reactor
(45 OC, 2.1 min)
2.5 mmID × 10 mm
Ultraviolet-visible
LED
lamp
Wavelength: 590
590 nm
nm
Wavelength:
0.250 mL/min
0.625 mL/min
Waste
Pump 4
HDL
Pump 1
1, 2, 3
VLDL
LDL
図 1. リポ蛋白電気泳動(アガロースゲル)
Elution 1
Elution 2
NaClO4
(NaClO4
0 mM
NaClO4
250 mM
出典:臨床検査 2013; 57: 1031‐4
5
Na
aClO4 (mmol/L
L)
VLD
DL
0
Elution 3
NaClO4
400 mM
2.9
図 2. リポ蛋白分画(HPLC 法)の概要
出典:臨床検査 2013; 57: 1031-4
Othe
er
ID
DL
HDL
Absorbance
e
Enzymatic
Enzymatic
reagent
solution
健常者
400
LDL
for Step gradient
5.1
Time [min]
8.1
険因子である。この apo(a)はプラスミノーゲンと
5.その他の脂質検査
相同性があり、線溶系を抑制する可能性が指摘され
Ⅱ b 型高脂血症を呈することが多い家族性複合型
ている。わが国で測定される頻度は多くないが、国
高脂血症(FCHL)では、small,dense LDL が多く、
際的には危険因子として重要視されている 14。
その存在の推定のためアポ蛋白 B の測定が重要で
脂質が酸化変性を受けたときに多量に生じるマ
あり、アポ蛋白 B / LDL-C 比が 1 以上となる。また、
ロンジアルデヒド(MDA)で修飾された LDL が
ポリアクリルアミド電気泳動で LDL の粒子サイズ
MDA-LDL であり、その検査は保険診療で認められ
が 25.5 nm 未満,あるいは small, dense LDL- コレス
ている。冠動脈疾患既往歴のある糖尿病患者におけ
テロールの直接測定法
により small,dense LDL
る冠動脈疾患発症に関する予後予測の目的のため
の高値が確認できるが、とくに後者は保険適用に
に、あるいは糖尿病患者の経皮的冠動脈再建術後
至っていない。
の再狭窄に関する予後予測のマーカーとして MDA-
10
高 TG 血症の成因としてリポ蛋白リパーゼの活性
LDL を測定する 15, 16。また最近では、食後高脂血症
低下が考えられるが、ヘパリンを 30 単位/体重㎏負
が動脈硬化のリスクとして注目されており、空腹時
荷して 15 分後に採血して LPL が 150ng/ml 未満であ
のみならず食後の TG または RLP コレステロール
れば LPL が低いと判定し、50 ng/ml 未満ならば LPL
の測定も臨床的有用性を示している 12, 17。非空腹時
欠損が疑われる。また最近では、ヘパリン負荷なし
の血清 TG が 200mg/dl 以上では、ASCVD のリスク
で LPL 測定して 40ng/ml 未満で低値(10 ng/ml 未満
が高い。
で LPL 欠損症疑い)と判定され、ヘパリン負荷の有
その他に、血清脂肪酸分画濃度が保険医療とし
無に関わらず保険適用が認められている。その他、
てガスクロマトグラフィ法で測定でき、エイコサ
LPL 活性を促進するアポ蛋白 C2 の低値が原因のこ
ペンタエン酸(EPA)とアラキドン酸(AA)の比
ともある 。軽度から中等度の高 TG 血症とともに
(EPA/AA)が動脈硬化性疾患のリスクマーカーと
HDL-C の低下を伴う場合に、LCAT(レシチンコレ
して期待されている 18。筆者らの検討では、動脈硬
ステロールアシルトランスフェラーゼ)活性の低下
化サロゲートマーカーである Cardio-Ankle Vascular
が考えられ、なかでも家族性 LCAT 欠損症は眼や腎
Index(CAVI)に対して EPA/AA およびドコサヘキ
臓に障害を来たす希少疾病として知られている。
サ エ ン 酸(DHA)/AA が 有 意 に 負 の 相 関 を 示 し、
11
冠動脈疾患をすでに発症した患者、糖尿病、メタ
とくに高い炎症性病態が予想される AA 高値群で
ボリックシンドロームなどの ASCVD ハイリスク群
は、CAVI 高値すなわち動脈硬化が進んでいる場合
ではとくに、他の病態でも必要に応じてレムナン
に EPA/AA が有意に低いことが確認された 19。同様
ト様リポ蛋白コレステロール(RLP-C)や Lp(a)
、
の成績は久山町研究の中でもみられており、高感度
MDA-LDL を追加で測定する。RLP-C と Lp(a)は
CRP が高い群では、EPA/AA が低値の場合に心血管
3 か月に 1 回の算定が保険で認められている。RLP
イベントリスクが高い 20。
は固相化したアポ AI とアポ B のモノクローナル抗
体を用いて血清から正常の VLDL、LDL、HDL を除
6.今後の展開
いた分画であり、RLP-C は同分画のコレステロール
濃度に相当する。RLP-C には、TG リッチリポ蛋白
基本的には脂肪酸分画と同様にガスクロマトグラ
が代謝される過程で産生されるレムナントが多く含
フィ法でステロール分画が測定でき。高シトステ
まれ、動脈硬化を促進する。前処理を必要としない
ロール血症等の診断の他に、動脈硬化リスクの一つ
レムナントのホモジニアス測定試薬(RemL-C)も
として期待されるコレステロール合成・吸収比が測
臨床で使われている。両者は正相関するが、カイロ
定できるが、基準範囲の設定とともに保険医療適用
ミクロンや IDL に対する反応性に違いがあると報
が求められる。
告されている
。Lp(a)は LDL のアポ B に apo(a)
サイエンスの進歩により検体検査の領域において
12, 13
が共有結合したリポ蛋白で、独立した動脈硬化の危
はオミクス技術に基づいた開発が期待され、血清脂
6
質検査の分野も例外ではない。また、定量的な検査
LDL コレステロールの高値を紐解く.臨床検
だけでなく、質的検査さらにはリポ蛋白の機能的評
査 2013; 57: 1031-4
価が検体検査のなかで展開することもそう遠い未来
7) Hirowatari Y, Yoshida H, Kurosawa H, Doumitu
ではないかもしれない。
KI, Tada N. Measurement of cholesterol of major
serum lipoprotein classes by anion-exchange HPLC
文 献
with perchlorate ion-containing eluent. J Lipid Res.
1) 日本動脈硬化学会 動脈硬化診療・疫学委員会.
2003 Jul;44(7):1404-12.
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 年版 .
8) 吉田博.HPLC リポ蛋白定量法の臨床的有用性.
2) 日本動脈硬化学会,動脈硬化診療・疫学委員会、
臨床病理 2010; 58: 1093-8
生活習慣部会、脂質代謝部会.動脈硬化性疾
9) Ito K, Yoshida H, Yanai H, Kurosawa H, Sato R,
患予防のための脂質異常症治療ガイド 2013 年
Manita D, Hirowatari Y, Tada N. Relevance of
版.日本動脈硬化学会編,協和企画.東京.
intermediate-density lipoprotein cholesterol to
2013
Framingham risk score of coronary heart disease
3) Miller WG, Myers GL, Sakurabayashi I, Bachmann
in middle-aged men with increased non-HDL
LM, Caudill SP, Dziekonski A, Edwards S,
cholesterol. Int J Cardiol 2013; 168: 3853-8.
Kimberly MM, Korzun WJ, Leary ET, Nakajima K,
10) 吉田 博.動脈硬化関連脂質マーカーレムナン
Nakamura M, Nilsson G, Shamburek RD, Vetrovec
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GW, Warnick GR, Remaley AT. Seven direct
日本臨床検査自動化学会会誌 (JJCLA) 2010; 35:
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measurement procedures Clin Chem 2010; 56: 977-
欠損症.日本臨床(先天性代謝異常症候群第 2
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版下巻)2012; 20: 20-25.
4) Miida T, Nishimura K, Okamura T, Hirayama S,
12) 吉田 博、木杉玲子、小池 優、黒澤秀夫.トリ
Ohmura H, Yoshida H, Miyashita Y, Ai M, Tanaka
グリセリド(TG)とレムナントリポ蛋白.臨
A, Sumino H, Murakami M, Inoue I, Kayamori Y,
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Nakamura M, Nobori T, Miyazawa Y, Teramoto T,
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Yokoyama S. A multicenter study on the precision
Ikewaki K, Abe I, Saikawa S, Domitsu K, Ito K,
and accuracy of homogeneous assays for LDL-
Yanai H, Tada N. Characteristic comparison of
cholesterol: comparison with a beta-quantification
triglyceride-rich remnant lipoprotein measurement
method using fresh serum obtained from non-
between a new homogenous assay (RemL-C) and a
diseased and diseased subjects Atherosclerosis
conventional immunoseparation method (RLP-C).
2012; 225: 208-15.
Lipids Health Dis 2008; 7: 18.
5) Miida T, Nishimura K, Okamura T, Hirayama S,
14) 吉田博.リポ蛋白 (a) は動脈硬化性疾患の多
Ohmura H, Yoshida H, Miyashita Y, Ai M, Tanaka
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A, Sumino H, Murakami M, Inoue I, Kayamori Y,
ネジメント(伊藤浩編).東京:南江堂 , 2013:
Nakamura M, Nobori T, Miyazawa Y, Teramoto T,
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8
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
リポ蛋白リパーゼと動脈硬化症
小林 淳二 1 中嶋 克行 2、馬渕 宏 3
金沢医科大学総合内科学
群馬大学大学院保健学研究科
3
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科脂質研究講座
1
2
要旨
リポ蛋白リパーゼ(LPL)は血中のトリグリセリド(TG)リッチリポ蛋白中の TG 水解にあずかる
機能に加え、様々なリポ蛋白の受容体への結合を促進する橋渡し的機能を有する。動脈硬化性を論じ
るとき、局在 LPL としてマクロファージ(MΦ)から発現される LPL に注目が集まり、全身のリポ
蛋白代謝酵素と独立し、局所では動脈硬化性であることを支持する動脈モデルが作成されている。
LPL が動脈硬化性か否かを論ずるとき、LPL 欠損症が動脈硬化性であるかを明確にすることが理に
かなった方向であるが、一般人口の 100 万人に一人という稀な疾患であることが多数症例を対象とし
た疫学研究を困難にしている。したがって、
一つの方向性として、
集団ベースで血清 LPL をバイオマー
カーとして測定し、前向きに観察し、動脈硬化性疾患発症を観察するコホート研究が必要であると考
える。
キーワード
リポ蛋白リパーゼ、LPL 欠損症、動脈硬化症、マクロファージ
はじめに
度が 100 万人に一人と稀であり、十分な症例数を確
保し疫学研究を実施することが困難であるという難
リポ蛋白リパーゼ(LPL)は、脂肪組織、骨格筋、
点がある。
心筋、マクロファージ(MΦ)などで合成分泌され、
本項では LPL が動脈硬化性か、その逆であるか
毛細血管の血管内皮細胞表面にヘパラン硫酸を介し
を諸家の研究成績、報告を引用し考察を加えて述べ
て結合し、細胞外でカイロミクロンや超低比重リポ
ることとする。
蛋白(VLDL)中のトリグリセリド(TG)を水解し、
1)LPL は動脈硬化性であることを
示唆する研究
細胞内に遊離脂肪酸を取り込ませる 1, 2。脂肪組織
では脂肪酸を再度 TG として貯蔵する。心筋や骨格
筋では LPL により生じた遊離脂肪酸をエネルギー
LPL は動脈硬化症病変に発現している。
源として利用する。LPL にはこのような水解酵素
としての機能に加え、さまざまなリポ蛋白と受容体
1990 年代になると動脈硬化巣の LPL が、MΦ由
との結合を促進する橋渡し機能を有することが過去
来のものであることが米国の研究者らにより明らか
20 年、多くの研究者により明らかになった。動脈
にされた 3, 4。更にカナダの研究者たちは、MΦから
硬化発症との関連性を知る上で、特にマクロファー
の LPL 合成分泌程度の差が、果たして動脈硬化巣
ジ(MΦ)から発現される LPL の機能に注目が集
形成への差として現れるか否かを明らかにし 5。彼
まった。全身でリポ蛋白代謝を促進する酵素として
らは動脈硬化形成を来し易いマウスは動脈硬化抵
の LPL、MΦに発現し局所的に動脈硬化を促進する
抗性マウスに比べ、LPL 蛋白、活性、mRNA いず
と考えられる LPL、それらの総和として個体に対し
れも数倍高かったと報告している。かなり複雑な
LPL は動脈硬化性であるか否かを観察するために、
実験系ではあるが、米国の研究者は 6 LPL+/+ マウ
LPL 欠損症は良き対象のはずである。ただ、その頻
ス、LPL-/ +マウス、LPL-/- マウスの胎児期肝細胞
9
を放射線照射させたメスの C57BL/6 マウスに移植
LDL は内膜下で酸化をうけ酸化 LDL となる。酸化
し、大動脈の動脈硬化病変を調べた。MΦLPL は
LDL はスキャベンジャー受容体を介して MΦに取
LPL+/+ マウス由来の胎児期肝細胞を移植したマウ
り込まれ泡沫化を来す 13。
スに発現していたが、LPL-/- マウスには発現がな
LPL は酵素活性と独立してリガンドとして機能
かった。一方でどちらのマウスにも、心筋細胞に
LPL 発現がみられた。19 週間同じ餌を与えて大動
1991 年、Beisiegel らは、ヒト及びウシ LPL がカ
脈硬化巣を評価すると、LPL-/- マウス胎児期肝細胞
イロミクロンの HepG2 細胞表面 lipoprotein receptor
を移植したマウスでは LPL+/+ マウス由来肝細胞を
related protein(LRP)への結合を促進すること、こ
移植した場合と比較し、動脈硬化巣が 55%小さかっ
れが酵素活性と独立した作用であることを証明した
た。また LPL-/ +マウス胎児期肝細胞移植した場合
14
より 45%小さかった。この成績は MΦLPL intact >
蛋白代謝に関わる受容体と結合することが明らかに
MΦLPL ヘテロ欠損> MΦLPL 完全欠損マウスの
された 15, 16。更に酸化 LDL は LDL と比較し、LPL
順に、大動脈硬化進展が重症であることを示す。
との相互作用が高まることが明らかにされた 17, 18。
。その後同様の報告が相次ぎ、LPL が種々のリポ
我が国の研究者も局在 LPL の性質に関し、動物
これらの研究成果は、血管内皮下へのリポ蛋白の
モデルを作成し研究成果を発表している。Ichikawa
蓄積を LPL が促進する可能性を示したものであり、
ら は MΦ特異的ヒト LPL 過剰発現ウサギを作成
LPL が動脈硬化症形成を促進することを示唆する。
し、0.3% コレステロール含有餌を 16 週間与え、野
また LPL はリポ蛋白との結合だけでなく、単球の
生株ウサギと動脈硬化病変を比較した。両群とも血
血管内皮への接着を促進する因子として作用すると
清脂質値は同等だったものの、動脈硬化巣は前者で
の報告もある 19, 20。
7
顕著であった。最近、Takahashi ら 8 は MΦ特異的
2)LPL は抗動脈硬化性であることを
示唆する研究
LPL 欠損マウスを作製した。このマウスでは血清
脂質値に影響を及ぼさないものの、アポ E 欠損と
掛け合わせると、通常のアポ E 欠損マウス由来の
LPL 欠損症と動脈硬化症
腹腔 MΦと比較して泡沫化しにくいことを示した。
以上の成績は MΦLPL が動脈硬化形成に促進的に
従来 LPL 欠損症(ホモ)は、一般に動脈硬化症
作用することを示す。
発症とは関連性が薄いと捉えられてきた 2。その理
Dugi ら 9 は 15 名のホモ型家族性高コレステロー
由として挙げられることは、1)この疾患で血中に
ル血症を対象として、冠動脈、胸部大動脈の石灰化
増加するリポ蛋白はカイロミクロン(Chy)であ
を調べた。その結果、ヘパリン静注後、LPL 活性、
り、その粒子サイズは大きすぎて血管内皮下に侵入
蛋白量ともにその石灰化程度と強い正相関を示すこ
しない、2)LPL 欠損症では動脈硬化性リポ蛋白で
とを報告している。
ある LDL が著明に減少する、などである。しかし
1990 年代になり、LPL 欠損症と動脈硬化性疾患の
LPL は酵素として動脈硬化惹起性リポ蛋白形成に関与
関わりを示唆する症例報告が発表され注目された。
LPL はカイロミクロンや VLDL 中の TG を水解
Benlian ら 21 は 4 名の LPL 欠損患者の動脈硬化症を
し、カイロミクロンレムナント、VLDL レムナント
頸動脈エコー、冠動脈造影などで評価、全例が 55
形成にあずかる。これらレムナントはコレステロー
歳以前になんらかの動脈硬化症の所見を示したと報
ルエステルに富み 、in vitro の検討で MΦに取り
告した。その後、我が国の研究者も LPL 欠損症と
込まれる 。更に LPL 作用により形成された遊離
動脈硬化症の関係を示唆する症例を提示している
脂肪酸は、MΦに取り込まれ再エステル化される
22
10
11
。更に LPL 欠損症ヘテロでは LPL 活性が低下し、
。こういった過程は MΦ内のコレステロールエス
若年性動脈硬化性疾患や家族性複合型高脂血症発症
テル蓄積を促進、MΦを泡沫化させる。LPL による
と関連することが報告されている 23, 24, 25。 2006 年、
VLDL 水解は更に LDL 形成を促進し、形成された
Hu ら 26 は、メタ解析の結果、LPLAsn291Ser 変異が
12
10
表1
報告されているリポ蛋白リパーゼ欠損症と動脈硬化症との関連
ポ
表 1. 報告されているリポ蛋白リパーゼ欠損症と動脈硬化症との関連
発表年 著者
1983
1996
1996
1996
1996
2001
2003
ジャーナル
Am J Med
NEJM
NEJM
NEJM
NEJM
Atherosclerosis
Eur J Clin Invest
J Clin Endocrinol
2005 Kawashiri et al
Metab
2007 Ebara et al
CCA
Hoeg e al
Benlian et al
Benlian et al
Benlian et al
Benlian et al
Ebara et al
Saika et al
症例
LPL mutation
動脈硬化との関連性
75M
52M
54F
67M
62F
66y F
55M
not determined
G188R/G188R
G188E/R243C
Frameshift/L286P
T101A/D250N
Y61X/Y61X
L303F/L303F
Yes
Yes
Yes
Yes
Yes
No
Yes
53y M
delG916/delG916
No
60y F
G188E/G188E
No
高 TG、低 HDL と関係し、冠動脈疾患と因果関係
されている。(図 1)。
あり結論した。逆に、LPL 活性上昇を来す変異は冠
LPL 過剰発現モデル動物における動脈硬化症
動脈疾患から防御することが、メタ解析で証明され
ている 。
アポ E 欠損マウスや LDL 受容体欠損マウスなど
27
一方で、LPL 欠損症と動脈硬化との関連について
の動物モデルにおいて、LPL を過剰発現すると血清
はまだ混沌としているのも事実である。
リポ蛋白プロファイルが改善することが示されてい
Ebara らは動脈硬化症所見を全く有さない、66 歳
る 32, 33。Tsutsumi ら 34 は LPL 活性を著明に増加する
女性 LPL 欠損症症例を報告している 28。我々も、動
化合物 NO-1886 を発見し、ラットに投与した。そ
脈硬化症を有さない 53 歳男性の LPL 欠損症症例を
の結果、ヘパリン静注後 LPL 活性増加と副睾丸脂
経験している 。動脈硬化症との関連性を考えた場
肪組織の LPLmRNA 発現増加が観察され、血清 TG
合、蛋白欠損型 LPL 欠損症と機能異常 LPL 蛋白を
低下と HDL 増加が観察された。更にこの化合物を
有する LPL 欠損症とは真逆になるとする興味深い
90 日間ラットに継続投与することで、冠動脈硬化
見解もある 。すなわち機能異常蛋白が残存すると
症進展の低下がみられたと報告している。Shimada
動脈硬化促進性を持つ、とする興味深い仮説であっ
ら 33 は LDL 受容体欠損マウスに LPL を過剰発現さ
た。しかしながら、その後、必ずしもこの仮説が当
せ、血清リポ蛋白と動脈硬化病変を LPL 過剰発現
てはまらない症例もその後報告されている 30。LPL
LPL欠損マウス由来カイロミクロン(4か月齢、15か月齢)のヒ
(-)の LDL 受容体欠損マウスと比較した。前者で
ト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)からのVCAM-1やMCP-1への
発現効果
29
28
図1
欠損症と動脈硬化症との関連性についての主な報告
を表(1)に示す。動物モデルを用いた研究も進め
られた。Zhang ら 31 は、生下時にアデノウイルスベ
クターでヒト LPL 遺伝子を導入しレスキューした
LPL 欠損マウスを用い、動脈硬化病変を評価した。
このマウスは、ヒト LPL 欠損と同様、著明な高カ
イロミクロン血症に加えて低 LDL、低 HDL を呈し
た。4 か月齢では大動脈の動脈硬化は認められな
かったが、15 か月齢になると野生株や LPL ヘテロ
欠損と比較して大動脈の動脈硬化性病変の進展を認
めた。この成績は LPL 欠損症が高齢になるにつれ、
動脈硬化性病変進展を来す疾患であることを示唆す
図 1. LPL 欠損マウス由来カイロミクロン(4 か月齢、
15 か月齢)のヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)
からの VCAM-1 や MCP-1 への発現効果
る。この機序として、LPL 欠損マウス由来のカイロ
ミクロンはヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)
からの VCAM-1 や MCP-1 の発現を高めることが示
文献 31 より改変して引用
11
表2
表 2. 総頚動脈内膜中膜複合体厚と
LPL 蛋白量 , 年齢 , 性別 , 体格指数 ,年齢,
LDLC,性別,
HDL-C体格指数,
, TG との相関性に関する重回帰分析
総頚動脈内膜中膜複合体厚とLPL蛋白量
総頚動脈内膜中膜複合体厚とLPL蛋白量,
年齢
性別
体格指数
LDLC,
文献 37 より引用
HDL-C , TG との相関性に関する重回帰分析
は TG やレムナントの著明な低下と、大動脈硬化病
HDL-C , TG と独立して IMT と相関する成績がえら
変の著明な縮小が観察されている。最近アポ AV と
れ(表 2), 血清 LPL 蛋白量が低いということが、
動脈硬化性疾患発症との関連性が強調されている。
頸動脈の動脈硬化のリスクであることを考えた。一
LPL 欠損症患者の中に、LPL 遺伝子変異とアポ AV
方、国内外で血清 LPL 蛋白量と冠動脈疾患との関
変異を重複して有する症例も報告されるようになり
連性が報告されている。欧州の研究者の大規模前
、今後はこれらの総和として LPL と動脈硬化症発
向き研究で、血清 LPL 低値は冠動脈疾患発症の予
35
症との関係を論じてゆかねばならないと考える。
測因子であることが示されている(表 3)42。ただ
し、TG を交絡因子とすると有意性は消失する。 最
LPL 蛋白量をバイオマーカーとした種々の報告
近、白川ら 43 は、免疫生物研究所(IBL)の研究者
LPL はかつて、ヘパリン静注後血漿を試料として
と共同し、抗ヒト LPL モノクローナル抗体を用い
活性測定することによりのみ評価された。我々は、
た新たな高感度 LPL 蛋白量測定系を開発し、レム
抗 LPL モノクローナル抗体を用いたサンドイッチ
ナント(RLP-C, RLP-TG)と LPL 蛋白量との関係
EIA 法で LPL 蛋白定量する系を確立した 。さら
を報告している。LPL 蛋白量は RLP-TG、RLP-TG/
に血清を測定試料として用いる LPL 蛋白量の意義
RLP-C 比 と 逆 相 関 す る。RLP-TG/RLP-C 比 は RLP
が、我が国の研究者を中心として次々と明らかにさ
の粒子サイズを反映し、生理学的な LPL 活性を反
れてきた
映していると考えられるため 44、LPL がレムナント
36
。Hanyu ら
37,38,39,40,41
39
はインスリン抵抗性
指標 HOMA-R や、ミニマルモデル法での Si 値と血
代謝に関わることを示唆している。
清 LPL 蛋白量との相関性を、耐糖能正常者、境界
おわりに
型、DM 患者を対象として検討した成績を報告して
いる。いずれの対象群でも、血清 LPL 蛋白量は Si
と正相関を示す。このことは、血清 LPL 蛋白量が
LPL と動脈硬化との関係をさまざまな観点から述
HOMA-R と異なり、空腹時血糖高値の症例でもイ
べた。その関係を明らかにしていく上で臨床的に
ンスリン抵抗性のマーカーとなりうる可能性を示し
もっとも重要と思われるのは、各個人の LPL 量が
ている。この他、血清 LPL 蛋白量は、2 型糖尿病患
動脈硬化にいかなる影響を与えるかを示すことであ
者やメタボリックシンドロームの症例で低下するこ
る。そのために、LPL 蛋白量の多寡と動脈硬化性疾
と、HbA1c と逆相関すること、また、インスリン
患の発症との関係を長期間にわたって前向きに調べ
治療を行うと増加する 。またアディポネクチンと
た大規模臨床研究成果がさまざまな ethnic background
正相関することも報告されている 。
を対象として明らかにされることが待たれる。
40
41
我々は、脂質異常症患者での頸動脈エコーでの内
利益相反:
膜中膜複合体(IMT)と血清 LPL 蛋白量との相関
性を検討した。その結果 , 性別 , 体格指数 , LDLC,
著者の本論文に関する利益相反は無し。
12
表3
血清LPL蛋白量の四分位と将来のCAD発症のオ ズ比
血清LPL蛋白量の四分位と将来のCAD発症のオッズ比
表 3. 血清 LPL 蛋白量の四分位と将来の CAD 発症のオッズ比(The Epic-Norfolk prospective study)
文献 42 より引用
(The Epic-Norfolk prospective study)
LPL Quartile
Range (ng/ml)
1
<46
315/495
2
3
4
>91
66-91
47-65
259/495
225/495
P*
217/495
Model 1
Model 2
1
0.81 (0.66-1.00)
0.66 (0.53-0.83)
0.66 (0.53-0.83)
1
0 73 (0
0.73
(0.57-0.94)
57 0 94)
0 77 (0.60-0.99)
0.77
(0 60-0 99)
Model 3
0 93 (0.73-1.17)
0.93
(0 73 1 17)
1
0.97 (0.76-1.23)
0.80 (0.62-1.03)
Model 4
1
0.95 (0.75-1.21)
0.79 (0.61-1.02)
<0.0001
0.88 (0.67-1.14)
0.87 (0.67-1.13)
0 02
0.02
0.17
0.16
Model 1 unadjusted. Model 2 adjusted for SBP, DM, LDL-C and smoking. Model 3 adjusted for the same variables as in
model 2 and TG. Model 4 adjusted for the same variables as in model 2 and HDL-C. LPL and TG levels were logtransformed before the analysis.
P
risk.
P* indicates Pvalue for linearity between LPL quartile and CAD risk
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14
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15
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
動脈硬化の免疫学的機序
島田 和典、Hamad Al Shahi、塩澤 知之
順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学
要旨
生体は、感染病原体や自己由来の脂質核酸等を含む異物に対し、抗原非特異的な反応(自然免疫)
と抗原特異的な反応(獲得免疫)により防御反応を作動させる。自然免疫は、単球、マクロファージ、
樹状細胞が、細胞性免疫と液性免疫から構成される獲得免疫は、主にリンパ球が反応の中心となる。
炎症・免疫応答は、動脈硬化症の発症や進展に深く関与する。血管内皮細胞や血管平滑筋細胞等の
動脈壁構成細胞群に加え、単球、マクロファージ、リンパ球、樹状細胞等の免疫応答細胞群から動
脈硬化の発症機序を捉えることも重要である。これらの免疫応答細胞には様々なサブセットが存在
し、動脈硬化の発症や進展に深く関与することが明らかにされている。それぞれのサブセットの役
割や相互作用が解明されれば、より効果的な新規治療法の開発にも繋がると考えられる。
キーワード
単球・マクロファージ、リンパ球、樹状細胞、サブクラス、免疫反応
はじめに
(acute coronary syndrome;ACS)の約 3 分の 2 は動
脈硬化プラ―クの破綻により発症し、その破綻には、
炎症とは、生体におけるさまざまな障害因子を的
組織局所の炎症が深く関与する。したがって、血管
確かつ効果的に排除するための生体防御機構であ
内皮細胞や血管平滑筋細胞等の動脈壁構成細胞群か
る。炎症を惹起する障害因子には、感染病原体や異
らの視点に加え、単球、マクロファージ、リンパ球、
物の侵入、紫外線・放射線や金属による外的侵襲の
樹状細胞(dendritic cell: DC)等の免疫応答細胞群
みならず、自己に由来する脂質や壊死組織から産生
である血球側から動脈硬化症を捉えることも重要で
されるサイトカインおよび核酸等も含まれる。これ
ある。最近、これらの免疫応答細胞には様々なサブ
らの障害因子を的確に認識し排除するための機構と
セットが存在し、動脈硬化の発症や進展と深く関連
して、免疫反応は重要な役割を担っている。
することが明らかにされている 2-5。
一方、炎症は、動脈硬化症の発症や進展に深く関
与する。すなわち、動脈硬化の発症は、血管内皮細
自然免疫と獲得免疫
胞の障害、障害された血管内皮細胞に対する単球
生体は、感染病原体をはじめとする異物(抗原)
やリンパ球等の免疫細胞の接着、それらの内皮下
に対する防御のために抗原非特異的な防御反応(自
への侵入、内皮下における単球からマクロファー
然免疫)と抗原特異的な防御反応(獲得免疫)を行
ジへの分化、変性した低比重リポ蛋白(low-density
う(表 1)。免疫系は非自己に対する反応だけでは
lipoprotein; LDL)を代表とする異物の貪食、泡沫
なく、例えば酸化 LDL 等の内因性ではあるが生体
細胞への分化、種々の炎症性細胞の集簇等、様々
にとって異物となる物質も認識する。自然免疫は、
な過程が関連する 。また、急性心筋梗塞(acute
単球、マクロファージ、DC が中心となる。一方、
myocardial infarction; AMI)、不安定狭心症(unstable
獲得免疫は主にリンパ球が主体となり細胞性免疫と
angina; UAP)、心臓性突然死を含む急性冠症候群
液性免疫から構成される。
1
17
表 1. 自然免疫と獲得免疫
担当細胞
自然免疫
獲得免疫
好中球 , マクロファージ , 樹状細胞 , NK 細胞 ,
自然リンパ球
リンパ球
遺伝子は生殖細胞でコードされる
(再構成を行わない)
遺伝子断片の体細胞遺伝子組み換えにより生成され
る遺伝子によりコードされる(再構成を行う)
共通する構造、分子パターン
(例:LPS, リポ蛋白 , ペプチドグリカン)
詳細な分子構造(例:タンパク質 , ペプチド)
限定
多彩
無
有
受容体
認識機構
多様性
免疫記憶
自己非応答性
有
有
関連タンパク質
補体
抗体
反応速度
迅速
緩徐(適応速度は感染・抗原により異なる)
NK; natural killer, LPS; lipopolysaccharide
単球・マクロファージ
害組織に侵入し、マクロファージに分化すると考
え ら れ て い る 12。Ly-6ClowCCR2-CX3CR1high の 単 球
単 球・ マ ク ロ フ ァ ー ジ は、 動 脈 硬 化 の 発 症 や
進展に深く関与する
は、CCR5 を介して動脈硬化病変に侵入する。一
。 実 際 に、 動 脈 硬 化 病 変
方、Ly-6ChighCCR2+CX3CR1low の 単 球 は、CCR5 や
に は 多 く の マ ク ロ フ ァ ー ジ や 変 性 LDL 等 を 取
CX3CR1 のみならず CCR2 を介して動脈硬化病変に
り 込 ん だ 泡 沫 細 胞 が 存 在 し、 そ の 多 く は 流 血 中
侵入する 13。
6, 7
の 単 球 由 来 と 考 え ら れ て い る。 流 血 中 の 単 球 に
は、 マ ウ ス で は Ly-6C
ヒ ト の 単 球 で は、Ziegler-Heitbrock ら が CD14
と Ly-
と CD16 の 発 現 に よ り CD14highCD16- 以 外 に
6ClowCCR2-CX3CR1high 、 ヒ ト で は CD14highCD16- と
CD14+CD16+ の 単 球 が 存 在 す る こ と を 報 告 し た
CD14+CD16+ のサブセットが存在する(図 1)。Ly-
14
6C は、glycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー
価した冠動脈硬化スコアとは有意な正相関を有
型蛋白で、単球以外に顆粒球、NK 細胞、DC に存
し、多枝冠動脈病変の独立した因子であった 15。
在し
、Ly-6Chigh と Ly-6Clow の 単 球 は、DC に 分
CD14highCD16- 単球と CD14+CD16+ 単球の動脈硬化
化可能である 6。アポ E 欠損マウスにおいて、Ly-
の発症や進展における役割は十分に解明されては
high
high
6C
+
CCR2 CX3CR1
low
。CD14+CD16+ 単 球 数 は、Gensini score に よ り 評
6, 7
の単球は、障害された血管内皮細胞に接着、
内皮下に侵入し、マクロファージに分化した 8。こ
M1マクロファージ
れらの変化はスタチンの投与により抑制された 8。
high
Ly-6C
Ly-6Chigh単球
M1
炎症性
Inflammatory monocytes
IL 12
IL-12
IFN-γ
の 単 球 は、P-selectin glycoprotein ligand-1
LPS
IL-6
(PSGL-1) を 発 現 し、P-、E-、L-selectin と の 親 和
Ly-6ChighCCR2+CX3CR1low
CD14hghiCD16-
性 が 高 い 9。CX3CL1/fractalkine は、 単 球 や リ ン パ
M2a
Resident monocytes
球に発現する接着および遊走に関与するケモカイ
M2マクロファージ
M2マクロファ
ジ
IL-13
IL
13
抗炎症性
組織修復性
ン で あ り、 そ の 受 容 体 で あ る CX3CR1 と と も に
Ly 6ClowCCR2-CX3CR1hghi
Ly-6C
CD14+CD16+
マクロファージ、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞
M2b
TGF-β
monocytes”、Ly-6ClowCCR2-CX3CR1high の 単 球 は、
IL-10
免疫
IL-10
球は炎症や動脈硬化病変を促進する“inflammatory
TGF-β
抗炎症性
抗動脈硬化性
創傷治癒
抗炎症性
複合体
M2c
に 発 現 し て い る 10。Ly-6ChighCCR2+CX3CR1low の 単
IL-10
IL-4
Ly-6Clow単球
炎症惹起性
動脈硬化惹起性
生体防御
抗腫瘍作用
TGF-β
抗炎症性
図 1. 単球・マクロファージのサブタイプと機能
単球・マクロファージには種々のサブタイプが存
在し、それぞれ特有の機能を有する。
IFN: interferon, IL: interleukin, TGF: transforming
growth factor.
CX3CR1 を介する定常時にパトロールする“resident
monocytes”と考えられている 11。ひとたび感染症
等による炎症が惹起されると、これらの単球は障
18
いない。CD14+CD16+ 単球は、interleukin(IL)-6, ILM0
8, monocyte chemotactic protein(MCP)-1 等の炎症性
M1
M2
サイトカインやケモカインを産生するが、抗炎症
性サイトカインである IL-10 も産生する 16。前向
き研究では、CD16+ 単球ではなく CD14highCD16- 単
球が、心血管イベント発症と相関した 17。従って、
CD14+CD16+ 単球増加は原因ではなく結果である可
能性もあり、必ずしも動脈硬化惹起性の単球サブ
図 2. M1 および M2 マクロファージにおける酸化 LDL
刺激前後の遺伝子発現の比較:階層的クラスター
解析
健常人の末梢血単核球を分離し、M-CSF 存在下
でマクロファージに分化させた(M0)。LPS+IFN
γ存在下で M1 マクロファージ、IL4 存在下で M2
マクロファージを誘導し、酸化 LDL 刺激前後で
mRNA を抽出した後、cDNA マイクロアレイによ
り解析した。M1 のみで上昇したクラスターには
89 個の遺伝子が存在し、その中には NF-κB シグ
ナル伝達に関与する分子群が含まれていた(文献
25)。
セットであるかは明らかではない。最近の報告では、
CD14 CD16 CX3CR1 単球数は AMI 例におけるス
+
+
+
テント再狭窄に関連し 18、CD14+CD16+ の PSGL-1
陽性単球数は、ACS で有意に高値であった。また、
optical coherence tomography(OCT) に よ り 評 価 し
たプラーク破綻や血栓形成に相関したことから 19、
さらなるサブセットの評価も必要である。
組織中に遊走、侵入したマクロファージは、組
織内の微小環境においてさまざまなサイトカイン
や抗原刺激に応答して活性化されマクロファージ
アレイにより網羅的に解析した 25(図 2)。分子ネッ
に分化する。マクロファージもまた、炎症性マク
トワーク解析では、最も変動するネットワーク群
ロファージである M1 タイプと抗炎症性・組織修復
が M1 で認められ、関連する分子すべてが直接また
性マクロファージである M2 タイプに分類できる
は間接的に TGF-βによる細胞応答に関与していた。
(図 1)。M1 マクロファージは、interferon(IFN)
階層的クラスター解析では、M1 においてのみ強く
-γやリポ多糖体(LPS)等の刺激により誘導され、
上昇する遺伝子には NF-κB のシグナル伝達経路に
IL-6、IL-12、tumor necrosis factor(TNF)-γ 等 の 炎
関与する遺伝子が含まれていた。以上より、M1 マ
症性サイトカインや、一酸化窒素、活性酸素種を
クロファージは、M2 に比べ酸化 LDL 刺激下でよ
産生し、炎症および動脈硬化惹起性である
。一
り特徴的な反応を示した 25。一方、動脈硬化巣にお
方 M2 マ ク ロ フ ァ ー ジ は、IL-4 や IL-13 に よ り 誘
ける M2 マーカーの発現は peroxisome proliferators-
導 さ れ IL-10 や transforming growth factor(TGF)
-β
activator receptor(PPAR)-γの発現と相関し、PPAR-
を産生し免疫抑制や Th2 反応に関与する M2a タイ
γの活性化はヒト単球を M2 に分化させることから
プ、免疫複合体等の刺激により誘導される M2b タ
26
イプ、IL-10、TGF-βやグルココルチコイド等によ
関連すると考えられる。
20-23
20-23
、M2 マクロファージの分化誘導には、PPAR-γが
り誘導される M2c タイプがあり、抗炎症、組織修
復性を有する 24。実際に、ヒトの動脈硬化病変では
DC
M1 と M2 マクロファージの両者が存在する。動脈
硬化病変内のマクロファージは,種々の炎症性サイ
DC は、感染病原体等の外的異物を取り込み、ナ
トカインやケモカイン、matrix metalloproteinase 等
イーブ T 細胞に抗原提示を行い活性化させる。また、
の蛋白融解酵素を分泌して病変の炎症に関与する
自己抗原等の内的異物に対しては、免疫寛容を誘導
ほか,酸化 LDL 等の変性脂質成分を取り込み泡沫
して免疫抑制的に作用する。すなわち、活性化と抑
細胞となり脂質コアを形成し病変をさらに進展、複
制の 2 面性の作用を有する免疫担当細胞である 27, 28。
雑化させる。我々は、ヒト末梢血由来単球を分離
DC には、様々なサブクラス分類が存在する。そ
培養し M1 と M2 マクロファージに分化させ、酸化
の分化度により、未成熟 DC(immature DC)と成
LDL 刺激前後の遺伝子発現変動を cDNA マイクロ
熟 DC(mature DC)、末梢組織からリンパ行性にリ
19
+
stimulating factor receptor)
の表現型を有する共通
DC前駆細胞
未成熟樹状細胞
I
Immature
t
DC
(CD80-/low CD86-/low )
DC 前駆細胞(common DC progenitor: CDP)から分
成熟樹状細胞
Mature DC
化することが報告された 32。さらに、Flt3+M-CSFR-
(CD80+ CD86+)
にも新規 DC 前駆細胞が存在し、pDC の分化能は
CDP に比べて優れていることが明らかになってい
る 33。成熟 DC は、主要組織適合遺伝子複合体(major
抗原提示
CD80, CD86
抗原提示
ナイーブT細胞
ナイーブT細胞
histocompatibility complex; MHC class I, II)、CD1, 副
シグナル分子である CD80、CD86 を発現し、ナイー
エフェクターT細胞
T細胞アポトーシス
免疫寛容
制御性T細胞誘導
ブ T 細胞を後述の Th1 や Th2 等のエフェクター T
細胞に分化させる。一方、CD80 や CD86 を発現し
図 3. DC のサブタイプと免疫応答の調節
DC 前駆細胞から誘導された未成熟 DC(immature
DC) と 成 熟 DC(mature DC) は、CD80 や CD86
等の共刺激分子を発現によりナイーブ T 細胞に対
する作用が異なる。CD80 や CD86 を発現する成
熟 DC(mature DC)は、ナイーブ T 細胞に抗原提
示を行い活性化し、エフェクター T 細胞に分化さ
せ る。CD80 や CD86 の 発 現 が 乏 し い 未 成 熟 DC
(immature DC) は、 自 己 反 応 性 T 細 胞 を 不 活 化
またはアポトーシス誘導によりクローン除去に導
く。また、制御性 T 細胞の誘導により免疫寛容に
作用する。
ていない未成熟 DC は、ナイーブ T 細胞に対しアナ
ジーまたはアポトーシスを誘導する 34。
DC はヒトの正常血管において中膜と外膜の境
界 領 域 に 35、CD1a+ S-100+CD83-CD86- の 未 成 熟
DC は若年健常者の血管内膜に存在する 36。HLADR+ CD1a+S-100+ の DC は動脈硬化病変に存在し 37、
CD83+ の成熟 DC は、動脈硬化病変の中でもプラー
ク破綻部位に存在することから 38、プラークの不
安定化に関連すると考えられる。我々は、3 次元管
ンパ節移行する遊走性 DC(migratory DC)と高内
状ヒト血管モデルを作成し DC、マクロファージ、
皮細静脈を介して直接末梢血からリンパ節に移行す
CD4 リンパ球等の血管炎症における役割を検討し
る常在性 DC、また分化の方法・経路により CD1c、
た 39(図 4)。3 次元管状ヒト血管において、DC の
CD11c、CD3 を 発 現 し IL-12 を 産 生 す る 骨 髄 性
活 性 化 マ ー カ ー で あ る CD83 や CD86、CCL19 や
DC(myeloid DC: mDC ま た は conventional DC) と
CCR7 の発現は、LPS 刺激により増加した。T 細胞
CD123(IL-3 受容体α鎖)を発現し IFN-α等の type
受容体や CD40 リガンド , IFN-γの発現は、DC と
I IFN を産生する形質細胞様 DC(plasmacytoid DC:
pDC)に分類される 27, 28(図 3)。AMI、UAP、安定
冠動脈疾患症例では、健常人に比較して末梢血中の
pDC 前駆細胞数は変化を認めなかったが、mDC 前
駆細胞数は有意に減少していた 29。一方、冠動脈疾
患例では、健常人に比較して末梢血中の mDC は有
意に増加していたと報告されている 30。また、mDC
前駆細胞数、pDC 前駆細胞数、総 DC 前駆細胞数
の低値は、冠動脈硬化症の独立した因子であった
31
。これらの結果の相違の要因の一つとして、それ
図 4. 血管炎症におけるマクロファージと DC の比較:
ヒト 3 次元管状血管モデルによる比較解析
3 次元管状ヒト血管モデルを作成し、マクロファー
ジ、DC、CD4 リンパ球を共培養した。DC の活性
化マーカーである CD86 の発現は、LPS 刺激によ
り増加した。T 細胞受容体の発現は、マクロファー
ジや DC との共培養下、特に LPS 刺激により増加
した。CD4 リンパ球の活性化の指標である CD40
リガンドの発現は、マクロファージに比し DC と
の共培養下で増加し、LPS 刺激により著明に増加
した(文献 39)。
ぞれの DC を定義する際の表面マーカーの違いが
挙げられる。実際に、単核系貪食細胞に属する単
球、マクロファージ、DC の起源や分化に関する報
告は相次いでおり、DC の急性炎症や慢性炎症時に
おける役割は多岐にわたる。DC のサブセットであ
る conventional DC と pDC は、lin-c-kitint/loFlt3(fmslike thyosine kinase 3)+M-CSFR(macrophage colony20
CD4 リンパ球との共培養下、特に LPS 刺激により
Th1
増加した。また、CD4 リンパ球の組織内への浸潤は、
細胞性免疫
T-bet
DC との共培養下、特に LPS 刺激により増加した。
樹状細胞
これらの反応は、マクロファージに比し DC との共
抗
原
提
示
細 マクロファージ
胞
培養下でより有意であったことから、血管炎症には
DC の活性化が先行することが重要であると考えら
れる 39。
pDC は、Toll-like receptor(TLR)-7 や CpG motif
ナイーブT細胞
ナイ
ブT細胞
(IFN-γ, IL-2, IL-12)
Th2
液性免疫
GATA3
Treg
Foxp3
を 認 識 す る TLR9 を 発 現 し、IFN-α を 産 生 す る。
(動脈硬化惹起性)
(抗脈硬化性)
(IL-4, IL-5, IL-10, IL-13)
Th17
(動脈硬化惹起性)
RORγt
(IL-17 IL-6
(IL-17,
IL-6, IL-23)
免疫寛容・抗炎症
pDC は動脈硬化病変に存在し、IFN-αの産生によ
(抗動脈硬化性)
(TGF-β, IL-10)
りプラークの不安定化に関連すると考えられる 40。
図 5. T リンパ球サブセットと動脈硬化との関連
Th: T helper, Treg: regulatory T cells, T-bet: T-box
expressed in T cells, Foxp3: forkhead/winged helix
transcription factor, ROR: retinoic acid-related orphan
receptor, IFN: interferon, IL: interleukin, TGF:
transforming growth factor.
一方、pDC の除去は、LDL 受容体欠損マウスにお
いて T 細胞の集積の増加と動脈硬化病変の進行を
もたらしたことから、pDC は T 細胞の活性化を抑
制し抗動脈硬化的に作用する可能性も報告されて
いる 41。前述のように、DC には様々なサブセッ
トが存在し、急性や慢性の炎症・免疫応答下でそ
的に制御する Treg に分類される 3, 4, 46(図 5)。Th1
の多様性と可塑性によりバランスを保っていると
サイトカインである IFN-γは、マクロファージに
考えられる。実際に、LDL 受容体と Flt3 のダブル
よる炎症性サイトカインの産生や主要組織適合抗
ノックアウトマウスでは、CD103 CD11b DC が減
原(major histocompatibility complex: MHC) ク ラ ス
少し、制御性 T 細胞(regulatory T cell: Treg)の減
II 発現増強等の作用を有し、動脈硬化促進的に作用
少や大動脈の炎症性サイトカイン発現の増加ももた
する。IFN-γは、コラーゲンの産生抑制、血管平滑
らし、動脈硬化病変は進行した 。CD103 CD11b
-
筋細胞の増殖抑制等により抗動脈硬化的な作用を有
DC は、Flt3 の刺激により Treg を誘導することによ
するとも考えられるが、ACS 発症に関連する不安
り動脈硬化病変を抑制すると考えられる 。一方、
定プラークの形成に関与し、冠動脈イベント発症に
CCL17 CD11b DC は、ナイーブ T 細胞から Treg の
は促進的と考えられる。動脈硬化病変は、アポ蛋
分化誘導を抑制し、動脈硬化病変の形成を促進する
白 E 欠損マウスと IFN-γ受容体欠損マウスとの交
ことが報告されている 。DC を用いた動脈硬化治
配により有意に減少し 47、アポ蛋白 E 欠損マウスに
療の候補として、DC を酸化 LDL で刺激し Treg を
IFN-γを投与したところ有意に増加した 48。一方、
誘導する 44、未成熟 DC にビタミン D3(calcitriol)
動脈硬化病変は、アポ蛋白 E 欠損マウスと IL-10 欠
を投与し Treg を誘導する 、ことにより動脈硬化
損マウスとの交配により有意に増加し 49、アポ蛋
形成が抑制されることが報告されている。
白 E 欠損マウスと IL-10 過剰発現マウスとの交配に
+
-
42
+
42
+
+
43
45
より有意に減少したことより 50、Th2 サイトカイン
リンパ球
である IL-10 は抗動脈硬化的であると考えられる。
Th1 と Th2 の分化には、IL-12 と IL-18 が重要であ
T リンパ球や B リンパ球は、動脈硬化症の発症や
る。IL-18 は、Th1 サイトカインである IFN-γの産
進展に関与する。動脈硬化巣に集族するリンパ球
生調節を介して動脈硬化を惹起させる。また IL-18
の主体は T リンパ球であり、CD4 陽性のヘルパー
受容体は動脈硬化巣のマクロファージ、血管内皮細
T 細胞が中心である。T リンパ球は、それらが産生
胞、血管平滑筋細胞に広く分布し、IL-18 は IL-12
するサイトカインの種類により IFN-γや IL-12 を
との共存下でマクロファージのみならず血管平滑筋
産生する Th1、IL-4 、IL-5、IL-10 や IL-13 を産生す
細胞からの IFN-γ産生を促進させる 51。臨床研究
る Th2、IL-17 を産生する Th17、さらに炎症を抑制
においても、血中 IL-18 濃度と心血管死とは関連す
21
ることが報告されている。我々も UAP 患者、安定
CD4+Foxp3+Treg の減少と将来の ACS 発症リスクと
型狭心症患者、健常人を対象に各血中サイトカイン
は有意に関連していた 65。Treg 数が減少した CD28
濃度を測定したところ、UAP 患者では安定型狭心
欠損マウスの骨髄を動脈硬化モデルマウスである
症患者や健常人に比べ、血中 IL-12 濃度は有意に高
LDL 受容体欠損マウスに移植すると、動脈硬化病
値であった 。UAP 患者では、健常人に比べ、血
変は悪化した 66。アポ蛋白 E 欠損マウスに抗 CD25
中 IL-18 濃度は有意に高値であった 52。以上より、
中和抗体を投与し Treg を減少させたところ、動脈
冠動脈硬化症および ACS は、Th1/Th2 バランスは、
硬化病変は悪化した 66。アポ蛋白 E 欠損マウスに
Th1 優位な病態と考えられる。実際に、UAP 患者
Treg を移入させてところ、動脈硬化病変は抑制さ
の末梢血中 Th1 細胞数は、安定型狭心症患者に比
れた 66。また、動脈硬化退縮モデルを用いた検討で
べ有意に多く、Th2 細胞数は有意に少なかった 53。
は、抗 CD3 抗体の投与によりエフェクター T 細胞
52
強力な LDL コレステロール低下作用を有し動脈
を減少させ Foxp3+Treg の割合を増加させることによ
硬化性疾患の発症や進展予防に重要な薬剤である
り、動脈硬化病変のマクロファージや T リンパ球
3-hydroxy-3-methyglutaryl coenzyme A(HMG-CoA)
が減少し動脈硬化の退縮を認めた 67。したがって、
還元酵素阻害薬(スタチン)の一部は、Th1 側にシ
Treg による免疫応答の制御は、動脈硬化の発症や
フトした Th1/Th2 バランスを調節する免疫調整作用
進展抑制につながると考えられる。実際に、スタチ
を有する
ンの投与により Treg 数が増加することが報告され
。T-box expressed in T cells(T-bet)と
54, 55
signal-transducer-and-activator-of-transcription(STAT)
ており 68、Treg による抗動脈硬化治療の開発が期待
-4、GATA-binding protein 3(GATA-3)と STAT-6 は、
される。
それぞれ Th1 と Th2 の分化に関与する転写因子で
おわりに
ある。一部のスタチンは、STAT-4 のリン酸化を抑
制 し、STAT-6 の リ ン 酸 化 を 促 進 す る こ と に よ り
Th1/Th2 バランスを調節する 56。
動脈硬化疾患の発症や進展における免疫学的機序
Th17 は、IL-17 を産生するヘルパー T 細胞として
について概説した。免疫学・分子生物学の進歩とと
同定された。Th17 から産生される IL-17 や IL-22 は、
もに、急性および慢性炎症が全身の臓器に与える影
抗菌ペプチドの産生を誘導することにより細菌や真
響や、免疫システムが動脈硬化性疾患の発症や進展
菌感染の防御に重要である。Th17 の誘導には、IL-
に深く関与することが明らかとなっているが、未だ
1, IL-6, IL-23, TGF-βであり、そのマスター転写因
解明されていない部分も極めて多い。動脈硬化症は
子は retinoic acid-related orphan receptor γt(RORγt)
無症候性に進行し、ひとたび心血管エベントを発症
である
。ACS 患者では、Th17 細胞数は有意に増
すると生活の質の低下や生命予後を脅かされること
加しており、IL-17、IL-6、IL-23、RORγt の発現は
も少なくないため、早期発見、早期診断、早期治療
有意に高値であった
介入が求められる。単球、マクロファージ、リンパ
57
58
。Th17 と Treg とのバランス
不均衡が ACS 発症に関連する可能性が示唆されて
球、DC 等の免疫応答細胞群から動脈硬化症を捉え、
いる。
それぞれのサブセットの役割や相互作用が解明され
Treg は、IL-2 受容体α鎖の CD25 とマスター転写
れば、従来からの動脈硬化各危険因子の是正のみな
因 子 で あ る forkhead/winged helix transcription factor
らず、より安全で効果的な新規治療法の開発にも繋
(Foxp3) を 発 現 し て い る。Treg は、IL-10 や TGF-
がると考えられる。
βの産生や細胞間の直接または間接作用により過剰
文 献
な免疫応答を制御し、免疫寛容や恒常性の維持に深
く関与する 59-62。Treg は、ヒトの正常血管に存在し
1) Hansson GK. Inflammation, atherosclerosis, and
ないが、すべての動脈硬化病変の段階で存在する
coronary artery disease. N Engl J Med 352: 1685-
63
。ACS 症例の末梢血では、CD4 CD25
+
Treg は有
high
1695, 2005
意に減少し、その抑制性の機能は低下していた 。
64
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26
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
2型糖尿病患者における動脈硬化の評価とその治療の新展開
三田 智也
順天堂大学大学院 代謝内分泌学内科
要旨
2 型糖尿病は心血管イベントの明らかな危険因子である。2 型糖尿病における動脈硬化促進因子
は持続性高血糖、食後高血糖やインスリン抵抗性など様々である。個々の動脈硬化のリスク因子を
見極め、早期より介入していくことが心血管イベントの発症を抑制するうえで重要である。また、
単に血糖を下げるのではなく、低血糖や体重増加の合併に留意しながら質の良い血糖コントロール
目指すことが求められる。
キーワード
動脈硬化、食後高血糖、低血糖、インスリン抵抗性、低血糖、インクレチン
関連薬
1.糖尿病と心血管イベントの関連性
ないと思われる。実際に、患者の対象は異なるが
多くの大規模臨床研究で 2 型糖尿病患者では心血
diabetes study)では、糖尿病発症の早期より厳格な
管イベント発症が増加することが示され、また、心
血糖コントロールを行うことは、長期に観察した場
血管イベントは最大の死因の一つとなっている。故
合に心血管イベント発症を抑制することが明らかと
に糖尿病患者の予後を改善するため動脈硬化発症進
なっている。従って、前述の試験では、厳格な血糖
展を抑制することは極めて重要であると考えられる。
コントロールによる低血糖の発症や体重増加が心血
糖尿病の特徴的な所見は高血糖であることから、
管イベント発症の増加に関与している可能性がある
英国で行われた UKPDS(United kingdom prospective
高血糖そのものに介入することが心血管イベント発
と推測される。同時に、糖尿病による動脈硬化促進
症の抑制に重要と推測される。近年報告された 3 つ
因子は様々であり、それゆえ個々の危険因子を見極
の大規模研究では、2 型糖尿病患者に対して厳格な
めて、それに対して介入することが糖尿病患者の動
血糖コントロールが大血管障害の発症抑制が可能で
脈硬化発症進展を抑制するうえで重要であると考え
あるかを検討された。しかし、これらの試験におい
られる。
て厳格な血糖コントロールが細小血管障害を抑制す
2. 心血管イベントのハイリスク群の抽出
ることは再確認されたが、大血管障害の発症抑制効
果は認められなかった。さらに、ACCORD(Action
2 型糖尿病が心血管イベント発症の危険因子であ
to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)試験では、
通常療法群に比較して強化療法群で総死亡が有意に
ることから、そのスクリーニングを行い、患者の予
22%も増加した。しかしながら、これらの試験の意
後を改善することは重要な課題である。DIDA 研究
味することは厳格な血糖コントロールそのものが大
では、1123 人の無症候性の 2 型糖尿病患者を対象に、
血管障害の発症抑制に有効ではないということでは
アデノシン負荷心筋シンチグラムによるスクリーニ
27
ングを行った群と非スクリーニング群において心血
ベースの IMT と組み合わせることにより心血管イ
管イベントの発症を平均 4.8 年にわたり観察してい
ベントのハイリスク群を抽出することが可能である
る 。その結果、一次エンドポイントである心血管
ことを報告している 3。従って、古典的な動脈硬化
死と非致死心筋梗塞の発症に関しては、スクリー
のリスクファクターに基づく心血管イベントの予測
ニング群 2.7%、非スクリーニング群 3.0%と両群間
方法に加えて、IMT などの動脈硬化を定量できる
に有意な差を認めなかった。この間、両群とも厳格
方法を組み合わせ、心血管イベントのハイリスク群
な内科治療が行われ、心血管イベントの発症が少な
を抽出することが重要である。これらの方を対象に、
かったことを考慮すると、このような対象において
スクリーニングを行うことで、その予後が改善でき
は心血管イベントのスクリーニングをすることが予
るかは現時点では不明であるが、心血管イベントハ
後の改善に繋がらないと考えられる。この事実から、
イリスク群と捉え、少なくともリスク因子に対する
対象を心血管イベントのハイリスク群に絞り込んだ
内科的な管理を厳格にするべきであると思われる。
1
うえで、同様のスクリーニングを行うことが大切で
あると思われる。この絞り込みの方法の一つとして、
3.食後高血糖の動脈硬化への影響
頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT)の測定が挙げ
られる。頸動脈 IMT は、超音波により視覚および
いくつかの大規模研究で糖負荷後 2 時間値が心血
定量的に頸動脈の動脈硬化性病変が評価でき、簡便
管イベントによる死亡や全死亡の独立した危険因子
かつ非侵襲的で比較的コストが安いという優れた側
であることが示されている。実際に早期から積極的
面も併せもっている。また、患者にも動脈硬化病変
にα - グルコシダーゼ阻害薬により食後高血糖の是
を視覚的に示すことにより、患者の治療への意欲を
正を行えば心血管イベントの発症を抑制すること
高めるといった副次的な効果も期待できる。実際に、
が可能であることが STOP-NIDDM study や MeRIA7
頸動脈 IMT は様々な動脈硬化性疾患と関連するこ
で証明されている。
とが多くの臨床研究から明らかとなっている。特に、
我々は食後高血糖による内皮機能障害やそれに付
大規模臨床試験によって冠動脈疾患や脳血管障害の
随して起こる初期動脈硬化病変と考えられる単球の
発症と強い相関関係が認められことが報告され、2
血管内皮細胞の接着状態を検討した。6 週令の apoE
型糖尿病患者も含めて、広く心血管イベントの予測
ノックアウトマウスに 1 日 2 回マルトースを経口投
マーカーとして臨床で用いられるようになった。し
与し食後高血糖を示すモデルを作成した 4。この 1
かし、重要なことは、IMT を測定することで年齢、
日 2 回の食後高血糖により内皮細胞への単球接着は
性別、血圧など古典的な動脈硬化リスク因子に基づ
生理食塩水を 1 日 2 回投与したコントロール群に比
く心血管イベントの予測能に付加価値を与えること
較して有意に増加していた。さらに 5 週間後には、
ができるかどうかという点である。これに関して、
動脈硬化病変はコントロール群と比較して食後高血
我々は、約 783 名の明らかな心血管イベントの既往
糖群で有意に増加していた。ミグリトールにてこの
のない 2 型糖尿病患者の頸動脈 IMT を測定し、約 5.5
食後高血糖を是正すると動脈硬化病変はコントロー
年間における心血管イベントの発生を追跡した 。
ル群と同程度まで改善した。これらのことは食後高
観察期間中に心筋梗塞、狭心症や脳梗塞などのイベ
血糖が内皮細胞への単球接着を亢進させ、動脈硬化
ントは約 11%発症した。開始時の IMT を 4 分位で
を加速させる独立した危険因子であることを示して
みたところ、第四分子では有意にイベントの発症が
いる。さらに、非肥満糖尿病モデルである GK ラッ
増加していた。さらに心血管イベントの予測とし
トをもちいて、持続性高血糖に比較して一過性高血
て広く用いられている Framingham risk score と IMT
糖を繰り返す血糖変動の方が血管内皮細胞への単球
を組み合わせることによりイベント発症リスクの高
接着を亢進させる因子であることを我々は示してい
い集団を抽出可能であることがわかった。また、2
る 5。また、2 型糖尿病患者においても、クランプ
型糖尿病患者において IMT の経時的な変化も心血
法を用いて 48 時間高血糖を持続させた群に比較し
管イベントの予測マーカーになり得ること、さらに
て、2 日間、6 時間毎に血糖変動を繰り返した群の
2
28
方が、酸化ストレスの産生量は多く、血糖変動群で
GK ラットに経腹膜的にインスリンを投与し、そ
は血糖が上昇したときの血管内皮弛緩反応機能の低
れを 3 日に 1 度 5 週間行い低血糖を繰り返すモデル
下が著明であることが報告されている 。
を作成した。その群と生理食塩水を投与したコント
6
NAVIGATOR Trial では、IGT かつ心血管疾患高リ
ロール群とインスリンと同時にグルコースを投与し
スクの対照群に速効型インスリン分泌促進薬である
た低血糖回避群とで動脈硬化の初期段階である血管
ナテグリニドを投与し、糖尿病ならびに心血管疾患
内皮細胞への単球接着を比較検討した 9。まず、イ
の発症抑制効果を検討している。しかし、結果はナ
ンスリンによる低血糖はコントロール群に比較して
テグリニド群とプラセボ群で糖尿病や心血管イベン
血管内皮細胞への単球接着を亢進させた。しかし、
トの発症に有意差はみられなかった。この要因とし
グルコースをインスリンと同時に投与し低血糖を回
て、ナテグリニド投与群で低血糖の発現が有意に高
避させることで単球接着の増加は抑制された。この
かったこと、体重の増加が認められたことなどが考
際、他の群に比較して低血糖群では血中アドレナリ
えられた。我々は、食事療法のみで HbA1c6.5%未
ンが増加していた。実際に、このアドレナリン作用
満の良好な血糖コントロール状態にある 2 型糖尿病
をα 1 β受容体阻害で抑制すると単球の血管内皮細
患者に対し、ナテグリニドを投与し厳格に食後血
胞への接着は抑制された。さらに、アドレナリン
糖を是正すると IMT 進展を有意に抑制することを
が cAMP/NF-KB 経路を活性化させ、接着因子の発
確認した 。この際、ナテグリニド投与による低血
現を増加させていることを確認した。つまり、繰り
糖や体重増加は認めなかった。同様に、Esposito ら
返す低血糖は血中アドレナリンの増加を介して、血
はレパグリニドにより食後高血糖を是正することで
管内皮細胞の接着因子の発現を増加させ、血管内皮
IMT の進展を抑制することを報告している。これ
細胞への単球接着を亢進させた。我々の基礎のデー
らの 2 つの研究はあくまでもサロゲートマーカーを
タと同様に 1 型糖尿病患者においても繰り返す低血
用いているので NAVIGATOR Trial との比較は困難
糖が血管障害を進行させる可能性が示唆されている
であるが、低血糖をおこさない範囲で毎食後の血糖
10
値上昇を抑制することは、遷延する過剰なインスリ
レナリン作用の増加はα 1 受容体を介して血管平滑
ン分泌を是正することも含めて、結果的に動脈硬化
筋細胞の増殖をもたらし、血管傷害後の新生内膜形
の進行を抑制することにつながるのではないかと推
成を促進させることを示している 11。
7
。さらに、我々は繰り返す低血糖刺激によるアド
測している。
これらのことから厳格な血糖管理を行う際に動脈
硬化促進因子の観点からも低血糖の発症は留意すべ
4.低血糖の動脈硬化への影響
低血糖が心血管イベントに及ぼす影響のメカニズム
前述したように ACCORD 試験では、通常療法群
に比較して強化療法群でむしろ総死亡が有意に増加
VEGF
CRP
した。強化療法群では低血糖の発症の増加しており、
IL6
炎症
このことが死亡率を増加させているのではないかと
好中球活性化
いう議論がされている 8。
血小板活性化
Factor VII
一般的に、低血糖による交感神経の活性化が心血
低血糖
血管内皮細胞機能障害
管系に様々な影響を与え、心血管イベントの発症頻
血管拡張
凝固系の異常
交感神経副腎反応
度を増加させたり、あるいは動脈硬化の発症進展に
不整脈
影響を与えたりする可能性が示唆されている
(図 1)。
心拍変動
血管動態変化
アドレナリン
収縮性
酸素消費量
心仕事量
しかしながら、その詳細に関しては不明な点が多い。
Desouza CV et al Diabetes Care 2010
そこで、我々は低血糖が動脈硬化に与える影響を調
べる目的で低血糖が血管内皮細胞機能へ及ぼす影響
図 1. 低血糖が心血管イベントに及ぼすメカニズム
に関して検討を行った。
29
き重要な要因であると考えられる。臨床上、低血糖
脈硬化発症進展を抑制するためにはより早期からの
の発症しにくい経口糖尿病治療薬を選択することも
インスリン抵抗性への介入が必要である可能性が考
大切である。
えられ、早期からインスリン抵抗性の程度を評価す
ることは重要であると考えられる。
5.インスリン抵抗性の動脈硬化への
影響
6.インクレチン関連薬の抗動脈硬化
作用
いくつかの研究でインスリン抵抗性は動脈硬化を
促進させる独立した危険因子とされている。しか
2 型糖尿病患者の治療戦略としてインクレチン
し、同時に耐糖能異常、脂質代謝異常や高血圧など
と呼ばれる消化管ホルモンが高い期待を持たれて
も併発するため、インスリン抵抗性そのものが動脈
いる。インクレチンは、経口摂取した栄養素に反
硬化に与える影響を検討することは時として困難で
応して小腸下部に存在する L 細胞から分泌される
ある。実際に従来のマウスモデルでもインスリン抵
GLP-1(glucoagon-like peptide-1)と小腸上部に存在
抗性が動脈硬化を促進させることを示しているが、
する K 細胞から分泌される GIP(glucose-dependent
高コレステロール血症も同時に合併しており、イン
insulinotrophic polypeptide)の総称である。このイン
スリン抵抗性そのものが動脈硬化にどの程度寄与し
クレチンは膵β細胞に作用してインスリン分泌を促
ているかは必ずしも明らかになっていなかった。そ
進させる作用以外にも膵α細胞からのグルカゴン分
こで、我々は、肥満インスリン抵抗性モデルである
泌の抑制作用、中枢神経を介した食欲抑制作用や胃
KKAy マウスに高コレステロール食を負荷すること
内容排泄遅延作用など多彩な作用を有することが明
により、コレステロールに独立して全身のインスリ
らかになってきている。既存の糖尿病治療薬と異な
ン抵抗性が動脈硬化を促進させるモデルを作成した
る機序で血糖を改善させ、体重増加を起こしにくく、
12
。また、この際に、全身のインスリン抵抗性に伴っ
低血糖を生じさせる可能性の少ないインクレチン関
てマクロファージにおいてもインスリンシグナルが
連薬には、動脈硬化性疾患の発症進展の抑制効果も
低下し、マクロファージでの炎症性サイトカインの
含めて期待がもたれている。加えて、インクレチン
発現が増加していることを確認した。さらに全身の
関連薬は血圧や脂質代謝にも好影響を与える可能性
インスリン抵抗性を認めない状態でもマクロファー
が示唆されており、これらの作用は抗動脈硬化的に
ジ局所でのインスリンシグナルの低下がマクロ
働くことが推測される。さらに、GLP-1 や GLP-1 受
ファージでの炎症を惹起し、大動脈血管壁への単球
容体作動薬は高血糖や炎症など様々な因子により障
の接着を亢進させることも確認している。これらの
害される血管内皮細胞に対して保護的に働く作用や
ことから、全身及び局所のインスリンシグナルの低
NO を増加させることによる血管拡張作用により抗
下が動脈硬化を促進させる因子であると考えられ、
動脈硬化的に働くと考えられる。また、GLP-1 作用
インスリンシグナルの低下への介入が動脈硬化の発
は、マクロファージの炎症を抑制することや平滑筋
症進展を抑制するために重要であると考えている。
細胞の増殖を抑制することも報告されている 14, 15。
実際に、ヒトにおいても全身のインスリン抵抗性が
一方で、GLP-1 受容体作動薬に比較して DPP-4 阻害
強い患者では、単球でのインスリンシグナル低下や
薬は血中の GLP-1 濃度を数倍程度にしか増加させ
炎症の増加が認められることが報告されている。
ないため GLP-1 を介した抗動脈硬化作用は弱いこ
2 型糖尿病患者を対象にインスリン抵抗性改善薬
とが予想される。しかし、DDP-4 阻害薬は GIP や
であるピオグリタゾンの心血管イベントの発症抑制
SDF-1(stromalderived factor-1)など他の基質の分解
効果が PRO active 研究で検討されている 。3 年間
も阻害することが明らかとなっており、GLP-1 以外
の経過観察中にプラセボ群に比較しピオグリタゾン
の作用も有している。例えば、内皮前駆細胞(EPC)
投与群では心血管イベント発症を 16%抑制したも
を骨髄より動員させる作用のある SDF-1 を DPP-4
のの有意差は認めなかった。このことから十分に動
阻害薬は増加させる。実際に 2 型糖尿病患者にシタ
13
30
グリプチンを 4 週間投与すると血中 SDF-1 濃度が
上昇し、血中 EPC が増加することが報告されてい
DPP‐4阻害薬
る 。さらに、DPP-4 阻害薬には GLP-1 作用を介さ
16
GLP‐1介さないDPP‐4
阻害薬による作用
GLP‐1作用
ない抗動脈硬化作用が報告されている 17(図 2)
。
全身の作用
①血糖降下作用
②体重増加をきたしにく
い
③脂質代謝の改善作用
④降圧作用
⑤単剤では低血糖を起
こしにくい
最近、DPP-4 阻害薬の心血管イベントに与える影
響を検討した大規模試験の結果が報告された。これ
らの試験はプラセボと比較して DPP-4 阻害薬であ
血管構成細胞への直接作用
①血管内皮細胞
血管拡張作用
抗炎症作用
②マクロファージ
抗炎症作用
泡沫化抑制
③血管平滑筋細胞
増殖抑制作用
血管構成細胞への直接作用
①血管内皮細胞
血管拡張作用
抗炎症作用
②マクロファージ
抗炎症作用
遊走抑制
③血管平滑筋細胞
増殖抑制作用
るアログリプチンとサキサグリプチンが 2 型糖尿病
患者の心血管イベントを増加させることがないか
動脈硬化の発症進展抑制
というアメリカ食品医薬品局が定めた命題に対す
る 試 験(EXAMINE:Examination of Cardiovascular
図 2. DPP-4 阻害薬の抗動脈硬化作用
Outcomes with Alogliptin versus Standard of Care およ
び SAVOR-TIMI 53:The Saxagliptin Assessment of
Vascular Outcomes Recorded in Patients with Diabetes
など様々である。個々の動脈硬化のリスク因子を見
Mellitus)であった。結果としては、いずれの試験
極め、早期より介入していくことが心血管イベント
においても DPP-4 阻害薬は心血管イベントを増加
の発症を抑制するうえで重要である。その際、低血
させることがないことが確認され、アメリカ食品医
糖や体重増加の合併に留意しながら質の良い血糖コ
薬品局で定められた条件を満たす結果であった。し
ントロール目指すことが肝要である。また、心血管
かし、前述した基礎および臨床試験の結果やメタ解
イベントのハイリスク群の抽出は重要な課題であ
析において DPP-4 阻害薬が 2 型糖尿病患者の心血
り、このツールとして、古典的因子や動脈硬化を定
管イベントの発症を抑制する可能性が示されていた
量できる方法を組み合わせることが有効であると思
ことを考慮すると、多くの臨床医がこれらの試験結
われる。
果を期待外れと感じていると思われる。そこで、試
文 献
験の結果に影響したと思われる点をいくつか挙げて
みる。まず、対象のほとんどは既に心血管イベント
1) L.H. Young, F.J. Wackers, D.A. Chyun, J.A.
を起こした患者であり、スタチン、アンギオテンシ
Davey, E.J. Barrett, R. Taillefer, G.V. Heller, A.E.
ン変換阻害薬や抗血小板剤など複数の薬剤により厳
Iskandrian, S.D. Wittlin, N. Filipchuk, R.E. Ratner,
格な治療が行われていたことである。すなわち、こ
S.E. Inzucchi, D. Investigators, Cardiac outcomes
のような厳格な管理下で、短期間 DPP-4 阻害薬で
after screening for asymptomatic coronary artery
治療を行っても抗動脈硬化作用などの恩恵は得づら
disease in patients with type 2 diabetes: the DIAD
いことが推測される。現在、DPP-4 阻害薬の心血管
study: a randomized controlled trial, JAMA 301
イベント発症への影響を検討している試験が複数行
(2009) 1547-1555.
われており、その中には観察期間が長いものも含ま
2) M. Yoshida, T. Mita, R. Yamamoto, T. Shimizu,
れている。DPP-4 阻害薬の抗動脈硬化作用に関して
F. Ikeda, C. Ohmura, A. Kanazawa, T. Hirose,
は、これらの試験結果の発表を待って結論づけるべ
R. Kawamori, H. Watada, Combination of the
きである。
Framingham risk score and carotid intima-media
thickness improves the prediction of cardiovascular
終わりに
events in patients with type 2 diabetes, Diabetes
Care 35 (2012) 178-180.
2 型糖尿病は心血管イベント発症の明らかな危険
3) K.I. Okayama, T. Mita, M. Gosho, R. Yamamoto, M.
因子である。2 型糖尿病における動脈硬化の促進因
Yoshida, A. Kanazawa, R. Kawamori, Y. Fujitani, H.
子は持続性高血糖、食後高血糖やインスリン抵抗性
Watada, Carotid intima-media thickness progression
31
predicts cardiovascular events in Japanese patients
Repeated episodes of hypoglycemia as a potential
with type 2 diabetes, Diabetes Res Clin Pract 101
aggravating factor for preclinical atherosclerosis
(2013) 286-292.
in subjects with type 1 diabetes, Diabetes Care 34
4) T. Mita, A. Otsuka, K. Azuma, T. Uchida, T.
198-203.
Ogihara, Y. Fujitani, T. Hirose, M. Mitsumata, R.
11) E. Yasunari, T. Mita, Y. Osonoi, K. Azuma, H.
Kawamori, H. Watada, Swings in blood glucose
Goto, C. Ohmura, A. Kanazawa, R. Kawamori,
levels accelerate atherogenesis in apolipoprotein
Y. Fujitani, H. Watada, Repetitive hypoglycemia
E-deficient mice, Biochem Biophys Res Commun
increases circulating adrenaline level with resultant
358 (2007) 679-685.
worsening of intimal thickening after vascular
5) K. Azuma, R. Kawamori, Y. Toyofuku, Y. Kitahara,
injury in male Goto-Kakizaki rat carotid artery,
F. Sato, T. Shimizu, K. Miura, T. Mine, Y. Tanaka,
Endocrinology 155 (2014) 2244-2253.
M. Mitsumata, H. Watada, Repetitive fluctuations
12) T. Mita, H. Goto, K. Azuma, W.L. Jin, T.
in blood glucose enhance monocyte adhesion to
Nomiyama, Y. Fujitani, T. Hirose, R. Kawamori, H.
the endothelium of rat thoracic aorta, Arterioscler
Watada, Impact of insulin resistance on enhanced
Thromb Vasc Biol 26 (2006) 2275-2280.
monocyte adhesion to endothelial cells and
6) A. Ceriello, K. Esposito, L. Piconi, M.A. Ihnat,
atherosclerogenesis independent of LDL cholesterol
J.E. Thorpe, R. Testa, M. Boemi, D. Giugliano,
level, Biochem Biophys Res Commun 395 477-
Oscillating glucose is more deleterious to
483.
endothelial function and oxidative stress than mean
13) J.A. Dormandy, B. Charbonnel, D.J. Eckland, E.
glucose in normal and type 2 diabetic patients,
Erdmann, M. Massi-Benedetti, I.K. Moules, A.M.
Diabetes 57 (2008) 1349-1354.
Skene, M.H. Tan, P.J. Lefebvre, G.D. Murray, E.
7) T. Mita, H. Watada, T. Shimizu, Y. Tamura, F. Sato,
Standl, R.G. Wilcox, L. Wilhelmsen, J. Betteridge,
T. Watanabe, J.B. Choi, T. Hirose, Y. Tanaka, R.
K. Birkeland, A. Golay, R.J. Heine, L. Koranyi, M.
Kawamori, Nateglinide reduces carotid intima-
Laakso, M. Mokan, A. Norkus, V. Pirags, T. Podar,
media thickening in type 2 diabetic patients under
A. Scheen, W. Scherbaum, G. Schernthaner, O.
good glycemic control, Arterioscler Thromb Vasc
Schmitz, J. Skrha, U. Smith, J. Taton, Secondary
Biol 27 (2007) 2456-2462.
prevention of macrovascular events in patients
8) S. Zoungas, A. Patel, J. Chalmers, B.E. de Galan,
with type 2 diabetes in the PROactive Study
Q. Li, L. Billot, M. Woodward, T. Ninomiya, B.
(PROspective pioglitAzone Clinical Trial In
Neal, S. MacMahon, D.E. Grobbee, A.P. Kengne, M.
macroVascular Events): a randomised controlled
Marre, S. Heller, Severe hypoglycemia and risks of
trial, Lancet 366 (2005) 1279-1289.
vascular events and death, N Engl J Med 363 1410-
14) Arakawa M, Mita T, Azuma K, Ebato C, Goto H,
1418.
Nomiyama T, Fujitani Y, Hirose T, Kawamori R,
9) W.L. Jin, K. Azuma, T. Mita, H. Goto, A.
Watada H: Inhibition of monocyte adhesion to
Kanazawa, T. Shimizu, F. Ikeda, Y. Fujitani, T.
endothelial cells and attenuation of atherosclerotic
Hirose, R. Kawamori, H. Watada, Repetitive
lesion by a glucagon-like peptide-1 receptor
hypoglycaemia increases serum adrenaline and
agonist, exendin-4. Diabetes 2010;59:1030-1037
induces monocyte adhesion to the endothelium in
15) Goto H, Nomiyama T, Mita T, Yasunari E, Azuma
rat thoracic aorta, Diabetologia 54 (2011) 1921-
K, Komiya K, Arakawa M, Jin WL, Kanazawa
1929.
A, Kawamori R, Fujitani Y, Hirose T, Watada H:
10) M. Gimenez, R. Gilabert, J. Monteagudo, A.
Exendin-4, a glucagon-like peptide-1 receptor
Alonso, R. Casamitjana, C. Pare, I. Conget,
agonist, reduces intimal thickening after vascular
32
injury. Biochemical and biophysical research
17) Ervinna N, Mita T, Yasunari E, Azuma K, Tanaka R,
communications 2011;405:79-84
Fujimura S, Sukmawati D, Nomiyama T, Kanazawa
16) G.P. Fadini, E. Boscaro, M. Albiero, L. Menegazzo,
A, Kawamori R, Fujitani Y, Watada H: Anagliptin, a
V. Frison, S. de Kreutzenberg, C. Agostini, A.
DPP-4 inhibitor, suppresses proliferation of vascular
Tiengo, A. Avogaro, The oral dipeptidyl peptidase-4
smooth muscles and monocyte inflammatory
inhibitor sitagliptin increases circulating endothelial
reaction and attenuates atherosclerosis in male apo
progenitor cells in patients with type 2 diabetes:
E-deficient mice. Endocrinology 2013;154:1260-
possible role of stromal-derived factor-1alpha,
1270
Diabetes Care 33 1607-1609.
33
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
リスク予後因子としての血管内皮機能
野間 玄督 1、木原 康樹 2、東 幸仁 3
広島大学原爆放射線医科学研究所ゲノム障害病理研究分野心血管再生医科学部門
広島大学病院未来医療センター 診療講師 兼任
2
広島大学大学院医歯薬保健学研究科循環器内科学 教授
3
広島大学原爆放射線医科学研究所ゲノム障害病理研究分野心血管再生医科学部門 教授
広島大学病院未来医療センター センター長 兼任
1
要旨
生活習慣病による合併症の中心は血管障害であり、器質的障害が出現する前に、血管内皮機能障
害が出現する。近年、薬物・運動療法などによる循環器合併症の発症予防において、内皮機能をサ
ロゲートマーカーとして用いて経時的にモニターすることの重要性が注目されつつある。血管内皮
機能の評価法は模索されているが、非侵襲的な FMD や RH-PAT が中心となっている。まだ現時点
においてはどの検査法が最適なる血管内皮機能評価法かの答えは出ていないが、予後予測因子とし
ての内皮機能検査の有用性は確立されつつある。適切かつ正確な内皮機能を測定し、最適なる治療
戦略を練るといった新時代が扉を開きつつある。
キーワード
血管内皮機能、動脈硬化、心血管イベント、予後予測因子
Ⅰ . はじめに
オマーカー)の測定であるが、評価に耐えうるバイ
オマーカーは現時点では存在しない。これらを用い
1980 年に内皮依存性血管弛緩因子(EDRF)が発
た臨床研究の蓄積により、血管内皮機能は心血管疾
見、1987 年にその本体が一酸化窒素(NO)である
患の発症と進展の重要な規定因子であること、適切
ことが報告、そして 1990 年にはヒトにおいて血管
な治療による血管内皮機能障害の改善が報告されて
内皮障害と疾患とが関連することが示された。血管
きた。ここで重要なことは、「血管内皮機能評価を
内皮の膨大な基礎的臨床的知見や研究データの集積
用いて脳心血管疾患の発症を予測するだけではな
により、血管内皮機能が動脈硬化の発症および進展
く、血管内皮機能の制御を介して脳心血管疾患の発
に重要な役割を担っていることが明らかになったた
症を制御すること」である。
め、生体における血管内皮機能評価に関して、さま
Ⅱ . 血管内皮とは?
ざまな工夫がされてきた 1, 2。臨床における血管内
皮機能検査法では、ラボユーズではあるが信頼性が
高い静脈閉塞ストレインゲージプレチスモグラフィ
血管壁は血管内皮細胞で構成される内膜、平滑筋
法(前腕や下腿)、虚血性反応性充血による血管拡
細胞で構成される中膜、外膜、膠原繊維、繊維芽細
張(上腕動脈)をみた flow-mediated dilation(FMD)、
胞などによって構成される。血管内皮は、血管壁の
虚血性反応性充血後の指尖容積脈波を測定する指尖
最内層に位置する血管内皮細胞による一層の細胞層
脈波測定(RH-PAT)、冠動脈におけるフローワイヤー
である。正常な血管内皮機能は、血管の拡張と収縮
による血流測定や血管造影による血管径測定、腎動
作用、血管平滑筋の増殖と抗増殖作用、凝固と抗凝
脈におけるクリアランス法による血流測定法などが
固作用、炎症と抗炎症作用、酸化と抗酸化作用を有
ある(表 1) 。最も簡便で非侵襲的な内皮機能検
し、バランスを保つことによって血管トーヌスや血
査法は、血液や尿における血管内皮関連物質(バイ
管構造の調節と維持のために働く。全身の血管内皮
3, 4
35
表 1. 主な血管内皮機能検査法
(東幸仁.循環器科.2006;59:219. より改変引用)3
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を集れば、総重量は肝臓ていど、一面に敷き詰めれ
能障害を初期段階として発症・維持・進展し、さら
ば総面積はテニスコート 6 面分、内皮細胞を一列に
には重篤な心血管合併症を惹起する(図 1)9, 10。冠
繋げれば地球 2 周半に匹敵する。このことからも、
危険因子保有者や循環器疾患患者における予後規定
内分泌臓器としての主役をなす内皮細胞は、脂肪細
因子・サロゲートマーカーとしての血管内皮機能の
胞と並んで全身に存在するヒト最大の内分泌器官と
重要性はこれまでに数多く報告され、さらに血管内
も称される。血管内皮研究の開始当初は、血管内皮
皮機能障害は薬剤治療、補充療法、生活習慣療法に
は血管内腔と血管壁を隔てる単なるバリアのような
よって改善可能であることも報告されている(表 2)
ものと考えられていたが、1980 年代に入って血管
6, 11, 12, 13
。
内皮より血管拡張因子として NO、プロスタグラン
ジン I2(PGI2)、C 型ナトリウム利尿ペプチド、内
表 2. 内皮機能障害改善の報告
(野間玄督、東幸仁.分子血管病.2009;10:51. より
改変引用)49
皮由来過分極因子(EDHF)、さらに血管収縮因子
としてアンジオテンシンⅡ(A Ⅱ)、エンドセリン、
プロスタグランジン H2、トランボキサン A2 といっ
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たさまざまな生理活性物質が産生、分泌されること
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が明らかとなった 。これらの生理活性物質のなか
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でも、特に NO は動脈硬化の発症や進展の抑制に重
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要な役割を担う。
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血管内皮機能の障害によって、血管の動脈硬化と
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抗動脈硬化作用のバランスが崩れ、血管構造の破綻
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へと導かれるが、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満、
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運動不足、喫煙、塩分の過剰摂取、閉経などが血管
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内皮機能障害を惹起する 6-8。動脈硬化は血管内皮機
36
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Ⅲ . 血管内皮機能検査法とは?
検査には、冠動脈カテーテルや静脈閉塞プレチスモ
グラフィを代表とした侵襲的なもの、そして FMD
動脈硬化の進行の程度によって、動脈硬化を評価
する検査法が異なる(図 2)
や RH-PAT を代表とした非侵襲的なものとに分類さ
。近年、古典的な
れるが(表 1、図 3、図 4)、侵襲的な検査法をサロ
サロゲートマーカーである血圧、脈拍数、BMI、脂
ゲートマーカーとして臨床応用するのは現実的では
質、糖、A1C といった検査に代わって、血管内皮
ない 3, 4, 11, 16, 17。基本的には、侵襲性が高い検査法は
機能をサロゲートマーカーとして用い、動脈硬化の
特異性が高く、非侵襲的検査法は簡便ではあるが特
初期段階をモニターすることで将来的な循環器合併
異性は低い。
14, 15
症の発症をより正確に予測するといった検討が数多
くなされている。さらに薬物治療や運動療法といっ
1)冠動脈カテーテル
たインターベンションの効果を血管内皮機能検査を
カテーテルを用いて、冠動脈内に直接アセチルコ
用いて評価することによって合併症の出現を予防す
リン(ACh)を代表とする各種の血管内皮刺激薬や
るといった検討も多くなされている。血管内皮機能
血管作動物質を注入し、血管拡張反応(血管径測定)
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図 1. 血管内皮機能障害と循環器合併症
(野間玄督、東幸仁.総合臨床.2011;60:1516. より
改変引用)9
10
0
Baseline
3.75
7.5
ACh (µg/min)
15
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FMD
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40
30
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20
10
0
Baseline
0.75
Peak vasodilatation
Cuff release
1.5
3.0
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20
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FBF
(mL/min/100 mL tissue)
FBF
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Cuff occlusion
30
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Flow-mediated dilation (FMD)
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40
- 㠀౵くⓗ -
図 2. 動脈硬化検査法
(野間玄督、東幸仁.血栓と循環.2011;19:65. より
改変引用)14
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0
SNP (µg/min)
図 3. プレチスモグラフィ
(東幸仁.Angiology Frontier. 2008;7:92. より改変引
用)16
60
㥑⾑ゎ㝖ᚋ䛾᫬㛫䠄⛊䠅
120
図 4. Flow-mediated dilation(FMD)
(東幸仁.心エコー . 2007;8:634. より改変引用)17
37
を冠動脈造影を用いて、血流増加反応をフローワイ
平滑筋細胞における NO の反応性)の指標として、
ヤーを用いて評価する観血的な方法である。侵襲的
SNP などの外的 NO ドナー投与による測定も行う。
であるために被験者の負担は大きいが、冠動脈の血
管内皮機能を直接評価するために、最も信頼度も特
3)Flow-mediated dilation(FMD)
異度も高く、現段階では最も血管内皮機能を反映し
超音波を用い、四肢(前腕)の虚血性反応性充血
ている。冠攣縮性狭心症の確定診断としても用いら
後の血管径変化を測定する検査法である(図 4)3,
れる侵襲的な血管内皮機能検査法である。
4, 17
。FMD の測定値は % 変化で表され、〔(駆血解
除後の最大血管径-ベースライン血管径)/ベー
スライン血管径〕× 100(%)によって算出され
2)静脈閉塞ストレインゲージプレチスモグラフィ
冠動脈カテーテルを用いた血管内皮機能検査法と
る。FMD は通常の超音波装置でも測定可能である
同様に、現段階にて最も血管内皮機能を反映してい
が、血管径自動追随システムを搭載した超音波装置
るものの一つがプレチスモグラフィを用いた血管内
(UNEX や ALOKA)を用いた方が術者による誤差
皮機能検査法である(図 3)
。前腕、指尖、手指、
や再現性には優れる 18。プレチスモグラフィは末梢
6, 11, 15
下腿、陰茎などといった人間の四肢をはじめ、様々
抵抗動脈における内皮機能を主として反映する一方
な部位の組織血流量とその変化量を測定できる。一
で、FMD は導管血管レベルの内皮機能を反映して
般的には、水銀を満たした細いシリコンチューブ(ス
いる。虚血性反応性充血の方法としては、前腕部(あ
トレインゲージ)を前腕などに巻き付け、静脈還流
るいは上腕部)に駆血カフを巻き、被験者の収縮期
をカフにてブロックした際の周径の変化を、流す微
血圧の約 50mmHg 加えた圧で 5 分間駆血する。駆
小電流の電気抵抗の変化として捉える。周径の変化
血解放直後に血流は最大値となるが、血管径は駆血
と容積の変化は比例するために、周径の変化を観察
解除後 45 秒~ 60 秒前後で最大となる(図 4)。通
することで容積(組織血流量)の増減を推察するこ
常では、駆血解除 120 秒以後に最大とはならないた
とが可能となる。測定値は絶対値となる(ml/ 分 /
め、それ以上の観察は必要ない。プレチスモグラフィ
組織 100ml)。①直接動脈内に、ACh を代表とする
同様に、内皮非依存性血管拡張の指標のためにニト
各種血管内皮刺激薬や血管作動物質を注入し、血流
ログリセリン(NTG)舌下 3 ~ 5 分後の血管の反応
増加反応を評価する観血的方法、②虚血性反応性充
を計測することも多いが、特に必須ではない。前腕
血による非観血的方法とがある。①はアゴニスト刺
駆血と上腕駆血において、いずれが優れるかの答え
激による内皮依存の血管拡張であり、用量依存性曲
はでていないが、上腕駆血の方が FMD の値は高い
線であるために特異性には優れる。一方で、侵襲的
が、前腕駆血の方が NO を特異的に評価する 19, 20。
であるために、反復測定を行う方法としては劣る。
血管径測定も、内腔径での評価と内膜・外膜境界径
②の虚血性反応性充血の方法は、次項に示す FMD
での評価とが存在しており、約 1% の差を有すると
と似た方法であるが、前腕部(あるいは上腕部)に
報告されているが、どちらがスタンダードかの答え
駆血カフを巻き、被験者の収縮期血圧の約 50mmHg
もまだでていない。FMD の正常値は 5 ~ 15% と報
加えた圧で 5 分間駆血する。駆血解放直後の最大値
告がばらついており、今後の報告が待たれるが、治
の血流量をもって内皮機能の評価とする。②は、血
療効果の評価や大規模臨床試験などでのサロゲート
管内皮機能としての特異性では劣る一方で、非侵襲
マーカーとしては現時点でも十分利用可能である。
的であるために反復測定が可能となる。プレチスモ
ベースライン血管径の影響、女性の性周期、再現性、
グラフィは末梢の抵抗動脈における EDHF、PGI2、
手技の経験など今後検討されるべき問題点はまだま
NO を反映する。手技には一定以上の技量と経験が
だ多いのであるが、非侵襲性と簡便性の利点からも
必要となるが、明確なトレーニングの基準はない。
今後の血管内皮機能検査は FMD が中心になると考
また、明確な基準値や正常値も存在しない。よって、
えられる 21。
対照群との比較によってのみ低下や増大と評価され
ニトログリセリン誘発性内皮非依存内皮血管拡
る。通常は、内皮非依存性血管拡張(主として血管
張反応(NTG-mediated dilation: NMD)は血管平滑
38
筋機能測定法の一つであり、NTG 錠舌下による前
receptor-1(sLOX-1)、soluble CD40 ligand(sCD40L)、
腕動脈径の拡張能を評価するものである。通常は
myeloperoxidase(MPO)、8-deoxyguanosine(8-OHdG)、
FMD 検査後に施行され、FMD の補助的に行われる
F2-isoprostane、advanced glycation end products
検査である。血管内皮機能が正常であっても血管平
(AGEs)、oxidized LDL(ox-LDL)、malondialdehyde-
滑筋機能が障害されていれば反応性充血による血管
L D L ( M D A - L D L )、 a d i p o n e c t i n 、 a s y m m e t r i c
拡張反応は低下(FMD が低下)するために、FMD
dimethyl arginine(ADMA)、MCP-1、vWF、Rho-
の低下が血管内皮機能障害によるものなのか、血管
associated kinase(ROCK)など、酸化ストレスマー
平滑筋機能障害によるものなのかの判断のために
カーをも含んだ多くの生体バイオマーカーが報告さ
NMD を行う。これまでに、NMD によるさまざま
れているが、現時点では臨床応用に使用しうるほど
な血管平滑筋機能の検討がなされ、糖尿病などの冠
に特異性が高いものはない 26-28。
危険因子を有する患者などや動脈硬化患者において
Ⅳ . 心血管イベントのリスク予測因子
としての血管内皮機能とは?
は NMD の低下が報告されている 22, 23。一方で、健
常人と冠動脈因子を有する患者で NMD に有意差を
認めないとの報告もある 24。NMD による血管平滑
筋機能測評価の感度や特異度には問題がないのか、
心血管イベント発症におけるリスク予測因子として
NMD の方法論自体には問題がないのかなど、いま
の血管内皮機能については数多く報告されている 29。
だに NMD の正当性については明らかとなっていな
2000 年に Suwaidi らが、冠動脈疾患患者において、
いが、もし血管平滑筋機能がヒトにおいてそれぞれ
ACh 投与による前腕血流量あるいは冠動脈血管径
異なっているならば、FMD による血管内皮機能を
の反応性の検討によって内皮機能が予後規定因子で
正確に測定することは困難となり、FMD による評
あることを報告 30。FMD では、2000 年に Neunteufl
価はむしろ血管内皮機能と血管平滑筋機能とを統合
らが、胸痛を有する患者 73 例を 5 年に渡って前腕
した総合的な血管機能検査法となる。FMD、そし
FMD によって検討した研究で、内皮機能が心血管
て NMD の評価をどう捉え、どう考えるかについて
イベントの予後予測因子となりえることを報告し
は、今後さらなる報告が待たれる。
て以降 31、内皮機能が心血管イベントの予後予測因
子になりうるとの報告が数多くなされている。約 7
4)指尖脈波測定(Reactive Hyperemia Peripheral
年間追跡した前向き研究では、高血圧患者を、ACh
arterial tonometry: RH-PAT)
投与による前腕血流量の反応性(血管内皮機能の障
FMD と同様であるが、虚血性反応性充血後の指
害)の程度によって 3 群に分けたところ、内皮機能
尖容積脈波を測定することで血管内皮機能を測定す
の高度障害群は低度障害群に比してイベント発生率
る方法である。指尖脈波は、皮膚血管の機能を反映
が 3 倍以上であった 10。慢性腎不全、メタボリック
していると考えられているが、NO も関与している
症候群、閉塞性動脈硬化症、閉経後、さらには冠動
との報告もあり、まだ検討が必要とされる検査法で
脈造影にて有意狭窄の無い者においても、内皮機能
ある。FMD 以上に最も簡便な検査法であり、また
が予後を規定する因子であることが報告されている
手技による差も少ないという優れた長所をもつ 。
32-43
25
。血管の手術を受けた患者の FMD を検討したと
ころ、FMD の低下例では周術期合併症を起こしや
すいとの報告もなされている 35, 36。
5)生体バイオマーカー
中 や 尿 中 の 生 体 バ イ オ マ ー カ ー 測 定 が、 血 管
Lerman らのメタ解析によって、冠動脈、上腕動
内皮機能検査法の中では最も簡便かつ非侵襲的
脈のどちらも、FMD とプレチスモグラフィいずれ
であるが、あまりにも特異性に欠ける。Hs-CRP、
によって測定された血管内皮機能も心血管イベント
serum amyloid A(SAA),IL-6,IL-8,IL-18、MMP-
発症の独立した危険因子であることも報告され、そ
1、MMP-2、MMP-3、MMP-9、soluble ICAM-1、
の解析に用いられた研究のすべてにおいて、内皮機
soluble P-selectin、soluble lectin-like oxidized LDL
能が心血管イベント発症の予後規定因子であること
39
を示す 44。また、Witte らは、FMD に限定したメタ
することで、将来的な心血管疾患の発症や進展の予
解析にて、Framingham risk score 低値群ほど、FMD
防が可能となる。血管内皮機能が、中膜や外膜をも
と心血管イベントの発症により強い関連があること
包括した全体としての血管機能におよぼす影響は大
を示している。すなわち、血管内皮機能は、軽度の
きく、血管平滑筋などの機能ともクロストークして
動脈硬化や低リスク群ほど、より鋭敏な心血管イベ
いることが明らかとなっている。よって、血管内皮
ント予後予測因子であると思われる 。
機能検査が動脈硬化の初期段階にての真のエンドポ
45
Framingham 研究における FMD と RH-PAT との心
イントに近いサロゲートエンドポイントとなりうる
血管疾患危険因子との検討では、年齢、性、収縮
可能性は高いが、どの血管内皮機能検査法がどの疾
期血圧が FMD への大きな影響因子であったのに対
患において有用であるかなど、まだ多くの明らかに
して、RH-PAT に対しては年齢、収縮期血圧、心拍
されるべき情報やエビデンスが不足しているのも事
数、BMI、総コレステロール /HDL 比、糖尿病、喫
実である。2012 年 4 月より血管内皮機能検査が保
煙が有意な影響因子であった。(Ref あり)よって、
険診療の適応となり(1 ヶ月に 1 回に限り、一連に
FMD と RH-PAT では、危険因子の影響が異なり、
つき 200 点)、他の血管機能検査同様に、ようやく
同じ内皮機能評価であっても、具体的な評価項目(導
ではあるが、血管内皮機能検査をサロゲートマー
管動脈と皮膚血管、NO・PGI2・EDHF の相違など)
カーとして用いるための準備が整った。非侵襲的、
が異なる可能性が示唆された。さらには、RH-PAT
簡便でありながらも特異性の高い血管内皮機能検査
スコアを Framingham リスクスコアに加えることに
法の確立が必要であるために、現在の血管内皮機能
よって心血管イベント発症の予測精度が上昇するこ
検査のさらなる検討、さらには新規検査法の出現が
とも報告されている 。しかしながら、RH-PAT を
強く期待されている。
46
用いることによる予後改善の前向き研究は行われて
動脈硬化の発症・維持・進展への関与、動脈硬化
いないため、RH-PAT における心血管イベント予後
疾患への治療戦略の決定など、多くの局面において
予測因子としての有用性に関しては、今後の報告が
血管内皮機能の臨床的意義が明らかとなりつつある
期待される。
が、血管内皮機能は、心血管イベント発症の強い予
閉経後女性における検討では、6 ヶ月間の降圧治
測因子であることは間違いない。「血管内皮機能障
療で降圧の程度では同等ながら FMD の改善群と不
害の改善を介した心血管イベント発症の予防」とい
変群の 2 群間において 5 年後の心血管イベント発
う見地からの研究の蓄積や臨床現場への適用、そし
症率を検討したところ、FMD 不変群における心血
て世間への周知がまだまだ必要であると思われる。
管イベントの発症率が有意に増加していた
33, 41
。冠
文 献
動脈疾患患者においても、FMD 不変群と比して、
FMD 改善群において心血管合併症が少なかったと
1) Furchgott RF, Zawadzki JV. The obligatory role of
報告されている 。
47
endothelial cells in the relaxation of arterial smooth
血管内皮機能は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、
muscle by acetylcholine. Nature 1980;288:373-6.
喫煙といった冠危険因子のマーカーを総合的に包括
2) Ignarro LJ, Buga GM, Wood KS, Byrns RE,
した「血管機能マーカー」であるため、動脈硬化の
Chaudhuri G. Endothelium-derived relaxing factor
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43
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
動脈硬化予防としての心臓リハビリテーション
木庭 新治
昭和大学医学部内科学講座・循環器内科学部門
要旨
心臓リハビリテーション(心リハ)は、患者の病態・重症度に関する医学的評価に基づく運動トレー
ニング、冠危険因子の軽減と二次予防を目指す患者教育、心理社会的カウンセリングで構成される
包括的プログラムである。運動療法は心リハの中心的役割をもつ。運動特に有酸素運動は抗炎症効
果・抗酸化効果と一酸化窒素の利用の増加を介して、血管内皮機能を改善させる。冠動脈疾患にお
ける心リハは冠動脈硬化の進展抑制や心筋灌流の改善作用など心血管系に対する直接作用と冠危険
因子の是正による間接作用により、二次予防に有益である。心リハは動脈硬化に対する多面的効果
を有する重要な予防・治療である。
キーワード
心臓リハビリテーション(cardiac rehabilitation)、冠動脈疾患(coronary
artery disease)、血管内皮機能(vascular endothelial function)、
炎症(inflammation)、動脈硬化(atherosclerosis)
序論
運動療法の効果と血管内皮機能
心臓リハビリテーション(心リハ)は心筋梗塞後
運動療法の身体における主たる効果はエネルギー
の長期の安静臥床を要した時代に、入院によるデコ
消費量の増加と運動耐容能の増加である。これには、
ンディショニングを回復し、梗塞後の心機能に応じ
血管内皮機能の改善などによる末梢循環の改善、骨
た再調節を行い、質の高い社会生活に復帰させるこ
格筋の適応現象や脂肪酸の酸化能力の増加などによ
とを目的として始まった。我が国においては、1956
る糖脂質代謝の改善や抗炎症・抗酸化作用など全身
年木村が心筋梗塞に対する積極的運動療法を提唱し
に対する作用が関与する 4。
たことに始まり、1977 年以降本格的に開始された。
動脈硬化の初期変化は血管内皮機能障害である。
心リハの定義と概念は治療法の進歩、社会環境の変
これは酸化ストレスによる活性酸素種の産生に対
貌とともに変化し、現在の心リハは、①患者の病態・
して抗酸化機能が十分制御できず、その結果、一
重症度に関する医学的評価、②医学的評価に基づく
酸化窒素(NO)の作用が減弱することに起因する
運動処方と運動トレーニング、③冠危険因子の軽減
(図 1)5-9。その成因には炎症反応が関与する。運
と二次予防を目指す患者教育、④心理社会的因子お
動特に有酸素運動は血管内皮にずり応力もたらし、
よび復職就労に関するカウンセリングで構成される
NO 合成酵素活性と NO 利用、抗酸化酵素活性を増
包括的プログラムである
加させる。その結果、運動は酸化ストレスを制御し、
1, 2
。運動療法は心リハの
中心的役割をもつ。表 1 に我が国のガイドラインで
血管内皮依存性血管拡張反応の増加をもたらし冠
記されている心リハの身体的効果を示す 。心リハ
循環・末梢循環を改善させる。
3
は重要な動脈硬化予防戦略となり、その抑制効果の
機序に関して、冠動脈疾患を対象に述べる。
45
表 1. 心臓リハビリテーションの身体的効果
項目
運動耐容能
症状
呼吸
心臓
内容
項目
最高酸素摂取量↑A
炎症性指標
嫌気性代謝閾値↑A
心筋虚血閾値の上昇による狭心症発作の軽減A
骨格筋酸化酵素活性↑B
骨格筋
同一労作時の心不全症状の軽減A
骨格筋毛細血管密度↑B
最大下同一負荷強度での換気量↓A
Ⅱ型からⅠ型への筋線維型の変換B
最大下同一負荷強度での心拍数↓A
収縮期血圧の低下A
最大下同一負荷強度での心仕事量(二重積)↓A
HDLコレステロール↑A
冠危険因子
左室リモデリングの抑制A
左室収縮能を増悪せずA
交感神経緊張↓A
自律神経
冠狭窄病変の進展抑制A
副交感神経緊張↑B
圧受容体反射感受性の改善B
心筋灌流の改善B
冠動脈血管内皮依存性、非依存性拡張反応の改善B
末梢循環
トリグリセライド↓A
喫煙率↓A
心筋代謝改善B
中心循環
CRP、炎症性サイトカイン↓B
ミトコンドリア↑B
左室拡張機能改善B
冠動脈
内容
血液
最大動静脈血酸素較差↑B
血小板凝集能↓B
血液凝固能↓B
冠動脈事故発生率↓A
安静時、運動時の総末梢血管抵抗↓B
予後
末梢動脈血管内皮機能の改善B
心不全増悪による入院↓A (CAD)
生命予後の改善(全死亡↓、心臓死↓) A (CAD)
A: 証拠が十分である、B: 報告の質は高いが報告数が十分でない。 CAD: 冠動脈疾患
文献3より作成
Decomposition of ROS
Superoxide dismutase (SOD)
extracellular SOD
CuZnSOD
MnSOD
Glutathione peroxidase
Catalase
Thioredoxin
Thioredoxin reductase
Aerobic exercise training
Production of ROS
inflammation
NADPH oxidase
Xanthine oxidase
Cytochrome P450
Myeloperoxidase
Heme oxidase
Glucose oxidase
Cycloxygenase
Lipoxygenase
Enzyme of the respiratory chain
inflammation
Aerobic exercise training
Inactivate NO, forming peroxynitrate
Degradation of NO
Down regulation of eNOS
Decreases in the NO production
Increase in eNOS mRNA expression
Increase in eNOS production
Activation of eNOS, phosphorylation of eNOS
Diminished degradation of NO
Impairment of endothelial function
Improvement of endothelial function
図 1. 酸化制御、炎症と血管内皮機能障害の関連と有酸素運動トレーニングの効果。炎症は活性酸素種の産生を増加させ、
抗酸化能を減弱させ、血管内皮機能障害をもたらす。有酸素運動トレーニングは酸化ストレスを減弱し、抗酸化能を
増加させ、NO 産生・利用を増大させ、血管内皮機能を改善させる。ROS = Reactive Oxygen Species 文献 5 より作成
運動と炎症性サイトカイン
どが含まれる。炎症性サイトカインは肝臓で急性
相蛋白である CRP を産生する。冠動脈疾患に対す
動脈硬化は慢性の軽度炎症であり、炎症促進性サ
る心リハまたは有酸素運動トレーニングの血清高感
イトカインと抗炎症性サイトカインのバランスによ
度 CRP に対する効果を検討した臨床試験を表 2 に
り病変が進行する。前者には Interleukin-6(IL-6)、
示す 9。機序は解明されていないが、多くの試験で、
IL-8、TNF- α、Interferon- γが、後者には IL-10 な
心リハは CRP を低下させた。
46
表 2. 冠動脈疾患を対象とした心リハまたは有酸素運動トレーニングの CRP に対する効果を検討した臨床試験 文献 9 を改変
デザ
イン
RCT
前向
き
後ろ
向き
コ
ホー
ト
試験
例数
介入
期間
CRP (mg/L)
CR前
CR後
非CR前
非CR後
Pluss et al: Clin Rehabil
2008;22:306
男49、
女175
①強化CR
②通常CR
12週間
①3.0±2.8
②4.0±3.5
2.1±2.1**
2.4±2.5**
Walther et al: Eur J Cardiovasc
Prev Rehabil 2008;15:107
男66
①AE
②PCI
24ヶ月
①3.1±0.6
1.8±0.3*
②2.5±0.4
2.3±0.3
Sixt et al: Eur J Cardiovasc
Prev Rehabil 2008;15:473
男6、
女28
①AE
②Rosig
③通常療法
4週間
①3.1±1.4
2.9±1.6
②3.7±2.3
③5.5±4.4
3.6±4.0
3.8±2.9
Goldhammer et al: Int J Cardiol
2005;100:93-99
男10、
女18
AE
12週間
7 5±4 2
7.5±4.2
3 9±3 5***
3.9±3.5***
Niessner et al: Atherosclerosis
2006;186:160
男14、
女18
AE
12週間
2.1±0.5
1.9±0.4
Shin et al: Int Heart J
2006;47:671
男11、
女28
①CR+statin
②CR
③statin
14週間
①3.6±0.6
②2.8±0.7
1.1±0.2**
1.5±0.2
③3 2±1 1
③3.2±1.1
2 2±0 3
2.2±0.3
Goldhammer et al: J Cardiopulm
Rehabil Prev 2007;27:151
男14、
女23
AE
12週間
6.1±4.2
3.5±2.4*
Kim et al: Pflugers Arch
2008;455:1081
男11、
女28
①CR
②通常療法
14週間
①3 2±0 5
①3.2±0.5
1 3±0 1***
1.3±0.1***
②3 2±0 8
②3.2±0.8
2 3± 3
2.3±-.3
Hansen et al: Eur J Cardiovasc
Prev Rehabil
男25、
女109
AE
7週間
4.6±5.8
3.8±5.5
Milani et al: J Am Coll Cardiol
2004;43:1056
男75、
女202
①心リハ
②通常療法
12週間
①5.9±7.7
①
3.8±5.8***
②6.3±6.9
②
6.6±7.0
Caulin-Glaser et al: J
Cardiopulm Rehabil 2005;25:332
男38、
女134
CR
12週間
5.7±14.1
2.7±6.3**
Lavie et al: Arch Intern Med
2006;166:1878
①男29、女76
②男64、女196
②男
、女
①CR <55歳
②CR ≥70歳
②
歳
12週間
①4.2±5.4
②5.6±8.1
②
2.8±3.1**
3.8±5.0**
黒瀬聖司 他: 心臓 2014;46:32
男33
①CR
②通常療法
6ヶ月
①4.1±5.4
0.5±0.6**
②4.4±4.6
1.4±2.6*
CR = 心リハ、AE = 有酸素運動、RCT= randomized controlled trial, Rosig = Rosiglitazone, *p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001 対 介入前
近年、骨格筋、脂肪組織と動脈壁との相互連関が
生され、これがインスリン抵抗性や動脈硬化を進行
注目されている。身体不活動による内臓脂肪の蓄積
させる。運動は骨格筋から IL-6、IL-10 や myokine
状態では、脂肪細胞の慢性炎症により TNF- αが産
など様々なサイトカインを分泌させ、これがインス
リン感受性を改善させ、抗炎症作用、抗動脈硬化作
用を示すと考えられている(図 2)8。IL-6 は肥満
に伴う慢性の軽度炎症を抑えることから 10、病態や
標的組織により炎症促進作用と抗炎症作用の両方を
持つと考えられている。
冠動脈硬化の進展抑制効果
冠動脈造影による視覚的半定量的評価または定
量的評価(QCA)により冠動脈硬化に対する心リ
ハ の 効 果 を 検 討 し た ラ ン ダ ム 化 比 較 試 験(RCT:
randomized controlled trial) が 報 告 さ れ て い る。 米
国の Lifestyle Heart Trial では安定冠動脈疾患患者を
対象に、心リハ群と通常治療の対照群を比較した。
図 2. 身体活動による骨格筋シグナルと動脈硬化。身体
不活動では脂肪組織に浸潤したマクロファージが
産生する TNF- αがインスリン抵抗性や慢性炎症
を惹起し、動脈硬化の形成・進展・不安定化をも
たらす。一方、運動により骨格筋から分泌された
IL-6 や IL-10 などのサイトカインは、脂肪細胞で
の TNF- α産生を抑制し、脂肪の酸化を促進させ、
骨格筋でのインスリン感受性を改善させ、抗動脈
硬化作用をもたらす。文献 8 より引用
開始時、1 年後、5 年後の冠動脈狭窄度が、対照群
の 40.7%、42.3%、51.9% に対して、心リハ群では
41.3%、38.5%、37.3% と有意に進展が抑制され、狭
心症の出現が改善した。この効果は心リハに対す
るアドヒアランスの高い例で顕著であった 11。米国
Stanford Coronary Risk Intervention Project で は、 安
47
定冠動脈疾患患者 300 例を対象に、4 年間以上の心
リハと通常治療で比較した 12。心リハ群で、身体活
動量の増加、脂肪摂取の質及び量の改善、血糖・イ
ンスリン、血清脂質値の有意な改善、禁煙率の増加
を認めた。QCA による最小冠動脈径の変化は,対
照群- 0.045 mm/ 年に比し、心リハ群- 0.024 mm/
年で、心リハにより冠動脈病変の進行が有意に抑
制された。同様の結果は独国の Hambrecht らからも
QCA を用いた多数の RCT で報告されている。彼ら
は、余暇の身体活動量 13 や心肺運動能力 14 の高値
図 3. 冠動脈疾患における運動トレーニングの冠循環改
善効果の機序。冠動脈硬化の退縮、長年における
軽度の側副血行の発達、血管内皮機能の改善(NO
産生と NO 不活性化のバランスの制御)、骨髄から
の内皮前駆細胞(EPC)の動員、微小循環系の血
管新生などを介して冠循環が改善する。CAD = 冠
動脈疾患。文献 5 より引用
が冠動脈病変の進展抑制と相関し、冠動脈硬化の退
縮を得るためには、週に 2,200 kcal 以上の余暇の身
体活動量や週に 5 ~ 6 時間以上の運動トレーニング
の継続が必要であると提唱した。我が国の急性冠症
候群後の心リハ参加者と非参加者を比較し、QCA
で評価した研究でも、心リハ群で冠動脈プラーク体
好群でのみ 21.7% 縮小したが、不良群では 23.9%
積の進展が有意に抑制された 。従って、心リハに
増大した。5 年間の累積冠動脈イベント発生率は
よる身体活動量の増加は冠動脈硬化の進展抑制さら
良好群で著明に少なかった(良好群 6.6%、中間群
には、退縮の可能性をもたらすと考えられる。
20.3%、不良群 30.6%)。
15
運動は骨髄からの内皮前駆細胞や間質細胞の動員
冠循環・心筋灌流の改善効果
を介する虚血心筋における血管新生効果も報告され
ている 5。冠動脈疾患における冠循環改善効果の機
心リハには、冠動脈狭窄病変の改善とは別の機序
序を図 3 に示す 5。
による心筋灌流の改善も報告されている 3。運動に
冠危険因子の改善を介した動脈硬化予防
より側副血行が改善するか否かは結論が得られてい
ないが、運動は冠動脈の弾性の上昇や内皮依存性血
管拡張反応の改善、血管内腔面積の増大や血管形成
心リハは、心臓・血管系や骨格筋に対する直接作
による心筋毛細血管密度の増加などを介して冠血流
用以外に、高血圧、脂質異常症、糖尿病・耐糖能障
量を増加させる。また、運動は、インスリン抵抗性
害、喫煙などの冠危険因子を是正する間接効果でも
や脂質異常症の改善、降圧効果を介して動脈硬化病
動脈硬化予防に関与する。心リハは、血清脂質組成
巣の安定化や血管内皮機能および冠血流予備能の改
を抗動脈硬化性(VLDL・レムナントリポ蛋白およ
善をもたらし、心筋灌流を改善させることが示され
び small dense LDL の低下、リポ蛋白の異化の促進、
ている。Gould らは、安定冠動脈疾患患者 409 例を
食後高脂血症の是正と HDL の増加)に維持し、血
対象に禁煙、野菜中心で超低脂肪低炭水化物食、週
圧を低下させ、インスリン感受性を高める。有酸素
に 4 ~ 5 回の運動、薬剤による厳格な血清脂質管理、
運動は血小板活性の抑制、凝固促進因子や線溶阻害
アスピリン・アンジオテンシン変換酵素阻害薬など
因子の低下や、線溶促進因子の増加をもたらし、血
薬物治療の遵守、ストレス管理等徹底した指導を行
栓性イベントを抑制する効果がある。
いポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)
冠動脈疾患の二次予防効果
で心筋血流を評価した 16。平均 2.6 年間の追跡期間
における治療達成別に良好群 92 人、不良群 92 人、
中間群 142 人に分類し比較したところ、心筋血流
心リハは、冠動脈疾患における冠動脈イベント発
低下の大きさと強度を合わせた PET のスコアは良
生率、全死亡率および心疾患死亡率を低下させ、致
48
死性心筋梗塞の再発率の低下や虚血性心不全による
7) Seals DR, Jablonski KL, Donato AJ: Aging and
生命予後改善効果など、冠動脈疾患の二次予防効果
vascular endothelial function in humans. Clin Sci
のエビデンスがある。
120: 357-375, 2011
米国の心筋梗塞患者 、冠動脈カテーテルイン
8) Szostak J, Laurant P: The forgotten face of regular
ターベンション施行患者 、冠動脈バイパス術施行
physical exercise: a‘natural’anti-atherogenic
患者
activity. Clin Sci 121: 91-106, 2011
17
18
19
のコホート研究で、心リハ参加者では不参
加者に比し死亡率が 40 ~ 50% 低値であったことが
9) Ribeiro F, Alves AJ, Duarte JA, et al: Is exercise
示されている。
training an effective therapy targeting endothelial
心リハと通常治療を比較した RCT のメタ解析で
dysfunction and vascular wall inflammation? Int J
も、心リハ群で総死亡が 15 ~ 20%、心疾患死亡が
20 ~ 25% 有意に低いことが示されている
20-23
Cardiol 141: 214-21, 2010
。
10) Mauer J, Chaurasia B, Goldau J, et al: Signaling
by IL-6 promotes alternative activation of
まとめ
macrophages to limit endotoxemia and obesityassociated resistance to insulin. Nature Immunology
心リハは多面的作用により動脈硬化を予防・治療
15: 423–430, 2014
する重要な治療戦略である。
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50
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
冠動脈インターベンションの新機軸
阿古 潤哉
北里大学医学部循環器内科学
要旨
冠動脈の急性冠閉塞を防ぐ冠動脈ステントは、血栓症の原因となることがわかっている。特に、
再狭窄予防を目的に開発された薬剤溶出性ステント(Drug-eluting stent)では、ステント血栓症の
発症が長期間にわたって続くことが報告された。さらに DES においては、ステント内に新規動脈
硬化病変様の変化(neoatherosclerosis)が早期に生じることが報告されるようになった。これら
の問題は体内に残留するポリマーや金属そのものに対する反応であることが考えられる。現在は生
体に全てが吸収される生体吸収型スキャフォールドが臨床応用されようとしておりこれらの問題の
解決になると期待されている。
キーワード
ステント、薬剤溶出性ステント、生体吸収性ステント
はじめに
変部の recoil、拡張に伴う冠動脈局所の解離、そし
て数ヶ月してから生じる再狭窄であった。特に、拡
カテーテルを用いて冠動脈の病変を治療する経皮
張に伴う冠動脈解離は急性期に急性冠閉塞として生
的冠 動脈インターベンション(percutaneous coronary
じることがあり、風船による治療の急性期の成功率
intervention: PCI)は、バルーンに始まりステント、薬
を高く出来ない原因の一つであった。(表 1)
剤溶出性ステントといった進化を遂げてきた。それぞれ
冠動脈ステントの登場
急性期ステント血栓症
にそれぞれの問題が有り、それを一つ筒克服してきた
歴史が有る。冠動脈インターベンションの今後を知る上
ではこれまでの歴史的な背景を理解することが必要とな
る。本稿では PCI の歴史を振り返りながら、現在まで
拡張直後に生じる病変部の recoil および冠動脈解
の PCI の進歩と今後について概説したい。
離をコントロールするために登場したのが冠動脈ス
表 1. PCI の変遷。
冠動脈インターベンションの進化と
問題点
PCIの変遷
冠動脈の狭窄が心筋の虚血を引き起こす狭心症、
あるいは血栓性閉塞を来す急性心筋梗塞のような病
態において、その病変部位を拡張するという試みは
Balloon
Angioplasty
Bare Metal
Stent
Drug Eluting
Stent
年代
1980s
1990s
2000s
急性期の成功率
70-85%
>95%
>95%
再狭窄
40-45%
20-30%
<10%
3-5%
1-2%
0.3-2%
遅発性血栓症(1年以内)
NA
<0.5%
0.3-2%
超遅発性血栓症(1年以上)
NA
≈0%
0.1-2%
早期の血栓症(30日以内)
1977 年にスイスにおいて初めて施行された 1。病変
の拡張には風船が用いられたが、風船による治療に
はいくつかの問題点があった。拡張直後に起きる病
51
再狭窄:ステント治療の弱点
PCIの進歩
生体吸収性ステント
Bioabsorbable
Bi
b b bl stent
t t
薬剤溶出性ステント
Drug-eluting stent
遅発性
ステント血栓症
ステント
(Bare-metal stent)
再狭窄
亜急性期ステント血栓症
急性冠閉塞
再狭窄
バルーン治療
Year
1977
1994
2004
ステント内への
新生内膜の過剰な増生
Present
図 1. PCI の進歩。PCI は風船のみによる治療に始まり、
ステント、DES と進化してきた。
図 2. 再狭窄の例。上段:冠動脈造影。ステント植込み
後数ヶ月で再狭窄が認められる。下段:ステント
の病理。再狭窄はステント内部への組織の増生に
よって生じている。
テントである(図 1)。ステントは金属で出来た網
eluting sent: DES)が開発された(図 3)。DES が出
目状のデバイスで、冠動脈内には風船の上にマウン
現したことにより薬剤を用いないステントはベアメ
トした状態でデリバリーされ、風船を拡張すること
タルステント(Bare-metal stent: BMS)と呼ばれる
により病変部に挿入される。ステントの登場により
ようになった。
冠動脈解離のコントロールが可能となり、1990 年
DES に用いられる薬剤として様々なものが試され
代にステントが臨床使用されると急性期の成功率は
たが、再狭窄の本体である血管平滑筋細胞の増殖を
大幅に向上した。(表 1)
直接抑制する免疫抑制剤あるいは抗癌剤等の薬剤が
しかし、冠動脈内に異物を挿入するという行為で
用いられることになった。また、これらの増殖抑制
あるステント植込みは、常に局所に血栓を形成する
を必要とする期間は、ステント植込み後数ヶ月にわ
リスクを負うことになった。ステント植え込み初期
たって続くため、数ヶ月にわたるこれらの薬剤の効
において、局所における血栓症発症の予防のため
き目を確保するために、金属ステントの表面に先ず
に抗血小板剤を投与することが必須の条件となっ
ポリマーをかぶせ、そのポリマー内から時間をかけ
た。様々な試行錯誤の後、ステント植込み後にはア
て薬剤を溶出させるということが必要となった。
スピリンに加えてチエノピリジン系抗血小板剤とい
DES によって劇的に再狭窄を減少させることが可
う抗血小板剤二剤併用療法(dual antiplatelet therapy:
能となった(図 4)。血管内イメージングでみても、
DAPT)が必須であるとされるようになった。
DES(drugDES(drug-eluting stent)
薬剤溶出性ステント(DES)の登場
二 の作用機序
二つの作用機序
•
機械的支持力
冠動脈ステントにより急性期の冠動脈 recoil は予
防することが可能となったが、PCI 後数ヶ月にわ
たって徐々に生じる再狭窄は、それでも 3 割程度の
患者に認められるため大きな問題となっていた(図
2)。様々な内服治療、あるいは局所の放射線療法な
•
生物学的作用
ども試みられたが効果はあまりなかったり、また逆
に再狭窄を増やしてしまうことが判明したりした。
図 3. DES の模式図。DES はステントの機械的支持力を
持ちながら、薬剤によって最狭窄を予防しようと
している。
そんな中、ステントを薬剤のデリバリーシステムと
して用いるという発想の薬剤溶出性ステント(Drug52
再狭窄: BMS vs.
vs DES
DES(1st gen)植え込み後の変化
Late Incomplete stent apposition
Ako et al. JACC 2005;46:10022005;46:1002-5.
Uncovered struts
Kotani et al. JACC. 2006;47:2108-2111.
Peri-stent
P
i t t contrast
t t staining
t i i
Circulation 2011;123:2382-2391.
Inflammation
Circulation. 2005;112:270-8.
Neoatherosclerosis
Nakazawa G. JACC 2011;57:1314-22.
DES
BMS
図5
図 4. 再狭窄の病理。BMS ではステント内への組織の増
生が見られるのに対し、DES ではステント内への
組織の増殖はほとんど認められない。
図 5. 第一世代 DES 植込み後の反応。様々な変化が生じる。
ステント内にほとんど組織の増殖が認められないと
DAPT 期間を探るための臨床試験が数多く行われる
いった症例も多く認めることが出来た。実際、再狭
ようになった。今まで報告された多くの試験では、
窄が 0 であったという最初の報告は世界に衝撃を与
DAPT 期間を 12 ヶ月以上に延長しても心血管イベ
えた が、後の臨床試験においては、Cypher, Taxus
ントの有意な低下は望めないとする結果が多かっ
といった第一世代の薬剤溶出性ステントにおいては
た が、12 ヶ 月 DAPT と 30 ヶ 月 DAPT を 比 較 す る
10%を切る程度の中期での再狭窄率であった 。そ
DAPT 試験に置いては、長い DAPT 期間の方が心血
れでも、DES はそれまでの 30%ないしは 40%といっ
管イベントは減少させた結果となった 9。現状では、
た BMS の再狭窄率を大きく減少させることに成
どの程度に長く DAPT を続けるのがよいか結論は
功した。DES の出現までここまで再狭窄を低下さ
出ていないが、少なくとも症例ごとに DAPT の継
せる作用のある治療法は存在していなかったため、
続の可否を個別に判断する必要が有るのではないか
DES は大きな熱狂を持って臨床現場に迎え入れら
と考えられる。
2
3
れることとなった。
抗血小板療法の問題は DAPT のみにはとどまらな
い。DAPT の期間が終わった後も、抗血小板療法の
新たにわかってきた DES の問題点
不用意な中止により血栓症を起こす例が起こす例が
生じたため、現在でも DES 植込み後の患者におけ
再狭窄を劇的に減らすことに成功した DES だが、
る抗血小板療法の適切な対応というのが臨床的にも
新たな問題点が浮き彫りとなってきた。第一世代
大きな問題となっている。
DES においては BMS では認められなかったような
遅発性のステント血栓症が問題となってきた 4。特
Neoatherosclerosis
に、DES においては、不完全な内皮化、ステント
不完全密着と呼ばれる所見 5、我が国で命名された
薬剤溶出性ステントにはさらなる問題があるこ
peri-stent contrast staining と呼ばれる所見 など様々
とが病理学的な検討から判明してきた。従来から、
な所見が報告され、さらにそれらの画像所見がステ
BMS 植込み後 5 年以上たった患者において、新た
ント血栓症、特に遅発性ステント血栓症の発症に関
にステント内に狭窄が進行してくることが知られて
与していることが明らかとなってきた (図 5)。こ
いた。さらに、そのような狭窄部位において、新た
のため、薬剤溶出性ステントにおいては、上記の
な急性冠症候群のイベントが発症してくることも知
抗血小板剤二剤併用療法(DAPT)の継続が望まし
られるようになってきた。
6
7
いのではないかと考えられた 。このため、適切な
DES 植込み後の患者において、ステント植込み
8
53
部のプラークの色調が黄色調に変化してくること
溶出性ステントに対する免疫学的反応や、慢性期
や、VH-IVUS で vulnerable と 診 断 さ れ る 部 分 が
の neoatherosclerosis にはステント表面のポリマーが
増えることなどが報告された。さらに、病理学的
関与していると考えられている。DES に用いられ
見 地 か ら、DES 植 込 み 後 1 ~ 2 年 の う ち に コ レ
るポリマーも生体適合性のよいポリマーが用いられ
ステロールリッチな新規動脈硬化様の病理的変化
るようになってきた(表 2)。これらの進化により
(neoatherosclerosis)が認められることが判明してき
DES において問題となる血栓症の発症リスクを減
た 。この neoatherosclerosis の所見は、上記のごと
らすことが出来るのではないかと考えられた。
10
く BMS ではステント植込み後 5 年ないしは 10 年
事実、Cypher, Taxus といった第一世代の薬剤溶
といったスパンで生じてくるのに対し、DES では
出性ステントに比べて、第二世代の DES である
ステント植込み後 1 - 2 年といった早期に生じてく
Xience, Resolute といったステントは血栓症のリスク
ることが判明してきた。DES で早期に生じるとい
が実臨床上も低くなっており、安全に使用できるこ
う点から、DES のポリマーに対するアレルギー反
とが証明されてきた。抗血小板療法 2 剤併用(DAPT)
応がこの病態生理に関わっていると考えられた。
を必要とする期間も、第二世代以降の DES では短
くてもよいことが示されており、添付文書上も 3 ヶ
DES の進化
月ないしは 1 ヶ月の DAPT 期間でも可能かもしれ
ないという状況になってきた。DAPT 期間に関する
DES は今までの経験をふまえて大きく進歩して
無作為化試験も多く施行されたが、DAPT 試験以外
きた。一つには、従来に比べてステントストラット
は DAPT 期間を長くしても心血管イベントを減少
は薄くなり、急性期のデリバリープロファイルの
させないことが示されており、実臨床上も次第に
改善や、急性期の血栓症、さらには慢性期の再狭
DAPT の期間は短縮される傾向にある。
窄の低下にも寄与できるようになってきた。薬剤
しかし、DES はこのように再狭窄を非常に強く抑
表 2. DES の第一世代と第二世代の比較。第二世代ではステントストラットは薄く、生体適合性のよいポリマーが用いら
れている。
DES製品の比較
第2世代
第1世代
メーカー名
製品名
承認(年)
ジョンソン・エンド・
ジョンソン株式会社
ボストン・サイエンティフィック
ジャパン株式会社
日本メドトロニック
株式会社
アボット バスキュラー
ジャパン株式会社
ボストン・サイエンティフィッ
ク ジャパン株式会社
テルモ株式会社
日本メドトロニック
株式会社
Cypher
yp
(SES)
Taxus
(PES)
Endeavor
(E-ZES)
Xience
(EES)
Promus
(EES)
Nobori
(BES)
Resolute
(R-ZES)
2004
2007
2009
2010
2010
2011
2012
BX Velocity / Select+
316Lステンレス
0.0055 In.
Express2 / Liberté*
316Lステンレス
0.0038 in.*
Driver
MP35Nコバルト合金
0.0036 in.
ML Vision /
Prime (Multi-Link8)
L605コバルト合金
0.0032 in.
ML Vision
L605コバルト合金
0.0032 in.
S-Stent (modified)
316Lステンレス
0.0047 in.
Driver / Integrity
MP35Nコバルト合金
0.0036 in.
2011年~
Element (Omega)
プラチナ合金 0.0032 in.*
ステント
プラットフォーム;
材質・厚み
2012年~
Element (Omega)
プラチナ合金 0.0032 in.
薬剤の
分子構造
薬剤,
薬剤作用
溶出期間
Sirolimus;
細胞増殖抑制;
90日間(100%)
Paclitaxel;
抗がん剤;
90%ステント内残存
Zotarolimus;
細胞増殖抑制;
14日間(100%)
Everolimus;
細胞増殖抑制;
120日間(100%)
Everolimus;
細胞増殖抑制;
120日間(100%)
Biolimus A9;
細胞増殖抑制;
180日間程度
Zotarolimus;
細胞増殖抑制;
180日間(100%)
ポリマー;
厚み
PEVA/PBMA;
13.0µm
SIBS
(Translute);
15.6µm
Phosphorylcholine
(PC);
4.0 µm
PVDF-HFP
(Fluoropolymer);
7.8µm
PVDF-HFP
(Fluoropolymer);
7.8µm
PLA/Parylene;
20.0µm
C19/C10/PVP
(BioLinx);
5.6µm
54
生体吸収型ステント
BVSの臨床例
生体吸収型ステント
図 6. 生体吸収型ステントの例。
図 7. BVS の臨床例。OCT による観察では、約 24 ヶ月で
生体内へスキャフォールドは吸収されている。
制することが証明され、さらに血栓症に関しても非
変部のプラークをシーリングすることが出来る、柔
常に安全な方向に向かっていることが示されつつあ
軟性のある素材で出来ているため屈曲した血管にも
るが、neoatherosclerosis に関しては第二世代 DES に
フィットしやすい、分岐部病変に対して植え込んだ
おいても第一世代と同様な程度認められることが判
後も吸収後は再び側枝屁のアクセスが容易となる、
明してきた 。また、さらに金属ステントであるが
生理的な血管の拡張機能を妨げない、将来的にバイ
故に屈曲部を過進展させてしまったり、ステントの
パス手術が必要となったときもアクセスが可能、金
断裂(フラクチャー)を来したりするなどの問題外
属アーチファクトがなく、冠動脈 CT での評価が可
が認識されるようになってきた。このような流れを
能、等といった金属ステントにはない利点が多く有
受け、異物を残さないようなアプローチが模索され
ると考えられる。現在の BVS は金属ステントと比
るようになってきた。
較してストラットが厚く、デリバリー性能が若干
11
劣っていることや、石灰化が強い病変などに対して
生体吸収型ステント
(スキャフォールド)
十分な性能を発揮できない可能性が懸念されている
ことなどがあげられる。しかし、生体内に何も残さ
急性期の冠動脈解離をコントロールしたり、再狭
ないというアプローチは非常に魅力的で、今後はか
窄の一因となるネガティブリモデリングを防ぐた
なりの数のインターベンションはこのようなデバイ
めには冠動脈を支えておく必要のある期間は数ヶ
スで施行されるようになると考えられる。
月のみであるという考えから、最終的に全てが生
総括
体に吸収されてしまうようなステントが開発され
てきた(図 6)。最初に冠動脈で実用化されたのは
生 体 吸 収 型 ス キ ャ フ ォ ー ル ド(BVS:bioresorbable
経皮的冠動脈インターベンションは、バルーンに
vascular scaffodl)を名付けられた 。BVS は生体吸
始まり、BMS, DES という形で発展を遂げてきた。
収性の高分子を基剤として用いたもので、最初に
金属ステントの進歩、薬物療法の進歩により再狭窄、
実用化されたアボット社の BVS は poly-lactic acid
ステント血栓症などを克服しつつあるが、生体内に
を 基 剤 と し て 使 用 し、 約 3 年 で 吸 収 さ れ る( 図
異物を残すという行為は neoatherosclerosis を含む長
7)。再狭窄抑制にはエベロリムスが使用され、2 ヶ
期における問題点が存在することが明らかになって
月 で 約 8 割 の 薬 剤 が 溶 出 さ れ る と さ れ る。BVS
きた。そのような意味で、現在ようやく臨床で使用
は、遠隔期の炎症反応を少なくすることが出来る、
可能となりつつ有る生体吸収型スキャフォールドを
neoatherosclerosis の発生も少ない可能性がある、病
含むデバイスの進歩が今後は大きく冠動脈治療を変
12
55
えてゆくことになると考えられる。
7) Cook S, Wenaweser P, Togni M, Billinger M,
文 献
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56
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
Review
冠動脈疾患治療を目指したナノ・ドラッグデリバリーシステムの開発
的場 哲哉 1、香月 俊輔 1、中野 覚 2、江頭 健輔 1, 2
九州大学大学院医学研究院 循環器内科学
九州大学大学院医学研究院 循環器病先端医療研究開発学講座
1
2
要旨
冠動脈疾患、特に急性心筋梗塞は急性期死亡率の高さと慢性期の心不全の原因になることから、
その予防及び治療の改善は我が国の医学の重要な課題である。急性心筋梗塞で問題となる病態は冠
動脈における動脈硬化性プラークの不安定化と破綻であり、一方、発症した急性心筋梗塞における
問題は早期再灌流療法時に発生する心筋虚血再灌流傷害であり、再灌流療法による心筋梗塞縮小効
果を妨げる。これらの病態に対する薬物療法が研究されているが十分とは言えず、筆者らはナノ粒
子化技術を応用したドラッグデリバリーシステムを開発し、冠動脈疾患を含む心血管病における応
用を目指している。本稿ではその背景およびモデル動物における前臨床試験の成果を紹介する。
キーワード
Atherosclerotic Plaque Rupture, Inflammation, Monocyte/Macrophage
イントロダクション
動脈硬化性プラークの不安定化と単球
/マクロファージの役割
近年、我が国は未曾有の超高齢化社会を迎え、動
脈硬化の危険因子となる生活習慣病(糖尿病、脂質
冠動脈疾患の原因となる動脈硬化性プラークの形
異常症、高血圧症など)の有病率は高く、動脈硬化
成過程において、血管内皮細胞からの eNOS の産
性疾患(冠動脈疾患、および脳梗塞)による死亡は
生抑制による内皮機能障害とそれに続く血管壁の
年間 15 万人にも及ぶ(平成 23 年、厚生労働省の人
炎症が重要なステップであると考えられている 2。
口動態統計)。冠動脈疾患、特に急性心筋梗塞は急
単 球 が 単 球 走 化 性 因 子(Monocyte chemoattractant
性期死亡率の高さと慢性期の心不全の原因になるこ
protein-1:MCP-1)により動脈硬化病変に遊走し、
とから、その予防及び治療の改善は我が国の医学
Macrophage-colony stimulating factor(M-CSF) に よ
の重要な課題である。本稿では当研究室で開発し
りマクロファージへと分化し、脂質の貪食後に泡沫
た乳酸・グリコール酸共重合体(co-poly-lactic acid/
化する。動脈硬化性プラーク内では活性化したマク
glycolic acid; PLGA)からなる生体吸収性ナノ粒子
ロファージが炎症性サイトカイン、ケモカインおよ
製剤を使用したドラッグデリバリーシステム(Drug
び活性酸素を産生する。さらに病期が進展すると、
Delivery System; DDS)を応用した新規動脈硬化治
マクロファージのアポトーシスにより壊死性コアが
療、特に急性心筋梗塞の責任病変である動脈硬化性
形成され、線維性被膜の構成成分であるコラーゲ
プラーク不安定化・破綻の治療、心筋梗塞急性期医
ン、エラスチンを分解する Matrix Metalloproteinases
療における問題である心筋虚血再灌流障害における
(MMP)を産生することにより線維性被膜が菲薄化
ナノ DDS の可能性について最新知見 も交えて概
し、動脈硬化性プラークの不安定化が誘導される。
説する。
これらの機序を介してプラーク被膜が破綻すると、
1
プラーク内の壊死性コアや組織因子が血管内腔に放
57
出され、凝固系カスケード反応が起こり、血栓が形
患患者における臨床試験においても、高用量スタチ
成され、血管内腔を閉塞し、急性心筋梗塞を発症す
ン投与群は標準量投与群と比較して、血清 C 反応
ると考えられている 。
性蛋白(CRP)を低下させ、すなわち抗炎症効果を
3
筆者らの研究グループも、これまでに白血球の
発揮し、さらに CRP 低下が得られた患者群で冠動
MCP-1 のレセプターである CCR2 がアンギオテン
脈イベントリスクがより低下することが報告されて
シン II によって誘導される動脈硬化の進展に重要
いる 12。したがって、高用量スタチンは LDL 低下
な役割を果たすこと、MCP-1 の N 末端変異体であ
作用及び多面的効果を介して冠動脈疾患による死亡
る 7ND により動脈硬化の進展が抑制できることを
を減少させうる治療戦略として標準となっている
示し、上述の病因論の形成に貢献してきた
。最
が、一方で高用量スタチンによる肝機能障害、横紋
近の検討において、ApoE 欠損マウスを用いた動脈
筋融解症など副作用の懸念から投与用量にも限界が
硬化性プラーク破綻モデル
あり、スタチン投与後の冠動脈疾患の残余リスクに
7, 8
4-6
を作成し、ドナーマ
ウス由来の腹腔内マクロファージの養子移植が、動
対する新たな治療的アプローチが求められている。
脈硬化性プラークの不安定化(プラーク線維性被膜
そこで、筆者らはスタチンをナノ粒子化し、動脈硬
の菲薄化)およびプラーク破綻を促進し、CCR2 欠
化病変局所へスタチンを送達することで、より効果
損マウスをドナーとした場合にはこの効果がみられ
的な抗動脈硬化治療としての検討を行っている。
ないことから、CCR2 を発現する炎症性単球/マク
PLGA ナノ粒子を用いた新規 Drug
Delivery System(ナノ DDS)
ロファージがプラーク不安定化および破綻に重要な
役割を果たすことが示唆された 。そこで、筆者ら
1
は、MCP-1/CCR2 シグナル経路の抑制を中心的な既
存の薬剤およびそのナノ粒子化製剤を含めた治療ア
近年、筆者ら生体吸収性、適合性に優れた高分
プローチを検討している。本稿では HMG-CoA 還
子である PLGA を高分子球形晶析法 13 によりナノ
元酵素阻害剤(スタチン)の抗動脈硬化作用を強化
粒子化するとともに、水溶性 / 脂溶性薬剤・核酸医
するナノ DDS 技術と、その成果物であるスタチン
薬・ペプチドを封入する技術を開発した(図 1A)。
封入ナノ粒子の動脈硬化性プラーク不安定化および
PLGA は乳酸とグリコール酸のエステル結合による
破綻に対する効果を紹介する。
ランダム共重合体であり、生体吸収性縫合糸の材料
として 30 年以上臨床で使用されており、PLGA マ
スタチンの抗動脈硬化作用
イクロ粒子によるリュープリン(酢酸リュープロレ
リン長期徐放型注射剤)の実績などからも生体内で
スタチンは、血清コレステロール低下薬として世
の安全性は高い。PLGA ナノ粒子は疎水性のポリ乳
界的に用いられている。スタチンは冠動脈疾患の危
酸(PLA)と親水性で有機溶媒に不溶であるポリグ
険因子である LDL コレステロールを低下させると
リコール酸(PGA)の性質を併せ持ち、生体内の薬
ともに、一次予防、二次予防のいずれにおいても急
物動態の改善に加え、PLGA の分子量に依存して加
性心筋梗塞などの冠動脈イベントリスクを低下させ
水分解速度が変化し、内包した薬剤等の放出速度を
ることが臨床試験から示されてきた 。一方、LDL
制御できる点などに特徴がある。
9
コレステロール低下作用に依存しない血管保護作用
PLGA ナ ノ 粒 子 の 動 脈 硬 化 に 対 す る DDS と し
(多面的作用、pleiotropic effects)として、血管内皮
ての有用性の検討を行った。蛍光マーカーとして
細胞機能の改善、特に内皮型 NO 合成酵素の活性化、
FITC を封入したナノ粒子を in vitro で培養マクロ
血管平滑筋細胞の増殖抑制、白血球の活性化抑制を
ファージに投与すると、添加後すみやかに、その
介した抗炎症効果などを持つことが基礎研究から示
細胞質に取り込まれた(図 1B)。さらに培養マク
されてきた 。動脈硬化モデル動物においてもスタ
ロファージに取り込まれた FITC 封入ナノ粒子は、
チンは血管壁の炎症を抑制し、動脈硬化性プラーク
FITC 単独投与と比較して、より長期に細胞内に保
の進展を抑制する 。実際、上述のような冠動脈疾
持されることを見いだした。この FITC 封入ナノ
10
11
58
スタチン封入ナノ粒子による動脈硬化
性プラーク不安定化の予防・治療
粒子を動脈硬化性マウスに静脈内投与し 24 時間後
の大動脈を蛍光顕微鏡で観察すると、動脈硬化性
プラークに強い蛍光が観察された(図 2A)。Flow
cytometry 解析では、同マウスの末梢血単球および
筆者らが作成したスタチン封入 PLGA ナノ粒子製
大動脈組織から抽出した単球/マクロファージにお
剤は平均径約 200 nm、ピタバスタチンを質量比で
いて FITC の取り込みが観察された(図 2B)
。以上
12% 封入する(Pitava-NP)14。このスタチン封入ナ
の結果から、経静脈投与した PLGA ナノ粒子は末
ノ粒子は培養マクロファージにおいて炎症性転写因
梢血単球に取り込まれ、末梢血単球に対する直接薬
A
Fluorescence
DDS を用いることにより、不安定動脈硬化性プラー
クの形成に重要な役割を果たす単球および動脈硬化
FITC-NP
FITC
NP
Saline
Blood
FITC
Scale bar, 1 mm.
A
C
Cell
Cell
100
101
102
103
Ly6C-FITC
104
100
Ly-6C
D
B
101
102
103
Ly6C-FITC
Aortic Root
FITC-NP
104
E
10.0
P<0.001
7.5
5.0
2.5
0.0
Brachiocephalic Artery
Pitava-NP
EVG
EVG
Mac-1
FITC-NP
Mac-1
FITC-NP
control
Ly-6Chigh Monocytes
Pitava-NP
Pitava
NP
PN3B.014
FITC-NP
EN3B.010
PLGA
Polymer
200 nm
Black: Saline
Blue: FITC solution
Green: FITC nanoparticle
Circulating Ly-6Chigh Monocytes
Therapeutic
Agents
Aorta
Events
能となる。
Monocyte /
Macrophage
CD11b
Light
病変局所へ、より効果的に薬剤を送達することが可
B
Aortic Arch
Per Leukocytes (%)
らの薬剤送達が期待される。すなわち、このナノ
Lineage
e
剤送達、および動脈硬化巣に送達されたナノ粒子か
Pitava-NP
Scale bar, 100 μm.
図 2. PLGA ナノ粒子の動脈硬化巣への送達
図 1. PLGA ナノ粒子
A. FITC 封入ナノ粒子を動脈硬化性マウスに経静
脈投与し、24 時間後に強い FITC シグナルが大
動脈、特に動脈硬化巣に観察された。
A. PLGA ナノ粒子の電子顕微鏡像および模式図
本研究で開発した PLGA ナノ粒子の電子顕微鏡
像(左)。PLGA ナノ粒子は高分子球形晶析法
で水溶性 / 脂溶性薬剤・核酸医薬・ペプチドを
内包したナノサイズの粉体を持つ。
B. 梢血および大動脈から抽出した白血球の flow
cytometry 解析では単球/マクロファージ分画に
FITC 封入ナノ粒子の取り込みを認めた。FITC
単独投与では FITC 蛍光の増加を認めない。
B. FITC 封入ナノ粒子の培養マクロファージへの
取り込み
培養マクロファージ(RAW264.7)培養液中に
FITC 封入ナノ粒子を添加後の共焦点顕微鏡画
像(左)。強い FITC シグナルが細胞質に観察さ
れる。同透過型電子顕微鏡像(右)では PLGA
ナノ粒子がマクロファージに取り込まれる。
C. スタチン封入ナノ粒子(Pitava-NP)投与により、
末梢血単球(CD115 陽性 CD11b 陽性細胞)分
画中の Ly-6Chigh 炎症性単球数が減少した。
D. Pitava-NP のプラーク破綻モデルマウス実験期
間 4 週から 8 週まで週 1 回静脈内投与により、
大動脈基部の動脈硬化プラーク面積の現象が得
られた。
E. D と同様の Pitava-NP 投与により、腕頭動脈の
プラーク破綻(急性プラーク破綻および治癒し
た破綻プラーク)が有意に抑制された。
59
子である NF- κ B の発現を抑制し、また MCP-1 に
している。マウス心筋虚血再灌流モデルにおいて、
対する遊走を容量依存性に抑制する
。これらの
再 灌 流 時 に indocyanine green 封 入 PLGA ナ ノ 粒 子
効果はスタチン単独と比較して効果が高い。このス
を静脈内投与し fluorescence reflectance imaging で観
タチン封入ナノ粒子を ApoE 欠損マウスに尾静脈投
察すると、心臓の虚血領域に送達される(図 3A)。
与すると、コントロールナノ粒子を投与した群と比
FITC 封入ナノ粒子投与後に心臓から抽出した白血
較して、末梢血の炎症性単球数(Ly-6C
単球)が
球 の flow cytometry 解 析 を 行 う と、 単 球 / マ ク ロ
減少し、単球/マクロファージに対する抗炎症効果
ファージ分画に PLGA ナノ粒子の取り込みを認め
が示された(図 2C)。動脈硬化性プラーク破綻モデ
る(図 3B)。すなわち、本ナノ DDS は発症急性期
ルマウスにコントロールナノ粒子およびスタチンナ
に早期再灌流療法を受ける急性心筋梗塞患者におい
ノ粒子(ピタバスタチンとして 0.4 mg/kg/week)を
て、心筋保護治療薬、あるいは抗炎症効果のある薬
週に 1 回計 4 週間、尾静脈投与し、動脈硬化性プラー
剤を送達することにより、新規の心筋保護療法を構
クに対する効果を検討した 。スタチン封入ナノ粒
築し得る。
1, 15
high
1
子はコントロールナノ粒子と比較して、大動脈基部
筆者らの研究グループでは、重症虚血肢あるいは
におけるプラーク面積を抑制し、総プラーク破綻(急
肺高血圧症などの重症心血管病に対するナノ DDS
性プラーク破綻および治癒した破綻プラーク)数お
の開発を先行させており、ピタバスタチン封入ナノ
よびプラーク不安定化の指標であるプラーク線維性
粒子は重症虚血肢を対象とした筋肉注射の Phase I/
被膜の菲薄化を有意に抑制した(図 2D, E)。また
IIa 医師主導治験(UMIN CTR ID: UMIN000008011)、
プラーク破綻が抑制された病変では Mac-3 陽性マ
健常成人男性を対象とした静脈内投与の Phase I 医
クロファージ数の減少、MCP-1 の発現の抑制を認
師 主 導 治 験(UMIN CTR ID: UMIN000014940) を
めた。なお 2 群間の血清脂質プロファイル(コレス
2014 年 12 月時点で実施中であり、PLGA ナノ粒子
テロール値、トリグリセリド値)に有意な差は認め
られず、これらの治療効果は脂質低下作用によらな
B
A
いスタチンの多面的作用によるものと考えられた。
IR
Neutrophil
Lineage
Sham
ナノ DDS を応用したナノ医療開発の展望
Monocyte
CD11b
本稿では冠動脈疾患のなかでも致死的な経過をと
Neutrophil
Monocyte
Eve
ents
り得る急性心筋梗塞の原因病態である、動脈硬化
性プラークの不安定化・破綻における単球マクロ
ファージを介した炎症の役割について概説し、マウ
FITC
Black: Saline
Blue: FITC solution
Red: FITC nanoparticle
ス動脈硬化性プラーク破綻モデルに対するスタチン
封入ナノ粒子の治療効果を紹介した。ナノ DDS は
薬剤送達の改善によりスタチンの多面的作用を強化
図 3. PLGA ナノ粒子の虚血再灌流心臓への送達
A. マウス左冠動脈の 30 分虚血/再灌流モデルに
おいて、再灌流時に indocyanine green(ICG)封
入 PLGA ナノ粒子を静脈内投与し fluorescence
reflectance imaging で観察したところ、虚血領域
に ICG シグナルを認めた。虚血再灌流を行わな
い心臓には集積しない。
し、動脈硬化病態においては MCP-1/CCR2 シグナ
ルの抑制を介して単球/マクロファージを介した血
管の炎症の抑制を介して、プラークを安定化させ
た。冠動脈イベントのハイリスクであるいわゆる
vulnerable patient の同定と治療介入が冠動脈疾患治
B. 同 モ デ ル マ ウ ス に FITC 封 入 ナ ノ 粒 子 を 静 脈
内 投 与 し、 心 臓 か ら 抽 出 し た 白 血 球 の flow
cytometry 解析を行うと、単球/マクロファージ
分画および好中球分画に PLGA ナノ粒子の取り
込みを認めた。FITC 単独の投与では FITC シグ
ナルの増加を認めない。
療の課題となっており、ナノ DDS は新規プラーク
安定化療法として貢献し得る。
また、ナノ DDS は、冠動脈疾患においては虚血
再灌流心臓への薬剤送達にも有効であることを見出
60
6) Matoba T, Egashira K. Anti-inflammatory gene
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Monocyte
Atherosclerotic lesion
Macrophage
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2 N
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d t delivery
d li
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• Atherosclerotic arterial wall and
macrophages
• Ischemic myocardium
Ischemic
myocardium
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3 Therapeutic goals
3.
• Atherosclerotic plaque stabilization
• Reduced myocardial infarct size
• Improvement of prognosis
8) Sato K, Nakano K, Matoba T, et al. Dietary
cholesterol oxidation products accelerate plaque
destabilization and rupture associated with
図 4. 冠動脈疾患に対するナノ医療の展望
monocyte infiltration/activation via the MCP-1-
1. 冠動脈疾患ハイリスク患者 'vulnerable patient’、
あるいは急性冠症候群患者に対するナノ医薬品の
投与、2. ナノ DDS による薬剤送達(末梢血単球、
動脈硬化巣とマクロファージ、虚血心臓組織)、3.
治療目標(動脈硬化性プラークの安定化、心筋梗
塞領域の縮小、患者の予後改善)
CCR2 pathway in mouse brachiocephalic arteries:
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61
J-ISCP 研究会報告
2014 年 7 月 24 日(木)
新・都ホテル 地階「陽明殿」
脂質・糖代謝異常から心血管疾患を守る
~最新知見とホットトピックス~
参加者
長谷川 浩二
司会
先生 (国立病院機構 京都医療センター 展開医療研究部 部長)
勝 目 髙 木 神 内 的 場 尾 野 島 袋 紘
力
謙至
聖明
亘
充生
はじ めに
(勝目医院 院長(京都循環器医会 会長))
先生 (高木循環器科診療所 所長)
先生 (愛生会山科病院 糖尿病内科 部長)
先生 (京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学 講師)
先生 (京都大学大学院医学研究科 循環器内科 講師)
先生 (徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 心臓血管病態医学分野 特任教授)
先生 勝目 紘 先生
勝目医院 院長(京都循環器医会 会長)
心血管疾患の発症予防を考えるうえで、生活習慣の改善指導は第一選択であり、言うまでもな
く重要です。生活習慣病への介入に際し、我々、循環器内科医にとって、脂質ならびに糖代謝異
常を理解し、最新知見を加え、知識を深めることは極めて重要と考えています。そこで、本日は、
「脂
質・糖代謝異常から心血管疾患を守る~最新知見とホットトピックス~」をテーマに、まず始めに、
愛生会山科病院の神内先生より、糖尿病専門医からみた心血管疾患についてご講演いただきます。
長期の糖尿病罹患の結果として心血管疾患を抱える患者を診ることが多い、我々、循環器内科医としては、逆
の立場からの見方を通して勉強になる点が多くあると思い楽しみにしています。次に、京都大学の尾野先生か
らは最近の Nature 誌にも掲載された HDL-C とマイクロ RNA との関連性について、世界最先端の研究をご紹
介いただきます。そして、招聘講演では徳島大学から島袋先生にお越しいただき、近年問題となっているメタ
ボについて、特に異所性脂肪と心臓脂肪に注目してご講演いただきます。心血管疾患を守るための活発な議論
を期待し、開会の挨拶とさせていただきます。
Keynote Lecture 1
座長:髙木 力 先生(高木循環器科診療所 所長)
糖代謝異常と心血管疾患
演者:神内 謙至 先生
(愛生会山科病院 糖尿病内科部長)
心血管疾患が糖尿病の境界領域から進展し始めるこ
とは現在では十分に知られており、心血管性疾患予防
のために、食後血糖を管理することは重要である 1)。
Malmo Preventive Trial2)において、生活習慣改善(食
事療法,運動療法)を中心とした長期介入プログラムに
より IGT 患者において死亡率が低下することが示され
た。また、食事療法についても様々なエビデンスが報
告されている。DIRECT trial3)は、肥満患者を低脂肪
食・地中海食・低炭水化物食で割り付けたところ、低
炭水化物食群で体重、脂質、HbA1c が最も改善し、そ
の効果は 4 年間の観察期間を経て計 6 年維持された報告
である。一方、低炭水化物食により 6 カ月まで有意な体
重減少が認められたものの、1 年で有意差が消失し、血
中 LDL-C 上昇が確認され、低炭水化物食の長期適応に
懸念を示す報告もあり 4)、低炭水化物食の有効性につ
いてはまだ議論が必要である。また、肥満女性に対し
て総カロリーを一定のまま朝食を多くとることにより、
75gOGTT で血糖、IRI 値の低下を認めた報告があり 5)、
食事内容だけでなく、食事配分も心血管性疾患のリス
クに影響を及ぼす可能性も示唆されている。
63
共催:京都循環器医会 /NPO 法人 国際心血管薬物療法学会日本部会(J-ISCP)/ 興和創薬株式会社
また、糖尿病性腎症の進行とともに死亡率が上昇す
る報告により 6)、腎症の進行予防の重要性が高まってい
る。外来 2 型糖尿病患者に対して、糖尿病教育・チーム
医療を行うことで腎症の進展予防は可能であるとされ
ている 7)。実際の日常診療でも、顕性蛋白尿を呈してい
た 2 型糖尿病患者に対し、降圧コントロールを行うのみ
で、微量アルブミン尿に改善することはよく経験する
ことである(図)。
さらに、経口血糖降下薬として、ビグアナイド・チ
アゾリジン・αグルコシダーゼ阻害剤には心血管イベ
ント発症抑制効果を認める薬剤がある 8)-10)。一方、ス
ルホニルウレア剤には心筋細胞に対して虚血増悪作用
の可能性が否定出来ないものもある 11),12)。スルホニル
ウレア剤内服の際に起こりやすいとされている低血糖
と心血管イベントとの関連も示唆されており 13)、低血
糖リスクの少ない薬剤から使用するのが好ましいであ
ろう。しかし、長期的な心血管予防の観点からすれば、
post UKPDS14)に示されているようにどんな薬剤を使用
しても食事・運動療法を組み合わせ、発症早期からの
血糖コントロールが重要であると考えられる。
参考文献
1) DECODE Study. Lancet 354 : 617-621, 1999
2) Eriksson KF, et al. Diabetologia 41: 1010-1016, 1998
3)Schwarzfuchs D, et al. N Engl J Med 367: 1373-1374,
2012
症例 75歳女性 147.8cm 44.5kg 網膜症 PDR post PC 腎症3期 神経障害 ATR+-/+- 足の冷感あり
(NGSP)
HbA1c
Cre
尿蛋白
血圧
ノボラピッド
30ミックス
30ミックス®
H20.4
7.6
0.7
3+
160/50
1414-0-8
H20.6
H20 6
73
7.3
08
0.8
3+
H20.9
6.9
0.7
H20.12
7.0
H21.2
6.7
H21.5
7.4
H21.8
6.7
H21.11
7.1
降圧薬
セロケン® (40)2錠
(40)2錠
ニバジール® (2)2
(2)2錠
錠
157/71
セロケン® (40)2錠
(40)2錠
アムロジン® (5)1
(5)1錠
錠
2+
155/81
オルメテック® (20)1錠
(20)1錠
アムロジン® (5)1
(5)1錠
錠
0.8
2+
132/72
0.7
+
139/71
プレミネント®1錠
アムロジン® (5)1
(5)1錠
錠
0.6
+
127/72
0.9
+-
120/73
/
0.8
+
143/80
1414-0-7
H21.9 尿中アルブミン 148mg/gCre
4)Nordmann AJ, et al..Arch Intern Med 166: 285-293, 2006
5) Jakubowicz D, et al. Obesity 21: 2504-2512, 2013
6) Adler AI, et al. Kidney Int 63: 225-232, 2003
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Lancet 352: 854-865, 1998
9) Dormandy JA. et al. Lancet 366: 1279-1289, 2005
10)Hanefeld M, et al. Eur Heart J 25: 10-16, 2004
11)Cleveland JC, et al. Circulation 96: 29-32, 1997
12)Monami M, et al. Diabetes Metab Res Rev 22: 477482, 2006
13)Johnston SS, et al. Diabetes Care. 34: 1164-1170, 2011
14)Holman RR, et al. N Engl J Med 359: 1577-1589, 2008
Keynote Lecture 2
座長:的場 聖明 先生(京都府立医科大学大学院医学研究科 循環器内科学 講師)
脂質代謝における
マイクロ RNA の働き
演者:尾野 亘 先生
(京都大学大学院医学研究科循環器内科)
ヒトのゲノムの中にタンパク質を作る遺伝子が占め
る領域は数%に過ぎず、多くの領域には機能が無いと
考えられていた。しかし近年、哺乳類のゲノムの約 3/4
の領域は RNA に転写され、それらの多くはタンパク
質を作らないノンコーディング RNA(non-codingRNA;
ncRNA)であると報告された。これらの機能のほとん
どはまだ不明のため、ncRNA は現在のライフサイエン
スのなかで非常に活気のある研究領域となっている。
マイクロ RNA(miRNA、miR)は 22 塩基程度の小さ
なタンパクをコードしない RNA であり、標的メッセン
ジャー RNA の翻訳に抑制的に作用する。またマイクロ
RNA は発生や分化の過程のみならず、心血管疾患の発
症や進展にも深く関与していることが知られている。
これまでに脂肪酸の合成とコレステロールの合成
は同じアセチル CoA を原料として進むことが知られ
ており、それぞれ特異的な転写因子 sterol regulatory
element-binding protein(SREBP;ステロール調節配列
結合蛋白)-1 と SREBP-2 によって促進されることが示
されてきた。これらの SREBP のクローニング、機能解
析を行ったのは、テキサス大学の Goldstein、Brown 両
教授(1985 年ノーベル医学・生理学賞受賞者)グループ
である。実際、彼らによって、SREBP-2 が細胞内のコ
レステロールの低下を感知して合成および活性化され、
コレステロール合成や取り込みに関わる遺伝子を上昇
させて、細胞がコレステロール不足になることを防ぐ
ことが証明された。
miR-33 は、コレステロール合成の主要な転写因子で
ある SREBP-2 遺伝子のイントロン 16 にある。我々は、
miR-33 欠損マウスを作成し、マクロファージおよび肝
臓 に お い て miR-33 の 標 的 遺 伝 子 で あ る ATP-binding
cassette transporter A1(ABCA1)の蛋白発現が上昇
することを示した。また血中 HDL コレステロールがオ
スで 22% メスで 39% 増加することを見いだした(図 1、
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010)
。さらに、マウス動脈
硬化モデルにおいて、miR-33 の欠損が動脈硬化を改善
することも示した(図 2、J Am Heart Assoc. 2012)。そ
64
Athero
oscleroticc lesion aarea (%)
***
40
30
20
10
図 1:高速液体クロマトグラフィーによる血清脂質のプロファ
イル。
miR-33 欠損マウスにおいては HDL コレステロールが上昇
した。
(Proc Natl Acad Sci U S A. 107:17321-6,2010 より引用)
oe ‐ / ‐
Ap
mi
R ‐3
3 ‐ /‐
miR‐33
miR
33‐/‐/
Apoe‐/‐
mi
miR‐33
miR
33+/+
Apoe‐/‐
R‐3
3+
/+
Ap
oe ‐ / ‐
0
図 2:miR-33 欠損マウス(miR-33-/-)と ApoE 欠損マウス
(Apoe-/-)の交配による動脈硬化巣の解析。(左)en face
法によるマウス大動脈の比較 (右)動脈硬化巣の計測結果。
***P<0.001(J Am Heart Assoc.1(6),e003376, 2012 より引用)
33 を介して SREBP-1 を抑制するという、直接の相互作用
があることが示された。
一方、マウスには miR-33 が 1 つ(miR-33a)しかないが、
ヒトを含む他の哺乳類には SREBP-1 のイントロンにも
miR-33(miR-33b)が存在する。miR-33 を 2 つ(miR-33a
と miR-33b)持つマウス(ヒト化マウス)を作成したとこ
ろ、血清中の HDL-C の減少を認めた(Sci Rep 2014)。
今後 miRNA の時間的、空間的制御による HDL-C の質
の改善と動脈硬化治療法の開発が期待される。
こで、現在は miR-33 の抑制薬の研究開発が進められて
いる。しかしながら、マイクロ RNA は数百の標的遺伝
子に作用することが知られており、長期的な完全なマ
イクロ RNA の抑制がどのような結果を起こすかは全く
不明である。
今 回 我 々 は、miR-33 欠 損 マ ウ ス が 肥 満 症 と 脂 肪 肝
を 呈 す る こ と を 見 出 し、 そ の 原 因 と し て、miR-33 が
SREBP-1 を抑制する働きがあることを明らかとした(Nat
Commun. 2013)
。miR-33 は SREBP-2 遺伝子のイントロ
ンにあり、同時に発現されることから、SREBP-2 は miR-
招請講演
座長:長谷川 浩二 先生(国立病院機構 京都医療センター 展開医療研究部 部長)
『異所性脂肪と心臓脂肪:
最近の話題』
演者:島袋 充生 先生
(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部 心臓血管病態医学分野)
古典的な動脈硬化症リスクに異所性脂肪・心臓脂肪
を加えた、包括的な心臓血管代謝リスクの考え方につ
いて述べたい。
狭心症、心筋梗塞の発症は、随時血糖値依存的にお
こる。すなわち心臓血管病を抑制するためには、糖尿
病だけでなく境界型、食後高血糖の病態も視野に入れ
る必要がある。過食、高脂肪食、運動不足に起因した
内臓型肥満、メタボリックシンドロームは、インスリ
ン抵抗性とインスリン分泌異常、さらには、将来の耐
糖能異常・糖尿病発症につながる。インスリン抵抗性、
インスリン分泌異常のメカニズムとして、飽和脂肪酸
の過剰と異所性脂肪蓄積が重要である(脂肪毒性)。境
界型患者の血管内皮機能は健常人のほぼ半分と、糖尿
病患者と同レベルに障害されている(Shimabukuro et
al, Int J Cardiol 2013)。障害の程度はインスリン感受性
指標と逆相関していた(同前)。肥満モデルラットの血
管内皮機能障害は、内臓脂肪由来の酸化ストレスや遊
65
離脂肪酸による NADPH オキシダーゼ活性化抑制に基
づく。これらはピタバスタチンで改善できる(Chinen
et al, Endocrinol, 2007)。冠動脈における血管内皮機能
障害にはインスリン抵抗性が強く関係しており冠動脈
イベントに重要と考えられる(Shimabukuro et al, J Am
Coll Cardiol 1995)
。
内臓型肥満、高中性脂肪、低 HDL-C 血症、高血圧症
と言ったメタボリックシンドロームあるいは境界型糖
尿病、食後高血糖をもつものは、異所性脂肪蓄積、イ
ンスリン抵抗性を基盤とした脳梗塞、心筋梗塞が起こ
り易い(図)。腹囲別に見た心筋梗塞の 10 年発症率は、
男性は腹囲 90cm 未満で 1.5%、90cm 以上で 3%、一方、
女性は腹囲 95cm 未満で 0.5%、95cm 以上 100cm 未満で
1.5%、100cm 以上で 3.0% と増加する(厚生労働省 門脇
孝教授 研究班)。肥満の程度が同じであれば、男性の発
症率が高い。
肝臓、大腿、首、大動脈、心臓、腎臓に蓄積する脂
肪を異所性脂肪蓄積と呼ぶ(異所性脂肪 第 2 版 医事新
報社、糖尿病の最新治療 2013 Vol.4 No.4)。心臓周囲
脂肪は内臓脂肪に劣らず心臓血管病リスクになること
が報告されている。冠動脈バイパス手術施行患者では、
弁膜症手術症例に比べ、心臓周囲脂肪におけるマクロ
ファージ(M1>M2)の発現が著明に増加していた。ま
た病変部で IL1 βが増加し、アディポネクチンは減少
していた(榊原記念病院 高梨秀一郎 心臓血管外科部
長、徳島大学循環器内科 佐田政隆 教授 との共同研究、
Shimabukuro et al, Ather Thromb Vasc Biol, 2013)。
多変量解析を行うと、男性、高齢、糖尿病が冠動脈手
術 症 例 の リ ス ク 因 子 で あ っ た が、LDL-C 高 値、 ス タ
チン使用はリスク因子とはならず、メタボリックシン
ドロームに特徴的な脂質異常である中性脂肪高値、低
HDL-C がリスク因子であった。さらに、心臓周囲の因
子(CD68、IL1 β、アディポネクチン)を入れて解析す
ると、先ほどのリスク因子の有意差はなくなる。心臓
周囲脂肪は、古典的な冠動脈リスクに匹敵するリスク
であった。
異所性脂肪を減らす方法として、正しい食生活、定
期的な運動、食欲調整剤使用や手術(脂肪吸引、内視鏡
的胃手術、部分的回腸バイパス術)が考えられる。治療
目標は、まずは体重 3%、ウエスト周囲径 3cm の減少で
ある(日本肥満学会体)。これにより、中性脂肪、高血
糖、高血圧が有意に改善する。
低 GI 食である玄米食にも、
減量効果があり、1 日 1 回分の主食(白米)を玄米に置換
すると、食後高血糖改善と減量が期待できる(BRAVO
study、Shimabukuro et al, Br J Nutr 2014)。食事療法
66
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単独では、筋肉量も減少することがあり、運動療法が
重要である。加齢とともに、体脂肪増加と全身筋量の
低下が認められるサルコペニア型肥満は、メタボリッ
クシンドロームになりやすいが、この現象は若い男性
にも起こりうる。
心臓血管代謝リスクは、高血圧症、高 LDL-C 血症、
喫煙、加齢、人種、男性、家族歴、凝固能亢進などい
わゆる古典的な動脈硬化症リスクに加え、異所性脂肪
蓄積によりおこるインスリン抵抗性やメタボリックシ
ンドローム(低 HDL-C・高中性脂肪血症、高血圧、耐糖
能異常、糖尿病)などの新しい代謝リスクが重要である。
古典的な動脈硬化症リスクあるいは代謝リスクがある
と、血管内皮機能障害が起こり将来の心臓血管病発症
につながる。異所性脂肪蓄積を評価をすることが包括
的な心臓血管代謝リスクのコントロールに重要である。
J-ISCP 会誌「心血管薬物療法」
学術集会参加記
ISCP 本会 STATE OF HEART 2014(アデレード)に参加して
松田 守弘
国立病院機構 呉医療センター 臨床研究部予防医学研究室
はじめに
ISCP 本会 STATE OF HEART 2014 は 2014 年 11 月
26 日から 11 月 28 日にオーストラリアのアデレード
コンベンションセンター(写真 1)で開催されまし
た。会場のアデレードコンベンションセンターはア
デレードの市街地南のトレンス川の沿岸に立地し非
常に美しいところにありました(写真 2)。この時
期のアデレードは、初夏から盛夏になろうとする季
節で、気温 26 ~ 32℃で連日雲一つない晴天に恵ま
写真 1 コンベンションセンター
れました。
ISCP2014 について
私は昨年ローマで開催された ISCP 2013 も参加し
ましたが、ISCP 2014 はオーストラリアの複数の学
会・研究会(Australian Atherosclerosis Society [AAS],
Australian Vascular Biology Society [AVBS], High Blood
Pressure Research Council of Australia [HBPRCA]) と
合同で、STATE OF HEART 2014 として開催されて
おり、昨年よりも盛会でした(写真 3)
。会場では、
写真 2 トレンス川から見た会場周辺
心不全、心房細動、冠動脈疾患、糖尿病、高血圧、
肥満、脂質異常症など多岐に渡るテーマが議論され
ていました。例年、口頭発表はレビューを中心とし
た発表が多い中、今年は研究成果発表も口頭発表に
選ばれ、様々な意見交換がされていました。個人的
には、2 か月前に New Engl J Med に発表されたばか
りということもあり、新しい心不全治療薬として
登場した LCZ696 に関するデータが印象的でした。
angiotensin receptor-neprilysin inhibitor である LCZ696
が、最も標準的心不全治療薬のひとつである ACE
阻害薬 enalapril より、心不全による死亡および入院
を減らすというもので、今後の心不全治療に明かり
を灯す研究と感じました。残念ながら本邦は本研究
写真 3 会場内の案内
67
から観光スポットやコンベンションセンターの並ぶ
ノースアデレードまで歩いて行けるほどのコンパク
トな作りでした。オーストラリアはイギリスの植民
地であった歴史的背景もあり、古い教会(写真 4)
などが街並みの至る所にありヨーロッパを思わせる
雰囲気の町でした(写真 5)。
学術都市として、アデレード大学、南オーストラ
リア大学があり(写真 6)、いずれの大学も、コン
パクトな敷地の中に美しく整然と各棟が配列されて
おり学生にとって過ごしやすそうな雰囲気を醸し出
していました。キャンパスの近くには、図書館、美
図 1 n-6 PUFA 合成とその調節
術館、博物館が並んでおり(写真 7)、文化的な活
に参加していなかったようですが、早く臨床の現場
動も活発な印象を受けました。
に登場することが期待されます。
オーストラリアは白人と原住民のアボリジニーの
また、拙著「Impact of obesity and insulin resistance
on dihomo γ-linoleic acid」も口頭発表に選んでいた
だける栄誉にあずかりました。n-6 多価不飽和脂肪
酸(PUFA)でアラキドン酸(AA)の前駆脂肪酸で
あるジホモγリノール酸(DHLA)は食事からの摂
取がほとんどなく体内での新規合成が必要な脂肪酸
です。この血中レベルが臨床的に BMI や HOMA-IR
と関連して増加することを示し、n-6 PUFA の合成
が肥満やインスリン抵抗性と密接に関連し増加する
可能性があることを報告しました(図 1)。
その他、ISCP 本会から計 36 の様々な内容の演題
がポスター演題として発表されていました。例年優
秀ポスター賞 3 演題が選ばれますが、今年は 1 位の
砂川先生を始めに 3 位まですべて本邦の静岡県立大
学薬学部からの発表でした。表彰式は同じ日本人と
写真 4 セントピーターズ大聖堂
してとても誇らしい思いで見ていました。3 名の先
生方とご指導されました教授の森本先生には心より
敬意を表したいと思います。
アデレードの観光
アデレードへのアクセスは、日本からの直行便
はなく、シドニーなどのオーストラリア主要都市
か、シンガポールなどを経由したフライトを使用し
ます。アデレードは南オーストラリア州の州都であ
すが、1936 年に都市計画に基づいて建築された非
常に新しい街で、市街地は碁盤の目のように美しく
整然としていて、ホテルや飲食店が多い町の中心部
写真 5 ビクトリアスクエア
68
国との印象があったのですが、町ですれ違う人たち
昼寝しており、寝ている姿をわずか約 10m の距離
にはアジア系の学生が非常に多く見られ、政策とし
から観察できました(写真 8)。
て移民や留学の受け入れを活発にしている様子が伺
バスで国立公園内の舗装されていない道(自然破
われました。
壊を防ぐために舗装しないそうです)を進むと、車
アデレードから少し足を延ばしてカンガルー島を
窓から望む景色は、低い灌木がずっと地平線まで続
観光しました。カンガルー島は、アデレードの南に
いておりオーストラリアの自然を感じさせるもので
ある小さな島ですが、島の南西部は Flinders Chase
した。広大な灌木の林の中を抜けると Remarkable
国立公園に指定されており、自然保護が徹底され野
Rocks のある岬に到着しました。Remarkable Rocks
生の動植物の宝庫として地元でも人気の観光スポッ
では、その名のとおり自然の造形とは思えないよう
トです。アデレードからツアーバスに約 2 時間乗り、
な巨大な岩石のオブジェが海岸の岩場に無造作に
約 45 分間、船に揺られ島に渡った後は再びツアー
乗っかっている状態で、そして岩場の向こうには雲
バスに乗り現地のガイドツアーの案内で観光スポッ
一つない真っ青な空と紺碧の海が広がっており、と
トを回りました。Seal Bay では、数十頭の野生のア
ても美しい光景でした(写真 9)。
シカやオットセイが真っ白の砂浜で心地よさそうに
Hanson Bay Wild Life Sanctuary では、野生のコアラ
写真 6 南アデレード大学
写真 8 Seal Bay のオットセイ
写真 9 Remarkable Rocks
写真 7 アデレード美術館
69
が簡単に見つかる場所があり、高いユーカリの木で
心地よささそうに寝ている野生のコアラの姿があち
らこちらの木の上に見つけられました(写真 10)
。
アデレードの食事について
オーストラリアの食事といえば、ビーフが中心か
と思っていましたが、町の中心部ではイタリア、ス
ペイン、インド、中華など様々な国籍のレストラン
写真 10 野生のコアラ
が軒を連ねていました。特に地元産のワインとス
テーキはとても美味しくいただきました(写真 11)
。
その他、現地料理では、カンガルー肉や蟻の料理も
あったそうです。
おわりに
最後に、学会を通じてご一緒させていただきまし
た京都医療センター展開医療研究部 長谷川浩二先
生、嶋田さん、静岡県立大学薬学部の砂川さん、鈴
木さん、櫻井さん、船本さん、稗田さん、皆様のお
蔭ですばらしい学会の旅になり、ありがとうござい
ました。来年ブエノスアイレスで開催される ISCP
2015 でお会いしましょう。
写真 11 ステーキとワイン
70
特定非営利活動法人 国際心血管薬物療法学会日本部会 定款
第 1 章 総則
第 3 章 会員
(名称)
(種別)
第 1 条 この法人は、特定非営利活動法人国際心血
第 6 条 この法人の会員は、次の 2 種とし、正会員
管薬物療法学会日本部会(英語名:Japan Section for
をもって特定非営利活動促進法(以下 「法」とい
International Society of Cardiovascular Pharmacotherapy,
う。)上の社員とする。
略称名:J-ISCP)という。
(1)正会員 この法人の目的に賛同して入会した
個人及び団体
(事務所)
(2)賛助会員 この法人の活動を賛助するため
第 2 条 この法人は、主たる事務所を京都府京都市
に入会した個人及び団体
伏見区深草枯木町 15 番地 ルミエール藤ノ森 407
に置く。
(入会)
第 7 条 会員の入会について、特に条件は定めない。
2 会員として入会しようとするものは、会員の種
第 2 章 目的及び事業
別を記載した入会申込書により、理事長に申し
(目的)
込むものとし、理事長は、正当な理由がない限り、
第 3 条 この法人は、心臓血管系疾患の薬物療法の
入会を認めなければならない。
研究に関する事業を推進し、我が国における心臓血
3 理事長は、前項のものの入会を認めないときは、
管系疾患の薬物療法の進歩普及に貢献し、国民の健
速やかに、理由を付した書面をもって本人にそ
康増進及び医療の発展に寄与することを目的とす
の旨を通知しなければならない。
る。
(会費)
(特定非営利活動の種類)
第 8 条 会員は、総会において別に定める会費を納
第 4 条 この法人は、前条の目的を達成するため、
入しなければならない。
次に掲げる種類の特定非営利活動を行う。
(1)保健、医療又は福祉の増進を図る活動
(会員の資格の喪失)
(2)社会教育の推進を図る活動 第 9 条 会員が次の各号の一に該当するに至ったと
(3)学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る
きは、その資格を喪失する。
活動
(1)退会届の提出をしたとき。
(4)国際協力の活動
(2)本人が死亡し、又は会員である団体が消滅し
(5)科学技術の振興を図る活動
たとき。
(3)継続して 3 年以上会費を滞納したとき。
(事業)
(4)除名されたとき。
第 5 条 この法人は、第 3 条の目的を達成するため、
特定非営利活動に係る事業として、次の事業を行う。
(退会)
(1)心臓血管系疾患の薬物療法に関する学術集会、
第 10 条 会員は、理事長が別に定める退会届を理
研究会、教育研修会及び市民公開講座の開催
事長に提出して、任意に退会することができる。
(2)心臓血管系疾患の薬物療法に関する情報提供
及び情報伝達のためのホームページ運営事業
(除名)
(3)その他、この法人の目的を達成するために必
第 11 条 会員が次の各号の一に該当するに至った
要な事業
ときは、総会の議決により、これを除名することが
75
できる。この場合、その会員に対し、議決の前に弁
(1)理事の業務執行の状況を監査すること。
明の機会を与えなければ ならない。
(2)この法人の財産の状況を監査すること。
(1)この定款に違反したとき。
(3)前 2 号の規定による監査の結果、この法人の
(2)この法人の名誉を傷つけ、又は目的に反する
業務又は財産に関し不正の行為又は法 行為をしたとき。
令若しくは定款に違反する重大な事実がある
ことを発見した場合には、これを総会又 (拠出金品の不返還)
は所轄庁に報告すること。
第 12 条 既納の会費及びその他の拠出金品は、返
(4)前号の報告をするため必要がある場合には、
還しない。
総会を招集すること。
(5)理事の業務執行の状況又はこの法人の財産の
状況について、理事に意見を述べ、若 第 4 章 役員及び職員
しくは理事会の招集を請求すること。
(種別及び定数)
第 13 条 この法人に次の役員を置く。
(任期等)
(1)理 事 3 人以上 20 人以内
第 16 条 役員の任期は、2 年とする。ただし、再
(2)監 事 1 人以上 3 人以内
任を妨げない。
2 理事のうち、1 人を理事長、5 人以内を副理事長
2 前項の規定にかかわらず、総会で後任の役員が
とする。
選任されていない場合に限り、任期の 末日後
最初の総会が終結するまでその任期を伸長する。
(選任等)
3 補欠のため、又は増員によって就任した役員の
第 14 条 理事及び監事は、総会において選任する。
任期は、それぞれの前任者又は現任者 の任期
2 理事長及び副理事長は、理事の互選とする。
の残存期間とする。
3 役員のうちには、それぞれの役員について、そ
4 役員は、辞任又は任期満了後においても、後任
の配偶者若しくは 3 親等以内の親族が 1 人を
者が就任するまでは、その職務を行わ なけれ
超えて含まれ、又は当該役員並びにその配偶者
ばならない。
及び 3 親等以内の親族が役員の総 数の 3 分の
(欠員補充)
1 を超えて含まれることになってはならない。
第 17 条 理事又は監事のうち、その定数の 3 分の
4 監事は、理事又はこの法人の職員を兼ねること
1 を超える者が欠けたときは、遅滞なく これを補
ができない。
充しなければならない。
(職務)
(解任)
第 15 条 理事長は、この法人を代表し、その業務
第 18 条 役員が次の各号の一に該当するに至った
を総理する。
ときは、総会の議決により、これを解任することが
2 理事長以外の理事は、この法人の業務について、
できる。この場合、その役員に対し、議決する前に
この法人を代表しない。
弁明の機会を与えなければならない。
3 副理事長は、理事長を補佐し、理事長に事故あ
(1)心身の故障のため、職務の遂行に堪えないと
るとき又は理事長が欠けたときは、理事長があ
認められるとき。
らかじめ指名した順序によって、その職務を代
(2)職務上の義務違反その他役員としてふさわし
行する。
くない行為があったとき。
4 理事は、理事会を構成し、この定款の定め及び理
事会の議決に基づき、この法人の業務を執行する。
5 監事は、次に掲げる職務を行う。
76
(報酬等)
である事項を記載した書面又は電磁的方法を
第 19 条 役員は、無報酬とする。
もって招集の請求があったとき。
2 役員には、その職務を執行するために要した費
(3)第 15 条第 5 項第 4 号の規定により、監事か
用を弁償することができる。
ら招集があったとき。
3 前 2 項に関し必要な事項は、総会の議決を経て、
理事長が別に定める。
(招集)
第 25 条 総会は、前条第 2 項第 3 号の場合を除き、
(職員)
理事長が招集する。
第 20 条 この法人に、事務局長その他の職員を置
2 理事長は、前条第 2 項第 1 号及び第 2 号の規定
くことができる。
による請求があったときは、その日から 90 日以
2 職員は、理事長が任免する。
内に臨時総会を招集しなければならない。
3 総会を招集するときは、会議の日時、場所、目
的及び審議事項を記載した書面又は電磁的方法
第 5 章 総会
により、少なくとも 5 日前までに通知しなけれ
(種別)
ばならない。
第 21 条 この法人の総会は、通常総会及び臨時総
会の 2 種とする。
(議長)
第 26 条 総会の議長は、理事長とする。
(構成)
第 22 条 総会は、正会員をもって構成する。
(定足数)
第 27 条 総会は、正会員総数の 5 分の 1 以上の出
(権能)
席がなければ開会することができない。
第 23 条 総会は、以下の事項について議決する。
(1)定款の変更
(議決)
(2)解散
第 28 条 総会における議決事項は、第 25 条第 3 項
(3)合併
の規定によってあらかじめ通知した事項とする。
(4)事業計画及び活動予算並びにその変更
2 総会の議事は、この定款に規定するもののほか、
(5)事業報告及び活動決算
出席した正会員の過半数をもって決し、可否同
(6)役員の選任又は解任及び職務
数のときは、議長の決するところによる。
(7)会費の額
3 理事又は社員が総会の目的である事項について
(8)借入金(その事業年度内の収益をもって償還
提案した場合において、社員の全員が書面又は
する短期借入金を除く。第 50 条において同じ。
)
電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、
その他新たな義務の負担及び権利の放棄
当該提案を可決する旨の社員総会の決議があっ
(9)事務局の組織及び運営
たものとみなす。
(10)その他運営に関する重要事項
(表決権等)
(開催)
第 29 条 各正会員の表決権は、平等とする。
第 24 条 通常総会は、毎年 1 回開催する。
2 やむを得ない理由のため総会に出席できない正
2 臨時総会は、次の各号の一に該当する場合に開
会員は、あらかじめ通知された事項について書
催する。
面若しくは電磁的方法をもって表決し、又は他
(1)理事会が必要と認め招集の請求をしたとき。
の正会員を代理人として表決を 委任すること
(2)正会員総数の 5 分の 1 以上から会議の目的
ができる。
77
3 前項の規定により表決した正会員は、第 27 条、
(1)総会に付議すべき事項
第 28 条第 2 項、第 30 条第 1 項第 2 号及び第 51
(2)総会の議決した事項の執行に関する事項
条の適用については、総会に出席したものとみ
(3)その他総会の議決を要しない会務の執行に関
なす。
する事項
4 総会の議決について、特別の利害関係を有する
正会員は、その議事の議決に加わることができ
(開催)
ない。
第 33 条 理事会は、次の各号の一に該当する場合
に開催する。
(議事録)
(1)理事長が必要と認めたとき。
第 30 条 総会の議事については、次の事項を記載
(2)理事総数の過半数以上から会議の目的であ
した議事録を作成しなければならない。
る事項を記載した書面をもって招集の請求が
(1)日時及び場所
あったとき。
(2)正会員総数及び出席者数(書面若しくは電磁
(3)第 15 条第 5 項第 5 号の規定により、監事か
的方法による表決者又は表決委任者がある場
ら招集の請求があったとき。
合にあっては、その数を付記すること。)
(3)審議事項
(招集)
(4)議事の経過の概要及び議決の結果
第 34 条 理事会は、理事長が招集する。
(5)議事録署名人の選任に関する事項
2 理事長は、前条第 2 号及び第 3 号の規定による
2 議事録には、議長及びその会議において選任さ
請求があったときは、その日から 30 日以内に理
れた議事録署名人 1 人以上が署名、押 印しな
事会を招集しなければならない。
ければならない。
3 理事会を招集するときは、会議の日時、場所、
3 前 2 項の規定に関わらず、正会員全員が書面又
目的及び審議事項を記載した書面又は電磁的方
は電磁的記録により同意の意思表示をしたこと
法により、少なくとも 5 日前までに通知しなけ
により、総会の決議があったとみなされた場合
ればならない。
においては、次の事項を記載した議事録を作成
しなければならない。
(議長)
(1)総会の決議があったものとみなされた事項の
第 35 条 理事会の議長は、理事長がこれに当たる。
内容
(2)前号の事項の提案をした者の氏名又は名称
(議決)
(3)総会の決議があったものとみなされた日
第 36 条 理事会における議決事項は、第 34 条第 3
(4)議事録の作成を行った者の氏名
項の規定によってあらかじめ通知した事項とする。
2 理事会の議事は、理事総数の過半数をもって決
し、可否同数のときは、議長の決するところに
第 6 章 理事会
よる。
(構成)
第 31 条 理事会は、理事をもって構成する。
(表決権等)
第 37 条 各理事の表決権は、平等とする。
(権能)
2 やむを得ない理由のため理事会に出席できない
第 32 条 理事会は、この定款で定めるもののほか、
理事は、あらかじめ通知された事項について書
次の事項を議決する。
面又は電磁的方法をもって表決することができ
る。
78
3 前項の規定により表決した理事は、前条第 2 項
(会計の原則)
及び次条第 1 項第 2 号の適用については、理事
第 42 条 この法人の会計は、法第 27 条各号に掲げ
会に出席したものとみなす。
る原則に従って行うものとする。
4 理事会の議決について、特別の利害関係を有す
る理事は、その議事の議決に加わることができ
(会計の区分)
ない。
第 43 条 この法人の会計は、特定非営利活動に係
る事業に関する会計の 1 種とする。
(議事録)
第 38 条 理事会の議事については、次の事項を記
(事業計画及び予算)
載した議事録を作成しなければならない。
第 44 条 この法人の事業計画及びこれに伴う活動
(1)日時及び場所
予算は、理事長が作成し、総会の議決を 経なけれ
(2)理事総数、出席者数及び出席者氏名(書面又
ばならない。
は電磁的方法による表決者にあっては、その
旨を付記すること。)
(暫定予算)
(3)審議事項
第 45 条 前条の規定にかかわらず、やむを得ない
(4)議事の経過の概要及び議決の結果
理由により予算が成立しないときは、理事長は、理
(5)議事録署名人の選任に関する事項
事会の議決を経て、予算成立の日まで前事業年度の
2 議事録には、議長及びその会議において選任さ
予算に準じ収益費用を講じることができる。
れた議事録署名人 1 人以上が署名、押印しなけ
2 前項の収益費用は、新たに成立した予算の収益
ればならない。
費用とみなす。
(予備費の設定及び使用)
第 7 章 資産及び会計
第 46 条 予算超過又は予算外の支出に充てるため、
(資産の構成)
予算中に予備費を設けることができる。
第 39 条 この法人の資産は、次の各号に掲げるも
2 予備費を使用するときは、理事会の議決を経な
のをもって構成する。
ければならない。
(1)設立当初の財産目録に記載された資産
(2)会費
(予算の追加及び更正)
(3)寄附金品
第 47 条 予算成立後にやむを得ない事由が生じた
(4)財産から生じる収益
ときは、総会の議決を経て、既定予算の 追加又は
(5)事業に伴う収益
更正をすることができる。
(6)その他の収益
(事業報告及び決算)
(資産の区分)
第 48 条 この法人の事業報告書、活動計算書、貸
第 40 条 この法人の資産は、特定非営利活動に係
借対照表及び財産目録等の決算に関する 書類は、
る事業に関する資産の 1 種とする。
毎事業年度終了後、速やかに、理事長が作成し、監
事の監査を受け、総会の議 決を経なければならな
(資産の管理)
い。
第 41 条 この法人の資産は、理事長が管理し、そ
2 決算上剰余金を生じたときは、次事業年度に繰
の方法は、総会の議決を経て、理事長が 別に定め
り越すものとする。
る。
79
(事業年度)
(1)総会の決議
第 49 条 この法人の事業年度は、毎年 4 月 1 日に
(2)目的とする特定非営利活動に係る事業の成功
始まり翌年 3 月 31 日に終わる。
の不能
(3)正会員の欠亡
(臨機の措置)
(4)合併
第 50 条 予算をもって定めるもののほか、借入金
(5)破産手続き開始の決定
の借入れその他新たな義務の負担をし、 又は権利
(6)所轄庁による設立の認証の取消し
の放棄をしようとするときは、総会の議決を経なけ
2 前項第 1 号の事由によりこの法人が解散すると
ればならない。
きは、正会員総数の 4 分の 3 以上の承諾を得な
ければならない。
3 第 1 項第 2 号の事由により解散するときは、所
第 8 章 定款の変更、解散及び合併
轄庁の認定を得なければならない。
(定款の変更)
第 51 条 この法人が定款を変更しようとするとき
(残余財産の帰属)
は、総会に出席した正会員の 4 分の 3 以上の多数に
第 53 条 この法人が解散(合併又は破産による解
よる議決を経、かつ、法第 25 条第 3 項に規定する
散を除く。)したときに残存する財産は、
法第 11
以下の事項を変更する場合、所轄庁の認証を得なけ
条第 3 項に掲げる者のうち、総会で議決したものに
ればならない。
譲渡するものとする。
(1)目的
(2)名称
(合併)
(3)その行う特定非営利活動の種類及び当該特定
第 54 条 この法人が合併しようとするときは、総
非営利活動に係る事業の種類
会において正会員総数の 4 分の 3 以上の多数による
(4)主たる事務所及びその他の事務所の所在地
(所
議決を経、かつ、所轄庁の認証を得なければならな
轄庁変更を伴うものに限る。)
い。
(5)社員の資格の得喪に関する事項
(6)役員に関する事項(役員の定数に関する事項
第 9 章 公告の方法
を除く)
(7)会議に関する事項
(公告の方法)
(8)その他の事業を行う場合における、その種類
第 55 条 この法人の公告は、この法人の掲示場に
その他当該その他の事業に関する事項
掲示するとともに、官報に掲載して行う。
(9)解散に関する事項(残余財産の帰属すべき事
項に限る)
第 10 章 雑則
(10)定款の変更に関する事項
(細則)
(解散)
第 56 条 この定款の施行について必要な細則は、
第 52 条 この法人は、次に掲げる事由により解散
理事会の議決を経て、理事長がこれを定める。
する。
80
附 則
1 この定款は、この法人の成立の日から施行する。
2 この法人の設立当初の役員は、次に掲げる者と
する。
理事長 長谷川 浩二
副理事長 佐田 政隆
理事 吉田 雅幸
理事 沢村 達也
理事 池田 隆徳
理事 野出 孝一
監事 森本 達也
3 この法人の設立当初の役員の任期は、第 16 条第
1 項の規定にかかわらず、成立の日 から 2013
年 5 月 31 日までとする。
4 この法人の設立当初の事業計画及び活動予算は、
第 44 条の規定にかかわらず、設立 総会の定め
るところによるものとする。
5 この法人の設立当初の事業年度は、第 49 条の規
定にかかわらず、成立の日からその 事業年度
末までとする。
6 この法人の設立当初の会費は、第 8 条の規定に
かかわらず、次に掲げる額とする。
(1)正会員会費
一口 5,000 円(一口以上)
(2)賛助会員会費
一口 5,000 円(二十口以上)
「NPO 法人国際心血管薬物療法学会日本部会(J-ISCP)のホームページ
http://j-iscp.com/ を是非ご覧ください。」
平成 27 年 3 月 25 日 印刷 平成 27 年 3 月 31 日 発行
心血管薬物療法 第 3 巻 第 1 号
編集・発行 特定非営利活動法人国際心血管薬物療法学会日本部会
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81
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男
フリガナ
生年月日
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西暦
女
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年
月
卒業年/ 西暦
〒
日
年卒
-
自 宅
都・道
住 所
府・県
TEL.
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勤務先名称:
部署名:
職名:
〒
都・道
勤務先
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TEL.
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職 種
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3. コ・メディカル(薬剤師以外)
4. 医学・薬学研究者(医師・薬剤師以外)
5. その他(
専門分野または興味の
1. 冠動脈疾患
ある分野(複数回答可)
6. その他(
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2. 心不全
3. 高血圧
4. 不整脈
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