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4月16日号

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4月16日号
溜池通信 vol.441
Biweekly Newsletter
April 16. 2010
双日総合研究所
吉崎達彦
Contents
*************************************************************************
特集:加速するオバマ外交の行方
1p
<今週の”The Economist”誌から>
”Over to you, China”「次は中国の番だ」
<From the Editor> ある新学期の風景
7p
8p
*************************************************************************
特集:加速するオバマ外交の行方
「外交は内政の延長である」とはよく言ったものです。内政が安定している国は、まっ
とうな外交を展開することができる。逆に国内で支持を得られない指導者は、外交で得点
を稼ぐことができない。そういう例は、ここ数年の日本で数多く見かけました。
その正反対のケースとして、医療保険改革という「歴史的偉業」を成し遂げたオバマ大
統領には、外交で独自色を発揮するチャンスが訪れています。政権支持率はかならずしも
上向いてはいませんが、
「核なき世界」を目指す一連の大胆な施策を打ち出しています。
「新
NPR(核見直し報告書)の発表」
「新 START(ロシアとの核戦力削減交渉)の締結」
「核セ
キュリティーサミットの開催」と続く直近の動きの背後には、どのような思慮が隠されて
いるのか。今月から加速し始めたオバマ外交についてまとめてみました。
●「歴史的偉業」がもたらすチャンス
以前、本誌では「オバマ=ポーカープレイヤー論」を紹介した(2009 年 12 月 25 日号の
From the Editor 欄)
。
ポーカーというゲームは、「情報がすべてオープンにならないところが政治の世界に似
て」おり、
「技術のゲームであるが、いつも運がモノをいう」
。ツイていないときはピュー
リタンのように我慢し、ツキが回ってきたらカウボーイのように攻める。若い頃、ポーカ
ーの名手であったオバマは、辛抱強い政治家に見えて、ときに大博打に打って出るタイプ
である。1 期目の上院議員の身分で、民主党予備選でヒラリー・クリントンに逆らったの
がその典型で、勝負どころが来れば大胆な賭けに打って出るだろう…。
1
懸案の医療保険改革では、見事にこの図式が当てはまった。これまで立法過程を議会に
丸投げし、1 年にわたって我慢強く法案成立を待っていたオバマは、最後の瞬間になって
勝負に出た。
それも 1 月 19 日のマサチューセッツ州上院補欠選挙で民主党が敗北を喫し、
上院の議席数が足りなくなってから議会工作に本腰を入れ始めた。下院に対して、上院案
をそのまま可決することを促し、
なりふり構わぬ議員説得工作を展開した。
この間に豪州、
インドネシアへの外遊をキャンセルし、内外に「本気さ」をアピールしている。
3 月 21 日、オバマのギャンブルは成功を収め、医療保険改革法案は 219 対 212 で下院を
通過した。上下両院の法案をまとめる手続きはトリッキーなもので、正々堂々の法案通過
には程遠かった。法案の内容にも問題があって、
「足りない」と「行き過ぎ」という両面か
らの反対があった。新たなコスト増により、財政状況のさらなる悪化や、景気や雇用情勢
へも悪影響の懸念がある。そしてまた、1 人の共和党議員の支持も得なかったことで、左
右の党派的対立をますます深めてしまった。
それでも、法案成立の意義は小さくない。国民皆保険制とまでは行かないまでも、先進
民主主義国であれば当たり前の医療制度に一歩近づいた。国民の 6 人に 1 人が無保険者、
という状況も改善に向かうだろう。そして何より、法案不成立の場合は、世界は向こう 3
年間、レイムダックの米大統領と付き合わなければならなかったはずである。
オバマにとってはまことに大きな収穫だった。1 世紀前にセオドア・ルーズベルトが理
想を掲げ、トルーマンやケネディ、クリントンなど多くの大統領が試みて、ことごとく失
敗してきた法案がついに成立した。
オバマは就任からわずか 1 年と少々で、
「自分はこれを
やった」と誇りうる業績を残したのである。
思えばオバマは史上初の黒人候補として、第 44 代大統領に就任したこと自体が歴史的
な事件であった。さらに昨年秋には、政治家にとって最高の栄誉であるノーベル平和賞も
受賞している。医療保険改革も併せると、歴史的快挙が 3 つも重なったことになる。
仮にオバマが無事に 2 期 8 年の任期を全うするとして、これから先の 7 年弱の間に何を
したらいいのだろうか。今年 1 月 25 日、ABC テレビのインタビューに答えて、オバマは
「自分は凡庸な 2 期の大統領よりは、良き 1 期のみの大統領でありたい」
("I'd rather be a
really good one-term president than a mediocre two-term president,")と語っている。政治的な窮
地にあった当時は、負け惜しみを言っているように聞こえたものだが、今思い返すと別の
意味にとることができる。
「自分はもう十分に”Good one-term president”になったから、再
選できなくても別に構わない」と言っているように聞こえるのである。
●もはや怖いのは暗殺だけ?
再選を気にしなくていいのであれば、政治家が抱える悩みは一気に軽くなる。自分自身
が正しいと思う政治課題に、全力投球で取り組むことができる。当たり前のことに思える
かもしれないが、現実の世界ではそんな機会は滅多にめぐってくるものではない。
2
歴代の米大統領にとって、最大の鬼門は中東和平であった。1993 年 9 月にオスロ合意が
成立したとき、クリントンは任期 1 年目の大統領であり、ラビン首相とアラファト議長を
仲介する機会を得た。しかし、クリントンが本気で中東和平に取り組んだのは、2 期 8 年
の任期の最終年である 2000 年になってからであった。
つまり後顧の憂いがない任期最後の
年になって、初めてこの問題に本腰を入れることができたのだ。
米国の国内政治においては、イスラエルロビーを敵に回すことは一種のタブーである。
強力な資金力とネットワークを持つ彼らに睨まれたら、
どんな報復を受けるか分からない。
クリントンがやったことは、米大統領としては常識的な対応といっていい。もっとも中東
和平を静観している間に、ラビン首相は暗殺されてしまい(1995 年 11 月 4 日)
、イスラエ
ルに妥協を迫ることは一気に難しくなってしまった。
ところが、オバマは任期 1 年目にして、「もう怖いものはない」という状況を迎えてい
る。普通であれば、今年は中間選挙の年であるから低姿勢でなければならない。ところが、
医療保険改革の成立によって強気に出る条件が揃いつつある。
3 月 9 日、バイデン副大統領が信頼醸成を目的にイスラエルを訪問した。この訪問の最
中に、イスラエル内務省は新たな 1600 戸の入植計画を発表し、米国の面目を丸つぶれにし
た。オバマ政権をなめきった態度だったが、これも医療保険改革を契機に流れが変わった
ようだ。3 月 23 日に訪米したネタニヤフ首相は、新規入植の凍結を求めるオバマ大統領と
の間で異例の非公開会談に臨んだが、激しいやり取りがあったと伝えられている。
従来の米国政治の常識からいって、これがいかに破格の対応であったかは、長年のワシ
ントン政治のウォッチャーであるクリス・ネルソンが感慨深げにコラムに記している。
「歴
代の米国大統領ならば、強力な利益団体の圧力を受けて弱々しい抗議の言葉を口にせざる
を得なかったにもかかわらず」
、
「オバマ大統領とホワイトハウスの報道官は、ネタニヤフ
首相について、批判的でかつ驚くほど個人的な発言を繰り返した」1。
大統領が「自分は再選できなくても構わない」と腹をくくってしまうと、従来のタブー
はタブーでなくなる。もちろん議員たちは、それぞれの選挙を意識せざるを得ないから、
国内政治ではおそらく 2010 年は大きな動きが望めない。しかし外交の分野では、大統領
による思い切ったイニシアティブが可能になる。極端な話、今のオバマにとって怖いのは
彼自身に対するテロ攻撃くらいであろう。
余談ながら、手嶋龍一氏のインテリジェンス小説第 2 作、
『スギハラ・ダラー』
(新潮社)
では、最終章で「オバマが暗殺されるかもしれない」ことが仄めかされている。当たって
ほしくない「恐怖の予言」だが、実現した医療保険改革にせよ、これから目指している「核
なき世界」にせよ、米国内ではけっして広範な支持を得ているわけではない。そしてまた、
政権支持率はあいかわらず 5 割弱の水準で推移しており、
「歴史的偉業」はほとんど効果
をあげていない点には注意が必要であろう。
1
「ネルソン・レポート」は毎度おなじみの本誌ネタ元ですが、以下のコラムは日本語で読めます。
「新生オバマはどんな人?」 http://wedge.ismedia.jp/articles/-/838
3
●「核なき世界」を目指すオバマ外交
以上の状況を理解したうえで、
「核なき世界」を目指すこの 2 週間の動きを整理してみ
ると、
「オバマの外交攻勢」が練りに練ったものであることがよく分かる。
4 月 5 日:プラハ演説から 1 周年
4 月 6 日:新 Nuclear Posture Review を発表
4 月 8 日:プラハでメドベージェフ大統領と新 START 条約を締結
4 月 12-13 日:核セキュリティーサミット、米中首脳会談
以下、3 つのポイントについて簡単に整理しておこう。
1.
NPR(核態勢見直し報告)
NPR とは、向こう 5~10 年の核態勢を報告する文書であり、前回はブッシュ政権下の 2002
年にラムズフェルド国防長官が議会に提出した。今回は、オバマ大統領自らが何度も修正
させて作成した労作となっている。米国の核戦略の焦点を、冷戦時代の「古典的核抑止」
から、「核テロ防止と核不拡散」に移すことを試みている。
――「先制核攻撃の是非」などをめぐる神学論争に注目が集まっているが、そこはあまり重
要ではない。本誌「オバマ核廃絶演説の波紋」
(2009 年 4 月 17 日号)でも指摘した通り、核廃
絶を目指すことは、キッシンジャーなどの専門家「四長老」の総意を受けた超党派の動き。
――米軍は既に通常戦力で圧倒的な力を持っているし、軍事関係者の関心はサイバー戦など
の次なる戦線に移っている。そのような中で、核戦力の役割は必然的に小さなものになってい
く。空想的な理想主義ではなく、現状を追認する現実主義的な判断と見るべき。
2.
新 START(米ロ核軍縮条約)
世界の核兵器の 9 割以上を保有する米ロ両国が、NPT 体制維持に向けて決意を見せた。
両国が模範を示すから他国も責任を果たすべき、というメッセージとなる。意訳すれば、
「持っている俺たちが減らすのだから、持っていないヤツらは持つな」ということ。ただ
し米ロ両国の議会が、この条約をちゃんと批准するかどうかは別問題である。
――現実問題として核が「使えない兵器」であり、保有するだけでコストのかかる代物であ
ると考えれば、削減することは双方にとって利益となる。ゆえに「二国間の核削減」は Win-win
となってやりやすいが、問題は 3 カ国以上の国が核を保有していること。
――多数の国が核を保有する現状では、
「他国が核軍縮を進める中で、自分だけが同調しなけ
れば得になる」という逆のインセンティブが働いてしまう。具体的に言えば、中国の同意を得
られるか、イランや北朝鮮を止められるかは未知数となる。
4
3.
核セキュリティーサミット
オバマ大統領は昨年 9 月、安保理サミットの議長役を務めて核軍縮・不拡散を求める安
保理決議を全会一致で採択した。つまり「レトリックの戦い」では既に勝利を収めた。今
回は、40 数カ国の首脳をワシントンに集めて、核物質の管理体制強化や核テロ防止などを
議論した。すなわち「リアルの戦い」への一歩を踏み出した。
――オバマが目指しているのは核廃絶ではなく、あくまでも核軍縮の促進と核管理の不備を
正すこと。
「唯一の被爆国として…」という日本のロジックは、核セキュリティーサミットでは
あまり出番がなかった。それは普天間問題のせいだけではなく、日本側がオバマの問題意識を
正確に受け止めていないからではないだろうか。
――「核を使ったテロの標的になる」という恐怖感は、米国にとっては切実なもの。この点
について、他国(特に日本)の認識にはギャップがあるように感じられる。
オバマは、内政上の医療保険改革に続く外交上の偉業として、核をめぐる問題で成果を
上げようとしている。そのために、
「核なき世界」というレトリックを掲げつつ、「核軍縮
と核管理」というリアルの結果を目指している。この後、5 月にはニューヨークで NPT の
再検討会議が開催の予定。米上院が、CTBT を批准するかどうかも注目される。
●本命はイラン、本質はイスラエル
さて、核の問題を考える場合に、現下の最大の難関はイランの核開発である。Foreign
Affairs の最新号(3/4 月号)が、”After Iran gets the Bomb”という特集を掲げているが、この
中で 4 長老の一人、ジョージ・シュルツ元国務長官が同誌のインタビューに応じ、非常に
率直な懸念を吐露している(
「核のない世界」の今後を左右するイラン)2。
・ 私は、核武装したイランと共存していかざるを得ないと示唆するような記事を目にすると
嫌悪感を覚える。現在のイランは核拡散のティッピングポイント(臨界点)上に位置して
いる。この堰が切れれば、一気に核拡散が進む。いかにしてイランの核武装を止めるかを
考えなければならない。
つまり核不拡散の戦いの最前線はイラン、ということである。オバマ政権としては、是
非とも今月中に、対イラン制裁の安保理決議をまとめなければならない。4 月は日本が議
長国だが、来月になるとこれがアルファベット順でレバノンに移るので、厳しい制裁内容
は期待し難くなってしまう。オバマ大統領が日本に期待する最大の貢献はここにあるはず
だが、果たして日本側にそういう認識がどの程度あっただろうか。
2
「フォーリン・アフェアーズ・リポート」2010、No.4の訳を参照した。
5
もっともイランのように、それなりの国力と人口があり、国土も広い国が本気で核開発
を目指した場合、いくら国際社会が止めようとしても簡単に止められるものではない(あ
の北朝鮮でさえ、持ってしまったではないか)
。
すると今度は、イランの核開発をイスラエルが座視するか、という疑問に突き当たる。
イスラエルは中東における孤島のような存在だが、核を持つことによって安全を担保して
いる。逆に言えば、中東で自国以外に核保有国が出現することを何よりも恐れている。事
実、彼らは 1981 年にはイラクの、2007 年にはシリアの核施設を攻撃し、それぞれの核開
発を先送りすることに成功している。
しかし、本当にイスラエルのイラン攻撃が起きてしまうと、米軍も報復対象になるだろ
うし、原油価格の高騰や中東全域の不安定化が懸念される。つまりイラン問題の本質は、
イスラエルの攻撃をいかに思いとどまらせるか、という点にある。
●米中間では「核と為替のディール」
このように考えてみると、核セキュリティーサミットに胡錦濤国家主席が出席したこと
の意味の重さがよく分かる。国連安保理は、実効性のあるイラン制裁を決めなければなら
ない。そのために最大の難関となるのは、常任理事国である中国であろう。ただし中国は、
制裁に異を唱えない。その代わりに、グーグルの中国市場撤退、米国の台湾向け武器売却、
ダライラマとの面談などを通じて、冷え込んだ米中関係を安定化させようと考えた。そこ
で核セキュリティーサミットという舞台を利用したのである。
他方、
米財務省は絶妙のタイミングで 4 月 15 日に予定されていた為替報告書の提出を先
送りした。米国議会では人民元レート切り上げの要求が強まっており、130 人もの議員が
米財務省に対して「中国を為替操作国に指定せよ」と迫っていた。しかしガイトナー長官
はこの判断を延期した。まるで「核と為替のバーター取引」が行なわれたような異様な光
景である。
おそらく為替報告書の提出は、IMF 世銀総会(4 月 24~25 日、ワシントン)
、米中戦略経
済対話(5 月下旬、北京)
、G20(6 月 26~27 日、トロント)などの重要会議以降となるだ
ろう。これら多国間協議の動向を見据えたうえで、中国は「あうんの呼吸」で小幅な切り
上げに踏み切るのではないか。
現在の米中関係は、言わば「仮面夫婦」のようなものであろう。ただし両国は、外交・
安全保障と経済・金融の問題が交錯する見事なディールをやってのけた。その結果、「核
と為替」を通じて全世界が影響を受けることになった。
それにしても米中間のやり取りに比べて、
「晩餐会の席上、
通訳をはさんで 10 分間だけ」
に終わった日米首脳会談は、何とみすぼらしく感じられることか。やはり「外交は内政の
延長」なのである。
6
<今週の”The Economist”誌から>
"Over to you, China”
Leaders
「次は中国の番だ」
April 10th 2010
*米中間でもめている人民元レートの問題。米国はガマンをして大人の態度を見せまし
た。今度は中国の番である、と”The Economist”誌は断じています。
<要約>
議会では友人をなくしたかもしれないが、
ガイトナー財務長官が 4 月 15 日の為替報告書
の発表を延期し、中国が為替操作国であるかどうかの判断を先送りしたのは正しかった。
人民元が 2008 年 7 月以降、ドルにしっかりペッグされていることで、米中関係は緊張して
いた。そして延長したからこそ、為替問題解決の可能性は最大化されたのである。
これで中国の政策当事者たちは、米国の圧力に屈する形ではなく、向こう数ヶ月の間に
元を強くする機会を得た。ガイトナーはまた問題を討議する場を二国間から、来たる G20
のような多国間協議に移そうとしている。130 人もの議員が行動を求める書簡を送ってい
るとはいえ、こうした政治的圧力に立ち向かうのは北京に対する良いメッセージとなる。
事はもはや経済学だけではない。米政府は中国に対し、例えばイランへの強い制裁への支
持をも求めている。しかるに経済外交は、器用に使うことができる。米国はそれを賢明に
使った。今度は中国が同様にすべきである。すなわち、人民元を上昇させねばならない。
人民元の切り上げは米中間の通商摩擦を緩和するだけではない。国内消費への経済均衡
化を助けるし、中央銀行が利上げする余地をつくり、インフレを管理しやすくする。消費
者物価の上昇に鑑みるに、これは喫緊の課題である。中国人民銀行が改革を求めているの
は異とするには当たらない。今週も政府系エコノミストがそれを仄めかしている。
切り上げ反対論者は、輸出による雇用が失われると説く。政府による重工業向け景気刺
激策は、さほど多くの雇用を創出していないのだと。しかし中国経済が重工業に片寄って
いるのは、そもそも為替を安く維持しているからだ。強い人民元は輸入価格を下げて中国
の家計購買力を上げ、サービス業のように雇用を生み出す非貿易財ビジネスを利すること
になる。これだけで中国経済の均衡化が進むだけではない。企業統治から税制に至るまで
のあらゆる形の構造改革が必要である。が、切り上げはそのためのよき第一歩となる。
中国政府にとっては国内問題の方が重きをなすが、通貨切り上げの利益を軽んじてはな
らない。米国が声高に不平を述べているが、インドやブラジルなどの新興国もまた困って
いる。いつまでも黙っているとは思われず、特に G20 の主要議題となれば分からない。
公的な通称規則だけを見れば、中国は主要新興国では開放されている方である。だが国
内業者を優遇する政府調達ルールのように、隠れた補助金や障壁は多い。対中通商摩擦は
広がりを見せている。台頭の過程では避けられないことである。だが人民元の切り上げは
中国が貿易相手国を融和することになると同時に、自らを助けることでもある。
7
<From the Editor> ある新学期の風景
新学期、どこかの学校での会話。
先生「宿題は出来たかな?」
生徒「5 月一杯を目処としながら、宿題をまとめる努力をさせていただいている」
先生「なんだ、まだできていないのか」
生徒「新学期までじゃなきゃならないとは、別に法的に決まっているわけではない」
先生「それでは約束を破るんだね?」
生徒「1 日、2 日、数日ずれることが大きな話ではない」
先生「嘘つきは先生は嫌いだな」
生徒「実は、春休みの宿題となる“福笑い”を持ち合わせている。その認識のもとで行動し
てもらっている」
先生「それはどういうものなのかな?」
生徒「お答えできない。”福笑い”をおおっぴらにすることは出来ない」
先生「それでは宿題を忘れたのと同じじゃないか」
生徒「宿題と少なくとも同等か、あるいはそれ以上に効果があり、学校にも PTA にも認め
られるような“福笑い”だと自信を持っている」
先生「だったら早く見せなさい」
生徒「PTA の了解なくして案を進めることはない」
先生「PTA の了解を得るためにも、早く“福笑い”を見せた方がいいんじゃないか」
生徒「かならずしもそういう意味で言ったのではない」
先生「だから締め切り直前になって“福笑い”を見せられると、PTA は困るだろうが」
生徒「そもそも前の学年の生徒が悪い。13 年かけて杭一本打てなかった」
先生「何を言っているのか意味不明」
生徒「批判の声は、よし、よくやった、という激励の声と受け止めている」
先生「よく分かった。君はもう学校に来なくていい」
生徒「トラスト・ミー!」
これはどう考えても生徒が悪い。というより先生がこれまで甘過ぎた。でも今は堪忍袋
の緒が切れそうになっている。
とうとう生徒の支持率は半年で半分になってしまい、ときには 2 割台という世論調査も
見かけるようになってきました。ここまで来てしまうと、あまり先は長くなさそうですな
あ…。
8
*次号は 2010 年 4 月 30 日(金)にお届けします。
編集者敬白
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