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中国内陸部の現状と発展可能性

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中国内陸部の現状と発展可能性
2004 年 3 月 3 日発行
中国内陸部の現状と発展可能性
∼四川省成都、重慶の産業動向と投資環境∼
本誌に関するお問い合わせは
みずほ総合研究所株式会社 調査本部 電話(03)3201-0524 まで。
要旨
1.
中国政府は 2000 年に西部地域を中心とする内陸部の経済振興策として「西部大開発戦
略」をスタートさせた。これまでのところ、外資導入をテコに急発展を遂げる中国沿
海部に対して、内陸部の存在感はむしろ低下気味の印象を受けるが、成都(四川省の
省都)、重慶(中央直轄市)など内陸の主要都市を見る限り、着実な成長と変貌の跡
が窺われる。
2.
四川省、重慶の近代的な産業発展の基礎となったのは、1960 年代半ばから 70 年代に進
められた「三線建設」に伴う沿海部からの産業移転や大規模な建設関連投資であった。
こうした歴史的な経緯もあり、四川省、重慶は現在、西南地域で最強とも言える工業
生産力を擁している。一方、その名残から重工業比率、国有企業比率の高さが負の遺
産ともなっているが、最近は国有企業改革に伴う民営企業への転換、私営企業を始め
とする非国有セクターの成長の跡も見て取ることができる。
3.
重慶、成都の主要産業の1つとしてオートバイ、自動車関連産業が挙げられる。そこ
で主導的な役割を担う建設、嘉陵、長安汽車といった国有企業は、かつては軍事関連
機械メーカーであったが、70 年代以降軍需から民需への転換(軍転民)を果たすこと
で成長を遂げてきた。重慶は全国最大規模のオートバイ産業集積地であり、国有メー
カー、日系合弁メーカー、新興の民営メーカーがしのぎを削っている。自動車分野に
おいても重慶は全国の 5 大生産基地の1つになっており、外資系メーカーではいすゞ、
スズキ、米フォードの進出が見られる。成都の自動車産業もトヨタの進出に加え、第
一汽車が同地を国内第 3 の生産基地として位置づけるなど今後の発展可能性が期待さ
れている。
4.
成都、重慶の投資環境に目を向けると、高速道路を始めとするインフラ整備の進展を
通じて他地域とのアクセスが大幅に改善し、所得水準の向上に伴い消費市場としての
価値も徐々に高まるとともに、開発区の整備・拡張が進み、企業向けサービスも向上
するなど、従来に比べて大幅な改善が見られる。さらに人材面では、低コストの一般
労働力が豊富なこと、機械関連を中心とする産業基盤を背景に技術系の人材や熟練労
働者が比較的多いことなどが強みとなっている。ただし、沿海主要地域である珠江デ
ルタ、長江デルタと比較すると、一般労働者、エンジニアなどの人件費コスト、税制
面での優遇などでは優位性を見出すことが可能であるが、立地条件、物流インフラ、
部材調達、市場の規模と成長性、投資受け入れ態勢、生活環境など大半の項目では、
沿海都市部に比べて見劣りする点が多々あると言わざるを得ない。成都、重慶が進出
先の1つとして、より多くの外資系企業に検討・選択されるためには、投資環境の一
層の改善を通じて、進出企業が直面する障害を取り除いていくことが不可欠であろう。
5.
成都、重慶への外資系企業の直接投資動向を見ると、2000 年以降対中投資ブームと歩
調を合わせて増加基調を辿っている。ただし、投資件数、契約額、実行額いずれで見
ても、成都、重慶両地域への投資は各々全国比1%前後にとどまっており、外資系企
業の主要な投資先とは言えない状況である。近年、自動車(重慶)やソフトウエア、
流通(成都)などの分野で、欧米系企業の投資が比較的活発な点が注目される一方、
日系企業の投資は概して低調である。
6.
日系企業の進出状況を概観すると、重慶ではスズキ、ホンダ、ヤマハを軸に自動車、
オートバイ関連産業が圧倒的に多い。成都は、自動車関連に加えて、食品・漢方、建
設機械、スーパーなど業種に広がりが見られる。内販型企業が大半を占めること、合
弁企業が多いことも特徴と言えよう。成都、重慶への日系企業の進出時期は 94∼96 年
に集中しており、近時の日系企業の対中投資ブームは内陸の成都、重慶にまで波及し
ていないように見える。
7.
沿海部と内陸部の最大の相違点とも言えるのは外資の吸引力である。沿海部の経済が
外資系企業の投資をテコに発展を遂げ、内陸部は主として財政資金を含めた国内資本
に頼らざるを得ない状況が今後も続くとすれば、両地域間の経済格差が縮小するのは
容易なことではないだろう。中国経済が沿海部主導で発展を遂げる構図は今後も変わ
らない公算が高い。しかし、重慶、成都のインフラの改善や自動車産業の成長などに
見られるように、内陸部も地味ながら着実な発展を続けている。中国政府の内陸部振
興政策に大きな変更がない限り、沿海部へのキャッチアップや格差の是正は難しいと
しても、今後も相応のスピードで発展・変貌を遂げ、投資先としても消費市場として
も魅力を高めていく可能性は十分にあると思われる。
8.
日系企業に目を転じると、輸出・内販双方において、日系企業の主たる投資先は今後
も長江デルタを始めとする沿海部であり、内陸部への投資が勢いづくには相当の時間
を要するとみられる。内外市場へのアクセスの良さ、大量の出稼ぎ労働者の流入とい
った沿海部の現状を考慮すれば、わざわざ内陸部に進出するメリットは大きいとは言
えない。ただし、成都、重慶から湖北省武漢にかけて産業集積が広がる自動車、沿海
部において競争が激化し経営環境が厳しさを増す小売・流通などは、今後の投資が注
目される分野と言えよう。中国の経済・産業の発展が続き、日系企業の対中ビジネス
が沿海部を軸に拡大・深化を遂げるなかで、日系企業にとって対中事業戦略のなかに
内陸部をどのような形で組み込んでいくかといった点は今後の課題の1つになってこ
よう。
(アジア調査部
香港駐在
重並朋生)
目次
1. はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2. 西部地域のなかの成都と重慶 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
(1) 中国全体における西部地域のプレゼンス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
(2) 西部地域における四川省(成都)、重慶のプレゼンス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
(3) 東西間の所得格差の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
3. 現地の産業動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
(1) 四川省(成都)と重慶の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
(2) 歴史的な経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
(3) 機械関連産業を中心とする重工業主体の産業構造 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
a. 高い重工業比率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
b. 高い国有企業比率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7
c. 国有企業の民営化の事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
d. 勃興する民営企業の事例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9
(4) オートバイ・自動車関連産業の集積 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
a. 重慶のオートバイ産業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
b. 重慶、成都の自動車産業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
c. 重慶の部品企業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
d. 成都の部品企業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16
4. 成都・重慶の投資先としての評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
(1) インフラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
(2) 人的資源と賃金水準 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19
(3) 市場としての魅力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
(4) 開発区の整備 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
(5) 投資環境比較 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
5. 外資系企業の進出動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(1) 直接投資の流入状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
(2) 日系企業の進出例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
6. おわりに∼今後の発展可能性と日系企業にとっての内陸部∼ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
図表・企業例・開発区例目次
図表 1:中国全体に占める西部地域のシェア............................................................... 2
図表 2:西部地域に占める四川省・重慶のシェア ....................................................... 3
図表 3:所得水準の地域別比較(2002 年) ................................................................. 3
図表 4:東部・西部両地域の実質GDP成長率比較 ....................................................... 4
図表 5:東部・西部両地域の所得水準比較 .................................................................. 4
図表 6:4 直轄市の比較(2002 年) ............................................................................. 5
図表 7:工業生産の業種別比率の地域別比較(2002 年)............................................ 7
図表 8:工業生産に占める国有企業比率の地域別比較(2002 年) ............................. 8
図表 9:中国オートバイ産業の地域別分布状況(2002 年) ...................................... 11
図表 10:中国自動車産業の地域別分布状況(2002 年)............................................ 12
図表 11:中国の乗用車生産台数の地域別分布状況(2003 年)................................. 12
図表 12:中国オートバイ・自動車関連部品産業の地域別分布状況(2002 年)........ 14
図表 13:中国の 3 主要都市の賃金水準比較 .............................................................. 20
図表 14:主要耐久消費財の 100 世帯当たり保有台数(2002 年) ............................. 21
図表 15:自動車、オートバイ保有台数の地域別比較(2002 年) ............................. 22
図表 16:沿海部との比較で見た成都、重慶の投資環境 ............................................ 26
図表 17:成都向け直接投資の動向............................................................................. 27
図表 18:重慶向け直接投資の動向............................................................................. 27
図表 19:重慶進出日系企業例 .................................................................................... 28
図表 20:成都進出日系企業例 .................................................................................... 29
図表 21:中国進出日系企業の輸出型・内販型シェアの地域別比較 .......................... 30
企業例 1:寧江機床集団股份有限公司(国有) ........................................................... 8
企業例 2:四川華屹科技発展有限公司(民営) ........................................................ 9
企業例 3:重慶長江依之密活塞工業有限公司(日・独系) .................................... 15
企業例 4:重慶通盛機械工業有限公司(民営) ...................................................... 16
企業例 5:四川都江機械有限責任公司(民営) ...................................................... 17
企業例 6:成都天興儀表股份有限公司(国有) ...................................................... 18
企業例 7:成都天興山田車用部品有限公司(日系) ............................................... 18
開発区例 1:成都経済技術開発区 ............................................................................. 24
開発区例 2:重慶経済技術開発区 ............................................................................. 24
開発区例 3:重慶市高新区(ハイテク産業区)....................................................... 25
開発区例 4:重慶市南岸区茶園新城区...................................................................... 25
1. はじめに
中国政府は 2000 年に、西部地域を中心とする内陸部の経済振興策として、「西部大開
発戦略」をスタートさせた。具体的には、西部を中心とする内陸部に財政資金を優先的に
配分し、経済発展を加速させることによって、沿海部との経済格差を是正することを目指
したものであり、①インフラ整備の加速、②生態環境建設と保全、③優位産業の発展、④
科学技術と教育の発展、⑤対外開放の拡大を主な柱とする。
上海周辺を中心とする沿海部は、中国の WTO 加盟を契機とする対中投資ブームの恩恵
を受け、2000 年ごろから外資系企業の進出をテコに経済発展が加速しており、西部大開発
戦略の対象となった内陸部地域の存在感は近年むしろ低下している印象さえ受ける。
しかし、この間内陸部経済が停滞を余儀なくされていたわけではない。経済発展が著し
いペースで進む沿海都市部との格差は依然として大きいものの、高速道路、鉄道などのイ
ンフラ整備の面では、「西部大開発戦略」の成果とも言える進展が見られる。本稿で採り
上げる成都、重慶など内陸部の主要都市では、インフラの整備が急ピッチで進み、老朽化
した建物が取り壊され真新しいビルに生まれ変わるなど街は変貌を遂げ、消費や住宅需要
も堅調に拡大しており、その発展ぶりは沿海部の中規模都市と比べて遜色ないように見え
る。外資系企業の進出は依然として少ないものの、歴史的な経緯から内陸部に立地された
軍事関連産業の民用転換(軍転民)、国有企業の民営化、非国有企業の勃興など産業面で
の注目すべき動きも散見される。
本稿では、西部地域の主要都市である四川省・成都と重慶の主要産業と投資環境の具体
例を取り上げながら、内陸部の現状と発展可能性について考察したい。
2. 西部地域のなかの成都と重慶
(1) 中国全体における西部地域のプレゼンス
まず、四川省、重慶が位置する西部地域の中国全体に占めるプレゼンスから見てみよう。
中国を東部(沿海部)、中部、西部に大きく分けると、西部地域には 12 省・市・自治区、
すなわち四川省、重慶直轄市、雲南省、貴州省、陝西省、甘粛省、青海省、寧夏回族自治
区、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、内モンゴル自治区、広西チワン族自治区が該
当する。「西部大開発戦略」の対象には、この西部地域に加えて中部地域 8 省も含まれて
いる。
西部地域は、全国の 71.5%の面積を占めるが、人口では 28.6%、GDP では 19.2%にとど
まり、一人当たり GDP は全国の平均値である 8,184 元の約 7 割に相当する 5,515 元である
(2002 年)。西部地域は 2000 年以降、GDP、固定資産投資、消費(社会消費品小売総額)
で中国全体に占めるシェアが高まっている一方、輸出と外資導入ではシェアが低下してい
る(図表 1)。「西部大開発戦略」の実施に伴い、西部地域では基本建設投資(インフラ
建設と新規設備投資)を中心に固定資産投資の増勢が強まる一方、外資系企業の進出を通
じた産業構造の高度化、対外貿易の拡大といった点では十分な成果が表れていないと見る
1
こともできる。西部地域の輸出総額に占める外資系企業の割合(輸出の外資依存度)は
11.4%にとどまり、中国全体の 52.2%、沿海主要地域の 6∼7 割に比べて極端に低い(2002
年)。また、外資系企業の輸出総額のうち西部地域が担う部分は 1%に満たないのが現状
である。
図表 1:中国全体に占める西部地域のシェア
2000年
GDP
工業生産(付加価値ベース)
固定資産投資
うち基本建設投資
消費(社会消費品小売総額)
輸出
うち外資系企業
外資導入(実行額)
2001
18.6%
13.6%
18.6%
22.2%
17.4%
4.1%
1.0%
4.5%
18.8%
13.6%
19.2%
23.1%
17.5%
3.8%
0.9%
4.1%
2002
19.2%
13.4%
19.6%
24.0%
17.7%
3.7%
0.8%
3.8%
傾向
上昇
低下
上昇
上昇
上昇
低下
低下
低下
(注)傾向は 2000∼2002 年のシェアの推移を上昇、横ばい、低下で示したもの。輸出(うち
外資系企業)は、外資系企業の輸出総額に占める西部地域の割合。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」
(2) 西部地域における四川省(成都)、重慶のプレゼンス
四川省、重慶(以下、両省・市)の面積は、四川省が 48.5 万k㎡で日本の 1.3 倍、重慶は
8.2 万k㎡で北海道とほぼ同等である。両省・市を合わせた面積は西部地域の 8.3%に過ぎ
ないが、人口(四川 8,673 万人、重慶 3,107 万人)では 32.1%、GDP、工業生産、固定資
産投資、消費などの規模では 3∼4 割を占めており、西部地域経済の重要な柱となってい
る(図表 2)。両省・市は 2000 年以降、GDP、工業生産、不動産投資、輸出などで西部地
域におけるシェアを高めており、主に製造業と不動産の産業分野を中心に他の西部地域に
比べて経済活動が活発なことを示している。
両省・市の所得水準は、一人当たり GDP、都市部の一人当たり可処分所得、農村部の一
人当たり純収入で見て、概ね西部地域の平均値を上回っている(図表 3)。ただし、沿海
地域との間の所得格差は大きく、都市部の一人当たり可処分所得では、上海の 5 割、浙江
省の 6 割、江蘇省の 8 割に相当する。農村部の一人当たり純収入では、上海の 3 割、江蘇
省、浙江省の 5 割にとどまっており、このような農村部の低い所得水準が、沿海部への大
量の出稼ぎ労働者を生む一因になっていると考えられる。
2
図表 2:西部地域に占める四川省・重慶のシェア
2000年
GDP
工業生産(付加価値ベース)
固定資産投資
うち基本建設投資
うち更新改造投資
うち不動産投資
消費(社会消費品小売総額)
輸出
うち外資系企業
外資導入(実行額)
2001
33.6%
27.4%
32.6%
28.6%
28.6%
45.1%
36.2%
24.2%
27.6%
36.8%
33.8%
28.5%
32.3%
28.0%
27.9%
46.0%
36.0%
28.5%
29.1%
43.6%
2002
傾向
34.1%
30.2%
32.9%
28.0%
29.1%
48.5%
36.1%
31.0%
30.3%
37.5%
上昇
上昇
横ばい
低下
上昇
上昇
横ばい
上昇
上昇
横ばい
(注)「傾向」は 2000∼2002 年のシェアの推移を上昇、横ばい、低下で示したもの。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」
図表 3:所得水準の地域別比較(2002 年)
(元)
西部地域
四川省
長江デルタ3省・市
重慶
上海
江蘇省
浙江省
一人あたりGDP
5,515
5,766
6,347
40,646
14,391
16,838
都市部一人当たり可処分所得
6,675
6,611
7,238
13,250
8,178
11,716
農村部一人当たり純収入
1,855
2,108
2,098
6,224
3,980
4,940
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」
(3) 東西間の所得格差の現状
東西間、すなわち、沿海部(東部)と内陸部(西部)の所得格差の最近の傾向について、
実質 GDP 成長率、一人当たり GDP 等の指標で見てみよう。沿海部(東部)は、遼寧省、
北京、天津、河北省、山東省、上海、江蘇省、浙江省、福建省、広東省の 10 省・市、内
陸部(西部)は西部地域 12 省・市・自治区とした。
まず、東西両地域の実質 GDP 成長率を 1990 年代前半(90∼94 年)、90 年代後半(95
∼99 年)、2000 年以降の 3 期間に分けて比較すると、東部の成長率は趨勢的に下落して
いるのに対して、西部の成長率はほぼ横ばいで推移している(図表 4)。東部の成長率が
西部を上回る状況に変化は見られないものの、両地域の成長率格差(東部−西部)は期を
追うごとに縮小基調を辿っている。
東西間の所得格差にも同様の傾向が表れている。一人当たり GDP で見た東西格差(東
部/西部)は、90 年の 1.86 倍から 2002 年には 2.55 倍へと拡大したが、拡大スピードは
90 年代半ば以降徐々に鈍化傾向を辿っている(図表 5)。都市部の収入(一人当たり可処
分所得)と農村部の収入(一人当たり純収入)では、98 年以降東西格差がほとんど広がっ
ていないことが見て取れる。沿海部と内陸部の所得格差の拡大が大きな問題とされていた
3
90 年代半ばごろに比べると状況は幾分改善していると思われる。
ただし、長江デルタ 3 省・市(上海、江蘇省、浙江省)と四川省・重慶に地域を限定し
て比較すると様相は少し異なる。両地域の所得格差(長江デルタ/四川・重慶)は、1 人
当たり GDP、都市部の収入、農村部の収入のいずれも一貫して東西間格差(東部/西部)
を上回っている。しかも、都市部と農村部の収入格差は過去 5 年間にわたり拡大傾向が続
いている(図表 5)。西部地域のなかで四川省、重慶の成長率が相対的に高い点を勘案す
れば、それ以外の西部地域と長江デルタの格差は一段と広がっているとも考えられる。
すなわち、東西地域間では所得格差の拡大傾向にブレーキが掛かりつつあるようにも見
えるが、中国の経済成長の先頭を走る長江デルタと内陸部の所得格差に注目すれば、その
拡大ペースは一向に弱まる気配が見られず、沿海部と内陸部の所得格差の問題は引き続き
今後の課題として残されたままであると言えよう。
図表 4:東部・西部両地域の実質 GDP 成長率比較
(%)
16
14
12
10
8
6
4
2
0
東部
東部−西部
西部
90∼94年
95∼99
2000∼02
(注)東部、西部の実質 GDP 成長率は、各省・市・自治区の数値を GDP で加重平均。
棒グラフは(東部の成長率−西部の成長率)、単位は%ポイント。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑」各年版
図表 5:東部・西部両地域の所得水準比較
(倍)
3.5
(倍)
〔一人当たりGDP〕
東西比較(東部/西部)
長江デルタ/四川・重慶
3.0
長江デルタ/四川・重慶
都市部
農村部
都市部
農村部
可処分所得
純収入
可処分所得
純収入
2.5
98年
1.44
1.86
1.38
2.02
2.0
99
1.43
1.89
1.45
2.04
00
1.45
1.88
1.44
2.04
01
1.45
1.91
1.48
2.08
02
1.45
1.89
1.54
2.08
東部/西部
1.5
90年
93
96
99
2002
(注)東部、西部、長江デルタ、四川・重慶各地域の一人当たり GDP、都市部一人当たり可処分所得、
農村部一人当たり純収入は、各省・市・自治区の数値を人口で加重平均。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑」各年版
4
3. 現地の産業動向
(1) 四川省(成都)と重慶の概要
四川省は 60 年代に、内陸部の工業化を目指す三線建設(詳細は後述)の最重要地区と
して、軍需産業を始めとする重工業の建設が進められた経緯もあり、省内に成都、重慶(97
年 3 月まで同省の管轄下)を始め、綿陽、攀枝花といった特色ある工業都市を抱えている。
一方で、農業人口が全体の 8 割を占めており、農村部からの出稼ぎ労働者は、珠江デルタ
を始めとする沿海部工業地域における重要な労働力の源泉となっている。
四川省の省都である成都は、中国の西南地域の商業・貿易、科学・教育、金融・経済、
交通・通信、観光の中心的な機能を担っている。紀元前 311 年に蜀の都が置かれて以来、
商業都市としての発展を遂げてきたが、西部地域では重慶に次ぐ第 2 の工業生産規模を誇
る工業都市でもある。
重慶は 97 年 3 月、四川省管轄下の都市から中国で 4 番目の直轄市に昇格した。その背
景には、周辺地域の貧困対策や三峡ダム建設の円滑な推進があり、直轄市に昇格する際に
郊外の貧しい農村地域が編入され、旧重慶市と比べて面積で 3.6 倍、人口で 2 倍となった
(図表 6)。他の 3 直轄市(北京、天津、上海)と比較すると、面積、人口の規模は突出
して大きいものの、経済規模、一人当たり GDP は最小にとどまり、農村人口比率も圧倒
的に高い特徴を持つ。重慶は内陸部最大の工業都市であり、歴史的な経緯から軍事産業を
基礎とした重工業が発達している。オートバイや自動車産業はその代表例である。また、
上海・浦東地区を龍の頭とし長江を胴体とする「沿江開発(沿海部の経済発展を長江に沿
って内陸部に波及させる戦略)」の尾の部分に相当し、長江上流地域の経済・産業発展の
牽引役としても期待されている。
図表 6:4 直轄市の比較(2002 年)
重慶
面積
(万k㎡)
8.24
人口
(万人)
3,107
GDP
一人当たりGDP 農業人口比率
(億元)
(元)
1,971
6,347
76.8%
北京
1.68
1,423
3,213
28,449
28.9%
天津
1.13
1,007
2,051
22,380
41.1%
上海
0.62
1,625
5,409
40,646
23.6%
(注)農業人口比率は農業人口/人口(農業人口+非農業人口)
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」ほか
(2) 歴史的な経緯
四川省、重慶の近代的な産業発展の基礎となったのは、「三線建設」に伴う沿海部から
の産業移転や大規模な建設関連投資である。
「三線建設」とは、60 年代初頭の旧ソ連との決裂、さらにはベトナム戦争の勃発(64
5
年トンキン湾事件)に伴う戦争への危機感の高まりなどを背景に、60 年代半ばから 70 年
代にかけて中国政府が毛沢東指導下で取り組んだ国家防衛上の戦略である。一線とは戦争
の危険度が相対的に高い沿海地域と(旧ソ連との)国境地域、二線は沿海地域と内陸地域
の間、三線は戦争の危険度が相対的に低い内陸地域を指す。この時期に、西南、西北地域
を中心とする内陸部(三線地域)には、沿海部の主要な軍需関連産業や重工業が相次いで
移管され、鉄道や電力発電施設などのインフラ建設にも多大な政府資金が投入された。四
川省、重慶は、水資源、鉱物資源に恵まれ、かつ労働力が豊富であったこともあり、「三
線建設」の特に重要な都市として位置づけられた。
重慶の産業発展にとっては、1930 年代後半の抗日戦争時に、国民党政権の臨時首都が重
慶に設置され、沿海部の軍需関連など基幹産業が重慶周辺の内陸部に移転されたことも見
逃せない要因である。重慶を代表する大型国有企業には、長安汽車(南京金陵兵工廠がシ
フト)、建設集団(湖北省の漢陽兵工廠)、重慶鋼鉄(湖北省の漢陽鋼鉄廠)など、60
年代に国民党とともに重慶に移転し、60 年代の「三線建設」で規模を拡大させた軍需関連
企業が少なからずある(以下ではこれらの企業も含めて「三線企業」とする)。
これらの「三線企業」は、70 年代以降軍需から民需への転換(軍転民)を進め、一部の
企業は外資との提携や合弁によって競争力を高めるなど、四川省、重慶の産業発展に多大
な影響を及ぼすことになった。現在の建設集団、嘉陵集団、長安汽車は、もともと軍事関
連機械メーカーであったが、日本のオートバイ、自動車メーカーからの技術導入(のちに
合弁)を通じて、オートバイ、四輪メーカーとして成長を遂げた経緯がある。ただし、重
工業比率の高さ、生産効率の低さ、立地条件の悪さといった「三線企業」の抱える問題は、
80 年代以降市場経済化が進展するなかで、同地域の経済・産業における負の遺産となって
きたことも否めない。
(3) 機械関連産業を中心とする重工業主体の産業構造
以上のような歴史的な経緯から、四川省、重慶は、西南地域で最強とも言える工業生産
力を擁し、その産業は、国有企業を主な担い手とする機械関連産業を中心に重工業のウエ
ートが高い特色を持つ。
a.
高い重工業比率
四川省(成都)、重慶の産業は、沿海部の主要地域と比べて、金属・機械、輸送機器と
いった重工業関連の比率が高く、電気・電子、紡績・衣類など軽工業の比率が低い特徴を
持つ(図表 7)。なかでも、重慶は、輸送機器(自動車・オートバイ産業)と金属・機械
関連が工業生産の過半を占め、基幹産業となっている一方で、電子・電機の比重は 4.0%
と極端に低い。これは、広東省の電子・電機産業比率が 45.5%に達しているのと対照的で
ある。四川省には、以下に見るように成都、綿陽、徳陽、攀枝花などの工業都市があり、
それぞれに異なる特色がある。
まず、成都は機械、電子、食品、医薬などを主要産業とし、工作機械、建設機械に代表
6
される機械産業、自動車産業、電子産業が比較的バランスの取れた発展を遂げている。豊
富な技術者の存在や立地条件の良さなどが産業発展の原動力となっている。
四川省第 2 の工業都市である綿陽は、中国有数の家電メーカーである長虹集団の企業城
下町であり、電子工業が工業生産の 5 割超を占める。長虹は 50 年代に設立され、もとも
と軍事用レーダーメーカーであったが、70 年代以降民需への転換を進め、90 年代には家
電メーカーとして急発展を遂げた。
徳陽は、典型的な「三線都市」で、東方電機集団、第二重型機械集団の 2 つの大型国有
企業を中心とする重工業都市である。東方電機集団は、ハルビン電機集団、上海電機集団
と並ぶ中国の 3 大発電機メーカーの1つであり、右肩上がりで急増する中国の電力需要、
三峡ダムを始めとする西部地域の電力インフラ建設などを背景に、潜在的な成長可能性を
秘めた企業でもある(中国語で「電機」は主に発電機や電気モーターを指す)。
攀枝花は三線建設の際に、四川省西南部の山間に建設された製鉄を中心とする重工業都
市である。経済に占める第 2 次産業の比率が 70%、工業生産のうち重工業が 97%を占め
るという際立った特色を持つ。多くの難題を抱える国有企業が集中し、四川省の西南の外
れといった立地条件の悪さもあいまって、経済・産業構造の改革が難航している都市でも
ある。
図表 7:工業生産の業種別比率の地域別比較(2002 年)
金属・機械 輸送機器
四川省
成都
重慶
広東省
上海
江蘇省
浙江省
全国
27.3%
25.0%
19.4%
12.1%
24.0%
17.1%
20.5%
21.6%
5.8%
12.5%
37.2%
4.0%
14.0%
4.9%
5.3%
7.5%
化学
13.3%
8.3%
7.1%
5.0%
7.9%
5.9%
7.1%
6.5%
電機・電子 紡績・衣類
13.5%
14.9%
4.0%
45.5%
22.2%
17.4%
14.1%
15.7%
4.0%
2.9%
2.7%
9.3%
7.5%
17.1%
24.4%
10.0%
その他
36.1%
36.4%
29.6%
24.1%
24.4%
37.6%
28.6%
38.7%
(注)金属・機械は金属製品、金属プレス、機械・設備の合計。電機・電子は電気機械・機器、
電子・通信の合計。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」、各省・市統計年鑑 2003 年版
b.
高い国有企業比率
四川省、重慶の製造業の国有企業比率(株式制に転換した企業を含む)は、2002 年末時
点で 5∼6 割に上る(図表 8)。国有重工業の集積地である東北 3 省よりは低いものの、全
国平均(4 割)、広東省、江蘇省、浙江省(2 割前後)を大幅に上回っており、機械設備
の老朽化、過剰生産能力、過剰人員、過剰債務などの難題を抱える国有企業の改革が同地
域の重要な課題であることを示している。ただし、四川省、重慶の国有企業比率は 99∼2002
年の 3 年間に、東北 3 省など他地域を上回るペースで低下しており、国有企業改革に伴う
7
民営企業への転換(国有企業の民営化)、私営企業を始めとする非国有セクターの成長の
跡も窺われる。
図表 8:工業生産に占める国有企業比率の地域別比較(2002 年)
(%)
80
70
60
50
99年
2002年
40
30
20
10
0
全国
四川
重慶
広東省
江蘇省
浙江省
上海
東北3省
(注)(国有企業+国有株式制企業)/全体。全体は全国有及び一定規模以上(年商 500 万
元以上)の非国有企業。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」、各省・市統計年鑑 2002、2003 年版
c.
国有企業の民営化の事例
成都の工作機械メーカーである寧江機床集団は、65 年に南京から成都に移転された三線
企業である(企業例 1)。2000 年 11 月に股份(株式制)企業に組織変更し、現状は国有
比率が 5 割未満の民営企業となっている。民営化を契機に生産管理や従業員教育をさらに
強化し業績は伸ばしている(2003 年の売上高は約 3 億元)。金型、鋳造、鍛造などを含め
て 90%の部品を内製化し、男性労働者の比率が圧倒的に高い点は、同地域の機械産業に共
通する特徴である。これは、外部(周辺の部品関連企業)からの部品調達比率が高く、女
性出稼ぎ労働者を主要な労働力として活用する珠江デルタの電子関連産業との相違点と
して興味深い。後述する成都の自動車用アクスルメーカーの四川都江機械(企業例 5)、
オートバイ・自動車用メーターを製造する成都天興儀表(企業例 6)も、国有企業が民営
化したケースに該当する。
企業例 1:寧江機床集団股份有限公司(国有)
業種・企業形態
・ 工作機械製造(中低レベルの工作機械、家電用の生産ライン)
・ 国有企業。2000 年 11 月股份(株式制)企業に組織変更、現状は厳
密には民営企業(国有比率 50%未満)
生産規模・従業員数
・ 年商 3 億元(2003 年見込み)。2,100 名(男性比率が高い)
設立・発展経緯
・ 1965 年に南京から成都に移転された三線企業
販売
・ 内販主体。主要販売先は国内機械メーカー、家電メーカー(格蘭
仕、美的、松下万宝、三菱電機等)
・ 輸出比率は 5%。主要輸出先は米国、シンガポール、香港、マレ
8
ーシア、インドネシア、インドなど
・ 工作機械の価格は日本製の 3 分の 1 程度
部材調達
・ 鋳造・鍛造品を含め 90%の部品を内製化
(注)2003 年 11 月の現地でのヒアリング内容をもとに作成。以下の企業例も同じ。
d.
勃興する民営企業の事例
成都や重慶では、比較的豊富な技術者や研究者などの人材をベースに、近年民営企業(私
営企業)の着実な成長が見られる。成都には四川大学、四川工業大学、四川工業学院など
の大学や専門学校、機械や金属加工などに関する研究所が多数あり、機械・電子分野の技
術者だけで 5.4 万人に上る(中国国際促進委員会成都市分会)。国有企業のエンジニアや
技術学校の出身者などが中心となって民営企業を立ち上げるケースが多い。成都市の私営
企業数(年商 500 万元以上の製造業)は 2000 年の 247 社から 2002 年には 309 社に増加し、
企業全体に占めるシェアも 19.3%から 23.0%に上昇した。重慶でも同様の現象が見られ、
2002 年末時点の私営企業数(同)は 638 社で全体の 30.8%を占め、工業生産でも約 2 割を
担っている。
民営企業の一例として、成都の四川華屹科技発展有限公司を採り上げる(企業例 2)。
同社は、地元国有企業のエンジニアが中心となって 2001 年に設立した新興の民営企業で
ある。設立時は大手電機・通信機器メーカーの西南地域のエージェントであったが、その
後金属加工分野にも事業を拡大し、主にスポーツカー用の金属部品を米国向けに輸出して
いる。海外展示会向けなどに少ロット生産していた試作品が米系商社の目に留まり、低価
格と品質の高さが高い評価を受けて、その後の受注増につながったという。人件費の安さ
に加えて、国産の金属材料や機械設備を使うことによって、米国製に比べて 3∼4 分の 1
の低価格を実現している。国有企業のような過去の負の遺産を抱えていないこと、少数精
鋭で実力主義が徹底されていること、経験豊かな地元のエンジニアの存在などが競争力・
技術力の源泉となっているように思われる。
企業例 2:四川華屹科技発展有限公司(民営)
業種・企業形態
・ 金属部品加工(レーシング・カー用部品)の加工
・ 民営企業
生産規模・従業員数
・ 200 名
設立・発展経緯
・ 2001 年に元国有企業のエンジニアが中心となって設立した民営
株式企業
・ 電機・通信機器の販売からスポーツカー用部品の生産・輸出へと
事業を拡大
販売
・ 電機・通信機器は国内販売
・ 自社製造の金属加工品はほぼ 100%米国輸出
・ 金属加工品の価格は米国製の 3∼4 分の 1
技術力
・ 精度、安全性などで米国道路局の厳格な検査をパス
9
・ 技術力の源泉は経験豊かなエンジニアと高性能の機械設備。エン
ジニアの大半は元国有企業労働者と若い技術学校出身者
・ 従業員の人事評価は実力主義を徹底、少数精鋭主義
(4) オートバイ・自動車関連産業の集積
重慶、成都の製造業で中心的な役割を担っている業種として、オートバイ、自動車関連
産業が挙げられる。自動車産業は特に今後の成長性が見込まれる分野である。
a.
重慶のオートバイ産業
中国のオートバイの生産地は、重慶、広東省、華東(江蘇省、浙江省、山東省)の 3 地
域に集中しており、3 地域を合わせると、生産額で全国の 85%、企業数で 66%に達する(図
表 9)。重慶は全国で最大規模のオートバイ産業集積地であり、生産額で第 1 位(シェア
32.7%)、企業数は 14 社で広東省、江蘇省、浙江省に次いで第 4 位となっている。2003
年の重慶オートバイメーカーの生産台数は 441 万台に上り、中国全体の 1,429 万台の 30.9%
を占めた。ただし、生産能力は約 600 万台に達しており(重慶市対外貿易経済委員会)、
恒常的な生産能力過剰の打開策の1つとして、近年ベトナムを始めとする海外市場向け輸
出に活路を見出す傾向が強まっている。
重慶のオートバイ産業の主要な担い手は、嘉陵・建設の国有メーカー2 社、日系合弁メ
ーカー、さらには新興の民営メーカーである。国有メーカーの嘉陵はもともと軍事用機械
メーカー、建設は兵器メーカーであったが、80 年代以降日系オートバイメーカー(ホンダ、
ヤマハ)からの技術導入をテコに全国的なオートバイメーカーへと成長を遂げた。90 年代
に入ると日系のホンダ、ヤマハ発動機が、技術提供先であった嘉陵、建設を合弁パートナ
ーとして現地生産を開始し、90 年代後半には宗申、力帆といった民営企業の急速に台頭し、
全国第 1 位のオートバイ生産基地へと発展を遂げたのである。2002 年の中国のオートバイ
生産台数・上位 10 社を見ると、1 位嘉陵、4 位力帆、5 位隆鑫、7 位宗申と重慶のメーカ
ーが 4 社名を連ねている(建設は 11 位)。近年成長著しい民営オートバイメーカーの1
つである宗申は、家族によるバイク修理業からスタートし、90 年代に入ってオートバイ用
エンジン生産、さらにはオートバイの完成車組み立てへと事業を拡大させてきた(2002
年の生産台数 61 万台、全国シェア 5%)。
オートバイ市場は 90 年代に入り都市部を中心に急成長を遂げた。しかし、90 年代半ば
以降、大都市部におけるオートバイ保有規制の強化や農村部の需要低迷などを背景に需要
が伸び悩み、供給過剰が深刻化した。こうしたなかで、地場メーカーは国内市場の厳しい
価格競争を避けるために、99 年ごろからベトナムなど海外市場に活路を見出し、輸出を強
化する戦略をとった。2000 年の中国のオートバイ輸出台数は前年比 8 倍の 200 万台に上り、
その 3 分の 2 をベトナム向け輸出が占めた。さらに、ベトナム政府によるオートバイ輸入
制限などを背景に、力帆を始めとする完成車メーカー数社が部品メーカーを引き連れてベ
トナムでの現地生産に踏み切っており、AFTA に伴う ASEAN 域内の関税撤廃を見据えて、
10
ベトナムを ASEAN 向け輸出基地として位置づけている。
一方、90 年代前半に現地生産を開始した日系メーカーは、所得水準の高い都市部住民を
ターゲットに、高性能・高品質のオートバイを販売し、低価格のローカルブランドとは一
線を画す戦略を採ってきた。しかし 90 年代後半、日系ブランドの主たる市場であった沿
海部の主要都市で、環境問題への配慮などからオートバイ保有規制が強化されたのに加え、
モータリゼーションの到来に伴いオートバイから自動車への需要シフトが生じたことの
影響を受け苦戦を強いられている。
日系メーカーは地場メーカーに対して、技術・性能、製品開発面では圧倒的に勝るもの
の、価格競争力では劣勢に立たされている。日系ブランドの新型モデルの市場価格は概ね
15,000 元前後であるのに対し、後者の新型モデルは 7,000∼8,000 元、廉価モデルは 3,000
∼4,000 元にとどまっており、両者には大きな価格差がある。日系メーカーにとって、高
級ブランドのイメージ、性能・品質・デザイン面での優位性を維持しつつ、部品調達の現
地化等を通じたコスト削減によって地場メーカーとの価格差を縮め、中小都市や農村部の
需要を掘り起こすことが急務となっている。
図表 9:中国オートバイ産業の地域別分布状況(2002 年)
重慶市
広東省
華東地域
江蘇省
浙江省
山東省
上位3地域計
四川省
全国
生産額
(億元)
シェア
179.4
32.7%
121.0
22.0%
165.1
30.1%
73.5
13.4%
51.8
9.4%
39.8
7.2%
465.5
84.7%
1.9
0.3%
549.4
100.0%
社数
(社)
14
35
49
24
18
7
98
1
148
シェア
9.5%
23.6%
33.1%
16.2%
12.2%
4.7%
66.2%
0.7%
100.0%
(注)社数は 2001 年。
(資料)中国汽車工業年鑑 2002、2003
b.
重慶、成都の自動車産業
中国の主要な自動車生産基地は、第一汽車、東風汽車、上海汽車の 3 大国有メーカーの
本拠地に当たる吉林省、湖北省、上海市の 3 地域と、重慶、広東省、天津などである。2002
年の自動車生産総額の 7 割を、吉林省、湖北省、上海市、重慶、広東省の上位 5 地域が占
めた(図表 10)。成長著しい乗用車の分野では、これらに天津を加えた 6 地域で、2003
年の生産台数の 75%を占めた(図表 11)。自動車完成車メーカー(乗用車、トラック、
バスを含む)は全国に 116 社あり、そのうち重慶に 6 社、四川省に 5 社、合わせて 11 社
が存在する(中国汽車工業年鑑)。
主要生産基地の1つである重慶の 2003 年の自動車生産台数は約 50 万台(うち乗用車は
11
12 万台)に上り、主要なメーカーには、長安汽車(乗用車、トラック)、日系スズキと長
安汽車の合弁による長安鈴木(乗用車)、米系フォードと長安汽車の合弁による長安福特
(フォード、乗用車)、さらには慶鈴汽車(トラック)、日系いすゞと慶鈴汽車(集団)
の合弁による慶鈴汽車股份(株式会社)などがある。
図表 10:中国自動車産業の地域別分布状況(2002 年)
吉林省
湖北省
上海市
重慶市
広東省
上位5地域計
江蘇省
江西省
安徽省
山東省
広西自治区
上位10地域計
天津
四川省
全国
生産額
(億元)
シェア
843.1
23.6%
708.6
19.8%
591.6
16.5%
203.2
5.7%
144.5
4.0%
2491.0
69.6%
122.2
3.4%
111.6
3.1%
109.0
3.0%
82.9
2.3%
65.6
1.8%
2982.3
83.4%
48.3
1.4%
20.4
0.6%
3576.8
100.0%
社数
(社)
3
9
3
6
4
25.0
7
4
5
4
3
48
4
5
116
シェア
2.6%
7.8%
2.6%
5.2%
3.4%
21.6%
6.0%
3.4%
4.3%
3.4%
2.6%
41.4%
3.4%
4.3%
100.0%
(注)社数は 2001 年。
(資料)中国汽車工業年鑑 2002、2003
図表 11:中国の乗用車生産台数の地域別分布状況(2003 年)
地域
上海
吉林省
広東省
天津
湖北省
重慶
上位6地域計
安徽省
江蘇省
北京
浙江省
その他
合計
主要メーカー
上海VW、上海GM
一汽VW
広州本田、風神汽車
一汽夏利、天津豊田
神龍汽車
長安鈴木、長安フォード
奇瑞汽車
南京フィアット
北京現代
吉利汽車
(資料)中国国家統計局等
12
台数
58.5
35.1
18.3
17.3
13.2
12.1
154.5
10.4
8.4
7.3
4.9
21.4
206.9
(万台)
シェア
28.3%
17.0%
8.8%
8.4%
6.4%
5.8%
74.7%
5.0%
4.1%
3.5%
2.4%
10.3%
100.0%
長安鈴木は 93 年に設立された合弁企業(スズキ 35%、日商岩井 14%、長安汽車 51%)
で、95 年に生産を開始し、現在アルト(排気量 800cc)、カルタス(同 1,300cc)を生産し
ている。販売台数は 2002 年の 6.7 万台、2003 年の約 10 万台と順調に増加、2004 年には
20 万台の生産体制が整う。販売価格は 5∼7 万元(70∼100 万円)で、中国の乗用車では
最も低いカテゴリーに入るが、人海戦術による徹底したコストダウンと部品の現地調達化
(アルトの現地調達率は 95%)を通じて安定した利益率を確保している。97 年には単年
度黒字を達成し、その後も堅実経営を続けている模様である。
一方、長安福特(フォード)は 2003 年 1 月以降、小型車フィエスタ、高級車モンデオ
を現地生産しており、生産能力は現在の 5 万台から数年内に 15 万台に拡張する計画であ
る。販売店網の強化には、台湾フォードの人材を積極的に活用しているという。重慶の長
安鈴木、長安福特の乗用車生産能力は合計で 35 万台となり、今後スケールメリットが部
品サプライヤーの集積を促す効果も期待される。
スズキ、フォードの合弁相手となっている長安汽車は、89 年に中国政府が発表した自動
車産業の基本政策である「三大三小二微」(2 微は後で追加)の 1 社に相当する。「三大
三小二微」とは、中央政府が乗用車メーカーとして発展する体力があると判断した 8 社で、
三大は第一汽車、東風汽車、上海汽車、三小は北京、天津、広州、二微は長安機器(現在
の長安汽車)と航空工業が該当する。基本的にはこの 8 社を軸に乗用車メーカーを集約し
ようという狙いがあったとみられるが、現状は、天津汽車が第一汽車の傘下に入り、吉利
汽車など民営自動車メーカーの台頭も目覚しく、従来の基本政策とはかなりのずれが生じ
ているように見える。
一方成都には、四川旅行社(現成都一汽)、トヨタ自動車と四川旅行社の合弁企業であ
る四川豊田汽車など 5 社の自動車メーカーが存在する。2002 年の自動車生産台数は重慶の
約 9 分の 1 に相当する 5.6 万台で(全国の 2%)、現在の生産車種はミニバンやトラック
など商用車が中心であり、乗用車を手掛けるメーカーは見当たらない。ただし、トヨタの
進出に加え、中国 3 大自動車メーカーの1つである第一汽車が、成都を長春、天津に次ぐ
国内第 3 の生産基地として位置づけていることから、今後の発展可能性が期待される。
四川豊田汽車は 2000 年以降小型バスのコースターの生産を手掛けており、2003 年 9 月
には高級スポーツ・ユーティリティー・ビークル(SUV)の「ランドクルーザー・プラド」
も生産ラインナップに加えられた。2003 年の生産台数はコースター、ランドクルーザー合
わせて約 3,400 台であり、2004 年は自動車市場の成長を見込んで約 5,500 台に引き上げる
計画という。設立当初から部品の現地調達化が重要な課題となっていたが、天津周辺の日
系部品メーカーからの調達や成都周辺の地場メーカーへの技術指導などが効を奏し、コー
スターの現地調達比率は現状 60%に達している。一方、現地生産して間もないランドクル
ーザーは、現状部品の大半を日本から輸入しており、現地部品の活用によるコストダウン
が今後の課題となっている模様である。
13
c.
重慶の部品企業
中国オートバイ、自動車関連部品産業の最大の集積地は、上海を中心とする長江デルタ
3 省・市(上海、江蘇省、浙江省)であり、生産額で全国の 41.6%を占め、吉林省、湖北
省、重慶などを圧倒している(図表 12)。長江デルタ地域のすそ野産業集積の主因として
は、バス、トラックに比べてより精巧かつ多様な部品を必要とする乗用車の最大の生産基
地であり、外資系部品メーカーの進出が活発なこと(図表 11)、浙江省、江蘇省ではオー
トバイ、自動車関連部品を手掛ける民営企業や郷鎮企業が発達していることなどがあると
みられる。
図表 12:中国オートバイ・自動車関連部品産業の地域別分布状況(2002 年)
上海
浙江省
江蘇省
山東省
吉林省
遼寧省
湖北省
広東省
重慶
湖南省
上位10計
四川省
全国
生産額
(億元)
シェア
304.4
23.1%
122.1
9.3%
121.4
9.2%
97.1
7.4%
92.7
7.0%
81.6
6.2%
61.6
4.7%
56.0
4.3%
55.7
4.2%
48.9
3.7%
1041.5
79.1%
31.7
2.4%
1316.5
100.0%
社数
(社)
シェア
87
5.6%
129
8.3%
105
6.7%
68
4.4%
100
6.4%
87
5.6%
118
7.6%
52
3.3%
70
4.5%
70
4.5%
886
56.9%
63
4.0%
1558
100.0%
(注)社数は 2001 年。
(資料)中国汽車工業年鑑 2002、2003
重慶はオートバイ、自動車の生産規模に比べて、部品産業の集積度は高いとは言えない
が、完成車メーカーを取り巻く形で地場系、日系企業を中心に部品産業が発達しており、
生産額では全国で 9 位、企業数では 7 位となっている(図表 12)。
日系部品メーカーは、デンソー(部品全般)、スタンレー電機(照明)、日本発条(シ
ート)、イズミ工業(ピストン)など 10 数社に上る。このほか、長安福特(フォード)
の現地生産開始に伴い、米系部品企業が追随する動きも見られる。地元の開発区では、自
動車産業区を設け、内外の自動車部品企業の誘致を強化している。
重慶の部品企業の例として、日系メーカー1 社、地場メーカー1 社を採り上げる。
重慶長江依之密活塞工業は、オートバイ、自動車エンジン用ピストンを生産する日系メ
ーカーである(企業例 3)。95 年に日系自動車メーカーに追随して重慶に進出し、主とし
て当地の日系オートバイ、自動車メーカー双方にピストンを供給している。自動車向け需
14
要の急増に伴い、95∼2003 年の 8 年間で売上高は 3 倍増となった。長安鈴木とともに重慶
工業企業 50 強の 1 社にも選ばれている。
同社の特筆すべき点として現地化への取り組みが挙げられる。部材の現地調達率は
99.5%に達しており、主原料のアルミも中国の東北地区から購入している。さらに、日本
人派遣員は総経理と技術顧問の 2 名のみで、副総経理以下の管理職はすべて中国人である。
現地に溶け込もうとする日本人派遣員の姿勢や現地スタッフとの積極的なコミュニケー
ションが、最小限の日本人派遣員によるオペレーションを可能とする要因の1つとなって
いる(当社総経理)。そのほか、ロボットを最小限にとどめ人力を最大限活用すること、
日本製から地場製への機械設備の切り替えなどを通じて低コスト生産を実現している。
重慶通盛機械工業は 97 年に設立された民営のオートバイ向けクラッチメーカーである
(企業例 4)。設立当初は国内市場向け販売をメインとしていたが、国内の需要が頭打ち
となり価格競争が激化する中で、ベトナム、インドネシアなど東南アジア市場に活路を見
出し、2000 年ごろから輸出を急拡大させた〔2002 年の国内販売額 1.2 億元、輸出額 500
万ドル(約 4,100 万元)〕。競争の厳しい中国市場に比べてベトナム市場の利幅は圧倒的
に大きく、ベトナム向け輸出が成長の原動力となった(当社董事長)。さらに、2003 年に
重慶の大手オートバイメーカーである力帆と合弁でベトナムにクラッチ工場を設立し、ベ
トナム国内市場に加え、ベトナムからインドネシアへの輸出拡大を見込んでいる。
品質では日系部品に劣るものの、圧倒的に安い価格競争力が武器となっている。ベトナ
ム市場でのクラッチの単価は、日系部品メーカー製の 35 ドルに対して当社製は 22 ドルで
約 4 割安い。低価格の秘訣は人件費だけではなく、機械設備と原材料の安さとスケールメ
リットである。中国製の安い工作機械で減価償却費を抑え、原材料の摩擦材料も主に国内
の地場メーカーから低価格で調達している(日系メーカー製原材料価格の 4 分の 1 程度)。
さらに、年間数百万セットのクラッチを生産しスケールメリットで製造単価を引き下げて
いる。
当社の工場内を見る限り、生産ラインで部品が来るのを待っているワーカーが散見され、
工場内のあちこちに完成品や原材料が放置されているなど、素人目にもかなり改善の余地
があるように見えるが、それでも十分に価格競争力があるのは、原材料、減価償却費、人
件費等のコストが圧倒的に安いためであろう。このような民営企業が台頭し着実に力をつ
けているのは、競合する日系部品メーカーにとっては脅威であり、日系完成車メーカーに
とっては、低価格の中国製部品をいかに活用して価格競争力を高めていくかが今後の課題
となっているように思われる。
企業例 3:重慶長江依之密活塞工業有限公司(日・独系)
業種・企業形態
・ オートバイ・自動車エンジン用ピストン製造
・ 合弁企業:当初、日系 50:国有企業 50。現在は 100%外資(ドイ
ツ系 60:日系 40)
生産規模・従業員数
・ 売上高 1.3 億元(2003 年見込み)
15
・ 資本金 1.95 億元、従業員 1,200 名(約半分は臨時工)
設立・発展経緯
・ 95 年設立
・ 進出経緯:いすゞ自動車の進出、西部大開発への期待、生産のた
めの諸条件や投資環境が比較的良好なこと
・ 2003 年 11 月、日本の親会社である日本イズミをドイツ系マレー
社(自動車エンジン部品メーカー)が買収し、重慶の現法はドイ
ツ・日本の 100%外資となる(中国側撤退)。主目的はドイツ系
企業からの技術導入
生産・販売
・ 売上高は 95 年∼2003 年の 8 年間で 3 倍増
・ 主な販売先:重慶のオートバイ、自動車メーカー(長安汽車、い
すゞなど)
・ 売上額の構成:オートバイ 31%、自動車 69%
・ 輸出比率 12%(主な輸出先は日本、米国など)
部材調達
・ 現地調達率 99.5%(主原料のアルミは中国東北地区から調達)
その他
・ 重慶工業企業 50 強の 1 社
・ 一般労働者の平均月給は約 1,700 元(基本給+歩合+職能給。福
利厚生を除く)。業績重視、優秀な人材の流出防止のため高めに
設定
・ 日本人 2 名体制(総経理、技術顧問)。副総経理以下の管理職は
中国人
・ 適材適所の機械設備:当初は全部日本から持込み、更新ごとに適
材適所の方法で日本製、ドイツ製、中国製を使い分ける
・ ロボットは最小限、極力人力を活用、生産管理を徹底
企業例 4:重慶通盛機械工業有限公司(民営)
業種・企業形態
・ オートバイ用クラッチ製造
・ 民営企業
生産規模・従業員数
・ 国内販売 1.2 億元、輸出 500 万ドル(2002 年)。
・ 重慶 500 名、ベトナム現法 500 名
設立・発展経緯
・ 1997 年設立。当初は国内販売が主体、2000 年からベトナムなど
東南アジア向け輸出を強化
・ 2003 年ベトナムでの現地生産を開始(重慶オートバイメーカーの
力帆と合弁)
・ 2004 年ベトナムから ASEAN 諸国向け輸出を開始する予定
生産・販売
・ 主な販売先は重慶のオートバイメーカー(日系も含む)
部材調達
・ 原材料の摩擦材料は主に国内の地場企業から調達(地場の原材料
価格は日本製の 4 分の 1)
・ 工作機械は地場製の低価格機械をフル活用し減価償却費を抑制
d.
成都の部品企業
成都のオートバイ・自動車関連部品企業は、関連する電子・電気部品も含めて 77 社に
上る(成都機械工業協会)。主要な品目はアクスル、ショックアブソーバー、金型、シー
16
ト、ステアリングシャフト、ジョイント、メーターなどで、主な販売先は成都および周辺
(重慶、貴州省、雲南省など)のバス・トラックメーカーである。日系企業はアラコ(自
動車用内装品)、山田製作所(二輪、四輪用部品)など数社にとどまり、大半は技術力の
低い地場企業とみられるが、一部にはトヨタの技術指導を受けてコースター向け部品を供
給している企業もある。
成都の自動車用アクスルメーカーである四川都江機械はその代表例である(企業例 5)。
同社は成都郊外の都江堰市に位置し、従来西南地域のバス、トラックメーカーを主要な納
入先としていたが、99 年以降トヨタの技術・生産管理両面での指導を受けて、四川豊田汽
車にコースター用アクスルを供給している。
オートバイ需要の頭打ちと自動車産業の急成長といった環境変化を受けて、オートバイ
部品企業では、自動車向け部品へのシフトを目指す動きが活発化している。
自動車・オートバイ用メーターの成都天興は、もともと中国兵器工業傘下の国有軍事関
連企業であり、80 年代半ばにオートバイ部品企業へと転じた(企業例 6)。現状、オート
バイ向けメーターから自動車用メーターへのシフトが経営上の最重要課題となっており、
トラック、ミニバンを中心に自動車向けのシェアを高めつつある。ただし、最大のターゲ
ットである乗用車(特に高級車)向けメーターへの参入は、製造技術面での低さがネック
となりやや難航しているという。
一方、成都天興山田車用部品は、日系のエンジン用部品メーカーであり、オートバイか
ら自動車へのシフトの成功事例でもある(企業例 7)。日本の山田製作所と国有の成都天
興との合弁企業で、95 年に日系オートバイメーカーの重慶進出に追随する形で成都に進出
した。オートバイ・自動車産業を巡る急激な環境変化に対応するために 2000 年以降、オ
ートバイから自動車への転換、および内販から輸出への転換を積極的に進めた。その結果、
現状は自動車向け部品需要の急増に伴いフル稼働状態となっている。
以上の 3 企業は、中国の自動車市場の急成長が、成都のオートバイ・自動車関連産業に
大きな発展と変革の機会をもたらしていることを示す事例と言えよう。
企業例 5:四川都江機械有限責任公司(民営)
業種・企業形態
・ 自動車用アクスル(車軸)製造
・ 民営企業(元国有企業)
生産規模・従業員数
・ 年商 2.8 億元(2002 年)。1,100 名
設立・発展経緯
・ 84 年設立の国有企業。股份(株式制)企業に転換後、2003 年 8
月に広西銀河集団(民営企業)の傘下に入る(現在は民営企業)
・ 国内の同業界で第 6、7 位
販売
・ 主な販売先は四川省など西南地域のバス、トラックメーカー
・ 99 年以降四川豊田向けにコースター用アクスルを納入(トヨタか
ら技術・生産管理指導を受ける)
部材調達
・ プレス、溶接、塗装など一連の工程を内製化
17
企業例 6:成都天興儀表股份有限公司(国有)
業種・企業形態
・ 二輪車、自動車(小型車、トラック、ミニバン)用メーター製造
・ 国有株式制企業(厳密には国有比率 5 割未満の民営企業)
生産規模・従業員数
・ 1,194 名(男女比率半々、大半が地元出身者)
設立・発展経緯
・ 70 年代に中国兵器工業総公司傘下の国有企業として設立
・ 97 年に深圳証券取引所に上場。株主構成は流通株が 30%、残り
70%のうち民営部分が 6 割(全体の 4 割)、国有部分が 4 割(全
体の 3 割)
・ 当初は軍事関連製品を生産、80 年代半ばにオートバイ用メーター
分野に参入。近年オートバイ向け需要の伸び悩み・価格急落を背
景に、自動車用メーターへの転換を図る
販売先
・ 内販主体。主な販売先は中国地場のオートバイ、自動車メーカー
(日系オートバイメーカーにも販売)
・ 輸出比率 2 割(主な輸出先はイタリア、東南アジアなど)
部材調達
・ 部品の内製化率は 5∼6 割(機械加工、プレス、プラスチック成
型、ダイカストなど)
企業例 7:成都天興山田車用部品有限公司(日系)
業種・企業形態
・ 二輪、自動車用オイルポンプ、ウォーターポンプ製造
生産規模・従業員数
・ 売上額 7,800 万元(2003 年)。236 名
設立・発展経緯
・ 95 年 12 月設立。成都天興儀表(国有)との合弁、当初は折半出
資、現在は 71:29 の日系マジョリティ
・ 重慶ホンダに追随して進出。生活環境の良好な成都を進出先とし
て選択
生産・販売
・ 販売内訳:オートバイ 41%、自動車 59%。国内販売 62%、輸出
38%(いずれも金額ベース)。輸出の 7 割は自動車関連(同社の
日本および海外現法向け)
・ 主な販売先:日系オートバイ、自動車メーカー(広州本田、東風
本田、長安鈴木、昌河鈴木(景徳鎮)、五羊本田、嘉陵本田など)
・ 2000 年以降二輪から四輪へのシフト、国内販売から輸出へのシフ
トを強化
部材調達
・ 素材の大部分は現地調達、一部海外から輸入
・ 中国製機械を積極的に活用し減価償却費を抑制(研磨機、高速マ
シニングセンターなどは日本製)
その他
・ 成都進出のメリット:人件費および他の諸経費の安さ、優秀な人
材の確保が比較的容易なこと
18
4. 成都・重慶の投資先としての評価
成都、重慶の投資環境に目を向けると、高速道路を始めとするインフラ整備の進展によ
って他地域とのアクセスが大幅に改善し、所得水準の向上に伴う消費市場としての価値も
徐々に高まるとともに、開発区の整備・拡張が進み、企業向けサービスも向上するなど、
従来に比べて大幅な改善が見られる。人材面では、低コストの一般労働力が豊富なこと、
機械産業を中心とする産業基盤を背景に技術系の人材や熟練労働者が比較的多いことが
強みとなっている。以下個別に見ていこう。
(1) インフラ
成都、重慶では、空運、陸運に加えて、長江を利用した水運が重要な役割を果てしてお
り、三峡を通じて下流域周辺の都市とつながっている。交通インフラは、西部大開発戦略
の効果もあって陸運を中心に急速な改善を見せている。
陸運では、90 年代前半に成都、重慶、綿陽の主要 3 都市を結ぶ高速道路が開通し、3 拠
点の経済交流の活発化に貢献した。その後、高速道路や国道、鉄道の整備が急ピッチで進
展した結果、内陸部の都市間、内陸部・沿海部間のアクセスも飛躍的に改善された。成都
と上海を結ぶ約 1,800 ㎞の高速道路が 2004 年に開通すると、長江流域周辺都市との結びつ
きは一段と強まることになる。
水運はコストが最も安いことから、長江流域周辺地域の国内輸送、上海を経由した海外
への輸出などに活発に利用されている。四川省綿陽の大手家電メーカー・長虹は、カラー
テレビやエアコンの国内外への出荷に陸路・水路双方を活用している。
内陸に位置することから、主要な消費地や部品企業集積地である沿海部との国内取引や
海外との輸出入取引を行う際に、物流コストが割高となり輸送に要するリードタイムがか
さむ点は否めない。しかし、陸路インフラの急速な整備によって、進出企業が直面する距
離的なハンデや物流面のネックは着実に小さくなっているように思われる。
(2) 人的資源と賃金水準
成都、重慶の一般労働者の平均賃金は、総じて見れば長江デルタを始めとする沿海部を
下回っている。電子部品の組み立てなどに代表される比較的単純な作業工程であれば、月
500∼800 元程度にとどまる。周辺に大規模な農村人口を擁しており、一般的な労働力は豊
富に存在するためである。ただし、沿海部のなかで珠江デルタ地域は例外的に賃金レベル
が低く、成都、重慶の比較優位性はさほど大きくない。珠江デルタ地域では、四川省や湖
南省などの内陸部から大量の若い出稼ぎ労働者が流入し、しかも 3∼5 年で新たな若年労
働力と入れ替わるシステムが定着していることから、平均賃金水準が低位に抑えられてい
る。一方、成都、重慶の場合には、労働者の大半を地元周辺出身者が占め、平均勤続年数
も一般的に長いことから、平均賃金水準が高めになる傾向が見られる。さらに言えば、成
都、重慶の製造業が雇用を吸収できる範囲は、せいぜい都市部や工場が集積する開発区の
19
周辺に位置する農村部までであり、それよりも遠隔地に居住する膨大な数の農民は出稼ぎ
労働者として珠江デルタなどの沿海部へ向かい、それが成都、重慶と珠江デルタとの間の
賃金水準格差の拡大を抑える役割を果たしているとも考えられる。
技術系人材、大卒人材、機械関連の熟練労働者などの賃金水準も、長江デルタを始めと
する沿海部を下回っている。成都、重慶には人材供給源として多数の大学、専門学校、研
究所が存在する一方で、上海周辺地域など沿海部と比べて人材獲得競争が激化していない
ことが背景にある(成都機械工業協会、重慶経済技術開発区等)。成都、重慶のエンジニ
アの賃金水準は月 1,000∼3,000 元が一般的であり、多数の技術者を抱える機械関連企業で
は、平均賃金水準が月 1,500∼2,000 程度というケースが多い(地場系機械関連企業)。ジ
ェトロのアンケート調査では、重慶のエンジニア、中間管理職の賃金水準は概ね上海の 3
分の 1、深圳の 2 分の 1 にとどまり、沿海部との格差は一般労働者の賃金水準よりも大き
いという結果が出ており、上記の内容とも概ね一致する(図表 13)。
図表 13:中国の 3 主要都市の賃金水準比較
(ドル)
一般労働者
エンジニア
中間管理職
1,000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
上海
深圳
重慶
上海
深圳
重慶
上海
深圳
重慶
0
(注)ジェトロの 2002 年 11 月アンケート調査結果をもとに作成。賃金水準の範囲を棒
グラフで示したもの(例えば重慶の一般労働者の賃金水準は 104∼161 ドル)
(資料)ジェトロ海外情報ファイル
ただし、優秀な人材を巡る獲得競争は内陸部の都市でも起きている。賃金を周辺企業に
比べてかなり高めに設定し引き抜き防止を図っていたが、それを上回る賃金水準を提示す
る欧米系企業に有能な人材を大量に引き抜かれたという日系企業のケースもある。さらに、
優秀な人材ほど海外留学や沿海都市部での就学・就職のために流出する傾向が見られ、高
級人材のアベイラビリティの面で制約要因になりかねない点にも留意する必要がある。
各地域の人件費コストを大まかに比較する場合に、一人当たり GDP や都市部の一人当
たり可処分所得などの水準を参照するのも1つの方法である。例えば重慶の都市部一人当
20
たり可処分所得を沿海主要地域と比較すると、上海の 6 割、浙江省、広東省の 7 割、江蘇
省の 9 割程度である(図表 3)。したがって、内陸部から沿海部へ流入する出稼ぎ労働者
のケースを除けば、重慶の人件費コストは沿海主要地域と比べて概ね 6∼9 割の水準にあ
るとみることも可能であろう。
(3) 市場としての魅力
中国の消費財小売総額は 97 年の 2.7 兆元から 2002 年には 4.1 兆元となり、5 年間で 5
割増となった。その最大の原動力は、上海、北京、広州などの沿海主要都市部であり、活
発な外資流入と輸出の拡大、工業生産の拡大、サービス産業の成長を背景に、消費市場が
急成長を遂げている。日系企業を始めとする外資系企業の内販戦略も、これらの地域が主
なターゲットとなっているのは言うまでもない。一方、成都、重慶は、沿海主要都市のよ
うな勢いはないが、所得水準の向上に伴い消費市場としての価値は着実に高まりつつある。
成都市の都市部一人当たり可処分所得は 8,972 元で、山東省青島、済南、遼寧省大連と
いった沿海部の比較的規模の大きな都市とほぼ同レベルにある。重慶市の場合、直轄市全
体の都市部一人当たり可処分所得は 7,238 元とやや低いが、直轄市に昇格する際に所得水
準の低い農村部などが編入され平均所得が押し下げられた経緯を考慮する必要がある(図
表 4)。重慶市の一人当たり GDP は 6,347 元であるが、主要 11 区(人口 667 万人)では
12,582 元、さらに中心部に近い主要 8 区(人口 388 万人)に限れば 16,418 元に高まり、江
蘇省、浙江省などと比べてさほど見劣りしない高さとなる。
家電等耐久消費財の 100 世帯当たり保有状況を見ると、成都、重慶の都市部、成都の農
村部では、全国平均を大きく上回っていることが確認できる(図表 14)。自動車・オート
バイの地域別保有状況では、四川省、重慶の人口 1,000 人当たり保有台数は全国平均を下
回るものの、四川省・重慶を合わせた自動車総保有台数は相応の規模に達している(四川
省は自動車で全国 6 位、オートバイで全国 9 位、図表 15)。
図表 14:主要耐久消費財の 100 世帯当たり保有台数(2002 年)
(台)
都市部
カラーTV
洗濯機
冷蔵庫
エアコン
携帯電話
オートバイ
自動車
四川省
128.7
93.5
88.2
38.0
51.9
5.0
0.8
成都
140.4
98.5
96.6
44.5
68.7
4.3
3.4
重慶
142.2
98.2
98.9
106.9
53.9
2.1
0.1
農村部
全国
126.4
92.9
87.4
51.1
62.9
22.2
0.9
(注)オートバイ、自動車は自家用のみ。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」
21
四川省
46.6
21.1
6.6
0.3
n.a.
14.0
n.a.
成都
87.7
56.9
21.7
2.9
33.2
48.8
n.a.
重慶
47.9
11.3
8.4
0.2
n.a.
6.3
n.a.
全国
60.5
31.8
14.8
2.3
n.a.
28.1
n.a.
図表 15:自動車、オートバイ保有台数の地域別比較(2002 年)
広東省
北京
山東省
河北省
江蘇省
四川省
河南省
浙江省
遼寧省
上海
上位10計
重慶
全国
自動車保有台数
(万台)
シェア
千人当り
130.3
10.8%
16.6
112.8
9.4%
79.3
82.1
6.8%
9.0
71.6
6.0%
10.6
65.2
5.4%
8.8
60.9
5.1%
7.0
59.0
4.9%
6.1
58.8
4.9%
12.7
52.4
4.4%
12.5
45.1
3.8%
27.8
738.2
61.4%
12.1
14.9
1.2%
4.8
1202.4
100.0%
9.4
広東省
山東省
江蘇省
河北省
浙江省
河南省
広西自治区
福建省
四川省
湖北省
上位10計
重慶
全国
オートバイ保有台数
(万台)
シェア
千人当り
857.2
16.8%
109.1
626.6
12.3%
69.0
546.7
10.7%
74.1
358.6
7.0%
53.2
305.4
6.0%
65.7
248.9
4.9%
25.9
229.8
4.5%
47.7
222.8
4.4%
64.3
208.7
4.1%
24.1
192.4
3.8%
32.1
3797.1
74.4%
55.6
26.9
0.5%
8.7
5102.8
100.0%
39.7
(注)自動車はバス、タクシーを含む。表中の千人当りは、各地域の人口 1,000 人当り保有台数。
(資料)中国国家統計局「中国統計年鑑 2003」
近年、食品、家電(格力)、アパレル、小売(華聯)、自動車(第一汽車)等の分野で、
沿海部から成都周辺に進出する中国系企業が散見される。安い人件費や土地代を求めた内
陸部進出といった要因に加え、四川省・重慶の消費市場としての魅力に着目し、中西部地
域の市場を開拓するための基点とする狙いもあるように思われる。内陸部の市場開拓を視
野に入れている外資系企業にとって注目すべき動きと言えよう。
(4) 開発区の整備
成都、重慶では、外資系企業や国内企業誘致の受け皿として、国家級経済技術開発区を
始めとする開発区の建設・整備が急ピッチで進展し、過剰気味の印象さえ受ける程である。
成都経済技術開発区は、四川省(重慶を除く)で唯一の国家級経済開発区で、第 1 期の
開発はほぼ終了し、現在第 2 期を造成中である(開発区例 1)。第 1 期には、機械、電子、
食品加工などの業種を中心に約 180 社の企業が入居しており、うち外資系企業はヤマハ発
動機、成都天興山田など日系企業 5 社を含む 30 社余りである。第一汽車が 15 万台の乗
用車、5 万台のトラックの年間生産能力を有する西部製造基地を当開発区内に建設する計
画もある(成都経済技術開発区招商局)。
その近隣に位置する成都高進技術産業開発区(ハイテク産業区)では、モトローラ、シ
ーメンス、インテルといった欧米系の大手ハイテク関連企業の進出が散見される。成都周
辺の有能かつ低コストな技術系人材の活用が、進出動機の1つになっているとみられる。
重慶経済技術開発区は 93 年に西部地域で初めて国家級経済技術開発区に指定された(開
発区例 2)。成都経済技術開発区と同様、第 1 期(南岸区)の開発が終了し、第 2 期(北
部新区)は、市の重心を南部(旧市街地)から北部に移す重慶市政府の戦略の一環として、
22
面積 130 k㎡の広大な敷地にニュータウン建設が進められている。南岸区にはホンダ、日
本電装などオートバイ、自動車関連企業の進出が見られ、北部新区の一部は長安フォード
を核とする自動車産業地区となっている。
重慶市のもう 1 つの国家級開発区である重慶市高新区(ハイテク産業区)は、既存の 80
k㎡に加えて、北部新区内に 50 k㎡の新「高新区」の建設が進められている(開発区例 3)。
エアコンメーカーの格力やオートバイメーカーの宗申といった中国系企業が太宗を占め
ているなかで、いすゞ関連企業 8 社、矢崎総業など日系企業の進出も散見される。
北部新区と旧市街を挟んで反対側に位置する「南岸区茶園新城区」は、直轄市レベルの
開発プロジェクトであり、単なる工業団地の域を超えて、商業エリア、住宅エリア、公園
などを擁する新都市建設計画の性格を帯びている特徴が見られる(開発区例 4)。「南岸
区茶園新城区」の入居企業約 80 社(進出予定を含む)は、ほぼ全て重慶通盛(企業例 4)
などの中国系企業である。
このように、企業を誘致するための受け皿として、各開発区の整備・拡張が進められて
いるが、日系企業を始めとする外資系企業の誘致状況は芳しくなく、進出企業の大半を中
国系企業が占めているのが実状である。日系企業の進出は、成都、重慶の国家級経済開発
区、ハイテク区で散見されるが、それ以外の開発区では非常に稀である。
成都、重慶の主要開発区は、江蘇省蘇州、無錫と比べると、外資系企業の進出例が少な
いこともあり、進出支援などのサービス体制が十分とは言えない印象を受ける。近時日系
企業の進出が最も活発な蘇州、無錫では、開発区同士が企業誘致に向けてお互いにしのぎ
を削り、その熾烈な競争がサービスの劇的な向上を促してきた。そこでは、流暢な日本語
を話す現地スタッフが常時日本語で進出支援サービスを提供できる体制が敷かれており、
進出企業に安心感を与えている。一方、重慶、成都では、日本語スタッフの育成が遅れて
おり、同様の支援サービスを期待するのは難しい状況にある。
中国では、近年国家級、省級開発区に加えて、市級、県級など下級地方政府による主導
の開発区計画が乱立し、無計画な開発や土地買収などの問題を引き起こしていた。2003
年 12 月初旬に開催された「全国発展改革工作会議」では、用地管理強化の一環として、
開発区の整理、各種開発区の新設・拡大の一時中止の政策が打ち出され、重慶市にある 30
余りの開発区の過半が開発中止の対象とされた模様である。前述の重慶国家級、直轄市級
開発区は、この対象にはなっていないが、大規模開発が同時並行的に進展しており、過剰
感は否めない。将来企業、商業、住宅各エリアへの入居が計画どおりに進まなければ、供
給過剰が顕在化し、開発にブレーキが掛かるおそれもないとは言えまい。
23
開発区例 1:成都経済技術開発区
開発経緯
・ 1990 年 7 月開発スタート、2000 年 2 月国家級経済技術開発区に認定
・ 第 1 期:開発面積 26 k㎡(うち工業団地 9.94 k㎡、生活施設等 16 k㎡)
・ 第 2 期:50 k㎡(開発中)
立地条件
・ 成都空港から 28 km、高速道路、鉄道貨物駅に近接
・ 2004 年に成都―上海間の高速道路が全線開通予定(約 1,800 km)
・ 輸出の大半は上海経由。上海までの輸送手段は水運、鉄道、道路全て可
進出企業
・ 3 大産業は機械・電子、新建材、食品加工
・ 進出企業は約 180 社、うち外資系企業は約 30 社〔オーストラリア系 BHP
社、米系 GE(商談中)、韓国系、台湾系企業など〕
・ 日系企業はヤマハ発動機を含む 5 社〔ヤマハ(二輪部品)、天興山田(二
輪・四輪部品)、寧江昭和(二輪部品)など〕
・ 第一汽車は、同開発区内に西部製造基地(乗用車年産 15 万台、トラック
同 5 万台)の建設を検討中
強み
・ 税制面の優遇措置〔中央政府による西部大開発関連優遇政策(2000∼2010
年、企業所得税率 15%)、経済技術開発区の優遇政策、地方政府による
技術革新プロジェクト向け利息補填など〕
・ サービス向上に向けた七ガ一政策の推進(1つの窓口、1 人の担当、1つ
のフォーム、1つのカード、1つの印鑑、1 回の支払い、1つの管理シス
テム)
(注)2003 年 11 月の現地でのヒアリングをもとに作成。以下の開発区例も同じ。
開発区例 2:重慶経済技術開発区
開発経緯
・
・
・
・
1993 年国家級経済技術開発区に指定(西部地域で初)
開発区の本格的な発展は 1997 年以降
第 1 期「南岸区」(面積 9.6 k㎡)は開発終了。入居率 95%以上
都市建設の重点を南部から北部に移す市政府の戦略に伴い、開発の重点
は 2002 年以降北区へシフト。
・ 第 2 期「北部新区」は 2001 年に決定、現在開発中(面積 130 k㎡、うち経
済開発区 84 k㎡、ハイテク区 46 k㎡)。工業エリア、商業地、住宅地な
どで構成(ニュータウンの建設)
進出企業
「南岸区」
・ 主要産業は機械加工、自動車、オートバイ関連
・ 日系企業は、ホンダ、日本電装、ダイキン、関西ペイント、日本パッカ
ー(包装・物流)など
「北部新区」
・ 重点産業は自動車産業、環境保護産業など
・ 経済開発区 84 k㎡のうち 11 k㎡を占める自動車産業地区に、長安フォー
ドが新工場を建設中、米系自動車部品メーカーも進出。
24
開発区例 3:重慶市高新区(ハイテク産業区)
開発経緯
・ 1991 年 3 月設立の国家級ハイテク産業区(面積 80 k㎡)
・ 新たな高新区を「北部新区」に建設中(同 50 k㎡)
進出企業
・ 進出企業は約 4,000 社(登録ベース)、うち技術水準の高い企業は約 200
社。
・ 進出企業の大半は中国系企業(代表企業はエアコンメーカー格力)
・ 主な日系企業:いすゞ自動車関連 8 社(投資総額 4 億米ドル)、矢崎総
業(自動車用メーター)
・ 主な業種:IT、医薬・バイオ、新素材、自動車、オートバイ
強み
・ 周辺に大学・科学研究所が多く、技術系の人材が豊富
・ ワンストップサービスを導入
・ 留学生創業園、インキュベーターを併設
開発区例 4:重慶市南岸区茶園新城区
開発経緯
・ 重慶直轄市レベルの新たな開発区(現在開発中)。面積 50 k㎡(うち工業
パーク 20 k㎡)
立地条件
・ 重慶市南岸区は市中心部の南部に位置し、今後の発展の核となる地域
進出企業
・ 入居企業数は約 80 社(大半は工場建設中)
・ 主要産業は自動車、オートバイ関連産業
・ 主な進出企業(中国系が大半):重慶長江電工(軍事関連)、重慶 DIMA
(通信)、重慶宗慶(二輪組み立て)、重慶通盛(二輪部品)
(5) 投資環境比較
上記内容を踏まえ、成都、重慶の投資環境を、立地条件、物流インフラ、一般労働者の
コスト等の主要 9 項目について、沿海部主要地域である珠江デルタ、長江デルタと比較し
た(図表 16)。各項目ごとの評価は、どの部分に焦点を当てるかによって異なってくるの
は言うまでもないが、現地の企業や政府機関、開発区管理委員会等でのヒアリング内容を
もとに、沿海部と比べて成都、重慶に幾分かでも優位性があると考えられる項目は◎、ほ
ぼ同程度ないしは優る点・劣る点が拮抗するとみられる項目は○、沿海部と比べて劣ると
考えられる項目は△とした。一般労働者、エンジニアなどの人件費コスト、税制面での優
遇の項目では、沿海部に比べた優位性を見出すことが可能であるが、立地条件、物流イン
フラ、部材調達、市場の規模と成長性、投資受け入れ態勢、生活環境など大半の項目では、
沿海都市部に比べて見劣りする点が多々あると言わざるを得ないであろう。
成都、重慶が進出先の1つとしてより多くの外資系企業に検討・選択されるためには、
投資環境の一層の改善を通じて、進出企業が直面する障害を取り除いていくことが不可欠
であろう。
25
図表 16:沿海部との比較で見た成都、重慶の投資環境
項目
沿海部と比べた評価
立地条件
(△)主要な消費地、部品企業集積地である沿海部との国内
取引や海外との輸出入取引を行う際に、物流コストが割高と
なり輸送に要するリードタイムがかさむ
物流インフラ
(△)陸路を中心とするインフラ整備の進展に伴い、物流面
のネックは低下する傾向
一般労働者(コスト、質、 (◎)一般的に労働力は豊富で賃金コストも安い。ただし、
アベイラビリティ)
出稼ぎ労働者が多い珠江デルタと比べるとコスト面での優
位性はさほど大きくない
エンジニア(コスト、質、 (○)技術系の人材、機械関連の熟練労働者、大卒人材など
アベイラビリティ)
は比較的豊富で、コストも割安。ただし、優秀な人材ほど、
海外留学や沿海部での就学・就職のために流出する傾向があ
り、高級人材のアベイラビリティには制約もある
部材調達
(△)珠江デルタ、長江デルタに比べて、すそ野産業の集積
の厚みに欠ける。主要な部材は沿海都市部や海外から調達す
る必要がある
市場の規模と成長性
(△)沿海主要都市のような勢いはないが、所得水準の向上
に伴い消費市場としての価値は着実に高まりつつある
税制面での優遇
(◎)中西部地区に対する投資優遇政策あり。ただし沿海部
の開発区でも同等の優遇政策があることから企業誘致の大
きな誘因にはなりにくい
投資受け入れ態勢
(△)開発区の整備が急ピッチで進展。ただし、日系企業へ
の進出支援サービスには改善の余地あり
生活環境
(△)食事、住宅、教育などの面で生活環境は沿海部に比べ
て厳しい
(注)成都、重慶、長江デルタ、珠江デルタでのヒアリングをベースに作成。
5. 外資系企業の進出動向
(1) 直接投資の流入状況
成都、重慶向け直接投資は 2000 年以降、対中投資ブームと歩調を合わせて増加基調を
辿っており、概ね堅調に拡大していると評価できる(図表 17、18)。ただし、投資件数、
契約額、実行額いずれで見ても、両都市への投資は各々全国比1%前後にとどまっており、
外資系企業の主要な投資先とは言えない。業種別に見ると、成都、重慶ともに製造業向け
が 5∼6 割、不動産(含むホテル)向けが 3 割、その他サービス産業向けが 1∼2 割となっ
ており、中国全体への投資と比べると、製造業向けの比率がやや低く不動産向けの比率が
高い。国別に見ると、両都市ともに香港(不動産、ホテル、サービスなど)が最大で、次
いで米国、日本、台湾、シンガポールが主要投資国となっている。欧米系企業の投資が、
フォード関連の自動車(重慶)およびソフトウエア、流通などの分野(成都)で比較的活
発な点が注目される一方、日系企業の投資は概して低調である(図表 18)。
26
図表 17:成都向け直接投資の動向
【投資動向】
98年
99
2000
2001
2002
2003
(件、億ドル)
件数
134
107
171
213
223
179
契約額
3.2
4.1
2.8
3.8
5.0
7.8
【業種別シェア】
実行額
1.8
2.3
2.2
2.6
3.7
4.5
(2000∼2002年、契約ベース)
その他
14%
製造業
55%
不動産
31%
※2003年は1∼11月
【国別】(2000∼2002年合計)
(件、億ドル)
件数
契約額
実行額
香港
203
4.2
2.2
米国
105
1.9
0.9
台湾
99
0.8
0.4
シンガポール
29
0.5
0.6
その他
171
4.2
4.4
合計
607
11.6
8.5
日本からの投資は「その
他」に含まれる。
(注)成都向け直接投資の 2003 年は 1∼11 月。
(資料)成都統計年鑑各年版
図表 18:重慶向け直接投資の動向
【投資動向】
98年
99
2000
2001
2002
2003
(件、億ドル) 【業種別シェア】
件数
222
169
190
172
148
187
【国別】(2002年末累計)
件数
香港
1,522
台湾
633
米国
369
日本
169
シンガポール
104
その他
506
合計
3,303
契約額
4.8
5.1
3.6
4.4
5.0
5.5
(2001∼2002年、契約ベース)
実行額
4.3
その他
2.4
15%
2.4
2.6
2.8
不動産
製造業
3.1
27%
58%
(件、億ドル)
契約額
25.9
3.2
5.3
4.2
2.0
12.2
52.8
実行額
5.1
0.9
1.3
2.7
0.7
19.0
29.7
(資料)重慶統計年鑑各年版
27
(億ドル)
【日本企業の重慶向け投資】
1.2
1.0
契約額
実行額
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
96年
97
98
99
00
01
02
(2) 日系企業の進出例
日系企業の進出状況を概観すると、重慶ではスズキ、ホンダ、ヤマハを軸に自動車、オ
ートバイ関連産業が圧倒的に多い(図表 19)。成都は、自動車関連ではトヨタ、アラコ、
オートバイ関連ではヤマハ発動機、山田製作所などの進出が見られるほか、食品・漢方(味
の素、ツムラ)、建設機械(コベルコ建機)、スーパー(イトーヨーカドー)など業種に
広がりが見られるのが特徴と言えよう(図表 20)。また、ジェトロが 2003 年に実施した
中国進出日系企業へのアンケート調査によれば、成都、重慶を含めた西部進出企業は、内
販型企業(内販が 7 割以上)が 74.3%を占め、輸出型企業(輸出が 7 割以上)の 20.0%を
圧倒的に凌駕している点で、他地域と特徴を異にする(図表 21)。ただし、内販型に偏り
が見られるのは、輸出型が少ないことの裏返しでもある。
成都、重慶の日系企業の進出時期は 94∼96 年に集中している(図表 19、20)。92 年春
の鄧小平の南巡講話を契機に中国の対外開放が加速するなかで、日系企業の対中進出ブー
ムが起こり、オートバイ(ホンダ、ヤマハ)、自動車(スズキ、いすゞ)、建設機械(コ
ベルコ建機)等の企業が、一斉に成都・重慶の国有企業との合弁で現地生産に踏み切った
ためである。合弁先選定の経緯は、従来の技術提携から合弁に進展したケースもあれば、
中国政府から相手先を紹介され(割り当てられ)、他に有力な選択肢がなかったケースも
ある。94∼96 年の対中投資ブームは、その影響が内陸部の成都、重慶にも波及した点で全
国的な広がりを見せたとも評価できるが、近時の日系企業の対中投資ブームは、長江デル
タを中心とする沿海部への集中傾向が顕著であり、これまでのところ内陸の成都、重慶は
対中投資ブームから取り残された状況にあるように見える。
図表 19:重慶進出日系企業例
自動車、二輪車の組み立て・製造
いすゞ自動車(四輪)
商用車、RV 組み立て
合弁
85 年 2 月
ヤマハ発動機
二輪車
合弁
92 年 11 月
スズキ
自動車
合弁
93 年 5 月
本田技研工業
二輪車、汎用エンジン
合弁
93 年 1 月
合弁
95 年 6 月
自動車、二輪車関連の部品・素材
いすゞ自動車(鍛造)
自動車用鍛造部品
いすゞ自動車(金型)
自動車用金型
合弁
95 年 6 月
いすゞ自動車(アクスル) 自動車用アクスル
合弁
95 年 10 月
日本パーカライジング
合弁
94 年 10 月
テイケイ気化器、ヤマハ 二輪車用気化器(キャブレーター)
発動機等
合弁
94 年 10 月
イズミ工業
自動車、二輪車用ピストン
合弁
95 年 2 月
関西ペイント
自動車用塗料
合弁
95 年 3 月
九州テイエス
二輪車用シート、プラスチック製品
合弁
95 年 5 月
金属表面処理剤
28
ユタカ技研
二輪用ブレーキ等
合弁
95 年 6 月
日本ペイント
二輪向け表面処理剤
合弁
95 年 8 月
スタンレー電気
自動車用、二輪車用照明
合弁
95 年 9 月
日本発条
自動車用シート
合弁
95 年 11 月
横河電機
圧力伝送器等
合弁
95 年 11 月
矢崎総業、いすゞ自動車
自動車用メーター
合弁
95 年 12 月
エクセディ
自動車用クラッチ
合弁
95 年 12 月
デンソー
二輪車用部品
合弁
96 年 3 月
大橋化学工業
自動車、二輪車、家電用塗料
合弁
96 年 12 月
ニッパツ、いすゞ自動車
自動車用シート
合弁
98 年 3 月
東京ラヂエーター
ラジエーター
合弁
99 年 8 月
伊藤忠商事
桐油の精製
合弁
93 年 8 月
蝶理
炭酸ストロンチウム
合弁
97 年 10 月
その他
(資料)蒼蒼社「中国進出企業一覧 2003∼2004」、東洋経済「海外進出企業総覧 2003」
図表 20:成都進出日系企業例
自動車、二輪車の組み立て・製造
トヨタ自動車
バス(コースター)
合弁
98 年 11 月
自動車、二輪車関連の部品・素材
ミクニ
二輪車用キャブレター(気化器)
合弁
94 年 11 月
エフシーシー
二輪車用クラッチ
合弁
94 年 12 月
ヤマハ発動機、モリック
二輪用電装部品
合弁
95 年 4 月
東洋濾機製造
二輪車用クリーナー等
合弁
95 年 5 月
山田製作所
二輪車用部品
合弁
95 年 12 月
ショーワ
ショックアブソーバー
合弁
96 年 3 月
イヤサカ、弥栄精機
自動車用検査設備、保修設備
合弁
96 年 7 月
アラコ
自動車用シード、ドアトリム
合弁
99 年 3 月
漢方薬剤の栽培・加工・販売
合弁
89 年 1 月
アペックスインターナシ 食品加工
ョナル
独資
93 年
味の素
飼料用原料製造
合弁
94 年 10 月
浜一
食品原料の開発・栽培・加工
独資
95 年 4 月
岩漬
山菜、マツタケ、きのこ等の農産特産 独資
品製造
95 年 9 月
東洋水産
即席麺の生産
合弁
95 年 12 月
平和産業
オイルレスメタル製造
合弁
90 年 3 月
北村バルブ
工業用ボールバルブ製造
合弁
93 年 12 月
食品・漢方
ツムラ
その他
29
コベルコ建機
油圧ショベル製造
合弁
94 年 10 月
内藤家具インテリア
高級家具製造
合弁
95 年 9 月
イトーヨーカ堂
スーパー
合弁
96 年 12 月
住友電気工業
光ファイバー製造
合弁
98 年 1 月
三菱電線
高周波同軸ケーブル製造
合弁
99 年 2 月
呉電子計算センター
ソフトウエア
合弁
2002 年 6 月
(資料)図表 19 と同じ
図表 21:中国進出日系企業の輸出型・内販型シェアの地域別比較
輸出型
内販型
輸出・内販型
環渤海(北京、天津、遼寧、山東等)
52.9%
37.9%
9.2%
長江デルタ(上海、江蘇、浙江)
47.5%
38.6%
13.9%
珠江デルタ(広東)
67.3%
19.6%
13.1%
中部(湖北、湖南、陝西等)
43.9%
48.8%
7.3%
西部(四川、重慶、雲南、貴州等)
20.0%
74.3%
5.7%
全体
51.2%
36.9%
12.0%
(注)ジェトロアンケート調査(2003 年 3∼4 月実施)。輸出型は販売に占める輸出比率が 7 割以
上、内販型は販売に占める内販比率が 7 割以上、輸出・内販型はそれ以外。
(出所)ジェトロセンサー2003 年 11 月号
6. おわりに∼今後の発展可能性と日系企業にとっての内陸部∼
沿海部と内陸部の最大の相違点とも言えるのは外資の吸引力である。沿海部の経済が、
外資系企業の投資をテコに発展を遂げ、内陸部は主として財政資金を含めた国内資本に頼
らざるを得ない状況が今後も続くとすれば、両地域間の経済格差が縮小するのは容易なこ
とではないだろう。中国経済が沿海部主導で発展を遂げる構図は今後も変わらない公算が
高い。
しかし、重慶、成都のインフラや産業動向の変化に見られるように、内陸部も地味なが
ら着実な発展を遂げている。特に産業面では、軍事関連産業からの軍転民によって成長を
遂げた機械産業を基礎にオートバイ、自動車産業の集積が進み、国有企業の民営化や民営
企業の成長といった産業構造の転換もやや遅まきながら進展し始めている。
中国政府が、内陸部など発展の遅れた地域の経済振興を国家の重点課題として位置づけ、
適切な対応策を取り続ける限りにおいては、沿海部へのキャッチアップや格差の是正は難
しいとしても、今後も相応のスピードで発展・変貌を遂げ、投資先としても消費市場とし
ても魅力を高めていく可能性は十分にあると思われる。そして、内陸部に位置する成都、
重慶、昆明、西安といった主要都市には、各地域の経済成長の核として成長をリードし、
農村部を含めた周辺地域をも巻き込む形で内陸部の経済を底上げしていく役割が期待さ
れる。成都、重慶の近年の発展状況や周辺都市とのアクセスの改善を見る限り、その萌芽
30
は見て取ることができる。中長期的に見れば、高速道路網の整備を始めとするインフラ整
備の進展が情報化社会の浸透ともあいまって、予想以上のスピードで沿海部と内陸部の間
(東西間)のヒト、モノの移動の利便性を高め、内陸部の産業の発展を促す可能性もない
とは言い切れない。
日系企業に目を転じると、輸出・内販双方において、日系企業の主たる投資先は今後も
長江デルタを始めとする沿海部であり、内陸部への投資が勢いづくには相当の時間を要す
るとみられる。内陸都市部の交通インフラ整備が急ピッチで進展しているとはいえ、内外
市場へのアクセス面で都市部の優位性は揺るがない。長江デルタや珠江デルタでは人件費
や土地などのコストが上昇しているが、少し内陸部に入ればコストは低下し、進出の余地
も十分にある。大量の出稼ぎ労働者が四川省を始めとする内陸農村部から沿海部へ流入し
ていることから、人材の質・量を考慮しても、わざわざ西部地域に進出するメリットは大
きいとは言えない。
ただし、注目すべき分野もある。例えば、成都、重慶から湖北省武漢にかけて産業集積
が広がる自動車分野では、今後の生産規模の拡大、現地調達率引き上げへの動きを背景に、
関連部品や素材企業の進出が進む公算もあろう。また、小売・流通などの内販型企業であ
れば、競争激化で経営環境が厳しさを増す沿海部から一歩なかへ入り、比較的競争の少な
い成都、重慶などの内陸の主要都市部をターゲットとする選択肢もあろう。成都周辺の低
コスト技術者の活用を狙ったとみられる最近の欧米系企業の進出、中西部地域の市場をタ
ーゲットとした低コスト生産基地を成都や重慶に置く中国系企業の動きなどは注目に値
しよう。
内陸部に進出するとすれば、日本企業、日本人にとって馴染みの薄い地域であり、地元
政府や開発区も日系企業の受け入れに不慣れなことなどを勘案すれば、現地の人材の発
掘・育成と積極的な活用など「現地化」が事業を成功に導くための重要なポイントの1つ
となろう。また、沿海部では独資形態による進出が主流となっているが、内陸部への進出
は、現地政府とのコネクションがある信頼できる有力な企業を合弁のパートナーとするの
も有力な選択肢の1つとなるだろう。中国の経済・産業の発展が続き、日系企業の対中ビ
ジネスが沿海部を軸に拡大・深化を遂げるなかで、日系企業にとって対中事業戦略のなか
に内陸部をどのような形で組み込んでいくかといった点は今後の課題の1つとなってこ
よう。
以上
【参考文献】
関満博、西澤正樹「挑戦する中国内陸の産業」、2000 年
中国機械工業信息研究院編「中国機械工業年鑑 2002」、2002 年
中国交通運輸協会「中国交通年鑑 2003」、2003 年
中国社会科学院工業経済研究所「中国工業発展報告 2002」、2002 年
31
陳述彭編「新経済與中国西部開発」、香港中文大学香港亜太研究所、2001 年
楊文華編著「四川與中国西部開発」、2002 年
中国汽車工業協会、中国汽車技術研究中心編「中国汽車工業年鑑 2003」、2003 年
国家統計局城市社会経済調査総隊「中国城市経済年鑑 2002」、2002 年
各種新聞、各社ホームページ
【面談先】
政府関係機関:中国国際促進委員会成都市分会、成都市機械工業協会、重慶市対外貿易経
済委員会、重慶市南岸区対外貿易経済委員会、重慶市渝北区人民政府
開発区:成都経済技術開発区招商局、重慶経済技術開発区管理委員会、重慶市高新区管理
委員会、重慶市南岸区茶園新城区管理委員会、
企業:寧江機床集団股份有限公司、四川都江機械有限責任公司、成都天興儀表股份有限公
司、四川華屹科技発展有限公司、成都天興山田車用部品有限公司、重慶通盛機械工業有限
公司、重慶長江依之密活塞工業有限公司
32
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